所在不明株主のリスクと対策
「株主に連絡がとれない」
こうしたご相談をいただくことがしばしばあります。連絡がとれない株主であっても自動的には株主の地位は喪失しません。このような株主であっても、他の株主と同様に管理をしていく必要がありますが、将来、事業承継やM&Aが行われる際には、大きな問題となる可能性があります。
たとえば、会社の株式をすべて第三者に譲渡して事業承継をすることになったとします。買主である第三者は、当然に株式の100%を取得したいと考えます。なぜなら、たとえ99%の株式を取得したとしても、残り1%の株主のために正式に株主総会の招集手続をとったり、総会等で権利行使をされることが煩わしいからです。100%と99%の実質的な差は1%ではないのです。
ですから、そのような事態で困ることがないように対策をとっておく必要があります。
所在不明株主の株式売却制度を利用する
こうした所在がわからない株主対策はいくつかの方法が考えられますが、一定の要件を満たしている場合には所在不明株主の株式について競売等による売却又は会社による買受けをすることを認める制度が設けられています。
5年間の準備が必要
所在不明株主の株式売却制度は、①株式会社が当該株式の株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達せず当該株主に対する通知又は催告を要しなくなったとき、かつ、②当該株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったことが必要です。なお、いわゆる無配の株式会社であっても、この制度を利用できます。
したがって、これまで株主総会を開催していなかったような会社では、まず、株主総会を開催すること、そのための招集通知を作成して
発送することが必要となります。
非上場会社では裁判所の許可を得て売却することが多い
売却の方法は、原則として競売ですが、例外として、市場価格がある株式については、市場価格として法令で定められる額で、市場価格なき株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法ことが必要となります。非上場会社においては、裁判所の許可を得て任意売却するケースが圧倒的に多いと思われます。ここで、裁判所の許可とは、主に、売却金額について許可を得るというイメージで結構です。
なお、所在不明株主の株式を売却するときは、当該所在不明株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨及び法令で定める事項を公告するとともに、当該所在不明株主及びその登録株式質権者に対し各別に催告しなければならない、とされていますので、スケジュールを十分に検討することも必要です。
一例として、非公開会社である取締役会設置会社が、所在不明株主の株式を売却する際のスケジュールを挙げておきます。
取締役会の決議
※所在不明株主の売却手続承認
↓
官報公告・個別催告※会社法198条1項2項4項
↓
株式売却許可申立※会社法197条2項
↓
(売却許可決定)
↓
取締役会の決議
※譲渡承認
↓
買受に伴う供託
※発行会社の最寄りの法務局
売却代金の取扱い
裁判所の許可を得て売却した際の売却代金は、買受会社等から株主に支払われなくてはなりませんが、受領しないことは明らかですので、法務局で供託してしまうとよいでしょう。供託しないと、買受会社等は当該株主が現れるまで代金を管理しなければならないことになってしまいます。
もしも、当該株主が後日現れた場合は、当該株主は供託所に還付請求をすることができます。また、供託者が供託不受諾を理由に取り戻しをして、当該株主に交付してもいいでしょう。
まずは株主名簿の適正な管理を
所在不明株主の株式売却制度を利用する以前の問題として、株主名簿が備え置かれていなかったり、管理が十分ではない会社も多いようです。
また、株主総会自体が開かれておらず。招集通知も発送していない会社も少なくないようです。
そのような会社では、株主名簿の調製から行っていく必要があります。
当事務所では、株主名簿の調製、株主総会招集通知の作成、株主総会の指導、所在不明株主の株式売却のスケジューリング、裁判所ーに提出する書類の作成などをトータルで支援することが可能ですので、是非ともお問い合わせください。