借地上の建物の担保取得と賃貸人の承諾
登記の添付書類ではないが、借地上の建物に抵当権を設定する場合、債権者が賃貸人(地主)の承諾書をもらうことが多いようだ。
そして、その承諾の内容、主に次の2点である。
① 抵当権の実行や任意売却により第三者が所有権を取得したときは、その者に引き続き貸与すること
② 抵当権が存在する間は、地代滞納等の理由により賃貸借契約を解除しようとする場合はあらかじめ抵当権者に通知すること
①については、賃借権は原則として賃貸人の承諾無くして借地権の譲渡転貸をすることができないからあらかじめ承諾を得ておこうとするものである。なお、あ らかじめ承諾をしてくれない場合は、借地借家法20条の「承諾に代わる裁判所の許可」を得ることになるが、一般的には借地権価格の10%程度の承諾料の支 払いが必要になるらしい。
②については、抵当権者が知らない間に賃貸借契約が解除されてしまうと、借地権自体が消滅してしまい、材木としての建物を担保にとっているだけになってしまうからだ。
ところで、東京地判平成11年6月29日は、抵当権者が上記のような承諾書を賃貸人から徴求していた場合について、賃貸人は、賃貸借契約の解除事由があったとしても、必ずしも法的義務として抵当権者に通知しなければならないとは言えない、という判断をしている。
判決文をあたってみよう。
「確かに、前記認定のとおり被告が原告に差し入れた本件承諾書には、賃料延滞又はその他の理由により賃貸借契約を解除する場合には事前に原告に通知することを被告が承諾する旨の記載がある。
しかし右承諾書にはそれ以上に、通知をすれば必ず原告が未払賃料の代払をするとか、通知をした後賃料の代払をするに足りる期間を経過してからでなければ解 除をすることができないとか、通知を怠った場合には賃貸人の賃借人に対する解除権の行使が制限されるとかというように、右事前通知義務から生じる具体的な効果についての定めは記載されていない。
その上、前記認定のとおり、原告は本件承諾書の徴求により被告から担保権確保の利益を得ておきながら右担保権設定承諾料等の対価を何ら出捐していないばか りか、自己の融資先の資産状況を把握し得る立場にあるのに○○の賃料支払義務の履行状況を掌握する何らの手立ても講じていないのであり(融資担当者に右支 払事実を報告させる等実にた易いことである)、原告の得た利益と被告の負担との間には著しい不均衡があるといわざるを得ず、本件承諾書をもって、同被告に 根抵当権者たる原告の利益を保護するため積極的に賃借権の保存に協力すべき法的義務が生じたなどとは到底解することはできない。
そうすると、本件承諾書を差入れたことにより被告(賃貸人)が原告(根抵当権者)との間で解除の際には原告に通知する旨の通知義務を負うものとしても、そ の性質は厳格な法的義務とはいい難く、通知をしなければ賃貸人の賃借人に対する解除権の行使が許されなくなるような法的効果を伴うものとは解されない。」
つまり、抵当権者が賃貸人から「解除事由があったときは通知する」という承諾書をもらっていたとしても、抵当権の上にあぐらをかいて債務者た る賃借人が賃料をちゃんと支払っているかどうかの確認も何らしていないなど、賃貸人に義務ばかり課す一方で抵当権者の権利ばかりが守られるような不均衡な承諾書は、法的義務までをも生じさせるものではない、と言っているわけだ。
本判決は、この事例についてのみ判断したものであり、必ずしも普遍的なものではないかもしれないが、ハンをついたように承諾書をもらっておけば抵当権者の権利が守られるというわけではないので注意する必要があるたろう。