抵当権と借地権・借家権の優劣
不動産に登記された抵当権について裁判所の担保不動産競売手続がなされた場 合、その不動産を借りている借地権者や借家権者の賃借権が保護されかどうかは、原則どおり、対抗要件具備の時間的前後により定まります。もっとも、抵当権 の対抗要件が登記だけであるのに対し、借地権・借家権については登記だけではなく、借地権の場合は借地借家法10条により建物の登記(表題登記だけでも 可)、借家権は借地借家法31条により建物の引渡しを受けることも対抗要件として認めています。
したがって、すでに借地権や借家権の対抗要件を備えた不動産に抵当権設定登記がなされたという場合には、競売の買受人は借地権・借家権の負担のついた所有権を取得する、つまり、借地権・借家権が残っていることを甘んじなければなません。
逆に、すでに抵当権設定の登記のある不動産に、後に借地権・借家権の対抗要件を具備した場合には、競売の結果、借地人・借家人は買受人に自己の借地権等を主張することができないということになります。
では、1番抵当権と2番抵当権の中間に借地権・借家権が対抗要件を備えた場合で、2番抵当権者の申立により競売が行われた場合はどうなるでしょうか。
この場合は、競売により1番抵当権も消滅しますから、1番抵当権に対抗できない借地権・借家権は消滅することになります。
なお、このように抵当権に対抗できない借地権・借家権が消滅する場合、即座に退去を命じるのは酷であるため、建物明渡猶予制度が設けられています。条文を見てみましょう。
民法(抵当建物使用者の引渡しの猶予) 第395条 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。(以下略)