お金の貸し借りに関するトラブルのヒント
お金の貸し借りの契約(以下、「金銭消費貸借契約」といいます。)については、2020年4月より前の契約か、2020年4月以降の契約によって、検討すべき事項が変わります。これは、2020年4月1日に改正された民法により、金銭消費貸借契約の成立要件や保証人に関する規定など、多くが改正されているからです。
金銭消費貸借契約が成立しているか
金銭消費貸借契約は、「要物契約」といって、契約が成立するためには金銭の現実の授受が必要とされています(民法587条)。契約書や借用書の作成は必ずしも必要ありません。
しかし、以前から、判例上は、実際の金銭の授受がなくても当事者の合意のみで金銭消費貸借契約の成立が認められていました。このような契約は、「諾成的金銭消費貸借契約」と呼ばれています。
そこで民法改正においても、書面が交わされた場合には諾成的金銭消費貸借が成立することを規定しました。
したがって、一口に金銭消費貸借契約と言っても、契約書がなくても成立が認められる場合と、契約書がなければ成立が認められない場合があるということになります。
弁済することを約束していたか
また、金銭消費貸借契約が成立していたと言うためには、弁済することを約束していたということも必要となります。ただし、弁済することを約束していたならば、必ずしも弁済期限まで定めていたことは必要ありません。
弁済期限を定めていなかった場合は、貸主は、借主に対し、相当の期間を定めて返還の催告をすることができます。
利息及び遅延損害金
利息
利息を定めていた場合には、利息制限法の範囲内で請求することが可能です。利息制限法の上限利息を超える利息を定めていた場合には、上限利息を超える部分については無効となり、上限利息を超えて支払いがなされた場合は当然に元本に充当されることになります。
そして、元本に充当された額が元本額を超えた場合はいわゆる「過払金」となり、借主に返還する必要があります。
利息制限法における上限利息は以下のとおりです。
元本10万円未満の場合 年20%
元本10万円以上100万円未満の場合 年18%
元本100万円以上の場合 年15%
遅延損害金
遅延損害金は、別段の定めがない場合には、2020年4月より前の貸付に対しては利率は5%(商事法定利率は6%)、2020年4月以降の貸付に対しては年3%(商事法定利率も同様)です。
遅延損害金の利率は当事者の合意により法定利率と異なる利率を定めることが可能ですが、利息制限法により上限は上限利息の1.46倍までとされています。
保証人がいる場合
金銭消費貸借契約では、返済が滞った場合に備え、連帯保証契約が締結されることが多く見られます。2020年4月以降の保証については多くの改正がなされていますので、特に重要な点について解説しておきます
根保証
根保証とは特定の債務のみを保証するのではなく、継続的な取引から将来発生する不特定の債務を包括的に保証することです。2020年4月以降においては、個人が根保証を行う場合は極度額の定めがなければ無効となります。したがって、個人を連帯保証人とする根保証契約を締結する場合は必ず極度額の定めを規定する必要があります。
事業借入の際の個人保証契約時の公正証書作成義務
事業資金のための貸金債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)については、その契約締結に先立ち、締結の日の1ヶ月以内に、公正証書によって保証債務を履行する意思を表示していなければ原則として効力を生じません。
ただし、保証人が法人である場合や主債務者が法人である場合のその理事や取締役などの場合はこれに該当しません。
したがって、事業資金を貸し付ける際に、経営者以外の個人との間で連帯保証契約を締結する際は公正証書による意思の確認が必須です。
保証人に対する情報提供義務
事業資金のための貸金債務を主たる債務とする保証契約については、主たる債務者は、保証契約締結時に、保証を委託する人に対し、自らの財務及び収支の状況、主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、他の担保の内容について、情報提供をしなければなりません。
これを怠った場合(事実と異なる情報を提供した場合を含みます)で債権者がそのことを知っていた場合もしくは知りえた場合は、保証契約を取り消すことができます。
消滅時効
2020年4月の民法改正で、以下のように時効消滅までの期間が変わりました。
改正前:客観的起算点から10年(様々な例外あり)
改正後:主観的起算点から5年または客観的起算点から10年
客観的起算点とは
客観的起算点とは、「債権者が法律上の障害なく権利行使できる状態となった時点(権利を行使することができる時点)」という意味です。
例えば、金銭消費貸借契約を締結して、返済日を12月31日に定めたとします。この場合、債権者は、債務者に対し、12月1日までは返済を請求することができません。
そして、返済期限が来てもお金を返してもらえなかったときにはじめて、「法律上の障害なく権利行使できる状態」になるのです。
主観的起算点とは
主観的起算点とは、「債権者が債務者や権利の発生、履行期の到来などを認識した時点(権利を行使することができることを知った時点)」という意味です。
例えば、金銭消費貸借契約を締結して、返済日を12月31日に定めたとします。この場合、債権者は、12月31日になればお金を返してもらえるというとを当然に知っています。このため、もし12月31日に返済がなければ、翌1月1日から消滅時効の期間が進行します。
このように、法律上の概念としては客観的起算点と主観的起算点とがありますが、金銭消費貸借の場合は主観的起算点と客観的起算点は一致することが多いと思われます。したがって、消滅時効期間は実質的に5年となることが多いと思われます。