民事紛争を解決するためには様々な方法があります
まずお話を聞かせてください
司法書士がご相談を受ける場合、まずは、事件の全体像と相談者に訪れた方の意向を把握します。そして、関係資料等を確認したところで法的判断を行って、相談者の方の意向を満足させるための依頼の趣旨に添った手続を提示することになります。
その前提として、聞き取った相談内容を整理し、何が問題か、何を請求していくか(又は何を請求していきたいか)を、相談者の方といっしょに確認します。そうすることにより、相談者の方自身も、事件の全体像や自己の要求を客観的に把握した状態になることができると思われます。
そのうえで、各手続の流れ、メリット・デメリットや、各手続を選択した場合に想定される見込みを説明し、相談者の方の理解を得たうえで手続を選択することになります。
交渉
多くの事件においては、裁判手続ではなく、まず交渉で解決できないかを考えます。相談時においては相談者の方の言い分しかお聴きできませんが、交渉の過程を経ることにより、相手方の言い分や考えを把握することができたり、相談者の方の話のみからではわからなかった新たな事実を把握できたりすることも少なくありません。
また、具体的な証拠が乏しく、訴訟では勝訴判決を得られる見込みが高いとはいえない事案では、交渉によって、事件の落としどころを模索するもあります。事前に当事者同士での話合いが決裂していても、第三者である司法書士が、双方の言い分を整理し、事件の落としどころとその根拠を提示することにより、和解に至ることも少なくありません。
また、相手方に弁護士や司法書士が代理人として付いている場合は、裁判等になった場合に予想される結論を前提とした交渉を行い易くなります。そして、代理人同士が妥当と考える落としどころに向けて双方が依頼者を説得することにより、裁判を経ることなく和解が成立することも多く、このような場合には、時間的にも経済的にも当事者にメリットがあります。
なお、司法書士が依頼を受けて代理人として交渉できる事案は、紛争となっている金額により制限があります。したがって、事案によっては交渉の代理人になれないケースもあります。しかし、そのような場合でも、その時点における、相談者や相手方の言い分の正当性、法的手続に移行した場合の紛争解決までの時間や手間等を説明することによって、当事者同士の交渉を円滑に進められるようにサポートすることも可能です。ただし、その場合の交渉は、あくまでもご本人自身が行うこととなります。
支払督促
金銭の支払いや有価証券その他の代替物の給付を法的に請求する場合に、簡易な方法として支払督促を申し立てることが考えられます。支払督促の申立てを行えば、裁判所書記官の形式的な審査のみで支払督促を送付してもらい、執行文を付与することによって債務名義(強制執行が可能な文書)が成立します。通常の訴訟と異なり、証拠を提出する必要もなく、期日に出頭する必要もありません。そのため、決定的な証拠がない場合にも利用することができます。また、申立書に貼付する収入印紙も通常の訴訟の半額であり、この点に関しても、申立人の負担は少なく簡易な方法であるといえます。
ただし、デメリットもあります。支払督促には既判力がないため、確定したとしても、通常訴訟により決定内容が覆る可能性があります。手続面においては、相手方から督促異議が出されれば、通常訴訟に移行するため、その後は訴訟対応をしなければならなくなります。
裁判所書記官から相手方に支払督促が送付される際には、督促異議の提出方法が書かれた説明文書やチェックをすれば提出できるような定型の督促異議申立書が同封されていますので、高い確率で異議が出されることが考えられます。そのため、通常訴訟に移行してしまう可能性があることを認識しておく必要があります。支払督促から通常訴訟に移行すると、最初から訴訟を提起するのに比べ、期日までの時間が長くなったり、印紙の追加納付等の負担が増えてしまったりと、結局は最初から訴訟提起したほうが、素早く簡易に進められたという状態になってしまいます。
また、支払督促の管轄は相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に限定されているため、申立人と相手方の住所地を管轄する裁判所が異なると、訴訟に移行した場合は、申立人はより遠方の裁判所へ出廷しなければならなくなります。そのため、利用場面は限られてくるが、相手方の住所地と申立人の住所地を管轄する裁判所が同一であり、相手方が請求内容をおおむね認めていて、迅速に債務名義化できそうな案件や、交渉段階では相手方が対応せずにいるような場面で、相手方へのプレッシャーを強め、交渉の席に引き込むといったときには選択することを検討すべき手続です。
一般的に事前の交渉が決裂した案件や、そもそも、相手方から何らの返答もなく全く交渉ができなかった案件であっても、支払督促などの裁判手続を行った結果、裁判所から書面が届き、この段階になって初めてもしくはあらためて和解に向けた話合いができるようになることも少なくありません。
調停
調停は申立費用が低額であり手続も簡易であるため、訴訟手続と比べ、法律知識の乏しいご本人が手続の当事者となる場合でも利用しやすい制度です。もちろん、一定の金額以下の問題であれば司法書士が代理人となって調停を進めることもできますが、簡易裁判所の窓口には類型別に申立書式が備え付けてあり、どのような紛争が生じていて、それについてどのような解決を望むのかということが記載できればご本人でも十分に申立てをすることができます。
また、調停では弁論主義は適用されず、調停委員が職権で事実の調査・証拠調べを行うことができ、法律知識の格差による不利益を受けづらく、最終的に当事者間の合意が成立しない場合においても、裁判所が民事調停法17条に基づく決定を下すことによって、紛争解決がなされる場合もあります。
また、調停委員を介することにより、第三者の意見に触れることができ、当事者同士での話合いよりもスムーズに進む可能性があります。さらに、別席調停により、相手方と直接話し合わないことも可能であるため、相手方といっさい顔を合わせたくないという状態でも、調停委員を介して話合いを進めることができます。そのため、司法書士が代理人としてかかわることができない場合においても、当事者間の交渉・和解を促進することができます。
調停における決定事項は、当事者双方が納得したものであるため、調停が成立した場合には決定事項の履行率が高く、相談者の最終的な目的を達成しやすい側面があります。その一方、相手方が調停期日に出席しなければ手続が進まないため、相手方が話合いに応じる余地がなければ利用に馴染みません。さらに、相手方が調停に応じて数回の期日を経たとしても最終的に合意に至らず、再度訴訟を提起しなければならない可能性もあります。
また、管轄が原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所であるため、申立人と相手方の住所地を管轄する裁判所が異なると、申立人はより遠方の裁判所へ出廷しなければならなくなります。それでも、相手方に話合いによる解決の意思があれば有用であり、また、訴訟遂行能力の点で本人自身が訴訟を遂行することが難しい場合でも利用できる制度です。
さらに、厳格な訴訟手続では証明が難しそうな事案、判例のない新しい事案等においては、調停手続を選択するメリットは十分にあります。
簡易裁判所における訴訟(司法書士が代理人となる場合)
訴訟手続では、最終的には、判決により裁判所の判断が示され、被告が何らの対応をしない場合には、原告の主張どおりの判断がなされます。そのため、相手方は訴訟手続に対応せざるを得ず、事前の交渉段階ではいっさい対応しなかった相手方であっても、この段階になって、交渉の席に着くことも少なくありません。また、管轄が相手方の住所地の裁判所に限定されていないため、自己に有利な管轄で訴訟を提起できる場合も多いです。
一方、支払督促や調停に比べ、手続が煩雑であり、解決までに時間を要する一面もあります。しかし、訴訟を提起したとしても、その後に交渉が促進し、判決までに至らずに和解が成立することも多々あります。
少額訴訟
簡易裁判所の訴訟手続を選択する中で、さらに60万円以下の金銭請求であり、かつ、書証等の証拠が揃っていて立証の難しくない案件であれば、少額訴訟を選択することも検討に値します。
少額訴訟は、原則として1回の期日で終わります。そのため、ご本人の負担が少なく、迅速な解決を図れることができるため、積極的に活用すべき制度です。
また、少額訴訟における債務名義に基づく少額訴訟債権執行であれば、司法書士が執行について代理人となることができるため、最後の債権回収の場面まで、依頼者の労力を最小限にすることができます。
被告から少額訴訟により審理することに対して異議が出されると通常訴訟に移行します。しかし、支払督促から移行する場合とは異なり、新たに何らかの負担が発生するわけではなく、当初から通常訴訟を提起した場合に比べても、ご本人に大きな不利益があるわけではありません。
本人による訴訟遂行
訴訟による解決を望む場合であっても、すべての方が訴訟行為をいっさい専門家に任せてしまいたいという思いをもっているわけではないようです。自らが訴訟に主体的にかかわることによって、自身の主張を裁判所に直接訴えたいという思いをもっている場合や、経済的な理由により弁護士や司法書士に委任することが難しい場合などに、本人による訴訟を望む方もいらっしゃいます。
さらに、訴訟代理権の範囲に制限があるため司法書士が訴訟代理人となれない場合で、弁護士に依頼することが困難なときに、訴訟の経験の少ない方に司法書士がサポートすることにより、本人による訴訟を遂行することは十分に可能 です。
医療過誤等の特定の分野の専門知識が必要な訴訟や、男女間に関するトラブルで感情のもつれが激しい事件などは本人が訴訟を遂行することは適さないと考えられますが、多くの案件は、本人の訴訟遂行能力があれば、司法書士がサポートすることにより本人による訴訟遂行は可能であると考えられます。