【講演録】民法改正後の賃貸借契約の留意点(保証を中心に)

【講演録】民法改正後の賃貸借契約の留意点(保証を中心に)

※本記事は、平成31年3月12日に行われた全日本不動産協会静岡県本部主催の研修会で当事務所の古橋清二が講演した内容を記録したものです。

 

はじめに

 民法という法律は、国民の経済や生活の基本的な事項を定めた法律であることはご存知かと思います

 民法は、明治29年に制定され以来、戦後、親族·相続の分野が全面的に改正されましたが、債権に関する分野は平成29年5月に、なんと121年ぶりに大改正されました。

 

 改正民法は、2020年4月1日に施行されることが決まっていますから、残りあと1年で十分な準備をしておく必要があります。

 ところで、今回の民法改正は、改正の対象が主として民法の中の「債権法」と言われる分野であるため、「債権法改正」ともいわれています。

 「債権」とは、特定の人に対して請求できる権利のことです。請求権といったほうがわかりやすいと思います。「債権法」とはこの請求権に関する法律です。債権は、いろいろな契約によって発生しますから、今回の民法改正は、「契約に関する法律の大改正」ということもできます。

 今回の改正の理由は、一言で言えば、ルールのアップデートです。民法制定以来長年蓄積してきた判例や解釈を整理したうえ、これらをできるだけ民法自体に取り入れ、民法というルールをアップデートしたということです。

 しかし、一方で、時効制度、保証、法定利息、定型約款などについては実質的な改正をしています。したがって、実務に与える影響は非常に大きいと思います。

 今日は、不動産賃貸業者に対して民法改正がどのような影響を与えるかということを考えてみたいと思いますが、不動産賃貸と一口に言っても、さまざまな契約によって成り立っています。

 たとえば、マンションやアパート、駐車場の賃貸借契約もありますが、賃貸物件の売買契約、物件の管理契約、保証契約や保証委託契約、家賃収納代行契約等、様々なものがあります。

 本来であれば、それぞれについて民法改正が与える影響を検討しなければなりませんが、時間の関係もありますので、今日は、賃貸アパートや賃貸マンションの賃貸借契約を中心に検討してみたいと思います。

施行は2020年4月1日

 さて、改正民法は2020年4月1日より施行されるというお話をしましたが、施行日前に締結された賃貸借契約に改正民法が適用されるかどうかは、改正民法の「附則」を注意して見ておく必要があります。

 民法附則34条1項という条文では、施行日前に賃貸借などの契約が締結された場合には従前の例による、とされていますから、2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約には旧法が適用されることとなります。

 また、施行日前に締結された保証契約に係る保証債務についても従前の例によるとされていますから(附則21条1項)、施行前にされた保証契約には旧法が適用されます。

 

ところが、不動産賃貸借契約は、定期賃貸借以外は更新がされます。そうしますと、2020年4月1日より前に結ばれた契約が 2020年4月1日以降に更新された場合、改正法が適用されるかどうかが問題になります。

スライドをご覧になってください。

【スライドを説明】

 この点については、未だ明確にはされていません。私の私見を申し上げると、改正民法施行後に自動更新された場合でも、当初の契約締結時、すなわち、改正前の民法が適用されるべきであると思います。

 これは、契約の当事者は契約を締結した時点における法律が適用されると考えるのが通常ですから、施行日前に契約が締結された場合について改正後の民法の規定を適用すると、当事者の予測可能性を害する結果となってしまうからです。

 一方、自動更新ではなく、改正民法施行後に合意により更新した場合はどうでしょうか。この場合には、改正後の民法のもとで合意更新するのですから、改正法が適用されると考えるべきではないか、と考えています。

 とはいえ、これは私見であり、現時点ではこのようなことが明らかとなっていませんので、いずれの民法が適用されるのかを明確にするため、更新時に改正民法を前提として作成した契約書を締結し直すということも有意義であると思います。

 

不動産賃貸実務に関する民法改正の概要

 さて、不動産賃貸借契約やその他の不動産取引において用いられている契約書は、現行の民法を前提に作成されていますが、改正民法には、現行民法とは大きく異なる規定が多数存在しています。そのため、今後は、現在使用している契約書の各条項について、改正民法でどのように変わるのかを確認したうえで適切に見直すことが必要不可欠となります。

 と言いましても、改正点の多くは、これまで、解釈上、あるいは判例で認められていたものを明文化したものが大部分ですので、ここでは、実質的に改正された部分だけを簡単に紹介しておきます。

 

賃貸借の存続期間の伸長

 まず、1番目の「賃貸借の存続期間の伸長」です。

 建物の所有を目的とする土地の賃貸借は借地借家法が適用されますが、建物を所有を目的としない土地の賃貸借は借地借家法は適用されず、民法の規定にしたがうことになります。

 たとえば、大型プラント、太陽光発電パネル、ゴルフ場、駐車場の設置のための敷地を賃借する場合は、民法が適用されますが、これらは、現行では、賃貸借の存続期間の上限は原則として20年とされています。そのため、それ以上の期間の賃貸借については、賃貸借契約を更新して対応する必要があります。

 これに対して、改正法では、賃貸借期間の上限を20年から50年に伸長していますので、20年を超える賃貸借契約を締結することが可能となります。

損害賠償請求権・費用償還請求権の行使期間制限

 次に、6番の「損害賠償請求権・費用償還請求権の行使期間制限」です。

 賃貸借契約における損害賠償請求権については、改正民法600条1項の除斥期間(貸主が返還を受けた時から1年以内に請求)に加えて、消滅時効の規定も適用されます(たとえば改正民法166条1項等)。

 消滅時効については、現行民法では「権利を行使することができる時から進行」(現行民法166条1項)し、「債権は、10年間行使しないときは、消滅する」(現行民法167条1項)ものとされています。

 これに対し、改正民法においては、「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から「5年間」行使しないとき、または「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から「10年間」行使しないときは、時効によって消滅することとなりました(改正民法166条1項)。
 そのため、長期の賃貸借契約が締結されている場合、賃貸借契約の継続中に消滅時効が完成してしまうことがありえます。

 そこで、賃貸人の保護を図るために、改正民法600条2項(622条による準用)において、貸主が返還を受けた時から1年間を経過するまでの間は、時効は完成しないこととしました(その意味で、改正民法166条1項等の特則という位置づけになると考えられます)。

 

貸借保証


次に、13番の貸借保証ですが、これは今日のメインテーマですので後ほど詳しく説明させていただきたいと思います。

 

 

 

不動産投資ローン保証

 最後に、14番の不動産投資ローン保証ですが、改正民法465条の6という条文を次のようになっています。

「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。」

 要約しますと、事業関係の資金の借り入れの際の保証人は公正証書を作成しなければならないということです。ですから、今日のテーマでいえば、アパートローンを借入れる際には、保証人は、「保証人になる意思があるよ」ということを契約の1か月前までに意思表示しなければならない、という新しいルールができたということです。

 具体例を考えてみたいと思います。

 一番多いと考えられるケースは、アパートの建設資金を金融機関から融資してもらう時に、その奥さんや親族に保証人になってもらう、というような場合かと思います。

 ただ、保証人になる方の属性によっては、公正証書の作成が不要となる場合があります。

 たとえば、会社組織でアパート経営をしていて、会社が借り入れをする場合に、会社の役員になっている方が保証人になるような場合は、公正証書を作成しなくてもいいということになっています。

 その他にも、公正証書の作成をしなくていいケースが細かく規定されていますが、いずれにしても、今後、金融機関から、融資の前に保証人に公正証書の作成を依頼されるケースが出てくると思われますので、こんな話があったということを思い出していただければと思います。

 以上のとおり、今回の民法改正は、不動産賃貸関係に、様々な点で大きな影響があるわけですが、本日は、時間の関係から、最も重要な改正点と思われる「保証」についての改正に絞って、詳しく考えてみたいと思います。

民法改正が不動産賃貸実務に最も大きな影響を与えるのは保証である


 それでは、保証の問題について詳しく見ていきたいと思います。

 保証に関して不動産賃貸の実務に影響を与える改正点は、まず、連帯保証人について、極度額を設定することが義務化されたということです。

 つまり、賃貸借契約に個人保証をつける場合は、保証人が責任を負わされる最大限度額を契約で定めておかなければ、保証契約は無効になってしまうということです。

 ふたつめは、事業用の賃貸については、連帯保証人への情報提供義務が新設されたということです。

 この改正により、事業のために物件を賃借する場合に個人保証をつける場合は、賃借人がその財産状況をきちんと保証人に説明しておかなければ、保証契約が後で取り消されることがあるというになります。

 これらのふたつは、いずれもまったく新しいルールの新設です。影響が非常に大きいですから、十分に検討しておく必要がありますし、これらについては、賃貸借契約書の変更や契約時の実務対応の変更が必要になります。

 そして、三つ目は、連帯保証人からの問い合わせに対する家主の回答義務が新設されたということです。

 

極度額設定の義務化

 それでは、まず、連帯保証人についての極度額設定の義務化について検討したいと思います。

 まず、現在の法律でも、金銭消費貸借の個人の保証人を保護するため、一定の範囲で生じる不特定の貸金債務を個人が保証する場合は、保証契約が書面等でされなければならず、かつ、保証人が負担する最大限度額を契約で定めなければ保証は無効、というルールがあります。

 平成16年に改正されてこのようなルールになったのですが、この改正のきっかけとなったのは、日栄、商工ファンドといった、いわゆる商工ローン問題で、保証人の被害が社会問題となったということをご存知の方もたくさんいらっしゃるかと思います。

 この最大限度額を「極度額」と呼びます。

 たとえば、銀行がある会社に対して銀行取引をする場合、将来生じる不特定の借入債務の保証人にその会社の社長がなる場合には、社長が保証人として負担する最大限度額が保証契約書で定められていなければ、その保証は無効となるわけです。

 そして、今回の改正は、この「一定の範囲で生じる不特定の債務の個人保証」、つまり、個人根保証に限度額を書面で設けなければならないというルールを、金銭消費貸借の保証だけではなく、その他の様々な契約にも拡大しました。

 賃貸借契約の個人保証人も、賃貸人と賃借人の賃貸借契約から生じる将来の家賃や原状回復費用という不特定の債務を個人で保証するわけですから、個人根保証人に当たります。

 そこで、改正民法の下では、賃貸借契約の保証人に個人がなろうとする場合は、極度額を書面等で定めなければ、保証契約は無効となってしまうわけです。

 これはまったく新しいルールです。賃貸借契約締結の際、十分に注意する必要があります。

極度額とは何か

 ところで、極度額というのは、保証人が負担することになる金額の最大限です。

 賃貸借契約の場合は、家賃そのものの他、家賃滞納の利息や遅延損害金、賃貸借契約から生じる違約金や損害賠償等、保証債務に関するすべてを含んで、最大限保証人が負う可能性のある限度額のことです。

 これを書面等ではっきりと示すことにより、慎重に判断させようというわけです。

 それでも保証人となるか否かを個人ではなく会社等の法人が賃貸借契約の保証人となる場合は、個人保証人と異なり、保証契約に極度額を定めることまでは、改正民法は要求していません。会社はビジネスを業務としているので、リスクを負うかどうかは、法律で規定するまでもなく、会社が判断できるだろうという趣旨であると思われます。

賃貸借契約と極度額

 ところで、滞納され続けた家賃の全額を一度に保証人に請求する場合は、その金額が極度額の範囲かどうかすぐにわかります。

 しかし、最初の家賃滞納がなされた時点でそれを保証人から払ってもらい、その後賃借人が滞りなく払い続け、その後また滞納があって保証人に払ってもらう、ということを繰り返す場合もあります。

 この場合、たとえば、極度額が100万円で、既に保証人がそれまでに90万円払っていたときは、最後の滞納分がたとえ20万円だったとしても、もはや10万円しか保証人に請求できません。100万円の枠内だから最後の20万円は払ってもらえるということにはなりませんので、注意が必要です。

 

 

 では、お手元の「平成30 年3月版・連帯保証人型」「賃貸住宅標準契約書」をご覧頂きたいと思います。

 これは、民法改正を受けて国土交通省が公表した標準契約書です。

 まず、2頁目末尾の「(6)連帯保証人及び極度額」いうところをご覧ください。そこに、連帯保証人の氏名、住所、電話番号に加え、極度額を記載するようになっています。

 そして、6頁の17条に連帯保証人についての条文があります。

 読んでみますと、「連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。」。そして、2項では「前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。」と記載してあります。

 なお、3項では、「丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。」、そして、4項では、「丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。」と記載してありますが、これら点については後ほど説明させていただきます。

 さて、そうなりますと、極度額はどのように定めたらいいのか、ということが問題となります。

 

極度額の定め方
(1)固定額であることが必要

 改正民法が賃貸借契約の個人保証人との保証契約で極度額を定めなければならないとした趣旨は、自分が負うことになるかもしれない最大額を認識させて、慎重に自主的に保証人になるかを個人に判断させるためです。

 

そこで、極度額は固定された額であることが必要となります。その場合、必ずしも300万円とか1000万円などの具体的な金額である必要はありません。たとえば「家賃10か月分」という定め方も有効と考えられます。

 ただし、将来、家賃が変われば、その分極度額も変わってしまうというのでは、保証人が最大の責任額を認識できませんから、たとえば、「賃貸借契約開始時の家賃10か月分」などとして、金額が固定されるようにすることが必要になります。

 家賃の増額に応じて極度額も増額されるという決め方であれば、その極度額の定めは無効となってしまいますからご注意ください。

(2)上限の制限はないが・・・

 なお、極度額の上限は、法律上は制限がありません。しかし、あまりにも高額な極度額は、固定した額を定めていないことと同じであるとして、無効とされる可能性があります。

 たとえば、木造2階建てのアパートで家賃8万円の物件の個人保証人の極度額を10億円と定めることは有効でしょうか。

 これは無効となる可能性が高いと解されます。なぜなら、木造2階建てのアパートで家賃8万円の物件の保証人の責任を10億円とすることは、実質的に極度額を定めないことと同じであるからです。

 この極度額の定めは公序良俗に反して無効とされる可能性が高いと思われます。

(3)極度額の定めが無効となったらどうなる?

 今のケースで、10億円という極度額の定めが無効とされたら、保証人の責任はどうなるのでしょうか。

 せめて、賃借人が滞納した8万円の家賃3か月分くらいは保証人に払ってもらえるのでしょうか。

 結論からいうと、払ってもらえません。

 極度額の定めが無効になれば、まったく保証人に請求することはできないことになります。

 なぜなら、改正民法は、極度額を定めなければ個人根保証契約は無効と定めており (465条2第2項)、極度額の定めが無効となれば初めから極度額が定められていなかった場合と同じになるからです。

 問題は、極度額をいくらに設定するかということですが、極度額設定については特に法律上のルールはなく、家主と連帯保証人の間で合意した金額を自由に設定することになります。

 実際の極度額設定は、次の2点を踏まえて決めることになると思います。

 まず、(1)家主側の立場からすると極度額は連帯保証人への請求限度額になりますので、多ければ多いほどよいということができます。

(2)一方で、極度額が高額になりすぎると、連帯保証人が尻込みし、連帯保証に応じないということもあると思います。

これらの2つの点を考慮して連帯保証人の極度額を設定することになります。

 

今日の資料の中に、国土交通省が作成した「極度額に関する参考資料」というものがありますので、まず、1ページ目をご覧ください。

調査項目は、3つです。

 ひとつめは、家賃債務保証業者が借主に代わって、貸主に支払った滞納家賃等のうち、借主に求償しても回収することができなかった損害額を調査したものです。

 ふたつめは、賃貸住宅管理会社に対して、家賃滞納の発生から明渡訴訟等に至る1,000 件あたりの件数や平均的な期間、最終的に借主から回収することができなかった家賃額等を調査したものです。

 そして、3つめは、裁判所の判決において、民間賃貸住宅における借主の未払い家賃等を連帯保証人の負担として確定した額を調査したものです。

 まず、ひとつめの「家賃債務保証業者の損害額に係る調査」の結果は3ページ以降に記載されています。家賃毎に損害額が出ていますが、当然といえば当然ですが、家賃の額によって損害額が異なっています。

 このような資料を参考にして、家賃の額の何倍という目安を定めるのもひとつの方法かと思います。この資料を見てみますと、家賃債務保証業者が負担した損害額は、家賃の5ケ月分ぐらいが平均かな、という感じがします。

 また、3つめの「裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査」は13ページ、この資料の最終ページに出ていますが、平均で家賃の約13.2 か月分ということのようです。

 実際に、家賃滞納後も退去せずに、裁判を起こして退去させなければならないケースもありますが、その場合、滞納発生から明け渡しまで1年半くらいかかることもあります。

 たとえば、半年間滞納して、その後、家主と交渉しても解決せず、裁判に4ケ月、強制執行に2ケ月などと時間が経過してしまうわけです。

 その期間中の賃料を連帯保証人に請求できるようにしておくためには、極度額は「1年半の家賃額程度」は必要かもしれません。

 ただし、敷金を預かっていない物件については、家賃のほかに原状回復費用も連帯保証人に請求することも考えておく必要がありますので、1年半の家賃額に原状回復費用の見込み額を加算した額を極度額の目安と考えておく必要があるかもしれません。

 このあたりは、みなさんは、具体的にどのように考えておられるのでしょうか?

 ところで、保証人の責任で最も多く生じるのが家賃滞納によるものと思われますが、想定しないような賃借人の行為から生じる損害ということも考えておく必要があると思います。

ここでは実際に裁判で争われた、賃借人が自殺したケースを見ておきたいと思います。


 事例としては、賃借人が、東京都世田谷区のアパートの二階の一室を家賃6万円、賃貸借期間2年で賃借し居住していた最中、その部屋で自殺してしまったというケースです。

 そこで賃貸人が、部屋を貸せなくなった等と主張して、賃借人の相続人及び保証人に損害賠償を請求しました。

 裁判所は、自殺があった部屋にその後居住することには嫌悪感が生じるのが一般的なので、賃借人が借りた部屋で自殺した場合には、保証人は賠償責任を負わなければならないとしました。

 さて問題はその金額です。

 裁判所は、その部屋は自殺後1年間は賃貸できず、その後2年間は通常賃料の半額でしか賃貸できないと判断し、賃貸人にはそれだけの損害が生じたとしました。

 つまり、家賃に換算すると2年分の損害が発生したと判断したわけです。

 他方、隣の部屋や階下の部屋にはこのような嫌悪感は生まれないとし、自殺した人が使っていた部屋についての損害のみを認めました。

 なお、後ほど説明しますが、今回の改正民法の下では、賃借人が死亡したときは個人保証の元本が確定し、それ以降新たに生じる損害について保証責任は生じません。

 しかし、死亡によって生じる損害は、死亡時に発生したと評価できますから、賃貸人は自殺によって生じる損害を個人保証人にも請求できると解されます。

 そこで、このようなケースに対応するために極度額をどうするかも検討する必要があるかもしれません。


 極度額をどのように設定するかということについてはこのぐらいにしたいと思います。

 次に元本確定の問題です。

 改正民法は、個人保証人の保護を図る観点から、一定の場合は保証する範囲が確定して、それ以降新たに発生する債務を保証する必要はない、としました。

 賃貸借契約の個人保証人が民法によってこのような保護を受けるのは初めてです。賃貸人、賃借人、保証人共に十分注意しておく必要があります。

 では、どのような場合に保証する範囲が確定するか、ということです。

 ここで保証する範囲が確定するという意味は、保証の対象となる未払い賃料の額等が確定するという意味です。これらの確定のことを改正民法では「元本の確定」と表現しています。

 改正民法が元本が確定する場合として定めているのは次の4つです。

 ① 主たる債務者である賃借人が死亡したとき
 ② 保証人が死亡したとき
 ③ 保証人が破産したとき
 ④ 保証人の財産に強制執行等がされたとき

 それでは、順に見ていきたいと思います。

① 賃借人が死亡したとき

 まず、賃借人が死亡したときです。

 賃貸借契約では、賃借人が主たる債務者で、賃貸借契約上の債務を本来払わなければならない人です。その賃借人が死亡したときは、個人保証人の保証債務の元本は確定します。

 したがって、それ以降生じる家賃等について保証人は責任を負いません。

 これによってどういうことが起きるかというと、家を借りていたAさんが亡くなっても、相続人である妻や子供が賃借人の地位を相続し、賃貸借契約は終了しません。

 ところが、Aさんが亡くなったら、個人の保証人は相続発生後に生じる家賃についてはまったく責任を負わなくていいということになります。

 なぜこのような改正が今回行われたかと言いますと、保証人は賃借人との信頼関係で保証してあげたのであって、相続人との間にはそのような信頼関係はない、だから相続人の家賃等にまで保証責任を負わされるのは酷だ、と考えられたからです。

 賃貸借契約中に賃借人が亡くなることはあり得ることですから、その場合には、新たな保証人をつけるなどの対応が必要になると思われます。

 では、賃借人が死亡したら賃貸借契約も終了すると契約しておけばいいのではないかという疑問も生じますが、そのような契約は原則として無効です。

 住み続けている相続人の保護に欠けるからです。なお、そのような契約は、「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」など、高齢者居住安定確保法で認められる場合はあります。しかし、これは、都道府県知事の認可を受けた終身賃貸事業者に認められる、例外的な取り扱いです。

②保証人が死亡したとき

 次に、保証人が死亡しても元本は確定します。

 保証される債務が不特定なので、保証人の相続人を保護するために定められたルールです。ただし、保証人死亡までに既に発生していた賃借人の債務は、保証人の相続人が責任を負うことにはなります。

 これまでは、保証人がご健在であるかどうかは、あまり関心がなかったのではないかと思いますが、これからは、保証人の生存確認もしていく必要があるということになります。

 具体的には、どのようなタイミングで、どのような方法により生存確認をするかという問題が出てきます。

 いかがですか?

 仮に保証人が亡くなっていたら、急いで保証人をつける必要があるわけですが、これがまた大変だと思います。

③保証人が破産したとき

 また、③保証人が破産したときも個人保証人の保証する元本が確定します。

 この場合、いずれにせよ保証債務の十分な履行は期待できませんし、破産手続の中で保証人が負う債務を確定させる必要もあります。そこでこのような定めが設けられました。

 これも困りますよね。滞納家賃を保証人に請求したところ、「2年前に破産した」というようなことをいわれてしまうこともあり得るわけです。

 先ほどの「保証人の死亡」については生存確認をすることも考えられますが、破産したかどうかということは、聞くに聞けないわけです。

 どうしますか?

 

 それでは、保証人ではなく、賃借人が破産したらどうなるでしょうか?

 この場合は元本は確定しません。

 賃借人が破産しても、その物件に住み続けることも多いですし、家賃が払われている以上、賃貸人との信頼関係が壊れたとまでは言いにくい面があり、賃貸借契約は終了しません。

 したがって、賃借人が破産しても賃貸借契約は終了しないわけですから、破産以後に生じる家賃についても保証人は責任を負うこととなります。

④保証人の財産に強制執行等がされたとき

 4つ目は、保証人の財産に強制執行等がされたときです。

 このような場合は、保証人が経済的に相当の苦境に陥ったときですから、改正民法は、個人保証人保護のために、それ以降の家賃等の保証をする必要はないとしました。

 さて、そうすると、保証人がどこかから差押えを受けていないかということは、どのように確認したらいいのでしょうか。

 いかがですか?

 以上が、改正民法が新たに定めた元本確定のルールです。

保証会社が家賃保証をするケースは?

 最近は、個人が保証人となるのではなく、保証会社が家賃保証をするケースが増えてきています。

 保証会社は、賃貸人との間で保証契約を結び、家賃滞納等があった場合に、賃借人に代わってそれを賃貸人に支払うわけですね。保証会社は、代わりに払った金額を賃借人や個人の保証に請求することになります。

 ここで保証会社が請求する「保証人」は、賃貸借契約の保証人ではありません。保証会社と賃借人の間の保証委託契約の保証人です。

 ややこしいのですが、保証会社がつく場合は、賃貸借契約の他に、賃借人と保証会社の間の保証委託契約という契約があり、その契約にも保証人がつくことがあるわけです。

 さて、今回の改正民法は、賃貸借契約に個人保証人がつく場合は極度額を定めなければならないとしました(465条の2)。

 これはあくまで「個人」保証人の保護が目的ですから、保証人が保証会社であれば、極度額を定めなくても保証契約は有効です。極度額を定めなくても、賃貸人は、保証会社に保証人としての責任を果たしてもらえます。

 しかし、まだ先があります。

 改正民法は、個人保証人の保護を貫くため、賃貸人と保証会社の間の保証契約に極度額が定められていなければ、保証会社は、保証委託契約の個人保証人に請求できないとしました(465条の5)。

 極度額が定められていなければ、保証会社は、保証委託契約の個人保証人に請求できないしくみにしたのです。

 なお、今でも、保証会社による保証は「家賃何ヶ月分」といった保証限度額が定められるのが一般的だと思います。そこで、この定めがあれば極度額の定めがあるのと同じとも思えます。

 しかし、改正民法の極度額は、将来その金額が動かない定め方をしなければなりません。「家賃何ヶ月分」の金額が、将来の家賃増額によって増加したりしないよう、たとえば「契約当初の家賃何ヶ月分」というような定め方で、極度額が一義的にわかる契約にしなければなりませんので注意が必要です。

 それでは、保証人の極度額の話は以上としまして、次に、保証契約が取り消されてしまう新しいルールについて見てみたいと思います。

連帯保証人への情報提供義務

 店舗やオフィスの賃貸借など、事業用の賃貸については、民法改正により、新たに賃借人から連帯保証人に賃借人の財産状況などを情報提供することが義務付けられました。

 これは連帯保証人の候補者に対して、連帯保証人を引き受けるにあたり、賃借人にどの程度の財産があるかを把握する機会を与えることで、連帯保証人を引き受けるかどうかについて十分な検討をさせようとするものです。

 例えば、以下のようなケースが典型的な適用場面になります。

 ① 個人事業の飲食店が店舗を借りる場合に、事業主の家族を連帯保証人とするケース
 ② 法人がオフィスを借りる場合に、連帯保証人をつけるケース

 そして賃借人がこの情報提供を怠り、賃借人が連帯保証人に情報提供をしなかったことにより、連帯保証人が賃借人の財産状況等を誤解して連帯保証人になることを承諾した場合で、かつ家主が、賃借人が情報提供義務を果たしていないことについて賃借人が知っていたり、あるいは知らないことに過失があった場合は、連帯保証人は連帯保証契約を取り消すことができるわけです(改正民法465条の10)。

 このように賃借人が連帯保証人への情報提供義務を果たしていない場合、家主としても連帯保証人から連帯保証契約を取り消され、滞納家賃等を連帯保証人に請求できなくなるという重大な問題が起こりますので注意が必要です。

そして、賃借人から連帯保証人への情報提供が義務付けられた項目は以下の通りです。

①賃借人の財産状況
②賃借人の収支の状況
③賃借人が賃貸借契約の他に負担している債務の有無並びにその額
④賃借人が賃貸借契約の他に負担している債務がある場合、その支払状況
⑤賃借人が家主に保証金などの担保を提供するときはその事実および担保提供の内容

 と言っても、賃借人が連帯保証人にこれらの項目を説明したかどうかは、賃貸人にはわかりません。

 どうしますか?

 例えば、これらの項目について、賃貸借契約書に記載欄を設けて賃借人に記入させた後で、連帯保証人に署名、捺印を求めるというような工夫が必要になるかもしれません。

 

 

 

 

最後のポイントは、「連帯保証人からの問い合わせに対する家主の回答義務が新設されたという点」です。

 保証人が、家賃がきちんと払われているかどうか心配になって、賃貸人に滞納状況を聞いてくる場合があります。

 通常は賃借人を信頼して特に関心なく過ごしていたとしても、賃借人の仕事の状況、生活の状況等の変化から信用状況に不安が生じたときは、保証人にとって家賃の支払い状況は重要な関心事になります。

 保証人から家賃滞納状況を聞かれれば、賃貸人としては答えてあげるのが当然だし、答えるべきとも思われます。しかし、賃借人個人の家賃滞納情報は、賃借人の個人情報にあたります。

 そして個人情報保護法では、他の者に個人情報を伝えるには本人の同意が必要なのが原則とされています。そのため、はたして家賃滞納状況を保証人に教えてよいか迷う場面もこれまであったかと思います。

 そこで改正民法は、家賃滞納等の個人情報を保証人に提供できる法的根拠を明確にしました。また情報が伝えられることで保証人が保護されるようにするため、保証人から請求があれば賃貸人は遅滞なく家賃の履行状況や滞納金額等を伝えなければならない、としました(458条の2)。

 注意すべきは、改正民法は、情報提供を請求できる保証人を個人保証人に限っていないことです。改正民法は、個人保証人の保護を重要な政策目的としているものの、この場面では会社などの法人の保証人も対象にしています。

 賃貸人がこの情報提供義務を果たさなかったらどうなるでしょう?

 改正民法はこの場合の罰則は定めていません。単に「提供しなければならない」としているだけです。

 しかし、この情報提供が賃貸人の義務であることに変わりはないので、賃貸人が情報提供しなかったり、あるいは事実ではない情報を提供したことで保証人に損害が生じたら、賃貸人が損害賠償責任を負うことがあります。

 たとえば、賃貸人が保証人に保証債務の履行を請求したら、保証人から「自分が尋ねたときにきちんと教えてくれていれば、すぐに賃借人に強く言って家賃を払わせていたのに … そのときならまだ賃借人に資力があった。だけど今となってはもう連絡も取れない!」と言われてしまうようなケースが考えられます。

 このような場合、もし遅滞なく正しい情報を提供する義務が果たされていれば保証人が責任を負う事態にならなかった、と裁判所から認定されますと、賃貸人の保証債務履行請求が否定される可能性があります。

やはり義務と定められたことはきちんと果たしておくべき、というわけです。

 以上で、私のお話は終わりにしたいと思います。

 ご静聴ありがとうございました。