「改正相続法の施行時期と適用場面」講義録

「改正相続法の施行時期と適用場面」講義録

 この講義録は、令和元年7月27日に開催された静岡県司法書士会第1回会員研修会を再現したものです。平成30年改正相続法の経過措置について詳しく解説いたします。

動画はこちら

 ただいまご紹介いただきました、古橋清二でございます。司法書士会の新執行部のもとで開催される初めての研修会の講師を務めさせていただくことを大変光栄に思っております。

 今日は、「さらにパワーアップ 相続実務必携 「相続登記の専門家」から「相続の専門家」になる」というタイトルをつけさせていただきました。

 5月下旬だったと思いますが、研修部長から、「法改正もあったことから相続について会員の関心が高まっていると思われるので、昨年度のあかし運営委員会が民事法研究会から出版した、「相続実務必携」を中心にお話をしてくれないか」、というお話がありました。

あまりご存じない方もいらっしゃるかと思いますので、あかし運営委員会について少しだけ説明しておきたいと思います。

 平成28年7月に、法務省が法定相続情報証明制度の創設について発表したわけですが、当時、日司連や多くの司法書士関係者は、プライバシーの問題などを理由に、法定相続情報証明制度創設に反対の声を上げていました。もっとも、私などが邪推しますと、反対の本当の理由は、プライバシーの問題よりも、相続登記における司法書士の独自性がゆらいでしまうという懸念があったのではないかと思います。

 しかし、私を含む当会の一部の会員は、法定相続情報証明制度を有効に活用すべきであり、制度創設に向けて積極的に準備をしていくべきだと考えて、有志の勉強会を始めました。これが、あかし運営委員会に発展していったわけですが、「あかし」というのは証明の「証」の字からとっているわけです。

 あかし運営委員会では、平成29年4月に法定相続情報証明の通達が出された2日後には、詳細な解説をホームページで公開するなど、全国的にも大変注目を集めました。

 さらに、近年関心が高まっている遺産承継業務について、一般的には司法書士法施行規則31条を根拠とする業務であると言われているわけですが、遺産承継業務を分析すればする程、規則31条を根拠とするのはおかしいのではないかと異を唱え、別の形で司法書士の業務として定義をいたしました。これに対しましては各地から賛同の声が届いており、先日も中里さんが三重の研修会に講師として呼ばれ、私も、今度、大阪に講師として呼ばれているところであります。

 さらに、新しい財産管理業務の形態として、民法918条2項を根拠とする相続財産管理人の理論的研究と実践なども行ってまいりました。こちらも、少しずつではありますが、各地から問合せをいただいております。

 この「相続実務必携」は、これらについて詳細に解説しておりますが、遺産承継業務や918条2項の相続財産管理人については、当会でも既に研修をさせていただきましたし、この本に詳細に解説させていただいていますので、ご興味のございます方は是非、お求めいただきたいと思います。

 そこで、今日の研修会の内容を考えてみたわけですが、時節柄、やはり相続法改正だろう、ということになりました。この「相続実務必携」においても相続法改正に触れているわけですが、今日は、より深く、そして、司法書士目線で相続法改正を考えてみたいと思います。

 今日の進め方ですが、まず最初に、私から、「改正相続法の施行時期と適用場面」というテーマで、30分くらいお話をさせていただこうと思っています。

 その中で、相続法改正の概要についても触れていきたいと思いますので、まずは、改正内容のおさらいをしていただきたいと思います。

 そして、次からが今日の研修のメインになるわけですが、改正相続法を具体的事例に落とし込んで検討してみたいと思います。この具体的事例の解説については、中里功さん、神谷忠勝さん、内納隆治さんに登壇をお願いすることになります。

 なお、中里さんについては皆さんもご存じだと思いますが、神谷さん、内納さんについてはほとんどの方がご存じないのではないかと思います。それもその筈で、神谷さんは、司法書士登録2年目、内納さんはこの5月に司法書士登録をしたばかりだからです。

 しかし、新しい法律が施行されたわけで、そういう意味では、ベテランも新人も同じスタートラインに立っているわけですし、この研修会を準備する中で、長い時間をかけて、本当に深いところまで検討してきましたので、今日の研修は、全員自信を持って臨んでおります。

どうか最後までお付き合いいただきたいと思います。

 

 それでは、前置きはこのくらいにいたしまして、私のお話を進めさせていただきます。

 私が担当いたしますのは、「改正相続法の施行時期と適用場面」です。お手元の資料の1ページから17ページですが、今日は、パワーポイントを使いながらお話いたしますので、お手元の16ページの民法附則を見ながら画面を見ていただければと思います。

 相続法改正で、私たち司法書士の多くが関心を持っているのが「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」であると思います。

 そして、これらの施行の時期については、既に皆さんの頭の中に入っていることと思いますが、この画面のとおり、今年1月13日に、自筆証書遺言の方式緩和に関する部分が施行されました。

 そして、7月1日に、多くの部分が施行され、来年4月1日に配偶者居住権についての施行、来年7月10日に法務局の遺言保管制度が施行されるスケジュールとなっています。

 ですから、皆さんが相続の相談や仕事を受ける場合に、「改正法で考えるのか、旧法で考えるのか、どっちなんだ」ということになるわけですが、附則2条では、「この法律の施行の日(令和元年7月1日)(以下「施行日」という。)前に開始した相続については、この附則に特別の定めがある場合を除き、なお従前の例による。」となっています。

 したがって、相続の開始が7月1日より前であれば旧法、7月1日以降であれば改正法ということになります。

 しかし、これからお話しいたしますように、これにはたくさんの例外がありますので、実務家としては細心の注意が必要ということになります。

 実は、今日の研修会の準備をする過程でいろいろと調べてみたのですが、例外扱いをする理由が書かれた文献を見つけることができませんでした。

 そこで、それぞれのところで、なぜ例外扱いをしたのか、という私なりの考え方もお話ししたいと思いますので、みなさんのご意見も賜りたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 では、まず、設問1です。

 Xは、平成30年12月1日、不動産目録をパソコンで作成し、その他は旧法による自筆証書遺言の方式にしたがって遺言を作成した。この遺言は自筆証書遺言としての効力を有するか。という設問です。

 これは、自筆証書遺言の方式緩和についての経過措置の問題ですが、自筆証書遺言の方式緩和について簡単に説明いたしますと、全文の自書を要求している自筆証書遺言の方式を緩和して、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとして、その場合には、財産目録の各頁に署名押印することを要することとされました。

 さきほどご説明したように、この改正は、本年1月13日から施行されています。そして、附則6条では、「施行の日前にされた自筆証書遺言については、なお従前の例による」となっていますから、平成31年1月13日以降になされた遺言でなければ方式緩和の規定は適用されないということになります。

 つまり、作成当時、方式に違背して無効であった遺言が、1月13日を経過したことによって有効になるわけではないということです。

 これについては、特に問題なかろうかと思います。

 では、次です。

 Xは、平成31年4月1日、配偶者Yに対し居住用不動産を贈与し、令和元年7月10日に死亡した。この贈与について、遺産分割の際、持戻し免除の意思表示があったと推定し、当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができるか。という設問です。

 この設問は、「持戻し免除の意思表示の推定規定」に関するものです。

 この「持戻し免除の意思表示の推定規定」とは、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が、他方配偶者に対し、その居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については、民法903条3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定し、遺産分割においては、原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要とするというものです。

 この説例では、7月10日に相続が開始したわけですから、改正法が適用されそうな感じもするのですが、附則4条では、「施行日前にされた遺贈又は贈与については、適用しない。」ということになっています。

 そもそも、この改正によって持戻し免除の意思表示があったものと推定するとしたにもかかわらず、遡って推定が機能してしまうとおかしなことになります。

 たとえば、これまでは、持ち戻し免除の意思表示があったと主張する者が主張立証責任を負い、現に争われているものもある筈です。ところが、一転して遡って推定が働いてしまうと、今度は、持ち戻し免除の意思表示がなかったと主張する者が反証の責任を負うことになってしまうわけです。

このように考えると、この経過措置が置かれた理由が納得できるかと思います。

では、次です。

 Xは、平成25年4月1日に死亡したが、遺産分割の話し合いがまとまっていない。相続人Yは、令和元年7月以降、凍結されたままになっている預金について、金融機関に対し、民法909条の2にもとづいて単独で一部払戻しを請求することができるか。という設問です。

これは、「遺産分割前の払戻し制度」に関する設問です。

 遺産分割前の払戻し制度とは、各共同相続人が、遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに、相続開始時の預貯金債権の額の3分の1に、払戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額まで、ただし、同一の金融機関に対する権利行使は150万円を限度としますが、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができるという制度です。

 これにつきましては、附則5条1項をご覧ください。

 「施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも適用する」とされていますね。このことから、この説例のように、遺産分割協議が難航して預金を解約できていないような場合であっても、7月以降は一部払戻しをすることができるということになります。

 なぜこのような経過措置が設けられているのかは明らかではありませんが、平成28年12月19日の最高裁の決定で、預貯金債権は相続により共同相続人の準共有となり遺産分割の対象となると判示したことは記憶に新しいと思います。

 したがって、以来、遺産分割を成立させなければ預貯金を解約することができない状態となっていました。

 しかし、これでは、相続人の生活費や葬儀費用の支出などに支障が出てしまう状況があったため、施行日前に開始した相続であっても、一部払戻しを認める必要性があったのではないかと推測しています。

 では、次です。

 Xは、令和元年5月1日に死亡した。残された遺言には遺言執行者の指定がなかったため、申立により、令和元年7月15日にYが遺言執行者に選任された。Yは、民法1007条2項にもとづき遺言の内容を相続人に通知しなければならないか。という設問です。

 改正法では、遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならないこととされました。これまでも、法律専門職が遺言執行者に就任したときは、遺言の内容を相続人に通知していたものと思われますが、改正法では、これを明文化しました。

 そして、附則8条1項により、遺言執行者の通知義務(1007条2項)、は令和元年7月1日前に開始した相続に関し同日以降に遺言執行者となる者にも適用することとされています。

 したがって、設問の場合には、死亡日が7月1日より前ですが、遺言執行者の選任日が7月1日以降であるため、改正法が適用されることになります。

 なお、附則8条1項の、「令和元年7月1日以降に遺言執行者となる者」とはどのような者をいうのかが若干問題です。

 たとえば、7月1日より前に執行者に選任され、7月1日以降に就任した者はどうなのか、という問題です。

 これについて明らかにされている文献は見つけることができていないわけですが、考え方として、7月1日より前に選任された執行者と、7月1日以降に改正法のもとで選任された執行者とは権限がまったく違うのだ、と考えればすっきりと理解できるのではないかと思います。

 そのように考えると、改正法が適用されるのは、あくまでも7月1日以降に選任された執行者だけであって、旧法時代に選任された執行者は旧法における執行者の権利義務を前提に選任されているわけですから、たとえ就任が7月1日以降になったとしても旧法の権利義務として考えるべきでありますし、また、7月1日以前に就任していた執行者が7月1日を経過したからといって改正法の権利義務に変容するということはないと考えるべきだと思います。

では、次です。

 Xは、平成31年3月1日に、「①自宅の土地建物をYに相続させる、②遺言執行者はZを指定する」旨の遺言を作成し、令和元年7月15日に死亡した。遺言執行者Zは、当該土地建物の名義をY名義に移転するための登記申請をすることができるか。という設問です。

 これまで、特定財産承継遺言により特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の登記申請は、遺言執行者からはすることができないとされていました。なお、「特定財産承継遺言」と言う言葉が初めてでてきましたが、これは、「ある特定の相続人に対し,特定の相続財産を,遺贈ではなく「相続させる」とする内容の遺言」のことであると考えていただければと思います。

 しかし、改正法では、特定財産承継遺言がされた場合に、遺言執行者は、原則として受益相続人のために対抗要件を具備する権限を有することとしました。

 この点についての経過措置として、附則8条2項では、特定財産承継遺言の債権以外の対抗要件具備行為等(1014条2項~4項)は、令和元年7月1日前にされた特定財産承継遺言に係る遺言執行者によるその執行については適用しない、としています。

 つまり、遺言執行者が特定財産承継遺言にもとづいて登記申請をする権限を有するのは、当該遺言が令和元年7月1日以降に作成された場合であるということになります。

 なぜこのような経過措置になったか、その理由を考えてみますと、令和元年7月1日よりも前に遺言が作成されて遺言執行者の指定がされていても、当時の法律では遺言執行者の権利義務は旧法を適用するという前提で指定されていると考えるしかないからだと思います。

 このあたりは登記業務に直結するところですので注意しておきたいものです。

 なお、この経過措置は、「債権の対抗要件具備行為」を除いています。そのため、債権の対抗要件具備行為については、特定財産承継遺言が令和元年7月1日より前になされたとしても、遺言執行者がすることができると解釈できると思われます。

 なぜ「債権の対抗要件具備行為」だけはすることができることにしたのか、その理由については、後ほど触れたいと思います。

 では、次です。

 Xは、平成31年3月1日に、「自宅の土地建物をYに相続させる、遺言執行者はZを指定する」旨の遺言を作成し、令和元年7月15日に死亡した。なお、当該遺言には遺言執行者がその任務を第三者に行わせることができる旨の定めはなかった。Zは遺言執行者に就任したが、自信がないので司法書士甲に遺言執行者の任務を行わせたいと考えているが、それは可能か。という設問です。

 改正相続法では、遺言執行者は、原則として、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができることとされました。もっとも、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うことになります。

 なお、遺言執行者が、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負うこととされました。

 こうした遺言執行者の復任権(1016条)に関する改正は、附則8条3項により、令和元年7月1日前にされた遺言には適用しないこととされています。

 このような経過措置とした理由は、先ほどの設問の解説と同じように、令和元年7月1日よりも前に遺言が作成された場合には、権利義務は旧法を適用するという前提で遺言執行者が指定されていると考えるしかないからだと思います。

 したがって、この設問では、遺言を作成したのは改正相続法施行前である平成31年3月1日ですから、遺言者の死亡や遺言執行者の就任が7月1日以降であったとしても、新法は適用されないということになります。

では、次です。

 Xは、令和元年5月1日に死亡した。残された遺言には遺言執行者の指定がなかったため、申立により、令和元年7月15日にYが遺言執行者に選任され、Xの不動産は遺贈を原因としてZに所有権移転登記がされた。相続人AがZに対してすることができるのは遺留分減殺請求か、遺留分侵害額請求か。という設問です。

 遺留分制度に関しましては大きな改正がされています。

 まず、これまでは、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされていましたが、改正法では、遺留分に関する権利の行使によって、遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることにされました。

 そして、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が、金銭を直ちには準備できない場合には、受遺者等は、裁判所に対し、金銭債務の全部又は一部の支払いにつき期限の許与を求めることができることとされました。

 この改正については、附則2条の原則どおりに適用されますので、令和元年7月1日以降に開始した相続に適用されることとなります。

 この設問は、相続が開始したのは令和元年5月1日ですから、旧法が適用されるということとなります。

では、次です。

 Xは、令和元年5月1日に死亡した。残された遺言にはすべての財産はYに相続させると書かれていた。令和元年7月10日、相続人Zの債権者であるAは、代位でYZ名義の法定相続分による登記をしてZの持分を差し押さえた。YはAに対し、Yに所有権があることを対抗できるか。という設問です。

 相続の効力等に関する見直しのうち、対抗要件の問題は、私たち司法書士の業務に密接に関わってくる問題です。

 旧法のもとでは、遺産分割や遺贈により承継された財産については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することはできないと考えられていましたが、特定財産承継遺言により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされていました。

 しかし、特定財産承継遺言により承継された財産についてだけこのような取扱いをすることに根強い批判があったため、改正法では、特定財産承継遺言により承継された財産についても、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないこととされました。

 したがって、遺産分割や遺贈はもとより、特定財産承継遺言による登記を依頼された場合には、できるだけ早く登記申請をする必要があります。万が一、登記申請が遅れたことにより依頼者が第三者に対抗できなくなってしまった場合には、司法書士の過失責任が問われる可能性がありますので注意が必要です。

 この改正は、附則2条が原則どおりに適用されますので、令和元年7月1日以降に開始した相続に適用されることとなります。

 この設問では、相続が開始したのは令和元年5月1日ですから、旧法が適用されるということとなります。

 では、次です。

 Xは、令和元年5月1日に死亡した。相続人であるYZの遺産分割協議によりXの売掛金はYが取得することになった。令和元年7月10日、Yは、債務者Aに対し、遺産分割協議書を示して売掛金の支払いを請求した。しかし、Aは、「YだけではなくZ名義でも遺産分割により売掛金をYが取得したという連絡をもらわなければYに支払うことはできない」と言って支払いを拒絶した。Aの拒絶は正当か。という設問です。

 この設問は、やや深い考察が必要となります。

 まず、この問題を考えるにあたって、売掛金は相続にあたってどのような性質と考えられているかという点と、Yが自らが売掛金を相続した者であるということを主張するためにはAに対して何をすればいいのかという点を考える必要があります。

 まず、売掛金のような債権は、相続においてはどのように相続されるのでしょうか。

 売掛金は可分債権ですよね。したがって、相続により、個々の共同相続人に対して、各自の相続分に応じた債権が相続されるということになります。(最一小判昭和29年4月8日,最三小判昭和30年5月31日,最判平成16年4月20日等)。

 もっとも、このような可分債権であっても、共同相続人間でそれを遺産分割の対象財産に含めるという合意をすれば、遺産分割の対象とすることができるという実務慣行となっています。

 では、相続された売掛金を取得したYが、そのことをAに主張するためには、何をすればいいのでしょうか。法律論として考えたいと思います。

 まず、可分債権により分割された場合には、YがZから債権譲渡を受けて全額を請求するということになるわけですから、民法467条の、債権譲渡人から債務者への通知か、債務者の承諾が必要になるということになります。

 なお、この場合の承諾は、譲渡人、譲受人のどちらにしてもいいということになっています。

 次に、遺産分割によりYが取得した場合には、明確な判例はありませんが、こちらも民法467条の趣旨が適用されるのではないかと考えられているようです(「相続実務が変わる! 相続法改正ガイドブック」201頁)。

 もっとも、実務的にはそこまで厳密に対抗要件がそろっていなくても、戸籍の束と印鑑証明付の遺産分割協議書が提示されれば債権を承継した真の相続人と認定しているのではないかと思います。

 今回の相続法の改正は、こうした民法467条の対抗要件の特則として、共同相続人全員による通知、債務者の承諾だけではなく、受益相続人が、遺言や遺産分割の内容を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなすこととしたわけです。

 改正相続法の適用の原則は、附則の2条によって、施行日である7月1日以降に開始した相続に適用することとされていますが、今お話ししたような新しい対抗要件具備の手法がスタートしているわけですので、7月1日より前に開始した相続についてもそれを認めるのが相続人にとって便宜であると考えられます。

 そこで、附則3条では、899条の2の対抗要件に関する規定は、施行日前に開始した相続に関し遺産の分割による債権の承継がされた場合において、施行日以後にその承継の通知がされるときにも、適用するとしているのだと思われます。

 したがって、この設問では、Yは、7月1日以降に、債務者Aに対し、遺産分割協議書を示して売掛金の支払いを請求しているのですから、899条の2の債務者対抗要件は満たしているということになり、Aは支払いを拒絶できないということになります。

 なお、先ほど、特定財産承継遺言の債権の対抗要件具備行為について、特定財産承継遺言が令和元年7月1日より前になされたとしても、遺言執行者がすることができると解釈できるとお話ししましたが、その根拠も本問と同じ趣旨であると考えています。

 よろしいでしょうか?

 では、次です。

 Xは、令和元年5月1日に死亡した。相続人ではないY(相続人の妻)は、無償でXの療養看護等を行ったことに対し、令和元年7月1日以降であれば、民法1050条を根拠に相続人に対して金銭請求をすることができるか。という設問です。

 改正法では、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として、相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件の下で、相続人に対して金銭請求をすることができるようにするという、特別寄与料の制度を創設しました。

 そして、この適用については、附則2条が原則どおりに適用されますので、令和元年7月1日以降に開始した相続に適用されることとなります。

 そのため、この設問は、被相続人が、7月1日よりも前である令和元年5月1日に死亡していますから、特別寄与料の制度は適用できないということになります。

 したがって、この設問の場合に、相続人ではないYの療養監護の労に対しては、従来どおり、相続人の妻を相続人の履行補助者と構成するなどして寄与分として請求するしかないものと思われます。

 では、次です。

 Xは、令和2年4年1日から配偶者居住権が新設されることを知り、令和元年7月15日、配偶者居住権を妻Yに遺贈する旨の遺言書を作成した。令和2年5年1日Xは死亡した。

 Yは配偶者居住権の遺贈を受けることができるか。という設問です。

 配偶者居住権の規定については令和2年4年1日から施行されますが、配偶者居住権には、配偶者短期居住権と、配偶者短期居住権ではない配偶者居住権があります。

 まず、配偶者短期居住権ですが、これは、相続開始の時に被相続人所有の建物に配偶者が無償で居住していた場合には、遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用することができるとするものです。

 一方、配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする権利として新設されたものです。

 配偶者には、遺産分割によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることにしています。

 これらにつきましては、附則10条1項で例外が定められており、令和2年4月1日以降に開始した相続にのみ適用されることとされています。

また、附則10条2項では、配偶者居住権に関する規定は、令和2年4月1日より前にされた遺贈については適用しないとされています。

 これは、令和2年4月1日より前は、未だ配偶者居住権は施行されていませんので、配偶者居住権という未施行の概念を遺言に取り込むことはできないと考えたのではないかと思います。

 この設問では、配偶者居住権が創設されることを見越して令和元年7月15日に、施行日を待たずに、配偶者居住権を妻Yに遺贈する旨の遺言書を作成しているわけですが、その部分は無効であると考えざる得ません。そのため、Yは配偶者居住権の遺贈を受けることができないという結論になるものと思われます。

 その他、14ページ以降にその他の改正点の経過措置をまとめておきましたが、時間の関係から説明は省略させていただきます。

 以上で、今日の前座である「改正相続法の施行時期と適用場面」を終わりたいと思います。それぞれの場面で改正法と旧法が交錯しますので、ご相談を受ける際は今日の話を思い出していただければと思います。