このページは、民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正案、令和3年2月2日に閣議決定された「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」を基軸として、それまでの法制審議会の議論、同審議会に提出された資料等を差し込むことにより、所有者不明土地関係の改正を理解しようとするものです。
なお、法制審議会の議事内容、同審議会に提出された資料等は、理解を深めるために、本ページ作成者の独断で、色つけ、アンダーライン、注記等の処理をしています。このページは令和3年2月28日に立ち上げたものですので、まだまだ十分に情報提供できていませんが、長い目で見守っていただけると幸いです。
議論のスタートとなる資料
まず事務当局から,この度の諮問の内容,その発出の経緯,今回の検討の対象範囲等について説明を差し上げます。 第1 基本的な視点 部会資料1の第1の「基本的な視点」にありますとおり,所有者不明土地の発生原因は,土地の所有者が死亡しても相続登記がされないことにあるといわれておりまして,国土交通省の地籍調査における調査では,不動産登記簿では所有者等の所在が確認できない土地の割合は,約20%であったとされております。 1 所有者不明土地の発生原因 (2) 住所変更の未登記 (3) その他 そして,このようにして発生した所有者不明土地を利用しようとすれば,土地の所有者を探索しなければなりませんが,その負担は小さくないと指摘されております。また,所有者不明土地においては,所有者の探索の負担とあいまって,土地の利用や管理にも支障が生じることがあるといわれ,社会問題となっております。 諮問事項を御覧いただければと思います。この「記」以下に,今回の諮問で特に御意見を承りたい事項を書き出しております。 第1として,相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組みの観点から,一つ目,相続登記の申請を土地所有者に義務付けることなどの不動産登記情報の更新を図る方策と,それから,二つ目として,土地所有権の放棄を可能とすることなどの所有者不明土地の発生を抑制する方策が挙げられております。 第2 考えられる検討項目 続きまして,部会資料1の第2の部分,ここから,本日を皮切りとして,委員,幹事の皆様方の御意見を賜りたいと考えている事項でございます。 1 相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み 部会資料1の第2では,諮問事項にもございます「相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」と「所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組み」につきまして,諮問事項に列挙している項目につき,敷衍して説明をしております。 (1) 不動産登記情報の更新を図る方策 まず,1の「相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」としましては,記載しておりますとおり,不動産登記情報の更新を図る方策を検討することが考えられます。 (2) 所有者不明土地の発生を抑制する方策 次に,(2)にございます「所有者不明土地の発生を抑制する方策」でございますが,土地の所有者が相続の開始前に所有権を放棄することを認め,当該土地の所有権を公的な機関等に帰属させることができれば,所有者不明土地の発生を抑制することができることから,現行民法には規定がない所有権放棄につきまして,一定の要件の下に,これを可能とする制度を整備することが考えられます。 2 所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組み (1) 共有制度の見直し 次に,2にございます「所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組み」でございますが,所有者不明土地が,いわゆる共有地であることは,少なくないところでございますが,共有制度に起因して問題が生じているため,共有制度を見直すことが考えられるところでございます。 次に,(2)でございますが,現行民法には,いわゆる不在者財産管理制度や相続財産管理制度がございまして,土地の所有者が不在者になっている場合などに対応することができるようにはなっておりますが,既存のこういったものについては,管理コストが高く,利用が困難であるとの指摘もあることから,財産管理制度の見直しが考えられるところでございます。 (3) 相隣関係規定の見直し また,第3でございますが,隣地が所有者不明土地である場合に対応することを見据えまして,いわゆる相隣関係規定の見直しをすることも考えられるところでございます。
○横山関係官 横山でございます。 (休 憩) ○山野目部会長 審議を再開いたします。
○大谷幹事 御説明いたします。
先ほどの小野瀬民事局長からの御挨拶にもありましたけれども,所有者不明土地問題の解決は喫緊の課題でございます。
第1 基本的な視点
近年,土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として,不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず,又は判明しても連絡がつかない土地(以下「所有者不明土地」という。)が生じ,その土地の利用等が阻害されるなどの問題が生じている。そのため,政府においては,経済財政運営と改革の基本方針2018等で,相続登記の義務化等を含めて相続等を登記に反映させるための仕組み,登記簿と戸籍等の連携等による所有者情報を円滑に把握する仕組み,土地を手放すための仕組み等について検討し,2020年までに必要な制度改正の実現を目指すとしている。
(1) 相続登記の未登記
所有者不明土地が発生する主な原因は,土地の所有者が死亡しても相続登記がされないことにあるとの指摘がある。
平成28年度に地籍調査を実施した1130地区(563市区町村)の62万2608筆の土地について調査したところ,不動産登記簿では所有者等の所在が確認できない土地の割合は20.1%であり,そのうち相続による所有権の移転の登記がされていないものの割合は,66.7%であった(平成30年版土地白書114頁)。
また,全国10か所の地区で実施した法務省の平成29年の調査(調査対象とした自然人名義に係る所有権の個数は,11万8346個)によれば,最後の登記から相当の年数が経過しているものの割合は,次のとおりであった。
所有者不明土地が発生する他の原因として,土地の所有者が住所を変更しても,その旨の登記がされないことが指摘されている。
前記の平成28年度地籍調査における調査では,不動産登記簿では土地所有者等の所在が確認できない土地のうち住所変更の登記がされていないものの割合は,32.4%であった(平成30年版土地白書114頁)。
売買等により所有権の移転が生じたが,その旨の登記がされないこともあるが,前記の平成28年度地籍調査における調査によれば,不動産登記簿では土地所有者等の所在が確認できない土地のうち売買・交換等による所有権の移転の登記がされていないものの割合は,1.0%であった(平成30年版土地白書114頁)。
2 所有者探索の負担
所有者不明土地を利用し,若しくは取得し,又は所有者に対し権利を主張するためには,土地の所有者を探索しなければならない。探索の結果,土地の所有者が判明することがあるが,その判明に至るまでの負担は小さくないと指摘されている。
例えば,土地の所有者が死亡し,相続登記がされていない場合には,まず,当該所有者の相続人を確定しなければならないが,そのためには,当該所有者の出生から死亡までの経過の記載が分かる戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等を取得する必要がある。さらに,この場合に,相続人が既に死亡している場合には,被相続人に加えて,相続人の出生から死亡までの経過の記載が分かる戸籍全部事項証明書等を取得する必要がある。
3 所有者不明土地の利用・管理の支障
所有者不明土地においては,所有者の探索の負担と相まって,土地の利用や管理に支障が生ずる。例えば,共有者の一部が不明である所有者不明土地では,他の共有者が当該土地を利用しようとしても,不明共有者の同意を得ることができないために,その利用が制限されることがある。また,ライフラインの敷設等のために隣地を利用する必要が生じても,当該隣地が所有者不明土地である場合には,当該所有者の同意を得ることができないために,支障が生ずることがある。
さらに,所有者不明土地を管理するために,不在者の財産の管理制度等の財産管理制度を利用し,財産管理人を選任することが考えられるが,既存の財産管理制度については管理コストが高く,利用が困難であるとの指摘もある。
諮問第百七号
土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない所有者不明土地が生じ、その土地の利用等が阻害されるなどの問題が生じている近年の社会経済情勢に鑑み、相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組みや、所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みを早急に整備する観点から民法、不動産登記法等を改正する必要があると思われるので、左記の方策を始め、その仕組みを整備するために導入が必要となる方策について、御意見を承りたい。
記
第一 相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み
一 相続登記の申請を土地所有者に義務付けることや登記所が他の公的機関から死亡情報等を入手すること等により、不動産登記情報の更新を図る方策
二 土地所有権の放棄を可能とすることや遺産分割に期間制限を設けて遺産分割を促進すること等により、所有者不明土地の発生を抑制する方策
第二 所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組み
一 民法の共有制度を見直すなど、共有関係にある所有者不明土地の円滑かつ適正な利用を可能とする方策
二 民法の不在者財産管理制度及び相続財産管理制度を見直すなど、所有者不明土地の管理を合理化するための方策
三 民法の相隣関係に関する規定を見直すなど、隣地所有者による所有者不明土地の円滑かつ適正な利用を可能とする方策
また,所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みの観点から,一つ目として,民法の共有制度の見直しなど,共有関係にある所有者不明土地の円滑かつ適正な利用を可能とする方策,二つ目として,民法の不在者財産管理制度等を見直すなど,所有者不明土地の管理を合理化するための方策,それから,民法の相隣関係に関する規定を見直すなど,隣地所有者による所有者不明土地の円滑かつ適正な利用を可能とする方策が挙げられております。
このように比較的詳細な諮問を行っておりますのは,所有者不明土地問題の解決が喫緊の課題となっていることから,その対策として有効と考えられる方策を幅広く御議論いただきたいと考えているためでございます。
この部会で取り扱う審議事項といたしましては,基本的には諮問にあるとおり,大きくは二つの観点から,全部で五つの方策の導入を検討課題とすることを念頭に置いておりまして,これだけでもかなり広範囲の分野に及んでいると考えられるところですけれども,この機会に,民法及び不動産登記法に関して,更に検討が必要なテーマがあるとすれば,審議の中でそれを取り上げることを一切排除する趣旨ではございません。主要な検討課題と同じ程度のスピード感を持って,成案を得ることができるテーマであれば,同様に取り上げていくことも可能と考えております。
なお,諮問をお示しするに当たりまして,参考としましたのが,この部会の設置に先立ちまして,登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会において行われた研究でございます。
参考資料1は,この研究会が本年2月28日に取りまとめて公表した報告書でございます。この研究会には,私も参加しておりましたし,本日御参加の皆様のうちの何人かの方も参加されておりましたけれども,参考資料1の報告書は,今回の諮問に係る事項について,民法・不動産登記法の見直しが必要ではないかという問題意識を基に論点を整理し,考えられる方向性や課題を取りまとめたものでございます。この部会の今後の審議を進めていく上でも,大いに参考になるものと思いますので,お配りさせていただいた次第です。
もちろん,その内容は,基本的には論点の整理にとどまるものですので,一定の方向が決まっているというものではございません。飽くまでも参考資料ということで,御参照いただければと思います。
○山野目部会長 ただいま,部会資料1の第1の部分について説明を差し上げました。この部分は,諮問107号が発出された背景を説明するものでございますから,委員,幹事の皆様方の御意見を承るというよりは,お尋ねがありますれば承っておきたいと考えます。
いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。
本日は総括的に,部会資料1の第2として,やや要約をし,整理をしてお示ししているところでございます。
この部分について,事務当局の脇村関係官から説明を差し上げます。
○脇村関係官 それでは,御説明いたします。
(1) 不動産登記情報の更新を図る方策
ア 相続登記の申請の義務化
相続が開始して相続による所有権の移転がされても,申請がない限り相続登記はされないが,相続登記の申請をするかどうかは申請人(相続人等)の判断に委ねられているため,土地の所有者が死亡しても相続登記がされない事態が生ずる。
そこで,相続の発生を適時に登記に反映させるための方策として,相続登記の申請を土地所有者(相続人)に義務付けることが考えられる。もっとも,この検討に際しては,義務化の実効性を確保するための手段として,義務の履行にインセンティブを付与する方法(相続開始後一定期間に限っての相続登記手続における申請人の負担軽減)や,義務違反者に与える制裁の在り方等について検討する必要があるほか,土地の相続以外の不動産所有権の移転の登記等の申請の場面の取扱い等についても検討する必要がある。
イ 登記所による不動産登記情報の更新を図る方策
また,相続登記の申請がなくても,登記所が他の公的機関から死亡情報等を取得して,不動産登記情報の更新を図る方策について検討することが考えられる。もっとも,この検討に際しては,現行法上,登記所は,登記名義人が死亡しても,直ちにその死亡情報を把握することができないため,どのような方法で最新の情報を把握するのかについて検討する必要がある。
具体的には,先ほども説明ありましたが,相続を開始して,相続による所有権移転がされても,申請がない限り相続登記はされず,相続登記の申請をするかどうかが申請人の判断に委ねられ,相続登記がされない事態が生じていることから,相続登記の申請を義務化することについて検討することが考えられます。
また,相続登記の申請がなくても,登記所が他の公的機関から死亡情報等を取得して,不動産登記情報の更新を図る方策について,検討することが考えられるところでございます。
(2) 所有者不明土地の発生を抑制する方策
ア 土地所有権の放棄
土地の所有者が,相続の開始前に,所有権を放棄することを認め,当該土地の所有権を公的な機関等に帰属させることができれば,所有者不明土地の発生を抑制することができる。
現行民法においては,所有権の放棄に関する規定がなく,土地所有権の放棄の可否について確立した判例もないが,上記の観点から,一定の要件のもとに,土地所有権の放棄を可能とする制度を整備することが考えられる。その整備に当たっては,所有権放棄の要件・効果や放棄された土地の帰属先機関とその財政的負担,土地所有者が将来放棄するつもりで土地の管理をしなくなるモラルハザードの防止方法,建物や動産の所有権放棄との関係等について,検討する必要がある。
イ 遺産分割の促進
土地の所有者が死亡し,相続人が複数いる場合には,当該土地は共有(遺産共有)の状態となる。この場合に,遺産分割が行われ,その旨の登記がされれば,所有者不明土地の発生は抑制されるが,現行民法には遺産分割を実施することができる期間について特に定めはないこともあり,遺産分割がされないまま,遺産共有の状態で放置されている土地は少なくないとの指摘がある。
そこで,遺産分割に期間制限を設けるなどして,遺産分割を促進することが考えられるが,その期間をどの程度に設定するのか,期間を経過した際にどのような効果を付与するのかなどについて検討する必要がある。
また,土地の所有者が死亡し,相続人が複数いる場合には,当該土地は共有地状態になりますが,この場合に,遺産分割が行われ,その旨が登記されれば,所有者不明土地の発生は抑制されるため,遺産分割に期間制限を設けるなどして,遺産分割を促進するといったことが考えられるところでございます。
所有者不明土地が共有地であることは少なくないが,以下のとおり,共有制度に起因して問題が生じているため,共有制度を見直す必要があると考えられる。なお,共有制度の見直しに当たっては,通常の共有と遺産共有との異同を踏まえて検討する必要がある。
ア 共有物の管理や共有物の変更・処分の規律の明確化
現行民法は,共有物の変更・処分は共有者全員の同意を得なければすることができないが(民法第251条参照),変更・処分に至らない共有物の管理は原則として共有者の持分の価格の過半数の同意を得ればすることができる(民法第252条)とする。もっとも,どのような行為が共有者の持分の価格の過半数の同意を得ていればすることができるかが判然としないため,本来であれば持分の価格の過半数の同意を得れば足りる行為であっても,慎重を期して共有者全員の同意を得てすることとなり,共有地の適切な利用が阻害されているとの指摘がある。
そこで,共有物の管理に関して,共有者全員の同意が必要な行為とそうでない行為とを区別することができるようにするため,共有物の管理や共有物の変更・処分の規律の明確化を図ることが考えられる。
イ 共有者の同意取得方法に関する規律の整備
共有者の中に氏名・所在が判明していない者を始めとして態度を明確にしない者がいると,共有物の管理や変更・処分に当たる行為をすることが困難になる。
そこで,例えば,一定の要件のもとで氏名等が不明である共有者に公告等をした上で,なおその共有者が態度を明確にしないときは,その余の共有者の同意を得ることによって共有物の利用を可能とするなど,共有者の同意取得方法に関する規律の整備を図ることが考えられる。
ウ 共有物の管理をする者に関する規律の整備
現行民法では,共有物を利用したり,取得したりしようとする第三者は,共有者の全員を調査して特定し,全員との間で交渉をしなければならず,負担が大きい。
そこで,共有物の管理に関する対外的窓口となる共有物の管理をする者の制度を整備することが考えられる。
エ 共有状態の解消を促進する制度
共有は,その性質上,単独所有に比べて迅速な意思決定が困難であり,共有者が増えれば増えるほどその困難が増大することになる。
そこで,共有者の一部の者が,供託を活用して,所在不明の共有者から持分を取得することを含めて,共有の解消を促進する制度を整備することが考えられる。
具体的には,ア以降で書かせていただいておりますが,例えば,共有者全員の同意が必要な行為とそうでない行為とを区別することができるようにするため,共有物の管理や共有物の変更・処分の規律の明確化を図ることや,共有者の中に氏名・所在が判明していない者を始めとして,態度を明確にしない者がいる場合に対応するため,一定の要件の下で,氏名等が不明である共有者に公告等をした上で,なおその共有者が態度を明確にしないときは,その余の共有者の同意を得ることによって共有物を利用可能とするなど,同意取得に関する規律の整備を図ることが考えられます。
さらに,現行民法では,共有物を利用したり取得したりしようとする第三者は,共有者全員の調査をして特定し,全員との間で交渉しなければならないことがございますが,その負担が大きいため,共有物の管理に関する対外的窓口となる共有物の管理をする,そういった者の制度を整備することが考えられます。
そのほか,共有はその性質上,単独所有に比べまして,迅速な意思決定が困難であるため,共有者の一部の者が供託を活用して,所在不明の共有者から持分を取得することを含め,そういった共有の解消を促進する制度を整備することも考えられるところでございます。
(2) 財産管理制度の見直し
土地の所有者が所在不明となり,当該土地の管理等をしない場合には,土地の所有者に代わって当該土地の管理等をする者を選任するなどの措置が必要となる。現行民法においては,不在者の財産の管理制度(民法第25条以下)や,相続財産の管理制度(民法第951条以下)を置き,土地の所有者が不在者になっている場合や,死亡して相続人のあることが明らかでない状態になっている場合に対応することができるようにしている。
もっとも,既存の財産管理制度については,管理コストが高く,利用が困難であるとの指摘があり,財産管理制度を見直す必要があると考えられる。
ア 特定の財産を管理する制度
不在者の財産の管理制度及び相続財産の管理制度は,不在者等の財産全般を管理するものであるために事務処理に要する費用が高くなることから,管理コストを低減させる観点から,不在者等の特定の財産のみを管理する制度を整備することが考えられる。
イ 共通の財産管理人の選任
不在者の財産の管理制度及び相続財産の管理制度では,土地の共有者のうち複数の者が不在者等である場合には,複数の不在者等について,それぞれ財産管理人が選任されており,事務処理に要する費用が高くなっているとの指摘がある。
そこで,管理コストを低減させる観点から,複数の不在者等について共通(一人)の財産管理人を選任することができる制度を整備することが考えられるが,利益相反の問題との関係に留意する必要がある。
ウ その他
現行民法の相続財産の管理制度においては,相続財産管理人の選任の公告,相続債権者等に対する請求申出を求める公告,相続人捜索の公告の3回の公告を,最低でも10か月間かけて行わなければならないが,この期間を短縮するなどして,財産管理の手続を早期に終了させることを可能とするなど,財産管理制度を合理化することが考えられる。
具体的には,管理コストを低減させる観点から,不在者等の特定の財産のみを管理する制度を整備することや,複数の不在者等について共通する1人の財産管理人を選任することができる制度を整備することが考えられます。
そのほか,財産管理の手続を早期に終了させることを可能とするなどして,財産管理制度を合理化するといったことも考えられます。
現行民法の相隣関係に関する規定は,明治29年に民法が制定されて以来,実質的な見直しがされておらず,所有者不明土地問題が生じている近年の社会経済情勢に合わせて,規律を見直す必要があると考えられる。
ア 管理不全状態の除去
所有者不明土地が荒廃して隣地の所有者等に損害が生じている場合について,現行民法には,明文の規定はない。そこで,このような場合にも対応することができるようにするため,隣地の所有者等が,管理不全の土地の所有者に対して,管理不全状態の除去を請求することができることを明確にするなどの整備をすることが考えられる。
もっとも,その整備に当たっては,関連する他の請求権(土地所有権に基づく妨害排除請求権や妨害予防請求権,生活妨害による不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条),人格権に基づく差止請求権など)との関係等について,検討する必要がある。
イ 越境した枝の切除
現行民法では,土地の所有者等は,隣地の竹木の根が越境した場合には,自らその根を切り取ることができるが,竹木の枝が越境した場合には,その竹木の所有者にその枝を切除させることができるに過ぎないとされている(民法第233条)。
しかし,隣地が所有者不明土地である場合に,竹木の所有者に枝を切除させるのは容易ではないため,越境した枝の切除に関する権利行使方法を見直すことが考えられる。
ウ 隣地使用請求権
現行民法では,土地の境界標等の調査や土地の測量のための隣地使用に関する規定がなく,また,工事のための隣地使用に関しても,隣地所有者の承諾を得るか,承諾に代わる判決を得る必要があるため,隣地が所有者不明土地である場合に対応が困難となる。
そこで,隣地使用請求権の範囲の明確化と行使方法の見直しを図ることが考えられる。
エ ライフラインと導管等設置権
各種ライフラインは現代社会において必要不可欠であるが,その導管等を設置するために他人の土地を使用することについては,現行民法に規定がなく,隣地が所有者不明土地である場合に対応が困難になる。
そこで,ライフラインの導管等を設置するために他人の土地を使用することができる制度を整備することが考えられる。
具体的には,そこにも書かせていただいておりますが,隣地の所有者等が管理不全の土地の所有者に対して,管理不全状態の除去を請求することができることを明確にするなどの整備をすることや,隣地が所有者不明土地である場合に,例えば竹木の所有者に枝を切除させるようにするため,越境した枝の切除に関する権利行使方法を見直すことが考えられます。
また,現行民法には,土地の境界標等の調査や土地の測量のための隣地使用に関する規定がございませんが,隣地使用請求権の範囲の明確化と交渉方法の見直しも考えられるところでございます。
そのほか,現行民法に規定がない各種ライフラインと導管設置権に関し,ライフラインと導管等を設置するために他人の土地を使用することができるようにするため,その制度を整備することなども考えられます。
○山野目部会長 ここまで,部会資料1についての説明を差し上げました。
委員,幹事の皆様方からの御意見を頂きます前に,もう一つ説明を差し上げておきたい事項がございます。と申しますのは,この部会に託された審議事項につきましては,内容的に,時期的に並行して開催され,調査・審議が進められております,国土交通大臣の諮問機関である国土審議会における土地基本法の見直しを始めとする土地政策の今後の方向性の検討,これが密接な関連を有しています。
委員,幹事の皆様方に,そのあらましを御承知おきいただくことが望ましいと考えられますことから,国土交通省より,現在の進捗の状況について説明を聴取しておくことが有益であります。
横山関係官において資料の御用意を頂いておりますから,説明をお願いいたします。
少しお時間を頂きまして,お配りいただいております資料,事前にも送付いただいたと聞いておりますけれども,資料について御説明させていただきたいと思います。
確認していただきますと,1枚の紙が一つありまして,その下に,ページを打ってある3枚の紙があろうかと思います。それから,その下に,少し厚さのある,とりまとめという表紙が付いている,この三つの資料をお配りいただいているかなと思います。
少し,中身の説明に入る前に,背景の辺りからちょっと,ノンペーパーでございますけれども,まず御説明をおさらい的にさせていただきますと,御案内のとおり,所有者不明土地問題に関しては,直接的には,今回の議論が始まっているのは,国土交通省としては,東日本大震災の被災地で,復興事業をやるに当たって,所有者不明土地が公共事業の推進に,非常に隘路になったということが一つのきっかけとなって,真剣な議論を始めたと。それが政府全体の課題になってきたという流れにあるのかなと思っています。
そして,直近は,2017年の骨太の方針に,当面できることをやっていけということで,国土交通省と法務省さん,協力させていただきまして,まず,公共的な目的で所有者不明土地をいかに活用するかと,円滑に活用するかという観点から,新法を立案いたしまして,昨年6月に,所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法というものが制定されているということは,皆さん御案内のことかなと思います。
中身的には,国土交通省で所管しております収用手続に関しての合理化ですとか,収用適格事業という意味からは少しはみ出した公共的な事業という概念を作りまして,地域福利増進事業と申しておりますけれども,地域に必要なポケットパークとか不可欠な購買施設などを念頭に置いておりますけれども,このために,暫定的な利用権ですね,10年間ということで,もちろん延長はできるんですけれども,そういうことが設定できるような制度,それから,それに先立っての,そもそもの所有者不明であるかどうかということの探索が,非常に手間が掛かっていますので,所有者探索の合理化などをするというようなことの措置を中心にした法律を制定していただいているところでございます。
所有者探索等の部分に関しては,昨年11月に既に施行されていますが,収用手続とか新たな地域福利増進事業といった新たな枠組みについては,今年の6月に全面施行の予定になってございまして,そこに向けて鋭意準備を関係省庁でやらせていただいていると。これがある意味,第1ステージの流れになっています。
今事務局からお話のあった点と,私が今から御説明するのは,次の段階として,第2ステージとして進められているものだというふうに認識しています。
どちらかというと,所有者不明土地になってしまったものを,いかに利用を円滑化するかということも大事ですが,そもそも発生を抑制するとか,問題を解消していくとか,利用に関しても,もう少し,まだ十分でないところが,利用の円滑化に関してもあるということが,問題意識の中心になっているかと思います。その中で,国土交通省に課されました命題としては,法務省さんが中心になって御議論いただいている部分と並行して,土地に関する基本制度の見直しと,土地の境界を明確にしていく地籍調査という仕組みがございますけれども,こちらの円滑化・迅速化のための措置について,根本的な議論をしていけということになっています。
結論としては,それらについては,前者については土地基本法改正に結び付けると,後者は国土調査法,あるいは国土調査促進特別措置法という地籍調査事業の十箇年計画の根拠になっている法律がございますけれども,こちらを改正ないしは延長していくことを念頭に,制度改正に取り組むことになってございまして,この具体的な方向性について,実は国土審議会でとりまとめをして,2月に公表しているところでございます。
若干前置きが長くなりましたけれども,この2月に公表した土地基本法の改正の方向性についての資料を今日お持ちしているという,こういう背景と中身でございます。
この土地基本法の改正というのは,今日から本格的に御議論いただく民事基本法制等の見直しと呼吸を合わせて,2020年に政府として,たどり着けというふうな政府の方針になっているということでございます。
そして,資料の方に目を移していただきたいと思いますけれども,1枚紙を配っている中身でございますけれども,まず土地基本法でございますが,六法全書の公法の部分でも一番に出てくる法律でございますが,名前は立派でございますけれども,実は平成元年に制定して以来,中身の改正というのをきちんとやったことのない法律でございます。
平成元年というのはバブルの真っ最中でございまして,私,土地政策担当参事官と名乗ってございますけれども,当時の土地政策というのは地価対策と同義でございました。投機的取引の抑制等を背景に,できた法律でございます。
中身的にも,条文を必要であれば御覧いただければと思いますけれども,土地取引を規制するとか,旺盛な需要とか土地利用の意欲があるということを前提に,それをコントロールする,規制するということが前面に出て,いかに地価を安定させて,土地を有効利用するかというような命題に対して,方向性を示している基本法でございます。
基本法でございますので,構造としては,実は基本理念とか,極めて抽象度の高い,各主体の責務とか,基本的な政策の骨格みたいなことを示しているだけの法律で,実際には,この基本的政策の方向に沿って,各個別法が制度を打ったり,予算的な措置を別途打ったり,税制を改正したりすることによって,政策が実現されるという仕組みになっている法律でございます。
そういう法律に関して,今日的な課題の目で見ますと,特段の利用を積極的にしないということが,実は余り想定されていないということが,一つ大きな課題であるかなという議論がされています。その規律が,土地を積極的に利用しない場合の規律が不明確であるということが,この紙の一番最初の行に書いていますが,そこから出発して,議論をしていただいているということでございます。
そして,土地を積極的に利用しない場合の規律ということでございますけれども,それはむしろ,利用のめどが立たないような土地について,いかに適切に管理していくかとかいうことの方向性から,何が大切かということを考えていかなければいけないという議論をしていただいたということでございます。そこに書いてございますように,基本的理念としては,適切な利用・管理の確保の必要性というのを念頭に置いた法律にしていかなければいけないのではないかと。
そして,管理に関しては,実際,非常に,土地の管理不全等が課題になってきていますので,それについての責務とか役割分担を明確にする必要があるのではないかと。その責務,役割分担に基づいて,土地政策の基本的な方向性も再構築していくのではないかという方向性のとりまとめをしていただいているということでございます。
1枚紙の下の固まりを見ていただきまして,右側,責務と役割分担のイメージでごすが,関係主体間で適切な役割分担が必要でございますけれども,まずは大事なのは,左の上でございますけれども,所有者が第一次的な責務を負うことということを明確にしていただいています。そこには,登記とか境界の明確化をしておくということも含んで論じられるべきであるという方向性になっています。
その上で,下の箱ですが,しかし,それが困難な場合が現実にございますし,想定されますので,困難な場合には,近隣住民や地域コミュニティーがそれを補完するという役割も考えていかなければいけないのではないかという議論をしていただいているということです。
それから,右側の二つの箱ですが,国,地方公共団体は,これらの責務とか役割の遂行を支援して,必要な場合には自ら対応するということが求められるのではないかと。そして,特に国には,土地に関する情報インフラを整備するとともに,最終的な管理の受け皿機能を確保するというような役割も期待されるのではないかというとりまとめをしていただいています。
こういう役割分担に沿って,土地の適切な管理という基本理念を実現していくに当たっての基本的施策でございますけれども,かなり粗っぽく整理してございますが,右の箱でございます。
大きく三つ柱を立てていますが,まずは,冒頭申し上げたように,従来の土地政策,土地基本法が想定していた規制とかコントロールということではなくて,むしろ適切な土地の利用・管理を促す,誘導する措置というのが,施策の中心になってくるのではないかという考え方を打ち出していただいています。
一つは,所有者自身が管理されようということをいかに促していくか。あるいは,新しい所有者に,管理しよう,利用しようという所有者にうまく移っていくことによって,結果的に新しい所有者にうまく利用・管理していただくという,そういう取引の円滑化促進という観点も含めて,そういうことを促進していかなければいけないのではないかと。
あるいは,所有者以外の方が,いかに周辺で支援するかと。近隣住民等やまちづくりの団体等も念頭に置いていますが,そういう関係性を作っていくということに関しても,うまくコーディネートしていく施策等が必要なのではないかというような打ち出しをしていただいています。
それから,そういうような仕組みを一つ一つ,現実に動かしていくに当たって,これが正に,今日から法制審で御議論いただく御議論と裏表になるわけでございますけれども,土地政策の観点から,共有者や隣人,あるいは公共主体も含めてでございますけれども,別の方が所有されている土地に関して,所有権があるわけですけれども,それを絶対視しないで,いかに乗り越えて,地域のため,公共のために,あるいは自らの利益・受益のためという部分も含まれますけれども,合理的な手続あるいは円滑な手続で,土地の利用・管理に関与していけるかということ,そういうことを現行制度よりもかなり円滑にできるようにしていかなければ,うまくいろいろな施策が作動しないのではないかというような方向性を打ち出していただいています。
さらに,そういうような全体を下支えする仕組みとして,基本的な土地に関する情報基盤を整えていくということが必要なのではないかということで,所有者情報というものを非常に強く意識して,登記の必要性,登記の仕組みの促進ということでありますとか,境界,対象物がはっきりしていないということ自体も問題もございますので,地籍調査をしっかり進めていくというような方向性,こういうようなことを,しっかり基本的な施策として,意識して打ち出していくべきではないかというような御議論を頂いているということでございます。
ざっくり申し上げますと,こういうことでございます。
少し補足的に,意識しているところを申し上げますと,所有者の第一次的な責務ということをかなり意識して論じていただいたのは,ある意味,当たり前のことといえば当たり前のことなのでございますけれども,土地基本法でそういうことをうたっておくことによって,所有者自らが責務を果たされることに対して,社会として,いかに下支えするかということに関しての正当化といいますか,正当性を与えていくということが,当然念頭に置いていることでございます。
もう一つは,逆に,第一次的な責務があるゆえに,その責務を十分に果たせない,あるいは果たされていない,所有者不明みたいな場合も含めてでございますけれども,そういう場合には,所有権が絶対であるということではなくて,周辺が必要と感じるのであれば,所有者の絶対性を乗り越えて,ある程度できることを考えていかなければいけないのではないかということを考えていただく理論的根拠として,所有者の第一次的責務を強調していただいているということでございます。
あるいは,その中身として,従来は物理的な利用とか管理を念頭に置いている節が強かったわけですけれども,明確に,登記をしておくとか境界を明確にしておくというようなことも,その責務には含まれるというような議論をしていただいておくことによって,本日から御議論いただきます,登記の義務化をどのようにやっていくかというようなことも含めて,そことの整合性というか,理論的根拠を土地基本法の側から与えておくということが必要であるということで,意識的に御議論いただいたということでいます。
それと,先ほど申し上げたように,共有者や隣人,あるいは公共による利用・管理を円滑化する措置ということが,土地政策の観点から是非必要であるということをかなり強調して,議論を頂いているということでございます。
この辺りがポイントでございまして,政府の方針でも,民事基本法制の見直しと併せて土地基本法等の見直しをするという明確な記述になってございます。
これは,土地基本法の側から見れば,民事基本法制をしっかり御議論いただいて,土地の利用・管理が円滑に,あるいは適切になる方向に変えていただくことが,土地基本法は理念しか示せない法律でございますので,ある意味,具体的な担保措置になっていくということを意識して,政府としても,民事基本法制の議論と土地基本法の議論を車の両輪というふうに考えているということでございますので,是非,土地基本法,国土審議会の今まで積み上げてきた議論も念頭に置いていただいて,今後の議論をお願いできればということで御紹介させていただきました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ここから後は,委員,幹事の皆様方の御意見,御質問も含めた意味での御意見を承ることにいたします。
部会資料1の方に戻っていただきたいと望みます。
部会資料1の第2のところを御覧いただきますと,その中が1と2に分かれてございます。この1と2に分かれているところは,先ほど大谷幹事から御説明を差し上げました諮問107号で,この部会に対して調査・審議が求められている大きな二つの柱の一つずつに対応してございます。
本日これから,委員,幹事の皆様に御議論を頂くに際して,この1と2を分けて,それぞれについて御議論を頂きたいという御案内を差し上げて,御意見を頂くことといたしますけれども,しかしながら,内容の上では関連し合っている事柄もあるのではないかと想像いたします。
本日は,具体の論点を取り上げるのではなくて,初回の部会の会議において,皆様方の総括的・包括的な御意見を承っておきたいというふうに考えるものでありますから,自由闊達な御議論をお願いできれば有り難いと考えます。
そのようなことですので,まずは部会資料1の第2の1「相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」の部分について御意見を承ります。どうぞ御随意に御発言ください。
○松尾幹事 今日は第1回目ですので,細かな論点に入る前に,全般的な視野からコメントをさせていただきたいと思います。
今,横山関係官からも御説明いただきました土地基本法制の見直しの動向と,ここで検討すべき民事基本法制からの対応とをブリッジするという観点から意見を申し述べたいと思います。
所有者不明土地問題を一つの契機といたしまして,背景にあるより本質的な問題として,土地の所有や管理が私人の手では負担し切れなくなってきているという状況が明らかになってきているように思います。この事態に対して,土地基本法制と民事基本法制の各観点からなし得る制度改革が何かということが,共通課題であると認識しております。
ある人が土地を所有して,利用して,途中で処分したり,自然人の場合には最終的には死亡して,ほかの人に移っていくわけですけれども,このプロセスの各所で,いわゆるスタックが生じていて,土地の所有者による利用や,担い手の変更や,適切な補助者の関与ということが阻害されている状況が一定のパターンとして生じているようにおもわれます。そういう制度的な障害を取り除いて,土地の所有と利用のシステムを全体として改善していくという大きな目標があるように思います。その一つに,今回の民事基本法制の見直しがあるというふうに理解しております。
こういう観点から見ました場合に,本日御説明いただきました部会資料1の第2にございます相続登記の義務化から相隣関係規定の見直しまで,諮問事項でいうと五つ,具体的には八つほどの具体的な論点が挙げられているように思いますけれども,これらはいずれも適切な論点ではないかというふうに思います。
もっとも,議論すべき論点がこれに限られるわけではないということにつきましては,先ほど大谷幹事からも御説明がございましたので,やはり広い視野から,他に議論の対象とすべき論点についても最初に確認しておく余地はあるのではないかというふうに考える次第です。
今,横山関係官から提供された資料のうちの,最後にとりまとめの資料がございますけれども,その資料の10ページの末尾辺りにも出てまいりますし,先ほど横山関係官からの説明も賜りましたが,土地利用の多様な担い手の一つとして,例えば地域コミュニティーの役割というものが重視されております。
民事基本法制の観点からは,安定的に存続してきた地域コミュニティーに対して,登記能力の承認等について,可能な支援があるようにも思われます。この点につきましては,既に変則的登記の解消に関して,現在検討されております方策の中でも取り上げられておりますし,本日の参考資料1の末尾にも,この変則的登記の解消に関する章がございます。そこでの扱いは,まだ流動的ではありますが,地方自治法上の地縁団体法人の認可手続との関連性も考慮しつつ,より実体に適合した対応策が何か,検討対象の一つになり得るようにも感じております。
飽くまで一例ということで,決してそれにこだわるわけではございませんけれども,全般的な観点から,土地所有のシステムを包括的かつ持続可能なものとしていくという目標の中で,重要な意味をもつ論点であると考えます。まずは,この目標に通じる様々な論点を挙げていただいたことにつきましては感謝申し上げたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き,委員,幹事の皆様方の御意見を承ります。
○潮見委員 松尾幹事がおっしゃったのは,私はそのとおりであろうと思いますが,今回が最初の会ですので,むしろそれより前の基本的なところについて,少し御意見なり感触というものを,特に横山関係官にお尋ねしたいというふうに思うところです。
端的に申し上げますと,今回の諮問等も含めて,所有権というものの捉え方自体が従前の,よく言われる近代民法の下での所有権の理解とは違ったパラダイムの下で展開されているのではないかと思うところがございます。
つまり,国が現在,あるいは将来の社会を見据えて,人為的に作り出そうとする制度の中に,土地の所有権をいかに位置付けるかという観点から,民事法制も含めて,土地の所有権とか,あるいは不動産の登記法制というものを考えていきましょうという方向性,そして,その延長線上で,共同体社会の中での公共的な財としての土地所有権という,公共性あるいは公益性の視点というもののも前面に出して考えていきましょうという方向性が,基本のところで示されているのではないかと思います。
私,これ自体はいけないというつもりは全くないですし,必要ではないかというところも感じているところですが,その一方で,危惧もあります。先ほどの横山関係官の御発言の中でもおっしゃっておられましたが,所有権あるいは所有の持つ絶対性について,先ほどの部会等々で,一体どういうふうな理解をされてきたのでしょうか。
もうちょっと砕いて言いますと,従来から言われていた所有権絶対の原則だとか所有権の絶対性というものが残る部分があるのか,ないのか。残すとすれば,それはなぜなのか。残らないとすれば,それはなぜなのか。その辺りについて,部会とか,あるいは関係するところでの協議とか,その辺で何か話が出ていたのかどうか。
所有権絶対の原則と,先ほど申し上げた文脈で捉えた場合の土地所有権の持つ公共性の優先ということは,基本的な視点として対立するところが出てくると思いますので,もし何か,検討等がされておりましたなら,御教示いただければ有り難いなと思うところです。
○山野目部会長 横山関係官へのお尋ねを含んでいる御意見であったと受け止めますから,横山関係官から何かおありでしたら,お願いいたします。
○横山関係官 議論に御参加いただいていた委員もいらっしゃいますので,場合によっては訂正していただいても結構かと思いますが,御説明いたします。
事務局として議論に参加させていただいていた立場として,実は説明上,所有権の絶対性についてという表現を採りましたけれども,私の記憶では,明確に所有権の絶対性そのものの概念について議論がされたという感じにはなっていませんし,我々も,そういう言葉として提示したわけではございませんでした。
どちらかというと,土地基本法そのものに,従来から土地に関しては,「公共の福祉の優先」という文言が入ってございまして,この言葉を,平成元年の当時はこういうふうに考えていたと。それは,私の個人的理解としては,所有権の絶対性といっても元々,何というか,100%ではないという考え方だと思いますので,絶対性に対しての具体的仕組みとして,公共の福祉優先ということで,何ができるのかということの線みたいなものが,平成元年のとき意識されていたことと,今日的な課題に基づいて,こういうことであれば,絶対性に対して,他者が手続を踏んで,例えば関与できるとか,あるいは簡便な形で関与できるみたいなことですね。ということが,平成元年のときと違うものがあるのではないかというような議論をしていただいたというのが,私の認識でございます。
ただ,部会での議論では,それは何というか,極めて観念的な議論で,まだとどまってございますので,あるいは土地基本法を改正するという目的からすると,ある意味,観念的な議論でとどまらざるを得ないわけですが,それゆえに,では,具体的にどういう手続で,どういうことができるのかみたいなことに関しては,各個別の法律に基づいて,どういうことができるのかという議論をしなければいけないという出発点を,土地政策分科会の結論として,そういう議論をしなければいけないという出発点を提示していただいたというような議論であったと思っています。
○潮見委員 ありがとうございました。よく分かりました。
土地の所有権,公共の福祉の制約に服するというところから出発をされたというところで,しかも観念的な議論という形で,それを前提にいろいろ検討をされたという理解で私は受け取りました。
もちろん,最後におっしゃられたように,だからこそ,具体的な,特に民事法制を考える場合には,従来からの所有権の絶対性ということが持っていた意味,所有権を持っている人に所有権に結び付けられた価値をどういうふうに割り当てていくのかとか,所有者がどこまでの権限を持つのか,あるいは負担を負うのかとか,伝統的にいわれていたものと今おっしゃられたものとの調整のありかたを考えながら,個別の制度をここから先,ここで議論していけばいいというようなことでしょうか。
○山野目部会長 横山関係官のお話の中に,国土審議会の部会に参画なさっていた方もここにいます,というお話がありました。該当なさる皆さんから,横山関係官のお話に補足がおありの方がいらしたら伺っておきますけれども,特段なければ,よろしゅうございますか。
○松尾幹事 潮見委員から御質問いただきました従来の近代的所有権概念の見直し,とりわけ所有権絶対の原則についての見直しがあったのかという点に関しましては,私の個人的な理解では,必ずしもそういうことではなかったものと考えております。
元々所有権の絶対性といっても,無制約性を意味するものではなくて,一定の公益確保の観点から制約があることは当然含意されているものの,とりわけ土地所有権においては所有者の自由と公共の福祉との境界線といいますか,どこまでどういう理由で制限できるんだというのが必ずしも明確ではないし,その境界線は,地価高騰や人口減少といった社会経済状況の変化によっても変わってくるだろう,それを現在の状況に合わせて,より明確にしようというのが,中心的な問題意識であったように思われます。
したがって,所有権概念自体が変わってきているというふうには理解しておりませんで,むしろ,その具体的内容を現代に合わせて明確化していくというのが主題ではなかったかというふうに認識しております。
○潮見委員 すみません,先ほどの横山関係官がおっしゃられたことで確認はできたのですが,むしろ私が言いたかったのは,国が人為的に作り出す,あるいは,これがいいと思われる制度の中に所有権を位置付けるという捉え方で,この間の議論が進んでいたのかなということです。
先ほど松尾幹事は,近代的所有権という話もされましたが,所有権の絶対ということがとかれる文脈では,所有権の制度が人為的に国が作り出した制度だから公共性を優先すべきだという観点からのアプローチではないはずなんですよね。
そういう意味では,見方を変えることによって,それが適切かどうかは別として,民事法制についても新しい視点が出てくるという見方もあるかなということもあって,ちょっと発言をさせてもらった次第です。松尾幹事がおっしゃることもよく分かります。
ありがとうございます。
○中田委員 二つ,関連することを申したいと思います。
第1は,ただいまの3人の委員,幹事の御議論との関係ですけれども,所有権の絶対性ということを振りかざして,その先一歩も動かないということがあってはならないということは,多分共通していると思います。他方で,所有権の絶対性を乗り越えるという,先ほど表現がございましたけれども,それを所与のスローガンとしてしまうというのは,やや行き過ぎになるおそれがある。むしろ問題ごとに,個別に慎重に考えていくということが必要ではないかと存じます。
その意味で,お三方の御発言は,それぞれニュアンスや見方に若干の違いがありますけれども,具体的には同じようなところを考えておられるのではないかと理解いたしました。
第2点ですけれども,頂いた検討項目には2種類のものがあると思います。一つは,所有者不明土地であることを要件として,既存の制度の特例を設けるべきもの,もう一つは,所有者不明土地の発生抑止のための制度の創設や改正というものがあると思います。
後者は一般原則の改正となって,ただいまの議論とも関係するところでございますけれども,所有者不明土地の問題以外の問題にも広く波及することが考えられますので,調査・審議には相当の時間を要することが予想されます。他方で,与えられた時間が短いことからしますと,二つの種類の問題について,検討の優先順位をよく考えてお進めいただくのがよいのではないかと考えます。
○山野目部会長 部会の議事の議題の立て方について,後半で御注意いただいたことについては,事務当局とともに心して進めたいと考えます。ありがとうございます。
○道垣内委員 ここまでの議論の関連で申しますと,権利から出発して,その権利の制限を考えるのか,それとも権利概念をいじらないで,目的物の性質というところから議論をするのかというものの二つのアプローチって,あり得るだろうなという気がしておりました。それは感想にすぎませんが。
もう一つ,急に細かくなるように思われるかもしれませんが,今後の議論のために,知識として確認しておきたいことがあります。つまり,例えば,私が現在,土地を所有しているとしまして,それを山野目さんに譲渡していないのだけれども,譲渡したと述べて,山野目さんへの移転登記を申請し,登記がなされたとします。これには何らかの形で,罰則などがあるのでしょうか。
例えば,売買契約をしたのだけれども,登記をするのが遅れているという状況は,遅れであるにすぎず,現行法上,特に制約はないことはわかるのですが,そうではなくて,誤った状況を作成していることに対しては,現行法上,何らかの形の制約が掛かっているのだろうかというのが,ちょっとよく分からないのです。細かく言いますと,不動産登記の申請のときの添付書類,登記申請情報における私文書の偽造があるとして,そこが犯罪になるという話なのかもしれませんけれども,全体として,登記を正確にしなければいけないという義務が存在していると仮定して議論が始まるのか,それとも,相続のときだけの話ですよと,死亡のときだけの話ですよというふうな話でいくのかというのが,気になりましたので,教えていただければと思います。
○山野目部会長 最初に感想としておっしゃっていただいたことは,お話として承りました。その後でおっしゃった事項のうち,登記についての様々な考えられる強制や促しをする局面が相続に限られるかどうかという主題は,まさにこの部会で,その論点を取り上げるときに議論されるべきことであると存じます。
その前提として,今,道垣内委員からは,今後どのような法制を作っていくかという問題とは別に,あるいはその検討の前提として,現行の不動産登記制度の下における公法上の制裁,その他関連する事項の規律について,どのようになっているかというお尋ねを頂きました。
事務当局に答えの用意はありますか。
○村松幹事 元々,不動産登記,特に権利の登記に関しては,虚偽だからということでの直接の制裁というのは,基本的にはないのだと理解しています。先ほど道垣内委員がおっしゃいましたように,個々の司法書士の方が関与した際に虚偽の資料を提供するといったこと,あるいは,先ほどおっしゃいましたように,わざと虚偽の文書を作成して虚偽の登記を作出するといったことについての刑罰といったことをちょっと除きまして,より広い視点で,単に虚偽の登記,現実とずれている登記の作出ということになると,それを捉まえるということは,現行法下では難しいというのが,基本的な発想なのかなと思っております。
その上で,今御指摘いただきましたように,相続の局面だけが問題なのかどうかというのは,先ほど部会長からも御指摘ありましたけれども,大きな課題だと思っております。
そういう意味では,国土審議会でも,そういう御議論が恐らくあるところだと思いますが,相続が一つの中心的な課題ですけれども,ではそれ以外,一般的に,不動産登記簿から,例えば所有者が分からないということが,社会的に見てどうなのかということそのものが,一つの検討命題になってくるのではないのかという指摘もされているところでございます。正にそういった部分に踏み込んでいくのか,あるいは,ある意味,従来的な発想かもしれませんけれども,相続を除けば,基本的には本人たちに任せておけば,真実の登記がされるインセンティブが,一般的にはあると言えるので,そういったものに委ねておくのも一つではないか。こういった見方との調整といいますか,どうしていくのかというのは,議論いただきたい事項になってくると考えております。
○山野目部会長 村松幹事から,ただいま,権利に関する登記に限って,現行法制の状況,概要について御説明を差し上げました。ひきつづき,いかがでしょうか。
○増田委員 ありがとうございます。
今日,第1回目ということなので,法律的な議論より少し前の話をあらかじめ申し上げておきたいと思うんですが,実は私は,一番最初,役所へ入って,国土交通省となる前ですが,建設省で土地行政,当時は土地基本法がまだできる以前でありましたので,国土利用計画法などの運用に携わっていまして,その後,岩手県で知事をやったので,直接的というわけではないんですが,土地を自治体の立場でいじった立場でもあるんですが,申し上げたいのは,土地についての,特に地価の動向に結局は行き着くんですけれども,この間,非常に大きな変化があったのではないか。
言わずもがなでありますが,国土交通省の方で3,4年前に,国土のグランドデザイン,2050年を出したんですが,あれは国土を1キロメッシュで分析している,非常に精緻な分析なんですが,今現在,人が住んでいるのが大体国土の半分で,その半分のうちの6割以上の地点で,2050年には人口が半分以下になると。それから,全体の2割近くが無居住地域になるということでありまして,恐らくそのとおりの状況が,2050年には出現するであろうと思うんです。要は土地の利用可能性とかいうことが,著しくこれから,国土全体で見ると低くなって,そして,この諮問文の中でも,利用・管理という言葉が随分出てきていますが,もちろん利用というのは,積極的な利用と,そうでない利用と,いろいろあるんでしょうが,利用というよりは,むしろ管理,本当に国土の管理ができるかどうかという,そちらが非常に問われるようになってきて,国土審の議論に私も参加していましたが,中で粗放的管理という話もありましたんですが,とにかくエコロジーのような形で,土地は全部委ねようということまで,大きく変わってくるのではないかと思います。
国民の意識調査も,これも国土交通省がやった無作為抽出による意識調査を見ても,土地を所有することについて,負担を感じている人が,確か42.3%という数字になっていて,もちろんそれは,固定資産税などの柔軟な見直しが行われていない等々や,その他のいろいろな負担が重過ぎるということもあるんだと思いますが,それだけ土地,不動産についての全体的な価値が低下し,あるいは一方で,負担感の増大だとかいうことが急激に高まってきている。
やはりこういう大きな変化,少なくとも,そういったことが出来上がってきたのは,バブル崩壊の後ということですから,この20年ぐらいでの急激な変化だと思いますが,そういう背景についての理解があって初めて,この諮問文の中に出ています土地所有権の放棄の議論をなぜしなければいけないのかという必要性が,理解できるのではないかと思います。一方で,相続は間もなく大量相続時代で,今までよりも一段と,各地域で相続があるので,その場合の登記をどうするかという問題もあると思います。
全体とすると,ほかの資産は別にしても,こと不動産で,土地の資産的な価値が大きく変わってしまって,今のままですと,国全体としての国土の管理自体が非常に危ぶまれるという中で,適切な方法をどうしていったらいいのかということ,それに対して,ここに書いているような事柄に分けて,答えを出していかなければいけないのではないかと,こういうふうに私は理解しております。
本当に限られた時間の中で,必要なことを議論していくということで,それぞれが非常に重たい課題ですから,全然時間が足りないくらいのことでやっていかなければいけないと思うんですが,更にいいますと,恐らく所有権の放棄などの議論をしていくと,当然この中にも触れていますが,では,その後その土地は一体どこに帰属させるのか。ランドバンクだとか,そういう考え方もあると思いますし,それから最終的には,自治体を超えて,国が出てくるべきではないか。
そうすると,その前に,自治体にもいろいろ問い合わせするにしても,今の自治体は,普通財産と,それから公共財産と,財産を二つだけに分けているんですが,一体そういう形で,二つだけで,きちんとこういった問題に対応できるかなども,やはり実は気になることは気になるんですが,余り論点を広げてもいけないと思いますので,私は諮問だけでも,大変幅広く諮問されているので,これにきちんとお答えをするということだと思いますが,繰り返しになりますが,法的な制度の,少しバックグラウンドについての理解をきちんとした上で,こうした問題をこれから議論していくべきと,こんなふうに思っております。
初回ということで,あえてそんなことを申し上げました。
○今川委員 司法書士会の今川でございます。
私は,基本的な姿勢としまして,登記実務をさせていただいておりますので,相続をめぐる様々な課題があるということは,肌感覚で理解しておりますので,この所有者不明土地問題,それから相続未登記問題の解決は,これは急がなければならないと思っています。
また,一方といいますか,登記実務を担ってきておりますので,登記制度の根底にある価値観とか役割も,一定程度理解をしておるつもりですけれども,その上で,既存の概念にとらわれ過ぎないような議論をさせていただきたいなと思っています。
それと,所有権放棄の問題ですが,今増田委員が言われたことと,ほぼ同じことになるんですけれども,我々も実務をやっていて,肌感覚として感じるところもあるんですが,相続未登記問題の根底には,やはり土地建物を手放したいという方が一定数おられるというふうに思います。処分できればいいんですけれども,処分できない不動産を管理していくのに物理的・経済的な負担が大きいということが,その要因だと思いますけれども,我々数年前に,空き家について,全国的な電話相談会を開いたんですけれども,その電話相談でも相当数,そのような御相談がありました。
放棄については,モラルハザードの問題とか,それから,土地所有者が元々持っている責任あるいは義務も前提としながらも,そのような所有者が持っている心情というか状況は把握した上で,検討しなければならないと思います。
それと,前の在り方研等で,放棄の要件とか受け皿,帰属機関について,かなり細かく検討されていますけれども,民法でどこまでその規定を規律できるのかということは,併せて検討はすべきだというふうに考えております。
これ今,1までのことですね。
○山野目部会長 ありがとうございます。
在り方研とおっしゃったものは,「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」のことであると受け止めました。
○水津幹事 民法・不動産登記法の改正にあたっての検討課題のなかには,もともと民法や不動産登記法に改められるべき点があって,所有者不明土地問題をきっかけとして,そのことが明らかになったというものもありそうです。
そのような検討課題については,所有者不明土地問題への対処だけでなく,物権法等の現代化という観点から,検討をしたほうがよいと思います。
○山野目部会長 中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。
ちょっと議論が戻ってしまって,申し訳ございませんけれども,先ほど国土交通省,横山さんから御説明がありました土地基本法の関係で,質問させていただきたいと思います。
国土審議会土地政策分科会での御議論の内容なんですけれども,土地基本法の公共の福祉の概念について,この審議会で,どの程度の議論があったかということを教えていただければというのが今回の質問です。
と申しますのは,今回の107号の諮問というのは,所有者不明土地を解消するという公共の福祉という観点からの諮問だというふうに考えますけれども,これまでの憲法上の議論などで,せっかく公共の福祉をそれなりに合理的に制限するというようなことも議論されてきた中で,ただ公共の福祉というものの重要さから,不必要に広がるということがあってはいけないと思いますので,そのような観点から,どのような議論がなされたか。
この審議会の名簿を拝見しますと,行政法や憲法の先生も入っていらっしゃるようですので,どのような御指摘があったか教えていただけますでしょうか。
○横山関係官 すみません,網羅的にお答えできるかわかりませんが,基本的には,その局面,局面で,様々な御発言があったんだとは思うんですけれども,公共の福祉の優先という言葉自体は,これ自体を,例えば,もっと強い表現にするとかということではなくて,今御質問でもあったように,公共の福祉の優先という言葉が土地基本法に平成元年当時規定される前提として,従来の条文ですと,土地は適切かつ計画的に利用されなければならないという考え方に立っているんですけれども,その理念と結び付いて,公共的,公共の福祉優先ということ,その当時,平成元年の当時考えられていた計画的で適切な利用を実現する目的に対して,公共の福祉優先で,所有権が制限され得るというような関係になっていたのではないかと思うんですけれども,今回御議論いただいたのは,その前提になっている,土地の利用の需要が非常に旺盛なことを前提に,利用を計画的かつ適切にやるということだけではなくて,需要がない中で,土地を適切に管理しなければいけないという社会問題が出てきている前提で,土地をいかに適切に管理するかという局面において,公共の福祉優先ということで,どこまで所有権が制限され得るのかというような議論をしなければいけないという問題設定をしていただいたということだと思っています。
それに基づいて,今よりも地域の役割とか公共団体の役割が期待される部分が,今というか,かつてよりあって,土地の適切な管理に結び付けるに当たって,地域コミュニティや市町村,あるいは国が期待される役割を果たせるようにするような形で,所有者ではない方が関与できるようにしていかなければいけないという,ある意味,観念的な結論までは至っていただいているということだと思っています。
どういう具体的な手続だったらできるかというのは,正にこの場でも御議論いただかなければいけないし,土地政策分科会でも,例えば,行政がどういう手続だったら,今と違う手続で,例えば,関与できるような仕組みを新たにできるのか,できないのかみたいな議論は,引き続きやらなければいけないと思っていますけれども,まだそこに関しては,具体的な御提言を頂いている段階ではないというようなことでございます。
○山野目部会長 中村委員にお尋ねいただいた土地基本法をめぐる観点は重要な事項であって,同時に,御指摘のように,国土審議会土地政策分科会の特別部会において,行政法や憲法の専門家も交えた議論がされたという経緯がございます。
行政法,憲法などの公法系の研究者から問題提起を頂いた事項が多々ある中に,憲法の文言は,所有権を含む財産権が公共の福祉に適合するとなっているではないか,ということがございました。土地基本法は,公共の福祉が優先するとなっていて,ここのところの思想的整理が必要であると感ずるという問題提起を頂き,それを受け止めての議論がされました。
それは,必ずしも観点は同じではないにせよ,本日の御議論で,潮見委員,中田委員,そして今,中村委員からお出しいただいた,それぞれの問題提起の背景の一部をなすものではないかというふうに感じます。
その上で,国土審議会においては,現行の土地基本法が土地という財貨の特性に着目して,適合する,ではなくて優先するという発想を採り,それを法文にしていること自体が根拠のあることであると考えられるとともに,しかし,そのことのゆえに,公共の福祉が十分な内容の充填を伴わずに,みだりに肥大するようなことがあってはいけないという問題意識も,同部会において共有されました。
その上で,公共の福祉の中身をどのように考えるかということが,引き続き現在,国土審議会において審議されているところでありますけれども,どうも現行の土地基本法が少し,何と申せば宜しいでしょうか,俳句のようなというか,十分な数の規定を置いて土地政策やその理念の中身を語っていない嫌いがあります。公共の福祉を優先といったときに,その中身をもう少し法文の中に,基本施策も含めて表していった方がよいということについても,大筋の了解が得られたのではないかと感じております。
したがいまして,今,公共の福祉の優先という考え方を注意して使わなければいけないとともに,その内容を可能な限り法文に表すようなことも考えながら,豊かに充填していこうという方向での審議の準備が,横山関係官を中心に,国土交通省においても進められているところであるというふうに承知しております。
引き続き御発言があれば承ります。
○中村委員 ありがとうございました。今御説明いただきましたことでよく分かりました。
本件では今後,相続登記の義務化ですとか,また,遺産分割協議を推進するために分割協議の期間という制約を設けるなどという,国民の権利とか,今まで自由であったことに制約が掛かるという場面ですので,公共の福祉との整合性というのは,きちんと考えていかなければならないというふうに思いましたので,御質問させていただきました。
ありがとうございます。
○山野目部会長 御注意はよく理解することができ,承りました。ありがとうございます。
吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。
ここまでの議論を拝聴しているだけでも,何て難しい議論なんだろうと圧倒されているところです。
どう難しいかといいますと,明治から戦後,高度成長期,バブル,この右肩上がりの時代において,土地制度,それから所有権の在り方,その根本的なところについて,深く十分に検討してこなかった論点というものがあり,今,喫緊の課題として,所有者不明土地問題に対応するために,法的な立て付けを見直していくという課題に直面したときに,今まで十二分に議論を正面からしてこなかった論点も併せて,原則論から考えなければいけない局面なのかなというふうに感じたところです。
これからこの部会の議論において,非常に高度な法技術的な議論がある一方で,そもそも所有権は日本ではどう考えるんだ,土地は誰のものなのだというところと,もしかしたら,大きく振れるような幅の広い,難しい場面があるのかなというふうに思った次第です。
今回御提示いただいている資料の1の論点を拝見いたしまして,短期,中期,長期の三つの点から感想を持ちました。今日は初回ということで,述べたいと思うのですけれども,まず短期的に見ますと,相続登記の申請の義務化,あるいは土地所有権の放棄という論点が,法務省のこうした部会において,正面から議題になるということは,数年前には思いもしないことでした。本当に驚いております。
特に,ここ最近,震災あるいは地域における空き家対策など,国土や地域の管理といった公共の観点から,不動産登記制度に求められる公的な役割というものに注目が集まっているのだろうと思います。
したがって,民法の手続法である不動産登記法というものを,公的な土地管理における一つの手段として,どのように考えるのかということが,一つの論点として急浮上しているのではないかと思っているところです。
そして,短期的には,非常に驚くべき論点が並んでいるという感想を持っていると申し上げましたが,しかしながら,20年,30年という中期的なスパンで見ますと,実は,こうした論点をきちんと議論するということは,地域の関係者の間では,強く求められていたことであり,待ち望まれていたことであろうと思います。
例えば,農地の集約化,林業の施業,それから固定資産税の課税徴収,あるいは道路用地の取得,地籍調査における境界確定,そうした地域の日常の様々な場面において,多数共有の問題とか所有者不明土地問題というのは,散発的に日常的に発生をしてきたわけです。それが今,ようやく政策課題として,こうした議論の俎上に載っているということで,これは中期的には,待ち望まれていた議論なんだろうと思います。
そしてさらに,長期の観点で見てみますと,戦後74年,それから,明治維新から約150年というところで,大きく社会は変わってきたわけです。人口動態,それから,地方から都市部への人の移動,家族の在り方,産業構造の変化,それに伴う土地利用の変化,それから,Iターンや外国人材の受入れ拡大など,地域に暮らす人々も多様化をしています。さらには,情報技術も発展をしています。
そうした中で,やはり,これまでの制度が前提としていたことが大きく変わっているのであれば,社会の実態に合わせて制度を見直すということは自然なことであり,そのように考えますと,今回のこの見直しの議論は,所有者不明土地問題がきっかけの一つになったかもしれませんが,より大きな長期的な時代の流れの中においても求められてきたことなんだろうと思います。
うちの土地をどうするのか,田舎の土地をどう管理するのか,相続登記をきちんとするのかどうかというのは,ごくごく個人的な話でありますが,その個人の行動の一つ一つの積み重ねがみんなの問題になっていくわけです。そして,どこまでが個人の問題で,どこからがみんなの問題なのかという線引きというのは,非常に難しいところで,そこがこれからの議論においても,しばしば原則論として立ち返らなければいけないところなんだろうなと思います。
この部会における議論は,恐らく非常に高度で専門的な,難しいものになるのだろうと思われますが,しかし,相続やお隣との境界の確定などは,一人一人の日常に関わる非常に身近な問題です。
したがいまして,ここでの議論が今後,多くの人々の共感を得て,そして議論の結果が,実際に人々の間に根付く制度になるということが大事であろうと考えております。
○山野目部会長 ありがとうございます。短期,中期,長期に分けて整理をしていただきました。蓑毛幹事,どうぞ。
○蓑毛幹事 今回示していただいた『考えられる検討項目』ですが,委員,幹事の先生方からも意見がありましたが,必要十分なものを出していただいたと思います。ここに至るまでの間,在り方研究会等において熱心な議論がされ,これだけ多くの論点について,議論をするための枠組みを適切に設定していただいたことに,感謝しておりますし,敬意を表する次第です。
ただ1点だけ,大局的な見地というよりも,少し細かな話になりますが,『登記所による不動産登記情報の更新を図る方策』という箇所が気になりました。この箇所は,民法や不動産登記法をどうするというよりも,登記所が,いかなる情報を取得して,それをいかなるシステムで運用・活用していくかということが問題になりますので,この部会では,登記所が,具体的に国民のいかなう情報を取得していいのか,取得すべきでないのか,あるいは適切な情報管理の在り方はいかなるものかを議論すべきだと思います。
また,在り方研究会の最終報告書も拝見しましたが,登記所による不動産登記情報の更新の仕組みについて,どこにどういう問題があって,何が技術的に難しいのか,何ができて何ができないのかという具体的なところが,少し分かりづらい。部会で審議するに先立って,ここはもう少し詰める必要があろうかというふうに思っております。
具体的に申し上げますと,在り方研究会の報告書の40ページに,戸籍と不動産登記の連携を図るについて,戸籍には本籍地と氏名の情報しかない。不動産登記には氏名と住所の情報しかない。そこで,不動産登記と戸籍のマッチングは難しいというようなことが書かれています。
しかし,私どもの実務的な感覚からいくと,戸籍の附票というものがあって,この戸籍の附票はマッチングに使えるのではないかと思っています。
念のため,簡単に申し上げますと,戸籍の附票というのは,住民基本台帳に基づいて,本籍地の各市区町村において,戸籍の原本とセットで作成・保管している書類で,その戸籍が作成されてから現在に至るまでの戸籍に載っている人の住所が記載されているものです。記載事項は4項目で,戸籍の表示,氏名,住所,住所を定めた年月日と,これが情報として存在します。
そして,平成6年に戸籍法の一部が改正され,各市区町村では順次,戸籍の電算化が進められていて,現在では大多数の市区町村で,戸籍と戸籍の附票は電子記録化されていると聞いています。だとすると,戸籍の附票の情報を用いれば,戸籍に載っている人の現在の住民票上の住所と,一定の範囲で過去の住所の履歴が検索できるということですので,そしてまた,それが電子記録化されているということですので,不動産登記と戸籍のひも付けに活用できるのではないかと思います。
た,戸籍の情報については,戸籍副本データ管理システムで電子記録として管理されていますが,現在,戸籍法の改正の作業が進んでいて,今年の2月1日の要綱案では,戸籍の副本情報から戸籍関係情報,これは戸籍と除籍に記録されている者同士の親子関係や婚姻関係等の存否を識別するための情報ですが,これを生成する新たなシステムを構築するとされています。ただし,この新たなシステムは,戸籍の副本情報は基にするけれども,戸籍の附票の情報は取り込む予定はないと聞いております。
戸籍の附票は,法務省の管理でなく,総務省の管理だと聞いていますが,この部会の審議においては,電子記録化されている戸籍の附票の情報をうまく活用することや,現在進行中の戸籍法の改正における新システムとの連動も含めて,議論すべきだと思います。
今回の諮問事項にもありますし,登記所によって,戸籍情報と連動した不動産登記情報の更新を図ることができれば,相続登記の義務化や遺産分割の促進等の土台となるインフラになると思いますので,是非そのようなことを検討するべきではないかと思う次第です。
○山野目部会長 ただいま,蓑毛幹事から,部会資料1,第2の1(1)のイに関連して,具体的な問題提起を頂戴いたしました。
事務当局の発言を求めますけれども,それに先立ちまして,二つ御案内申し上げます。
この部会で調査審議が予定されている事項の中には,しばらく前の中田委員の御発言で明瞭に御指摘を頂いたとおり,所有者不明土地問題への対処ということがかなり直接的に意識される事項と,もう一つ,それには限られず,一般的に不動産登記制度を中心とする制度改革をにらんだ観点から取り上げられることが望ましい事項とがございます。
ただいま蓑毛幹事から御指摘いただいた事項は,必ずしも間近の所有者不明土地問題のみに向き合っているという性格が,彩りが強いというわけではなくて,もう少し一般性を持つ論点でありまして,そういう意味での重要性があるということは御指摘のとおりであって,部会資料1でもその観点から取り上げました。
もう1点添えますと,この事項をこれから後の部会の所要の回で具体的に審議する際に,その時点での戸籍法の改正を始めとする戸籍制度の改革に係る内容も資料として御提供申し上げ,委員,幹事の皆様方に共有していただくことがかなう状況で,その際の具体的な審議をお願いしたいと考えております。
そのようなことではありますが,現時点で事務当局においてお話しできる範囲でお話ししていただくということでしょうか。
○村松幹事 民事第一課が戸籍担当でございまして,私ども民事第二課の方で不動産登記の担当をしております。
今,蓑毛幹事から,非常に具体的に御指摘いただいておりますけれども,不動産登記情報の更新という論点になります。少し論点のご紹介も兼ねて前提から御説明をさせていただきたいと思います。
まず,所有者不明土地問題は,大きく捉えると,不動産登記簿を見ても今の所有者が分からない,あるいは,所有者がどちらにいらっしゃるのかが分からないと,こういった問題に広く位置付けられますので,そういう目線で見ますと,相続に必ずしも限らない,もうちょっと広い問題が,ここには含まれ得るというところがございます。例えば住所変更も含めまして,そういった場合に,なるべく登記の方に反映させる仕組みというのを考える必要があるのではないか。
もちろん,一つの解消手法が,相続登記の義務化を含めまして,登記の義務化という対応策であるのは間違いないわけですけれども,他方で電子政府を政府全体で推進しておりますので,そういった中で,バックヤード連携といったような言い方をしますけれども,電子的に情報を共有することによって,ある程度自動的に登記の内容を変えていければ,そういう意味では,国民の負担を余り高めないで,所有者にうまくたどり着ける,不動産登記の高度化という言い方もされるかもしれませんけれども,そういうところにもつながるのではないのかというので,この更新の議論がされているというところです。
その上で,今御指摘いただいたイの部分ですけれども,登記所の方で不動産登記情報の更新を図るための方策というものについて検討しておりまして,これは,例えば,自然人でいいますと戸籍,あるいは,先ほど出ましたけれども住民票といったものが,考えられる連携先ということになろうかと思います。
法人になりますと,例えば商業登記とか,そういったもので,本店が移転したらその情報を頂くとか,会社の名前が変わればそれを頂く,こういったようなことが,一般的には,もしかしたらあり得るのではないのかというところで,ここの連携がうまく図られていくといいねというのが,一つのものの考え方になります。
ただ,研究会の方でも議論しておりましたけれども,そのときに,やはり一番問題になりますのが,新しく申請が出てくる不動産登記については,そのときに,新しい制度の下で対応をお願いすればいいということになるんですけれども,そうしますと,全ての土地に関して不動産登記情報を新しくしていくという仕組みに乗っけるためには,かなりの時間が掛かってしまいます。そうすると,そうではない土地,すぐには権利が動かないから登記の申請も来ないという状況のものに,どういうふうにアプローチするのがいいのでしょうかというのが検討課題になっております。そういった動かない土地についても,ひも付けという言い方が先ほどもちょっと出ておりましたけれども,ひも付けをする。それは,過去の一時点の住所と氏名,あるいは住所とその法人の名前とか,そういったものが分かる,それだけが不動産登記の情報ですけれども,それと,また全然別に整備されていますところの戸籍ですとか住民票,あるいは法人登記,そういったものとの間のひも付け,連携をしていく。連携すれば,その後は,情報をもらえば自動的に改変できる,情報が更新できるということになるわけですけれども,そのひも付けを一体どういうふうにやったらいいのかというのが,なかなか実は大きな問題だというのが議論としてはございます。
その一つの解消策として,附票情報というのは,そういう意味では,履歴的に残っておりますので,そういった情報を見ることによってひも付けることが,確かにこれは可能かもしれないというふうには,実はこちらでも考えておるんですが,問題は,それを結局人の目で,電子的に持っているけれども,全て目でやらなくてはいけないのか,ある程度機械的にできるのかによって,対応のコスト等々ももちろん変わってまいりますので,そういったところも含めて,ちょっと検討が必要なのかなと,当方としても考えているところです。
そういった流れに関していいますと,戸籍について今御指摘ございましたけれども,戸籍法についても今般,改正法案を提出しておりますので,新しい改正法案の下でのシステムの中で,どういう取組ができるのかということは,個別具体によく検討していかなくてはならないわけですけれども,今正に方向性が固まったというところですので,そういったところを含めて,どういうふうに連携をするのがいいのか。
問題は,果たしてできるのかどうかというところに係ってくる部分がございますので,ひも付けの作業が,コスト的に見合うような形でできるのかというところが,一つの大きな課題なのかなと思っておりまして,そういったところに関しましては,もちろん技術的なところの細部までということになるかどうかはございますけれども,審議会の中で,こういうやり方ができそうです,あるいはできなさそうですといった議論,あるいはその先に,ではそれを職権で,登記所の方で本当にやってしまうのか,それともやはり,職権はちょっとどうなのかといった議論があり得るのか。そういったような議論が研究会の方でもされてもおりますけれども,そういったところについても審議をお願いしてまいりたいとは思っております。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれましては,本日のところはこのくらいでよろしゅうございましょうか。また当該の回に問題提起を頂ければと思います。
○道垣内委員 本日は,一つ一つの論点について意見を言っていると切りがないので,言うべきではないのかもしれませんが,先ほど村松さんの方から,技術的あるいはコスト的な面というのがポイントであるという御説明がありましたので,それは本当なのかという点から,一言申し上げておきたいと思います。
考えてみますと,今から40年ぐらい前というのは,電話帳に住所が書いてあったんですよね。ということは,例えば,私が採点をして,不可を付けましたとき,怒った学生が,道垣内の家をちょっと襲いに行こうと思ったら,電話帳調べますと私の住所が分かったのですね。しかし,今では,電話帳に電話番号を載せている人も少ないし,住所も多分載っていないと思うのですけれども,例えば,不動産登記における権利者の住所が,オートマチックに現住所に変わっていくということになったときに,不動産の登記は,誰だって見ることができるのだということになりますと,それはある意味,現住所の開示手続になってしまいます。それを技術的やコスト的な問題だけの問題のように説明されるのは,非常に私は危惧致します。
それよりも,もっと理念的に,そんなのを公開していいのですかということをきちんと考えるという視点を,いろいろなところで忘れないようにしていくべきではないかというふうに思いますので,細かな具体的な論点ですが,あえて一言申し上げておきたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
登記情報の公開の範囲及び方法については,そのことを議題とする回において,ただいま道垣内委員から御注意いただいた点も含めて,審議を深めなければならないと感じます。
事務当局においては引き続き,道垣内委員から,本当かという指摘がありましたから,御検討を深めていただければ有り難いと感じます。平川委員,どうぞ。
○平川委員 ありがとうございます。
村松幹事の方から,実務的な話について,かなり踏み込んで御意見いただき,考え方を示されました。やはり登記制度が実務として,しっかりと動いていくという観点が重要なのではないかと思っています。一方で,では今の登記法が,どれぐらい正しいのか。素人の感覚からすると,疑問がありますし,その辺,国民にとって知りたいところではないかと思っています。
会社の登記簿があるかと思いますが,私は社会保障審議会に出ているものですから,社会保障審議会の年金の関係で出ていますと,社会保険の適用拡大とともに,年金事務所が適用の促進をする場合,当初,法務局の会社の登記簿を見て進められていましたが,登記されている会社名は幽霊企業が多く,あまり役に立たなかったというのが実態であります。
役に立ったのは,国税庁の税務情報,事業税情報です。それにもとづいて会社が動いているかどうかというのが分かり,それにもとづいて,事業者が年金を払っていない未適用事業所に対し,適用を促進したというのがあります。登記簿という制度そのものが本当に動いているのかどうなのかを,ひとつ国民の皆さんの中で考えてもらわないと駄目ではないかと思います。
そのうえで,では,その情報をどうやって正確にしていくか,ということでありますけれども,いま言われたように,住民票情報などと,どう連携をとっていくのかというのが重要かと思っています。もちろん,データの内容を公表するかしないかというのは,慎重にしないと駄目ですが,それが重要だと思います。
ある意味,いま,厚生労働省の方では,健康保険証もマイナンバーカードを使いましょう,マイナンバーカードを健康保険証に代わるものにするんだという動きになっているかと思います。それだけ情報基盤が整備されていく中で,せっかくマイナンバーという情報基盤が大きなものとしてありますので,先ほど言った戸籍との連携というのもありますが,住民票情報,住民票データとの連携も重要かと思います。ただ,住民票データにもとづいてマイナンバーの通知書を送ったら,相当数が戻ってきたという実績もあります。
とはいうものの多分,住民票データがそれなりに正しい面があるのではないかなと思います。連携の仕方,中身はいろいろありますけれども,どうしていくのかというのを少し考えていかないと,どうも登記制度が本当に正確になっていくかどうかということも含めて,実務として考えていく必要があるのではないかなと思います。
コストの面から言いますと,私,北海道庁の労働組合出身なんですけれども,例えば公共事業をやるときに,用地買収にコストが掛かります。それは,住民を説得するというだけではなくて,調査に時間が掛かります。公共事業をやるにしても,やはり用地買収に掛かるコストを,どう効率化していくかということもあります。
そういうことからすると,データの連携に関する費用というのは,しっかりと確保し,ひいては,それが行政全体の効率化につながっていくというふうに思いますので,ある意味,今後の検討に関しては,予算が確保できないからということだけではなくて,しっかりと広い観点で議論していくということが重要かと思っています。
以上,感想であります。
○山野目部会長 平川委員が前の方でおっしゃった,実態のない法人の問題のことは,この部会におきましても,抵当権の登記名義人になっていて困っているという局面が議題に取り上げられる回がございます。また,その折に問題提起を頂きたいと望みます。
また,個人番号の活用方策についても,引き続き事務当局の方で,視野に置いて検討を進めてくれるものと思います。どうもありがとうございました。
今,部会資料第2の1のところについて,御意見を承っていますけれども,ちょっとお疲れでしょうか。第1の1のところで,まだ御議論があるところを休憩後に続けてもよろしいというふうに考えますから,ここで少し休憩を入れましょうか。
休憩前の御議論の中で,最初の松尾幹事の御発言の中において,現在国会に提出している法律という御言及がありました。これは,そのとおり,現在,法務省が責任を担って,所有者不明土地問題への対処の一環をなしている法律案を現在の会期に提出しております。表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律案でございます(2019年2月22日閣議決定,同日,第198回国会において衆議院に提出)その関連の事項を議題とする回に,もう少し委員,幹事の皆様方に知っていただくような資料の用意も差し上げた方がよいかもしれません。補足させていただきます。
部会資料1の第2の1の部分について,御議論を頂いていたところでございました。もう一度,1の範囲で御意見がないかを伺った上で,それを経て,2の方についての委員,幹事の御意見を伺うということにいたします。
それでは,1の範囲で,まだ意見として述べることがあったということを仰せください。
○藤野委員 ちょっと先ほど,制度のバックグラウンドのお話も出ておりましたので,若干ミクロな話にはなってしまいますが,私が今,鉄道会社におります関係で,所有者不明土地の問題について,これまで20年ほど鉄道会社で働いてきた経験の中で感じていることについて,お話をさせていただければと思っております。
皆さまの中には,当社,JR東日本を首都圏で御利用になられているお客様が多いと思うのですが,当社の場合,会社全体では7,500キロくらい線路を持っています。そのうち,東京圏って,実は2.6%くらいしかなくて,ほとんどのエリアは,東北であったり上信越であったりというところの,いわゆるローカルなエリアになっております。
先ほど増田委員からもお話ありましたけれども,やはり所有者不明土地の問題は,地方に行けば行くほど,いろいろと問題に直面することが多いというのが実感としてございます。日常的な話で申し上げますと,例えば冬の時期などには,沿線の土地の樹木に雪が積もって,線路の方に倒れてくるおそれがあるということで,伐採を求めようと思っても,その土地の所有者が分からないので,なかなか手が出せないというようなこともございます。
あと,直近の話で申し上げますと,東日本大震災というのがございまして,あの後に,津波で被災した線区を復旧させるときに,どうしても今まで走っていたところをそのまま走らせるわけにはいかないということで,線路を内陸側に移設するというようなことをやったわけですが,やはりそのときの用地取得,かなり苦労したということがございます。
本当に分かりやすい例で申し上げますと,1筆の土地を取得するために,調べてみたら,相続人が70人くらいいらっしゃって,全員の同意をとる必要が生じ,しかも最後の1人の方とのやり取りがなかなか進まないので,800キロくらい離れたところまで,判子をもらうために何度も足を運んだ,というようなケースもございます。
したがいまして,やはり所有者探索に関する負担とか,そういったところを踏まえて,所有者不明土地に関して何らかの対策というのは必要だというところには異論はないところでございます。
ただ,一方で,弊社の線路に隣接するいろいろな土地,特に大都市圏の土地で同じようなことが起きているかというと,そこは全く話が異なるという点もございます。
今回,正に,民法・不動産登記法の改正の議論ということで,ひとたび改正されれば,都会であろうが地方であろうが,同じように適用されるというところがある中で,立法事実のところで一つのところだけ見て,例えば地方の所有者不明土地の対策というところだけ見てしまうと,それが都会の極めて価値の高い土地の対策としてきちんと当てはまるかという問題は出てくるかと思いますし,その逆もまたしかりなのかなと思っておりますので,やはり立法事実として,正に全国各地で今何が起きているかというところをしっかり拾い集めた上で議論していくのが大事なのではないかなというふうに感じておるところです。
よろしくお願いします。
○岡田委員 岡田です。
私は,土地家屋調査士という資格者でございますけれども,今,全国で約1万6,700人の会員が活動しております。主な業務としては,不動産の物理的な状況を登記情報に反映するという部分で,不動産登記法あるいは民法の部分に関わらせていただいているところでございますけれども,特に感じているところは,やはりお隣の方,隣接地の方が分からない,所在が分からないも含めてですけれども,そういう場面には,たくさんの実態と実例を抱えて持っている資格者団体でございますので,そこら辺りの実務家の視点として,これからこの審議会に参加させていただけたらなということで,本日はお邪魔をさせていただきました。
具体的には,それぞれの考えられる検討項目に関して,法令遵守の部分,それからインセンティブの部分,そして,あとは良心に訴える部分とか,いろいろあるとは思いますけれども,先ほど吉原委員からもございましたけれども,個人の問題から,やはりこれは社会的な問題にというのは,全く実務をしている者からしても,感じている次第でございますので,是非この辺りは,現場の声をお伝えできたらなということでございます。
よろしくお願いします。
○山野目部会長 部会資料1,第2の1の部分についての御意見を大体承ったというふうに受け止めてよろしゅうございましょうか。
それでは,同じく第2の2の方についての委員,幹事の御意見を承ります。
2のところは,御覧いただいているとおり,所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みという問題提起でございます。具体的には,共有制度,不在者の財産の管理,相続財産の管理,それから相隣関係規定の見直し,これらに係る問題提起を差し上げているところでございます。
○岡田委員 すみません,続いて申し訳ないです。
例えば,この共有制度の見直しという項目がございますけれども,正に今現在,売買をしようであるとか,具体的にですね。そういう場面においては,共有者のお一人でも見付からなかったら,これは経済活動としても止まるわけでございます。
そこら辺りのことをも踏まえた上での議論というふうに理解しておりますが,それでよろしいわけですよね。
○大谷幹事 所有者不明土地問題の解決に向けて,大きく二つの観点をお示ししておりますけれども,一つは,所有者が登記を見ても分からないという,そのこと自体の問題,それから,そこから発生すると申しましょうか,それを契機として明らかになってきている問題の一つとして,共有者の一部が所在不明であるときに共有物の処分ができないということが実際にあるという御指摘を踏まえて,共有制度の見直しを項目として挙げております。
経済的な活動としても,共有物を,あるいは共有の土地を利用するのが,特に共有者の一部が所在不明にあるときに困難になるということは,実際にありますので,そのような観点も含めて,御審議を頂きたいと思っております。
○山野目部会長 岡田委員,よろしゅうございますか。
○岡田委員 はい,ありがとうございます。
○今川委員 私も,今日は第1回ということで,一般的,基本的な考え方ですけれども,共有についてですけれども,遺産共有も含めて,共有状態というのは,管理・処分が,今岡田委員も言われましたけれども,単独所有と比べると動きが重くなる。その中に所在不明の方がいると止まってしまうという状態がありますし,もう一方,放置しておくと,権利が細分化されてしまって,ますます重くなるということがありますので,不在の共有者がいた場合にどうするかということと,なるべく早く共有状態は解消された方がいいのではないのかという観点も必要かなと思います。
それで,先ほども言いました,在り方研で検討されていました管理権者制度というのが,これ非常に重要になるなと,今のところ感じております。加えて,遺産共有というのは,単に共有ということに加えて,不確定な状態が続いているということですので,これが放置されていくと,権利が細分化して,ますます不確定な状態が長く続くということもありますので,遺産分割協議に期間制限を加えるというのは,ある程度,不確定な状態から一定の確定した状態に持って行くという意味で,意味はあると思います。
ただ,内部でも,なるべく慎重にやるべきではないかという意見もありますけれども,今のところ,前向きに検討すべきだなというふうには考えております。
○山野目部会長 引き続き,2の範囲についての御意見を承ります。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 共有についてですが,実務的な問題として,単なる共有と,非常に多数の共有者がいる状況になっているものがあります。法律論としては,どちらも同じ共有なんですけれども,実務的な感覚からしますと,3人の共有者がいる状態と300人の共有者がいる状態では,全く違うということがあります。
今回の部会の議論の中で,そういう,メガ共有といいますか,非常に多数の共有者がいる状態を,普通の共有とは違うと考えるのか,やはり理屈としては同じと考えるのか。この辺りのところに少し関心があるところです。
これは後の議論の中で,考え方の視点として申し上げたいと思っておりますが,今日のところは,そういう問題意識を持っているということを申し上げたいと思います。
○山野目部会長 共有制度を議論する際に,ただいまの問題意識を温めておいていただいて,さらに,蓑毛幹事始め皆様方から御意見をおっしゃっていただくことが望まれるところでありますけれども,メガ共有という言葉はよいですね。何か多分,今宵は皆さん,その言葉を思い出しながら眠りにつかれるものではないかと想像します。引き続き,この部会の調査審議において,重大な関心を払ってまいりたいと受け止めます。
○吉原委員 これは質問なんですけれども,土地所有権の放棄の論点において,相続放棄については含めないという理解でよろしいでしょうか。
法的には,相続放棄というのは全く別物であるということは理解しているつもりなんですけれども,土地の側から見れば,相続人,つまり権利を主張したり,管理責任を負う人がいなくなる可能性があるということでは同じでありまして,相続放棄は全財産であるので,土地だけとは限らないし,土地が入っていない場合もあるかもしれませんが,今後,少子高齢化で甥っ子,姪っ子もいない,本当に相続人が不存在になるケースも出てくるかもしれない。レアケースかもしれませんが,そうなった場合の土地の権利についてもここで扱うのか,あるいはここからは除外するのか,それはなぜなのかというところを教えていただけたらなと。
これは間接情報なんですけれども,家庭裁判所で相続放棄の手続をして,その後,第三者が相続財産管理人の選任を申し立てることもなく,そのままになっているケースというのもあって,書類の保存期間が経過してそれが破棄されてしまうと,相続放棄の事実も正確には分かりづらくなるということも仄聞したことがあります。そこで,ここでの議論において,相続放棄によって所有者がいなくなった場合についてはどう考えるのかということを教えていただければと思いました。
○大谷幹事 所有権の放棄と,それから相続放棄との関係ということですが,土地所有権の放棄の論点におきましては,やはり相続放棄の場面とは異なりまして,今現に土地所有権を有している人が土地を手放すことができるかという論点だと考えておりますけれども,一方で,相続放棄について,今少しお話がございましたけれども,相続人全員が相続放棄をした場合には,相続人があることが明らかでない相続財産という形で,相続財産管理制度の仕組みの方に回ってまいります。
その意味で,財産管理制度の見直しということも,一つの論点として挙げておりまして,相続人が相続放棄をしたときに,どのように土地等の財産が管理されるべきであるかについては,論点として,今後お出しするつもりでございますし,その際に御審議をお願いしたいと思っております。
○潮見委員 一言で済ませます。
相続放棄は一緒に扱うのは,それは大いに結構だと思います。ただ,相続放棄で,土地の部分に特化した形の議論ということをやった場合に,ほかの財産とかに関する相続放棄というものがどうなるのかをきちんと理解してやらないと,危険なところは一杯あると思います。
私も,調停委員とかもやったことがあり,相続放棄も経験したこともございます。ですから,その意味では,相続法制との体系的な整合性とか考え方を踏まえて,ここで審議していただきたいなと思います。
○山野目部会長 吉原委員,潮見委員から問題提起を頂いたことは,今日は包括的な論議であるとはいえ,ここで進める調査審議の全体像に関わる重要な観点の御指摘を頂いたというふうに受け止めます。
放棄という概念がそこここに出てまいりますけれども,もちろん所有権,土地所有権の放棄を中心に,次回以降の部会で,日を定めて御議論をお願いしなければいけませんが,土地の所有権の放棄のみが議論されればよいということではなくて,それを議論していったときには,建物の所有権の放棄,動産の所有権の放棄を併せてどう考えるか。それから,共有持分の放棄をどう考えるか。さらには,局面によっては,似たような作用を持つのではないかという観点から,正に吉原委員に見抜いていただいた相続放棄との関係をどう考えるか,全て問題になります。
その上で,相続放棄に関しては,恐らく,ここでの調査審議の進め方としては,どちらかというと,相続放棄そのものというよりは,相続財産の管理と関連させて検討するということになるであろうという見通しがあり,大谷幹事からも少し,その方向でのお話を今してもらいましたけれども,しかし,いずれにしても議論しなければいけないことでありますので,御指摘を踏まえて議論を進めてまいりたいと考えます。
それから,相続放棄に関して,潮見委員から御指摘をいただきました。幾つか今回,調査審議をお願いすることを予定している事項の中には,何といったらよいでしょうか,言い方に困りますが,相続ないし相続法が関わってこさせるをえないところがありまして,そういうところに関しては,相続放棄もそうですし,それから,一つ前に今川委員が問題提起をなさった遺産分割の期限の制限もそうですけれども,どうしても諮問107号を背景に議論を進めていきますと,土地のことだけに頭がいってしまうものの,相続法制のことを考えるときには,相続財産を構成する財産は土地のみではありませんから,それが相続法制全体にどういう影響を与えるか。場合によっては弊害があるかもしれないというような観点に十分留意をして,審議を進めなければならないということも感じております。その観点から大事な指摘を頂きました。
引き続き,2の部分についての御意見を伺いますが,ただいまの吉原委員の御指摘のように,1で議論していただいたことと関連する事項もございます。うるさく,2の範囲でというふうにはお願いいたしませんから,どうぞ委員,幹事,関係官の皆様,御随意に御発言を頂ければと思います。いかがでしょうか。
大体,本日の段階で,委員,幹事,関係官の皆様にお気付きいただいたことは受け止めたというふうに考えてよろしゅうございますでしょうか。
それでは,本日は部会資料1に基づく大変に熱心な御議論を頂きました。次回,第2回の会議から後は,あらかじめ部会資料で個別に御案内申し上げる各論的な検討をお願いしていくことになります。
その最初の回になる第2回の日程等について,事務当局から案内を差し上げます。
○大谷幹事 御案内いたします。
次回4月23日の火曜日,午後1時から午後6時までという形で進めさせていただきます。場所は,東京高検の第2会議室になります。また御案内申し上げますけれども,テーマについては,現時点におきましては,共有,それから所有権の放棄を取り上げたいと思っております。先に実体法関係を取り上げたいと考えております。
次回は,各論点について,今部会長からお話がありましたとおり,先に資料をお送りして,各論点について,掘り下げて御議論いただきたいと考えております。
○山野目部会長 次回の予定を御案内を申し上げました。よろしくお願い申し上げます。
本日は,この会議は,午後4時30分までを予定しておりましたけれども,委員の皆様方から熱心な御討議を頂き,審議に御協力を頂きましたことにより,無理に4時半まで進める必要はありませんので,これで本日は了することができます。
恐らく,次回以降は,午後1時から午後6時までを予定しておりまして,私も進行に努力を傾けることにいたしますが,毎回早目に終わるという予測は成り立ちにくいものであると認識を頂ければ有り難く,次回以降も委員,幹事,関係官の皆様方の御協力をお願いする次第でございます。
これをもちまして,法制審議会民法・不動産登記法部会の第1回会議をお開きといたします。どうもありがとうございました。
部会資料1 民法・不動産登記法の改正に当たっての検討課題【PDF】
参考資料1 登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究報告書」【PDF】
参考資料2 藤巻梓(国士舘大学法学部教授・法務省民事局調査員)「外国法制調査(ドイツ)報告書」(平成31年4月23日差替え)【PDF】
参考資料3 原恵美(学習院大学法科大学院教授・法務省民事局調査員)「外国法制調査(フランス)報告書」【PDF】
横山関係官(国土交通省)提供資料
「土地の利用・管理に関して必要な措置の方向性(概要)」【PDF】
「国土審議会土地政策分科会特別部会とりまとめ概要」【PDF】
民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正案及び同要綱案と議論の経過
中間試案
民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案
民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明
法案
第1 相隣関係
民法改正案 (隣地の使用 第二百十三条の次に次の見出し及び二条を加える。 (継続的給付を受けるための設備の設置権等) 第二百十三条の三 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第五項の規定は、適用しない。 (竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。 3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。 二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。 三 急迫の事情があるとき。 |
民法第209条の規律を次のように改めるものとする。 ① 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ること 民法第233条第1項の規律を次のように改めるものとする。 ① 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。 継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権について、次のような規律を設けるものとする。 ① 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下①及び⑧において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。 本日は前回に引き続き,要綱案のたたき台について審議をお願いいたします。部会資料52をお開きいただきますとお分かりのとおり,第1として相隣関係を取り上げておりますけれども,本日はこの相隣関係として二つの題材,隣地使用権及び管理措置の問題を取り上げるということにいたします。二つの事項の性質がやや異なりますから,分けて審議をお願いいたします。 本日から要綱案のたたき台についての審議をお願いいたします。 そうしましたらならば,部会資料46をお取り上げくださるようにお願いいたします。 第1部 民法等の見直し 第1部 民法の見直し 第1部 民法の見直し 第1 隣地使用権の見直し 2 住家への立入りについて 3 本文②について そこで、端的に、竹木が数人の共有に属する場合にあっては、共有者の一人にその枝を切除させることができる(すなわち、強制執行手続の実施について他の共有者の同意が不要である)とする規律を設けることが適切であると考えられることから、このような規律を設けることを提案している。
第1 相隣関係
1 隣地使用権
はできない。
ア 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
イ 境界標の調査又は境界に関する測量
ウ 2③の規律による枝の切取り
② ①の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(③及び④において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
③ ①の規律により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
④ ①の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。 2 竹木の枝の切除等
② ①の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
③ ①の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
ア 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
イ 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
ウ 急迫の事情があるとき。 3 継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権
② ①の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(③において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
③ ①の規律により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
④ ①の規律による権利を有する者は、①の規律により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、前記1の①ただし書及び②から④までの規律を準用する。
⑤ ①の規律により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(④において準用する前記1の④に規律する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。
⑥ ①の規律により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
⑦ ①の規律により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。
⑧ 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、⑤の規律は、適用しない。
⑨ ⑧の規律は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。○山野目部会長 再開いたします。
部会資料55をお手元に御用意くださるようにお願いいたします。要綱案として作っていくものの第1部,民法の見直しの第1のところで扱う相隣関係の中の1として,隣地使用権を題材としている資料でございます。前回会議でこの隣地使用権について御議論を頂いたところを踏まえ,議事を整理いたしまして,本日改めて部会資料55の1ページに太字で掲げているような規律の構想をお示ししているところでございます。部会資料55のその余の部分は,その補足説明でございます。事前にお目通しを頂いているものと考えます。それでは,この部会資料55の全体につきまして,委員,幹事の御意見を承ることにいたします。いかがでしょうか。
○中村委員 ありがとうございます。前回の第22回の部会では,この点につきましていろいろな議論があり,仮に前回御提案の使用権構成で進む場合でも,要件,手続,効果,それぞれの観点から適切な絞りを掛けることができるかどうかを更に探るということになりましたが,今回はそれを受けて,手続要件である本文③のところを更に工夫していただいたものと理解しております。日弁連のワーキンググループでは,今回の提案に賛成する意見があった一方で,前回もお伝えしたのですが,引き続き強い修正意見もありました。
まず,今回提案に基本的に賛成する意見としましては,この御提案にそのまま賛成する意見と,少し修正を加える提案が付いているものがあります。③の通知の宛先の部分ですけれども,第一次的には現に使用する者に対してとする,そして,隣地使用者を知ることができず,又はその所在を知ることができないときは,土地所有者に対してとするということによって,使用者がいない,又は不明という場合に,所有者は判明しているのに何ら通知をしないで使用できるといった,隣地の円満な利用の調整という観点からは望ましくないような事態を避けることができるとして,若干の修正を求めるという意見がございました。
それから,強い修正意見としましては,より根本的に見直すことを提案するものなのですけれども,部会資料の本文の定めぶりですと,これを読んだ国民の間には,自力救済は許されるという誤解が生じることを防ぐことは難しいという強い危惧感による意見です。今回の部会資料の提案では,本文だけを読みますと,①から③の要件を満たす限り隣地使用は適法であって,隣地所有者がこれを拒めば違法となると解釈され得るところ,例として,隣地使用権者が大掛かりな商業ビルの建築を予定しているような場合に,隣地所有者がこの時期は困ると申し入れた上で門扉に施錠をしたというような場合に,隣地使用権を侵害されたとしてその損害は巨額になるよというような形で迫られると,やむなく押し切られるという事案などを想定して,このような場合が生じてくるのではないかという懸念も示されていました。
その上で,この反対意見からの対案といたしまして,前回の部会でもお伝えし,また,前回中田委員から御示唆がありましたように,①の実体要件の中に,次に掲げる目的のために必要であり,かつ,隣地使用の日時・場所及び方法が,隣地の使用状況,隣地が受ける損害の性質と程度,他の代替方法の有無その他の事情に照らして相当と認められるときに,などとして相当性の要件を盛り込むことが1点。そして,もし①の要件をこのように修正すれば,②の要件を①に吸収してしまって,②が吸収された①と,今回の③の手続要件の両方を充足しなければ隣地使用はできないのだということが国民の目に分かりやすくなるのではないか,そうすれば懸念される自力救済をできる限り防止することができるのではないかという対案が示されました。
さらにもう1点ですが,これも前回お伝えしましたが,③の規律によって通知された日時・場所,方法などが被通知者にとってはどうしても都合が悪いということはあり得るので,変更請求権を設けてはどうかという,前回もお示ししましたが,引き続きこのような案が出されていました。
隣地使用権については,基本的に以上です。もう1点,前回の部会資料52の4項で扱われました,他の土地等の瑕疵に関する工事,いわゆる管理措置については今回の御提案はありませんけれども,このいわゆる管理措置についても前回多くの論点が指摘されまして,隣地使用権の検討と整合性をとりながら整えていく必要があるという指摘がなされたところでした。あと3回しか部会が予定されていない中で,なかなか難しいとは思いますが,管理措置についても,最終提案の形になる前にもう一度検討の機会を頂きたいという希望が出ておりましたので,申し添えたいと思います。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめいただき,個別の出していただいた意見,それから審議の進め方についての要望を承りました。
引き続き,いかがでしょうか。
○佐保委員 ありがとうございます。先ほど中村委員が発言された隣地使用権の③の通知の相手方の話であります。現に使用している者については特段私も異論ありませんが,同じように,2ページの補足説明では,後段,他方でから始まり,隣地使用者が存在しない場合にはということも書いてあります。私は専門家ではありませんけれども,例えば,隣地使用者が存在しない場合は隣地の所有者に通知しなければならないといった規律を入れておいた方が分かりやすいのではないかと考えております。
○山野目部会長 御意見を承りました。
引き続き承ります。いかがでしょうか。
○道垣内委員 ありがとうございます。前回,この相隣関係の隣地使用権につきまして,②の要件に関して,隣地のため損害が最も少ない,というのではなくて,隣地所有者や隣地の使用者に損害が及ばないようにしなければいけない,といった文言にすべきであるという修正案が出されたのに対して,私も含めまして何人かの者が,隣地使用権というのが所有権対所有権の調整の話であるとするならば,そこに隣地所有者や隣地使用者に損害を与えないというふうなことを入れ込むのは,権利の性質を大きく変えることになるのではないかと発言いたしました。
今回,中村委員から,修正案が出たという具体的な話を伺いました。①について,相当性的な要件を入れる,というわけですが,しかし,そのときに中村委員は非常に慎重な言葉遣いをされまして,隣地所有者,隣地使用者という言葉をお使いになりませんで,「隣地が受ける損害の性質と程度」という言い方をされたのですね。私はその点には全く異存はありませんで,また,①のところに,必要な範囲内でということだけではなくて,そういう相当性の要件というものを入れるということにも特に反対するものではありません。もちろん②の,「隣地のために損害が最も少ないもの」というところで読めるといえば読めるのかもしれませんが,それよりも明確になるという点はあろうかと思います。
ただ,そういうふうに新しく①,②のところを作り変えるにせよ,あるいは現在のままにするにせよ,そこでは,前回申し上げましたように,①,②が,ある土地とある土地の関係の要件として規律されているところなのだと思います。これに対して,④を見てみますと,これは現在の所有者,現在の使用者というものに対して現実に損害が及ぶかどうかという観点で書かれていることであって,①,②とかなり性質の異なるものだろうという気がいたします。そして,それを前提にして,③の意味を考えてみますと,③は④の関係のものなのだろうと思うのです。これは現に使用している者というのを念頭に置いているわけですね。そうすると,①,②とはかなり性格が違うのであり,つまり,手続要件という話がありましたが,仮に,現使用者に対して通知をしないというままに,相当な方法で用いたというのを考えてみますと,通知をしなかったことによって,①,②で定められた権利の行使が当然に違法になるのかというと,どうも私は違法にならないのではないかという気がするのです。
そうすると,③の要件は何を意味しているのだろうかというと,恐らく④の話なのではないか。つまり,隣地所有者,隣地使用者が損害を受ける可能性がある,目的,使用方法,日時及び場所を通知されたときに,その日は都合が悪くて,その日にやられてしまうと大きな損害を受けるということであるならば,それをきちんと土地所有者に対して,使用しようとしている人に対して伝えなさいと。伝えないでおいて,自分に損害が,非常に都合の悪いときにやられてしまったなどといって,損害が生じたといって損害賠償を払えというのは,それは駄目でしょう。何日の何時から何時までと言われたときに,そのときなら大きな損害が生じるというのだったら,それはきちんと伝えなさい。伝えないで損害が生じ,ないしは拡大したということを理由にして償金請求はできませんよ。それに対して,伝えられたのにもかかわらず,あえてその日にやってしまったということになるならば,①,②の観点からは,ひょっとして正当な権利行使であるとしても,④における損害は認識して与えている損害であり,回避可能な損害であるという形になって,完全に償金の支払義務というのが認められるということになるのではないかと思うのです。そうなると,④のところのただし書に③というのを入れ込んで,ただし,通知を受けたのに,それをきちんと言わなかったことによって損害が生じ,ないしは損害が拡大した場合には,この限りでないというふうな要件として位置付けるべきではないかと思います。
なかなかうまく言えませんで,分かりにくかったと思いますが,以上です。
○山野目部会長 中田委員,どうぞ。
○中田委員 ありがとうございます。私は③について,ただ今の道垣内委員とは違いまして,もう少し積極的な理解をいたしました。今回,③に目的と使用方法を入れることで,規律内容の明確化と紛争防止の両面で非常によくなったのではないかと思いました。と申しますのは,②の規定は,使用方法はこれこれのものを選ばなければならないと書いてあるものですから,そうすると,①が権利の成立要件で,②は成立した権利の行使方法というようにも読めるわけです。しかしながら,③に目的と使用方法も入ったことによって,①と②を満たすことを前提にして③で権利が具体化される,そういう構造になったのかなと理解いたしました。
ところが,今,道垣内委員からの御指摘で,③というのはそういうものではなくて,もっと軽いものである,③がなくたって①,②で権利は発生しているのだと,それを行使しても適法なのだと,③は④のただし書として位置付けるべきだということを伺いまして,そうかと思ったのですけれども,そうだとすると,やはり権利の発生の時期,あるいはその発生した権利の内容というのが非常に不明確になるのではないかと思います。元々,前回申しましたとおり,立入権というところから出発していて,それが使用請求という形になった,だけれども,請求という構成を採ることによって,権利の内容がだんだん煮詰まっていくだろうと,こういうプロセスが予定されていたと思うのですが,今回,請求ではなくて使用できるということにしたとしますと,やはりその権利が具体化するということを明らかにした方が,規律の内容としても,紛争の防止という観点からも,よろしいのではないかと思っております。
ということで,むしろ私は③を積極的に位置付けたいなと思っておりました。その上で,①で,相当性の要件を入れる,弁護士会の御提案のような方法というのは,そうなればいいなとは今でも思いますけれども,しかし,なかなかそれも難しいのではないかと,この段階ですので。ただ,この部会資料でも一致していることは,①にいう必要な範囲というのは,決してその土地の所有者の主観的な必要性ではないということだろうと思います。つまり,この資料の1ページの下の2行にありますように,必要性の中には,あるいは①と②を併せて,様々な事情が考慮される,あるいは,2ページの3行目にありますように,正当化される範囲というものに限るのだということであります。そうすると,主観的な必要性ではないのだということを,解釈上当然だとお考えかもしれないのですけれども,条文だけを見た人はなかなかそうは理解しにくいかもしれませんので,何か手掛かりを入れることができたらいいなとは思います。例えば,「社会通念に照らし必要な範囲内で」とするような方法も考えられるかもしれません。もちろんそれは一つの例にすぎませんけれども,主観的な必要性ではなくて,この規律から出てくる制約の範囲内で判断されるべきものなのだということを表せたらいいなと思います。
○山野目部会長 御意見を頂きありがとうございます。
今までお出しいただいている御意見などを参考としながら,引き続き委員,幹事から御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。こちらの意見としては,これまで出させていただいていたとおり,なるべくそれほど重たくない手続がよいのではないかということで,そこは変わっていないわけですが,やはり想定している前提が大分,それぞれお立場によって違うのかなというところは感じているところでございまして,一番気になっているところは,正に最初の議論の出発点である,隣地所有者が連絡取れません,現に使っている人も分かりませんという場合に,なるべく,ある程度必要なところはきちんとやっていけるようにしたいというニーズに適切に対応できるものになるのかどうか,ではないかと思っているところでございます。その観点からいたしますと,今回,補足説明の一番最後のところに幾つか場合分けをして,3ページの一番下の方に,(5)のところに書いていただいている整理,おおむねこのような整理の仕方が非常に納得感のあるところかなと思っておりました。
念のための確認ではございますが,実際に例えば,一番最後の段落のなお書などでも書かれているのですが,現に隣地を使用している者はいないと評価する場合とか,所有者による使用すらないと評価されるような場合,こういう場合というのはもう通知まで不要という考え方でよいのか,あるいは,念のため通知をして,それで応答がなくてもそのまま使っていいという趣旨なのかというところは少し確認させていただければと思っております。
いずれにしても,通知して何も返ってこない場合には相隣関係を維持するために必要なメンテナンスを一切やってはならない,ということにならないのであれば,今回このような形で規律を改めていただく意義というのはあるのかなと思っておりますので,以上,意見と御質問ということで,よろしくお願いいたします。
○大谷幹事 ありがとうございます。隣地の使用の解釈として一連の考え方をお示しいたしましたけれども,これは,今正に御指摘がございましたとおり,所有者が現に居場所が分かっているというときに,これは前回の部会資料でもお書きしておりましたが,後のトラブルを避けるために通常は所有者にはお知らせするだろうと。また,概念としては使用していないと評価できるとしても,念のために所有者に通知をするということが望ましいだろうと思っております。
○藤野委員 明らかに使っていない場合は,名義上の所有者に連絡をした方がいいということですか。
○大谷幹事 明らかに使っていない場合でも,所有者が分かっているのであれば,後のトラブルを避けるために所有者に通常は通知をするのではないかというところでございます。
○藤野委員 判明している場合はですよね。判明しておらず,連絡も取りようがないというときは,逆に言うと,ここの中では通知先がないという要件,解釈でいいのかどうかというところで。
○大谷幹事 さようです。今の補足説明の一つ上の段落の,所在が不明だというときには,それは使用していないと評価することが可能ではないかと考えております。
○藤野委員 ありがとうございます。基本的にもう隣の所有者が分かっているとか,現に使用している人がいるというときに,そもそも隣地使用権の行使という立て付けを実務的にそれほど使うかといえば,少なくとも事業者というか会社の話であれば,それはないというか,この条文を持ち出すまでもなく,きちんと判明している所有者や使用者と話をして使うだろうというところで,私どもの方で想定しているのは,やはりそういった方々がいない,所在が分からない場合というところが前提になっていますので,一応そこのところも含めて目配りをした形で検討を進めていただければと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き御発言を承ります。
いかがでしょうか。ここまでの御議論で,①,②という基本的な成立要件を案内する規律の部分に加えて,③の通知を掲げ,そして④の償金の規律を置くというフォーメーションを御提示申し上げ,前回の部会資料と比べて,③のところについて変更を加えて御提案を差し上げております。ここまでの御議論で,このような前回の部会資料からの変遷を経た提案の基本的骨格は理解ができるという御意見を頂いたり,そのような基本的な骨格は理解ができるということを踏まえた上で,若干の御提案を頂いたりしているところであります。
①につきましては,このままの文言でも理解がきちんと説明されるということで進めるという可能性があり得るほか,相当性,社会通念という言葉などを例示しながら,何らかの形で,隣地使用権の行使の範囲,態様についておのずと制限があるということが規範として伝達がより明瞭になるようにする方がよいという御意見や,あるいは,更にもっと多くの文言をここに充てて,そのことがかっちり伝わるようにすべきであるという御意見が出されたりしているところでございます。
皆様方の御意見を引き続き承ってまいりますけれども,いかがでしょうか。
おおむね,ただいま御発言いただいたようなところを踏まえて,改めて①,②,③を中心に整理を深めていくということでよろしゅうございましょうか。何か補足で承っておくことがあったらお伺いいたします。
○蓑毛幹事 日弁連のワーキンググループでの意見を先ほど中村委員から申し上げましたが,少し補足して意見を申し上げます。
中田先生がおっしゃったことと関係しますが,私は,③の要件が④の要件との関係で存在するのではなく,①,②の実体要件を受けて③の手続要件が定められているという位置付けとするのが望ましいと考えております。そのことを考える上で,先ほど,道垣内先生もおっしゃられていて,難しい問題があるところだと理解しておりますが,②の「その使用方法は,隣地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない」を,どのように解釈できるかが大事かなと思っています。つまり,「隣地のために」というのは,隣地所有者や隣地の使用者のためにということを意味するのではないのだよという指摘を頂いています。しかしながら,「隣地のために」というのは,部会資料1頁の下から2行目にもあるとおり,隣地の使用状況であるとか,隣地が受ける損害の性質と程度,他の代替方法の有無などの事情を考慮して判断されることになろうかと思います。そして,③では「その目的,使用方法」に加えて「日時及び場所」を通知するとあるのですが,この「日時及び場所」が「使用方法」との関係でどのような位置付けになるかが重要だと思います。私は,「日時及び場所」は必ずしも隣地所有者や隣地使用者の個人的な事情ではなく,隣地のために損害が最も少ないものでなければならないという「使用方法」の一要素になると考えます。例えば,極端なことを言えば,真夜中に工事をするなんていうのは隣地のために損害が最も少ないとはいえないであろうとか,そういった意味において,③の「日時及び場所」は,②の隣地のために損害が最も少ないということのための判断の要素になるのだと思います。そのようなことも併せ考えて,②と③をうまく整合させ,そして,弁護士会が懸念しているようなトラブルが生じないような適切な仕組みを構築していただければと思っております。
○山野目部会長 ②と③の関係について,今,蓑毛幹事に整理していただいたとおりの趣旨で部会資料は御案内していると理解しておりますけれども,事務当局から何か補足がありますか。
○大谷幹事 御指摘をありがとうございます。使用方法という言葉,②と③で同じ言葉を使っていて,この関係がどうかということもあるのだと思います。本日の御指摘も踏まえまして,更に何か,この本文を変えるのか,あるいは説明ぶりをもう少し充実させるのかというところも両方あり得るかと思いますけれども,再度検討したいと思います。
○道垣内委員 ありがとうございます。私は③の要件を軽くしようという話で申し上げているつもりもありませんで,蓑毛さんが今おっしゃったような,真夜中は駄目ではないかと,それはやはり土地に損害を与えるわけではなくて,土地の使用者,所有者に損害を与えるから駄目なので,それが隣地のために損害が最も少ないとはいえないということになるという,それはそのとおりだと思うのですが,私は逆に,1週間後の何日に工事をやりますと言われたときに,いや,実はその日は友達を招いて庭でバーベキューパーティーをやることになっているのだとか,あるいは,友達を招いていて,その友達には赤ちゃんがいて,大きな音を立てられると困るのだというふうなときだって,そう言われれば,使用はやめるべきだと思うのです。日にちをずらすべきでる。しかし,そういうのは「隣地のために損害が最も少ない」というところには読み込めないだろうと思いまして,そうなると,それに反したときはどうなるのか,2,3日ずらしてくれればそれでいいのだけれども,その日はもうお客さんを呼んでいるから勘弁してほしいというときに,強行したときどうなるのだろうか,あるいは都合を聞かないでやったときどうなるのだろうかとかということになると,4の損害賠償的な話というのが生じるということを明らかにすべきであって,それが私が言うところの,①,②と性格が少し違うのではないかということの意味です。そうなると,償金という言い方も正当性が何となく感じられるので妥当でないかもしれません。
だから,極端な話,土地どうしの関係ではなく,所有者との関係であるということであっても気にしないのならば,逆に,手続要件の①に書いてしまうべきだと思うのです。こういうふうな通知をして,やらなければいけません,それで,合理的な異議が述べられたときにはもう権利はありませんと書いてしまうのだと,またこれも分かるのです。それに違反したら,それはもう勝手に人のところに入った不法行為であるという話になるわけです。今のままだと,③は何なのという,違反したらどうなるのだろうというのが私にはよく分からないものですから,その位置付けをはっきりさせてほしいということです。軽くしたいということではございませんので,一言申し上げておきたいと思います。
○山野目部会長 ③の位置付けについて,軽く位置付けを与えているものではないという道垣内委員の御意見の本旨を理解いたしました。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。道垣内先生から非常にうれしい言葉を頂いたと思います。①と②の要件を満たしていると思われる土地所有者が,隣地の使用者に対して③の通知をした,しかし,隣地の使用者からすると,小さな子供もいるので日を改めてほしいということであれば,それは日を改めるべきだと,この結論は正に弁護士会が望んでいるもの,そのものでして,とても有り難い言葉だと思います。
その場合,弁護士会が気にしているのは,そのようなことを言って拒んだ隣地の使用者には不法行為は成立しませんよねと,隣地使用権の行使を故意,過失によって妨げたということによって不法行為は成立しませんよねということの確認をしたいと思っているのです。道垣内先生のお立場ですと,隣地の使用者が,小さな子供がいるから別の日に改めてくれと言って,しかし話合いができないまま,土地の所有権者,隣地使用権があると主張する者の工事ができなくなったとしても,不法行為は成立しないという結論になってしかるべきだと思うのですが,それが不法行為のいずれの要件を欠いて,不法行為の成立が妨げられるのか。隣地使用権が成立して行使要件も満たしているにもかかわらず,自分の都合でそれを拒んだ者について,不法行為は成立しないということになるということでよろしいのかということが,道垣内先生にお尋ねしていいのかどうか分かりませんけれども,そこが気になっているところです。
○山野目部会長 今のお話は,しかし,道垣内委員に直ちに発言をお願いして議論のラリーを少ししていただくと,考えが深まるであろうという予感を抱きますから,もしよろしければでいいですが,道垣内委員におかれて,ただいまの局面での不法行為の成否,それから成立,否定の論理構造について,何かお考えがあったらお話しいただければと望みます。
○道垣内委員 だから,それは妨げても不法行為にならないというふうにしなければいけないということは分かります。そうであるならば,それはもう①の中に③の話は埋め込まざるを得ないのであって,③のところに書いていたからといって,①,②の権利自体がなくなるという話には,構造上はならないような気がするのです。ですから,今,蓑毛さんがおっしゃったような,バリケードを作ってか何か分かりませんが,使わせないように妨害をするという行為が不法行為にならないということを明らかにしようというのだったら,このままではなくて,①に入れなければいけないし,あるいは,解釈かどうか分かりませんが,中村さんがおっしゃったような,①のところに相当性みたいなものを入れて,その相当性の解釈の中に③における交渉とか,そういうものというのを埋め込めるようにしないといけないのではないかと思うのです。
もちろん,209条は歴史がある条文であって,いろいろな請求構成とかいろいろあるのは,それは分かりますけれども,やはり全体としてはこれは土地の問題としてやっていて,例えば,最高裁の平成⑤年判決というのは,袋地上の違法建築物に下水排水のための隣地使用権があるか,を扱ったものですが,現在建てられている建物が建築基準法違反のものであることにより隣地使用権自体を否定するのではなく,権利濫用で処理しているわけですね。私は,土地と土地との関係で考えたときには,水を出すという権利自体は否定できないところ,除却対象となるような建物を建てて水を出すというのを妨げようとするならば,権利濫用の話としてせざるを得ないというのが判例の立場なのではないかと理解しております。中村さん,蓑毛さんがおっしゃっていることと,私が申し上げていることとの間で,具体的な事件における,どう在るべきかという結論は恐らく違わないと思うのです。だけれども,それをどういうふうに整理した形の条文にするかということで,今のような③の位置付けだと,そういうふうにはならないのではないかというのが私の思うところです。
○山野目部会長 道垣内委員,ありがとうございます。
佐久間幹事,少しお待ちください。ボールを一回蓑毛幹事にお戻しして,今の道垣内委員のお話を聞いて,御発言があったら,頂きます。
○蓑毛幹事 いえ,もう少し頭を整理して,道垣内先生がおっしゃったことについて議事録をよく読み返して,考えてみたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○道垣内委員 いや,余りきちんと読み返さないようにしていただいた方がいいかもしれません。
○山野目部会長 でも,きっと読み返すと思います。
佐久間幹事,お願いします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。余りまとまってはいないのですけれども,先ほど蓑毛幹事がおっしゃった,真夜中に工事するとかという例ですよね。違うか,子供がいて迷惑だからという例でしたか。
○山野目部会長 今,二つ例が挙がっていて,真夜中に工事をする話と,庭で友達を呼んでバーベキューパーティーをする話があります。
○佐久間幹事 そのどちらでもいいのですけれども,不法行為の成立について,それほど単純に判断することはできないと思います,そもそも,隣地使用権は債権ではなく物権的な権利なのだろうと思いますけれども,それほど保護法益として強いものでないとしたならば,侵害態様とか,その妨害に当たる行為をした者の主観的状態によって,故意又は過失の要件が否定されるとか,あるいは違法性の要件が実はここでは満たされなければいけないところ,その要件が充足されないというふうな考え方で不法行為が否定されることが一つはあり得るだろうと思うのです。
もう一つは,①の目的のため必要な範囲内でというところで,先ほど中田委員がおっしゃったことに近いことになるのかもしれませんが,まさにその日とかその時期にピンポイントでどうしても,例えば収去又は修繕をせざるを得ないのだというときは,立入りを妨害することが違法になるということはあり得ると思うのですけれども,比較的余裕のある時期というか,一定期間内にやれればいいのだというときには,ピンポイントの日時,特定の期間に立ち入れないことがあったとしても,まさにその日,あるいはその期間に立ち入ることだけが必要な範囲内での隣地使用であるとはいえない,という考え方だってできると思うのです。
申し上げたいことは,種々いろいろな要件操作がされ,最終的にそんな訳の分からん結論になることは,少なくとも法律家の間では,ないのではないかと思います。そのことが法律の知識のない一般の人たちにどの程度うまく伝えられるかということが焦点であり,その意味では,余り物権法の範囲では見ないのかもしれませんけれども,中田委員がおっしゃった,「社会通念上必要な範囲内で」といった文言を入れることが可能であれば,それは一つの方策ではないかと感じました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
不法行為の成否そのものに関する言わば学理的,学問的な不法行為の要件論上の体系整理としては,ざっくり言えば,佐久間幹事がおっしゃったように,それほど簡単に不法行為が成立するはずがなくて,多くの事案において過失が否定されるでしょうし,しかし,問題の核心は過失の要件に依存するのではなくて,違法性阻却ができるか,あるいは体系のとり方によっては権利侵害の有無の問題として考えたときに,弁護実務のお立場における実際感覚で行くと,学者はそう言うかもしれないけれども,一体この①から③のうちのどこが否定されるから,権利侵害が否定され,又は違法性が阻却されるということになるかはっきりしていただかないと,弁護士会の先生方としては,どちらの依頼者の側に立ってアドバイスをするのでも困る場面が出てくるところから,そこの議論を明瞭にしてくださいという御要請であろうと受け止めます。
その上で,それに対し,どのようなお答えをしていくかということに関しては,今の①,②,③の並びだとしても,ここまでの御議論で明らかになった点は,②の趣旨,③の趣旨のようなものは,①とばらばらに存在するものではなくて,①の中の,取り分け目的のため必要な範囲内でという規範的概念の理解の中に吸収する仕方で総合的な判断がされるということになって,その判断の過程から得られる結論として,権利侵害が否定され,又は違法性が阻却されるという結論になるものでありましょう。
佐久間幹事のお言葉で言うと,法律家は普通そういうふうに判断するものであるから,やみくもに不法行為が成立することはありませんよというふうな話で論理が進んでいて,そこまでは弁護士会の先生方にも御理解を頂けると想像しますが,あとは,今のような説明で①,②,③として出している姿を理解しますと説明していくということで進めるか,もう少しそこのところが,法律家でない方々に対しても,より規範の内容が透視性を持つ仕方で文言の改良をしていくかというところに収斂されてくるであろうと感じます。そこのところを先ほど大谷幹事が,引き続き整理してみますとおっしゃいました。その観点から言うと,恐らく②,③を今の建て付けの基本は維持しながら,もう少しそこの言葉の関係を整理する必要があるかもしれません。
それから,もう一つは,①の柱書き本文のところの,取り分け次に掲げる目的のため必要な範囲内で,の文言について,何かベターな伝達の仕方があるかということは考えてみる余地があるかもしれませんけれども,法制的に難しいという限界がそこにもしかしたらあるかもしれません。それらの工夫をして,①,②,③の建て付けが余り変わらないというときには,大体狙っている結果は弁護士の先生方と民法の先生方がおっしゃったものと齟齬していないものですから,そういうふうに説明して理解してもらいますという進み方になるでしょうし,しかし,最初からそういうふうに決めないで,もう少し文言を工夫してみましょうというお話になっていくかもしれません。
悩ましい点は,少し場面が離れますけれども,賃貸されているアパートの窓が壊れたりして修繕の必要が生ずるときに,賃貸人が保存行為をしようとすると,契約に関する規定を参照しますならば,賃借人は拒むことができないという文言になっております。拒めば違法であると考えられます。賃借人の方に拒むか拒まないかの随意の恣意的な選択をする余地はないということを,法文は拒むことができないという言葉で伝えていますけれども,しかし,そうはいったって,拒むことができないのだからあなたのアパートに入っていくよと告げ,賃借人,どいていなさいとドカドカ入り,窓ガラスの修繕に賃貸人が業者を連れて入りますというふうになると,それは違法な自力救済以外の何物でもないのでありまして,そのとき正にその賃借人の方が,今,家に友達を招いてホームパーティーをしている最中であるから困ります,窓ガラスが壊れているところは直してほしいですけれども,明日にしてくれませんかというやり取りがされることになって,そのやり取りの全体が,賃貸借の場合には,契約及び取引上の社会通念という概念がいちいち書かなくても常に支配していますよということがバックボーンにあって,その拒んだ,拒まないのやり取りのところの相当性がこの概念を用いて判断されますというお話になっていくものでありましょうけれども,こちらは契約関係にない人同士の間のコミュニケーションの問題になりますから,少なくとも取引上の社会通念という言葉をここに入れようとすると,どんな取引があるのですかというお話になってまいります。そこで,取引上の社会通念そのものではないだけれども,中田委員がヒントをくださったように,社会通念ないし,それと類似の,法制上ここに可能な限り親しむ概念を探して,何か工夫するということはあるものではないでしょうかというお話になってくるかもしれません。
もう少し,ここの議事の整理を次回以降につなげていくために,委員,幹事がお気付きになっていることのお話を伺いたいと感じますから,何かありますればお話をくださるようにお願いいたします。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。今問題になっている部会資料55,第1の1③の要件は,道垣内委員の問題提起,中田委員のご指摘を踏まえて,私の理解では,同じく①と②では隣地使用の目的のために必要な範囲内で,かつその使用方法は隣地のために損害が最も少ないものを選ばなければならないとして,抽象的に定められていて,要件としては明確だけれども,具体的に何を意味するかということになると,隣地との関係によって多様性があるために,同じく③で隣地使用の目的,使用方法,日時および場所を具体的に示して交渉することを促すことにより,同じく①・②の内容を具体化して,土地所有者と隣地を現に使用する者との間の調整を図ることを可能にするという機能をもつものと思われます。
そのうえで,③が定める「通知」が法的に何を意味するかですが,これについては,部会資料55の2ページの下から6行目「他方で」から始まる段落で,この「通知」は相手方に相当期間を定めて応答を求める趣旨のものではないとして,その性格を明確にしていただいています。たしかに,隣地使用権である以上はそうであるとしても,やはりできる限りは,これから隣地を使いたいという土地所有者と,隣地を現に使用している者との間の調整を可能にするような「通知」である必要があるものと思われます。したがって,「通知」の方法については,この趣旨に照らして実効性があるものを工夫する余地があるように思います。
なお,先ほどから問題になっておりました不法行為による損害賠償との関係ですが,④の償金は土地所有者が隣地を使用する際の故意・過失の有無にかかわらず,したがって不法行為とは関わらずに,法定の権利である隣地使用権に基づく使用によって隣地の所有者または使用者に損害が生じたならば,その償金を請求できるものと理解しております。③の要件の具体的な行使の仕方として,やり方が悪かったら,それは不法行為になり得るけれども,その話と④の償金請求は別だと理解しております。例えば,隣地使用権の行使により,隣地の所有者または使用者が当該土地を10日間,20平米使えなかったということであれば,それは当然,損害があるから,償金を払ってくださいねという趣旨だと私は理解していますけれども,それで合っているかどうかということを確認させていただきたいと思います。
○山野目部会長 お尋ねの部分について,事務当局からお話をください。
○大谷幹事 今の点,償金の考え方はそのとおりだと考えております。
○山野目部会長 松尾幹事,お続けください。
○松尾幹事 ありがとうございました。
あともう1点だけ確認をさせていただきたいのですが,前回と同様の確認事項で,少しくどいようで大変恐縮なのですが,部会資料55の3頁,下から4~8行目で,土地所有者の所在が不明であるようなケースでは,隣地を現に使用している者はいないと評価することが可能であるという説明ですが,これは通知をしなくても隣地を使えるという理解でよろしいでしょうか。これについて前回,私は不明所有者にも公示による意思表示等の方法で通知すべきであるという意見を申しました。これに対し,それでもなお,隣地が所有者不明になっている場合には,それは通知なしに使っていいのだということであれば,そういう所有権の制限を受けるということについては,不明所有者の責務として,それは甘んじて受けてもらいましょうという説明をすることになると思いますので,その点だけ最後に確認させていただきます。
○山野目部会長 その旨は先ほど藤野委員との間で確認していただいたことの再確認であると感じます。
○松尾幹事 正に藤野委員が先ほどおっしゃった点でございます。
○大谷幹事 そうですね,所在不明の場合には通知が不要であるということを,ここで解釈として示していることになります。
○山野目部会長 松尾幹事,よろしゅうございますか。
○松尾幹事 はい,結構です。
○山野目部会長 部会資料55でお諮りしている事項について,ほかに御発言はおありでしょうか。よろしゅうございますか。
それでは,1ページの①,②,③,加えて④の関係について,今日は委員,幹事から活発な多くの有益な御指摘を頂きました。これを踏まえて整理をするということにいたします。深く御礼を申し上げます。
本日,3点の部会資料,53,54,55についてお諮りをし,実質的な審議をここで了したという扱いになります。
次回の会議の案内等につきまして,事務当局からお話を差し上げます。
○大谷幹事 次回の議事日程ですけれども,来年の1月12日火曜日,午後1時からということで,終了時間は最近のとおり,終了時間未定とさせていただきますが,場所は東京地検の15階になります。隣の建物の15階になります。最初の頃に使っていた所かと思いますけれども,法務省ではなくて検察のエリアの方になります。
テーマとしては,要綱案について御議論を賜りたいと思っております。
今年も大変な御協力を頂きまして,何度もおいでいただき,ありがとうございました。一応この部会は年内はここまでということになります。また来年,よろしくお願いいたします。
○山野目部会長 次回の会議の案内等は,ただいまお話を差し上げたとおりですが,この際,部会の運営につきまして,委員の皆様からお尋ねや御意見がおありでしょうか。
よろしゅうございますか。
本日は3点の部会資料,いずれも難度の高い論点が含まれておりまして,委員,幹事におかれましては長い時間にわたる審議に熱心に御協力を賜りました。深く重ねて御礼を申し上げます。
これをもちまして,民法・不動産登記法部会の第23回会議をお開きといたします。どうもありがとうございました。
-了-
まず,隣地使用権,民法209条の改正構想の関連につきまして御意見をお伺いすることにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。
○中村委員 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでの議論について御紹介したいと思います。
部会資料の御提案に賛成する意見がありました一方で,第21回部会でも御紹介いたしましたように,承諾請求構成ではなくて,隣地を使用することができるという構成を採ることについて反対するメンバーからは,現行の209条の下でも,例えば所有者の長期不在ですとか,介護施設に入所中などといった事情のある隣地に無断で立ち入って使用するといった事案が相当数見られるということから,部会資料の提案の構成を採ることになれば,更に問題が頻出することは避けられないのではないか,自力救済を排除することは一層難しくなるだろうという強い懸念が示されました。このように意見の分かれる中で,部会資料の提案をベースに幾らかの手当てをすることで,今申し上げました懸念を少しでも払拭する方策を採ることができないかという議論をいたしましたので,少し長くなりますけれども,御紹介させていただきたいと思います。
部会資料1ページの1項の①から④に関しまして,少し手当てをするという案といたしまして,まず本文②につきまして,①に掲げる目的によっては,現に使用する者に影響が大きい場合だけではなくて,土地所有者に主に影響する場合も考えられることから,②の「隣地のために」という文言を,隣地の使用者及び所有者のためにとしてはどうかという提案が一つございました。
それから,本文③について,大きく分けて2点あるのですけれども,一つは通知の内容についてです。前回の部会で中田委員,國吉委員からも御提案がありましたように,③で求める通知の内容をより具体的にする,すなわち③が定める通知の内容を「その旨並びにその日時及び場所を」という現在の定め方から,②に基づいて選択した使用方法と理由なども併せて通知させるというのではどうかという提案が一つございました。
その理由としましては,②の要件に基づいて,隣地にとって損害が最も少ないものとしてこのような方法を選びましたというようなことを通知の内容として含むことによって,通知を受けた者が,隣地使用権者が何をしようとしているのかということを具体的に知ることができますので,異論がある隣地所有者は返答をせずに放置するというのではなく,それでは困るとか,別の方法にしてくれないかという返答をすることになるなど,円満な隣地使用のためのコミュニケーションの契機ともなし得るものではないのだろうか,そのような理由が背後にございます。
もう1点は,通知の相手方についてです。①で選択される隣地使用の態様の如何によっては,使用者が負担を受けるケースと,主に所有者が負担を被るケースが考えられますので,現に使用している者だけではなくて隣地所有者をも通知の相手として含める,又は,第一次的には現に使用する者とし,現に使用する者がいない,又は通知することができない事情がある場合には,所有者を相手にするといったことを考えてはどうかという提案がございました。
さらに,さきにお伝えした懸念を払拭するために,より踏み込んだ修正をしたいとの提案もございました。本文①に,その必要性のみならず相当性の要件を加えてはどうかという提案が一つです。「次に掲げる目的のため必要な場合に,使用方法その他の事情に照らし相当な範囲で」といった文言を加えてはどうかというのが今の提案でございます。
もう一つは,更に理論的な考察を必要とするのですが,本文③と④の間に次に申し上げる2点を加えるという提案です。一つは,現行の234条2項を参考に,隣地使用者は使用の中止,変更を求めることができるといった規定を置くことはできないかという提案です。もう一つは,③の通知を受けた隣地所有者が日時,場所,使用方法につき異なる定めをするように求めることができる,とすることはできないかという提案でございました。
いずれにしましても,何とかこの提案をいかしつつも,懸念を払拭する道を探るということで,幾つか御報告させていただきました。長くなりました。
○山野目部会長 弁護士会の先生方が熱心に御討議を頂いた成果を御紹介いただき,誠にありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 今,中村委員から弁護士会の意見を申し上げましたが,それを補足する形で,確認と質問をさせていただきます。
今回の209条の改正によって,現在の実務と何が変わるのかについて関心があります。1点は,違法な自力救済が増えるのではないかという懸念ですが,これについては先ほど中村委員が申し上げました。もう一つ気になるのは,隣地使用権の行使を拒絶した隣地所有者ないし隣地使用者に不法行為責任が発生するのかという点です。
今回の改正の内容によると,本文①及び②の要件を満たせば,実体法上,隣地使用権が発生する。そして,③の通知によって行使要件も満たされます。このとき,隣地所有者ないし隣地使用者が,隣地使用権の行使を拒絶した場合には,故意,過失,損害との因果関係などの要件を満たせば,不法行為が成立するのでしょうか。
現在の実務がどうかについて,必ずしも網羅的に調査はできていないのですが,この点に関する裁判例として,例えば東京地裁平成15年7月31日,判例タイムズ1150号207ページがあります。その判旨を少し読み上げますと,「被告は原告らが民法209条の相隣関係上の義務を履行しないことを理由に損害賠償請求をする,しかし,民法209条は,土地の所有者が建物築造等のために必要な範囲においては,隣地の使用を請求することができることを定めているが,同条による隣地使用権は,その文言より,隣地の使用を請求することができる権利を規定しているにとどまり,土地使用に当たっては隣地所有者の承諾ないしはこれに代わる判決が必要であると解するのが相当である,そうだとすると,原告らが承諾等をしていない本件にあっては,原告らは被告に対し原告土地を使用させる義務を負っているということはできない。」とされ,原告の主張は前提を欠き,理由がないという判断がなされています。これは,現行の209条について請求権説に立ち,隣地所有者の承諾ないし承諾に代わる判決がない限り,隣地使用権の行使を拒絶しても,不法行為は成立しないことを明らかにした裁判例だと理解できます。もちろん,これは下級審判決の一つにすぎませんし,この裁判例の読み方も様々だとは思いますが,今回提案されている改正により,隣地の所有者が隣地使用権の行使を拒絶した場合について不法行為が成立するのかという点について,現在の判例実務が変更されることになるようにも思われますので,確認のための質問を差し上げる次第です。
○山野目部会長 お尋ねを頂きました。大谷幹事から事務当局の考えを御案内いたします。
○大谷幹事 ありがとうございます。今,蓑毛幹事から御指摘いただいた現行法の下級審判例の読み方,正におっしゃいましたけれども,いろいろな読み方があるのだろうと思っております。確かに承諾又は承諾に代わる判決がないという段階では通行権がないと,したがって不法行為は成立しないというような書き方がされておりますけれども,現行法でも,承諾に代わる判決を得られるということは,相手方に承諾をする義務があるのだろうと思われまして,その義務違反についての判示をしているものとも読めまして,いろいろな読み方があるのだと思っております。
したがいまして,現行法上,隣地使用の請求を実際に受けたけれども,それを拒んだというときに,それについて不法行為が全く成立しないのかというと,そういうことでもないのではないか。一方で,現在提案しております規律によった場合には,御指摘のとおり,使用権があるということになりますので,それを拒んだ場合には不法行為が成立し得るということになりますけれども,ただ,事前に通知を受けて,その日時,場所,方法等について争うケース,例えば必要性がないので隣地使用すべきでないという形で隣地使用者が争った場合に,それで直ちに過失があるとは限らないのだろうと思っております。要件について疑いがあるから正当に争ったというときに,使用を拒んだから直ちに不法行為になるということではないと考えられます。
○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けください。
○蓑毛幹事 よく分かりました。ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○今川委員 私は御質問なのですけれども,補足説明の(2)で,「隣地使用者が通知を受けても回答をしない場合には,黙示の同意をしたと認められる事情がない限り,隣地使用について同意しなかったものと推認され,土地の所有者としては,隣地使用権の確認や隣地使用の妨害の差止めを求めて裁判手続をとることになると考えられる。」という説明があります。単に回答しない場合や同意がない場合に,勝手にやってしまうと違法になるということで,非常に慎重になると思います。そして,黙示の同意があるかどうかということを判断するのは,かなり難しいと思います。結局,きちんとした回答がない限り使用しない,使用に躊躇するだろうと思います。実務上は,普通は,一定期間内に回答を下さいというような形で通知をするのだろうと思うのですが,例えば,一定期間内に回答がないものは同意したとみなして使用させていただきます,というような通知も実務上あり得るのかどうか,もし見解があれば教えていただければと思います。
○大谷幹事 今の点,2ページの補足説明に書いてあるところでございますけれども,これまでの御議論でも明らかなとおり,隣地使用者の利益というものを無理に奪ってしまっていいような権利だとは考えておりませんので,黙示の同意があると認めるためには,ケース・バイ・ケースではありますけれども,慎重に判断される必要があるのだろうと思っております。したがいまして,隣地を使用しますよという通知をして,それに対して答えなかった場合には同意したものとみなしますよと言っても,それは勝手にそういうふうに言っているというだけであって,だから同意したものとみなされるというわけではないのだろう。黙示の承諾があったと簡単に認めるわけにはいかないだろうと思っております。
○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。
○今川委員 はい,ありがとうございます。
○道垣内委員 日弁連の方から,第1の1について濫用が懸念されるのではないかということであり,懸念されるということ自体に反対をするつもりはないのですけれども,例えば,それの方策として,1の②のところを,隣地所有者とか隣地使用者という文言を入れますと,この隣地使用権の性格というものがかなり変容するのだと思うのです。つまり,相隣関係というところに第1と書いてありますが,日本民法上の相隣関係というのは所有権と所有権の調整の関係として出来上がっているわけであって,ある土地の現在の所有者と,隣地の現在の所有者,現在の使用者の間の調整規範として存在しているわけではないのだろうと思うのです。そういうふうな土地と土地との関係の話として規定するのではなくて,所有者対所有者の話として考えるのだということならば,そのように性質決定を変容するというのも,それが絶対駄目だというつもりもないのですけれども,少なくとも,かなり大きな変容であるということは認識すべきなのだろうと思います。
また,現在の所有者,現在の使用者という概念を出しますと,損害が最も少ないとかというふうなものの評価の仕方も実は変わってくるのであって,現在の使用者の使用形態というものを考えながら判断することになりそうです。実際にはそういうふうなことは判断せざるを得ないのでしょうが,建前の問題として,そのような現実の利用形態との関係が判断の基準になるのか,それとも,土地そのものの損害という概念で話をするのかによって,やはり違いは出てき得るのだろうと思います。
したがって,両方出せば調整がうまくいくという性質のものではないのではないかと思いまして,若干懸念するところがありますので,申し上げる次第であります。
○山野目部会長 弁護士会からの御提案の一部について,それを受け止めての御発言を道垣内委員から頂きました。ありがとうございます。
○佐久間幹事 今の道垣内委員がおっしゃったことと同じことを一つは申し上げようと思っていました。②のところの弁護士会がおっしゃった,「隣地のために」を,「隣地の使用者及び所有者」か,「又は所有者」のためにといたしますと,性質が変容するということと,考慮要素が変わってきてしまうということは思いました。
ただ,現実の使用者又は所有者の利益をより考慮しなければいけないのではないかというのは,私もそうかなと思っておりまして,それは③のところで酌むべき事情なのではないかと思いました。つまり,②は今,道垣内委員がおっしゃったとおり,相隣関係の性質上,このように客観的に二つの土地の状態から判断すべきであるところ,しかし,現実に使用するとなると,それはその時点の判断となるということから,③をより工夫する方が私はいいのではないかと思いました。
その上で,③について2点,意見,あるいは質問がございまして,1点は,「現に使用している者」の概念について,少し分からないところがございます。つまり,例えばですけれども,私は今ここにいるわけでして,土地を例えば京都に持っていたといたしますと,現に今,使用は正にはしていないわけです。宅地であるということだといたしますと,それはまあ宅地なのだから,一旦留守にしている程度だったらともかくということになるかもしれませんが,遊休地を持っているというときだったらどうなのかということが分からないと思いました。あるいは,今の私でしたら短期ですけれども,例えば別荘として使っている人などですと,不定期に行くことはあるけれども,それほど頻度は高くない,あるいは季節ごとにまとまって利用するけれども,そうでない期間の方が長いというふうなことになりますと,一体この「現に使用している者」としてどこまでを含むのかをある程度見通せるようにしておきませんと,なかなか困った問題も起こるのではないかと思いました。それと,弁護士会の方でおっしゃった,隣地の使用によって不利益を受けるのは使用者とは限らない,所有者であることもあるのではないかというのはそのとおりだと思うのです。そうであっても,現に使用している者が所有者でないときは,使用者に了解を取ることによって,それほど大きな問題にはならないような気もしてはおります。しかし,そのような者がいないときには,所有者にやはり連絡を取るということが求められるのではないかと思っています。ですから,現に使用している者は,これは別に文言を変えてくれということではありませんけれども,これだけで足りるのか,場合によっては所有者を,及びなのか又はなのかは分かりませんが,入れることがあっていいのではないかと思いました。
さらに,使用請求をする側からいたしましても,現に使用している人が,仮に別荘使用のような場合で,どこにいるか分からないときは,なかなか捜しようがないのに対し,所有者でしたら,例えば登記を見るとかいうことをすれば所在もつかみやすいというので,連絡するときに所有者が入っている方が便利な場合もあるのではないかと考えました。
さらにもう1点,すみません,長くなりまして,「あらかじめ」のところなのですけれども,これを,例えば「一定の期間を設けて,あらかじめ」とできないのかなとも思いました。どのぐらいの期間が適当かは分かりませんけれども,よほどの緊急性を要する場合を除けば,例えば一か月程度は定めて,「あらかじめ」というふうなことにすれば,先ほど弁護士会がおっしゃった,立入りは認めるのだけれどもその日はやめてくれ,こうしてくれというような事実上交渉だってするはずなので,その期間を確保するという意味でも,その方がよいのではないかと思いました。
○山野目部会長 前段の方で,現に使用している者の概念について,現段階の事務当局の考えがあれば聴いておきたいという部分がお尋ねでございました。後段の方でおっしゃった,通知をする相手方についても何らか事務当局としての所見があれば,付け加えていただいてもよいかもしれません。
○大谷幹事 現に使用する者という中には,恐らく所有者が使用しているものというのも入っていると考えておりまして,どういう場合に現に使用しているというのか,それは正にまたケース・バイ・ケースということになってまいりますけれども,例えば,建物を建てて所有していて,塀に囲われている土地があるとして,そこに常に住んでいるわけではないというようなときに,やはりそれはその建物を,土地を使用していると評価するのではないかと思われますので,そういう場合には所有者の連絡先を調べて,所有者に対して通知するということになるのではないかと思います。季節的に使うときもあれば使わないときもあるというのも,これもやはりケース・バイ・ケースになりますけれども,現に使用していると評価されることも多く考えられるのではないかと思っております。
それから,「あらかじめ」については,隣地使用の目的の中にいろいろな場合が書かれておりますけれども,例えば工作物の修繕などというときに,急いでやらなければいけないということもあり得るところから,決まった日時,決まった期間を置いて通知をするということを規律するのはなかなか難しいかなと考え,このような形にしているところでございます。
○佐久間幹事 後段の方は,そういうこともあるかなと思いました。
「現に使用している者」について,今の答えは,それはそれでもよろしいのかとも思いますけれども,しかし,そうだとすると,例えば建物を所有していて,それこそほったらかし,何年も放置しているというような場合もここに含むということでしょうか。「現に使用している」ということで。私は,それだったらそれで別にいいと思うのですけれども,案外,今までの議論とか,今回の資料の補足説明で,使用している人の言わば現実の利益を守るのだというふうな形での説明からすると,そういうのは余り入らないのかなと思っていました。ですから,それだったらそれで分かりましたと思いますが,本当にそれでよろしいのですか,というとあれですけれども,もう一度確認させてください。
○大谷幹事 今のも,やはりどういう場合を念頭に置くかによっていろいろ変わってくるように思います。ずっと放置をしていて,物は置いてあるけれども実際に使用していないと評価できるような,朽ちた元建物みたいなものがあるだけだとか,そういうようなときに使用していると評価するのかというと,それは評価しないということはあり得るのではないかと思っています。
○佐久間幹事 そうだとすると,念のため所有者は入れておいた方がいいのかなと,やはり判断が難しい場合があると思うのです。お隣を使用している人はいなさそうだな,あるいは余りいないなということは分かっても,その人が現に使用しているのか,していないのかというのは調べてみないと分からないところだってあるわけなので,「及び」なのか「又は」なのかは,私はどちらもあるかなと思っているのですけれども,所有者を入れておいた方が,場合によってはいいのではないかと。あるいは,現に使用している者がどういう権限で使用しているかというのも,立ち入りたい方からすると,本当には分からないことがあるのではないかとも思います。強い意見ではありませんけれども,そういうふうに思うということです。
○山野目部会長 佐久間幹事の問題提起を理解しました。現に使用している者の概念との関係で,所有者の扱いをどうするかについて,本日の部会においても引き続き,委員,幹事に御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。これまでこの第1の1の隣地使用権の③の表現に関しましては,催告という文言が使われるなど,いろいろな変遷を経てきておりましたが,前回の部会資料からは,通知という表現になっておりましたので,これが届くかどうかという問題はあるものの,実際に到達すれば,それで要件を満たすのではないかと思っていたところはございます。
ただ,先ほど今川委員からも御質問があったとおり,補足説明の2の(2)のところで,通知を受けた隣地使用者が回答するかどうか,要は同意したと認められるかどうかというところがかなり重たい要件として書かれているように見受けられるところもございますので,これを前提に,この場面においての隣地使用者の同意の意義について,今,事務局の方でどのような位置付けでお考えなのかというところを改めて確認させていただければと思っております。
隣地使用権の内容として挙げられている使用態様は,基本的には類型的に隣地との関係を調整するために必要な最低限のものということで限定列挙されているわけでございますし,例えば,隣地の所有者が鉄条網を張って,絶対に立ち入らないでくださいと言っているようなところに,それを切って乗り越えて入るとかという話になってくれば,それはもう完全に平穏を害するということなので駄目だ,というところは,209条の解釈として,現在でもそういうことになっていたかと思うのですが,そういう平穏を害するような態様ではないというときに,どこまで明示的な同意というものにこだわる必要があるのかという点については,正直,実務的な感覚からすると少し疑問を感じるところでございます。実態としては,お隣さんの関係の中で,お互い黙示の同意が成立しているような場面の方がむしろ多いのではないかというところがございまして,外形上明らかに隣地所有者に拒む意思がないといえるような場合であってもなお,通知に対する明示的な回答,同意というものを求めるのかどうかというところは,少し確認をさせていただきたいというところでございます。
あと,隣地使用権の規律を改めることで紛争が惹起されるという御意見は,前回から伺っていて,なるほどと思うところもある一方で,逆に,今こういう規定がないことによって,常識的に考えればここは日常的な土地の管理のために何かできることを少しだけやっておきたいというような場面でも立ち入れないとか,あるいは長年の慣習の中で,お互いに隣地を暗黙の同意の中で使っていたのに,ある日突然,隣地の方が態度を変えて,自分の土地の中に踏み込んでいたではないかといって紛争になるとか,そういったような,今提案されているような調整規定がないことによるトラブルというのも現にあるのではないかと思っています。したがいまして,紛争を惹起するかどうかということに関しましては,新たな規律を設けることによって惹起される紛争もあるかもしれませんけれども,逆に,規律がないことによって惹起されている紛争も現にあるわけで,それが,裁判所まで持ち込まれるような話かどうかというのは別といたしまして,私自身もそういう事例を経験したことはございますので,その点については中立的に考える,ということで良いのではないかと思っているところです。
いずれにいたしましても,この隣地使用権そのものが,通常,土地を管理していく中で,必要最低限のことを,なるべく重たい負担,手続負担なくできるようにすべきではないか,というところから出発している話だと理解しておりますので,そういった考え方に沿った形で条文が作られて,解釈がなされるという形が望ましいのではないかと思っております。
○山野目部会長 後段の意見は承りました。前段において,黙示の同意ないしは同意という概念が補足説明で用いられていることとの関連でのお尋ねがありました。
○大谷幹事 この隣地使用権の成立につきましては,現在提案しております①と②の要件を満たしておれば隣地使用権自体は発生をし,③の手続的な行使要件を満たせば適法に使用できると考えられるところでありますけれども,これも自力救済との関係について補足説明で書いておりますが,隣地使用者がいるときに,明示の承諾がなく隣地使用権が発生し,行使要件を満たしたので無理やり立ち入ることができるかというと,そういうことではないのだろうと。承諾なく入る場合には違法な自力救済と評価されて,不法行為ということもあり得るところでございまして,そのようなことがないように,使用の平穏を害さないように入っていく必要があるだろう。その意味で承諾をしている,同意をしているというのは,不法行為が成立しないように平穏に入っていくために必要で,法律上必要なものというよりは,自力救済との関係で必要だということと理解をしております。
○山野目部会長 今,大谷幹事の言葉の中に,法律的な意味ではなくてという表現がありましたが,正にそのとおりで,ここの同意は法制上の概念としての同意ないし承諾ではなくて,立入りないし隣地使用を阻む意思を有しないということを伝えるという契機をある種,比喩的に述べている側面があり,少し議論を混乱させたかもしれません。藤野委員,よろしゅうございますでしょうか。
○藤野委員 はい,今の御説明で非常によく分かりました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○中田委員 ありがとうございます。今回これがテーマになっていますので,少し調べてみました。恐らく皆様よく御存じのことだと思うのですけれども,私は知らなかったものですから,念のため御紹介したいと思います。
この209条は明治時代から非常に激しい議論があった条文でして,旧民法は,隣地に立ち入ることを求めることができる,と規定していたのですけれども,現在の民法に改める法典調査会で,隣地に立ち入ることができる,という原案が示されました。しかし,激しい議論がありまして,結局旧民法と同じく,隣地に立ち入ることを求めることができるに戻されました。正確に言うと,立入るを求むることを得,ですけれども。この表現が最終段階の整理会で,隣地に立ち入るだけではなくて,足場を設けたりすることもあるからということで,使用を請求することを得,に修正され,これが現在の規定になっているわけです。
この経緯を振り返りますと,今回の提案は三つほど特徴があると思います。一つは,使用請求を改めて,使用することができるにしたということです。これについての議論は,法典調査会の原案の段階での議論と同じようなものだと思います。
2番目は,法典調査会の当初の議論は,立ち入ることができるとするのか,それとも,立ち入ることを求めることができるとするのかという,立入りという一時的で定型的な行為についての議論だったわけですが,今回の提案は,その後,立入り請求から使用請求に広がった後の規定を前提として,当然に使用することができるとするものでありまして,より広がっていると思います。
それから,三つ目に,明治時代の建物の築造工事と現代の建物の築造工事とでは規模や期間も大きく異なっておりますので,隣地所有者の負担が大きくなり得るということがあります。
そういう目で今回の提案を拝見しますと,今回の提案では,いつどのような権利が発生しているのか,あるいはいないのかが不明確になっていると思います。これは現行の209条の下でも,「必要な範囲内で」という要件に多様な要素を読み込もうという解釈がありますが,多様な要素が入るのだけれども,使用請求というプロセスが入ることで調整されるということが期待できたわけです。
今回の御提案でも,「次に掲げる目的のため必要な範囲内で」とあるのですけれども,しかし,立入りではなくて使用とし,かつ,請求ではなくて当然にということにしたために,要件の明確化が一層必要になっていると思います。実際,各種の法律に類似の規定があるわけですが,例えば道路法とかですね,かなり要件を絞って,手続も慎重にしています。その対象も,他人の土地の立入りと一時使用とか,こういうように限定しているわけです。それに対して,今回の提案は非常に広いものですから,要件か効果か手続か,どこかで絞った方がいいのではないかと思います。
例えば要件ですと,先ほど弁護士会の方から相当性という御提案がありましたけれども,例えば,「次に掲げる目的のために必要があるときは,相当の範囲内で」とするとか,あるいは,先ほど大谷幹事からお話のございました,①と②が要件であるということでしたけれども,②が要件なのかどうかというのは少し分かりにくいところがあるので,むしろ②を積極的に要件の形で取り入れるとするとか,あるいは効果ですと一時使用にするとか,あるいは手続ですと,請求構成にした上で隣地所有者に承諾義務を課するとか,いろいろなやり方があると思うのですが,特に,要件が不明確であるために,その権利があるかないか自体がはっきりしないという,それが一番大きな問題ではないかと感じております。
○山野目部会長 ありがとうございます。中田委員におかれては,起草時の事情を御紹介いただき,それを踏まえて具体的な提案,御注意を頂きました。御礼を申し上げます。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。前回の第21回会議でこの点について,隣地が所有者不明だった場合を前提にして質問させていただきましたので,その点との関係で1点確認をさせていただきたいと思います。
前回の部会資料51の提案と違って,今回の部会資料52の提案は,通知の相手方として,隣地を現に使用する者のみとされ,隣地の所有者が削除されています。これは,所有者不明の場合を前提にすると,誰にも通知することなく使えると読めてしまいますけれども,それでいいかどうかという点の確認です。
例えば,建物を建築する足場として隣地を20平方メートル,1か月間使いたいが,賃料相当額だと5万円相当だというような場合,隣地を使用している者が見当たらず,所有者も不明という場合において,明らかに財産上の不利益を与えているときも,何ら通知をすることなく使っていいかどうかということについては,既に議論が出ておりますけれども,私も少し引っ掛かりを覚えます。
前回,通知の相手方が隣地の所有者及び隣地を現に使用する者となっていましたので,所有者不明の場合でも公示による意思表示でいいだろうということで確認をした点ですけれども,今回,その点は,何ら通知をしなくても使えるということに変更されたように見受けられます。もちろん,隣地使用権の制度が所有者不明の場合に使いづらいものになってしまっては,本末転倒です。この点も十分考慮して,実行可能な手続を通じてきちんとやるべきことをやっていれば使えるのだというルールを設けることについては,全く賛成でございます。その手続として,さほど大きな負担を課すものでなければ,通知の相手方に所有者を入れておく方がよいのではないかと思いました。
○大谷幹事 ありがとうございます。前回,確かに所有者に対する通知ということを求めて,それを今回,外しておるわけですけれども,前回,実務的にもなかなか所有者を全部捜すというのは大変だという御意見があったことも踏まえて,こういう形にいたしました。また今日,お話を伺っておりますと,所有者に対する通知が必要だという御意見が複数あるようでして,もう少し検討したいと思います。
中田委員から御指摘がございました起草時のお話,それから,この解釈の在り方,立法の在り方ということですけれども,今回の209条の改正の趣旨としては,元々ずっと御審議をお願いしておりました,隣の土地の所有者が所在不明になっているようなときでも,裁判を使わずに隣の土地が使えるようにするということを一つの眼目として検討をお願いしてまいったわけでございます。現行法の書き方,隣地の使用を請求することができるとしたときに,それは裁判をしないと絶対に駄目なのかどうか,これは恐らく議論の余地があって,先ほども少し御紹介がありましたけれども,実際には裁判をせずに入っている場合もあるのではないかというような御指摘もございました。その辺りをどのように考えるのかが現行法でははっきりしないだろうということで,これをきちんと規律を設けるとすれば,そして,現行法の精神を害さないような形で設けるとすればどうなるかということで,御提案を申し上げているところでございます。
使用することができるとしたところで,必ず隣地使用者,所有者かもしれませんけれども,一定の事項を通知しなければならないという形で,現行法よりも具体的に通知を行う,通知を受けた相手方としては,それは嫌だと思えば差止めを求めることができますし,拒絶することもできるということだろうと思っております。ですので,必ずしも現行法の規律を緩めるというようなことで考えているのではなくて,より具体的に規律を設けて,隣地の使用者,所有者についても争う道を現行法よりも広げるという方向で考えてはどうかということで御提案を申し上げているところでございます。
いずれにしましても,中田委員から複数の御提案を頂きましたので,また検討させていただきたいと思います。
○山野目部会長 松尾幹事,よろしゅうございますか。
○松尾幹事 ありがとうございます。隣地使用権という制度を請求権ではなくて文字どおり使用権と構成した場合には,一種の強制使用権を設定する要素もありますので,その場合は,例えば公共事業の場合でも,所有者に対する一定の手続をとっていることとのバランスも考える必要があると思いました。ただ,大谷幹事がおっしゃった,今回の提案の趣旨ということについては十分理解しているつもりです。
ちなみに,部会資料52の4の管理措置権のところでは,不明所有者に対する手続的配慮もされていますので,やはりそれとの関係でも少しバランスをとった方がいいのではないかと思って,発言をいたしました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
隣地使用権について,ほかに御意見はおありでしょうか。
○國吉委員 ありがとうございます。私ども土地家屋調査士の場合ですけれども,隣地を使用させていただくということの目的,第1の1の①に書いてありますけれども,この目的のために使用するということが大前提なわけです。この目的というのは,恐らく相隣関係の基本だと思うのですけれども,当然ながら,こちら側の所有者の利用を考えると同時に,隣地の方のための利用も考えていかなければいけないということだと思います。それは何かというと,当然ですけれども,争いをなくしたいということの大前提だと思っています。
ですので,いろいろ弁護士会さんの意見などもありますし,私どもも目的とか,特に,最終的な,例えば境界標の調査であれば,所有者さんに境界の確認,承諾,同意を得るという最終的な目的があるわけですので,その辺の最終的な目的のために,紛争を生じさせないとか,そういったものを是非考慮に入れていただいて,今後また議論を進めていただければと思っています。
○山野目部会長 御注意を承りました。
ほかに御意見はおありでしょうか。隣地使用権について,部会資料52でお出ししている範囲について,引き続き御意見を承ります。
○藤野委員 すみません,先ほどの発言の機会に申し上げられなかったのですが,通知の相手方を隣地所有者にするか,現に使用している者にするかということにつきまして,前回の部会の際には,所有者だと手続が重すぎるのではないかと申し上げた次第で,今回それが反映されて,このような案が非常によいなと思っておりました。今日は所有者を通知の相手方にする方がいいのではないかという御意見も多いようですが,実務的な,本当に現場レベルの実務の感覚で言うと,やはりここの隣地使用権のところに関しては,所有者ではなくて,現に使用している者を通知の相手方とする,ということでよいのではないか,結局,現に隣地を使っている人の平穏を害さないというところに重点を置くべきではないかと思っていますので,そこを改めて申し上げたかったのと,次で議論されるであろう管理措置請求との比較の観点からも,要は,隣地の所有者に対する制約の程度の違いによって,通知が土地の所有者にまできちんと届くようにするか,あるいは現に使用している者に通知すれば足りるか,ということを使い分ける方が,むしろ制度趣旨が明確になるのではないかと感じているところでございます。以上,意見として申し上げました。
○今川委員 所有者への通知というお話が出ています。我々の検討チームの中でも話をしていたのですが,補足説明では,実際に隣地を使用する者がいない場合でも,紛争を防止するために,隣地所有者への通知がされることが多いだろうと説明されています。しかし,規律として所有者への通知が入っていないとすると,実務的な問題としまして,佐久間幹事も少しおっしゃったかもしれませんが,その所有者を捜すという作業ができないのではないか。つまり,念のためにということでは,公的な資料の調査をする権限がないのではないかと。ですから,ここで書いている隣地所有者への通知というのは,単に登記簿上の住所,氏名に宛てて形式的に通知をすることでしかないので,実際に隣地を現に使用する者がいない場合は,そのまま使用することが多くなるのではないかという意見が多かったです。
○山野目部会長 司法書士会の御意見を承りました。
ほかにいかがでしょうか。部会資料52で提示申し上げている隣地使用権については,本日段階でお寄せいただく意見を受け止めたと考えてよろしゅうございますか。
そうしましたならば,部会資料52の第1の「1 隣地使用権」の項において提示申し上げている,使用権として考えるという法的構成を基本とする提案については,委員,幹事の御議論を受け,それを理解していただいている側面も大きゅうございますけれども,それとともに,繰り返しませんけれども,なお心配を抱く点が種々あるということが分かってまいりました。中田委員に観点を整理していただきましたように,仮にこの使用権構成で進むということになる場合におきましても,その細部を更に点検し,要件,手続,効果のそれぞれの観点から見て適切な絞りを与えることができるかどうかをなお探る必要があると感じます。新しい部会資料を用意した上で,引き続き委員,幹事の皆様に御審議を頂く機会を設けたいと考えます。隣地使用権についての本日段階の審議をここまでといたします。
続きまして,部会資料3ページから始まっております「4 他の土地等の瑕疵に対する工事(いわゆる管理措置)」についてお諮りをいたします。以前の部会資料におきましては,管理措置請求権というラベルで呼んでまいりました。そちらの方が思い起こしていただきやすいかもしれません。しかしながら,他の土地等の所有者に対して何かの行為を請求するという法的構成ではないものを本日は御提示申し上げておりますところから,管理措置請求という「請求」という言葉を入れて呼ぶことが内容を適切に表現していないと考えられるため,この部会資料において括弧書きで,いわゆる管理措置というふうな仕方の御案内をしているところでございます。これにつきまして,委員,幹事の皆様方の御意見を承ります。いかがでしょうか。
○中村委員 日弁連のワーキンググループでは,これについても賛否が分かれました。賛成意見がありましたけれども,これについても,従前お伝えいたしましたことの繰り返しになりますが,瑕疵という用語をもう少し分かりやすくできないかですとか,瑕疵との語の代わりに,例えば,管理が社会通念上不相当であることにより,などとしてはどうか,などの指摘がなされておりました。
反対意見では,要件,効果が抽象的にすぎ,自力救済を誘発するのではないか,隣地使用権よりも更に懸念が大きいとの指摘がありました。資料49で,甲案,乙案のほかに(注1)として挙げられていた請求権構成に近い形の方がよいのではないかというような意見でした。また,第20回の部会の議論では,資料49の甲案を採る場合,今回,甲案ベースですけれども,その場合には要件,効果をしっかりと絞る必要があることの指摘がかなり出ていたかと思いますが,今回御提案は,例えば急迫,緊急の場合に限定するようにはなっておらず,一般的に働き得る大きな作りになっているわけですが,要件,効果に絞りが掛けられていないように見受けられますので,引き続きここのところの工夫ができないかという意見がございました。
また,手続に関する②につきましては,これも先ほど議論しました1との対応もありますが,1の②と同じように,日時,場所のほか,工事の内容なども通知したり,土地所有者の変更提案への対応も検討してはどうかなどといった提案もありました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き承ります。いかがでしょうか。
○今川委員 我々司法書士の中でも,先ほど弁護士の方がおっしゃったように,工事の日時及び場所と内容も通知するという規律を置くべきではないかという意見がありました。
それから,先ほど佐久間幹事がおっしゃったのですが,②であらかじめ通知をするということになっていますが,大きな工事がされる場合もありますので,そのあらかじめの期間について一定程度の規準を示すべきではないかという意見があります。それと,補足説明では,原則として土地の所有者が工事を行うべきと考えられるので,その機会を与える趣旨も含むという説明がされています。であれば,やはりそこで一定の期間というものを置くべきではないか,例えば,一定の期間内に回答してくださいというような通知を実際はすべきではないだろうかと思います。規律では単にあらかじめとしか書いてありませんので,期間も規律した方がいいのではないかという意見がありました。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。こちらのいわゆる管理措置につきましては,前回申し上げた瑕疵の対象の表現の部分を含めて,今回,反映していただき,非常によいものになったのではないかと思っております。
確かに要件の絞りといった点に関しては,より要件を明確にすべきだという御意見はあるとは思うのですが,実際のところは,やはり土地に損害が及び,又は及ぶおそれがあるときは,という要件が,かなりここでは重たいというか,重要な意味を持つものになると思っていますので,そういう場面である限りは認められるべき,というか,それ以上厳格にすると,かえって予防できるものを予防できなくなるというところも懸念されるのではないかとは思っております。通知先に関しても,基本的にはきちんと土地の所有者に通知するというのが原則となっておりますし,そういった点や,管理措置が適切に採られなかったことによって起きる弊害の大きさも考えますと,これくらいの規定の方が好ましいのではないかと考えているところでございます。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。前回これと同様の提案が審議されたときに,私は物権的請求や占有の訴えとの関係からすると,前回の甲案,今回のこの案は適当ではないと思うと申し上げました。今回の整理は相隣関係上の規定として専ら考えるということですので,前回そう申し上げましたけれども,私はこれでもいいのかなと思っています。
ただ,物権的請求や占有の訴えが可能な状況を規定の対象とするということは変わりがないはずだと思うのです。そうだとすると,資料にも書かれていますけれども,占有の訴えは明らかと思いますが,物権的請求の内容が行為請求であるということを例えば前提といたしますと,多分それで一般的にはいいと思うのですが,そうだといたしますと,まずは普通に考えたら,行為請求がされた,物権的請求でされた,けれども相手が応じないというときに,相隣関係上の権利として発動するというか役に立つ,これはそういう規定なのだろうと思います。そうだとすると,②のところが,補足説明にも書かれていますけれども,相手に対応する機会を言わば与える役割を持っているということに私はなると思いますので,この②がその役割をきちんと果たせるようにすべきだと思います。
「あらかじめ」ということについては,先ほどの1の隣地使用権のところで,期間を明示することは難しいという大谷さんからのお答えがあって,それは分かりましたと申し上げましたが,ここもきっとそうなのだと思うので,期間は明示するのは難しいのかもしれないですけれども,どう言ったらいいのか分かりませんが,好ましいというか,本来そうすべきであるということで言えば,かちっとした期間の定めはないけれども,相手方が対応する十分な期間をもって,という意味で受け取るべきであろうと思っています。相手がそれでも対応しないということになると,①の要件は,繰り返しになりますが,物権的請求なども可能であるという状況なのであるのだから,そのことを前提として,余り詳しく書き込むことは難しいし,適当ではないのではないかと思っています。
○山野目部会長 松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。この通知の意味に関して,先ほどの隣地使用権の場合と共通する部分かもしれませんけれども,再確認させていただきたいと思います。この通知ということについて,隣地の所有者及び使用者の何らかの回答を求めるべき性質のものなのかどうかということの再確認です。
回答,あるいは確答を求めるべき催告のような意味を持つのだとすると,やはり何か返事は必要で,通知をしたけれども何ら返事がないのに勝手に使ってしまうのはまずいということであれば,これは確答を求めるということを期待した通知であると思われます。そういうことになると,これも先ほど来,議論されておりますように,相当の期間を定めて催告をして,確答がないときには,反対しないということを擬制するのか,反対すると擬制するのかが問題になります。この場合,管理不全土地についての管理措置権ということであれば,相当期間内に確答がないときは反対をしないものと擬制をするというルール作りもあり得るかなとは思いました。いずれにしろ,この通知の法的な意味がやや曖昧なので,そこはいずれ明らかにせざるを得ないのではないかという気がいたします。
しかし,いずれにしても重要なのは,これが紛争を回避するためのルールだということです。つまり,隣人との間なのだからなるべく円満に使えるようにしたい,だからなかなかはっきり書けないという事情もあると思うのですけれども,そういう趣旨を活かして,このルールをもう少し明確に書けないかというところが重要なところだと思いますし,現在の議論の焦点なのではないかと思います。
例えば,この通知において,先ほど来出ていますように,期間とか場所だけではなくて,使用目的とか方法を書くということについて,私は賛成ですが,例えば所有者も使用者も容易に見つからないので,使用目的,方法,場所,期間を書いた看板を現場に設置し,相当期間,例えば1か月経っても何も言ってこない場合は管理措置をしうるというようなやり方では駄目なのか,あるいはそういうやり方もあり得るのかという形で,隣人との紛争を回避しつつ,しかし必要に応じてこの土地を利用していけるような,そういうルール作りができないものかと思いました。その意味で,この通知の法的な意味について少し確認したいという質問でございます。
○大谷幹事 通知の法的な意味については,少し補足説明の中で,催告的な意味があるということ,相手方がまずは工事を行うべきであると考えられるから,その機会を与えるということを書いておりますけれども,やはりこの管理措置の工事権というのは①の要件があれば発生するし,②の通知をすればそれが適法に行使できるということになる,この意味では先ほどの隣地使用権と同じような構造かなと思っておりますので,確答を求めるというような趣旨ではないし,嫌だと言われれば,やはり同じように違法な自力救済は許されないという方向になると理解をしています。
先ほどから,隣地使用権における通知の内容とこちらの通知の内容が違うという御指摘,同じようにすべきではないかという御指摘がございました。こちらの提案の趣旨といたしましては,隣地使用権の際には自分の土地を一定の目的のために使用する際に,隣の土地を使わなければならないという場面でございますので,自分の土地で工事をする際にどの程度相手方の土地に入らなければならないのかとかいうことが自分である程度分かるということに対して,こちらの管理措置の場合には,相手方の土地の中でどこにその瑕疵があるか明確には必ずしも分からないという中で,場所等をきちんと特定して相手方に通知するのが難しいというところもあるだろうということで,そういう趣旨も含めまして,規律の内容を変えて提案をしているというところでございます。
○山野目部会長 松尾幹事,お続けください。
○松尾幹事 失礼しました,期間とか場所とかというのは,私は先ほどの隣地使用権の方が少しまだ頭の中に残っていて,そちらを前提に話をしてしまったので,この管理措置権に相応しい内容の通知という意味では,必ずしもこの二つの通知の内容は同じでないということについては納得いたしました。その上で,しかし,通知の法的な意味については,やはり共通の問題があるのではないかと考えています。
○中村委員 今の②の通知について,1と同じように考えてはどうかと先ほど申し上げましたところ,今,大谷幹事から御説明があったところなのですけれども,大谷幹事の御説明自体は理解できるところなのですが,そうは言いましても,では最初に立ち入るのはいつなのか,そこで事情を把握した上で,どのぐらいの範囲,期間になるのかというようなことを,隣地に通知していくべきだろうと考えて,先ほどは申し上げました。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。今の,何を通知するのか,隣地使用権と同じようにした方がいいのではないかということに関連するのですけれども,この原案にはありませんけれども,確か弁護士会からの御提案で,1の③については目的も書くということでしたよね,確か立入りの目的みたいなものも記してはどうかということでしたよね。
○山野目部会長 使用方法や理由を述べて,と。
○佐久間幹事 そうです。それで,使用方法や理由を述べるというのは,隣地使用権の場合は①で権利が発生するわけですから,その権利発生の根拠を示すということに多分なるのだと思うのです。それだけではありませんが,そういう面もあるのだと思うのです。そうだとすると,4の②の通知のところも,①が権利発生の要件で,私はそれでいいと思うのですが,その要件は何かというと,「瑕疵がある」ということが一つで,その瑕疵は,大谷さんがおっしゃったとおり,行ってみないと分からんというのはあると思うのですけれども,「自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある」というのが,もう一つ要件であって,これは自分のところで分かっていることだと思うのです。だから,私はこれを明示することにした方がいいのではないかと思っています。そうすることが結局,先ほどの私自身の発言につながってしまうのですけれども,物権的請求や占有の訴えで,本当はこの損害の除去,又は損害発生の防止を自分はしてほしいのだというときに,何をしてほしいかを求めるということをはっきりさせるという意味もあり,かつ,それが相手によって実現されないときは,自分が入っていって瑕疵を調べ,除去しますということにつながるので,そのようなことを盛り込むことは考えられるのではないかと思います。
○山野目部会長 引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
大体この4の管理措置について,御意見をお出しいただいたと認識してよろしゅうございますか。
そういたしましたならば,一つ前に御審議を頂きました隣地使用権について所要の見直しをして再度の提案を差し上げるに当たっては,当然のことながら,それと関連させながら整合性をとれるような仕方で,今し方御審議を頂きました4のいわゆる管理措置につきましても,改めて提案を調える必要があると感じられます。次の機会に,またそのようなものを盛り込んだ部会資料をお示しするということにいたします。
初めに,部会資料51の中の「第1 相隣関係」の部分について御審議をお願いいたします。相隣関係の部分につきまして,本日は「隣地使用権」,「竹木の枝の切除等」,それから「継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権」,これらの事項についてお諮りをすることになります。相隣関係に関する事項として審議すべき事柄としては,このほかに管理措置請求権の問題がございますけれども,これについては次回以降,審議をお願いするということにいたします。
それでは,御案内申し上げた相隣関係の部分につきまして,委員,幹事の御意見を承ります。どうぞ御自由に御発言ください。
○橋本幹事 ありがとうございます。第1の関係について,日弁連の方で検討した状況も踏まえて御報告します。
まず,1の「隣地使用権」ですが,今回,今までと違って隣地を使用することができるというふうな構成に変わったと思いますけれども,従前は承諾を求めることができるというような,現行の民法209条の請求できるという請求権的な構成で議論が進んできたと理解していたんですが,今回は,仮に形成権的構成と呼びますけれども,ちょっと構成が大きく変わっているということで,日弁連で議論した中では,一部,この形成権的構成でいいんだという意見もありましたが,おおむね反対の意見が強かったです。やはり請求権的な構成で従前の議論を踏まえて進めるべきであろうと。そうじゃないと,こういう法文ができると,それを一般の人が見て,隣地使用していいんだというふうに理解して,どんどん勝手に入っていってやってしまうと,自力救済を誘発することになってしまうのではなかろうかということで,やはり請求権,請求をすることができるというところからスタートするのが穏当ではないかというような意見が大勢でした。
それから通知の相手方ですけれども,形成権的な立場に立つ意見でも,前回部会資料46のときにも議論になりましたけれども,通知の相手方を所有者及び占有者,両方という方向にすると,現状よりもちょっと使い勝手が悪くなるのではないかという意見もありました。
それから,2項の竹木切除については大きな反対はありませんで,基本的に賛成です。前回までの資料であった落下した果実の処分については,これは落とすと,落とされたものと理解しますけれども,それも含めて賛成ということです。
3番目の継続的給付を受けるための設備設置権等ですけれども,この点についても1の「隣地使用権」と同じように,請求権的構成にすべきだという意見もありましたが,ここは賛否が分かれまして,今回の提案で賛成であるというトーンがどっちかというと有力だったように思います。既に下水道法の規律がありますし,判例もありますので,導管設置に関しては形成権的構成でよいのではないかと。ただし,その場合も,3の①「電気,ガス又は水道水の供給その他これらに類する」と,「これらに類する」というのがちょっと広すぎないですかという指摘がありました。もうちょっと限定して,例えば「その他生活又は事業の維持形成にとって不可欠な」というような感じで絞る必要があるのではないかという意見がありました。
○山野目部会長 橋本幹事におかれましては,弁護士会の先生方の御意見をお取りまとめいただき,ありがとうございます。
ただいまのお話を伺っておりますと,取り分け隣地使用権や設備設置権などにつきましては,二つに分けて申し上げれば,前回までの部会資料に基づく議論と実質を変更するものではないかという御理解に立ち,これが一つですが,それを前提に,弁護士会の先生方の御意見を取りまとめたところ,少なからぬ反対があったという点がもう一つでございますけれども,そのような御議論の状況の御紹介がありました。
これについては,この後のこれらの論点に関する審議を進める上でも,事務当局から説明が一旦あった方がよいと感じますところから,ただいま今川委員もお手をお挙げになっておられ,今川委員の御発言を受けた後で事務当局から,それまでに出された観点についての所見を披瀝してもらうことにいたします。
○今川委員 私は「第1 相隣関係」の「隣地使用権」について,一つ確認と,一つ意見を言わせていただきます。
まず,所有者と隣地使用者の双方に対して通知をしなければならないというふうにここは明記されたのですが,部会資料46で説明されていたとおり,所有者が所在不明の場合は公示送達を利用するということでよろしいですねという確認が1点です。
それと,③の「ただし,あらかじめ」うんぬんというところですが,この部分は事情によっては事後の通知でもよいという規定なんですけれども,部会資料46では,著しい損害又は急迫の危険を避けるためという表現が使われていましたが,今回,「あらかじめ通知することが困難なとき」というふうに変わっています。今回の部会資料の補足説明では,「あらかじめ通知することが困難なとき」というのは急迫の事情がある場合を念頭に置いているとされているんですけれども,この規律の文言のみを読むと,急迫の事情がない場合であって,所有者の所在が不明の場合は,あらかじめ通知することが困難なときに該当して,そういう場合は事後的に公示送達の手続をしてもよいというふうにも読めます。「あらかじめ」という文言には急迫の事情という意味が含まれているのかもしれませんが,そこは少し分かりやすいように,「急迫の事情」という文言は残していただいた方がよいという意見が我々の中ではありました。
○山野目部会長 ここまでで橋本幹事及び今川委員から指摘してもらった点に関して,事務当局から,現在の段階で理解しているところの案内を差し上げます。
○大谷幹事 まず,橋本幹事からの御指摘がございました。今回構成を変えているところの検討の経緯を申し上げますと,前回まで承諾を求めることができるという構成で御議論いただいておりまして,前回の段階で,承諾を求めるという形で本当にいいのか,直接の契機としては,このただし書のところでしょうか,承諾がなければ住家に立ち入ることはできないというところで,承諾を求めることができるとかできないってどういう意味なんだろうかということが問題になって,改めて検討したというところでございます。承諾を求めることができる,できないというのが,それは権利があるということなんですか,どうなんですかということが問題になるのだろうと。
今回やろうとしていたことは,一定の場合には承諾がなくても隣地使用ができるというルールを作るという検討をしていたわけですけれども,承諾がない場合でも隣地に入れる,催告をしても答えがないときでも入れるというのは,それは結局そういう権利があるから入れるということなんだろう。承諾をするかどうかを明確にしていないのを承諾したものとみなすことは恐らく不可能で,通知をして承諾を求めても,何も言わなければ,それは承諾しなかったというだけの話で,やはり承諾請求という形で法文を作ることは法制的に困難であろうというふうに理解をし,改めて考えたというところでございます。
今回のように「使用することができる」というふうに改めるとして,問題となるのが,明示の拒絶があったらどうなんですかということです。使用権構成という形にすれば拒絶があっても入れるということが考えられるわけですけれども,恐らく弁護士会の中での御議論でも,明示に拒絶をされているというときに入っていってもいいんですかということが問題とされたのではないかと思います。もっとも,よく考えますと,反対をしていない,何も異議を述べなかった。だけれども,現に人が住んで使用している土地に承諾なく入っていくということが本当にできるのか。それは,答えをしてくれないからといって,無理やり押し通るということは,やはり承諾請求という形をとっていても元々難しいのではないだろうか。
そう考えてみますと,承諾を求めるかどうかという問題ではなくて,現に使用している人がいるときにどういうような規律にすべきかということが問題なのかなと思いますけれども,現に使用している人がいますというときには,やはり承諾を求めて,承諾をとって入るか,訴訟をして法的措置をとった上で入っていくということにならざるを得ないのだろうと思われるところです。
このあたりのところをどのように法文で表現するかというところが問題になりますけれども,まずは承諾を求めるという形ではなくて,隣地を使用することができるという権利を明らかにした上で,隣地を現に使用している人の権利をきちんと保護できるような手続を組む必要があるだろうということで通知をするという形に改めました。ただ,このあたりのところは,今までの御議論を頂いていたところと私どもとしては実質として変えるつもりではなくて,やはり事前に権利保護の手続をとった上で隣地に入っていくということには変わりがないのだろうと思っておりますけれども,なかなかその構成として承諾請求は難しいので,こういう形になったというところです。
それから,通知の相手方の問題ですけれども,使用者と所有者,両方に通知をする必要があると,これは前回までの議論を踏まえて,相隣関係の問題なので所有者にも権利保護の機会を与えるべきだろうということで,こういう形にしております。ただ,使用権構成というふうに構成を改めたときに,隣地所有者が,隣地に土地の所有者が入っていけるという,この権利自体は相隣関係上の権利に当然なると思いますので,あとは権利保護の手続の実質をどういうふうにするか,相手方は所有者でなければならないのかどうか,使用者だけでもいいのかというところはまた別の問題として,更に検討をしたいと思っておるところでございます。
また,この通知の内容についても,何回か前の部会資料では,具体的に日時とか態様とかというのをきちんと通知に表した上で承諾を求めるという形にしておりました。それは変えておるつもりではございませんで,ただ,このような書き方で通知の内容まで読めるのかどうかというのはもう少し考える必要があるだろう,事前の権利保護の機会を与えるに際してどのような形にするかということは,更に検討する必要があるだろうなと思っているところです。
今川委員から御指摘,御質問のありました,公示送達をすることになるのかということですけれども,通知ですので,公示送達が可能だろうと思っております。緊急の事態などがあって,あらかじめ通知することが困難なときには後に通知をするということになりますけれども,その際に所在が不明だということがあれば,公示送達ということもあり得るというふうに考えておりました。
○橋本幹事 今の御説明,それはそれで理解するのですが,ただ,使用できるというふうに条文で言い切ってしまうと,拒絶があったとしてもできるのだということで,隣地の人がもう強引に押し入っていくという事態も少なからず発生する危険性はあると思うんです。その場合に要らぬ混乱が拡大しやしないかということを心配するわけです。我々のところに法律相談に来てくれれば,いや,それは駄目だよと,きちんと承諾を求めて,駄目であれば法的手続をとりなさいとアドバイスしますけれども,みんながみんな,そういった法律専門家の助言を受けながら行動するわけではないと思いますので,ちょっと危惧感を感じているところです。
○今川委員 所有者の所在が不明な場合は,それだけであらかじめ通知することが困難なときに該当して,事後的な公示送達を通じた通知でよいというふうに読み取れるのですが,そうではないんですよねという確認と,そうでないならば「急迫の事情」というような文言を残しておいた方が分かりやすいのではないかという意見であります。
○山野目部会長 お二人の御意見を理解いたしました。
引き続き議論をお願いしたいと考えます。
○佐久間幹事 今の関連で一つあるんですが,まずそれだけに限った方がよろしいですか。
○山野目部会長 差し当たりそこに限ってお願いいたします。
○佐久間幹事 弁護士会から出された意見について少し違和感があります。それは,現在の209条は請求することができると確かに書いておりますけれども,これは請求をして,相手方が拒めるという状況は前提としていないと思うんですね。全く一緒だというとちょっと語弊はあるかもしれませんが,例えば借地借家法の建物とか造作とかの買取請求が,請求することができると書いてあるけれども,あれは請求したら,それで形成されるというのと,これは同じはずだと思うんです。それで,一般国民から見た請求することができると書いてある場合と,使用することができると書いてある場合との受け取り方は,印象というのでしょうか,それは違うかもしれないと思うのですけれども,現在も,要するに請求するというか,一種の通知をすれば,必要な範囲内では使えるというのが土地所有者の権利のだと理解することもできると思います。そうすると,今回の御提案では,③の「ただし」以下が入るというところが,恐らく現在の209条とは違うのではないかと思います。もし,このただし書について文言も含めて合意を得られるのであれば,そのただし書を付加することが従来と異なるだけであって,今まで以上に土地所有者の権利を広げるということには実質的にはならないのではないかと私は思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事のその余の点についての御意見は,また伺いたいと考えます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
まず,第1の1の「隣地使用権」に関しまして,法的構成についてはそれほど今までこだわっていたところではないのですが,今回の提案を拝見いたしますと,条文の作りとしてはこれまでよりも分かりやすくなったのではないかということで,産業界の立場からも支持できるのではないかと思っています。
元々これは隣地使用権の対象を拡大するということで始まった話でして,例示列挙にして対象を広げるかどうかという話も部会が始まった頃にはあった中で,結果的にはここに列挙されている1のアからウまでに限定するという形になっているわけでございまして,類型的にそれほど土地所有者の権利への制約が少ないものを対象として選んでいるということもございますので,条文の形としてはそれほど硬い書き方にしなくてもよいのではないかなというところは一つございます。
あと,この通知の点に関してですが,前回の部会までは占有者に対してのみ行うという選択肢もあった中で,今回,所有者も含めて行うということになっておりまして,これに対しては逆に,ここでまた所有者の概念が出てきてしまうということに対してちょっと不安を抱く声が出てきております。実際,先ほども所有者が所在不明のときにどうするのかというお話が出ておりましたけれども,そこでまた何か重たい手続をしなければいけないということになると,類型的にそれほど土地所有者に与える害が少ないがゆえに認められているにもかかわらず,手続のところで重くなるというのはちょっとどうなのかなということで,例えば所有者が特定できなければ登記名義人に通知する,ということでも良いのではないかという意見が出ていたりもします。
この点につき,従来の209条の解釈では,例えば住家に立ち入ることができないというところに関しても,立入りが平穏を害しなければそもそも住家に当たらないというような解釈が示されていたりするということもございます。そういう観点で言いますと,例えば土地の所有者が所在不明の場合に,そこに仮に立ち入るということがあったとして,少なくとも平穏という点に関して言えば占有者の了解,現に使用している者の了解を得られているのであれば,それでいいのではないかという考え方もここではとれるのかなと思っておりまして,逆にいわゆる所有者への通知というところを徹底的に突き詰めて法的効果を発生させるところまでやるというふうに解釈するよりは,むしろ連絡が取れなければそれで割り切るという考え方もあり得るのではないかというふうに考えております。これは前回まで余り明確に意見を申し上げていなかったところでございますので,この場で申し上げたいと思います。
あと,第1の3の設備設置権,使用権のところに関しまして,こちらは基本的な規律に関しては全く異論はございませんが,気になるのは償金のところ,⑤以降のところでございまして,この点については,これも部会の前半でそもそも償金の性質が何なのかという議論があったかと思います。そして,土地の損害が発生したときにそれに対する償金を支払う,といった時に,その支払いが常に発生するものなのかどうかというところはケース・バイ・ケースだろうということでこれまで来ていたと思うのですが,今回,囲繞地通行権の212条と同じような表現がここで使われており,囲繞地通行権では,通路を開設したときの償金が基本的に発生するものと理解しておりましたので,今回こういう形でパラレルに書かれると,何かこれは導管の設置,設備の設置をすると,常に償金を払わないといけないということになってしまうのではないか,という懸念も生じるところです。法制上,そろえた方がいいということであればやむを得ないところはあるのかもしれませんが,ちょっとそこは誤解がないようにというか,土地の状況によっては仮にそこに導管等の設備を設置して使用したとしても,それによって当然に,いわゆる使用料的なものが発生するわけではないということは,これもいろいろ御意見が分かれるところかもしれませんが,何らかの形で示しておいていただく方がよいのかなというふうに考えているところです。でないと,実務的なところ,今の実務慣行との整合性とか,そういったところで弊害が出てくることも懸念されるのではないかと思っております。
○山野目部会長 藤野委員の御意見を承りました。垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 垣内です。どうもありがとうございます。
第1の1の③に記載されている通知の位置付けについて確認のための質問をさせていただければと存じます。
原則として,あらかじめ通知が必要だけれども,場合によってはあらかじめの通知は不要で事後でよいという規律なんですけれども,この通知を怠った場合に何か法的な効果というものは想定されているのでしょうか。損害の賠償と申しますか,補償ということについては,通知の有無に関わらず④の規律で償金を請求することができるということかと思いますので,その点について特に変わりはないようにも思われますけれども,そうだとしますと,通知を怠って勝手に使用したという場合についても特段の効果ということがあるのではなく,これは飽くまで行為規範と申しますか,そういう意味では訓示規定的な規律ということなのか,それとも何か具体的な法的な効果が想定されているのかについてお教えいただければと思いまして質問させていただきました。よろしくお願いいたします。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ここまで御発言いただいた委員,幹事の御指摘を踏まえて中締めの整理を差し上げますと,①のところについて,使用することができるという,使用権構成とでも呼ぶべきものを提示しておりますところ,それについての意味の理解に関する問題提起ないしお尋ね,あるいは意見を頂いております。それから③のところについて,今川委員からは「通知することが困難なときは」という,この要件文言の内包について問題提起を頂いているほか,ただいま垣内幹事から③の規律の効果をどのように理解しておくことがよいかという観点からの問題提起を頂いたところであります。
これらの点について,この段階で事務当局の所見を聴きます。
○大谷幹事 今川委員から御指摘のございました「あらかじめ通知することが困難なとき」というのは,こ,御指摘のとおり緊急性があるような場合で,通知はしなくて後にすることをもって足りるだろうということで,特に先ほど公示による意思表示をするときにどちらになるのかというようなことがございましたけれども,ここで考えておりましたのは,緊急性があるときには後の通知にするし,そうでなければ事前の通知をするということになるはずだというふうに理解をしておりました。
それから,垣内幹事の方からの御指摘で,③の通知をしなかったときどうなるのかということですけれども,これは損害賠償という,その行為が成立するときがあり得るとして,その損害賠償の問題がそれはそれであるということですけれども,結局事前の通知を怠ったとしても,それによって何かの効果が発生するということはないのではないかというふうには理解をしておりました。
○山野目部会長 お尋ねになった垣内幹事,お続けください。
○垣内幹事 どうもありがとうございます。
特段の効果はないということで理解をいたしましたが,今お答えの冒頭で不法行為のお話をされたようにも思いますけれども,別途不法行為で損害賠償請求をするということが懈怠の場合にあり得て,その場合の損害というのは④の損害とは異なるものを請求できるということでしょうか。
○脇村関係官 すみません,ちょっと補足させていただきますと,通知を怠った場合については不適法になるということは前提にしておりますので,不法行為が成立することは当然あり得るということだろうと思います。不適法な場合と適法な場合では,損害の内容も異なってくる可能性は当然あり得ますし,適法ではないことを前提にしたもろもろの法律上の効果は当然発生しますので,そういう意味では通知があるかないかによって適法,不法が変わっていくというふうには理解しておりました。
○山野目部会長 脇村関係官に更問いを差し上げますけれども,④で損害を受けたときの償金請求ができるならば,③のところで通知をしてもしなくても話の展開は同じではないですかというふうに,ざっくばらんに言うと垣内幹事の御発言の背景にそういうふうな御疑問が横たわっているように感じますけれども,何かそれについてお話がありますか。
○脇村関係官 恐らく④で想定している損害は,そういう不法行為とかに基づく拡大損害ですとか,そういったものまで想定は余りしていないのかなと。もちろんそれは解釈論として,④の損害がそういう幅広くもいけるのだという理解はあり得るのかもしれませんけれども,ここで言うのは適法にされた場合に,それによって生じた限度の損害というふうに考えますと,不法行為のケースについてはまた別途議論の余地があるのではないかなということで,全く一致するということまでは言えないのかなというふうには理解したというところでございます。
○山野目部会長 適法行為によって生じる損害といいますか,損失を償うことを規律内容とする④と,違法性が阻却されない事態に至る③の規律に背いて行われた行為によって生じた損害の範囲は必ずしも一致しない可能性があり,その点で,③の規律に行為規範を超える意義が生ずる場面があるかもしれないということを事務当局から説明を差し上げたようであります。
垣内幹事,お続けになることがおありでしょうか。
○垣内幹事 どうもありがとうございました。了解いたしました。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。
中田委員,お願いします。
○中田委員 ありがとうございます。
ただいまの大谷幹事のお話と脇村関係官のお話と,ちょっと私には違って聞こえたような気がしました。つまり通知が権利発生要件なのか,それとも権利は当然に発生していて,単なる手続要件にすぎないのかというのが少しニュアンスが違うのかなというふうな印象を受けました。それから,先ほど佐久間幹事がおっしゃった,請求と書いてあったって形成権のことがあるのだということは,それはおっしゃるとおりだと思いますが,弁護士会が御心配になっていることは,これは佐久間幹事もおっしゃったことですけれども,この規定を置くことによって紛争が生じやすくなるのではないかということだと思います。そこは表現などを十分配慮する必要があると思います。
それに関連いたしまして,これも大谷幹事がちょっとおっしゃったことですが,通知の内容についてです。前回の資料46の(注1)では,使用目的,場所,方法及び時期の特定した催告をするということになっておりましたが,今回はその旨を通知するということで,その旨に委ねているんだと思います。これは法制的にはそれでいいのかもしれないのですが,先ほど申しましたように,この規律が紛争を招くおそれがあることを考えますと,できればその通知の内容を何らかの形で具体化する方がよろしいのではないかなと思います。
第1の3についても意見がありますが,これは後ほど申し上げたいと思います。
○山野目部会長 中田委員,ありがとうございました。
中田委員がおっしゃった通知が権利の発生要件であるか,手続的な手順を明らかにしたものであるかということについて,あとで事務当局の考えを伺います。
松尾幹事,御発言ください。
○松尾幹事 ありがとうございます。
部会資料51の第1の1「隣地使用権」のご提案については,適切にまとめていただいていると思い,私は賛成です。
その上での確認ですけれども,今問題になっている所有者不明の場合が,この第1,1の③の本文に位置付けられるのか,ただし書に位置付けられるのかという点です。ちなみに,第の2「竹木の枝の切除等」については,③イに所有者の特定不能および所在不明の場合には切除権を認める旨の明示的規定があります。隣地使用権の場合には,所有者の特定不能の場合も所在不明の場合も,民法98条の公示による意思表示を予めするということを原則にしつつ,その手続を予めとることが困難なときは事後の通知でよいという趣旨であると理解してよいでしょうか。
私は前回,隣地使用権の通知の相手方についても,やはり所有者は入れた方がよいという意見を申し上げましたけれども,所有者不明の場合には,この公示による意思表示で対応するということであれば,手続的にもさほど重くならないのではないかというふうに理解しました。その上で,所有者不明の場合で,かつ緊急性が高い場合等,予め通知することが困難な事情があれば,それは事後でも構わないということで振り分けることによって,現実的にもこの隣地使用権の制度が使いやすくなっているのではないかというふうに理解しました。もっとも,この理解が違っているかもしれませんので,その場合にはご教示いただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
第1の「1 隣地使用権」の中身が①から④まで小分けにして規律の提案を差し上げている中で,取り分け①と③のところについて,今,多様な御指摘を頂いたところであります。
ひとまず③の方でありますけれども,三つほどのことが話題になっているように感じます。
一つは,ここに登場してくる通知が,隣地使用権が既に存在していることを前提として,その行使の手順を定めているものであるか,それとも,この通知をすることによって初めて隣地使用権が発生するかという御議論がありました。恐らく,ただいまこれから事務当局の所見を尋ねてみますけれども,①の規律で隣地を使用することができるという使用権構成で出発するということを明らかにして,その後のお話が進んでいくということを考えますと,③のところに出てくる通知で初めて隣地使用権が発生するという理解ないし法的構成を与えることは困難ではないかというふうに感じられます。
それから,そのことと関連しますけれども,通知がそのような意味で効力発生要件でないとすれば,本文,ただし書を通じて③の規律の効果がどのような意味を持つかという垣内幹事から御指摘があった観点が,よりクローズアップされてまいります。③の通知というものは,既に発生している隣地使用権とはいえ,その隣地使用権を適法に行使するための手順を定めたものでありますから,この手順を踏まないで隣地使用権を行使することは,特段の事情がない限り隣地使用権行使を違法ならしめる。裏返して言うと,違法性を阻却するという論理が否定されるということになってくるものでありましょう。そうしますと,脇村関係官からお話がありましたとおり,民事上は不法行為法に基づき④とは異なる種類の損害賠償責任を基礎付けるということになりますし,民事法以外の観点も見わたして考えますと,恐らく住家に入らないとしても,人の看守する邸宅であるというふうに認められるときに,そこに正当な理由がなく入ったという評価に発展していくという,その評価を見極める際の一つの契機にもなるかもしれません。
それから,3点目といたしまして,今川委員から御提議を頂いた「あらかじめ通知することが困難なときは」という要件を洗練ないし明確化する必要があるのではないかという御指摘は誠にごもっともな側面がありますとともに,ここに急迫なといったような例示ないし要件としての文言を追加しますと,逆に急迫という言葉の意味を探究しなければならなくなり,またいずれにしても急迫の場合に限定されるというような解釈を求められるというおそれがあるかもしれません。通知することが困難なときというこの概念の評価は,いずれにしても規範的な側面を持っていますから,事前の通知をすることが難しい程度に困難であるときというふうに,その要求される通知の在り様との相関関係で決まっていくという側面があるであろうと思います。そうしますと,所有者が分かっているけれども,所在が分からないというときに,今川委員が御心配なさったように公示送達で問題を処理すべき場合があるかもしれませんけれども,急迫の度合いが極めて高いときにはそれすらもいとまがないということがありますから,その与えられた個別の状況を見ながら相関的に判断していくということがいずれにしても避けられないものでありまして,そういったことを考えますと,御指摘の中身が誠にごもっともであるとして受け止めるとともに,この文言は,このようなものにしておいても,ただいまのような理解をしてまいりましょうという仕方での運用を期待してよいし,期待していかなければならないものであるかもしれません。③のところに限っても,今,話題にいたしましたような三つの観点が,既に委員,幹事から御議論として出されておりました。
このあたりを中心にして,この段階で事務当局から所見があればお願いいたします。
○大谷幹事 部会長に大変きれいに整理をしていただきまして,ありがとうございました。
私が申し上げたことはやや不適当なところがございまして,中田先生からも御指摘ございましたけれども,やはり隣地使用権の発生自体は①で発生をするということになるわけですけれども,その行使の要件として③のような手続が必要なんだろうと,このような手続を踏んで初めて行使が適法になるということになるだろうと思います。
その通知が難しい場合には,ここでいうあらかじめ通知することが困難なときという要件を満たしていれば,またそれも権利の行使を適法にするということになるのだろうというふうに理解をいたしております。
通知することが困難なときの解釈については,今,部会長にまとめていただきましたようなことで我々も考えておったところでございます。
○山野目部会長 引き続き④についても御議論がおありだと思いますが,③の範囲を中心に,今,事務当局が述べたことなどにつきまして委員,幹事からの御意見を承ってまいりたいと考えますが,いかがでしょうか。
國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。
第1の「1 隣地使用権」については,基本的に隣地を使用する権利があるというスタートになっております。これは当初の隣地使用承諾の議論の中でも行ってきたもので,当初の方に戻ってきたのかなという印象です。これについて,私ども土地家屋調査士会は賛成でございます。今,議論のありました3番の通知についてなんですけれども,私どもから,いわゆる隣地を使用する目的を達成するためには,所有者プラス実際に使用している者,占有者というのでしょうか,そういった方にやはり包括的に,基本的には承諾を得るというのがスタンスなのだろうと思います。そのときに,この通知の内容について,もうちょっと細かな点といってはおかしいのですけれども,②の隣地のために損害が最も少ない方法というか,そういったものについてもやはり通知の中に入れ込むというような形をとっていただいた方が,いろいろ議論があります紛争をむしろ発生させる要因になるのではないかということがあると思いますので,この通知の分についてはやはりきっちりとした何か規定みたいな形で作っていただけたらと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。①,③に限りませんけれども,①,③でたくさん御議論が出ているところなどを踏まえて,いかがでしょうか。
水津幹事,お願いいたします。
○水津幹事 隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権について,今回の提案では,使用権構成がとられています。この提案によると,隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権の法的構成は,210条の通行権や220条の通水権の法的構成と,同じものとなります。
他方,隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権については,事前の通知が求められています。そうすると,今度は,210条の通行権や220条の通水権について,事前の通知が求められていないことが気になります。隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権と,210条の通行権や220条の通水権とを比較して,土地にとっての必要性や他の土地が受ける負担の相違等から,後者については,前者とは異なり,事前の通知が求められていないことを正当化することができるかどうかについて,検討をする必要がある気がしました。
○山野目部会長 水津幹事,どうもありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
委員,幹事から引き続き御議論を承ってまいりたいと考えますけれども,弁護士会の先生方の御意見をお取りまとめいただき,橋本幹事からは第1の1で言いますと,取り分け①のところを中心にして,この「使用することができる」という仕方で構成を提示していることについてのお話を頂いたものであります。橋本幹事からお出しいただいたお話を,お話を聞いて改めて整理をすれば,いずれも同じ方向を向いていることではありますけれども,実際的観点と理論的観点とに分けて整理して受け止めることができるのではないかと感じます。実際的な観点として,「使用することができる」という民法の文言をこのまま掲げたときには,現実生活において紛争が起こるものではないかというふうな御心配があって,それはごもっともなことだろうというふうに感じます。
もう一つは,従前の部会資料で承諾という言葉が出てきていて,あのような概念を中心に議論が積み重ねられてきたこととの関係がどのようになるのですかという御疑問を頂いたものでありまして,こちらはどちらかというと理論的な観点のお話になるのではないかと受け止めました。前者の実際上の観点につきましては,もちろん現実生活において隣人間における摩擦が生ずるようなことは好ましくないものでありまして,そのような配慮は当然あってしかるべきであるということは,中田委員からも御注意を頂いたところであります。そのことは,この209条が新しくできる姿についての理解を一般に説明していくに際しては,もちろん忘れてはならない観点であるというふうに感じられますとともに,今ここで規律の内容としてそこを改めて考え,例えば承諾を求めることができるといったような規律にするときには,水津幹事が別の方向からおっしゃったことですけれども,隣地通行権であるとか,隣地への通水権などについても類似の問題があるわけでありまして,従来の法制を踏まえた上で,今後の209条についての適切な在り方を考えようとすると,ここで御提示申し上げていることが使用することができるという構成になっているということは,それとして宜なるかなという側面もあるだろうというふうに感じます。
それから,理論的,体系的な観点の方に目を移しますと,承諾という概念を使って従前の会議での議論をお願いしてきたところでありますけれども,しかし,その承諾を求めることができるということが一体何を意味するのかということが必ずしも明晰ではない,あるいは疑問の余地が大きい概念,法的構成であるということは既に前回,この論点を御議論いただいた部会の審議において委員,幹事から,その観点についての多様なお話を頂いたところでありまして,それを踏まえて本日の部会資料をお出ししてるという経過がございます。翻って考えてみますと,承諾を求めることができるというふうに法文に記したときのその私法的な理論的,体系的な意味は何でしょうか。弁護士会の先生方に対して釈迦に説法でありますけれども,民法に承諾を求めるというふうに書くと,それは何か現実の日常生活でちょっと入ってもいいですよね,ええ,結構ですよと言っている,そういう事実としてのやり取りとは別の意味を帯びてくるものでありまして,承諾というふうに記せば,普通は承諾の意思表示を求めることができるというお話になってまいります。
ここでは,しかし,隣人間で何か契約の成立を擬制するというようなことを考えているものではありません。承諾を求めるというふうに法文が謳えば,承諾の給付を求める訴えを提起しなければいけないというふうに話が進んでいくのが,むしろ法律家の普通の理解,受け止めの仕方になってくるものでありまして,そのような側面もにらみながら,反対に承諾を求めることができるという文言にしたときの疑問といいますか,不安定さといいますか,そちらの方もゆるがせにできないものがあるだろうというふうにも感じます。
引き続き橋本幹事や,そのほかの委員,幹事,また事務当局からもお話を頂いて,①,それに関連して③などについての御議論を深めていただきたいと望みます。
次に御発言なさる方はどなたでいらっしゃいますでしょうか。
○小田関係官 関係官の小田でございます。
先ほど水津幹事から御意見を頂いたところに関して若干の補足をさせていただければと思います。
囲繞地通行権であったり通水のところに関しては,囲繞地と袋地,あるいは高地,低地というところで,土地の関係が外部からある程度はっきりしているというところでございます。この場合には袋地の方が通行を受忍することになりますし,低地の方が排水を受忍するということになろうかと思いますが,隣地使用だったり設備設置の方に関しては,新たに例えば住居だったり建築物を建てるとか,そういった事後的な事情で権利が発生するというところで,周りの土地の方が権利の発生を知らないまま進むということもございまして,この提案に関しては事前の手続が必要ではないかというところで,事前の通知の規律を設けております。
○山野目部会長 ただいま小田関係官が差し上げた説明について,水津幹事におかれて何かおありでしたらお話をください。
○水津幹事 そのような説明によって,規律の違いを正当化することができるかどうかについては,なお検討の必要があるかもしれません。いずれにせよ,体系的な整合性が保たれるように,規律の違いを正当化するか,それが難しいのであれば,規律を揃える方向で検討をしていただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き第1の1を中心にお話を伺ってまいりますが,この段階で多様な御議論も頂いているところでございますから,必ずしも1に限定しないで,2や3についてもお話を頂いてもよろしいのではないかと考えます。
先ほど佐久間幹事がもう少しお話があるというお話をされていましたから,まず佐久間幹事からお願いいたします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。3点あります。
一つ目は,1の①についてなんですが,今まで出たのとは別の点です。
ただし書に「居住者」とあるんですね。これは非常に素朴なことで,聞くのは恥ずかしいんですけれども,居住者がないときはどうすればいいのかなというのがよく分かりませんでした。つまり空き家になっていると。でも,かつてはというか,少し前までは人が住んでいましたと。このときには,私は所有者が分かっているんだったら所有者に承諾を求めることが適当ではないかと思うんですね。「居住者」というのは,現行法の「隣人」という文言が今一つ分からないからということで,何とかしましょうということから出てきたと記憶しています。確かに「隣人」も多分中心になっているのは現に居住している者であったと思うので,居住者と変えることが,法文上問題ないのであればいいのかなと思うんですけれども,先ほど申し上げたような場合については考えておく方がいいのではないかと。例えば居住者がないときは所有者に,というような形で考える方がいいのではないかなと思います。これが1点目です。
2点目は,これは説明の問題なので今日どうでもいいのかなと思いますけれども,一応,そのうち外に説明として出るのであれば,2ページの「また」から始まる段落の3行目か4行目,これは「隣地使用者は,土地所有者による隣地の使用状況を把握しておくべきである。」というところは,「隣地使用者が土地所有者による隣地の使用状況を把握することができるようにしておくべきである」といった意味ではないのかなと思いました。ちょっとどうでもいいことなんですけれども,検討していただければと思います。
3点目は,3についてです。変更の規律はやめておきますというふうに今回なったと思うんですけれども,この継続的給付を受けるための権利については,隣地通行権とここが違いますよねということが最初から意識されていた点として,固定性があるというのでしょうか,設備が地下も含めて通りますので,その場所を隣地所有者が使いたいとなったときに,それを妨げることはできるのか,という話が当初確かあったと思うんですね。それで,例えば,今のところは土地の端っこの方に導管を通しているつもりなんだけれども,そこに建物をやはり建てたいんですと隣地所有者がなったときに,設備をおよそどこにも通させませんということは駄目なんだろうと思いますけれども,場所を変えてくれということは権利として保障しておくべきなのではないか,という話があったと思うんです。
今回の補足説明を拝見して,今申し上げたような場合が事情の変更に当たるのであれば,現在の御提案でよろしいと思うのですけれども,これは事情の変更というよりは主観的な考えの変更という感じがします。事情の変更って何となく客観的なものを想像するのですけれども,そういった主観的な事情の変更も含まれる,被害の最小性というのは,隣地所有者の所有権行使の在り方,あるいはその希望によっても変わり得るのだというのであればいいのかなと思いますけれども,そうでなかったならば,今申し上げた点ですね,事後的に土地の使い方を隣地所有者は変えたい,変えるということはあり得るのではないか。そこについて,対応しないことにしたというのであれば,それは一つの考え方であると思うのですけれども,対応しないことにしたのかどうなのかということを,まずは伺えればと。そして,もし対応しないことにしたとまではなっていないのであれば,隣地通行権とやはり性質が違うので,対応を考えるほうがよいのではないかと思いますということを申し上げたいです。
○山野目部会長 佐久間幹事から3点頂いたうちの最後の設備使用権に関わる変更の規律の存廃についての部会資料の変化についての説明を事務当局において用意をしておいてください。
佐久間幹事がおっしゃった2点目は補足説明の文章の問題として受け止め,これは前後の文章も含めて事務当局において推敲いたしますから,そのように扱わせていただきます。
1番目におっしゃったことについては,後で私が少しコミカルなコメントを差し上げようと考えております。
ですから,3点目のお答えの御用意を事務当局において御用意おきいただきながら,中田委員のお話も伺った上で,まとめて事務当局からお話をお願いしようと考えます。
○中田委員 ありがとうございます。第1の1について少しだけ補足をし,その後,第1の3について申し上げます。
補足と申しますのは,承諾構成の場合に,その承諾とは何かが分からないということだったわけですが,幾つか可能性があると思います。まず,実体法上,承諾義務が発生しているという構成があります。この場合,その承諾義務に基づいて承諾せよという裁判を起こして,その裁判の中で,承諾義務を発生させる実体法の要件が満たされているかどうかを審理するというのが一つだと思います。また,承諾に代わる許可という,借地借家法にあるような制度もありえます。承諾構成といっても幾つか種類があるのかなと思いました。
3の方でございますけれども,こちらは今回の御提案で「導管」という言葉と「下水道の利用」という言葉が消えまして,「継続的給付を受けるための設備」という概念になったことについて,3点お聞きしたいと思います。つまり,結果として対象となる事象が広がったように思いますし,また210条以下のいわゆる囲繞地通行権との違いも拡大しているように思われるということについてです。
1点目は,先ほど佐久間幹事がおっしゃったことと同じでございまして,囲繞地通行権にも,その変更に関する規定がないではないかということが理由となっているわけですけれども,しかし,これも佐久間幹事がおっしゃいましたとおり,囲繞地通行権の場合と,設備設置権等の場合とでは違っているだろうということです。物権的請求権で排除することも考えられますけれども,設備の所有者が分からなくなっているという場合もあるかもしれません。それから,償金を支払わない場合の効果もはっきりしません。ということで,最終的には民事調停になるのかもしれませんが,この権利の変更や終了について何らかの手掛かりを残せたらいいのではないかと思います。例えば変更請求とか,消滅請求とか,そんな規定をイメージしています。
それから,2点目は複数の候補地がある場合の選択についてですが,これは御検討いただきまして,その結果を4ページに記載していただきました。この点につきましても,通行権の場合に比べますと選択の対象が多くなるという問題があると,今でもそう考えておりますけれども,ただ御検討の結果,本文②の解釈で賄おうということですので,それはそれで理解いたしました。
それから,3点目ですけれども,今回のゴシックの部分を改めて読んでみてちょっと気になったことなんですが,設備の設置権や設備の使用権というのは地下だけではなくて地表や空中も含むのかどうかということでございます。例えば他人の土地の上に電線を通すとか,他人の畑に電柱を設置するというようなものも排除されるのかどうかがよく分かりませんで,しかし,それはもしそこまで含めて考えるのだとしますと,生活に及ぼす影響が非常に大きいので,改めて慎重に検討する必要があるのではないかと思いました。これはひょっとしたら私の誤解かもしれません。以上,3点です。
○山野目部会長 中田委員,ありがとうございます。中田委員が二つに大きく分けておっしゃったうちの1の「隣地使用権」の承諾の概念をめぐるお話は承りましたから,今後の検討において参考といたします。
もう一つ,3の設備設置権,設備使用権について,三つに区分けしてお尋ねがあったところについて,事務当局から説明を求めることにいたします。したがいまして,いずれも3の部分につきまして,佐久間幹事から問題提起があった1点,それから中田委員からお尋ねの仕方で問題提起があった3点について,事務当局からお話をお願いいたします。
○大谷幹事 ありがとうございます。
佐久間先生から御指摘のございました変更についての規律は要らないのかという,これは中田先生からもございましたけれども,土地の使用状況が変わっていくというのは,恐らく隣地通行権,囲繞地通行権の場合でも同じことがあり得るところで,既に通路があって,その後に土地の使用状況が変わって,一番損害の少ない通路というのが別の場所になるということはあり得るのだろうと思われますので,ここの設備の設置権等におきましても同じような考え方で,土地の使用状況が変わるということであれば,それに合わせて最小の損害のところに場所が変わっていくということはあり得る。だから,変更という形の規律を置く必要はないのではないかというふうに考えておりました。
それから,中田先生から御指摘のございました,下水道の関係がなくなっているというのも,これも当然この電気,ガス,水道の供給,その他これらに類する継続的給付というふうに書けば,下水道ということも入ってくるのかなというふうに理解をいたしまして,これは除いている趣旨ではございません。それから,一番最後に御指摘がございました電線の設置についても入っているのかということがございましたけれども,これはかなり前の方の部会資料でも少し書いていたような記憶ですけれども,電気の電線を引くということについても,この規律の対象になっているというふうに理解をして,その中で一番最小の損害の場所を選んで置いていくということになるのは,ほかの地中に埋めるものと同じことになるのではないかと考えておりました。
あと何でしたっけ。
○山野目部会長 中田委員が三つおっしゃったうちの1番目は,下水道を除くことになるものですかということもあるかもしれませんけれども,下水道という文言が消えたことによって,さらに一般的な,あるいは抽象度の高い言葉に今回変わったことによって,この権利が機能する範囲が広くなるので少し心配だという観点のお話であったものではないかと聞きました。
それから,2点目として,どこに設置するかという土地の選択の問題についても,部会資料で説明を工夫したのは分かるけれども,なお引き続き関心を持って行きたいというお話がありました。
何か,それらについて事務当局から補足はありませんか。それを伺った上で,また中田委員の話をお尋ねしようと思いますけれども。
○大谷幹事 特にございません。
○山野目部会長 ありませんか。
それでは,お尋ねを頂いた佐久間幹事の方から引き続きの話を伺います。変更の規律を置くことの要否について,事務当局からひとまずの説明を差し上げましたけれども,いかがでしょうか。
○佐久間幹事 御説明それ自体は,そういう考え方はもちろんあるなとは思うのですが,一応,隣地通行権の場合,通路を開設することはできるんですけれども,当然開設することが予定されているわけでもないし,基本的にはよほどのことがないというふうなことだと思うんですね。事実上通行しています,というのが原則的形態だと思うんです。それに対して,この継続的給付の場合は,問題の深刻度が違うのかなというふうには思っております。しかし,問題の深刻度は違うんだけれども,変更の規律を,例えば隣地所有者が望めば変更できますよなんていうのもちょっとおかしな話なので,およそ一回接続を認めたら,もうそれで終わりなんですよ,未来永劫,相手の権利として尊重しなければいけないんですというようなことではないということがはっきりとしていれば,御説明のとおりでもいいのかなというふうにも思っています。
それが1点と,もう1点,中田先生がおっしゃったことで下水道のことなんですけれども,下水道が消えたのは,下水道法があるからかなと思ったんですね。下水道法は確か隣地通行権と同じような規定を置いていましたよね。そうすると,あっちは削除するんですねということを確認させてください。というのは,下水道法の規定が残って,民法に今御提案の3に従った規定ができるとなると,下水道にはその規定の適用がないということになってしまうのではないかという気がするので,そこの調整が必要なのではないかなと思いました。
○山野目部会長 佐久間幹事が再度御発言になった設備の設置,使用に関する変更に関する規律の要否の問題は,今,佐久間幹事からひとまず理解するというお話を頂いたとともに,御所感を頂戴したところでありますから,次回までにもう少し佐久間幹事に説明を差し上げることがないか,事務当局の方で検討することにいたします。
それから,下水道法を今回の民法の規定整備を踏まえてどうするかということは,改めて関係法律整備において検討することになりますから,その際に,ただいまの佐久間幹事の御指摘を踏まえるということにいたします。どうもありがとうございました。
中田委員,お話をお続けください。
○中田委員 私の問題関心は先ほど申し上げたことに尽きておりますけれども,部会長が御指摘くださいましたように,下水道そのものというよりも,下水道の利用という言葉がなくなり,かつ導管という言葉もなくなったことによって,かなりイメージが広がったということに主な関心がございます。先ほど空中の電線も入るのだというお話でございましたけれども,そうなると,ますます変更や消滅の規律が必要になってくるのではないかと思います。あるいは,現在は地上権,空間地上権によって対応していることが,当然の権利として認められるということになると,それも影響が相当大きいのではないかなと思いました。前の部会資料に出ていたということを私失念していまして,それは大変失礼いたしました。
○山野目部会長 中田委員からも,ただいま事務当局から差し上げた説明について理解をお示しいただくとともに,なお御所感を添えていただいたところでございます。
確かに改めて考えますと,一般的に設備設置権,設備使用権についての規律文言が特定の事象に囚われた,狭きにすぎたものにならないように,今般の部会資料においては多少なりとも抽象度を高めた概念の使用に変更しておりますけれども,そのことから得られるメリットもあるとともに,制度の機能する範囲が広がりすぎるのではないかという御懸念も生じてくるところであります。具体的に中田委員から御指摘もあったとおり,280条が定める地役権や269条の2の規定が定める区分地上権などによって,一言で申せば,約定の当事者間において成立する法律行為を原因として成立する土地の使用権によって従来賄われてきた事象が,全部まとめて今後はこの法定の使用権に受け止めてもらって,有無を言わさず,法律上,当然に成立しますという仕方での解決に移行していくということまで部会資料が提案するつもりはありませんけれども,そのように受け止められて,新しい規律が運用されることになることが困るという御心配はごもっともでありますから,中田委員が示唆された点についても,事務当局において次の機会に必要な整理をかなう範囲でお示しするということにいたします。
考えてみますれば,導管とかという言葉を使っているうちは,何かお隣のうちから電線を引っ張ってくるとか,目の前の道路から電線を引っ張ってくるとかという程度の話にとどまるものでありますけれども,規律文言の抽象的,一般的な理解としては,高圧電線を張っているような高い鉄塔のようなものを設置するという場面で,使ってはいけないという文言にはなっておりませんから,そのような局面についての機能の在り方はどうですかということについては,先々一般に対しても適切な説明をしていく必要があります。事務当局の方で所要の用意をしてもらえるというふうに期待いたしますから,またその折に御議論をお願いできればと考えます。ありがとうございました。
佐久間幹事からは,第1の1の①ただし書,「居住者の承諾がなければ,その住家に立ち入ることはできない。」という文言についての御疑問といいますか,問題提起を頂いたところでございます。
そこについて,私から一言申し添えますと,ここのただし書の文言を法文に仕上げていく際に,どのようにしたらよいかということについて,正直悩ましいところがあります。論理的にどういうことを伝えようとしてこれを書いているかということを申し上げれば,居住者がいるものが住家であるという理解で文言の組立てをしようとしているところであります。居住者がいないものは住家ではないと,住家の概念をそういうふうに受け止めて考えることによって,それでここのルールを設けようというふうに考えておりますから,その内容のとおりに受け止められるのであるとすれば,佐久間幹事がおっしゃった居住者がいないときには所有者の承諾になるでしょうかという問題自体がなくなるわけですが,ただし問題は,このただし書の日本語が,居住者の概念の方が先に出てきているのですね。居住者の概念を先に出しておきながら,その後に出てくる住家とは居住者がいないものであるというふうに理解してくださいということは,そう理解してくださいというふうにどこかで解説で書いてしまえば,そういうものなのですと,その理解を押し付けるという仕方でいけば,そうなるかもしれませんけれども,少なくともここだけで自己完結的に文意を伝える言葉にはなっていないですね。さはさりながら,現行法の文言を改定するという観点で新しい法文を作っていこうとすると,その文体を維持する限り,今お示ししているこの文章のほかになかなか代案が考えにくいものですから,居住者の概念と住家の概念がぐるぐる回っている,論理的には循環してしまっている状態になっているという嫌いがかなり濃いですけれども,困ったなと感じながら部会資料にお出ししているものでありまして,そこのところを言わば佐久間幹事には目ざとく見付けていただいたということになります。その慧眼は尊敬申し上げますけれども,さあ,どうしたらいいかということは悩ましいという,多少愚痴のようなことを申し上げます。
佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 実はそれは僕だって考えたんだと後出しでいうのではなくて,本当に考えたんですよ,居住者がいるものを住家というふうに読むのかなって。ただ,そのときに,今日発言するときにそのことを除いて発言いたしましたのは,この現行法の209条で住家に承諾なく立ち入ることはできないというのは,今の言葉で言うとプライバシーの保護というのが重視されているからだと思うんですね。そうすると,人が現に今は住んでいなくても,ここで言う住家というのはプライバシーの保護の必要があるものをもって住家という概念で表すというふうに,恐らく解釈されてきたと思いますし,今もそれでいいのではないかと思うんですね。納屋とか,そんなものだったらいいのだろうというのは明らかなのですけれども,そういたしますと,そのプライバシーを守られるべき人のことを居住者として表現するんだと言えばいいのかもしれませんが,私は面倒くさくなればいつもそうなんですけれども,そうだったら,いま「隣人」とあるのだから,もう「隣人」でいいではないかと思わないでは,実はありません。居住者と書いたらよりよくなるのかと言われると,どうもそうとも思えないので,それでもいいのではないかなと思っているということだけ申し上げておきます。
○山野目部会長 この部会に限らず,民法の改正をやっていると,時々こういう経験をすることがありますが,やはり明治の先輩たちの書いたものって,すばらしいのですよね。何かちょっとおかしいなと思って直そうとすると,あのあたりの上のほうから,梅謙次郎先生あたりが眺めていて,おい,後輩たち,できるものならやってみよというふうにおっしゃって,いろいろやろうとするけれども,やはりうまくいかなくてまいりましたというふうに言ってしまおうかなと思う局面というものは時折経験いたします。何かここの209条のただし書のところもそうであるかもしれないというふうに感じます。
沖野委員,お手をお挙げになっておられて,こういうときに何かアイデアをくださる方ですから期待しましょう。
○沖野委員 ありがとうございます。
御期待にこたえられるかどうか分からないんですけれども,住家にしても,居住者にしても,それぞれの趣旨から適切な絞込みなり,概念定義がされるということだと思います。それを前提としてですが,例えばですけれども,「ただし,住家についてはその居住者の承諾がなければ立ち入ることはできない」というような形で,順序を変更するということはあり得るのかなと思いました。
取りあえず1の①についてはそのような表現もあり得るのかなということで,それで,もう一つ,3について,これもまた細部をお伺いしたいのですけれども,よろしいでしょうか。
○山野目部会長 お願いいたします。
○沖野委員 償金のことで,念のためということなんですけれども,分割によってこの状況が生じたときに,⑧においては⑤の規律は適用しないということなので,償金は支払わなくてよいという考え方だと思われます。そうしたときに,設置のために工事をするなどして,土地使用が可能性としては出てくるかと思います。すなわち⑤の括弧書きで抜かれている④で,1の④が準用されることによって生じる償金の点なんですけれども,これも掛からないという規律でいいようにも思うのですけれども,一時金はやはり払うということなのでしょうか。
○山野目部会長 沖野委員が二つに分けておっしゃったうちの前段,209条のただし書のこの文言表現に関しましては,御提案を受け止めて検討を続けることにいたします。沖野委員がおっしゃったとおり,やはり住家の言葉を前に出した方が,総体的に誤解のない法文にすることができるのではないかということは,なるほどというふうに感じるものでありますから,御提案を踏まえて検討することにいたします。
後段,3の導管,設備設置,設備使用権の償金の関係について,一時に損害を償うものとして支払うべき償金の関係でお尋ねがございましたから,これについては事務当局からの説明を求めます。
○小田関係官 関係官の小田でございます。
償金の部分に関して,⑧の提案においては,一時的な損害については償金を支払うということを想定しております。ただ,価値判断としてどちらがいいのかというところは御意見がいろいろあろうかと思いますが,現時点ではそのような理解で書いておるところでございます。
○山野目部会長 沖野委員,お続けになることがおありでしょうか。
○沖野委員 結構です。確かにどちらでもあり得るかと思います。両方払わないという選択も十分あり得るかと思ったものですから,立場が明確になれば結構です。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
部会資料51の第1の3「継続的給付を受けるための設備設置権及び使用権」についてですけれども,この権利を行使するときに,その対象となる土地の所有者が特定不能または所在不明の場合はどう対応すべきかということについて確認したいと思います。また,その前提問題として,継続的給付を受けるべく設備を設置または使用するためには,第1の3の③の「通知」をしなければならないということですが,第1の1「隣地使用権」を行使する場合の通知の場合には,予め通知することが困難なときには事後通知でよいというただし書が付いていますが,第1の3「設備設置権及び使用権」の通知の方は特にそういうただし書が付いておりませんので,その通知の持つ意味が同じなのか,違うのかということも確認したいと思います。所有者が所在不明の場合には公示送達ということも考えられるかもしれませんけれども,そもそも所有者特定不能の場合には,所有者不明土地管理人を選任して,その者に対して通知するということを求めるという趣旨でしょうか。
ちなみに,第1の2の竹木の枝の切除権については,2の③のイで「竹木の所有者を知ることができず,又はその所在を知ることができないとき。」ということについての明示のルールがございます。この場合には,所有者の特定不能および所在不明の場合には切除権を与えるというルールになっております。しかしながら,先ほどの隣地使用権にしても,継続的給付のための設備設置権・使用権にしても,所有者不明の場合についての明示的規定はございません。それについてどういうルールを想定しているのかということは,やはり明確にした方がよいと考えます。先ほど隣地使用権については今川委員の方から確認がございましたけれども,隣地使用権と継続的給付を受けるための設備設置権・使用権とを比べると,やはりこの設備設置権・使用権の方が対象地となる土地や設備を一時的にというよりは継続的に使用するという点で土地や設備の所有権に対する負担は重たいのではないかと思います。それでも所有者不明の場合は,公示による意思表示で通知すればよいのか,あるいは土地管理人を選任して,その者に所有者に代わる手続をとってもらう必要があるようにも思います。その点について,提案が前提とするルールを確認させていただきたいと思います。
○大谷幹事 今の点につきましては,先ほど隣地使用権の方では緊急の場合のような,あらかじめ通知することが困難な場合には事後的でもよいとしておりますけれども,こちらの継続的給付を受けるための設備設置権等におきましては,そういう緊急性のある場合というのが想定し難いだろうということで,事前に必ず通知するということが必要だろうと考えたところです。
この通知につきましては,その相手方を知ることができない,所有者が誰か分からないというときでも,公示による意思表示で通知することが可能で,必ずしも所有者不明土地管理人を選任しなくても,この権利の行使が可能だと理解をしております。
○山野目部会長 松尾幹事,いかがでしょうか。
○松尾幹事 提案の前提にあるルールを承りました。それを前提に,所有者不明の場合は公示による意思表示でよいか,土地や設備の所有権に継続的負担を与える点に鑑みてより慎重な手続が必要か,何れにしても明示的規定が必要か,考えてみたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。隣地使用権,竹木の切除,設備の設置使用という相隣関係の部分についていかがでしょうか。
よろしゅうございましょうか。
それでは,部会資料51の中の相隣関係の部分については,多岐にわたる御指摘を頂きました。かなり実質的に検討しなければならない事項も含まれておりますから,委員,幹事の皆さんに再び御検討いただく機会を設けることにしたいと考えます。本日の御指摘を踏まえて,事務当局において議事を整理いたします。
相隣関係規定等の見直しについて,御相談を差し上げます。
部会資料46の1ページは,第1といたしまして,隣地使用権の見直しについてお諮りをしています。そこに御提示しているもの全般について見ていただきたいと考えます。
基本的な趣旨は,第14回会議でお諮りした部会資料32と同じであります。ただし,本日やや念入りに御議論いただきたいと考えます事項は,隣地に立ち入るに際して,コミュニケーションを取らなければならない相手が,隣地の所有者であるか占有者であるか,あるいは,はたまたその両方であるかということについては,第15回会議における問題提起を踏まえて議論の材料を用意しておりますから,ここについて御意見を承りたいと考えます。
おめくりいただきまして,5ページにまいりますと,越境した枝の切除等について,これも,部会資料32と基本趣旨を同じくする提案を差し上げております。ただし,竹木の枝の切除,根の切取りの費用とか越境した枝から落下した果実の扱いなどにつきましては,6ページで御案内しているとおり,規律を置かないという方向での提案を差し上げているところであります。
それから,おめくりいただきまして,8ページのところは,導管等設置権及び導管等使用権につきまして,部会資料32でお示ししているものと同様のものを御提示申し上げております。
部会資料46の全体について御意見を承ります。いかがでしょうか。
○橋本幹事 まず,第1関係ですが,請求の相手方をどうするかという点については,日弁連のワーキングの意見では,占有者でよろしいのではないかと,占有者説が多数でありました。その場合,占有者の権限については問わないということについても,賛成するという方向です。
①のただし書なんですけれども,この点について,補足説明で,現行法の規律と実質的に変えるつもりはないんだという説明をされているんですが,承諾を求めることができないという,仮にこのままの条文になっちゃうと,現行法よりも狭くなっちゃうふうに読めちゃうので,ここは,補足説明の趣旨が通るような表現でお願いしたいということです。
第2関係ですが,第2関係全体として,方向性としては大きな異論はありません。賛成方向です。その上で,竹木が共有の場合について,共有者の1人の承諾で可とするという提案になっているんですが,これは,部会資料32のときには,これは変更行為か管理行為かという議論はされていたんですが,今回はそういうことはもう問題にせずに,1人でいいんだという決め打ちをするという趣旨の提案という理解でよろしいんでしょうかという,確認のための質問です。
それから,②のcですね。著しい損害又は急迫の危険を避けるため,急迫の危険という話が入ってきましたけれども,要件をもうちょっと具体化できないだろうかという要望がありました。
それから,落下した果実の扱いについて,大きな反対ではないんですが,従前の部会資料32の当時の,処分権限を認めるというものを付けた方がいいんではないかという意見がありましたということを,紹介させていただきます。
それから,第3関係ですが,②の点についていろいろ意見が出されまして,これについては,やはり竹木の枝の切除と同じように,共有の場合ですね,導管設置についての承諾について,変更行為なのか管理行為なのかという問題があろうかと思うんですが,やはりそこは度外視して,過半数でいいんだという割り切りの御提案という趣旨なんでしょうかと。というのは,導管,埋めちゃえば表面からは見えないけれども,やはり性質としては変更行為なのではないかと。なので,過半数というのは筋としておかしいのではないかという意見がありましたので,その部分についての確認をさせていただきたいということです。
それから,提案には書かれていないんですけれども,導管が設置されているということについて,何らかの公示方法が必要なのではないかという意見がありました。これは,公示方法なくても,対抗力は何人にでも対抗できるという意味での提案なんでしょうかという質問を含むと思うんですが,例えば,導管を設置した方の土地が,将来売却などされて,買受人がそこに埋まっているのを知らないという場合が想定されるんですけれども,そういった場合の調整についてはどうするのかと,公示方法がなくても,隣地の導管を使用している側の権利が,常に優先するという考え方に立っておられるのかということを聞きたいという点です。
おおむね以上です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
橋本幹事におかれて,弁護士会の御意見を取りまとめいただき,御意見をおっしゃっていただいた点も多々ありました。それから,確認のためのお尋ねというおっしゃり方でしたけれども,大体3点だったでしょうか,共有されている竹木の扱いについての疑義,それから,関係する土地が共有である場合の導管設置権の規律の在り方についての疑問,それから,同じく導管設置権,導管等使用権についての,第三者対抗可能性と呼んでもいいようなお話の関連の確認のお尋ねでした。
これら3点を中心にして,事務当局からお話しください。
○小田関係官 関係官の小田でございます。
まず,1点目の竹木の枝の議論でございますけれども,こちらは,従前,変更行為だったり管理行為の議論させていただいておりましたが,今回は,その議論とは関係なく,共有者の1人の者に対して枝を切り取らせるという規律を設けるということを提案しております。ですので,変更行為か管理行為かという話は,ここでは直接的には関係ないということになろうかと思います。
導管の方の共有についてでございますけれども,こちらは,承諾をする側が,本来変更行為に当たる行為であっても,この特殊性といいますか,導管設置の必要性であったり,他の土地等を使わせる義務を負っているという特殊性から,一律に過半数で足りるというような整理ができないかというところで,提案させていただいております。
今までの従来の議論であれば,変更行為に当たり得る行為であっても,一律に過半数で足りるというところを提案させていただいております。従来の議論からは変更行為の枠に入ってくるものも,ここでは過半数でできるというところを提案させていただいておりますので,そのような理解で御議論していただければと思っております。
最後に,導管の公示について御意見を賜りました。どのように公示するのかというところが難しいところかと思うんですけれども,我々の考えとしては,相隣関係の権利として,発生したものに関しては,次の所有者についても引き継がれるというところで考えております。ここについては,そういう権利があるものとして,その土地を買う方が調べていただく,あるいはその周りの土地を買う方が調べていただくということになるのではないかと思っております。
○山野目部会長 橋本幹事におかれて,ただいま小田関係官から案内を差し上げた内容を,弁護士会の先生方にお伝えいただければよろしいと考えます。
最後に話題になった点につきましては,改めて考えてみますと,小田関係官も今述べたように,従来の他の相隣関係上の権利,典型的なものは,公道に至るための通行権でありますけれども,あれは登記の対象になっておらず,小田関係官が述べたように,登記されていなくても,特定承継人に対して追及するといいますか,拘束が及ぶという前提で,あとは,例えば,売買当事者間では権利の不適合があったものとして,民法565条が定める,売主の契約不適合責任の問題として処理してもらうという発想で運用してきたものでありましょう。
今,導管について何かそこについて特別の規律を講じますと,通行権の方についても何かしなければならないという話になってきそうでもあります。いろいろ波及する問題も含めて考えていかなければいけないというような状況を,お伝えいただければ有り難いと感じます。
何か補足しておっしゃられることはおありでしょうか。
○橋本幹事 今の説明,そういう説明だろうと予想しておりました。それを含めて,方向性としては,大きな反対論はありませんでしたということです。
○山野目部会長 どうもありがとうございました。
○潮見委員 先ほど弁護士会の発言がございましたから,1ページ目の点について,やはりどうしても言っておきたいと思いまして,発言をさせていただこうと思った次第です。
弁護士会の御意見,1ページ目の点で,占有者がよいということで御発言になりました。当面する問題の処理として,それが最適であるということであるならば,私はそれに,あえて反対するつもりはありません。
ただ,理屈っぽい話ですけれども,相隣関係というルールという制度は,基本的に所有権同士が衝突する中で,一方の所有権が他方の所有権のために制約を受けると。他方の所有権を一方の所有権のために拡張するという枠組みで制度が作り上げられてきたというように理解をしておりますし,その基本は,今でも私は変わっていないと思っております。
そういう意味では,ここの1ページ目で提案されている内容での隣地使用権についても,相隣関係という制度の枠の中で考えるということからすれば,隣地の使用によって所有権が制約を受けるという観点から,所有権の制約が必要か否かとか,その要件はどうなるのか,また他方,その隣地を使用する側の所有権の拡張という必要があるのか,あるいは,その要件は何かという観点から比較考慮をするべきであって,この問題を占有レベルでの調整という形で考えるべきではないし,理論からいったら,そうならざるを得ないというように思います。
先ほど申し上げましたように,当面する問題の処理として,占有者ということを相手にして承諾を求めればよいということであるのならば,こだわりません。新しい制度をここで作るんだと割り切るしかないとは思いますけれども,従前の伝統的な相隣関係という枠から考えますと,基本はやはり,相手方は所有権者であり,さらに,少し進めて所有者から土地の占有権限を与えられた者というように捉えていくというのが,理論としては筋ではないかと思います。さらに,それを崩して占有者まで広げるのが適切かという観点から,考えていくべきではないのかと思いました。
そういうこともありまして,弁護士会がおっしゃった考え方には賛成できないということを,最後にお話ししたいと思います。
○今川委員 まず,第1の①のただし書については,橋本幹事がおっしゃった弁護士さんの考えと同じ意見で,逆の効果が発生するので,単に削除するだけでいいのではないかという意見があります。
それから,これも,橋本幹事が質問されて,当局の方で回答いただいた件ですが,越境した枝の切除について,その共有者,数人の共有に属する場合ですけれども,14回会議では,部会資料32では,変更行為に該当するから全員の同意を要するという意見もあったという記載があって,また,部会の席上で,保存行為と位置付けてもいいのではないかという意見もありました。今回,そこは全く考えずというか,関係なく,1人に対して請求できるという規律ですという回答を頂いたのですが,共有物について,単独でできるのか,過半数でやらなければいけないのか,全員の同意が要るのかということは,できる限り明確にしていこうという要請があるので,今回もこのような規律を設けるのであれば,枝の切除は保存行為として捉えているということを,やはり積極的にというか,あえてはっきりとさせておいた方がいいのではないかという意見が,我々の中にありました。
○山野目部会長 司法書士会の御意見を承りました。ありがとうございます。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
まず,部会資料46の1ページ,第1,隣地使用のための①承諾請求および②催告の相手方につきましては,先ほどの潮見委員の意見に賛成です。この隣地使用のために承諾請求や催告をするということが,一つの権原の取得という意味を持つのであれば,その相手方はやはり既存の権原を持っている者であることが,土地所有権の効力を調整する相隣関係法理の趣旨に相応しいと思います。確かに,占有者に対する承諾請求や催告で足りると法律で定めればよいといえないことはないですが,承諾請求や催告の意味は,部会資料46の2ページ,下から2段落目で言及されている,占有訴権を発動させないための要件とは異なるもので,占有訴権レベルの問題ではなく,権原付与の問題であるということは,明確にしておく必要があるのではないかと考えます。
それから,もう1点,部会資料46の1ページ,第1の③では,承諾請求や催告をしなくても,①の目的の範囲内で隣地の利用ができる要件として,著しい損害又は急迫の危険を避けるためという新たな要件が設けられました。前回14回会議の部会資料32では,所有者の特定不能又は所在不明というのが要件として挙がっていて,隣地使用権の場合には公告をして,枝の切除の場合には公告を要することなく,隣地の使用や越境した枝の切除を認めるという構成になっていました。その要件に代えて,著しい損害又は急迫の危険,急迫の危険は既にありましたけれども,これらの要件が,所有者不明の要件の代わりに入っているという特徴があるように思います。
この変更の経緯について,御説明を伺いたいと思います。
○山野目部会長 二つおしゃっていただいたうちの後ろは,お尋ねでした。隣地所有者が不明であるようなケースについて,前回部会資料用32までと,その点に関して見ると,異なる規律の提案がされている経緯を教えてほしいというお話でした。
経緯のお尋ねですから,事務当局の方から差し上げます。
○小田関係官 御質問ありがとうございます。
所在不明又は所有者不明の場合の特則といいますか,規律を今回提案から落とす形になっておりますけれども,当初,その規律を置いていた趣旨といいますか,困っている場面というのをよく考えてみると,平時の場面と緊急時とに分けて考えることができるのではないかなと考えておりまして,平時の方は,②の規律で公示による意思表示を使うことで,裁判所の手続も介すということで,適切にやっていくということができるのではないかと,緊急時の方は,従前急迫の特則を提案しておりましたけれども,そちらの規律で対応できるのではないかというところで,所有者不明の特則を落としたという経緯でございます。
この③の著しい損害というところなんですけれども,必ずしも所有者不明の特則を落とすことのバーターとして入れたという趣旨ではございませんで,民事保全法の要件と同程度の要件がなければ,隣地使用をしてはいけないのではないかという価値判断で入れたものでございます。結果として,著しい損害というところが,所有者不明と絡むところとして補足説明で書かせていただいておりますけれども,経緯はそのようなものでございます。
○山野目部会長 松尾幹事におかれては,いかがでしょうか。
○松尾幹事 はい,分かりました。
ということであると,従来の所有者不明の場合に対応するというのは,むしろ②の方で,催告して確答がない場合というところで,むしろ対応するということになるでしょうか。
○小田関係官 そのような理解でおります。
○山野目部会長 よろしゅうございますか。
○松尾幹事 はい,分かりました。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
まず第1なんですが,理論上の観点からのお話をいろいろ頂いている中では,非常に発言しづらいところではあるんですが,やはりここは,実務的な観点で申し上げますと,承諾を求める対象は隣地の占有者のみにしていただかないと,なかなかちょっと厳しいかなというところはございます。この隣地使用権で認められる使用類型の所有権に対する制約というのが限られたものに過ぎない,であるとか,ちょっとそういった理屈付けで何とか実務上のニーズに即したものにしていただけないものかというところで,引き続き占有者のみを対象とするという案を支持したいというところでございます。
あと,先ほど御指摘のあった第1の③につきましても,この要件を満たした場合に承諾なく隣地使用ができる場合というのを一定の範囲で用意しておいていただくということが,やはりいざというときには必要なのではないかというところがございますので,こちらについても賛成の意見を述べさせていただければと思います。
越境した枝の切除に関しては,先ほどから御指摘が出ておりますとおり,共有者の1人に枝を切除させることができるという点に関しては賛成でございまして,他の点についても,特段異論ございません。あと,導管等設置権に関しましても,今,本文に書いていただいている内容に関しては,基本的に賛成できるということを申し上げたいと思います。
○山野目部会長 少しここのところで議事の整理を差し上げます。
隣地使用権の行使に当たって,コミュニケーションの相手方として選ぶ者が,所有者であるか,占有者であるかという議論につきましては,潮見委員及び松尾幹事から,相隣関係の規律の本質に照らすと,所有権相互の調整であるから,所有者であるべきだろうという御意見を頂きました。藤野委員からは,実務上の観点から,占有者であってほしいという御意見を頂きました。
恐らく,その占有者であるという選択にする際は,相隣関係に関する規律の209条の趣旨としては,客観的要件を満たせば,所有者は隣地に立ち入ってよいものでありますということになるでしょう。ただし,その手順として,そこに現に使用している者がある場合において,その人とのコミュニケーションは,言わば政策的に求められることになりますという説明になるものであろうと考えられます。理論的にはそういうお話になりますが,そのような施策の採用がよいかどうかは,ただいま御発言いただいたようなもろもろの観点を踏まえて,議論が続けられなければなりません。
なお,関連して申し上げますと,所有者か占有者かといいますが,これ,所有者が自ら賃貸借契約の賃貸人になって,賃借人に使わせているときには,所有者は間接占有を有していますから,占有者の承諾を得ればよいと言ってみても,間接占有者が含まれるならば,結局は所有者である人の承諾も得なければならないことになってしまうものであり,何かこの部会資料が所有者ですか,占有者ですか,どちらですかと,畳みかけるように尋ねますが,その問い自体をひょっとしたら問い直さなければならないものであるかもしれません。
引き続き,國吉委員からの御発言を承ります。
○國吉委員 第1の隣地使用権のところで,ちょっと意見を述べさせていただきます。
まず,先ほども幾つかの幹事,委員からありましたけれども,第1①のただし書の部分です。住家への立入りについては,私どもの経験値から,境界標の探索のために,どうしても隣家ですね,住宅に入らせていただくという場面があるということを,御紹介して協議を頂いたところですけれども,ただ,このプライバシーですとか強要的なものが含まれてしまうのでということで,現行法上でも,当然ながら通常の隣人同士の間柄であれば,おのずと承諾を得られるということですので,現行法を基本に維持するということであるんであれば,このただし書の部分については,できれば削除を頂きたいというのが意見でございます。
それから,隣地使用権の相手方ですけれども,ここに書いてありますa,b,cの目的を達成するためには,どうしても最終的には隣地の所有者の承諾なり確認なりが必要ということになります。そのときに,占有者だけにその目的を説明するかというと,通常であれば,当たり前のように所有者自身に隣地を使用する目的を説明するというのが,現実的というか,実務上もそうだと思います。そのときに,実際にこういった境界標の近くに構築物を造ったり,測量のために入るというには,やはり占有者,実際にそこに,その土地なり建物を利用している方に,やはり承諾を得るというのが通常の業務だと思います。となると,やはり,ここであります隣地の占有者という方に,隣地使用を求めるというのが一番というか,合理的なのではないかなと思います。
ただ,その使用する目的については,あらかじめ所有者には説明をしておくというのが,実務の取扱いになると思いますので,その辺の所有者なのか占有者なのかってありましたけれども,先ほど部会長の方からもありましたけれども,実質的には占有者という表現でいいのではないかと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
國吉委員が前段でおっしゃった①のただし書のことでございますけれども,國吉委員のみではなくて,先ほどから伺っていると,このただし書の部会資料が提示している文言は,非常に評判が悪うございます。
確認ですが,私の理解するところでは,委員,幹事の間で,この住家への立入りの関係でのルールの実質的内容についての意見の対立は恐らくないものであろうと感じます。これを規律として表現していくときに,その波及効果であるとか,誤解を出来するおそれであるとかの御心配の観点から,いろいろ御指摘を頂いたと理解しております。もし誤っていれば,御指摘を頂きたいと望みますが,もしルールの実質についての御意見のコンセンサスが見られるのであれば,あとは,法制上,誤解のないような,無理のないような法文に整えていくという作業を,今日頂いた御意見を踏まえて,また整理をして,次の機会に御相談を差し上げるということにいたします。ありがとうございました。
道垣内委員,大変お待たせをいたしました。どうぞ,御発言ください。
○道垣内委員 申し上げたいことは二つあって,その前者として申し上げたいことは,実は,山野目さんがおっしゃってしまったので,あんまり申し上げなくていいのですけれども,どういうことかと申しますと,第1の①の所有者プラス占有者か,占有者かという問題について,所有権の調整の問題であるから所有者も入るよねという話に関して,それでも占有者だけにするという論理はあり得ないのかというと,僕はどちらがいいというのではなくて,あり得ないのかというと,あり得るのだと思います。山野目さんがおっしゃるように,実態的な要件が満たされれば,片方の所有権はへこむというか,制約されるのだが,しかしながら,それを自力救済で勝手にやるというのはいけなくて,平穏が乱される人に対して承諾を得るという手続が必要なのであって,所有権の調整の問題自体は,既に実態的な要件の具備によって,ある種結論が出ていると説明するのかなと思います。実質論として,所有者のオーケーを取った方がいいのではないかという気は,私はするのですが,理屈上立たないかというと,立つのかなという気がします。
もっとも,同じく山野目さんがちょっとおっしゃったことが,本当かという気がしたものですから,ちょっと一言申し上げます。
非常に今日の話の中心でないところで恐縮なのですけれども,山野目さんは,公道に至る通行権の話をされまして,それが発生していると,次の人にも受け継がれるとおっしゃったんですが,それって,やはり要件が満たされていれば,公道に至る通行権というのは当然に発生するから,本来的には,継承といいますか,そういう問題ではないのではないかと思うのです。つまり,新所有者が出てきたときに新たに判断しても,同じ結論が出て,同じような通行権が認められるはずだということなのではないかなという気がするわけであって,そうしますと,山野目さんがおっしゃったことで何が気になったかというと,担保責任を売主は負い得ると,そういう通行権があるというようなことであったならば,その土地の通行権が存在している,存在というのは,通行権の負担のある土地の売主の場合に,そういう担保責任を負うことがあるとおっしゃったのですが,そうなのかなと。通行権が仮にその時点でないというか,通行されていなくたって,客観的にはそれ,発生し得る,発生というか,存在しているものなのだから,別に担保責任の問題は生じないのではないかなという気がしたというのが,非常に細かい点なのですが,1点目です。
2点目は,竹木の共有の話ですが,これも,共有物であろうが,その所有者である限りにおいて,その人に対して,どかせと多分言えるんだろうと思うんですね。それは,共有の石が上から落ちてきたとしても,共有の自転車が放置されているとしても,共有者の1人に対してそういう請求はできるのだろうと思います。そして,請求をして,その上で,相手方にはそういう義務があるわけですが,それを一定の要件が満たされれば,自力救済で切ってもよいという,それだけの話であって,保存行為とか処分行為だとかという問題とは,直接には結びつかない問題なのではないかなという気が,私はいたします。これも,私が是非共有者の1人でいいとすべきであると主張しているというわけではなくて,保存か処分かという話ではないよねという感じがするという,そういう話でございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
道垣内委員から,細かく見ると,三つの話題をおっしゃっていただきました。
1点目,隣地立入権のコミュニケーションの相手方として,所有者とするか,占有者とするかという問題につきまして,相隣関係の本質との関係の議論を整理していただきました。一つ前に,私が何かぼそぼそと申し上げたことと同じ内容のことを極めて明快に整理を頂くことができました。
2点目でありますけれども,公道に至るための通行権の目的になっている土地について,特定承継が起きた場合の扱いについても,明快な整理をしていただきました。先ほど私が565条の規定による売主の契約不適合責任の問題でしょうというお話を申し上げたことについても,御注意を頂きました。なるほど,本当か,というお叱りを受けると,そのとおりですね。不調法をいたしました。御注意を踏まえて,改めて申し上げれば,通行権なんてないよということが,当該個別の契約において,565条が参照する562条にいう契約の内容になっていれば,契約不適合責任が発生することがあるかもしれないという程度の話でありまして,先ほどの申し上げようは不正確でございました。
それから,3点目は,共有竹木について,1人の人とコミュニケーションを取れば足りるという規律の提案そのものについて,本日の部会の中で意見の険しいそごがあるとは見えませんけれども,今川委員から保存行為であるという性格付けを明らかにしてほしいというお話を頂いたのに対して,道垣内委員から,いやいや,必ずしもそういう議論にならないのではないかというお話を頂きました。
いずれの発想もごもっともなものでありまして,今川委員も恐らく,これを保存行為とすると法文に書けという趣旨ではないだろうと考えますから,道垣内委員に御注意を頂いたように,保存行為そのものであるというよりは,1人とコミュニケーションをすれば,話を進めることができるという趣旨の解決を採っていこうという方向を確認した上で,どのくらいの丁寧さで事に当たらなければいけないかは,レベルは保存行為と同じだよねということであり,ただし,それを保存行為と言ってしまうということについては理論上問題がありますという,道垣内委員のお話は,そのとおりではないかと感じます。
都合3点,ありがとうございました。
引き続き御意見を承ります。
畑幹事,どうぞ。
○畑幹事 ありがとうございます。
今の竹木の共有なのですが,結論的には,ここに書いてあるようなことでいいのかもしれないとは思うのですが,理論的な説明というのは,やはりなかなか考える必要があるのかなと思います。②の自力救済的なところは,実体法的な規律としてこういうこともありうるのかなと思いますし,①の方もこういう規律はありうるのかなとは思うのですが,6ページの説明のところですと,共有者の1人に対して,竹木のために訴訟は実際にはしないかもしれませんが,債務名義を取得して,それによって強制執行もできる,ほかの共有者は邪魔できないということになっているのですが,一般的にはそういうことはあまりないのではないか,共有物について,共有者の1人を被告として訴えて,それで,ほかの人が何を言おうが強制執行できるという事態は,一般的には余りないのではないかと思われますので,ある種政策論としてこういう規律が望ましいということであれば,何か理論的な説明というのは,大分考える必要があるのではないか。
皆さん御存じのように,共有が絡む場合の訴訟というのは難問の一つで,私も確たることを申し上げられないのですが,理論的にはちょっと難しい問題を残すのではないかと思われます。実際には,自力救済の方で処理されるのではないかとは思いますが,理論的にはちょっと問題が残るかなという感じはいたしました。
○山野目部会長 畑幹事の共有関係訴訟の処理の難しさに関わる御指摘は理解いたしました。事務当局において,更に検討いたします。ありがとうございます。
○中田委員 3点ございます。順番は,今の畑幹事の御指摘のところから始めます。
ここでの問題は,所有者が,竹木の共有者に対して何が請求できるかということと,それから,竹木の共有者の1人が何ができるかという問題とが混在していて,その整理が必要ではないかと思います。所有者が竹木共有者の1人に請求できるというのは,多分,最終的には代替執行になるだろうから,問題ないのではないかというようなイメージがあるのではないかと思うのですけれども,そのことと,所有者が請求すれば,共有者のうちの1人が切除できるという権能を取得するということは,別の問題だろうと。そこが交じっているので,分かりにくくなっているのではないかと思いました。
それから,2点目は,①のただし書,住家の立入りについての承諾を求めることはできないという書き方について,様々な御指摘があったわけですが,その御指摘は理解できるんですけれども,恐らくこれは,現在の209条1項本文,使用請求というのを承諾請求にした上で,第1の②,③という例外を設けていくという立て付けにして,その上で,現在の209条1項ただし書をどのように表現するかということと絡んでいるのだろうと思います。ですから,全体として,209条の規律をどのように設けるかということを併せて考えると,表現の問題なのかなと感じました。それは恐らく,最初の頃に藤野委員がおっしゃったこととも関係しているのだと思います。
それから3点目は,導管の点なんですけれども,前回の御提案のときから,他の土地に囲まれているということは要件としないということになりました。そこで,甲という土地が,継続的給付を受けるために導管を設置する必要があるというときに,それが乙という土地を使っても,丙という土地を使っても,どちらでも可能であるというときに,かつ,乙と丙の所有者が違う場合に,どちらになるのかという問題があると思います。
民法211条と同じような規律が,7ページにあります第3の1の④にあるわけですけれども,民法211条の場合には,囲んでいる土地の通行権があるということを前提にして,その中での通行の場所や方法の制限になると思うんですけれども,導管等については,囲んでいるという要件がないものですから,どの土地になるのかという,その前の問題がより多く出てくると思うんですね。その点が,7ページの第3の1の④で十分に表されているのかどうかということは,なお検討する必要があるのではないかと思います。
前回も211条との関係の発言をして,今申し上げた趣旨のつもりだったんですけれども,少し言葉が足りませんでしたので,改めて申し上げたいと思います。
○山野目部会長 中田委員から,御自身で整理いただいたとおり,3点についての御案内を頂きまして,いずれも誠にありがとうございます。
1点目の共有竹木の関係は,御指摘のとおりでありまして,1人の人とコミュニケーションを取れば,隣地所有者が何かをすることができるというルールといいますか,理解でいくからといって,たまたまコミュニケーションの相手方となったその1人が,それについて何でもできるという権能を生ずるというふうなことを始めとして,論理が飛躍していくことは困るから,よく論理を整理してくださいという御要望でありました。
2点目は,隣地立入権の際の話題となっているただし書を含む文言の整理について,部会の中における意見の実質を見ながら,さらに,表現の問題と中田委員はおっしゃっいましたけれども,整えてくださいという御要望も承りました。
3点目といたしまして,導管の設置,使用との関係で,211条並びの文言の提案を,現在は差し上げております。しかし,公道に至るための通行権と事情が異なる点は,取り分け第12回会議で全国宅地建物取引業協会連合会から出された意見などで代表されるように,実際の現場を考えますと,他の土地に囲まれている土地ということを要件とすると,いろいろ実情に適しない問題が出てくるという指摘があったところを踏まえて,導管に関しては,そのような要件を課していません。そのことから,中田委員が御指摘のとおり,単に211条並びの考慮要素を挙げることでは足りず,一言で言えば,土地の選択に関わる問題があるということを分かる規律表現にしていかなければならないということでありまして,それは,前回審議をした際の中田委員の御指摘を,私及び事務当局において正当に漏れなく承っていなかった憾みがあるかもしれません。
ただいまの御指摘を踏まえて,更に検討してまいりたいと考えます。どうもありがとうございました。
垣内幹事,お願いいたします。
○垣内幹事 ありがとうございます。
直前に,畑幹事,中田委員が発言された点と重なる部分がありますけれども,5ページから6ページにかけての枝の切除に関する点ですけれども,先ほど来御発言がありますように,共有者の1人に対して枝の切除を求めることができる,させることができるという,ですから,1人を,例えば,被告として訴えを提起したときに,請求が認容されるということと,強制執行について,他の共有者の同意なくすることができるかどうかということとは,一応別の問題なのかなという感じがいたしますので,それぞれについて求めることができるということが第1段階としてあり,さらに,6ページのところの説明のように,同意が不要であるという規律まで引けるというためには,もう一段階何か説明をしていく必要と申しますか,その根拠を考える必要があるのかなという感想を持ちました。
○山野目部会長 どうもありがとうございました。
先ほどの畑幹事の御指摘と併せて,取り分け垣内幹事が強調されたように,強制執行段階の手順のことも描いてみて,検討を更に皆さんにお願いしてまいりたいと考えます。
佐保委員,どうぞ。
○佐保委員 ありがとうございます。
隣地使用権の見直しの考え方については,特に異論ありませんけれども,その一方で,隣地所有者の権利保護については,一定程度の配慮が必要ではないかと考えます。隣地の所有者に対する説明といった一定の配慮があるべきと考えております。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。
所有者とか占有者とか言いますけれども,國吉委員もお話になったように,現場をまろやかに進めるためには,思い付く人みんなのコンセンサスを得た方がよいというアドバイスは,もとよりごもっともであると承ります。
中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。
1ページ目の第1の③,それから第2の②のcの要件を,従前の急迫の事情から,著しい損害又は急迫の危険に変えての御提案の趣旨は理解できました。
また,従来ですと,民事保全法に基づく仮処分命令を取ってしなければならなかったことを,1ページ目の①のa,b,cの目的が限定された場面において,著しい損害又は急迫の危険がある場合には,承諾なくできるということにするということについての必要性なども理解できました。その上で①のa,b,cを見てみますと,cですと,資格のある測量士さんが必要最小限のことをされるのでしょうから,それほど大きな侵襲があるとは思わないのですけれども,bですと,規模によっては,枝を運び出すためのトラックが入ったりとか,aですと,もしかしたら重機が入ったりとかというようなことも想定されるかと思います。
そこで,この隣地使用権で承諾を得ることなく入るような場合に,7ページの導管等設置権の④の3行目にあるような,隣地のために「損害が最も少ないものを選ばなければならない。」というような定めを入れてもいいかもしれないという気がいたしました。
○山野目部会長 中村委員にお尋ねですが,目的のために必要な範囲内で,では,心もとないというお話ですかね。
○中村委員 目的のために必要な範囲内というのは,行為者の側から見た要件ですが,踏み込まれる側のといいますか,隣地の人からするとということですね。
○山野目部会長 踏み込まれる側の要素になっていない,なるほど。御意見の趣旨はよく分かりました。検討いたします。
ほかにいかがでしょうか。
大体部会資料46の相隣関係規定について,御意見を承ったと受け止めてよろしゅうございましょうか。
それでは,引き続き部会資料47についての審議をお願いいたします。
部会資料47をお取り上げください。
共有関係の見直し,その中でも,通常の共有関係の解消方法について,御相談を差し上げます。
「第1 裁判による共有物分割」,これのみをお諮りするものであります。
部会資料37を第16回会議にお示ししておりましたが,その方向を基本的に維持して御案内を差し上げているものであります。見かけが異なっている点は,部会資料47,1ページ目の第1②のイの,いわゆる全面的価格賠償に関わる事柄についての表現についての調整,見直しをした上でお諮りをしておりますけれども,部会資料37で御案内した内容,基本趣旨の本質を変更するものではございません。
それでは,この部会資料47について,御意見を承ります。中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。
今回の御提案については,日弁連のワーキンググループは賛成が多数でございました。
その上で,よりよくするためにというようなことで意見が出ておりましたので,御紹介したいと思います。
まず,前回,第16回の議論の際に,平成8年の最高裁判例の判断要素を明文化できないかという意見があるということをお伝えしたのですけれども,今回の資料では,それを御検討いただいた上で明文化は難しいという記載になっております。
これに対して,日弁連の方では,最高裁が示している判断要素は,実務上重要な意味があって,当事者の主張の指針になるものなので,全て盛り込むのは難しくても,例示でもよいから示すことはできないか,また,部会資料の2ページの2行目後半から示されている懸念というのは,記載の仕方の工夫によっては払拭できるのではないかという意見が上がっておりましたので,まず1点目として御紹介いたします。
それから2点目ですけれども,本文の②のアとイの記載ですが,これは,最高裁の昭和62年4月22日判決の分類に基づくものと承知しておりますけれども,法律知識のない人にとっては,部分的な価格賠償がアに含まれると読み取ることは難しいかもしれないと思います。法文上,選択肢が明記されるように工夫ができないかという指摘がありましたので,御紹介いたします。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめになり,御紹介いただきまして,ありがとうございます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
今回出していただいている提案なんですが,やはり先ほど御指摘あったとおり,②のア,イのところの表現ですね,こちらの方は,非常にフラットな形で表現されていまして,本来の趣旨がより伝わるのではないかと思っております。
内容的には,もうこれでいいかなと思わないこともないのですが,やはりいろいろ,事業者の実務的な見地からの意見を聞いてまいりますと,要件の明確化といいますか,予測可能性,要は,共有物分割請求をかけたときに,確実に賠償分割という結論を得たい場合にそれが得られるような要件化ができないのか,こういうときに賠償分割を請求すれば認められるというような要件,あるいは指針のようなものを何か書き込むことはできないのかという意見は出ております。
もちろん難しいのは重々承知しておりますが,最高裁判例の要件の中でも,共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当である,と認められる場合というのがどういうときなのかというところが,実務者としてはすごく気になっているところではございますので,先ほど中村委員がおっしゃったような,例示で要件を明記していただくという案もございますし,あるいは,もっと何か違う形で,できることはあるのではないかと思っています。今までは純粋に,まず現物分割ありき,特段の事情があれば賠償分割ということで進められていたことが多かったと思うのですが,今後,土地の細分化により管理が困難になることを防ぐという観点からも,賠償分割をより積極的に活用していくという考え方もあるのかなと思いますので,ちょっとその辺を,より当事者予測可能性が立つような形で何か作っていただけると,これ,条文に入れてくださいというお願いなのか,それ以外のところの話になるのかというところはあると思うんですけれども,一応要望としては,そのようなところでございます。
○山野目部会長 藤野委員におかれては,経済界の様々な御意見をお届けいただきましてありがとうございました。
中村委員と藤野委員から共通に,やはりこの②のイを中心とする部分につきまして,平成8年10月31日の最高裁判所判例が示す要件に関わって,簡単に言うと,簡単過ぎる書き方になっているから,もう少し規律文言の詳細性を高めることができないかという方向からお話を頂いたものであって,それぞれごもっともであると感ずるとともに,お話を承っているところの直感で言うと,もっとここ,文言を豊かにして明確化してほしいとおっしゃっているお二人の,しかし,考えていることの中身は異なるというか,ひょっとすると正反対だったりするかもしれません。弁護士実務の観点から明確にしてほしいと述べられる姿と,経済界が明確にしてほしいお考えになっている姿は,一致しないかもしれませんね。また,それが,ここの文言を豊かにしていこうとすることの努力にとっては,かなり困難な事情の一つなのかもしれません。
しかし,今のお二人の御意見を承って,更に検討してまいります。沖野委員,どうぞ。
○沖野委員 ありがとうございます。
2点申し上げたいと思います。
まず,基本的にこの形でお願いできればと思います。特に②の書き方については,前の資料からこのような形に変更していただいたのは,よいことではないかと思っております。その上でですけれども,一点目として,今も言及のありました考慮要素について,2ページの冒頭のところに二つの問題点が書かれています。一つは,明文化するにしても,適切に,それなりに網羅的に判断要素を挙げることができるのかということ,2つ目として,賠償分割についてのみ判断要素を挙げることによって,これがあたかも劣後的な方法であるというようなインプリケーションを意に反して与えないかという,二つの問題が挙げられております。
ただ,判断要素を明文化するということについては,ある程度具体的なものを挙げた上で,一切の事情というような形で受けるということは,あり得るのではないかと思っております。
それから,二つの方法の間の優先劣後のインプリケーションにならないかという点については,一つのアイデアですけれども,両者を包含するような形で,適切な方法を選び取るための判断要素を挙げることができないかと考えております。このことは,実は1つ目の点目にも関わります。
2点目は,③についてです。②をこのような形で,かつ,判断要素を全く挙げないで③を書いたときに,現在の258条2項というのは,現物分割を想定して,それができない場合,又は価格を著しく減少させるおそれがある場合という限界を付けて,競売を命ずるという形になっておりますけれども,価格賠償の方法による分割というのを入れた場合に,現在,258条2項に挙げられているこの二つの場合というのが,うまく当てはまるのかということです。②に掲げる方法ということですから,②のイも含んでいると思われますけれども,支払資力面で問題があり相当でない場合などが②のイによるのではできないといえるのか,恐らく不相当であるという場合もできないに含むということなのかと思いますけれども,単独の所有にする,あるいは一部の人の所有にしてしまって,あとは金銭的な解決によるというやり方の場合の限界付けが,果たして③の二つの場合で受けられるんだろうかということが気になりました。
そこで,二つお話なのですけれども,一つは,もし判断要素などを挙げるということが可能であるとしますと,現物分割の③に挙げられているようなものも含めて,裁判所による選択の一つの考慮の在り方なりガイドラインを示すというのが,一つは考えられるように思います。例えばですけれども,②で方法を二つ示し,「その場合において,裁判所は共有物の現物の分割の可否,共有物の現物の分割による共有物の価額の棄損のおそれ,共有物の利用の経緯及び状況,各共有者が共有物を必要とする事情,価格償還債務を負担することとなる共有者の支払資力,その他共有物,あるいは及び共有者に関する一切の事情を考慮して,共有者間の公平の確保の観点から,相当な方法を選択することができる」と,例えば,そういった形で判断要素なり,その特に重要なものを挙げることができないかというのが,一つ目です。
二つ目としましては,それがやはり難しいという場合,③の限界の場合というか,そこに,取り分けイの方法によるときの限界なりを入れなくていいだろうか,したがって,現物,現物とは書いていないのですが,分割ができない場合,それから価格を著しく減少させる恐れがある場合と並んで,例えば,共有者間の公平を害する場合とか害するおそれが高い場合とか,そういったようなものを挙げるということも考えられるように思いました。
ちょっと長くなって恐縮ですが,以上です。
○山野目部会長 沖野委員から,種々の観点にわたる御意見を頂きました。
前の方でおっしゃっていただいた②のイの規律の表現を,もう少し豊かな言葉を盛り込んで考えることができないかというお話につきまして,中村委員,藤野委員から御指摘,御提案があったことと併せて検討してまいらなければなりません。
それから,沖野委員から新しく御指摘を頂いた新しい問題提起といたしまして,③の問題があります。これは,問題提起を頂いて大変有り難く感じます。なるほど,この258条の現行の文言を,そのままコピー・アンド・ペーストしてここに持ってくると,このたびは②のアのみならず,イも受けた上で,③のところにお話がいきますから,現在お示ししている③の文言のままでは具合が悪いと感じられます。
沖野委員もおっしゃいましたけれども,例えば,②のイでいったときに,償金の支払の債務を負う者の資力に不安があって,イの方法が採れないといったような事例を③で受け止めることができる文言にはなっておりません。そういったことを踏まえて,解決の在り方を正確に伝達ができるような文言の改良を施さなければならないと感じました。
いずれにしても,今,沖野委員におっしゃっていただいたようなことをヒントにして,検討を続けるということにいたします。どうもありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
部会資料47につきましては,やはり②のア,イともですが,取り分けイについて,それから,関連して③の規律の表現について,やはりそれぞれ引き続き考えなければいけない問題があることがよく分かりましたから,事務当局において,よく議事を整理いたします。
ほかに,特段部会資料47について御発言がおありではないでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,共有物分割方法についての本日段階での審議はここまでにいたします。
本日は,部会資料の数として,合わせて5点をお示しして審議をお願いし,委員,幹事の皆様には大変盛りだくさんの難しい審議をお願いさせていただきました。熱心な御審議の御協力のおかげをもちまして,五つの部会資料の全てについて,内容にわたる審議を了しました。
次回会議につきまして,事務当局から案内を差し上げます。
○大谷幹事 本日もありがとうございました。
次回の議事日程でございますけれども,3週間後,10月6日の火曜日になります。
午後1時からスタートということを考えておりまして,場所はこちらの大会議室です。テーマは今のところ,いわゆる所有権の放棄を取り上げることを考えておりますが,そのほかの点について,どこまでできるかというところがございます。また少しこちらの方で検討いたしまして,終了時間については,改めて御連絡をするという形にしたいと思います。いつものように6時までということには限らず,もう少し早く終わるということもあり得ると思っております。
次回の部会についても,ウェブで部会に出席していただくことも可能という形で開催をさせていただきます。
○山野目部会長 次回の第19回会議は,もしかしたらそれなりに早く終われるかもしれませんという御案内を差し上げようかとも一瞬考えたものでありますけれども,しかし,現実には,扱う議題の量とか質は重くなってくる可能性がありますから,早とちりなことは申し上げない方がいいとも感じ,ただいま大谷幹事から御案内を差し上げたようなことで,第19回会議を考えております。
この際,委員,幹事から,第19回以降の部会の運営につきまして,お尋ねや御意見がありますれば承ります。いかがでしょうか。
よろしゅうございましょうか。
それでは,本日もお疲れさまでした。
これをもちまして,民法・不動産登記法部会第18回会議をお開きといたします。どうもありがとうございました。
-了-
第1 相隣関係
他の土地等の瑕疵に対する工事に関する新たな規律は、設けないこととする。
(補足説明)
現行法の解釈論においても、土地の所有者は、その所有権が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合には、自力救済は当然には認められないものの、物権的請求権を行使し、相手方に侵害を除去させることができ、あるいは自ら侵害を除去することができるのであり、そのこと自体には、この部会においても異論はなかったところである。
要綱案(案)において、他の土地等の瑕疵に対する工事に関する規律の創設を見送ることとした理由は、部会資料59でも記載したとおり、これまで解釈論上認められてきた物権的請求権の範囲が不当に狭まることがないようにするなど物権的請求権の解釈や運用に悪影響を与えないようにしながら、その要件を適切に設定することが困難であったことなどにあるのであり、上記の現行法の物権的請求権の解釈論を否定する趣旨ではない。
この部会で検討をしてきたような問題が生じているケースについては、引き続き、事案に応じた内容の物権的請求権を行使して対応することが可能であることを前提に、管理不全土地管理制度等が新設されることによって更に対応の選択肢が増えることとなるものと解される。
第1 相隣関係
1 隣地使用権
民法第209条の規律を次のように改めるものとする。
① 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、居住者の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
ア 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
イ 境界標の調査又は境界に関する測量
ウ 後記2③の規律による枝の切取り
② ①の場合には、その使用方法は、隣地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
③ ①の規律により隣地を使用する者は、あらかじめ、その旨並びにその日時及び場所を隣地を現に使用している者(④において「隣地使用者」という。)に通知しなければならない。
④ ①の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
(補足説明)
1 本文①に関する問題の所在
第21回会議では、本文①のような規律を設けることについて種々の意見があったが、検討すべき問題としては、一定の要件を充たせば、承諾がなくとも権利があると認めるかどうかという問題と、権利がある場合にそれを実現する方法の問題の二つがあると思われる。なお、本文①ただし書の表現ぶりについても様々な意見があったが、法制上どのように整理できるかを引き続き検討する。
2 検討
(1) これまでの検討では、隣地使用権の原則的規律について「土地所有者は、隣地の使用の承諾を求めることができる」という表現をとってはいたものの、一定の目的のため必要な範囲内の使用であるという要件があり、隣地を使用する者等に一定の連絡をすれば、その者の承諾や承諾に代わる判決がなくとも、土地の所有者は隣地を使用することができることを認めること自体には、基本的に異論がなかったものと思われる。
また、上記の連絡を受けた者は、上記の要件が充たされている場合には、土地の所有者による隣地の使用を拒むことができないこと自体も、基本的に異論がなかったものと思われる。
このような、一定の要件が充たされる場合には、承諾がなくとも隣地を使用することができ、連絡を受けた者は土地の所有者による隣地の使用を拒むことができないことを素直に構成すれば、結局、一定の要件があれば、土地の所有者は、隣地を使用する権利を有していることになると思われる。
(2) もっとも、隣地を使用する権利があると構成したとしても、上記のとおり、その実現方法をどのように考えるのかは別の問題である。
一般的に、権利がある場合であっても、自力救済は原則として禁止されているが、ここで問題になっている隣地の使用の場面に即していえば、当該隣地を実際に使用している者がいる場合に、その者の同意なく、これを使用することは、その者の平穏な使用を害するため、違法な自力救済に該当することになるのではないかと思われる。
例えば、土地の所有者が、住居として現に使用されている隣地について、隣地使用権を有しているからといって、隣地使用者の同意なく門扉を開けたり、塀を乗り越えたりして隣地に入っていくことまではできないと思われる(現行法の解釈として論じられているいわゆる請求権説・形成権説のいずれの立場に立っても、この点についての結論に変わりはないと考えられる。)。
なお、この考え方は、権利の存在とその行使方法に関する一般的な理解と同様であって、本文①のような規律を設けたとしても、隣地使用権に限って、違法な自力救済を誘発するおそれがあるとは考えにくいように思われるし、本文③のとおりあらかじめ一定の内容の通知をする規律を設けることで、隣地使用権が濫用的に行使されることを防止することができるように思われる。
また、隣地使用者が通知を受けても回答をしない場合には、黙示の同意をしたと認められる事情がない限り、隣地使用について同意しなかったものと推認され、土地の所有者としては、隣地使用権の確認や隣地使用の妨害の差止めを求めて裁判手続をとることになると考えられる。
3 通知の相手方及び通知内容について
事前の通知は、隣地使用権の行使要件として求められるものであり、通知なくして行われた隣地使用は違法になると考えられるが、第21回会議においては、通知の相手方について、隣地使用者だけでなく隣地所有者を対象とすると、現行法における実務よりも手続が加重されることになり妥当でない旨の意見があった。
改めて検討すると、本文①のとおり、隣地使用権は、土地の所有者が一定の要件の下で隣地を使用することができるという内容のものであり、隣地所有者の隣地の使用収益権につき一定の制約を加える相隣関係上の権利であると位置付けられるが、そのことは、これまでの部会でも示唆があったとおり、土地の所有者を通知の相手方とすることと直結するものではないと解される。
すなわち、隣地の所有者の権利を制約することができるかどうかは、基本的には一定の要件を充たすかどうかによって定まることとした上で、ここでいう通知は、土地の所有者との権利関係の調整のために求められるものではなく、隣地を使用している者の平穏な使用を保護する観点から要求されるものと理解し、その相手方は、隣地を現に使用する者のみとすることが考えられる。現行民法第209条の請求の相手方に関する議論において、土地の賃借人等を相手方とすべきとする有力な見解も同様の観点に立つものではないかと思われる。
また、部会資料51(第1の1③ただし書)では、事前通知が困難である場合の例外の規律を提案していたが、通知の相手方を隣地を現に使用する者に限定した場合には、隣地を現に使用する者に事前に通知することは基本的に容易であるし、上記のとおりその者に無断で隣地を使用することは許されないと考えられるため、本文③では、そのような例外の規律は設けないこととした(隣地の使用者の所在等が不明なケースも問題となり得るように思われるが、そのようなケースはそもそも隣地を現に使用する者がいないと評価されるように思われる。)。なお、通知先を隣地を現に使用する者に限定すると、その者がない場合には、論理的には通知をする必要はないこととなるが、そのような場合でも、実際に使用者がいないかどうかを確認するためや、後日の紛争の防止の観点から、事実上、隣地所有者への通知がされることが多いと考えられる。
さらに、第21回会議において、隣地を現に使用する者に対する通知の内容を明らかにすべきであるという意見があったことや、隣地を現に使用する者に立会いの機会を与え、無断で隣地が使用されることを防止する観点から、本文③において、本文①の規律に基づいて隣地を使用する旨に加えて、その日時及び場所を通知しなければならないこととしている。
4 他の土地等の瑕疵に対する工事(いわゆる管理措置)
他の土地等の瑕疵に対する工事に関して、次のような規律を設けるものとする。
① 土地の所有者は、他の土地又は他の土地の工作物若しくは竹木(②において「他の土地等」という。)に瑕疵がある場合において、その瑕疵により自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがあるときは、当該他の土地に立ち入り、損害の発生を防止するため必要な工事をすることができる。
② ①の規律により他の土地に立ち入り、損害の発生を防止するために必要な工事をしようとする者は、あらかじめ、その旨を他の土地等の所有者及び他の土地等を現に使用している者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ他の土地等の所有者に通知することが困難なときは、立入り又は工事を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
(補足説明)
第20回会議においては、部会資料49の甲案につき、現行法の物権的請求権や占有訴権における管理不全状態にある土地所有者の義務との関係で懸念を述べる意見もあったが、物権的請求権等とは別の相隣関係上の規律として、現行法上はその可否が明らかでない危険の生じた土地への立入りや工事を可能とする規律を設けること自体については賛成する意見が多数であったことから、本文①において、甲案と同様の規律を設けることとしている。
第20回会議において、部会資料49の甲案の要件を限定すべきとの意見があったが、改めて検討すると、本文①は、現行法における土地所有権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権の要件と同程度の所有権侵害が必要であることを前提としているところ、更に要件を限定してしまうと、物権的請求権の行使の要件を満たす場合であっても、管理措置を行うことができない事態が生じてしまい、損害を被っている土地所有者にとって酷な結果になるだけでなく、他の制度との関係でも無用な混乱をもたらすおそれが生じるため、妥当でないと考えられる。
他方で、要件の限定の議論は、他の土地等の所有者の権利保障の在り方の問題であると考えられるところ、手続保障の観点を踏まえ、本文②において、管理措置に際して、他の土地等の所有者及び他の土地等を現に使用している者に事前に通知する規律を設けることとしている。
この事前通知も、管理措置権の行使のための要件であり、事前通知を要する場合にこれをせずにした管理措置は違法になると考えられるが、事前通知を求めるのは、土地への立入りや工事に伴う不利益を生じさせるに当たって手続的な保障を与える趣旨と、管理措置権の発生要件を満たす場合であっても、まずは、他の土地等の所有者が工事を行うべきであると考えられるから、その機会を与える趣旨とを含むものである。
また、他の土地等の所有者が不明であるなど、他の土地等の所有者に対する事前の通知をすることができない場合については、事後的に通知をすれば足りるとしている。さらに、他の土地等を現に使用する者の平穏な使用を保護する観点から、その者への事前通知は常に必要としている。なお、部会資料49の甲案と同様に、本文①の規律を前提としても、土地所有者による立入りを妨害する者がいる場合には、その者に対して、妨害排除請求訴訟等により具体的な妨害行為の禁止を求める必要があると考えられる。
第1 相隣関係
1 隣地使用権
民法第209条の規律を次のように改めるものとする。
① 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、居住者の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
ア 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
イ 境界標の調査又は境界に関する測量
ウ 後記2③の規律による枝の切取り
② ①の場合には、その使用方法は、隣地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
③ ①の規律により隣地を使用する者は、あらかじめ、その旨を隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(④において「隣地使用者」という。)に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
④ ①の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
(補足説明)
本文は、部会資料46の第1と基本的に同じ考え方によりつつ、第18回会議の意見を踏まえ、法的構成を改めている。
すなわち、第18回会議においては、隣地使用権に関する規律は、隣地を使用しようとする土地の所有者と隣地の所有者の権利関係を調整するものであることを前提として再構成すべきであるという意見や、承諾を求めること自体は当然に可能であり、「承諾を求めることができる」という規律の意味が明確ではなく、適切ではない等の指摘があった。
部会資料46においては、第1の②で、隣地所有者等の明示的な承諾がなくとも隣地を使用することができることを前提としつつ、他方で、いずれにしても、事前に連絡をすることは隣地所有者の利益保護の観点から必要であることから、そのことを第1の①において「承諾を求めることができる」という表現で表していた。そこで、この内容を実質的に維持しつつ、前記の議論を踏まえ、本文①において、端的に、土地の所有者は、一定の目的のために隣地を使用することができるとする構成とし、本文③において、原則として、あらかじめ隣地の所有者及び隣地を現に使用している者に対して通知しなければならないこととした。
なお、このような構成をとったとしても、隣地所有者等が隣地使用に対する妨害行為等を行い、これを排除しなければ権利を実現することができないケースでは、裁判所の判決を得ることなく私的に実力を行使して排除することは認められないと解される(このようなケースでは、妨害行為の差止めの判決を得て権利を実現することになる。)。
部会資料46第1③では、急迫の事情等がある場合には、隣地所有者等に対する承諾を得ることなく隣地を使用できるとすることを提案していたが、上記のように法的構成を改めたことに伴い、表現を改めている。
また、部会資料46第1③では、事後の通知について記載をしていなかった。改めて検討すると、隣地所有者及び隣地使用者に対する事前の通知をすることができないような急迫の事情がある場合に、土地の所有者による隣地使用を認めるとしても、隣地所有者及び隣地使用者は、土地所有者による隣地の使用状況を把握しておくべきであると考えられる。
そこで、本文③において、急迫の事情がある場合を念頭に、土地の所有者が、あらかじめ通知することが困難なときは、隣地使用を開始した後、遅滞なく、隣地所有者及び隣地使用者に通知しなければならないこととした。
また、第9回会議及び第18回会議において、隣地の使用方法の相当性に関する規律を設けるべきであるという意見があったことを踏まえ、本文②において、隣地の使用方法は、隣地のために損害が最も少ないものを選ばなければならないこととした。
加えて、本文①から③までの規律を前提として、隣地使用に伴って隣地の所有者又は隣地使用者に損害が生じた場合には償金を支払う必要があると考えられることから、本文④において、現行民法第209条第2項の償金の規律を改めることとした。
なお、第18回会議における議論を踏まえ、本文①ただし書において、住家への立入りに関する表現ぶりを改め、居住者の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできないこととした。
2 竹木の枝の切除等
民法第233条第1項の規律を次のように改めるものとする。
① 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
② ①の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
③ ①の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
ア 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
イ 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
ウ 急迫の事情があるとき。
(補足説明)
本文は、部会資料46の第2と基本的に同じである。
第18回会議における議論を踏まえ、竹木が数人の共有に属する場合の規律については、端的に、竹木の共有者の権限の規律として整理し、本文②において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、越境した枝を切り取ることができることとした。
なお、部会資料46の第2の1(1)③cにおいて、「著しい損害」を避けるため必要があるときにも、越境した枝を土地所有者自ら切り取ることができるとすることを提案していたが、急迫の事情がない場合には、竹木の所有者に対して催告をしなければならないとすることが相当と考えられるため、本文③ウにおいては、急迫の事情がある場合に、越境した枝を自ら切り取ることができることとした。
3 継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権
継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権について、次のような規律を設けるものとする。
① 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下①及び⑧において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
② ①の場合には、設備の設置又は使用の方法は、他の土地又は他人が所有する設備(③において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
③ ①の規律により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その旨を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
④ ①の規律による権利を有する者は、①の規律により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、前記1の①ただし書及び②から④までの規律を準用する。
⑤ ①の規律により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(④において準用する前記1の④に規律する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。
⑥ ①の規律により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
⑦ ①の規律により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。
⑧ 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、⑤の規律は、適用しない。
⑨ ⑧の規律は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
(補足説明)
1 継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権の構成について
本文は、部会資料46の第3の1及び3と基本的に同じ考え方によりつつ、第18回会議における議論を踏まえ、その構成を改めている。
すなわち、継続的給付を受けるための設備設置権等は、基本的には、近隣の土地等の所有者間の権利関係を調整するものであり、他の土地又は他人が所有する設備(以下「他の土地等」という。)の所有者は設備の設置等を受忍すべき義務を負うことになることや、前記1の隣地使用権における議論と同じく、部会資料46の第3の1の「承諾を求めることができる」の意味が明確ではなく、適切ではないと考えられることに鑑みると、端的に、土地の所有者は、他の土地等に設備等を設置・使用することができるとした上で、利害関係者である他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に対する事前通知義務を負うと構成することが適切であると考えられる。
そこで、本文①において、土地の所有者は、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができることとし、本文③において、あらかじめ他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に対して通知しなければならないこととした。なお、このような構成をとったとしても、他の土地の所有者等が設備設置等に対する妨害行為等を行い、これを排除しなければ権利を実現することができないケースでは、裁判所の判決を得ることなく私的に実力を行使して排除することは認められないと解される(このようなケースでは、妨害行為の差止めの判決を得て権利を実現することになる。)。
第18回会議においては、土地の所有者が、継続的給付を受けるためには複数の土地のいずれかに設備を設置することが考えられる場合に、いずれの土地に設備を設置すべきかを特定することができないのではないかとの指摘があったが、本文②により、設備を設置すべき土地については、個別の事案ごとに、継続的給付を受ける必要性と他の土地に生じる損害を踏まえて、損害が最も少ないと考えられる土地を特定することになると解される一方で、より具体的で画一的な基準を設けることは困難であると考えられる。
公道に至るための通行権の規律においても、周りを取り囲んでいる土地のうちどの土地を通行するかや、既存通路が複数存在する場合にどの通路を通行するか等が問題となるが、通行の場所及び方法は、通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならないとされ、通行すべき土地に関して画一的な基準は設けられていない(民法第211条第1項)。
以上を踏まえ、本文②においては、部会資料46の第3の1④の規律を基本的に維持することとした。
2 設備の設置・使用のために他の土地を使用する場合の規律について
部会資料46の第3の1(注1)において、設備を設置し又は設備を使用する工事のために隣地を使用する場合の規律を設けることを提案していたが、設備を設置する土地や使用する設備がある土地が対象土地の隣地ではない場合も考えられるため、前記1の隣地使用権の規律とは別の規律を設ける必要がある。
そこで、本文④において、本文①の規定による権利を有する者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができることとし、この場合においては、隣地使用権の規律(前記1の①ただし書及び②から④まで)を準用することとした。
3 償金等の規律について
本文⑤では、償金に関する部会資料46の第3の3の内容を改めて整理している。
(1) 土地の所有者が、他の土地に設備を設置する場合に支払うべき償金には、2種類のものがあると考えられる。
第1は、本文④の規律に基づいて他の土地を使用する場合に当該土地の所有者や当該土地の使用者に一時的に生じる損害に対する償金であるが、これは一時金として支払われるべきであると考えられる。
第2は、設備の設置によって土地が継続的に使用することができなくなることによって生じる損害に対する償金であるが、これは公道に至るための通行権の規律(民法第212条ただし書)と同様に、1年ごとの定期払の方法を認めることが適切であると考えられる。
そこで、本文⑤において、これらの償金を区別し、前者については隣地使用権の償金の規律(前記1の④)と同様の規律に服させることとし、後者については、1年ごとにその償金を支払うことができることとした。
(2) 土地の所有者が、他人が所有する設備を使用する場合に支払うべき償金も、大別して2種類のものがあると考えられる。
第1は、本文④の規律に基づいて設備のある土地を使用する場合に当該土地の所有者や当該土地の使用者に一時的に生じる損害金や当該設備の所有者に一時的に生じる損害に対する償金であるが、これらは一時金として支払われるべきであると考えられる。
第2は、土地の所有者が継続的に使用する設備の設置、改築、修繕及び維持に要する費用であるが、土地の所有者はその利益を受ける割合に応じてその費用を負担することとするのが合理的であると考えられる。そこで、本文④(隣地使用権の償金の規律(前記1の④)の準用)、本文⑥及び⑦において、これらの償金及び費用負担に関する規律を設けることとした。
4 土地の分割又は一部の譲渡によって継続的給付を受けることができない土地が生じた場合の規律について本文⑧及び⑨は、部会資料46の第3の3③と基本的に同じであるが、土地の分割又は一部の譲渡がされたとしても、既設の設備の所有者が直ちに変更されるわけではないため、土地の分割等によって他人が所有する設備を使用しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じることは想定されないことから、本文⑧及び⑨においては、この部分の規律を除いている。なお、土地の分割等とともに、当該土地上の既設の設備についても譲渡がされることによって、設備を使用しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じるケースは想定し得るが、この場合には、当該土地の所有者は、当該設備がその分割等がされた他方の土地上にある限りにおいて、基本的には、本文②により、当該設備を使用することが損害の最も少ない方法として特定され、当該設備を使用しなければならないことになると考えられる。
5 導管等の設置場所又は使用方法の変更に関する規律について
部会資料46の第3の2においては、導管等の設置場所又は使用方法の変更に関する規律を設けることを提案していた。
しかし、本文①において、設備の設置権は、他の土地等の所有者の承諾の有無にかかわらず発生する法定の権利であると構成を改めたことから、事情の変更によって、要件を満たさなくなった場合には当該権利は消滅し、又は本文②により損害が最も少ない設備の設置若しくは使用方法が変更されることになると考えられ、設備の設置場所又は使用方法の変更に関する特別の規律を設ける必要性は高くないと考えられる。公道に至るための通行権においても、通行の場所又は方法の変更に関する規律は置かれていない。
以上を踏まえ、導管等の設置場所又は使用方法の変更に関する特別の規律を設けないこととした。
民法第209条第1項の規律を次のように改めることで、どうか。
① 土地の所有者は、次に掲げる目的のために必要な範囲内で、【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】に対して、隣地の使用の承諾を求めることができる。ただし、隣地上の住家への立入りについての承諾を求めることはできない。
a 境界又はその付近における障壁又は建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
b 後記第2の規律に基づいてする越境した枝の切除
c 境界標の調査又は境界を確定するための測量
② 土地の所有者は、【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】に対し、①の各号に掲げる目的のため必要な範囲内で隣地を使用させるよう催告をした場合において、【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】が、相当の期間内に土地の所有者に対して確答をしないときは、【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】の承諾を得ることなく、隣地を使用することができる。
③ 土地の所有者は、著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるときは、①の各号に掲げる目的のために必要な範囲内で【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】の承諾を得ることなく、隣地を使用することができる。
(注1)本文②の催告について、隣地の使用目的、場所、方法及び時期が特定されていなければ、有効に催告することはできないことを前提としている。
(注2)隣地が共有地である場合等における隣地使用の在り方に関しては、本文①における請求の相手方の在り方と併せて、引き続き検討する。
(補足説明)
1 請求の相手方について
第14回会議においては、隣地の占有者と隣地の所有者が別であるケースを念頭に、隣地を使用するためには、隣地の占有者と隣地の所有者の承諾も得なければならず、承諾を求めることができる相手方には、隣地の占有者だけでなく、隣地の所有者も加えるべきではないかとの指摘があった。
第14回会議での議論を踏まえた上で改めて検討をすると、隣地の占有者(ここでは直接隣地を使用している者を指し、賃借人等を通じて間接的に占有する者を含まない。)と隣地の所有者が別であるケースに関する対応方法としては、次の二つの考え方があり得ると思われる。
① 隣地の使用は、隣地の占有者と所有者の権利の両方を侵害するものである(権原のない者が隣地を占有しているケースでは、占有者は占有保持の訴えを提起することができ、占有をしていない所有者も、所有権に基づく妨害排除請求をすることができる。)から、隣地使用権に基づく隣地の使用に当たっては、隣地の占有者と所有者の両方の承諾を得なければならず、承諾を求めるべき相手方もその両者とすべきであるとの見解
② 隣地の使用は、隣地の占有者と所有者の権利の両方を侵害するものであるが、占有をしていない所有者が受ける不利益はそれほど大きくなく、相隣関係にある所有者として一定の範囲による不利益は当然に甘受すべきであるから、隣地使用権に基づく隣地の使用に当たっては、隣地の占有者の承諾を得れば足り、承諾を求めるべき相手方は占有者のみであるとの見解
現行民法第209条の解釈に関し、学説では、請求の相手方は、現に土地を使用している者(土地所有者、地上権者、賃借人など)であるとするのが一般的であると思われるが、この考え方は、前記②の見解に近いと考えられる。
また、以上のケースとは別に、所有者が存在するものの、当該土地を実際に支配する者がおらず、占有者がいないケースに、上記の見解をどのように当てはめるのかも問題になり得ると思われる(いずれの見解からも、観念的には所有者が占有しているものとして所有者に承諾を求めるべきことになるとも考えられる。)。
加えて、占有者を承諾の相手方とした場合に、その占有が適法なものであることを求めるべきかが問題となるが、占有の訴え自体は占有権原の有無に関係なく認められることや、権原の有無は実際上判断が困難であるケースもあることからすると、占有権原の有無にかかわらず、一律に占有者の承諾を得る必要があるとすることも考えられる。
以上を踏まえ、隣地使用についての承諾を求めることができる相手方について、隣地の所有者及び隣地の占有者とする案と、隣地の占有者のみとする案を提示している。なお、隣地の占有者は、ここでは直接隣地を使用している者を指し、賃借人等を通じて間接的に占有する者を含まないことを前提としており、これを端的に示すためには、請求の相手方については「隣地の使用者」とすることも考えられる。
部会資料32(第1の1①)では、住家に立ち入ることを内容とする隣地使用は、境界標の調査を念頭に、土地所有者による隣地の使用のために特に必要があると認めるときに限り承諾を求めることができる規律を設けることを取り上げていた。第14回会議においては、これに賛成する意見があった一方で、限定的な場面とはいえ住家へ立ち入ることの承諾を求めることができるとする規律を設けることで、例えば、交渉の場面において隣地所有者に対して不当に住家への立入りを要求する事態を生じさせるおそれがあるなど、規律を設けることによって生ずる影響を踏まえてその是非について再検討すべきである旨の意見があった。
そこで改めて検討すると、現行民法第209条第1項ただし書の解釈として、隣人の平穏な生活やプライバシーの保護の観点から、隣人の住家に立ち入るためには、必ずその隣人の承諾が必要であり、隣人はこれを自由に拒否することができ、判決をもってこの承諾に代えることはできないと解する見解が多数説であり、この立場を前提に、建物の屋上部分や非常階段などについては「住家」に当たらないとして、その立入りの承諾請求を認めた裁判例があるなど、「住家」の範囲は限定的に解釈されている。このような現行法の解釈運用を前提とすると、境界標の調査等が困難な場合であっても、隣地上の建物の屋上や非常階段等、隣人の生活の平穏を害さない部分の使用によって、その目的を達することができるケースも多いと思われる。
そうすると、本文①aからcまでの目的のために住家に立ち入る必要があるケースは極めて例外的であり、このような例外的場面を想定して規律を設けることによって、不当に住家の使用の承諾を求められる事態が生ずるなど、現実の生活において混乱を生じさせるおそれがあることに鑑みれば、新たな規律を設けることは相当でないとも考えられる。
そこで、本資料では、現行法の規律を基本的に維持することを提案している。
部会資料32(第1の1②)では、隣地所有者等が隣地使用について異議を述べない等の一定の要件のもとで、隣地所有者等の承諾等が得られなくても土地所有者の隣地使用を認める規律を設けることを提案しており、このような規律を設けることについては、懸念を示す意見もあったものの、賛成する意見もあった。そこで、本文②で基本的に同様の規律を設けることを提案している。
4 「著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるとき」(本文③)について部会資料32(第1の1②c)では、土地所有者が、急迫の事情があるときには、所定の目的のために必要な範囲内で、隣地所有者等の承諾を得ることなく、隣地を使用することができる規律を設けることを提案していた。
改めて検討すると、このような場合には、現行法上、隣地使用の承諾を命じる仮処分又は立入妨害禁止の仮処分(民事保全法第23条第2項)を得ることにより対処することになると考えられるのであり、単に急迫の事情があるというだけで【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】の承諾を得ることなく隣地使用を許すのは相当でないと考えられる。
そこで、本文③においては、著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるときは、本文①の各号に掲げる目的のために必要な範囲内で、【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】の承諾を得ることなく、隣地を使用することができるとする規律を設けることを提案している。
5 隣地の所有者等を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合について
部会資料32(第1の1②)では、土地所有者が、隣地所有者等を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合において、一定の事項を公告したにもかかわらず、相当の期間内に異議がないときに、隣地を使用することができる規律を設けることを提案していたが、いずれにしても、著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるときは、①の各号に掲げる目的のために必要な範囲内で、【隣地の所有者及び隣地の占有者】【隣地の占有者】の承諾を得ることなく、隣地を使用することができることとしており、所有者等が不明なケースで急を要する際には、これで対応することが考えられるため、これと別には取り上げていない。
なお、民法第98条第1項は、「意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。」と定めているところ、法文上は、「意思表示」とあるが、これに限らず、準法律行為(意思通知、観念の通知等)についても類推適用されるものと考えられているから、これを利用して、本文②の催告をすることは否定されない。
6 本文②の催告に係る隣地使用態様の特定について(注1)
部会資料32(第1の1②)では、土地所有者は、隣地所有者等に対して、隣地の使用目的、場所、方法及び時期を通知したにもかかわらず、相当の期間内に異議がないときに、隣地を使用することができる旨の規律を設けることを提案していたが、本文②の規律の表現を改めた上で、(注1)において、隣地の使用目的、場所、方法及び時期が特定されていなければ、有効に催告することはできないことを前提としている旨を注記している。
7 隣地が共有地である場合等における隣地使用について(注2)
(1) (注2)について
部会資料32(第1の2)では、隣地所有者等の隣地の占有権原が数人の共有又は準共有に属する場合において、その共有持分又は準共有持分の価格に従い、その過半数の承諾を得たときに、隣地を使用することができる規律を設けることを提案していた。
隣地が共有地である場合等における隣地使用に関して、誰に対して承諾を求めるべきかは、本文①と併せて検討する必要があるため、(注2)において、引き続き検討する旨を注記している。
(2) 区分所有建物の敷地の使用について
第14回会議においては、隣地が区分所有建物の敷地である場合における隣地使用請求の在り方について、どのように考えるべきかという指摘があったが、土地所有者は、基本的には、区分所有者の集会における区分所有者及び議決権の各過半数による決議(建物の区分所有等に関する法律第21条、第18条第1項、第39条第1項)を得たり、区分所有建物の管理規約において敷地の管理については管理者が決定する旨の定めがある場合には、その管理者の承諾を得たりして、敷地を使用することになると考えられる(同法第21条、第18条第2項、第26条第1項)。
第2 越境した枝の切除等
1 越境した枝の切除の規律について
(1) 越境した枝の切除に関する規律(民法第233条第1項)を次のように改めることで、どうか。
① 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、土地所有者は、その竹木の所有者(竹木が数人の共有に属する場合にあっては、共有者の一人。②aにおいて同じ。)に、その枝を切除させることができる。
② 隣地の竹木の枝が境界線を越える場合において、土地所有者は、次に掲げるときは、自らその枝を切り取ることができる。
a 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、相当の期間内に切除されないとき。
b 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
c 著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるとき。
(補足説明)
1 基本的な考え方は、以下で述べる点を除き、部会資料32(第2の1(1))と同様である。なお、本文②aにおいても、隣地使用権における催告(前記第1の③)と同様に、公示に関する手続(公示による意思表示。民法第98条)を利用して催告をすることは否定されないが、竹木の所有者又はその所在が不明である場合には、公示に関する手続を経ずに、本文②bに基づいて枝の切取りが可能である点で隣地使用権とは異なる。土地所有者が、竹木所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合には、通常は竹木所有者による枝の切除を期待することができないこと、また、竹木の枝は、その性質上、いずれまた伸びることが予想されることに鑑みれば、土地所有者による直接の切除を認める必要性があると考えられることから、本文②bの規律を特に設けることとしている。
2 竹木が数人の共有に属する場合について
部会資料32(第2の1(1)②d)では、土地所有者は、竹木が共有されている場合において、その持分の価格の過半数を有する者から承諾を得たときには、自らその枝を切り取ることができる規律を設けることを提案していたが、第14回会議において、竹木が共有である場合には、共有者の一人に切除させることができる旨の規律を設けるべきである旨の意見があった。
改めて検討すると、竹木が共有である場合には、土地所有者に、竹木共有者を探索した上で、竹木共有者に対する枝の切除請求訴訟を提起して、請求認容判決を得た上で、これを債務名義として強制執行を申し立てなくてはならないとすると、土地所有者は越境した竹木の枝の切除という事柄の性質に見合わない時間や労力を費やすこととなり、土地の利用を阻害する要因となり得ることに問題があった。
3 「著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるとき」(②c)について
本文第1の補足説明4と同様の理由から、部会資料32(第2の1(1)②c)から表現を改めた。
(2) 竹木の枝の切除及び根の切取りの費用について
竹木の枝の切除及び根の切取りの費用についての特別の規律は、設けないものとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料32(第2の1(2))では、竹木の枝の切除及び根の切取りの費用の規律を設けることについて取り上げていたが、第14回会議において、このような費用については新たな規律を設けるべきでないという意見や、現行法のもとで、枝や根の越境について通常は不法行為が成立し、損害賠償請求権が発生することなどを踏まえると、特に規律を設けなくても、切除費用は通常竹木所有者の負担となると考えられるため、あえて規律を設けないという考え方もあるとの意見があった。これらの議論を踏まえて、本資料では、この論点について特別の規律を設けないこととしている。
2 越境した枝から落下した果実
越境した枝から落下した果実についての特別の規律は、設けないものとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料32(第2の2)では、土地の所有者が、越境した枝から自己の土地に落下した果実を処分することができるとする規律を設けることを取り上げていたが、第14回会議において、越境した果実について、その処分権をその土地の所有者に与える規律を正当化することは難しいとの意見があった。これらの議論を踏まえて、本資料では、この論点について特別の規律を設けないこととしている。
第3 導管等設置権及び導管等使用権
1 導管等設置権及び導管等使用権の内容
相隣関係上の権利として、次のような導管等設置権及び導管等使用権の規律を設けることで、どうか。
① 他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ、電気、ガス若しくは水道水の供給又は下水道の利用その他これらに類する継続的給付(以下「継続的給付」という。)を受けることができない土地の所有者は、継続的給付を受けるために、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することについて、他の土地又はその設備(以下「他の土地等」という。)の所有者に対して、承諾を求めることができる。
② 継続的給付を受けることができない土地の所有者は、他の土地等が数人の共有に属する場合には、各共有者の持分の価格に従い、その過半数を有する共有者から承諾を得れば、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
③ 継続的給付を受けることができない土地の所有者は、他の土地等の所有者に対し、継続的給付を受けるために、相当の期間を定めて、他の土地に自己の設備を設置させ、又は設備を使用させるよう催告をした場合において、他の土地等の所有者が、相当の期間内に継続的給付を受けることができない土地の所有者に対して確答しないときは、他の土地等の所有者の承諾を得ないで、他の土地に設備を設置し、又は設備を使用することができる。
④ ①から③までの規定に基づいて、他の土地に設備を設置し、又は設備を使用する場合には、その設備の設置場所又は使用方法は、継続的給付を受けるために必要であり、かつ、他の土地等のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
(注1)導管等設置権及び導管等使用権が認められる場合に、設備を設置又は使用する工事のために隣地を使用する必要があるときは、その使用も認められることを前提としているが、その手続については、本文第1で提案している隣地使用権の要件を参考に引き続き検討する。
(注2)他の土地等の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合における本文③の催告については、民法第98条(公示による意思表示)が類推適用されることを前提としている。
(注3)本文③の催告について、他の土地における設備の設置場所又は他人が所有する設備の使用方法が特定されていなければ、有効に催告することはできないことを前提としている。
(補足説明)
1 部会資料32(第3の1)と、以下に述べる点を除き、基本的に同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。
2 隣地の使用について(注1)
部会資料32(第3の1(注))では、導管等設置権等と隣地使用権の規律との関係について注記していたが、導管等設置権等と隣地使用権とでは問題となる利益状況が異なることも考えられ、その隣地使用権を認める際に、誰に対して承諾等を求めることになるのかについては、本文第1の規律の検討を踏まえて引き続き検討する必要がある。
3 他の土地等の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合における本文③の催告について(注2)
部会資料32(第3の1②)では、土地所有者が、他の土地等の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合において、所定の公告をしたにもかかわらず、相当の期間内に異議がないときに、他の土地等を使用することができる規律を設けることを提案していた。
もっとも、民法第98条(公示による意思表示)は、準法律行為(意思通知、観念の通知等)についても類推適用されることを踏まえると、部会資料32(第3の1②b)のような規律を設ける必要性は高くないと考えられることから、本文③の催告について、民法第98条が類推適用されることを前提として(注2)、このような規律を設けることは提案していない。
4 本文③の催告に係る設備の設置場所等の特定について(注3)
本文③において、部会資料32(第3の1②)の規律の表現を改めた上で、(注3)において、本文③の催告について、他の土地における設備の設置場所又は他人が所有する設備の使用方法が特定されていなければ、有効に催告することはできないことを前提としている旨を注記している。
2 導管等の設置場所又は使用方法の変更
導管等の設置場所又は使用方法の変更に関し、次のような規律を設けることで、どうか。
継続的給付を受けることができない土地の所有者又は他の土地等の所有者は、土地の使用用途の変更、付近の土地の使用状況の変化その他の事情の変更により、継続的給付を受けるために他の土地に設置された設備の設置場所又は他人が所有する設備の使用方法を変更する必要があるときは、他方に対して、設備の設置場所又は設備の使用方法を変更することを求めることができる。
(注1)本文2の規律に基づく設備の設置場所又は設備の使用方法の変更について、本文1③と同様の規律は設けないことを前提としている。
(注2)本文2の規律に基づく変更後の設備の設置場所又は使用方法については、本文1④の規律を準用することを前提としている。
(補足説明)
1 部会資料32(第3の2及び(注))と、基本的に同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。
2 変更後の導管等の設置場所又は使用方法の特定について(注2)
本文2のような規律を設ける場合に、変更後の設備の設置場所又は使用方法を特定する必要があると考えられるところ、その設置場所又は設置方法についても、本文1④と同様に、継続的給付を受けるために必要であり、かつ、他の土地等のために損害が最も少ないものとすることが妥当であると考えられることから、その旨を(注2)に注記している。
3 償金
償金に関し、次のような規律を設けることで、どうか。
① 本文1の規律に基づいて、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用する者は、他の土地等の損害に対して償金を支払わなければならない。
② 本文2の規律に基づいて、継続的給付を受けることができない土地の所有者又は他の土地等の所有者が、設備の設置場所又は設備の使用方法を変更する際に相手方に生じた損害についても、①と同様とする。
③ 土地の分割又は一部譲渡によって、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じた場合には、その土地の所有者は、分割者又は譲渡者の所有地のみに設備を設置し、又は使用することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
(補足説明)
部会資料32(第3の3)と、基本的に同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。
第2 共有等
民法改正案
(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
2 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。 3 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。 (共有持分の割合の推定)
第二百五十条 各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。 (共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項
2 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。 一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。 二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。 3 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。 4 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。 一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年 二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年 三 建物の賃借権等 三年 四 動産の賃借権等 六箇月 5 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。 (共有物の管理者) 第二百五十二条の二 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。 2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。 3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。 4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。 (共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
(共有物についての債権)
第二百五十四条 共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
第二百五十七条 前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。 一 共有物の現物を分割する方法 二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法 4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。 第二百五十八条の二 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。 2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。 3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。 (共有に関する債権の弁済)
第二百五十九条 共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。
2 債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。
(共有物の分割への参加)
第二百六十条 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
(分割における共有者の担保責任)
第二百六十一条 各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。
(共有物に関する証書)
第二百六十二条 分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
2 共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
3 前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。
4 証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。
(所在等不明共有者の持分の取得) 第二百六十二条の二 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。 2 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。 3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。 4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。 5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。 (所在等不明共有者の持分の譲渡) 第二百六十二条の三 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。 2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。 3 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。 4 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。 (共有の性質を有する入会権)
第二百六十三条 共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。
(準共有)
第二百六十四条 この節(第二百六十二条の二及び第二百六十二条の三を除く。)の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
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不動産登記法改正案
(権利に関する登記の登記事項)
第五十九条 権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
一 登記の目的
二 申請の受付の年月日及び受付番号
三 登記原因及びその日付
四 登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所並びに登記名義人が二人以上であるときは当該権利の登記名義人ごとの持分
五 登記の目的である権利の消滅に関する定めがあるときは、その定め
六 共有物分割禁止の定め(共有物若しくは所有権以外の財産権について民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百五十六条第一項ただし書(同法第二百六十四条において準用する場合を含む。)若しくは第九百八条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合若しくは
七 民法第四百二十三条その他の法令の規定により他人に代わって登記を申請した者(以下「代位者」という。)があるときは、当該代位者の氏名又は名称及び住所並びに代位原因
八 第二号に掲げるもののほか、権利の順位を明らかにするために必要な事項として法務省令で定めるもの
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非訟事件手続法改正案 第一章 共有に関する事件 (共有物の管理に係る決定) 第八十五条 次に掲げる裁判に係る事件は、当該裁判に係る共有物又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十四条に規定する数人で所有権以外の財産権を有する場合における当該財産権(以下この条において単に「共有物」という。)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。 |
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【動画】2021民法・不動産登記法改正を研究する 第3回 ~民法改正案904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)を考える~
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要綱案(共有関係)
第2 共有等
1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
② 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。
2 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めるものとする。
① 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。②において同じ。)を加えることができない。
② 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
3 共有物の管理
民法第252条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の管理に関する事項(共有物に2①に規律する変更を加えるものを除く。②において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
② 裁判所は、次に掲げるときは、ア又はイに規律する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
ア 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
イ 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
③ ①及び②の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
④ 共有者は、①から③までの規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
⑤ 各共有者は、①から④までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる。
4 共有物の管理者
共有物の管理者について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有者は、3の規律により、共有物を管理する者(②から⑤までにおいて「共有物の管理者」という。)を選任し、又は解任することができる。
② 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。③において同じ。)を加えることができない。
③ 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
④ 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
⑤ ④の規律に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
5 変更・管理の決定の裁判の手続
変更・管理の決定の裁判の手続について、次のような規律を設けるものとする。
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、2②、3②ア及び4③の規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所がこの裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者等(2②の当該他の共有者、3②アの他の共有者又は4③の当該共有者をいう。)は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ イの届出がないときは、裁判所がこの裁判をすること。
② 裁判所は、次に掲げる事項を3②イの他の共有者に通知し、かつ、イの期間が経過しなければ、3②イの規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 3②イの他の共有者は裁判所に対し一定の期間までに共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。
ウ イの期間内に3②イの他の共有者が共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、裁判所がこの裁判をすること。
③ ②イの期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る3②イの規律による裁判をすることができない。
(注)これらの裁判に係る事件は当該裁判に係る財産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
6 裁判による共有物分割
民法第258条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
③ ②に規律する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
7 相続財産に属する共有物の分割の特則
相続財産に属する共有物の分割の特則について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について6の規律による分割をすることができない。
② 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、①の規律にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について6の規律による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について6の規律による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
③ 相続人が②ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が6①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。
8 所在等不明共有者の持分の取得
所在等不明共有者の持分の取得について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
② ①の請求があった持分に係る不動産について6①の規律による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が①の請求を受けた裁判所に①の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
④ 共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
⑤ ①から④までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イ、ウ及びオの期間が経過しなければ、(1)①の裁判をすることができない。この場合において、イ、ウ及びオの期間は、3箇月を下ってはならない。
ア 所在等不明共有者の持分について(1)①の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)①の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ (1)②の異議の届出は、一定の期間までにすべきこと。
エ イ及びウの届出がないときは、裁判所が(1)①の裁判をすること。
オ (1)①の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が(1)①の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
② 裁判所は、①の公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、①(イを除く。)の規律により公告すべき事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
③ 裁判所は、①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。
④ 裁判所は、(1)①の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。この裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
⑤ 裁判所は、申立人が④の規律による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
⑥ (1)①の裁判の申立てを受けた裁判所が①の公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が①オの期間が経過した後に(1)①の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、申立人以外の共有者による(1)①の裁判のその申立てを却下しなければならない。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
8 所在等不明共有者の持分の譲渡
所在等不明共有者の持分の譲渡について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
② 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ ①の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
④ ①から③までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 8(2)①ア、イ及びエ、④及び⑤の規律は、(1)①の裁判に係る事件について準用する。
② 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後2箇月以内にその裁判により権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
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法制審議会民法・不動産登記法部会第22回会議議事録
先に進みます。部会資料52の4ページでございますけれども,共有持分の放棄につきましては,現行法の規律を維持するという方向を御提示申し上げております。これについての御意見を承ります。中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでは,今回の現行法を維持するという御提案について,特段の反対はありませんでした。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
ここは特段,そのほかに御意見がなくていらっしゃると受け止めてよろしゅうございますか。
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法制審議会民法・不動産登記法部会第21回会議議事録
引き続き部会資料51の共有の部分についての審議をお願いいたします。
休憩のタイミングを考えまして,第2の共有の部分の「7 裁判による共有物分割」,10ページのところですね,補足説明まで入れますと11ページまでの部分ですけれども,この範囲について審議をお願いするということにいたします。
どうぞ,委員,幹事から御自由に御発言ください。
蓑毛幹事,お願いいたします。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでの議論を御紹介します。
第2の「共有等」については,少数の反対意見はありましたが,賛成意見が多数でした。ただし,表現ぶりや,趣旨をもう少し明確にした方がよいという事項がありましたので,意見を申し上げます。
まず,1の「共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等」についてですが,ここには要件として①と②が記載してあって,補足説明では部会資料40の4と基本的内容は同じであると書かれています。しかし,部会資料40の4では,「その使用によって使用が妨げられた他の共有者に対し,共有持分の価格の割合に応じて,その使用の対価を償還する義務を負う」となっていたのが,今回の提案では,「他の共有者に対し,その使用の対価を償還する義務を負う」となっていて,内容的に同じなのか疑問です。使用が妨げられていないにもかかわらず,自らの意思で,共有物を使用しない共有者に対して,使用した共有者が対価を償還する義務を負う必要はありませんので,元の文案の方がよいと思います。
2の「共有物の変更行為」については特段意見がありません。
3の「共有物の管理」についても特に意見はないのですが,1点質問があります。この規律では過半数で決することができる賃貸借の期間が③の範囲内となっていて,補足説明の7ページの下から四,五行辺りで,③の期間を超える賃貸借契約を締結した場合には基本的に無効だが,「持分の過半数によって決することが不相当とはいえない特別の事情がある場合には,変更行為に当たらない」とあります。この特段の事情がある場合というのは具体的にどのようなケース,事案を想定しているのか,お考えがあれば御説明いただければと思います。
4と5について意見はありません。前回まで弁護士会では,4の催告についても裁判所の関与を必要とすべきではないかという意見を申し上げていましたが,今回のような整理,つまり5の所在不明等の認定については慎重な判断が必要なので,裁判所が関与・判断するけれども,4の催告手続には裁判所が関与する必要はないというのが多数意見となっています。
6の「共有物の管理者」についても特段意見はありません。
7の「裁判による共有物分割」についてですが,基本的にはこのような規律でよいというのが多数意見ですが,判例の特段の事情の明文化,これは前回も議論になっていて,確か沖野先生が発言されたと記憶していますが,そのような内容の規律を置いた方がよいという意見もありました。一方で,そのような規定を置くと,優先関係を示すようなイメージを持たれてしまうので,今の案でよいという意見もありました。以上です。
○山野目部会長 意見の取りまとめを頂きましてありがとうございました。
今川委員,ちょっとお待ちください。
お尋ねが含まれておりました。事務当局からお話を差し上げます。
○大谷幹事 第2の1のところの表現ぶりですけれども,結局,共有物を使用する共有者がいるというときには,他の共有者は使用を妨げられてしまうということになりますので,その使用の対価を償還する義務は負うことになるだろう。ただ,別段の合意がある場合は除くということで,そういう別段の合意をしているのであれば,償還する義務は負わないという形になるのではないかということで,実質としては変えたつもりはございません。
それから,共有物の管理の短期賃貸借の補足説明の部分のお話がございました。これは特別の事情があるような場合というのは,イメージしておりますのは平成14年の東京地裁の裁判例でございまして,これは建物の賃貸借に関するものですが,元々賃貸用の物件として造られた共有建物について賃借人が替わる,ほかの人を入れるということについて,それが管理行為なのかどうかということが問題になった事案です。これについては借地借家法の適用があるので短期賃借権とは言えない部分がございますけれども,そのようなものでも,その事案の内容に応じて管理行為だと認定されて過半数で賃貸できるとされていますので,そういう処理を妨げるものではない,この期間を超えるものであっても,場合によっては管理行為と認定されるものもあり得るということかと思っておりました。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,どうぞお続けください。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。
1の点だけ。居宅などの不動産を共有者の1人が占有している場合は,他の共有者は使用を妨げられますが,例えば,自動車を共有していて,使用する必要がある人が使用するという場合は,共有物を使用する共有者がいても,他の共有者の使用を妨げるという状況にはないと思って申し上げました。
○大谷幹事 そのような場合で,別段の合意があるというふうに見るのかもしれませんけれども,みんなが使える状態にあって順番に使っているというか,その時々で違う人が使うようなことをイメージされているんですかね。そのような場合に,1人が使ってたので別の人がその機会に使えなかったというのを,どちらかというと,それは何というかお互いさまという感じがしますので,そこのところまで,完全にほかの人が使用を妨げられている状態ではないときに,このルールが対価の償還をする義務を負うという形になるかというと,今お聞きしている限りだとちょっと違うのかなという感じもいたしましたけれども。
○蓑毛幹事 ごめんなさい。私の言い方が下手で,うまく伝わっていないようです。今申し上げたケースのように,共有者の1人が共有物を使用するときでも,対価を償還する義務を負うべきでないケースが多々あると思われるところ,今回の提案は,別段の合意がない限り,常に使用の対価を償還しなければならないように読め,うまく機能しないのではないかと思ったのですけれども。
○山野目部会長 今の①の文言で仮にいったとした場合において,恐らく現実に導き出そうとする解決は,蓑毛幹事と大谷幹事との間で異なっていなくて常識的に当たり前の結果になるということであろうと考えますが,そこに導く論理構成は,一つは別段の合意がある場合を除き,に着目するものですが,別段の合意というものは,別に別段合意していなくても別段の合意があるということはあり得るであろうと考えられますから,明示の合意がされていなくても共有者間の暗黙の了解で,お互い自動車を使っていいのではないか,特段お金は要らないよというふうな扱いになっているときには,そういうロジックで対価を支払わないでしょうというお話もありましょうし,もう一つは対価の概念の観点もあるでしょうか,対価を払わなければならない使用に対して対価が生ずるということを考えると,みんなが毎日必ず時間の隙間なく使いたいと思っている自動車であれば格別,誰も使っていない自動車をちょっと使わせてもらいますよというのは,対価を支払うに値するような使用,ここの規律が想定している使用とか対価の概念からは離れますというお話になっていくということもあるかもしれません。
この規律の文言でいくときに,そうした理解を添えて進めていくということにするか,おっしゃったように,しばらく前に議論したような細密度の高い規律に戻して考えていくかということをなお検討していくということになりましょうけれども,言葉数の多いものにしたときに,あちらの方はあちらの方で,またそれぞれの文言についての疑問であるとか,その解釈の上での概念の外延を決めなければいけないとかという問題が生じてまいりますから,どちらでいくことがよいかということをまた考え込んでいくというお話になるものだろうというふうに感じます。ここのところは,ひとまずはそのようなことで更に検討するということでよろしいでしょうか。
○蓑毛幹事 よく分かりました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
今川委員,お待たせしました。
○今川委員 私は5の「所在等不明共有者がいる場合の特則」について,意見が一つと質問が二つあります。
まず意見の方ですが,(1)の要件の①で,共有物に変更を加えることができる旨の裁判の,ここで言う変更には,補足説明にあるように,譲渡や抵当権設定などの持分を喪失させる行為を除くということは理解しています。ただ,その前の2の「共有物の変更行為」でも,同じように「共有物に変更」という文言が出てくるんですが,ここは多分譲渡等の処分行為も含むという理解かと思っているのですが,そこは違っているのでしょうか。そのように理解をしていたのですけれども,そうであるとすると,その違いを明確にするために条文の文言について工夫が要るのではないかというのが意見です。
質問の方ですが,(1)の要件等の②なんですが,これはちょっと読み方がまずいのかもしれないのですが,アの決定をもらっておいて,イの決定も必要になるのか。アの決定だけをもらえば,4の規定に従い自らが催告をして行うということが可能なのではないかと思ったのですけれども,これは読み方がおかしいのでしょうか,そこを教えてください。
それと,(2)の手続の②の共有者等で,ここに「等」が入っているのですが,ここで想定される異議は,所在不明である当該他の共有者のみであると思われるのですが,ここに等が入ると,何か他の共有者も異議が述べられるというふうに読み違えをしそうなので,この「等」の意味が不明なので教えてください。
○山野目部会長 第1点もお尋ねの趣旨があったかもしれませんから,3点について事務当局からお願いいたします。
○脇村関係官 今の最初のお話にあったのは変更と処分の関係でございますが,教科書などでは,部会でも議論がありましたとおり,そこの変更に含んで処分行為を読むという方と,いや,処分というのは変更とは違うんだと,別の概念だという両説があったと思います。今回はそういう意味ではなかなかそこの解釈自体に踏み込むのは難しいと思っておりますので,表現上はですね。そういう意味では,そこはフラットにせざるを得ないのかな,つまり何もいじらないということで考えておりました。
そういう意味では,解釈論としては251条の変更で読むという方もいれば,いや,変更とは別の概念,処分というのは他人ができないものなのだということで読む概念,両説があるということを前提にしつつも,ここの持分取得についてはほかの条文と見合いで,当然含まれないという趣旨で書かせていただいたというところです。委員がおっしゃったとおり,本当はきれいに書くというのは一つなんですけれども,学説上の概念,あるいは更に言いますと,今の民法の文言ですと,変更行為は一応管理行為の一環,251条は前条の場合を除き管理に関する事項と書いていますので,恐らく変更は管理の中に入っているんだろうと思いますけれども,そういう意味で,文字面だけでいくと,多分処分行為は入らないというのが普通の読み方かなという気もしたりとかして,なかなかいじりづらいというのが正直ありましたので,こういった説明にしています。裁判所が絡むことですので,恐らく変なことは起きないだろうと思っていますが,我々としても,成案を得た際にはそういった説明についてきちんとして,ここには入らないということをきちんと周知していきたいと思っているところでございます。
また,5の(2)の②のイのことなんですが,おっしゃるとおり,従前私の方も,もう①で読めないかなと思っていたところなんですけれども,いざ字にしてみますと,なかなか①があるから,その催告のケースはいいんですというふうに,逆に読みづらいのかなと思いまして,念のために書かせていただきました。運用としては,あらかじめどっちにするか分からないケースについては両方の裁判をとっておくというのも一つでしょうし,もう残りの人で合意ができていて,もうイなんか絶対しないんだということであれば,アだけとるというのもあるのかなというところで,そこは状況次第,催告することを目指しているのだったらイをとった上で,アも分からないのでとっておくというのも一つ方法としてはあるかなと思っています。
最後の「等」は,ちょっと右往左往していて残ってしまったので改めて出す際には削ります。すいませんでした。
○山野目部会長 今川委員,お続けになることはおありでしょうか。
○今川委員 いえ,結構です。
○山野目部会長 よろしいですか。
引き続き承ります。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
第2のところで,2点ほど質問させていただければと思っております。
まず,第2の2の「共有物の変更行為」につきまして,ここで「変更」から除く行為の書き方については,これまでの部会の中でかなり議論されて,このような書き方に今回落ち着いたということだと理解しておりまして,従来のように改良を目的とし,と書くと,改良ではないものが入らないとか,そういったところは非常によく理解できるのですが,今回,形状又は効用の著しい変更を伴わない,という書き方に集約されたことによって,例えば元々全く効用を発揮していなかったような土地を暫定的に通路にするだとか,物置場にするとか,そういった改良のようなことを行って,それが見かけ上は著しい変更に当たっているように見えるかもしれないのですが,実態としては費用もそれほど掛かっていないし,元々使われていなかった土地なので,実際にはその効用を害しているものではないというときに,それも変更に当たらないと読めるという前提で書かれているのかどうかというところを差し支えなければ教えていただければと思っております。
あともう一つは,第2の7の「裁判による共有物分割」のところでございまして,こちらについても要件を具体的に書き込むのが難しいということは,これまでの議論で重々承知しておりまして,それでこのような形で②のア,イを併記していただいたものというふうに理解しておるんですが,法律で書けることというよりは,今後実務がどうなるのかなという関心の下で質問させていただきたいのが,従来は分割方法が条文にそれほど明確に書かれていなかったために,それを裁判所が自由裁量で決められるという解釈がなされていたと思うのですが,今回,アの現物分割と,イということで,いわゆる賠償分割が明記されることで,これによって,何かその辺の考え方が変わる可能性というのがあるのかどうかというところですね。特に当事者が,例えば現物ではなくて賠償分割でいきたいというような主張をしたときに,今回,新しく条文を創設することによって,そのような主張がどう機能するのかなというところを現時点で考えておられるところがあれば教えていただければと思っております。
以上,2点でございます。
○脇村関係官
1点目につきましては,恐らく効用を発揮していないというケースについてもいろいろなパターンがあるのだろうなと,あえてそういうふうにしているケースもあれば,本当にほったらかしているケースもあると思いますので,ケース・バイ・ケースによって,特にそれで問題ないというケースについてまで,それが著しい変更に当たらないことは言わないのかなというふうには思っています。恐らくその状況次第で変わってくるのだろうなというふうには思います。
最後の共有物分割につきましては,この部会の趣旨として,恐らく従前の判例議論を何か変えようということで明文化したというよりは,当事者に分かりやすくしようという観点から方法を示したということに尽きるのだろうなというふうに理解はしております。ただ,もちろん今回明文化されたことによって,より当事者がそういった言い分といいますか,主張を実際にはするケースが増えることもありますので,そういった主張を踏まえながら裁判所の従前の判例で示したような枠組みの中で考えていただきたいということなのかなというふうに認識していたところでございます。
○山野目部会長 藤野委員,いかがでしょうか。
○藤野委員 ありがとうございます。
1点目に関しては,例としてお示ししたような場合が変更に当たらない,と解釈されうるのであれば,実務上懸念が出ていたところもクリアできる可能性が出てくるのかなというふうに思っておりまして,後ろの方の第2の4とか5のところで,管理に関する事項については催告でいけるけれども,そうではない場合は基本的には裁判をかませるということになっていることとの関係でも,やはりここのところはすごく重要かなと思っておりましたので,ケース・バイ・ケースとはいえ,変更に当たらないという考え方でいける場合があるということであれば,よい方向なのかなというふうには思っております。
2点目に関しては,ありがとうございました。実務サイドとしては,共有物分割を請求した場合の結論の予測可能性が少しでも高まれば,という思いは依然としてございますが,今の時点でそこまで明確にするというのは難しいというのは重々承知しておりますので,いただいたご説明を参考にさせていただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き共有の部分の1から7までの御意見を伺います。いかがでしょうか。
○佐久間幹事 細かいことを申し上げるのですけれども,ちょっと文言で何点か気になるところがあります。
まず3の「共有物の管理」のところなんですが,「251条の場合を除き」というのは,今の条文だと251条でいいと思うのですけれども,その前の2の「著しい変更を伴わない場合を除く」というふうになっていると,この括弧書きはここに入らないということをきちんと示しておく必要があるのではないかと思います。
同じようなことなんですけれども,4と5に「共有物の管理に関する事項」という言葉が出てくるんですが,先ほど脇村さんが,変更だって,今は共有物の管理の一つと位置付けられているのではないかというふうにおっしゃって,そのとおりだと思うのですが,そうだとすると,この共有物の管理に関する事項のところの4と5においては,その変更を含まないということを明確に,文章を読めば分かるのはそのとおりなんですけれども,明確にしておいた方がいいのではないか。要するに,3,①,③に限るというふうなことを添えておくことが,読む人にとって親切ではないかなと思いました。
それと,5の(2)の②が「異議を述べなかったときは」とあるんですけれども,後の方で出てくるのに合わせると,これは①のイの異議の届出をしなかったときは,しないときはとかというふうになる方が,ほかとの平仄が合うのではないかと思いました。全部ここは文言だけです。
それで,1点気になるのが,7の「裁判による共有分割」で,これも合意ができていたのかもしれないし,別に強く主張するつもりはないのですけれども,②のイで,共有者に債務を負担させて取得させるということについてです。補足説明では,前回のような金銭を支払わせてとなると,金銭の支払が持分取得の条件というか,金銭の支払があって初めて持分を取得することができるということになってしまいますよね,ということなのですけれども,それはそうなのですけれども,仮に債務が履行されなかった場合,裁判分割をして,相手に債務の履行は命じられたけれども,履行してもらえませんでした,持分は失っていますって,それはいいのかなというふうに素朴に思いました。条件というか,対価の支払によって初めて持分が取得されるというところまではしないのであれば,しなくてもいいと思うのですけれども,何か優先的な救済を考えておく必要はないのだろうかと。そういった事態は極めてまれなのだろうとは思いますが,これまではそもそも全面的価格賠償自体がそれほどとられていなかったのだろうと思うのですね。だから問題は顕在化しなかったのではないかなと感じる面もあります。これからこういうフラットに②,ア,イ,特にイで,持分全部を債務の負担という形で取得させますよということがどんどん行われるということになると,債務不履行事例も出てくるのではないかと。その場合に,「まあ,そんなものです」というようなことでいいのかどうか,ちょっと疑問に思いました。
○山野目部会長 最後におっしゃった点を除き,佐久間幹事が前の方でおっしゃった諸点は,今後法文の立案を準備するに際して参考にするということにいたします。
最後に御指摘があった点について,事務当局の説明を求めます。
○脇村関係官 ありがとうございます。
正に先生がおっしゃったとおり,その点や,その履行をどうするのかという,従前この部会でも議論させていただいたところでございます。今回の部会資料につきましては,その点につきましては引換給付,あるいは停止条件とすることについて,裁判所に適切な判断をしていただけるのだろうという前提で組んでおりました。なかなか裁判所の判断事由について全て書き込むのは難しいということから,給付条項だけは書きましたけれども,そういったことを絡めて裁判所の方で従前どおり,あるいは従前よりも更にかもしれませんけれども,そういった問題に対応するために,お金を払うときに移すのか,あるいは引換給付にして登記移転するのか,そういったあたりを判断していただけるのだろうと期待して作らせていただいたというところでございます。
○山野目部会長 ④のところで引換給付判決などをする可能性があり得るということ,及び,しかし,それをしてくれということを裁判所が個別の裁判を言い渡すに当たってする,その内容を法文で事細かく示唆することが適当でないというふうに考えられるという2点に分けて,事務当局から説明がありました。
佐久間幹事におかれて,いかがでしょうか。
○佐久間幹事 引換給付があり得るとして,あり得るというか,それはあるのでしょうけれども,正直,そのようにしないことが一体どういう場合にあるのかなというのが,よくのみ込めないところです。引換給付があり得るのだったら,ほぼ全て引換給付になるのではないかなというふうに素朴に思っただけです。
○山野目部会長 今までの家事事件手続法でも,恐らく②のイと④の規律が置かれていますから,そこについての運用と大きく変わるということはないであろうというふうに想像されます。そこでの運用を踏まえて,また適切な解決がされていくということでありましょう。
7のところについて,今,佐久間幹事から御指摘いただいたことに留意をするということにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,7まで審議をお願いしたという扱いにいたします。
休憩といたします。
(休 憩)
○山野目部会長 再開いたします。
部会資料51の第2の「共有等」の部分について御審議を頂いているところであります。
休憩前に,第2の共有の7の「裁判による共有物分割」のところまでが済んでございます。第2の「共有等」の残りの部分,8の「相続財産に属する共有物の分割の特則」から始め,第2が終わるところまで,部会資料51で申し上げますと,17ページの上半分のところで補足説明が終わっているところまで,この範囲で御意見を承ります。どうぞ御自由に御意見を仰せください。
○蓑毛幹事 部会資料11ページの「8 相続財産に属する共有物の分割の特則」ですが,これは従来,「通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則」というタイトルで書かれていたものだと理解しています。このような制度を設けることには異論がないのですが,8の①,②の書き方で,これまで議論されてきた趣旨だと読めるのか,疑問が残りました。
また,③の3行目括弧書きにある「当該相続人が同項の規定による請求をした場合にあっては,当該請求をした日」との規定を置く趣旨がよく分からないという意見がありました。当該相続人というのは,②ただし書の申出をした相続人と読むと思うのですが,共有物分割請求をした者自身が,それに対して異議の申出をするというのは考え難いので,そうでない読み方をするのでしょうか。ちょっとここは分かりにくいと思います。
それから,9(1)④の持分の時価相当額というところについて,前回の部会資料では,これをどのように計算するのか更に検討が必要だと書かれていましたが,今回,特に説明がありません。条文としてはこのような「持分の時価相当額」という表現に落ち着くものと思いますが,その算定方法について更なる検討と,説明が必要だと思います。このままぽんと出されると,実務が混乱するとの意見がありました。
それから10の「所在等不明共有者の持分の譲渡」についても,賛成意見が多数です。ただし,少し議論になった点として,15ページの(1)の③で所在等不明共有者が取得する権利について,不動産の時価相当額を持分の割合に応じて按分した金額の支払請求権を取得するのはよいのですが,この金額を裁判所が算定し,それに応じた金額が供託されたとして,その後の実際の売買で,時価と判断された金額を上回る金額で売れた場合に,その上回った金額を不明共有者に渡さずに,それ以外の共有者が取得してよいのか,それは不公平ではないかという意見が出されました。この点を解決するために,実際の売買代金に見合った金額を追加して供託させることが考えられますが,条文の定め方が今よりも複雑になるでしょうし,今の仕組みでは,売却に先立って,裁判所の決定と供託がされるものですから,その後に金額が上がったことをどう確認し,追加分をどのように追加して供託させるのかなど,手続きがかなり複雑になりそうです。
あるいは,裁判所が時価相当額を計算するに当たり,通常はその時点で売買契約の交渉等がある程度進んでいるでしょうから,裁判所が時価を判断する資料として,当事者に売買契約書などの情報を出させるような仕組みにすることも考えられると思います。
「11 相続財産についての共有に関する規定の適用関係」については特に意見はありません。
○山野目部会長 お尋ねも頂きましたし,御所感という仕方でお伝えいただいたこともありますけれども,それらを通じて,事務当局で考えていることがあったらお話しください。
○脇村関係官 ありがとうございます。
まず,この11ページの特則の書き方については,できるだけ私たちも頑張りたいというふうには思っておりますが,現時点で,今の時点としてはこれが限度だというところでございます。
その上で,この括弧書きについては確かに分かりにくいと思いますので書き直そうと思っています。趣旨としましては,恐らく通常共有,遺産共有が併存しているケースに共有物分割訴訟を起こされるパターンとしては2パターンあると思っていまして,一つは正に通常共有を第三者が申立てをするバターンと,相続人の1人が申し立てるパターンの2パターンがあるのかなと思っています。正に前者についてはもう残りの相続人の異議がなければいいのではないかということで,元々想定していた議論をさせていただいています。
一方で,相続人がやるケースについては,相続人の中には遺産共有の分割後の遺産共有でやりたい,だからここでやってほしくないというパターンと,いや,全部やりましょうよ,10年たっているしというパターンの2パターンあるのかなと思っておりまして,書きたかったのは,訴える際にどっちかはっきりさせてくださいよと,その訴える人はですね。ということを何とか書けないかなと思ったのですが,それを異議の書き方にしたので多分分かりにくくなったというところだと思います。次回までに何とか工夫をしたいと思っているところでございます。
また費用につきましては,もう少し私も考えてきたいと思っていますが,従前から議論ありますとおり,不特定のパターンには非常に難しい問題があり,所在不明のケースについては専門家を使うべきかどうかという議論,いろいろあったと思います。不特定のケースについては,少なくとも人数が分かっているのだったら平等基準でやるべきではないかとか,あるいはもう最低分からないときについては高めで納めさせるべきではないかという議論がありまして,裁判所の判断に委ねるということとしたこととの関係で,どこまでこの部会資料に書くべきなのかという議論はあるとは考えていますが,少しその辺,どういう審議を経てこういった条文になったかが分かるような形で,次回,何らかの形で部会資料で少し説明できるように考えていきたいと思っているところでございます。
最後の結局金額どうこうの議論なんですが,確か前回ここの議論をした際に今川委員からも同じような御趣旨の御指摘あったと思いまして,当時私はずれていても仕方ないのではないですかみたいなことを口走ってお叱りを受けたところだと思っているところです。その後,改めて考えたのですが,例えば不当利得の返還請求などの最高裁の判例では,利得・損害額を判断する際に,実際売れた金額をベースに利得を考えるべきではないかという最高裁の判例はあったと思います。そういった考えは,多分ここでも一つ参考になるのかなと思っておりまして,その時価を考えるに当たっては,どういった金額で売却されることが見込まれるかということも資料の一つとして考えることはできるのではないかなと思われるところです。もちろん裁判所の判断事項にしたこととの関係で,必ず確認しろといっていいのかどうかというのは,証拠の採否に関するところでなかなか難しみはあるかもしれませんが,恐らく適切な金額を判断する上では,どういった金額で売ろうということを聞くとか,あるいは確認するという作業が一つ考えられるのではないかというところで,恐らく安いときには多分自分たちで言ってくると思いますけれども,高いときについても裁判所の方で適時適切に対応していただくというのが一つあるのかなというふうには考えているところでございます。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,お続けになることがおありでしたら,どうぞ。
○蓑毛幹事 今の説明でよく分かりました。
10についてもう一つ意見が出ていたのを言い忘れていましたので申し上げます。
時価相当額の概念で処理できるのかもしれませんが,供託する金額について,仲介手数料,固定資産税の精算,印紙代など,売買によって生ずる費用を時価から差し引いて計算する方がよいという意見がありました。
○山野目部会長 蓑毛幹事の今追加しておっしゃっていただいたことは理解いたしましたから,次回以降に向けて引き続き検討いたしますが,多分,法文には仲介手数料とかは書かないものでしょうね。それこそ正に仲介手数料,それから固定資産税の課税の基準になる日がありますね。あの日の前後で細かく計算分けてしていただくとかという事項は,もうこれは弁護士や司法書士の先生方はそのためにいるものであって,それは民法の法文が何かしてあげるという世界ではありませんから,従前も民事法制の規律において時価をもって売渡しや買取りを請求するといった場面で,常に大なり小なりその種類のことはありますけれども,法文がそのことを細密に手取り足取り表現してルールを明らかにしてきたわけではございませんから,今,蓑毛幹事におっしゃっていただいたことを今後いろいろ説明していくに当たって忘れないように念頭にとどめますけれども,恐らく法文の扱いとしてそれをどうするかという話にしにくい部分があるものではないかとも感じます。ありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○松尾幹事 3点ございまして,第1点は,誠に申し訳ないのですけれども,休み時間に入る前の部会資料51の第2の7「裁判による共有物分割」について,ちょっと躊躇して言いそびれた点がございまして,発言をお許しいただければと思います。
部会資料51の10ページの第2の7の②のイ「共有者に債務を負担させて,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」で,先ほど佐久間幹事がご指摘された点ですけれども,賠償分割の場合の共有者の対価支払と他の共有者の持分取得の引換給付を実現できないかどうかということで,私も同じ問題意識を持っておりました。それで,第2の7の②のイの共有者に債務を負担させてという場合の債務は持分の対価の支払債務と理解してよいかと思うのですけれども,その対価の支払と引き換えに,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法というような表現を用いることに差し障りがあるかどうかということについてご教示いただきたいと思いました。もしかすると,この対価支払について期限を許与すべき場合があるかもしれませんし,そういう考慮があってこういう表現になっているかもしれませんけれども,従来から問題点として指摘されてきた点でもございますので,問題提起をさせていただく次第です。考慮が足りない点があるかもしれませんがお許しください。
それから第2点は,部会資料51の13頁,第2の9「所在等不明共有者の持分の取得」(1)の④で所在等不明共有者の持分の取得をするときに,この所在等不明共有者には持分の時価相当額の支払請求権があることを定めています。これはすっきり理解できるところであります。他方,次の(2)の④では,裁判所は持分取得の裁判をするときに,この所在等不明共有者のために裁判所が定める額の金銭を供託することを命じなければならないとしています。(1)の④では時価相当額という表現で,(2)の④では裁判所が定める額の金銭という表現になっているわけですけれども,その理解として,例えば持分取得を希望する共有者が既に共有物の管理について負担した費用の償還を求める場合には,そのことも考慮して裁判所は,その費用を差し引いた残額について供託すればよいということを認める趣旨でしょうか。私は,そういうことができるならばその旨を規定すべきではないかと思います。といいますのも,所在等不明共有者の持分の取得は,所有者不明状態を解消する手段としては,今回の改正提案の中では切り札と言ってもよいものかと思いますので,できるだけこれを使いやすいものにし,共有者間の公平を実現できるようなものにすべきではないかと考えるからです。この点の確認と意見が第2点です。
それから,第3点として,部会資料51の15ページ,第2の10「所在等不明共有者の持分の譲渡」で,これは所在等不明共有者の持分を他の共有者の持分と併せて第三者に譲渡するということを前提にして,その要件と手続を定めるルールですけれども,この持分の譲渡のほかに,所在等不明共有者を含む共有者全ての持分について抵当権を設定するというようなことも可能であると想定しているでしょうか。所在等不明共有者の持分も含めて,この共有物について抵当権を設定するということも,この持分の譲渡と類比して可能なのかどうかという点の確認です。
もし抵当権の設定ができるということになった場合には,部会資料51の15ページの(1)③で所在等不明共有者の持分の譲渡に対する時価相当額の支払請求権ことを考えたときに,譲渡ではないから,持分の対価に対する支払請求権のような対価の支払請求権はないということでよいのか,あるいはそもそもそこに問題があるから抵当権設定のようなことはできないというふうに考えるのか,この点について,ルールを明確にしておいた方がよいと考え,確認させていただきたいと思った次第です。
○山野目部会長 3点にわたって,お尋ねないし問題提起を頂きました。
事務当局からお願いします。
○脇村関係官 ありがとうございます。
まず,引換給付につきましては,先ほど山野目部会長からもお話があった点に絡むのですけれども,似たような制度として家事事件手続法というもので債務負担という表現を使っていることとの関係もあって,こちらの引換給付を必ずしないといけない,絶対だということまではなかなか難しいのではないか,さすがに裁判所の裁量を完全に封じてしまうことまでは難しいのではないかということで,技術的な面から書けないと思っています。ただ,もちろん先生,あるいは佐久間先生がおっしゃっていたとおり,普通はやるのでしょうと言われると,そうでしょうねとは思っているのですが,そこは技術的な限界があるのかなと思っています。
次に,控除をした金額でいいのではないかというお話があったのですが,やはりなかなか現実的には難しいのかなと思っていまして,結局,控除すべき金額を考慮して供託金を定めると,時価から控除した,これは引いていいですよということをこの裁判の中でやるのは多分不可能なのだろうと思います。結局,客観的な時価であれば,それは裁判所が専門家の知見を借りて判断をできますが,そうではない,実際どういった費用を払ったかなどの認定をするには,恐らく管理人などを使った上で,その管理人の調査を経た上でやらないといけないということだろうと思います。ですから,先生おっしゃったようなケース,実際には控除した金額で買い取るということが認められてしかるべき事案もあろうかと思いますが,そういったケースにつきましては,この簡易なものではなくて,次回以降取り上げます所在等不明土地管理制度ですか,管理人を付けて裁判所の監督の下で管理人が適宜土地,共有持分も含めた管理をするという制度を考えておりますので,その管理人を選んだ上で,その管理人との協議の上で共有持分を集約するという制度を使うしかないのかなというふうには,今のところは思っています。ここの中で,この裁判所の手続を非常に重くするということは避けるべきではないかと思っています。
最後の抵当権の件なんですが,正に先生おっしゃったように非常に難しくて,恐らくこの抵当権の設定をそういった形でやるというのは多分不可能なのだろうと思います。そういう意味では,この資料としては想定していません。では,抵当権を付けたいときにどうするのだという話が当然あろうかと思いますが,一つは,そういったもろもろのことをしたいのであれば,将来的にいろいろ担保保存義務を負わないといけませんので,持分を集約していただいて,このレジュメでいきますと12にあります共有持分の取得をまずしていただいて自分のものにした上で,抵当権を設定していただくのがいいのかなと思っています。そういう意味では,元々この持分取得だけでいいではないかという御議論もあったぐらいで,そういう意味で譲渡に特化した作りにしていますが,抵当権,あるいは更に言うと長期の,例えば賃貸借部分も好きにやりたいとかいろいろなことがあるのだったら,持分取得をしてきちんとやるというのが一つの方向性かなと思っているところです。
○山野目部会長 松尾幹事,よろしゅうございますか。
○松尾幹事 ありがとうございました。1点目と3点目については了解しました。
2点目につきましては,所有者不明状態を解消する手段として,共有者の一部の者による時効取得についてのルールは設けられないことになったわけですが,時効取得の場合には特に対価の支払ということはなくても,他の共有者の共有持分権を取得できることとの関係で,所有者不明状態の解消手段として期待される所在等不明共有者の持分取得については,できる限り実用的なものにする必要があるのではないかという観点から,問題提起させていただいた次第です。確かに,所在等不明共有者のために所有者不明土地管理人を選任して手続をとることは一番真っ当な方法かと思うわけですが,ちょっとその手続的負担は重たいかなというふうに感じたものですから,確認とコメントをさせていただきました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
休憩前に引き続き,従来は全面的価格賠償と呼ばれてきたものを今般は明文の規律を置いて,それが可能であることを明らかにしようとする提案につきましては,多くの委員,幹事から,本日の部会会議に至るまでの御議論で賛成を頂いてきたところでありますとともに,本日は引換給付の問題を中心に若干の御議論があったところでありますから,この際,一言申し上げます。
恐らく,いわゆる全面的価格賠償というものが現時点においては法文上,明らかになっていないにもかかわらず,あり得るということを裁判所がはっきり体系的に述べた最初の判例である平成8年の最高裁判所の判決は,それは可能であるけれども,大きく分けて2種類のハードル,2種類の要件を満たしてもらわなければ困るということを述べていました。
一つは,その現物を特定の1人又は数人の共有者に取得させるということが,客観的に見てもっともであるという土地の利用その他の関係における事情が存在するということがなければいけないということであり,もう一つは持分を失うことになる者に対して債務を負う者がしかるべき資力を持っているという見通しが成り立ち,必ず対価となるお金を得させるようにしてあげなければならないという観点でありました。これらの要件の要請は,いずれももっともなものでありまして,新しい規律ができた後に,平成8年の判例の意義をどう考えるかは,もちろん今後において研究者がその点についての検討を重ねていくなどするところを待たなければなりませんけれども,恐らくはこの部会においてまとめようとしている案の趣旨としては,平成8年の判決の意義を全くなからしめるようなことは考えていないという理解でよろしいであろうと感じます。
そうであるといたしますと,判例が要求する二つの要件を関連させて述べますと,その物を1人の者に取得させて使用させることがもっともだという事情がある場合に限られますから,状況によってはそれが切迫しているということもあります。地域のまちづくりであるとか,被災地の復興のような観点から,いち早く占有と登記は得たいというような要請がある事例もあるであろうと想像します。そのようなときに,常に引換給付であるというふうにしておきますと,登記や占有の取得が遅れることもあり得ると,そのような心配が出てくるであろうと案じられます。差し当たって,担保を提供しますから,お金は直ちにお支払いするということになりませんけれども,引換給付にしないで占有や登記を得させてほしいというふうな要請があったときに,それをもっともであるというふうに考えて,諸事情を勘案して引換給付等はせずに担保を立てさせ,又は極めて僅少な額であるために担保を立てさせないで,無条件で占有や登記の移転を命ずることとするかという事項は,申し上げたような一切の事情を斟酌して処理運用をしなければならない事項になりますから,そこのところについては類似局面の規律を設けている従前の家事事件手続法の運用等を踏まえながら,個別の事案に向き合った裁判所に任せようという在り方がそこのところの規律の提案における④のお話であったものでありまして,そういうふうなことを思い起こしますと,確かに佐久間幹事がおっしゃられたように,大抵の場合は引換給付になるでしょうということはもっともなお話ですが,裏返して言いますと,限られた場面かもしれないですけれども,そうでない取扱いが妥当とされる場面もあるものでありますから,余りそこを規律の文言として書き切ってしまうということは慎んだ方がよいのではないかということで,本日このような提案を差し上げているところであります。それをめぐって,委員,幹事の間で有益な御議論も交わしていただいたところでありますから,それを踏まえて今後の検討を更に深めてまいるということにいたします。
お諮りしている共有の部分について,引き続き御意見を承ります。
○佐久間幹事 3点ございまして,1点はまた文言というか表現の話で恐縮なんですけれども,12ページから13ページまでにあります(2)の③のところで,「裁判所は,①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは,当該届出を却下しなければならない。」とあるのですけれども,①のイについては同じような定めは要らないのでしょうか。私が見落としているだけだったらおわびいたしますけれども,何かないように思えて,ないとしたら,必要なのではないかなと思いますので,ちょっとお教えいただければと思います。それから⑥にある②オというのは,①オの多分誤植だと思います。これは多分間違いないと思います。これが1点目です。
2点目は,8についてなんですけれども,8の②におきまして,共有物の持分が遺産に属するときに,共有物の分割は,その遺産の分割の手続でするのだという異議があったら,できませんということが定められているわけですけれども,その前提として,例えば相続人でない共有者が1人いまして,あと遺産共有の部分が持分であるというときに,7のルールの例えばイで,当該相続人でない共有者に全部所有権を取得させて,今で言う価格賠償にして,その金銭が遺産に属して共有だという扱いは排除されていないのか,この②のルールがあることによってそれも排除されるのか,私は排除されないということの方がいいのではないかと思っているのですけれども,そこを確認させていただきたく存じます。この②は飽くまで遺産共有の部分についての扱いであり,従来からそうだと思いますが,遺産共有に属しない持分を有している人は,共有物分割を請求できるはずだと思うのですね。それができるということは,今後も変わらないということでいいですかということと,そのときの共有物分割の内容としては7のとおりであり,この8の②のルールによってそこに制約がかかることはないということでよろしいですか。よろしくないのだったら,それはどういうことですかということを伺いたく存じます。
3点目は,これはちょっとここの提案の直接話ではないのですけれども,9の不明共有者の持分の取得と,10の持分の譲渡の許可の場合に,その取得とか持分の譲渡が実現したら登記することになりますよね。その登記の申請は,結論としては当該持分を取得した人が1人でできる,共有物全体を譲渡した場合は,その持分の譲渡の許可を得た人が代わりにと言っていいのかどうか分からないですけれども,不明者についての手続も多分やれるということになると思うのですが,そのことについては民法ではないと思うのですけれども,不動産登記法かもしれませんが,何か定めが要らないのでしょうか。要るか要らないか,あるいはもし要るとしたらどういうふうなことをお考えでしょうかということを3点目にお伺いします。ひょっとしたら実務上の扱いで処理しますということなのかもしれませんが。以上です。よろしくお願いします。
○脇村関係官 ちょっと前後して8から先に順番でさせていただきますと,ちょっとすみません,先生の問題意識を私が的確に理解していない可能性があるのですけれども,おっしゃった点は,恐らくイエスなのだろう,変わらないということでいいのだろうと思っています。ただ,すみません,私は先生の問題意識がはっきり分からずに答えている可能性もなきにしもあらずなのですが,やりたかったことは,遺産共有持分のものについてはこうなりますということだけですので,それ以外のことについては特段触れていないですので,そういった意味で変わらないということだろうと思います。
あと9の上の方で,異議がなかった場合,却下しなければならないと書かなかった点なんですけれども,従前からあちらの方は,正に催告がなかった場合にどうするのだということをメインに議論をしていましたので,明確的に書かせていただいたというところです。一方で,持分取得なり譲渡についてはいろいろな手続が複雑に入り混じっておりまして,公告した後,供託してということで,いちいち全てについてちょっと書くのが難しかったというのが正直なところです。ただ,内容については,もちろん異議が出た場合には当然その要件として所有者不明ではないということになりますので,当然できないということになりますので,そこは書かなくてもいいのかなと。逆に言うと,元々のあちらの方を書かない方がいいという結論なのかもしれませんが,あちらは一応明確にした方がいいかなということで書いてあるだけですが,そういう意味ではちょっと若干技術的な話かなと思っています。
あと,6の2のオの話ですか,ちょっと確認した上で,また次回適切に答えさせてください。先生,9の(2)の⑥でよろしかったですか,御指摘いただいたのは。
○佐久間幹事 そうです。②オってあるんですかね。
○脇村関係官 そういう意味では,すみません,①なんですけれども,①オでして,すみません,ここは次回までにきちんときれいにさせていただきたいと思います。
最後,登記ですね,すみません。結論としては,もう先生がおっしゃったとおりでして,もう単独,あるいは共同申請するにしても,所在等不明共有者抜きでできるということを考えておりました。不動産登記法の手当てについて,この決定書き,裁判書きで明確に権限があることは証明されているので,特段手当てしなくていいのではないか,もちろん改正された場合に手当てしなかったとしても,その点についてはもろもろの方法によって周知しないといけないと思っていますけれども,手当てしないという方法もあるのではないかと。一方で,本当に手当てしなくていいのかということも考えないといけませんので,もう方向としてはそちらの方向ですが,手当てしないことも含めて現在検討中です。いずれにしても,そこは遺漏なく適切に対処していきたいと思っています。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ,お続けください。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
8の②の共有物分割の話は,こうすべきだという意見があるわけではなくて--。いや,あるか。通常の共有者の共有物分割の請求が妨げられることは,それはあってはならないと思っていて,今お答えをそう頂いたのですけれども,かつ裁判所がどう分割するかというのは,遺産共有の方の側で,いや,これは共有持分として残してほしいという希望が例えばあり,それが理由があるというふうになると,7の②のイなんていう判決が出る裁判がされるということは,普通ないのだろうと思うのですけれども,そういう希望が仮になかったとしたら,どうなるのでしょうか。実際上は何を考えているかといいますと,遺産共有の状態で訳の分からないことになっているものについては,誰か1人にぽんと所有権を取得させることが,当該土地がそれ以降,きちんと利用されることになる道を開くことになると思っています。そうすると,7②イの方法も,差し支えのないときは排除されていないのですよねということを確認していただけるならば,今日じゃなくてもいいのですけれども,ちょっと整理されて,そうしていただくのがいいかなと思ったので発言をさせていただきました。そのときは金銭が共有,遺産共有のままですという,それでいいのかどうかもよく分かりませんけれども,なるのかなということで発言させていただきました。
○山野目部会長 ありがとうございました。
脇村関係官からお答えを差し上げたように,ひとまず今日考えているところをお話ししましたけれども,佐久間幹事の御意見を踏まえて,なお整理をすることにいたします。
ほかにいかがでしょうか。
○沖野委員 ありがとうございます。
今の佐久間先生と脇村さんの間でやり取りされたことに関して確認させていただきたいのですけれども,12ページから13ページの9の項目の(2)の③で,ウの場合に,期間徒過の場合の手当てが書かれていて,イについては書かれていないという点について御説明は,その場合には所在等不明共有者ということにならず,①の要件を欠くので,いずれにせよ(1)の①の裁判がされないというものと伺いました。
ただ,そうしますと,(2)の①のイで,一定の期間までにその旨の届出を,その所在等不明共有者がすることということですから,実は私だとか,実は私はここにいますというような場合には,しかし,一定の期間までという限定が掛かっておりますので,期間を超えた場合どうなるかという問題はあり,かつ(1)の④で,持分を取得したときは所在等不明共有者が請求することができるということですから,後に判明して請求するという事態もあり得るということで,一定の期間内に出てこなくても,後に登場したときは,この金銭調整でいくという考え方がとられているように思うのですけれども,そういう理解ではないのでしょうか。それで,(2)の③のウの方は,(1)の②で届出をしたときはできないということになっていて,届出はされたけれども,期間の要件を満たしていないので,そのときは届出がない形にするために書かれているのだと思いますので,したがって,①のイとは少し扱いが違うというのは分かるのですけれども,扱いが違うという内容が果たしてそういうことなのかということを改めて確認させてください。さらにはその関係で,(2)の②については登記簿上,氏名,名称が判明している共有者に対しては,登記簿上の住所又は事務所に宛てて通知を発するということになっているのですけれども,対象事項として,①のイは除くとなっています。ただ,所在等不明共有者の中には,およそ誰か分からないという場合のほか,誰かというのは名前は分かっているけれども,所在が分からないという場合があって,その場合には登記簿上から氏名や名称は分かります。そこに住所が,その登記簿上は明らかになっているときには,その通知をするとなっているときに,この所在だけが分からないという人に対しては通知しないということでいいのかどうか,一定期間経過後は駄目だということになるときには,①のイを除かないのではないかという気がしまして,一方でまた更に細かいことを言うと,②で①(イを除く。)ならば,対象者も限定しなければいけないのではないかということで,少し平仄を合わせる必要があるのかなと思っております。
それで,もうついでに申し上げてしまいますと,改めて平仄を合わせるように表現をお考えになるということですので,15ページの10の(2)の①について,ここでア,イ,エということで,ウとオが除かれているのですが,これはウを除く趣旨だというのは分かるのですけれども,オを除くと,次の④から⑥までの,⑥はオについての記述ではないかと思われるので,⑥も除くのかなと思います。全く誤解しているかもしれません。平仄は合っているのか,いや,このままでいいのか,考え直した方がいいのかということは改めて検討していただければと思うのですけれども,一定期間経過後にイの異議が出たときの扱いだけは,内実が違ってくるかと思いますので確認させていただければと思います。
○脇村関係官 大変すみません,誤記の点はあると思いますので,もう一回そこは確認させていただきたいと思います。その上で,最後の点は恐らく中身のお話だと思うのですが,私としましては部会資料を作った趣旨としては,裁判で入れてきたケースについては,もうそれは実体法上の要件がないと言わざるを得ないのかなと思っていますし,一定期間,届出がなかったからといって,後で判明したのに,もうやはり持分移転するのだというのはさすがに難しいのかなと思っておりまして,そういったことを考えておりました。
もちろん,では,期間を区切るのは何でなのだという御指摘なのだろうと思いますが,やはりそこは早く届け出てくださいよというメッセージを出した方がいいのではないかと思っていまして,例えば失踪宣告なども,一定期間までに生存届出すべきことということで公告することになっています。ただ,失踪宣告も,恐らく届出期間を過ぎても,私,実はここにいますということが出てくれば,それは失踪宣告しないのだろうと思いますので,その期間を定めることと,実体要件との絡みは,そういった整理もあるのかなというふうに考えていたところです。
あと,登記簿上のものについて,そういった意味で,通知しなくていいかという点につきましては,いずれにしても,実体法上の要件の関係で,登記簿上の住所に住んでいないということは確実に調査をしないといけないと思っていますので,それは通知とか,そういった対象で記述しなくても,実体法上の要件として当然調査することになるだろうと思っていました。ただ,そうだとすると,この通知の共有者から所在等不明共有者を抜いた方がいいのではないかという御趣旨だと思いますので,ちょっと書き方は少し考えさせていただきたいと思います。
部会資料の趣旨としては,以上でございます。
○山野目部会長 沖野委員,お続けになることがあればお話しください。
○沖野委員 結構です。今のご説明で趣旨は分かりました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○佐久間幹事 今のことに反対ではないんですけれども,ちょっと戻って恐縮ですが,9ページの5の(2)の②も,私は先ほど,「イの異議の届出をしないときに」と書いた方がいいのではないかというふうに申し上げました。しかし,今の脇村さんの話ですと,イの一定の期間までにというのは,ここも実は意味がなくてというか,がちっとは定まった要件ではなくて,とにかく裁判が行われている間に異議というか,ここにいますとかといったことが出てきたら,もうこの裁判はしないということになるということでしょうか。平仄を合わせるとそうなると思う。それだったら,それでいいのですけれども,確認だけお願いします。
○脇村関係官 先生おっしゃったのは,今,5ですかね。
○佐久間幹事 5です。
○脇村関係官 5の(2)のイだと思うのですけれども,ここについて,確かにどうしようかという問題はありまして,先ほど言いました,持分取得のケースとは若干意味合いが違ってくるのではないかという意識もありまして,持分の管理行為の特則については,期間までで,それはセットされるべきではないかという意見が,多分今までの議論からするとあるのかもと思っていましたので,私としてはそういう,すみません,明確に意識したのは今なのですけれども,ここについてまで,後で期間過ぎてまで言ってきていいんですというのはどうなのかということは思いました。ただ,それが表現できているのかという問題はあるんですけれども,ちょっと工夫できるかどうかは考えてみたいと思います。ただ,なかなか字で書けなさそうな気もするので,頭の整理としてやるのか,その意味でちょっと改めて整理はしていきたいと思います。
○佐久間幹事 分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 木村幹事,どうぞ。
○木村(匡)幹事 ありがとうございます。
8の「相続財産に属する共有物の分割の特則」の規律の関係で,実務的な観点から3点ほどお伺いしたいと思います。
まず1点目ですが,共有物の帰すうについて,地裁の共有物分割と家裁の遺産分割の各判断に齟齬が生じてしまった場合の処理に関してどのように考えるかについて,教えていただければと思います。2点目として,相続開始から10年が経過したものの遺産分割手続において具体的相続分の主張が可能な場合で,共有物分割手続と遺産分割手続が併存している場合というのはどのような処理になっていくのかについて,教えていただけますでしょうか。
3点目として,そのようなケースで遺産共有部分を共有物分割訴訟の中で分割したが,当事者の一部が民法906条の2の同意をしなかった場合,共有物分割訴訟の結果が残余の遺産分割にどのような影響を与えるのかについてどのように考えるかにつきまして,教えていただければと思います。
○脇村関係官 脇村でございます。ありがとうございます。
確か,この論点を取り上げた際にも御質問いただいていたところだと思いますので,ちょっとかいつまんで,今考えているところを説明させていただきますと,共有物分割の帰すうが,結論について齟齬が生じたケースがあると思います。
そういったケースについて,パターンとしては共有物分割が先にされて,例えば共有物分割で共有物の全部を相続人1人が全部取ってしまいますよみたいな判決をした後に,遺産分割で相続人の1人が,別の相続人が遺産持分を取ってしまいましたというような,そういった帰属先がずれてしまうケースはあると思います。恐らく実体法的な整理だと思うのですが,共有物分割で完全に持分が処理されて,それはもう遺産でなくなってしまったということですと,後者の審判はその限度で空振り,遺産分割はされない,遺産分割がないものについて遺産分割されたというのと同じ処理をされるのかなと思います。恐らく現行法でも,第三者が全部取ってしまって,遺産分割はそれを無視してやってしまったケースは同じようなことが起きるんだと思いますが,それと同じ処理かなと思います。
逆に遺産分割が先行したパターンですと,遺産分割で特定の人が全部取得したケースについて,かつ登記もされますと,本当はその人だけを相手を共有物分割すればよかったのを無視してやってしまったということで,そういった適格を間違ったケースはどうするんだとか,あるいはそもそも持分割合をずれてやってしまったので,恐らく審判自体がどうこうというよりは,その後の判決の適否が問題になってくるのかなと思います。すみません,先ほどのケースでいっても共有物先行でも判決の効果は影響ないと思います。その上で,登記がされていないケース,先に遺産分割されて登記されなかったケースは,恐らく共有物分割は一応登記基準でやるという判例がございますので,無視してやったのが有効に成立をして,ただ,あとは持分の帰すう自体は登記の先後で普通に決まるのかなと。ただ,事後処理は,遺産分割内部は,事後処理をきちんと不当利得等で処理してくださいということになるのかなと思います。
そういった意味で,前回も少し議論ありましたが,そういった齟齬を生じないようにしていくのは重要なことかなと思いますので,我々としても今後改正する際には,今までも同じような問題はあったので,情報共有は大事だったのですけれども,当事者にはきちんと適宜適切に裁判所に伝えてフィードバックできるようにしてほしいなと,当事者には思うということを周知していくのかなと思っています。
また10年経過して,具体的相続分の主張が可能なケースがございます。結局,きちんと異議を出してくれるのが一番大事なのですけれども,そういう意味で,異議を適切に出してやってくださいと。ただ,異議を無視してやってしまったケースは先ほどと同じ処理になりますので,いずれにしても異議を,具体的に主張したいのであれば,それは遺産分割しているので,これでやめてくださいということを当事者にきちんと言って,変なことが起きないように相応にやってくださいということかなと思います。
ただ,いずれにしても結果的にやってしまって,共有物分割をやって,その後,具体的相続分の算定するときどうするのだという問題は理論的にはあるのかなと思いますが,共有物分割は持分の交換の場合は一種の持分譲渡に近い発想ですので,そうしますと,結局何が起こっているかといいますと,相続人の1人が自己の持分を処分した場合と同様の状況が起きている。それについて,先般の相続法改正ですと906条の2で,いろいろな解釈がありますけれども,いずれにしても,全員の同意があれば組み込めるけれども,全員の同意がなければ駄目ですよという話が出てきます。そうすると,結果的に具体的相続分で取りはぐれるケースがあるということが言えますので,そういう意味で,今回そういったことも込み込みで,この異議の申出を入れておりますので,本当に具体的相続分がある,したいというときについては,できるだけ異議申出をしてくださいと。していないと,後で問題が起きますよということは伝えていきたいなと思っています。
そういう意味で,今回のスキーム全体について言いますと,やはりそもそも共有物分割をやるというときに遺産分割が併存しているケースがどれだけあるのかというのは若干ありますけれども,併存しているケースについて,別々にやるべきケースについてはきちんと異議を申出すべきですし,逆に申出しないケースについては,当該共有物についてはそちらで処理するという前提で組んでもらえばいいのではないかなと思います。そういった従前から起きていた問題とほぼ同じですけれども,この改正がされた際には,いずれにしてもそういった問題があるということは注意喚起していかないといけないなとは,改正の趣旨を説明する際には注意喚起していかないといけないなというふうには思っているところです。
○山野目部会長 木村幹事,お続けください。
○木村(匡)幹事 ありがとうございました。確認できましたので結構です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○今川委員 今の木村幹事の三つ目の御質問についての関連なんですが,8の共有物分割の特則だけではなくて,9の不明共有者の持分取得,それから10の不明共有者の持分譲渡の制度について,後で出てくる第4相続の3の遺産分割に関する見直しで,10年経過しても具体的相続分を主張することができる場合というのがあって,前の部会では,その場合には,共有物分割の特則とか持分取得,持分譲渡の制度を何とかストップさせなければならないということも議論されたと思いますが,ただ,今回,8・9・10のそれぞれの規定の中には単に10年の経過としか書かれていないので,遺産分割の見直しとの関係がちょっと読み取りにくいので,もう少し読み取りやすいような規定ができないのかということであります。
それと,今,脇村関係官が異議について述べられましたが,今回,共有物の分割の特則と,持分取得について,他の共有者が異議を申し出ることができるという制度が明確に入りました。持分譲渡については,異議の制度がなくても,相続人全員が持分譲渡することが停止条件となっていますので,10年経過しても具体的相続分による遺産分割協議を行うことができる事由を有する共有者は,自分が持分譲渡しなければ,持分譲渡の裁判の効果がなくなるので,それはそれでいいと思います。しかし,共有物分割の特則と持分取得について異議を申し立てるためには,遺産分割の請求をした上で異議を申し立てるというのが前提になっていると思います。そうすると,遺産分割の請求することができない事由のある相続人に対して,遺産分割を請求してから異議を申し立てろということになりますが,それをどのように理解していいのかというのが分かりにくかったので,御説明いただければと思います。
○脇村関係官 ありがとうございます。
そもそもやむを得ない事由で一番想定していましたのは,死んだことも知らないとか,そういった客観的状況を介してできないケースを考えています。そういった意味で,通知まで来た上でできないケースが本当にあるのかと言われると,多分ないのだろうと思います。そういった意味で,やむを得ない事情があるケースについて,確かに結局気づいてしまって,やらなければということはあると思いますので,この共有物分割の特則なり,この9ページの持分の取得,今回の今川委員との議論を踏まえて,遺産分割請求をして異議で止められるという制度を同じように入れさせていただきましたので,9の②でですね。そういう意味で,共有物分割の特則,あるいは持分の取得については異議によって止められる制度を入れていますので,具体的相続分をやりたいというケースについては,これである程度カバーできるのだろうと思います。もちろん残部がありますので,そっちでやればいいやということでしないというのも,ほかの遺産が残っているので,いいやということもあるとは思いますけれども,手続としては,確かに10年にしていますけれども,そういった事情があるケースについて,通知をした上で異議申出することによってカバーできるのではないかなというふうには理解しています。
○山野目部会長 今川委員,よろしいですか。
○今川委員 はい。
○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。
そうしましたならば,部会資料51の「第2 共有等」でお諮りしている諸事項については,本日,委員,幹事からお出しいただいた指摘を踏まえて議事の整理をすることにいたします。
本日は多くの委員,幹事から考え方の整理や字句の推敲について有益な御指摘を頂きました。字句の推敲の関係でもう一つ付け加えておきますと,持分に応じて按分となっているところと,持分の割合で按分してとなっているところがあったりいたしますから,そういった点も含めてもう一度見直しをするということにいたします。どうもありがとうございました。
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法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議 議事録
○山野目部会長 再開いたします。
部会資料40をお取り上げくださるようにお願いします。
部会資料40は,「共有制度の見直し(通常の共有における共有物の管理)」についてお諮りするものであります。
1ページの「1 共有物の変更行為」のところについては,部会資料27をお示しして,前回この話題をお諮りしたときと同じものの提案を差し上げております。前回の第13回会議で御指摘いただいた点については,補足説明でこのように考えたらどうかという御案内を差し上げているところであります。
2ページから3ページにまたがっての共有物の管理行為についての(1)民法252条についての改正方向をお示ししているところは,①,②,③とも前回部会資料27でお示ししたのと同じものをお示ししています。④も何となく同じものをお示ししているように映りますが,実は,a,b,c,dで並べて示している期間を超えて約束がされた場合についてはどうするかということについて,それを明記する規律を添えておりましたところが,それを削ってございます。削った方が,借地借家法の適用関係についてより明快な解決を示すことができるものではないかという考えに基づくものでありまして,そのことを補足説明で御案内しているところであります。
5ページのところの,まず(2)は,共有者全員の合意とその承継についてという論点につきまして,規律を設けることに困難があるものではないかという複数の御指摘を第13回会議で受け,それらがもっともであると考えられるところから,規律を設けないとする方向の提案を差し上げております。
5ページの一番下,「共有物の管理に関する手続」について,持分の価格に従って過半数で決する際の共有者相互のコミュニケーションの在り方については,これも規律の創設を見送るという提案を差し上げているところでございます。
6ページの4にまいりまして,「共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等」につきましては,①,②とも,基本は部会資料27でお示ししたのと同じものをお示ししております。損害賠償の規律等について,誤解を招かないように整理をしている部分がございますけれども,基本は第13回会議にお諮りしたものと同じでございます。
部会資料40の全体について御意見を承るということにいたします。
委員,幹事の皆様方から,どうぞ御随意に御発言をください。
○橋本幹事 弁護士会で議論した内容を御紹介したいと思います。
まず,1の共有物の変更行為についてですが,方向性については大きな異論はありません。
ただ,この著しく多額の費用の点ですが,補足説明にいろいろ説明書かれているんですが,ちょっとやはり不明確だよねという意見が多くて,費用という切り口でやると,どうしても補助金とか,あるいは求償しないということについて疑義が出てしまうのかなと思って,意見としては,もうちょっと何とか目安的なものを示せないのかというような意見もあったんですが,むしろこの補足説明で書いてあるように,結局のところ,物理的に大幅な変更を伴うかどうかというところがキーポイントになっているように思うので,金額が多い,少ないよりも,物理的に大きな変更を伴うかどうかという方にした方が,すっきりするのではないのかなと思いました。意見です。
それから,2についてですが,(1)の②なんですが,これについては,中間試案のパブリック・コメントのときも,日弁連としては反対の意見を述べていたんですが,これについても,現時点でもまだ賛成できないという意見が強かったです。
後ほど検討される部会資料42の第3によると,遺産共有の場合も全て適用されるという前提だという立てつけのようですので,遺産共有の場合だとすると,ちょっと弊害が予想されるのではなかろうかということで,やはりこの部分について,反対という方向は今のところ維持するという方向です。
それから,④の点ですが,cに関して,借地借家法の適用がある建物賃貸借の場合には,全部無効だという説明が補足説明に書いてあるんですが,ちょっと硬直的ではなかろうかと,部会資料27の当時のもののがよかったんではないかという意見がありました。
それから,(2)の共有者全員の合意とその承継について,設けないということなんですが,何とか設ける方向でもうちょっと粘れないでしょうかという意見がありました。
3と4については大きな異論はありませんでした。
○山野目部会長 弁護士会の意見をおまとめいただきまして,ありがとうございます。
引き続き承ります。
○沖野委員 2点お伺いしたいことがございまして,1点目は,3ページ目の④について,今御指摘のありました点ですけれども,むしろ意見としては逆になりますが,4ページの補足説明のところでは,部会資料27の後段で書かれていたものを削除しているのは,混乱が生ずることになるからだと書かれておりますけれども,この混乱自体は,借地借家法で30年のものを5年の一般の建物所有目的の土地賃貸借契約を締結することはできない,その強行規定があるにも関わらず,こちらの方が優先して5年になってしまうと読めてしまうことによる混乱ではないのかと理解したのですが,そうだとしますと,特に借地借家法などの他の強行規定がある場合に,こちらが優先するということではないという話であり,その限りでのことになります。
しかし,他方で,④の話というのは,結局共有物の管理として,どこまでできるのかということであって,そうだとすると,契約締結が処分に実質的に該当するような長期の契約というのは,そもそもこの過半数決定ではできないとする。したとしても,共有との関係では効力を持たない,過半数決定ではできないことだと整理してしまうというのも,一つの案ではないかと思いまして,それに対して,現在の④は,それはできるんだけれども,超えて存続することができないんだと書かれておりまして,部会資料27の後段の規律は,ただ,強行規定との関係で混乱が生じるから削除したということですから,この内容は維持されていると見られるんですけれども,本当にそれでいいんだろうかというのが,むしろ気になったところです。この期に及んでという感じはするんですけれども,どうだろうかということです。むしろ,これは管理行為には当たらないので,こういうものはできないと整理するという方が,あるいは,この期間内の契約しかできないと,もちろん,更に強行規定を排除するのはできないという整理の方が,むしろ適切ではないかと,この記述を見て思ったところですので,どうだろうというのが一つ目です。むしろ意見だと思いますけれども,あるいは,部会資料27からの変更の趣旨は何かということかもしれません。
もう一つは,4ページの補足説明の(2),4ページの下から3行目のところですが,一部の共有者の同意なく借地権を設定した場合の法律関係についてということで,土地賃貸借の例を考え,その説明をしていただいています。この法律関係を明確にすべきだという指摘がこの趣旨だったのかどうかというのは,ちょっと私には分からないのですけれども,この例の場合について,そもそも建物所有で借地借家法の適用があって,しかも,土地であれば30年となるような契約について,Cが異議を述べた場合には,借地権の設定自体ができないと。他方で,賃貸借は有効に成立しているということで,一種他人の権利の部分を処分してしまうという,そういう関係かと思うのですが,これは,本来そもそも過半数決定でできない場合であるのに,それをしたらどうなるかという話ではないかと思われるのですが,ここの説明は。そうではないのでしょうか。
問題になりますのは,過半数決定でできるけれども,しかし,異議を述べた者との関係ではどうなるのかとか,そのときに,契約は誰と誰との間ですることになるのかとか,そういうことの整理が,やがて出てくる管理者の選任等々との関係でも必要になってくるのではないかと考えられまして,そのような問題として整理し直すべきではなかろうかと思われるのですけれども,そうした場合に,ここで過半数決定をするということが,仮に共有者が集まって,こういう形でこのような契約の賃貸借をするかどうかということについて,過半数でしようということになった場合に,契約はどうなり,賃貸人たる地位はどうなるのかについて,以前の御指摘では,それでも異議を,自分は反対であると述べた人は,およそ賃貸人になるということもないし,契約は飽くまで賛成した人,場合によっては賛成した人ではなくて,そのうちの1人でもいいのかもしれません。1人だけが契約をするということで,あとは内部関係として処理していく,反対者は,妨害はしないという話になるのかもしれないんですが,そういう権利関係なのかどうかということの整理が必要でないかと思われましたので,問題の設定と,それから,もしそういう問題だと考えるならば,どういうふうに理解したらいいのかということを,御説明いただければと思います。
長くなってすみません。
○山野目部会長 沖野委員がおっしゃった2点について,今,事務当局との間で意見交換をしてもらおうと考えます。
前段でおっしゃった3ページの④のところは,これからの御議論にもよりますが,沖野委員のお話をヒントとして,削った部分を復活させるということになれば,理由,経過は全く異なりますけれども,橋本幹事の復活させてくれという弁護士会の意見と,奇しくも結果だけは一致することになり,幸せな結果に至りますが,本当にそう進むことがいいかどうかは,引き続き考えなければなりません。
沖野委員の後段の4ページから5ページのところ,これ,例の挙げ方が悪いですね。2年とかの建物の賃貸借をしたときに,しかし,反対した人の置かれる法律的な状況がどうなるかという例を挙げれば,今のような御疑念の指摘を受けなくて済むであろうと考えますから,何かこれ,筆が滑ったとも感じますけれども,事務当局からどうぞ。
○大谷幹事 1点目に御指摘いただいた短期の賃貸借でないもの,長期間の賃貸借を過半数ですることはできないとするのではないかというような御指摘,確かにここのように変えてみて,例えば,建物の使用権3年を超えるもの,土地の使用権5年を超えるものを,契約としてやったときに,それ自体もう無効だと考えることもあるのかなと思い直し始めていたところです。ですので,ちょっとここは,今の御指摘も踏まえまして,④の書き方,後段の部分を削ったということだけではなくて,もう少し,共有関係で,過半数だけで賃貸借をするというときにはどうなるのかというのを,改めて整理をしてお示しをしたいと思います。
また,過半数の者との間で賃貸借契約をした場合の法律関係ですけれども,これも,ほかのところで出てまいりましたけれども,A,B,Cの3名のうちのA,Bのみで賃貸借をしたときに,賃貸人は誰かといえば,契約関係はどうなるかといえば,AとBだけが契約当事者になるということで,反対をしているCについてはならないと。ただ,CはAとBが結んだ賃貸借契約を否定することができないという関係になるのではないかと考えているところでございます。
○山野目部会長 大谷幹事のお話の後段はそのとおりで,そのこと自体は,沖野委員もそのように理解しておられるけれども,挙げている例が,借地権の設定は元々できないことから,もっと適切な例を挙げてくださいという御要望であると受け止めますから,次回は丁寧にここを書き改めてお出しすることにいたしましょう。
沖野委員,よろしゅうございますか。
○沖野委員 ありがとうございました。
私自身は,実は別の考え方もあると思っておりまして,大谷幹事は私自身の考えを受け止めてくださったのですが,整理としては,最終的に部会長がおっしゃったような整理でいくということで,まとまっていくということには,全く異存ありません。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
今の4ページの(2)のところなんですが,多分,前回私が申し上げたことについて対応していただいたんだと思うんです。どういうことだったかといいますと,無効だとするのか,期間を超えることができないのだとするのかはともかくといたしまして,借地借家法の適用のある賃貸借を過半数決定でしてしまった。ところが,借主の方は,そうとは思わず,無過失まで含めるのかもしれませんが,善意無過失で借地借家法の適用があると考える状況であった,その場合に借主を保護はしなくていいのかと,私が申し上げたのに対して,これはお答えいただいたんだと思います。ですから,これが,前回からの議論の続きで,不適切な記述というわけではなくてというか,事務局のために私が言う必要があるのかどうか分かりませんが,これはこれとして,前回の私が申し上げたことに対してお答えを頂いていて,それに加えて,今日,沖野先生から御発言があったという整理が適当かと思います。これが1点です。
もう1点は,これ,ずっと出ているところで,今更なんですけれども,1ページの1のところで,括弧書きで,共有物の改良を目的とし,かつ,著しく多額の費用を要しないものを除くとあります。これがこのままでいいのか,先ほど橋本幹事から,軽微変更みたいなのに変えた方がいいのではないかということがございましたが,それは御検討いただくとして,もしこのままでいくというときに,軽微変更でも一緒かな,改良という言葉でいいのかなというのが,少し分からないなと思ったところがございました。改良というのは,多分価値を増すということが含まれていると思うのですけれども,これからの時代,ダウンサイジングとか,価値の面でいうと,例えば,今まで居住に適していたもので,それ自体としては価値が高かったものを,もう利用者がいないので,納屋に変えるとか,簡易化するという方向で目的物に変更を加えるということもあり得るのではないかと。これは,主観的には使用価値を高めるということになりうるとは思うのですけれども,客観的に言うと,価値が高まるとは言えないのかなと思います。そういったことから,この改良を目的とするということでは駄目だというわけではないのですけれども,これからの時代,これで尽きるということでいいのかどうか,考える必要があるのではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
前段のお話を伺っていて,佐久間幹事は優しい方だなということを実感いたしました。
確かに4ページから5ページは,前回の佐久間幹事のお話を引き継いだものでありますから,本日沖野委員から頂いた御注意を踏まえ,将来に向けては適切な例を選択して,補足説明の文章を草していくことにいたします。
後段で御指摘いただいたことは,今後の日本の社会を考えたときに,なるほどと,うなずかざるを得ない御指摘を頂いたとともに,悩ましくて,従来の法制の用語例からいくと,ここはやはり改良になると思うのですね。今後の日本社会を考えたときに,改良でない哲学を表現する言葉を探し,よりふさわしいものにしてくださいという課題は,誠にしごく当然のお話であると同時に,良い言葉を見つけて,法制的にもそれを採用可能なものに育てられるかどうかは,少しまた事務当局において検討してもらおうと考えます。
ここの括弧書のところは,橋本幹事からも多額の費用のところについての文言の再検討を求める御意見を頂いております。括弧書は,事務当局においても,何とか考え直して,いろいろなことを考えましたが,やはりここに落ち着くのではないかと考えざるを得なくて,同じ文言のものをお出ししていますけれども,本日両幹事から頂いた御意見を踏まえて,更に検討していかなければならないことであると考えます。
引き続きいかがでしょうか。
委員,幹事から御意見はおありでしょうか。
それでは,どなたからか御意見をおっしゃっていただくまでに,いささか橋本幹事にお尋ねですが,5ページの太文字の(2)のところを,提案を見送らないで設けてほしいという御意見が弁護士会にあるというお話であると,先ほど聞こえましたけれども,その理解で間違いないですか。
○橋本幹事 はい,(2)ですね,合意の承継について。
○山野目部会長 ここについて,規律創設の需要があるということが理解できますとともに,第13回会議において,いろいろ異質なものがここの規律の適用対象として想定されるところを,誤解がないような仕方で,過不足なく規律の表現にまとめるのは難しいという御意見も頂いていたところでありまして,なかなか難しいと感ずるところでありまして,弁護士会の御意見は御意見として承って,もう少し考えみようと思いますから,すこし弁護士会の先生方も引き続きお付合いいただいて,お知恵を頂きたく思います。
ほかにいかがでしょうか。
そうしましたらならば,第13回会議でお出しした部会資料27の確認をお願いするような内容も多うございますから,強いて御発言がないと受け止めてよいのかもしれません。
御発言がないようでしたならば,部会資料40についての審議をここまでとして,更にこれを整理していくということにいたしますけれども,よろしゅうございますか。
それでは,引き続きまして,部会資料41をお取り上げくださるようにお願いいたします。
引き続き共有制度の見直しでありますが,部会資料41のタイトルに括弧書でありますように,共有物の管理に関する行為を定める際の特則等について,お諮りをしているところでございます。
第1の1は,これは,共有者の中に共有物の管理等について,無関心や積極的な関心,意欲的な関心を抱いてくれない者がいる場合に,問合せをして異議を述べない,意見がないということを確認した上で,更に共有物の管理を進めるということを認めてよいかということについて,前回と同様の提案を差し上げております。
(注1)から(注3)までのところで,本文の案とは別に,こういうことも考えられるということをお示ししていますけれども,(注1)から(注3)までに御提示申し上げている事項は,そこに本案とは別な案を示して,これも大いに考えていこうという趣旨で御提示申し上げているものではなくて,ここで強く(注1)ないし(注3)の可能性も,引き続き考えてほしいという御意見があるかどうかを確かめるために,お出ししているものでございます。
引き続きまして,3ページにまいりまして,太文字の2のところ,「所在等不明共有者がいる場合の特則」は,今度は共有者の所在が分かっているのではなくて,そもそも所在が分からない場合について,こちらは裁判所の関与を得て,それに代わるコミュニケーションを取って,先に話を進めていくということが許されるかというお話の問題提起をしています。(注1)から(注3)まで,本文の案とは別な案が考えられるかという可能性もお尋ねしていますから,併せて御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。
(注1)から(注3)まではそういうことですけれども,(注4)は性格が異なっていて,これは別にお尋ねするものではなくて,太文字の案の本文の前提を補足しているものであります。
小さな誤植がありまして,(注4)のところ,本当は改行しなくてはいけないはずですが,そのまま続けてしまっているところは,改行があるものと訂正を差し上げて,その前提でお考えくださるようにお願いいたします。
6ページのところにまいりまして,第2のところで,「不動産の所在等不明等共有者の持分の取得」について,裁判所が持分を取得させる旨の裁判をするということを基本とした上で,裁判所が定める時価相当額の支払請求の制度などについての関連する提案を差し上げております。
9ページにまいりますと,第3のところで,所在等不明共有者がいる場合において,知れている共有者の全員の同意があるときには,これを譲渡するという可能性を認める制度の提案をしております。
11ページにまいりまして,第4のところは,共有者が選任する管理者の法律的な地位,それをめぐる法律関係につきまして,第13回会議でお諮りしたものの骨格を維持し,それを整理したものをお示ししているところでございます。
部会資料41は,このような論点を盛り込んでお示ししているものでありまして,これらの全体について,委員,幹事の御意見を承るということにいたします。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 第1「共用物の管理に関する行為を定める際の特則」について,日弁連のワーキンググループでの意見の分布について申し上げます。
第1の1については,本文のとおりでよいという意見もありますが,(注2)に賛成,すなわち,裁判所の決定があって初めて効力が生ずることとすべきいう意見の方が多数でした。2については,本文のとおりでよいという意見が多数でしたが,(注2)に賛成,すなわち,対象となる行為を持分の価格の過半数で決する行為に限定すべきだという意見も有力でした。
6ページの「第2 不動産の所在等不明共有者の持分の取得」については賛成します。9ページ,第3の「所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡」についても賛成します。いずれも,前回申し上げた,日弁連の意見を取り入れていただいたものと理解しています。ありがとうございました。
第4の「共有者が選任する管理者」について,本文で書かれている「1 選任・解任」,「2 管理者の権限等」について,本文で書かれていること自体については賛成ですが,補足説明で,部会資料12ページに書かれている「委任契約(委任関係)とは別の法律関係(管理者選任関係)」の概念がよく分からないという意見が多く寄せられました。では,本文に書かれている選任・解任の要件を満たしつつ,それを,どのように理論的に説明するのかについて,日弁連のワーキンググループの中で何かよい案を提示できるのかと言うと,できません。大変申し訳ないのですが,そのような意見があったということだけ申し上げます。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめいただきまして,ありがとうございます。
ただいま弁護士会からお出しいただいた問題提起をめぐる御意見でも結構ですから,お出しください。
○今川委員 まず,第1の1についてですけれども,14回の会議を受けて,催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合と,所在不明共有者がいる場合とに区別して,提案されています。そして,前者の場合は,当事者の行為のみで効果が発生するとされて,後者の場合は,裁判所の決定があって,初めて効果が発生すると整理されています。
我々が出していた意見については,第1の1の補足説明2の(2)で取り上げていただき,それに対する考え方も説明されています。
催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合において,共有者全員の同意を要する変更行為を除く場合であっても,場合によっては第三者が絡む場合があるし,登記をしなければならない場合もある。また,逆に,所在不明共有者がいる場合であっても、共有者間で単に使用方法を定めるようなものもあり,言い方は適切かどうか分かりませんが,重いものから軽いものまで幅広くありますので,我々の意見としては,一律に裁判所やその他の公的機関を関与させないと効果が発生しないというのではなくて,共有者が望めば,任意に要件を満たしていることを証明できるような制度を置いてはどうかという意見でありました。
それについて回答も頂いており,一定の理解はしておりますが,ただ,短期賃借権の登記をするという事例は,かなりレアケースだとは思いますけれども,そういう場合に,この要件を充足している,そして登記原因が発生しているといことを,司法書士あるいは登記官等がどのような形で確認していくのかという課題があると考えます。したがって、手続上の手当ては,引き続き検討していただきたいという意見があります。
それから,第3の所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡について,(注3)の裁判の効力について,その終期を定めるということですが,現行制度で不在者財産管理人が裁判所の許可を得て管理している不動産を売却するような場合等でも,許可の効力に終期が設けられるということは普通はないので,新しい考え方だろうと思います。
裁判の効力について終期を定めること自体は,反対するものではありません。ただ,実際は,所在不明共有者以外の判明している他の共有者の同意があるかどうか,それから買受人が実際いるのかどうか,その金額も決まっているのかどうか,売買契約書の中身はどのようなものかというのも,事前に提示した上で許可の申立てをする。実務の運用を考えると,実際にはそうなるのかとは思います。
裁判の効力について終期を定めることについて,一定の理解はしますけれども,登記の期限も定めることについても触れられておりますが,実体上の終期を定めておけば,あとは対抗要件ということですので,登記の終期までも定める必要はないという意見です。
あとは,特に意見はありません。
○山野目部会長 司法書士会の意見を取りまとめていただきまして,ありがとうございます。
今川委員が後段でおっしゃった第3のところの権限付与の時期的なタイムリミット,終期を定める件について御注意いただいたことは受け止めましたから,検討することにいたします。
前段の方でおっしゃった第1の1の,催告をしたが異議,意見が出ない場合に,過半数の同意を得たのと同視される状況を確保して話を進めるときに,登記の手続を進めようとすると暗礁に乗り上げる場面が生ずるのではないかというお話は,司法書士会からそのことの問題指摘を頂いたのは,今回が初めてではなくて前にも,司法書士会って短期賃借権がどういうわけか好きなんだなと思わざるを得ませんが,前にも頂いていて,再々お話を頂いているところでございます。
少し私が理解に苦しむ点は,第1の1でお出ししていただく,そういうサイズの話でお出しいただくよりは,第1の2のところの,部会資料の3ページですね,所在等不明共有者がいる場合の特則のところの方が話が深刻で,こちらは,登記名義人として共有者の氏名が載っているけれども所在がつかめなくて,したがって共同申請に関与させることが絶望的であるという状態で,この2のところの規律にのっとって,その同意関与に代わるような裁判所とのコミュニケーションを経た上での,こちらは本当に管理にとどまるのではなくて,処分までするということを射程に置いていて,(注2)に関わる弁護士会の御意見はありますが,仮に処分ができるとすると,かなり長い期間の借地権の設定のような処分が,この規律にのっとって行われる場合があるものでありまして,こちらの方が実体的にそういう権利変動があったのに,登記が円滑にいかなくて,所在不明共有者の共同申請の関与が絶望的だと登記手続が暗礁に乗り上げてしまうという困難が深刻であると感じます。
今川委員御自身がおっしゃったように,短期賃借権はめったに登記されませんが,とおっしゃるような1番の話ではなくて,サイズが大きな2番の話で,え,どうなんだと言っていただいた上で,関連して,類似の問題は1についてもありますとおっしゃっていただければ,これは本気で考えなければならない話になるであろうと感じますけれども,何か話の順番が,何で1の方の小さい話からいくのかという点は,いささか解せないという気分で前にも伺ったし,今も伺いましたけれども,何かお話があったらどうぞ。
○今川委員 第2は,裁判所の許可が要件になりますので,そこで手続上,要件充足とか登記原因の発生等は確認できるのではないかと思っておりまして,必ず全て裁判所の決定というのはちょっと重いなとは思いつつも,強く反対するものではないです。ただ,1の場合は,当事者だけの行為で効力が発生することになりますので,そこをどう確認していくのか,ということです。
○山野目部会長 6ページの第2もそうですし,3ページの第1の2のところも,同じような構図の問題があって,こちらが多分問題としての深刻さが大きくて,そこについては,確かに今川委員がおっしゃるように,裁判所が関与しているから登記原因は確かめられますというお話があるかもしれませんが,登記原因が確かめられたとしても,直ちにそれが共同申請の例外になるとは限りませんから,裁判所の給付文言がついていれば,63条1項でいけるかもしれませんけれども,そこのところも,規律創設を明示に要求していただくというようなお話とともに,第1の1のところも問題であると話が進んでいくものであろうと感じます。
いずれにしても,しかし,司法書士会が御意見としておっしゃろうとしていることの骨子は理解することができるものでありますから,第1の1,第1の2,それから第2の三つの局面について,ここで提示されているような実体的規律の変更や創設が,仮にこの方向で実現した場合の登記手続との関係で,裁判所の裁判に給付文言を入れてもらうような規律にするかとか,共同申請についての例外を考えることの適否であるとか,登記原因証明情報の在り方等について,総合的に検討する必要があるということを,大枠しておっしゃろうとするものであると理解しますから,事務当局の方でそれを検討していただくようにお願いします。
今までここのところ,規律の創設方向がここまで育ってきておりませんでしたから,登記のことまで余り意識が向かなかったですけれども,ただいまの司法書士会の御注意で,そろそろそういうことを考えなければいけないという段階に来ているということが分かりましたから,事務当局の方で努め,また司法書士会とも御相談をさせていただくということにいたします。どうもありがとうございます。
○今川委員 整理していただきまして,ありがとうございます。
○山野目部会長 いえ,ありがとうございます。道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 申し上げたいのは第3についてなのですが,それとの比較をするために,第1の1の話からしたいと思います。
弁護士会で,第1の1の(注2)に関連して,裁判所が関与するということにするという話だったんですが,それは(注2)のところにも,催告は裁判所が行うとなっており,裁判所の役割をここでは催告と書いてありますし,さらには,補足説明のところでは,2ページですね,裁判所が何をやるのかということについて,いろいろな考え方があり得るという話が書いてあります。いろいろな考え方について検討するということ自体には何の異存もありませんが,ただ,その大前提として,これはこういうふうに管理すべきである,こういった管理をするということはいいことだと,裁判所が判断するのはやめるべきであり,裁判所には,手続が満たされているなら満たされているということを明らかにさせましょうというのが,せいぜいだろうと思うんですね。
それとの関係で申し上げたいのは,第3の,さきほど今川さんからお話があったところなんですけれども,第3の①のところで,処分をする権限,譲渡をする権限を付与する旨の裁判をするに当たっては,恐らく契約の内容とかそういうものをきちんと示して,裁判所の許可を得るのだろうと,そういう実務的な対応になるだろうとおっしゃったんですが,それって,本当なんだろうかという気がするんですね。そうなりますと,裁判所としては,その譲渡価格が妥当か否かとか,相手方が妥当か否かとか,そういう実体的な判断をするということが,そこでは予定されそうなんですが,原案といいますか,この資料で出てきているというのは,第三者に譲渡するという必要があるかもしれないよねということが抽象的に認められたら,権限付与というのがあり得るという,そういう前提であって,個別具体的な譲渡契約のよしあしについて判断するという構造ではないと思うんですね。したがって,実務はこうなると思います,運用はこうなると思いますと,さらっとおっしゃったんですが,それって全然違う制度として構想することになるんだと思います。
個人的な意見としては,第3の①のままでよくて,それは抽象的な譲渡権限を与えるべきか,このシチュエーションにおいて,その範囲内だけで裁判所は判断するということでいいのではないかと思います。いちいちここで売るべきかどうかというふうなことを,裁判所に判断させるというのは,私はどうもおかしいのではないかと考えます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
道垣内委員がおっしゃった2点について,脇村関係官が話したいという表情をしていますから,本当は蓑毛幹事に指名しようと考えましたけれども,脇村関係官,先にどうぞ。
○脇村関係官 すみません。
事務局の御説明させていただきますと,道垣内先生おっしゃっていたとおり考えておりまして,抽象的にも,一番考えないといけないのは所在不明ですとか,供託する金額幾らとか,その辺を考えていまして,誰に売るかとかは,基本的には,後の共有者の方で考えてくださいと理解していました。
一方で,今川委員がおっしゃっていたのは,申立人にといいますか,登記申請する立場でおっしゃっていたのかなと,思っていまして,実際には裁判所に申請というか,そういう手続をとるときには,事前にきちんと確認をして,そろってからやるんだということかと理解しておりまして,裁判所の方で事務局の案を考えていたのは,ある意味,無味乾燥,金額はそういう意味で,譲渡する金額は考えないということを考えていました。すみません。
○山野目部会長 道垣内委員が問題提起をなさった事柄のうち,後段の部会資料の9ページ,第3との関係で言いますと,ここで裁判所が譲渡をする権限を付与する裁判をするということの意味は,道垣内委員が御理解なさったとおり,また,今,脇村関係官が説明したとおり,これは抽象的な,譲渡をしたら処分の効果が生じますという法律関係を作り出すための形成裁判を裁判所が行うことができるということを定めているにとどまるものでありまして,それを超えるものではないであろうと感じられます。
裁判所は,不動産屋ではありません。幾らの金額で,いついつこういうふうに履行しろというようなことを,裁判所が指図するというか,命令をするというような法律関係ではなくて,譲渡をすればその法的効果が認められますという,法律関係の形成を是認しますという裁判をするという意味を述べている場所が①の本文のところでありまして,それとは別に,確かに(注2)のところで,供託をする金額は裁判所が指定することになっていますから,そこでは,別な文脈で金額が出てきますけれども,太字本文の①のところ自体は,そういうことであろうと考えられます。
部会資料が御提示申し上げていることはそのような内容であり,蓑毛幹事がおっしゃったような,それとは若干異なるイメージで弁護士会の先生方に受け止めた方がおられるとすれば,また弁護士会の方で御議論いただいたりして,コミュニケーションを重ねるということであろうと考えます。
○蓑毛幹事 部会資料について,弁護士会のメンバーの理解が違っている訳ではないと思います。第1の部分について,これは,裁判所が内容の審査をするか否かではなく,手続に関与するか否かの問題であるという理解を弁護士会もしています。
そのうえで、第1の1の規律,本文の提案は,そういった手続的な関与も裁判所は一切しないという提案だと理解し,そうではなくて,裁判所は手続には関与すべきだということで,(注2)に賛成するという意見が多数であったということを申し上げました。
第3の部分についても,部会資料本文と補足説明に書いてあるとおりだと理解しており,これに賛成しています。
○山野目部会長 蓑毛幹事,ありがとうございます。
そのうえで,今も話題にしていただいたですが,今度は道垣内委員が御発言なさったことの前段の方でありまして,1ページの第1の1のところで,催告をして,異議,意見を問い合わせるという手順に,裁判所を関わらせるという,この(注2)の可能性について,弁護士会では,積極の御意見が有力であったという意見分布を蓑毛幹事から御紹介いただき,道垣内委員からは,しかし,それに対しては,疑問を感ずるという趣旨の御発言を頂いたところでありまして,いずれのお話も根拠があるものと感じられますけれども,少し法制的に考えていったときに,ここに裁判所を関与させるということは,いろいろ難しい部分があるということは,実感として思うところがあるものでありまして,第1の1の扱っている局面というものは,問合せの相手方が行方不明ではなく,現にいるものですね。
現にいる人との間のコミュニケーションについて,裁判所,1回関わってくださいと言われても,裁判所の関わり方というものは,道垣内委員がいろいろ可能性を考えて悩んでおられたところから明らかなように,別に内容的に良い悪いをかなり裁判所が入ってきて述べるという局面ではありませんから,裁判所の目の前を通っていって,見ました,どうぞしてくださいということを,公正な機関である裁判所が見ているから安心ですよということを超えて,何かが得られるかというと,あまりそのようなことは感じられないということがあるとともに,従来の法制の,これと似たような場面ですね,例えば,建物の区分所有等に関する法律で,建替えの決議をするときに,建替えに賛成しますか,反対しますか,お答えがないから困りますねという問合せをするときだって,別に裁判所を通していなくて,当事者同士で,念のため内容証明,配達証明でするでしょうけれども,当事者同士でするものであって,ああいう従来のところで裁判所が関わっていないのに,ここは裁判所に関わらせるということになると,いろいろ説明が難しいことになってくるであろうとも危惧されます。
悩ましいですけれども,弁護士会の先生方の中にそういう御意見をおっしゃる方がいるという経過は,御紹介として受け止め,また意見交換を重ねていただけると有り難いものですが,蓑毛幹事,お願いしてよろしいですか。
○蓑毛幹事 部会長がおっしゃられたことについて,今,私の方から反論等があるものではありません。部会長がおっしゃることは,個人的には最もだと思いますので,持ち帰った上で,ワーキンググループ内でコミュニケートを取りたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます,御面倒をお願いいたします。
引き続き御意見を承ります。
○佐久間幹事 細かいことで恐縮でなんですが,2点ございます。
いずれも同意に関することなんですけれども,一つは,3ページの2の直前にある(2)のところでして,この仕組みを用いる場合に,誰に対して催告するかということに関しまして,絶対的過半数を得ている場合は別だけれども,相対的過半数しかない場合は,基本的に全員に催告せよとなっておりますよね。
例えば,ですけれども,共有者が4人いて,2人は賛成していると。残り2人から意見を徴そうというときに,まず1人に対して意見を聞こうとしたところ,意見が出てこなかった。この場合,もう一人に催告しなければいけないということなんでしょうか。仮にそうだとしたら,どうしてなのかなというのが,私は疑問に思いました。分母が3に下がって,2の多数があるということが確定しているのに,どうしてもう一人にも意見を聞かなければいけないのかというのが,私が多分気づいていないのだろうと思うんですけれども,実質的に何かそれによって保障されるべき利益があるのであれば,お教えいただければと存じます。それが1点です。
もう一つは,11ページでございまして,これ,前からの提案のようで,今更ということになるかもしれませんが,第4の2の①で,共有物の管理者は管理行為をすることができると。ただし,他の共有者の同意を得なければすることができない行為については,共有者全員の同意を得なければならないとされております。これに関しまして,たとえば,共有物の管理行為にかかる意思決定について,本日の部会資料40の2ページから,実際には3ページの③に,要するに,過半数決定で管理に関する行為をしてきた場合,その管理に関する事項をひっくり返す決定は過半数ですることができるのだけれども,特別に影響が及ぶ共有者があるときには,その人の承諾を必要とする,という規律の提案があります。この規律に関して,元に戻りまして,共有者が管理者を選びまして,その管理者が,前の管理に関する事項を変更するという場合に,特別に影響を受ける人がいるときに,全員の同意がいるという現状の案では,その影響を受ける共有者以外の同意も得なければいけないということになると思います。これもちょっと,なぜそうなるのか,私には理解ができませんでしたので,申し訳ありませんけれども,御説明いただければと存じます。
○脇村関係官 最初の1点目の承知の件ですけれども,一般的に252条の議論として,それは要らないのではないかと,あるいは部会の議論として,やはり意見陳述の機会を与えるべきではないかということで,両論あったと思うんですけれども,意見を陳述する機会があれば,それを聞いて他の方が意見変わるかもしれませんし,何といいますか,絶対的に完全に過半数超えて賛成している場合よりは,そういう陳述機会をより保障すべきという議論があるのかなと思っていましたのと,実際の運用としても,最初の1人だけまず連絡して,その後に次やろうというのが,集団的意思決定をしようとする局面で,本当にいいのかなというのが,書かせていただいた趣旨でございます。
管理者の方につきましては,確かにその関係,すみません,もう一回整理したいと思いますけれども,もう一回,すみません,確認したいと思います。
○山野目部会長 佐久間幹事,お続けください。
○佐久間幹事 いえ。ありがとうございます,特にございません。
○山野目部会長 今後とも検討いたします。ありがとうございます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
第1のところで,前回の部会のときに,所在等不明共有者の場合はちょっと区別して考えていただけませんかということでお願いをして,今回このような形で分けていただいていると。特に,対象となる行為のところと,裁判所が関与するかどうかというところで,場合分けをしていただいているというのは,非常によい方向性なのではないかと思っています。催告をしたが異議を述べない共有者がいる,という場合では裁判所が関与しない手続になるという点と,所在等不明共有者がいる場合に,対象となる行為を限定しないという点については,強く賛成をしたいと思っています。
1点申し上げるとすると,第1の1の(注1)のところで,本文では,対象行為として「共有者全員の同意を要する変更行為を除く」と書かれているんですが,前回申し上げたとおり,やはり催告して,返答する機会を与えているというにもかかわらず,同意も反対もないと,異議が述べられていないということなので,このような共有者にどこまで保障を与えないといけないのかというところは,もう少し検討していただければ,というところでございます。というのも,所在等不明共有者だと認定された場合は,ここでいうと2の方のラインに乗っかっていって,裁判所が関与するということになるわけですが,所在等不明という要件を充たすかどうかは,今回の部会資料では,土地の現況等を踏まえて判断することになるという書き方をしていただいておりますが,やはり最終的にどうなるか分からないというところもあります。そのような中で,催告したけれども何も返ってこないと,所在等不明と言いたいんだけれども,そこが微妙なところですねというような共有者の方が仮にいらっしゃったとして,それでも,催告して何も異議がないというだけでは次に全く進められない,ということになってしまうと,困ることが多々あるのではないかと思いますので,ここのところは,例えば,催告の手続のところを,かすめ取るようなというか,詐術を用いて返事なんてしなくてもいいですよといって返事させなかった,それで,残りの人だけで決めてしまったと,そういうような場合は,基本的には駄目だという話でいいと思うのですが,逆に正当な手続を経てやっているときに,これが,共有者全員の同意を要する変更行為なので,催告で何も返ってこなかったというだけでは駄目ですというのだとちょっと厳しい場合があるのかなというところで,第1の1に関しては,(注1)の案が採用される余地がないのかというところは,再度,意見として申し上げたいと思います。
○山野目部会長 藤野委員の御意見を承りました。受け止めた上で,引き続き検討することにいたしますとともに,今の段階で御案内しておくとすると,少なくとも民法が定めている共有というか,今まで理解されてきた共有というものは,共有者一人一人に不機嫌を許す制度なのですね。ある共有者が,今,自分はいささか不機嫌で誰とも口をききたくないと述べ,あなたがたと一緒にこんなものを共有しているかもしれないけれども,一緒に共有していたからって,別に仲よくしなければいけないとかコミュニケーションを取らなければいけないという立場にはありません,言っておきますけれども。私は不機嫌ですから,誰から手紙が来ても,誰からメールが来ても,何も答えたくありませんっていう態度をとる人がいたときに,それを絶対いけないとは,必ずしも言わないという前提で作っている制度であり,変更に係る事項について,問合せに知らんぷりして何も答えないときに,答えないなら,こちらでしてしまいますよという制度まで突き進むと,従来の共有観を少し変えていく部分がありますから,おっしゃることはごもっともであるとともに,いささかそのような大きな話が背景にあるということには注意をしなければいけないということが1点と,もう1点は,(注1)のところを動かすと,場合によっては,論理必然性はないかもしれませんけれども,(注3)が連動して動く可能性があって,コミュニケーションを省略していいなら,最低限(注3)の最低数というか,定足数は確保してくださいという議論に,一見弾みがつく可能性もあります。いろいろなところが関係しますから,御意見を受け止めた上で,また考えてまいりましょう。
○道垣内委員 すみません。私,先ほど今川さんの御意見について,反論を述べたんですが,自分で反論を述べておいて,それからもう少し考えていると,わけ分からなくなってきたので,ちょっと教えていただければと思います。ひょっとすると,今川さんの言うとおりだと,最終的に意見を変えるかもしれません。
と申しますのは,第3の①をまずどう読むのかなのですが,その3行目のところで,「裁判所は,共有者の請求により,請求をした共有者に対し所在等不明など全員の同意を得て不動産の所有権を第三者に譲渡ができる権限」とありますが,この文において,「同意を得て」というのは「譲渡できる」にかかるんですよね。同意を得たら,申立てをすることができるようになるわけではなく,同意を得て譲渡することができるということですよね。
そうしたときに,②のところですが,これはすでに議論されているかもしれませんので,大変恐縮なのですが,私は,すぐ全部忘れてしまうものですから申しますと,②の,「①の裁判が効力を生じたとき」というのは,同意を得れば,第三者に譲渡していいよという権限が与えられたという段階ですよね。にもかかわらず,同意を得たら譲渡できるということになったら,もし所在等不明共有者というのが出てきたら,時価相当額を払わなければいけないのでしょうか。自分は,同意を得て譲渡しようと思っていて,しかし,時価よりも高く売れないかもしれないけれども,それは請求する自分のリスクだろうなと思ってやったら,ほかの人が同意してくれなかったから売れなかった。にもかかわらず,請求したのだから時価相当額を,持分に応じた額を払えと言われたら,それはびっくりです。自分は頑張ったんだけれども,ほかの人が同意してくれないから売れないのに,なぜ払わなければいけないのか。ちょっとよく分からなくて,何か大きな勘違いを僕はしているんだろうかと思ってしまうんですね。
第2のところでの②は分かるのです。これ,実際に申立共有者というのが取得をすることになりますので,その部分の時価相当額を払いなさいというのは分かるのですけれども,第3のところで,どうして②のようになるのかというのがちょっと分からなくなってきて,そこで,今川さんの話に戻るんですが,今川さんがおっしゃったように,契約書も額も全部,相手方も決まった段階で①の申立てをして裁判があるというのが,全体として前提になっているのだろうかという気がしてまいりまして,結論として今川さんがおっしゃったことは正しいのであり,私の反論が妥当でなかったのだろうかというのが,気になっている次第でありまして,お教えいただければと思います。
○今川委員 私は,道垣内先生ほど深くは考えていたわけではないのですが,同意取得の場合は,裁判所は、共有者のうち,ある共有者の持分を除外するという決定をすれば,あとは他の共有者に変更行為の中身は任せるというのでいいと思うんですが,この第3の不動産の譲渡については,相当な価格の供託をさせるというのがありますので,裁判所が相当な供託金額は幾らだと定めなければならない。そして理屈上は、裁判所が相当であると判断した金額と全然違う金額で共有者が売却するということもあり得るとは思いますが,第3の②のように,所在不明共有者がもし出てきた場合に,時価相当額を請求するということになっていますので,裁判所とすると,信用力ということも考えると,実務上は裁判所が相当な額として認めたものと,実際の価格が全然違いましたということは,できる限りないようにするのではないかということもあって,この時価というのを判断するのって非常に難しいので,実際幾らで売却するということが,もし予定として決まっているのなら,その額は,非常に大きなファクターになると思ったので,申し上げました。
誰に売るのか,買受人は誰かということの相当性についてまで,裁判所が判断するということを,申し上げたわけではありません。
○脇村関係官 まず,道垣内先生から御指摘いただいた点,ありがとうございます。
ちょっとここは,私も書いていて,ぐるぐる回っていたところで,すみません,実質論においては,譲渡した後に当然請求できると,あるいは譲渡した場合に請求できるということでいいんだろうなということを考えていましたし,従前の部会もそういう議論をしていたんだろうと思います。
あと,それを譲渡した場合と書くのか,ここでこういうふうに書きましたのは,終期を入れるんであれば,実質的には終期を越せば当然無効になりますんで請求できないということを加味すれば,こういった表現でもいいのかなというのは少し考えていたところだったのですが,実質は道垣内先生の考えていらっしゃる譲渡して,全くしていないケースについてまで請求といいますか,お金を取れるということは考えていませんでしたので,ちょっと表現ぶり,法制的なことも含めて考えていきたいと思っています。
また,今川委員おっしゃっていたとおり,元々この部会で,中間試案の方ですかね,議論していたときに,時価と実際に譲渡する金額がずれてもいいんですよねって議論は,理論的にはさせていただいていたと思います。その上で,今川委員おっしゃったとおり,ただ,実際認定する際に,実際の売買価格を見ずに,鑑定といいますか判断できるのかというのは,おっしゃるとおりかも,ちょっとそこら辺,私も若干,不動産鑑定に疎いところがありますので,そういった御指摘はそうなんだなと思って伺っていました。それも含めて理論的には変わらないんですが,実質論を含めて,考え方についてはまた考えていきたいと思います。
○山野目部会長 道垣内委員,今のようなことで少し,考え方そのものを整理した上で,さらにそれをルールの表現としてどういうふうに言葉を整理するかということの課題が残っているということが分かりましたが,それを前提にお話をお続けいただくことがあれば,お願いいたします。
○道垣内委員 1点だけ申し上げますと,仮に時価が1億であっても,うまい具合に2億で売れたら,その所在等不明共有者は,2億を基準とした額がもらえると思うのですね。決して時価相当額で1億を基準とした額になるわけではないと思います。そうすると,時価相当額が,処分時の時価相当額といえば,それはそれでもいいのかもしれませんが,裁判が効力を生じたときというふうなのを基準値にすると,どうなのかなという気がしますので,引き続き御検討いただければと思います。
○山野目部会長 よく分かりました。
この第3のところについては,実際に時間の順番を追って,何の次にこれをするということを,1回時系列的に整理をし,その上で整理された事柄のどこまでを,どのような言葉で規律文言として表現していくかを検討するという仕事があるということが,今日の御議論で分かりましたから,事務当局にその作業を続けてもらうことにいたします。
これは,不動産取引の現場で行われている決済の手順のいろいろ複雑な様相を帯びている事柄,事象に更に輪をかけて,局面が,所在不明者がいたり,裁判所が関与したりして複雑になってくる事態をうまくさばかなければいけないという話になりますから,事務当局において検討し,司法書士会のお知恵も頂いた上で,検討が深められるとよろしいと感じます。
従前の不動産に抵当権の負担があったりすると,更にその抵当権の処理のために厄介な問題処理をしなければいけなくて,何かこれは,いささか試験問題を思わせる複雑な話になりますから,皆さんで知恵を集めて進めていくということにいたしましょう。ありがとうございました。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
この部会資料41の第2の所在等不明共有者の不動産の共有持分の取得について,この制度をどうやって活用していくかということは,所有者不明土地の解消に向けた方策の切り札の一つとして,重要なポイントになるのではないかと思っています。
この後,部会資料42でも出てまいりますように,この仕組みを,共同相続人の一部が所在不明の場合,あるいは特定できない場合にも使っていくということですので,しかも,これも部会資料42の最後で,共同相続人による時効取得については規律を設けないという提案ですので,そのことにも鑑みますと,この第2の所在等不明共有者の持分の取得の制度がどういうふうに運用されるか,実際にうまく使えるかということが非常に重要になってくるのではないかと思われます。
そのことを前提にしまして,例えば,共有者のほとんどが特定できない,所在も分からないまま,共有者の1人が管理を継続しているという状況の中で,例えば,その1人の持分が10分の1であるというときに,ほかの10分の9の持分を,この不明共有者の持分取得の制度を使って取得するということを考えたときに,裁判所に申し立てて公告し,時価相当額を供託するということで,例えば,時価4,000万円の土地だったとすると,3,600万円を供託しなければいけないことになります。しかし,その際に,例えば,この共有者が10年も20年も1人でこの土地の公租公課を負担し,その管理費用も支払ってきた場合に,その費用償還部分を,253条の管理費用として,共有持分を取得するために供託すべき時価から差し引いて供託すればよいということが認められるでしょうか。私は認めてよいのではないかと考えますが,確認させていただきたいと思います。
それがどういうふうに扱われるかによって,この制度の実際の使われ方や機能が違ってくるのではないかと思います。もしかすると,そういうことは想定していないかもしれませんが,ちょっと筋違いの質問だったら申し訳ないんですけれども,疑問になったものですから,お伺いできればと思いました。
○山野目部会長 今のお話は,事務当局はどう考えていますかと誰か関係官に発言希望があれば伺いますけれども,考えているかというよりも,松尾幹事から,今のお話でいうと,差し引き計算が可能になるような解決を想定し,所要の規律整備をしてほしいという,御意見を承ったと受け止めてよろしいものではないかと思いましたけれども。
○松尾幹事 はい,そのとおりです。もし費用の控除が可能であれば,この共有持分取得の制度は所有者不明土地の解消手段として,実際に使われるものになるのではないかと思います。ちなみに,今回規律しないことが提案されていますが,共有者の1人による時効取得が認められるときは,持分取得の対価の供託ということなしに他の共有者の持分が取得されることになります。ただ,強制取得を可能にするものですので,そこはちょっと慎重に考えなければいけない部分もあって,本当にそれでいいのかなということを,確認させていただきたいと思った次第です。
○山野目部会長 それでは,松尾幹事がおっしゃったことについて,事務当局も含めて,何か御意見があったら,今承っておいて,次の検討の機会に,更に深めた資料をお出ししようと考えますけれども,何かただいまの論点について御発言がおありでしょうか。
○脇村関係官 ありがとうございます。
確か松尾先生から,以前も同じような話を頂いたような気がしているんですけれども,今回の制度につきましては,時価相当額について簡易にやろうという発想でおりますので,もろもろの費用,それまでの費用などをきちんと清算したいという制度として組むんであれば,相当制度の根幹が変わるんだろうなと思います。
ですので,従前払ってきた費用ですとか,そういったものを含めて清算したいということであれば,私としては,この制度ではなくて,所有者不明土地管理制度などを活用し,管理人との間できちんと協議をして,幾らの費用がこれまで掛かったということを確定した上で,売却をし,そこから差し引くということしかないのかなと思っております。
この制度にしようとすると,当事者がいないのに,裁判所が管理費用を認定しないといけないとか,従前払った費用の確認ということになりますので,ちょっと,手続が大分変わってくるのではないかなというのが,正直思っているところでございます。
○山野目部会長 松尾幹事が提起した問題は,別の制度で受け止めてはどうかという意見を今,もらいました。
ほかに,この点についておありでしょうか。
よろしいですか。
では,これは引き続き検討するということにいたします。中田委員,どうぞ。
○中田委員 先ほどの第3の方に戻るのですけれども,第3について更に御検討いただくということでお願いしたいと思います。
その際に,一つお願いなんですが,譲渡をする際,相手方である買主,買い受ける人に,法律関係を明確にしてあげることによって,譲渡がスムーズにいくようにするのが望ましいのではないかと思っています。
今回の法律構成は,非常に明快になっており,法定の処分授権みたいなものをスタートにしたものだと理解しています。つまり,所在等不明共有者以外の共有者たちが不動産全体の売主になる,したがって,担保責任もその売主である共有者たちが負うし,代金債権もその人たちが持っていて,所在等不明共有者は関係ないんだということだろうと思います。ただこれは,その不動産を買おうとしている人から見ると,とても難しい制度だと思いますので,それを条文の上で,もし可能であれば,できるだけ疑義のないようにしていただくというのがよろしいですし,少なくとも解説などでは明らかにする必要があると思います。ただ,今はまだ条文化の作業の前,条文に至るための検討の作業の段階ですから,買主が安心して取得できるような制度にするということも,御検討の際に考えていただければと思います。
○山野目部会長 御注意をよく理解し,承りました。踏まえさせていただきます。どうもありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは,部会資料41について,多々有益な御指摘を頂きました。
今日頂いた御意見を踏まえて,整理を続けるということにいたしま……失礼しました。沖野委員,どうぞ。
○沖野委員 こちらこそ,間際にすみません。
第4の管理者の点ですけれども,前回疑問に思った点を非常に詳細に明らかにしていただいて,有り難いと思います。ただ,なおもよく分からないところがあります。
どういうことをやりたいかというのは書いてあって,問題は,何か書いていないところが,どのように埋まっていくのかということではないかと思われますので,書かれている,具体的にどういうことをしたいかという限りでは,このゴシックのとおりだと思うんですけれども,一方で,これが管理者の選任・解任,あるいはその職務の執行ですとか遂行という概念で全部整理をしていくということが,あたかもといいますか,共有をめぐる関係において,一種の地位あるいは機関的なものとして,その管理者というのを立て,その地位にどういう人を就け,あるいは,そこからリムーブするか,どういう職務権限を与えるかという,そういうような構成に,第4は見えます。
しかしながら,ここでは,飽くまで管理を依頼するというのは,委任契約を別途締結するということが想定されていて,その委任契約に基づいて,いろいろな権利義務というのが管理者の方に発生していく。報酬ですとか,あるいは善管注意義務の規定なども,今回は置かれませんけれども,それは委任の方で,委任契約当事者との関係で負うんだと,そういう整理のように見られます。そうすると,それと管理者の職責に就けるということとの関係がどうなるのかというのは,よく分からないように思います。
むしろ,第4で説明として書かれているような法律関係を考えるのであれば,むしろ共有者間の管理行為,管理に関する行為について,共有者自身がするときに過半数の決定で行うことができるけれども,具体的に,例えば,賃貸借契約をするというようなときには,それに賛成した人が,あるいは賛成した人との間で契約をするのか,さらには,それをまた更に切り離して,契約は契約ですということになるのかというのも分からないのですが,むしろそれと類似の法律関係ではないのかという気もしまして,だとすると,管理者というような一種機関的な者を選任・解任するというよりは,共有物の管理を第三者に委託するということについての規律の話になってくるんではないかと,そういう整理になるのかなと思ったんですけれども。さらにその前提としては,ここでは,管理者に選任すれば,当然賛成した,あるいは反対しなかった人との間で委任契約ないしは委任関係となるような想定でもあるようですが,例えば,1人の人が提案して,何人かの人は過半数を超えるまで賛成があって,しかし,異議を述べた人もいるというときに,一体委任なり委任契約なり委任関係は誰との間に立つのか,それは,賛成した人は当然,委任関係がそこに立つならば,それは実は法定の委任関係で,誰との間に立つかというのを賛成した,あるいは異議を述べなかった者との間だけに立つという規律にしているように思われますし,それに対して,いや,委任契約をするのですということであれば,実際に契約を締結した人だけということにもなり,例えば,提案した人だけが締結するということかもしれません。そうすると,修補ですとか,各種の権利義務も,その人だけが負うことになりそうで,その辺りが,なおどうもはっきりしないように思うのですけれども,今のような機関的な説明で,本当にいいのかどうかというのは,考え直す機会はないのかもしれませんけれども,やはりちょっと気になるところですので,お伝えしたいと思います。
○山野目部会長 沖野委員から今,第4の部分について御所感を頂いたところを踏まえて,もちろん次回の,次の機会に向けて検討いたします。
思い起こしますと,部会資料27は,どちらかというと,むしろ沖野委員の発想に近くて,第三者が管理者である場合と共有者のうちの1人が管理者である場合とに場合分けをした上で,それぞれの法律関係がどうなりますかということを,正にこの太字の部分に記して,委員,幹事の意見を問うという形でお出しいたしました。それについての御議論を第13回会議で承ったところ,それらについて様々な御意見が出て,必ずしも意見の方向性が一致しませんでした。取り分け共有者のうちの1人が選任された場合のところについて,意見が分かれたという側面が大きいように感じます。
そのようなことがあったという経過を踏まえ,かつ,考えてみると,共有者の中から,共有物の管理をする者を設けたときの民法上の契約関係の実体といいますか背景,基盤をどのように考えるかは,解釈に委ねるべき事項であるかもしれないと考えられましたところから,本日は,中身をがらっと変えたものではありませんが,部会資料で提示する太字の内容としては,沖野委員のおっしゃり方でいうと,機関を描くという仕方で提示申し上げると,改めてみました。
ただいま沖野委員からは,むしろ,どちらかというと,そこまではっきりおっしゃったかどうか分かりませんが,第三者を選任する場合に焦点を置いて,もう少し法律関係を明確にするような,太字に値するような規律を構想してみた方が,分かりやすいではないかというヒントも頂いたところであります。何通りか,この太字にする内容として,どういうふうな打ち出し方をするかということについては,考えられるところでありますから,沖野委員から頂いたヒントをも踏まえて,次の機会に向けて,また表現の仕方,並べ方のメリット,デメリットを比較して,再検討してみようと考えます。
本日,そのような御案内にとどめさせていただいてよろしいでしょうか。
ありがとうございます。
畑幹事,どうぞ。
○畑幹事 畑でございます。
5ページの手続の辺りに関連して,お尋ねなのか意見なのかよく分かりませんが,ここに書かれておりますように,確かに一般的には裁判の形成力が生じた場合,それをほかの人が勝手に争うことはできないと考えられていると思いますし,多くの場合,それで大過ないのだろうと思います。個人的には,論理必然的にそういうわけでもないだろうとは考えているのですが,それはともかくとして,この種の制度について,反対とかそういうことでは特にないのですが,手続的な面でいえば,これを悪用されることがないかということが,少し気になります。つまり,意見が合わない共有者がいる場合に,本当は所在が分かっているけれども,あの人は所在不明だといって事を進めてしまうというようなことが,当然病理現象だと思いますし,所在不明の認定というのをきっちりすれば,そうそう起こらないということかもしれませんが,その辺りどうするのかということも考えておく必要があるかと思っております。
特に,5ページの辺りで書かれていることというのは,基本的に管理行為ですので,しようがないかという気もしないでもないのですが,同じ問題は多分,第2の持分の取得とか第3の譲渡についてもあるような気がいたしまして,第2や第3になると,これはもう持分を失ってしまうものですから,かなり深刻な問題かなという気がします。
訴訟の話でいえば,最近は余りそういうことないのかもしれませんが,例えば,公示送達というものを悪用して確定判決を騙取した事例などというのも,かなり前ですが,存在しますので,そういうことがあり得ないわけではないということで,条文として何か手当を置くとかいうことではないのかもしれないのですが,問題としてはあるかなと考えております。
○山野目部会長 長期の海外における滞在とか長期入院の機会を,何らかの形で知り得た他人が,その期間はコミュニケーションが難しいということを奇貨として,このような制度を悪用するというようなことは,何か推理小説のような話のことを考えると,ありそうな気がしてまいりました。
更に考えますと,ここに限らず,所有者所在不明,あるいは共有者所在不明を要件とする場面一般について,そのようなことというものは危惧されるところでありますから,ただいまの畑幹事の御注意を,ここ及びその他類似の局面で,注意してまいるということにいたします。ありがとうございます。
○道垣内委員 すみません。分からないまま発言しますので,結論が出るような話ではないんですが,沖野さんのおっしゃった第4に関連します。これは結構,難しいですよね。つまり,管理者として選任された受任者が共有物について賃貸借契約を結ぶと,契約当事者は受任者になるんだけれども,委任をした者は,委任した者というのは共有者ですが,当該賃貸借契約の効力を否定できないというか,当該賃借人の占有権限を否定できないというか,そういう法律関係になるというわけですけれども,委任契約一般の問題として,どういうふうに考えるのかという問題が背後にもちろんあるわけであり,ちょっとそこに自信がありません。だから,私はこの補足説明は,その意味ではすごくレベルが高いと思うんですけれども,今まで委任契約のときの効力について,こんなにクリアに整理できていたのだろうか,という気がするわけでして,本当は委任のところではそれほど明確になっているわけではないのに,この共有者の管理者についてはこうなりますよと,書けるのかな,という心配があります。条文上は,委任一般との関係もありますので,クリアに書けないということになるんでしょうけれども,だから,どういうふうにすべきであるという意見も何もないままに発言をして申し訳ないんですが,何かこの辺りのところを,沖野さんのお話も踏まえて整理をされると,今伺いましたので,あわせて,法律関係についても,何か理解の取っかかりというものが書けるのならば,整理をしていただいた方がいいのではないかと思います。
私自身は,その後の解説で書いたからといって,何かそれに法的な拘束力があるとは全く考えませんので,一問一答に書けばいいという問題ではないと思います。
○山野目部会長 最近の一問一答は,いささか饒舌ですかね。ですから,何でも一問一答に書けばいいというわけではないということは,おっしゃるとおりでありまして,今後,委員,幹事で御議論を進めていただくに当たっても,何とかのことは一問一答に書いてくださいね,とかということを気楽におっしゃっていただくことも困りますけれども,さはさりながら,ここの第4の論点に関して言うと,補足説明のところで示している法律関係理解は,一定の理解として間違っていないというか,恐らく成立可能な明快な理解の一つを示していると感じます。
道垣内委員がやや御心配になった部分があるように,本当にこれしか考え方がありませんか,ということは,なお議論の余地がありますし,また裏返して述べると,本当にこれしか考えがなくて,委員,幹事の意見がまとまるものなら,もう少しそれを規律表現として明確に外に出していただけませんかという問題意識が,沖野委員の御指摘にもあったとみます。
それとともに,第13回会議,部会資料27からの経過を振り返ると,そのうようことを,考えが明快であるとしても,規律で表現していくことの得失といいますか,難しさもありまして,それらがいずれも悩ましいことであって,総合的に勘案して,また考えましょうということが,今日の御議論で明らかになってきたものであろうと受け止めます。
○潮見委員 余り言うつもりもなかったんですけれども,先ほどの沖野委員や道垣内委員の話を聞いていて,やはり言わなければいけないと思ったので,少しだけ発言させてください。
規定の中に,これ以上にきちんとしたものを組み込むことができるかどうかということは,私自身はかなり悲観的です。沖野委員と道垣内委員が言われたところに尽きるんですけれども,この問題というのが,そう簡単に,理論的にこうだという形で解決することはできないと,私は思っています。
というのは,普通の委任の場合でしたら,委任者が受任者に対して,例えば,財産管理を委任するということで話がついて,その財産管理権の内容とか,あるいはどのような義務を尽くすべきかは,基本的には,委任契約の内容から出てくるし,さらに,そのことを決めていないならば,準拠枠があるわけですから,その準拠枠にある規範を適用すれば,これで解決はできます。
ところが,今回の場合には,委任者に当たる人と並んで,ほかにもいろいろな共有者がいて,財産管理権限も持っています。そんなときに,一部の共有者が,ある人に財産管理をさせるということで管理人の選任に関与して,一定の条件といいますか,権限付与というものをした。ところが,他方においては,それに全く関与していない人がいる。ここで、管理人が実際に行うのは,土地あるいは不動産の管理であるということで,管理に着目すれば,共有の中での管理者と共有者の関係という準拠枠がもう一つ出てくるわけですよね。結局,考えうる準拠枠として,委任という準拠枠と,共有における共有者と管理人という準拠枠と,二つがあって,その二つをどう関係付けるのかということが問題となりまして,これについて,いろいろな考え方ができます。その際に,委任契約の中でどこまで決めることができるのか,決めたことが,契約に関与しなかったものの,共有地の財産管理については関与する他の共有者にどういう影響を与えるのかをいろいろ考えていくと,それほど,これ,簡単に,理論的にこうだという形の説明はしづらいというようなところがあろうかと思うんです。
そうした中で,できる限りのことを書こうとしたら,場合によっては前回の案に出てきたような,管理者が共有者の1人である場合と,そうではない場合とに分けて,管理者選任関係として,共有地に関する管理者と共有者の関係はこうあるべきだというところを,ルールとして示していくという辺りが関の山かなと思います。かえって,それ以上に組み込んでいくと,話がちょっとややこしくなるのかなというふうな感じもします。そういう意味で,先ほど申し上げた管理者選任関係,共有物に関する管理者と共有者の関係というものを,できるだけ明確に条文としては書き切る。合意や,あるいは多数当事者の意思によって変えることができるんであれば,その旨をルールとして書き加えるという辺りが,結果的には分かりやすいのではないかなという感じがしました。
飽くまでも印象なんで,お前はどうするんだと言われたら,何とも言いようがありませんけれども,ちょっと気になりましたんで発言させてもらいました。
○山野目部会長 潮見委員がおっしゃるような法律関係の描き方についての難しさといいますか,一様に決め付けて議論することができないという側面があるということは,正にそのとおりでありまして,そのことを受け止めますと,前回お諮りした部会資料27,第13回会議のときにお出ししたような,管理者が共有者の1人である場合と,第三者である場合とに分けて,何かを描くという規律の表現が考えられるところであるとともに,それをしようとすると,かえって潮見委員のお嫌いな管理者選任関係の概念の採否や,それをめぐる事柄について,何らか触れざるを得ないような文章になってきてしまう側面もあります。
そこが困りますから,今回は機関を描くという仕方でお出ししていますけれども,それにはそれとして問題点,課題があるということも,本日分かりましたから,沖野委員,道垣内委員のお話に付け加えて,今,潮見委員から頂いたお話も踏まえ,改めてどういうふうに太字の提案にしていったらいいかを考えるということにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
よろしいですか。
それでは,部会資料41についての御議論をお願いしたという扱いにいたします。
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法制審議会民法・不動産登記法部会第16回会議 議事録
それでは,続きまして,共有物分割の方法を審議事項といたします。
部会資料の37をお取り上げください。部会資料37の1ページに第1として示しているものが唯一この資料で御提示申し上げている内容でございます。
1ページで太字で示している内容のとおりでございますけれども,現行の258条の規律に手直しをするという構想をお示ししております。
①のところは,現行法の法文とあまり変わりませんけれども,「又は協議をすることができないとき」という従来も解釈上認められてきた内容を明文化しようとしております。
②は,いわゆる全面的価格賠償又は部分的価格賠償の可能性があり得ることを法文に明示する際の一つのサンプルを御案内しています。
③は,現行258条の法文を手直しする中で,競売分割の順序,位置付けについて,新しい①②の規律を念頭に置きながら整理を試みて,規律表現を提示しているところでございます。
④は,現在の258条に存在しないものを提示しています。しかし,実務上も従来これに当たることが行われてきているところでございまして,なおかつ共有物分割の訴えが形式的形成訴訟であるということに鑑みますと,原告となる当事者など,当事者に対して細かく予備的請求を添えるというような対応を求めることは適当であるとは考えられませんから,それらのことを考えた上で,④の規律を置き,このような主文における措置を採ることができること,それわ裁判所が採ることができるということを明示しようとするものでございます。
第1でお示ししている事項について,委員・幹事から御随意に御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。いかがでしょうか。
○中村委員 日弁連のワーキンググループでの議論を御紹介したいと思いますが,今回のこの本文の部分は,法律専門家にとってもやや読みにくいものになっているのではないかという意見が多数出ておりました。いろいろな御配慮があってのことだと推察はいたしますけれども,やはり国民にとって読みやすく分かりやすいものをということから,少し書きぶりを工夫した方がよろしいのではないかという意見が多数です。中間試案のときの案の方が分かりやすいという意見はかなり出ておりました。
本文の②と③及び補足説明の4項に関して申し上げますと,中間試案では現物分割と価格賠償とに検討順序の先後関係はつけないということと,競売分割は補充的な分割方法とするということが書かれていて,今回も趣旨としては同じにされていると思うのですけれども,しかし,本文②だけを読みますと,特別の事情があると認めるときに賠償分割が可能であるというように読めてしまいはしないかというような指摘も上がっておりました。補足説明の4ページに書かれていますように,判例に述べられている一定の事情が必要であることを表すために家事事件手続法や95条を参考にこの文言を使っておられるということですので,この補足説明を読めば分かるわけですけれども,本文だけで分かるだろうかというところが気になっております。
さらに,補足説明の4ページの中ほどに,平成8年最判が判示しているような判断要素を全て明示し,法文化することは困難というふうに記載されているのですけれども,これにつきましては,例えば借地借家法の更新拒絶の正当事由の条文のように,判例によって考慮されてきた要素というのが法文上に書き込まれている例がありますが,4ページの冒頭に挙げられております最判の平成8年の判断要素を条文に記載すると,かなり長くはなろうかと思いますが,こういうことが考慮されるのだということが条文上明示されて,国民にとっては分かりやすいということになりはしないだろうかというような提案も挙がっておりました。
④と補足説明の5ページ5項以下の説明に関しましては特段の意見はございませんでした。
○山野目部会長 中村委員から弁護士会の御意見を取りまとめておっしゃっていただきました。御意見を受け止めて今後の審議を進めてまいるということにいたします。
あまり意味のない感想を1点申し上げますけれども,中村委員のおっしゃるとおりで,中間試案の方が読みやすいと感じます。私も感じます。併せて,参考までに御案内申し上げますけれども,いつもそうです。この部会に限らず,中間試案の文章というものは読みやすくて,その後,要綱案に向かっていくにしたがって,よく言えば法制的な洗練を重ねていくことによって,しかし,そのことは裏返して言うと国民の視線からはやや遠くなっていくという,その法文立案上の作業における宿命がございます。
しかし,申し上げていることは,宿命だからいいではないかと居直って申し上げているものではなくて,中村委員が御注意いただいたように,そうはいっても法制的に正確であると同時に,国民から見て理解され,親しまれる法文にしていかなければいけないということは,もとより当然のことでございますから,御注意を承ります。道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 お願いしますと言われても本当は困るのは,山野目さんと同じことを言おうと思ったんですね。
○山野目部会長 恐れ入ります。
○道垣内委員 中間試案の方が読みやすいという中村さんの御意見に全面的に賛成ですというのが僕の話の中心になります。共有物分割について判例で進展してきたところのものというのは,民法の現在の条文だけ見ますと,現物分割をするのか,それとも競売をして価格で分割するのか,その二者択一のように読めてしまうところ,複数の不動産があるときに共有者に1個ずつ例えば帰属させて,そのでこぼこを金銭で調整しようというふうにしてみたり,あるいは,ある人に完全に帰属させてあとは金銭だけで調整しようとか,場合によっては一部を共有に残そうとか,様々な方法を認めてきたということなのだと思うのですね。
そして,それは,実は遺産分割のときに認められてきたものが,共有物分割の方でも認められてくるという形がとられてきたわけですけれども,以前は,共有物分割ではリジッドな方法しか用い得ないと考えられていたものですから,柔軟な方法が採れる遺産分割手続を利用すべきであり,共有物分割の方に流してはいけないといった話が,たとえば,特定の財産についての相続持分の第三者に対する譲渡などの場合について学説上説かれたりした時期というのもあるわけです。それが,だんだんと柔軟になってきて,共有物分割であっても柔軟にできるからいいじゃないということになったわけです。
ただ,遺産分割については,そもそものところで民法906条に,いろいろな事情を考慮してできますよという実体法の規定があって,その後にそれを受ける手続的な規定があるという形になっているんですね。それに対して,通常共有に関しましては,906条のような規定がないということになりますと,この分割の手続みたいなことが書いてある条文の中に,いろいろな事情が考慮できるというのをきちんと書き込んで,分かるような形にしなければいけない。ここに,遺産分割の場合の条文の作り方との違いというのが出てくるのではないかという気がいたします。
さて,そうなったときに,いろいろな事情があるだろう,特別な事情というのは全部書き込むのは難しいだろうというのはいろいろ分かるんですけれども,2,3ですね,つまり現物分割とか競売とか,価格弁償による調整とか,そういうものを組み合わせることができるんだよというルールがどこかに明文で欲しいんですね。本日配られている案だけ見ますと,それこそ特別な事情があるという,非常に特別なときに,金銭の支払いだけでやるんですみたいに読めてしまう条文になっているわけでして,そうではなくて,一部は現物で分割するのだけれども価格賠償などを使って調整する。そういうのがきちんと出るようにする必要があるんだろうと思います。
中間試案の方が分かりやすいというのは,中間試案のときには裁判所は次に掲げる方法により共有物の分割を命ずることができると書いてあって,現物分割と価格賠償と競売による換価というのが三つ書いてあって,組み合わせていいというふうにはクリアに書いていなかったように思いますけれども,それでも三つあるんだよということが明示され,その組み合わせがありうるというのが,比較的読みやすい形になっていた。
今回,何か読みにくくて,三つの選択,特別な事情があるときだけ特別な方法が選択できるというだけであるかのような感じで,長い判例法理の共有物分割についての進展というものを生かし切れていないような気が,申し訳ないながらするわけでありまして,中村さんとかがおっしゃったことと基本的には同じだろうと思います。
○山野目部会長 道垣内委員から,中村委員からお出しいただいた意見を更に深く掘り下げる観点の整理の御提示を頂きました。ありがとうございます。
引き続き委員・幹事の御意見を承ります。
松尾幹事お願いします。
○松尾幹事 ありがとうございます。
私も今問題になっております部会資料37の第1の②の特別の事情ということについては,現物分割も賠償分割も特に順位はないということであれば,ここは特別の事情があれば認めるというよりは,「相当と認めるときは」という表現ぶりもあると思います。
ただ,実際問題としてこの賠償分割がうまく機能するためには共有者間の公平を害しないという制度的な保障があるということが大前提になるように思います。
そのときに一番問題になるのは,賠償分割するときに,共有物を取得する共有者から持分権を譲渡する共有者に対して,きちんとお金が払われるということをどうやって保障するかという点です。その点に関して,第1の④で,共有物分割を命ずる場合に,当事者に対して金銭の支払い,登記義務の履行等の給付を命ずることができるとあります。これが意味することの確認ですが,賠償分割を認めるときに,例えばABCが土地を共有していて,Aが全部取得することを認めてお金をBCに払うというときに,BCに対しては持分権をAに譲渡して登記をしなさい,AはBCに対してその評価額を払いなさいということを引換給付とすることが,この④を使って可能と理解してよいでしょうか。もしそれができるとすると,賠償分割の使いやすさが出てきて,相当と認めるならばそれを活用していきましょうということもあるのかなと感じた次第です。ちょっと誤解があれば,また正していただきたいと思います。
○山野目部会長 ④の規律は,現行の家事事件手続法の下においてほぼ同じ文言があるものをここにも規律として明示して表現しようとしているものでありますから,家事事件手続法の運用がどうなっているかというようなことを参考として見ておく必要もあります。
事務当局において,そうした点を見据えながら何か御紹介いただける情報があったらお教えください。
○大谷幹事 ②では,債務を負担させるという形で,部分的価格賠償の場合,全面的価格賠償の場合,両方があり得るということで書いておりますが,それは債務を負担させるということにとどまっており,それに更に④の方で債務名義とすることができるということで,これに基づいて強制執行が可能になるということを表現しているつもりでございます。
引換給付に関しましては,裁判所が相当であると認めた場合には引換給付を命ずるということもあるのではないかなと思っております。
○山野目部会長 引換給付の判決は書くことができるという趣旨の御案内を致しました。
松尾幹事,お続けください。
○松尾幹事 ありがとうございます。
引換給付を命じることは賠償分割を使う上では,共有者間の公平を担保するという意味で重要な機能ではないかと思います。
特に賠償分割を認めるということは,この後出てくる代金分割との関係では,実質的に共有者に優先取得権を認めることになりますので,そういう制度を使いやすくするということについては,私は理由があるのではないかなと思います。
今の点を確認していただいて,実務上も運用できるのであれば,非常によいのではないかと思った次第です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 すみません。1点だけ意見を申し上げます。
というか,これ第1の②のところの下線を引いた部分なのですが,この表現です。家事事件手続法の規定の文言表現を参考にしてこのような形にしたのだと思いますけれども,先ほど中村委員がおっしゃったこととは違う意味で,中間試案の方では,ここは持分の価格の賠償というところが表現に出ていたんですよね。ところが,今回お示しになられているこの下線部分では,「共有者の一人又は数人に他の共有者に対する金銭債務を負担させる方法による分割を命ずることができる」ということで,持分の価格の賠償なのだということが消えているんです。もちろんこの金銭債務を負担させるというところで,これは持分の価格ということを基準にして考えるのであると理解するのであれば,これはこれで構わないのかもしれませんけれども,突然と読めば,では金銭債務を負担させるときに,いろいろなファクターを考慮に入れて裁判所が適切と思われる額というものを,あるいは適切と思われる金額を負担させるということができるんだとも読めないわけではない。むしろ,誤解のないように,持分の価格の賠償ということがはっきりと出るようにした方がいいのではないかという感じがいたしました。
家事事件手続法の場合は,これは遺産の分割審判ですから,なかなか持分価格の賠償というのを文言表現として使うのは難しいというところがあって,この種のルール化がされているんだと思いますが,こちらの方はそのような制約がないものですから,むしろはっきりと書かれた方がいいというのが私の個人的な意見です。
○山野目部会長 ただいまの点は御意見としておっしゃっていただきましたが,事務当局に趣旨の確認のみはしておいた方が,この後の委員・幹事に御議論をお進めいただくことが容易になると感じますから発言を求めますが,金銭債務を負担させると書いてある個所は,特段の事情がない限り持分の価格を賠償させるという運用を念頭に置いてのことであると理解してよろしいですね。
○大谷幹事 そのとおりでございます。部分的価格賠償,いわゆる2分の1,2分の1で共有している土地を7対3で現物分割をしたとき,20%分をお金で払うというのを,それは持分の価格を賠償させる方法というふうに呼ぶのかどうかというところも問題があるかなということで,今のような形にはなっております。
○山野目部会長 こういうところがこの②について読みにくいと言われるゆえんであろうとは感じます。その点でも結構ですし,ほかの点でもよろしいですが,委員・幹事の御意見を引き続き承ります。いかがでしょうか。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
先ほどから先生方がおっしゃっている本文の書きぶりの問題の話に正になってくるかとは思うのですが,やはり私も最初に拝見したときに,①と②がフラットに並んでいるというふうにあまり読めなかったというところがございます。
従前から合理的に,共有者が土地の細分化を防いで全面的価格賠償で整理したいというような場面でも,現行法の条文を前提とすると果たして価格賠償になるのか,もしかしたら現物分割の方に持って行かれてしまうのではないかという不安があって,なかなか制度を使いづらいという声が事業者から出ていた中で,①と②が基本的に並列に位置づけられるということは,非常にいいことだなと思うのですが,今回の部会資料で拝見した本文の書きぶり,特別の事情という表現は少しひっかかります。③と比較すれば,②は①とフラットといえばフラットで,一定の要件を満たせばいずれも選択できるということになっているんだなというのは分かるんですが,やはり法律専門家の先生方ですらなかなか読みづらいというふうにおっしゃるということは,一般の企業実務家にしてみれば,よりそういうところはあるのかなと思いますので,ここは①と②が対等になっているというところがより明確に出るような形でやっていただけるとよいのではないかと思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
私も今回の案は,実は何回も読んでいて分からないのは自分だけなのかなと思ったんですけれども,皆さん分かりにくいというふうにおっしゃいまして,安心しました。
その上で,潮見委員から,中間試案では持分の価格の賠償というのがはっきり出ていたけれども,今回の②ではそれが出ていないのでうんぬんというお話がございました。そのとおりだと思うんですが,もし仮に今後中間試案に近い形で検討していただくことがあるとしたらということなのですが,その検討にならなかったら意味のない発言になるんですけれども,価格賠償という,そこに言う賠償というのが,私は今普通に使われている賠償とやや違う意味になっていると思うのですね。別段不法行為をしたわけでもないし,債務不履行があったわけでもなく,正規の手続に従って取得をした所有権について,ただ保障をしなければいけないというのか,償金を払わなければいけないというのか分かりませんが,賠償では多分,今の普通の使い方でいうとないのではないかと思うのです。もし御検討いただくのであれば,私の勘違いかもしれませんけれども,その点を考慮しながら検討いただければなと思います。
○山野目部会長 佐久間幹事の御意見の全体を承りました。
私の個人的趣味を申し上げる場所ではありませんが,私は,共有物分割のときに使う賠償という言葉が大嫌いでありまして,本当は用いたくありません,もう実務上定着している言葉であって,これを用いないと言語的な伝達がしにくいものですから,せめてもの抵抗として冒頭に②を御紹介するときにいわゆる全面的価格賠償又は部分的価格賠償を許容しようとする規定であるというふうに御案内して,ささやかな抵抗を致しました。
佐久間幹事からは,更に法文にするときに注意をしなさいというふうな御指摘もいただいたところであります。ありがとうございます。
引き続きいかがでしょうか。
今のところ,②のほかについても御指摘があったところですけれども,一番御議論が多い点は②でありまして,なおかつ②の中を更に小分けしてまいりますと,二つの点が検討しなければならない点として浮かび上がってきております。一つは,特別の事情があると認めるときは,という,この文言を置いていることをめぐって,このままでは座りが悪いということが多くの委員・幹事から共通してお出しいただいているところでありますけれども,しかし,更にどうしていったらよいかということについては,幾つか悩ましい点がございます。松尾幹事からは,この文体の骨格を維持しながら「特別の」という表現がよろしくないから例えば「相当と認めるときは」といったような御提案を頂いています。
確かに,「特別」と書くときには,特別に先立ってその前の方に標準が何であるかが示されて,それに対する特別でありますから,道垣内委員のお言葉で言うと,遺産分割の場合の906条に相当するようなものがあって,それを踏まえた「特別」になりますので,そういうものがないならば,もっと簡素な表現の方向にするという引き方があるという示唆があったところであります。
半面において,中村委員からは,弁護士会の御意見の御紹介という形で「特別の事情があるときは」というところをもう少し言語的表現を更に豊かにする方向を考えるべきであるというお話があり,借地借家法28条の書きぶりのようなものを参考として,考慮要素を列記するアイデアが考えられないかという御提案も弁護士会においてあったというヒントを頂いたところであります。
いずれにしても,現在のこの言葉の置き方が座りがよくないということが委員・幹事から指摘を頂いたところであります。
②に関してもう1点は,「金銭債務を負担させる」という表現をもって,いわゆるつきの賠償でありますけれども,全面的価格賠償や部分的価格賠償の実務を進めていくことのガイドとして適切かという問題提起もございました。読み方によっては,これは保証金か何かを積ませるみたいな軽い話みたいに読めなくもないような規律表現になっている側面がございますから,ここは何か工夫ができないかというような観点からの御指摘もありました。これらの点についてでもよろしいですし,ほかの点についてでもそうですが,引き続き部会資料37について御意見を承ります。いかがでしょうか。
ただいま差し上げた整理のようなことを踏まえて,事務当局が議事の整理に当たるということで進めてよろしゅうございますか。
それでは,この②のところを中心に,本日は重要な御意見,御指摘を幾つか賜ったところでございますから,これらを踏まえて議事の整理を進めるということにいたします。ありがとうございました。
部会資料37をめぐる審議はここまでとし,休憩といたします。
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法制審議会民法・不動産登記法部会第2回会議 議事録
土地所有権の放棄については,ここまでといたしまして,続きまして,部会資料3で審議事項を用意しております共有制度の見直し(1)に進むということにいたします。
部会資料3のは,分量がすごく盛りだくさんでございます。部会資料3の中の,ひとまず第1の1から第1の4までの範囲について,事務当局から説明を差し上げます。
○脇村関係官 事前にお送りさせていただいておりますので,項目について簡単に御説明させていただきたいと思います。
第1 通常の共有における共有物の管理
要綱案
民法第252条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の管理に関する事項(共有物に2①に規律する変更を加えるものを除く。②において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
② 裁判所は、次に掲げるときは、ア又はイに規律する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
ア 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
イ 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
③ ①及び②の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
④ 共有者は、①から③までの規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
⑤ 各共有者は、①から④までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる。
4 共有物の管理者
共有物の管理者について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有者は、3の規律により、共有物を管理する者(②から⑤までにおいて「共有物の管理者」という。)を選任し、又は解任することができる。
② 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。③において同じ。)を加えることができない。
③ 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
④ 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
⑤ ④の規律に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
5 変更・管理の決定の裁判の手続
変更・管理の決定の裁判の手続について、次のような規律を設けるものとする。
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、2②、3②ア及び4③の規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所がこの裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者等(2②の当該他の共有者、3②アの他の共有者又は4③の当該共有者をいう。)は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ イの届出がないときは、裁判所がこの裁判をすること。
② 裁判所は、次に掲げる事項を3②イの他の共有者に通知し、かつ、イの期間が経過しなければ、3②イの規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 3②イの他の共有者は裁判所に対し一定の期間までに共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。
ウ イの期間内に3②イの他の共有者が共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、裁判所がこの裁判をすること。
③ ②イの期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る3②イの規律による裁判をすることができない。
(注)これらの裁判に係る事件は当該裁判に係る財産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
6 裁判による共有物分割
民法第258条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
③ ②に規律する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
1 共有者の同意と共有物の管理に関する行為
まず,第1では,通常の共有における共有物の管理を取り上げており,1では,共有者の同意と共有物の管理に関する行為について御検討をお願いしているところです。
補足説明にもございますとおり,民法では,共有物を変更・処分するには全員の同意が必要である,あるいは保存行為については単独ですることができる,変更及び保存行為を除く管理に関する事項は過半数で決することができるといったことが規律としてありますが,ここの資料では,この大きな枠組みについては基本的に維持しつつも,不必要に共有者全員の同意を要求することで,問題となっている行為をすることができないといったことを回避するなどの観点から,問題となり得る個々の行為について,解釈の明確化等を含め,検討することを提案しております。
例えば,下記の①から③までの行為については,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決することができるようにすることについて,どのように考えるか。
① 各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決することができる事項についてその規律に従って一定の定めがされた場合に,この定めを変更すること。
② 特段の定めなく共有物を利用(占有)する者がある場合に,共有物を利用(占有)する者を変更すること。
③ 共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用を目的とする権利を設定すること。ただし,存続期間が民法第602条各号の定める期間を超えることはできないものとする。
例えばということで,本文では①から③ということで,各共有者の持分の価格に従って,過半数で決する事項について,一定の定めがされた場合に,それを変更することですとか,特段の定めなく共有物を利用する者がある場合に,共有物を利用する者を変更すること,あるいは共有物について,第三者に対して賃借権その他の使用を目的とする権利を設定すること,こういったことを取り上げておりますが,御検討いただければ幸いです。
2 共有物の利用方法の定めの手続
8ページにいきまして,2では,共有物の利用方法の定めの手続を取り上げております。
先ほど御説明させていただきましたが,民法では,管理に関する事項については,基本的には持分の過半数で決することができるというふうに定められているところですが,この過半数で決するということの意味につきまして,学説等の中には,共有者全員での協議,話合いを経なければならないという意見もあるところでございますが,この意見によりますと,例えば共有者の中に所在等不明の者がいる場合には,協議をすることはできませんので,なかなか利用方法を定めることができないということになり,そうしますと,やはり問題があるのではないかということで,ここでは,過半数を有する者の意思に合致すれば足りるとすることについて,そのことを明確化することについて,御検討いただきたいということを御提案させていただいております。
3 共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法
次に,同じページの3でございますが,ここでは,共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法を取り上げております。
共有物の管理に無関心な人,無関心な共有者が賛否を明らかにしない場合や所在が不明である,そういったことから共有者に賛否を問うことができない場合には,そういった不明共有者の同意を得ることができませんので,なかなか共有物の管理に関する事項,変更・処分を含めた管理に関する事項を定めることができないということになってしまいます。
そこで,この資料では,催告をしても共有者が賛否を明らかにしない場合や,所在が不明であるため共有者に賛否を問うことができない場合に,共有物の利用が阻害されることを防止する観点から,共有者の手続保障を図りながらも,変更・処分や管理行為,こういったことをできる仕組みについて設けることができないかを検討することを御提案させていただいているところでございます。
また,この補足説明にも書かせていただいていますが,この問題を検討する際には,先ほど言いました所在不明というのはどういったものですとか,そういった探索,所在者,共有者の探索の在り方についても御検討いただく必要があると思いますので,併せて御検討いただければと思います。
また,(注)にも書かせていただいておりますが,公的機関による事前審査,こういったことについても御検討いただければ幸いでございます。
4 共有物の管理に関する行為と損害の発生
次に,12ページにいきまして,4では,共有物の管理に関する行為と損害の発生を取り上げております。共有物の管理に関する行為がされることによって,同意をしていない共有者に損害が生ずることがございますが,それに対応するため,本文のような案について御検討いただければ幸いでございます。
簡単ですが,説明としては以上です。
○山野目部会長 部会資料3の第1の1から4の説明を差し上げました。
御意見を頂くに当たりましては,これ全部というのは分量が多過ぎますから,初めに第1の1,通常の共有における共有物の管理の部分について御意見を承ります。いかがでしょうか。
1 基本的な枠組みと個別の行為
⑴ 民法は,共有者間の利害等を調整しながら,共有物の有効な利用・管理を実現するために,次の規律を設けている。
① 共有物の「変更」をするには,共有者全員の同意を要する(民法第251条)。
② 「保存行為」は,各共有者が単独ですることができる(民法第252条ただし書)。
③ 「変更」及び「保存行為」を除く「管理に関する事項」は,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する(民法第252条本文)。
なお,ここでいう「変更」は,田畑を宅地とするものとし,又は建物を改築するなど目的物を物理的に変更することを意味するが,裁判実務・学説では,共有物全体について売却その他の法律上の処分をする場合についても,同様に共有者全員の同意を要するものと解されている。その説明としては,法律上の処分も民法第251条の「変更」に含まれるとするものと,「変更」には含まれないが,共有物全体を処分することは共有者全員の持分権を処分することであり,当然に共有者全員の同意が必要になるとするものがある(以下では,法律上の処分も含む際には,便宜上,「変更・処分」と記載している。)。
⑵ 上記のような民法上のルールは,基本的には,妥当なものであると解される。もっとも,そのルールを適用する場面をみると,問題となる行為が変更・処分に該当するのかについて実務上議論が分かれているため,実際の事案を処理するにあたっては,慎重を期して共有者全員の同意をとらざるを得ず,共有者の一部に反対する者がおり,又は共有者の一部に所在等が不明な者がいて全員の同意を得ることができない場合には,当該行為を実施することを断念せざるを得ないといった事態が生じている。また,現在の解釈では,一般的に変更・処分に該当すると解されているものであっても,その中には,本当に共有者全員の同意を得なければすることができないのか,持分の過半数で定めることとすべきではないのかについて再点検すべきものもあると考えられる。
そこで,上記の民法上のルールを基本的に維持しながらも,不必要に共有者全員の同意を要求することで,問題となっている行為をすることができないことを回避するなどの観点から,共有者全員の同意が必要であるのかについて解釈が分かれている行為について,その解釈を明確にすることや,共有者全員の同意が必要と解されている行為について,その解釈を見直すことについて,検討する必要がある。特に,本文①から③までの行為については,検討する必要性が高い(詳細は,後記(補足説明)2参照)。
「1 共有者の同意と共有物の管理に関する行為」に対する意見
○蓑毛幹事 今回のこの第1の1を議論する意義というか,どの範囲で議論するかということのお考えを,もう少し説明していただければと思います。
勝手に推測するに,この後議論する新たな制度,共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法であるとか,あるいは,共有物の管理者の制度を設けるに当たって,それがうまくワークするために,何か管理行為なのか,何が変更・処分行為なのかということを明らかにしておくことに意義があるのかなと思いました。一方で,では,それをどこまで,どんな範囲で,議論するのか。特に,部会資料3の5ページに書かれていることは昭和41年最判の解釈を変えるという意味なのか,共有不動産に共有者の1人が住んでいて,その人に明渡しを求めることが出来るのか出来ないのかということは,実務的にも非常に大きな問題になるものですから,どこまで掘り下げて議論されるつもりなのかということが気になりましたので,その点を御質問したいと思います。
○山野目部会長 事務当局から,資料作成の意図の御説明を補足ください。
○脇村関係官 資料の作成の意図としましては,まず,この後に出てくる同意,明確に同意がないケースについても一定の行為をできるようにするということを議論することにしておりますが,そもそも,どの行為が過半数でできるのかについては,ある程度明確にすべき問題であるんだろうなと思っています。
特に,今先生がおっしゃった,どういったときに利用できるのか,明け渡しも含めてですね。こういったものについて,当局としましては,やはり,後で変更できるかどうかによって,いろいろとその定め方の仕方も変わってくると思いますので,そういった意味では,きちんと議論をしていきたいと思っております。
今先生のおっしゃっていた中で,先ほど最判の話があったと思うんですが,この①,②というのは,そういう意味で,似たような話であるわけでございますが,既存の,現在のところ住んでいらっしゃる方についての変更をどうするのかについても,ここの資料自体は,ある意味,結果的にはというか,変更できるということをについて検討することも指摘しているところです。
②についての,部会資料3の5ページの最判との関係についてですが,これは異論があるかもしれませんが,最判の読み方は,人によって多少温度差があるような気がしていまして,私自身,この部会資料を作る際には,あの最判は,共有の利用方法の定めがないケースの判例ではないかと思っており,そうすると,利用方法の定めをどういった場合にできるかとは,本当はリンクしないのではないかという気もしているんですけれども,他方で,あの最判は,過半数を持っている人でも追い出すことはできないという結論でございますので,ここで検討をお願いしている提案は,過半数で誰が利用するか決められる,その意味で,利用者を変更できるということまで含めて議論させていただいているところですので,結論が変わってくるのかなという気は若干していますが,そこも含めて,本当にそれでいいのかということは,是非御検討いただきたいというふうに思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事,どうぞお続けください。
○蓑毛幹事 今脇村さんがおっしゃったことがよく理解できていないのですが,共有者の過半数でもって利用方法を改めて定めれば,昭和41年最判の結論とは違って,明け渡しを求めることができるということですか。
○脇村関係官 まず前提として,あの最判の読み方だと思うんですけれども,ここで議論をしようとしている事後に定めをする場合のな議論ではなくて,まず事前に,例えば,この人が利用できますよと定めた後に,それを無視して違う人が住んでいたケースについて,その定めに基づいて明渡しを求めることができるかというのが問題になると思うんですけれども,恐らくあの最判自体は,そこについて,特定の考えを示したというよりは,そのケースは想定していない,定めていないケースだと思いますし,そうすると事後に定めをする場合も同じではないかと。
ただ,その読み方として,本当にそうなのかというのは,多分議論のあるところですので,部会資料としては,先ほども言いましたとおり,あの最判は約束をしていないケースですので,今回の議論は,約束し直すことをできますかねということを提案しているので,矛盾しないのではないかと記載をしているのですが,是非民法の先生方の御議論を伺わせていただきたいというふうに思っております。
○山野目部会長 民法の先生方や,あるいは……では,蓑毛幹事,どうぞ。
○蓑毛幹事 いやいや,民法の先生方でなく,私が発言するのも何ですが。昭和41年最判は,「少数持分権者は,自己の持分によって,共有物を使用収益する権原を有し,これに基づいて共有物を占有するものと認められる」と判示しています。だから,共有者の過半数で利用方法を定めても,明渡しを求めることはできないのではないでしょうか。ただし,その人は他の共有持分者の利用権限を害しているので,損害賠償等には応じなければならない。もしこれを抜本的に解決したいのであれば,共有物の分割請求を行うしかない。恐らく実務も,共有者の過半数で決めさえすれば明け渡しを求めることができるという前提で動いていないように思うものですから,申し上げた次第です。
○佐久間幹事 実務的にはそういうふうに動いているんだろうなと思いながら,私はこの原案に賛成の立場から,ちょっと申し上げたいと思います。
ただ,その前に,この同意あるいは共有物の管理に関する行為について,例えば①から③までの三つが挙がっているのですが,これだけを解決することでいいのか,あるいは,少なくともこの三つだけは規定を置くのがいいのかはよく分からないということを申し上げた上で,私はこの方向がいいのではないかと思うということを,申し上げたいと思います。
今,御意見にございましたとおり,例えばですけれども,現在少数持分権者が占有をしている場合に,多数持分権者は過半数決定によって立退きを求めることができるかというと,恐らく一般的には,できない,あるいは少なくとも容易にはできない,正当な理由がないとできない,と考えられているのではないかと思うんです。
ただ,私が常々疑問に思っておりますのは,自分の持分に関しましては,確かに共有物全部の使用収益をすることはできるわけですけれども,他の共有者の持分に関しましては,これは適法な決定がなく行われているとすると,一種の不法占有なのではないかと思います。また,これは①,②に関わるんですけれども,一旦決定を得て適法に占有をしている場合も,例えば無償で使用しているときには,確かに適法に無償で使用しているわけですが,単独所有者が所有する物件について,無償で使用している人よりも厚い保護に値するという理由が,私には実は分かりません。
また,適正な対価を支払って使用しているという場合も,単独所有の物件でありますと,言わば賃貸借に当たる場合なのではないかと思うんですが,その場合に,賃借人に与えられる保護よりも更に一段厚い保護が与えられるということも,少数持分権者には自分の持分があるということによってどうして正当化されるのかというのが,私にはよく分からないんです。
そこで,その分からないということを前提とした私なりの整理によりますと,誰が占有使用するかに関する定めの変更自体は,全くパラレルに考えられるのかどうか分かりませんが,例えば単独所有者が占有者に明渡しを求める場合に,言わば,明渡しを求めようと決めることに当たるのではないかと思うんですね。
ただ,明渡しを求めることを決めて,権利を行使したとしても,相手方にその権利行使を妨げる正当な理由というか権原があれば,それは通らない。例えば,賃借人の保護の規定があるのであれば,それは通らないというのと同じことが,ここで問題になるのではないかと思うんです。
不法占有者であれば,占有を続けることのできる権原はないので,明け渡さなければならない。使用貸借の場合も,例えば使用貸借の目的が達せられているというようなことであると,解除の意思表示をされた場合には,明け渡さざるを得ないわけですから,それと同じ状態になるのではないか。これに対して,例えば建物賃貸借では,賃貸人は,正当な理由がないと,そもそも解除はできませんし,期間満了の場合も,正当な理由がないと更新を拒絶することができず,結局明渡しの請求はできないというようなことが借地借家法に定められています。共有の場合の少数持分権者の占有についても,こういった場合と同様の保護を与えればいいのではないかと,私は考えております。
その意味で,この①,②,③は,そもそも共有者が合理的に共有物を管理していくということだとすると,各共有者はどういう権利を持っているのか,どういう行動をその権利に基づいてとることができるのかということを整理する,その材料になるのではないかと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
今の関連の御意見,御発言は,この時点で頂いておいた方がよいと感じますから,この関連で御意見がおありの方は,どうぞおっしゃってください。
○中田委員 今の関連といいますか,全体の大きな話という趣旨で申し上げたいことがございます。現在の共有に関する規定は,分割して終了する共有を想定しているのだけれども,現実には存続するタイプの共有が多く存在している,それに関する規律を考えることが必要である,これは1980年代から,山田委員を始めとして指摘されてきたことです。今回の提案も,そういった方向のものかなというふうに考えております。それは存続型であり,その中では団体的な規律というものが重視されるようになってくる。佐久間幹事のイメージしておられるのも,そちらの方向なのかなと感じました。その方向で,今回のように検討していくことには異論がございませんですけれども,検討課題もやはり意識しておく必要があるだろうと思います。
3点申したいと思います。
一つは,従来の分割終了タイプの共有に関する規律をどうするのか。取り分け,共有物分割請求制度の改善を検討する必要はなかろうかということです。
それから,2番目に,存続タイプの共有,あるいは団体的規律が強く及ぶ共有を考えるときに,その対象をどうするのか。不動産だけなのか,動産にも及ぶのか,それとも準共有の規定を通じて,他の財産権にも及ぶのかということです。
それから,三つ目は,共有以外の制度との関係,あるいは他の制度に及ぼす影響をどう考えるのか。組合あるいは権利能力なき社団,入会財産などとの関係があります。
つまり,ここで問題となっているのは,所有者不明土地の問題への対応を超えて,共有制度全体をどのように理解するのかということが根本にあるんだと思います。ただいま,蓑毛幹事と佐久間幹事との間で若干の考え方の違いが浮かび上がってきたのは,多分このような根底的な問題を反映しているのかなと感じました。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。全休的な検討の取組に当たっての心構えを整理していただきました。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
第1の1のところに関しまして,実務の中で,実際にどうしているかというと,何が管理に関する事項に該当するか分からないので,とりあえず安全策で共有者全員の同意をもらっておこう,という場合も結構多くて,そういう観点からいいますと,全員の同意が必要でない場合について,特に検討していただける,というところは,非常に有り難いと思っております。
ただ,ここで挙げられている①から③の中の,特に③に関しまして,「共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用を目的とする権利を設定すること」を過半数で決することができる,と明記していただけるのは,非常によいのかなと思う一方で,ただし書のところが気になります。これは,飽くまで短期賃貸借の期間の中でということで,下級審判例等も参照されて,こう書かれていると思うのですが,ここについては,共有物の機能に変更を生じさせないような使用であれば,期間にかかわらず,管理に関する事項と考えることもできるのではないかという意見が,既に幾つかの会社から出ております。
特に,昨年出された「所有者不明私道への対応ガイドライン」の中などでも,例えば電柱の設置であるとか,ガス管の敷設ですとかといった場合で,管理に関する事項として整理されているケースはございます。ここは書き方の問題でもあるとは思うのですが,民法第602条各号の定める期間の範囲内でやるべきというものもある一方で,そうでないものもあると思いますので,飽くまで共有物の機能に与える影響というところに着目して整理していただき,もし具体的に書かれるのであれば,そういった方向で検討していただくのがよろしいのかなと思っております。
○山田委員 ちょっと複数のことを申し上げたいと思いますが,性格が異なるように思います。申し訳ありません。
まず,この第1の1に書かれていることの性格なんですが,第1パラグラフの最後の3行を見ますと,解釈を明確にすることや解釈を見直すことでどうかというふうに終わっているんですね。これは,法文には手を付けないで,解釈で対応しようということをここで,共同作業しようとおっしゃっているのか,それとも,解釈を明確にするために法文を新たに書きおろすと,解釈を見直す,見直した後のことを法文で新たに書き起こそうということも含んでいるのか。
見直すべきでない,明確にする必要がないならば,する必要ないんですが,明確にしたり見直したりしようとしたときには,法文で書くということも含まれているのかというのが,これはすみません,質問です。
付随して意見を言うと,やはりそれがないと,ここで議論しても仕方がないかなと思います。各界の主要な方々が集まっているところで,解釈をこれでいきましょうというふうにすれば,それなりに意味があるのかもしれませんが,余り多くの時間を掛けるものでもないし,本当にそうなるかどうかも分からないわけですので,そういうふうに思います。
質問がありまして,後半意見です。
それから,二つ目は,第1の1,あるいは,ここに限らないのかもしれませんが,民法の第2編物権,第3章所有権,第3節共有に置かれるものなのかどうか。これは別に,特別法で外出ししても構わないんですが,要するに,適用対象が共有全部なのか,それとも不動産なのか,土地なのかということで,どうもここは,共有全部で作られているなと思いました。
そうすると,混和とか,動産が混和して共有になったときにも使われる規定になるので,少し丁寧に考えないといけないなというふうに考えました。ですから,これは,事務当局が今これを作っているところでは,どういうふうにお考えなのかということです。
それから,最後は,ちょっと今までの質問とは違うのですが,例えば,第1の1の①,②,③のようなのを書き込んでいきますと,かなり詳細な規定を置いて規律しようという姿勢になってくると思うんです。そのときは,共有者全員があらかじめ合意をして定めを置くことで,これと異なる規律を,我々共有者ではこれでいこうというふうにしたときに,認められるのかどうかということについては,最後それは,書くかどうかというのは,またちょっと出口のところの問題があると思うのですが,しかし,どちらで考えるのかということです。
物権法ですから,強行法なので,当事者の合意は認めないという考え方は,現実にはないのかもしれませんが,非常に単純に考えると,その道が出てきてしまうんだと思うんですね。しかし,そうではなくて,当事者全員が合意をすれば,当事者間でルールを変えられるという考え方はあるように思います。そうすると,どの範囲で変えられるかということも問題になってくるかなと思います。
そのときに参考になるのが,建物区分所有法には規約で定められることというのがあって,建物区分所有法で書かれているルールを,一方向だったり双方向だったりするんだと思うんですが,あるいは項目によってですが,当事者ですよね,区分所有者が規約で定めることによって,変えることができるというのがありますので,現在の民法には,その点については何ら語られていないんですけれども,詳細な規定を今の時点で置くならば,置くほど,そこについてのさばきをどうするのかということは,やはり考えないといけないのではないかなというふうに思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
事務当局に補足説明をお願いしようと考えますが,山田委員から種々御心配を頂きました。
法制審議会は法律の解釈を確定する場所ではないということは,もとより御注意いただいたとおりでございまして,解釈を見直すことでどうかという記述は,解釈を統一しようということではなく,もしかしたら規定を設ける必要があるかもしれないという御議論をお願いするつもりでおりました。また後で事務当局からもおっしゃっていただきます。
それから,全般について,共有物という言葉を用いて今のところ,問題提起を差し上げていますけれども,議論の進み具合によっては,共有地の議論になるかもしれない,あるいは共有不動産の議論になるかもしれないという含みは常に持っております。補足説明で常にそのことをお断りしていなかった,若干不手際があるかもしれませんけれども,最終的に,ここでの御意見を集約して,規律上どう表現していくかということを究めていくということになるであろうと考えます。
それからあと,民法に規定を置くかどうか,249条以下に規定を置くかどうかという問題に関連して,置かれた規定の強行規定性という問題は,補足説明で欠けておりまして,御注意いただき,ありがとうございました。今後考えていかなければいけないであろうと考えますし,それは,ヒントを頂いた建物区分所有の状況との比較とか,中田委員の御発言にあった組合法理や組合の規定の適用関係などと交錯するところをどう考え込むかといったような御指摘とも関係してくるものと思います。
事務当局から補足説明をお願いいたします。
○脇村関係官 繰り返しかもしれませんが,解釈自体,それは条文化も含めて,検討していただきたいという趣旨でございます。
また,対象につきましても,中には,不動産に限定しますかどうですかということを明確に書いているものもございますが,当局としては,現時点では,まずは不動産に限定しないことも含めて広目に提案をしておるところですが,当然今後の議論においては,内容によって絞り込んでいくということも想定しているところでございます。
最後の,先生おっしゃった強行規定どうするかという議論は,共有者間の特約の取扱いをどうするかという問題の一つではないかという気もしておりまして,また先生から,いろいろ教えていただきたいというふうに思っていますが,ここで部会資料,この資料を作る際に,一つだけ考えていましたのは,過半数で決めたことについて,過半数で変えるということは,規律としてあるとして,例えば,過半数で決められることも含めて,全員で決めたときに,正に全員で決めたときに,それを変更するのをどうするのか,あるいは,それをどう引き継ぐのかというのは,別途問題になるのかなとは思っていましたが,ちょっと特約の扱いをどうするかも含めて,また私どもで勉強したいと思います。
○山野目部会長 山田委員,よろしゅうございましょうか。
○山田委員 はい,結構です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○松尾幹事 今,部会資料3の第1の1「共有者の同意と共有物の管理に関する行為」の議論をしているわけですが,この後に出てくる第1の3「共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法」の方では,共有者の一部が不明であるとか,意思決定をしないというときに,不明共有者とか意思決定しない共有者がいても,管理に関する意思決定できるように,要件を緩和していく案が準備されていて,私は今問題になっている所有者不明とか,共有者の一部不明の問題に対する対応策としては,非常に重要な部分であると思っています。
他方,そちらの方で要件を緩和するということとのバランス上,第1の1の通常の共有のところで,さらに要件を緩和する必要がどこにあるかということは,しっかり見極めて,要件緩和の主たる対象を明確にしておく必要があるのではないかと思いました。
今議論に出ておりました,本来ならば多数決でできることについて,全員で合意したんだけれども,再び多数決でやろうというのは,これはやはり共有者間の合意の問題ですから,最初は全員合意の解釈として考えていくということで対応できると思います。
それから,ちょっと気になりますのは,部会資料3の2ページ(3)の「なお」から始まる段落の4行目で,現行法上全共有者の同意が必要とされている行為類型についても,持分の4分の3あるいは3分の2でできる類型も設ける余地がある旨の部分です。ここはちょっと問題なのではないかと思っておりまして,これが必要な場面はどういうことかということについて,ちょっと具体的な問題類型を念頭に置いて,検討してみた方がいいかなと思います。
この後論じることになる共有者の不明,あるいは意思決定しない共有者の問題について,どのように要件を緩和して所有者不明土地問題に対応するかについては,かなり突っ込んだ提案を頂いていると思いますので,そちらの方との関係について,確認しておく必要があるかなと思いました。
その際,通常の共有ルールについての見直しに関しては,部会資料3では管理,変更,保存を挙げていただいておりますけれども,そもそも共有の最初にある249条の使用について,重要な問題が残されたままになっているように思います。つまり共有者間でまだ何の合意もできていないときに共有者の1人が使い始め,私は持分権に基づいて,共有物全部について使用できるでしょうといったときに,その共有者に対し,他の共有者が,いったん元に戻して,どう使うかを決めてから使用しましょうねということを,いえるのかいえないのかということについて,曖昧な状態であります。しかし,この問題は,共有物の利用をめぐる共有者間の合意の意味に関する根本問題として,変更・管理・保存行為の場合とも関わってきます。それは引き続き,解釈に任せるということでいいのか,それとも通常の共有のルールにについても踏み込んで再検討するとすると,一番曖昧になっている部分についても何か提案すべきではないかということについて,ちょっと気になりましたので,発言させていただきました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
一番最後におっしゃった問題は,例えば,昭和31年最高裁判所判決の理解ないし,その機能範囲の問題についての検討を深めた上で,規律として表現するものを設けるか設けないかという議論に発展していくものであろうと考えます。その前に御指摘を頂いたことを含め,引き続き事務当局の方で受け止めさせていただきます。
ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
「2 共有物の利用方法の定めの手続」に対する意見
そうしましたら,第1の1に続きまして,第2(1?)の2でございますけれども,8ページで問題提起を差し上げている問題でありまして,現在の249条以下の法文には,協議という場面が出てまいりません。取り分け251条で,全ての共有者の同意を取り付ける,あるいは252条で,過半数で意思形成をするという場面への言及がございますけれども,それは何か,集会とか会議とかいうようなものを契機として用意するのか,そういうものを要求しなくてよいのかということについて,必ずしも明確でないという現状理解を踏まえ,問題提起を差し上げているところでございます。
この2の部分についての御意見を承ります。いかがでしょうか。
○佐久間幹事 協議を経ることを要しないことを明確にするということは賛成なんですが,協議を経ることを要しないということに対応するのが,過半数を有する者の意思に合致しているということなのかどうかが,ちょっとよく分かりません。つまり,意思の合致をそれ自体として,この案は提示しているのか,意思が合致しているということが表されているということを要求しているのか,私は何らかの形で表されていないといけないんだろうと思います。それが一つと,もう一つは,共有者全員について,自己の法律関係を全く自ら知ることのできない状況で決定されているということが,望ましいのかどうかということはあると思うんですね。
そうだとすると,協議あるいは話合いを経ることを求めるだけの利益ないし権利はない。だけれども,どのような決定がされるのか,あるいはされたのかでもいいかもしれませんが,それを知る利益ないし地位は保障すべきなのではないかと思います。
○山野目部会長 全員が当事者になっている協議を法律行為としてするという契機を絶対的に要求するものではないという方向性を示しているところまでは,文意は明らかであると思いますが,過半数の人たちの複数の意思表示が,ただ同時に並んで存在していればいいのか,過半数の人たちの間の意思を結合させる何らかの容態,法律要件が存在するかという問題についての御疑問の提示,それから,それとは別な問題として,いずれにしても,過半数の人たちが決めたことを共有者全体に情報として行き渡らせる必要があるのではないかという問題提起も頂きました。
引き続き検討していく事項ですけれども,何か事務当局から補足説明がありますか。
○脇村関係官 前半の方については,ちょっと法的な構成はあれなんですけれども,イメージしていたのは,過半数の人で集まって話をして書類を作るとか,何かの表示行為をイメージはしておりましたが,それをどう表現していいのかというのは難しい問題なんですが,そこはそういう意味で考えていました。
また,先生がおっしゃった最後の,次の問題として,教えてあげた方がいいのではないかという問題だと思うんですけれども,そこは議論としてあるんだろうと思っておりまして,ただここで書きたかったのは,まず,必ず協議が要るということまで言ってしまうと,正に,本当に動かなくなってきますので,そこは外した上で,なお,知る機会をどうするのかについては,効力とは直接関係ない方向で手当てするということも一つあるのかなとは思っていましたが,是非皆さんの御意見を頂ければというふうに思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事は,今のところ,よろしゅうございますか。
○佐久間幹事 はい。
○沖野委員 この点は,今のご提案のイメージとしては,過半数を1人で独占はしていないという想定で,何人か寄らないと意思決定ができないというようなイメージだと思うんですけれども,この規律だと,過半数を有する人が1人いれば,あとは100人いようが何人いようが,その人たちのことは何も気にする必要はないという形になるように思われます。それがいいのかという問題があるように思われます。協議や話合いというのは,同意を取ることまでは要らないけれども,意見表明をする機会であるとか,情報提供を受ける機会だとか,そういう意義があるわけで,そういうものが全くなくして決めるということでいいのかと。
確かに,所在不明の場合には同意は取れないではないかということであれば,それは所在不明の場合の特則を考えればいいのではないかと思われます。ただそこでも,協議というのが何を指しているのかということによるんですけれども,過半数さえ握っていれば,もうその人が考えることだけで全てを決めていける,この対象となる範囲,つまり過半数でいける分については,ですが。そういう規律を明確化すべきだということだとすると,他の人,過半数を握るに至らない人は分割請求でいくということで,分割でどんどん解消していくのが望ましいやり方なんだということになります。本当にそういうものを想定しているということであれば,それでいいようにも思われます。けれども,果たしてそう言っていいのかと,共有の一般の規律として,それでいいのかというのは,やはりためらわれると思っております。
○山野目部会長 今,沖野委員から明快な問題提起,問題整理を頂いたと感じます。
これを受けて,御意見がおありの方は,今このタイミングでおっしゃってください。それ以外の点でも結構です。いかがでしょうか。
お話をかなり明快にしていただいたと感じますけれども,御意見がないのは,しかし難しい問いであるということでしょうか。
○中田委員 思い付きなんですけれども,民法では,組合について,過半数決定と過半数同意とが区別された規律になっております。業務執行については670条で過半数決定で,組合代理については670条の2で過半数同意です。ただ,ここで過半数というのは,組合員の頭数の過半数であって,本日御提案いただいているのは,持分の価格に従った過半数ということですので,そこに組合とのずれが出ていると思います。
果たして,共有について,頭数ということではなくて,価格の過半数ということで,決定ではなくて同意でいい,協議なしでいいのかどうか。このようなことが,今の沖野委員の御提示された問題であるのかな,頭数ではなくて価格の過半数という点にも,検討すべき点があるのではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
組合の規律と共有の規律は,頭数でいくか,割合的な一種の投票を考えるかという差異があって,そのことに留意する必要があるけれども,人々が討議し合うという契機,議事が行われるという契機も,それとして重要であるというふうに考えて,共有者間で議事と議決が行われるべきだという発想でいくか,持分の大きさによっては議事は要らなくて,議決が行われればそれで足りると考えるかという問題が,なるほど難しい問題でありまして,1回の会議で皆さんが同じ意見になるということではないかもしれませんけれども,今後の事務当局の整理に反映してまいりますから,この段階でお考えがあったら承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。
○山田委員 これに限らず,一般的な話になってしまうのですが,集団的に利益が帰属する,あるいは法的な効果,負担も帰属するという場合に,多数決で決められることは,いろいろなところに幾つもあります。しかし,そのときには,少数の反対者が意に沿わない結果になってしまうということは仕方がないとして,多数決でやってよいというルールが各所にあるんだと思います。
しかし,そのときには,全部探せばいろいろなのがあるかもしれませんが,最近そういう議論をするときには,やはり少数の反対者に対しては,ちょっといい言葉があるかどうか分かりませんが,コミュニケーションを取りましょうということが話題になります。それは多分,事前事後だと思うんですね。あるいは一方でもいいのかもしれませんが。それが別の文脈で語られると,手続保障という話になるのかなと思います。
したがって,どうもこの8ページの2の3行,共有者全員での協議(話合い)を経ることを要しないことを明確にすることについて,どう考えるか。いいか悪いかと,何か二者択一を迫られているような感じがするんですが,どうもやはり,イエス・オア・ノーでは答えられないのではないんでしょうか。やはり方向としては,この補足説明の中にある,他の共有者の中に所在不明等が不明である者がいれば決められない。この隘路(あいろ)は,やはり今回,時間を掛けて検討するわけですから,そこは乗り越えるべきなんだと思うんですね。
だけれども,乗り越える方策として,協議,話合いを経ることを要しないとし,それを明確にするというのではないんだろうなと思います。何かもう少し,ちょっと事務当局には,頭で汗をかいてもらわないといけないのではないかなと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
よい言葉かどうか分かりませんが,とおっしゃっていただきましたが,やはりコミュニケーションという言葉が良い言葉であろうと感じます。手続保障は,ちょっと堅いですよね。
事前及び事後のコミュニケーションか,あるいは事前又は事後のコミュニケーションか,しかし,いずれにしてもそれらについて軽々しく扱うという感覚で議論をすることはできないという観点の御提示を山田委員から頂きましたし,それから沖野委員の御発言で,仮にそこのところを引き続き重く考えていくということであったとしても,所有者不明土地問題などとの関係における政策的な課題の克服は,次の3の問題のところについて,しっかりした規律を仕込めば,それとして克服していくという余地もあるものであるから,そこにも留意する必要があるという御指摘を頂いたところであります。
2のところについては,今日はこの辺りまでの御議論を頂いておいて,整理をさせていただくことでよろしゅうございましょうか。ありがとうございます。
それでは,ここで,少しお疲れかもしれませんから,休憩といたします。
(休 憩)
「3 共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法」に対する意見
○山野目部会長 再開します。
部会資料3「共有制度の見直し(1)」の第1の3のところについての御意見を承ります。
○蓑毛幹事 第1の3のような同意取得の方法の制度を設けることについて,強く賛成します。
前回,メガ共有などというような言葉を申し上げましたが,所有者不明土地問題の本質は,所有者が分からないというだけではなくて,その後,調べた結果,非常に多数の共有者が存在することが判明する点にあります。このことは,実務的にも非常に問題になっております。
共有者が多数になっているために,共有物について関心がなく,管理方法について同意を求めようとしても,なかなか反応してくれない人が多いというケースもありますし,共有者の一部が所在不明,所有者不明の状況になっているものもあります。そういうことを踏まえますと,このような規律を設けることが適切だと思います。
ただし,1点,更に検討すべきだと思うことがあります。8ページの(注)に,「催告や公告についての公的機関の事前関与の要否につき」ということが書かれています。ここでいう公的機関の事前関与というのは,補足説明等を読む限り,催告や公告が適切になされているのか,また,そのことについて確答がされたのか,されていないかということを,公的機関で確認するという趣旨だと理解しました。
それを超えて,催告や公告の内容,どのような管理をするかという内容について,ある程度,裁判所等で審査をした方がいいのではないかという意見が日弁連内で出ています。
つまり,催告や公告をして,確答しない人については,権利保護というか手続保障はしているのだから,それでいいではないかという考え方がある一方で,特に変更又は処分について,潜在的には反対とか,変更又は処分によって不利益を被る人もいるということを考えると,催告や公告の内容に関し,必要性や相当性について裁判所で審査する,非訟手続になると思いますが,そのような手続を経た方がいいのではないかということについて,私自身はまだ今,確定的に見解を持っておりませんが,検討した方がいいのではないかと思っております。
管理行為については,そのような手続は要らないのではないかという考え方もありますが,管理行為についても,例えば,その管理の方法によっては,共有者に対して,一定額の管理費用を負担せよということになる,それが場合によると,金額が大きくなるということもありますので,管理行為についても,その必要性や相当性について,裁判所の許可を得るということを,今の時点でそうすべきだと申し上げるものではありませんが,検討した方がいいのではないかと思っています。
○山野目部会長 ありがとうございます。
3で提案していることについて,全般的な賛成を頂いたのと併せて,注記のところについて,更に考えてほしいという御意見,加えて,更にそれを発展させる形で,管理のことをおっしゃいました。
管理とおっしゃったのは,一般の言葉使いでいう共有物の管理のことだというふうに受け止めていいですよね。
○蓑毛幹事 この3の提案ですが,③は共有物の変更又は処分についての定めであり,④が,共有物の管理についての定めと理解しました。特に③については,必要性や相当性について,裁判所の許可を得ることを検討してはいかがと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
おっしゃっていただいたことは,今のようなことですから,ここの3にも関係があります。取り分け注記との関係で,関連があるというふうに感じます。
それとともに,ただいま12ページの4まで説明を差し上げたところですが,実は13ページから後で,管理権者を裁判所が選解任し,あるいは共有物について,その管理に係る必要な処分を命ずることができるという規律の提案も差し上げているところでありまして,これらの審議とも関連させながら御議論いただくべき事項について,今,問題提起を頂いたと感じます。
○今川委員 私も,先ほど蓑毛幹事がおっしゃったのと同意見です。同意取得の方法については賛成ですし,公的機関の関与は,やはり必要になってくると思います。
今,新しく規律を設けるわけですから,事後的に裁判所が最終的に判断する,紛争解決するというのではなくて,あらかじめ紛争を防止する仕組みが必要だと思いますし,管理の中にも一定の処分も入ってきますので,そういう場合には,やはり取引の安全の観点も必要だと思いますし,今,山野目先生がおっしゃったように,管理者の選任ということも絡んできますので,公的機関の関与は必要だと思っております。
それから,所在不明であるということの問題ですけれども,どういう作業をして所在不明とするのかというルールは,一定程度,はっきりさせておく必要があると思います。
我々実務家からしますと,特殊な場合は別として,所在を捜すというのは,そんなに苦痛ではないわけでして,例外はもちろんあるんですけれども,要はルールがきちんとしているかというところだろうと思います。
それから,催告,公告の方法ですけれども,登記簿上の名義人に対して,あるいは登記簿上の住所地に通知をするという選択肢も提示されておりますが,登記の重要性,それから登記情報を最新の情報に更新することの重要性を認識するという意味では,一つの方法だろうというふうには思います。
それから,将来において,戸籍情報や住民情報,住所情報と登記情報との連携が図られて,もしも職権で変更登記が入るというようになれば,それは当然にそうなるんであろうと思います。
ただ,一方で,今回,デジタル手続法案において,住民基本台帳法の一部改正の一環として,政令改正になると思うんですけれども,住民票の除票の保存期間を現行の5年から150年に延ばすということで,所有者の所在の探索に,かなり利便性が向上すると,こういう環境も整うわけですので,登記簿上の名義人でよしとするか,一定のルールを定めて,所在を探索するかどうかというところは,これから検討はしていくべきだと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ただいま衆議院の内閣委員会で審議されている途上の住民票の除票の扱いに関わる制度改革をにらんだ御指摘も頂きました。
蓑毛幹事から問題提起を頂いた8ページの3の注記のところでございますけれども,ここに注記を添えて問題提起を差し上げている趣旨は,ひとまず最小限は,この催告や公告などの手順が,何といったらいいでしょうか,最小限形式的な手順で,きちんと行われたかという事実の確認が必要だけれども,それですらあっても,単に私人が動いてやりましたというだけではなく,公的機関が関与した方がよいのではないかという意味合いを,少なくとも込めて差し上げています。
蓑毛幹事からは,更に発展させ,その催告や公告をその状況,あるいは時宜においてすることの適切性というような実質的判断も,場合によっては,してもらった方がよいという仕組み方もあるではないかというお話も頂いたところで,そちらの後ろの方のお話は,御案内差し上げたように,この後に,まだ説明を差し上げていない部分と関連させて議論していただく必要があります。
単なる事実の形式的確認であるならば,必ず裁判所にしてもらわなければいけないということでもないであろうと感じます。一種の公証事務であるということになりますから。その辺のところについては,この部会資料として,何か特段の方向を前提としてお願いしているものではなくて,皆様方に御議論いただきたいと望みます。議論をオープンにしておきたいという気持ちから,3のところの注記は差し当たり,裁判所ではなく,公的機関というふうに記しております。
13ページから後の話も関係ありますよ,というふうに,私,先ほど申し上げてしまいましたけれども,もう少し精密に言うと,その辺のところを見極めながら,御議論なさっていただく必要もあるであろうと感じます。
○道垣内委員 後ろに関係するので,今発言すべきかどうか分からないんですが,公的機関の関与について,一言だけ申し上げます。
結論的に,どういうふうな法制度がいいというふうな,何か強い意見があるわけではないのですけれども,信託法を比較して少しお話ししたいと思います。大正時代にできました信託法におきましては,受託者が悩む場面においては,裁判所にいろいろ相談できる,指示を仰ぐことができる,というシステムになっていたわけです。それは,英米の信託法がそうなっているから,そうなっていたわけですが,それでも英米信託法と比較しますと,ごくわずかであり,平成19年に新信託法を作るというときに,裁判所にどんどん相談をしていく,これは権限ないかどうかというのをあらかじめ聞けるようにしようとか,いろいろ意見は出ました。しかし,裁判所から大反対が起きまして,どういったことを受託者がやれば,より適切に受益者が保護できるかなんていうことが,裁判所に,その都度その都度判断できるわけないではないかと主張されたのですね。私は,もっともな反論だと思っておりますが,そういった反対もあり,現行の信託法は,裁判所があらかじめ,事前の段階でいろいろなチェックを入れて,こうやったらいいのではないのというふうなことに対して,お墨付きを与えるという制度は原則的には存在しないこととなりました。
これについて,もちろん,それは不適切な立法だったという評価も十分あろうと思います。しかし,日本の法制度において,一つのコンシステンシーが必要であると考えたときに,信託法においては,個々具体的に何をすべきであるというふうな判断というのが,裁判所に委ねることはおよそ不可能であるという判断がなされ,他方で,共有のときには,裁判所にやってもらうといいのではないというふうに言って,みんな,そうだそうだというふうに言うのは,私は若干,どこかにおかしいところがあるのではないかという気がいたします。それでもそれを乗り越えてやろうというならば,もちろんそれで結構なのでして,したがって,私は結論として,何かを主張するわけではないというふうに申しましたが,日本法の中での,そういう一貫性,統一性というものも考慮に入れて,御議論いただければと,いただいた方がいいのではないかというふうに思います。
○山野目部会長 よく分かりました。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
この部会資料3の第1の3「共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法」につきましては,既に蓑毛幹事,それから岡田委員の方から御発言ございましたが,私も全面的に賛成したいと思います。
その上で,細かな点を3点ほど確認したいんですが,一つは,今回,意思表明をしない共有者とか,所在が不明な共有者の意見を考慮に入れなくてよい理由です。それを正当化する理由として,部会資料3の9ページの(2),(3)に書いていただいていることは,きちんと整理していただきたいというふうに思っております。つまりそういうふうに,共有持分権の効力を制限してよい理由が,(2)の方には,意思表明をしなかったり,不明な共有者の合理的意思に反するとは言えないのではないかということが書かれていて,(3)の方では,さらに,これらの者の権利を制約しないと共有物の利用が阻害されることから,それを防止する観点であることが記されています。
特に(3)は,やはり非常に重要な点なので,こういう形で共有持分権の効力を制約する根拠は何かということについては,きちんとその理由を整理して確認しておくことが肝要であろうと思いました。
その上で,細かな要件に関しての確認なんですが,部会資料3の8ページの3の②の中で,「他の共有者の所在が不明であること」という部分があるんですけれども,この中には,所在不明のほかに,そもそも共有者が誰か分からないという場面,例えば,共有者の1人について相続等が生じていて,共有者が分からないという場面も含まれるのかどうかということについて,要件を確認させていただきたいと思います。
後ほど,共有物自体が相続の対象財産だと,遺産共有ということは出てきますけれども,共有者の1人について,相続等が生じていて現在誰が共有者であるのか不明な場合は,ここに含めていいのかどうかということであります。
それから,もう1点は,先ほど岡田委員から発言がございましたけれども,確認の手続で,登記簿上の住所に催告等の書面を送付すればよいということですけれども,共有者の全部又は一部が不明の場合に,所有権あるいは共有持分権の効力を制約する類似の例として,土地収用法の場合の不明採決の場合がございます。この場合には,過失なくして知ることができないという要件があります。また,昨年成立しました所有者不明土地利用円滑化法の中では,特定所有者不明土地ということを判断するときに,相当な努力をしても分からないという規定を法律に置き,その意味については,非常に詳細な政省令,ガイドラインが出ておりますので,そういう場合とのバランスをも考慮した上で,この手続上の緩和ということが問題ないかということを確認したいと思いました。
不明所有者の探索のために過大な負担を課すと,やはり本末転倒になってしまいますので,そこはバランスを確認した上で,客観的に明確な,ここまで確認しておけばいいですよというルールにすべきではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございました。
松尾幹事から多岐にわたる御意見を頂きましたから,それらを踏まえ今後の整理を進めたいと考えます。
最後の方でおっしゃった,このゴシックで示してある文章の共有者の所在が不明であるということの意味は,御指摘等も踏まえて,これから更に深めていこうと考えます。恐らく,もちろん御指摘があった土地収用法の不明採決の局面であるとか,昨年成立した所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法などの,この局面を扱う規律の先輩に当たるところがありますけれども,どちらかというと,あの系統の法制を参考にしたというよりは,これは民事法上設けようとしている規律でございますから,不動産登記法の70条が,現在既に,登記義務者の所在が明らかでないという概念を用いており,あれと同じ発想で,ここに規律表現のサンプルをお出ししているものであろうと理解します。
そうであるとすると,所在が分からない場合のみではなく,一種のもちろん解釈から,所有者そのものが分からない場合も含まれると考えられますし,70条の運用の中で積み上げられてきたところを参考にしながら,過失なくして,というふうに正面から書くということにするかどうかを考え込みつつ立案をすることになりますが,仮に書き込まなかったとしても,もちろんその辺のところは運用の中で考慮されていくということになると想像されます。
今,松尾幹事から御指摘いただいたようなことに注意をしながら,今後,この種類の制度を採用するときの規律表現を考え込んでまいりたいと考えます。ありがとうございます。
○佐久間幹事 今話題になっていることとちょっとずれるんですけれども,3の特に①に関しまして,先ほどの2と組み合わせるようなことは考えられないのかということを,ちょっと伺いたいところがございます。
それは,今3で話題になっているというか,焦点が当たっているのは,過半数を得たい,あるいは全員同意を得たいときに,不明の方がいる,あるいは答えない人がいるということで,その人たちを除いて過半数に,あるいは全員同意にするための手続ですよね。
ただ,例えば,2の場合,先ほど沖野委員が言われたことが気になっておりまして,共有者の1人が持分の上では過半数を握っていると。ただ,その場合も,1人では決定できないのではないかというふうなお話がありましたよね。私はできていいのではないかと思っておるんですけれども,ただ,そのときに,私自身が先に申し上げましたことでいうと,他の共有者について,自分の権利が知らないうちに動いてしまっているということはいいんだろうかと,先ほど申し上げたつもりなんですね。
これを前提といたしますと,例えば過半数を持っている人,あるいは,何人か合わせて過半数を超えている人たちが,過半数でもって決することができる事柄について決定したいというときに,何をもって決定することができ,その決定はどの時点から効力を生ずるのかということを考えた場合,まず,過半数で内部的には決めました,あるいは一人でどうするか決心したとします。そこで決められたことについては,他の人たちが幾ら反対したって,少数なのですから,どうしようもない。ただ,そのようなときであっても,過半数で決めることについては,①の相当な期間を定めて,他の共有者に,管理に関する行為について承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることは必要である。催告をして,承諾を得られたならいいんですが,承諾しないというのであっても,結局それでもって,過半数の決定というのはプロセスとして終わりました,その返事をもって効力を生じました。返事が来なければ,相当の期間を経過することによって,同じく決定,法的に効力を生ずる決定となりました。3の提案は,こういうふうにも使えるのではないかと思いました。
3そのものについては,全体としては賛成ですが,それと違う用い方をすることは,排除されているのかどうかということをちょっと伺いたいということです。同意を調達するために,要件を満たすためにしかこれは使えないのか,ほかの使い方もあるのかということです。
○山野目部会長 お尋ねの仕方で,今御発言を頂きましたけれども,2と3の関係に関し,御指摘を頂いた2の問題を解決するために3の発想を,言わば移入して問題解決をしていくということは考えられているかということについて,法務省事務当局において,特段の前提とか,何か御案内したいという強いものを持っているものではなく,むしろ今,佐久間幹事に御提案いただいた発想をヒントとして受け止め,今後の議事の整理をしていくということになるものであろうと考えます。
あわせて,佐久間幹事に御礼を申し上げるとすれば,つまり,先ほどの2のところは,確かに山田委員に明快に整理していただいたように,コミュニケーションは要るか要らないかというふうに,大上段に短兵急に聞かれれば,なかなか要らないと,そんなものは蹴飛ばしてしまえとは,なかなか言いにくいですが,反面,実務なり事業の現場で,様々な悩みを抱えている方々から見れば,コミュニケーションは必ず要る,なおかつ,そのコミュニケーションは必ず重いものですというふうにされたのでは,この2のところの論点が重くなり過ぎて,お話が非常に進みにくいという問題にぶつかります。
理論的にこう考えられるという側面と,政策的な実効性の確保という面の両方を見て,非常に悩ましい状況になりますけれども,その隘路を打開していく際の一つの,唯一の方途ではないかもしれませんけれども,ありうるアイデアとして,2で考えられているコミュニケーションというものは,それとして重要であるが,しかし,そのコミュニケーションを確保するための様々な工夫として,3で御提示申し上げているようなものも今後組み込んでいくというようなことは考えられてよいという,佐久間幹事から今頂いたヒントは貴重なものでありますから,それも踏まえ,今後,事務当局において議事を整理することにさせていただきます。
佐久間幹事,ひとまずそのようなことでよろしゅうございましょうか。ありがとうございます。
引き続き,いかがでしょうか。
○岡田委員 実務の観点からということで申し上げさせていただきますと,本日の前段の前半の議論にありました土地の所有権の放棄の要件のところで,隣接地との境界が特定されという要件が一つ,案として挙がっておりますけれども,このような場面におきましても,実際,隣接地の方と境界がはっきり決まらなくて,処分を諦めるというような場面もたくさんございます。実際にございます。そのような意味からも,このような方策が準備されることは,とても必要な措置だろうというふうには感じております。
境界の安定は,私どもにとってみれば,安心の根本というふうに考えて,日々業務をしておりますし,そのような観点からも,隣接地の,隣接の方の境界を確認するという行為が,このような形で,今現在は全員の同意をもらってきなさいというような場面もあったりもするので,是非こういう措置は必要ではないかなというふうにも感じております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ここでの議論に,もちろん関係することでありますが,改めて相隣関係を議論するときに,今の岡田委員がおっしゃっていただいた観点を再度強調して,御指摘いただければ有り難いです。
引き続き,3のところについて,いかがでしょうか。
ひとまずよろしいですか。
○山田委員 質問です。どこかに書いてあるかもしれませんが,申し訳ありません,見付かりませんでした。
この3のところで,公告が出てきます。公告の方法としては,どんなことを具体的に考えていらっしゃるのか。今の段階で結構ですので,事務局のお持ちのものを御説明いただけませんでしょうか。
○脇村関係官 今のところは,幅広く考えてはいまして,新聞なりインターネット,いろいろ考えているところなんですけれども,恐らく,公的機関が入るかどうかによっても変わってくるのかなという気がしておりますので,もし公的機関は入らずに,民間でやるんでしたら,新聞とかそういう普通の,会社とかでされているケースになると思いますが,ちょっとそこは併せて検討したいと思っていますが,どうしたらいい,先生,何か御意見いただければ。
○山田委員 いわゆる官報,日刊新聞,電子公告という,それですか。
○脇村関係官 そうですね,はい。ただ,公的機関を関与させるかかどうかで大分変わってくると思いますので,それも含めて検討させていただきたいというふうに思っております。
○山田委員 分かりました。
○山野目部会長 よろしいですか。
したがいまして,公的機関を関与させることにするかどうかという注記のところが,小さな文字で書いてありますけれども,この制度のイメージを作っていく上では重要な論点であって,引き続き検討しなければならないと感じます。
この3のところ,大変難しい議論ですが,今日の段階で御意見を承っておくことを頂いた上で,検討を続けようと考えますから,更なる御発言を頂きます。いかがでしょうか。
よろしいでしょうか。今まで御指摘いただいたところを踏まえて,では検討させていただきます。
続きまして,12ページの4のところ,共有物の管理に関する行為と損害の発生のところについて,御意見をお願いいたします。いかがでしょうか。
○脇村関係官 少し,資料作成の意図を少しだけ説明させていただきたいと思っていますが,先ほど蓑毛先生から,3の催告,公告の内容について,審査した方がいいのではないかという御意見を頂いたのとも関連するんですけれども,この4について,あえてこういった損害の填補に関する提案させていただいたかといいますと,公告を使ったケースについて,内容それ自体に,事前事後,特に事前に介入するのは難しいかもしれないけれども,他方で,それによってむちゃくちゃなことをされたケースについては,きちんと損害を填補するということが重要ではないかというふうに思っておりまして,この4につきましては,今でもある問題ですが,特にこの3についてのような,催告なり公告の手続を入れる場合には,重要な規律になってくるのではないかというふうに考えているところでございます。
○蓑毛幹事 今,脇村さんからありましたので,私自身の意見を申し上げると,強く裁判所の許可の制度を作ってくれと申し上げているつもりはありませんので,ちょっとその点だけ補足しておきます。
そういうことも含めて,その先にある共有物の管理者のところもそうですし,例えば,その後の最後のところの売渡し請求のところの金額の妥当性のところであるとか,様々なところでいろいろな問題が出てきますので,そういったところについて,これは要るのではないか,要らないのではないかということをもう少し問題提起をした上で,皆で議論した上でということですので,現時点で私が,先ほどの3のところについて,全てのケースについて,裁判所の許可を求めるべきだと申し上げているつもりは全くありませんので,ちょっとその点を少し補足で申し上げておきます。
○山野目部会長 蓑毛幹事の御意見は,大変よく理解することができました。ありがとうございます。
「4 共有物の管理に関する行為と損害の発生」に対する意見
ほかにいかがでしょうか。4のところでございます。
○道垣内委員 よく分からないのですが,これ,誰が損害を填補するのですか。決定者ですか。決定に問題があったという場合にでしょうか。また,決定と因果関係がある場合なのでしょうか。私はシチュエーションがよく分からないままなのですが。
○脇村関係官 すみません,そこがなかなかあれなんですけれども,先生がおっしゃっているとおり,当該行為をした共有者と同意をしている共有者が,ずれるケースがあろうかと思います。そういった意味で,どちらにもなのか,あるいは行為をした人だけなのかというのがあれなんですが,一応合意をしている以上は,責任を負うのかなという気もするんですが,すみません,是非御意見いただければというふうに思っています。
○道垣内委員 いや,何というか,それは,例えば共有物の管理のときの善管注意義務違反なのでしょうか。つまり,例えば,1人だけ行方不明の人がいるから,その人については催告で同意を調達したとして,だけれども,そのときのその判断においては,善良な管理者の注意に反することはないとしても,責任を負うのでしょうか。行方不明のその人を抜きにしてやったということが根拠になってでしょうか。
何に基づいて責任を負っているのか,私にはよく分からないままなんですが。
○山野目部会長 恐らくこの部会資料作成の意図は,先ほどの別な議題のときに出ましたように,法制審議会は別に法律の解釈について意見を述べる場所ではありませんから,放っておいても民法709条の要件が全て主張立証がかなうときに,立証した被害者が当該要件を充足した加害者に対して損害賠償請求をすることができることは当然でありまして,そのことをわざわざ規律表現として設けるとか,ここで御審議をお願いするとかいう必要はありません。
709条ではカバーできないような局面があり,それが,この前の1から3までの規律を設けたことによって生ずるとすれば,そのことについての付随的な法制上の措置として,必ずしも民法709条の要件を充足していなくても,金銭による補償といったらいいか賠償といっていいか悩む部分があるものですから,補填という言葉を用いていますけれども,そのようなことができるということを,もちろん解釈の提案ではなく,法制上の規律として,こういうものがあり得るのではないかということで,問題提起を差し上げています。
御案内はそこまでであって,そこから先のものを,何か事務当局として深く考え込んでお出ししているものではありませんから,委員,幹事におかれまして,そのようなきっかけでの議論ならば,こういう面でのこういうことは考える必要があるというような御示唆を多く頂くことがかなえば,これをまた事務当局で受け止め,整理してまいるということになりますから,何とぞお知恵を頂きたいというふうにお願いする次第でございます。
○道垣内委員 それでは,質問しないで意見を述べますが,帰責根拠が不明であり,置くことに反対します。
○大谷幹事 すみません,こちら,ここの部分が,やや分かりにくいところがあったかと思いますけれども,この部会に先立つ研究会の議論では,こういう形で催告をしたけれども答えなかったという人は,例えば不法行為的なことをされることについてまで同意をしたということになりませんかねという議論が元々あって,不法行為責任を問うことができないわけではありませんよということを確認した方がいいのではないかという議論が確かあったように思います。
道垣内委員の御意見を頂ければと思うんですが,不法行為責任を,これは問わないという意味ではありませんということ,それは当然だということでは,規律を置く必要はないということになるんでしょうし,そこのところがはっきりしないのであれば,明確にするということもあり得るということなのか,いかがでしょうかね。
○道垣内委員 すみません,よろしいですか。
そうすると,書き方として,いろいろあり得るわけでありまして,つまり,1又は3の検討中の規律に従って,同意をするということは,当該行為の責任の免責の意思を含まないという書き方をするというのが一つであるのかなあ,いやおかしいな,やはり,提案者は,提案による責任なのですかね。いや,行為による責任なのですかね。
いずれにせよ,大谷さんがおっしゃったことは分かるんですが,4のような書き方にはならないのではないかなという気がいたします。申し訳ございません。
○中田委員 今の大谷幹事の御説明で分からなくなってしまったんですけれども,3の③の規律は,催告又は公告をした共有者は,確答していない共有者以外の共有者全員の同意を得てとなっていますよね。確答しなかった人は,同意したとみなされるのか,それとも全体の中から排除されるのかというのは,私は,むしろ全体から排除されるのかなというふうに理解していたんですが,そういう理解ではないんですか。
○大谷幹事 その御理解自体は,そのとおりでございます。排除されるということでございます。
○中田委員 それはそれでいいんですね。
○大谷幹事 はい。
○中田委員 そうすると,明示的な同意をした人と,全体から排除された人と2段階あるわけですね。そのうち,明示的に同意をした人が責任を負うことになるとすると,その根拠は何かということが余りはっきりしないというのが道垣内委員の御指摘で,会社法において,決議に賛成した役員の責任というのもあるわけですが,それと同じようなものなのか違うのかとか,やはり誰が誰に対して,なぜ請求できるのかということを整理していただくとよろしいのではないかと思います。
○脇村関係官 元々の議論というか,想定していましたのは,この共有者はそれぞれ,持分に応じて利用する権利を有しておりますので,その定め方によって,ある1人が,全く使えないですとか,そういったときに,何らかのそういう権利侵害的なものが発生したときについては,何らかのそういう責任を追及できてもいいのではないかということを考えておりました。
それはある意味,共有者間での権利侵害してはいけないという義務的な発想,共有者の持分をきちんと尊重しないといけないというか,そういったことの裏返しなのかもしれないなと思っていますが,それとの関係で,権利侵害について,何からの手当てをしないといけないかというのが,最初思っていたところです。
先ほど,その続きの話として,では権利侵害をしたとき,あるいは権利を尊重しないといけないということを尊重しなかったことについて,誰が責任を負うのかというのは,2通りあるのではないかと思っていまして,積極的に同意をして,そういった,ある意味権利侵害するような定めをして利用させたこと自体に求めるのか,やはり利用したこと,実際に利用していたとか,そういったことに求めるのか。その辺りはまだ,どうしていいのかがよく分からないところもあり,それは恐らく,そもそもそういう権利を侵害されたケースについて,どういった理由で責任を負うのかが,検討が不十分だったせいなんだろうと思いますので,また改めて検討していきたいと思っているところでございます。
○道垣内委員 もう1点だけ言わせてください。
その大前提として,現存してというか,何といいますか,アクチュアルにというか,現実に同意をした人というのは,その結果として,自分が不利益を被っても,損害賠償請求権を有しないのではないかということがあるような気がするのですが,そこも本当にそうなのかという疑問も生じるのですね。
よく企業などで契約に基づいて一定の行為義務を負うというときについて,こんなことやっては駄目なのではないかと指摘しますと,いや,顧客の同意を取っていますから大丈夫なのです,と答えてくださいます。しかし,消費者,顧客が,そのような変更ないしは行為によって,どのような不利益を被るのかということが十分に理解できていないときに,いくら同意があるからといって,そのような不利益が生じることにつき悪意または有過失の大企業の方が,そういった変更ないし行為を提案して,それで同意を取りましたから責任ありませんと言われますと,そうはならないでしょうと,私はよく思うのです。
そうすると,共有の場面においても,提案をして,同意があったら,同意をした人は必ず責任は問えなくなるのかというと,それはそうではないわけであって,そこのところも考えないと,このようなみなし同意か,中田さんの話では,排除であるという話だったんですが,そういう人について,その人は責任を追及できますよというふうな規律を置くことの意味が変わってまいります。その点も気になるということを申し上げておきたいと思います。
○蓑毛幹事 何か具体的な事例を想定しておっしゃっていただいた方が,分かりやすいのかなと思いました。
例えば,非常に価値のある土地があって,それが5人の共有になっています。そして,それを貸せば,年間1,000万円の賃料が得られる土地でした。ところが,共有者の1人が自分の近しい人に,ただ同然の金額で,この制度を使って貸してしまった。後になってから,所在不明だった人が現れて,本来は年間1,000万円取れるのだから,その5分の1の200万円分,自分が損害を被ったと主張した。例えばこういったようなケースですかね。
このケースで,そもそも所在不明だった人に200万円の損害があったと言えるのか,それを誰に請求できるのか,そのような管理をやろうと言った人が悪いのか,貸してもいいよと言って,明示で同意した人も責任を負うのか,そういった議論でしょうか。
例えば会社の取締役であれば,取締役の善管注意義務があるので,株主に対して責任を負うことはありますが,共有者にはどのような義務があるのでしょうか。共有者が管理方法について明示の同意をしたら,損害賠償請求を負うのか。なかなか難しい問題があると思います。あるいは,主体的に自分の近しい人に貸すということを言い出した人には責任があるのか,しかし言い出したということの法的な意味は何なのか。
この辺り,一体,何が損害なのか,何に基づいて共有者が責任を負うのかということは,もう少し具体的な事例を,ちょっと今思い付きで事例を申し上げましたけれども,そういったことを整理して議論した方がいいと思いました。感想だけですけれども。
○山野目部会長 ありがとうございます。
いえ,感想に尽きる話ではなく,正に民法の先生方から御指摘を頂きましたし,蓑毛幹事からは,具体的な局面として検討すべきものの一つの例を挙げていただきました。
御指摘よく分かりましたから,4のところは事務当局において,直ちに没にするという話にはならないかもしれませんけれども,皆様方に具体的に議論いただける局面を,次の議論の機会に部会資料において提示をさしあげ,それで御議論を引き続きお願いしたいと考えます。
4のところ,このようなことでよろしゅうございましょうか,今日のところは。
○山田委員 もう一度検討してくるとおっしゃったので,それで結構です。楽しみにしています。
○山野目部会長 分かりました。
今おっしゃっていただいた感触も,事務当局の方で受け止めてもらうことにいたします。ありがとうございました。
それでは次に,部会資料の13ページから後ろに即して,第1の残余の部分についての資料説明を差し上げます。
○脇村関係官 では,御説明させていただきます。
5から7までは,共有者の,共有物の管理者について取り上げております。
5 共有物の管理者の選任等
5 共有物の管理者の選任等
(1) 管理者の選任義務等
共有物を管理する者(以下「管理者」という。)の選任義務等に関する次の各案について,どのように考えるか。
【甲案】
① 共有者は,共有物の管理者を選任しなければならない。
② 共有物に管理者がないときは,裁判所は,申立てにより,共有物の管理者を選任することができる。
【乙案】
① 不動産の共有者は,不動産の管理者を選任しなければならない。
② 不動産が共有物である場合において,不動産に管理者がないときは,裁判所は,申立てにより,不動産の管理者を選任することができる。
③ 共有者(不動産の共有者は除く。)は,共有物の管理者を選任することができる。
【丙案】
① 共有者は,共有物の管理者を選任することができる。
(2) 共有者による管理者の選任の要件
共有者による管理者の選任の要件に関し,次の規律を設けることで,どうか。
① 共有者による管理者の選任は,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する。
② ①の選任については,共有物の管理に関する行為(変更又は処分以外の管理に関する事項)についての同意取得の方法(第1の3参照)と同様の制度を置くものとする。
(3) 裁判所による選任の要件等
ア 第三者の申立てによる選任
前記(1)の論点(管理者の選任義務等)につき【甲案】又は【乙案】を採用する場合に,第三者の申立てによる選任に関する次の各案について,どのように考えるか。
【甲案】管理者が選任されていなければ,裁判所は,利害関係を有する第三者の申立てにより,管理者を選任することができるものとする。
【乙案】管理者が選任されていないことのほかに,例えば,次の各事情があれば,裁判所は,利害関係を有する第三者の申立てにより,管理者を選任することができるものとする。
① 共有者の数が多数にのぼること
② 共有者の中に所在等が不明な者があること
③ 共有物が管理されておらず,害悪等が発生していること
(注1)利害関係については,共有者に対し共有物に関する権利を有するなど法律上の利害関係を有する場合に限らず,当該共有物の購入を希望しているなどの事実上の利害関係を有する場合にも認めるのかについても,併せて検討する。
(注2)管理者の選任をする際には,共有者に管理者選任の催告をするなどして,管理者を選任する機会を付与するかどうかについても,併せて検討する。
イ 共有者の申立てによる選任
前記(1)の論点(管理者の選任義務等)につき【甲案】又は【乙案】を採用する場合に,裁判所による管理者の選任の申立権を共有者に認めることについて,どのように考えるか。
(注)共有者の申立てによる選任の要件についても検討する。
5では,選任について取り上げており,(1)では,共有物を適切に管理したり,第三者に対する便宜を図る観点から,管理者の選任を義務とすることや裁判所による選任について取り上げております。
(2)では,共有者による管理者の選任の要件を取り上げております。
(3)では,裁判所による選任の要件等を取り上げており,特に,この裁判所の介入をどのような場合に認めるか,御検討いただければ幸いです。
(4)では,共有者による申立てによる選任を取り上げておりますが,その要件と併せて御検討いただければと思います。
6 共有物の管理者の権限等
6 共有物の管理者の権限等
(1) 管理者の権限
管理者の権限に関し,次の規律を設けることで,どうか。
① 管理者は,総共有者のために,共有物に関する行為をすることができるものとする。ただし,共有物の変更又は処分をするには,共有者全員の同意を得なければならないものとする。
② 前記①ただし書の同意(共有者が共有持分を喪失する行為についての同意を除く。)については,共有物に関する行為についての同意取得の方法(第1の3参照)と同様の制度を置くものとする。
③ 共有者の持分の価格の過半数の決定で,管理者の権限を制限することができるものとする。
(注1)裁判所が,共有者全員の同意に代わる許可の裁判をした場合には,管理者は,共有物の変更又は処分をすることができるものとすることについては,引き続き検討する。
(注2)共有持分を喪失する行為についての同意取得の方法に関しては,後記第3の1(通常の共有における不明共有者の持分の売渡請求権等)において別途検討している。
(注3)裁判所が選任した管理者に関し,裁判所が管理者の権限を制限することができるものとすることについては,裁判所による選任を認めることと併せて引き続き検討する。
(2) 管理者の義務
管理者は,善良な管理者の注意をもって,事務を処理する義務を負うものとする。
(3) 報酬
① 共有者に選任された共有物の管理者は,特約がなければ,共有者に対して報酬を請求することができないものとする。
② 裁判所に選任された共有物の管理者については,裁判所は,共有者に対し,管理者に対する相当な報酬の支払を命ずることができるものとする。
6では,管理者の権限や義務,報酬について取り上げており,権限については,(注)にもありますが,裁判所が共有者全員の同意に代わる許可の裁判をすることや,共有持分喪失行為についての同意取得の方法など,併せて御検討いただければというふうに存じます。
7 管理者につき他に検討すべき事項
7 管理者につき他に検討すべき事項
共有物の管理者につき,他に検討すべき事項について,どのように考えるか。
7では,他に検討すべきということで,いろいろ書かせていただいておりますが,共有者以外の第三者を選任することができるのかといった管理者の資格や管理者の任期,管理者を置くことができる共有物を不動産に限定することや,辞任・解任,不動産に関して管理者を選任したことを不動産登記における登記事項とするのかや,管理者の法的性格などについて検討することが考えられるところでございます。
8 裁判所による必要な処分
8 裁判所による必要な処分
裁判所が,共有物の管理に関し,必要な処分を命ずることができるものとすることについて,どのように考えるか。
8につきましては,裁判所に必要な処分について取り上げております。今後検討がされる予定である不在者財産管理又は相続財産管理人が問題となる場面では,財産管理人の選任のほかに,裁判所が他の必要な処分を命ずることができるのかについて検討することを予定しており,共有物の管理においても同様に検討すると考えられますので,御意見いただければというふうに思います。
「5 共有物の管理者の選任等」に関する意見
○山野目部会長 ただいま説明を差し上げた中で,第1の5,共有物の管理者の選任等の部分について,まず御意見を承ります。
○蓑毛幹事 共有物につきまして,以前から申し上げているとおり,極めて多数の共有者がいたり,所在不明の者がいたりする場合があります。このようなことを踏まえますと,共有物の管理者を選任して,適切に管理する仕組みを作ることは有益だと思いますので,この制度の創設に賛成します。
ただし,その先の議論,部会資料でもこの後にいろいろと書かれていますが,共有物の管理者がどのような権限を有し,どのような義務を負うかということについては,非常に難しい問題がありますので,共有物の管理者の制度を設けることを前提として,更に議論を深めるべきだと思います。
この5の提案について意見を述べますと,まず,共有者の管理者をどのようなときに選任することができるか,あるいは選任しなければならないかということについて,甲案は,全ての共有物について共有者は管理者を選任する義務を負う,乙案は,共有不動産について共有者は管理者を選任する義務を負うとなっている。丙案は,共有者は共有物の管理者を選任することができるとなっていて,義務ではないと,こういう立て付けになっていると理解しました。
この点に関しては,不動産に限るとしても,共有者は常に管理者を選任しなければならないとするのは無理があると思います。そこで,丙案に賛成します。
(3)の第三者の申立てによる選任ですが,これは,私ども弁護士が持っている問題意識を酌んでいただいたと思うのですが,例えば乙案のように,一定の要件を満たしたとき,すなわち共有者の数が多数に上る,共有者の中に所在等が不明な者がある,共有物が管理されておらず,害悪等が発生しているというときに,このような状況で,所在不明の者も含めて全ての共有者を相手にするのは非常に大変です。今回の配布資料にはありませんが,訴訟も含めて,そのような者を相手にするときには,実務的な観点からは,共有物に管理者を置いた上で,その管理者を相手に交渉したり訴訟を起こしたりできるようにすることは,非常に有益だと思います。そういう意味で,少なくとも一定の要件を満たしたときには,第三者の申立てにより,管理者を選任するということがよろしいのではないかと思います。
一方,今回の事務局の提案は,今私が申し上げたことと整合しないものになっていまして,甲案か乙案を前提とした場合に,第三者は裁判所に選任の申立てができるとなっています。ここを何とか解決できないかと思っております。
恐らく事務局で作成された意図としては,共有者が管理者を選任する義務があるからこそ,第三者は,管理者選任の申立てができるのであって,共有者に義務がない場合にまで,第三者が管理者の選任を申し立てることはできないという前提に立たれているのではないかと理解しました。そこを,何とかなりませんかねというところです。
具体的には,5の(1)で,丙案,つまり共有者は共有物の管理者の選任をすることができるということをベースとしつつ,(3)のアの乙案のように,一定の要件を満たす場合には,共有者は管理者を選任する義務があるという立て付けにした上で,そのような場合には,第三者も裁判所に選任の申立てができるというふうにしてはいかがというふうに思っております。
○山野目部会長 純粋な丙案は,多分今でも解釈上できますね。しかし今,蓑毛幹事から,純粋な丙案に加え,更に内容を豊かなものにして,それと第三者申立てとの関係についても,発展的に議論してほしいという御提案がありました。ありがとうございます。
○道垣内委員 また,日本法全休の話とのバランスの話なのですが,(1)の甲案,乙案というのは,突出しているのではないかと思います。また,(3)の裁判所への選任を求め得るというのも,日本法上,突出しているのではないかという気がします。
私は覚えていることが少ないので,覚えている範囲で信託法の話をしますと,信託において複数の受益者がいるという場合には,受益者の同意を得たりするのが面倒なんですね。また,複数の受益者みんなが信託の管理に関心を持っているわけではありません。そこで,信託法は,信託を設定する際に,受益者の保護のために受益者代理人を定めることができるという話になっています。しかし,定めなければならないということにはなっていません。
そして,定めなければならないという発想というのは,実は,相手にする人に有利に,あるいは,便利になるようにしようという発想なのですが,少なくとも,信託法では,建前上,そういう発想は採られていない。しかしながら,それに対して,信託行為,つまり信託契約を作るのは,みんな信託銀行であり,受託者としては,1人を相手にすると簡単だから,受益者代理人を信託行為で,自らが受託者になる信託行為で定めてしまおうとする。だから結局,信託法の建前としては,複数受益者の利益のための代理人だと書いてあるけれども,これは実は受託者の便宜のための制度になってしまっていて,建前の説明とずれているという批判もあります。強く批判されているのは佐久間さんですので,後で御意見を伺えればと思いますけれども,そして,その佐久間さんのおっしゃっていることの方が,実は本音だというふうにいうと,本件は非常に日本法上,一貫性を持った提案になっているんですね。でもそれは,言ってはいけない本音のはずです。受益者の便宜のためにこそ,受益者代理人がいるわけであって,だからこそ受益者代理人を置かなければならないのではなく,置けるという話になっているのではないかと思います。
関連しないかもしれませんが,若干続けて言いますと,複数の人がいるときに,全員一致が建前のときには代表を定めなければならないということには日本法上の原則としてはなっていません。例えば複数後見人,複数成年後見人の場合であっても,2人ともオーケーといった場合にだけ行為をするのが慎重でいいという考え方で後見人が複数にされている場合もあるわけです。それが合手的行動義務と呼ばれるものであり,慎重に,かつ,相互監視をしながら事務をすすめていくということですね。権利者がたくさんいるときに便利なように,意思決定を単純にすればいいのだという仕組みにも,日本法全体としてはなっていないと思うのです。
3番目といたしまして,実は管理者の権限というところに関連して,18ページの上から3行目ぐらいの③ですかね,4行目ですね。そこに,共有者の持分の価格の過半数の決定で管理者の権限を制限することができるものとすると書いてあるのですが,これがまたよく分かりません。つまり,(1)の方の甲案,乙案というのは,代理人を定めてスムーズに動くようにしなければいけない,管理者を定めて,スムーズに動くようにしなければいけないというふうに言っておきながら,他方では,権限としてすごい狭めてしまうと,それは達成できないわけですよね。
そうなると,そこにも,ポリシー上の矛盾ないし対立みたいなのがあるのではないかなという気がして,私としては,このままでは,そうたやすく賛成できないというふうに思っております。
○佐久間幹事 私も甲案,乙案は反対でございまして,共有は飽くまで私人の権利関係であり,共有者が,共有物について,どのようにするかということを決めればいいことであり,その点で,所有者の自由と変わらないと思います。第三者に,たとえ決定方法とはいえ,どのようにして意思決定をしなさいとか,あるいは何か法律行為をせよと求めることができるとか,そういう権利があるとは,およそ思えないと考えております。
それに対し,例えば丙案については,先ほど山野目部会長が,現行法でもできるはずなんですよねとおっしゃり,私もそう思います。ただ,例えば管理人の権限について,6以下でしたっけ,デフォルトルールとして,こういう権限を認めるんですというようなことを定めることは,いろいろな場面で役立つのではないかと思います。そこで,例えば,共有物の管理人を選任することができるというようなこと,あるいは,この丙案を置いて,その管理人の権限をデフォルトルールとして法定するということは,あってもいいのかなと思っております。
あともう1点,第三者の申立てによる選任については,この①,②,③が,アンドなのかオアなのかちょっと分からないですが,アンドで結ばれているとしましても,例えば共有者が多数に上る場合であって,その中に所在不明の者があったとしても,先ほどの3でしたっけ,同意取得の方法をかませれば,現に所在を把握している共有者に接触して,その人に所在不明の人との関係をちゃんと調整してくださいということを働き掛け,働き掛けに応じてくれるならば決定を調達することができるし,動いてくれなかったら諦めるしかないということではないか,と思っております。
③の共有物が管理されておらず,害悪等が発生しているというのは,要するに第三者が迷惑を被っているということなんだろうと思いますが,その場合に,妨害予防請求とか妨害排除請求をするときは,共有者の1人を捕まえて請求することはできないんですかね。私は可能なのではないかと思うんですが。
できないのであれば,それが容易になる方法を考える必要はあるのかなとは思わないわけではないですが,できるのであれば,この③の場合に,共有者間で意思決定をしてもらう必要はないので,管理者をそれに代わるものとして置くということは,必要性が乏しくなるのではないかと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
少し前の蓑毛幹事と私とのやり取りで,丙案は現行法でもできるでしょう,というふうに申した趣旨は,できるから丙案は要らないのではないかと申し上げる意味ではなく,今,佐久間幹事におっしゃっていただいたように,丙案の規律のみを置くということで話が終わるのではなく,これを置くと,その管理者の標準的な権限のありようについての規律を置く前提が整ったり,あるいは第三者申立ての規律を関連させて置く可能性が開かれたり,さらには,不動産登記法を改正して,土地建物については管理者を登記するということが自然に法制上成り立つといったようなことがあり得ますから,蓑毛幹事からも御指摘がありましたが,引き続き議論する価値があるだろうということで申し上げました。趣旨を明瞭にしていただいて,ありがとうございました。
その他,佐久間幹事からは,第三者申立てを認める場合について,(3)アの乙案のところにある①,②,③の論理的関係や,それぞれの性格についての評価についても,注意すべき点がそれぞれあるという御指摘を頂きました。
引き続き御意見を頂きます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
今の共有物の管理者のところですけれども,企業の実務サイドからは,やはり,かなり評判がいいというか,特に,共有者が多くてなかなか話が進まないときに,第三者が申立て等で管理人を選任できるという制度のメリットは大きいのではないか,という意見はかなり出ております。
(1)の原則に関しても,これはちょっと意見が分かれているのですが,甲案,乙案でもいいではないかという考え方も当然ございます。ただ,一方で,法律的な話を離れると,共有者に共有物の管理者の選任を義務付けた場合に,本当に熱心にやる人が管理者になってくれれば良いのですが,そうでなかった場合には,管理者にならなかった他の共有者は当然共有物への関心がなくなりますし,管理者自身も余り関心ないということになって,ますます管理が行き届かなくなるのではないかという懸念も若干出ているところです。したがって,ここは,甲案,乙案のように常に管理者の選任を義務付ける,というよりは,本当に必要なときに,選任ができるような制度の方がいいのではないか,というのは,今,感覚的には思っているところでございますが,現時点では,両方の意見があるということを申し上げておきたいと思います。
あと,今の話の関連で,管理者を選任する際の話は,ここに出ておるんですが,例えば解任するときはどうするのかとか,そういったところの話も,セットで議論する必要があるのではないか,と思うところです。
○今川委員 私も,共有物の処分や管理を促進するという観点からすると,この管理権者を選任するというのは非常に有益と思います。特に,第三者が共有物に対して何らかの行為をしたいというときに,数が非常に多いと,一人一人と交渉しなければなりませんけれども,やはり管理者がいると,それはスムーズに進む。実際の取引を促進するという意味からは,管理者を置くということは非常に有益と思います。
それで,裁判所に選任の申立てをするということも,やはりあった方がいいように思われます。そうしないと,結局,管理者を置くことができるといっても,置かれない場合が多くなってしまいますので,申立てができた方がいいと思います。
ただ,その場合には,申立ての前に,(注2)ですかね,14ページの(注2)ですけれども,選任の機会を与えるためにも,催告をするということが必要と思います。
それから,先ほど放棄のところで出ていました,放棄の前段として,マッチングですね,利用,あるいは,それを所有したいという人たちがいる場合に,その共有物に対してアプローチをするというときに,利害関係人の範囲,管理人,管理者を選任する利害関係人の範囲は,なるたけ広い方がいいとは思われます。
そうすると,13ページの(注1)ですけれども,購入を希望している人,普通は利害関係人を考えるときに,購入を希望している人となると,結局全て,誰でも認めていいということになってしまうので,余りこれは,抑制的に考えるのが普通なんですけれども,先ほど申し上げましたように,選任を催告すると,そうした上で申立てをしていくというふうに作り込みをすれば,逆に申立てをする人を広く認めていくということは,今回,特に共有物の管理・処分をスピーディーに,スムーズにやれるようにという観点からは,非常に有益と思います。
○山野目部会長 道垣内委員,次,佐久間幹事の順でお願いします。
○道垣内委員 私には全く理解できません。というのは,例えば,非常にたくさんの人が共有していてもいいし,10人でもいいのですけれども,そのとき現存している人との間の交渉がうまくいかないといって,管理者の選任を申し立てる。しかし,大体みんな合意していて,しかし,所在不明の人もいるというときには,以前検討しました催告の手続によって合意を取るために共有者側が行動すればすむのですね。
それを,処分を受けようとする,させようとする側が処分をスムーズに進めるためには管理者がいた方がいいという話は,所在がはっきりしており,同意をしている人たちですら,催告手続といった強制手段を採ろうとしていないときに,「いや,絶対処分した方がいいよ」と言って,勝手に管理者を選任して,それで,その管理者1人と交渉して,よし,処分しようというわけでして,そんなむちゃくちゃな制度はありませんよ,日本法上。
○山野目部会長 今川委員に何か御発言があったら,また伺いますけれども,まず順番として,佐久間幹事,お願いします。
○佐久間幹事 もうちょっと上品に言おうと思うんですけれども,同じようなことを。
今道垣内委員がおっしゃったようなシチュエーションで,管理人を選んだとしますよね。この管理人は,一体どういう決定をできるんだろうかというのが分かりません。管理人は善管注意義務を負うわけですよね。その善管注意義務の内容として恐らく欠くことができないものとして,所有者の意思を尊重する,共有者の意思を尊重するというのがあると思うんですね。
その場合に,道垣内委員がおっしゃったようなシチュエーションで管理人が選ばれました。その人と交渉して,管理人が,「いいです。売却しましょう。」といえば問題なく売却できるのかというと,それは単なる義務違反だから,法的には有効だということになるのかもしれませんけれども,当事者の合意をきちんと調達できない状況で管理人を選んだって,管理人は実際上動きようがないのではないかというふうにも思います。
それで,結局,先ほど私の名前を出していただいたのに,コメントしないでおこうと思ったんですけれども,受益者代理人の話と,やはり全く一緒だと思うんですね。都合のいい人をとにかく立てさせて,取引をしようというんだとすると,当該物件について全くまだ権利を持っていない人が,自分が取得したいから,あるいは都合のよいような取引の内容にしたいからということで,そのように動いてくれるかもしれない可能性のある人を相手方のほうに立てさせようというわけですから。余り上品に言えていないかもしれませんけれども,やはり反対です。
○山野目部会長 十分に上品であったと感じます。
今川委員,何かおありですか。
○今川委員 後で出てくると思いますが,私は処分行為をする場合には,裁判所の許可が要るというような立て付けになるんだろうなと思っていましたので,そういうのを前提として意見を申し上げておりますし,どうしても意見が分かれている場合には,最終的には共有物分割請求をされるんだろうとは思いますし,それと,単に数が多いというだけではなくて,不在者がいるというような場合には,有益なのかなとは思っております。
○山野目部会長 ただいま,(3)裁判所による選任の要件等の中のア,第三者の申立てによる選任をめぐって,委員,幹事の間で,かなり熱い議論が交わされております。どの御指摘も傾聴に値することではないかと感じます。
次のページのイにある,共有者が裁判所に対して選任を申し立てるというお話のところについても,委員,幹事にもし御意見があったら,伺っておきたいとも考えます。
それから,そのほか,(1),(2)などについても,まだ仰せでない意見があったらおっしゃってください。いかがでしょうか。
○山田委員 促された点ではなくて,5全体について申し上げたいと思います。
共有物の管理者という制度は,共有に関する管理の行き届かない状況がある場合に,そのレベルを上げていくための法制度として,たくさんのことが検討されているんですが,私は,唯一ではないにしても,重要な役割を果たすべきものだと思いますので,これについては時間を掛けて,知恵を集めて,いい制度を作っていくべきだと思います。そして,この制度は作るべきだと思います。
そして,共有者でなくてもいいが一つ目ですね。
それから,二つ目は,(1)については丙案が適当だと思います。なぜならば,共有であるだけを理由に管理者を選任しなければならない,あるいは,不動産に限ったとしても,管理者を選任しなければならないというのは,過大な負担だろうと思います。
確かに,(3)のアの乙案に書いてあるような事例を見ると,不動産については,選任しなければならない事情があるかもしれないというのは,そう思います。しかし,家族が2人で,これ夫婦でもいいですし,親子でもいいですし,兄弟でもいいです。不動産を購入したら,共有になることが多いと思います。そのときに,管理者を選ばなければならないと民法に定められているから,管理者を選びましょうと。選ぶコストは低いかもしれませんが,ちょっと制度として過大だと思います。そうしますと,丙案で管理者を選任することができると,これだろうと思います。
そして,先の方に関連するんですが,そのときに重要だと思われますのは,共有者全員を管理者が代理すると,代理権があると,その範囲は全部ではなくてもいいと思います。ちょっと,処分・変更に係ることはできないというのはあり得ると思いますが,できるとするのが,一つポイントだと思います。
そして,代理とともにですかね,あるいは含まれるのかもしれませんが,裁判上の訴訟遂行が共有者全員のために,原告としても被告としてもできるということを明確なルールとして置くことというのが,この(1)の丙案を採ることにおいて,重要な意味を持つと思います。
そして,(2)ですが,管理者の選任の要件を過半数で決することを積極的に検討すると良いと思います。ここ,全員の同意で決することができるならば,作るまでもないのかもしれませんが,過半数で管理者を選任できるとすると。随分状況は変わるのではないかなと思います。
第三者による申し立てによる裁判所の選任は,あった方がいいんだろうと思うんですが,ちょっと理屈をどう付けるかというところは,御発言が出ているように難しいなと思います。しかし,信託がちょっと例になっているので,信託を例にすることの意味がよく分からないところもあるんですが,私も信託を例にすると,受託者がいなくなって,新しい受託者を選任するときに,必要がある場合はですが,裁判所が選任するという規定があります。申立ては利害関係人がすることができるというものです。そのようなものも参考になると思います。
ですから,そういう考え方はあり得るかなという感じがしますが,信託は,一旦出来上がった信託で,受託者がいなくなって,みんな困っているという状況があるんですが,共有は,管理者がいなくて困っているという状況は,信託の受託者がいなくて困っているというのに比べると,大分小さいかなと,法的な意味で,小さいかなと思われますので,ちょっと,第三者の申立てによる選任のところは意見を持ちません。
○山野目部会長 イのところは,いかがでしょうか。
○山田委員 イのところもですね……しかし,(2)の②があれば,いけるのではないかなという気もします。
○山野目部会長 共有者による裁判所への選任の申立ては,第三者申立てとは状況が異なり,共有者が裁判所に申し立てることはありうるというお話ですね。
○山田委員 ええ,共有者による選任は,丙案でもあり得ると思うのですが,そして,アのところの弊害が随分小さくなると思います。しかしそれは,(2)の②ですかね,②でいけることもあり。そこまで,裁判所の選任を作ること,そのことに私は反対ではないんですが,抵抗が大きいのであれば,代替策はこの中には用意されているなと思います。
○山野目部会長 どうもありがとうございました。
山田委員から幾つか有益な御注意を頂きました。管理者を仮に制度として設けるときに,管理者は共有者である必要はないということは,それをきちんと補足説明に書いてありませんでしたが,資料作成の意図は当然にそうです。御注意いただきまして,ありがとうございました。
それから,第三者申立ての適否については,今日種々の御指摘がありましたから,引き続き検討していかなければなりません。参考までに御案内しますと,現在国会においては,表題部所有者の記録が変則的な状態になっている状態を是正するための個別法の審議が予定されていますが,その法律の案の後ろの方に,管理者を選任することができるという制度があって,あれは信託法の受託者が不在であったというケースの規律を参考として,こちらの方に可能な範囲で参考にしようというものが,法制的な説明です。今,くしくも山田委員から,いろいろ議論を続けていくに当たっては参考にしてくださいという御指摘を頂きました。
この5の点について,引き続き御意見を頂きます。いかがでしょうか。中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。
私自身は,丙案プラスアルファといった辺りが妥当かなと思っているのですけれども,問題は,その場合に,管理者を選ばなければならなくなるような事態というのは,共有者間で利害が反しているような場合,又は共有者がたくさんいてなかなかコミュニケーションができないような場合とか,そもそも共有者がどこにいるか分からないといった難しい事案になろうかと思います。
ここの13ページの(2)の管理者の選任の要件との関係が問題になってくると思うのですが,その場合に,過半数で管理者を選べるということにしますと,過半数で押し切られて,自分が信頼していない,又は管理を委ねるつもりがない人が管理者になるという事態になり得るわけですね。
部会資料の後の方を拝見しますと,管理者の権限と義務という辺りでは,委任に関する規定を参考に,権利義務を考えるような想定になっているかと思うのですけれども,委任というのは信頼関係のある人に対して,ある法律行為を委ねる,又は準委任であれば,ある法律行為以外のことを委ねるということになりますが,信頼関係を基にする委任に準じて,例えば善管注意義務の中身を同じように考えることができるのかとか,管理者の権限を同じように考えても大丈夫なのかというところを,もう少し踏み込む必要があるかと思います。
つまり,まず過半数で管理人,管理者を決定することができるとしていいのか,要件が軽過ぎはしないかというのが一つと,その場合に,権利義務の範囲をどのように考えるのかということです。
後に検討するとされていますけれども,管理者の訴訟上の権限をどうするのかという問題もあって,共有をめぐる訴訟に関しては,ものすごく難しい問題がある中で,管理者が訴訟追行できるということになってしまうのか。その場合,従来,固有必要的共同訴訟であることが要求されてきたものが,たまたま過半数で選ばれた管理者にできてしまうというようなことになりはしないかとか,大変難しい問題があると思いますので,ここは,丁寧に区分けをして御提案いただければ有り難いと思います。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。
ほかに,5のところはいかがでしょうか。よろしいですか。
5について,有意義な御議論を頂きました。5の(1)は,甲案,乙案,丙案の中,比較的丙案に言及していただいた委員,幹事が多かったように思います。
甲案というものは,これはもう,ほぼ考えにくいですね。どう考えても,共有物一般で管理者を選任しなくてはいけないという,これが規律として成り立つチャンスというものは,ほとんど埒外であるだと感じますけれども,事務当局で引き続きお考えください。
それから,(2)について,幾つか御指摘いただいた点を更に深めていきます。
(3)は,アのところについて,たくさんの御指摘がありました。あわせて,イについても御意見を頂いたところであります。これらの全般について,検討を深めてまいりたいと考えます。委員,幹事の皆様方には,御意見を頂きまして,ありがとうございました。
「6 共有物の管理者の権限等」に関する意見
続きまして,6,共有物の管理者の権限等にまいりますが,今,中村委員のお話に少し,それについての問題提起が含まれていたところであります。
改めて,6のところについて,委員,幹事の皆さんの御意見を頂きます。
6のところで,権限,それから義務,報酬などについての話題を提供しておりますけれども,いかがでしょうか。
(2)と(3)は,多分このようなことであろうと考えられますが,そこについても御意見を頂きたいですし,取り分け(1)の権限のところについては,この機会に御意見があれば承っておきたいと考えます。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 共有物の管理者の権限に関しては,先ほど中村先生がおっしゃったように,全員一致でなく選ばれる,つまり反対者がいる訳です。こういう状況で,管理者は何ができるのかということを考えなければいけません。特に今,私どもの方で関心があるのは,仮に,訴訟の遂行権限を共有物の管理者が持つとすると,影響が大きいので,よく考えなければいけないと思っていまして,そこと併せて全体的に考えないといけない。共有物の管理者の権限を,今回の部会資料の範囲だけで考えるのは難しいと思っています。
その上でですが,共有物の管理者が,反対者もいる中で選任されていることからすれば,基本的には,17ページの(1)①にあるように,共有物の変更又は処分をするには,共有者全員の同意を得なければならない,ということにすべきと思います。次に,その際の同意取得の方法は,18ページの②にあるように,第1の3の方法も使えるよと。これもいいと思います。共有物の管理者の選任に反対した人であっても,変更・処分について聞かれたときに確答しなかったのだったら,その人は定足数から除くということでもいいと思います。
では,共有物の管理方法を変えるときはどうなるのか。今回の提案は,一旦過半数で選ばれてしまえば,共有物の管理者は,管理行為に関する限りは,③の制限がない限り,オールマイティーということのようです。共有物の管理者は,善管注意義務を負うので,変な管理はしないだろうということが前提なのでしょうが,しかし,それでいいのかという問題意識を持っています。とはいうものの,管理方法を一々変える度に,また全て同意を取り直しということになると,それも無理でしょうから,このような提案に落ち着くのかなと思っているのですが,管理者の権限については,訴訟も含めて,全体を見た上で,バランスをとって,何度も申し上げているように,管理者の選任に反対者がいることも考慮して,考えなければいけないと思っています。
○中田委員 ちょっと御質問なんですけれども,先ほどの今川委員の御発言とも関係するんですが,管理者が置かれた場合であっても,共有物分割請求というのは依然として可能だという理解でよろしいでしょうか。
それから,もう一つ,共有物分割請求について,合理化するような方策は,今後御検討の御予定はおありでしょうか。
○脇村関係官 まず前半につきましては,作成したときの意図としては,共有物分割,当然できる,共有物分割できる前提で考えていました。その上で,緊急性あるときにどうするか,管理者が変に動いているときに止めるかというのは,保全的な手法も含めて検討していくんだろうなとは思っておりました。
もう1つの方は。
○中田委員 分割請求手続が,現在なかなか機能しにくいところを是正することを検討するかどうか。
○脇村関係官 ありがとうございます。次回の,次の部会資料には,共有物分割を取り上げようと思っていまして,そこでいい知恵が出せるといいんですけれども,どこまでの案が出せるのか,今検討中ですが,項目としては取り上げる予定にしています。そこで皆様に,是非御意見を頂きたいとは思っているところです。
○山野目部会長 中田委員に1番目の御質問いただいたとおり,管理者が選任されていても,共有物分割請求の手順に何らさわりになるものではないということが資料作成の意図であるということの紹介をしてもらいました。
明言がありませんでしたけれども,共有物分割請求訴訟が固有必要的共同訴訟であるということにも特段影響はなくて,管理者がいるから,別に管理者だけ相手にすると分割ができるということにはならないという前提で資料を作っているものであろうと思いますが,引き続き御意見を頂いていきたいと考えます。
それから,後半のところでありますけれども,実は,今日は「共有制度(1)」という部会資料をお示ししていますが,「共有制度(2)」というものを次回以降にお諮りしていこうと考えておりまして,中田委員の少し前の御発言で問題提起を頂き,今も問題提起いただいた共有物分割の在り方についての改善点はないかという課題,それから,共有と訴訟の関係の問題,さらに,共有物に係る時効取得の要件の見直しという難問ばかりあります。
今日の段階で,これだけの議論があって,次回,これよりも難度が上がりますから,ご負担をお願いしますけれども,そのように調査審議を続けてお願いしようというふうに考えているところでございます。
引き続き,いかがでしょうか。
それでは,権限のところは,蓑毛幹事から,ひとまずはこれを見ておいたけれども,まだまだ全体で見なければいけないという御指摘があったとおりだというふうに感じますから,御議論いただいたところを踏まえ検討を続けてまいるということにいたします。
「7 管理者につき他に検討すべき事項」に関する意見
続けて,20ページの7,管理者につき検討すべき事項,そのほかにないかという問題提起がありますが,これだけ尋ねられても,やや御議論がしにくいかもしれません。あわせて,第1の8まで,最後の8まで御検討をお願いし,21ページの8の裁判所による必要な処分,これらについて,本日段階で御指摘いただけることを承っておきます。
ここもやはり最初に御議論いただいた管理者の制度の基本像のところについて,更に議論を深めていかないと,そこから派生し,発展した論点である7や8のところは,議論がしにくいという感触をお持ちの方が多くいらっしゃると想像しますし,それはごもっともなことであるであろうと感じます。本日段階で頂く御意見で結構ですから,承っておきたいと考えます。いかがでしょうか。
○岡田委員 管理者を選任された場合に,20ページのところにありますけれども,不動産に関して,管理者を選任したことを不動産登記における登記事項にするのかについても,検討が必要ということでございますけれども,私どもの立場から発言させていただけるとすれば,交渉等と書いてございますけれども,お隣の方に会うために,めくらめっぽう,山の共有者20人に当たるよりは,とても有り難いと思います。管理者がいていただけると。
それを登記簿によって公示することを前提というか,必要,検討しましょうということでございますけれども,登記簿のこれ,甲区欄なのか表題部なのかというところまで,今のところの感触でいいんですけれども,教えていただけるかなと思いますが,いかがでしょうか。
○脇村関係官 すみません,まだそこまで考えていないですが,恐らく,管理者の権限ですとか,そこに書いています,登記の効力をどうするかによって,どちらか変わってくると思いますので,それを踏まえて検討していきたいと思っております。
○山野目部会長 こちらの事務当局の席では何か,多分,表題部ではないかとかという声というか呟きが聞こえますけれども,実は準共有の民法の規定の適用関係について,特段の規律を設けなければ,権利部乙区に記録されている権利についても,準共有の場合に管理者の規定が働くものですから,例えば休眠抵当権の処理などで困る場面の抵当権の登記名義人について,準共有をする者が多数に上るような事例において,管理者を選任して問題処理を進めるというような用いられ方をすることもあり得るものです。そうすると,必ずしも表題部に記録するという話にはならないかもしれません。これは技術的な問題ですから,こちらで引き続き検討するということにいたします。
引き続き,いかがでしょうか。
道垣内委員,次,今川委員,お願いします。
○道垣内委員 登記事項とするということの意味なのですが,登記をしなかったらどうなるんですか。その人は管理者としては行動できない。あるいは,そうではない人が名前を書いてあったら,表見代理が当然に成立するのでしょうか。いや,おかしいですよ,これ。それは登記事項にはならないと思いますよ。
○山野目部会長 道垣内委員の御意見をおっしゃってください。
○道垣内委員 登記事項にすべきではありません。
○山野目部会長 現行法の規律で,登記上記録をしていて,それについて,しなかったときどうなるかというような議論が起こる場所というものは,既存法制にいくつかあるわけでございますから,それらとのにらみで,また,今の御指摘も踏まえた上で関係法律整備において検討していくということになるでしょうか。
○今川委員 先ほどの議論に絡むのかもしれません。第三者が管理者の選任申立てができるかどうかというのは,皆さんいろいろな意見があるというのは分かったんですが,管理者を置いたとして,共有者全員の同意によって処分権限を与えることができるということについては,多分御異論はないんだろうと思うんですけれども,そのとき,取引の安全の観点からですと,第三者にそれを,どのようにして証明していくのかと。同意があったということを何らかの形で示せばいいということにはなるんでしょうけれども,取引に入る第三者からすると,やはり,例えば公正証書により証明しないといけないとか,そういうものがないと,安心して取引ができないということもあるとは思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。御指摘に引き続き留意します。
ほかにいかがでしょうか。
「8 裁判所による必要な処分」に関する意見
○佐久間幹事 8でもよろしいでしょうか。
○山野目部会長 お願いします。
○佐久間幹事 裁判所が,ここに書かれている,共有物の管理に関し,必要な処分を命ずることなんですが,想定されているのは,結局,共有者間で必要な合意を調達することができないとき,というか一定の合意に達しないというときに,その達しない合意に代わる,言わば処分許可みたいなものを,裁判所に期待するということでいいか,ということを伺いたく存じます。もし仮にそれでいいとしたら,それは先ほどの,裁判所による管理人の選任と同じようなことになるんですけれども,共有者が,これは資料にも書かれているところですけれども,共有者自身が決定することができない,要件にのっとってできないところを,他者が決定するというのはいかがなものか。適当ではないのではないかと思います。
○山野目部会長 現在の民法の規律の中で見出される局面としては,不在者の財産の管理において,裁判所が与える,現場でニックネームで呼んでいる権限外許可の審判があります。あの民法の法文も必ずしも明晰ではないかもしれませんが,少なくとも実務の運用としては,売却処分までの権限を審判によって与えることができるという解釈・運用がされてきたと理解しています。
今の佐久間幹事の御意見は,そこまで裁判所が,ここの8でするということは相当でないという御意見を承ったというふうに理解してよろしいのですね。
○佐久間幹事 不在者財産管理の問題についてですか。
○山野目部会長 不在者財産管理の似た局面と比べてみて……
○佐久間幹事 いや,似ていないのではないかと。不在者財産管理の場合は,不在者自身が自ら管理をすることができない状況にあるので,管理人を選び,その管理人に権限を与えているのに対し,ここで想定されているのは,共有者が1人もいないという場合ですか。
○山野目部会長 ええ,似ているようにみえ,しかし,似ていないから,さてどう考えるかということでしょうか。
○佐久間幹事 そうそう,似ていないから,同じようにはできないのではないかと。
○山野目部会長 現行の不在者財産管理の法文の言葉の使いぶりを踏まえて申しますと,それは不在者財産管理の局面であるからかもしれませんが,かなり大きなことができるという,裁判所ができるという運用になっていますし,8の太字の規律表現が不在者財産管理と同じになっていますけれども,あれと同性質の問題ではないですよ,という御注意を今頂いたと受け止めました。
○佐久間幹事 はい,そうです。すみません。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き,いかがでしょうか。
おおむね,共有物ないし共有不動産の管理権者の問題の全般について,御意見を承ったというふうに受け止めてよろしいでしょうか。
今日の審議の過程で明らかになりましたように,いろいろ宿題はたくさんございます。次の審議をお願いする機会に向けて,事務当局において整理してもらうということになります。
部会資料の,ただいま第2の遺産共有における共有物の管理の手前のところまで,一巡して御意見をおっしゃっていただくところまでまいりました。言い換えますと,第2の部分がまだ残っております。
残された時間との関係からいうと,あと若干締めくくりの御案内がございますから,これ以上,第2のところに入っていって,御議論をお願いすることは困難ではないかと感じられます。
次回の部会におきましては,この部会資料3の第2の遺産共有における共有物の管理の問題について審議をお願いし,その後,次の部会資料として用意を差し上げるものの審査をお願いすることになります。先ほど少し申し上げましたけれども,共有物の時効取得,共有と訴訟,それから,共有物分割の在り方などの諸点について審議をお願いします。
引き続き,共有の御論議をお願いするに際しても,また部会資料を作成するに際しても,中田委員から御指摘があったように,分割終了のタイプと存続するイメージの共有との区別に留意しましょうという御話があり,これはごもっともなことでありまして,留意を致しますし,あわせて,その際に,中田委員から御指摘があった共有物分割の在り方について考えてほしいという論点は,正に次回の審議資料で扱われます。
本日,共有の第1の部分についての審議をお願いしていただいたところを顧みて,御案内を差し上げます。
本日,共有制度の見直しについて検討をお願いしなければならない事項の前半につきまして,多様な方面からの御意見を頂きました。思い起こしますと,明治に近代の法律制度が始まりました際,御案内している船舶共有の場合に限った話ではなく,今以上に共有という事態の特性を捉えた法律思考がされていたものではないかと思われます。
明治13年の太政官布告第36号(明治13年7月17日太政官布告第36号)には,「共有財産ヲ管理スルノ権」を有するという者が登場いたします。実は均分相続制を導入した戦後改革の機会にこそ,あらためて共有というものの在り方を考え込んでおく必要があったと感じますけれども,それが必ずしもなされないまま,今日に至りました。本日,この議題について,改めて法律家や各方面の皆様に,ここで論議を始めていただきました。緒についたばかりでございますが,始めていただいたことは,今後議論がどういうふうに進んでいくかを考え込まなければなりませんけれども,いずれにしても意義が大きいと感ずるものでございます。
事務当局から,次回に向けての事務的な御案内を差し上げます。
○大谷幹事 今,正に繰り返すまでもなく,次回はクールビズでということですけれども,資料もお持ちいただけると思いますが,次回の日程は,平成31年5月21日火曜日の午後1時から午後6時まで,場所は同じく,この東京高等検察庁の第2会議室になります。
テーマは,現時点では,共有の後半部分と,それから遺産分割の促進,財産管理というものを予定をしておりますけれども,こちらの方でできる限りの準備をして,早目に資料送付させていただきたいと考えております。
○山野目部会長 事務局から御案内を差し上げました。
これをもちまして,法制審議会民法・不動産登記法部会第2回会議を散会といたします。
どうもありがとうございました。
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【資料52】民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案のたたき台 (2)
第2 共有等
12 持分の放棄
共有持分の放棄については、現行法の規律を維持するものとする。
(補足説明)
共有持分が放棄されたときは、その持分は他の共有者に帰属するが(民法第255条)、動産・不動産を問わず、他の共有者に不当に負担を押し付ける結果となる場合には、共有持分の放棄が、権利濫用(民法第1条第3項)に該当することもあり得る。
特に、不動産については、管理の負担が大きくなりがちであり、その共有持分の放棄は他の共有者に不当に負担を押し付ける結果となりやすいと思われる。また、仮に共有持分の放棄が認められるとしても、登記義務者である共有持分の放棄者と登記権利者である他の共有者との共同申請によらなければならず(不動産登記法第60条)例えば持分の移転の登記をしない限り固定資産税の納税義務を免れることはできないし(地方税法第343条第2項参照)、他の共有者は共有持分権の一部不存在や登記引取請求権の不存在の確認を求めて争うことが可能であるなど、他の共有者に与える影響は比較的小さいと思われる。
他方で、管理の負担が大きくない物が共有されている場合や、株式等が準共有されている場合において、共有者の一部が共有持分を放棄して他の共有者に持分を按分で帰属させることは、その財産の管理の観点からも有用なケースもあり得るところであり、一律に他の共有者全員の同意がなければ放棄を認めないとすることは適当でないと考えられる。
以上を踏まえ、共有持分の放棄については、現行法の規律を維持することとしている。
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【資料51】民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案のたたき台 (1)
第2 共有等
1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、その使用の対価を償還する義務を負う。
② 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。
(補足説明)
部会資料40の4と、基本的に内容は同じである。表現ぶりについては、よりわかりやすいものとするべく、改めている。
2 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めるものとする。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができない。
(補足説明)
部会資料40の1においては、変更行為に該当するものであっても、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しない行為については、民法第252条の規律により持分の価格の過半数により決定できるとすることを提案していた。これに対しては、第17回会議において、「共有物の改良を目的とし」という要件に関して、客観的に価値を高めるものでない行為についても過半数により決定できるようにすべきであるという意見や、「著しく多額の費用を要しない」という要件に関して、その内容が不明確であり、費用という切り口による限定をすべきではないという意見があった。
これらの意見はいずれも、目的や費用の多寡を問わず、客観的に共有者に与える影響が軽微であると考えられる場合には、持分の価格の過半数により決定することができるとすべきというものであると考えられるところであり、これらの意見を踏まえて、変更行為に該当するものであっても、その形状又は効用の著しい変更を伴わない行為については、後記3①の規律に基づいて、持分の価格の過半数により決定できるとすることとした。
3 共有物の管理
民法第252条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の管理に関する事項は、民法第251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
② ①の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
③ 共有者は、①及び②の規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
④ 各共有者は、①から③までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる。
(補足説明)
1 本文①、②及び④について
本文①、②及び④は、部会資料40の2(1)①から③までと基本的に同内容である。
表現ぶりについては、第17回会議における議論を踏まえ、よりわかりやすいものとするべく、改めている。この規律は、遺産共有にも適用されることを前提としているが、配偶者居住権が成立した場合には、他の共有者は、配偶者居住権者の使用収益を受忍すべき立場になるため、別途、消滅の要件を満たさない限り配偶者居住権は存続し(民法第1032条第4項、第1038条第3項参照)、本文①の規律に基づいて配偶者居住権を消滅させることはできないと考えられる。また、第三者に使用権を設定している場合においても、同様に、本文①の規律に基づいて当該使用権を消滅させることができないと考えられる。
2 本文③について
部会資料40の2(1)④において、持分の過半数の決定により設定した使用権は、所定の期間を超えて存続することができないとする規律を設けることを提案していたが、第17回会議における議論を踏まえ改めて検討すると、持分の過半数の決定により設定することができる使用権に関する規律を設ける必要がある一方で、持分の価格の過半数をもって共有物に関する長期間の賃貸借契約を締結した場合には、その契約は基本的に無効になると解されるものの、持分の過半数によって決することが不相当とはいえない特別の事情がある場合には、変更行為に当たらないとする考え方もあることから、所定の期間を超えて存続することができないとする規律を設けることは、過半数によって決することができる管理行為の範囲を過度に狭めることになりかねず、相当ではないと考えられる。そこで、本文③において、本文①の規定によって、共有物に、所定の期間を超えない賃借権等の使用権を設定することができる旨の規律を設けることとした。
3 なお、共有者全員の合意とその承継(部会資料40の2(2))及び共有物の管理に関する手続(部会資料40の3)については、第17回会議における議論も踏まえ、特別の規律を設けないこととした。
4 共有物の管理における催告
共有物の管理における催告について、次のような規律を設けるものとする。
共有者が他の共有者に対し1箇月以上の期間を定めて共有物の管理に関する事項の決議に関し意見を述べて決議に参加すべき旨を催告した場合において、その期間内に意見を述べない共有者があるときは、その共有者は、その決議に参加しない旨を回答したものとみなす。この場合には、当該事項は、決議に参加した共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
(補足説明)
部会資料41の第1の1と、基本的に内容は同じであるが、意見を述べない者を決定から除き、意見を述べる者の過半数で決することを明確にする趣旨で表現を整えている。
第17回会議では、全員の同意を要する変更行為も新たな規律の対象に含める案(部会資料41の第1の1(注1))に賛成する意見や、裁判所の決定を要求する案(部会資料41の第1の1(注2))に賛成する意見もあった。
もっとも、部会資料41の第1の1の補足説明でも記載していたとおり、裁判所の関与を要求することは、当事者の負担が重く相当でないとの指摘や、裁判所が判断すべき事項が特になく、裁判所の関与を求める意義に乏しいとも考えられるとの指摘があり、第17回会議でも、裁判所の関与を求めない案に賛成する意見があった。また、裁判所の関与を求めないこととも関連するが、新たな規律の対象には、全員の同意を要する変更行為を含めるべきではないとの意見に賛成する意見もあった。
以上を踏まえ、本文のとおり提案している。
なお、この規律は、遺産共有にも適用されることを前提している(後記11参照)。
5 所在等不明共有者がいる場合の特則
所在等不明共有者がいる場合の特則について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができる旨の裁判をすることができる。
② 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、次のア及びイに掲げる裁判をすることができる。
ア 当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判
イ 共有者において当該他の共有者以外の共有者に対し1箇月を下らない期間を定めて共有物の管理に関する事項の決議に関し意見を述べて決議に参加すべき旨を催告し、その期間内に意見を述べない共有者があるときは、その共有者は、その決議に参加しない旨を回答したものとみなし、決議に参加した共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判
(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、(1)の裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産について(1)の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)の裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ イの届出がないときは、裁判所が(1)の裁判をすること。
② 裁判所は、当該他の共有者等が異議を述べなかったときは、(1)の裁判をしなければならない。
(注)(1)の裁判に係る事件は当該裁判に係る財産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
本文は、部会資料41の第1の2と基本的な内容は同じである。ただし、問題となる場面が複数あるため、それに応じて裁判の内容を書き分けている。
なお、部会資料41の第1の2では、裁判所の関与を必要としない案(同(注1))や、対象となる行為を限定する案(同(注2))を取り上げていたが、第17回会議での議論状況を踏まえ、取り上げていない。
本文①では、「共有物に変更を加えることができる旨の裁判」としているが、後記9及び10との対比からも明らかなとおり、ここでいう裁判の対象となる行為に、共有者が持分それ自体を失うこととなる行為(持分の譲渡のほか、抵当権の設定など)は含まれない。
この規律は、遺産共有にも適用されることを前提している(後記11参照)。
2 (2)(手続等)について
本文①及び②は、部会資料41の第1の2(注4)と内容は同じである。
なお、(1)の裁判は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、管轄の規定など個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。(注)では、管轄について部会資料41の第1の2の補足説明に記載していた内容を記載した上で、所要の規定を整備することを記載している。
6 共有物の管理者
共有物の管理者について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有者は、3の規律により、共有物を管理する者(②から⑤までにおいて「共有物の管理者」という。)を選任し、又は解任することができる。
② 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。③において同じ。)を加えることができない。
③ 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
④ 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
⑤ ④の規律に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
(補足説明)
部会資料41の第4と内容は同じである。ただし、本文①は、その選任又は解任が前記3の規律によって行われることを明記しているほか、本文③は、前記5の提案を踏まえたものとしている(本文③の対象には、共有者が持分それ自体を失うこととなる行為(持分の譲渡のほか、抵当権の設定など)は含まれない。)。なお、本文③の裁判の手続は、基本的に、前記5の(2)と同じである。この規律は、遺産共有にも適用されることを前提としている(後記7参照)。
なお、第三者を管理者とした場合の管理者と共有者との間の委任契約の関係や、共有者の1人を管理者とした場合の管理者と他の共有者との関係については、部会資料41の第4において一応の整理をしているが、いずれにしても、管理者との間の実際の契約内容等によって最終的に定まることとなると解されるため、特段の規律を置かないこととしている。
7 裁判による共有物分割
民法第258条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
③ ②に規律する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(補足説明)
第18回会議においては、いわゆる賠償分割の規律について、判断要素を明確化すべきという意見があった一方で、賠償分割が現物分割に劣後するかのような疑義を生じさせるべきではないという意見もあるため、これらの意見をそれぞれ反映して適切な規律を設けることは困難であることから、本文においては、部会資料47の考え方を基本的に維持することとした。
なお、賠償分割について、部会資料47②イのように「金銭を支払わせて、その持分を取得させる方法」とすると、金銭の支払が持分取得の条件となるとの誤解を生じさせるおそれがあるため、本文②イにおいては、「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」とすることとした。
8 相続財産に属する共有物の分割の特則
相続財産に属する共有物の分割の特則について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前記7の規律による分割をすることができない。
② 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、①の規律にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前記7の規律による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について前記7の規律による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
③ 相続人が②ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前記7①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日(当該相続人が同項の規定による請求をした場合にあっては、当該請求をした日)から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
部会資料42の第1の2(2)では、現在の判例の理解(共有物分割請求訴訟に係る判決では遺産共有の解消をすることができない)を基本的に維持した上で、その例外を定めることを提案していた。もっとも、そのような例外を定めるためには、現在の判例の理解を原則として維持することを示さざるを得ないため、本文①では、その旨を明示している。
2 本文②について
部会資料42の第1の2(2)と内容は同じである。表現ぶりについては、第17回会議での議論を踏まえつつ、よりわかりやすいものとするべく、改めている。
3 本文③について
本文資料42の第1の2(2)の補足説明では、共有物分割請求訴訟の中で相続人間の分割もすることを前提に審理が進められていたが、後に異議の申出がされ、それまでの審理に無駄が生ずる事態も起こることを防止するための措置を講ずる必要がある旨を記載しており、第17回会議でも、同様の指摘があった。
当該訴訟の中で相続人間の分割もすることができるかどうかは、訴訟の進行を考える上で重要であり、早期に決定すべき事柄であると考えられるが、相続の開始から10年間が経過していた場合には、それまでに遺産の分割をするかどうかについて検討する機会が十分にあったと考えられることから、共有物分割の訴えがあった当初の段階で、当該訴訟において相続人間の分割をすることにつき異議の申出をするかどうかを決することを求めることとしても許容されると考えられる。
そこで、本文③のとおり提案している。なお、「当該相続人が前記7①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日」とは、当該相続人が訴状の送達を受けた日となることを想定している。裁判による共有物の分割は、本質的には非訟事件であるものの伝統的に訴訟手続で処理する取扱いが確立しているが、民法上は、その旨が明確にされておらず、訴訟で処理することを前提とする文言が用いられていないことから、ここでは、訴状の送達等の用語を用いない表現としている。
4 その他
第17回会議では、地裁と家裁に同時に事件が係属した場合の処理につき言及する指摘が複数あった。共有物分割請求訴訟において当該共有物につき遺産共有関係も解消することについて期間内に異議の申出がされず、その訴訟で遺産共有関係が解消される見込みとなった場合であっても、直ちに、当該共有物の遺産共有の部分が遺産から除外されるものではないが、相続開始から10年を経過し、遺産分割は法定相続分等で処理されることとなり、一部分割も基本的に許される状態になっていることから、事案ごとの判断ではあると思われるが、共有物分割請求訴訟の帰趨を待たずに、当該訴訟の対象を除いて遺産分割をすることもできると解される。
9 所在等不明共有者の持分の取得
所在等不明共有者の持分の取得について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
② ①の請求があった持分に係る不動産について前記7①の規律による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が①の請求を受けた裁判所に①の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
④ 共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
⑤ ①から④までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イ、ウ及びオの期間が経過しなければ、(1)①の裁判をすることができない。この場合において、イ、ウ及びオの期間は、3箇月を下ってはならない。
ア 所在等不明共有者の持分について(1)①の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)①の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ (1)②の異議の届出は、一定の期間までにすべきこと。
エ イ及びウの届出がないときは、裁判所が(1)①の裁判をすること。
オ (1)①の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が(1)①の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
② 裁判所は、①の公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、①(イを除く。)の規律により公告すべき事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
③ 裁判所は、①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。
④ 裁判所は、(1)①の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。この裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
⑤ 裁判所は、申立人が④の規律による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
⑥ (1)①の裁判の申立てがあった裁判所が①の公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が②オの期間が経過した後に(1)①の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、その申立てを却下しなければならない。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
(1) 本文①及び③から⑤までについて
本文①、④及び⑤の内容は部会資料41の第2の①、②、(注1)及び(注5)と、本文③の内容は部会資料42の第1の3とそれぞれ同じである。
なお、本文③で、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合とした上で、共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限ってこの規律の対象としているのは、相続は発生しているものの、遺産共有の状態が生じていないケース(例えば、相続人不存在など)を除外するためである。
(2) 本文②について
第17回会議では、遺産分割の調停の申立てがある場合に、遺産分割調停と所在等不明共有者の持分の取得手続との役割分担について言及する指摘があった。遺産共有に限らず、通常共有のケースにおいても、他に分割請求事件が係属しており、その中で、所在等不明共有者の持分も含めて全体について適切な分割を実現することを希望している共有者がいるケースでは、基本的にはその分割請求事件の中で適切な分割をするべきであり、それとは別に、所在等不明共有者の持分のみを共有者の1人が取得する手続を先行させるべきではないと思われる。
そこで、本文②のとおり提案をしている。なお、第17回会議では、相続開始から10年を経過した後に、やむを得ない事由があって具体的相続分による分割を求めることができるケースでは、新たな規律を用いるべきではないのではないかとの趣旨の指摘があったが、そのケースも含め、本文②のとおり遺産分割の請求をし、届出をすれば、遺産分割が優先される。
2 (2)(手続等)について
本文①(ウを除く)、②及び⑥は、部会資料41の第1の(注2)(注3)の内容を具体的に書き下したものである。
本文①ウ及びそれに関連する②及び③は、(1)②のとおり異議の届出を認めたことに伴い、その届出期間を定めるものである。
本文④及び⑤は、部会資料41の第1の(注4)の内容を具体的に書き下したものである。
なお、(1)①の裁判は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、管轄の規定など個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。(注)では、管轄について部会資料30の第2の1(1)等の補足説明に記載していた内容を記載した上で、所要の規定を整備することを記載している。
10 所在等不明共有者の持分の譲渡
所在等不明共有者の持分の譲渡について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
② 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ ①の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
④ ①から③までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 前記9(2)①ア、イ及びエ、④から⑥までの規律は、(1)①の裁判に係る事件について準用する。
② 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判により権限を付与された共有者が(1)①の事件の終了した日から2箇月間その権限を行使しないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
(1) 本文①及び③について
本文①及び③の内容は、部会資料41の第3と基本的に同じである。ただし、①については、所在等不明共有者以外の共有者は自らその持分を譲渡するものであることや、不動産の持分の全部を売却することが前提となっていることを明確にするために、裁判の内容につき、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与するのではなく、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与することとしている。また、第17回会議での議論を踏まえ、本文③では、時価相当額の支払請求権が発生するのは、上記の譲渡権限が付与されたときではなく、所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときで
あることとしている。
(2) 本文②について
本文②の内容は、部会資料第42の第1の4と同じである。
(3) 本文④について
前記9と同様に、所在等不明共有者の持分の譲渡でも、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)にも新たな規律を準用することとしている。
2 (2)(手続等)について
(1) 公告等
公告等については、前記9(2)①ア、イ及びエ、④から⑥までなどと同様の規律としている。
(2) 裁判の効力
部会資料41の第3(注3)のとおり、この権限付与の裁判を受けた共有者が、長期間にわたって譲渡をしないといった事態が生じ得ることを防止する観点からは、権限付与の裁判については、譲渡をすることができる期限(権限付与の効力の終期)を定めることが考えられる。また、通常、裁判の申立てをする際には、譲渡をする第三者が定まっていると考えられ、あまりに長期間権限の行使を認めることは、相当でないと考えられる。他方で、権限付与の効力の終期を一律に定めると、例外的な事情があるケースに対応することができない。
以上を踏まえ、本文②では、原則として、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判により権限を付与された共有者が事件の終了した日から2箇月間その権限を行使しないときは、その裁判は、その効力を失うとしつつ、この期間は、裁判所において伸長することができるとすることを提案している(期間の伸長がされ、権限行使期間が長期となると、事情の変更により、供託した金額が相当でなくなるケースもあり得るため、伸長は飽くまでも例外的に認められるものであり、譲渡の見込みがあり、それほど間を置かずに譲渡することができるケースに限られると解される。)。
なお、ここでは、譲渡の効力がその終期までに有効に生じていなければならないことを前提としている。そのため、停止条件の成就(他の共有者の持分の譲渡の効力の発生)も、権限行使期間の終期までに完了している必要がある。他方で、持分の移転の登記は、この終期までに行われている必要はない(第17回会議での意見を踏まえたものである。)。
11 相続財産についての共有に関する規定の適用関係相続財産についての共有に関する規定の適用関係について、次のような規律を設けるものとする。
相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
(補足説明)
部会資料42の第3では、遺産共有において持分の価格の過半数で決する際には法定相続分(又は指定相続分)を基準とすることとしていた。また、部会資料42の第1の3及び4では、所在等不明相続人の共有持分の取得又は譲渡を可能とする規律を導入することを提案していたが、その対象となる共有持分の割合は、法定相続分又は指定相続分の割合によることとしていた。
判例によれば、基本的に、遺産共有にも、民法第249条以下の規定が適用されるところ、部会資料42で掲げた規律以外にも、その基準となる持分が問題となるため(前記9及び10参照)、従前の議論を踏まえ、本文では、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とすることとしている。
なお、部会資料42の第3では、新たに設ける共有に関する規律が、原則として遺産共有にも適用される旨を記載していた。このことを変更するものではないが、現行法においても、共有に関する規定は、原則として、遺産共有にも適用されると解されているものの、その旨を明示的に定める規定はないため、ここでは、その旨を特に明示することとはしていない。
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【資料47】共有関係の見直し(通常の共有関係の解消方法)
(通常の共有関係の解消方法)
第1 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者の一人又は数人に、他の共有者の持分の価額に相当する金銭を支払わせて、その持分を取得させる方法
③ 裁判所は、②に掲げる方法により共有物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合には、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の判決において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(補足説明)
本文は、②を除き、部会資料37と基本的に同じである。
部会資料37においては、共有物分割に関するこれまでの判例の考え方を踏襲することを前提に、同様の枠組みをとっている遺産分割に関する規律を参考に、「特別の事情があると認めるとき」(家事事件手続法第195条参照)に賠償分割を認める旨の規律を設けることを提案していた。第16回会議においては、「特別の事情」という要件を設けることによって、賠償分割の検討順序が現物分割に劣後するという疑義が生じ得るという意見や、「特別の事情」の内容を本文から読み取ることができないといった意見があった。
改めて検討すると、検討順序において賠償分割と現物分割とを同順位としつつ、賠償分割については最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁が判示しているような判断要素をすべて明文化しようとしても、明文化すること自体が困難であるのみならず、賠償分割についてのみ判断要素に関する規律を設ける限り、賠償分割の検討順序が現物分割に劣後するかのような疑義が生ずることを回避することができないと考えられる。
そうすると、裁判所が命ずることができる共有物の分割方法として、現物分割(いわゆる部分的価格賠償を含む。)及び賠償分割(いわゆる全面的価格賠償)があることを列挙する規律を設ける一方で、賠償分割における判断要素については規律を設けず、引き続き判例法理に基づく判断に委ねることとすることが適切であるように思われる。
そこで、本文②において、裁判所が命ずることができる共有物の分割方法として、現物分割及び賠償分割があることを列挙した上で、本文③において、これらの分割方法によっては分割することができない場合、又はその価格を著しく減少させるおそれがある場合に、裁判所が競売を命ずることができる旨の規律を設けることを提案している。
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【資料40】共有制度の見直し(通常の共有における共有物の管理)
(通常の共有における共有物の管理)
1 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めることで、どうか。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)を加えることができない。
(補足説明)
1 共有物の処分に関する規律について
本文は、部会資料27の本文1における提案と同じである。
第13回会議において、変更行為に該当するものであっても、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しない行為について、民法第252条の規律により持分の価格の過半数により決定できるとする規律を設けることで、共有物の処分行為に関する規律への影響が生じないか検討する必要がある旨の指摘があった。
そこで改めて検討すると、共有物の処分行為が民法第251条の「変更」に当たるかどうかについては争いがあるが、いずれの解釈をとるにせよ、本文における提案は、「変更」のうち、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものについて全員同意の例外を設けるとするものであり、物理的変更を適用対象とするのであって、いわゆる法律上の処分行為については適用が想定されない。
そのため、本文のように規律を改めたとしても、「変更」に法律上の処分が含まれるか否かは、引き続き解釈に委ねられると考えられる。
2 「著しく多額の費用」について
第13回会議においては、「著しく多額の費用を要しない」の要件に関し、実際には著しく多額の費用を要するものであっても、変更行為をする共有者自身がこれを負担し、他の共有者に求償しない(負担を免除する)などして、他の共有者に負担を負わせないのであれば、この要件を充たすとすべきとの指摘があり、これに反対する意見もあった。
まず、第13回会議での議論を踏まえると、この要件の意義をどのように考えるべきかについて異なる意見があるように思われる。すなわち、今回の案は、いわゆる軽微な変更行為を全員同意の対象から除外することを目的とするものであるが、この要件は、飽くまでも他の共有者が負うことになる負担に着目し、その負担が小さいものを除外するためのものであるとの考え方と、この要件は、「共有物の改良を目的とする」との要件と相まって、当該共有物の変更が物理的にも大幅な変更を伴うものではないことを担保するものであり、他の共有者の負担が小さいかどうかだけで判断されるものではないとする考え方があると考えられる。
もっとも、前者の考え方をとっても、改良行為であることが別途要件となるため、結局、共有物に大幅な物理的変更を加えるようなケースは、基本的に改良行為とはいえないことになるし、後者の考え方をとっても、他の共有者の費用負担の程度は判断要素の一つになるので、実際の適用においてそれほど大きな違いはないと考えられる。
いずれにしても、軽微変更の要件の有無は、事案に応じて総合的に判断されるべきものであるが、最終的な費用負担者が誰かはその判断要素の一つとなると考えられる。
ただし、共有物の改良行為を行う共有者がその費用を他の共有者に求償しない(債務を免除する)ことを、軽微変更の要件の有無の判断の際に考慮することが一般的に可能であるとしても、具体的にどのような事情があれば考慮することができるのかは検討を要する。債務の免除は、債権者が債務者に対してその旨の意思表示をすることで効力を生ずることになると考えられるため、予めそのような意思表示がされていなければ、軽微変更の要件の有無の判断に当たって考慮することができないとも考えられる。
なお、第13回会議では、地方公共団体等から補助金が出ていた場合にも、「著しく多額の費用を要しない」との要件を充たすとの指摘があったが、その補助金が誰に対して支払われ、どのような私法上の効果があるかなどを踏まえて判断する必要があると考えられる。
2 共有物の管理行為
(1) 民法第252条の規律について
民法第252条の規律を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の管理に関する事項を定めるときは、民法第251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
② 共有物を使用する共有者(①本文の規律に基づき決定された共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用する共有者を除く。)がいる場合であっても、その者の同意を得ることなく、①本文の規律に基づき共有物の管理に関する事項を定めることができる。
③ ①本文の規律に基づき決定された共有物の管理に関する事項の定めを変更するときも、①本文と同様とする。ただし、その定めに従って共有物を使用する共有者がいる場合において、その定めが変更されることによってその共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その定めを変更することについてその共有者の承諾を得なければならない。
④ ①本文の規律に基づき共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利(以下「使用権」という。)を設定した場合(共有者の全員の同意による場合を除く。)には、次の各号に掲げる使用権は、それぞれ当該各号に定める期間を超えて存続することができない。
a 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の使用権 10年
b aの使用権以外の土地の使用権 5年
c 建物の使用権 3年
d 動産の使用権 6か月
(注)②及び③に関し、共有者が第三者に当該共有物を使用させている場合には、共有者が共有物を使用していると評価する。
(補足説明)
1 本文は、④を除き、部会資料27の本文2(1)と同じである。
2 「特別の影響」について(本文③)
第13回会議において、本文③の「特別の影響」の意義に関連して、「特別の影響」を及ぼす具体的場面について整理すべきであるとの指摘があった。
この「特別の影響」という規範的な要件を設けている趣旨は、共有物の種類及び性質が多種多様であることに鑑みて、共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用している共有者の同意を要するかを、「特別の影響」の判断の中で柔軟に対処することができるようにすることにある。したがって、「特別の影響」を及ぼすかについては、対象となる共有物の性質及び種類に応じて、共有物の管理に関する事項の定めを変更する必要性・合理性と共有物を使用する共有者に生ずる不利益を踏まえて、具体的な事案ごとに判断することになると考えられる。
共有不動産について問題になり得る例について検討すると、①A、B及びCが各3分の1の持分で土地(更地)を共有している場合において、Aが当該土地上に自己が所有する建物を建築して、当該土地を利用する定めがあるときに、Aが建物を建築した後に、B及びCの賛成によって、当該土地を使用する共有者をBに変更するケース(試案第1の1(1)の補足説明3(2)参照)のほかに、②①と同様の例において、Aによる土地の使用期間を相当長期間(例えば30年間)とすることを定めた上で、Aが建物を建築して当該土地を使用しているときに、B及びCの賛成によって、当該土地の使用期間を短期間(例えば5年間)とする変更をするケース、③A、B及びCが各3分の1の持分で建物を共有している場合に、当該建物を店舗営業のために使用する目的でAに使用させることを定めた上で、Aが当該建物を使用することで生計を立てているときに、B及びCの賛成によって、当該建物の使用目的を住居専用とする変更をするケースなどが考えられる。
なお、共有物を使用する共有者が、共有物の管理に関する事項の定めの変更について争う場合には、その変更によってその共有者に特別の影響を及ぼすとして、当該変更の効力がないことを前提に差止め等を求めるほか、本文③の規律に基づいて当該定めを再度変更することや、共有物分割請求によって対応することが考えられる。
3 共有物に使用権を設定する場合の法律関係について(本文④)
(1) 借地借家法が適用される建物賃貸借について
第13回会議において、借地借家法が適用される建物賃貸借について、本文④cの規律との関係を整理すべきである旨の指摘があった。
借地借家法の適用のある建物賃貸借は、基本的に、その存続期間を本文④c所定の期間(3年)以内に制限したとしても、建物の賃貸人は、正当の事由があると認められる場合でなければ契約の更新をしない旨の通知又は建物賃貸借の解約の申入れをすることができず(借地借家法第28条)、事実上長期間にわたって継続する蓋然性があることから、建物が共有に属する場合に建物を賃貸するのは共有者に与える影響が大きいため、共有者全員の合意を必要とすると考えられる。したがって、共有者の持分の価格の過半数をもって借地借家法の適用がある建物賃貸借をした場合には、その契約は基本的に無効になると解される。
これに対し、契約の更新がないこととする旨の定めを設ける定期建物賃貸借(同法第38条第1項)、取壊し予定の建物の賃貸借(同法第39条第1項)、一時使用目的の建物の賃貸借(同法第40条)については、契約の更新に伴って事実上長期間にわたって継続するおそれがなく、共有者に与える影響が大きいとはいえないと考えられることから、本文④cの規律に基づいて、その存続期間を所定の期間(3年)以内とする限りにおいて、共有持分の価格の過半数の決定により設定することが可能であると解される。
なお、部会資料27の本文2(1)④は、後段で、「契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は当該各号に定める期間とする。」としていたが、これでは、持分の価格の過半数を有する土地の共有者が、存続期間を30年と定めて建物の所有を目的とする土地の賃貸借をした場合であっても、5年間を限度に建物所有目的の土地賃貸借が有効に成立するかのように読めてしまい、混乱が生ずることになる。
そこで、本資料では、後段を削除している。
(2) 一部の共有者の同意なく借地権を設定した場合の法律関係について
第13回会議において、主として取引の相手方(賃借人)の視点から、一部の共有者の同意なく借地権(借地借家法第2条第1号参照)を設定した場合の法律関係について整理すべきである旨の指摘があった。
そこで、例を挙げて検討すると、A、B及びCが各3分の1の持分で土地を共有している場合に、建物を所有する目的でYに対し当該土地を賃貸することについて、A及びBは賛成したのに対し、Cが異議を述べた場合には、借地権の設定をすることができないことになる。
他方で、A及びBとYとの間では賃貸借契約が有効に成立しているが、Cが引渡しを拒絶すれば、当該契約は履行不能(債務不履行)となり、Yは基本的に賃貸借契約を解除することができるものとも考えられる。また、借地権を設定することができないことによってYに損害が生じた場合には、YはA及びBに対して損害賠償を求めることができることになると考えられる(民法第415条)。
いずれにしても、この問題は、現行法の下でも生じ得るものであり、本文④の規律を設けたとしても引き続き解釈に委ねられると考えられる。
なお、共有者が選任する管理者(部会資料41の第4)については、共有者による共有物の管理に関する事項の定めに従って、その権限に制限を受けることがあり、取引の相手方はその制限を知る機会に乏しいことから、取引の相手方を保護する規定を設ける必要があるのに対して(部会資料41の第4の2③参照)、共有者についてはこのような権限の制限がなく、取引の相手方を保護する特別の規定を設ける必要性は高くないと考えられることから、相手方保護規定を設けることとはしていない。
(2) 共有者全員の合意とその承継について
共有者間における民法の管理行為に関する規律を変更する合意の可否並びに共有者間における合意がされた場合のその特定承継人に対する効力及び特定承継人の保護についての規律は、設けないとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料27の本文2(2)では、共有者間における民法の管理行為に関する規律を変更する合意や、共有者間における合意がされた場合のその特定承継人に対する効力及び特定承継人の保護の在り方について取り上げていたが、第13回会議において、これらの論点については新たな規律を設けるべきでないという意見や、仮に規律を設けるとしても適切な規律を設けることが難しいとの意見があった。これらの議論を踏まえて、本資料では、これらの論点について特段の規律を設けないこととしている。
3 共有物の管理に関する手続
共有物の管理に関する事項の定め等につき各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決する際の手続についての規律は、設けないとすることで、どうか。
(補足説明)
第13回会議においては、共有物の管理に関する事項を持分の価格に従ってその過半数で決する際には、所在等が知れている共有者にその対象を限るなどした上で、他の共有者の意思表明の機会を保障することに配慮すべきであるとの指摘があった。
そこで改めて検討すると、仮に、管理に関する事項を決するに当たり、共有者間での協議又は他の共有者への通知を義務付ける規律を設けるとすると、この義務を履行しなかった場合の効果が問題となるが、共有者による共有物の管理に関する事項の決定を無効とする(共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件とする)と、多数の共有持分を有する共有者の権利を過度に制約することになり妥当でないと考えられる。また、協議又は通知の規律を訓示的なものとする(共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件としない)ことも考えられるが、結局、共有者による協議又は通知を強制することができないことになるため、規律を設ける意義が乏しいことになる。
そうすると、結局、少数持分を有する共有者の意思表明の機会を保障しつつ、多数持分を有する共有者の権利を調整する規律を適切に置くことは難しいと考えられる。
そこで、結論としては、本文において、共有物の管理に関する事項の定め等につき各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決する際の手続については、規律を設けないとする提案を維持している。
なお、実務上、紛争予防の観点から、管理に関する事項を決する際には、当事者間において協議を行うことが望ましいと考えられるが、本文の提案は、当事者によるこのような工夫を否定するものではない。
4 共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等に関し、次のような規律を設けることで、どうか。
① 共有物を使用する共有者((1)の規律に基づき決せられた共有物の管理に関する事項についての定めに従って共有物を使用する共有者を含む。②においても同じ。)は、その使用によって使用が妨げられた他の共有者に対し、共有持分の価格の割合に応じて、その使用の対価を償還する義務を負う。ただし、共有者間において別段の合意があるときは、当該共有者間においては、その合意に従う。
② 共有物を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物を保存しなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
本文①は、部会資料27の本文4①と同じである。
2 本文②について
第13回会議においては、「共有者は、自己の責めに帰すべき事由によって共有物を滅失し、又は損傷したときは、他の共有者に対し、共有持分の価格の割合に応じて、その損害の賠償をする義務を負う。」とする部会資料27の本文4②後段の規律を設けるべきではない旨の意見があった。
改めて検討すると、共有者間の損害賠償の問題は、共有者間の善管注意義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求や、共有持分権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求によって解決されるべきものであるから、必ずしも部会資料27の本文4②後段のような規律を設ける必要性はないと考えられる
そこで、本資料では、部会資料27の本文4②後段のような規律を設けないこととしている。
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【資料37】共有関係の見直し(通常の共有関係の解消方法)
第1 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、特別の事情があると認めるときは、共有物の分割の方法として、共有者の一人又は数人に他の共有者に対する金銭債務を負担させる方法による分割を命ずることができる。
③ 共有物の現物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合において、②で定める方法による分割を命ずることができないときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
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○試案第1の2 通常の共有関係の解消方法
(1) 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改める。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有物を一人又は複数の共有者に取得させ、この者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法
ウ 共有物を競売して換価する方法
③ 裁判所は、共有物を一人又は複数の共有者に取得させることが相当であり、かつ、その者に取得させることとしても共有者間の実質的公平を害するおそれがないときには、②イで定める方法による分割を命ずることができる。
④ 共有物の現物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合において、②イで定める方法による分割を命ずることができないときは、裁判所は、②ウで定める方法による分割を命ずることができる。
⑤ 裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(注1)共有物の分割方法の検討順序については、これを改める必要性を踏まえて引き続き検討する。
(注2)共有物分割に関する紛争に関して、民事調停を前置する規律を設けることについて、引き続き検討する。
(注3)裁判所は、換価のための管理者を選任した上で、当該管理者に対して共有物を任意売却することによって換価を命ずることができるとする規律について慎重に検討する。
(注4)複数の共有物を一括して分割する場合においても、①から⑤までの規律が適用されることを前提としている。
(注5)複数の共有物を一括して分割する請求がされた場合に、裁判所が、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることについては、引き続き検討する。
(補足説明)
1 共有物分割に関する協議(本文①)
民法第258条第1項の「協議が調わないとき」とは、一部の者が協議に応じないために協議をすることができないときも含むと解されており、このような解釈を明確化するために、試案第1の2(1)①において、「協議をすることができないとき」にも裁判所に分割を請求することができることとすることを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかったことから、本文①においてこの提案を維持している。
2 共有物分割方法の明確化(試案第1の2(1)②)試案第1の2(1)②において、裁判所が命ずることができる共有物の分割方法として、現物分割、価格賠償による分割(以下「賠償分割」という。)及び競売による分割があることを明示して列挙することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかった。そのため、本資料では、試案の考え方を基本的に踏襲している。
もっとも、試案では、「現物を分割する方法」(試案第1の2(1)②ア)との表現を用いるとともに、これとは別に、価格を賠償しつつ、共有者の一部が共有物を取得する方法を明示していた(試案第1の2(1)②イ)が、後者のような方法で共有物を取得することも「現物」を取得するものであり、やや表現の上で整理が不十分な点もあったように思われる。また、試案では、いわゆる部分的価格賠償(持分の価格以上の現物を取得する共有者に、持分の価格を下回る現物しか取得しない他の共有者に当該超過分の対価を支払わせて過不足を調整する方法)が、現物を分割する方法と持分の価格を賠償させる方法のいずれに当たるかが不分明であり、適用に当たって混乱を生じさせるおそれがあったように思われる。
そこで、本資料では、本文②のとおり、端的に金銭による調整ができることを示して、賠償分割(全面的価格賠償や部分的価格賠償)が可能であることを明示することとし、本文②及び本文③のとおり、現物分割、賠償分割及び競売による分割の方法があることが法文上明らかになるようにしている。なお、本資料では、「現物分割」という用語は、物理的に共有物を分割することを意味するものとして用いており、部分的価格賠償による分割は、現物分割の性質を有するが、本文②により金銭による調整をするものであると解される。
3 賠償分割の判断基準(本文②)
試案第1の2(1)③において、最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁が「共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき」には賠償分割を行うことができるとされたことを踏まえて、「共有物を一人又は複数の共有者に取得させることが相当であり、かつ、その者に取得させることとしても共有者間の実質的公平を害するおそれがないとき」に、裁判所が賠償分割を命ずることができる旨を明確化することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対するものはほとんどなかった。
他方で、パブリック・コメントにおいては、試案第1の2(1)③が、平成8年最判が明示している判断要素の一部のみを抽出していることに対する懸念を示す意見も寄せられた。
改めて検討すると、確かに、平成8年最判が明示している判断要素の一部のみを抽出する形で規定を置くものとすると、他の判断要素については充足が不要である趣旨であるとの誤解を生むおそれがある一方で、平成8年最判が判示しているような判断要素をすべて明示し、法文化することは困難であると考えられる。
他方で、本文②のとおり金銭債務を負担させる方法をとる際には、これまでに判例が述べているような一定の事情が必要であること自体は明らかであ
り、そのことは明確化する必要があるように思われる。
そこで、本文②においては、これまでの判例の考え方を踏襲することを前提に、同様の枠組みをとっている遺産分割に関する規律を参考に、「特別の事情があると認めるとき」(家事事件手続法第195条参照)に賠償分割を認める旨の規律を設けることを提案している。
(参考)
○ 家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)
(債務を負担させる方法による遺産の分割)
第百九十五条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。
4 共有物の分割方法の検討順序(本文③)
試案第1の2(1)④において、競売分割を補充的な分割方法とする民法第258条第2項の枠組みを維持し、賠償分割と現物分割の検討順序の先後関係をつけないとすることを提案するとともに、試案第1の2(1)(注1)において、共有物の分割方法の検討順序については、これを改める必要性を踏まえて引き続き検討する旨を注記していた。
パブリック・コメントにおいては、賠償分割と現物分割の検討順序の先後関係を一律に決めるとすれば妥当な解決に支障が生じ得ること、賠償分割を優先する規律を設けた場合には、現物分割が相当である事案においても、賠償分割に係る賠償価格の当否を判断する必要が生じ、争点が複雑になること等を理由として試案第1の2(1)④の提案に賛成する意見が多数であった。
改めて検討すると、そもそも、現物を分割することと、賠償分割をすることは、矛盾するものではない(部分的価格賠償は、現物を共有者の全部又は一部に分割した上で、金銭で調整するものである。)から、これらに先後関係をつけることは困難であると思われる。なお、全面的価格賠償と現物分割との間に先後関係をつけるべきか(言い換えると、全面的価格賠償を実施することについて、現物を分割することができないことを必要条件とするのか)も問題となり得るが、現在の判例では、現物を分割することができないことが全面的価格賠償をするための必要条件として掲げられているわけではないのであり、法律上先後関係を決する必要まではなく、現物分割の困難さは裁判所が判断をする際の考慮要素の一つとするにとどめることで足りるように思われる。
また、競売分割と他の分割の関係については、これを並列的に捉えるべきとの考え方もあり得るが、共有者中に共有物の取得を希望する共有者がいる場合には、これを優先すべきであると思われ、入札価格で雌雄を決し、共有者を優先するものではない競売分割は、共有者に共有物を取得させることが困難である場合に実施することが適当であると考えられる。
そのため、試案と同様に、共有物の現物を分割することができない場合、又は現物の分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合(これらの現物分割には、前記のとおり、部分的価格賠償による分割も含まれる。)
において、現物を分割しない方法による共有物分割(全面的価格賠償による分割)もすることができない(「②で定める方法による分割を命ずることができない」)ことを競売分割の要件としている。
5 給付命令(本文④)
(1) 試案第1の2(1)⑤において、価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合における金銭債務の履行を確保するための手続的措置等に関する規律として、遺産分割に関する規律(家事事件手続法第196条)を参考に、裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができるとする規律を設けることを提案していた。
パブリック・コメントにおいて、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかった。
(2) 裁判所が共有物を誰にどのように分割するといった分割の内容を定めることと、その定められた内容を前提に引渡しや支払等の給付命令を発することとは別個に検討することができる問題である。
例えば、共有物分割の内容として、共有者の一人に賠償金の支払債務を負わせることと、その債務の給付命令を発することは別の問題であり、共有物の分割の訴えにおいては、裁判所はその支払債務のみを定めることができ、給付命令を発するには、原告又は被告が給付命令を求める訴えを提起していなければならないとする見解もあり得る。
もっとも、共有物の分割の訴えは、その本質において非訟事件であって、裁判所は、その裁量により、原告や被告が求めていない内容の分割方法を選択することも可能であると考えられている。そのため、事案によっては、給付命令を求める訴えを予め提起することが当事者として困難であることもある。また、例えば、原告が共有物を取得する全面的価格賠償の方法による分割を求めたのに対し、被告が現物分割を求めて強く争っている場合に、被告から予備的にでも給付命令を求める訴えを提起することは困難であるようにも思われる。
そうすると、前記の見解によれば、事案によっては、共有物分割請求訴訟において定められた内容が任意に実現されず、改めて給付命令を求める訴えを提起しなければならないといった事態も生じ得ることになる。しかし、別訴の提起を要することとしても、審理すべき内容は弁済の有無程度であり、その分割の内容は既判力等によって争うことはできないことからすれば、紛争の一回的解決の見地からそのような別訴提起を求めることは妥当でないように思われる。そのため、共有物分割請求訴訟においては、裁判所が職権で給付命令を発することができるとの見解も有力であり、パブリッ
ク・コメントにおいて試案に賛成する意見が多く出されていることも、このような見地からであるように思われる。
以上を踏まえ、本資料では、試案と同様の提案をし、共有物分割訴訟にお
いては、職権で給付命令を発することができることとしている。そして、この規律に基づいて登記手続をすべきことを命ずる確定判決を得た共有者(共有不動産を取得した共有者)は、不動産登記法第63条第1項に基づいて単独で登記申請をすることができるものと考えられる。
なお、給付命令が当事者の不意打ちにならないようにするとの観点からすると、当事者が訴状等において特定の給付命令を求め、その希望を明示している方が望ましいと考えられるのであり、本資料の提案は、当事者のそのような活動を否定するものではない。
6 民事調停前置(試案第1の2(1)(注2))について
試案第1の2(1)(注2)において、共有物分割請求について民事調停を前置する規律を設けることについて、引き続き検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、柔軟な解決に資するとして賛成する意見もあったが、民事調停を前置すると紛争解決が遅延するという理由でこれに反対する意見もあった。
共有物分割請求について民事調停を前置する規律を設けることにより、第三者が関与するなどして迅速かつ柔軟に解決することができるケースはあると考えられるものの、その一方で、一律に調停手続の利用を強制すると、当事者に過度な負担を課すことになるおそれがある上に、最終的な紛争の解決までにかかる時間が延びるおそれがあることは否定できない。
そこで、本文では、調停手続を利用するかどうかを当事者の判断に委ねる現行法の規律を維持することを前提としている。
7 任意売却による分割の規律(試案第1の2(1)(注3))について
試案第1の2(1)(注3)では、共有物の管理者を選任した上で、その管理者に対して換価を命ずることができるとする規律について、慎重に検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、任意売却を命じた場合、売却ができず、又は事後的に不適当となった場合に対処する手段がないこと等から、このような規律を設けることに慎重な意見が多数であった。また、このような規律を設けなくとも和解又は調停の協議の中で任意売却を実現することも可能であることに鑑みれば、任意売却による分割の規律を設ける必要性は高くはないと考えられる。
そこで、本文ではこのような規律を設けることを提案していない。
8 複数の共有物の一括分割(試案第1の2(1)(注4)及び(注5))について
試案第1の2(1)(注4)において、複数の共有物を一括して分割の対象とする場合においても、試案第1の2(1)①から⑤までの規律が適用されることを前提とする旨を注記した上で、試案第1の2(1)(注5)において、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることについて、引き続き検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、分割方法の多様化・弾力化に資することから試案第1の2(1)(注5)の規律を設けることについて引き続き検討することに賛成する意見もあったが、裁判所が一部の共有物について先行して競売を命じた判決に係る上訴手続を認めるとすると、当該共有物の代金を賠償金などに活用する目的を実現するためには、他の共有物の分割手続に係る審理を中断せざるを得ず、かえって手続が迂遠となり紛争解決が遅延するとの指摘もあった。
また、このような規律を設けなくとも和解又は調停の協議の中で一部の共有物の任意売却を実現することや裁判上の和解によって共有物を競売に付すことができる場合もあると考えられていることに鑑みれば、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設ける必要性は高くはないと考えられる。
そこで、本文では一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることを提案していない。
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【資料41】共有制度の見直し(共有物の管理に関する行為を定める際の特則等)
第1 共有物の管理に関する行為を定める際の特則
1 催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則
催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合に関し、次の案をとることで、どうか。
共有者が他の共有者に対して1箇月を下らない期間を定めて共有物の管理に関する事項(共有者全員の同意を要する変更行為を除く。)を決することについて異議(意見)がある場合にはその期間内に異議(意見)を述べるべき旨の催告をしたにもかかわらず、当該他の共有者が異議(意見)を述べなかったときは、当該事項については、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
(注1) 本文の案とは別に、共有者全員の同意を要する変更行為(共有持分の喪失を伴うものを除く。)についても、催告をし、異議(意見)を述べなかった共有者以外の共有者により決することができることとするとの案がある。
(注2) 本文の案とは別に、裁判所の決定があって初めて当該他の共有者以外の共有者により決することができる等の効果が生ずることとし、その決定の前提として、催告は裁判所が行うこととするとの案がある。
(注3) 本文の案の要件に付加し、持分の価格の3分の1を超える持分を有する者の同意がなければ管理に関する事項(共有者全員の同意を要する変更行為を除く。)を決することができないとするとの案がある。
(補足説明)
1 特則の対象(本文及び(注1))について
(1) 第14回会議では、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則に関し、その対象を共有者全員の同意を要しないものに限定する案と、限定しない案について検討したが、両案ともにこれを支持する意見があった(なお、同会議では、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合と、所在等不明共有者がいる場合とは問題の状況が異なるため、区別して検討すべきとの指摘もあったこと等を踏まえ、本資料では、これらを区別して検討することとしている。)。
改めて検討をすると、共有物の変更行為は、その行為の重大性から、これを実施するのに共有者全員の同意が要求されているのであり、共有者の一部が同意をしていなくても実施することができる行為とは、利益状況が異なるものではないかと思われる。また、対象行為を限定しない案は、結論として、所在等が判明して、催告を現実に受けており同意をすることができる状況にあるのに、あえてこれに同意をしなかった者を、同意をしたものと同様に扱うものであるが、同意を変更行為の要件としていることと矛盾しているとの指摘も考えられる。
以上を踏まえ、本資料では、その対象を限定する案を中心に検討する趣旨で、本文にその旨の案を提示し、(注1)では、対象を限定しない別案についても取り上げている。
(2) なお、変更を伴うものを除く共有物の管理に関する事項は、共有者間で一定のルールに従って定めをすれば、そもそも共有者の一部が同意しなくともこれを実施することができるものであるから、本文のとおりの特則を設けることは、この定めをする際のルールを新たに付加するものと位置付けられるのであり、実質的にも、催告を受けた者が同意をしたものとみなすものではないと解される。
(3) また、第14回会議では、「異議を述べなかった」との表現では、賛成意見を述べた場合も含まれることとなるため、表現として適切ではないとの指摘があった。本資料では、別案として、「意見を述べなかった」との表現を用いることについても提案している。
(4) そのほか、本文では、公告の期間に関し、1箇月を下ることができないものとし、最低限、期間として1箇月確保することとしている。なお、第14回会議では、1箇月では、期間として短い場合があるとの指摘もあったが、例えば、対案を検討する期間を確保する必要がある場合には、差し当たり異議を述べ、他の共有者だけで決することがないようにすればよいと解され(異議を述べる際に、対案を示す必要はない。)、そうであれば、期間の下限を1箇月と設定しても特段の不利益は生じないように思われる。
2 裁判所の関与の是非等(本文及び(注2)について)
(1) 第14回会議では、裁判所の関与の是非について検討し、これを要求すべきとの指摘もあったが、他方で、これを要求することは、当事者の負担も重く相当でないとの指摘もあった。
改めて検討をすると、所在等が不明な共有者がいるケースでは、所在等が不明であること等を判断する必要があり、その判断をする機関として裁判所の関与を求める意義があるのに対し、催告をしたが異議を述べない共有者がいるケースでは、裁判所が判断すべき事項が特になく、裁判所の関与を求める意義に乏しいとも考えられる。
また、立証方法を用意するために裁判所の関与を求めるべきとの意見も考えられるが、基本的に紛争の解決をその役割とする裁判所にそのような役割を期待すべきでないとの指摘も考えられる。
以上を踏まえ、本資料では、裁判所の関与を要求しない案を中心に検討する趣旨で、本文のとおり記載をし、(注1)では、裁判所の事前関与を求める別案についても取り上げている。
(2) なお、第14回会議では、異議を述べなかったことを適切に証明するために、裁判所とは別の公的機関がこれを証明する制度を設けるべきとの指摘があった。
確かに、この指摘は共有物の円滑な利用の観点からは重要であると思われるが、異議を述べたかどうかといった事柄は、この共有の場面に限らず、民事の法律関係一般で問題となり得るものであり、この場面に限って証明制度を設けることについては慎重な検討を要すると考えられる。
3 最低限の同意(注3)について
(1) 部会資料30では、持分の価格の3分の1を超える持分を有する者の同意がなければ管理に関する事項(共有者全員の同意を要する行為を除く。)を決することができないとすること等について検討することを提案していたが、第14回会議では、対象行為を限定するかどうかとも関連して、様々な意見があった。
仮に、本文のとおりその対象行為を限定するのであれば、その行為が共有者に与える影響はそれほど大きなものではないと考えられるため、最低限の同意の要件を設けないとすることも考えられる。
そこで、本文では、最低限の同意の要件を設ける案を取り上げず、(注3)で別案として取り上げている。
(2) なお、このこととも関連するが、この仕組みを用いる際には、共有者全員に対して催告をすることになるのかが問題となる。絶対過半数を得ている場合は別途の議論があり得るとしても、相対過半数しか得ていない場合に、少数者のみでこれを決する際には、全員に意見表明の機会を保障すべく、基本的に全員に対して催告をすることになるとも思われる。
2 所在等不明共有者がいる場合の特則
所在等不明共有者がいる場合に関し、次の案をとることで、どうか。
共有者は、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所の決定(許可)を得て、所在等不明共有者以外の共有者の同意により共有物に変更を加え、又は、所在等不明共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる。
(注1) 本文の案とは別に、裁判所の決定がなくとも、所在等不明共有者以外の共有者の同意により共有物に変更を加えること等をできることとするとの案がある。
(注2) 本文の案とは別に、対象となる行為を持分の価格の過半数で決する行為に限定するとの案がある。
(注3) 本文の案の要件に付加し、持分の価格の2分の1を超える持分を有する者の同意がなければ共有者全員の同意を要する行為をすることはできず、また、持分の価格の3分の1を超える持分を有する者の同意がなければ管理に関する事項(共有者全員の同意を要する行為を除く。)を決することができないとするとの案がある。
(注4) 裁判所は、所在等不明共有者に対して、1箇月を下らない期間を定めて、異議(意見)がある場合にはその期間内に異議(意見)を述べるべき旨の公告をしたにもかかわらず所在等不明共有者が異議(意見)を述べなかったときは、本文の決定をしなければならない。
(補足説明)
1 所在等不明共有者がいる場合の特則
前記第1の1の補足説明のとおり、第14回会議での議論を踏まえ、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合と区別して、所在等不明共有者がいる場合について検討している。
なお、知ることができない共有者(不特定共有者)については、実務上の運用としてこの仕組みの利用が困難なケースがあるとは考えられるものの、一律に否定する理由はないように思われるため、本資料では、不特定共有者についても、所在不明共有者と同様に検討している。
2 裁判所の決定の要否(本文及び(注1))について
第14回会議では、管理に関する事項の決定や変更行為の効果を発生させるために裁判所の決定を要するかどうかについて両論を提示し、賛否両論があった。
もっとも、所在等不明共有者がいる場合の特則は、所在等不明共有者に対して催告の通知が実際に到達しないままに、共有物に関する行為を実施するものであり、その共有者を不当に害さないためにも、所在等が不明かどうかについては、事前に慎重な認定が必要であるとも思われる。現行民法においても、不在者財産管理制度や、公示による意思表示の制度を設けているが、事前に裁判所が不在者等の認定をしなければ、実体上の効力は生じない。そのような観点からすると、裁判所の決定を要するように思われる。
以上を踏まえ、本資料では、裁判所の決定を要する案を中心に検討する趣旨で、本文のとおり記載をし、(注1)では、裁判所の決定を要しないとする別案についても取り上げている。
3 対象となる行為(本文及び(注2))について
第14回会議では、所在等が不明である共有者がいる場合の特則に関し、その対象を共有者全員の同意を要しないものに限定しない案と、限定する案について検討したが、両案ともにこれを支持する意見があった。
改めて検討をすると、今回の仕組みを検討することとなった契機を考えると、その対象は限定すべきではないとも考えられる。すなわち、現行法においても、不在者財産管理人が選任されれば、その同意を得て、共有者は共有物を変更し、又は管理に関する事項を決することができるし、検討中の所有者不明土地管理人を選任することでも対応が可能であるが、事実上報酬の支払を強いられるなど申立人となる共有者の負担は決して軽くはない。また、共有者はそもそも共有物をその持分に応じて使用することができるのであり、過度な負担を負うことなくその使用を認めるための方策を検討する必要性は高い。そのため、所在等不明共有者の手続保障を図りながら、申立人となる共有者の負担を軽減するために、不在者財産管理制度や所有者不明土地管理制度とは別の制度を設ける必要がある。
このような観点からすると、その対象行為は絞るべきではなく、広くすべきとの意見も考えられる。
他方で、共有者の全員の同意を要する行為は、共有者に重大な影響を及ぼすものであるし、不在者財産管理人等を選任しても、その管理人等が当然に同意をするものではないから、その対象から除外すべきとの指摘も考えられる。
以上を踏まえ、本資料では、差し当たり、対象行為を限定しない案を中心に検討する趣旨で、本文のとおり記載をし、他方で、(注2)では、対象行為を限定する別案についても取り上げている。
なお、従前の議論と同様に、本文の案は、共有持分権の喪失を伴う行為はその対象行為に含まないことを前提としている。
4 最低限の同意(注3)について
(注3)では、前記第1の1(注3)と同様に、本文の案とは別に、最低限の同意要件を設ける案を取り上げている。
5 公告期間等(注4)について
(注4)では、裁判所は決定に当たって公告をしなければならないこと等を取り上げ、公告と決定との関係を明確にするようにしている。なお、部会資料30にも記載をしたが、裁判所の判断の主眼は所在等不明共有者を意思決定から除外するかどうかであり、共有者の意思決定に係る行為の是非そのものではないから、裁判所は当該行為の相当性を判断すべきではないと考えられるし、仮に、裁判所がその相当性を判断するとしても、公告をしても特段の異議を述べなかった場合に、特定の変更行為や管理行為が相当でないという判断を裁判所がすることが実際にあるのかといった問題があると思われる。
6 その他
(1) 手続等
管轄裁判所については、簡易裁判所とする意見もあるが、今回の仕組みが利用される主な場面としては不動産が共有である場合が想定されることを踏まえ、事物管轄は、不動産の事件を基本的に取り扱うこととされている地方裁判所(裁判所法第24条第1号)とすることが考えられる。
また、認容決定に対する不服申立て方法としては、決定の効力が生じた時から2週間以内にする即時抗告(非訟事件手続法第66条及び第67条)のほか、再審(同法第83条)が考えられる。
なお、不服申立てとも関連するが、裁判所の決定がされた後に、その決定が再審によって取り消されないまま、別途、その決定の効力を訴訟で争えるかが問題となり得る(例えば、決定が出された後に、所在等不明共有者以外の共有者が合意をして、第三者との間で賃貸借契約を締結した場合に、所在等不明とされていた共有者が賃借人である第三者を被告として、不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟を提起し、その中で、裁判所の決定が不当であるとして、その賃貸借契約の効力を否定することなど)。
今回の仕組みは、非訟事件手続法により処理されるが、非訟事件手続法における決定にはいわゆる既判力はないと解されているものの、通常、形成力があり、その決定を取り消さないまま、訴訟で、その形成力を否定することはできないと解される。
そして、今回の仕組みでは、裁判所の決定により、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意(又は、持分の価格の過半数)によって共有物の変更等をすることができるとの法律関係が形成されることになると解されるため、訴訟においても、その効力自体を否定することはできず、その決定があったことと、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意(又は、持分の価格の過半数)があったことが主張・立証されれば、共有物の変更等が適法であったことになると解される。なお、申立人が所有者でなかったような場合には、共有者全員の同意がない又は共有者の持分の価格の過半数の同意を得ていないとして、当該定め自体の効力を訴訟で争うことは否定されないと考えられる。
(2) 所在等不明について
ア 第14回会議では、法人が所有者である場合における所在不明の意義を検討したが、第2及び第3のケースと同様に、その本店及び主たる事務所が判明せず、かつ、代表者が存在しない又はその所在を知ることができないときに、「共有者の所在を知ることができない」ときに該当するとすべきとの意見があった。
イ また、所在等不明共有者の探索については、部会資料30にも記載しているとおり、登記簿や住民票等の公的記録の調査が基本的に必要になると思われる。もっとも、第14回会議でも指摘があったが、最終的な探索の在り方は、土地の現況等を踏まえて判断することになると思われる。
第2 不動産の所在等不明共有者の持分の取得
所在等不明共有者の不動産の共有持分の取得につき、次の案をとることで、どうか。
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、所在等不明共有者の持分をその共有者に取得させる旨の裁判をすることができる。
② ①の裁判がその効力を生じたときは、所在等不明共有者は、持分を取得した共有者に対し、その共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
(注1) 請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした共有者それぞれに取得させる持分の割合は、請求をした共有者の持分の価格の割合に応じて所在等不明共有者の持分の割合を按分して得た割合とする。
(注2) 裁判所は、他の共有者が所在等不明共有者の持分の取得を希望する場合には一定の期間内に申立てをすべき旨を公告し、かつ、登記上の共有者に対してその旨を通知しなければならないものとする。
(注3) 裁判所は、①の裁判をするためには、所在等不明共有者に対して一定の期間までにその権利を主張すべき旨を公告しなければならず、その期間は、3箇月を下ってはならないものとし、権利が主張されれば持分取得は認められないものとする。
(注4) 裁判所は、①の裁判をするためには、その申立てをした共有者に対して、一定の期間内に、裁判所の定める額(共有者が取得した持分の時価相当額を想定している。)に相当する金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないものとする。
(注5) 不動産に関する財産権(賃借権等)の共有持分にも、本文と同様の制度を設ける。
(補足説明)
1 裁判所の決定(本文①)について
部会資料30(第2の1(1))では、不動産の所在等不明共有者の持分の取得に関し、裁判所の決定を要する案(甲案)と要しない案(乙案)を提示していたが、第14回会議では、決定を要する案に賛成する意見が大勢を占めた。これを踏まえ、本文では、裁判所の決定を要する案を取り上げている。
なお、部会資料30(第2の2)では、知ることができない共有者(不特定共有者)についても、所在不明共有者と同様に取り扱うことについて取り上げていたが、実務上の運用として難しい問題はあるものの、これを一律に否定する理由はないように思われるため、本資料では、不特定共有者も、所在不明共有者と同様に検討している。
2 所在等不明共有者以外の共有者が複数いる場合の処理(本文及び(注1))について
(1) 全員同意を要件とすることの是非
部会資料30(第2の1(2))では、所在等不明共有者の持分取得につき、それ以外の共有者が複数いる場合の処理に関して、共有関係の一括解消が可能である裁判による共有物分割との役割分担を念頭に、その全員の同意を要件とする案(乙-1案、乙-2案)を検討することとしていたが、第14回会議では、これに賛成する意見はなく、これに反対する意見が多く出された。
このような意見分布となったのは、次のような理由によると思われる。すなわち、共有物は、その分割がされるまでは、共有状態のまま管理をしなければならないが、共有者が多数にのぼるケースでは、共有物を管理することが容易ではなく、その管理を適切かつ迅速に行うためには、住所等が判明した共有者から個別に持分を取得するなどして、漸次、共有者の数を減らすことが重要である。所在等不明共有者がいる場合には、前記第1の2のとおりの仕組みを導入することで現在よりは管理が容易となるものの、全ての共有者の住所等が判明している場合と比較すると共有物の管理が容易とはいい難いのであり、同様に、その持分を取得するなどして、所在等不明共有者を共有関係から除外し、共有者の数を減らすことが重要になる。その意味で、共有物分割との役割分担を念頭に、持分取得の仕組みにおいて共有者全員の同意を要求するのは妥当ではない。
また、特に、共有者が多数にのぼるケースで共有関係を任意に解消する場面においては、共有者全員の住所等を把握することが困難であるし、そろって分割協議を行うことも困難であるため、共有者全員の同意(協議)を要する共有物分割を実施するのではなく、住所等が判明した共有者ごとに、個別にその持分を取得するといった方法がとられることがある。最終的に分割協議が調わず、裁判による共有物分割を実施しなければならない場合にも、その共有者の数が少ない方が、手続の負担も重くならないため、共有者の数を減らすことは重要である(遺産分割の実務でも、相続分の譲
渡や放棄といった手段をとり、当事者の数を減らす工夫がされている。)。
これらの観点から、所在等不明共有者がいる場合にも、共有者全員の同意を得ることなく、その持分を取得し、共有者の数を減らすことを可能とすることには、裁判による共有物分割(共有物分割の改正内容については、部会資料37参照)とは異なる独自の意義があると考えられる(所在等不明共有者の持分を取得して共有者の数を減らす手段として、不在者財産管理人や検討中の所有者不明土地管理人の選任を経て、その持分を譲り受ける方法もあるが、いずれにしても報酬の支払等の負担が問題となる。)。そのため、持分取得の仕組みにおいて共有者全員の同意を要求するのは妥当ではない。
そこで、本資料では、所在等不明共有者以外の共有者が複数いる場合にその全員の同意を持分取得の要件とはしていない。
(2) 処理の在り方
複数の者が請求をしてきた際に、その処理をどのようにするかを明確にすべきと考えられることから、(注1)に記載している。
また、このこととも関係するが、申立人となる共有者の負担を一定の範囲に限定しつつ、他方で、他の共有者に申立ての機会を保障する観点から、(注2)のとおり、公告及び登記上の共有者に対してその旨を通知しなければならないものとしている。
なお、この通知は、登記上の住所に宛ててすれば足りることを想定している。
3 所在等不明共有者の時価相当額請求権(本文②及び(注4))について
これまでに検討してきたとおり、所在等不明共有者の時価相当額請求権を実質的に確保する観点から、その持分の取得を希望する共有者(申立人)に予め時価相当額を供託させつつ、他方で、所在等不明共有者がその額を争い、その差額を請求することができることとする必要があると考えられる。そして、その差額について申立人と所在等不明共有者の間で争いがあれば、最終的に訴訟で解決すべきように思われる。
以上を踏まえ、本資料では、持分取得の裁判が効力を生じた場合には、実体法上、所在等不明共有者は、時価相当額請求権を有するが、他方で、裁判所が持分取得の裁判をする前提として申立人に対して供託命令を発することとしている(供託命令に対しては、金額を争う機会を保障するために即時抗告をすることができることとすることが考えられる。)。この結果、所在等不明共有者は、この命令を受けて供託された供託金の還付を受けて時価相当額請求権の弁済に充当されることになるものの、実体法上の請求権があるため、その請求権の額に充たない場合には、その差額を請求することができる(実体法上の請求権であるため、最終的な額は、訴訟の中で判断される)こととなる。
なお、従前の議論と同様に、供託すべき金額は時価相当額であるべきであり(そのため、裁判所は、供託金額の判断をする際には、基本的には専門家の意見を聞かなければならないが、その具体的方法については、引き続き検討する。また,不特定共有者の場合の供託金額の具体的算定方法についても、引き続き検討する。)、この供託は持分取得の裁判をする前提(前提条件)としてされるものであるから、その裁判が効力を生じた後に、供託者が供託金を取り戻すことはできないとすべきと考えられる。
4 公告等(注3)について
(注3)は、部会資料30(第2の1(3))と同趣旨である。
5 不動産に関する財産権(注5)について
(注5)では、部会資料30(第2の3)における検討を踏まえ、不動産に関する財産権(賃借権等)の共有持分にも、本文と同様の制度を設けることを取り上げている。
6 その他
第14回会議では、担保責任に関する規律を設けることについても検討された。そこでも指摘があったが、今回の持分取得の仕組みでは、所在等不明共有者とその持分の取得者(申立人)との間に実際上の協議等があるわけではないから、協議がされて契約がされた場合と同様に考えることはできず、契約不適合と同様の状態がそもそも- 9 –
観念できないとも考えられる。また、実際に問題となり得るのは、共有物に何らかの不具合等があり、その結果、申立人が時価の価額は供託金よりも低額であるとの主張をするケースであると思われるが、そもそも、供託金の額は、裁判所の供託命令(供託命令に対しては、金額を争う機会を保障するために即時抗告をすることができることとすることが考えられる。)により定められるものであり、供託命令時に申立人においてその額を争う機会があったにもかかわらず、持分取得の効果が発生した後に供託金の額を争うことを認めるべきであるのかが問題になるように思われる。いずれにしても、この仕組みを利用することによるリスクは、持分取得を希望した申立人がとるべきであるとすると、担保責任に関する規律を設けるべきではないとも思われる。
第3 所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡
所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡につき、次の案をとることで、どうか。
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、請求をした共有者に対し所在等不明共有者以外の共有者の全員の同意を得て不動産の所有権を第三者に譲渡することができる権限を付与する旨の裁判をすることができる。
② ①の裁判が効力を生じたときは、所在等不明共有者は、権限を付与された共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
(注1) 裁判所は、①の裁判をするためには、所在等不明共有者に対して一定の期間までにその権利を主張すべき旨を公告しなければならず、その期間は、3箇月を下ってはならないものとし、権利が主張されれば持分取得は認められないものとする。
(注2) 裁判所は、①の裁判をするためには、その申立てをした共有者に対して、一定の期間内に、裁判所の定める額(不動産の時価相当額を当該所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額を想定している。)に相当する金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないものとする。
(注3) 権限付与の裁判の効力についてその終期を定めることについて、引き続き検討する。
(補足説明)
1 裁判所の決定等
部会資料30(第3の1(1))では、所在等が不明な共有者の不動産の持分の取得に関し、裁判所の決定を要するとする甲案と要しないとする乙案を提示していたが、第14回会議では、決定を要するとする案に賛成する意見が大勢を占めた。これを踏まえ、本文では、裁判所の決定を要する案を取り上げているが、その他は、基本的に、前記第2で検討している内容と同様である。
2 「所在等不明共有者以外の共有者全員の同意を得て」の意味等
本文①では、「所在等不明共有者以外の共有者全員の同意を得て」としているが、これは、所在等不明共有者の持分のみを売却することはできず、共有物である不動産全体を売却する場合に限り、その持分の売却を認める趣旨である。
もっとも、全体を売却する際に、所在等不明共有者以外の共有者の持分をどのような形で(どのような契約の形態で)売却するのかについては、法律で定めるのではなく、共有者間の話合い等で定めることを予定している。すなわち、現行法においても、共有者の1人は、他の共有者と協議をして、共有物である不動産全体を第三者に売却することができるが、通常は、各共有者が第三者との間で契約を締結し、共有者全員が(個々の持分の)売主になると思われる(あるいは、共有者の1人が全員の代理人として、契約を締結することもあると思われる。)。また、授権概念を認めるのであれば、授権を得た共有者の1人が自己の名で共有物である不動産全体を売却することになる。本文①で、所在等不明共有者以外の共有者の持分の譲渡をする際には、上記のいずれかを適宜選択して実施することになると思われる。
他方で、所在等不明共有者の持分に関しては、同じように考えることができない。今回の仕組みでは、所在等不明共有者の持分は所在等不明共有者から直接に第三者に移転することを想定し、そのような譲渡をする特別の権限を共有者に付与することとしている(そのため、第2とは別に規定を設ける。もっとも、第三者に対する契約上の担保責任等は、基本的には、その所在等不明共有者が負うべきではなく、第三者との間で契約をした共有者が負うべきであるように思われる。その意味で、共有者は、所在等不明共有者の持分それ自体を譲渡することはできるが、それ以外の売主としての義務を所在等不明共有者に負わせる権限はないと思われる。)。
以上のとおり、この仕組みを利用する際には、所在等不明共有者以外の持分は、適宜選択した方式で第三者に譲渡し、所在等不明共有者の持分は権限を付与された共有者がその権限を行使して第三者に譲渡することになる。
3 権限付与の効力の終期
ここで検討している持分譲渡の仕組みを利用すると、共有者は、権限付与の裁判を受け、その後に、その共有者が不動産について売買契約を締結するなどして第三者に譲渡することになる。もっとも、この権限付与の裁判を受けた共有者が、長期間にわたって売買契約等の締結をしないといった事態が生じ得る。そこで、権限付与の裁判については、譲渡行為をすることができる期限(権限付与の効力の終期)を定めることが考えられる。
また、譲渡行為そのものとは別の問題として、持分の移転の登記につき、今回の仕組みでは、所在等不明共有者の持分の譲渡につき権限を付与された共有者と第三者との間の共同申請で行うことを想定しているが、これにも期限を定めるのかが問題となる。
仮に、そのような終期を定めるとすると、その期間が問題となるが、基本的には、第三者との間で話合いがされ、第三者も金銭を用意している場合に今回の仕組みが利用されることを想定するのであれば、登記申請をするまでにそれほど長期間を確保する必要はないとも思われる。
4 第三者供託
第14回会議では、共有者に代わって不動産の譲渡を受ける第三者が供託をすることができないのかとの指摘があったが、一般的に、第三者供託が認められるのかは、問題となっている供託ごとの性質によって左右される事柄であると解される。今回の仕組みにおける供託金について検討すると、この供託金は、所在等不明共有者の有する時価相当額請求権に充当されるべきものであり、その供託は弁済としての性格を持つと考えられる。そして、正当な利益を有する第三者は債務者に意思に反しても弁済をすることができる(民法第474条第2項参照)ところ、この仕組みで不動産の譲渡を受ける第三者は弁済について正当な利益を有すると思われる。また、第三者供託を認めても、それによって所在等不明共有者に不利益はないと考えられる。そのため、不動産の譲渡を受ける第三者が供託をすることは許されると考えられる。
第4 共有者が選任する管理者
共有者が選任する管理者の選任、権限及び解任に関し、次のような規律を設けることで、どうか。
1 選任・解任
(1) 選任の要件
① 共有者は、共有物の管理者を選任することができる。
② ①の管理者の選任は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとする。
(2) 解任の要件
①の管理者の解任は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとする。
(注)選任及び解任に関し、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則及び所在等不明共有者がいる場合の特則(第1の1及び2)と同様の制度を設ける。
2 管理者の権限等
① 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者が他の共有者の同意を得なければすることができない行為をするには、共有者の全員の同意を得なければならない。
② 管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従い職務を行わなければならない。
③ ②に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対して効力を生じない。
ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
(注)共有物の変更(共有者全員の同意を要するもの)に関し特則(第1の1及び2)を設ける場合には、①のただし書の同意に関し、同様の制度を設ける。
(補足説明)
1 委任契約との関係
(1) 第三者を管理者に選任した場合
第13回会議では、第三者を管理者とした場合の共有者と管理者との委任関係について検討をしたところ、管理者である第三者と実際に第三者との間で委任契約を締結した共有者との間に委任関係(委任契約)があるとの考え方に賛同する意見があった。他方で、委任契約の解約等は、委任契約の当事者しかできないと思われるが、上記のように整理するとして、委任関係にない共有者も含めた共有者の持分の過半数の価格で管理者を解任すると提案されていることとの関係をどのように説明をするのかといった指摘などもあった。
改めて検討をすると、第13回会議での指摘にもあったとおり、持分の価格の過半数による同意を得て、共有者の一部が管理者との間で委任契約を締結した場合に、その契約の当事者は、基本的にはその契約において当事者とされたものであり、それは、委任契約に賛同し、自己の名で契約をした共有者に限られると解される(そのように解さないと、委任契約の締結に反対した当事者もその契約上の義務を負うことになるし、民法第252条は、共有者を本人とする契約の代理権を法律上管理人に付与するものではないと解される。)。そして、ここでの議論は、共有物の管理者との間の委任契約関係の成否という問題に尽き、管理者の選任に関して、委任契約以外の法律関係は観念できないとする考え方もあるように思われる。
他方で、委任契約の効力そのものの問題とは別に、持分の価格の過半数を有する共有者により管理に関する事項が定められた場合には、他の共有者はその決定を否定することができないなど他の共有者にも一定の効力が及ぶことと同様に、持分の価格の過半数を有する共有者により選ばれた管理者の行為を他の共有者が否定することができないという効力は生じると思われる(例えば、管理者が共有物を管理することを他の共有者は差し止めることができないとか、管理者が締結した賃貸借契約に基づき第三者が共有物を利用することを他の共有者が差し止めることはできないなど)。そうだとすると、管理者と選任に賛同をしていない共有者との間にも一定の法律関係(管理者選任関係)が生じていることは否定できないとも考えられる。
そして、部会資料27の5(3)甲案は、管理者と全共有者との法律関係につき、委任契約そのものが成立していると捉える見方をしていたが、そうではなく、前記のとおり委任契約(委任関係)は飽くまでも契約の当事者間にのみあるが、委任契約(委任関係)とは別の法律関係(管理者選任関係)が管理者と全ての共有者との間にあると整理することも考えられる。この考え方によれば、持分の価格の過半数により管理者を選任した場合には、管理者と共有者全員との間に管理者選任関係が成立し、それとは別に委任契約が締結されれば、管理者と実際に契約の当事者となった共有者との間に委任関係が成立することになる。
管理者選任に反対をしていた共有者と管理者との間に委任関係があるとみることはできないと解されるが、いずれにしても、この問題は今後の解釈に委ねることも考えられる。もっとも、実際には、管理者は、持分の過半数の者の意向に沿って活動をすることになるであろうし、管理費用や管理者の報酬は、基本的に委任契約の当事者である共有者から回収することになることには変わりがないと考えられる。
(2) 共有者の1人を管理者に選任した場合
第13回会議では、共有者の1人を管理者に選任した場合について、管理者と他の共有者との間に委任関係があるのかどうかを検討し、これを肯定する意見もあった。
改めて検討をすると、共有物の管理費用の負担等に関する共有者間のルールが民法上定められており(民法第253条以下。部会資料40の4のとおり新たに規定を設けることも検討されている)、共有者の1人が共有物を利用する際にはこれらのルールが適用されるにもかかわらず、共有者の1人が管理者に選任された場合に限り、これらのルールの適用を排除し、費用負担等の処理を当然に委任に関する規定に委ねることは妥当ではないように思われる。
もっとも、持分の価格の過半数によって共有者の1人を管理者に選任する場合に、その管理者になる者とその選任に賛成をした者との間で、民法上の共有者間のルールとは別に、管理者と選任に賛成する共有者の間の法律関係を別に定める契約をすることができるのかについては、別途問題となり得る。例えば、選任に賛成をした者が管理者に対して報酬を支払うことを合意することは、許されると考えられる(この合意は、合意をしていない他の共有者を拘束しない。なお、共有者が報酬を支払った場合に、それが管理費用(民法第253条)に該当し、求償が認められるのかは、別途問題になる。)。
なお、ここでいう合意に関し、委任契約として合意を締結することができるのか、委任契約とは異なる別の類型の契約(無名契約)として合意を締結するのかは、議論の余地があるように思われる(共有者の1人が他の共有者との合意に基づき、共有物を有償で利用する際の賃貸借契約の成否については、持分権に賃借権を設定することはできず、賃貸借契約は成立しないなどの議論がある。)。
2 選任・解任
(1) 要件
選任・解任の要件については、部会資料27の5(1)ア、ウと同じである。部会資料27の5(4)では、裁判所による解任等もとりあげていたが、第13回会議での検討を踏まえ、本資料では、取り上げていない。
なお、前記補足説明1の議論とも関連するが、管理者の選任は委任契約の問題と捉えるのであれば、ここでいう解任は、委任契約そのものの解約・解除の意思決定を意味することになる(意思決定をした後に、その意思表示を誰がするのかは別途問題となる。)ように思われる。
他方で、委任契約とは別の法律関係(管理者選任関係)があると見る立場によれば、解任は管理者選任関係を解消するものであり、仮に、共有者の一部と管理者との間に委任契約が別途あっても、委任契約自体は解消することはない(その解消は、委任契約の当事者が別途することになる。)ことを意味すると考えられる。委任契約が解消されないまま解任がされると、共有者の一部が過半数の同意を得ることなく、第三者との間で委任契約を締結した場合と同じ状態になる。
(2) 共有者の所在等が不明なケース
(注)では、選任及び解任に関し、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則及び所在等が不明な共有者がいる場合の特則(第1の1及び2)と同様の制度を設けることとしている。
3 管理者の権限等
(1) 権限
本文①は、部会資料27の5(1)イと同じである。ここでいう管理に関する行為には、事実行為のほか、法律行為も含まれる。管理者が共有物の利用方法などに関する法律行為をした場合には、共有者は、その利用方法等を否定することはできないと解される。例えば、管理者が共有物の短期賃貸借契約を締結した場合には、共有者は、賃借人の使用を妨げることはできない。
なお、管理者が法律行為をする際には、自己の名ですることができると解される。例えば、管理行為の一環として共有物の修繕を修理業者に依頼する際には、自己の名ですることが多いと思われる。また、管理者である第三者等が共有者の代理人として共有者を当事者とする法律行為をすることも考えられるが、そのためには、別途、共有者から代理権の付与を受ける必要があると解される。
(2) 権限の制限等
本文②及び③は、部会資料27の5(2)甲案と同じである。共有者が管理に関する事項を決した場合には、管理者はこれに従わなければならず、管理者がこれに違反したときは共有者に対して効力を生じないが、取引の安全を確保するために、善意者保護規定を置くこととしている。
第13回会議でも指摘があったところであるが、ここでいう「効力を生じない」とは、管理者が共有物の利用方法などに関して共有者の定めに反する行為をした場合には、共有者がその利用方法等を否定することができることを、「共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない」とは、共有者が善意の第三者に対してその利用方法等を否定することができないことを念頭においている。例えば、定めに反して管理者が第三者に共有物を賃貸した場合に、第三者はその土地を共有者に無断で使用していることになるが、その第三者が善意である場合には、その使用は適法となり、共有者がその第三者に対して共有物の使用差止等を求めることはできないということになる。
4 委任に関する規律
試案(第1の1(5)オ)では、全共有者と管理者との関係につき委任に関する規定の準用規定を置くことを提案していたが、ここでは取り上げていない。前記補足説明1のとおり、全共有者と管理者との間に委任契約(委任関係)があると見ることは難しいと考えられるし、選任に賛成した共有者と管理者との間でこれらの者を当事者とする委任契約が締結されていると見るとしても、そこには委任契約が存在するため、委任に関する準用規定を置く必要はないと思われる。
なお、管理者が管理の実施に要した費用については、管理者とその選任に賛成した共有者との間で委任契約が締結されていることが通常であるから、その契約に基づき、管理者は、委任契約の当事者である共有者にこれを請求することになり、これを支払った共有者は、民法第253条に基づき、他の共有者に求償をすることになると解される。
5 その他(裁判所による管理者の選任・裁判所による必要な処分)
部会資料27では、裁判所による管理者の選任や、裁判所による必要な処分を取り上げていたが、第14回会議での議論を踏まえて、本資料では取り上げていない。
共有者が多数である場合の共有物の管理や共有関係解消の在り方については、前記第1から第3までで提案している仕組みや所有者不明土地管理制度等を活用して対応することが考えられる。
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部会資料3 共有制度の見直し(1)
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【動画】2021民法・不動産登記法改正を研究する 第3回 ~民法改正案904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)を考える~
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要綱案(共有関係)
第2 共有等
1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
② 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。2 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めるものとする。
① 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。②において同じ。)を加えることができない。
② 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。3 共有物の管理
民法第252条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の管理に関する事項(共有物に2①に規律する変更を加えるものを除く。②において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
② 裁判所は、次に掲げるときは、ア又はイに規律する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
ア 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
イ 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
③ ①及び②の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
④ 共有者は、①から③までの規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
⑤ 各共有者は、①から④までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる。4 共有物の管理者
共有物の管理者について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有者は、3の規律により、共有物を管理する者(②から⑤までにおいて「共有物の管理者」という。)を選任し、又は解任することができる。
② 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。③において同じ。)を加えることができない。
③ 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
④ 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
⑤ ④の規律に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。5 変更・管理の決定の裁判の手続
変更・管理の決定の裁判の手続について、次のような規律を設けるものとする。
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、2②、3②ア及び4③の規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所がこの裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者等(2②の当該他の共有者、3②アの他の共有者又は4③の当該共有者をいう。)は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ イの届出がないときは、裁判所がこの裁判をすること。
② 裁判所は、次に掲げる事項を3②イの他の共有者に通知し、かつ、イの期間が経過しなければ、3②イの規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 3②イの他の共有者は裁判所に対し一定の期間までに共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。
ウ イの期間内に3②イの他の共有者が共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、裁判所がこの裁判をすること。
③ ②イの期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る3②イの規律による裁判をすることができない。
(注)これらの裁判に係る事件は当該裁判に係る財産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。6 裁判による共有物分割
民法第258条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
③ ②に規律する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。7 相続財産に属する共有物の分割の特則
相続財産に属する共有物の分割の特則について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について6の規律による分割をすることができない。
② 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、①の規律にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について6の規律による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について6の規律による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
③ 相続人が②ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が6①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。8 所在等不明共有者の持分の取得
所在等不明共有者の持分の取得について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
② ①の請求があった持分に係る不動産について6①の規律による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が①の請求を受けた裁判所に①の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
④ 共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
⑤ ①から④までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イ、ウ及びオの期間が経過しなければ、(1)①の裁判をすることができない。この場合において、イ、ウ及びオの期間は、3箇月を下ってはならない。
ア 所在等不明共有者の持分について(1)①の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)①の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ (1)②の異議の届出は、一定の期間までにすべきこと。
エ イ及びウの届出がないときは、裁判所が(1)①の裁判をすること。
オ (1)①の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が(1)①の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
② 裁判所は、①の公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、①(イを除く。)の規律により公告すべき事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
③ 裁判所は、①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。
④ 裁判所は、(1)①の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。この裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
⑤ 裁判所は、申立人が④の規律による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
⑥ (1)①の裁判の申立てを受けた裁判所が①の公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が①オの期間が経過した後に(1)①の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、申立人以外の共有者による(1)①の裁判のその申立てを却下しなければならない。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。8 所在等不明共有者の持分の譲渡
所在等不明共有者の持分の譲渡について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
② 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ ①の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
④ ①から③までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。(2) 手続等
① 8(2)①ア、イ及びエ、④及び⑤の規律は、(1)①の裁判に係る事件について準用する。
② 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後2箇月以内にその裁判により権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。 -
法制審議会民法・不動産登記法部会第22回会議議事録
先に進みます。部会資料52の4ページでございますけれども,共有持分の放棄につきましては,現行法の規律を維持するという方向を御提示申し上げております。これについての御意見を承ります。中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでは,今回の現行法を維持するという御提案について,特段の反対はありませんでした。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
ここは特段,そのほかに御意見がなくていらっしゃると受け止めてよろしゅうございますか。 -
法制審議会民法・不動産登記法部会第21回会議議事録
引き続き部会資料51の共有の部分についての審議をお願いいたします。
休憩のタイミングを考えまして,第2の共有の部分の「7 裁判による共有物分割」,10ページのところですね,補足説明まで入れますと11ページまでの部分ですけれども,この範囲について審議をお願いするということにいたします。
どうぞ,委員,幹事から御自由に御発言ください。
蓑毛幹事,お願いいたします。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでの議論を御紹介します。
第2の「共有等」については,少数の反対意見はありましたが,賛成意見が多数でした。ただし,表現ぶりや,趣旨をもう少し明確にした方がよいという事項がありましたので,意見を申し上げます。
まず,1の「共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等」についてですが,ここには要件として①と②が記載してあって,補足説明では部会資料40の4と基本的内容は同じであると書かれています。しかし,部会資料40の4では,「その使用によって使用が妨げられた他の共有者に対し,共有持分の価格の割合に応じて,その使用の対価を償還する義務を負う」となっていたのが,今回の提案では,「他の共有者に対し,その使用の対価を償還する義務を負う」となっていて,内容的に同じなのか疑問です。使用が妨げられていないにもかかわらず,自らの意思で,共有物を使用しない共有者に対して,使用した共有者が対価を償還する義務を負う必要はありませんので,元の文案の方がよいと思います。
2の「共有物の変更行為」については特段意見がありません。
3の「共有物の管理」についても特に意見はないのですが,1点質問があります。この規律では過半数で決することができる賃貸借の期間が③の範囲内となっていて,補足説明の7ページの下から四,五行辺りで,③の期間を超える賃貸借契約を締結した場合には基本的に無効だが,「持分の過半数によって決することが不相当とはいえない特別の事情がある場合には,変更行為に当たらない」とあります。この特段の事情がある場合というのは具体的にどのようなケース,事案を想定しているのか,お考えがあれば御説明いただければと思います。
4と5について意見はありません。前回まで弁護士会では,4の催告についても裁判所の関与を必要とすべきではないかという意見を申し上げていましたが,今回のような整理,つまり5の所在不明等の認定については慎重な判断が必要なので,裁判所が関与・判断するけれども,4の催告手続には裁判所が関与する必要はないというのが多数意見となっています。
6の「共有物の管理者」についても特段意見はありません。
7の「裁判による共有物分割」についてですが,基本的にはこのような規律でよいというのが多数意見ですが,判例の特段の事情の明文化,これは前回も議論になっていて,確か沖野先生が発言されたと記憶していますが,そのような内容の規律を置いた方がよいという意見もありました。一方で,そのような規定を置くと,優先関係を示すようなイメージを持たれてしまうので,今の案でよいという意見もありました。以上です。
○山野目部会長 意見の取りまとめを頂きましてありがとうございました。
今川委員,ちょっとお待ちください。
お尋ねが含まれておりました。事務当局からお話を差し上げます。
○大谷幹事 第2の1のところの表現ぶりですけれども,結局,共有物を使用する共有者がいるというときには,他の共有者は使用を妨げられてしまうということになりますので,その使用の対価を償還する義務は負うことになるだろう。ただ,別段の合意がある場合は除くということで,そういう別段の合意をしているのであれば,償還する義務は負わないという形になるのではないかということで,実質としては変えたつもりはございません。
それから,共有物の管理の短期賃貸借の補足説明の部分のお話がございました。これは特別の事情があるような場合というのは,イメージしておりますのは平成14年の東京地裁の裁判例でございまして,これは建物の賃貸借に関するものですが,元々賃貸用の物件として造られた共有建物について賃借人が替わる,ほかの人を入れるということについて,それが管理行為なのかどうかということが問題になった事案です。これについては借地借家法の適用があるので短期賃借権とは言えない部分がございますけれども,そのようなものでも,その事案の内容に応じて管理行為だと認定されて過半数で賃貸できるとされていますので,そういう処理を妨げるものではない,この期間を超えるものであっても,場合によっては管理行為と認定されるものもあり得るということかと思っておりました。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,どうぞお続けください。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。
1の点だけ。居宅などの不動産を共有者の1人が占有している場合は,他の共有者は使用を妨げられますが,例えば,自動車を共有していて,使用する必要がある人が使用するという場合は,共有物を使用する共有者がいても,他の共有者の使用を妨げるという状況にはないと思って申し上げました。
○大谷幹事 そのような場合で,別段の合意があるというふうに見るのかもしれませんけれども,みんなが使える状態にあって順番に使っているというか,その時々で違う人が使うようなことをイメージされているんですかね。そのような場合に,1人が使ってたので別の人がその機会に使えなかったというのを,どちらかというと,それは何というかお互いさまという感じがしますので,そこのところまで,完全にほかの人が使用を妨げられている状態ではないときに,このルールが対価の償還をする義務を負うという形になるかというと,今お聞きしている限りだとちょっと違うのかなという感じもいたしましたけれども。
○蓑毛幹事 ごめんなさい。私の言い方が下手で,うまく伝わっていないようです。今申し上げたケースのように,共有者の1人が共有物を使用するときでも,対価を償還する義務を負うべきでないケースが多々あると思われるところ,今回の提案は,別段の合意がない限り,常に使用の対価を償還しなければならないように読め,うまく機能しないのではないかと思ったのですけれども。
○山野目部会長 今の①の文言で仮にいったとした場合において,恐らく現実に導き出そうとする解決は,蓑毛幹事と大谷幹事との間で異なっていなくて常識的に当たり前の結果になるということであろうと考えますが,そこに導く論理構成は,一つは別段の合意がある場合を除き,に着目するものですが,別段の合意というものは,別に別段合意していなくても別段の合意があるということはあり得るであろうと考えられますから,明示の合意がされていなくても共有者間の暗黙の了解で,お互い自動車を使っていいのではないか,特段お金は要らないよというふうな扱いになっているときには,そういうロジックで対価を支払わないでしょうというお話もありましょうし,もう一つは対価の概念の観点もあるでしょうか,対価を払わなければならない使用に対して対価が生ずるということを考えると,みんなが毎日必ず時間の隙間なく使いたいと思っている自動車であれば格別,誰も使っていない自動車をちょっと使わせてもらいますよというのは,対価を支払うに値するような使用,ここの規律が想定している使用とか対価の概念からは離れますというお話になっていくということもあるかもしれません。
この規律の文言でいくときに,そうした理解を添えて進めていくということにするか,おっしゃったように,しばらく前に議論したような細密度の高い規律に戻して考えていくかということをなお検討していくということになりましょうけれども,言葉数の多いものにしたときに,あちらの方はあちらの方で,またそれぞれの文言についての疑問であるとか,その解釈の上での概念の外延を決めなければいけないとかという問題が生じてまいりますから,どちらでいくことがよいかということをまた考え込んでいくというお話になるものだろうというふうに感じます。ここのところは,ひとまずはそのようなことで更に検討するということでよろしいでしょうか。
○蓑毛幹事 よく分かりました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
今川委員,お待たせしました。
○今川委員 私は5の「所在等不明共有者がいる場合の特則」について,意見が一つと質問が二つあります。
まず意見の方ですが,(1)の要件の①で,共有物に変更を加えることができる旨の裁判の,ここで言う変更には,補足説明にあるように,譲渡や抵当権設定などの持分を喪失させる行為を除くということは理解しています。ただ,その前の2の「共有物の変更行為」でも,同じように「共有物に変更」という文言が出てくるんですが,ここは多分譲渡等の処分行為も含むという理解かと思っているのですが,そこは違っているのでしょうか。そのように理解をしていたのですけれども,そうであるとすると,その違いを明確にするために条文の文言について工夫が要るのではないかというのが意見です。
質問の方ですが,(1)の要件等の②なんですが,これはちょっと読み方がまずいのかもしれないのですが,アの決定をもらっておいて,イの決定も必要になるのか。アの決定だけをもらえば,4の規定に従い自らが催告をして行うということが可能なのではないかと思ったのですけれども,これは読み方がおかしいのでしょうか,そこを教えてください。
それと,(2)の手続の②の共有者等で,ここに「等」が入っているのですが,ここで想定される異議は,所在不明である当該他の共有者のみであると思われるのですが,ここに等が入ると,何か他の共有者も異議が述べられるというふうに読み違えをしそうなので,この「等」の意味が不明なので教えてください。
○山野目部会長 第1点もお尋ねの趣旨があったかもしれませんから,3点について事務当局からお願いいたします。
○脇村関係官 今の最初のお話にあったのは変更と処分の関係でございますが,教科書などでは,部会でも議論がありましたとおり,そこの変更に含んで処分行為を読むという方と,いや,処分というのは変更とは違うんだと,別の概念だという両説があったと思います。今回はそういう意味ではなかなかそこの解釈自体に踏み込むのは難しいと思っておりますので,表現上はですね。そういう意味では,そこはフラットにせざるを得ないのかな,つまり何もいじらないということで考えておりました。
そういう意味では,解釈論としては251条の変更で読むという方もいれば,いや,変更とは別の概念,処分というのは他人ができないものなのだということで読む概念,両説があるということを前提にしつつも,ここの持分取得についてはほかの条文と見合いで,当然含まれないという趣旨で書かせていただいたというところです。委員がおっしゃったとおり,本当はきれいに書くというのは一つなんですけれども,学説上の概念,あるいは更に言いますと,今の民法の文言ですと,変更行為は一応管理行為の一環,251条は前条の場合を除き管理に関する事項と書いていますので,恐らく変更は管理の中に入っているんだろうと思いますけれども,そういう意味で,文字面だけでいくと,多分処分行為は入らないというのが普通の読み方かなという気もしたりとかして,なかなかいじりづらいというのが正直ありましたので,こういった説明にしています。裁判所が絡むことですので,恐らく変なことは起きないだろうと思っていますが,我々としても,成案を得た際にはそういった説明についてきちんとして,ここには入らないということをきちんと周知していきたいと思っているところでございます。
また,5の(2)の②のイのことなんですが,おっしゃるとおり,従前私の方も,もう①で読めないかなと思っていたところなんですけれども,いざ字にしてみますと,なかなか①があるから,その催告のケースはいいんですというふうに,逆に読みづらいのかなと思いまして,念のために書かせていただきました。運用としては,あらかじめどっちにするか分からないケースについては両方の裁判をとっておくというのも一つでしょうし,もう残りの人で合意ができていて,もうイなんか絶対しないんだということであれば,アだけとるというのもあるのかなというところで,そこは状況次第,催告することを目指しているのだったらイをとった上で,アも分からないのでとっておくというのも一つ方法としてはあるかなと思っています。
最後の「等」は,ちょっと右往左往していて残ってしまったので改めて出す際には削ります。すいませんでした。
○山野目部会長 今川委員,お続けになることはおありでしょうか。
○今川委員 いえ,結構です。
○山野目部会長 よろしいですか。
引き続き承ります。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
第2のところで,2点ほど質問させていただければと思っております。
まず,第2の2の「共有物の変更行為」につきまして,ここで「変更」から除く行為の書き方については,これまでの部会の中でかなり議論されて,このような書き方に今回落ち着いたということだと理解しておりまして,従来のように改良を目的とし,と書くと,改良ではないものが入らないとか,そういったところは非常によく理解できるのですが,今回,形状又は効用の著しい変更を伴わない,という書き方に集約されたことによって,例えば元々全く効用を発揮していなかったような土地を暫定的に通路にするだとか,物置場にするとか,そういった改良のようなことを行って,それが見かけ上は著しい変更に当たっているように見えるかもしれないのですが,実態としては費用もそれほど掛かっていないし,元々使われていなかった土地なので,実際にはその効用を害しているものではないというときに,それも変更に当たらないと読めるという前提で書かれているのかどうかというところを差し支えなければ教えていただければと思っております。
あともう一つは,第2の7の「裁判による共有物分割」のところでございまして,こちらについても要件を具体的に書き込むのが難しいということは,これまでの議論で重々承知しておりまして,それでこのような形で②のア,イを併記していただいたものというふうに理解しておるんですが,法律で書けることというよりは,今後実務がどうなるのかなという関心の下で質問させていただきたいのが,従来は分割方法が条文にそれほど明確に書かれていなかったために,それを裁判所が自由裁量で決められるという解釈がなされていたと思うのですが,今回,アの現物分割と,イということで,いわゆる賠償分割が明記されることで,これによって,何かその辺の考え方が変わる可能性というのがあるのかどうかというところですね。特に当事者が,例えば現物ではなくて賠償分割でいきたいというような主張をしたときに,今回,新しく条文を創設することによって,そのような主張がどう機能するのかなというところを現時点で考えておられるところがあれば教えていただければと思っております。
以上,2点でございます。
○脇村関係官
1点目につきましては,恐らく効用を発揮していないというケースについてもいろいろなパターンがあるのだろうなと,あえてそういうふうにしているケースもあれば,本当にほったらかしているケースもあると思いますので,ケース・バイ・ケースによって,特にそれで問題ないというケースについてまで,それが著しい変更に当たらないことは言わないのかなというふうには思っています。恐らくその状況次第で変わってくるのだろうなというふうには思います。
最後の共有物分割につきましては,この部会の趣旨として,恐らく従前の判例議論を何か変えようということで明文化したというよりは,当事者に分かりやすくしようという観点から方法を示したということに尽きるのだろうなというふうに理解はしております。ただ,もちろん今回明文化されたことによって,より当事者がそういった言い分といいますか,主張を実際にはするケースが増えることもありますので,そういった主張を踏まえながら裁判所の従前の判例で示したような枠組みの中で考えていただきたいということなのかなというふうに認識していたところでございます。
○山野目部会長 藤野委員,いかがでしょうか。
○藤野委員 ありがとうございます。
1点目に関しては,例としてお示ししたような場合が変更に当たらない,と解釈されうるのであれば,実務上懸念が出ていたところもクリアできる可能性が出てくるのかなというふうに思っておりまして,後ろの方の第2の4とか5のところで,管理に関する事項については催告でいけるけれども,そうではない場合は基本的には裁判をかませるということになっていることとの関係でも,やはりここのところはすごく重要かなと思っておりましたので,ケース・バイ・ケースとはいえ,変更に当たらないという考え方でいける場合があるということであれば,よい方向なのかなというふうには思っております。
2点目に関しては,ありがとうございました。実務サイドとしては,共有物分割を請求した場合の結論の予測可能性が少しでも高まれば,という思いは依然としてございますが,今の時点でそこまで明確にするというのは難しいというのは重々承知しておりますので,いただいたご説明を参考にさせていただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き共有の部分の1から7までの御意見を伺います。いかがでしょうか。
○佐久間幹事 細かいことを申し上げるのですけれども,ちょっと文言で何点か気になるところがあります。
まず3の「共有物の管理」のところなんですが,「251条の場合を除き」というのは,今の条文だと251条でいいと思うのですけれども,その前の2の「著しい変更を伴わない場合を除く」というふうになっていると,この括弧書きはここに入らないということをきちんと示しておく必要があるのではないかと思います。
同じようなことなんですけれども,4と5に「共有物の管理に関する事項」という言葉が出てくるんですが,先ほど脇村さんが,変更だって,今は共有物の管理の一つと位置付けられているのではないかというふうにおっしゃって,そのとおりだと思うのですが,そうだとすると,この共有物の管理に関する事項のところの4と5においては,その変更を含まないということを明確に,文章を読めば分かるのはそのとおりなんですけれども,明確にしておいた方がいいのではないか。要するに,3,①,③に限るというふうなことを添えておくことが,読む人にとって親切ではないかなと思いました。
それと,5の(2)の②が「異議を述べなかったときは」とあるんですけれども,後の方で出てくるのに合わせると,これは①のイの異議の届出をしなかったときは,しないときはとかというふうになる方が,ほかとの平仄が合うのではないかと思いました。全部ここは文言だけです。
それで,1点気になるのが,7の「裁判による共有分割」で,これも合意ができていたのかもしれないし,別に強く主張するつもりはないのですけれども,②のイで,共有者に債務を負担させて取得させるということについてです。補足説明では,前回のような金銭を支払わせてとなると,金銭の支払が持分取得の条件というか,金銭の支払があって初めて持分を取得することができるということになってしまいますよね,ということなのですけれども,それはそうなのですけれども,仮に債務が履行されなかった場合,裁判分割をして,相手に債務の履行は命じられたけれども,履行してもらえませんでした,持分は失っていますって,それはいいのかなというふうに素朴に思いました。条件というか,対価の支払によって初めて持分が取得されるというところまではしないのであれば,しなくてもいいと思うのですけれども,何か優先的な救済を考えておく必要はないのだろうかと。そういった事態は極めてまれなのだろうとは思いますが,これまではそもそも全面的価格賠償自体がそれほどとられていなかったのだろうと思うのですね。だから問題は顕在化しなかったのではないかなと感じる面もあります。これからこういうフラットに②,ア,イ,特にイで,持分全部を債務の負担という形で取得させますよということがどんどん行われるということになると,債務不履行事例も出てくるのではないかと。その場合に,「まあ,そんなものです」というようなことでいいのかどうか,ちょっと疑問に思いました。
○山野目部会長 最後におっしゃった点を除き,佐久間幹事が前の方でおっしゃった諸点は,今後法文の立案を準備するに際して参考にするということにいたします。
最後に御指摘があった点について,事務当局の説明を求めます。
○脇村関係官 ありがとうございます。
正に先生がおっしゃったとおり,その点や,その履行をどうするのかという,従前この部会でも議論させていただいたところでございます。今回の部会資料につきましては,その点につきましては引換給付,あるいは停止条件とすることについて,裁判所に適切な判断をしていただけるのだろうという前提で組んでおりました。なかなか裁判所の判断事由について全て書き込むのは難しいということから,給付条項だけは書きましたけれども,そういったことを絡めて裁判所の方で従前どおり,あるいは従前よりも更にかもしれませんけれども,そういった問題に対応するために,お金を払うときに移すのか,あるいは引換給付にして登記移転するのか,そういったあたりを判断していただけるのだろうと期待して作らせていただいたというところでございます。
○山野目部会長 ④のところで引換給付判決などをする可能性があり得るということ,及び,しかし,それをしてくれということを裁判所が個別の裁判を言い渡すに当たってする,その内容を法文で事細かく示唆することが適当でないというふうに考えられるという2点に分けて,事務当局から説明がありました。
佐久間幹事におかれて,いかがでしょうか。
○佐久間幹事 引換給付があり得るとして,あり得るというか,それはあるのでしょうけれども,正直,そのようにしないことが一体どういう場合にあるのかなというのが,よくのみ込めないところです。引換給付があり得るのだったら,ほぼ全て引換給付になるのではないかなというふうに素朴に思っただけです。
○山野目部会長 今までの家事事件手続法でも,恐らく②のイと④の規律が置かれていますから,そこについての運用と大きく変わるということはないであろうというふうに想像されます。そこでの運用を踏まえて,また適切な解決がされていくということでありましょう。
7のところについて,今,佐久間幹事から御指摘いただいたことに留意をするということにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,7まで審議をお願いしたという扱いにいたします。
休憩といたします。(休 憩)
○山野目部会長 再開いたします。
部会資料51の第2の「共有等」の部分について御審議を頂いているところであります。
休憩前に,第2の共有の7の「裁判による共有物分割」のところまでが済んでございます。第2の「共有等」の残りの部分,8の「相続財産に属する共有物の分割の特則」から始め,第2が終わるところまで,部会資料51で申し上げますと,17ページの上半分のところで補足説明が終わっているところまで,この範囲で御意見を承ります。どうぞ御自由に御意見を仰せください。
○蓑毛幹事 部会資料11ページの「8 相続財産に属する共有物の分割の特則」ですが,これは従来,「通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則」というタイトルで書かれていたものだと理解しています。このような制度を設けることには異論がないのですが,8の①,②の書き方で,これまで議論されてきた趣旨だと読めるのか,疑問が残りました。
また,③の3行目括弧書きにある「当該相続人が同項の規定による請求をした場合にあっては,当該請求をした日」との規定を置く趣旨がよく分からないという意見がありました。当該相続人というのは,②ただし書の申出をした相続人と読むと思うのですが,共有物分割請求をした者自身が,それに対して異議の申出をするというのは考え難いので,そうでない読み方をするのでしょうか。ちょっとここは分かりにくいと思います。
それから,9(1)④の持分の時価相当額というところについて,前回の部会資料では,これをどのように計算するのか更に検討が必要だと書かれていましたが,今回,特に説明がありません。条文としてはこのような「持分の時価相当額」という表現に落ち着くものと思いますが,その算定方法について更なる検討と,説明が必要だと思います。このままぽんと出されると,実務が混乱するとの意見がありました。
それから10の「所在等不明共有者の持分の譲渡」についても,賛成意見が多数です。ただし,少し議論になった点として,15ページの(1)の③で所在等不明共有者が取得する権利について,不動産の時価相当額を持分の割合に応じて按分した金額の支払請求権を取得するのはよいのですが,この金額を裁判所が算定し,それに応じた金額が供託されたとして,その後の実際の売買で,時価と判断された金額を上回る金額で売れた場合に,その上回った金額を不明共有者に渡さずに,それ以外の共有者が取得してよいのか,それは不公平ではないかという意見が出されました。この点を解決するために,実際の売買代金に見合った金額を追加して供託させることが考えられますが,条文の定め方が今よりも複雑になるでしょうし,今の仕組みでは,売却に先立って,裁判所の決定と供託がされるものですから,その後に金額が上がったことをどう確認し,追加分をどのように追加して供託させるのかなど,手続きがかなり複雑になりそうです。
あるいは,裁判所が時価相当額を計算するに当たり,通常はその時点で売買契約の交渉等がある程度進んでいるでしょうから,裁判所が時価を判断する資料として,当事者に売買契約書などの情報を出させるような仕組みにすることも考えられると思います。
「11 相続財産についての共有に関する規定の適用関係」については特に意見はありません。
○山野目部会長 お尋ねも頂きましたし,御所感という仕方でお伝えいただいたこともありますけれども,それらを通じて,事務当局で考えていることがあったらお話しください。
○脇村関係官 ありがとうございます。
まず,この11ページの特則の書き方については,できるだけ私たちも頑張りたいというふうには思っておりますが,現時点で,今の時点としてはこれが限度だというところでございます。
その上で,この括弧書きについては確かに分かりにくいと思いますので書き直そうと思っています。趣旨としましては,恐らく通常共有,遺産共有が併存しているケースに共有物分割訴訟を起こされるパターンとしては2パターンあると思っていまして,一つは正に通常共有を第三者が申立てをするバターンと,相続人の1人が申し立てるパターンの2パターンがあるのかなと思っています。正に前者についてはもう残りの相続人の異議がなければいいのではないかということで,元々想定していた議論をさせていただいています。
一方で,相続人がやるケースについては,相続人の中には遺産共有の分割後の遺産共有でやりたい,だからここでやってほしくないというパターンと,いや,全部やりましょうよ,10年たっているしというパターンの2パターンあるのかなと思っておりまして,書きたかったのは,訴える際にどっちかはっきりさせてくださいよと,その訴える人はですね。ということを何とか書けないかなと思ったのですが,それを異議の書き方にしたので多分分かりにくくなったというところだと思います。次回までに何とか工夫をしたいと思っているところでございます。
また費用につきましては,もう少し私も考えてきたいと思っていますが,従前から議論ありますとおり,不特定のパターンには非常に難しい問題があり,所在不明のケースについては専門家を使うべきかどうかという議論,いろいろあったと思います。不特定のケースについては,少なくとも人数が分かっているのだったら平等基準でやるべきではないかとか,あるいはもう最低分からないときについては高めで納めさせるべきではないかという議論がありまして,裁判所の判断に委ねるということとしたこととの関係で,どこまでこの部会資料に書くべきなのかという議論はあるとは考えていますが,少しその辺,どういう審議を経てこういった条文になったかが分かるような形で,次回,何らかの形で部会資料で少し説明できるように考えていきたいと思っているところでございます。
最後の結局金額どうこうの議論なんですが,確か前回ここの議論をした際に今川委員からも同じような御趣旨の御指摘あったと思いまして,当時私はずれていても仕方ないのではないですかみたいなことを口走ってお叱りを受けたところだと思っているところです。その後,改めて考えたのですが,例えば不当利得の返還請求などの最高裁の判例では,利得・損害額を判断する際に,実際売れた金額をベースに利得を考えるべきではないかという最高裁の判例はあったと思います。そういった考えは,多分ここでも一つ参考になるのかなと思っておりまして,その時価を考えるに当たっては,どういった金額で売却されることが見込まれるかということも資料の一つとして考えることはできるのではないかなと思われるところです。もちろん裁判所の判断事項にしたこととの関係で,必ず確認しろといっていいのかどうかというのは,証拠の採否に関するところでなかなか難しみはあるかもしれませんが,恐らく適切な金額を判断する上では,どういった金額で売ろうということを聞くとか,あるいは確認するという作業が一つ考えられるのではないかというところで,恐らく安いときには多分自分たちで言ってくると思いますけれども,高いときについても裁判所の方で適時適切に対応していただくというのが一つあるのかなというふうには考えているところでございます。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,お続けになることがおありでしたら,どうぞ。
○蓑毛幹事 今の説明でよく分かりました。
10についてもう一つ意見が出ていたのを言い忘れていましたので申し上げます。
時価相当額の概念で処理できるのかもしれませんが,供託する金額について,仲介手数料,固定資産税の精算,印紙代など,売買によって生ずる費用を時価から差し引いて計算する方がよいという意見がありました。
○山野目部会長 蓑毛幹事の今追加しておっしゃっていただいたことは理解いたしましたから,次回以降に向けて引き続き検討いたしますが,多分,法文には仲介手数料とかは書かないものでしょうね。それこそ正に仲介手数料,それから固定資産税の課税の基準になる日がありますね。あの日の前後で細かく計算分けてしていただくとかという事項は,もうこれは弁護士や司法書士の先生方はそのためにいるものであって,それは民法の法文が何かしてあげるという世界ではありませんから,従前も民事法制の規律において時価をもって売渡しや買取りを請求するといった場面で,常に大なり小なりその種類のことはありますけれども,法文がそのことを細密に手取り足取り表現してルールを明らかにしてきたわけではございませんから,今,蓑毛幹事におっしゃっていただいたことを今後いろいろ説明していくに当たって忘れないように念頭にとどめますけれども,恐らく法文の扱いとしてそれをどうするかという話にしにくい部分があるものではないかとも感じます。ありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○松尾幹事 3点ございまして,第1点は,誠に申し訳ないのですけれども,休み時間に入る前の部会資料51の第2の7「裁判による共有物分割」について,ちょっと躊躇して言いそびれた点がございまして,発言をお許しいただければと思います。
部会資料51の10ページの第2の7の②のイ「共有者に債務を負担させて,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」で,先ほど佐久間幹事がご指摘された点ですけれども,賠償分割の場合の共有者の対価支払と他の共有者の持分取得の引換給付を実現できないかどうかということで,私も同じ問題意識を持っておりました。それで,第2の7の②のイの共有者に債務を負担させてという場合の債務は持分の対価の支払債務と理解してよいかと思うのですけれども,その対価の支払と引き換えに,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法というような表現を用いることに差し障りがあるかどうかということについてご教示いただきたいと思いました。もしかすると,この対価支払について期限を許与すべき場合があるかもしれませんし,そういう考慮があってこういう表現になっているかもしれませんけれども,従来から問題点として指摘されてきた点でもございますので,問題提起をさせていただく次第です。考慮が足りない点があるかもしれませんがお許しください。
それから第2点は,部会資料51の13頁,第2の9「所在等不明共有者の持分の取得」(1)の④で所在等不明共有者の持分の取得をするときに,この所在等不明共有者には持分の時価相当額の支払請求権があることを定めています。これはすっきり理解できるところであります。他方,次の(2)の④では,裁判所は持分取得の裁判をするときに,この所在等不明共有者のために裁判所が定める額の金銭を供託することを命じなければならないとしています。(1)の④では時価相当額という表現で,(2)の④では裁判所が定める額の金銭という表現になっているわけですけれども,その理解として,例えば持分取得を希望する共有者が既に共有物の管理について負担した費用の償還を求める場合には,そのことも考慮して裁判所は,その費用を差し引いた残額について供託すればよいということを認める趣旨でしょうか。私は,そういうことができるならばその旨を規定すべきではないかと思います。といいますのも,所在等不明共有者の持分の取得は,所有者不明状態を解消する手段としては,今回の改正提案の中では切り札と言ってもよいものかと思いますので,できるだけこれを使いやすいものにし,共有者間の公平を実現できるようなものにすべきではないかと考えるからです。この点の確認と意見が第2点です。
それから,第3点として,部会資料51の15ページ,第2の10「所在等不明共有者の持分の譲渡」で,これは所在等不明共有者の持分を他の共有者の持分と併せて第三者に譲渡するということを前提にして,その要件と手続を定めるルールですけれども,この持分の譲渡のほかに,所在等不明共有者を含む共有者全ての持分について抵当権を設定するというようなことも可能であると想定しているでしょうか。所在等不明共有者の持分も含めて,この共有物について抵当権を設定するということも,この持分の譲渡と類比して可能なのかどうかという点の確認です。
もし抵当権の設定ができるということになった場合には,部会資料51の15ページの(1)③で所在等不明共有者の持分の譲渡に対する時価相当額の支払請求権ことを考えたときに,譲渡ではないから,持分の対価に対する支払請求権のような対価の支払請求権はないということでよいのか,あるいはそもそもそこに問題があるから抵当権設定のようなことはできないというふうに考えるのか,この点について,ルールを明確にしておいた方がよいと考え,確認させていただきたいと思った次第です。
○山野目部会長 3点にわたって,お尋ねないし問題提起を頂きました。
事務当局からお願いします。
○脇村関係官 ありがとうございます。
まず,引換給付につきましては,先ほど山野目部会長からもお話があった点に絡むのですけれども,似たような制度として家事事件手続法というもので債務負担という表現を使っていることとの関係もあって,こちらの引換給付を必ずしないといけない,絶対だということまではなかなか難しいのではないか,さすがに裁判所の裁量を完全に封じてしまうことまでは難しいのではないかということで,技術的な面から書けないと思っています。ただ,もちろん先生,あるいは佐久間先生がおっしゃっていたとおり,普通はやるのでしょうと言われると,そうでしょうねとは思っているのですが,そこは技術的な限界があるのかなと思っています。
次に,控除をした金額でいいのではないかというお話があったのですが,やはりなかなか現実的には難しいのかなと思っていまして,結局,控除すべき金額を考慮して供託金を定めると,時価から控除した,これは引いていいですよということをこの裁判の中でやるのは多分不可能なのだろうと思います。結局,客観的な時価であれば,それは裁判所が専門家の知見を借りて判断をできますが,そうではない,実際どういった費用を払ったかなどの認定をするには,恐らく管理人などを使った上で,その管理人の調査を経た上でやらないといけないということだろうと思います。ですから,先生おっしゃったようなケース,実際には控除した金額で買い取るということが認められてしかるべき事案もあろうかと思いますが,そういったケースにつきましては,この簡易なものではなくて,次回以降取り上げます所在等不明土地管理制度ですか,管理人を付けて裁判所の監督の下で管理人が適宜土地,共有持分も含めた管理をするという制度を考えておりますので,その管理人を選んだ上で,その管理人との協議の上で共有持分を集約するという制度を使うしかないのかなというふうには,今のところは思っています。ここの中で,この裁判所の手続を非常に重くするということは避けるべきではないかと思っています。
最後の抵当権の件なんですが,正に先生おっしゃったように非常に難しくて,恐らくこの抵当権の設定をそういった形でやるというのは多分不可能なのだろうと思います。そういう意味では,この資料としては想定していません。では,抵当権を付けたいときにどうするのだという話が当然あろうかと思いますが,一つは,そういったもろもろのことをしたいのであれば,将来的にいろいろ担保保存義務を負わないといけませんので,持分を集約していただいて,このレジュメでいきますと12にあります共有持分の取得をまずしていただいて自分のものにした上で,抵当権を設定していただくのがいいのかなと思っています。そういう意味では,元々この持分取得だけでいいではないかという御議論もあったぐらいで,そういう意味で譲渡に特化した作りにしていますが,抵当権,あるいは更に言うと長期の,例えば賃貸借部分も好きにやりたいとかいろいろなことがあるのだったら,持分取得をしてきちんとやるというのが一つの方向性かなと思っているところです。
○山野目部会長 松尾幹事,よろしゅうございますか。
○松尾幹事 ありがとうございました。1点目と3点目については了解しました。
2点目につきましては,所有者不明状態を解消する手段として,共有者の一部の者による時効取得についてのルールは設けられないことになったわけですが,時効取得の場合には特に対価の支払ということはなくても,他の共有者の共有持分権を取得できることとの関係で,所有者不明状態の解消手段として期待される所在等不明共有者の持分取得については,できる限り実用的なものにする必要があるのではないかという観点から,問題提起させていただいた次第です。確かに,所在等不明共有者のために所有者不明土地管理人を選任して手続をとることは一番真っ当な方法かと思うわけですが,ちょっとその手続的負担は重たいかなというふうに感じたものですから,確認とコメントをさせていただきました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
休憩前に引き続き,従来は全面的価格賠償と呼ばれてきたものを今般は明文の規律を置いて,それが可能であることを明らかにしようとする提案につきましては,多くの委員,幹事から,本日の部会会議に至るまでの御議論で賛成を頂いてきたところでありますとともに,本日は引換給付の問題を中心に若干の御議論があったところでありますから,この際,一言申し上げます。
恐らく,いわゆる全面的価格賠償というものが現時点においては法文上,明らかになっていないにもかかわらず,あり得るということを裁判所がはっきり体系的に述べた最初の判例である平成8年の最高裁判所の判決は,それは可能であるけれども,大きく分けて2種類のハードル,2種類の要件を満たしてもらわなければ困るということを述べていました。
一つは,その現物を特定の1人又は数人の共有者に取得させるということが,客観的に見てもっともであるという土地の利用その他の関係における事情が存在するということがなければいけないということであり,もう一つは持分を失うことになる者に対して債務を負う者がしかるべき資力を持っているという見通しが成り立ち,必ず対価となるお金を得させるようにしてあげなければならないという観点でありました。これらの要件の要請は,いずれももっともなものでありまして,新しい規律ができた後に,平成8年の判例の意義をどう考えるかは,もちろん今後において研究者がその点についての検討を重ねていくなどするところを待たなければなりませんけれども,恐らくはこの部会においてまとめようとしている案の趣旨としては,平成8年の判決の意義を全くなからしめるようなことは考えていないという理解でよろしいであろうと感じます。
そうであるといたしますと,判例が要求する二つの要件を関連させて述べますと,その物を1人の者に取得させて使用させることがもっともだという事情がある場合に限られますから,状況によってはそれが切迫しているということもあります。地域のまちづくりであるとか,被災地の復興のような観点から,いち早く占有と登記は得たいというような要請がある事例もあるであろうと想像します。そのようなときに,常に引換給付であるというふうにしておきますと,登記や占有の取得が遅れることもあり得ると,そのような心配が出てくるであろうと案じられます。差し当たって,担保を提供しますから,お金は直ちにお支払いするということになりませんけれども,引換給付にしないで占有や登記を得させてほしいというふうな要請があったときに,それをもっともであるというふうに考えて,諸事情を勘案して引換給付等はせずに担保を立てさせ,又は極めて僅少な額であるために担保を立てさせないで,無条件で占有や登記の移転を命ずることとするかという事項は,申し上げたような一切の事情を斟酌して処理運用をしなければならない事項になりますから,そこのところについては類似局面の規律を設けている従前の家事事件手続法の運用等を踏まえながら,個別の事案に向き合った裁判所に任せようという在り方がそこのところの規律の提案における④のお話であったものでありまして,そういうふうなことを思い起こしますと,確かに佐久間幹事がおっしゃられたように,大抵の場合は引換給付になるでしょうということはもっともなお話ですが,裏返して言いますと,限られた場面かもしれないですけれども,そうでない取扱いが妥当とされる場面もあるものでありますから,余りそこを規律の文言として書き切ってしまうということは慎んだ方がよいのではないかということで,本日このような提案を差し上げているところであります。それをめぐって,委員,幹事の間で有益な御議論も交わしていただいたところでありますから,それを踏まえて今後の検討を更に深めてまいるということにいたします。
お諮りしている共有の部分について,引き続き御意見を承ります。
○佐久間幹事 3点ございまして,1点はまた文言というか表現の話で恐縮なんですけれども,12ページから13ページまでにあります(2)の③のところで,「裁判所は,①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは,当該届出を却下しなければならない。」とあるのですけれども,①のイについては同じような定めは要らないのでしょうか。私が見落としているだけだったらおわびいたしますけれども,何かないように思えて,ないとしたら,必要なのではないかなと思いますので,ちょっとお教えいただければと思います。それから⑥にある②オというのは,①オの多分誤植だと思います。これは多分間違いないと思います。これが1点目です。
2点目は,8についてなんですけれども,8の②におきまして,共有物の持分が遺産に属するときに,共有物の分割は,その遺産の分割の手続でするのだという異議があったら,できませんということが定められているわけですけれども,その前提として,例えば相続人でない共有者が1人いまして,あと遺産共有の部分が持分であるというときに,7のルールの例えばイで,当該相続人でない共有者に全部所有権を取得させて,今で言う価格賠償にして,その金銭が遺産に属して共有だという扱いは排除されていないのか,この②のルールがあることによってそれも排除されるのか,私は排除されないということの方がいいのではないかと思っているのですけれども,そこを確認させていただきたく存じます。この②は飽くまで遺産共有の部分についての扱いであり,従来からそうだと思いますが,遺産共有に属しない持分を有している人は,共有物分割を請求できるはずだと思うのですね。それができるということは,今後も変わらないということでいいですかということと,そのときの共有物分割の内容としては7のとおりであり,この8の②のルールによってそこに制約がかかることはないということでよろしいですか。よろしくないのだったら,それはどういうことですかということを伺いたく存じます。
3点目は,これはちょっとここの提案の直接話ではないのですけれども,9の不明共有者の持分の取得と,10の持分の譲渡の許可の場合に,その取得とか持分の譲渡が実現したら登記することになりますよね。その登記の申請は,結論としては当該持分を取得した人が1人でできる,共有物全体を譲渡した場合は,その持分の譲渡の許可を得た人が代わりにと言っていいのかどうか分からないですけれども,不明者についての手続も多分やれるということになると思うのですが,そのことについては民法ではないと思うのですけれども,不動産登記法かもしれませんが,何か定めが要らないのでしょうか。要るか要らないか,あるいはもし要るとしたらどういうふうなことをお考えでしょうかということを3点目にお伺いします。ひょっとしたら実務上の扱いで処理しますということなのかもしれませんが。以上です。よろしくお願いします。
○脇村関係官 ちょっと前後して8から先に順番でさせていただきますと,ちょっとすみません,先生の問題意識を私が的確に理解していない可能性があるのですけれども,おっしゃった点は,恐らくイエスなのだろう,変わらないということでいいのだろうと思っています。ただ,すみません,私は先生の問題意識がはっきり分からずに答えている可能性もなきにしもあらずなのですが,やりたかったことは,遺産共有持分のものについてはこうなりますということだけですので,それ以外のことについては特段触れていないですので,そういった意味で変わらないということだろうと思います。
あと9の上の方で,異議がなかった場合,却下しなければならないと書かなかった点なんですけれども,従前からあちらの方は,正に催告がなかった場合にどうするのだということをメインに議論をしていましたので,明確的に書かせていただいたというところです。一方で,持分取得なり譲渡についてはいろいろな手続が複雑に入り混じっておりまして,公告した後,供託してということで,いちいち全てについてちょっと書くのが難しかったというのが正直なところです。ただ,内容については,もちろん異議が出た場合には当然その要件として所有者不明ではないということになりますので,当然できないということになりますので,そこは書かなくてもいいのかなと。逆に言うと,元々のあちらの方を書かない方がいいという結論なのかもしれませんが,あちらは一応明確にした方がいいかなということで書いてあるだけですが,そういう意味ではちょっと若干技術的な話かなと思っています。
あと,6の2のオの話ですか,ちょっと確認した上で,また次回適切に答えさせてください。先生,9の(2)の⑥でよろしかったですか,御指摘いただいたのは。
○佐久間幹事 そうです。②オってあるんですかね。
○脇村関係官 そういう意味では,すみません,①なんですけれども,①オでして,すみません,ここは次回までにきちんときれいにさせていただきたいと思います。
最後,登記ですね,すみません。結論としては,もう先生がおっしゃったとおりでして,もう単独,あるいは共同申請するにしても,所在等不明共有者抜きでできるということを考えておりました。不動産登記法の手当てについて,この決定書き,裁判書きで明確に権限があることは証明されているので,特段手当てしなくていいのではないか,もちろん改正された場合に手当てしなかったとしても,その点についてはもろもろの方法によって周知しないといけないと思っていますけれども,手当てしないという方法もあるのではないかと。一方で,本当に手当てしなくていいのかということも考えないといけませんので,もう方向としてはそちらの方向ですが,手当てしないことも含めて現在検討中です。いずれにしても,そこは遺漏なく適切に対処していきたいと思っています。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ,お続けください。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
8の②の共有物分割の話は,こうすべきだという意見があるわけではなくて--。いや,あるか。通常の共有者の共有物分割の請求が妨げられることは,それはあってはならないと思っていて,今お答えをそう頂いたのですけれども,かつ裁判所がどう分割するかというのは,遺産共有の方の側で,いや,これは共有持分として残してほしいという希望が例えばあり,それが理由があるというふうになると,7の②のイなんていう判決が出る裁判がされるということは,普通ないのだろうと思うのですけれども,そういう希望が仮になかったとしたら,どうなるのでしょうか。実際上は何を考えているかといいますと,遺産共有の状態で訳の分からないことになっているものについては,誰か1人にぽんと所有権を取得させることが,当該土地がそれ以降,きちんと利用されることになる道を開くことになると思っています。そうすると,7②イの方法も,差し支えのないときは排除されていないのですよねということを確認していただけるならば,今日じゃなくてもいいのですけれども,ちょっと整理されて,そうしていただくのがいいかなと思ったので発言をさせていただきました。そのときは金銭が共有,遺産共有のままですという,それでいいのかどうかもよく分かりませんけれども,なるのかなということで発言させていただきました。
○山野目部会長 ありがとうございました。
脇村関係官からお答えを差し上げたように,ひとまず今日考えているところをお話ししましたけれども,佐久間幹事の御意見を踏まえて,なお整理をすることにいたします。
ほかにいかがでしょうか。
○沖野委員 ありがとうございます。
今の佐久間先生と脇村さんの間でやり取りされたことに関して確認させていただきたいのですけれども,12ページから13ページの9の項目の(2)の③で,ウの場合に,期間徒過の場合の手当てが書かれていて,イについては書かれていないという点について御説明は,その場合には所在等不明共有者ということにならず,①の要件を欠くので,いずれにせよ(1)の①の裁判がされないというものと伺いました。
ただ,そうしますと,(2)の①のイで,一定の期間までにその旨の届出を,その所在等不明共有者がすることということですから,実は私だとか,実は私はここにいますというような場合には,しかし,一定の期間までという限定が掛かっておりますので,期間を超えた場合どうなるかという問題はあり,かつ(1)の④で,持分を取得したときは所在等不明共有者が請求することができるということですから,後に判明して請求するという事態もあり得るということで,一定の期間内に出てこなくても,後に登場したときは,この金銭調整でいくという考え方がとられているように思うのですけれども,そういう理解ではないのでしょうか。それで,(2)の③のウの方は,(1)の②で届出をしたときはできないということになっていて,届出はされたけれども,期間の要件を満たしていないので,そのときは届出がない形にするために書かれているのだと思いますので,したがって,①のイとは少し扱いが違うというのは分かるのですけれども,扱いが違うという内容が果たしてそういうことなのかということを改めて確認させてください。さらにはその関係で,(2)の②については登記簿上,氏名,名称が判明している共有者に対しては,登記簿上の住所又は事務所に宛てて通知を発するということになっているのですけれども,対象事項として,①のイは除くとなっています。ただ,所在等不明共有者の中には,およそ誰か分からないという場合のほか,誰かというのは名前は分かっているけれども,所在が分からないという場合があって,その場合には登記簿上から氏名や名称は分かります。そこに住所が,その登記簿上は明らかになっているときには,その通知をするとなっているときに,この所在だけが分からないという人に対しては通知しないということでいいのかどうか,一定期間経過後は駄目だということになるときには,①のイを除かないのではないかという気がしまして,一方でまた更に細かいことを言うと,②で①(イを除く。)ならば,対象者も限定しなければいけないのではないかということで,少し平仄を合わせる必要があるのかなと思っております。
それで,もうついでに申し上げてしまいますと,改めて平仄を合わせるように表現をお考えになるということですので,15ページの10の(2)の①について,ここでア,イ,エということで,ウとオが除かれているのですが,これはウを除く趣旨だというのは分かるのですけれども,オを除くと,次の④から⑥までの,⑥はオについての記述ではないかと思われるので,⑥も除くのかなと思います。全く誤解しているかもしれません。平仄は合っているのか,いや,このままでいいのか,考え直した方がいいのかということは改めて検討していただければと思うのですけれども,一定期間経過後にイの異議が出たときの扱いだけは,内実が違ってくるかと思いますので確認させていただければと思います。
○脇村関係官 大変すみません,誤記の点はあると思いますので,もう一回そこは確認させていただきたいと思います。その上で,最後の点は恐らく中身のお話だと思うのですが,私としましては部会資料を作った趣旨としては,裁判で入れてきたケースについては,もうそれは実体法上の要件がないと言わざるを得ないのかなと思っていますし,一定期間,届出がなかったからといって,後で判明したのに,もうやはり持分移転するのだというのはさすがに難しいのかなと思っておりまして,そういったことを考えておりました。
もちろん,では,期間を区切るのは何でなのだという御指摘なのだろうと思いますが,やはりそこは早く届け出てくださいよというメッセージを出した方がいいのではないかと思っていまして,例えば失踪宣告なども,一定期間までに生存届出すべきことということで公告することになっています。ただ,失踪宣告も,恐らく届出期間を過ぎても,私,実はここにいますということが出てくれば,それは失踪宣告しないのだろうと思いますので,その期間を定めることと,実体要件との絡みは,そういった整理もあるのかなというふうに考えていたところです。
あと,登記簿上のものについて,そういった意味で,通知しなくていいかという点につきましては,いずれにしても,実体法上の要件の関係で,登記簿上の住所に住んでいないということは確実に調査をしないといけないと思っていますので,それは通知とか,そういった対象で記述しなくても,実体法上の要件として当然調査することになるだろうと思っていました。ただ,そうだとすると,この通知の共有者から所在等不明共有者を抜いた方がいいのではないかという御趣旨だと思いますので,ちょっと書き方は少し考えさせていただきたいと思います。
部会資料の趣旨としては,以上でございます。
○山野目部会長 沖野委員,お続けになることがあればお話しください。
○沖野委員 結構です。今のご説明で趣旨は分かりました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○佐久間幹事 今のことに反対ではないんですけれども,ちょっと戻って恐縮ですが,9ページの5の(2)の②も,私は先ほど,「イの異議の届出をしないときに」と書いた方がいいのではないかというふうに申し上げました。しかし,今の脇村さんの話ですと,イの一定の期間までにというのは,ここも実は意味がなくてというか,がちっとは定まった要件ではなくて,とにかく裁判が行われている間に異議というか,ここにいますとかといったことが出てきたら,もうこの裁判はしないということになるということでしょうか。平仄を合わせるとそうなると思う。それだったら,それでいいのですけれども,確認だけお願いします。
○脇村関係官 先生おっしゃったのは,今,5ですかね。
○佐久間幹事 5です。
○脇村関係官 5の(2)のイだと思うのですけれども,ここについて,確かにどうしようかという問題はありまして,先ほど言いました,持分取得のケースとは若干意味合いが違ってくるのではないかという意識もありまして,持分の管理行為の特則については,期間までで,それはセットされるべきではないかという意見が,多分今までの議論からするとあるのかもと思っていましたので,私としてはそういう,すみません,明確に意識したのは今なのですけれども,ここについてまで,後で期間過ぎてまで言ってきていいんですというのはどうなのかということは思いました。ただ,それが表現できているのかという問題はあるんですけれども,ちょっと工夫できるかどうかは考えてみたいと思います。ただ,なかなか字で書けなさそうな気もするので,頭の整理としてやるのか,その意味でちょっと改めて整理はしていきたいと思います。
○佐久間幹事 分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 木村幹事,どうぞ。
○木村(匡)幹事 ありがとうございます。
8の「相続財産に属する共有物の分割の特則」の規律の関係で,実務的な観点から3点ほどお伺いしたいと思います。
まず1点目ですが,共有物の帰すうについて,地裁の共有物分割と家裁の遺産分割の各判断に齟齬が生じてしまった場合の処理に関してどのように考えるかについて,教えていただければと思います。2点目として,相続開始から10年が経過したものの遺産分割手続において具体的相続分の主張が可能な場合で,共有物分割手続と遺産分割手続が併存している場合というのはどのような処理になっていくのかについて,教えていただけますでしょうか。
3点目として,そのようなケースで遺産共有部分を共有物分割訴訟の中で分割したが,当事者の一部が民法906条の2の同意をしなかった場合,共有物分割訴訟の結果が残余の遺産分割にどのような影響を与えるのかについてどのように考えるかにつきまして,教えていただければと思います。
○脇村関係官 脇村でございます。ありがとうございます。
確か,この論点を取り上げた際にも御質問いただいていたところだと思いますので,ちょっとかいつまんで,今考えているところを説明させていただきますと,共有物分割の帰すうが,結論について齟齬が生じたケースがあると思います。
そういったケースについて,パターンとしては共有物分割が先にされて,例えば共有物分割で共有物の全部を相続人1人が全部取ってしまいますよみたいな判決をした後に,遺産分割で相続人の1人が,別の相続人が遺産持分を取ってしまいましたというような,そういった帰属先がずれてしまうケースはあると思います。恐らく実体法的な整理だと思うのですが,共有物分割で完全に持分が処理されて,それはもう遺産でなくなってしまったということですと,後者の審判はその限度で空振り,遺産分割はされない,遺産分割がないものについて遺産分割されたというのと同じ処理をされるのかなと思います。恐らく現行法でも,第三者が全部取ってしまって,遺産分割はそれを無視してやってしまったケースは同じようなことが起きるんだと思いますが,それと同じ処理かなと思います。
逆に遺産分割が先行したパターンですと,遺産分割で特定の人が全部取得したケースについて,かつ登記もされますと,本当はその人だけを相手を共有物分割すればよかったのを無視してやってしまったということで,そういった適格を間違ったケースはどうするんだとか,あるいはそもそも持分割合をずれてやってしまったので,恐らく審判自体がどうこうというよりは,その後の判決の適否が問題になってくるのかなと思います。すみません,先ほどのケースでいっても共有物先行でも判決の効果は影響ないと思います。その上で,登記がされていないケース,先に遺産分割されて登記されなかったケースは,恐らく共有物分割は一応登記基準でやるという判例がございますので,無視してやったのが有効に成立をして,ただ,あとは持分の帰すう自体は登記の先後で普通に決まるのかなと。ただ,事後処理は,遺産分割内部は,事後処理をきちんと不当利得等で処理してくださいということになるのかなと思います。
そういった意味で,前回も少し議論ありましたが,そういった齟齬を生じないようにしていくのは重要なことかなと思いますので,我々としても今後改正する際には,今までも同じような問題はあったので,情報共有は大事だったのですけれども,当事者にはきちんと適宜適切に裁判所に伝えてフィードバックできるようにしてほしいなと,当事者には思うということを周知していくのかなと思っています。
また10年経過して,具体的相続分の主張が可能なケースがございます。結局,きちんと異議を出してくれるのが一番大事なのですけれども,そういう意味で,異議を適切に出してやってくださいと。ただ,異議を無視してやってしまったケースは先ほどと同じ処理になりますので,いずれにしても異議を,具体的に主張したいのであれば,それは遺産分割しているので,これでやめてくださいということを当事者にきちんと言って,変なことが起きないように相応にやってくださいということかなと思います。
ただ,いずれにしても結果的にやってしまって,共有物分割をやって,その後,具体的相続分の算定するときどうするのだという問題は理論的にはあるのかなと思いますが,共有物分割は持分の交換の場合は一種の持分譲渡に近い発想ですので,そうしますと,結局何が起こっているかといいますと,相続人の1人が自己の持分を処分した場合と同様の状況が起きている。それについて,先般の相続法改正ですと906条の2で,いろいろな解釈がありますけれども,いずれにしても,全員の同意があれば組み込めるけれども,全員の同意がなければ駄目ですよという話が出てきます。そうすると,結果的に具体的相続分で取りはぐれるケースがあるということが言えますので,そういう意味で,今回そういったことも込み込みで,この異議の申出を入れておりますので,本当に具体的相続分がある,したいというときについては,できるだけ異議申出をしてくださいと。していないと,後で問題が起きますよということは伝えていきたいなと思っています。
そういう意味で,今回のスキーム全体について言いますと,やはりそもそも共有物分割をやるというときに遺産分割が併存しているケースがどれだけあるのかというのは若干ありますけれども,併存しているケースについて,別々にやるべきケースについてはきちんと異議を申出すべきですし,逆に申出しないケースについては,当該共有物についてはそちらで処理するという前提で組んでもらえばいいのではないかなと思います。そういった従前から起きていた問題とほぼ同じですけれども,この改正がされた際には,いずれにしてもそういった問題があるということは注意喚起していかないといけないなとは,改正の趣旨を説明する際には注意喚起していかないといけないなというふうには思っているところです。
○山野目部会長 木村幹事,お続けください。
○木村(匡)幹事 ありがとうございました。確認できましたので結構です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○今川委員 今の木村幹事の三つ目の御質問についての関連なんですが,8の共有物分割の特則だけではなくて,9の不明共有者の持分取得,それから10の不明共有者の持分譲渡の制度について,後で出てくる第4相続の3の遺産分割に関する見直しで,10年経過しても具体的相続分を主張することができる場合というのがあって,前の部会では,その場合には,共有物分割の特則とか持分取得,持分譲渡の制度を何とかストップさせなければならないということも議論されたと思いますが,ただ,今回,8・9・10のそれぞれの規定の中には単に10年の経過としか書かれていないので,遺産分割の見直しとの関係がちょっと読み取りにくいので,もう少し読み取りやすいような規定ができないのかということであります。
それと,今,脇村関係官が異議について述べられましたが,今回,共有物の分割の特則と,持分取得について,他の共有者が異議を申し出ることができるという制度が明確に入りました。持分譲渡については,異議の制度がなくても,相続人全員が持分譲渡することが停止条件となっていますので,10年経過しても具体的相続分による遺産分割協議を行うことができる事由を有する共有者は,自分が持分譲渡しなければ,持分譲渡の裁判の効果がなくなるので,それはそれでいいと思います。しかし,共有物分割の特則と持分取得について異議を申し立てるためには,遺産分割の請求をした上で異議を申し立てるというのが前提になっていると思います。そうすると,遺産分割の請求することができない事由のある相続人に対して,遺産分割を請求してから異議を申し立てろということになりますが,それをどのように理解していいのかというのが分かりにくかったので,御説明いただければと思います。
○脇村関係官 ありがとうございます。
そもそもやむを得ない事由で一番想定していましたのは,死んだことも知らないとか,そういった客観的状況を介してできないケースを考えています。そういった意味で,通知まで来た上でできないケースが本当にあるのかと言われると,多分ないのだろうと思います。そういった意味で,やむを得ない事情があるケースについて,確かに結局気づいてしまって,やらなければということはあると思いますので,この共有物分割の特則なり,この9ページの持分の取得,今回の今川委員との議論を踏まえて,遺産分割請求をして異議で止められるという制度を同じように入れさせていただきましたので,9の②でですね。そういう意味で,共有物分割の特則,あるいは持分の取得については異議によって止められる制度を入れていますので,具体的相続分をやりたいというケースについては,これである程度カバーできるのだろうと思います。もちろん残部がありますので,そっちでやればいいやということでしないというのも,ほかの遺産が残っているので,いいやということもあるとは思いますけれども,手続としては,確かに10年にしていますけれども,そういった事情があるケースについて,通知をした上で異議申出することによってカバーできるのではないかなというふうには理解しています。
○山野目部会長 今川委員,よろしいですか。
○今川委員 はい。
○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。
そうしましたならば,部会資料51の「第2 共有等」でお諮りしている諸事項については,本日,委員,幹事からお出しいただいた指摘を踏まえて議事の整理をすることにいたします。
本日は多くの委員,幹事から考え方の整理や字句の推敲について有益な御指摘を頂きました。字句の推敲の関係でもう一つ付け加えておきますと,持分に応じて按分となっているところと,持分の割合で按分してとなっているところがあったりいたしますから,そういった点も含めてもう一度見直しをするということにいたします。どうもありがとうございました。 -
法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議 議事録
○山野目部会長 再開いたします。
部会資料40をお取り上げくださるようにお願いします。
部会資料40は,「共有制度の見直し(通常の共有における共有物の管理)」についてお諮りするものであります。
1ページの「1 共有物の変更行為」のところについては,部会資料27をお示しして,前回この話題をお諮りしたときと同じものの提案を差し上げております。前回の第13回会議で御指摘いただいた点については,補足説明でこのように考えたらどうかという御案内を差し上げているところであります。
2ページから3ページにまたがっての共有物の管理行為についての(1)民法252条についての改正方向をお示ししているところは,①,②,③とも前回部会資料27でお示ししたのと同じものをお示ししています。④も何となく同じものをお示ししているように映りますが,実は,a,b,c,dで並べて示している期間を超えて約束がされた場合についてはどうするかということについて,それを明記する規律を添えておりましたところが,それを削ってございます。削った方が,借地借家法の適用関係についてより明快な解決を示すことができるものではないかという考えに基づくものでありまして,そのことを補足説明で御案内しているところであります。
5ページのところの,まず(2)は,共有者全員の合意とその承継についてという論点につきまして,規律を設けることに困難があるものではないかという複数の御指摘を第13回会議で受け,それらがもっともであると考えられるところから,規律を設けないとする方向の提案を差し上げております。
5ページの一番下,「共有物の管理に関する手続」について,持分の価格に従って過半数で決する際の共有者相互のコミュニケーションの在り方については,これも規律の創設を見送るという提案を差し上げているところでございます。
6ページの4にまいりまして,「共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等」につきましては,①,②とも,基本は部会資料27でお示ししたのと同じものをお示ししております。損害賠償の規律等について,誤解を招かないように整理をしている部分がございますけれども,基本は第13回会議にお諮りしたものと同じでございます。
部会資料40の全体について御意見を承るということにいたします。
委員,幹事の皆様方から,どうぞ御随意に御発言をください。
○橋本幹事 弁護士会で議論した内容を御紹介したいと思います。
まず,1の共有物の変更行為についてですが,方向性については大きな異論はありません。
ただ,この著しく多額の費用の点ですが,補足説明にいろいろ説明書かれているんですが,ちょっとやはり不明確だよねという意見が多くて,費用という切り口でやると,どうしても補助金とか,あるいは求償しないということについて疑義が出てしまうのかなと思って,意見としては,もうちょっと何とか目安的なものを示せないのかというような意見もあったんですが,むしろこの補足説明で書いてあるように,結局のところ,物理的に大幅な変更を伴うかどうかというところがキーポイントになっているように思うので,金額が多い,少ないよりも,物理的に大きな変更を伴うかどうかという方にした方が,すっきりするのではないのかなと思いました。意見です。
それから,2についてですが,(1)の②なんですが,これについては,中間試案のパブリック・コメントのときも,日弁連としては反対の意見を述べていたんですが,これについても,現時点でもまだ賛成できないという意見が強かったです。
後ほど検討される部会資料42の第3によると,遺産共有の場合も全て適用されるという前提だという立てつけのようですので,遺産共有の場合だとすると,ちょっと弊害が予想されるのではなかろうかということで,やはりこの部分について,反対という方向は今のところ維持するという方向です。
それから,④の点ですが,cに関して,借地借家法の適用がある建物賃貸借の場合には,全部無効だという説明が補足説明に書いてあるんですが,ちょっと硬直的ではなかろうかと,部会資料27の当時のもののがよかったんではないかという意見がありました。
それから,(2)の共有者全員の合意とその承継について,設けないということなんですが,何とか設ける方向でもうちょっと粘れないでしょうかという意見がありました。
3と4については大きな異論はありませんでした。
○山野目部会長 弁護士会の意見をおまとめいただきまして,ありがとうございます。
引き続き承ります。
○沖野委員 2点お伺いしたいことがございまして,1点目は,3ページ目の④について,今御指摘のありました点ですけれども,むしろ意見としては逆になりますが,4ページの補足説明のところでは,部会資料27の後段で書かれていたものを削除しているのは,混乱が生ずることになるからだと書かれておりますけれども,この混乱自体は,借地借家法で30年のものを5年の一般の建物所有目的の土地賃貸借契約を締結することはできない,その強行規定があるにも関わらず,こちらの方が優先して5年になってしまうと読めてしまうことによる混乱ではないのかと理解したのですが,そうだとしますと,特に借地借家法などの他の強行規定がある場合に,こちらが優先するということではないという話であり,その限りでのことになります。
しかし,他方で,④の話というのは,結局共有物の管理として,どこまでできるのかということであって,そうだとすると,契約締結が処分に実質的に該当するような長期の契約というのは,そもそもこの過半数決定ではできないとする。したとしても,共有との関係では効力を持たない,過半数決定ではできないことだと整理してしまうというのも,一つの案ではないかと思いまして,それに対して,現在の④は,それはできるんだけれども,超えて存続することができないんだと書かれておりまして,部会資料27の後段の規律は,ただ,強行規定との関係で混乱が生じるから削除したということですから,この内容は維持されていると見られるんですけれども,本当にそれでいいんだろうかというのが,むしろ気になったところです。この期に及んでという感じはするんですけれども,どうだろうかということです。むしろ,これは管理行為には当たらないので,こういうものはできないと整理するという方が,あるいは,この期間内の契約しかできないと,もちろん,更に強行規定を排除するのはできないという整理の方が,むしろ適切ではないかと,この記述を見て思ったところですので,どうだろうというのが一つ目です。むしろ意見だと思いますけれども,あるいは,部会資料27からの変更の趣旨は何かということかもしれません。
もう一つは,4ページの補足説明の(2),4ページの下から3行目のところですが,一部の共有者の同意なく借地権を設定した場合の法律関係についてということで,土地賃貸借の例を考え,その説明をしていただいています。この法律関係を明確にすべきだという指摘がこの趣旨だったのかどうかというのは,ちょっと私には分からないのですけれども,この例の場合について,そもそも建物所有で借地借家法の適用があって,しかも,土地であれば30年となるような契約について,Cが異議を述べた場合には,借地権の設定自体ができないと。他方で,賃貸借は有効に成立しているということで,一種他人の権利の部分を処分してしまうという,そういう関係かと思うのですが,これは,本来そもそも過半数決定でできない場合であるのに,それをしたらどうなるかという話ではないかと思われるのですが,ここの説明は。そうではないのでしょうか。
問題になりますのは,過半数決定でできるけれども,しかし,異議を述べた者との関係ではどうなるのかとか,そのときに,契約は誰と誰との間ですることになるのかとか,そういうことの整理が,やがて出てくる管理者の選任等々との関係でも必要になってくるのではないかと考えられまして,そのような問題として整理し直すべきではなかろうかと思われるのですけれども,そうした場合に,ここで過半数決定をするということが,仮に共有者が集まって,こういう形でこのような契約の賃貸借をするかどうかということについて,過半数でしようということになった場合に,契約はどうなり,賃貸人たる地位はどうなるのかについて,以前の御指摘では,それでも異議を,自分は反対であると述べた人は,およそ賃貸人になるということもないし,契約は飽くまで賛成した人,場合によっては賛成した人ではなくて,そのうちの1人でもいいのかもしれません。1人だけが契約をするということで,あとは内部関係として処理していく,反対者は,妨害はしないという話になるのかもしれないんですが,そういう権利関係なのかどうかということの整理が必要でないかと思われましたので,問題の設定と,それから,もしそういう問題だと考えるならば,どういうふうに理解したらいいのかということを,御説明いただければと思います。
長くなってすみません。
○山野目部会長 沖野委員がおっしゃった2点について,今,事務当局との間で意見交換をしてもらおうと考えます。
前段でおっしゃった3ページの④のところは,これからの御議論にもよりますが,沖野委員のお話をヒントとして,削った部分を復活させるということになれば,理由,経過は全く異なりますけれども,橋本幹事の復活させてくれという弁護士会の意見と,奇しくも結果だけは一致することになり,幸せな結果に至りますが,本当にそう進むことがいいかどうかは,引き続き考えなければなりません。
沖野委員の後段の4ページから5ページのところ,これ,例の挙げ方が悪いですね。2年とかの建物の賃貸借をしたときに,しかし,反対した人の置かれる法律的な状況がどうなるかという例を挙げれば,今のような御疑念の指摘を受けなくて済むであろうと考えますから,何かこれ,筆が滑ったとも感じますけれども,事務当局からどうぞ。
○大谷幹事 1点目に御指摘いただいた短期の賃貸借でないもの,長期間の賃貸借を過半数ですることはできないとするのではないかというような御指摘,確かにここのように変えてみて,例えば,建物の使用権3年を超えるもの,土地の使用権5年を超えるものを,契約としてやったときに,それ自体もう無効だと考えることもあるのかなと思い直し始めていたところです。ですので,ちょっとここは,今の御指摘も踏まえまして,④の書き方,後段の部分を削ったということだけではなくて,もう少し,共有関係で,過半数だけで賃貸借をするというときにはどうなるのかというのを,改めて整理をしてお示しをしたいと思います。
また,過半数の者との間で賃貸借契約をした場合の法律関係ですけれども,これも,ほかのところで出てまいりましたけれども,A,B,Cの3名のうちのA,Bのみで賃貸借をしたときに,賃貸人は誰かといえば,契約関係はどうなるかといえば,AとBだけが契約当事者になるということで,反対をしているCについてはならないと。ただ,CはAとBが結んだ賃貸借契約を否定することができないという関係になるのではないかと考えているところでございます。
○山野目部会長 大谷幹事のお話の後段はそのとおりで,そのこと自体は,沖野委員もそのように理解しておられるけれども,挙げている例が,借地権の設定は元々できないことから,もっと適切な例を挙げてくださいという御要望であると受け止めますから,次回は丁寧にここを書き改めてお出しすることにいたしましょう。
沖野委員,よろしゅうございますか。
○沖野委員 ありがとうございました。
私自身は,実は別の考え方もあると思っておりまして,大谷幹事は私自身の考えを受け止めてくださったのですが,整理としては,最終的に部会長がおっしゃったような整理でいくということで,まとまっていくということには,全く異存ありません。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
今の4ページの(2)のところなんですが,多分,前回私が申し上げたことについて対応していただいたんだと思うんです。どういうことだったかといいますと,無効だとするのか,期間を超えることができないのだとするのかはともかくといたしまして,借地借家法の適用のある賃貸借を過半数決定でしてしまった。ところが,借主の方は,そうとは思わず,無過失まで含めるのかもしれませんが,善意無過失で借地借家法の適用があると考える状況であった,その場合に借主を保護はしなくていいのかと,私が申し上げたのに対して,これはお答えいただいたんだと思います。ですから,これが,前回からの議論の続きで,不適切な記述というわけではなくてというか,事務局のために私が言う必要があるのかどうか分かりませんが,これはこれとして,前回の私が申し上げたことに対してお答えを頂いていて,それに加えて,今日,沖野先生から御発言があったという整理が適当かと思います。これが1点です。
もう1点は,これ,ずっと出ているところで,今更なんですけれども,1ページの1のところで,括弧書きで,共有物の改良を目的とし,かつ,著しく多額の費用を要しないものを除くとあります。これがこのままでいいのか,先ほど橋本幹事から,軽微変更みたいなのに変えた方がいいのではないかということがございましたが,それは御検討いただくとして,もしこのままでいくというときに,軽微変更でも一緒かな,改良という言葉でいいのかなというのが,少し分からないなと思ったところがございました。改良というのは,多分価値を増すということが含まれていると思うのですけれども,これからの時代,ダウンサイジングとか,価値の面でいうと,例えば,今まで居住に適していたもので,それ自体としては価値が高かったものを,もう利用者がいないので,納屋に変えるとか,簡易化するという方向で目的物に変更を加えるということもあり得るのではないかと。これは,主観的には使用価値を高めるということになりうるとは思うのですけれども,客観的に言うと,価値が高まるとは言えないのかなと思います。そういったことから,この改良を目的とするということでは駄目だというわけではないのですけれども,これからの時代,これで尽きるということでいいのかどうか,考える必要があるのではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
前段のお話を伺っていて,佐久間幹事は優しい方だなということを実感いたしました。
確かに4ページから5ページは,前回の佐久間幹事のお話を引き継いだものでありますから,本日沖野委員から頂いた御注意を踏まえ,将来に向けては適切な例を選択して,補足説明の文章を草していくことにいたします。
後段で御指摘いただいたことは,今後の日本の社会を考えたときに,なるほどと,うなずかざるを得ない御指摘を頂いたとともに,悩ましくて,従来の法制の用語例からいくと,ここはやはり改良になると思うのですね。今後の日本社会を考えたときに,改良でない哲学を表現する言葉を探し,よりふさわしいものにしてくださいという課題は,誠にしごく当然のお話であると同時に,良い言葉を見つけて,法制的にもそれを採用可能なものに育てられるかどうかは,少しまた事務当局において検討してもらおうと考えます。
ここの括弧書のところは,橋本幹事からも多額の費用のところについての文言の再検討を求める御意見を頂いております。括弧書は,事務当局においても,何とか考え直して,いろいろなことを考えましたが,やはりここに落ち着くのではないかと考えざるを得なくて,同じ文言のものをお出ししていますけれども,本日両幹事から頂いた御意見を踏まえて,更に検討していかなければならないことであると考えます。
引き続きいかがでしょうか。
委員,幹事から御意見はおありでしょうか。
それでは,どなたからか御意見をおっしゃっていただくまでに,いささか橋本幹事にお尋ねですが,5ページの太文字の(2)のところを,提案を見送らないで設けてほしいという御意見が弁護士会にあるというお話であると,先ほど聞こえましたけれども,その理解で間違いないですか。
○橋本幹事 はい,(2)ですね,合意の承継について。
○山野目部会長 ここについて,規律創設の需要があるということが理解できますとともに,第13回会議において,いろいろ異質なものがここの規律の適用対象として想定されるところを,誤解がないような仕方で,過不足なく規律の表現にまとめるのは難しいという御意見も頂いていたところでありまして,なかなか難しいと感ずるところでありまして,弁護士会の御意見は御意見として承って,もう少し考えみようと思いますから,すこし弁護士会の先生方も引き続きお付合いいただいて,お知恵を頂きたく思います。
ほかにいかがでしょうか。
そうしましたらならば,第13回会議でお出しした部会資料27の確認をお願いするような内容も多うございますから,強いて御発言がないと受け止めてよいのかもしれません。
御発言がないようでしたならば,部会資料40についての審議をここまでとして,更にこれを整理していくということにいたしますけれども,よろしゅうございますか。
それでは,引き続きまして,部会資料41をお取り上げくださるようにお願いいたします。
引き続き共有制度の見直しでありますが,部会資料41のタイトルに括弧書でありますように,共有物の管理に関する行為を定める際の特則等について,お諮りをしているところでございます。
第1の1は,これは,共有者の中に共有物の管理等について,無関心や積極的な関心,意欲的な関心を抱いてくれない者がいる場合に,問合せをして異議を述べない,意見がないということを確認した上で,更に共有物の管理を進めるということを認めてよいかということについて,前回と同様の提案を差し上げております。
(注1)から(注3)までのところで,本文の案とは別に,こういうことも考えられるということをお示ししていますけれども,(注1)から(注3)までに御提示申し上げている事項は,そこに本案とは別な案を示して,これも大いに考えていこうという趣旨で御提示申し上げているものではなくて,ここで強く(注1)ないし(注3)の可能性も,引き続き考えてほしいという御意見があるかどうかを確かめるために,お出ししているものでございます。
引き続きまして,3ページにまいりまして,太文字の2のところ,「所在等不明共有者がいる場合の特則」は,今度は共有者の所在が分かっているのではなくて,そもそも所在が分からない場合について,こちらは裁判所の関与を得て,それに代わるコミュニケーションを取って,先に話を進めていくということが許されるかというお話の問題提起をしています。(注1)から(注3)まで,本文の案とは別な案が考えられるかという可能性もお尋ねしていますから,併せて御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。
(注1)から(注3)まではそういうことですけれども,(注4)は性格が異なっていて,これは別にお尋ねするものではなくて,太文字の案の本文の前提を補足しているものであります。
小さな誤植がありまして,(注4)のところ,本当は改行しなくてはいけないはずですが,そのまま続けてしまっているところは,改行があるものと訂正を差し上げて,その前提でお考えくださるようにお願いいたします。
6ページのところにまいりまして,第2のところで,「不動産の所在等不明等共有者の持分の取得」について,裁判所が持分を取得させる旨の裁判をするということを基本とした上で,裁判所が定める時価相当額の支払請求の制度などについての関連する提案を差し上げております。
9ページにまいりますと,第3のところで,所在等不明共有者がいる場合において,知れている共有者の全員の同意があるときには,これを譲渡するという可能性を認める制度の提案をしております。
11ページにまいりまして,第4のところは,共有者が選任する管理者の法律的な地位,それをめぐる法律関係につきまして,第13回会議でお諮りしたものの骨格を維持し,それを整理したものをお示ししているところでございます。
部会資料41は,このような論点を盛り込んでお示ししているものでありまして,これらの全体について,委員,幹事の御意見を承るということにいたします。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 第1「共用物の管理に関する行為を定める際の特則」について,日弁連のワーキンググループでの意見の分布について申し上げます。
第1の1については,本文のとおりでよいという意見もありますが,(注2)に賛成,すなわち,裁判所の決定があって初めて効力が生ずることとすべきいう意見の方が多数でした。2については,本文のとおりでよいという意見が多数でしたが,(注2)に賛成,すなわち,対象となる行為を持分の価格の過半数で決する行為に限定すべきだという意見も有力でした。
6ページの「第2 不動産の所在等不明共有者の持分の取得」については賛成します。9ページ,第3の「所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡」についても賛成します。いずれも,前回申し上げた,日弁連の意見を取り入れていただいたものと理解しています。ありがとうございました。
第4の「共有者が選任する管理者」について,本文で書かれている「1 選任・解任」,「2 管理者の権限等」について,本文で書かれていること自体については賛成ですが,補足説明で,部会資料12ページに書かれている「委任契約(委任関係)とは別の法律関係(管理者選任関係)」の概念がよく分からないという意見が多く寄せられました。では,本文に書かれている選任・解任の要件を満たしつつ,それを,どのように理論的に説明するのかについて,日弁連のワーキンググループの中で何かよい案を提示できるのかと言うと,できません。大変申し訳ないのですが,そのような意見があったということだけ申し上げます。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめいただきまして,ありがとうございます。
ただいま弁護士会からお出しいただいた問題提起をめぐる御意見でも結構ですから,お出しください。
○今川委員 まず,第1の1についてですけれども,14回の会議を受けて,催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合と,所在不明共有者がいる場合とに区別して,提案されています。そして,前者の場合は,当事者の行為のみで効果が発生するとされて,後者の場合は,裁判所の決定があって,初めて効果が発生すると整理されています。
我々が出していた意見については,第1の1の補足説明2の(2)で取り上げていただき,それに対する考え方も説明されています。
催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合において,共有者全員の同意を要する変更行為を除く場合であっても,場合によっては第三者が絡む場合があるし,登記をしなければならない場合もある。また,逆に,所在不明共有者がいる場合であっても、共有者間で単に使用方法を定めるようなものもあり,言い方は適切かどうか分かりませんが,重いものから軽いものまで幅広くありますので,我々の意見としては,一律に裁判所やその他の公的機関を関与させないと効果が発生しないというのではなくて,共有者が望めば,任意に要件を満たしていることを証明できるような制度を置いてはどうかという意見でありました。
それについて回答も頂いており,一定の理解はしておりますが,ただ,短期賃借権の登記をするという事例は,かなりレアケースだとは思いますけれども,そういう場合に,この要件を充足している,そして登記原因が発生しているといことを,司法書士あるいは登記官等がどのような形で確認していくのかという課題があると考えます。したがって、手続上の手当ては,引き続き検討していただきたいという意見があります。
それから,第3の所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡について,(注3)の裁判の効力について,その終期を定めるということですが,現行制度で不在者財産管理人が裁判所の許可を得て管理している不動産を売却するような場合等でも,許可の効力に終期が設けられるということは普通はないので,新しい考え方だろうと思います。
裁判の効力について終期を定めること自体は,反対するものではありません。ただ,実際は,所在不明共有者以外の判明している他の共有者の同意があるかどうか,それから買受人が実際いるのかどうか,その金額も決まっているのかどうか,売買契約書の中身はどのようなものかというのも,事前に提示した上で許可の申立てをする。実務の運用を考えると,実際にはそうなるのかとは思います。
裁判の効力について終期を定めることについて,一定の理解はしますけれども,登記の期限も定めることについても触れられておりますが,実体上の終期を定めておけば,あとは対抗要件ということですので,登記の終期までも定める必要はないという意見です。
あとは,特に意見はありません。
○山野目部会長 司法書士会の意見を取りまとめていただきまして,ありがとうございます。
今川委員が後段でおっしゃった第3のところの権限付与の時期的なタイムリミット,終期を定める件について御注意いただいたことは受け止めましたから,検討することにいたします。
前段の方でおっしゃった第1の1の,催告をしたが異議,意見が出ない場合に,過半数の同意を得たのと同視される状況を確保して話を進めるときに,登記の手続を進めようとすると暗礁に乗り上げる場面が生ずるのではないかというお話は,司法書士会からそのことの問題指摘を頂いたのは,今回が初めてではなくて前にも,司法書士会って短期賃借権がどういうわけか好きなんだなと思わざるを得ませんが,前にも頂いていて,再々お話を頂いているところでございます。
少し私が理解に苦しむ点は,第1の1でお出ししていただく,そういうサイズの話でお出しいただくよりは,第1の2のところの,部会資料の3ページですね,所在等不明共有者がいる場合の特則のところの方が話が深刻で,こちらは,登記名義人として共有者の氏名が載っているけれども所在がつかめなくて,したがって共同申請に関与させることが絶望的であるという状態で,この2のところの規律にのっとって,その同意関与に代わるような裁判所とのコミュニケーションを経た上での,こちらは本当に管理にとどまるのではなくて,処分までするということを射程に置いていて,(注2)に関わる弁護士会の御意見はありますが,仮に処分ができるとすると,かなり長い期間の借地権の設定のような処分が,この規律にのっとって行われる場合があるものでありまして,こちらの方が実体的にそういう権利変動があったのに,登記が円滑にいかなくて,所在不明共有者の共同申請の関与が絶望的だと登記手続が暗礁に乗り上げてしまうという困難が深刻であると感じます。
今川委員御自身がおっしゃったように,短期賃借権はめったに登記されませんが,とおっしゃるような1番の話ではなくて,サイズが大きな2番の話で,え,どうなんだと言っていただいた上で,関連して,類似の問題は1についてもありますとおっしゃっていただければ,これは本気で考えなければならない話になるであろうと感じますけれども,何か話の順番が,何で1の方の小さい話からいくのかという点は,いささか解せないという気分で前にも伺ったし,今も伺いましたけれども,何かお話があったらどうぞ。
○今川委員 第2は,裁判所の許可が要件になりますので,そこで手続上,要件充足とか登記原因の発生等は確認できるのではないかと思っておりまして,必ず全て裁判所の決定というのはちょっと重いなとは思いつつも,強く反対するものではないです。ただ,1の場合は,当事者だけの行為で効力が発生することになりますので,そこをどう確認していくのか,ということです。
○山野目部会長 6ページの第2もそうですし,3ページの第1の2のところも,同じような構図の問題があって,こちらが多分問題としての深刻さが大きくて,そこについては,確かに今川委員がおっしゃるように,裁判所が関与しているから登記原因は確かめられますというお話があるかもしれませんが,登記原因が確かめられたとしても,直ちにそれが共同申請の例外になるとは限りませんから,裁判所の給付文言がついていれば,63条1項でいけるかもしれませんけれども,そこのところも,規律創設を明示に要求していただくというようなお話とともに,第1の1のところも問題であると話が進んでいくものであろうと感じます。
いずれにしても,しかし,司法書士会が御意見としておっしゃろうとしていることの骨子は理解することができるものでありますから,第1の1,第1の2,それから第2の三つの局面について,ここで提示されているような実体的規律の変更や創設が,仮にこの方向で実現した場合の登記手続との関係で,裁判所の裁判に給付文言を入れてもらうような規律にするかとか,共同申請についての例外を考えることの適否であるとか,登記原因証明情報の在り方等について,総合的に検討する必要があるということを,大枠しておっしゃろうとするものであると理解しますから,事務当局の方でそれを検討していただくようにお願いします。
今までここのところ,規律の創設方向がここまで育ってきておりませんでしたから,登記のことまで余り意識が向かなかったですけれども,ただいまの司法書士会の御注意で,そろそろそういうことを考えなければいけないという段階に来ているということが分かりましたから,事務当局の方で努め,また司法書士会とも御相談をさせていただくということにいたします。どうもありがとうございます。
○今川委員 整理していただきまして,ありがとうございます。
○山野目部会長 いえ,ありがとうございます。道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 申し上げたいのは第3についてなのですが,それとの比較をするために,第1の1の話からしたいと思います。
弁護士会で,第1の1の(注2)に関連して,裁判所が関与するということにするという話だったんですが,それは(注2)のところにも,催告は裁判所が行うとなっており,裁判所の役割をここでは催告と書いてありますし,さらには,補足説明のところでは,2ページですね,裁判所が何をやるのかということについて,いろいろな考え方があり得るという話が書いてあります。いろいろな考え方について検討するということ自体には何の異存もありませんが,ただ,その大前提として,これはこういうふうに管理すべきである,こういった管理をするということはいいことだと,裁判所が判断するのはやめるべきであり,裁判所には,手続が満たされているなら満たされているということを明らかにさせましょうというのが,せいぜいだろうと思うんですね。
それとの関係で申し上げたいのは,第3の,さきほど今川さんからお話があったところなんですけれども,第3の①のところで,処分をする権限,譲渡をする権限を付与する旨の裁判をするに当たっては,恐らく契約の内容とかそういうものをきちんと示して,裁判所の許可を得るのだろうと,そういう実務的な対応になるだろうとおっしゃったんですが,それって,本当なんだろうかという気がするんですね。そうなりますと,裁判所としては,その譲渡価格が妥当か否かとか,相手方が妥当か否かとか,そういう実体的な判断をするということが,そこでは予定されそうなんですが,原案といいますか,この資料で出てきているというのは,第三者に譲渡するという必要があるかもしれないよねということが抽象的に認められたら,権限付与というのがあり得るという,そういう前提であって,個別具体的な譲渡契約のよしあしについて判断するという構造ではないと思うんですね。したがって,実務はこうなると思います,運用はこうなると思いますと,さらっとおっしゃったんですが,それって全然違う制度として構想することになるんだと思います。
個人的な意見としては,第3の①のままでよくて,それは抽象的な譲渡権限を与えるべきか,このシチュエーションにおいて,その範囲内だけで裁判所は判断するということでいいのではないかと思います。いちいちここで売るべきかどうかというふうなことを,裁判所に判断させるというのは,私はどうもおかしいのではないかと考えます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
道垣内委員がおっしゃった2点について,脇村関係官が話したいという表情をしていますから,本当は蓑毛幹事に指名しようと考えましたけれども,脇村関係官,先にどうぞ。
○脇村関係官 すみません。
事務局の御説明させていただきますと,道垣内先生おっしゃっていたとおり考えておりまして,抽象的にも,一番考えないといけないのは所在不明ですとか,供託する金額幾らとか,その辺を考えていまして,誰に売るかとかは,基本的には,後の共有者の方で考えてくださいと理解していました。
一方で,今川委員がおっしゃっていたのは,申立人にといいますか,登記申請する立場でおっしゃっていたのかなと,思っていまして,実際には裁判所に申請というか,そういう手続をとるときには,事前にきちんと確認をして,そろってからやるんだということかと理解しておりまして,裁判所の方で事務局の案を考えていたのは,ある意味,無味乾燥,金額はそういう意味で,譲渡する金額は考えないということを考えていました。すみません。
○山野目部会長 道垣内委員が問題提起をなさった事柄のうち,後段の部会資料の9ページ,第3との関係で言いますと,ここで裁判所が譲渡をする権限を付与する裁判をするということの意味は,道垣内委員が御理解なさったとおり,また,今,脇村関係官が説明したとおり,これは抽象的な,譲渡をしたら処分の効果が生じますという法律関係を作り出すための形成裁判を裁判所が行うことができるということを定めているにとどまるものでありまして,それを超えるものではないであろうと感じられます。
裁判所は,不動産屋ではありません。幾らの金額で,いついつこういうふうに履行しろというようなことを,裁判所が指図するというか,命令をするというような法律関係ではなくて,譲渡をすればその法的効果が認められますという,法律関係の形成を是認しますという裁判をするという意味を述べている場所が①の本文のところでありまして,それとは別に,確かに(注2)のところで,供託をする金額は裁判所が指定することになっていますから,そこでは,別な文脈で金額が出てきますけれども,太字本文の①のところ自体は,そういうことであろうと考えられます。
部会資料が御提示申し上げていることはそのような内容であり,蓑毛幹事がおっしゃったような,それとは若干異なるイメージで弁護士会の先生方に受け止めた方がおられるとすれば,また弁護士会の方で御議論いただいたりして,コミュニケーションを重ねるということであろうと考えます。
○蓑毛幹事 部会資料について,弁護士会のメンバーの理解が違っている訳ではないと思います。第1の部分について,これは,裁判所が内容の審査をするか否かではなく,手続に関与するか否かの問題であるという理解を弁護士会もしています。
そのうえで、第1の1の規律,本文の提案は,そういった手続的な関与も裁判所は一切しないという提案だと理解し,そうではなくて,裁判所は手続には関与すべきだということで,(注2)に賛成するという意見が多数であったということを申し上げました。
第3の部分についても,部会資料本文と補足説明に書いてあるとおりだと理解しており,これに賛成しています。
○山野目部会長 蓑毛幹事,ありがとうございます。
そのうえで,今も話題にしていただいたですが,今度は道垣内委員が御発言なさったことの前段の方でありまして,1ページの第1の1のところで,催告をして,異議,意見を問い合わせるという手順に,裁判所を関わらせるという,この(注2)の可能性について,弁護士会では,積極の御意見が有力であったという意見分布を蓑毛幹事から御紹介いただき,道垣内委員からは,しかし,それに対しては,疑問を感ずるという趣旨の御発言を頂いたところでありまして,いずれのお話も根拠があるものと感じられますけれども,少し法制的に考えていったときに,ここに裁判所を関与させるということは,いろいろ難しい部分があるということは,実感として思うところがあるものでありまして,第1の1の扱っている局面というものは,問合せの相手方が行方不明ではなく,現にいるものですね。
現にいる人との間のコミュニケーションについて,裁判所,1回関わってくださいと言われても,裁判所の関わり方というものは,道垣内委員がいろいろ可能性を考えて悩んでおられたところから明らかなように,別に内容的に良い悪いをかなり裁判所が入ってきて述べるという局面ではありませんから,裁判所の目の前を通っていって,見ました,どうぞしてくださいということを,公正な機関である裁判所が見ているから安心ですよということを超えて,何かが得られるかというと,あまりそのようなことは感じられないということがあるとともに,従来の法制の,これと似たような場面ですね,例えば,建物の区分所有等に関する法律で,建替えの決議をするときに,建替えに賛成しますか,反対しますか,お答えがないから困りますねという問合せをするときだって,別に裁判所を通していなくて,当事者同士で,念のため内容証明,配達証明でするでしょうけれども,当事者同士でするものであって,ああいう従来のところで裁判所が関わっていないのに,ここは裁判所に関わらせるということになると,いろいろ説明が難しいことになってくるであろうとも危惧されます。
悩ましいですけれども,弁護士会の先生方の中にそういう御意見をおっしゃる方がいるという経過は,御紹介として受け止め,また意見交換を重ねていただけると有り難いものですが,蓑毛幹事,お願いしてよろしいですか。
○蓑毛幹事 部会長がおっしゃられたことについて,今,私の方から反論等があるものではありません。部会長がおっしゃることは,個人的には最もだと思いますので,持ち帰った上で,ワーキンググループ内でコミュニケートを取りたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます,御面倒をお願いいたします。
引き続き御意見を承ります。
○佐久間幹事 細かいことで恐縮でなんですが,2点ございます。
いずれも同意に関することなんですけれども,一つは,3ページの2の直前にある(2)のところでして,この仕組みを用いる場合に,誰に対して催告するかということに関しまして,絶対的過半数を得ている場合は別だけれども,相対的過半数しかない場合は,基本的に全員に催告せよとなっておりますよね。
例えば,ですけれども,共有者が4人いて,2人は賛成していると。残り2人から意見を徴そうというときに,まず1人に対して意見を聞こうとしたところ,意見が出てこなかった。この場合,もう一人に催告しなければいけないということなんでしょうか。仮にそうだとしたら,どうしてなのかなというのが,私は疑問に思いました。分母が3に下がって,2の多数があるということが確定しているのに,どうしてもう一人にも意見を聞かなければいけないのかというのが,私が多分気づいていないのだろうと思うんですけれども,実質的に何かそれによって保障されるべき利益があるのであれば,お教えいただければと存じます。それが1点です。
もう一つは,11ページでございまして,これ,前からの提案のようで,今更ということになるかもしれませんが,第4の2の①で,共有物の管理者は管理行為をすることができると。ただし,他の共有者の同意を得なければすることができない行為については,共有者全員の同意を得なければならないとされております。これに関しまして,たとえば,共有物の管理行為にかかる意思決定について,本日の部会資料40の2ページから,実際には3ページの③に,要するに,過半数決定で管理に関する行為をしてきた場合,その管理に関する事項をひっくり返す決定は過半数ですることができるのだけれども,特別に影響が及ぶ共有者があるときには,その人の承諾を必要とする,という規律の提案があります。この規律に関して,元に戻りまして,共有者が管理者を選びまして,その管理者が,前の管理に関する事項を変更するという場合に,特別に影響を受ける人がいるときに,全員の同意がいるという現状の案では,その影響を受ける共有者以外の同意も得なければいけないということになると思います。これもちょっと,なぜそうなるのか,私には理解ができませんでしたので,申し訳ありませんけれども,御説明いただければと存じます。
○脇村関係官 最初の1点目の承知の件ですけれども,一般的に252条の議論として,それは要らないのではないかと,あるいは部会の議論として,やはり意見陳述の機会を与えるべきではないかということで,両論あったと思うんですけれども,意見を陳述する機会があれば,それを聞いて他の方が意見変わるかもしれませんし,何といいますか,絶対的に完全に過半数超えて賛成している場合よりは,そういう陳述機会をより保障すべきという議論があるのかなと思っていましたのと,実際の運用としても,最初の1人だけまず連絡して,その後に次やろうというのが,集団的意思決定をしようとする局面で,本当にいいのかなというのが,書かせていただいた趣旨でございます。
管理者の方につきましては,確かにその関係,すみません,もう一回整理したいと思いますけれども,もう一回,すみません,確認したいと思います。
○山野目部会長 佐久間幹事,お続けください。
○佐久間幹事 いえ。ありがとうございます,特にございません。
○山野目部会長 今後とも検討いたします。ありがとうございます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
第1のところで,前回の部会のときに,所在等不明共有者の場合はちょっと区別して考えていただけませんかということでお願いをして,今回このような形で分けていただいていると。特に,対象となる行為のところと,裁判所が関与するかどうかというところで,場合分けをしていただいているというのは,非常によい方向性なのではないかと思っています。催告をしたが異議を述べない共有者がいる,という場合では裁判所が関与しない手続になるという点と,所在等不明共有者がいる場合に,対象となる行為を限定しないという点については,強く賛成をしたいと思っています。
1点申し上げるとすると,第1の1の(注1)のところで,本文では,対象行為として「共有者全員の同意を要する変更行為を除く」と書かれているんですが,前回申し上げたとおり,やはり催告して,返答する機会を与えているというにもかかわらず,同意も反対もないと,異議が述べられていないということなので,このような共有者にどこまで保障を与えないといけないのかというところは,もう少し検討していただければ,というところでございます。というのも,所在等不明共有者だと認定された場合は,ここでいうと2の方のラインに乗っかっていって,裁判所が関与するということになるわけですが,所在等不明という要件を充たすかどうかは,今回の部会資料では,土地の現況等を踏まえて判断することになるという書き方をしていただいておりますが,やはり最終的にどうなるか分からないというところもあります。そのような中で,催告したけれども何も返ってこないと,所在等不明と言いたいんだけれども,そこが微妙なところですねというような共有者の方が仮にいらっしゃったとして,それでも,催告して何も異議がないというだけでは次に全く進められない,ということになってしまうと,困ることが多々あるのではないかと思いますので,ここのところは,例えば,催告の手続のところを,かすめ取るようなというか,詐術を用いて返事なんてしなくてもいいですよといって返事させなかった,それで,残りの人だけで決めてしまったと,そういうような場合は,基本的には駄目だという話でいいと思うのですが,逆に正当な手続を経てやっているときに,これが,共有者全員の同意を要する変更行為なので,催告で何も返ってこなかったというだけでは駄目ですというのだとちょっと厳しい場合があるのかなというところで,第1の1に関しては,(注1)の案が採用される余地がないのかというところは,再度,意見として申し上げたいと思います。
○山野目部会長 藤野委員の御意見を承りました。受け止めた上で,引き続き検討することにいたしますとともに,今の段階で御案内しておくとすると,少なくとも民法が定めている共有というか,今まで理解されてきた共有というものは,共有者一人一人に不機嫌を許す制度なのですね。ある共有者が,今,自分はいささか不機嫌で誰とも口をききたくないと述べ,あなたがたと一緒にこんなものを共有しているかもしれないけれども,一緒に共有していたからって,別に仲よくしなければいけないとかコミュニケーションを取らなければいけないという立場にはありません,言っておきますけれども。私は不機嫌ですから,誰から手紙が来ても,誰からメールが来ても,何も答えたくありませんっていう態度をとる人がいたときに,それを絶対いけないとは,必ずしも言わないという前提で作っている制度であり,変更に係る事項について,問合せに知らんぷりして何も答えないときに,答えないなら,こちらでしてしまいますよという制度まで突き進むと,従来の共有観を少し変えていく部分がありますから,おっしゃることはごもっともであるとともに,いささかそのような大きな話が背景にあるということには注意をしなければいけないということが1点と,もう1点は,(注1)のところを動かすと,場合によっては,論理必然性はないかもしれませんけれども,(注3)が連動して動く可能性があって,コミュニケーションを省略していいなら,最低限(注3)の最低数というか,定足数は確保してくださいという議論に,一見弾みがつく可能性もあります。いろいろなところが関係しますから,御意見を受け止めた上で,また考えてまいりましょう。
○道垣内委員 すみません。私,先ほど今川さんの御意見について,反論を述べたんですが,自分で反論を述べておいて,それからもう少し考えていると,わけ分からなくなってきたので,ちょっと教えていただければと思います。ひょっとすると,今川さんの言うとおりだと,最終的に意見を変えるかもしれません。
と申しますのは,第3の①をまずどう読むのかなのですが,その3行目のところで,「裁判所は,共有者の請求により,請求をした共有者に対し所在等不明など全員の同意を得て不動産の所有権を第三者に譲渡ができる権限」とありますが,この文において,「同意を得て」というのは「譲渡できる」にかかるんですよね。同意を得たら,申立てをすることができるようになるわけではなく,同意を得て譲渡することができるということですよね。
そうしたときに,②のところですが,これはすでに議論されているかもしれませんので,大変恐縮なのですが,私は,すぐ全部忘れてしまうものですから申しますと,②の,「①の裁判が効力を生じたとき」というのは,同意を得れば,第三者に譲渡していいよという権限が与えられたという段階ですよね。にもかかわらず,同意を得たら譲渡できるということになったら,もし所在等不明共有者というのが出てきたら,時価相当額を払わなければいけないのでしょうか。自分は,同意を得て譲渡しようと思っていて,しかし,時価よりも高く売れないかもしれないけれども,それは請求する自分のリスクだろうなと思ってやったら,ほかの人が同意してくれなかったから売れなかった。にもかかわらず,請求したのだから時価相当額を,持分に応じた額を払えと言われたら,それはびっくりです。自分は頑張ったんだけれども,ほかの人が同意してくれないから売れないのに,なぜ払わなければいけないのか。ちょっとよく分からなくて,何か大きな勘違いを僕はしているんだろうかと思ってしまうんですね。
第2のところでの②は分かるのです。これ,実際に申立共有者というのが取得をすることになりますので,その部分の時価相当額を払いなさいというのは分かるのですけれども,第3のところで,どうして②のようになるのかというのがちょっと分からなくなってきて,そこで,今川さんの話に戻るんですが,今川さんがおっしゃったように,契約書も額も全部,相手方も決まった段階で①の申立てをして裁判があるというのが,全体として前提になっているのだろうかという気がしてまいりまして,結論として今川さんがおっしゃったことは正しいのであり,私の反論が妥当でなかったのだろうかというのが,気になっている次第でありまして,お教えいただければと思います。
○今川委員 私は,道垣内先生ほど深くは考えていたわけではないのですが,同意取得の場合は,裁判所は、共有者のうち,ある共有者の持分を除外するという決定をすれば,あとは他の共有者に変更行為の中身は任せるというのでいいと思うんですが,この第3の不動産の譲渡については,相当な価格の供託をさせるというのがありますので,裁判所が相当な供託金額は幾らだと定めなければならない。そして理屈上は、裁判所が相当であると判断した金額と全然違う金額で共有者が売却するということもあり得るとは思いますが,第3の②のように,所在不明共有者がもし出てきた場合に,時価相当額を請求するということになっていますので,裁判所とすると,信用力ということも考えると,実務上は裁判所が相当な額として認めたものと,実際の価格が全然違いましたということは,できる限りないようにするのではないかということもあって,この時価というのを判断するのって非常に難しいので,実際幾らで売却するということが,もし予定として決まっているのなら,その額は,非常に大きなファクターになると思ったので,申し上げました。
誰に売るのか,買受人は誰かということの相当性についてまで,裁判所が判断するということを,申し上げたわけではありません。
○脇村関係官 まず,道垣内先生から御指摘いただいた点,ありがとうございます。
ちょっとここは,私も書いていて,ぐるぐる回っていたところで,すみません,実質論においては,譲渡した後に当然請求できると,あるいは譲渡した場合に請求できるということでいいんだろうなということを考えていましたし,従前の部会もそういう議論をしていたんだろうと思います。
あと,それを譲渡した場合と書くのか,ここでこういうふうに書きましたのは,終期を入れるんであれば,実質的には終期を越せば当然無効になりますんで請求できないということを加味すれば,こういった表現でもいいのかなというのは少し考えていたところだったのですが,実質は道垣内先生の考えていらっしゃる譲渡して,全くしていないケースについてまで請求といいますか,お金を取れるということは考えていませんでしたので,ちょっと表現ぶり,法制的なことも含めて考えていきたいと思っています。
また,今川委員おっしゃっていたとおり,元々この部会で,中間試案の方ですかね,議論していたときに,時価と実際に譲渡する金額がずれてもいいんですよねって議論は,理論的にはさせていただいていたと思います。その上で,今川委員おっしゃったとおり,ただ,実際認定する際に,実際の売買価格を見ずに,鑑定といいますか判断できるのかというのは,おっしゃるとおりかも,ちょっとそこら辺,私も若干,不動産鑑定に疎いところがありますので,そういった御指摘はそうなんだなと思って伺っていました。それも含めて理論的には変わらないんですが,実質論を含めて,考え方についてはまた考えていきたいと思います。
○山野目部会長 道垣内委員,今のようなことで少し,考え方そのものを整理した上で,さらにそれをルールの表現としてどういうふうに言葉を整理するかということの課題が残っているということが分かりましたが,それを前提にお話をお続けいただくことがあれば,お願いいたします。
○道垣内委員 1点だけ申し上げますと,仮に時価が1億であっても,うまい具合に2億で売れたら,その所在等不明共有者は,2億を基準とした額がもらえると思うのですね。決して時価相当額で1億を基準とした額になるわけではないと思います。そうすると,時価相当額が,処分時の時価相当額といえば,それはそれでもいいのかもしれませんが,裁判が効力を生じたときというふうなのを基準値にすると,どうなのかなという気がしますので,引き続き御検討いただければと思います。
○山野目部会長 よく分かりました。
この第3のところについては,実際に時間の順番を追って,何の次にこれをするということを,1回時系列的に整理をし,その上で整理された事柄のどこまでを,どのような言葉で規律文言として表現していくかを検討するという仕事があるということが,今日の御議論で分かりましたから,事務当局にその作業を続けてもらうことにいたします。
これは,不動産取引の現場で行われている決済の手順のいろいろ複雑な様相を帯びている事柄,事象に更に輪をかけて,局面が,所在不明者がいたり,裁判所が関与したりして複雑になってくる事態をうまくさばかなければいけないという話になりますから,事務当局において検討し,司法書士会のお知恵も頂いた上で,検討が深められるとよろしいと感じます。
従前の不動産に抵当権の負担があったりすると,更にその抵当権の処理のために厄介な問題処理をしなければいけなくて,何かこれは,いささか試験問題を思わせる複雑な話になりますから,皆さんで知恵を集めて進めていくということにいたしましょう。ありがとうございました。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
この部会資料41の第2の所在等不明共有者の不動産の共有持分の取得について,この制度をどうやって活用していくかということは,所有者不明土地の解消に向けた方策の切り札の一つとして,重要なポイントになるのではないかと思っています。
この後,部会資料42でも出てまいりますように,この仕組みを,共同相続人の一部が所在不明の場合,あるいは特定できない場合にも使っていくということですので,しかも,これも部会資料42の最後で,共同相続人による時効取得については規律を設けないという提案ですので,そのことにも鑑みますと,この第2の所在等不明共有者の持分の取得の制度がどういうふうに運用されるか,実際にうまく使えるかということが非常に重要になってくるのではないかと思われます。
そのことを前提にしまして,例えば,共有者のほとんどが特定できない,所在も分からないまま,共有者の1人が管理を継続しているという状況の中で,例えば,その1人の持分が10分の1であるというときに,ほかの10分の9の持分を,この不明共有者の持分取得の制度を使って取得するということを考えたときに,裁判所に申し立てて公告し,時価相当額を供託するということで,例えば,時価4,000万円の土地だったとすると,3,600万円を供託しなければいけないことになります。しかし,その際に,例えば,この共有者が10年も20年も1人でこの土地の公租公課を負担し,その管理費用も支払ってきた場合に,その費用償還部分を,253条の管理費用として,共有持分を取得するために供託すべき時価から差し引いて供託すればよいということが認められるでしょうか。私は認めてよいのではないかと考えますが,確認させていただきたいと思います。
それがどういうふうに扱われるかによって,この制度の実際の使われ方や機能が違ってくるのではないかと思います。もしかすると,そういうことは想定していないかもしれませんが,ちょっと筋違いの質問だったら申し訳ないんですけれども,疑問になったものですから,お伺いできればと思いました。
○山野目部会長 今のお話は,事務当局はどう考えていますかと誰か関係官に発言希望があれば伺いますけれども,考えているかというよりも,松尾幹事から,今のお話でいうと,差し引き計算が可能になるような解決を想定し,所要の規律整備をしてほしいという,御意見を承ったと受け止めてよろしいものではないかと思いましたけれども。
○松尾幹事 はい,そのとおりです。もし費用の控除が可能であれば,この共有持分取得の制度は所有者不明土地の解消手段として,実際に使われるものになるのではないかと思います。ちなみに,今回規律しないことが提案されていますが,共有者の1人による時効取得が認められるときは,持分取得の対価の供託ということなしに他の共有者の持分が取得されることになります。ただ,強制取得を可能にするものですので,そこはちょっと慎重に考えなければいけない部分もあって,本当にそれでいいのかなということを,確認させていただきたいと思った次第です。
○山野目部会長 それでは,松尾幹事がおっしゃったことについて,事務当局も含めて,何か御意見があったら,今承っておいて,次の検討の機会に,更に深めた資料をお出ししようと考えますけれども,何かただいまの論点について御発言がおありでしょうか。
○脇村関係官 ありがとうございます。
確か松尾先生から,以前も同じような話を頂いたような気がしているんですけれども,今回の制度につきましては,時価相当額について簡易にやろうという発想でおりますので,もろもろの費用,それまでの費用などをきちんと清算したいという制度として組むんであれば,相当制度の根幹が変わるんだろうなと思います。
ですので,従前払ってきた費用ですとか,そういったものを含めて清算したいということであれば,私としては,この制度ではなくて,所有者不明土地管理制度などを活用し,管理人との間できちんと協議をして,幾らの費用がこれまで掛かったということを確定した上で,売却をし,そこから差し引くということしかないのかなと思っております。
この制度にしようとすると,当事者がいないのに,裁判所が管理費用を認定しないといけないとか,従前払った費用の確認ということになりますので,ちょっと,手続が大分変わってくるのではないかなというのが,正直思っているところでございます。
○山野目部会長 松尾幹事が提起した問題は,別の制度で受け止めてはどうかという意見を今,もらいました。
ほかに,この点についておありでしょうか。
よろしいですか。
では,これは引き続き検討するということにいたします。中田委員,どうぞ。
○中田委員 先ほどの第3の方に戻るのですけれども,第3について更に御検討いただくということでお願いしたいと思います。
その際に,一つお願いなんですが,譲渡をする際,相手方である買主,買い受ける人に,法律関係を明確にしてあげることによって,譲渡がスムーズにいくようにするのが望ましいのではないかと思っています。
今回の法律構成は,非常に明快になっており,法定の処分授権みたいなものをスタートにしたものだと理解しています。つまり,所在等不明共有者以外の共有者たちが不動産全体の売主になる,したがって,担保責任もその売主である共有者たちが負うし,代金債権もその人たちが持っていて,所在等不明共有者は関係ないんだということだろうと思います。ただこれは,その不動産を買おうとしている人から見ると,とても難しい制度だと思いますので,それを条文の上で,もし可能であれば,できるだけ疑義のないようにしていただくというのがよろしいですし,少なくとも解説などでは明らかにする必要があると思います。ただ,今はまだ条文化の作業の前,条文に至るための検討の作業の段階ですから,買主が安心して取得できるような制度にするということも,御検討の際に考えていただければと思います。
○山野目部会長 御注意をよく理解し,承りました。踏まえさせていただきます。どうもありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは,部会資料41について,多々有益な御指摘を頂きました。
今日頂いた御意見を踏まえて,整理を続けるということにいたしま……失礼しました。沖野委員,どうぞ。
○沖野委員 こちらこそ,間際にすみません。
第4の管理者の点ですけれども,前回疑問に思った点を非常に詳細に明らかにしていただいて,有り難いと思います。ただ,なおもよく分からないところがあります。
どういうことをやりたいかというのは書いてあって,問題は,何か書いていないところが,どのように埋まっていくのかということではないかと思われますので,書かれている,具体的にどういうことをしたいかという限りでは,このゴシックのとおりだと思うんですけれども,一方で,これが管理者の選任・解任,あるいはその職務の執行ですとか遂行という概念で全部整理をしていくということが,あたかもといいますか,共有をめぐる関係において,一種の地位あるいは機関的なものとして,その管理者というのを立て,その地位にどういう人を就け,あるいは,そこからリムーブするか,どういう職務権限を与えるかという,そういうような構成に,第4は見えます。
しかしながら,ここでは,飽くまで管理を依頼するというのは,委任契約を別途締結するということが想定されていて,その委任契約に基づいて,いろいろな権利義務というのが管理者の方に発生していく。報酬ですとか,あるいは善管注意義務の規定なども,今回は置かれませんけれども,それは委任の方で,委任契約当事者との関係で負うんだと,そういう整理のように見られます。そうすると,それと管理者の職責に就けるということとの関係がどうなるのかというのは,よく分からないように思います。
むしろ,第4で説明として書かれているような法律関係を考えるのであれば,むしろ共有者間の管理行為,管理に関する行為について,共有者自身がするときに過半数の決定で行うことができるけれども,具体的に,例えば,賃貸借契約をするというようなときには,それに賛成した人が,あるいは賛成した人との間で契約をするのか,さらには,それをまた更に切り離して,契約は契約ですということになるのかというのも分からないのですが,むしろそれと類似の法律関係ではないのかという気もしまして,だとすると,管理者というような一種機関的な者を選任・解任するというよりは,共有物の管理を第三者に委託するということについての規律の話になってくるんではないかと,そういう整理になるのかなと思ったんですけれども。さらにその前提としては,ここでは,管理者に選任すれば,当然賛成した,あるいは反対しなかった人との間で委任契約ないしは委任関係となるような想定でもあるようですが,例えば,1人の人が提案して,何人かの人は過半数を超えるまで賛成があって,しかし,異議を述べた人もいるというときに,一体委任なり委任契約なり委任関係は誰との間に立つのか,それは,賛成した人は当然,委任関係がそこに立つならば,それは実は法定の委任関係で,誰との間に立つかというのを賛成した,あるいは異議を述べなかった者との間だけに立つという規律にしているように思われますし,それに対して,いや,委任契約をするのですということであれば,実際に契約を締結した人だけということにもなり,例えば,提案した人だけが締結するということかもしれません。そうすると,修補ですとか,各種の権利義務も,その人だけが負うことになりそうで,その辺りが,なおどうもはっきりしないように思うのですけれども,今のような機関的な説明で,本当にいいのかどうかというのは,考え直す機会はないのかもしれませんけれども,やはりちょっと気になるところですので,お伝えしたいと思います。
○山野目部会長 沖野委員から今,第4の部分について御所感を頂いたところを踏まえて,もちろん次回の,次の機会に向けて検討いたします。
思い起こしますと,部会資料27は,どちらかというと,むしろ沖野委員の発想に近くて,第三者が管理者である場合と共有者のうちの1人が管理者である場合とに場合分けをした上で,それぞれの法律関係がどうなりますかということを,正にこの太字の部分に記して,委員,幹事の意見を問うという形でお出しいたしました。それについての御議論を第13回会議で承ったところ,それらについて様々な御意見が出て,必ずしも意見の方向性が一致しませんでした。取り分け共有者のうちの1人が選任された場合のところについて,意見が分かれたという側面が大きいように感じます。
そのようなことがあったという経過を踏まえ,かつ,考えてみると,共有者の中から,共有物の管理をする者を設けたときの民法上の契約関係の実体といいますか背景,基盤をどのように考えるかは,解釈に委ねるべき事項であるかもしれないと考えられましたところから,本日は,中身をがらっと変えたものではありませんが,部会資料で提示する太字の内容としては,沖野委員のおっしゃり方でいうと,機関を描くという仕方で提示申し上げると,改めてみました。
ただいま沖野委員からは,むしろ,どちらかというと,そこまではっきりおっしゃったかどうか分かりませんが,第三者を選任する場合に焦点を置いて,もう少し法律関係を明確にするような,太字に値するような規律を構想してみた方が,分かりやすいではないかというヒントも頂いたところであります。何通りか,この太字にする内容として,どういうふうな打ち出し方をするかということについては,考えられるところでありますから,沖野委員から頂いたヒントをも踏まえて,次の機会に向けて,また表現の仕方,並べ方のメリット,デメリットを比較して,再検討してみようと考えます。
本日,そのような御案内にとどめさせていただいてよろしいでしょうか。
ありがとうございます。
畑幹事,どうぞ。
○畑幹事 畑でございます。
5ページの手続の辺りに関連して,お尋ねなのか意見なのかよく分かりませんが,ここに書かれておりますように,確かに一般的には裁判の形成力が生じた場合,それをほかの人が勝手に争うことはできないと考えられていると思いますし,多くの場合,それで大過ないのだろうと思います。個人的には,論理必然的にそういうわけでもないだろうとは考えているのですが,それはともかくとして,この種の制度について,反対とかそういうことでは特にないのですが,手続的な面でいえば,これを悪用されることがないかということが,少し気になります。つまり,意見が合わない共有者がいる場合に,本当は所在が分かっているけれども,あの人は所在不明だといって事を進めてしまうというようなことが,当然病理現象だと思いますし,所在不明の認定というのをきっちりすれば,そうそう起こらないということかもしれませんが,その辺りどうするのかということも考えておく必要があるかと思っております。
特に,5ページの辺りで書かれていることというのは,基本的に管理行為ですので,しようがないかという気もしないでもないのですが,同じ問題は多分,第2の持分の取得とか第3の譲渡についてもあるような気がいたしまして,第2や第3になると,これはもう持分を失ってしまうものですから,かなり深刻な問題かなという気がします。
訴訟の話でいえば,最近は余りそういうことないのかもしれませんが,例えば,公示送達というものを悪用して確定判決を騙取した事例などというのも,かなり前ですが,存在しますので,そういうことがあり得ないわけではないということで,条文として何か手当を置くとかいうことではないのかもしれないのですが,問題としてはあるかなと考えております。
○山野目部会長 長期の海外における滞在とか長期入院の機会を,何らかの形で知り得た他人が,その期間はコミュニケーションが難しいということを奇貨として,このような制度を悪用するというようなことは,何か推理小説のような話のことを考えると,ありそうな気がしてまいりました。
更に考えますと,ここに限らず,所有者所在不明,あるいは共有者所在不明を要件とする場面一般について,そのようなことというものは危惧されるところでありますから,ただいまの畑幹事の御注意を,ここ及びその他類似の局面で,注意してまいるということにいたします。ありがとうございます。
○道垣内委員 すみません。分からないまま発言しますので,結論が出るような話ではないんですが,沖野さんのおっしゃった第4に関連します。これは結構,難しいですよね。つまり,管理者として選任された受任者が共有物について賃貸借契約を結ぶと,契約当事者は受任者になるんだけれども,委任をした者は,委任した者というのは共有者ですが,当該賃貸借契約の効力を否定できないというか,当該賃借人の占有権限を否定できないというか,そういう法律関係になるというわけですけれども,委任契約一般の問題として,どういうふうに考えるのかという問題が背後にもちろんあるわけであり,ちょっとそこに自信がありません。だから,私はこの補足説明は,その意味ではすごくレベルが高いと思うんですけれども,今まで委任契約のときの効力について,こんなにクリアに整理できていたのだろうか,という気がするわけでして,本当は委任のところではそれほど明確になっているわけではないのに,この共有者の管理者についてはこうなりますよと,書けるのかな,という心配があります。条文上は,委任一般との関係もありますので,クリアに書けないということになるんでしょうけれども,だから,どういうふうにすべきであるという意見も何もないままに発言をして申し訳ないんですが,何かこの辺りのところを,沖野さんのお話も踏まえて整理をされると,今伺いましたので,あわせて,法律関係についても,何か理解の取っかかりというものが書けるのならば,整理をしていただいた方がいいのではないかと思います。
私自身は,その後の解説で書いたからといって,何かそれに法的な拘束力があるとは全く考えませんので,一問一答に書けばいいという問題ではないと思います。
○山野目部会長 最近の一問一答は,いささか饒舌ですかね。ですから,何でも一問一答に書けばいいというわけではないということは,おっしゃるとおりでありまして,今後,委員,幹事で御議論を進めていただくに当たっても,何とかのことは一問一答に書いてくださいね,とかということを気楽におっしゃっていただくことも困りますけれども,さはさりながら,ここの第4の論点に関して言うと,補足説明のところで示している法律関係理解は,一定の理解として間違っていないというか,恐らく成立可能な明快な理解の一つを示していると感じます。
道垣内委員がやや御心配になった部分があるように,本当にこれしか考え方がありませんか,ということは,なお議論の余地がありますし,また裏返して述べると,本当にこれしか考えがなくて,委員,幹事の意見がまとまるものなら,もう少しそれを規律表現として明確に外に出していただけませんかという問題意識が,沖野委員の御指摘にもあったとみます。
それとともに,第13回会議,部会資料27からの経過を振り返ると,そのうようことを,考えが明快であるとしても,規律で表現していくことの得失といいますか,難しさもありまして,それらがいずれも悩ましいことであって,総合的に勘案して,また考えましょうということが,今日の御議論で明らかになってきたものであろうと受け止めます。
○潮見委員 余り言うつもりもなかったんですけれども,先ほどの沖野委員や道垣内委員の話を聞いていて,やはり言わなければいけないと思ったので,少しだけ発言させてください。
規定の中に,これ以上にきちんとしたものを組み込むことができるかどうかということは,私自身はかなり悲観的です。沖野委員と道垣内委員が言われたところに尽きるんですけれども,この問題というのが,そう簡単に,理論的にこうだという形で解決することはできないと,私は思っています。
というのは,普通の委任の場合でしたら,委任者が受任者に対して,例えば,財産管理を委任するということで話がついて,その財産管理権の内容とか,あるいはどのような義務を尽くすべきかは,基本的には,委任契約の内容から出てくるし,さらに,そのことを決めていないならば,準拠枠があるわけですから,その準拠枠にある規範を適用すれば,これで解決はできます。
ところが,今回の場合には,委任者に当たる人と並んで,ほかにもいろいろな共有者がいて,財産管理権限も持っています。そんなときに,一部の共有者が,ある人に財産管理をさせるということで管理人の選任に関与して,一定の条件といいますか,権限付与というものをした。ところが,他方においては,それに全く関与していない人がいる。ここで、管理人が実際に行うのは,土地あるいは不動産の管理であるということで,管理に着目すれば,共有の中での管理者と共有者の関係という準拠枠がもう一つ出てくるわけですよね。結局,考えうる準拠枠として,委任という準拠枠と,共有における共有者と管理人という準拠枠と,二つがあって,その二つをどう関係付けるのかということが問題となりまして,これについて,いろいろな考え方ができます。その際に,委任契約の中でどこまで決めることができるのか,決めたことが,契約に関与しなかったものの,共有地の財産管理については関与する他の共有者にどういう影響を与えるのかをいろいろ考えていくと,それほど,これ,簡単に,理論的にこうだという形の説明はしづらいというようなところがあろうかと思うんです。
そうした中で,できる限りのことを書こうとしたら,場合によっては前回の案に出てきたような,管理者が共有者の1人である場合と,そうではない場合とに分けて,管理者選任関係として,共有地に関する管理者と共有者の関係はこうあるべきだというところを,ルールとして示していくという辺りが関の山かなと思います。かえって,それ以上に組み込んでいくと,話がちょっとややこしくなるのかなというふうな感じもします。そういう意味で,先ほど申し上げた管理者選任関係,共有物に関する管理者と共有者の関係というものを,できるだけ明確に条文としては書き切る。合意や,あるいは多数当事者の意思によって変えることができるんであれば,その旨をルールとして書き加えるという辺りが,結果的には分かりやすいのではないかなという感じがしました。
飽くまでも印象なんで,お前はどうするんだと言われたら,何とも言いようがありませんけれども,ちょっと気になりましたんで発言させてもらいました。
○山野目部会長 潮見委員がおっしゃるような法律関係の描き方についての難しさといいますか,一様に決め付けて議論することができないという側面があるということは,正にそのとおりでありまして,そのことを受け止めますと,前回お諮りした部会資料27,第13回会議のときにお出ししたような,管理者が共有者の1人である場合と,第三者である場合とに分けて,何かを描くという規律の表現が考えられるところであるとともに,それをしようとすると,かえって潮見委員のお嫌いな管理者選任関係の概念の採否や,それをめぐる事柄について,何らか触れざるを得ないような文章になってきてしまう側面もあります。
そこが困りますから,今回は機関を描くという仕方でお出ししていますけれども,それにはそれとして問題点,課題があるということも,本日分かりましたから,沖野委員,道垣内委員のお話に付け加えて,今,潮見委員から頂いたお話も踏まえ,改めてどういうふうに太字の提案にしていったらいいかを考えるということにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
よろしいですか。
それでは,部会資料41についての御議論をお願いしたという扱いにいたします。 -
法制審議会民法・不動産登記法部会第16回会議 議事録
それでは,続きまして,共有物分割の方法を審議事項といたします。
部会資料の37をお取り上げください。部会資料37の1ページに第1として示しているものが唯一この資料で御提示申し上げている内容でございます。
1ページで太字で示している内容のとおりでございますけれども,現行の258条の規律に手直しをするという構想をお示ししております。
①のところは,現行法の法文とあまり変わりませんけれども,「又は協議をすることができないとき」という従来も解釈上認められてきた内容を明文化しようとしております。
②は,いわゆる全面的価格賠償又は部分的価格賠償の可能性があり得ることを法文に明示する際の一つのサンプルを御案内しています。
③は,現行258条の法文を手直しする中で,競売分割の順序,位置付けについて,新しい①②の規律を念頭に置きながら整理を試みて,規律表現を提示しているところでございます。
④は,現在の258条に存在しないものを提示しています。しかし,実務上も従来これに当たることが行われてきているところでございまして,なおかつ共有物分割の訴えが形式的形成訴訟であるということに鑑みますと,原告となる当事者など,当事者に対して細かく予備的請求を添えるというような対応を求めることは適当であるとは考えられませんから,それらのことを考えた上で,④の規律を置き,このような主文における措置を採ることができること,それわ裁判所が採ることができるということを明示しようとするものでございます。
第1でお示ししている事項について,委員・幹事から御随意に御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。いかがでしょうか。
○中村委員 日弁連のワーキンググループでの議論を御紹介したいと思いますが,今回のこの本文の部分は,法律専門家にとってもやや読みにくいものになっているのではないかという意見が多数出ておりました。いろいろな御配慮があってのことだと推察はいたしますけれども,やはり国民にとって読みやすく分かりやすいものをということから,少し書きぶりを工夫した方がよろしいのではないかという意見が多数です。中間試案のときの案の方が分かりやすいという意見はかなり出ておりました。
本文の②と③及び補足説明の4項に関して申し上げますと,中間試案では現物分割と価格賠償とに検討順序の先後関係はつけないということと,競売分割は補充的な分割方法とするということが書かれていて,今回も趣旨としては同じにされていると思うのですけれども,しかし,本文②だけを読みますと,特別の事情があると認めるときに賠償分割が可能であるというように読めてしまいはしないかというような指摘も上がっておりました。補足説明の4ページに書かれていますように,判例に述べられている一定の事情が必要であることを表すために家事事件手続法や95条を参考にこの文言を使っておられるということですので,この補足説明を読めば分かるわけですけれども,本文だけで分かるだろうかというところが気になっております。
さらに,補足説明の4ページの中ほどに,平成8年最判が判示しているような判断要素を全て明示し,法文化することは困難というふうに記載されているのですけれども,これにつきましては,例えば借地借家法の更新拒絶の正当事由の条文のように,判例によって考慮されてきた要素というのが法文上に書き込まれている例がありますが,4ページの冒頭に挙げられております最判の平成8年の判断要素を条文に記載すると,かなり長くはなろうかと思いますが,こういうことが考慮されるのだということが条文上明示されて,国民にとっては分かりやすいということになりはしないだろうかというような提案も挙がっておりました。
④と補足説明の5ページ5項以下の説明に関しましては特段の意見はございませんでした。
○山野目部会長 中村委員から弁護士会の御意見を取りまとめておっしゃっていただきました。御意見を受け止めて今後の審議を進めてまいるということにいたします。
あまり意味のない感想を1点申し上げますけれども,中村委員のおっしゃるとおりで,中間試案の方が読みやすいと感じます。私も感じます。併せて,参考までに御案内申し上げますけれども,いつもそうです。この部会に限らず,中間試案の文章というものは読みやすくて,その後,要綱案に向かっていくにしたがって,よく言えば法制的な洗練を重ねていくことによって,しかし,そのことは裏返して言うと国民の視線からはやや遠くなっていくという,その法文立案上の作業における宿命がございます。
しかし,申し上げていることは,宿命だからいいではないかと居直って申し上げているものではなくて,中村委員が御注意いただいたように,そうはいっても法制的に正確であると同時に,国民から見て理解され,親しまれる法文にしていかなければいけないということは,もとより当然のことでございますから,御注意を承ります。道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 お願いしますと言われても本当は困るのは,山野目さんと同じことを言おうと思ったんですね。
○山野目部会長 恐れ入ります。
○道垣内委員 中間試案の方が読みやすいという中村さんの御意見に全面的に賛成ですというのが僕の話の中心になります。共有物分割について判例で進展してきたところのものというのは,民法の現在の条文だけ見ますと,現物分割をするのか,それとも競売をして価格で分割するのか,その二者択一のように読めてしまうところ,複数の不動産があるときに共有者に1個ずつ例えば帰属させて,そのでこぼこを金銭で調整しようというふうにしてみたり,あるいは,ある人に完全に帰属させてあとは金銭だけで調整しようとか,場合によっては一部を共有に残そうとか,様々な方法を認めてきたということなのだと思うのですね。
そして,それは,実は遺産分割のときに認められてきたものが,共有物分割の方でも認められてくるという形がとられてきたわけですけれども,以前は,共有物分割ではリジッドな方法しか用い得ないと考えられていたものですから,柔軟な方法が採れる遺産分割手続を利用すべきであり,共有物分割の方に流してはいけないといった話が,たとえば,特定の財産についての相続持分の第三者に対する譲渡などの場合について学説上説かれたりした時期というのもあるわけです。それが,だんだんと柔軟になってきて,共有物分割であっても柔軟にできるからいいじゃないということになったわけです。
ただ,遺産分割については,そもそものところで民法906条に,いろいろな事情を考慮してできますよという実体法の規定があって,その後にそれを受ける手続的な規定があるという形になっているんですね。それに対して,通常共有に関しましては,906条のような規定がないということになりますと,この分割の手続みたいなことが書いてある条文の中に,いろいろな事情が考慮できるというのをきちんと書き込んで,分かるような形にしなければいけない。ここに,遺産分割の場合の条文の作り方との違いというのが出てくるのではないかという気がいたします。
さて,そうなったときに,いろいろな事情があるだろう,特別な事情というのは全部書き込むのは難しいだろうというのはいろいろ分かるんですけれども,2,3ですね,つまり現物分割とか競売とか,価格弁償による調整とか,そういうものを組み合わせることができるんだよというルールがどこかに明文で欲しいんですね。本日配られている案だけ見ますと,それこそ特別な事情があるという,非常に特別なときに,金銭の支払いだけでやるんですみたいに読めてしまう条文になっているわけでして,そうではなくて,一部は現物で分割するのだけれども価格賠償などを使って調整する。そういうのがきちんと出るようにする必要があるんだろうと思います。
中間試案の方が分かりやすいというのは,中間試案のときには裁判所は次に掲げる方法により共有物の分割を命ずることができると書いてあって,現物分割と価格賠償と競売による換価というのが三つ書いてあって,組み合わせていいというふうにはクリアに書いていなかったように思いますけれども,それでも三つあるんだよということが明示され,その組み合わせがありうるというのが,比較的読みやすい形になっていた。
今回,何か読みにくくて,三つの選択,特別な事情があるときだけ特別な方法が選択できるというだけであるかのような感じで,長い判例法理の共有物分割についての進展というものを生かし切れていないような気が,申し訳ないながらするわけでありまして,中村さんとかがおっしゃったことと基本的には同じだろうと思います。
○山野目部会長 道垣内委員から,中村委員からお出しいただいた意見を更に深く掘り下げる観点の整理の御提示を頂きました。ありがとうございます。
引き続き委員・幹事の御意見を承ります。
松尾幹事お願いします。
○松尾幹事 ありがとうございます。
私も今問題になっております部会資料37の第1の②の特別の事情ということについては,現物分割も賠償分割も特に順位はないということであれば,ここは特別の事情があれば認めるというよりは,「相当と認めるときは」という表現ぶりもあると思います。
ただ,実際問題としてこの賠償分割がうまく機能するためには共有者間の公平を害しないという制度的な保障があるということが大前提になるように思います。
そのときに一番問題になるのは,賠償分割するときに,共有物を取得する共有者から持分権を譲渡する共有者に対して,きちんとお金が払われるということをどうやって保障するかという点です。その点に関して,第1の④で,共有物分割を命ずる場合に,当事者に対して金銭の支払い,登記義務の履行等の給付を命ずることができるとあります。これが意味することの確認ですが,賠償分割を認めるときに,例えばABCが土地を共有していて,Aが全部取得することを認めてお金をBCに払うというときに,BCに対しては持分権をAに譲渡して登記をしなさい,AはBCに対してその評価額を払いなさいということを引換給付とすることが,この④を使って可能と理解してよいでしょうか。もしそれができるとすると,賠償分割の使いやすさが出てきて,相当と認めるならばそれを活用していきましょうということもあるのかなと感じた次第です。ちょっと誤解があれば,また正していただきたいと思います。
○山野目部会長 ④の規律は,現行の家事事件手続法の下においてほぼ同じ文言があるものをここにも規律として明示して表現しようとしているものでありますから,家事事件手続法の運用がどうなっているかというようなことを参考として見ておく必要もあります。
事務当局において,そうした点を見据えながら何か御紹介いただける情報があったらお教えください。
○大谷幹事 ②では,債務を負担させるという形で,部分的価格賠償の場合,全面的価格賠償の場合,両方があり得るということで書いておりますが,それは債務を負担させるということにとどまっており,それに更に④の方で債務名義とすることができるということで,これに基づいて強制執行が可能になるということを表現しているつもりでございます。
引換給付に関しましては,裁判所が相当であると認めた場合には引換給付を命ずるということもあるのではないかなと思っております。
○山野目部会長 引換給付の判決は書くことができるという趣旨の御案内を致しました。
松尾幹事,お続けください。
○松尾幹事 ありがとうございます。
引換給付を命じることは賠償分割を使う上では,共有者間の公平を担保するという意味で重要な機能ではないかと思います。
特に賠償分割を認めるということは,この後出てくる代金分割との関係では,実質的に共有者に優先取得権を認めることになりますので,そういう制度を使いやすくするということについては,私は理由があるのではないかなと思います。
今の点を確認していただいて,実務上も運用できるのであれば,非常によいのではないかと思った次第です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 すみません。1点だけ意見を申し上げます。
というか,これ第1の②のところの下線を引いた部分なのですが,この表現です。家事事件手続法の規定の文言表現を参考にしてこのような形にしたのだと思いますけれども,先ほど中村委員がおっしゃったこととは違う意味で,中間試案の方では,ここは持分の価格の賠償というところが表現に出ていたんですよね。ところが,今回お示しになられているこの下線部分では,「共有者の一人又は数人に他の共有者に対する金銭債務を負担させる方法による分割を命ずることができる」ということで,持分の価格の賠償なのだということが消えているんです。もちろんこの金銭債務を負担させるというところで,これは持分の価格ということを基準にして考えるのであると理解するのであれば,これはこれで構わないのかもしれませんけれども,突然と読めば,では金銭債務を負担させるときに,いろいろなファクターを考慮に入れて裁判所が適切と思われる額というものを,あるいは適切と思われる金額を負担させるということができるんだとも読めないわけではない。むしろ,誤解のないように,持分の価格の賠償ということがはっきりと出るようにした方がいいのではないかという感じがいたしました。
家事事件手続法の場合は,これは遺産の分割審判ですから,なかなか持分価格の賠償というのを文言表現として使うのは難しいというところがあって,この種のルール化がされているんだと思いますが,こちらの方はそのような制約がないものですから,むしろはっきりと書かれた方がいいというのが私の個人的な意見です。
○山野目部会長 ただいまの点は御意見としておっしゃっていただきましたが,事務当局に趣旨の確認のみはしておいた方が,この後の委員・幹事に御議論をお進めいただくことが容易になると感じますから発言を求めますが,金銭債務を負担させると書いてある個所は,特段の事情がない限り持分の価格を賠償させるという運用を念頭に置いてのことであると理解してよろしいですね。
○大谷幹事 そのとおりでございます。部分的価格賠償,いわゆる2分の1,2分の1で共有している土地を7対3で現物分割をしたとき,20%分をお金で払うというのを,それは持分の価格を賠償させる方法というふうに呼ぶのかどうかというところも問題があるかなということで,今のような形にはなっております。
○山野目部会長 こういうところがこの②について読みにくいと言われるゆえんであろうとは感じます。その点でも結構ですし,ほかの点でもよろしいですが,委員・幹事の御意見を引き続き承ります。いかがでしょうか。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
先ほどから先生方がおっしゃっている本文の書きぶりの問題の話に正になってくるかとは思うのですが,やはり私も最初に拝見したときに,①と②がフラットに並んでいるというふうにあまり読めなかったというところがございます。
従前から合理的に,共有者が土地の細分化を防いで全面的価格賠償で整理したいというような場面でも,現行法の条文を前提とすると果たして価格賠償になるのか,もしかしたら現物分割の方に持って行かれてしまうのではないかという不安があって,なかなか制度を使いづらいという声が事業者から出ていた中で,①と②が基本的に並列に位置づけられるということは,非常にいいことだなと思うのですが,今回の部会資料で拝見した本文の書きぶり,特別の事情という表現は少しひっかかります。③と比較すれば,②は①とフラットといえばフラットで,一定の要件を満たせばいずれも選択できるということになっているんだなというのは分かるんですが,やはり法律専門家の先生方ですらなかなか読みづらいというふうにおっしゃるということは,一般の企業実務家にしてみれば,よりそういうところはあるのかなと思いますので,ここは①と②が対等になっているというところがより明確に出るような形でやっていただけるとよいのではないかと思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
私も今回の案は,実は何回も読んでいて分からないのは自分だけなのかなと思ったんですけれども,皆さん分かりにくいというふうにおっしゃいまして,安心しました。
その上で,潮見委員から,中間試案では持分の価格の賠償というのがはっきり出ていたけれども,今回の②ではそれが出ていないのでうんぬんというお話がございました。そのとおりだと思うんですが,もし仮に今後中間試案に近い形で検討していただくことがあるとしたらということなのですが,その検討にならなかったら意味のない発言になるんですけれども,価格賠償という,そこに言う賠償というのが,私は今普通に使われている賠償とやや違う意味になっていると思うのですね。別段不法行為をしたわけでもないし,債務不履行があったわけでもなく,正規の手続に従って取得をした所有権について,ただ保障をしなければいけないというのか,償金を払わなければいけないというのか分かりませんが,賠償では多分,今の普通の使い方でいうとないのではないかと思うのです。もし御検討いただくのであれば,私の勘違いかもしれませんけれども,その点を考慮しながら検討いただければなと思います。
○山野目部会長 佐久間幹事の御意見の全体を承りました。
私の個人的趣味を申し上げる場所ではありませんが,私は,共有物分割のときに使う賠償という言葉が大嫌いでありまして,本当は用いたくありません,もう実務上定着している言葉であって,これを用いないと言語的な伝達がしにくいものですから,せめてもの抵抗として冒頭に②を御紹介するときにいわゆる全面的価格賠償又は部分的価格賠償を許容しようとする規定であるというふうに御案内して,ささやかな抵抗を致しました。
佐久間幹事からは,更に法文にするときに注意をしなさいというふうな御指摘もいただいたところであります。ありがとうございます。
引き続きいかがでしょうか。
今のところ,②のほかについても御指摘があったところですけれども,一番御議論が多い点は②でありまして,なおかつ②の中を更に小分けしてまいりますと,二つの点が検討しなければならない点として浮かび上がってきております。一つは,特別の事情があると認めるときは,という,この文言を置いていることをめぐって,このままでは座りが悪いということが多くの委員・幹事から共通してお出しいただいているところでありますけれども,しかし,更にどうしていったらよいかということについては,幾つか悩ましい点がございます。松尾幹事からは,この文体の骨格を維持しながら「特別の」という表現がよろしくないから例えば「相当と認めるときは」といったような御提案を頂いています。
確かに,「特別」と書くときには,特別に先立ってその前の方に標準が何であるかが示されて,それに対する特別でありますから,道垣内委員のお言葉で言うと,遺産分割の場合の906条に相当するようなものがあって,それを踏まえた「特別」になりますので,そういうものがないならば,もっと簡素な表現の方向にするという引き方があるという示唆があったところであります。
半面において,中村委員からは,弁護士会の御意見の御紹介という形で「特別の事情があるときは」というところをもう少し言語的表現を更に豊かにする方向を考えるべきであるというお話があり,借地借家法28条の書きぶりのようなものを参考として,考慮要素を列記するアイデアが考えられないかという御提案も弁護士会においてあったというヒントを頂いたところであります。
いずれにしても,現在のこの言葉の置き方が座りがよくないということが委員・幹事から指摘を頂いたところであります。
②に関してもう1点は,「金銭債務を負担させる」という表現をもって,いわゆるつきの賠償でありますけれども,全面的価格賠償や部分的価格賠償の実務を進めていくことのガイドとして適切かという問題提起もございました。読み方によっては,これは保証金か何かを積ませるみたいな軽い話みたいに読めなくもないような規律表現になっている側面がございますから,ここは何か工夫ができないかというような観点からの御指摘もありました。これらの点についてでもよろしいですし,ほかの点についてでもそうですが,引き続き部会資料37について御意見を承ります。いかがでしょうか。
ただいま差し上げた整理のようなことを踏まえて,事務当局が議事の整理に当たるということで進めてよろしゅうございますか。
それでは,この②のところを中心に,本日は重要な御意見,御指摘を幾つか賜ったところでございますから,これらを踏まえて議事の整理を進めるということにいたします。ありがとうございました。
部会資料37をめぐる審議はここまでとし,休憩といたします。 -
法制審議会民法・不動産登記法部会第2回会議 議事録
土地所有権の放棄については,ここまでといたしまして,続きまして,部会資料3で審議事項を用意しております共有制度の見直し(1)に進むということにいたします。
部会資料3のは,分量がすごく盛りだくさんでございます。部会資料3の中の,ひとまず第1の1から第1の4までの範囲について,事務当局から説明を差し上げます。
○脇村関係官 事前にお送りさせていただいておりますので,項目について簡単に御説明させていただきたいと思います。第1 通常の共有における共有物の管理
要綱案
民法第252条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の管理に関する事項(共有物に2①に規律する変更を加えるものを除く。②において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
② 裁判所は、次に掲げるときは、ア又はイに規律する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
ア 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
イ 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
③ ①及び②の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
④ 共有者は、①から③までの規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
⑤ 各共有者は、①から④までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる。4 共有物の管理者
共有物の管理者について、次のような規律を設けるものとする。① 共有者は、3の規律により、共有物を管理する者(②から⑤までにおいて「共有物の管理者」という。)を選任し、又は解任することができる。
② 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。③において同じ。)を加えることができない。
③ 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
④ 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
⑤ ④の規律に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。5 変更・管理の決定の裁判の手続
変更・管理の決定の裁判の手続について、次のような規律を設けるものとする。① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、2②、3②ア及び4③の規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所がこの裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者等(2②の当該他の共有者、3②アの他の共有者又は4③の当該共有者をいう。)は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ イの届出がないときは、裁判所がこの裁判をすること。
② 裁判所は、次に掲げる事項を3②イの他の共有者に通知し、かつ、イの期間が経過しなければ、3②イの規律による裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産についてこの裁判の申立てがあったこと。
イ 3②イの他の共有者は裁判所に対し一定の期間までに共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべきこと。
ウ イの期間内に3②イの他の共有者が共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしないときは、裁判所がこの裁判をすること。
③ ②イの期間内に裁判所に対し共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにした他の共有者があるときは、裁判所は、その者に係る3②イの規律による裁判をすることができない。
(注)これらの裁判に係る事件は当該裁判に係る財産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。6 裁判による共有物分割
民法第258条の規律を次のように改めるものとする。① 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
③ ②に規律する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。1 共有者の同意と共有物の管理に関する行為
まず,第1では,通常の共有における共有物の管理を取り上げており,1では,共有者の同意と共有物の管理に関する行為について御検討をお願いしているところです。
補足説明にもございますとおり,民法では,共有物を変更・処分するには全員の同意が必要である,あるいは保存行為については単独ですることができる,変更及び保存行為を除く管理に関する事項は過半数で決することができるといったことが規律としてありますが,ここの資料では,この大きな枠組みについては基本的に維持しつつも,不必要に共有者全員の同意を要求することで,問題となっている行為をすることができないといったことを回避するなどの観点から,問題となり得る個々の行為について,解釈の明確化等を含め,検討することを提案しております。例えば,下記の①から③までの行為については,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決することができるようにすることについて,どのように考えるか。
① 各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決することができる事項についてその規律に従って一定の定めがされた場合に,この定めを変更すること。
② 特段の定めなく共有物を利用(占有)する者がある場合に,共有物を利用(占有)する者を変更すること。
③ 共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用を目的とする権利を設定すること。ただし,存続期間が民法第602条各号の定める期間を超えることはできないものとする。例えばということで,本文では①から③ということで,各共有者の持分の価格に従って,過半数で決する事項について,一定の定めがされた場合に,それを変更することですとか,特段の定めなく共有物を利用する者がある場合に,共有物を利用する者を変更すること,あるいは共有物について,第三者に対して賃借権その他の使用を目的とする権利を設定すること,こういったことを取り上げておりますが,御検討いただければ幸いです。
2 共有物の利用方法の定めの手続
8ページにいきまして,2では,共有物の利用方法の定めの手続を取り上げております。
先ほど御説明させていただきましたが,民法では,管理に関する事項については,基本的には持分の過半数で決することができるというふうに定められているところですが,この過半数で決するということの意味につきまして,学説等の中には,共有者全員での協議,話合いを経なければならないという意見もあるところでございますが,この意見によりますと,例えば共有者の中に所在等不明の者がいる場合には,協議をすることはできませんので,なかなか利用方法を定めることができないということになり,そうしますと,やはり問題があるのではないかということで,ここでは,過半数を有する者の意思に合致すれば足りるとすることについて,そのことを明確化することについて,御検討いただきたいということを御提案させていただいております。3 共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法
次に,同じページの3でございますが,ここでは,共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法を取り上げております。
共有物の管理に無関心な人,無関心な共有者が賛否を明らかにしない場合や所在が不明である,そういったことから共有者に賛否を問うことができない場合には,そういった不明共有者の同意を得ることができませんので,なかなか共有物の管理に関する事項,変更・処分を含めた管理に関する事項を定めることができないということになってしまいます。
そこで,この資料では,催告をしても共有者が賛否を明らかにしない場合や,所在が不明であるため共有者に賛否を問うことができない場合に,共有物の利用が阻害されることを防止する観点から,共有者の手続保障を図りながらも,変更・処分や管理行為,こういったことをできる仕組みについて設けることができないかを検討することを御提案させていただいているところでございます。
また,この補足説明にも書かせていただいていますが,この問題を検討する際には,先ほど言いました所在不明というのはどういったものですとか,そういった探索,所在者,共有者の探索の在り方についても御検討いただく必要があると思いますので,併せて御検討いただければと思います。
また,(注)にも書かせていただいておりますが,公的機関による事前審査,こういったことについても御検討いただければ幸いでございます。4 共有物の管理に関する行為と損害の発生
次に,12ページにいきまして,4では,共有物の管理に関する行為と損害の発生を取り上げております。共有物の管理に関する行為がされることによって,同意をしていない共有者に損害が生ずることがございますが,それに対応するため,本文のような案について御検討いただければ幸いでございます。
簡単ですが,説明としては以上です。
○山野目部会長 部会資料3の第1の1から4の説明を差し上げました。
御意見を頂くに当たりましては,これ全部というのは分量が多過ぎますから,初めに第1の1,通常の共有における共有物の管理の部分について御意見を承ります。いかがでしょうか。1 基本的な枠組みと個別の行為
⑴ 民法は,共有者間の利害等を調整しながら,共有物の有効な利用・管理を実現するために,次の規律を設けている。
① 共有物の「変更」をするには,共有者全員の同意を要する(民法第251条)。
② 「保存行為」は,各共有者が単独ですることができる(民法第252条ただし書)。
③ 「変更」及び「保存行為」を除く「管理に関する事項」は,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する(民法第252条本文)。
なお,ここでいう「変更」は,田畑を宅地とするものとし,又は建物を改築するなど目的物を物理的に変更することを意味するが,裁判実務・学説では,共有物全体について売却その他の法律上の処分をする場合についても,同様に共有者全員の同意を要するものと解されている。その説明としては,法律上の処分も民法第251条の「変更」に含まれるとするものと,「変更」には含まれないが,共有物全体を処分することは共有者全員の持分権を処分することであり,当然に共有者全員の同意が必要になるとするものがある(以下では,法律上の処分も含む際には,便宜上,「変更・処分」と記載している。)。⑵ 上記のような民法上のルールは,基本的には,妥当なものであると解される。もっとも,そのルールを適用する場面をみると,問題となる行為が変更・処分に該当するのかについて実務上議論が分かれているため,実際の事案を処理するにあたっては,慎重を期して共有者全員の同意をとらざるを得ず,共有者の一部に反対する者がおり,又は共有者の一部に所在等が不明な者がいて全員の同意を得ることができない場合には,当該行為を実施することを断念せざるを得ないといった事態が生じている。また,現在の解釈では,一般的に変更・処分に該当すると解されているものであっても,その中には,本当に共有者全員の同意を得なければすることができないのか,持分の過半数で定めることとすべきではないのかについて再点検すべきものもあると考えられる。
そこで,上記の民法上のルールを基本的に維持しながらも,不必要に共有者全員の同意を要求することで,問題となっている行為をすることができないことを回避するなどの観点から,共有者全員の同意が必要であるのかについて解釈が分かれている行為について,その解釈を明確にすることや,共有者全員の同意が必要と解されている行為について,その解釈を見直すことについて,検討する必要がある。特に,本文①から③までの行為については,検討する必要性が高い(詳細は,後記(補足説明)2参照)。「1 共有者の同意と共有物の管理に関する行為」に対する意見
○蓑毛幹事 今回のこの第1の1を議論する意義というか,どの範囲で議論するかということのお考えを,もう少し説明していただければと思います。
勝手に推測するに,この後議論する新たな制度,共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法であるとか,あるいは,共有物の管理者の制度を設けるに当たって,それがうまくワークするために,何か管理行為なのか,何が変更・処分行為なのかということを明らかにしておくことに意義があるのかなと思いました。一方で,では,それをどこまで,どんな範囲で,議論するのか。特に,部会資料3の5ページに書かれていることは昭和41年最判の解釈を変えるという意味なのか,共有不動産に共有者の1人が住んでいて,その人に明渡しを求めることが出来るのか出来ないのかということは,実務的にも非常に大きな問題になるものですから,どこまで掘り下げて議論されるつもりなのかということが気になりましたので,その点を御質問したいと思います。
○山野目部会長 事務当局から,資料作成の意図の御説明を補足ください。
○脇村関係官 資料の作成の意図としましては,まず,この後に出てくる同意,明確に同意がないケースについても一定の行為をできるようにするということを議論することにしておりますが,そもそも,どの行為が過半数でできるのかについては,ある程度明確にすべき問題であるんだろうなと思っています。
特に,今先生がおっしゃった,どういったときに利用できるのか,明け渡しも含めてですね。こういったものについて,当局としましては,やはり,後で変更できるかどうかによって,いろいろとその定め方の仕方も変わってくると思いますので,そういった意味では,きちんと議論をしていきたいと思っております。
今先生のおっしゃっていた中で,先ほど最判の話があったと思うんですが,この①,②というのは,そういう意味で,似たような話であるわけでございますが,既存の,現在のところ住んでいらっしゃる方についての変更をどうするのかについても,ここの資料自体は,ある意味,結果的にはというか,変更できるということをについて検討することも指摘しているところです。
②についての,部会資料3の5ページの最判との関係についてですが,これは異論があるかもしれませんが,最判の読み方は,人によって多少温度差があるような気がしていまして,私自身,この部会資料を作る際には,あの最判は,共有の利用方法の定めがないケースの判例ではないかと思っており,そうすると,利用方法の定めをどういった場合にできるかとは,本当はリンクしないのではないかという気もしているんですけれども,他方で,あの最判は,過半数を持っている人でも追い出すことはできないという結論でございますので,ここで検討をお願いしている提案は,過半数で誰が利用するか決められる,その意味で,利用者を変更できるということまで含めて議論させていただいているところですので,結論が変わってくるのかなという気は若干していますが,そこも含めて,本当にそれでいいのかということは,是非御検討いただきたいというふうに思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事,どうぞお続けください。
○蓑毛幹事 今脇村さんがおっしゃったことがよく理解できていないのですが,共有者の過半数でもって利用方法を改めて定めれば,昭和41年最判の結論とは違って,明け渡しを求めることができるということですか。
○脇村関係官 まず前提として,あの最判の読み方だと思うんですけれども,ここで議論をしようとしている事後に定めをする場合のな議論ではなくて,まず事前に,例えば,この人が利用できますよと定めた後に,それを無視して違う人が住んでいたケースについて,その定めに基づいて明渡しを求めることができるかというのが問題になると思うんですけれども,恐らくあの最判自体は,そこについて,特定の考えを示したというよりは,そのケースは想定していない,定めていないケースだと思いますし,そうすると事後に定めをする場合も同じではないかと。
ただ,その読み方として,本当にそうなのかというのは,多分議論のあるところですので,部会資料としては,先ほども言いましたとおり,あの最判は約束をしていないケースですので,今回の議論は,約束し直すことをできますかねということを提案しているので,矛盾しないのではないかと記載をしているのですが,是非民法の先生方の御議論を伺わせていただきたいというふうに思っております。
○山野目部会長 民法の先生方や,あるいは……では,蓑毛幹事,どうぞ。
○蓑毛幹事 いやいや,民法の先生方でなく,私が発言するのも何ですが。昭和41年最判は,「少数持分権者は,自己の持分によって,共有物を使用収益する権原を有し,これに基づいて共有物を占有するものと認められる」と判示しています。だから,共有者の過半数で利用方法を定めても,明渡しを求めることはできないのではないでしょうか。ただし,その人は他の共有持分者の利用権限を害しているので,損害賠償等には応じなければならない。もしこれを抜本的に解決したいのであれば,共有物の分割請求を行うしかない。恐らく実務も,共有者の過半数で決めさえすれば明け渡しを求めることができるという前提で動いていないように思うものですから,申し上げた次第です。
○佐久間幹事 実務的にはそういうふうに動いているんだろうなと思いながら,私はこの原案に賛成の立場から,ちょっと申し上げたいと思います。
ただ,その前に,この同意あるいは共有物の管理に関する行為について,例えば①から③までの三つが挙がっているのですが,これだけを解決することでいいのか,あるいは,少なくともこの三つだけは規定を置くのがいいのかはよく分からないということを申し上げた上で,私はこの方向がいいのではないかと思うということを,申し上げたいと思います。
今,御意見にございましたとおり,例えばですけれども,現在少数持分権者が占有をしている場合に,多数持分権者は過半数決定によって立退きを求めることができるかというと,恐らく一般的には,できない,あるいは少なくとも容易にはできない,正当な理由がないとできない,と考えられているのではないかと思うんです。
ただ,私が常々疑問に思っておりますのは,自分の持分に関しましては,確かに共有物全部の使用収益をすることはできるわけですけれども,他の共有者の持分に関しましては,これは適法な決定がなく行われているとすると,一種の不法占有なのではないかと思います。また,これは①,②に関わるんですけれども,一旦決定を得て適法に占有をしている場合も,例えば無償で使用しているときには,確かに適法に無償で使用しているわけですが,単独所有者が所有する物件について,無償で使用している人よりも厚い保護に値するという理由が,私には実は分かりません。
また,適正な対価を支払って使用しているという場合も,単独所有の物件でありますと,言わば賃貸借に当たる場合なのではないかと思うんですが,その場合に,賃借人に与えられる保護よりも更に一段厚い保護が与えられるということも,少数持分権者には自分の持分があるということによってどうして正当化されるのかというのが,私にはよく分からないんです。
そこで,その分からないということを前提とした私なりの整理によりますと,誰が占有使用するかに関する定めの変更自体は,全くパラレルに考えられるのかどうか分かりませんが,例えば単独所有者が占有者に明渡しを求める場合に,言わば,明渡しを求めようと決めることに当たるのではないかと思うんですね。
ただ,明渡しを求めることを決めて,権利を行使したとしても,相手方にその権利行使を妨げる正当な理由というか権原があれば,それは通らない。例えば,賃借人の保護の規定があるのであれば,それは通らないというのと同じことが,ここで問題になるのではないかと思うんです。
不法占有者であれば,占有を続けることのできる権原はないので,明け渡さなければならない。使用貸借の場合も,例えば使用貸借の目的が達せられているというようなことであると,解除の意思表示をされた場合には,明け渡さざるを得ないわけですから,それと同じ状態になるのではないか。これに対して,例えば建物賃貸借では,賃貸人は,正当な理由がないと,そもそも解除はできませんし,期間満了の場合も,正当な理由がないと更新を拒絶することができず,結局明渡しの請求はできないというようなことが借地借家法に定められています。共有の場合の少数持分権者の占有についても,こういった場合と同様の保護を与えればいいのではないかと,私は考えております。
その意味で,この①,②,③は,そもそも共有者が合理的に共有物を管理していくということだとすると,各共有者はどういう権利を持っているのか,どういう行動をその権利に基づいてとることができるのかということを整理する,その材料になるのではないかと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
今の関連の御意見,御発言は,この時点で頂いておいた方がよいと感じますから,この関連で御意見がおありの方は,どうぞおっしゃってください。
○中田委員 今の関連といいますか,全体の大きな話という趣旨で申し上げたいことがございます。現在の共有に関する規定は,分割して終了する共有を想定しているのだけれども,現実には存続するタイプの共有が多く存在している,それに関する規律を考えることが必要である,これは1980年代から,山田委員を始めとして指摘されてきたことです。今回の提案も,そういった方向のものかなというふうに考えております。それは存続型であり,その中では団体的な規律というものが重視されるようになってくる。佐久間幹事のイメージしておられるのも,そちらの方向なのかなと感じました。その方向で,今回のように検討していくことには異論がございませんですけれども,検討課題もやはり意識しておく必要があるだろうと思います。
3点申したいと思います。
一つは,従来の分割終了タイプの共有に関する規律をどうするのか。取り分け,共有物分割請求制度の改善を検討する必要はなかろうかということです。
それから,2番目に,存続タイプの共有,あるいは団体的規律が強く及ぶ共有を考えるときに,その対象をどうするのか。不動産だけなのか,動産にも及ぶのか,それとも準共有の規定を通じて,他の財産権にも及ぶのかということです。
それから,三つ目は,共有以外の制度との関係,あるいは他の制度に及ぼす影響をどう考えるのか。組合あるいは権利能力なき社団,入会財産などとの関係があります。
つまり,ここで問題となっているのは,所有者不明土地の問題への対応を超えて,共有制度全体をどのように理解するのかということが根本にあるんだと思います。ただいま,蓑毛幹事と佐久間幹事との間で若干の考え方の違いが浮かび上がってきたのは,多分このような根底的な問題を反映しているのかなと感じました。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。全休的な検討の取組に当たっての心構えを整理していただきました。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
第1の1のところに関しまして,実務の中で,実際にどうしているかというと,何が管理に関する事項に該当するか分からないので,とりあえず安全策で共有者全員の同意をもらっておこう,という場合も結構多くて,そういう観点からいいますと,全員の同意が必要でない場合について,特に検討していただける,というところは,非常に有り難いと思っております。
ただ,ここで挙げられている①から③の中の,特に③に関しまして,「共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用を目的とする権利を設定すること」を過半数で決することができる,と明記していただけるのは,非常によいのかなと思う一方で,ただし書のところが気になります。これは,飽くまで短期賃貸借の期間の中でということで,下級審判例等も参照されて,こう書かれていると思うのですが,ここについては,共有物の機能に変更を生じさせないような使用であれば,期間にかかわらず,管理に関する事項と考えることもできるのではないかという意見が,既に幾つかの会社から出ております。
特に,昨年出された「所有者不明私道への対応ガイドライン」の中などでも,例えば電柱の設置であるとか,ガス管の敷設ですとかといった場合で,管理に関する事項として整理されているケースはございます。ここは書き方の問題でもあるとは思うのですが,民法第602条各号の定める期間の範囲内でやるべきというものもある一方で,そうでないものもあると思いますので,飽くまで共有物の機能に与える影響というところに着目して整理していただき,もし具体的に書かれるのであれば,そういった方向で検討していただくのがよろしいのかなと思っております。
○山田委員 ちょっと複数のことを申し上げたいと思いますが,性格が異なるように思います。申し訳ありません。
まず,この第1の1に書かれていることの性格なんですが,第1パラグラフの最後の3行を見ますと,解釈を明確にすることや解釈を見直すことでどうかというふうに終わっているんですね。これは,法文には手を付けないで,解釈で対応しようということをここで,共同作業しようとおっしゃっているのか,それとも,解釈を明確にするために法文を新たに書きおろすと,解釈を見直す,見直した後のことを法文で新たに書き起こそうということも含んでいるのか。
見直すべきでない,明確にする必要がないならば,する必要ないんですが,明確にしたり見直したりしようとしたときには,法文で書くということも含まれているのかというのが,これはすみません,質問です。
付随して意見を言うと,やはりそれがないと,ここで議論しても仕方がないかなと思います。各界の主要な方々が集まっているところで,解釈をこれでいきましょうというふうにすれば,それなりに意味があるのかもしれませんが,余り多くの時間を掛けるものでもないし,本当にそうなるかどうかも分からないわけですので,そういうふうに思います。
質問がありまして,後半意見です。
それから,二つ目は,第1の1,あるいは,ここに限らないのかもしれませんが,民法の第2編物権,第3章所有権,第3節共有に置かれるものなのかどうか。これは別に,特別法で外出ししても構わないんですが,要するに,適用対象が共有全部なのか,それとも不動産なのか,土地なのかということで,どうもここは,共有全部で作られているなと思いました。
そうすると,混和とか,動産が混和して共有になったときにも使われる規定になるので,少し丁寧に考えないといけないなというふうに考えました。ですから,これは,事務当局が今これを作っているところでは,どういうふうにお考えなのかということです。
それから,最後は,ちょっと今までの質問とは違うのですが,例えば,第1の1の①,②,③のようなのを書き込んでいきますと,かなり詳細な規定を置いて規律しようという姿勢になってくると思うんです。そのときは,共有者全員があらかじめ合意をして定めを置くことで,これと異なる規律を,我々共有者ではこれでいこうというふうにしたときに,認められるのかどうかということについては,最後それは,書くかどうかというのは,またちょっと出口のところの問題があると思うのですが,しかし,どちらで考えるのかということです。
物権法ですから,強行法なので,当事者の合意は認めないという考え方は,現実にはないのかもしれませんが,非常に単純に考えると,その道が出てきてしまうんだと思うんですね。しかし,そうではなくて,当事者全員が合意をすれば,当事者間でルールを変えられるという考え方はあるように思います。そうすると,どの範囲で変えられるかということも問題になってくるかなと思います。
そのときに参考になるのが,建物区分所有法には規約で定められることというのがあって,建物区分所有法で書かれているルールを,一方向だったり双方向だったりするんだと思うんですが,あるいは項目によってですが,当事者ですよね,区分所有者が規約で定めることによって,変えることができるというのがありますので,現在の民法には,その点については何ら語られていないんですけれども,詳細な規定を今の時点で置くならば,置くほど,そこについてのさばきをどうするのかということは,やはり考えないといけないのではないかなというふうに思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
事務当局に補足説明をお願いしようと考えますが,山田委員から種々御心配を頂きました。
法制審議会は法律の解釈を確定する場所ではないということは,もとより御注意いただいたとおりでございまして,解釈を見直すことでどうかという記述は,解釈を統一しようということではなく,もしかしたら規定を設ける必要があるかもしれないという御議論をお願いするつもりでおりました。また後で事務当局からもおっしゃっていただきます。
それから,全般について,共有物という言葉を用いて今のところ,問題提起を差し上げていますけれども,議論の進み具合によっては,共有地の議論になるかもしれない,あるいは共有不動産の議論になるかもしれないという含みは常に持っております。補足説明で常にそのことをお断りしていなかった,若干不手際があるかもしれませんけれども,最終的に,ここでの御意見を集約して,規律上どう表現していくかということを究めていくということになるであろうと考えます。
それからあと,民法に規定を置くかどうか,249条以下に規定を置くかどうかという問題に関連して,置かれた規定の強行規定性という問題は,補足説明で欠けておりまして,御注意いただき,ありがとうございました。今後考えていかなければいけないであろうと考えますし,それは,ヒントを頂いた建物区分所有の状況との比較とか,中田委員の御発言にあった組合法理や組合の規定の適用関係などと交錯するところをどう考え込むかといったような御指摘とも関係してくるものと思います。
事務当局から補足説明をお願いいたします。
○脇村関係官 繰り返しかもしれませんが,解釈自体,それは条文化も含めて,検討していただきたいという趣旨でございます。
また,対象につきましても,中には,不動産に限定しますかどうですかということを明確に書いているものもございますが,当局としては,現時点では,まずは不動産に限定しないことも含めて広目に提案をしておるところですが,当然今後の議論においては,内容によって絞り込んでいくということも想定しているところでございます。
最後の,先生おっしゃった強行規定どうするかという議論は,共有者間の特約の取扱いをどうするかという問題の一つではないかという気もしておりまして,また先生から,いろいろ教えていただきたいというふうに思っていますが,ここで部会資料,この資料を作る際に,一つだけ考えていましたのは,過半数で決めたことについて,過半数で変えるということは,規律としてあるとして,例えば,過半数で決められることも含めて,全員で決めたときに,正に全員で決めたときに,それを変更するのをどうするのか,あるいは,それをどう引き継ぐのかというのは,別途問題になるのかなとは思っていましたが,ちょっと特約の扱いをどうするかも含めて,また私どもで勉強したいと思います。
○山野目部会長 山田委員,よろしゅうございましょうか。
○山田委員 はい,結構です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○松尾幹事 今,部会資料3の第1の1「共有者の同意と共有物の管理に関する行為」の議論をしているわけですが,この後に出てくる第1の3「共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法」の方では,共有者の一部が不明であるとか,意思決定をしないというときに,不明共有者とか意思決定しない共有者がいても,管理に関する意思決定できるように,要件を緩和していく案が準備されていて,私は今問題になっている所有者不明とか,共有者の一部不明の問題に対する対応策としては,非常に重要な部分であると思っています。
他方,そちらの方で要件を緩和するということとのバランス上,第1の1の通常の共有のところで,さらに要件を緩和する必要がどこにあるかということは,しっかり見極めて,要件緩和の主たる対象を明確にしておく必要があるのではないかと思いました。
今議論に出ておりました,本来ならば多数決でできることについて,全員で合意したんだけれども,再び多数決でやろうというのは,これはやはり共有者間の合意の問題ですから,最初は全員合意の解釈として考えていくということで対応できると思います。
それから,ちょっと気になりますのは,部会資料3の2ページ(3)の「なお」から始まる段落の4行目で,現行法上全共有者の同意が必要とされている行為類型についても,持分の4分の3あるいは3分の2でできる類型も設ける余地がある旨の部分です。ここはちょっと問題なのではないかと思っておりまして,これが必要な場面はどういうことかということについて,ちょっと具体的な問題類型を念頭に置いて,検討してみた方がいいかなと思います。
この後論じることになる共有者の不明,あるいは意思決定しない共有者の問題について,どのように要件を緩和して所有者不明土地問題に対応するかについては,かなり突っ込んだ提案を頂いていると思いますので,そちらの方との関係について,確認しておく必要があるかなと思いました。
その際,通常の共有ルールについての見直しに関しては,部会資料3では管理,変更,保存を挙げていただいておりますけれども,そもそも共有の最初にある249条の使用について,重要な問題が残されたままになっているように思います。つまり共有者間でまだ何の合意もできていないときに共有者の1人が使い始め,私は持分権に基づいて,共有物全部について使用できるでしょうといったときに,その共有者に対し,他の共有者が,いったん元に戻して,どう使うかを決めてから使用しましょうねということを,いえるのかいえないのかということについて,曖昧な状態であります。しかし,この問題は,共有物の利用をめぐる共有者間の合意の意味に関する根本問題として,変更・管理・保存行為の場合とも関わってきます。それは引き続き,解釈に任せるということでいいのか,それとも通常の共有のルールにについても踏み込んで再検討するとすると,一番曖昧になっている部分についても何か提案すべきではないかということについて,ちょっと気になりましたので,発言させていただきました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
一番最後におっしゃった問題は,例えば,昭和31年最高裁判所判決の理解ないし,その機能範囲の問題についての検討を深めた上で,規律として表現するものを設けるか設けないかという議論に発展していくものであろうと考えます。その前に御指摘を頂いたことを含め,引き続き事務当局の方で受け止めさせていただきます。
ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。「2 共有物の利用方法の定めの手続」に対する意見
そうしましたら,第1の1に続きまして,第2(1?)の2でございますけれども,8ページで問題提起を差し上げている問題でありまして,現在の249条以下の法文には,協議という場面が出てまいりません。取り分け251条で,全ての共有者の同意を取り付ける,あるいは252条で,過半数で意思形成をするという場面への言及がございますけれども,それは何か,集会とか会議とかいうようなものを契機として用意するのか,そういうものを要求しなくてよいのかということについて,必ずしも明確でないという現状理解を踏まえ,問題提起を差し上げているところでございます。
この2の部分についての御意見を承ります。いかがでしょうか。
○佐久間幹事 協議を経ることを要しないことを明確にするということは賛成なんですが,協議を経ることを要しないということに対応するのが,過半数を有する者の意思に合致しているということなのかどうかが,ちょっとよく分かりません。つまり,意思の合致をそれ自体として,この案は提示しているのか,意思が合致しているということが表されているということを要求しているのか,私は何らかの形で表されていないといけないんだろうと思います。それが一つと,もう一つは,共有者全員について,自己の法律関係を全く自ら知ることのできない状況で決定されているということが,望ましいのかどうかということはあると思うんですね。
そうだとすると,協議あるいは話合いを経ることを求めるだけの利益ないし権利はない。だけれども,どのような決定がされるのか,あるいはされたのかでもいいかもしれませんが,それを知る利益ないし地位は保障すべきなのではないかと思います。
○山野目部会長 全員が当事者になっている協議を法律行為としてするという契機を絶対的に要求するものではないという方向性を示しているところまでは,文意は明らかであると思いますが,過半数の人たちの複数の意思表示が,ただ同時に並んで存在していればいいのか,過半数の人たちの間の意思を結合させる何らかの容態,法律要件が存在するかという問題についての御疑問の提示,それから,それとは別な問題として,いずれにしても,過半数の人たちが決めたことを共有者全体に情報として行き渡らせる必要があるのではないかという問題提起も頂きました。
引き続き検討していく事項ですけれども,何か事務当局から補足説明がありますか。
○脇村関係官 前半の方については,ちょっと法的な構成はあれなんですけれども,イメージしていたのは,過半数の人で集まって話をして書類を作るとか,何かの表示行為をイメージはしておりましたが,それをどう表現していいのかというのは難しい問題なんですが,そこはそういう意味で考えていました。
また,先生がおっしゃった最後の,次の問題として,教えてあげた方がいいのではないかという問題だと思うんですけれども,そこは議論としてあるんだろうと思っておりまして,ただここで書きたかったのは,まず,必ず協議が要るということまで言ってしまうと,正に,本当に動かなくなってきますので,そこは外した上で,なお,知る機会をどうするのかについては,効力とは直接関係ない方向で手当てするということも一つあるのかなとは思っていましたが,是非皆さんの御意見を頂ければというふうに思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事は,今のところ,よろしゅうございますか。
○佐久間幹事 はい。
○沖野委員 この点は,今のご提案のイメージとしては,過半数を1人で独占はしていないという想定で,何人か寄らないと意思決定ができないというようなイメージだと思うんですけれども,この規律だと,過半数を有する人が1人いれば,あとは100人いようが何人いようが,その人たちのことは何も気にする必要はないという形になるように思われます。それがいいのかという問題があるように思われます。協議や話合いというのは,同意を取ることまでは要らないけれども,意見表明をする機会であるとか,情報提供を受ける機会だとか,そういう意義があるわけで,そういうものが全くなくして決めるということでいいのかと。
確かに,所在不明の場合には同意は取れないではないかということであれば,それは所在不明の場合の特則を考えればいいのではないかと思われます。ただそこでも,協議というのが何を指しているのかということによるんですけれども,過半数さえ握っていれば,もうその人が考えることだけで全てを決めていける,この対象となる範囲,つまり過半数でいける分については,ですが。そういう規律を明確化すべきだということだとすると,他の人,過半数を握るに至らない人は分割請求でいくということで,分割でどんどん解消していくのが望ましいやり方なんだということになります。本当にそういうものを想定しているということであれば,それでいいようにも思われます。けれども,果たしてそう言っていいのかと,共有の一般の規律として,それでいいのかというのは,やはりためらわれると思っております。
○山野目部会長 今,沖野委員から明快な問題提起,問題整理を頂いたと感じます。
これを受けて,御意見がおありの方は,今このタイミングでおっしゃってください。それ以外の点でも結構です。いかがでしょうか。
お話をかなり明快にしていただいたと感じますけれども,御意見がないのは,しかし難しい問いであるということでしょうか。
○中田委員 思い付きなんですけれども,民法では,組合について,過半数決定と過半数同意とが区別された規律になっております。業務執行については670条で過半数決定で,組合代理については670条の2で過半数同意です。ただ,ここで過半数というのは,組合員の頭数の過半数であって,本日御提案いただいているのは,持分の価格に従った過半数ということですので,そこに組合とのずれが出ていると思います。
果たして,共有について,頭数ということではなくて,価格の過半数ということで,決定ではなくて同意でいい,協議なしでいいのかどうか。このようなことが,今の沖野委員の御提示された問題であるのかな,頭数ではなくて価格の過半数という点にも,検討すべき点があるのではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
組合の規律と共有の規律は,頭数でいくか,割合的な一種の投票を考えるかという差異があって,そのことに留意する必要があるけれども,人々が討議し合うという契機,議事が行われるという契機も,それとして重要であるというふうに考えて,共有者間で議事と議決が行われるべきだという発想でいくか,持分の大きさによっては議事は要らなくて,議決が行われればそれで足りると考えるかという問題が,なるほど難しい問題でありまして,1回の会議で皆さんが同じ意見になるということではないかもしれませんけれども,今後の事務当局の整理に反映してまいりますから,この段階でお考えがあったら承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。
○山田委員 これに限らず,一般的な話になってしまうのですが,集団的に利益が帰属する,あるいは法的な効果,負担も帰属するという場合に,多数決で決められることは,いろいろなところに幾つもあります。しかし,そのときには,少数の反対者が意に沿わない結果になってしまうということは仕方がないとして,多数決でやってよいというルールが各所にあるんだと思います。
しかし,そのときには,全部探せばいろいろなのがあるかもしれませんが,最近そういう議論をするときには,やはり少数の反対者に対しては,ちょっといい言葉があるかどうか分かりませんが,コミュニケーションを取りましょうということが話題になります。それは多分,事前事後だと思うんですね。あるいは一方でもいいのかもしれませんが。それが別の文脈で語られると,手続保障という話になるのかなと思います。
したがって,どうもこの8ページの2の3行,共有者全員での協議(話合い)を経ることを要しないことを明確にすることについて,どう考えるか。いいか悪いかと,何か二者択一を迫られているような感じがするんですが,どうもやはり,イエス・オア・ノーでは答えられないのではないんでしょうか。やはり方向としては,この補足説明の中にある,他の共有者の中に所在不明等が不明である者がいれば決められない。この隘路(あいろ)は,やはり今回,時間を掛けて検討するわけですから,そこは乗り越えるべきなんだと思うんですね。
だけれども,乗り越える方策として,協議,話合いを経ることを要しないとし,それを明確にするというのではないんだろうなと思います。何かもう少し,ちょっと事務当局には,頭で汗をかいてもらわないといけないのではないかなと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
よい言葉かどうか分かりませんが,とおっしゃっていただきましたが,やはりコミュニケーションという言葉が良い言葉であろうと感じます。手続保障は,ちょっと堅いですよね。
事前及び事後のコミュニケーションか,あるいは事前又は事後のコミュニケーションか,しかし,いずれにしてもそれらについて軽々しく扱うという感覚で議論をすることはできないという観点の御提示を山田委員から頂きましたし,それから沖野委員の御発言で,仮にそこのところを引き続き重く考えていくということであったとしても,所有者不明土地問題などとの関係における政策的な課題の克服は,次の3の問題のところについて,しっかりした規律を仕込めば,それとして克服していくという余地もあるものであるから,そこにも留意する必要があるという御指摘を頂いたところであります。
2のところについては,今日はこの辺りまでの御議論を頂いておいて,整理をさせていただくことでよろしゅうございましょうか。ありがとうございます。
それでは,ここで,少しお疲れかもしれませんから,休憩といたします。(休 憩)
「3 共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法」に対する意見
○山野目部会長 再開します。
部会資料3「共有制度の見直し(1)」の第1の3のところについての御意見を承ります。
○蓑毛幹事 第1の3のような同意取得の方法の制度を設けることについて,強く賛成します。
前回,メガ共有などというような言葉を申し上げましたが,所有者不明土地問題の本質は,所有者が分からないというだけではなくて,その後,調べた結果,非常に多数の共有者が存在することが判明する点にあります。このことは,実務的にも非常に問題になっております。
共有者が多数になっているために,共有物について関心がなく,管理方法について同意を求めようとしても,なかなか反応してくれない人が多いというケースもありますし,共有者の一部が所在不明,所有者不明の状況になっているものもあります。そういうことを踏まえますと,このような規律を設けることが適切だと思います。
ただし,1点,更に検討すべきだと思うことがあります。8ページの(注)に,「催告や公告についての公的機関の事前関与の要否につき」ということが書かれています。ここでいう公的機関の事前関与というのは,補足説明等を読む限り,催告や公告が適切になされているのか,また,そのことについて確答がされたのか,されていないかということを,公的機関で確認するという趣旨だと理解しました。
それを超えて,催告や公告の内容,どのような管理をするかという内容について,ある程度,裁判所等で審査をした方がいいのではないかという意見が日弁連内で出ています。
つまり,催告や公告をして,確答しない人については,権利保護というか手続保障はしているのだから,それでいいではないかという考え方がある一方で,特に変更又は処分について,潜在的には反対とか,変更又は処分によって不利益を被る人もいるということを考えると,催告や公告の内容に関し,必要性や相当性について裁判所で審査する,非訟手続になると思いますが,そのような手続を経た方がいいのではないかということについて,私自身はまだ今,確定的に見解を持っておりませんが,検討した方がいいのではないかと思っております。
管理行為については,そのような手続は要らないのではないかという考え方もありますが,管理行為についても,例えば,その管理の方法によっては,共有者に対して,一定額の管理費用を負担せよということになる,それが場合によると,金額が大きくなるということもありますので,管理行為についても,その必要性や相当性について,裁判所の許可を得るということを,今の時点でそうすべきだと申し上げるものではありませんが,検討した方がいいのではないかと思っています。
○山野目部会長 ありがとうございます。
3で提案していることについて,全般的な賛成を頂いたのと併せて,注記のところについて,更に考えてほしいという御意見,加えて,更にそれを発展させる形で,管理のことをおっしゃいました。
管理とおっしゃったのは,一般の言葉使いでいう共有物の管理のことだというふうに受け止めていいですよね。
○蓑毛幹事 この3の提案ですが,③は共有物の変更又は処分についての定めであり,④が,共有物の管理についての定めと理解しました。特に③については,必要性や相当性について,裁判所の許可を得ることを検討してはいかがと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
おっしゃっていただいたことは,今のようなことですから,ここの3にも関係があります。取り分け注記との関係で,関連があるというふうに感じます。
それとともに,ただいま12ページの4まで説明を差し上げたところですが,実は13ページから後で,管理権者を裁判所が選解任し,あるいは共有物について,その管理に係る必要な処分を命ずることができるという規律の提案も差し上げているところでありまして,これらの審議とも関連させながら御議論いただくべき事項について,今,問題提起を頂いたと感じます。
○今川委員 私も,先ほど蓑毛幹事がおっしゃったのと同意見です。同意取得の方法については賛成ですし,公的機関の関与は,やはり必要になってくると思います。
今,新しく規律を設けるわけですから,事後的に裁判所が最終的に判断する,紛争解決するというのではなくて,あらかじめ紛争を防止する仕組みが必要だと思いますし,管理の中にも一定の処分も入ってきますので,そういう場合には,やはり取引の安全の観点も必要だと思いますし,今,山野目先生がおっしゃったように,管理者の選任ということも絡んできますので,公的機関の関与は必要だと思っております。
それから,所在不明であるということの問題ですけれども,どういう作業をして所在不明とするのかというルールは,一定程度,はっきりさせておく必要があると思います。
我々実務家からしますと,特殊な場合は別として,所在を捜すというのは,そんなに苦痛ではないわけでして,例外はもちろんあるんですけれども,要はルールがきちんとしているかというところだろうと思います。
それから,催告,公告の方法ですけれども,登記簿上の名義人に対して,あるいは登記簿上の住所地に通知をするという選択肢も提示されておりますが,登記の重要性,それから登記情報を最新の情報に更新することの重要性を認識するという意味では,一つの方法だろうというふうには思います。
それから,将来において,戸籍情報や住民情報,住所情報と登記情報との連携が図られて,もしも職権で変更登記が入るというようになれば,それは当然にそうなるんであろうと思います。
ただ,一方で,今回,デジタル手続法案において,住民基本台帳法の一部改正の一環として,政令改正になると思うんですけれども,住民票の除票の保存期間を現行の5年から150年に延ばすということで,所有者の所在の探索に,かなり利便性が向上すると,こういう環境も整うわけですので,登記簿上の名義人でよしとするか,一定のルールを定めて,所在を探索するかどうかというところは,これから検討はしていくべきだと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ただいま衆議院の内閣委員会で審議されている途上の住民票の除票の扱いに関わる制度改革をにらんだ御指摘も頂きました。
蓑毛幹事から問題提起を頂いた8ページの3の注記のところでございますけれども,ここに注記を添えて問題提起を差し上げている趣旨は,ひとまず最小限は,この催告や公告などの手順が,何といったらいいでしょうか,最小限形式的な手順で,きちんと行われたかという事実の確認が必要だけれども,それですらあっても,単に私人が動いてやりましたというだけではなく,公的機関が関与した方がよいのではないかという意味合いを,少なくとも込めて差し上げています。
蓑毛幹事からは,更に発展させ,その催告や公告をその状況,あるいは時宜においてすることの適切性というような実質的判断も,場合によっては,してもらった方がよいという仕組み方もあるではないかというお話も頂いたところで,そちらの後ろの方のお話は,御案内差し上げたように,この後に,まだ説明を差し上げていない部分と関連させて議論していただく必要があります。
単なる事実の形式的確認であるならば,必ず裁判所にしてもらわなければいけないということでもないであろうと感じます。一種の公証事務であるということになりますから。その辺のところについては,この部会資料として,何か特段の方向を前提としてお願いしているものではなくて,皆様方に御議論いただきたいと望みます。議論をオープンにしておきたいという気持ちから,3のところの注記は差し当たり,裁判所ではなく,公的機関というふうに記しております。
13ページから後の話も関係ありますよ,というふうに,私,先ほど申し上げてしまいましたけれども,もう少し精密に言うと,その辺のところを見極めながら,御議論なさっていただく必要もあるであろうと感じます。
○道垣内委員 後ろに関係するので,今発言すべきかどうか分からないんですが,公的機関の関与について,一言だけ申し上げます。
結論的に,どういうふうな法制度がいいというふうな,何か強い意見があるわけではないのですけれども,信託法を比較して少しお話ししたいと思います。大正時代にできました信託法におきましては,受託者が悩む場面においては,裁判所にいろいろ相談できる,指示を仰ぐことができる,というシステムになっていたわけです。それは,英米の信託法がそうなっているから,そうなっていたわけですが,それでも英米信託法と比較しますと,ごくわずかであり,平成19年に新信託法を作るというときに,裁判所にどんどん相談をしていく,これは権限ないかどうかというのをあらかじめ聞けるようにしようとか,いろいろ意見は出ました。しかし,裁判所から大反対が起きまして,どういったことを受託者がやれば,より適切に受益者が保護できるかなんていうことが,裁判所に,その都度その都度判断できるわけないではないかと主張されたのですね。私は,もっともな反論だと思っておりますが,そういった反対もあり,現行の信託法は,裁判所があらかじめ,事前の段階でいろいろなチェックを入れて,こうやったらいいのではないのというふうなことに対して,お墨付きを与えるという制度は原則的には存在しないこととなりました。
これについて,もちろん,それは不適切な立法だったという評価も十分あろうと思います。しかし,日本の法制度において,一つのコンシステンシーが必要であると考えたときに,信託法においては,個々具体的に何をすべきであるというふうな判断というのが,裁判所に委ねることはおよそ不可能であるという判断がなされ,他方で,共有のときには,裁判所にやってもらうといいのではないというふうに言って,みんな,そうだそうだというふうに言うのは,私は若干,どこかにおかしいところがあるのではないかという気がいたします。それでもそれを乗り越えてやろうというならば,もちろんそれで結構なのでして,したがって,私は結論として,何かを主張するわけではないというふうに申しましたが,日本法の中での,そういう一貫性,統一性というものも考慮に入れて,御議論いただければと,いただいた方がいいのではないかというふうに思います。
○山野目部会長 よく分かりました。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
この部会資料3の第1の3「共有物の管理に関する行為についての同意取得の方法」につきましては,既に蓑毛幹事,それから岡田委員の方から御発言ございましたが,私も全面的に賛成したいと思います。
その上で,細かな点を3点ほど確認したいんですが,一つは,今回,意思表明をしない共有者とか,所在が不明な共有者の意見を考慮に入れなくてよい理由です。それを正当化する理由として,部会資料3の9ページの(2),(3)に書いていただいていることは,きちんと整理していただきたいというふうに思っております。つまりそういうふうに,共有持分権の効力を制限してよい理由が,(2)の方には,意思表明をしなかったり,不明な共有者の合理的意思に反するとは言えないのではないかということが書かれていて,(3)の方では,さらに,これらの者の権利を制約しないと共有物の利用が阻害されることから,それを防止する観点であることが記されています。
特に(3)は,やはり非常に重要な点なので,こういう形で共有持分権の効力を制約する根拠は何かということについては,きちんとその理由を整理して確認しておくことが肝要であろうと思いました。
その上で,細かな要件に関しての確認なんですが,部会資料3の8ページの3の②の中で,「他の共有者の所在が不明であること」という部分があるんですけれども,この中には,所在不明のほかに,そもそも共有者が誰か分からないという場面,例えば,共有者の1人について相続等が生じていて,共有者が分からないという場面も含まれるのかどうかということについて,要件を確認させていただきたいと思います。
後ほど,共有物自体が相続の対象財産だと,遺産共有ということは出てきますけれども,共有者の1人について,相続等が生じていて現在誰が共有者であるのか不明な場合は,ここに含めていいのかどうかということであります。
それから,もう1点は,先ほど岡田委員から発言がございましたけれども,確認の手続で,登記簿上の住所に催告等の書面を送付すればよいということですけれども,共有者の全部又は一部が不明の場合に,所有権あるいは共有持分権の効力を制約する類似の例として,土地収用法の場合の不明採決の場合がございます。この場合には,過失なくして知ることができないという要件があります。また,昨年成立しました所有者不明土地利用円滑化法の中では,特定所有者不明土地ということを判断するときに,相当な努力をしても分からないという規定を法律に置き,その意味については,非常に詳細な政省令,ガイドラインが出ておりますので,そういう場合とのバランスをも考慮した上で,この手続上の緩和ということが問題ないかということを確認したいと思いました。
不明所有者の探索のために過大な負担を課すと,やはり本末転倒になってしまいますので,そこはバランスを確認した上で,客観的に明確な,ここまで確認しておけばいいですよというルールにすべきではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございました。
松尾幹事から多岐にわたる御意見を頂きましたから,それらを踏まえ今後の整理を進めたいと考えます。
最後の方でおっしゃった,このゴシックで示してある文章の共有者の所在が不明であるということの意味は,御指摘等も踏まえて,これから更に深めていこうと考えます。恐らく,もちろん御指摘があった土地収用法の不明採決の局面であるとか,昨年成立した所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法などの,この局面を扱う規律の先輩に当たるところがありますけれども,どちらかというと,あの系統の法制を参考にしたというよりは,これは民事法上設けようとしている規律でございますから,不動産登記法の70条が,現在既に,登記義務者の所在が明らかでないという概念を用いており,あれと同じ発想で,ここに規律表現のサンプルをお出ししているものであろうと理解します。
そうであるとすると,所在が分からない場合のみではなく,一種のもちろん解釈から,所有者そのものが分からない場合も含まれると考えられますし,70条の運用の中で積み上げられてきたところを参考にしながら,過失なくして,というふうに正面から書くということにするかどうかを考え込みつつ立案をすることになりますが,仮に書き込まなかったとしても,もちろんその辺のところは運用の中で考慮されていくということになると想像されます。
今,松尾幹事から御指摘いただいたようなことに注意をしながら,今後,この種類の制度を採用するときの規律表現を考え込んでまいりたいと考えます。ありがとうございます。
○佐久間幹事 今話題になっていることとちょっとずれるんですけれども,3の特に①に関しまして,先ほどの2と組み合わせるようなことは考えられないのかということを,ちょっと伺いたいところがございます。
それは,今3で話題になっているというか,焦点が当たっているのは,過半数を得たい,あるいは全員同意を得たいときに,不明の方がいる,あるいは答えない人がいるということで,その人たちを除いて過半数に,あるいは全員同意にするための手続ですよね。
ただ,例えば,2の場合,先ほど沖野委員が言われたことが気になっておりまして,共有者の1人が持分の上では過半数を握っていると。ただ,その場合も,1人では決定できないのではないかというふうなお話がありましたよね。私はできていいのではないかと思っておるんですけれども,ただ,そのときに,私自身が先に申し上げましたことでいうと,他の共有者について,自分の権利が知らないうちに動いてしまっているということはいいんだろうかと,先ほど申し上げたつもりなんですね。
これを前提といたしますと,例えば過半数を持っている人,あるいは,何人か合わせて過半数を超えている人たちが,過半数でもって決することができる事柄について決定したいというときに,何をもって決定することができ,その決定はどの時点から効力を生ずるのかということを考えた場合,まず,過半数で内部的には決めました,あるいは一人でどうするか決心したとします。そこで決められたことについては,他の人たちが幾ら反対したって,少数なのですから,どうしようもない。ただ,そのようなときであっても,過半数で決めることについては,①の相当な期間を定めて,他の共有者に,管理に関する行為について承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることは必要である。催告をして,承諾を得られたならいいんですが,承諾しないというのであっても,結局それでもって,過半数の決定というのはプロセスとして終わりました,その返事をもって効力を生じました。返事が来なければ,相当の期間を経過することによって,同じく決定,法的に効力を生ずる決定となりました。3の提案は,こういうふうにも使えるのではないかと思いました。
3そのものについては,全体としては賛成ですが,それと違う用い方をすることは,排除されているのかどうかということをちょっと伺いたいということです。同意を調達するために,要件を満たすためにしかこれは使えないのか,ほかの使い方もあるのかということです。
○山野目部会長 お尋ねの仕方で,今御発言を頂きましたけれども,2と3の関係に関し,御指摘を頂いた2の問題を解決するために3の発想を,言わば移入して問題解決をしていくということは考えられているかということについて,法務省事務当局において,特段の前提とか,何か御案内したいという強いものを持っているものではなく,むしろ今,佐久間幹事に御提案いただいた発想をヒントとして受け止め,今後の議事の整理をしていくということになるものであろうと考えます。
あわせて,佐久間幹事に御礼を申し上げるとすれば,つまり,先ほどの2のところは,確かに山田委員に明快に整理していただいたように,コミュニケーションは要るか要らないかというふうに,大上段に短兵急に聞かれれば,なかなか要らないと,そんなものは蹴飛ばしてしまえとは,なかなか言いにくいですが,反面,実務なり事業の現場で,様々な悩みを抱えている方々から見れば,コミュニケーションは必ず要る,なおかつ,そのコミュニケーションは必ず重いものですというふうにされたのでは,この2のところの論点が重くなり過ぎて,お話が非常に進みにくいという問題にぶつかります。
理論的にこう考えられるという側面と,政策的な実効性の確保という面の両方を見て,非常に悩ましい状況になりますけれども,その隘路を打開していく際の一つの,唯一の方途ではないかもしれませんけれども,ありうるアイデアとして,2で考えられているコミュニケーションというものは,それとして重要であるが,しかし,そのコミュニケーションを確保するための様々な工夫として,3で御提示申し上げているようなものも今後組み込んでいくというようなことは考えられてよいという,佐久間幹事から今頂いたヒントは貴重なものでありますから,それも踏まえ,今後,事務当局において議事を整理することにさせていただきます。
佐久間幹事,ひとまずそのようなことでよろしゅうございましょうか。ありがとうございます。
引き続き,いかがでしょうか。
○岡田委員 実務の観点からということで申し上げさせていただきますと,本日の前段の前半の議論にありました土地の所有権の放棄の要件のところで,隣接地との境界が特定されという要件が一つ,案として挙がっておりますけれども,このような場面におきましても,実際,隣接地の方と境界がはっきり決まらなくて,処分を諦めるというような場面もたくさんございます。実際にございます。そのような意味からも,このような方策が準備されることは,とても必要な措置だろうというふうには感じております。
境界の安定は,私どもにとってみれば,安心の根本というふうに考えて,日々業務をしておりますし,そのような観点からも,隣接地の,隣接の方の境界を確認するという行為が,このような形で,今現在は全員の同意をもらってきなさいというような場面もあったりもするので,是非こういう措置は必要ではないかなというふうにも感じております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ここでの議論に,もちろん関係することでありますが,改めて相隣関係を議論するときに,今の岡田委員がおっしゃっていただいた観点を再度強調して,御指摘いただければ有り難いです。
引き続き,3のところについて,いかがでしょうか。
ひとまずよろしいですか。
○山田委員 質問です。どこかに書いてあるかもしれませんが,申し訳ありません,見付かりませんでした。
この3のところで,公告が出てきます。公告の方法としては,どんなことを具体的に考えていらっしゃるのか。今の段階で結構ですので,事務局のお持ちのものを御説明いただけませんでしょうか。
○脇村関係官 今のところは,幅広く考えてはいまして,新聞なりインターネット,いろいろ考えているところなんですけれども,恐らく,公的機関が入るかどうかによっても変わってくるのかなという気がしておりますので,もし公的機関は入らずに,民間でやるんでしたら,新聞とかそういう普通の,会社とかでされているケースになると思いますが,ちょっとそこは併せて検討したいと思っていますが,どうしたらいい,先生,何か御意見いただければ。
○山田委員 いわゆる官報,日刊新聞,電子公告という,それですか。
○脇村関係官 そうですね,はい。ただ,公的機関を関与させるかかどうかで大分変わってくると思いますので,それも含めて検討させていただきたいというふうに思っております。
○山田委員 分かりました。
○山野目部会長 よろしいですか。
したがいまして,公的機関を関与させることにするかどうかという注記のところが,小さな文字で書いてありますけれども,この制度のイメージを作っていく上では重要な論点であって,引き続き検討しなければならないと感じます。
この3のところ,大変難しい議論ですが,今日の段階で御意見を承っておくことを頂いた上で,検討を続けようと考えますから,更なる御発言を頂きます。いかがでしょうか。
よろしいでしょうか。今まで御指摘いただいたところを踏まえて,では検討させていただきます。
続きまして,12ページの4のところ,共有物の管理に関する行為と損害の発生のところについて,御意見をお願いいたします。いかがでしょうか。
○脇村関係官 少し,資料作成の意図を少しだけ説明させていただきたいと思っていますが,先ほど蓑毛先生から,3の催告,公告の内容について,審査した方がいいのではないかという御意見を頂いたのとも関連するんですけれども,この4について,あえてこういった損害の填補に関する提案させていただいたかといいますと,公告を使ったケースについて,内容それ自体に,事前事後,特に事前に介入するのは難しいかもしれないけれども,他方で,それによってむちゃくちゃなことをされたケースについては,きちんと損害を填補するということが重要ではないかというふうに思っておりまして,この4につきましては,今でもある問題ですが,特にこの3についてのような,催告なり公告の手続を入れる場合には,重要な規律になってくるのではないかというふうに考えているところでございます。
○蓑毛幹事 今,脇村さんからありましたので,私自身の意見を申し上げると,強く裁判所の許可の制度を作ってくれと申し上げているつもりはありませんので,ちょっとその点だけ補足しておきます。
そういうことも含めて,その先にある共有物の管理者のところもそうですし,例えば,その後の最後のところの売渡し請求のところの金額の妥当性のところであるとか,様々なところでいろいろな問題が出てきますので,そういったところについて,これは要るのではないか,要らないのではないかということをもう少し問題提起をした上で,皆で議論した上でということですので,現時点で私が,先ほどの3のところについて,全てのケースについて,裁判所の許可を求めるべきだと申し上げているつもりは全くありませんので,ちょっとその点を少し補足で申し上げておきます。
○山野目部会長 蓑毛幹事の御意見は,大変よく理解することができました。ありがとうございます。「4 共有物の管理に関する行為と損害の発生」に対する意見
ほかにいかがでしょうか。4のところでございます。
○道垣内委員 よく分からないのですが,これ,誰が損害を填補するのですか。決定者ですか。決定に問題があったという場合にでしょうか。また,決定と因果関係がある場合なのでしょうか。私はシチュエーションがよく分からないままなのですが。
○脇村関係官 すみません,そこがなかなかあれなんですけれども,先生がおっしゃっているとおり,当該行為をした共有者と同意をしている共有者が,ずれるケースがあろうかと思います。そういった意味で,どちらにもなのか,あるいは行為をした人だけなのかというのがあれなんですが,一応合意をしている以上は,責任を負うのかなという気もするんですが,すみません,是非御意見いただければというふうに思っています。
○道垣内委員 いや,何というか,それは,例えば共有物の管理のときの善管注意義務違反なのでしょうか。つまり,例えば,1人だけ行方不明の人がいるから,その人については催告で同意を調達したとして,だけれども,そのときのその判断においては,善良な管理者の注意に反することはないとしても,責任を負うのでしょうか。行方不明のその人を抜きにしてやったということが根拠になってでしょうか。
何に基づいて責任を負っているのか,私にはよく分からないままなんですが。
○山野目部会長 恐らくこの部会資料作成の意図は,先ほどの別な議題のときに出ましたように,法制審議会は別に法律の解釈について意見を述べる場所ではありませんから,放っておいても民法709条の要件が全て主張立証がかなうときに,立証した被害者が当該要件を充足した加害者に対して損害賠償請求をすることができることは当然でありまして,そのことをわざわざ規律表現として設けるとか,ここで御審議をお願いするとかいう必要はありません。
709条ではカバーできないような局面があり,それが,この前の1から3までの規律を設けたことによって生ずるとすれば,そのことについての付随的な法制上の措置として,必ずしも民法709条の要件を充足していなくても,金銭による補償といったらいいか賠償といっていいか悩む部分があるものですから,補填という言葉を用いていますけれども,そのようなことができるということを,もちろん解釈の提案ではなく,法制上の規律として,こういうものがあり得るのではないかということで,問題提起を差し上げています。
御案内はそこまでであって,そこから先のものを,何か事務当局として深く考え込んでお出ししているものではありませんから,委員,幹事におかれまして,そのようなきっかけでの議論ならば,こういう面でのこういうことは考える必要があるというような御示唆を多く頂くことがかなえば,これをまた事務当局で受け止め,整理してまいるということになりますから,何とぞお知恵を頂きたいというふうにお願いする次第でございます。
○道垣内委員 それでは,質問しないで意見を述べますが,帰責根拠が不明であり,置くことに反対します。
○大谷幹事 すみません,こちら,ここの部分が,やや分かりにくいところがあったかと思いますけれども,この部会に先立つ研究会の議論では,こういう形で催告をしたけれども答えなかったという人は,例えば不法行為的なことをされることについてまで同意をしたということになりませんかねという議論が元々あって,不法行為責任を問うことができないわけではありませんよということを確認した方がいいのではないかという議論が確かあったように思います。
道垣内委員の御意見を頂ければと思うんですが,不法行為責任を,これは問わないという意味ではありませんということ,それは当然だということでは,規律を置く必要はないということになるんでしょうし,そこのところがはっきりしないのであれば,明確にするということもあり得るということなのか,いかがでしょうかね。
○道垣内委員 すみません,よろしいですか。
そうすると,書き方として,いろいろあり得るわけでありまして,つまり,1又は3の検討中の規律に従って,同意をするということは,当該行為の責任の免責の意思を含まないという書き方をするというのが一つであるのかなあ,いやおかしいな,やはり,提案者は,提案による責任なのですかね。いや,行為による責任なのですかね。
いずれにせよ,大谷さんがおっしゃったことは分かるんですが,4のような書き方にはならないのではないかなという気がいたします。申し訳ございません。
○中田委員 今の大谷幹事の御説明で分からなくなってしまったんですけれども,3の③の規律は,催告又は公告をした共有者は,確答していない共有者以外の共有者全員の同意を得てとなっていますよね。確答しなかった人は,同意したとみなされるのか,それとも全体の中から排除されるのかというのは,私は,むしろ全体から排除されるのかなというふうに理解していたんですが,そういう理解ではないんですか。
○大谷幹事 その御理解自体は,そのとおりでございます。排除されるということでございます。
○中田委員 それはそれでいいんですね。
○大谷幹事 はい。
○中田委員 そうすると,明示的な同意をした人と,全体から排除された人と2段階あるわけですね。そのうち,明示的に同意をした人が責任を負うことになるとすると,その根拠は何かということが余りはっきりしないというのが道垣内委員の御指摘で,会社法において,決議に賛成した役員の責任というのもあるわけですが,それと同じようなものなのか違うのかとか,やはり誰が誰に対して,なぜ請求できるのかということを整理していただくとよろしいのではないかと思います。
○脇村関係官 元々の議論というか,想定していましたのは,この共有者はそれぞれ,持分に応じて利用する権利を有しておりますので,その定め方によって,ある1人が,全く使えないですとか,そういったときに,何らかのそういう権利侵害的なものが発生したときについては,何らかのそういう責任を追及できてもいいのではないかということを考えておりました。
それはある意味,共有者間での権利侵害してはいけないという義務的な発想,共有者の持分をきちんと尊重しないといけないというか,そういったことの裏返しなのかもしれないなと思っていますが,それとの関係で,権利侵害について,何からの手当てをしないといけないかというのが,最初思っていたところです。
先ほど,その続きの話として,では権利侵害をしたとき,あるいは権利を尊重しないといけないということを尊重しなかったことについて,誰が責任を負うのかというのは,2通りあるのではないかと思っていまして,積極的に同意をして,そういった,ある意味権利侵害するような定めをして利用させたこと自体に求めるのか,やはり利用したこと,実際に利用していたとか,そういったことに求めるのか。その辺りはまだ,どうしていいのかがよく分からないところもあり,それは恐らく,そもそもそういう権利を侵害されたケースについて,どういった理由で責任を負うのかが,検討が不十分だったせいなんだろうと思いますので,また改めて検討していきたいと思っているところでございます。
○道垣内委員 もう1点だけ言わせてください。
その大前提として,現存してというか,何といいますか,アクチュアルにというか,現実に同意をした人というのは,その結果として,自分が不利益を被っても,損害賠償請求権を有しないのではないかということがあるような気がするのですが,そこも本当にそうなのかという疑問も生じるのですね。
よく企業などで契約に基づいて一定の行為義務を負うというときについて,こんなことやっては駄目なのではないかと指摘しますと,いや,顧客の同意を取っていますから大丈夫なのです,と答えてくださいます。しかし,消費者,顧客が,そのような変更ないしは行為によって,どのような不利益を被るのかということが十分に理解できていないときに,いくら同意があるからといって,そのような不利益が生じることにつき悪意または有過失の大企業の方が,そういった変更ないし行為を提案して,それで同意を取りましたから責任ありませんと言われますと,そうはならないでしょうと,私はよく思うのです。
そうすると,共有の場面においても,提案をして,同意があったら,同意をした人は必ず責任は問えなくなるのかというと,それはそうではないわけであって,そこのところも考えないと,このようなみなし同意か,中田さんの話では,排除であるという話だったんですが,そういう人について,その人は責任を追及できますよというふうな規律を置くことの意味が変わってまいります。その点も気になるということを申し上げておきたいと思います。
○蓑毛幹事 何か具体的な事例を想定しておっしゃっていただいた方が,分かりやすいのかなと思いました。
例えば,非常に価値のある土地があって,それが5人の共有になっています。そして,それを貸せば,年間1,000万円の賃料が得られる土地でした。ところが,共有者の1人が自分の近しい人に,ただ同然の金額で,この制度を使って貸してしまった。後になってから,所在不明だった人が現れて,本来は年間1,000万円取れるのだから,その5分の1の200万円分,自分が損害を被ったと主張した。例えばこういったようなケースですかね。
このケースで,そもそも所在不明だった人に200万円の損害があったと言えるのか,それを誰に請求できるのか,そのような管理をやろうと言った人が悪いのか,貸してもいいよと言って,明示で同意した人も責任を負うのか,そういった議論でしょうか。
例えば会社の取締役であれば,取締役の善管注意義務があるので,株主に対して責任を負うことはありますが,共有者にはどのような義務があるのでしょうか。共有者が管理方法について明示の同意をしたら,損害賠償請求を負うのか。なかなか難しい問題があると思います。あるいは,主体的に自分の近しい人に貸すということを言い出した人には責任があるのか,しかし言い出したということの法的な意味は何なのか。
この辺り,一体,何が損害なのか,何に基づいて共有者が責任を負うのかということは,もう少し具体的な事例を,ちょっと今思い付きで事例を申し上げましたけれども,そういったことを整理して議論した方がいいと思いました。感想だけですけれども。
○山野目部会長 ありがとうございます。
いえ,感想に尽きる話ではなく,正に民法の先生方から御指摘を頂きましたし,蓑毛幹事からは,具体的な局面として検討すべきものの一つの例を挙げていただきました。
御指摘よく分かりましたから,4のところは事務当局において,直ちに没にするという話にはならないかもしれませんけれども,皆様方に具体的に議論いただける局面を,次の議論の機会に部会資料において提示をさしあげ,それで御議論を引き続きお願いしたいと考えます。
4のところ,このようなことでよろしゅうございましょうか,今日のところは。
○山田委員 もう一度検討してくるとおっしゃったので,それで結構です。楽しみにしています。
○山野目部会長 分かりました。
今おっしゃっていただいた感触も,事務当局の方で受け止めてもらうことにいたします。ありがとうございました。それでは次に,部会資料の13ページから後ろに即して,第1の残余の部分についての資料説明を差し上げます。
○脇村関係官 では,御説明させていただきます。
5から7までは,共有者の,共有物の管理者について取り上げております。5 共有物の管理者の選任等
5 共有物の管理者の選任等
(1) 管理者の選任義務等
共有物を管理する者(以下「管理者」という。)の選任義務等に関する次の各案について,どのように考えるか。
【甲案】
① 共有者は,共有物の管理者を選任しなければならない。
② 共有物に管理者がないときは,裁判所は,申立てにより,共有物の管理者を選任することができる。
【乙案】
① 不動産の共有者は,不動産の管理者を選任しなければならない。
② 不動産が共有物である場合において,不動産に管理者がないときは,裁判所は,申立てにより,不動産の管理者を選任することができる。
③ 共有者(不動産の共有者は除く。)は,共有物の管理者を選任することができる。
【丙案】
① 共有者は,共有物の管理者を選任することができる。(2) 共有者による管理者の選任の要件
共有者による管理者の選任の要件に関し,次の規律を設けることで,どうか。
① 共有者による管理者の選任は,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する。
② ①の選任については,共有物の管理に関する行為(変更又は処分以外の管理に関する事項)についての同意取得の方法(第1の3参照)と同様の制度を置くものとする。(3) 裁判所による選任の要件等
ア 第三者の申立てによる選任
前記(1)の論点(管理者の選任義務等)につき【甲案】又は【乙案】を採用する場合に,第三者の申立てによる選任に関する次の各案について,どのように考えるか。
【甲案】管理者が選任されていなければ,裁判所は,利害関係を有する第三者の申立てにより,管理者を選任することができるものとする。
【乙案】管理者が選任されていないことのほかに,例えば,次の各事情があれば,裁判所は,利害関係を有する第三者の申立てにより,管理者を選任することができるものとする。
① 共有者の数が多数にのぼること
② 共有者の中に所在等が不明な者があること
③ 共有物が管理されておらず,害悪等が発生していること
(注1)利害関係については,共有者に対し共有物に関する権利を有するなど法律上の利害関係を有する場合に限らず,当該共有物の購入を希望しているなどの事実上の利害関係を有する場合にも認めるのかについても,併せて検討する。
(注2)管理者の選任をする際には,共有者に管理者選任の催告をするなどして,管理者を選任する機会を付与するかどうかについても,併せて検討する。
イ 共有者の申立てによる選任
前記(1)の論点(管理者の選任義務等)につき【甲案】又は【乙案】を採用する場合に,裁判所による管理者の選任の申立権を共有者に認めることについて,どのように考えるか。
(注)共有者の申立てによる選任の要件についても検討する。5では,選任について取り上げており,(1)では,共有物を適切に管理したり,第三者に対する便宜を図る観点から,管理者の選任を義務とすることや裁判所による選任について取り上げております。
(2)では,共有者による管理者の選任の要件を取り上げております。
(3)では,裁判所による選任の要件等を取り上げており,特に,この裁判所の介入をどのような場合に認めるか,御検討いただければ幸いです。
(4)では,共有者による申立てによる選任を取り上げておりますが,その要件と併せて御検討いただければと思います。6 共有物の管理者の権限等
6 共有物の管理者の権限等
(1) 管理者の権限
管理者の権限に関し,次の規律を設けることで,どうか。
① 管理者は,総共有者のために,共有物に関する行為をすることができるものとする。ただし,共有物の変更又は処分をするには,共有者全員の同意を得なければならないものとする。
② 前記①ただし書の同意(共有者が共有持分を喪失する行為についての同意を除く。)については,共有物に関する行為についての同意取得の方法(第1の3参照)と同様の制度を置くものとする。
③ 共有者の持分の価格の過半数の決定で,管理者の権限を制限することができるものとする。
(注1)裁判所が,共有者全員の同意に代わる許可の裁判をした場合には,管理者は,共有物の変更又は処分をすることができるものとすることについては,引き続き検討する。
(注2)共有持分を喪失する行為についての同意取得の方法に関しては,後記第3の1(通常の共有における不明共有者の持分の売渡請求権等)において別途検討している。
(注3)裁判所が選任した管理者に関し,裁判所が管理者の権限を制限することができるものとすることについては,裁判所による選任を認めることと併せて引き続き検討する。(2) 管理者の義務
管理者は,善良な管理者の注意をもって,事務を処理する義務を負うものとする。(3) 報酬
① 共有者に選任された共有物の管理者は,特約がなければ,共有者に対して報酬を請求することができないものとする。
② 裁判所に選任された共有物の管理者については,裁判所は,共有者に対し,管理者に対する相当な報酬の支払を命ずることができるものとする。6では,管理者の権限や義務,報酬について取り上げており,権限については,(注)にもありますが,裁判所が共有者全員の同意に代わる許可の裁判をすることや,共有持分喪失行為についての同意取得の方法など,併せて御検討いただければというふうに存じます。
7 管理者につき他に検討すべき事項
7 管理者につき他に検討すべき事項
共有物の管理者につき,他に検討すべき事項について,どのように考えるか。7では,他に検討すべきということで,いろいろ書かせていただいておりますが,共有者以外の第三者を選任することができるのかといった管理者の資格や管理者の任期,管理者を置くことができる共有物を不動産に限定することや,辞任・解任,不動産に関して管理者を選任したことを不動産登記における登記事項とするのかや,管理者の法的性格などについて検討することが考えられるところでございます。
8 裁判所による必要な処分
8 裁判所による必要な処分
裁判所が,共有物の管理に関し,必要な処分を命ずることができるものとすることについて,どのように考えるか。8につきましては,裁判所に必要な処分について取り上げております。今後検討がされる予定である不在者財産管理又は相続財産管理人が問題となる場面では,財産管理人の選任のほかに,裁判所が他の必要な処分を命ずることができるのかについて検討することを予定しており,共有物の管理においても同様に検討すると考えられますので,御意見いただければというふうに思います。
「5 共有物の管理者の選任等」に関する意見
○山野目部会長 ただいま説明を差し上げた中で,第1の5,共有物の管理者の選任等の部分について,まず御意見を承ります。
○蓑毛幹事 共有物につきまして,以前から申し上げているとおり,極めて多数の共有者がいたり,所在不明の者がいたりする場合があります。このようなことを踏まえますと,共有物の管理者を選任して,適切に管理する仕組みを作ることは有益だと思いますので,この制度の創設に賛成します。
ただし,その先の議論,部会資料でもこの後にいろいろと書かれていますが,共有物の管理者がどのような権限を有し,どのような義務を負うかということについては,非常に難しい問題がありますので,共有物の管理者の制度を設けることを前提として,更に議論を深めるべきだと思います。
この5の提案について意見を述べますと,まず,共有者の管理者をどのようなときに選任することができるか,あるいは選任しなければならないかということについて,甲案は,全ての共有物について共有者は管理者を選任する義務を負う,乙案は,共有不動産について共有者は管理者を選任する義務を負うとなっている。丙案は,共有者は共有物の管理者を選任することができるとなっていて,義務ではないと,こういう立て付けになっていると理解しました。
この点に関しては,不動産に限るとしても,共有者は常に管理者を選任しなければならないとするのは無理があると思います。そこで,丙案に賛成します。
(3)の第三者の申立てによる選任ですが,これは,私ども弁護士が持っている問題意識を酌んでいただいたと思うのですが,例えば乙案のように,一定の要件を満たしたとき,すなわち共有者の数が多数に上る,共有者の中に所在等が不明な者がある,共有物が管理されておらず,害悪等が発生しているというときに,このような状況で,所在不明の者も含めて全ての共有者を相手にするのは非常に大変です。今回の配布資料にはありませんが,訴訟も含めて,そのような者を相手にするときには,実務的な観点からは,共有物に管理者を置いた上で,その管理者を相手に交渉したり訴訟を起こしたりできるようにすることは,非常に有益だと思います。そういう意味で,少なくとも一定の要件を満たしたときには,第三者の申立てにより,管理者を選任するということがよろしいのではないかと思います。
一方,今回の事務局の提案は,今私が申し上げたことと整合しないものになっていまして,甲案か乙案を前提とした場合に,第三者は裁判所に選任の申立てができるとなっています。ここを何とか解決できないかと思っております。
恐らく事務局で作成された意図としては,共有者が管理者を選任する義務があるからこそ,第三者は,管理者選任の申立てができるのであって,共有者に義務がない場合にまで,第三者が管理者の選任を申し立てることはできないという前提に立たれているのではないかと理解しました。そこを,何とかなりませんかねというところです。
具体的には,5の(1)で,丙案,つまり共有者は共有物の管理者の選任をすることができるということをベースとしつつ,(3)のアの乙案のように,一定の要件を満たす場合には,共有者は管理者を選任する義務があるという立て付けにした上で,そのような場合には,第三者も裁判所に選任の申立てができるというふうにしてはいかがというふうに思っております。
○山野目部会長 純粋な丙案は,多分今でも解釈上できますね。しかし今,蓑毛幹事から,純粋な丙案に加え,更に内容を豊かなものにして,それと第三者申立てとの関係についても,発展的に議論してほしいという御提案がありました。ありがとうございます。
○道垣内委員 また,日本法全休の話とのバランスの話なのですが,(1)の甲案,乙案というのは,突出しているのではないかと思います。また,(3)の裁判所への選任を求め得るというのも,日本法上,突出しているのではないかという気がします。
私は覚えていることが少ないので,覚えている範囲で信託法の話をしますと,信託において複数の受益者がいるという場合には,受益者の同意を得たりするのが面倒なんですね。また,複数の受益者みんなが信託の管理に関心を持っているわけではありません。そこで,信託法は,信託を設定する際に,受益者の保護のために受益者代理人を定めることができるという話になっています。しかし,定めなければならないということにはなっていません。
そして,定めなければならないという発想というのは,実は,相手にする人に有利に,あるいは,便利になるようにしようという発想なのですが,少なくとも,信託法では,建前上,そういう発想は採られていない。しかしながら,それに対して,信託行為,つまり信託契約を作るのは,みんな信託銀行であり,受託者としては,1人を相手にすると簡単だから,受益者代理人を信託行為で,自らが受託者になる信託行為で定めてしまおうとする。だから結局,信託法の建前としては,複数受益者の利益のための代理人だと書いてあるけれども,これは実は受託者の便宜のための制度になってしまっていて,建前の説明とずれているという批判もあります。強く批判されているのは佐久間さんですので,後で御意見を伺えればと思いますけれども,そして,その佐久間さんのおっしゃっていることの方が,実は本音だというふうにいうと,本件は非常に日本法上,一貫性を持った提案になっているんですね。でもそれは,言ってはいけない本音のはずです。受益者の便宜のためにこそ,受益者代理人がいるわけであって,だからこそ受益者代理人を置かなければならないのではなく,置けるという話になっているのではないかと思います。
関連しないかもしれませんが,若干続けて言いますと,複数の人がいるときに,全員一致が建前のときには代表を定めなければならないということには日本法上の原則としてはなっていません。例えば複数後見人,複数成年後見人の場合であっても,2人ともオーケーといった場合にだけ行為をするのが慎重でいいという考え方で後見人が複数にされている場合もあるわけです。それが合手的行動義務と呼ばれるものであり,慎重に,かつ,相互監視をしながら事務をすすめていくということですね。権利者がたくさんいるときに便利なように,意思決定を単純にすればいいのだという仕組みにも,日本法全体としてはなっていないと思うのです。
3番目といたしまして,実は管理者の権限というところに関連して,18ページの上から3行目ぐらいの③ですかね,4行目ですね。そこに,共有者の持分の価格の過半数の決定で管理者の権限を制限することができるものとすると書いてあるのですが,これがまたよく分かりません。つまり,(1)の方の甲案,乙案というのは,代理人を定めてスムーズに動くようにしなければいけない,管理者を定めて,スムーズに動くようにしなければいけないというふうに言っておきながら,他方では,権限としてすごい狭めてしまうと,それは達成できないわけですよね。
そうなると,そこにも,ポリシー上の矛盾ないし対立みたいなのがあるのではないかなという気がして,私としては,このままでは,そうたやすく賛成できないというふうに思っております。
○佐久間幹事 私も甲案,乙案は反対でございまして,共有は飽くまで私人の権利関係であり,共有者が,共有物について,どのようにするかということを決めればいいことであり,その点で,所有者の自由と変わらないと思います。第三者に,たとえ決定方法とはいえ,どのようにして意思決定をしなさいとか,あるいは何か法律行為をせよと求めることができるとか,そういう権利があるとは,およそ思えないと考えております。
それに対し,例えば丙案については,先ほど山野目部会長が,現行法でもできるはずなんですよねとおっしゃり,私もそう思います。ただ,例えば管理人の権限について,6以下でしたっけ,デフォルトルールとして,こういう権限を認めるんですというようなことを定めることは,いろいろな場面で役立つのではないかと思います。そこで,例えば,共有物の管理人を選任することができるというようなこと,あるいは,この丙案を置いて,その管理人の権限をデフォルトルールとして法定するということは,あってもいいのかなと思っております。
あともう1点,第三者の申立てによる選任については,この①,②,③が,アンドなのかオアなのかちょっと分からないですが,アンドで結ばれているとしましても,例えば共有者が多数に上る場合であって,その中に所在不明の者があったとしても,先ほどの3でしたっけ,同意取得の方法をかませれば,現に所在を把握している共有者に接触して,その人に所在不明の人との関係をちゃんと調整してくださいということを働き掛け,働き掛けに応じてくれるならば決定を調達することができるし,動いてくれなかったら諦めるしかないということではないか,と思っております。
③の共有物が管理されておらず,害悪等が発生しているというのは,要するに第三者が迷惑を被っているということなんだろうと思いますが,その場合に,妨害予防請求とか妨害排除請求をするときは,共有者の1人を捕まえて請求することはできないんですかね。私は可能なのではないかと思うんですが。
できないのであれば,それが容易になる方法を考える必要はあるのかなとは思わないわけではないですが,できるのであれば,この③の場合に,共有者間で意思決定をしてもらう必要はないので,管理者をそれに代わるものとして置くということは,必要性が乏しくなるのではないかと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
少し前の蓑毛幹事と私とのやり取りで,丙案は現行法でもできるでしょう,というふうに申した趣旨は,できるから丙案は要らないのではないかと申し上げる意味ではなく,今,佐久間幹事におっしゃっていただいたように,丙案の規律のみを置くということで話が終わるのではなく,これを置くと,その管理者の標準的な権限のありようについての規律を置く前提が整ったり,あるいは第三者申立ての規律を関連させて置く可能性が開かれたり,さらには,不動産登記法を改正して,土地建物については管理者を登記するということが自然に法制上成り立つといったようなことがあり得ますから,蓑毛幹事からも御指摘がありましたが,引き続き議論する価値があるだろうということで申し上げました。趣旨を明瞭にしていただいて,ありがとうございました。
その他,佐久間幹事からは,第三者申立てを認める場合について,(3)アの乙案のところにある①,②,③の論理的関係や,それぞれの性格についての評価についても,注意すべき点がそれぞれあるという御指摘を頂きました。
引き続き御意見を頂きます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
今の共有物の管理者のところですけれども,企業の実務サイドからは,やはり,かなり評判がいいというか,特に,共有者が多くてなかなか話が進まないときに,第三者が申立て等で管理人を選任できるという制度のメリットは大きいのではないか,という意見はかなり出ております。
(1)の原則に関しても,これはちょっと意見が分かれているのですが,甲案,乙案でもいいではないかという考え方も当然ございます。ただ,一方で,法律的な話を離れると,共有者に共有物の管理者の選任を義務付けた場合に,本当に熱心にやる人が管理者になってくれれば良いのですが,そうでなかった場合には,管理者にならなかった他の共有者は当然共有物への関心がなくなりますし,管理者自身も余り関心ないということになって,ますます管理が行き届かなくなるのではないかという懸念も若干出ているところです。したがって,ここは,甲案,乙案のように常に管理者の選任を義務付ける,というよりは,本当に必要なときに,選任ができるような制度の方がいいのではないか,というのは,今,感覚的には思っているところでございますが,現時点では,両方の意見があるということを申し上げておきたいと思います。
あと,今の話の関連で,管理者を選任する際の話は,ここに出ておるんですが,例えば解任するときはどうするのかとか,そういったところの話も,セットで議論する必要があるのではないか,と思うところです。
○今川委員 私も,共有物の処分や管理を促進するという観点からすると,この管理権者を選任するというのは非常に有益と思います。特に,第三者が共有物に対して何らかの行為をしたいというときに,数が非常に多いと,一人一人と交渉しなければなりませんけれども,やはり管理者がいると,それはスムーズに進む。実際の取引を促進するという意味からは,管理者を置くということは非常に有益と思います。
それで,裁判所に選任の申立てをするということも,やはりあった方がいいように思われます。そうしないと,結局,管理者を置くことができるといっても,置かれない場合が多くなってしまいますので,申立てができた方がいいと思います。
ただ,その場合には,申立ての前に,(注2)ですかね,14ページの(注2)ですけれども,選任の機会を与えるためにも,催告をするということが必要と思います。
それから,先ほど放棄のところで出ていました,放棄の前段として,マッチングですね,利用,あるいは,それを所有したいという人たちがいる場合に,その共有物に対してアプローチをするというときに,利害関係人の範囲,管理人,管理者を選任する利害関係人の範囲は,なるたけ広い方がいいとは思われます。
そうすると,13ページの(注1)ですけれども,購入を希望している人,普通は利害関係人を考えるときに,購入を希望している人となると,結局全て,誰でも認めていいということになってしまうので,余りこれは,抑制的に考えるのが普通なんですけれども,先ほど申し上げましたように,選任を催告すると,そうした上で申立てをしていくというふうに作り込みをすれば,逆に申立てをする人を広く認めていくということは,今回,特に共有物の管理・処分をスピーディーに,スムーズにやれるようにという観点からは,非常に有益と思います。
○山野目部会長 道垣内委員,次,佐久間幹事の順でお願いします。
○道垣内委員 私には全く理解できません。というのは,例えば,非常にたくさんの人が共有していてもいいし,10人でもいいのですけれども,そのとき現存している人との間の交渉がうまくいかないといって,管理者の選任を申し立てる。しかし,大体みんな合意していて,しかし,所在不明の人もいるというときには,以前検討しました催告の手続によって合意を取るために共有者側が行動すればすむのですね。
それを,処分を受けようとする,させようとする側が処分をスムーズに進めるためには管理者がいた方がいいという話は,所在がはっきりしており,同意をしている人たちですら,催告手続といった強制手段を採ろうとしていないときに,「いや,絶対処分した方がいいよ」と言って,勝手に管理者を選任して,それで,その管理者1人と交渉して,よし,処分しようというわけでして,そんなむちゃくちゃな制度はありませんよ,日本法上。
○山野目部会長 今川委員に何か御発言があったら,また伺いますけれども,まず順番として,佐久間幹事,お願いします。
○佐久間幹事 もうちょっと上品に言おうと思うんですけれども,同じようなことを。
今道垣内委員がおっしゃったようなシチュエーションで,管理人を選んだとしますよね。この管理人は,一体どういう決定をできるんだろうかというのが分かりません。管理人は善管注意義務を負うわけですよね。その善管注意義務の内容として恐らく欠くことができないものとして,所有者の意思を尊重する,共有者の意思を尊重するというのがあると思うんですね。
その場合に,道垣内委員がおっしゃったようなシチュエーションで管理人が選ばれました。その人と交渉して,管理人が,「いいです。売却しましょう。」といえば問題なく売却できるのかというと,それは単なる義務違反だから,法的には有効だということになるのかもしれませんけれども,当事者の合意をきちんと調達できない状況で管理人を選んだって,管理人は実際上動きようがないのではないかというふうにも思います。
それで,結局,先ほど私の名前を出していただいたのに,コメントしないでおこうと思ったんですけれども,受益者代理人の話と,やはり全く一緒だと思うんですね。都合のいい人をとにかく立てさせて,取引をしようというんだとすると,当該物件について全くまだ権利を持っていない人が,自分が取得したいから,あるいは都合のよいような取引の内容にしたいからということで,そのように動いてくれるかもしれない可能性のある人を相手方のほうに立てさせようというわけですから。余り上品に言えていないかもしれませんけれども,やはり反対です。
○山野目部会長 十分に上品であったと感じます。
今川委員,何かおありですか。
○今川委員 後で出てくると思いますが,私は処分行為をする場合には,裁判所の許可が要るというような立て付けになるんだろうなと思っていましたので,そういうのを前提として意見を申し上げておりますし,どうしても意見が分かれている場合には,最終的には共有物分割請求をされるんだろうとは思いますし,それと,単に数が多いというだけではなくて,不在者がいるというような場合には,有益なのかなとは思っております。
○山野目部会長 ただいま,(3)裁判所による選任の要件等の中のア,第三者の申立てによる選任をめぐって,委員,幹事の間で,かなり熱い議論が交わされております。どの御指摘も傾聴に値することではないかと感じます。
次のページのイにある,共有者が裁判所に対して選任を申し立てるというお話のところについても,委員,幹事にもし御意見があったら,伺っておきたいとも考えます。
それから,そのほか,(1),(2)などについても,まだ仰せでない意見があったらおっしゃってください。いかがでしょうか。
○山田委員 促された点ではなくて,5全体について申し上げたいと思います。
共有物の管理者という制度は,共有に関する管理の行き届かない状況がある場合に,そのレベルを上げていくための法制度として,たくさんのことが検討されているんですが,私は,唯一ではないにしても,重要な役割を果たすべきものだと思いますので,これについては時間を掛けて,知恵を集めて,いい制度を作っていくべきだと思います。そして,この制度は作るべきだと思います。
そして,共有者でなくてもいいが一つ目ですね。
それから,二つ目は,(1)については丙案が適当だと思います。なぜならば,共有であるだけを理由に管理者を選任しなければならない,あるいは,不動産に限ったとしても,管理者を選任しなければならないというのは,過大な負担だろうと思います。
確かに,(3)のアの乙案に書いてあるような事例を見ると,不動産については,選任しなければならない事情があるかもしれないというのは,そう思います。しかし,家族が2人で,これ夫婦でもいいですし,親子でもいいですし,兄弟でもいいです。不動産を購入したら,共有になることが多いと思います。そのときに,管理者を選ばなければならないと民法に定められているから,管理者を選びましょうと。選ぶコストは低いかもしれませんが,ちょっと制度として過大だと思います。そうしますと,丙案で管理者を選任することができると,これだろうと思います。
そして,先の方に関連するんですが,そのときに重要だと思われますのは,共有者全員を管理者が代理すると,代理権があると,その範囲は全部ではなくてもいいと思います。ちょっと,処分・変更に係ることはできないというのはあり得ると思いますが,できるとするのが,一つポイントだと思います。
そして,代理とともにですかね,あるいは含まれるのかもしれませんが,裁判上の訴訟遂行が共有者全員のために,原告としても被告としてもできるということを明確なルールとして置くことというのが,この(1)の丙案を採ることにおいて,重要な意味を持つと思います。
そして,(2)ですが,管理者の選任の要件を過半数で決することを積極的に検討すると良いと思います。ここ,全員の同意で決することができるならば,作るまでもないのかもしれませんが,過半数で管理者を選任できるとすると。随分状況は変わるのではないかなと思います。
第三者による申し立てによる裁判所の選任は,あった方がいいんだろうと思うんですが,ちょっと理屈をどう付けるかというところは,御発言が出ているように難しいなと思います。しかし,信託がちょっと例になっているので,信託を例にすることの意味がよく分からないところもあるんですが,私も信託を例にすると,受託者がいなくなって,新しい受託者を選任するときに,必要がある場合はですが,裁判所が選任するという規定があります。申立ては利害関係人がすることができるというものです。そのようなものも参考になると思います。
ですから,そういう考え方はあり得るかなという感じがしますが,信託は,一旦出来上がった信託で,受託者がいなくなって,みんな困っているという状況があるんですが,共有は,管理者がいなくて困っているという状況は,信託の受託者がいなくて困っているというのに比べると,大分小さいかなと,法的な意味で,小さいかなと思われますので,ちょっと,第三者の申立てによる選任のところは意見を持ちません。
○山野目部会長 イのところは,いかがでしょうか。
○山田委員 イのところもですね……しかし,(2)の②があれば,いけるのではないかなという気もします。
○山野目部会長 共有者による裁判所への選任の申立ては,第三者申立てとは状況が異なり,共有者が裁判所に申し立てることはありうるというお話ですね。
○山田委員 ええ,共有者による選任は,丙案でもあり得ると思うのですが,そして,アのところの弊害が随分小さくなると思います。しかしそれは,(2)の②ですかね,②でいけることもあり。そこまで,裁判所の選任を作ること,そのことに私は反対ではないんですが,抵抗が大きいのであれば,代替策はこの中には用意されているなと思います。
○山野目部会長 どうもありがとうございました。
山田委員から幾つか有益な御注意を頂きました。管理者を仮に制度として設けるときに,管理者は共有者である必要はないということは,それをきちんと補足説明に書いてありませんでしたが,資料作成の意図は当然にそうです。御注意いただきまして,ありがとうございました。
それから,第三者申立ての適否については,今日種々の御指摘がありましたから,引き続き検討していかなければなりません。参考までに御案内しますと,現在国会においては,表題部所有者の記録が変則的な状態になっている状態を是正するための個別法の審議が予定されていますが,その法律の案の後ろの方に,管理者を選任することができるという制度があって,あれは信託法の受託者が不在であったというケースの規律を参考として,こちらの方に可能な範囲で参考にしようというものが,法制的な説明です。今,くしくも山田委員から,いろいろ議論を続けていくに当たっては参考にしてくださいという御指摘を頂きました。
この5の点について,引き続き御意見を頂きます。いかがでしょうか。中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。
私自身は,丙案プラスアルファといった辺りが妥当かなと思っているのですけれども,問題は,その場合に,管理者を選ばなければならなくなるような事態というのは,共有者間で利害が反しているような場合,又は共有者がたくさんいてなかなかコミュニケーションができないような場合とか,そもそも共有者がどこにいるか分からないといった難しい事案になろうかと思います。
ここの13ページの(2)の管理者の選任の要件との関係が問題になってくると思うのですが,その場合に,過半数で管理者を選べるということにしますと,過半数で押し切られて,自分が信頼していない,又は管理を委ねるつもりがない人が管理者になるという事態になり得るわけですね。
部会資料の後の方を拝見しますと,管理者の権限と義務という辺りでは,委任に関する規定を参考に,権利義務を考えるような想定になっているかと思うのですけれども,委任というのは信頼関係のある人に対して,ある法律行為を委ねる,又は準委任であれば,ある法律行為以外のことを委ねるということになりますが,信頼関係を基にする委任に準じて,例えば善管注意義務の中身を同じように考えることができるのかとか,管理者の権限を同じように考えても大丈夫なのかというところを,もう少し踏み込む必要があるかと思います。
つまり,まず過半数で管理人,管理者を決定することができるとしていいのか,要件が軽過ぎはしないかというのが一つと,その場合に,権利義務の範囲をどのように考えるのかということです。
後に検討するとされていますけれども,管理者の訴訟上の権限をどうするのかという問題もあって,共有をめぐる訴訟に関しては,ものすごく難しい問題がある中で,管理者が訴訟追行できるということになってしまうのか。その場合,従来,固有必要的共同訴訟であることが要求されてきたものが,たまたま過半数で選ばれた管理者にできてしまうというようなことになりはしないかとか,大変難しい問題があると思いますので,ここは,丁寧に区分けをして御提案いただければ有り難いと思います。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。
ほかに,5のところはいかがでしょうか。よろしいですか。
5について,有意義な御議論を頂きました。5の(1)は,甲案,乙案,丙案の中,比較的丙案に言及していただいた委員,幹事が多かったように思います。
甲案というものは,これはもう,ほぼ考えにくいですね。どう考えても,共有物一般で管理者を選任しなくてはいけないという,これが規律として成り立つチャンスというものは,ほとんど埒外であるだと感じますけれども,事務当局で引き続きお考えください。
それから,(2)について,幾つか御指摘いただいた点を更に深めていきます。
(3)は,アのところについて,たくさんの御指摘がありました。あわせて,イについても御意見を頂いたところであります。これらの全般について,検討を深めてまいりたいと考えます。委員,幹事の皆様方には,御意見を頂きまして,ありがとうございました。「6 共有物の管理者の権限等」に関する意見
続きまして,6,共有物の管理者の権限等にまいりますが,今,中村委員のお話に少し,それについての問題提起が含まれていたところであります。
改めて,6のところについて,委員,幹事の皆さんの御意見を頂きます。
6のところで,権限,それから義務,報酬などについての話題を提供しておりますけれども,いかがでしょうか。
(2)と(3)は,多分このようなことであろうと考えられますが,そこについても御意見を頂きたいですし,取り分け(1)の権限のところについては,この機会に御意見があれば承っておきたいと考えます。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 共有物の管理者の権限に関しては,先ほど中村先生がおっしゃったように,全員一致でなく選ばれる,つまり反対者がいる訳です。こういう状況で,管理者は何ができるのかということを考えなければいけません。特に今,私どもの方で関心があるのは,仮に,訴訟の遂行権限を共有物の管理者が持つとすると,影響が大きいので,よく考えなければいけないと思っていまして,そこと併せて全体的に考えないといけない。共有物の管理者の権限を,今回の部会資料の範囲だけで考えるのは難しいと思っています。
その上でですが,共有物の管理者が,反対者もいる中で選任されていることからすれば,基本的には,17ページの(1)①にあるように,共有物の変更又は処分をするには,共有者全員の同意を得なければならない,ということにすべきと思います。次に,その際の同意取得の方法は,18ページの②にあるように,第1の3の方法も使えるよと。これもいいと思います。共有物の管理者の選任に反対した人であっても,変更・処分について聞かれたときに確答しなかったのだったら,その人は定足数から除くということでもいいと思います。
では,共有物の管理方法を変えるときはどうなるのか。今回の提案は,一旦過半数で選ばれてしまえば,共有物の管理者は,管理行為に関する限りは,③の制限がない限り,オールマイティーということのようです。共有物の管理者は,善管注意義務を負うので,変な管理はしないだろうということが前提なのでしょうが,しかし,それでいいのかという問題意識を持っています。とはいうものの,管理方法を一々変える度に,また全て同意を取り直しということになると,それも無理でしょうから,このような提案に落ち着くのかなと思っているのですが,管理者の権限については,訴訟も含めて,全体を見た上で,バランスをとって,何度も申し上げているように,管理者の選任に反対者がいることも考慮して,考えなければいけないと思っています。
○中田委員 ちょっと御質問なんですけれども,先ほどの今川委員の御発言とも関係するんですが,管理者が置かれた場合であっても,共有物分割請求というのは依然として可能だという理解でよろしいでしょうか。
それから,もう一つ,共有物分割請求について,合理化するような方策は,今後御検討の御予定はおありでしょうか。
○脇村関係官 まず前半につきましては,作成したときの意図としては,共有物分割,当然できる,共有物分割できる前提で考えていました。その上で,緊急性あるときにどうするか,管理者が変に動いているときに止めるかというのは,保全的な手法も含めて検討していくんだろうなとは思っておりました。
もう1つの方は。
○中田委員 分割請求手続が,現在なかなか機能しにくいところを是正することを検討するかどうか。
○脇村関係官 ありがとうございます。次回の,次の部会資料には,共有物分割を取り上げようと思っていまして,そこでいい知恵が出せるといいんですけれども,どこまでの案が出せるのか,今検討中ですが,項目としては取り上げる予定にしています。そこで皆様に,是非御意見を頂きたいとは思っているところです。
○山野目部会長 中田委員に1番目の御質問いただいたとおり,管理者が選任されていても,共有物分割請求の手順に何らさわりになるものではないということが資料作成の意図であるということの紹介をしてもらいました。
明言がありませんでしたけれども,共有物分割請求訴訟が固有必要的共同訴訟であるということにも特段影響はなくて,管理者がいるから,別に管理者だけ相手にすると分割ができるということにはならないという前提で資料を作っているものであろうと思いますが,引き続き御意見を頂いていきたいと考えます。
それから,後半のところでありますけれども,実は,今日は「共有制度(1)」という部会資料をお示ししていますが,「共有制度(2)」というものを次回以降にお諮りしていこうと考えておりまして,中田委員の少し前の御発言で問題提起を頂き,今も問題提起いただいた共有物分割の在り方についての改善点はないかという課題,それから,共有と訴訟の関係の問題,さらに,共有物に係る時効取得の要件の見直しという難問ばかりあります。
今日の段階で,これだけの議論があって,次回,これよりも難度が上がりますから,ご負担をお願いしますけれども,そのように調査審議を続けてお願いしようというふうに考えているところでございます。
引き続き,いかがでしょうか。
それでは,権限のところは,蓑毛幹事から,ひとまずはこれを見ておいたけれども,まだまだ全体で見なければいけないという御指摘があったとおりだというふうに感じますから,御議論いただいたところを踏まえ検討を続けてまいるということにいたします。「7 管理者につき他に検討すべき事項」に関する意見
続けて,20ページの7,管理者につき検討すべき事項,そのほかにないかという問題提起がありますが,これだけ尋ねられても,やや御議論がしにくいかもしれません。あわせて,第1の8まで,最後の8まで御検討をお願いし,21ページの8の裁判所による必要な処分,これらについて,本日段階で御指摘いただけることを承っておきます。
ここもやはり最初に御議論いただいた管理者の制度の基本像のところについて,更に議論を深めていかないと,そこから派生し,発展した論点である7や8のところは,議論がしにくいという感触をお持ちの方が多くいらっしゃると想像しますし,それはごもっともなことであるであろうと感じます。本日段階で頂く御意見で結構ですから,承っておきたいと考えます。いかがでしょうか。
○岡田委員 管理者を選任された場合に,20ページのところにありますけれども,不動産に関して,管理者を選任したことを不動産登記における登記事項にするのかについても,検討が必要ということでございますけれども,私どもの立場から発言させていただけるとすれば,交渉等と書いてございますけれども,お隣の方に会うために,めくらめっぽう,山の共有者20人に当たるよりは,とても有り難いと思います。管理者がいていただけると。
それを登記簿によって公示することを前提というか,必要,検討しましょうということでございますけれども,登記簿のこれ,甲区欄なのか表題部なのかというところまで,今のところの感触でいいんですけれども,教えていただけるかなと思いますが,いかがでしょうか。
○脇村関係官 すみません,まだそこまで考えていないですが,恐らく,管理者の権限ですとか,そこに書いています,登記の効力をどうするかによって,どちらか変わってくると思いますので,それを踏まえて検討していきたいと思っております。
○山野目部会長 こちらの事務当局の席では何か,多分,表題部ではないかとかという声というか呟きが聞こえますけれども,実は準共有の民法の規定の適用関係について,特段の規律を設けなければ,権利部乙区に記録されている権利についても,準共有の場合に管理者の規定が働くものですから,例えば休眠抵当権の処理などで困る場面の抵当権の登記名義人について,準共有をする者が多数に上るような事例において,管理者を選任して問題処理を進めるというような用いられ方をすることもあり得るものです。そうすると,必ずしも表題部に記録するという話にはならないかもしれません。これは技術的な問題ですから,こちらで引き続き検討するということにいたします。
引き続き,いかがでしょうか。
道垣内委員,次,今川委員,お願いします。
○道垣内委員 登記事項とするということの意味なのですが,登記をしなかったらどうなるんですか。その人は管理者としては行動できない。あるいは,そうではない人が名前を書いてあったら,表見代理が当然に成立するのでしょうか。いや,おかしいですよ,これ。それは登記事項にはならないと思いますよ。
○山野目部会長 道垣内委員の御意見をおっしゃってください。
○道垣内委員 登記事項にすべきではありません。
○山野目部会長 現行法の規律で,登記上記録をしていて,それについて,しなかったときどうなるかというような議論が起こる場所というものは,既存法制にいくつかあるわけでございますから,それらとのにらみで,また,今の御指摘も踏まえた上で関係法律整備において検討していくということになるでしょうか。
○今川委員 先ほどの議論に絡むのかもしれません。第三者が管理者の選任申立てができるかどうかというのは,皆さんいろいろな意見があるというのは分かったんですが,管理者を置いたとして,共有者全員の同意によって処分権限を与えることができるということについては,多分御異論はないんだろうと思うんですけれども,そのとき,取引の安全の観点からですと,第三者にそれを,どのようにして証明していくのかと。同意があったということを何らかの形で示せばいいということにはなるんでしょうけれども,取引に入る第三者からすると,やはり,例えば公正証書により証明しないといけないとか,そういうものがないと,安心して取引ができないということもあるとは思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。御指摘に引き続き留意します。
ほかにいかがでしょうか。「8 裁判所による必要な処分」に関する意見
○佐久間幹事 8でもよろしいでしょうか。
○山野目部会長 お願いします。
○佐久間幹事 裁判所が,ここに書かれている,共有物の管理に関し,必要な処分を命ずることなんですが,想定されているのは,結局,共有者間で必要な合意を調達することができないとき,というか一定の合意に達しないというときに,その達しない合意に代わる,言わば処分許可みたいなものを,裁判所に期待するということでいいか,ということを伺いたく存じます。もし仮にそれでいいとしたら,それは先ほどの,裁判所による管理人の選任と同じようなことになるんですけれども,共有者が,これは資料にも書かれているところですけれども,共有者自身が決定することができない,要件にのっとってできないところを,他者が決定するというのはいかがなものか。適当ではないのではないかと思います。
○山野目部会長 現在の民法の規律の中で見出される局面としては,不在者の財産の管理において,裁判所が与える,現場でニックネームで呼んでいる権限外許可の審判があります。あの民法の法文も必ずしも明晰ではないかもしれませんが,少なくとも実務の運用としては,売却処分までの権限を審判によって与えることができるという解釈・運用がされてきたと理解しています。
今の佐久間幹事の御意見は,そこまで裁判所が,ここの8でするということは相当でないという御意見を承ったというふうに理解してよろしいのですね。
○佐久間幹事 不在者財産管理の問題についてですか。
○山野目部会長 不在者財産管理の似た局面と比べてみて……
○佐久間幹事 いや,似ていないのではないかと。不在者財産管理の場合は,不在者自身が自ら管理をすることができない状況にあるので,管理人を選び,その管理人に権限を与えているのに対し,ここで想定されているのは,共有者が1人もいないという場合ですか。
○山野目部会長 ええ,似ているようにみえ,しかし,似ていないから,さてどう考えるかということでしょうか。
○佐久間幹事 そうそう,似ていないから,同じようにはできないのではないかと。
○山野目部会長 現行の不在者財産管理の法文の言葉の使いぶりを踏まえて申しますと,それは不在者財産管理の局面であるからかもしれませんが,かなり大きなことができるという,裁判所ができるという運用になっていますし,8の太字の規律表現が不在者財産管理と同じになっていますけれども,あれと同性質の問題ではないですよ,という御注意を今頂いたと受け止めました。
○佐久間幹事 はい,そうです。すみません。○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き,いかがでしょうか。
おおむね,共有物ないし共有不動産の管理権者の問題の全般について,御意見を承ったというふうに受け止めてよろしいでしょうか。
今日の審議の過程で明らかになりましたように,いろいろ宿題はたくさんございます。次の審議をお願いする機会に向けて,事務当局において整理してもらうということになります。
部会資料の,ただいま第2の遺産共有における共有物の管理の手前のところまで,一巡して御意見をおっしゃっていただくところまでまいりました。言い換えますと,第2の部分がまだ残っております。
残された時間との関係からいうと,あと若干締めくくりの御案内がございますから,これ以上,第2のところに入っていって,御議論をお願いすることは困難ではないかと感じられます。
次回の部会におきましては,この部会資料3の第2の遺産共有における共有物の管理の問題について審議をお願いし,その後,次の部会資料として用意を差し上げるものの審査をお願いすることになります。先ほど少し申し上げましたけれども,共有物の時効取得,共有と訴訟,それから,共有物分割の在り方などの諸点について審議をお願いします。
引き続き,共有の御論議をお願いするに際しても,また部会資料を作成するに際しても,中田委員から御指摘があったように,分割終了のタイプと存続するイメージの共有との区別に留意しましょうという御話があり,これはごもっともなことでありまして,留意を致しますし,あわせて,その際に,中田委員から御指摘があった共有物分割の在り方について考えてほしいという論点は,正に次回の審議資料で扱われます。
本日,共有の第1の部分についての審議をお願いしていただいたところを顧みて,御案内を差し上げます。
本日,共有制度の見直しについて検討をお願いしなければならない事項の前半につきまして,多様な方面からの御意見を頂きました。思い起こしますと,明治に近代の法律制度が始まりました際,御案内している船舶共有の場合に限った話ではなく,今以上に共有という事態の特性を捉えた法律思考がされていたものではないかと思われます。
明治13年の太政官布告第36号(明治13年7月17日太政官布告第36号)には,「共有財産ヲ管理スルノ権」を有するという者が登場いたします。実は均分相続制を導入した戦後改革の機会にこそ,あらためて共有というものの在り方を考え込んでおく必要があったと感じますけれども,それが必ずしもなされないまま,今日に至りました。本日,この議題について,改めて法律家や各方面の皆様に,ここで論議を始めていただきました。緒についたばかりでございますが,始めていただいたことは,今後議論がどういうふうに進んでいくかを考え込まなければなりませんけれども,いずれにしても意義が大きいと感ずるものでございます。
事務当局から,次回に向けての事務的な御案内を差し上げます。
○大谷幹事 今,正に繰り返すまでもなく,次回はクールビズでということですけれども,資料もお持ちいただけると思いますが,次回の日程は,平成31年5月21日火曜日の午後1時から午後6時まで,場所は同じく,この東京高等検察庁の第2会議室になります。
テーマは,現時点では,共有の後半部分と,それから遺産分割の促進,財産管理というものを予定をしておりますけれども,こちらの方でできる限りの準備をして,早目に資料送付させていただきたいと考えております。
○山野目部会長 事務局から御案内を差し上げました。
これをもちまして,法制審議会民法・不動産登記法部会第2回会議を散会といたします。
どうもありがとうございました。 -
【資料52】民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案のたたき台 (2)
第2 共有等
12 持分の放棄
共有持分の放棄については、現行法の規律を維持するものとする。(補足説明)
共有持分が放棄されたときは、その持分は他の共有者に帰属するが(民法第255条)、動産・不動産を問わず、他の共有者に不当に負担を押し付ける結果となる場合には、共有持分の放棄が、権利濫用(民法第1条第3項)に該当することもあり得る。
特に、不動産については、管理の負担が大きくなりがちであり、その共有持分の放棄は他の共有者に不当に負担を押し付ける結果となりやすいと思われる。また、仮に共有持分の放棄が認められるとしても、登記義務者である共有持分の放棄者と登記権利者である他の共有者との共同申請によらなければならず(不動産登記法第60条)例えば持分の移転の登記をしない限り固定資産税の納税義務を免れることはできないし(地方税法第343条第2項参照)、他の共有者は共有持分権の一部不存在や登記引取請求権の不存在の確認を求めて争うことが可能であるなど、他の共有者に与える影響は比較的小さいと思われる。
他方で、管理の負担が大きくない物が共有されている場合や、株式等が準共有されている場合において、共有者の一部が共有持分を放棄して他の共有者に持分を按分で帰属させることは、その財産の管理の観点からも有用なケースもあり得るところであり、一律に他の共有者全員の同意がなければ放棄を認めないとすることは適当でないと考えられる。
以上を踏まえ、共有持分の放棄については、現行法の規律を維持することとしている。 -
【資料51】民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案のたたき台 (1)
第2 共有等
1 共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、その使用の対価を償還する義務を負う。
② 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。(補足説明)
部会資料40の4と、基本的に内容は同じである。表現ぶりについては、よりわかりやすいものとするべく、改めている。
2 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めるものとする。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができない。
(補足説明)
部会資料40の1においては、変更行為に該当するものであっても、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しない行為については、民法第252条の規律により持分の価格の過半数により決定できるとすることを提案していた。これに対しては、第17回会議において、「共有物の改良を目的とし」という要件に関して、客観的に価値を高めるものでない行為についても過半数により決定できるようにすべきであるという意見や、「著しく多額の費用を要しない」という要件に関して、その内容が不明確であり、費用という切り口による限定をすべきではないという意見があった。
これらの意見はいずれも、目的や費用の多寡を問わず、客観的に共有者に与える影響が軽微であると考えられる場合には、持分の価格の過半数により決定することができるとすべきというものであると考えられるところであり、これらの意見を踏まえて、変更行為に該当するものであっても、その形状又は効用の著しい変更を伴わない行為については、後記3①の規律に基づいて、持分の価格の過半数により決定できるとすることとした。
3 共有物の管理
民法第252条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の管理に関する事項は、民法第251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
② ①の規律による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
③ 共有者は、①及び②の規律により、共有物に、次のアからエまでに掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(次のアからエまでにおいて「賃借権等」という。)であって、次のアからエまでに定める期間を超えないものを設定することができる。
ア 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
イ 前号の賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
ウ 建物の賃借権等 3年
エ 動産の賃借権等 6箇月
④ 各共有者は、①から③までの規律にかかわらず、保存行為をすることができる。
(補足説明)
1 本文①、②及び④について
本文①、②及び④は、部会資料40の2(1)①から③までと基本的に同内容である。
表現ぶりについては、第17回会議における議論を踏まえ、よりわかりやすいものとするべく、改めている。この規律は、遺産共有にも適用されることを前提としているが、配偶者居住権が成立した場合には、他の共有者は、配偶者居住権者の使用収益を受忍すべき立場になるため、別途、消滅の要件を満たさない限り配偶者居住権は存続し(民法第1032条第4項、第1038条第3項参照)、本文①の規律に基づいて配偶者居住権を消滅させることはできないと考えられる。また、第三者に使用権を設定している場合においても、同様に、本文①の規律に基づいて当該使用権を消滅させることができないと考えられる。
2 本文③について
部会資料40の2(1)④において、持分の過半数の決定により設定した使用権は、所定の期間を超えて存続することができないとする規律を設けることを提案していたが、第17回会議における議論を踏まえ改めて検討すると、持分の過半数の決定により設定することができる使用権に関する規律を設ける必要がある一方で、持分の価格の過半数をもって共有物に関する長期間の賃貸借契約を締結した場合には、その契約は基本的に無効になると解されるものの、持分の過半数によって決することが不相当とはいえない特別の事情がある場合には、変更行為に当たらないとする考え方もあることから、所定の期間を超えて存続することができないとする規律を設けることは、過半数によって決することができる管理行為の範囲を過度に狭めることになりかねず、相当ではないと考えられる。そこで、本文③において、本文①の規定によって、共有物に、所定の期間を超えない賃借権等の使用権を設定することができる旨の規律を設けることとした。
3 なお、共有者全員の合意とその承継(部会資料40の2(2))及び共有物の管理に関する手続(部会資料40の3)については、第17回会議における議論も踏まえ、特別の規律を設けないこととした。
4 共有物の管理における催告
共有物の管理における催告について、次のような規律を設けるものとする。
共有者が他の共有者に対し1箇月以上の期間を定めて共有物の管理に関する事項の決議に関し意見を述べて決議に参加すべき旨を催告した場合において、その期間内に意見を述べない共有者があるときは、その共有者は、その決議に参加しない旨を回答したものとみなす。この場合には、当該事項は、決議に参加した共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
(補足説明)
部会資料41の第1の1と、基本的に内容は同じであるが、意見を述べない者を決定から除き、意見を述べる者の過半数で決することを明確にする趣旨で表現を整えている。
第17回会議では、全員の同意を要する変更行為も新たな規律の対象に含める案(部会資料41の第1の1(注1))に賛成する意見や、裁判所の決定を要求する案(部会資料41の第1の1(注2))に賛成する意見もあった。
もっとも、部会資料41の第1の1の補足説明でも記載していたとおり、裁判所の関与を要求することは、当事者の負担が重く相当でないとの指摘や、裁判所が判断すべき事項が特になく、裁判所の関与を求める意義に乏しいとも考えられるとの指摘があり、第17回会議でも、裁判所の関与を求めない案に賛成する意見があった。また、裁判所の関与を求めないこととも関連するが、新たな規律の対象には、全員の同意を要する変更行為を含めるべきではないとの意見に賛成する意見もあった。
以上を踏まえ、本文のとおり提案している。
なお、この規律は、遺産共有にも適用されることを前提している(後記11参照)。
5 所在等不明共有者がいる場合の特則
所在等不明共有者がいる場合の特則について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)を加えることができる旨の裁判をすることができる。
② 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、次のア及びイに掲げる裁判をすることができる。
ア 当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判
イ 共有者において当該他の共有者以外の共有者に対し1箇月を下らない期間を定めて共有物の管理に関する事項の決議に関し意見を述べて決議に参加すべき旨を催告し、その期間内に意見を述べない共有者があるときは、その共有者は、その決議に参加しない旨を回答したものとみなし、決議に参加した共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判
(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、(1)の裁判をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 当該財産について(1)の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)の裁判をすることについて異議があるときは、当該他の共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ イの届出がないときは、裁判所が(1)の裁判をすること。
② 裁判所は、当該他の共有者等が異議を述べなかったときは、(1)の裁判をしなければならない。
(注)(1)の裁判に係る事件は当該裁判に係る財産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
本文は、部会資料41の第1の2と基本的な内容は同じである。ただし、問題となる場面が複数あるため、それに応じて裁判の内容を書き分けている。
なお、部会資料41の第1の2では、裁判所の関与を必要としない案(同(注1))や、対象となる行為を限定する案(同(注2))を取り上げていたが、第17回会議での議論状況を踏まえ、取り上げていない。
本文①では、「共有物に変更を加えることができる旨の裁判」としているが、後記9及び10との対比からも明らかなとおり、ここでいう裁判の対象となる行為に、共有者が持分それ自体を失うこととなる行為(持分の譲渡のほか、抵当権の設定など)は含まれない。
この規律は、遺産共有にも適用されることを前提している(後記11参照)。
2 (2)(手続等)について
本文①及び②は、部会資料41の第1の2(注4)と内容は同じである。
なお、(1)の裁判は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、管轄の規定など個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。(注)では、管轄について部会資料41の第1の2の補足説明に記載していた内容を記載した上で、所要の規定を整備することを記載している。
6 共有物の管理者
共有物の管理者について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有者は、3の規律により、共有物を管理する者(②から⑤までにおいて「共有物の管理者」という。)を選任し、又は解任することができる。
② 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。③において同じ。)を加えることができない。
③ 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
④ 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
⑤ ④の規律に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
(補足説明)
部会資料41の第4と内容は同じである。ただし、本文①は、その選任又は解任が前記3の規律によって行われることを明記しているほか、本文③は、前記5の提案を踏まえたものとしている(本文③の対象には、共有者が持分それ自体を失うこととなる行為(持分の譲渡のほか、抵当権の設定など)は含まれない。)。なお、本文③の裁判の手続は、基本的に、前記5の(2)と同じである。この規律は、遺産共有にも適用されることを前提としている(後記7参照)。
なお、第三者を管理者とした場合の管理者と共有者との間の委任契約の関係や、共有者の1人を管理者とした場合の管理者と他の共有者との関係については、部会資料41の第4において一応の整理をしているが、いずれにしても、管理者との間の実際の契約内容等によって最終的に定まることとなると解されるため、特段の規律を置かないこととしている。
7 裁判による共有物分割
民法第258条の規律を次のように改めるものとする。
① 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
③ ②に規律する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(補足説明)
第18回会議においては、いわゆる賠償分割の規律について、判断要素を明確化すべきという意見があった一方で、賠償分割が現物分割に劣後するかのような疑義を生じさせるべきではないという意見もあるため、これらの意見をそれぞれ反映して適切な規律を設けることは困難であることから、本文においては、部会資料47の考え方を基本的に維持することとした。
なお、賠償分割について、部会資料47②イのように「金銭を支払わせて、その持分を取得させる方法」とすると、金銭の支払が持分取得の条件となるとの誤解を生じさせるおそれがあるため、本文②イにおいては、「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」とすることとした。
8 相続財産に属する共有物の分割の特則
相続財産に属する共有物の分割の特則について、次のような規律を設けるものとする。
① 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前記7の規律による分割をすることができない。
② 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、①の規律にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前記7の規律による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について前記7の規律による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
③ 相続人が②ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前記7①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日(当該相続人が同項の規定による請求をした場合にあっては、当該請求をした日)から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
部会資料42の第1の2(2)では、現在の判例の理解(共有物分割請求訴訟に係る判決では遺産共有の解消をすることができない)を基本的に維持した上で、その例外を定めることを提案していた。もっとも、そのような例外を定めるためには、現在の判例の理解を原則として維持することを示さざるを得ないため、本文①では、その旨を明示している。
2 本文②について
部会資料42の第1の2(2)と内容は同じである。表現ぶりについては、第17回会議での議論を踏まえつつ、よりわかりやすいものとするべく、改めている。
3 本文③について
本文資料42の第1の2(2)の補足説明では、共有物分割請求訴訟の中で相続人間の分割もすることを前提に審理が進められていたが、後に異議の申出がされ、それまでの審理に無駄が生ずる事態も起こることを防止するための措置を講ずる必要がある旨を記載しており、第17回会議でも、同様の指摘があった。
当該訴訟の中で相続人間の分割もすることができるかどうかは、訴訟の進行を考える上で重要であり、早期に決定すべき事柄であると考えられるが、相続の開始から10年間が経過していた場合には、それまでに遺産の分割をするかどうかについて検討する機会が十分にあったと考えられることから、共有物分割の訴えがあった当初の段階で、当該訴訟において相続人間の分割をすることにつき異議の申出をするかどうかを決することを求めることとしても許容されると考えられる。
そこで、本文③のとおり提案している。なお、「当該相続人が前記7①の規律による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日」とは、当該相続人が訴状の送達を受けた日となることを想定している。裁判による共有物の分割は、本質的には非訟事件であるものの伝統的に訴訟手続で処理する取扱いが確立しているが、民法上は、その旨が明確にされておらず、訴訟で処理することを前提とする文言が用いられていないことから、ここでは、訴状の送達等の用語を用いない表現としている。
4 その他
第17回会議では、地裁と家裁に同時に事件が係属した場合の処理につき言及する指摘が複数あった。共有物分割請求訴訟において当該共有物につき遺産共有関係も解消することについて期間内に異議の申出がされず、その訴訟で遺産共有関係が解消される見込みとなった場合であっても、直ちに、当該共有物の遺産共有の部分が遺産から除外されるものではないが、相続開始から10年を経過し、遺産分割は法定相続分等で処理されることとなり、一部分割も基本的に許される状態になっていることから、事案ごとの判断ではあると思われるが、共有物分割請求訴訟の帰趨を待たずに、当該訴訟の対象を除いて遺産分割をすることもできると解される。
9 所在等不明共有者の持分の取得
所在等不明共有者の持分の取得について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
② ①の請求があった持分に係る不動産について前記7①の規律による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が①の請求を受けた裁判所に①の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
④ 共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
⑤ ①から④までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イ、ウ及びオの期間が経過しなければ、(1)①の裁判をすることができない。この場合において、イ、ウ及びオの期間は、3箇月を下ってはならない。
ア 所在等不明共有者の持分について(1)①の裁判の申立てがあったこと。
イ 裁判所が(1)①の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ (1)②の異議の届出は、一定の期間までにすべきこと。
エ イ及びウの届出がないときは、裁判所が(1)①の裁判をすること。
オ (1)①の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が(1)①の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
② 裁判所は、①の公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、①(イを除く。)の規律により公告すべき事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
③ 裁判所は、①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。
④ 裁判所は、(1)①の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。この裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
⑤ 裁判所は、申立人が④の規律による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
⑥ (1)①の裁判の申立てがあった裁判所が①の公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が②オの期間が経過した後に(1)①の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、その申立てを却下しなければならない。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
(1) 本文①及び③から⑤までについて
本文①、④及び⑤の内容は部会資料41の第2の①、②、(注1)及び(注5)と、本文③の内容は部会資料42の第1の3とそれぞれ同じである。
なお、本文③で、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合とした上で、共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限ってこの規律の対象としているのは、相続は発生しているものの、遺産共有の状態が生じていないケース(例えば、相続人不存在など)を除外するためである。
(2) 本文②について
第17回会議では、遺産分割の調停の申立てがある場合に、遺産分割調停と所在等不明共有者の持分の取得手続との役割分担について言及する指摘があった。遺産共有に限らず、通常共有のケースにおいても、他に分割請求事件が係属しており、その中で、所在等不明共有者の持分も含めて全体について適切な分割を実現することを希望している共有者がいるケースでは、基本的にはその分割請求事件の中で適切な分割をするべきであり、それとは別に、所在等不明共有者の持分のみを共有者の1人が取得する手続を先行させるべきではないと思われる。
そこで、本文②のとおり提案をしている。なお、第17回会議では、相続開始から10年を経過した後に、やむを得ない事由があって具体的相続分による分割を求めることができるケースでは、新たな規律を用いるべきではないのではないかとの趣旨の指摘があったが、そのケースも含め、本文②のとおり遺産分割の請求をし、届出をすれば、遺産分割が優先される。
2 (2)(手続等)について
本文①(ウを除く)、②及び⑥は、部会資料41の第1の(注2)(注3)の内容を具体的に書き下したものである。
本文①ウ及びそれに関連する②及び③は、(1)②のとおり異議の届出を認めたことに伴い、その届出期間を定めるものである。
本文④及び⑤は、部会資料41の第1の(注4)の内容を具体的に書き下したものである。
なお、(1)①の裁判は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、管轄の規定など個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。(注)では、管轄について部会資料30の第2の1(1)等の補足説明に記載していた内容を記載した上で、所要の規定を整備することを記載している。
10 所在等不明共有者の持分の譲渡
所在等不明共有者の持分の譲渡について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 要件等
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
② 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、①の裁判をすることができない。
③ ①の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
④ ①から③までの規律は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(2) 手続等
① 前記9(2)①ア、イ及びエ、④から⑥までの規律は、(1)①の裁判に係る事件について準用する。
② 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判により権限を付与された共有者が(1)①の事件の終了した日から2箇月間その権限を行使しないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
(注)(1)①の裁判に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 (1)(要件等)について
(1) 本文①及び③について
本文①及び③の内容は、部会資料41の第3と基本的に同じである。ただし、①については、所在等不明共有者以外の共有者は自らその持分を譲渡するものであることや、不動産の持分の全部を売却することが前提となっていることを明確にするために、裁判の内容につき、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与するのではなく、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与することとしている。また、第17回会議での議論を踏まえ、本文③では、時価相当額の支払請求権が発生するのは、上記の譲渡権限が付与されたときではなく、所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときで
あることとしている。
(2) 本文②について
本文②の内容は、部会資料第42の第1の4と同じである。
(3) 本文④について
前記9と同様に、所在等不明共有者の持分の譲渡でも、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)にも新たな規律を準用することとしている。
2 (2)(手続等)について
(1) 公告等
公告等については、前記9(2)①ア、イ及びエ、④から⑥までなどと同様の規律としている。
(2) 裁判の効力
部会資料41の第3(注3)のとおり、この権限付与の裁判を受けた共有者が、長期間にわたって譲渡をしないといった事態が生じ得ることを防止する観点からは、権限付与の裁判については、譲渡をすることができる期限(権限付与の効力の終期)を定めることが考えられる。また、通常、裁判の申立てをする際には、譲渡をする第三者が定まっていると考えられ、あまりに長期間権限の行使を認めることは、相当でないと考えられる。他方で、権限付与の効力の終期を一律に定めると、例外的な事情があるケースに対応することができない。
以上を踏まえ、本文②では、原則として、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判により権限を付与された共有者が事件の終了した日から2箇月間その権限を行使しないときは、その裁判は、その効力を失うとしつつ、この期間は、裁判所において伸長することができるとすることを提案している(期間の伸長がされ、権限行使期間が長期となると、事情の変更により、供託した金額が相当でなくなるケースもあり得るため、伸長は飽くまでも例外的に認められるものであり、譲渡の見込みがあり、それほど間を置かずに譲渡することができるケースに限られると解される。)。
なお、ここでは、譲渡の効力がその終期までに有効に生じていなければならないことを前提としている。そのため、停止条件の成就(他の共有者の持分の譲渡の効力の発生)も、権限行使期間の終期までに完了している必要がある。他方で、持分の移転の登記は、この終期までに行われている必要はない(第17回会議での意見を踏まえたものである。)。
11 相続財産についての共有に関する規定の適用関係相続財産についての共有に関する規定の適用関係について、次のような規律を設けるものとする。
相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
(補足説明)
部会資料42の第3では、遺産共有において持分の価格の過半数で決する際には法定相続分(又は指定相続分)を基準とすることとしていた。また、部会資料42の第1の3及び4では、所在等不明相続人の共有持分の取得又は譲渡を可能とする規律を導入することを提案していたが、その対象となる共有持分の割合は、法定相続分又は指定相続分の割合によることとしていた。
判例によれば、基本的に、遺産共有にも、民法第249条以下の規定が適用されるところ、部会資料42で掲げた規律以外にも、その基準となる持分が問題となるため(前記9及び10参照)、従前の議論を踏まえ、本文では、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とすることとしている。
なお、部会資料42の第3では、新たに設ける共有に関する規律が、原則として遺産共有にも適用される旨を記載していた。このことを変更するものではないが、現行法においても、共有に関する規定は、原則として、遺産共有にも適用されると解されているものの、その旨を明示的に定める規定はないため、ここでは、その旨を特に明示することとはしていない。 -
【資料47】共有関係の見直し(通常の共有関係の解消方法)
(通常の共有関係の解消方法)
第1 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有者の一人又は数人に、他の共有者の持分の価額に相当する金銭を支払わせて、その持分を取得させる方法
③ 裁判所は、②に掲げる方法により共有物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合には、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割の判決において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(補足説明)
本文は、②を除き、部会資料37と基本的に同じである。
部会資料37においては、共有物分割に関するこれまでの判例の考え方を踏襲することを前提に、同様の枠組みをとっている遺産分割に関する規律を参考に、「特別の事情があると認めるとき」(家事事件手続法第195条参照)に賠償分割を認める旨の規律を設けることを提案していた。第16回会議においては、「特別の事情」という要件を設けることによって、賠償分割の検討順序が現物分割に劣後するという疑義が生じ得るという意見や、「特別の事情」の内容を本文から読み取ることができないといった意見があった。
改めて検討すると、検討順序において賠償分割と現物分割とを同順位としつつ、賠償分割については最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁が判示しているような判断要素をすべて明文化しようとしても、明文化すること自体が困難であるのみならず、賠償分割についてのみ判断要素に関する規律を設ける限り、賠償分割の検討順序が現物分割に劣後するかのような疑義が生ずることを回避することができないと考えられる。
そうすると、裁判所が命ずることができる共有物の分割方法として、現物分割(いわゆる部分的価格賠償を含む。)及び賠償分割(いわゆる全面的価格賠償)があることを列挙する規律を設ける一方で、賠償分割における判断要素については規律を設けず、引き続き判例法理に基づく判断に委ねることとすることが適切であるように思われる。
そこで、本文②において、裁判所が命ずることができる共有物の分割方法として、現物分割及び賠償分割があることを列挙した上で、本文③において、これらの分割方法によっては分割することができない場合、又はその価格を著しく減少させるおそれがある場合に、裁判所が競売を命ずることができる旨の規律を設けることを提案している。 -
【資料40】共有制度の見直し(通常の共有における共有物の管理)
(通常の共有における共有物の管理)
1 共有物の変更行為
民法第251条の規律を次のように改めることで、どうか。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)を加えることができない。
(補足説明)
1 共有物の処分に関する規律について
本文は、部会資料27の本文1における提案と同じである。
第13回会議において、変更行為に該当するものであっても、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しない行為について、民法第252条の規律により持分の価格の過半数により決定できるとする規律を設けることで、共有物の処分行為に関する規律への影響が生じないか検討する必要がある旨の指摘があった。
そこで改めて検討すると、共有物の処分行為が民法第251条の「変更」に当たるかどうかについては争いがあるが、いずれの解釈をとるにせよ、本文における提案は、「変更」のうち、共有物の改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものについて全員同意の例外を設けるとするものであり、物理的変更を適用対象とするのであって、いわゆる法律上の処分行為については適用が想定されない。
そのため、本文のように規律を改めたとしても、「変更」に法律上の処分が含まれるか否かは、引き続き解釈に委ねられると考えられる。
2 「著しく多額の費用」について
第13回会議においては、「著しく多額の費用を要しない」の要件に関し、実際には著しく多額の費用を要するものであっても、変更行為をする共有者自身がこれを負担し、他の共有者に求償しない(負担を免除する)などして、他の共有者に負担を負わせないのであれば、この要件を充たすとすべきとの指摘があり、これに反対する意見もあった。
まず、第13回会議での議論を踏まえると、この要件の意義をどのように考えるべきかについて異なる意見があるように思われる。すなわち、今回の案は、いわゆる軽微な変更行為を全員同意の対象から除外することを目的とするものであるが、この要件は、飽くまでも他の共有者が負うことになる負担に着目し、その負担が小さいものを除外するためのものであるとの考え方と、この要件は、「共有物の改良を目的とする」との要件と相まって、当該共有物の変更が物理的にも大幅な変更を伴うものではないことを担保するものであり、他の共有者の負担が小さいかどうかだけで判断されるものではないとする考え方があると考えられる。
もっとも、前者の考え方をとっても、改良行為であることが別途要件となるため、結局、共有物に大幅な物理的変更を加えるようなケースは、基本的に改良行為とはいえないことになるし、後者の考え方をとっても、他の共有者の費用負担の程度は判断要素の一つになるので、実際の適用においてそれほど大きな違いはないと考えられる。
いずれにしても、軽微変更の要件の有無は、事案に応じて総合的に判断されるべきものであるが、最終的な費用負担者が誰かはその判断要素の一つとなると考えられる。
ただし、共有物の改良行為を行う共有者がその費用を他の共有者に求償しない(債務を免除する)ことを、軽微変更の要件の有無の判断の際に考慮することが一般的に可能であるとしても、具体的にどのような事情があれば考慮することができるのかは検討を要する。債務の免除は、債権者が債務者に対してその旨の意思表示をすることで効力を生ずることになると考えられるため、予めそのような意思表示がされていなければ、軽微変更の要件の有無の判断に当たって考慮することができないとも考えられる。
なお、第13回会議では、地方公共団体等から補助金が出ていた場合にも、「著しく多額の費用を要しない」との要件を充たすとの指摘があったが、その補助金が誰に対して支払われ、どのような私法上の効果があるかなどを踏まえて判断する必要があると考えられる。
2 共有物の管理行為
(1) 民法第252条の規律について
民法第252条の規律を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の管理に関する事項を定めるときは、民法第251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
② 共有物を使用する共有者(①本文の規律に基づき決定された共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用する共有者を除く。)がいる場合であっても、その者の同意を得ることなく、①本文の規律に基づき共有物の管理に関する事項を定めることができる。
③ ①本文の規律に基づき決定された共有物の管理に関する事項の定めを変更するときも、①本文と同様とする。ただし、その定めに従って共有物を使用する共有者がいる場合において、その定めが変更されることによってその共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その定めを変更することについてその共有者の承諾を得なければならない。
④ ①本文の規律に基づき共有物につき第三者に対して賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利(以下「使用権」という。)を設定した場合(共有者の全員の同意による場合を除く。)には、次の各号に掲げる使用権は、それぞれ当該各号に定める期間を超えて存続することができない。
a 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の使用権 10年
b aの使用権以外の土地の使用権 5年
c 建物の使用権 3年
d 動産の使用権 6か月
(注)②及び③に関し、共有者が第三者に当該共有物を使用させている場合には、共有者が共有物を使用していると評価する。
(補足説明)
1 本文は、④を除き、部会資料27の本文2(1)と同じである。
2 「特別の影響」について(本文③)
第13回会議において、本文③の「特別の影響」の意義に関連して、「特別の影響」を及ぼす具体的場面について整理すべきであるとの指摘があった。
この「特別の影響」という規範的な要件を設けている趣旨は、共有物の種類及び性質が多種多様であることに鑑みて、共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用している共有者の同意を要するかを、「特別の影響」の判断の中で柔軟に対処することができるようにすることにある。したがって、「特別の影響」を及ぼすかについては、対象となる共有物の性質及び種類に応じて、共有物の管理に関する事項の定めを変更する必要性・合理性と共有物を使用する共有者に生ずる不利益を踏まえて、具体的な事案ごとに判断することになると考えられる。
共有不動産について問題になり得る例について検討すると、①A、B及びCが各3分の1の持分で土地(更地)を共有している場合において、Aが当該土地上に自己が所有する建物を建築して、当該土地を利用する定めがあるときに、Aが建物を建築した後に、B及びCの賛成によって、当該土地を使用する共有者をBに変更するケース(試案第1の1(1)の補足説明3(2)参照)のほかに、②①と同様の例において、Aによる土地の使用期間を相当長期間(例えば30年間)とすることを定めた上で、Aが建物を建築して当該土地を使用しているときに、B及びCの賛成によって、当該土地の使用期間を短期間(例えば5年間)とする変更をするケース、③A、B及びCが各3分の1の持分で建物を共有している場合に、当該建物を店舗営業のために使用する目的でAに使用させることを定めた上で、Aが当該建物を使用することで生計を立てているときに、B及びCの賛成によって、当該建物の使用目的を住居専用とする変更をするケースなどが考えられる。
なお、共有物を使用する共有者が、共有物の管理に関する事項の定めの変更について争う場合には、その変更によってその共有者に特別の影響を及ぼすとして、当該変更の効力がないことを前提に差止め等を求めるほか、本文③の規律に基づいて当該定めを再度変更することや、共有物分割請求によって対応することが考えられる。
3 共有物に使用権を設定する場合の法律関係について(本文④)
(1) 借地借家法が適用される建物賃貸借について
第13回会議において、借地借家法が適用される建物賃貸借について、本文④cの規律との関係を整理すべきである旨の指摘があった。
借地借家法の適用のある建物賃貸借は、基本的に、その存続期間を本文④c所定の期間(3年)以内に制限したとしても、建物の賃貸人は、正当の事由があると認められる場合でなければ契約の更新をしない旨の通知又は建物賃貸借の解約の申入れをすることができず(借地借家法第28条)、事実上長期間にわたって継続する蓋然性があることから、建物が共有に属する場合に建物を賃貸するのは共有者に与える影響が大きいため、共有者全員の合意を必要とすると考えられる。したがって、共有者の持分の価格の過半数をもって借地借家法の適用がある建物賃貸借をした場合には、その契約は基本的に無効になると解される。
これに対し、契約の更新がないこととする旨の定めを設ける定期建物賃貸借(同法第38条第1項)、取壊し予定の建物の賃貸借(同法第39条第1項)、一時使用目的の建物の賃貸借(同法第40条)については、契約の更新に伴って事実上長期間にわたって継続するおそれがなく、共有者に与える影響が大きいとはいえないと考えられることから、本文④cの規律に基づいて、その存続期間を所定の期間(3年)以内とする限りにおいて、共有持分の価格の過半数の決定により設定することが可能であると解される。
なお、部会資料27の本文2(1)④は、後段で、「契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は当該各号に定める期間とする。」としていたが、これでは、持分の価格の過半数を有する土地の共有者が、存続期間を30年と定めて建物の所有を目的とする土地の賃貸借をした場合であっても、5年間を限度に建物所有目的の土地賃貸借が有効に成立するかのように読めてしまい、混乱が生ずることになる。
そこで、本資料では、後段を削除している。
(2) 一部の共有者の同意なく借地権を設定した場合の法律関係について
第13回会議において、主として取引の相手方(賃借人)の視点から、一部の共有者の同意なく借地権(借地借家法第2条第1号参照)を設定した場合の法律関係について整理すべきである旨の指摘があった。
そこで、例を挙げて検討すると、A、B及びCが各3分の1の持分で土地を共有している場合に、建物を所有する目的でYに対し当該土地を賃貸することについて、A及びBは賛成したのに対し、Cが異議を述べた場合には、借地権の設定をすることができないことになる。
他方で、A及びBとYとの間では賃貸借契約が有効に成立しているが、Cが引渡しを拒絶すれば、当該契約は履行不能(債務不履行)となり、Yは基本的に賃貸借契約を解除することができるものとも考えられる。また、借地権を設定することができないことによってYに損害が生じた場合には、YはA及びBに対して損害賠償を求めることができることになると考えられる(民法第415条)。
いずれにしても、この問題は、現行法の下でも生じ得るものであり、本文④の規律を設けたとしても引き続き解釈に委ねられると考えられる。
なお、共有者が選任する管理者(部会資料41の第4)については、共有者による共有物の管理に関する事項の定めに従って、その権限に制限を受けることがあり、取引の相手方はその制限を知る機会に乏しいことから、取引の相手方を保護する規定を設ける必要があるのに対して(部会資料41の第4の2③参照)、共有者についてはこのような権限の制限がなく、取引の相手方を保護する特別の規定を設ける必要性は高くないと考えられることから、相手方保護規定を設けることとはしていない。
(2) 共有者全員の合意とその承継について
共有者間における民法の管理行為に関する規律を変更する合意の可否並びに共有者間における合意がされた場合のその特定承継人に対する効力及び特定承継人の保護についての規律は、設けないとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料27の本文2(2)では、共有者間における民法の管理行為に関する規律を変更する合意や、共有者間における合意がされた場合のその特定承継人に対する効力及び特定承継人の保護の在り方について取り上げていたが、第13回会議において、これらの論点については新たな規律を設けるべきでないという意見や、仮に規律を設けるとしても適切な規律を設けることが難しいとの意見があった。これらの議論を踏まえて、本資料では、これらの論点について特段の規律を設けないこととしている。
3 共有物の管理に関する手続
共有物の管理に関する事項の定め等につき各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決する際の手続についての規律は、設けないとすることで、どうか。
(補足説明)
第13回会議においては、共有物の管理に関する事項を持分の価格に従ってその過半数で決する際には、所在等が知れている共有者にその対象を限るなどした上で、他の共有者の意思表明の機会を保障することに配慮すべきであるとの指摘があった。
そこで改めて検討すると、仮に、管理に関する事項を決するに当たり、共有者間での協議又は他の共有者への通知を義務付ける規律を設けるとすると、この義務を履行しなかった場合の効果が問題となるが、共有者による共有物の管理に関する事項の決定を無効とする(共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件とする)と、多数の共有持分を有する共有者の権利を過度に制約することになり妥当でないと考えられる。また、協議又は通知の規律を訓示的なものとする(共有物の管理に関する事項の定め等をするための要件としない)ことも考えられるが、結局、共有者による協議又は通知を強制することができないことになるため、規律を設ける意義が乏しいことになる。
そうすると、結局、少数持分を有する共有者の意思表明の機会を保障しつつ、多数持分を有する共有者の権利を調整する規律を適切に置くことは難しいと考えられる。
そこで、結論としては、本文において、共有物の管理に関する事項の定め等につき各共有者の持分の価格に従ってその過半数で決する際の手続については、規律を設けないとする提案を維持している。
なお、実務上、紛争予防の観点から、管理に関する事項を決する際には、当事者間において協議を行うことが望ましいと考えられるが、本文の提案は、当事者によるこのような工夫を否定するものではない。
4 共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等
共有物を使用する共有者と他の共有者の関係等に関し、次のような規律を設けることで、どうか。
① 共有物を使用する共有者((1)の規律に基づき決せられた共有物の管理に関する事項についての定めに従って共有物を使用する共有者を含む。②においても同じ。)は、その使用によって使用が妨げられた他の共有者に対し、共有持分の価格の割合に応じて、その使用の対価を償還する義務を負う。ただし、共有者間において別段の合意があるときは、当該共有者間においては、その合意に従う。
② 共有物を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物を保存しなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
本文①は、部会資料27の本文4①と同じである。
2 本文②について
第13回会議においては、「共有者は、自己の責めに帰すべき事由によって共有物を滅失し、又は損傷したときは、他の共有者に対し、共有持分の価格の割合に応じて、その損害の賠償をする義務を負う。」とする部会資料27の本文4②後段の規律を設けるべきではない旨の意見があった。
改めて検討すると、共有者間の損害賠償の問題は、共有者間の善管注意義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求や、共有持分権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求によって解決されるべきものであるから、必ずしも部会資料27の本文4②後段のような規律を設ける必要性はないと考えられる
そこで、本資料では、部会資料27の本文4②後段のような規律を設けないこととしている。 -
【資料37】共有関係の見直し(通常の共有関係の解消方法)
第1 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改めることで、どうか。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、特別の事情があると認めるときは、共有物の分割の方法として、共有者の一人又は数人に他の共有者に対する金銭債務を負担させる方法による分割を命ずることができる。
③ 共有物の現物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合において、②で定める方法による分割を命ずることができないときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
④ 裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
2
○試案第1の2 通常の共有関係の解消方法
(1) 裁判による共有物分割
裁判による共有物分割に関する規律(民法第258条)を次のように改める。
① 共有物の分割について協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、共有者は、その分割を裁判所に請求することができる。
② 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
ア 共有物の現物を分割する方法
イ 共有物を一人又は複数の共有者に取得させ、この者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法
ウ 共有物を競売して換価する方法
③ 裁判所は、共有物を一人又は複数の共有者に取得させることが相当であり、かつ、その者に取得させることとしても共有者間の実質的公平を害するおそれがないときには、②イで定める方法による分割を命ずることができる。
④ 共有物の現物を分割することができない場合、又はその分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合において、②イで定める方法による分割を命ずることができないときは、裁判所は、②ウで定める方法による分割を命ずることができる。
⑤ 裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
(注1)共有物の分割方法の検討順序については、これを改める必要性を踏まえて引き続き検討する。
(注2)共有物分割に関する紛争に関して、民事調停を前置する規律を設けることについて、引き続き検討する。
(注3)裁判所は、換価のための管理者を選任した上で、当該管理者に対して共有物を任意売却することによって換価を命ずることができるとする規律について慎重に検討する。
(注4)複数の共有物を一括して分割する場合においても、①から⑤までの規律が適用されることを前提としている。
(注5)複数の共有物を一括して分割する請求がされた場合に、裁判所が、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることについては、引き続き検討する。(補足説明)
1 共有物分割に関する協議(本文①)
民法第258条第1項の「協議が調わないとき」とは、一部の者が協議に応じないために協議をすることができないときも含むと解されており、このような解釈を明確化するために、試案第1の2(1)①において、「協議をすることができないとき」にも裁判所に分割を請求することができることとすることを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかったことから、本文①においてこの提案を維持している。
2 共有物分割方法の明確化(試案第1の2(1)②)試案第1の2(1)②において、裁判所が命ずることができる共有物の分割方法として、現物分割、価格賠償による分割(以下「賠償分割」という。)及び競売による分割があることを明示して列挙することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかった。そのため、本資料では、試案の考え方を基本的に踏襲している。
もっとも、試案では、「現物を分割する方法」(試案第1の2(1)②ア)との表現を用いるとともに、これとは別に、価格を賠償しつつ、共有者の一部が共有物を取得する方法を明示していた(試案第1の2(1)②イ)が、後者のような方法で共有物を取得することも「現物」を取得するものであり、やや表現の上で整理が不十分な点もあったように思われる。また、試案では、いわゆる部分的価格賠償(持分の価格以上の現物を取得する共有者に、持分の価格を下回る現物しか取得しない他の共有者に当該超過分の対価を支払わせて過不足を調整する方法)が、現物を分割する方法と持分の価格を賠償させる方法のいずれに当たるかが不分明であり、適用に当たって混乱を生じさせるおそれがあったように思われる。
そこで、本資料では、本文②のとおり、端的に金銭による調整ができることを示して、賠償分割(全面的価格賠償や部分的価格賠償)が可能であることを明示することとし、本文②及び本文③のとおり、現物分割、賠償分割及び競売による分割の方法があることが法文上明らかになるようにしている。なお、本資料では、「現物分割」という用語は、物理的に共有物を分割することを意味するものとして用いており、部分的価格賠償による分割は、現物分割の性質を有するが、本文②により金銭による調整をするものであると解される。
3 賠償分割の判断基準(本文②)
試案第1の2(1)③において、最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁が「共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき」には賠償分割を行うことができるとされたことを踏まえて、「共有物を一人又は複数の共有者に取得させることが相当であり、かつ、その者に取得させることとしても共有者間の実質的公平を害するおそれがないとき」に、裁判所が賠償分割を命ずることができる旨を明確化することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、この提案に賛成する意見が多数であり、反対するものはほとんどなかった。
他方で、パブリック・コメントにおいては、試案第1の2(1)③が、平成8年最判が明示している判断要素の一部のみを抽出していることに対する懸念を示す意見も寄せられた。
改めて検討すると、確かに、平成8年最判が明示している判断要素の一部のみを抽出する形で規定を置くものとすると、他の判断要素については充足が不要である趣旨であるとの誤解を生むおそれがある一方で、平成8年最判が判示しているような判断要素をすべて明示し、法文化することは困難であると考えられる。
他方で、本文②のとおり金銭債務を負担させる方法をとる際には、これまでに判例が述べているような一定の事情が必要であること自体は明らかであ
り、そのことは明確化する必要があるように思われる。
そこで、本文②においては、これまでの判例の考え方を踏襲することを前提に、同様の枠組みをとっている遺産分割に関する規律を参考に、「特別の事情があると認めるとき」(家事事件手続法第195条参照)に賠償分割を認める旨の規律を設けることを提案している。
(参考)
○ 家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)
(債務を負担させる方法による遺産の分割)
第百九十五条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。4 共有物の分割方法の検討順序(本文③)
試案第1の2(1)④において、競売分割を補充的な分割方法とする民法第258条第2項の枠組みを維持し、賠償分割と現物分割の検討順序の先後関係をつけないとすることを提案するとともに、試案第1の2(1)(注1)において、共有物の分割方法の検討順序については、これを改める必要性を踏まえて引き続き検討する旨を注記していた。
パブリック・コメントにおいては、賠償分割と現物分割の検討順序の先後関係を一律に決めるとすれば妥当な解決に支障が生じ得ること、賠償分割を優先する規律を設けた場合には、現物分割が相当である事案においても、賠償分割に係る賠償価格の当否を判断する必要が生じ、争点が複雑になること等を理由として試案第1の2(1)④の提案に賛成する意見が多数であった。
改めて検討すると、そもそも、現物を分割することと、賠償分割をすることは、矛盾するものではない(部分的価格賠償は、現物を共有者の全部又は一部に分割した上で、金銭で調整するものである。)から、これらに先後関係をつけることは困難であると思われる。なお、全面的価格賠償と現物分割との間に先後関係をつけるべきか(言い換えると、全面的価格賠償を実施することについて、現物を分割することができないことを必要条件とするのか)も問題となり得るが、現在の判例では、現物を分割することができないことが全面的価格賠償をするための必要条件として掲げられているわけではないのであり、法律上先後関係を決する必要まではなく、現物分割の困難さは裁判所が判断をする際の考慮要素の一つとするにとどめることで足りるように思われる。
また、競売分割と他の分割の関係については、これを並列的に捉えるべきとの考え方もあり得るが、共有者中に共有物の取得を希望する共有者がいる場合には、これを優先すべきであると思われ、入札価格で雌雄を決し、共有者を優先するものではない競売分割は、共有者に共有物を取得させることが困難である場合に実施することが適当であると考えられる。
そのため、試案と同様に、共有物の現物を分割することができない場合、又は現物の分割によってその価格を著しく減少させるおそれがある場合(これらの現物分割には、前記のとおり、部分的価格賠償による分割も含まれる。)
において、現物を分割しない方法による共有物分割(全面的価格賠償による分割)もすることができない(「②で定める方法による分割を命ずることができない」)ことを競売分割の要件としている。
5 給付命令(本文④)
(1) 試案第1の2(1)⑤において、価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合における金銭債務の履行を確保するための手続的措置等に関する規律として、遺産分割に関する規律(家事事件手続法第196条)を参考に、裁判所は、共有物の分割を命ずる場合において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができるとする規律を設けることを提案していた。
パブリック・コメントにおいて、この提案に賛成する意見が多数であり、反対意見はなかった。
(2) 裁判所が共有物を誰にどのように分割するといった分割の内容を定めることと、その定められた内容を前提に引渡しや支払等の給付命令を発することとは別個に検討することができる問題である。
例えば、共有物分割の内容として、共有者の一人に賠償金の支払債務を負わせることと、その債務の給付命令を発することは別の問題であり、共有物の分割の訴えにおいては、裁判所はその支払債務のみを定めることができ、給付命令を発するには、原告又は被告が給付命令を求める訴えを提起していなければならないとする見解もあり得る。
もっとも、共有物の分割の訴えは、その本質において非訟事件であって、裁判所は、その裁量により、原告や被告が求めていない内容の分割方法を選択することも可能であると考えられている。そのため、事案によっては、給付命令を求める訴えを予め提起することが当事者として困難であることもある。また、例えば、原告が共有物を取得する全面的価格賠償の方法による分割を求めたのに対し、被告が現物分割を求めて強く争っている場合に、被告から予備的にでも給付命令を求める訴えを提起することは困難であるようにも思われる。
そうすると、前記の見解によれば、事案によっては、共有物分割請求訴訟において定められた内容が任意に実現されず、改めて給付命令を求める訴えを提起しなければならないといった事態も生じ得ることになる。しかし、別訴の提起を要することとしても、審理すべき内容は弁済の有無程度であり、その分割の内容は既判力等によって争うことはできないことからすれば、紛争の一回的解決の見地からそのような別訴提起を求めることは妥当でないように思われる。そのため、共有物分割請求訴訟においては、裁判所が職権で給付命令を発することができるとの見解も有力であり、パブリッ
ク・コメントにおいて試案に賛成する意見が多く出されていることも、このような見地からであるように思われる。
以上を踏まえ、本資料では、試案と同様の提案をし、共有物分割訴訟にお
いては、職権で給付命令を発することができることとしている。そして、この規律に基づいて登記手続をすべきことを命ずる確定判決を得た共有者(共有不動産を取得した共有者)は、不動産登記法第63条第1項に基づいて単独で登記申請をすることができるものと考えられる。
なお、給付命令が当事者の不意打ちにならないようにするとの観点からすると、当事者が訴状等において特定の給付命令を求め、その希望を明示している方が望ましいと考えられるのであり、本資料の提案は、当事者のそのような活動を否定するものではない。
6 民事調停前置(試案第1の2(1)(注2))について
試案第1の2(1)(注2)において、共有物分割請求について民事調停を前置する規律を設けることについて、引き続き検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、柔軟な解決に資するとして賛成する意見もあったが、民事調停を前置すると紛争解決が遅延するという理由でこれに反対する意見もあった。
共有物分割請求について民事調停を前置する規律を設けることにより、第三者が関与するなどして迅速かつ柔軟に解決することができるケースはあると考えられるものの、その一方で、一律に調停手続の利用を強制すると、当事者に過度な負担を課すことになるおそれがある上に、最終的な紛争の解決までにかかる時間が延びるおそれがあることは否定できない。
そこで、本文では、調停手続を利用するかどうかを当事者の判断に委ねる現行法の規律を維持することを前提としている。
7 任意売却による分割の規律(試案第1の2(1)(注3))について
試案第1の2(1)(注3)では、共有物の管理者を選任した上で、その管理者に対して換価を命ずることができるとする規律について、慎重に検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、任意売却を命じた場合、売却ができず、又は事後的に不適当となった場合に対処する手段がないこと等から、このような規律を設けることに慎重な意見が多数であった。また、このような規律を設けなくとも和解又は調停の協議の中で任意売却を実現することも可能であることに鑑みれば、任意売却による分割の規律を設ける必要性は高くはないと考えられる。
そこで、本文ではこのような規律を設けることを提案していない。
8 複数の共有物の一括分割(試案第1の2(1)(注4)及び(注5))について
試案第1の2(1)(注4)において、複数の共有物を一括して分割の対象とする場合においても、試案第1の2(1)①から⑤までの規律が適用されることを前提とする旨を注記した上で、試案第1の2(1)(注5)において、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることについて、引き続き検討することを注記していた。
パブリック・コメントにおいては、分割方法の多様化・弾力化に資することから試案第1の2(1)(注5)の規律を設けることについて引き続き検討することに賛成する意見もあったが、裁判所が一部の共有物について先行して競売を命じた判決に係る上訴手続を認めるとすると、当該共有物の代金を賠償金などに活用する目的を実現するためには、他の共有物の分割手続に係る審理を中断せざるを得ず、かえって手続が迂遠となり紛争解決が遅延するとの指摘もあった。
また、このような規律を設けなくとも和解又は調停の協議の中で一部の共有物の任意売却を実現することや裁判上の和解によって共有物を競売に付すことができる場合もあると考えられていることに鑑みれば、一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設ける必要性は高くはないと考えられる。
そこで、本文では一部の共有物について先行して競売を命ずることができる規律を設けることを提案していない。 -
【資料41】共有制度の見直し(共有物の管理に関する行為を定める際の特則等)
第1 共有物の管理に関する行為を定める際の特則
1 催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則
催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合に関し、次の案をとることで、どうか。
共有者が他の共有者に対して1箇月を下らない期間を定めて共有物の管理に関する事項(共有者全員の同意を要する変更行為を除く。)を決することについて異議(意見)がある場合にはその期間内に異議(意見)を述べるべき旨の催告をしたにもかかわらず、当該他の共有者が異議(意見)を述べなかったときは、当該事項については、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
(注1) 本文の案とは別に、共有者全員の同意を要する変更行為(共有持分の喪失を伴うものを除く。)についても、催告をし、異議(意見)を述べなかった共有者以外の共有者により決することができることとするとの案がある。
(注2) 本文の案とは別に、裁判所の決定があって初めて当該他の共有者以外の共有者により決することができる等の効果が生ずることとし、その決定の前提として、催告は裁判所が行うこととするとの案がある。
(注3) 本文の案の要件に付加し、持分の価格の3分の1を超える持分を有する者の同意がなければ管理に関する事項(共有者全員の同意を要する変更行為を除く。)を決することができないとするとの案がある。
(補足説明)
1 特則の対象(本文及び(注1))について
(1) 第14回会議では、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則に関し、その対象を共有者全員の同意を要しないものに限定する案と、限定しない案について検討したが、両案ともにこれを支持する意見があった(なお、同会議では、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合と、所在等不明共有者がいる場合とは問題の状況が異なるため、区別して検討すべきとの指摘もあったこと等を踏まえ、本資料では、これらを区別して検討することとしている。)。
改めて検討をすると、共有物の変更行為は、その行為の重大性から、これを実施するのに共有者全員の同意が要求されているのであり、共有者の一部が同意をしていなくても実施することができる行為とは、利益状況が異なるものではないかと思われる。また、対象行為を限定しない案は、結論として、所在等が判明して、催告を現実に受けており同意をすることができる状況にあるのに、あえてこれに同意をしなかった者を、同意をしたものと同様に扱うものであるが、同意を変更行為の要件としていることと矛盾しているとの指摘も考えられる。
以上を踏まえ、本資料では、その対象を限定する案を中心に検討する趣旨で、本文にその旨の案を提示し、(注1)では、対象を限定しない別案についても取り上げている。
(2) なお、変更を伴うものを除く共有物の管理に関する事項は、共有者間で一定のルールに従って定めをすれば、そもそも共有者の一部が同意しなくともこれを実施することができるものであるから、本文のとおりの特則を設けることは、この定めをする際のルールを新たに付加するものと位置付けられるのであり、実質的にも、催告を受けた者が同意をしたものとみなすものではないと解される。
(3) また、第14回会議では、「異議を述べなかった」との表現では、賛成意見を述べた場合も含まれることとなるため、表現として適切ではないとの指摘があった。本資料では、別案として、「意見を述べなかった」との表現を用いることについても提案している。
(4) そのほか、本文では、公告の期間に関し、1箇月を下ることができないものとし、最低限、期間として1箇月確保することとしている。なお、第14回会議では、1箇月では、期間として短い場合があるとの指摘もあったが、例えば、対案を検討する期間を確保する必要がある場合には、差し当たり異議を述べ、他の共有者だけで決することがないようにすればよいと解され(異議を述べる際に、対案を示す必要はない。)、そうであれば、期間の下限を1箇月と設定しても特段の不利益は生じないように思われる。
2 裁判所の関与の是非等(本文及び(注2)について)
(1) 第14回会議では、裁判所の関与の是非について検討し、これを要求すべきとの指摘もあったが、他方で、これを要求することは、当事者の負担も重く相当でないとの指摘もあった。
改めて検討をすると、所在等が不明な共有者がいるケースでは、所在等が不明であること等を判断する必要があり、その判断をする機関として裁判所の関与を求める意義があるのに対し、催告をしたが異議を述べない共有者がいるケースでは、裁判所が判断すべき事項が特になく、裁判所の関与を求める意義に乏しいとも考えられる。
また、立証方法を用意するために裁判所の関与を求めるべきとの意見も考えられるが、基本的に紛争の解決をその役割とする裁判所にそのような役割を期待すべきでないとの指摘も考えられる。
以上を踏まえ、本資料では、裁判所の関与を要求しない案を中心に検討する趣旨で、本文のとおり記載をし、(注1)では、裁判所の事前関与を求める別案についても取り上げている。
(2) なお、第14回会議では、異議を述べなかったことを適切に証明するために、裁判所とは別の公的機関がこれを証明する制度を設けるべきとの指摘があった。
確かに、この指摘は共有物の円滑な利用の観点からは重要であると思われるが、異議を述べたかどうかといった事柄は、この共有の場面に限らず、民事の法律関係一般で問題となり得るものであり、この場面に限って証明制度を設けることについては慎重な検討を要すると考えられる。
3 最低限の同意(注3)について
(1) 部会資料30では、持分の価格の3分の1を超える持分を有する者の同意がなければ管理に関する事項(共有者全員の同意を要する行為を除く。)を決することができないとすること等について検討することを提案していたが、第14回会議では、対象行為を限定するかどうかとも関連して、様々な意見があった。
仮に、本文のとおりその対象行為を限定するのであれば、その行為が共有者に与える影響はそれほど大きなものではないと考えられるため、最低限の同意の要件を設けないとすることも考えられる。
そこで、本文では、最低限の同意の要件を設ける案を取り上げず、(注3)で別案として取り上げている。
(2) なお、このこととも関連するが、この仕組みを用いる際には、共有者全員に対して催告をすることになるのかが問題となる。絶対過半数を得ている場合は別途の議論があり得るとしても、相対過半数しか得ていない場合に、少数者のみでこれを決する際には、全員に意見表明の機会を保障すべく、基本的に全員に対して催告をすることになるとも思われる。
2 所在等不明共有者がいる場合の特則
所在等不明共有者がいる場合に関し、次の案をとることで、どうか。
共有者は、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所の決定(許可)を得て、所在等不明共有者以外の共有者の同意により共有物に変更を加え、又は、所在等不明共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる。
(注1) 本文の案とは別に、裁判所の決定がなくとも、所在等不明共有者以外の共有者の同意により共有物に変更を加えること等をできることとするとの案がある。
(注2) 本文の案とは別に、対象となる行為を持分の価格の過半数で決する行為に限定するとの案がある。
(注3) 本文の案の要件に付加し、持分の価格の2分の1を超える持分を有する者の同意がなければ共有者全員の同意を要する行為をすることはできず、また、持分の価格の3分の1を超える持分を有する者の同意がなければ管理に関する事項(共有者全員の同意を要する行為を除く。)を決することができないとするとの案がある。
(注4) 裁判所は、所在等不明共有者に対して、1箇月を下らない期間を定めて、異議(意見)がある場合にはその期間内に異議(意見)を述べるべき旨の公告をしたにもかかわらず所在等不明共有者が異議(意見)を述べなかったときは、本文の決定をしなければならない。
(補足説明)
1 所在等不明共有者がいる場合の特則
前記第1の1の補足説明のとおり、第14回会議での議論を踏まえ、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合と区別して、所在等不明共有者がいる場合について検討している。
なお、知ることができない共有者(不特定共有者)については、実務上の運用としてこの仕組みの利用が困難なケースがあるとは考えられるものの、一律に否定する理由はないように思われるため、本資料では、不特定共有者についても、所在不明共有者と同様に検討している。
2 裁判所の決定の要否(本文及び(注1))について
第14回会議では、管理に関する事項の決定や変更行為の効果を発生させるために裁判所の決定を要するかどうかについて両論を提示し、賛否両論があった。
もっとも、所在等不明共有者がいる場合の特則は、所在等不明共有者に対して催告の通知が実際に到達しないままに、共有物に関する行為を実施するものであり、その共有者を不当に害さないためにも、所在等が不明かどうかについては、事前に慎重な認定が必要であるとも思われる。現行民法においても、不在者財産管理制度や、公示による意思表示の制度を設けているが、事前に裁判所が不在者等の認定をしなければ、実体上の効力は生じない。そのような観点からすると、裁判所の決定を要するように思われる。
以上を踏まえ、本資料では、裁判所の決定を要する案を中心に検討する趣旨で、本文のとおり記載をし、(注1)では、裁判所の決定を要しないとする別案についても取り上げている。
3 対象となる行為(本文及び(注2))について
第14回会議では、所在等が不明である共有者がいる場合の特則に関し、その対象を共有者全員の同意を要しないものに限定しない案と、限定する案について検討したが、両案ともにこれを支持する意見があった。
改めて検討をすると、今回の仕組みを検討することとなった契機を考えると、その対象は限定すべきではないとも考えられる。すなわち、現行法においても、不在者財産管理人が選任されれば、その同意を得て、共有者は共有物を変更し、又は管理に関する事項を決することができるし、検討中の所有者不明土地管理人を選任することでも対応が可能であるが、事実上報酬の支払を強いられるなど申立人となる共有者の負担は決して軽くはない。また、共有者はそもそも共有物をその持分に応じて使用することができるのであり、過度な負担を負うことなくその使用を認めるための方策を検討する必要性は高い。そのため、所在等不明共有者の手続保障を図りながら、申立人となる共有者の負担を軽減するために、不在者財産管理制度や所有者不明土地管理制度とは別の制度を設ける必要がある。
このような観点からすると、その対象行為は絞るべきではなく、広くすべきとの意見も考えられる。
他方で、共有者の全員の同意を要する行為は、共有者に重大な影響を及ぼすものであるし、不在者財産管理人等を選任しても、その管理人等が当然に同意をするものではないから、その対象から除外すべきとの指摘も考えられる。
以上を踏まえ、本資料では、差し当たり、対象行為を限定しない案を中心に検討する趣旨で、本文のとおり記載をし、他方で、(注2)では、対象行為を限定する別案についても取り上げている。
なお、従前の議論と同様に、本文の案は、共有持分権の喪失を伴う行為はその対象行為に含まないことを前提としている。
4 最低限の同意(注3)について
(注3)では、前記第1の1(注3)と同様に、本文の案とは別に、最低限の同意要件を設ける案を取り上げている。
5 公告期間等(注4)について
(注4)では、裁判所は決定に当たって公告をしなければならないこと等を取り上げ、公告と決定との関係を明確にするようにしている。なお、部会資料30にも記載をしたが、裁判所の判断の主眼は所在等不明共有者を意思決定から除外するかどうかであり、共有者の意思決定に係る行為の是非そのものではないから、裁判所は当該行為の相当性を判断すべきではないと考えられるし、仮に、裁判所がその相当性を判断するとしても、公告をしても特段の異議を述べなかった場合に、特定の変更行為や管理行為が相当でないという判断を裁判所がすることが実際にあるのかといった問題があると思われる。
6 その他
(1) 手続等
管轄裁判所については、簡易裁判所とする意見もあるが、今回の仕組みが利用される主な場面としては不動産が共有である場合が想定されることを踏まえ、事物管轄は、不動産の事件を基本的に取り扱うこととされている地方裁判所(裁判所法第24条第1号)とすることが考えられる。
また、認容決定に対する不服申立て方法としては、決定の効力が生じた時から2週間以内にする即時抗告(非訟事件手続法第66条及び第67条)のほか、再審(同法第83条)が考えられる。
なお、不服申立てとも関連するが、裁判所の決定がされた後に、その決定が再審によって取り消されないまま、別途、その決定の効力を訴訟で争えるかが問題となり得る(例えば、決定が出された後に、所在等不明共有者以外の共有者が合意をして、第三者との間で賃貸借契約を締結した場合に、所在等不明とされていた共有者が賃借人である第三者を被告として、不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟を提起し、その中で、裁判所の決定が不当であるとして、その賃貸借契約の効力を否定することなど)。
今回の仕組みは、非訟事件手続法により処理されるが、非訟事件手続法における決定にはいわゆる既判力はないと解されているものの、通常、形成力があり、その決定を取り消さないまま、訴訟で、その形成力を否定することはできないと解される。
そして、今回の仕組みでは、裁判所の決定により、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意(又は、持分の価格の過半数)によって共有物の変更等をすることができるとの法律関係が形成されることになると解されるため、訴訟においても、その効力自体を否定することはできず、その決定があったことと、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意(又は、持分の価格の過半数)があったことが主張・立証されれば、共有物の変更等が適法であったことになると解される。なお、申立人が所有者でなかったような場合には、共有者全員の同意がない又は共有者の持分の価格の過半数の同意を得ていないとして、当該定め自体の効力を訴訟で争うことは否定されないと考えられる。
(2) 所在等不明について
ア 第14回会議では、法人が所有者である場合における所在不明の意義を検討したが、第2及び第3のケースと同様に、その本店及び主たる事務所が判明せず、かつ、代表者が存在しない又はその所在を知ることができないときに、「共有者の所在を知ることができない」ときに該当するとすべきとの意見があった。
イ また、所在等不明共有者の探索については、部会資料30にも記載しているとおり、登記簿や住民票等の公的記録の調査が基本的に必要になると思われる。もっとも、第14回会議でも指摘があったが、最終的な探索の在り方は、土地の現況等を踏まえて判断することになると思われる。
第2 不動産の所在等不明共有者の持分の取得
所在等不明共有者の不動産の共有持分の取得につき、次の案をとることで、どうか。
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、所在等不明共有者の持分をその共有者に取得させる旨の裁判をすることができる。
② ①の裁判がその効力を生じたときは、所在等不明共有者は、持分を取得した共有者に対し、その共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
(注1) 請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした共有者それぞれに取得させる持分の割合は、請求をした共有者の持分の価格の割合に応じて所在等不明共有者の持分の割合を按分して得た割合とする。
(注2) 裁判所は、他の共有者が所在等不明共有者の持分の取得を希望する場合には一定の期間内に申立てをすべき旨を公告し、かつ、登記上の共有者に対してその旨を通知しなければならないものとする。
(注3) 裁判所は、①の裁判をするためには、所在等不明共有者に対して一定の期間までにその権利を主張すべき旨を公告しなければならず、その期間は、3箇月を下ってはならないものとし、権利が主張されれば持分取得は認められないものとする。
(注4) 裁判所は、①の裁判をするためには、その申立てをした共有者に対して、一定の期間内に、裁判所の定める額(共有者が取得した持分の時価相当額を想定している。)に相当する金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないものとする。
(注5) 不動産に関する財産権(賃借権等)の共有持分にも、本文と同様の制度を設ける。
(補足説明)
1 裁判所の決定(本文①)について
部会資料30(第2の1(1))では、不動産の所在等不明共有者の持分の取得に関し、裁判所の決定を要する案(甲案)と要しない案(乙案)を提示していたが、第14回会議では、決定を要する案に賛成する意見が大勢を占めた。これを踏まえ、本文では、裁判所の決定を要する案を取り上げている。
なお、部会資料30(第2の2)では、知ることができない共有者(不特定共有者)についても、所在不明共有者と同様に取り扱うことについて取り上げていたが、実務上の運用として難しい問題はあるものの、これを一律に否定する理由はないように思われるため、本資料では、不特定共有者も、所在不明共有者と同様に検討している。
2 所在等不明共有者以外の共有者が複数いる場合の処理(本文及び(注1))について
(1) 全員同意を要件とすることの是非
部会資料30(第2の1(2))では、所在等不明共有者の持分取得につき、それ以外の共有者が複数いる場合の処理に関して、共有関係の一括解消が可能である裁判による共有物分割との役割分担を念頭に、その全員の同意を要件とする案(乙-1案、乙-2案)を検討することとしていたが、第14回会議では、これに賛成する意見はなく、これに反対する意見が多く出された。
このような意見分布となったのは、次のような理由によると思われる。すなわち、共有物は、その分割がされるまでは、共有状態のまま管理をしなければならないが、共有者が多数にのぼるケースでは、共有物を管理することが容易ではなく、その管理を適切かつ迅速に行うためには、住所等が判明した共有者から個別に持分を取得するなどして、漸次、共有者の数を減らすことが重要である。所在等不明共有者がいる場合には、前記第1の2のとおりの仕組みを導入することで現在よりは管理が容易となるものの、全ての共有者の住所等が判明している場合と比較すると共有物の管理が容易とはいい難いのであり、同様に、その持分を取得するなどして、所在等不明共有者を共有関係から除外し、共有者の数を減らすことが重要になる。その意味で、共有物分割との役割分担を念頭に、持分取得の仕組みにおいて共有者全員の同意を要求するのは妥当ではない。
また、特に、共有者が多数にのぼるケースで共有関係を任意に解消する場面においては、共有者全員の住所等を把握することが困難であるし、そろって分割協議を行うことも困難であるため、共有者全員の同意(協議)を要する共有物分割を実施するのではなく、住所等が判明した共有者ごとに、個別にその持分を取得するといった方法がとられることがある。最終的に分割協議が調わず、裁判による共有物分割を実施しなければならない場合にも、その共有者の数が少ない方が、手続の負担も重くならないため、共有者の数を減らすことは重要である(遺産分割の実務でも、相続分の譲
渡や放棄といった手段をとり、当事者の数を減らす工夫がされている。)。
これらの観点から、所在等不明共有者がいる場合にも、共有者全員の同意を得ることなく、その持分を取得し、共有者の数を減らすことを可能とすることには、裁判による共有物分割(共有物分割の改正内容については、部会資料37参照)とは異なる独自の意義があると考えられる(所在等不明共有者の持分を取得して共有者の数を減らす手段として、不在者財産管理人や検討中の所有者不明土地管理人の選任を経て、その持分を譲り受ける方法もあるが、いずれにしても報酬の支払等の負担が問題となる。)。そのため、持分取得の仕組みにおいて共有者全員の同意を要求するのは妥当ではない。
そこで、本資料では、所在等不明共有者以外の共有者が複数いる場合にその全員の同意を持分取得の要件とはしていない。
(2) 処理の在り方
複数の者が請求をしてきた際に、その処理をどのようにするかを明確にすべきと考えられることから、(注1)に記載している。
また、このこととも関係するが、申立人となる共有者の負担を一定の範囲に限定しつつ、他方で、他の共有者に申立ての機会を保障する観点から、(注2)のとおり、公告及び登記上の共有者に対してその旨を通知しなければならないものとしている。
なお、この通知は、登記上の住所に宛ててすれば足りることを想定している。
3 所在等不明共有者の時価相当額請求権(本文②及び(注4))について
これまでに検討してきたとおり、所在等不明共有者の時価相当額請求権を実質的に確保する観点から、その持分の取得を希望する共有者(申立人)に予め時価相当額を供託させつつ、他方で、所在等不明共有者がその額を争い、その差額を請求することができることとする必要があると考えられる。そして、その差額について申立人と所在等不明共有者の間で争いがあれば、最終的に訴訟で解決すべきように思われる。
以上を踏まえ、本資料では、持分取得の裁判が効力を生じた場合には、実体法上、所在等不明共有者は、時価相当額請求権を有するが、他方で、裁判所が持分取得の裁判をする前提として申立人に対して供託命令を発することとしている(供託命令に対しては、金額を争う機会を保障するために即時抗告をすることができることとすることが考えられる。)。この結果、所在等不明共有者は、この命令を受けて供託された供託金の還付を受けて時価相当額請求権の弁済に充当されることになるものの、実体法上の請求権があるため、その請求権の額に充たない場合には、その差額を請求することができる(実体法上の請求権であるため、最終的な額は、訴訟の中で判断される)こととなる。
なお、従前の議論と同様に、供託すべき金額は時価相当額であるべきであり(そのため、裁判所は、供託金額の判断をする際には、基本的には専門家の意見を聞かなければならないが、その具体的方法については、引き続き検討する。また,不特定共有者の場合の供託金額の具体的算定方法についても、引き続き検討する。)、この供託は持分取得の裁判をする前提(前提条件)としてされるものであるから、その裁判が効力を生じた後に、供託者が供託金を取り戻すことはできないとすべきと考えられる。
4 公告等(注3)について
(注3)は、部会資料30(第2の1(3))と同趣旨である。
5 不動産に関する財産権(注5)について
(注5)では、部会資料30(第2の3)における検討を踏まえ、不動産に関する財産権(賃借権等)の共有持分にも、本文と同様の制度を設けることを取り上げている。
6 その他
第14回会議では、担保責任に関する規律を設けることについても検討された。そこでも指摘があったが、今回の持分取得の仕組みでは、所在等不明共有者とその持分の取得者(申立人)との間に実際上の協議等があるわけではないから、協議がされて契約がされた場合と同様に考えることはできず、契約不適合と同様の状態がそもそも- 9 –
観念できないとも考えられる。また、実際に問題となり得るのは、共有物に何らかの不具合等があり、その結果、申立人が時価の価額は供託金よりも低額であるとの主張をするケースであると思われるが、そもそも、供託金の額は、裁判所の供託命令(供託命令に対しては、金額を争う機会を保障するために即時抗告をすることができることとすることが考えられる。)により定められるものであり、供託命令時に申立人においてその額を争う機会があったにもかかわらず、持分取得の効果が発生した後に供託金の額を争うことを認めるべきであるのかが問題になるように思われる。いずれにしても、この仕組みを利用することによるリスクは、持分取得を希望した申立人がとるべきであるとすると、担保責任に関する規律を設けるべきではないとも思われる。
第3 所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡
所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡につき、次の案をとることで、どうか。
① 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、請求をした共有者に対し所在等不明共有者以外の共有者の全員の同意を得て不動産の所有権を第三者に譲渡することができる権限を付与する旨の裁判をすることができる。
② ①の裁判が効力を生じたときは、所在等不明共有者は、権限を付与された共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
(注1) 裁判所は、①の裁判をするためには、所在等不明共有者に対して一定の期間までにその権利を主張すべき旨を公告しなければならず、その期間は、3箇月を下ってはならないものとし、権利が主張されれば持分取得は認められないものとする。
(注2) 裁判所は、①の裁判をするためには、その申立てをした共有者に対して、一定の期間内に、裁判所の定める額(不動産の時価相当額を当該所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額を想定している。)に相当する金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないものとする。
(注3) 権限付与の裁判の効力についてその終期を定めることについて、引き続き検討する。
(補足説明)
1 裁判所の決定等
部会資料30(第3の1(1))では、所在等が不明な共有者の不動産の持分の取得に関し、裁判所の決定を要するとする甲案と要しないとする乙案を提示していたが、第14回会議では、決定を要するとする案に賛成する意見が大勢を占めた。これを踏まえ、本文では、裁判所の決定を要する案を取り上げているが、その他は、基本的に、前記第2で検討している内容と同様である。
2 「所在等不明共有者以外の共有者全員の同意を得て」の意味等
本文①では、「所在等不明共有者以外の共有者全員の同意を得て」としているが、これは、所在等不明共有者の持分のみを売却することはできず、共有物である不動産全体を売却する場合に限り、その持分の売却を認める趣旨である。
もっとも、全体を売却する際に、所在等不明共有者以外の共有者の持分をどのような形で(どのような契約の形態で)売却するのかについては、法律で定めるのではなく、共有者間の話合い等で定めることを予定している。すなわち、現行法においても、共有者の1人は、他の共有者と協議をして、共有物である不動産全体を第三者に売却することができるが、通常は、各共有者が第三者との間で契約を締結し、共有者全員が(個々の持分の)売主になると思われる(あるいは、共有者の1人が全員の代理人として、契約を締結することもあると思われる。)。また、授権概念を認めるのであれば、授権を得た共有者の1人が自己の名で共有物である不動産全体を売却することになる。本文①で、所在等不明共有者以外の共有者の持分の譲渡をする際には、上記のいずれかを適宜選択して実施することになると思われる。
他方で、所在等不明共有者の持分に関しては、同じように考えることができない。今回の仕組みでは、所在等不明共有者の持分は所在等不明共有者から直接に第三者に移転することを想定し、そのような譲渡をする特別の権限を共有者に付与することとしている(そのため、第2とは別に規定を設ける。もっとも、第三者に対する契約上の担保責任等は、基本的には、その所在等不明共有者が負うべきではなく、第三者との間で契約をした共有者が負うべきであるように思われる。その意味で、共有者は、所在等不明共有者の持分それ自体を譲渡することはできるが、それ以外の売主としての義務を所在等不明共有者に負わせる権限はないと思われる。)。
以上のとおり、この仕組みを利用する際には、所在等不明共有者以外の持分は、適宜選択した方式で第三者に譲渡し、所在等不明共有者の持分は権限を付与された共有者がその権限を行使して第三者に譲渡することになる。
3 権限付与の効力の終期
ここで検討している持分譲渡の仕組みを利用すると、共有者は、権限付与の裁判を受け、その後に、その共有者が不動産について売買契約を締結するなどして第三者に譲渡することになる。もっとも、この権限付与の裁判を受けた共有者が、長期間にわたって売買契約等の締結をしないといった事態が生じ得る。そこで、権限付与の裁判については、譲渡行為をすることができる期限(権限付与の効力の終期)を定めることが考えられる。
また、譲渡行為そのものとは別の問題として、持分の移転の登記につき、今回の仕組みでは、所在等不明共有者の持分の譲渡につき権限を付与された共有者と第三者との間の共同申請で行うことを想定しているが、これにも期限を定めるのかが問題となる。
仮に、そのような終期を定めるとすると、その期間が問題となるが、基本的には、第三者との間で話合いがされ、第三者も金銭を用意している場合に今回の仕組みが利用されることを想定するのであれば、登記申請をするまでにそれほど長期間を確保する必要はないとも思われる。
4 第三者供託
第14回会議では、共有者に代わって不動産の譲渡を受ける第三者が供託をすることができないのかとの指摘があったが、一般的に、第三者供託が認められるのかは、問題となっている供託ごとの性質によって左右される事柄であると解される。今回の仕組みにおける供託金について検討すると、この供託金は、所在等不明共有者の有する時価相当額請求権に充当されるべきものであり、その供託は弁済としての性格を持つと考えられる。そして、正当な利益を有する第三者は債務者に意思に反しても弁済をすることができる(民法第474条第2項参照)ところ、この仕組みで不動産の譲渡を受ける第三者は弁済について正当な利益を有すると思われる。また、第三者供託を認めても、それによって所在等不明共有者に不利益はないと考えられる。そのため、不動産の譲渡を受ける第三者が供託をすることは許されると考えられる。
第4 共有者が選任する管理者
共有者が選任する管理者の選任、権限及び解任に関し、次のような規律を設けることで、どうか。
1 選任・解任
(1) 選任の要件
① 共有者は、共有物の管理者を選任することができる。
② ①の管理者の選任は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとする。
(2) 解任の要件
①の管理者の解任は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとする。
(注)選任及び解任に関し、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則及び所在等不明共有者がいる場合の特則(第1の1及び2)と同様の制度を設ける。
2 管理者の権限等
① 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者が他の共有者の同意を得なければすることができない行為をするには、共有者の全員の同意を得なければならない。
② 管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従い職務を行わなければならない。
③ ②に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対して効力を生じない。
ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
(注)共有物の変更(共有者全員の同意を要するもの)に関し特則(第1の1及び2)を設ける場合には、①のただし書の同意に関し、同様の制度を設ける。
(補足説明)
1 委任契約との関係
(1) 第三者を管理者に選任した場合
第13回会議では、第三者を管理者とした場合の共有者と管理者との委任関係について検討をしたところ、管理者である第三者と実際に第三者との間で委任契約を締結した共有者との間に委任関係(委任契約)があるとの考え方に賛同する意見があった。他方で、委任契約の解約等は、委任契約の当事者しかできないと思われるが、上記のように整理するとして、委任関係にない共有者も含めた共有者の持分の過半数の価格で管理者を解任すると提案されていることとの関係をどのように説明をするのかといった指摘などもあった。
改めて検討をすると、第13回会議での指摘にもあったとおり、持分の価格の過半数による同意を得て、共有者の一部が管理者との間で委任契約を締結した場合に、その契約の当事者は、基本的にはその契約において当事者とされたものであり、それは、委任契約に賛同し、自己の名で契約をした共有者に限られると解される(そのように解さないと、委任契約の締結に反対した当事者もその契約上の義務を負うことになるし、民法第252条は、共有者を本人とする契約の代理権を法律上管理人に付与するものではないと解される。)。そして、ここでの議論は、共有物の管理者との間の委任契約関係の成否という問題に尽き、管理者の選任に関して、委任契約以外の法律関係は観念できないとする考え方もあるように思われる。
他方で、委任契約の効力そのものの問題とは別に、持分の価格の過半数を有する共有者により管理に関する事項が定められた場合には、他の共有者はその決定を否定することができないなど他の共有者にも一定の効力が及ぶことと同様に、持分の価格の過半数を有する共有者により選ばれた管理者の行為を他の共有者が否定することができないという効力は生じると思われる(例えば、管理者が共有物を管理することを他の共有者は差し止めることができないとか、管理者が締結した賃貸借契約に基づき第三者が共有物を利用することを他の共有者が差し止めることはできないなど)。そうだとすると、管理者と選任に賛同をしていない共有者との間にも一定の法律関係(管理者選任関係)が生じていることは否定できないとも考えられる。
そして、部会資料27の5(3)甲案は、管理者と全共有者との法律関係につき、委任契約そのものが成立していると捉える見方をしていたが、そうではなく、前記のとおり委任契約(委任関係)は飽くまでも契約の当事者間にのみあるが、委任契約(委任関係)とは別の法律関係(管理者選任関係)が管理者と全ての共有者との間にあると整理することも考えられる。この考え方によれば、持分の価格の過半数により管理者を選任した場合には、管理者と共有者全員との間に管理者選任関係が成立し、それとは別に委任契約が締結されれば、管理者と実際に契約の当事者となった共有者との間に委任関係が成立することになる。
管理者選任に反対をしていた共有者と管理者との間に委任関係があるとみることはできないと解されるが、いずれにしても、この問題は今後の解釈に委ねることも考えられる。もっとも、実際には、管理者は、持分の過半数の者の意向に沿って活動をすることになるであろうし、管理費用や管理者の報酬は、基本的に委任契約の当事者である共有者から回収することになることには変わりがないと考えられる。
(2) 共有者の1人を管理者に選任した場合
第13回会議では、共有者の1人を管理者に選任した場合について、管理者と他の共有者との間に委任関係があるのかどうかを検討し、これを肯定する意見もあった。
改めて検討をすると、共有物の管理費用の負担等に関する共有者間のルールが民法上定められており(民法第253条以下。部会資料40の4のとおり新たに規定を設けることも検討されている)、共有者の1人が共有物を利用する際にはこれらのルールが適用されるにもかかわらず、共有者の1人が管理者に選任された場合に限り、これらのルールの適用を排除し、費用負担等の処理を当然に委任に関する規定に委ねることは妥当ではないように思われる。
もっとも、持分の価格の過半数によって共有者の1人を管理者に選任する場合に、その管理者になる者とその選任に賛成をした者との間で、民法上の共有者間のルールとは別に、管理者と選任に賛成する共有者の間の法律関係を別に定める契約をすることができるのかについては、別途問題となり得る。例えば、選任に賛成をした者が管理者に対して報酬を支払うことを合意することは、許されると考えられる(この合意は、合意をしていない他の共有者を拘束しない。なお、共有者が報酬を支払った場合に、それが管理費用(民法第253条)に該当し、求償が認められるのかは、別途問題になる。)。
なお、ここでいう合意に関し、委任契約として合意を締結することができるのか、委任契約とは異なる別の類型の契約(無名契約)として合意を締結するのかは、議論の余地があるように思われる(共有者の1人が他の共有者との合意に基づき、共有物を有償で利用する際の賃貸借契約の成否については、持分権に賃借権を設定することはできず、賃貸借契約は成立しないなどの議論がある。)。
2 選任・解任
(1) 要件
選任・解任の要件については、部会資料27の5(1)ア、ウと同じである。部会資料27の5(4)では、裁判所による解任等もとりあげていたが、第13回会議での検討を踏まえ、本資料では、取り上げていない。
なお、前記補足説明1の議論とも関連するが、管理者の選任は委任契約の問題と捉えるのであれば、ここでいう解任は、委任契約そのものの解約・解除の意思決定を意味することになる(意思決定をした後に、その意思表示を誰がするのかは別途問題となる。)ように思われる。
他方で、委任契約とは別の法律関係(管理者選任関係)があると見る立場によれば、解任は管理者選任関係を解消するものであり、仮に、共有者の一部と管理者との間に委任契約が別途あっても、委任契約自体は解消することはない(その解消は、委任契約の当事者が別途することになる。)ことを意味すると考えられる。委任契約が解消されないまま解任がされると、共有者の一部が過半数の同意を得ることなく、第三者との間で委任契約を締結した場合と同じ状態になる。
(2) 共有者の所在等が不明なケース
(注)では、選任及び解任に関し、催告をしたが異議を述べない共有者がいる場合の特則及び所在等が不明な共有者がいる場合の特則(第1の1及び2)と同様の制度を設けることとしている。
3 管理者の権限等
(1) 権限
本文①は、部会資料27の5(1)イと同じである。ここでいう管理に関する行為には、事実行為のほか、法律行為も含まれる。管理者が共有物の利用方法などに関する法律行為をした場合には、共有者は、その利用方法等を否定することはできないと解される。例えば、管理者が共有物の短期賃貸借契約を締結した場合には、共有者は、賃借人の使用を妨げることはできない。
なお、管理者が法律行為をする際には、自己の名ですることができると解される。例えば、管理行為の一環として共有物の修繕を修理業者に依頼する際には、自己の名ですることが多いと思われる。また、管理者である第三者等が共有者の代理人として共有者を当事者とする法律行為をすることも考えられるが、そのためには、別途、共有者から代理権の付与を受ける必要があると解される。
(2) 権限の制限等
本文②及び③は、部会資料27の5(2)甲案と同じである。共有者が管理に関する事項を決した場合には、管理者はこれに従わなければならず、管理者がこれに違反したときは共有者に対して効力を生じないが、取引の安全を確保するために、善意者保護規定を置くこととしている。
第13回会議でも指摘があったところであるが、ここでいう「効力を生じない」とは、管理者が共有物の利用方法などに関して共有者の定めに反する行為をした場合には、共有者がその利用方法等を否定することができることを、「共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない」とは、共有者が善意の第三者に対してその利用方法等を否定することができないことを念頭においている。例えば、定めに反して管理者が第三者に共有物を賃貸した場合に、第三者はその土地を共有者に無断で使用していることになるが、その第三者が善意である場合には、その使用は適法となり、共有者がその第三者に対して共有物の使用差止等を求めることはできないということになる。
4 委任に関する規律
試案(第1の1(5)オ)では、全共有者と管理者との関係につき委任に関する規定の準用規定を置くことを提案していたが、ここでは取り上げていない。前記補足説明1のとおり、全共有者と管理者との間に委任契約(委任関係)があると見ることは難しいと考えられるし、選任に賛成した共有者と管理者との間でこれらの者を当事者とする委任契約が締結されていると見るとしても、そこには委任契約が存在するため、委任に関する準用規定を置く必要はないと思われる。
なお、管理者が管理の実施に要した費用については、管理者とその選任に賛成した共有者との間で委任契約が締結されていることが通常であるから、その契約に基づき、管理者は、委任契約の当事者である共有者にこれを請求することになり、これを支払った共有者は、民法第253条に基づき、他の共有者に求償をすることになると解される。
5 その他(裁判所による管理者の選任・裁判所による必要な処分)
部会資料27では、裁判所による管理者の選任や、裁判所による必要な処分を取り上げていたが、第14回会議での議論を踏まえて、本資料では取り上げていない。
共有者が多数である場合の共有物の管理や共有関係解消の在り方については、前記第1から第3までで提案している仕組みや所有者不明土地管理制度等を活用して対応することが考えられる。 -
部会資料3 共有制度の見直し(1)
9 相続財産についての共有に関する規定の適用関係
相続財産についての共有に関する規定の適用関係について、次のような規律を設けるものとする。
相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
民法改正案
第三章 相続の効力
第一節 総則
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(祭祀に関する権利の承継)
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
(相続財産の保存) 第八百九十七条の二 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。 2 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。 (共同相続の効力) 第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
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第3 所有者不明土地管理命令等
民法改正案 第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令 (所有者不明土地管理命令) 第二百六十四条の二 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。 |
所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令について、次のような規律を設けるものとする。 (1) 所有者不明土地管理命令 (2) 所有者不明土地管理人の権限 (3) 所有者不明土地等に関する訴えの取扱い (4) 所有者不明土地管理人の義務 (5) 所有者不明土地管理人の解任及び辞任 (6) 所有者不明土地管理人の報酬等 ① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発令された場合にあっては、共有物である土地)の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。 (8) 所有者不明建物管理命令 (1) 管理不全土地管理命令 (2) 管理不全土地管理人の権限 (3) 管理不全土地管理人の義務 (6) 管理不全土地管理制度における供託等及び取消し (7) 管理不全建物管理命令 それでは,先に進むことにいたします。同じく部会資料52の5ページから第3として,所有者不明土地管理命令等についてお諮りをしているものでございます。補足説明も含めますと,部会資料の12ページの前半のところまでその話が続いてまいります。所有者不明土地管理命令等と「等」が入っている理由は,所有者不明建物管理命令も含まれているからでございます。建物についての御議論を取り立てて小分けにしてお願いする必要はないと感じられますから,所有者不明建物管理命令を含む第3の所有者不明土地管理命令等について御意見を承ることにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。 ○山野目部会長 お手元に部会資料がそろっておりますでしょうか。 ○山野目部会長 御案内を差し上げた部会資料がお手元にまいっておりますでしょうか。 (休 憩) ○山野目部会長 再開いたします。 それでは,本日の審議に進みます。 第3 所有者不明土地管理命令等 1 管理不全土地管理制度 管理措置請求制度に関する次の各案について、どのように考えるか。 1 所有者が不明である場合の建物の管理命令 (1) 所有者不明土地を管理するための新たな財産管理制度として、次のような規律を設けることで、どうか。 第1 管理措置請求制度
第3 所有者不明土地管理命令等
1 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(④の所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
② 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発令された場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発令された後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
④ 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
(注) 第3の1の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとし、また、土地所有者のための手続保障に関し、次のような規律を設けるものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、所有者不明土地管理命令をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 所有者不明土地管理命令の申立てがその対象となるべき土地又は共有持分についてあったこと。
イ 所有者不明土地管理命令をすることについて異議があるときは、対象となるべき土地又は共有持分を有する者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ 前号の届出がないときは、裁判所が所有者不明土地管理命令をすること。
① (1)④の規律により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
② 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することができない。
ア 保存行為
イ 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
(注) 管理人の選任の公示に関し、次のような規律を設けるものとする。
① 所有者不明土地管理命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分について、所有者不明土地管理命令の登記の嘱託をしなければならない。
② 所有者不明土地管理命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならない。
所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
(注) 訴訟手続の中断・受継に関し、次のような規律を整備するものとする。
① 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴訟手続で当該所有者不明土地等の所有者を当事者とするものは、中断する。この場合においては、所有者不明土地管理人は、訴訟手続を受け継ぐことができる。
② 所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟手続は、中断する。この場合においては、所有者不明土地等の所有者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
① 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。
② 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。
(7) 所有者不明土地管理制度における供託等及び取消し
② 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。
③ 所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)が所有者不明土地等の所有権(その共有持分を含む。)が自己に帰属することを証明したときは、裁判所は、当該所有者の申立てにより、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。この場合において、所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者に対し、その事務の経過及び結果を報告し、当該所有者に帰属することが証明された財産を引き渡さなければならない。
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(④の所有者不明建物管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。
② 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発令された場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物又は共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発令された後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
④ 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。
⑤ (2)から(7)までの規定は、所有者不明建物管理命令について準用する。
(注) 所有者不明建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、適用しないものとする。 2 管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令について、次のような規律を設けるものとする。
① 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(③の管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
(注) 第3の2の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定(裁判所は、管理不全土地管理命令等の一定の裁判をする場合には、その対象とされた土地の所有者の陳述を聴かなければならないが、裁判所が管理不全土地管理命令をする場合において、その陳述を聴く手続を経ることによりその申立ての目的を達することができない事情があるときはこの限りでない旨の規定や、これらの裁判に対する即時抗告の規定を含む。)を整備する。
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
② 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
ア 保存行為
イ 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
③ 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可をするには、その所有者の同意がなければならない。
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(4) 管理不全土地管理人の解任及び辞任
① 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
② 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(5) 管理不全土地管理人の報酬等
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
② 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、管理不全土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理不全土地管理命令を取り消さなければならない。
① 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(③の管理不全建物管理人をいう。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。
④ (2)から(6)までの規定は、管理不全建物管理命令について準用する。
(注) 管理不全建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、適用しないものとする。
○蓑毛幹事 範囲は12ページ前半までで,管理不全土地管理命令についての意見はその後でしょうか。
○山野目部会長 その後でございます。
○蓑毛幹事 分かりました。
第3の1の所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令について,日弁連のワーキンググループでは特段大きな反対はありませんでした。3点,確認とお願いがあります。
1点目は,部会資料5ページ(1)の③で,一旦所有者不明土地管理命令が発令され,取り消された場合において,再度発令されることがあると。このような発令がなされる場合として,部会資料6ページでは,供託金の還付請求の相手が特定されないために,所有者不明土地管理人を選任する必要があるということが書かれているのですが,なぜ,このような場合に所有者不明土地管理人を選任しなければならないかが分かりにくいと思いますので,説明を補足していただければと思います。
それから,2点目ですが,9ページの所有者不明土地管理人の義務についてですが,前提として(5)等で,裁判所は所有者不明土地管理人の選任・解任ができ,辞任についての判断もできるとされており,つまり,所有者不明土地管理人は裁判所の監督下に置かれるということだと思います。そこで,裁判所の監督を実効あらしめるため,裁判所は,所有者不明土地管理人に対し,報告を求めることができる旨の規定を設けてはどうか,という意見がありました。
それから,11ページ(8)の所有者不明建物管理命令について,内容に特段異存はありませんが,前回の部会でも申し上げたとおり,所有者不明土地と所有者不明建物にそれぞれ管理人を選任しようとしたときにおいて,土地と建物の所有者が違う場合に何か注意すべき点がないのかであるとか,所有者不明建物について,どういった場合に取り壊すという判断にまで至るのか,そういったことについて補足説明等で説明をして欲しいという意見がありました。
○山野目部会長 ありがとうございます。3点にわたっておっしゃっていただいた中には,質問ないし事務当局への要望が含まれていたと受け止めます。お願いいたします。
○大谷幹事 5ページの(1)③の趣旨についてお尋ねがございました。所有者不明土地管理命令が出される場合には,土地の所有者が所在不明であるという場合と,土地の所有者が特定できないという場合,両方があり得るところです。所有者不明土地管理命令が出されて,管理人が,例えば裁判所の許可を得て土地を売却して,その売得金を供託したというときに,土地の所有者が所在不明である場合には,その所有者が出てきたときに,自分が権利者であるということで供託金の還付を受けることも比較的容易だろうと考えられる一方で,特定できない所有者,自分が所有者であるということを後で確認を求めてくるという場合には,誰を相手方として供託金の還付請求権の確認を求めればいいのかという問題が出てまいります。所有者が全く特定できないという場合であると,民事訴訟の当事者が特定できないということになりかねないところから,そういうことを避けるために管理人の選任を可能にしたという趣旨でございます。
○山野目部会長 蓑毛幹事,いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 よく分かりました。ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。蓑毛幹事からお尋ねがあった3点のうち,今の1点目については大谷幹事から説明を差し上げました。
御参考までに御案内しますと,この③は,表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律19条5項においても同様の趣旨の規律を置いているところでございまして,その見合いもあって,ここに設けることを提案しているところでございます。趣旨,内容は大谷幹事が申し上げたとおりでございまして,現実に運用していくとき,これが度々難しい問題を引き起こす局面かというと,そうではないかもしれませんけれども,規律を置いておくという趣旨で,部会資料の中に含めてございます。
それから,裁判所の監督の在り方について,9ページの管理人の義務の履践を適切ならしめることや,管理人の選解任の在り方と関連させて,蓑毛幹事から問題提起を頂いたところであります。御指摘はごもっともである側面がございますから,改めて,裁判所がこの種の管理人ないしそれに類似のものを選任する際の監督の在り方について,選解任のところの規律のみを置くか,それとも監督の規律も併せて置くかかといったところを精査した上で,考えていく必要があるであろうと感じられるところでございます。
監督の規定を置いて報告聴取とかということを入れると,裁判所の皆さんは執務の仕方が真面目ですから,いつこういう報告を取ったというのを全部つづっておかなければいけないことになります。面的,線的に監督が続いていなくてはいけないという規律にしたときの裁判所のストレスと,選解任事由があるかないかが時間的にポイントで問われたときに,そこを適正に権限を行使すればよいというふうな扱いにするのとでは,見掛けは同じようなことであっても,種々,運用の点も含めて,考え込まなければならない側面があります。蓑毛幹事から御指摘を頂いたところでありますから,改めて従前の類似法制場面との比較検討を踏まえて,検討を続けてまいりたいと考えます。
○宮﨑関係官 今御指摘いただいた報告聴取の規律ですが,これは実は既に前の部会資料の中で取り扱っておりまして,部会資料の33になるのですけれども,具体的に言いますと18ページ目のところで,補足説明の中で取り扱ってございます。報告聴取の規律については,おっしゃったような御指摘もあり得ようかと思いますけれども,所有者不明土地の管理命令については,一定の場合には裁判所が確認を求めることが想定され,このこと自体は規律を設けるまでも明らかであるというようなことですとか,遺言執行者などほかの特定の財産のみの管理を前提とする類型の財産管理制度についても,報告聴取の規律などを設けられておりませんので,そういうこととのバランスなどを考えて,今回のような,特段それについては規律を設けないというふうな御提案を差し上げているところです。このときの部会でも,特段ここについては御異論なかったのかなとは認識しております。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,引き続き今のような案内を弁護士会の先生方にお伝えいただいて,また当方でも検討いたしますけれども,御検討いただければ有り難いと思います。よろしくお願いします。
引き続き承ります。いかがでしょうか。
○沖野委員 すみません,これも細部で申し訳ないのですけれども,10ページの報酬等について確認をさせていただきたいと思います。
①,②では,恐らく三つのことが書かれていると思われまして,まず②の方は費用・報酬が所有者負担であるということ,したがって管理する対象の財産以外の所有者の財産も引当てにできるということと思います。それから,①の方では,管理下にある所有者不明土地等から直ちに一定のものを受けられるという点,自分の管理にある財産についてそこから出せるか,特に報酬などは出せるかという問題が,利益相反の話としてありますので,それはできることを示すものです。三つ目が,それとともに費用の前払や報酬についての額は裁判所が定めるという,この3点が書かれていると思われます。
そうしたときに,お伺いしたいことというのは,これも多分これまでに議論があったのだろうと思うのですが,フォローしいていなかったものですので,お伺いしたいのですが,費用,報酬と出ると,常に出るのが損害,管理者が過失なくして被った損害というものの填補を受けられるかという点ですが,これは受けられるということなのか,受けられないということなのか。受けられるとしたら,費用に含んでいるということなのかということを確認させていただきたいと思います。場合によっては,明確にするならば,書き出した方がいいということも考えられるものですから,御質問させていただきます。
それから,2点目は,所有者不明土地等から受けることができるという場合に,今のような損害の話も入るかということが併せて出てくるのですけれども,気になっておりますのは,費用の前払に限っている点です。費用の前払というのは多分,自分の管理下にあると,必ずしも前払という形で取り分ける必要もない局面が出てくるかと思いますけれども,信託の場合なども同じような問題が出てくるかと思いますけれども,それは措きまして,前払に代えて自分の固有財産から立て替えるという方法もあり得ると思われます。一旦立て替えて,費用の償還を受けるという局面が想定されます。ところが,ここでは所有者不明土地等,つまり管理下にある財産から直ちに受けることができるものというその対象は,費用の前払と報酬だけになっていまして,費用の償還が入っておりません。これはどういう趣旨なのかということで,もし利益相反的な要素もあり,管理者が管理下の財産からそれらを受けることができるのだということを明示するのであれば,やはりそれも書いた方がいいのではないかと思われるものですから,趣旨についてお伺いしたいと思います。
○宮﨑関係官 1点目に頂いた損害についてなのですけれども,所有者不明土地管理人に管理の過程で発生した損害のようなことをイメージしておられるのかなと。
○沖野委員 過失なくして受けた損害について,委任ですとか,あるいは過失なくして受けた損害に限りませんが信託の受託者などでも規律がありますので,そういうことを考えています。
○宮﨑関係官 なるほどですね。場合によってはこの費用の中に入るというふうな解釈もあるのかなとも思っております。今回のこの規律というのは,ほかの類型の管理人などでも置かれている類似の規律の書きぶりを参考にしておりますが,そこでの解釈なども参考になるのかなと思っております。
もう1点の,管理人が立て替えた場合について,所有者不明土地等の負担にできるのかという御指摘を頂いたかと思うのですけれども,立て替えた分については,少なくともこの②の規定で,特に前払に限らず,必要な費用については所有者不明土地等の所有者の負担とするというふうな規定を置いていますので,こちらで,その立て替えた分についても所有者の財産に負担させることができるのではないかとは考えておりました。
○沖野委員 よろしいでしょうか。そうすると,1点目ははっきりしないということだと確認をしていただいた方がいいのかなと思います。事務管理と委任とで違うかなどの話がありますし,そういう問題もあるかもしれませんので,それを踏まえて,この管理人の場合はどうかということを,少し横断的な検討も含めて明らかにしていただければいいのではないかと思います。規定上,書くのかどうかというのは,あるいはほかの制度の書きぶりとも関係してくるかと思いますので。
2点目にお答えいただいたことは,所有者の負担とするのはもう明らかというか,負担にするので,そして,その財産から取るためには,もし所有者不明土地等の財産から取るためには,やはり本来の方法である強制執行とかそういうことを掛けていくために,判決を取ってということから行くのだと思うのです。それが言わば自力救済的に,自分の管理下にあるところから取れるというのはどういう場合かというのが,他人のために財産管理を委ねられている者がそれをできるのかという問題ですので,②に含まれているので①は関係ないということには多分ならないと思いますので,①の趣旨がどういうことなのか,裁判所が定めるものに限っている,その趣旨はどうかということかと思います。場面がないということなのか,特にこのときだけということなのか。ただ,規定はあった方がいいのではないかと思うものですから,御検討いただければと思います。
○山野目部会長 事務管理や委任に関して置かれている類似局面の規律に関わる発想や,実際の法文の文言の書き方,それから,不在者財産管理や相続財産管理に関する規律についての同様局面の書き方で,もしかすると従来の例において不ぞろいがあるかもしれません。ただいま沖野委員から御注意を頂きましたから,従来のものを精査した上で,ここの太文字の部分,すなわち法文にする想定の個所で何かを考え込んでいくか,法制上の考慮も含めて,そうはしないけれども,説明等において明らかにするよう考え方を整理するかということを再び検討してみることにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
そうしましたならば,所有者不明土地管理命令等につきましては,本日段階の御意見を頂いたと受け止めるということにいたします。
先に進みます。12ページから後に,管理不全土地管理命令についての御議論をお願いする用意をしているところでございます。それから,管理不全建物管理命令についてのお話もここに含まれておりまして,部会資料の最後のページでございますけれども,これも取り立てて小分けにして御議論をお願いする必要はないと考えますから,この際,管理不全建物管理命令を含む広い意味での管理不全土地管理命令について,委員,幹事の皆様からの御意見を承るということにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。
○蓑毛幹事 管理不全土地管理命令と管理不全建物管理命令について,日弁連のワーキンググループは基本的に賛成で,特段大きな反対はありませんでした。その上で,4点,確認ないし質問をさせていただければと思います。
まず1点目ですが,12ページの(1)管理不全土地管理命令で,(注)に,裁判所の手続に関しては所要の規定を整備するということが書いてあります。この点に関連して,これまでの,例えば部会資料50では(注)で,この裁判をするためには,対象である土地の所有者の陳述を聴かなければならない旨の規律,あるいは裁判に対する即時抗告に関する規律を設けるということ書かれていたのですが,今回落ちています。恐らく,書き漏らしだと思いますが,この点の確認が1点目です。
2点目は,これまで申し上げていることの繰り返しになりますが,13ページの補足説明で,相当性の要件は別途掲げることはしないということが書かれています。恐らく法制上の問題であろうと理解していますが,この管理制度の発令に当たっては,必要性とは別に,所有者が対象の土地・建物を実際に利用しているか否か,あるいは,所有者の管理人選任に対する意見,そういったものも勘案しながら相当性を判断するし,後に相当性がなくなった場合は管理命令が取り消されるという,ほかの管理制度にはない特徴があります。そこで,このような特徴を具体的に要件として条文に盛り込み,相当性に関する要件として定めた方がよいという意見がありました。
3点目ですが,部会資料15ページにある,管理人が管理の妨害を受けた場合についての確認です。これは,前回の部会での議論を整理していただいてものと理解していますが,所有者が管理を妨害している場合と,占有権原のある賃借人が管理を妨害している場合,この2つの場合に分けて考え方の確認をさせていただければと思います。
まず,所有者については,部会資料13ページに,所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては,仮に管理命令が発せられたとしても,管理不全土地管理人による管理を継続することが相当でないとして取り消されるということが書いてある一方で,括弧書きで,管理人が不当な妨害を受けた場合には妨害禁止を求めることができるということが書いてあります。そこで,所有者が管理命令の対象である土地または建物を実際に利用しているケースで,管理人による管理を拒絶して妨害した場合には,それが不当な妨害だといって妨害排除が認められることになるのか,それとも,管理人による管理が相当でなくなったとして,管理命令が取り消されるのかを教えて下さい。
次に,賃借人が管理の妨害をしているケースについての質問です。今回の制度の趣旨は,所有権者ができる範囲で管理をすることにあり,賃借権自体の管理制度ではないという説明がありました。そうすると,この管理人は,管理の妨害をする賃借人に対して何ができるのか。この管理人は,物の管理人ですので,賃貸借契約に基づく権利そのものは行使できないようにも思われます。また,所有権者として何かしようとしても,賃借人から,自分は賃借権を有していて,占有を排除されるいわれはないと主張された場合に,どのようにして管理人は賃借人の妨害を排除することができるのか,前回の部会でも同様の質問をしましたが,改めてこの点について御説明頂ければと思います。
4点目は,大した話ではなくて,17ページの管理不全土地管理制度における供託の制度で,この制度を設けることに特段反対ではないのですが,管理不全土地管理制度の場合は,通常は土地の所有者が分かっていますので,金銭になった場合は,土地の所有者に金銭を引き渡せばいいので,供託をする必要はないようにも思われます。そこで,ここで供託の制度を設ける趣旨について教えていただければと思います。
○大谷幹事 ありがとうございます。4点御質問を頂きました。
一つ目の形式的な,陳述聴取などの規定は手続的に入れるのですよねと,これはそのとおりでございます。前回の部会資料50で(注)でお書きしていたような規律を設ける方向としております。
②の相当性の要件を入れてはどうか,これも前回も議論を頂きました。相当性が必要だということについては,恐らく前回も我々の方向をそのようにお答え申し上げて,ただ,その規律の置き方として,手続的に相当性を欠いたときには取り消すというようなことがあったりし,必要性以外に相当性という文言まで必要かというと,そこまで必要はないのではないか,必要性という形で,相当であるということも読み込めるのではないかと理解をしておるところです。もちろん管理不全土地管理命令,管理不全建物管理命令独自の性質があるところでございますけれども,そのような制度の下での必要性,相当性というのは,やはり必要になってくるとは思っておりますし,相当性を欠いても発令ができるのだという意味でないことは共通の理解だと思っております。
それから,3点目の点でございますけれども,所有者との関係で,所有者本人が土地を利用しているという場合には,これは管理命令の発令が相当でないということで管理人は選任されないということを想定しています。もっとも,例えば,当初は全然利用していないで放置をしている,陳述聴取をしても何も答えないで関心を寄せないということで管理人が選任されたけれども,その後で所有者が管理を妨害してくるというようなときはどうかということを,前回の部会資料でもお書きをしていたと思いますけれども,そういう場合には,管理人の方から所有者に対して,妨害をするなという形で差止めを求めるということも,管理権侵害という形で,あり得るのではないかと考えております。いずれにしても,当初から実際に利用していて,当初から自分で管理をしようとしている方がいる場合には,管理命令が発令されないという方向ではないかと思っております。
それから,賃借人との関係,これも前回から御議論いただいている難しい問題だと思っております。管理不全土地管理人が付くという状態になっているということは,恐らくは所有者も関心を寄せずに,賃借人がどういう使い方をしているか,いろいろなケースがありそうですけれども,賃借人が非常に望ましくない使い方をして周りに迷惑を掛けているというような状態かと思います。その場合に,管理不全土地管理人が賃借人に対して何も言えないという結論になるのは望ましくない感じがいたしまして,何らかの形でその状態を是正できるようにするという解釈をすべきではないかと思っておりますが,大きく二つぐらい考え方に筋道がありそうな気がいたします。ひとつには,管理人が与えられる管理権自体に基づいて,土地に対して損害を与えるような行為をしている賃借人に対しては,その行為を防ぐような措置をとることができるという考え方,管理権そのものに基づくという考え方もありそうですし,その一方で,賃貸人として賃借人に対して一定の権利を持っているという場合には,管理人がその管理権に基づいて,土地の所有者に対して是正をすることを求めることができる,それを根拠として,賃借人に対して代位的な形で措置を求めていく,そういう両方の構成があり得るのかなと思っておりますけれども,これらも含めて,今後,検討してまいりたいと思いますし,その辺りについて御意見を賜れればと思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けになることがあれば,おっしゃってください。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。最後がよく聞き取れませんでした。所有者が賃貸人の場合には,その所有者が賃借人に対して有する権利に代位する,とおっしゃったのですか。
○大谷幹事 はい。
○蓑毛幹事 代位して管理人が行使するという法律構成が考えられるのではないかということですか。
○大谷幹事 はい。
○蓑毛幹事 分かりました。よく考えてみます。ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。一つ確認させていただきたい点は,この管理不全土地・建物管理人が選任されたときには,所有者不明土地・建物管理人と同じように,その土地について,あるいは建物について,選任の公告がされるかどうかです。
既に議論が終わっておりますけれども,所有者不明土地管理人については,部会資料52の7ページの(2)の(注)で,管理人が選任されたときには,対象となるその土地又は共有持分について,所有者不明土地管理命令の嘱託の登記をしなければならないことになっています。これは所有者不明土地・建物管理人が選任されると,その者に土地・建物の管理権が専属するからということにもよるのだと思うのですけれども,その場合に限らずに,管理不全土地・建物管理人の場合にも,同じようにこの嘱託の登記がされるのかどうかという点の確認です。
そのことと若干絡みますけれども,これも既に議論になった点ですが,部会資料52,14ページの(2)②の第三者ないしは相手方の保護要件として,この管理不全土地・建物管理人の権限外行為の場合には,第三者保護の要件として,善意かつ過失がないということを要件にしている一方で,所有者不明土地・建物管理人が権限外行為をした場合には,善意の第三者に対抗することができないということが,7ページの(2)②に記載があって,その違いは,15ページの(2)の最後の方に説明してあるように,管理不全土地・建物管理制度の場合には,その管理権限が管理人に専属するというものではないので,やはり所有者の権利の静的安全をより配慮すべきだという理由が挙げられています。しかし,私はどちらも自分の土地・建物として管理・処分するのではなく,他人の土地・建物であることを前提に管理・処分しますので,その権限の有無・範囲について第三者は確認すべきであるという意味で,善意・無過失の第三者ということでそろえるということもあり得るのかなという感じがいたしまして,それとも絡めて確認させていただければと思います。
○大谷幹事 管理不全土地管理人の場合には,選任された場合に登記を嘱託するということは考えておりませんので,その意味では所有者不明土地管理人の場合とは違う扱いになってまいります。
今御指摘のあった,善意なのか善意無過失なのか,第三者の保護の在り方について,これも両様の考え方があり得ようかと思いますけれども,所有者不明土地管理の場合と管理不全土地管理の場合では,所有者自身の利益を保護するべき度合いが違うのではないかということで,ここでは管理不全土地管理人の方には無過失を求めるということにいたしております。
○山野目部会長 松尾幹事,お続けください。
○松尾幹事 ありがとうございます。そういう公示の上での違いがあるという点については理解いたしました。その上で,そういう点に違いがあることに直結するわけではないですけれども,所有者自身の利益を保護すべき度合いが違うことから,第三者保護要件についても違ってくるということですが,管理不全土地・建物管理人の場合にも,少し気になるのは,土地や建物の管理が不適切だという意味では所有者にも少し帰責性が高くて,その価値判断としては,第三者との利益衡量は結構難しいなと思いまして,その点で所有者不明という場合と管理不全という場合を比較したときに,なかなか第三者との利益調整の問題は難しいものがあるなと感じました。一方,他人の土地・建物として管理・処分がされる点では,いずれの場合も第三者に善意・無過失を求めても重過ぎる負担ではないように思います。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。今回,管理不全土地管理人,管理不全建物管理人の両方に規律として新たに入れられております,例えば14ページの(2)③のところですね,保存行為等を超える処分に関して,所有者が異議を述べない場合に限り,裁判所が許可をすることができるという規律について,これは管理不全土地の所有者が現に存在して明示的に争っているというような場合であれば,こういう手続を踏んだ方が当然いいだろうなと思う一方で,所有者が所在不明の土地の場合はどうなるのか,という点が気になります。今考えられている制度間の整理では,所有者の所在が不明だからといって,常に所有者不明土地管理人制度を用いなければいけないということでもなかったと思いますので,例えば管理命令を請求できる利害関係人の要件とか,あるいは疎明のやりやすさという観点から,最初から土地とか建物の所有者が分からない状態で管理不全土地建物管理制度を用いることもあると思いますし,あるいは,最初に管理命令を請求したときは所有者と連絡が取れたのだけれども,その後,行方が分からなくなって連絡できなくなったというような場合もあり得ると思います。その場合に管理人に求められる行為として特にありそうなのは,売却とかというよりは,むしろ建物を取り壊すとかそういったことではないか,と思っていますが,この場合,例えば,土地や建物の所有者が連絡が取れない状態になってしまっていたときに,これはもう所有者が積極的に異議を述べていないから,このまま裁判所と進めていいというふうな話になるのか,それとも何らかの手続を更に重ねた上でやっていくということになるのかということを,今お考えがあれば教えていただければと思います。
○大谷幹事 そのような所有者との連絡が付かないということで,管理人の方で所有者の異議を述べる気があるかどうか確認できないということであれば,異議を述べていないということになるでしょうから,その趣旨も踏まえて,裁判所の方で適切に判断をするということになろうかと思います。
○山野目部会長 よろしいですか。
○藤野委員 ありがとうございます。そういうことであれば,特に何か,途中で所有者がいなくなったときは所有者不明土地・建物管理制度に切り替える方が良い,とかという話でもないわけですね。合理的に手続の中で裁判所に判断していただけるということですね。
○大谷幹事 はい。
○藤野委員 ありがとうございます。
○大谷幹事 1点だけ,そういえば蓑毛幹事から4点目の供託の御質問というのにお答えするのを忘れておりました。すみません。
供託の場合,御指摘のとおり,管理不全土地管理の場合には,所有者自身がいて連絡も付くと,そして,もし異議なく建物,土地を売却することができて,その売得金ができたというときには,その所有者に対してお渡しすればいいと思われるわけですけれども,一方で,今,藤野委員が御指摘になったような,所有者がいないような場合があったりして,連絡がうまく付かないということもあり得る。供託の規律は,ものすごくよく使われることになるかどうか分からないところがありますけれども,所有者不明土地管理制度と異ならせて,あえてこちらには設けないというほどの積極的な理由もないだろうということで,供託の規律も置いておくというような趣旨でございます。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,併せて弁護士会の先生方に御紹介いただければと思います。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。14ページの(2)について,2点ございます。
1点は松尾幹事と,結論は違うのですけれども,同じような意見でして,今,藤野委員もおっしゃったことで,管理不全土地管理人と所有者不明土地管理人,建物もですけれども,は,隣接した制度といって差し支えないと思うのです。所有者不明土地管理人の方は所有者が不明のときしか使えませんけれども,管理不全土地管理人の場合は所有者が不明であってもなくても使えるということになっていると思います。その上で次に,松尾幹事が先ほど,両方の制度における所有者の責められるべき程度というのはそれほど違うのか,というふうなことをおっしゃったように思うのです。そこもそう思いまして,さらに私は,第三者から見て,専門家ばかりがこの土地管理人を相手にするのであれば,どちらがどちらというのは当然区別できるでしょうし,すべきなのかもしれませんが,土地管理人の取引相手となるのが必ずしも専門家とは限らないということを考えますと,第三者から見て,よく似た土地管理人の制度が二つあり,そのどちらかを区別しなければならないというと言いすぎかもしれませんが,どちらかによって自分の保護の在り方が違うというのは,なかなか難しい問題があると思うのです。
そこで,ここは松尾幹事と同じ考えなのですが,二つの場合で第三者保護要件はそろえておく方がいいのではないかと思っています。そろえる上で,結論は松尾幹事と違って,私は両方善意だけでいいという,前回申し上げたことですけれども,そういうふうに考えています。最後の善意か善意無過失かはともかく,両方そろえた方がいいのではないかというのが基本的に申し上げたいことの1点目です。
2点目は,③についてなのですが,これって,処分しますよというときに駄目ですと一言言えば,それで処分を見合わせてもらえるということですよね。しかし,処分をしないと事実上,所有者がまともに対応しないために管理不全状態を解消することができないというときは,結局,妨害排除とか,もう一回,別に本人相手にやれということになるのだろうと思うのですが,この制度は,それをできるだけ避けて,簡易にというと少しおかしいかもしれませんけれども,管理人を選んで,もうその人を相手にすればいいようにしましょうというものではないかと思うので,単に異議を述べただけで一切裁判所が許可を出せないというのがいいことなのかどうか,やや疑問に思っています。端的に言えば,異議こそが広い意味での管理の妨害に当たる場合だってあり得るのではないかということです。特に管理不全建物の方に行くと,これはもう壊すしかないではないかというようなことは結構あるのではないかと思うので,強い意見ではありませんけれども,これでいいのかどうか,やや疑問に思う,異議があれば,それを考慮して裁判所が許可するかしないかを決めるということにするのでよいのではないかと思うということを申し上げます。
○山野目部会長 佐久間幹事から前段,後段とも御意見にわたる御発言を頂きました。
前段で話題提供をいただきました,相手方の方の要件がどう在るべきかということに関しましては,部会資料52で提示している方向は,所有者不明土地管理命令の場合と管理不全土地管理命令の場合とで,第三者保護の主観的要件をそれぞれに考えることにする,すなわちその帰結が同じになっていないというものを御提示しておりますが,そろえるべきではないかというお話を松尾幹事と佐久間幹事から頂いたところであります。
今後の立案の参考とするために,ここの点について何か御意見がおありでいらっしゃれば,この段階でお教えを頂きたいと望みます。民法の先生方におっしゃっていただくということを,何かあればお願いしたいですし,もちろんそのほかの委員,幹事の皆さんも含めて,感ずるところがあればお教えいただきたいと考えますけれども,いかがでしょうか。
佐久間幹事がおっしゃったように,相手方になる第三者の側から見ると,不ぞろいだと安定感がないものではないかという話もごもっともであるとも感じます。
○水津幹事 所有者不明土地管理制度と管理不全土地管理制度とで,第三者保護要件が異なることの理由付けとして,両制度では,管理人に土地の管理処分権が専属するかどうかが異なることが挙げられています。しかし,管理人に土地の管理処分権が専属するかどうかは,土地の所有者は,管理人が選任された後も,その土地を管理処分する権限を有するかどうかという問題とかかわるものです。他方,管理人がどのような行為をする権限を有しているのかは,別途規律されます。このことについて,両制度は,管理人が保存行為等の範囲を超える行為をするときは,裁判所の許可を得なければならないという共通の規律を置いています。管理人がこの規律に反して,裁判所の許可を得なければならないとされている行為を裁判所の許可を得ないでした場合において,第三者をどのように保護すべきかが,ここでの問題です。そうであるとすると,管理人に土地の管理処分権が専属するかどうかが異なるということをもって,第三者保護要件が異なることを正当化するのは,難しいように思いました。
○山野目部会長 水津幹事のおっしゃった御疑問の向きをよく理解することができます。
引き続き,その点について御意見を承ります。いかがでしょうか。
今,部会資料でお出ししているような差異が生ずるということで,むしろこのまま進むことでよいという御意見でも結構ですし,改良を要するという御意見でももちろんよろしゅうございますが,おありでいらっしゃれば御遠慮なく御指摘ください。いかがでしょうか。
それでは,今伺ったような点を参考にしながら,引き続きここのところをもう少し調査検討をさせていただくことにいたします。ありがとうございます。
それから,佐久間幹事からの先ほどの御発言で,後段の方でも御意見を頂いておりまして,14ページの(2)③のところに登場してくる,処分を裁判所が許すに当たっての許可を与えるかどうかを審理,判断をする際に,所有者が異議を一言述べると,その許可がもうできないことになるということでよろしいものですかという御疑問の提示がありまして,取り分け非常に荒廃した建物のような局面を考えると,そのことは現実社会的にも深刻ではないかという問題提起を頂いたところであります。
ここについて何か御意見がおありの方がいらしたら,お話を承ることにいたしますが,いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 日弁連のワーキングの議論では,部会資料の規律に賛成するというのが多数意見でしたが,少数意見として,佐久間幹事と同じように,一定の要件の下に,所有者が異議を述べても,③で裁判所の許可に基づき処分できるとした方がよいという意見もありました。
ただし,仮にそのような意見を容れるとしても,③の規律だけ改めるのはよくないと思います。今の規律は,対象となる不動産を比較的広くとらえる代わりに,発令の段階では,所有者がその建物に現に居住していて,管理人の選任に反対している場合には,そもそも発令されず,また,管理人がなし得るのは,原則として保存行為のみで,所有者が異議を述べると処分できないという,いわばマイルドな制度設計になっています。所有者としては,そのような仕組みになっているのだったら,管理人が選任されてもよいと思って選任に反対しないでいたところ,最後の段階では,所有者の異議があっても,管理人が処分できるというのでは,バランスを欠くと考えます。
考え方として,この制度を,所有者の意思にかかわらず,管理人が建物の取壊しも含めて行えるという,いわば激しい制度設計で作ることもできるかもしれませんが,その場合は,入り口段階から,所有者の権利保護要件を含めて検討し直し,どのようなケースで発令され,命令が維持され,処分に至るのかを考える必要があると思います。たとえば,居住者がいない空き家で,管理不全による他人の権利または利益の侵害の程度が甚大といった場合に限るであるとか。最後の処分のところだけ修正するのでなく,発令のところから,全部をどのような仕組みにするかを検討しなければならないと思います。
○山野目部会長 処分についての所有者の異議について,蓑毛幹事からも御発言を頂きました。
ほかにいかがでしょうか。
○今川委員 先ほどの蓑毛幹事の質問において,選任をするときに所有者の陳述を聴くという規定が入ることは理解しました。それで,(2)の③の処分に関する異議ですが,この異議に関しても具体的な手続を規定されるということだと思います。今までの議論は,所有者が単に拒絶して妨害をするというような観点から述べられています。が逆に,土地所有者にとって不意打ちになって,所有者の権利保護に欠けるということがあってはいけないという観点も重要だと思います。したがって,その具体的な手続は規定されるのか,という質問と意見です。
○山野目部会長 非訟事件手続法において予定されている規律の概要について,御案内ください。
○大谷幹事 当初にその陳述聴取をするというのもそうですし,この土地を売却するか,処分するかどうかということに関しても,改めて土地の所有者に対して陳述聴取をするという形を想定しております。
○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。
○今川委員 はい。
○山野目部会長 ただいま御議論いただいている点について,ほかに御意見がおありでしょうか。
佐久間幹事に問題提起を頂いた事柄,(2)の③の所有者の異議に関わる点については,蓑毛幹事,今川委員から御意見をお出しいただきましてありがとうございました。引き続き検討しなければならないことであると感じます。
御参考までに,心配な点を2点申し上げますと,1点は,憲法上の疑義ですけれども,本当にその家が荒廃していて,隣地やその周辺に損害が及び,又は損害が及ぶおそれがあるということになるのであれば,この局面は,再々御確認いただいているように,物権的請求権の行使が機能として要件の上でも重複する場面です。物権的請求権が行使されてきて,こちらの土地に迷惑が掛かるから壊してくれとか,妨害が生じないような工事をしてくれということを正面から請求していくのであれば,所有権に基づく妨害排除請求権を訴訟物とする判決手続が始まって,弁論において当事者権を保障する手続が進んでいって,その結果,裁判所が必要やむを得ないと認める場合において,極端な事例にあっては,建物の取壊しを含む所用の作為を給付の訴えの判決として言い渡すということがあるかもしれませんけれども,ここの③は非訟事件手続でありまして,それでそこまで,異議があるにもかかわらず,異議はあるけれども裁判所は実際の事情を勘案して壊してよいという許可を出しますということをしたときに,財産権保障と裁判を受ける権利の保障との関係で,本当に憲法適合性の観点から,法制審査を克服することができるかということについては深刻な心配が残ります。そのことに留意しながら,ただいま御指摘いただいた点も含めて,検討を続けてまいります。
もう1点は,そのような特定の隣地などが被る損害のことなども民事の紛争としては考えていかなければなりませんけれども,そうしたサイズを超えて,さらにその地域一帯にとって,その荒廃した家屋が大変に危険な状況を呈しているということになった場合には,これは引き続き,ここの管理不全土地管理命令の機能として引き受けるべき局面もあるかもしれませんけれども,抜本的な対応は,やはり空家等対策の推進に関する特別措置法が定める特定空家の問題として,市町村が費用を負担し手続を進めるという覚悟の上で,その地域の問題を乗り越えていかなければいけない,そういう契機もございます。それらを考慮に入れた上で,管理不全土地管理命令としてやれることは,この③で今提示しているところが限界であるかもしれないという気持ちでお出ししているところではありますけれども,なお本日,御注意があり,活発な御議論を頂いたところでありますから,引き続き検討をするということにいたします。ありがとうございます。
管理不全土地管理命令の制度について,引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。よろしゅうございますか。
○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。大変細かい点で恐縮なのですけれども,16ページの説明のところで,管理人の訴訟遂行権限と申しますか,に関する記載に関してなのですけれども,16ページの(3)の上の二つ目の段落というのでしょうか,「また」という言葉から始まる段落に関してですけれども,管理不全土地管理人は土地の処分権を有するけれども,許可を得なければ行使することができないので,処分権があることを前提に当事者適格を認めることはできないということで,他方,裁判所の許可があれば当事者適格を有するという説明をされているかと思います。
この辺りは恐らく,法律が仮にできたとして,その後の解釈の問題ということに実際にはなるのかなと思いますけれども,私自身は結論としては,裁判所の許可があれば訴訟遂行ができるはずであるし,許可がなければ適法に訴訟遂行はできないのだろうというところは,そのとおりではないかと考えているのですけれども,許可があれば当事者適格があり,ない場合には当事者適格がないという形で,当事者適格の存否という形で理論的に説明することがよいのかどうかという点については,若干,悩ましいと感じているところがあります。
と申しますのは,この処分権を行使するのに許可が必要だというのはそのとおりなのですが,そのこと自体は所有者不明土地管理人の場合もほぼ実体権限そのものは,若干,過失の問題等,パラレルでないところもありますけれども,基本的には管理処分権があって,しかし保存行為等を超える行為については許可が必要であるという構造を同じくしておるわけですけれども,恐らく所有者不明土地管理人の場合には,別途,訴えについて原告又は被告とするということで,一応,当事者適格は一般的にあるけれども,訴え提起等の行為について更に許可が必要かどうかということが解釈上,問題になるという整理になっているのかなと思われますので,その場合とこの場合とで,どこまでパラレルになって,どこからずれてくるのかというような問題があるのかなと考えております。理論的な説明の問題ということになると思いますので,このゴシックの部分の当否等に関わるものではありませんけれども,御説明の際に,その辺りの問題についても可能な範囲で配慮していただくとよろしいのではないかと感じました。
○山野目部会長 ありがとうございます。部会資料16ページのところで議論をお示ししている,管理不全土地管理人の訴訟遂行権の根拠付けの問題について,所有者不明土地管理人の場合における訴訟遂行との関係において,向こうでも同じなのに,少し説明が不ぞろいですよねというような問題が起こらないように,精密な説明に努めてほしいという御要望を頂きました。事務当局において,ここの補足説明の改良に努めることにいたします。ありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
管理不全土地管理命令について,御意見を承ったと受け止めてよろしゅうございますか。
それでは,本日は部会資料52を用意いたしまして,その中身について順次御審議を頂いたところでございます。本日の審議をここまでといたします。
次回の会議等につきまして,事務当局から案内を差し上げます。
○大谷幹事 本日もありがとうございました。次回の議事日程について御連絡をいたします。
次回の日程は,2週間後,12月15日火曜日,午後1時から,また終了時間未定という形ですけれども,この法務省地下1階の大会議室ということになります。
取り上げるテーマといたしましては,不動産登記法の見直しの関係,それから,いわゆる土地所有権の放棄に関する提案の関係を取り上げたいと思いますし,また,今日,引き続き検討するという部分もございましたので,必要に応じてそちらも取り上げさせていただければと思っております。
○山野目部会長 次回の第23回会議についての御案内を差し上げました。その点も含めて,この際,部会の運営などにつきまして,委員,幹事からお尋ねや御意見がありますれば承ります。いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,本日も熱心な御審議を頂きましたことに御礼を申し上げます。これをもちまして,民法・不動産登記法部会の第22回会議をお開きといたします。
それでは,内容の審議に進むことにいたします。
部会資料49をお取り上げください。管理措置請求制度についてお諮りをいたします。
1ページを御覧いただければお分かりのとおり,第19回会議に引き続きまして,管理措置請求制度についてお諮りをいたします。第19回会議におきましては,管理について問題がある土地の所有者に対して,行為の請求をすることができるという形態の管理措置請求の制度も掲げておりましたけれども,第17回会議における議論の様子を拝見いたしますと,理論的な観点その他から様々な難しい部分があるようにも感じられたところでございます。
本日はそのようなところから,それを(注1)の所に掲げて,重みを下げてございます。それと入れ替わる形で,第17回会議におきまして,その土地に立ち入ることができるという形態の提案も差し上げていたところでございまして,これを甲案としてお示ししているものであります。
また,第17回会議においても,そのような可能性を示唆する御意見を頂いておりますけれども,様々な観点への考慮をしますと,本日お示ししている乙案でございますけれども,管理措置請求制度に関する規律を設けないという方向もあり得るものでございまして,これについても掲げているところでございます。
部会資料40でお諮りしている事柄の骨子はこのようなことでございます。部会資料49でお示ししている管理措置請求制度について,委員,幹事の皆さんに御議論を頂きたくお願いいたします。どうぞ御自由に御発言を賜りますようお願いいたします。
○橋本幹事 部会資料49に関して,日弁連で検討している議論状況の御紹介を差し上げたいと思います。
まず,前回の部会資料39と比べてがらっと変わっているので,どうしたんだろうなというような受け止め方が大きくて,それで,今回の甲案,乙案に関しては,いずれも賛否両論がありまして,なかなかこれでいこうという統一的なところ,一致はなかなか見られなかったんですが,後に検討する部会資料50の方の,管理不全土地管理制度の方と対比して考えると,50の方は,所有者と管理人が対立する可能性を想定している制度ですから,所有者が反対の意思を表明する場合には,そもそも発令されないであるとか,取消しというような説明がされています。そうすると,この管理が不適切な土地について他人が管理に関わっていくということについては,なかなか50の方では,実効性が薄いのではないか。そうすると,49の管理措置請求の方を何とか実効性がある方向で育てていった方がいいのではないかという大まかな流れでした。
そこで,ただ,甲案でいきますと,「瑕疵がある場合」というような非常に要件が広範になっておりまして,第17回会議のときに,議事録を読み返しましたけれども,安髙関係官がおっしゃっていたことも私としては胸に突き刺さるものがありまして,管理措置請求というものの乱発ということ,これはやはり避けなければいけないだろうと思います。
そこで,甲案についてもうちょっと要件を明確化,厳格化するような方向で何とか育てていっていただきたいなと思っています。具体的にどうするかというのはなかなか難しいんですが,方向性としては,甲案の方向を何とか実現していっていただければなと思います。
○山野目部会長 弁護士会の意見を御紹介いただきまして,ありがとうございます。
藤野委員,お願いします。
○藤野委員 ありがとうございます。
今回御提示いただいたものの甲案,乙案で申しますと,やはり経済界としては甲案に賛成で,こちらの方を強く支持したいと思っております。これまでの部会でも理由等を申し上げてまいりましたが,やはり隣の土地が正に今後脅威になり得るというような事態に遭遇したときに,今までは隣地所有者に何か対策をしてもらおうとしてもなかなか動いてもらえない。かといって,では,自分たちでやろうとすると,それを行うための法的根拠が明確ではないのではないかというところで,どうしても躊躇してしまうというところがございまして,そういった観点から言いますと,甲案のような形のものが法律の中に入るということによって,未然に大きな災害であるとか,そういった近隣の土地の管理不全による被害を防ぐことができるという点で非常に大きいのではないかと思っております。
ここに提示されている要件に関しましては,例えば先ほど橋本幹事からも御指摘があった瑕疵のところは私も気になっておりまして,これは広い概念なのか,それとも狭いのか,どういうふうに解釈すればよいのかというところは,これまでの資料と比べると確かに分かりにくくなっているところはあるように思われます。余りここが狭くなり過ぎてしまうと,実効性が薄れるというところも多分にあるかとは思いますし,そもそもこれは土地の瑕疵という言い方をすべきなのかどうか。既に括弧書きで,「土地上の工作物若しくは竹木」という表現も併記していただいていますが,例えば土地の瑕疵といったときに,では,その上にある工作物とか竹木に問題があるときもそこに含まれるのかとか,そういった疑問というのは当然湧いてくるところはございますので,仮に甲案で進めるということになった場合には,ここの所はもう少し詰めて議論していただいた方がいいのかなというところは思うところがございます。
あとすみません,もう一点,要件に関して申し上げますと,これは今の書き方だと,他の土地に立ち入り,損害の発生を防止するために必要な工事をすることができる,という書きぶりになっておりまして,この点に関してちょっと意見として出ていたのは,これって予防工事ができるのは分かるんですけれども,実際に損害が発生した後もこれで読めるんですよね,ということで,この点について確認したいという意見もございましたので,最後質問になりますけれども,教えていただければと思っております。
いずれにいたしましても,基本的には甲案の方向性に賛成ということで,是非管理措置請求制度を新たな規律として入れていただきたいというところでございます。
○山野目部会長 藤野委員から御意見を頂きましたとともに,最後の所でお尋ねがありました。大谷幹事からお話を差し上げます。
○大谷幹事 ありがとうございます。今のところは,自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがあるときはというふうにしておりますので,「損害の発生を防止するために必要な工事」というのは,実際に生じている損害を除去するための工事も含むものと考えております。
○山野目部会長 藤野委員,よろしいですか。
○藤野委員 損害が継続しているのでそれ以上発生しないようにする,ということも,防止するため,と読むということですね。
○大谷幹事 今,実際に生じている損害の原因を除去することが可能だと考えております。
○藤野委員 承知いたしました。ありがとうございます。
○山野目部会長 及び,又は及ぶおそれがあるときという法制上の表現をもって,及んでいるとき及び及ぶおそれがあるときの両方を包含するという趣旨であって,今,大谷幹事からもそのようなお話を差し上げたものであります。ここはよろしいですかね。
先ほど松尾幹事がお手をお挙げになっておられました。どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。お尋ねと意見と一つずつ申し上げたいと思います。
お尋ねしたい点は,部会資料39の第1の1では甲案,乙案,丙案とございましたが,今回の部会資料49における甲案の提案は管理措置権と構成されている点で,部会資料39の第1の1の丙案を展開したものと承りました。
ただ,それと一つ違っているのは,「天災その他避けることのできない事由による」という要件が落ちています。これについてはどのような理由によるものかということをお尋ねしたいと思います。
それとの関係で,今回の提案は物権的請求権論との関係を意識した説明になっているように思われます。もっとも,相隣関係の規定は,物権的請求権で救済できないところを法律の規定でカバーするという関係にあるように思いまして,そのような観点から物権的請求権論との関係をどのように整理するのかということについては,検討の余地があると感じました。
例えば,管理措置権に類似するものとして,既存の規定としては,民法215条の疏通工事権がございますけれども,こちらの方は「天災その他避けることのできない事変により」という要件が付いている一方で,その場合には,高地の所有者が低地に立ち入って疏通工事,つまり,水流の障害を除去するために必要な工事をすることができるとされています。しかも,その場合は「自己の費用で」と定めていますので,高地の所有者がその工事をして,費用も高地の所有者負担とするということが明確になっているように思います。その際に,民法215条の疏通工事権は忍容請求権説に立ったものかどうかというような議論は余りしないのではないかと思います。
同様に民法216条の工事の請求権についても,こちらは物権的請求権の行為請求権説に立つものという説明によるというよりは,相隣関係上の一種のリスクの分配と負担の公平を図った規定であるというふうに理解できるように思います。そこで,管理措置権もこのような相隣関係上のリスク分配の観点から要件を整理するという方向を検討する必要があるのではないかと思います。
その観点から,管理措置権をまずは民法215条の疏通工事権の延長として考えていくと,民法215条が前提とする,不可抗力によって,自然流水の承水義務が果たされなくなっている状況において,物権的請求権によって解決できない部分を条文化しているという点を看過できません。この観点から見ますと,それを更に展開したものとして管理措置権の制度を検討するときには,不可抗力要件をどういうふうに見るかということは,部会資料39の第1の丙案との関係でもやはり検討が必要ではないかと思われます。この要件が今回落ちている理由は何かということを確認したいと思います。
今回の管理措置権が主たる場面として,典型的に想定しているところは何だろうかと考えますと,例えば,大雨とか,様々な理由で,隣地の木が倒壊しかかっているとか,隣地の土砂が自分の土地に崩れかかっているとか,そういうときに応急措置をしたいというような場面が考えられます。そういう場面で管理措置権を用いることを前提に考えますと,取りあえずは自分で立ち入って,自分の費用で工事をすることができる。しかし,それ以上の本格的な措置に関しては,物権的請求権で論じているような領域に入ってくるのではないかと思われます。管理措置権の制度については,そういう制度の位置付けもできるように思われます。そこで,ここで提案されている管理措置権をどういうふうに位置付けているのかということについて,確認させていただきたいと思います。
それから,先ほども指摘がありました「瑕疵」について,意見がございます。今回,瑕疵ということが要件に入ってきているわけですが,瑕疵については8ページの最後の段落で,民法346条や661条の用法を前提に御説明いただいておりますけれども,民法717条の土地工作物の設置または保存の瑕疵というものとの関係もどうも気になってくるところでありまして,やはり瑕疵というと,何か責任問題と結び付いてきて,誰がそれについて責任を負うんだというようなことがどうしても連想されてしまう気がいたします。
この管理措置権の制度を,瑕疵についての責任問題とリンクさせるべきかどうか,私はそこはむしろ切り離して,ここは誰に責任があるかという問題とは切り離したところで,先ほど申しましたように不可抗力で生じている危険状態を取りあえず自分で隣の土地に立ち入って応急措置をしたいというときに,現在では適切な制度がないので,それを管理措置権でカバーする必要があるのではないかと理解しました。
そういう観点から甲案を展開していくという前提に立ちますと,この「瑕疵」という要件は必ずしもなくてもよいのではないかと思います。その代わり,「天災その他避けることのできない事変により」というような不可抗力要件は入れてはどうだろうかと考えます。かつ,もし可能であれば,損害の発生を防止するため必要なということの前に,前回の提案にもありました,「自ら」とか,「自らの費用で」とか,費用負担についてまで踏み込んで規定することによって,物権的請求権論との役割分担を条文上も明確に整理しておく方がよいのではないかと思いました。
先ほど橋本委員から御指摘がありました,管理措置請求の乱発を回避するという視点は私も重要であると思います。その意味でも,管理措置権の要件をきちんと絞り込んでいくということに私は賛成であります。
○山野目部会長 前段でお尋ねがありましたから,大谷幹事からお話を差し上げます。
○大谷幹事 前回,部会資料39においては,甲案,乙案として,行為請求権に親和的なものを,丙案として,認容請求権に親和的なものをお示しをし,乙案と丙案が天災その他避けることのできない場合というような不可抗力の場合に限ったものとしてどうかということでお示しをいたしました。一方で,(注2)においては,今回の甲案に相当するものも掲げていたところでございます。
前回の御議論をお聞きしておりますと,物権的請求権について,占有訴権の規定が現行民法にあって,それも一つの根拠になるということで,不可抗力の場合に物権的請求権が生じないという学説はあるのかというような御指摘もございました。改めて考えてみますと,管理不全の土地,危険な土地への対応という文脈で考えたときに,前回の丙案のように,不可抗力に限って新しい規律を設ける理由はあるのだろうかと。不可抗力でなくても新しい規律を設けるということには一定の意義があるのではないかと考えまして,そのような趣旨で,今回の甲案は,物権的請求権に関する解釈については現状を変えない,そこに触れることなく,なお,管理不全の土地についての対応として意義がある規律としてどういうものがあるかということを考えまして,甲案というものをお示しいたしました。この甲案は,どのような原因で瑕疵が生じたかということについては問うていませんので,不可抗力の場合であってもなくても,この規律は使うことができるだろうと考えています。ただ,費用の負担については,物権的請求権の解釈の内容とバッティングするところがあるので,なかなか費用については規律を設けることが難しいのではないかということで,費用についての規律を置くことはしないという方向で提案を差し上げたというところでございます。
○山野目部会長 部会資料を作成するに当たっての経緯の案内を差し上げましたから,松尾幹事,どうぞ,お続けください。
○松尾幹事 ありがとうございます。今の大谷幹事から御説明いただきました,物権的請求権論との関係という点ですけれども,私はもしこれを相隣関係の規律として置くということであれば,必ずしも物権的請求権論のどの立場に立つということを明確にしなくても,規律を設けていくことができるし,そうすべきではないかと考えます。大谷幹事がおっしゃるように,物権的請求権論の特定の立場に立つものではないという点は私も全く賛成で,更に進んで,規律の要件,効果を明確にすることによって,物権的請求権論の特定の立場に立つものとは異なる,独立の規律としてこれを設けていくということも可能ではないかと思います。その例として,現行民法215条,216条のような例もあって,これは物権的請求権のどちらの立場に立つということとの関連付けは,私の不勉強かもしれませんが,余り議論としてはないように思われまして,むしろその規律が費用負担者も含めて明確になっていれば,それでよいのではないかと思った次第です。
○山野目部会長 御意見は承りました。
大谷幹事,どうぞ。
○大谷幹事 今の費用の点,不可抗力で生じた危険な状態について,それを除去する工事の費用負担をどうするかということは,中間試案の際からずっとお示しをしてまいりました。ただ,実際に生じる危険な状態の土地は,複数の土地との関係で危険が生じるということもあり得て,費用の負担のルールを,不可抗力も含めて,合理的に作るというのはなかなか難しいというところがございます。加えて,物権的請求権との関係もどう整理すればいいのかというのは難しいところがあるというところで,今回,費用の負担のルールを設けることについては,提案をしていないというところでございます。
○山野目部会長 松尾幹事の御意見は受け止めておりますから,参考といたします。ありがとうございます。
道垣内委員,お待たせしました。
○道垣内委員 どうもありがとうございます。松尾さんがおっしゃった瑕疵の問題,瑕疵という言葉の問題に関連することで,同じことを申し上げるのかもしれません。というのは,瑕疵という言葉がここのコンテクストで出てきますと,やはり717条における瑕疵というものとの親和性というのがあるような気がするのですね。そして,717条における瑕疵という概念を考えてみますと,これは不法行為の中の条文ですから,よく無過失責任だとか,何とか言われたりしますけれども,やはりそれは瑕疵を生じさせているということに責任があるというのが,根本的な責任原理として存在しているんだと思います。
しかるに,本日の案のコンテクストで申しますと,瑕疵であると評価できないとしても,自分の土地に隣の土地が原因で損害が及び,また,及ぶおそれがあるときというのは,何かできなければいけないはずだろうと思います。もちろんそれが不当な損害でなければならず,何らかの場合の限定は必要になります。例えば隣の土地に,これは建物ではないかもしれませんが,建物が建築基準法上,許される建物で,かつ受忍限度内である程度の日影ができるというふうな建物が建った場合にも,損害があることは確かですから,それで何かできるのかといったら,それはできないわけです。そのとき,瑕疵という概念で調整して,損害のところは単純に「損害」と書いておしまいにするという方法と,瑕疵のところは,そういった要件を書かないで,損害のところを「不当な損害」といった感じでして,そこで調整するという方法の両方があり得ますが,私は,瑕疵という概念のところで調整するというのは,先ほどの繰り返しになりますけれども,やはり土地の所有者の方の行為義務違反みたいなものを念頭に置いている方法だと思うのです。
今回はそうではなくて,不可抗力であろうが何であろうが,これは成立するということになると,やはり形容詞を付けて縛るのならば,それは多分,「損害」のところに限定修飾語を付けて調整するということが必要なのではないか。このままで条文化されますと,損害が具体的に生じているのに,瑕疵ではないというふうに言えれば,立入権限をストップすることができることになりそうなのですが,それはおかしいのではないかと思います。
そこで,限定して調整するための形容詞は,損害のところに在るべきであって,瑕疵という言葉は使わない方がいいのではないかというのが,私の意見です。
○山野目部会長 御意見は承りました。次第に甲案の難しさが分かってまいりました。
佐久間幹事,お待たせいたしました。
○佐久間幹事 ありがとうございます。私は(注1)の案を支持し,甲案と乙案ならば乙案,甲案のみ単独では反対という立場で意見を申し上げます。(注1)のようなものを前提として甲案もありというのはあるかなと思うという,そういう意見を今から申し上げようと思っています。
まず甲案に反対の理由ですけれども,補足説明におきましては,簡単に申しますと,物権的請求に関する規定がないところ,前回までの案,(注1)の案を採るということになりますと,物権的請求を忍容請求とするような考え方に矛盾することともなり得るし,あるいは物権的請求権に関する議論と両立しない,そのため導入は難しいという,概略はそういうことであろうかとは思います。
先ほど松尾幹事が物権的請求の議論に必ずしも付き合う必要はないのではないかとおっしゃって,それは私もそうだと思っていて,ここは独立して考えておけばいいのではないかと思っておるんですけれども,物権的請求の考え方に付き合うとしましても,考え方は様々でありまして,その考え方の矛盾と見られることを避けたいということでありますと,甲案を採るとしますと,そもそも物権的請求自体が行為請求を含まない,また,行為請求には消極的であるととられるおそれもあるのではないかと思います。
つまり甲案を置きますと,この場面では物権的請求ではそもそも相手方に対応を求めることは難しい。甲案のように被害を受けている側が自分で対応すればよいというようにも受け取られかねないのではないかと思います。そうなったとすると,それはそもそも論としておかしいと思いますし,後でも申し上げますけれども,かえって問題の解決を遅くするのではないかと思っています。
甲案の基礎には,全体としては物権的請求権について様々な考え方があるということは触れられておりますけれども,どちらかというと,忍容請求にかなり配慮した考え方があるのではないかと受け止めます。しかし,前回も申し上げましたけれども,占有の訴えが可能である以上は,その占有の訴えも制限しない以上は,所有者は,占有を持たない場合を除いては,占有の訴えによって,妨害排除,占有ですと占有保持,あるいは妨害予防,占有保全の請求ができるはずだと思います。
補足説明の2ページの一番下には,216条につきまして,水流に関する工作物に限り,帰責事由のないケースを含んで工作物の所有者に義務を課しているというふうにされておりますけれども,この理解は少なくとも立法趣旨とは異なると思っています。
216条の規定は,所有者は占有の訴えによって普通対応可能であるところ,占有のない所有者もあり,例えば不法占有されている所有者ですけれども,この者にも請求を認めるという趣旨で置かれたもののはずです。
では,占有の訴えを制限するかといいますと,占有の訴えでは199条に妨害発生に備えて担保の提供を求めることができるとされているところから分かりますとおり,これは明らかに行為請求を認めるものです。占有の訴えができる場合を相手方に帰責事由があるときに限るとする考え方も学説の一部にはございますけれども,そこまでいきますと,我が国の民法の規定の前提を根本的に動かすことになるのではないかと思っています。
また,先ほど松尾幹事が215条のことを触れられましたけれども,215条は214条と対になる規定であると,元々は理解されていたはずでありまして,214条は自分の土地に自然に流れてきた水が来るのを妨げてはならない,要するに自分の土地で被害を受け止めろと,まず高地の所有者は言われていて,その高地の所有者に自分で受け止めろ,仕方がないとされているところを,低地で閉塞したときまで受け止めろというのはあんまりだということで,これは低地に立ち入って作業することができますよというふうにした規定のはずです。つまり,これは物権的請求とは何ら関係ないとまで言うと言い過ぎかもしれませんが,214条があるからこそ,置かざるを得ない規定だったと理解しています。こう考えますと,占有の訴え又は占有の訴えに関する規定と整合的に考えられる内容の物権的請求に問題を任せればよいというふうに全体として考えることができるのではないか。そういう立場を採れば,乙案でよいのではないか,甲案よりは乙案の方がいいと私は思います。
しかし,ここからが本当に申し上げたいことなんですけれども,国民に対する分かりやすさということを考えますと,不動産の管理不全の問題がこれだけ大きな問題となっているわけですから,(注1)のように,この場面で物権的請求とは切り離して,具体的な要件の下で,何ができるかということを規定する方がいいのではないかと私は思っています。占有の訴えとか,物権的請求というのは,それはできることはできるんだけれども,占有の訴えというのはかなり抽象的でありますし,そういう言い方をしていいのかどうか分かりませんが,地味な規定のような感じがします。
また,物権的請求に至っては規定がないというわけですから,国民に対する分かりやすさという観点からすると,これは松尾先生も先ほどおっしゃいましたけれども,相隣関係上の規定として,土地所有権の行使を妨げる,又は妨げるおそれがある事象に対しては,何をすることができるのか,妨げる事象の横行している方は何をしなければいけないのかということを明らかにする方がよいのではないかと考えています。
もう一つ,次に出てくる管理不全土地,建物管理命令の制度の関係からいたしましても,(注1)の案のようなものを置いておく方がいいのではないかと思っています。管理命令の制度は他人の土地に妨害又はそのおそれが生じた場合に妨害者の側が積極的に対応しなければならないということを前提にして初めて成り立つ制度だと思います。命令の方では,管理不適当によって,妨害があるということを要件と現状はされておりますけれども,これは後でも申し上げるつもりではおったんですけれども,妨害発生の原因が管理不全にあるという場合に限るのではなくて,妨害継続に対処しないことも管理不全に当たるという理解で,その場合には発動があり得るという制度にすべきだろうと思っています。
そういたしますと,妨害状態の継続の場合には,妨害者は対応しなくてはいけない。継続している場合には対応しなくてはいけないのに,それが起こった直後は何もしなくていいかのように見えるのは,好ましくないのではないかと思っています。
そもそも,自分の方は何もしなくていいんだなというふうに妨害をしている原因を作っている側から,受け止められますと,結局,相手が対応してくるのを待っていて,問題の解決が遅くなってしまうということにつながるのではないかと思っております。
○山野目部会長 御意見を頂きました。ありがとうございます。
次に御発言なさるのはどなたでしょうか。部会資料49について御議論をお願いしているところです。
ここまでお出しいただいたところで,(注1)に示している案についても関連して若干の御議論がありましたが,主に甲案を中心として,甲案そのものの成立可能性,適否に始まって,仮に甲案でいくとする際の甲案の中身,文言の選択,要件の整備等について,種々の御指摘を頂いているところであります。
ほかに御議論がおありでしょうか。いかがでしょうか。
吉原委員,お願いします。
○吉原委員 私は専門的なことは何も分からないのですけれども,甲案のような,こうした隣地で不適切なことが発生しているときに関与できる法的な根拠が設けられるということには賛成をいたします。
ただ,今,先生方の話を伺っていまして,これは隣地の側から見るか,あるいは所有者の側から,マイナスが発生している,あるいは発生するおそれのある土地の所有者の側から見るのかによって,権利の保護の在り方の問題が,見え方が随分違うのだなと思いました。その意味で,財産権あるいは所有権の観点から,この管理措置請求制度がどう位置付けられるのかということも関心を持ったところです。
それから,(注2)で,ほかの土地に立ち入るための手続については,部会資料46の規律を参考に引き続き検討するとありますけれども,46の規律というのは,飽くまでも隣地の使用の承諾を求める規律ということで,今回の管理措置請求制度とはまたかなり違う側面もあると思いますので,この立ち入るための手続ということが是非丁寧に議論されるとよいのではないかと思ったところです。
○山野目部会長 ただいま吉原委員から,論点を整理するような仕方でおっしゃっていただいたことを受け止めて申しますと,第17回会議において御審議を頂いた所を踏まえて,冒頭にも申し上げましたように,本日,部会資料49の甲案でお示ししているような方向が,少なくとも一つの有力な選択肢として考えられるところではないかということでお示ししているものではありますけれども,しかしながら,ここで甲案として示しているものは,確かにこの損害を受け,又は受けるおそれがある状態になっている土地の所有者から見ると,こういうことができると述べられておりますから,納得感が直ちに得られる規律ではありますけれども,吉原委員がおっしゃったように,この権利行使を受ける側の視点に立ってみると,立ち入ってきて,工事をされるという状況に置かれるものでありまして,その状況は,その人の立場に立ってみると,それは尋常ならざることであります。やむを得ずそういうふうになるならば,それは受け止めてもらわなければなりませんけれども,そこの要件の絞りは適切にされなければならないのでありまして,要件の絞りという際には,内容,実質に関わる要件の絞りと,それから,手順に関わる要件の絞りと,両方をきちんと考えなければなりません。内容の絞りとの関係で申しますと,道垣内委員の御発言にあったように,瑕疵という言葉で絞って,そこに修飾,限定を付けて絞っていく方法に加えて,及んでいく損害という観点から絞るということも有力にあり得るというアイデアを頂き,いずれにしても,実質の要件をこのままして進むということは,立ち入られる側の立場に立って見ると,ある意味では恐ろしいことになってくるかもしれないわけでありまして,そこの規律をうまく仕組むことができるかという課題がございます。
また,手順の関係から見ても,そのことを本日の資料では,(注2)で簡単に示しております。簡単に示しているというのは,事務当局のさぼりではないのでありまして,本日,仮に乙案ではなくて,甲案で進むというふうな方向が見えてきた際には,そこの規律の仕込みは権利行使を受ける土地所有者の側とのコミュニケーションも含めて,かなり細密に組まなければならないものでありまして,そのときに全く同じになるかどうかはともかくとして,部会資料46などにおきまして,隣地使用権について,既にこの部会の調査審議の過程でコンセンサスが得られつつあるところを参考にして,所有者に対する催告であるとか,急迫の事情がある場合の催告の省略による立入りであるとかいったようなことを,規律の細密度を上げる仕方で整備していかなければならないと,そのことを忘れないようにして,御案内するために(注2)を添えているところでございます。
これらの実質,内容と手順の両面に関わるハードルを乗り越えたときに,社会経済上,存在する需要に対する一つの回答として,甲案のようなアイデアが成り立つものであると考えられますけれども,裏返して言いますと,そういう所についての難点がどうしても明解な解決を得るということがかなわないということになってくるのであれば,本日,資料でお示ししているものでいきますと,乙案にならざるを得ないということにもなるものでありまして,本日,委員,幹事からもおおむねそういうふうな問題意識が大事であるというお話を頂いているものと感じます。
もう少しこの部会資料49についての御議論をお願いしたいと考えますけれども,いかがでしょうか。
松尾幹事,お願いします。
○松尾幹事 ありがとうございます。先の議論に続けて,補足的に申し上げたいと思います。
今,山野目部会長が御整理くださったとおりだと私も考えておりまして,甲案を,要件・効果についてしっかり絞らないと,やはりこれを規律することは難しくて,限りなく乙案の方に流れてしまうのではないかということを心配いたします。
翻って,所有者不明土地に起因する様々な問題の中で,しばしば指摘された典型的問題として,隣地が所有者不明状態で,木が倒れそうになっている,今度台風が来れば倒れるかもしれない,あるいは崖が崩れるかもしれないといった例があります。そういうときに,現行制度ではなかなか使いやすい手立てがなくて,不在者の財産管理人を選任するといった方法しかないという中で,何か適切な措置が採れないかという素朴な問題意識があったように思います。
それに対して,今回の民法の見直しの中で,何がそれに対応できるだろうかと考えますと,一つはこの後に出てきます,管理不全土地管理人の制度が考えられます。もっとも,これは裁判所に管理不全土地管理人の選任を要求しなければならないという手続を必要とします。そこで,それと併存する形で,とりあえず何か措置ができないかということを考えたときに,管理措置請求あるいは管理措置権の制度が使えるとするのであれば,要件をしっかり絞り,不明土地所有者の必要以上の所有権侵害を回避する形で,しかも効果についても,所有者の所有権行使を妨げない範囲で何かできないかという観点から,甲案をうまく絞り込んで育てていくという観点が重要であると思います。この観点から考えますと,先ほど道垣内先生がおっしゃった要件について,損害のところをしっかり絞っていくということ,それから,もう一つこの損害の発生を防止するために必要な工事ということについても,絞り込みが必要であると思います。例えば,隣の土地の崖が崩れそうになっているということで,この損害を受けそうな土地の所有者がしっかりした石垣を隣地や境界線上に作ってしまい,俺が費用負担をするからいいではないかということで,余りに余計なことをされてしまうようでは,これはちょっとやり過ぎだろうと思うわけです。
その一方で,今のままだと危ないし,所有者もなかなか見つからないので,取りあえず自分で応急措置をしたいんだというときに,暫定的な措置は,損害防止のために必要な限りで自らすることができるということが,必要になると思われます。
それで,本格的な問題解決は,先ほどちょっと申しましたけれども,まずその所有者を見つけて,その者との間で物権的請求権を行使するなりして,片を付ける問題ですけれども,そこに行くまでの制度的なつなぎがなかなかないので,それを作る意味があるのではないかと考えます。そういう観点から,要件・効果についての言葉遣いについては更に詰める必要があると思いますけれども,コンセプトとしてはそういうようなものとして,甲案を育てていく余地があるのではないかと考えます。
それとの関係で,先ほど吉原委員がおっしゃった部会資料49の5ページの「エ 具体的な実施方法」の所にあります,他の土地に立ち入る際の手続ですけれども,これについては,やはり事前通知等をしなくてもよいのか,部会資料46の第1に準じた手続が必要かどうかという問題提起がされています。しかし,これについては,管理措置請求権,あるいは管理措置権の制度的な位置付けを,今申したように,本格的な管理を求めるまでの一つのつなぎと考える観点からは,できるだけ使いやすくするという意味で,必ずしも公告手続や請求の手続というのは得なくてもいいのではないかと考えることもできるように思います。しかし,その分だけ要件・効果をしっかり絞っていくということが考えられるのではないかと思った次第です。
○山野目部会長 松尾幹事に整理していただきましたとおり,甲案でお示ししているものをざっくばらんに言いますと,少し大きめに作るといいますか,いろいろな場面にかなり幅広く用いることができますということになっていく場合には,工事をするなどの権利行使をするに当たっての立ち入られる側の土地所有者との間のコミュニケーションのところの規律をかなり重装備にしていかなければなりません。209条の隣地立入権の場合すら,きちっと催告とか公告とかいったようなものに実質的に近いものをしてくださいという方向でお話が進んでいて,そちらの工事のために立ち入るときにもコミュニケーションが要るのに,もっとどんどん入っていって,やらせてもらえますよというときにはコミュニケーションが要らないということでは,バランスとしては説得力のある話になりませんから,そういうふうに大きなサイズで作るときには,この手順の所をしっかり議論しなければいけないという度合いが高まります。
半面,松尾幹事から示唆を頂いたとおり,そういうふうに甲案を大きめに作るのではなくて,何と申したらよろしいでしょうか,急迫といいますか,緊急といいますか,そういうふうな状況において,とりあえずこの被害,損害を被る側の当事者が自分ですることができるという規律を考えるということでありますれば,その土地所有者との,立ち入られる土地所有者の側とのコミュニケーションについて,気を遣わなければいけない度合いが相対的に下がりますけれども,今度はそうなってきますと,乙案で行ったときの物権的請求権を本案とする民事保全の制度との役割分担であるとか,あちらで話を賄うことができるという程度をにらんだ上で,新たに甲案のような仕組みを設けることがどこまで切迫,緊要なものとして要請されるのかといった辺りについて,今度は目配りが必要になってまいります。こういった悩ましい位置にこの論点は置かれているということを松尾幹事の示唆で整理していただきました。ありがとうございます。
佐久間幹事,お願いします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
甲案で行った場合に,私は少しイメージがうまくできないところがあるんですけれども,まずこれが管理不全の土地であるということは,瑕疵という言葉を使うかどうかはともかくとして,前提となるわけですね。そうすると,管理不全の土地が隣にあって,自分の土地が迷惑を被っているとなると,迷惑を被っている側の人の普通の反応は,あんた何とかしろということだと思うんです。あんた何とかしろと言われることが,占有の訴えや物権的請求では通るだろう,多くの場合,不可抗力で物権的請求の一部の考え方によると,どうなのかなということはあるかもしれないけれども,占有の訴えだったら,多分できるし,そういう極めて限定的な状況を除いては,あんた何とかしろというのは,それは通るはずだと。ところが,そのあんた何とかしろと言ったけれども,らちがあかないとなったときに,甲案の出番がやってくるんだと思うんです。今までは甲案のようなことができなかったので,その部分については甲案が機能するというか,役割を発揮するというか,力を発揮するということになるのだと思うんですけれども,そうすると,迷惑を掛けている土地の側からすると,いや,知らぬ存ぜぬというふうに言っていると,最後,不法行為によって損害賠償請求されたならば,費用は結局そちらから出るということになるんだけれども,被害を被っている側からすると,もう一回訴訟して,何とかしなければいけないというふうになる。そのような状況になるんですよということを甲案というのは含んでいると思うので,本当にそれでいいのかなというのが,僕は疑問に思っているところです。
それで,もう一つ,部会長がおっしゃっている,あるいはほかの皆様がおっしゃっている,手続が大事ですよというのは,そうなのかもしれませんけれども,今のような状況を考えると,209条の場合は,立ち入られる側の土地の所有者は別に他人に迷惑を掛けているわけでもなくて,立ち入りたい土地の所有者の方が自分の都合で立ち入りたい,だから何とかしてくれというのに対して,こちらは本来は自分が何とかしなければいけないところをしていないからこそ,立ち入らせろというふうに要求されている人で,侵害の度合いというか,介入される度合いが強くなるというのは,ある意味当たり前だと思うんですね。それが嫌だったら,自分で何とかしろと,妨害を除去しろということになると思うので,そういう意味では(注2)のような,隣地使用権の規律が参考にはなるんだろうと思いますけれども,あちらほど丁寧にしなくてもいいのではないか,この甲案の要件をそこまで絞り込む必要はないのではないかと思います。
もし逆に,甲案を前提として,甲案だけ置きます,隣地使用権の規律を参考に立入りの要件を厳しくしますというふうになると,何だかものすごく逆のメッセージといいますか,侵害している側が放っておいたっていいんだよと,侵害されている側が何とかするんだから,というふうなメッセージにもなりかねないのではないかと思います。先ほど申し上げたのと基調は一緒なんですけれども,以上です。
○山野目部会長 よく分かりました。ありがとうございます。
引き続き御意見を伺います。いかがでしょうか。
特段の御発言が,更なる御指摘としてお持ちの方はおられないでしょうか。
もし御発言がないようでありますれば,本日ここまで頂いた御指摘を踏まえて考えまするに,まずこの甲案と乙案という仕方でお示ししているところについては,既に委員,幹事から多くの御指摘を頂いて,繰り返しませんけれども,甲案で示している内容,実質にわたる立入り,予防工事を自らするという権利の行使についての要件の実質的検討を踏まえた上での言葉の選択が問われます。瑕疵であるとか,損害であるとかいったものについての言葉の選択について,更に考え込んでいかなければいけないという課題がありますとともに,(注2)のところで留保しておりますように,仮に甲案のようなものを採用するということになった際には,この立ち入られることになる土地所有者との間でどのようなやり取り,段取りを経た上で,権利行使をしていくことが適切であるかということについて検討しなければいけない。このことの検討の必要があるということ自体は,委員,幹事の間で広く認識が共有されたものではないかと感じます。(注2)の所では,あるいは,その(注2)の補足説明においては,一応,隣地立入権について,これまで検討してきたところを主要な参考にするという案内を差し上げているところでございますけれども,ただいまの佐久間幹事のお話をお聞きしていると,単純に隣地使用権についての規律をこちらにコピーしてくればいいという話でもない。そういうことをしたときに,帰結が何かおかしくなるというような側面がないか注意をしてほしいという御指摘もあったところでありまして,それらも踏まえて,更に検討していくということになります。
なお,更に申し添えますと,そのようにして甲案でうまく規律の立案が成り立たないということになりますと,乙案に赴くことになりますとともに,付け加えますと,(注1)でお示ししている方向について,本日,委員,幹事からは余りたくさんの御意見は頂きませんで,第17回会議の議事の様子を踏まえると,それも理解するところでありますとともに,佐久間幹事からは,なお,(注1)の方向での提案を考えていくことの相当性というものがあるという御指摘も頂いたところでありまして,(注1)についても引き続き,仮にこの(注1)に示しているような案を採用するということになった場合には,その中身を整えなければなりませんし,(注1)のような方向はもう考えないということになる際には,今度はどうしてそういうふうな解決になるのかということについての説明を用意しなければならないということもございます。
本日,委員,幹事からお出しいただいた所を踏まえて,ただいま申し上げたような観点から議事の整理に努めるということにいたします。
部会資料49について,このようなことで次回以降の会議において,御審議をお願いしてまいろうと考えておるところでございますけれども,49との関係について,何か特段の御指摘が残っておられますでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは,部会資料49についてお願いする審議をここまでといたします。
部会資料50をお取り上げくださるようにお願いいたします。部会資料50におきましては,まず管理不全土地管理制度を採り上げております。これにつきましても,部会資料39でお出ししたものの骨格を保ち,第17回会議で御指摘いただいたところを種々反映させて整えたものをお示ししております。1ページはこの制度の骨子をお示ししているものであります。
2ページから3ページにまたがって,太い文字で管理人の権限等についてお諮りをしています。これも部会資料39で御提案申し上げたところと大きくは変わっておりません。1点のみ,委員,幹事の皆様方に御審議を頂きたいところを取り立てて申し上げることにいたしますと,3ページの上の方,②の柱書のところにおきまして,第三者保護の主観的要件を単に善意とするか,善意かつ無過失とするかというところについて,鍵括弧を付けて,留保した上で,お示ししているところでございます。
この局面は,管理人が自ら法律行為として行うことになりますから,表見代理とは性質を異にいたします。表見代理と性質が全く同じであれば,表見代理の規定,規律の定めるところに従って,主観的要件の処理をすればよいことでありますけれども,それとは異なる局面でありますところから,改めて規定を起こすという仕方での提案をしているところでございますが,しかしながら,局面の構図が表見代理とかなり近接する面があるところも確かであります。表見代理と同じにするということであれば,善意かつ無過失ということになりましょうし,しかし,必ずしもそのようにする理論的必然性がないということになれば,単なる善意ということになるものであるかもしれません。そのようなところから悩ましい点でありますゆえ,このような仕方で部会資料をお示ししておりますところですから,委員,幹事の皆さんから御意見を頂きたいと考えます。
6ページの方に参りますと,この管理人の義務,それから,解任,報酬についての提案を差し上げ,管理命令の取消しについての提案も添えてございます。部会資料39でお示ししたものをここで改めて御提示申し上げています。
7ページの方に進んでいきますと,今度はお諮りする制度が変わります。管理不全建物管理制度という制度の創設について御提案を差し上げているものでありまして,建物について何と申せばよろしいのでしょうか,独立型といいますか,土地とは別に管理命令の対象とすることができるという趣旨,骨格の制度を提案しているものでございます。
土地と建物とを分ける必要もないと考えられますところから,部会資料50の全体につきまして,すなわち管理不全土地管理制度と管理不全建物管理制度の両方についてお気づきの所を御随意に御発言いただくということをお願いいたします。
中村委員,お願いします。
○中村委員 まず今回の管理不全土地管理制度につきまして,本制度の適用場面として主に想定されていますのは,所有者が実際に利用していないというケースで,本文(1)①の要件を満たし,かつ,所有者が管理人による管理処分に同意する,又は明確には反対していないケースであると理解しましたが,これを前提としてよろしいでしょうか。その上で,日弁連のワーキンググループでは,管理不全土地管理制度では現に所有者が判明しているので,所有者が反対している場面では,訴訟手続を通して物権的請求権等を行使するというのが適切とも考えられるため,本制度は限定的ではあるけれども,今回想定されているような場面で働けばよい,本制度を利用できない場合はほかの制度でいくというのは一つの方向性として理解できるものであって,これには基本的に賛成するという意見が比較的多数ございました。
他方で,資料49で検討しました管理措置請求制度を仮に新たに設けないとする乙案となる場合は特に,管理不全土地,管理不全建物管理制度が何とか有用性を持つように具体的かつ限定的な要件設定の下で,所有者が反対していても,管理人が選任され,かつ,場合によっては処分までできるという作りにできないものかという熱心な議論もございました。
どちらの方向で行くにしても,発令の要件と判断基準が明らかになっている必要があると考えます。補足資料の4ページを拝見しますと,所有者が実際に利用していないこと,また,所有者の意見が重要な考慮要素になるということが記載されておりますけれども,本文(1)の要件からは,そのことが重要な判断基準になっていることを読み取るのは困難だろうと思います。
これがあらかじめ分かってないと,申立人は本制度を利用できると期待して申し立てたのに,実は利用できなかったというようなことにもなりかねませんので,あらかじめ何らかの形で重要な判断要素が明示されているような作りにした方がよいのではないかと考えました。
それから,本文(2)の管理不全土地管理人の権限等について申し上げますと,第17回のときの資料39では,管理人の権限は基本的には保存行為と利用改良行為であり,裁判所の許可を得れば処分行為も可能という作りになっていましたけれども,今回の①は管理人は土地,動産,財産全体につき権限を有するということを示すためにこのような書きぶりになっているかと推測いたしますけれども,①が先に挙がっていることで,管理人はいわゆる処分行為について権限を有するのが原則であるかのように読めなくもない気がいたします。その場合には,②のただし書における信頼の対象ですとか,過失を要求するとして,過失の内容などに影響が出てくる可能性がありはしないかという気もいたしましたので,趣旨が前回と変わらないということであれば,書きぶりを工夫いただければと感じました。
先ほど部会長から御指示のありました,第三者保護の要件についてですけれども,善意だけでよいか,無過失を要求するかということについては,意見が分かれておりまして,必ずしもどちらというふうには申し上げられない状況です。無過失を要求するべきだという意見もありましたし,要求しないという意見もございました。
それから,本文(3)管理不全土地管理人の義務等について申し上げます。アの義務の部分につきまして,所有者のために善管注意義務を負うという記載になっておりますが,本制度は,所有者不明土地管理人等と異なり,現に判明している所有者の管理が不適当である場合に管理人となるということが想定されるので,ほかの制度と比べて,管理人と所有者との意見の対立ないしは意見の相違が生じて,管理人が難しい局面に立つ可能性を想定しておかなければなりません。4ページの補足説明にありますように,所有者の意見を重要な考慮要素と見て,所有者が管理人選任に反対しているような場面は選任に至らないというのであれば,ある程度対立場面は限定されるかもしれないのですけれども,選任後に所有者と管理人の意向が対立するなどの事態になった場合に,所有者に対して善管注意義務を負うと明記されておりますと,所有者が不満の表明の手段として善管注意義務違反を根拠に管理人を訴えるというようなケースが出てくる可能性も考えておかなければならないと思われます。
この点に関しまして,第17回の部会で松尾幹事からその旨の御懸念が示されていたと記憶しております。この際,松尾先生からは,あえてこのような注意義務の規定を置かないという考え方もあり得るのではないかという御示唆があったと思います。管理人に選任されて,所有者が管理人に対立している,あるいは非協力的であるというケースで,客観的には合理的で相当であるけれども,所有者の意には添わないという管理を行わざるを得ないという場合に,管理人がその所有者に対して善管注意義務を負うというふうに書くことの意味というのをここでもう少しはっきりさせておけたらよいかなと考えております。
それから,最後に管理不全建物管理制度についてですけれども,これは管理不全土地管理制度と基本的に同様の意見でした。ただ,管理人に就任した場合,建物の管理の場面の方がより困難が予想されるのではないかという指摘が出ていました。(3)の区分所有法との関係の御提案に関しましては,異論はありませんでした。
○山野目部会長 弁護士会の御意見をお取りまとめいただき,ありがとうございます。また,幾つか御意見を具体的に頂いた点についても承りましたから,この後の委員,幹事の意見交換に反映してもらえるものと期待します。
引き続き御発言を承ります。いかがでしょうか。
佐久間幹事,お願いします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
まず1ページの1の,先ほど少し申し上げたことなんですが,本文の①に関しまして,「所有者による土地の管理が不適当であることによって」というのが,この原因のようになっているところが気になりました。管理の不全,あるいは不適当が原因で他人の利益を侵害することになるということももちろんあると思いますけれども,不可抗力に当たるようなもので,侵害状態が生じた,あるいはそのおそれが生じた場合に,適切に対応しないということ,そういう例も適用場面として入ってきていいのではないかと思います。その場合,「によって」だとちょっとそこまで読めるかどうか分からないので,もし私が申し上げたような場合が入ってきてもいいということであるとするならば,表現を工夫していただけると有り難いと思います。
2点目は,先ほど中村委員からお話のあった2ページの管理人の権限のところなんですけれども,私はこの①と②の並びでいいのではないかと思っています。管理人は処分まで含めて全部権限はあります。だけれども,②で保存,管理を超える変更行為には裁判所の許可が要りますと,そこで制限がかかりますと。その制限について,この②,一,二に当たる行為であるかどうか,あるいは裁判所の許可があったかどうかについて,実はなかったという場合に,善意又は善意無過失の第三者は保護されるんだと。そういうことでよいのではないかと,私は思っています。
その上で,善意無過失なのか,善意なのかということにつきましては,私は善意でよいのではないかと思っています。
その理由ですが,裁判所によって選任された管理人の権限に対する信頼は,ここもやはり裁判所がかむことはかむので,厚く保護されていいのではないかと思うのが第一です。
第二には,保存等の許された行為かどうかの判断が,相手方は素人であることもあるわけでして,微妙な場合もあると思います。そのときに,管理人も判断を誤ることはあるはずで,その管理人の判断の誤りについて,基本的には一体いずれが不利益負担すべきか,相手方と所有者のどちらに不利益を負担させるべきかというと,私は所有者でいいのではないかと思います,ここでは。所有者はそもそも自分がすべきことをしていないという状況にある人なわけですから,その判断が微妙になるというような場面では,所有権の保護がやや後退するということがあっても,やむを得ないのではないかと思うというのが2点目です。
3点目は,そうはいっても相手方は,自分は善意なんだということは立証しなければいけないということにはなるんだろうと,この考え方だとなると思います。そうすると,そこで,相手方は自分には保護されるべき相応の理由があるんだということをある程度明らかにすることを求められるので,相手方の保護に偏することにはならないのではないかと思っております。
第4に,今まで申し上げたことを総合してということにはなるのかもしれませんが,保護されるために相手方に無過失までもし求めますと,行為が無効になり得る範囲が,結局は広がるということとなりまして,管理人が権限内の行為をするに当たって,慎重になり過ぎるということも恐れられるのではないかと思います。以上の理由から,私は,無過失まで要求する必要はないのではないかと思っております。
それから最後に,次は6ページの(3)の所なんですけれども,善管注意義務についてです。中村委員がおっしゃったこともなるほどとは思うのですけれども,所有者の意向とやや対立的なところがあるからこそ,逆に,所有者の利益を図るべく善管注意義務を負うべきだと私は思います。ここでいう「所有者のために」というのは,所有者の意向どおりにやりなさいということではなくて,所有者の利益を害しないというか,所有者の利益も適切に守るように,しかし,すべき管理をしなさいという趣旨で,管理者には注意義務が課されるのではないかと思います。
それで,私が申し上げたようなことを表すに当たって,現状の文言がいいのかどうかが問題になるかもしれません。私はこれでいいのではないかと思いますけれども,いや,不適切だというお考えがあるのであれば,そこは対応していただく必要があるんだろうと思います。けれども,だからといって,義務規定をなくすというのは,それはよろしくないと私は思います。
○山野目部会長 それぞれの論点についての意見を頂きました。ありがとうございます。
藤野委員,お願いします。
○藤野委員 ありがとうございます。
今回部会資料50で出していただいている管理不全土地の管理制度及び管理不全建物の管理制度,いずれも非常に合理的な内容の規定として提案いただいているのではないかと思っておりまして,基本的には賛成でございます。当初,この管理不全土地の管理制度に関しては,暫定的な制度,一時的な管理のための制度とする,というような話も部会の最初の頃にあったかと思うんですが,今回拝見する限りでは,所有者不明土地の管理制度と同様に,ある程度の期間の管理を念頭に置いたものになっているのかなと思っておりまして,先ほど部会資料49で議論した管理措置請求制度との関係で申しますと,管理措置請求制度では,暫定的というか,ある程度,緊急性の高いものを対象にした上で,更にある程度期間をおいてじっくり対応すべきというものに関しては,この管理人を選任して行う制度を用いる,というようなすみ分けで,バランスを考慮して制度を組み合わせるのが一番よいのではないかなと考えておるところでございます。
そのような観点から,部会資料50の制度について見ますと,やはり管理人に選任された方がある程度安定的に業務を行えるというような形がやはり望ましいのかなと思っておりまして,先ほど来,善管注意義務に関する議論等もございますが,正に今,佐久間先生がおっしゃられたとおり,管理者による権限行使の内容を,ダイレクトに所有者の意向に反するかどうかだけで見てしまうと,こういう場面ですから,どうしても対立している,所有者の意向に反している,というふうになりがちなんですが,結局ここで大事なのは,管理不全の土地や建物が,管理不全が放置されることによって最終的には周りに被害を与え,結局,所有者にとっても大きなダメージになるというところを防ぐというところにあると考えていますので,例えば,所有者との利益相反の話にしても,最終的にはそういう形で所有者がダメージを被らないように何をするかというところを判断基準とする,ということを明確にして,どういう形で明確にするかというのはあるかと思うんですが,その上で,そういう価値判断の下で管理人の権限が行使される限りにおいては,今の規律で十分よろしいのかなと思うところでございます。
あと,処分行為ができるかどうかという論点につきましても,仮に裁判所からの許可を得ないで行った場合の話だったとしても,余り簡単にその効力が否定されるということはやはり避けなければいけないというところはあるように思います。選任の時点で裁判所の判断が入っているということと,飽くまでその土地のために何が必要かという観点から行われることなのだと思われますので,そういった意味では管理人の権限行使が安定性をもって認められ,制度が運用されるという形の規律とするというのが望ましいのではないかと考えております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
続きまして,山田委員,お願いします。
○山田委員 ありがとうございます。
管理不全土地管理制度の前提にある考え方がよく分からないので質問させていただきます。中村さんの御発言などに所有者との関係というものが触れられていました。所有者が,この管理不全土地に関心を持っていない,あるいはこの管理不全土地管理制度が立ち上がったときに,それに関心を持っていないということであれば,この制度はうまく意義を持って動くだろうと思います。
しかし,所有者がこの土地について関心はあるけれども,不適当な管理が行われているとき,あるいは,確かに最初の管理を命ずる処分を裁判所がするときには,所有者の陳述を聴かなければならない旨の規律が検討されていますので,これでカバーできると思うのですが,この段階ではまだ所有者は関心を持たなかった場合において,しかし,その後で管理不全土地管理制度が動きはじめ,その立ち上がった管理不全土地管理制度について,消極であったり,反対の方向で意見を持っているとき,どうなるのかなと思いました。
そうしますと,管理不全土地管理人の解任ができるか。多分,これは今のような事情だけではできないのだろうと思います。管理不全土地管理人が第三者と,処分も含みますが,例えば請負契約を結んだというようなものを解除できるか。当所有者は解除できないのだろうと思います。しかし,費用は所有者が負担するという状況に置かれます。そのとき,所有者の元々管理が不適当だったのだし,最初に裁判が行われるときに,意見を発言する機会があったのだからと,その後はやはり,管理不全土地管理人に任せないといけないのかということです。しかし,他方で所有者は所有者としての権限がありますから,所有者が何もしないのならば,この管理不全土地管理命令の制度によってカバーされるのでしょうけれども,積極的に,例えば別の方法で保存行為をしようとか,あるいは利用改良を管理不全土地管理制度の管理人とは別のことをしようとすると。その権限は,所有者としての権限ですから,この制度では妨げられていないと理解しました。そういうことが生じたときに出てくる問題について,この制度はうまく動くのだろうかという心配が出てきました。事務当局でお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
○山野目部会長 山田委員から頂いたお尋ねについて,大谷幹事から説明を差し上げます。
○大谷幹事 ありがとうございます。
今のところは,部会資料でいいますと,5ページの必要な処分のところに少しお書きをしております。所有者が最初は無関心で,陳述の聴取をした時には何も反応がなかったが,管理人が選任されてから急に関心を持ち出したという場合にどうするかということでございますけれども,一つの考え方としては,その所有者がきちんとした管理をする方向であれば別にいいわけですけれども,管理人が適切な管理をしようとするのを邪魔してくるということであれば,管理人と土地所有者の関係では,管理権が侵害されるということで,妨害行為の禁止を求めるということも可能なのではないかなと考えて,ここのところで書いておるところでございます。
その後,結局この対立がひどくなってしまって,うまく管理ができなくなり,管理人の選任状態を継続していくことが相当でないということになると,解任というよりは,命令の取消しをすることによって,管理人との関係をなくすということが考えられるのではないかと思っておりました。
○山田委員 分かりました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
続きまして,中田委員,お願いします。
○中田委員 要件について,整理した方がいいのではないかと思います。
現在出ている要件が四つあって,所有者による土地管理の不適当,これは佐久間幹事が批判されましたけれども,これが一つ目。
それから,それによる他人の権利,利益の侵害,又はそのおそれ,それから,三つ目として,必要性,そして四つ目として相当性があるんだろうと思います。
ただ,相当性の要件については,ここには出ていませんで,命令の取消しに関する(3)のエから導く,これは部会資料39の当時からそうだったと思います。この四つの要件があるにも関わらず,三つしか表に出ていなくて,相当性と必要性との関係が余りはっきりしないということもあるので整理した方がいいと思います。
恐らく,開始時の要件と存続要件との違いということで出ていないのかもしれませんけれども,取り分けこの制度が,所有者が利用している場合も含めて考えているのだとしますと,その要件を整理した上で,どこが問題なのかということを検討する必要があるのではないかと思います。
更にその上で,中村委員のおっしゃいましたように,それぞれの判断要素を考えていくというのは,その次の段階として必要ですけれども,まず最初に要件を詰めるということかなと思いました。
○山野目部会長 中田委員,ありがとうございます。
宮﨑関係官,お願いします。
○宮﨑関係官 御指摘ありがとうございます。おっしゃっていただいたようなことを要件とすることを考えてございました。相当性の要件についてはっきりと書かれていないのではないかという御指摘かと思いますが,今回,要件の書きぶりを一部書き改めているところがございまして,従前「管理していないことによって」としていたところを,御指摘があったことも踏まえまして,「管理が不適当であることによって」と修正しております。管理が不適当であって,更に必要性も認められるような場合であれば,普通は相当性というのも満たしていると考えられるのではないかと思われましたことから,ここでははっきりと書いてはございませんが,当然そういうものも含意しているということでございます。
○山野目部会長 今,宮﨑関係官から説明を差し上げたことについて,更に中田委員の御意見を承る事項があれば,承りたいと考えるところでありますから,この部会資料の1ページの(1)①を見ますと,中田委員も御指摘のとおり,「必要があると認めるときは」という文言が,これ自体を要件として掲げられているわけでございます。宮﨑関係官が今,説明として申し上げたのは,その表現そのものではありませんけれども,ここで「必要があると認めるときは」ということの内側,意味の内包の一つとして,相当であると考えられるときはということも含意しているという趣旨の案内を差し上げました。ここはやや言葉の選び方が難しいところがあって,悩ましいものでありまして,必要があって,かつ,相当と認めるときは,という文言にはしづらいと感ずるところもあるものですから,中田委員にお教えいただきたいものですけれども,中田委員に御指摘いただいた4要件が実質において備わっていなければいけないということについて,恐らく異論はないだろうと感じられるところであるとともに,この手続を始めるときの入口の要件をどういうふうな文言表現していったらよいかということについて,何か御提案の御教示いただくことがあれば,お話を承って,この後の議事の整理に努めてまいるということにいたしますけれども,何かおありでしょうか。
○中田委員 私の方から積極的にということではございませんですけれども,例えば4ページの第3パラグラフの4行目に「相当性を欠く」ということが出ております。ということはやはりこれは必要性とは別に相当性という要件を考えておられるのだろうなと想像いたしました。
ところが,その関係が余りはっきりいたしませんので,まずそこを整理することが必要だと思いました。私の方でこうだというふうに御提案できるまでには至っていないのですけれども,まず何を考えているのかということを分析して,整理するということが必要だろうということでございます。
○山野目部会長 よく分かりました。次回以降の会議におきまして,この太字でお示しするところの内容をもう少し精密に補足説明で対応が図られるような仕方で御案内していかなければいけないと感ずるものであります。中田委員,御指摘,誠にありがとうございました。
引き続き御意見を伺います。いかがでしょうか。
蓑毛幹事,お願いします。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。
管理不全土地管理制度,管理不全建物管理制度,いずれもですが,賃借権など権限を有する者がこの制度の対象となる土地または建物を占有している場合にどうなるのかということが気になります。前回の部会資料39では補足説明の中で,そういった賃借人がいる場合であっても,管理不全土地管理制度の対象となり得るということが簡単に書いてありましたが,今回の部会資料では,この点について触れられていません。
そこでまず,今回の提案では,対象となる土地または建物に賃借人がいる場合であっても,1ページの1(1)あるいは,7ページの2(1)の要件を満たせば,管理命令は発令され得るのかということを確認させてください。
その上で,仮にそうだとすると,ここまで様々議論があったとおり,この制度においては,管理人の権限と所有者の所有権とのぶつかり合いをどう調整するかという問題が起こるのですが,それだけでなく,管理人の権限と賃借人の賃借権とのぶつかり合いをどう調整するのかという問題が起こるように思います。
具体的に申し上げると,管理人は,土地または建物の保存行為をするため必要があれば,賃借人に何も落ち度がなかったとしても,その賃借人の占有を排除して,修繕などの保存行為ができるのでしょうか。更に進んで,仮に所有権者が承諾すれば,管理人は土地又は建物を売却するなどの処分行為ができるか,あるいは建物であれば取壊しまでできるのか。賃借人がいる場合に,それはさすがに行き過ぎのように思いますが。
また,仮にそうであれば,管理命令発令の際の陳述を聴く対象として,所有者だけではなく,占有している賃借人等の意見も聴くべきではないかなど,賃借人がいる場合を想定して,管理人の権限と賃借権との関係を整理して検討する必要があるのではないかと思いました。
○山野目部会長 蓑毛幹事から大事な御指摘を頂いたと受け止めますから,今,お尋ねの形式でお話がありましたゆえ事務当局の発言も求めることにいたしますけれども,その前段階の整理として,蓑毛幹事において話題としておられる状況を確かめさせてください。この土地の賃借人がいる際に,その場合であっても1(1)①の要件を充足すれば,管理命令を出すことができるかという問いの前提として,要件としては,土地の管理が不適当であることを満たさなければいけないものでありますけれども,お話になっているのは,この土地を賃借して,土地を現に使用している賃借人による土地の管理が不適当であるという局面をおっしゃっているものでしょうか。それとも,そうではない何かをイメージしておられての御質問でありましょうか。あるいは,その辺りを全部ひっくるんだ上で,賃借人がいる局面についての体系的なまとまりのある説明をひとまず求めておきたいというお望みでいらっしゃるかといった辺りについて,何かお考えがあったらお話しいただければ,事務当局において,幾分答えやすいものではないかと感じますけれども,いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。あまり整理せずに,賃借人がいる場合と申し上げたのですが,部会長がおっしゃったとおり,様々なケースがあろうかと思います。
例えば,土地について言えば,実際に使用している賃借人がごみを廃棄するなど,賃借人自身の管理が悪いために管理不全の状態になっている場合もあれば,不可抗力によって,土砂が崩れ落ちそうな状況になっているのに,所有者として,あるいは賃貸人として,対処すべき土地所有者が適切に対処しないために,土地が管理不全になっているという場合もあると思います。建物も同様で,賃借人自身の管理状態が悪いために,管理不全になっていることもあれば,修繕義務を負っている所有者・賃貸人が適切な対応を採らないために,危険な状態になっていることもあろうかと思います。この程度で,質問にお答えしたことになりますか。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。お話が相当明瞭になってまいりました。今,蓑毛幹事に更に明解に整理していただいたところを踏まえて,今,事務当局の考えを尋ねますけれども,そういたしますと,お話の本質というか,サイズが蓑毛幹事はやや遠慮気味に,場合によっては賃借人の陳述も聴かなければいけないのではないかというようにおっしゃってくださいましたが,ひょっとすると,陳述を聴く相手を加えようという手続の次元の話にとどまることではなくて,今,うなずいていただいておりますが,そもそも手続の内容,実質といいますか,事件がどういう性質のものとして係属するかということに関して,所有者に対して発せられている命令になるか,賃借人あるいは賃借権に対して発せられる命令になるかといったようなところまで立ち戻って検討しなければいけない問題が隠されていますという,そういうサイズのお話を御指摘いただいているものであるのかもしれません。何か私は,事務当局が答えやすくしようと思って整理したつもりですけれども,どんどんハードルが上がっていって,かえって答えにくくしているかもしれませんが,どうぞお話しください。
○大谷幹事 ありがとうございます。
管理不全土地管理あるいは管理不全建物管理については,以前は,所有者が現に使用していないなどの要件を求めるなどの提案をしておりましたけれども,無関心で管理不全状態にしているというところを中心的なターゲットとして,土地所有権に制約を掛ける,あるいは建物の所有権に制約を掛けるということを考えておるところでございます。賃借人がいる場合も,正に蓑毛幹事に整理していただきましたけれども,賃借人がいて,普通に使っているというときで,管理不全土地制度,管理不全建物管理制度というものが使えるかというと,普通に使っているのであれば,通常は考えられないところでございまして,最もありそうなのは,賃借人は法律上いるけれども,賃借人は実際には使用収益をしていなくて,土地の所有者と賃借人と,一応,法律上はそういう関係があるけれども,土地,建物の管理状態が悪くなっているというケースではないかと考えられるところです。
管理不全土地になってしまっているということで,前回の資料から,賃貸借されている場合でも,土地の適切な管理がされていない場合には,要件を満たし得る,管理人の選任がし得るというところで,所有者ができる限度では,管理人も管理の行為ができるということになるのかなと思われるところでございまして,それ以上に,賃借権それ自体についての管理制度を設けることまでは考えていないというところでございます。
要するに,土地について賃貸借契約がある場合でも,土地の所有者による管理が不適当な状態になっているのであれば,管理人が選任され得て,その土地の所有者に代わって,所有者ができることについて管理人がするということになるのかなと思っておりました。
○山野目部会長 蓑毛幹事のお話の続きがあれば伺いますし,今,道垣内委員がお手を挙げになっていらして,その話をお聞してから,また蓑毛幹事にお話しいただくことでもよろしいですが,いかがいたしますか。
○道垣内委員 私の話は今の話につながりません。賃借人以外の話ですので,どうぞそちらの方をお進めください。
○山野目部会長 分かりました。
それでは,蓑毛幹事,今のお話の続きでもし御発言があるならば伺っておきたいと考えます。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。
今の大谷幹事の御説明でだいぶイメージが湧いたのですが,そうすると,特に管理不全建物管理制度の方が気になるのですが,非常に古くて適切に修理がなされていないために,危険な状態にある建物であっても,そこに賃借人が現に居住している場合は,この制度は使えないということになりますか。このような場合に,この制度を用いる必要性は高いと思うのですが。あるいは賃借人が同意すればできるのでしょうか。
○脇村関係官 ちょっと場面があれかもしれませんけれども,この資料ではあれですが,アパートなり,一軒家について,所有者とは別に住んでいる人がいらっしゃるケースについて,恐らくその建物をメンテしないといけないのは,建物所有者だろうと思いますので,当然,所有者としてやるべきことを怠っていたケースについては,これが発動し得るんだろうなということは想定していました。ただ,もちろん中に人が住んでいらっしゃいますので,その賃借権を不当に侵害してはいけないという意味では,それは所有者がやれる限度というのは当然あるわけですけれども,いるからといって,必ず制度が使えないというわけではなくて,先ほどお話しさせていただきましたのは,所有者が適切にやっていないと,評価できるというケースに限られるのかなという趣旨で賃借人が怠っているとしか言えないケースなどは,当然に発動しないということだろうと思います。
○蓑毛幹事 そうすると,今のようなケースでは管理命令を発令し得るけれども,管理人は賃借人を排除して修繕行為ができるわけではなく,賃借人と話合いをした上で,賃借人が了解して,同意をすれば,その範囲で保存行為ができる,こういう理解でよろしいですか。
○脇村関係官 そういう意味で,所有者ができることは,代わりにできるとしか,言えないということで,賃借人の権限を何か当然に奪うとか,制約するということは想定していなかったということです。
○蓑毛幹事 分かりました。
○山野目部会長 今しがた御議論いただいた局面も含めて,蓑毛幹事に問題提起いただいた事柄というものは,幾つかそれに隣接する多様な局面も含めて整理をしなければいけないと感じられるところでありますから,ただいま意見交換をしていただいたところも踏まえて,更に整理を進めることにいたします。どうもありがとうございます。
道垣内委員,お待たせしました。
○道垣内委員 ありがとうございます。
賃貸人の話ではないということから始まったのですが,今,最後の会話で若干気になりましたのは,脇村さんの方から,所有者ができることができるんだと,それを超えてできるわけではないというご説明があり,たしかに,それは超えてできるわけではないのは当然なのですが,例えば民法の606条の2項のような,賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をするときに,賃借人はこれを拒むことができないといった,これは所有権に基づくものか賃貸人たる地位に基づくものかはにわかには分かりませんけれども,606条2項というのが,管理人が出てきたときにも当然に適用されて,賃貸人の地位の所に管理人が付くのかというのは,私はかなり怪しいような気がするので,そう簡単ではないのかなという気がします。これは実は言おうとしていなかったことであります。
言おうとしておりましたことは,山田さんのおっしゃったことに関連するんですが,山田さんが所有者の意思を尊重すべきかどうかという話をされたときに,この制度においては,所有者が悔い改めて自分で何かの行為を始めたとして,その行為というものが制限されるわけではないという,そういう話をされました。それはそのとおりだと思います。
しかるに,それの山田さんの御発言に対する恐らく返事となる,回答となる文脈において,管理人がある行為をしようとしているときに,所有者がそれを妨害するということになったりすると,それについては管理人が排除できるのではないかということをおっしゃったような気がするんですが,それはちょっと問題と回答がずれているような気がいたします。所有者もやると,所有者がただ単に妨害していると,自分はやらないんだけれども,妨害しているというときに排除できるかという問題と,自分はこっちの方法でやるというふうに言っているときに排除できるかという問題は全然違う問題でして,そのときに,どちらがよりよいのかというふうなことで決まるのではないのだろうと思うんです。所有者がやる行為というのが,例えばそれをやっていれば,管理不全土地管理人の選任が行われるような状態にはならないのであれば,そのような行為は認められるべきですよね。所有者が緑色のペンキを塗ろうとしているとき,いや,そこは赤ですよなんて言って,ほかの人が赤に塗れるかというのは,それは塗れないわけで,ちょっと話がずれているのではないか。
したがって,この5ページの所に妨害するというときには排除できるんだというふうに書かれるのは,もちろんそれはそれで正しいので結構なんですけれども,若干の説明,どういった場合にはそういうことができるのかということをもう少し丁寧に書いて,山田さんが御指摘になったようなシチュエーションとは違うんだということは明らかにする必要があるのではないかという気がいたします。
○山野目部会長 道垣内委員に今,御注意いただいた点について,大谷幹事や宮﨑関係官から何かお話がおありですか。
○大谷幹事 ありがとうございます。山田委員の御発言に対して,私も管理人が選任されたけれども,土地の所有者が自分できちんと管理をしたいと言って,管理行為をするということ自体は妨げられない,当然だろうというふうにお答えをして,その上で,私が申し上げたのは,不当に拒むというような場合には,ここに書いてあるとおりの管理人の管理権侵害だということで,妨害禁止を求めることができるわけですけれども,そうでない,不当だとまでは言えないような,所有者として,当然やりたいことをやりたいというのであれば,それはもちろん管理人が妨げられるものではないと考えられますので,少しここの説明について,更に検討したいと思います。
○山野目部会長 思い起こしますと,部会資料50の6ページの所で,その題材になる事柄が幾つか提示されておりまして,最初に御発言いただいた山田委員は,そこのイの管理人の解任などを題材としながら,所有者が最初無関心であったところが,やがて自分なりの考えを抱いて,土地管理について関心や情熱を抱くようになってきたときの,その動きということ自体は受け止めてあげなくてはいけないけれども,それが直ちに管理人の解任事由になるわけではないでしょうと,この辺の所をどういうふうに整理されるものでしょうかというお尋ねをしてくださいました。それに対して,大谷幹事などから差し上げた回答は,私も道垣内委員がおっしゃるように,最初,妨害されたときは管理人が排除するというところからお話が始まりましたから何かかみ合っていないなという気分は抱いたものでありますけれども,最後は大谷幹事のお話が,そこのページでいうと,イの話ではなくて,エの話になって,管理を継続することが相当でないという事態になることがあり得ますということでした。すなわち,管理人が進めようとしている管理と,言わば立ち直った所有者が描いた管理構想とが衝突をし,また,その衝突を起源として,両者の間に摩擦が管理の現場で生ずるような事態を見たときに,裁判所が終局的に管理を継続することが相当であるか,ないかということを判断するという仕方で問題は解決されていくでしょうという案内はひとまずしてくれたものです。多分それをしてくれたから,山田委員としては話が分かりましたとおっしゃっていただいたものと受け止めました。
更にお話は続いていて,このエの所に焦点を置いた大谷幹事の説明を発展させて,中田委員からは,このエの所で手続を終わらせる要件としての相当性ということが出てくるということを認識しながら,言わば手続の入口の要件の所の太字の提案や,それに関連して補足説明の説明ぶりとの整合性等についてもう少し注意をしてほしいという御指摘があったと感じます。
道垣内委員から,今のお話の全体の進み具合について,更に整理,御注意を頂きました。ありがとうございます。
引き続きいかがでしょうか。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
この管理不全土地管理人の権限の範囲について議論が続いていますけれども,所有者不明土地管理人の管理権との関連で少し整理したい点を確認したいのですが,所有者不明土地管理人の権限については,第18回会議の部会資料43で改めて整理がされました。その際,所有者不明土地管理人の管理命令が下された範囲内では,所有者不明土地管理人に管理権限が専属するということで,例えば,その土地に関する訴えについては,管理人が原告となり,あるいは被告とすることができるという定めの提案がされていたと思います。
それとの関係で,管理不全土地管理命令が下された土地について,何らかの訴えがあったときに,誰を被告とするのか,あるいはこの管理不全土地命令が下された土地について訴えを提起するときに,管理人が原告となって訴えを提起することができるのはどこまでの範囲かということについて,確認したいと思います。この場合も,管理不全土地管理人の管理権限の範囲内では,管理人に当事者適格があるという理解でいいかどうかという点の確認です。
それから,それとの関係でもう一つは細かな点ですけれども,先ほど山野目部会長からも御紹介がありました,今回の部会資料50の3ページの②の管理不全土地管理人が権限外の行為をした場合の効力について,第三者保護要件が善意か善意・無過失かということとの関係で,管理不全土地管理人の権限外行為の性質が,これも所有者不明土地管理人のように,権限外行為の性質が無効だというふうに判断するのかどうかです。これについては,表見代理との関係で考えると,確かに表見代理の場合には代理人として合意しているのに対し,管理不全土地管理人の場合には自らの名前で合意しているという違いはありますが,権限外処分であるという点は大きく違わないのではないかという点も気になります。そこはむしろ相手方が,管理人に権限があると信じる正当の理由――それは善意かつ無過失と一般的に解釈されていますが――があったときには保護されるというような110条との関係をどう整理するかという点も問題になってくると思われます。この点は,先ほど佐久間先生の御指摘で,管理不全土地の方は所有者の帰責性が高いこと,裁判所による選任があることという要素をどう考慮するかという御指摘もございましたけれども,そのことと併せて,この権限外行為の性質をどう解釈すべきか,所有者不明土地管理人の権限外行為との関係をどう整理するかという点と合わせて,それについてお考えがあれば伺いたいと思います。
○山野目部会長 前段と後段とそれぞれお尋ねがありました。大谷幹事からお話を差し上げます。
○大谷幹事 前段の方は,これは部会資料39の17ページの下の方で書いておりました。管理不全土地管理人の場合には,当然に土地所有者の代理人になったり,担当者になるわけではないということで,所有者本人がいることが前提になりますので,その訴訟は御本人が基本的にやるということ,少なくとも第三者との関係ではそういうことになるのかなと考えております。
それから,善意なのか善意無過失なのかというと,正に松尾幹事の御指摘のとおり,不在者財産管理などの他の制度において,表見代理の規定が適用されると整理される部分との関係ということがあろうかと思います。善意とするのがいいのか,無過失とするのがいいのかというところで,今回,ブラケットの形で皆さんの御意見を聞いてみようと思ってお出しをしたところですけれども,松尾幹事からの御指摘もありましたように,善意というふうに整理するには,佐久間幹事から4点ほど御指摘いただきましたけれども,あのような根拠が確かに考えられるなと思っているところでございます。
○松尾幹事 部会資料39の17ページから18ページの記述については,私も確認いたしました。
その上で,この管理不全土地管理人の権限内の行為について,もし何か問題があって,その問題があってというのは,第三者の行為との関係で問題があって,例えば,第三者からの妨害を排除したいと考えるときには,管理人としては,その場合には所有者の名前で訴訟を提起してもらうとかということになるのか,その場合にはどういうふうに問題を処理すればいいのということについて,少し不透明というか,もやっとした部分があるように思いまして,そこはどういうふうに処理することになるでしょうか。
○山野目部会長 松尾幹事がおっしゃっているものは,どういう訴訟ですか。
○松尾幹事 例えば,管理不全土地管理命令が下されて,管理不全土地管理人が管理をしているときに,その土地所有権を侵害するような第三者の行為があった場合に,それを排除したいというときに,なかなか話合いで解決が付かないというような場合には,どういう形で解決することができるかということです。
○山野目部会長 部会資料が前提とする考え方が,何か説明があればお話しください。
○大谷幹事 今のは恐らく管理人が管理を開始してから,その管理を妨害する人が出てきているというようなケースかと思いますけれども,その場合には管理人の管理権が侵害されているということで,管理人自身がその名前で請求していくこと,妨害排除請求という形になるかなと理解をしておりました。
○松尾幹事 そうであれば,私も異論はございません。
○山野目部会長 分かりました。ありがとうございます。
ほかに御意見はいかがでしょうか。
佐久間幹事,お願いします。
○佐久間幹事 全然勘違いしているかもしれませんけれども,大谷さんが今おっしゃったことは,結論としては管理人が排除できていいと思うんですけれども,その妨害排除の基礎となる権利は何なんでしょうか。所有者だったら,所有権に基づいてとかできると思うんですけれども。占有ですか。
○大谷幹事 部会資料の6ページに書いておりますけれども,管理処分権というのが与えられるので,その管理権の侵害なのかなと思っておったのですけれども。
○佐久間幹事 そうなのかもしれませんけれども,行為に対して妨害があったら,妨害排除って,差止めなんですか。
○大谷幹事 差止めですね。そうですね,失礼いたしました。
○山野目部会長 部会資料の現在の補足説明の書き方が確かに御指摘のとおり,必ずしも十分にはなっていないかもしれないですけれども,改めて考えますと,確かに松尾幹事から御指摘があったように,こちらの管理不全土地管理制度の管理人は,所有者の持っている権能を全部,管理人の方に移すという,つまり権限を専属させるというものではありませんから,所有者の持っている権限が100だとすると,100丸々管理人に移るわけではありませんけれども,半面におきまして,本来は所有者が管理をするためにしなければならない所有権の権能の,それが100のうちの60か80か分かりませんけれども,その一部を管理人が行使する権限に移すという帰結が裁判所の管理命令という裁判によって,その形成的な効果として与えられているということになりましょうから,管理人がそのしようとしている土地の管理の行為を妨害されたときのそれに対する当該妨害しようとする第三者に対する不作為の請求は,本来,所有者がすべきものであって,所有権に基づく妨害排除請求権の本質を持ち,しかし,この制度の下でのやや特殊な表れ方をした権限行使であるというふうに整理しようとすれば,整理していくことになるかもしれません。
ただし,確かに部会資料の書き方が,そこをやや整理し切れていないところがありましたから,今の御指摘も踏まえ,更に説明を整えていくことにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。次の御発言が出るまで,いささか私の方から法制的な悩みの関連で,一,二お話を差し上げて話題提供をさせていただくとすると,二つ申し上げますけれども,一つは1ページの佐久間幹事から御指摘があったところですが,1(1)①の「管理が不適当であることによって」のこの「よって」ですけれども,佐久間幹事がおっしゃるとおり,確かに法制的に従来の言葉遣いの理解としては「によって」というのが出てくる個所は,因果関係の要件を要求しているものでありまして,それも特段のことを言わなければ因果関係が存在するという側が主張立証しなければならないと理解されてきたところであります。例えば,民法709条には「によって」という言葉が2回出てまいりますし,あれはいずれも不法行為の成立要件としての因果関係のある側面をそれぞれ表現しようとしていて,賠償請求をする被害者の方で主張立証をしなければならないと考えられているところでございます。そのような理解の記憶の上に,ここに「によって」という言葉が入りますと,管理命令の申立てをしようとする側が,因果関係の煩瑣な,あるいは重い説明を要求されることになって,必ずしもそれは良い結果に結び付かないものではないかという御心配を頂いたところでありまして,御心配そのものは誠にもっともな所でございます。
ございますけれども,ここの局面は,いささか他の表現を工夫することが難しいですね。そこで,もしかしたら,更に法制的な検討を加えますけれども,この「よって」という文言を,こういうふうな今の仕方で用いながら,ここの局面は民法709条のような損害賠償の帰責原理が問題となっている局面ではございませんから,あれよりはもう少し緩やかな自然的な因果の説明として成り立っていれば,管理が不適当であることから,このような制度を用いることがよいでしょうという柔軟な運用の理解の下での因果関係の考え方をしてもらう趣旨で用いているというふうな説明をしていって,この文言を用いさせていただくということもあるかもしれません。法制的に悩ましいところです。
それから,今度は中村委員に御指摘いただいたところですけれども,管理人の権限の2ページから3ページの所の(2)が,①が先に出てきて,②が後に続くと,読む人に誤解を与えるものではないかという御心配も,内容は誠にそのとおりですけれども,ここも不在者財産管理等,従前のこの種のところは,このような書き方になっているものですから,これを②のように絞りますという方向から説明した規定ぶりそのものをそうするということについて,内容として御指摘いただいていることは誠にそのとおりでございますから,きちんと説明していくということは少なくとも必要であろうと感ずる次第であります。弁護士会から御意見を頂いたそうですから,また弁護士会の先生方との御議論を続けさせていただければ有り難いと存じます。
以上,御案内を差し上げました。垣内幹事,お待たせしました。
○垣内幹事 どうもありがとうございます。
先ほど佐久間幹事と山野目部会長との間であったやり取りに関係してなんですけれども,また方向整理をされるということなので,それで結構かと思いますけれども,仮に管理人が何か差止めないし妨害を排除するために,訴訟上,手段を講ずるという場合に,それが所有権の権能の一部を行使しているのだと文字どおりに捉えたといたしますと,その訴訟,例えば訴訟であれば,訴訟において,まず所有者の所有権から主張,立証して,それで管理命令があって,自分が管理権があってというような主張,立証の構造を考えるということになるのか,それとも,管理命令が出ているということでもう尽きていて,元々その所有者が真の所有者なのかどうなのかというようなことは差し当たり問題にならないと整理をするのか,その辺りについて,元々管理命令そのものの効力として,所有者とされていた人が本当はそうではなかったということが後に判明したときに,どうなるのかというような問題もあるのかもしれませんけれども,併せて整理をしていただくとよいのではないかという感想を持ちました。
○山野目部会長 ありがとうございます。垣内幹事から御指摘いただいたことを事務当局に引き続き検討してほしいと思いますし,今,何か所見があれば聴取しておきたいと考えるものであります。垣内幹事から御注意があったように,管理人が管理行為として何かしようとしていることに対し,妨害を受けたときに,妨害をしないでくれという不作為の給付を請求する訴訟を起こすときに何を主張していかなければいけないか,原告は管理命令を得たという事実を主張すればよいか,それだけでは足りなくて,原告が管理命令を得た件に係る本件土地は,管理命令の宛先であるこれこれの者が所有するという事実を更に添えて言っていかなければならないかといったような辺りが悩ましいと感じられるところであります。
現段階で事務当局の方から何かあればお話しください。
○宮﨑関係官 御指摘ありがとうございます。ご指摘の点をそこまで明確に意識していたわけではございませんが,今回の制度は,土地に着目した管理制度ですので,誰に土地の所有権が帰属しているかということは余り問題にならないのではないかとは考えてございました。その意味では,今,垣内幹事にご整理をいただいた中では,後者の管理命令が出ていることで足りるという考え方に近いのかなと考えてございます。
○山野目部会長 引き続き検討いたしますけれども,垣内幹事として,更に何か追加で御注意いただくことはおありでしょうか。
○垣内幹事 特にはないんですけれども,もし管理命令が独自にお受けになるということですと,佐久間先生が言われた疑問に対する応答をどうするのかということについて,更に検討されることになるのかなというように感じたところです。私からは差し当たり以上です。
○山野目部会長 ありがとうございます。事務当局で更に検討いたします。
佐久間幹事からお出しいただいた御疑問は,管理人が自ら妨害行為を排除していくときの根拠として,何が考えられるかということでした。よく考えてみないと分かりませんけれども,一つの方法としては,所有権の権能の一部であるかもしれないというふうに仮に押していくときのその所有権というものは,例えば,いろいろな考え方があると思いますけれども,これこれの特定の者に帰属している所有権ということではなくて,所有者は必ずいるはずですから,その抽象的に存在する所有権ないし所有者の権能の一部を行使しているという説明をするとした上で,垣内幹事から御指摘のあった点についても,それを受けての説明をしていくか,それとも,それとは異なる整理の上で,主張立証しなければならない事実についても,それに整合するような説明をしていくかといったようなことについて,事務当局において引き続き検討することにいたします。ありがとうございます。
沖野委員,お待たせしました。
○沖野委員 すみません,部会長が法制的な悩みとしておまとめくださった点で,法制的なことであれば,特に意見は必要がないのかなと思ったんですが,ちょっと思いつきを申し上げたいと思います。
1点目につきまして,1の(1)の①ですけれども,佐久間先生のおっしゃった天災等,不可抗力によって状態が生じ,しかし,所有者は何もしないというような場合が果たして「所有者による土地の管理が不適当であることによって」と言えるのかという点につきましては,何もしないという期間がどのぐらいかということにもよるかと思いますけれども,幅広に捉えるならば,何もしていないということを捉えて,不適当であると考えるということは十分できるのではないかと思いますけれども,しかしながら,原因,結果の関係ということが厳密に追及されるおそれがあるということだとしますと,ここからが思いつきなんですけれども,現在問題となっているのは,ある土地自体によって,他人の権利や法律上の利益が侵害されている,あるいは侵害されるおそれがあると,そういう状況であるにもかかわらずといいますか,そういう状況下で所有者は何をしているかというと,適切な管理をしていないという,そういう局面において,必要があるというときには請求によって,一定の処分,この管理を命ずる処分ということですが,それができるということだとしますと,例えばですけれども,そのある土地によって,他人の権利又は法律上の利益が侵害され,又は侵害されるおそれがある場合において,当該土地の所有者による土地管理が不適当であるときは,裁判所が必要があると認めるときは,利害関係人の請求によりこれこれというような表現も考えられるのかなと思いまして,全くの思いつきですので,適切かどうか分かりませんけれども,もし今後考えていかれるということであれば,あるいは参考にしていただくといいのかなと思いました。もちろん所有者不明土地の書き方ですとか,いろいろなほかの規律との整合性とかはあるとは思うんですけれども,思いつきだけ申し上げたということです。
○山野目部会長 ただいま沖野委員に出していただいたアイデアは,卒然と耳で伺いましたが,耳に心地よく美しく響き,大変よく分かりました。ご提案のことも一つの候補として,更に法制的な検討を進めるということにいたします。どうもありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。建物管理の方についても御意見をお出しいただければと望みます。それでもいいですし,そうでなくても結構ですが,松尾幹事,お願いします。
○松尾幹事 すみません,先ほど佐久間幹事,垣内幹事,それから山野目部会長の間で整理された管理不全土地管理人のその行為を妨害する第三者に対する訴訟手続の問題ですけれども,例えば,土地の賃借人の妨害排除請求のような問題もございますので,これについては,管理不全土地管理人の管理権限の行使の範囲内では,その管理人に管理行為の妨害を排除する限りでは,それをめぐる訴訟の原告又は被告となることができるというような規定があった方がいいのではないかとも思います。
所有者不明土地管理人については,既に部会資料43の中で所有者不明土地に関する訴えについて,所有者不明土地管理人の当事者適格についての定めも置かれていますし,それから,所有者に対して提起された訴えとの関係についても規定の整理がございますので,そういうこととのバランスで考えると,管理不全土地管理人についても,そういう定めがあってもおかしくないのではないかと思った次第です。
○山野目部会長 松尾幹事の御提案を検討することにいたします。既に皆様御案内のとおり,所有者不明土地管理制度の方につきましては,管理人の権限が専属するというパワフルなものであるということを踏まえ,それと論理必然の関係があるものでは必ずしもありませんけれども,それとの見合い等も意識しながら,原告となり,又は被告となるという規定が置かれているところでありまして,同じ格好の規定を管理不全土地管理命令の制度の中に置いたときに,管理人の権限の差異との関係で,置いたときの得失,置かないときの得失等について,総合的に検討するということになろうと予想します。御提案を頂きありがとうございました。
畑幹事,お待たせしました。
○畑幹事 畑でございます。
今の話,難しい問題だと私も思っておりますが,少し違う所です。6ページの(3)のウの管理不全土地管理人の報酬等という所ですが,その①の所にアンダーラインがある「管理不全土地等から」という,これはアンダーラインがあるだけに,今回入ったような気がするのですが,これが何を意味するのかがちょっとよく分からないような気がしました。以前の話ですと,実際は申立人が費用を予納して,そこから払うのだろうというような話になっていたと思うのですが,「管理不全土地等から」と入れることが,今の予納の話としっくりくるのかどうかというところをちょっと教えていただければと思います。
○山野目部会長 事務当局から説明を差し上げてください。
○宮﨑関係官 従前,畑先生からは所有者不明土地管理制度の方で,この報酬等の規律については御質問,御意見を頂いておりました。御趣旨としてはこの「土地等から」という文言を入れてしまって,それ以外の財産に対して掛かっていけるのかどうかということだと思いますが,今回この文言を入れた趣旨は,そこを限定する意図があったわけではございません。元々の提案では②の規律を置くことはしていませんでしたが,途中で所有者不明土地の方についても②のような規律を入れておりまして,このように土地等の「所有者の負担とする」という規律がありましたら,一般的に費用については,その対象となっている土地等以外の所有者の財産に負担させることができるということは②の中で読めるのではないかと考えておりました。
①については,費用の前払いですとか,報酬を受けることができるという規律なんですけれども,実際,管理の最中に費用の前払いなどをするとしますと,今,御指摘のあった予納金などの中から支払うことになろうかと思われますので,①では「管理不全土地等から」という文言を入れているものです。これがあったとしても,②があれば,ほかの財産に掛かれるということは読めるので,差し支えないのではないかと考え,このような文言へと今回表現を修正させていただいたものでございます。
○脇村関係官 先生すみません,脇村です。
予納の関係なんですけれども,イメージとしては,予納金が納まっただけでは当然組み入れられていないわけなんですけれども,予納されたものをある意味,倒産ですと破産財団に組み入れますが,この管理人の得た財産というものを組み入れて,そこから払うというイメージで,予納はそういう意味で裁判所の判断の後で組み込まれていくことを想定して,予納金を考えておりました。
○山野目部会長 畑幹事,どうぞお続けください。
○畑幹事 今お伺いしたところだと,実質的に考えていることにずれがあるわけではなさそうですが,この言葉で適切に表現されているのか,ちょっと引き続き気にはなりますので,言葉遣いの問題だと思いますが,御検討いただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。畑幹事がお感じになった懸念というか不安な気持ちというものは,何かちょっとこれは不安ですね。
佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 御指摘があって実は私も不安に思ったんですけれども,①は報酬が入っていますけれども,②は報酬が入っていませんよね。このことからすると,報酬は2ページの(2)①のここに定義されている管理不全土地等からしか取れないように何か見えますけれども,宮﨑さんの御説明だと多分報酬も所有者の財産一般から取れるんですよね。そうすると,②も少なくとも要した費用及び報酬はとかというふうにしていただいた方がいいのではないかと思います。
○山野目部会長 ①に「管理不全土地等から」と入れることの適否,それから,①,②で費用は両方出ているけれども,報酬が片方に出ていないということの不ぞろいが何を意味するか,あるいは誤解を与えるものではないかという,これらの点について,少し文言を整理していただくというお話になるものでしょうか。今日のところはそういう整理でよろしいですか,事務当局においては。
○大谷幹事 ありがとうございます。ここのところ,①の方で裁判所が,管理人が管理しているものを含めて,支払を命ずることができるようなものを①の方で規定して,それ以外のものを②でということを考えておりましたけれども,今,御指摘のあったように,ちょっと文言に工夫を要するのではないかというような御指摘が複数ございましたので,再度検討させていただきたいと思います。
○山野目部会長 この点は更に検討することにいたします。ありがとうございました。
次に御発言いただく方はどなたでしょうか。御案内申し上げましたように,管理不全建物管理命令の制度についても御意見がおありであれば,仰せいただきたく存じます。いかがでしょうか。
土地,建物それぞれについて何か御指摘をまだ頂いていないことがあれば承りますけれども,どうでしょうか。
特段ないというふうに受け止めてよろしゅうございますか。
それでは,部会資料50について,御相談を差し上げたように,管理不全土地管理制度,それから,管理不全建物管理制度のそれぞれについて,委員,幹事から多くの有益な御指摘を頂いたところでございます。これらを踏まえて,次の機会にこれらの制度について更に整えた提案を差し上げるように努めることにいたします。
本日は部会資料49及び部会資料50についての審議をお願いいたしました。委員,幹事の御協力のお陰をもちまして,内容に関わる審議をここまでといたします。
事務当局から次回の会議等についての案内を差し上げます。
○大谷幹事 御案内いたします。次回の日程は11月10日の火曜日,3週間後になります。また,午後1時から終了時間未定という形で,一応6時まで会場は確保するということにしております。場所はまた元に戻りまして,地下1階大会議室になります。次のテーマですけれども,現時点においては,要綱案のたたき台をそろそろお示しする段階になってきているかなとは思っております。全部ではなく,主に民法の関係で要綱案のたたき台の一部をお示しできればと考えております。
○山野目部会長 ただいま差し上げた次回の御案内も含めまして,この際,委員,幹事から部会の運営につきまして,お尋ねや御意見があれば承ります。いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,本日も熱心な御審議を頂きまして,ありがとうございました。これをもちまして,民法・不動産登記法部会の第20回会議をお開きといたします。
どうもありがとうございました。
-了-
そうしましたならば,審議の内容に進むことにいたします。
部会資料の43をお取り上げくださるようにお願いいたします。
財産管理制度の見直し,その中でも,所有者不明土地管理制度についてお諮りをいたします。
部会資料43の1ページ(1)のところで,前回,第15回会議において御審議をお願いした,部会資料33の基本的な方針を踏まえたものを再び提示しております。
引き続きまして,同じ部会資料の5ページにまいりますけれども,イといたしまして,細目に関わる事項として,管理,処分の権利が,管理人に専属すること,範囲を超える行為をするには裁判所の許可が要ること,これに違反する場合には無効とし,ただし,善意の第三者に対抗することができない旨の第三者保護の規定を設けること,登記を嘱託することなどについて,これも部会資料33でお示ししたところを踏まえ,再びお出ししているものでございます。
部会資料の6ページから7ページにまいりますと,ウからエと,この制度について更に細目についての御提案をお示ししておりますけれども,いずれも部会資料33でお諮りしたものを整えた上で,大きく内容を変更することなく,本日お出ししているものでございます。
部会資料43でお諮りする所有者不明土地管理制度の全般について,御意見を承ります。どうぞ御随意に御発言をくださいますようお願いいたします。
○蓑毛幹事 部会資料43について,日弁連ワーキンググループでの議論を紹介します。
部会資料43の本文は,いずれも基本的に賛成します。その上で,少し細かいですが,それぞれの箇所について,議論になったところを申し上げます。
まず,部会資料1ページ本文の申立権者についてです。申立権者である利害関係人について,例示して分かりやすくしてほしいという意見もありましたが,今の提案のままでよいという意見の方が多数でした。
それとは別の問題として,実務上,この申立てをすることが想定される者として,地方公共団体の長が考えられるので,民法ではなく,所有者不明土地特措法に定めを置くことになるかもしれませんが,地方公共団体の長に申立権があることを明確にすべきとの意見がありました。
次に,部会資料4ページの管轄裁判所についは,所有者不明土地管理人の選任,監督,あるいは土地の売却の可否や代金の当否などの法的判断が必要となることからすると,民事における財産管理事件を基本的に取り扱うこととされている地裁がふさわしいという意見が多数でした。
それから,部会資料4ページの裁判を受ける者についての箇所で,所有者不明土地の所有者に対する決定の告知について,失踪宣告と同様の特則的規律を設けるという説明に対して,疑問が示されました。所有者不明土地管理人の選任については,失踪宣告で死亡とみなされる場合とは異なるではないかと。不在者財産管理人が選任されても,家事事件手続法146条には,失踪宣告の場合の家事事件手続法148条4項のような規定はないが,それとの関係をどう考えるかという疑問が出されました。
部会資料5ページの所有者不明土地管理人の権限等,イの部分について,基本的に賛成しますが,一部のメンバーから,今回,動産に関する権限の規律が本文の①に取り込まれたことによって,このように,土地と動産を同列に並べた定め方にすると,管理人の権限又は義務が,土地と動産について同じものになると解されてしまうのではないかという疑問が出されました。管理人は土地の管理に必要な範囲で動産の管理を行えばよいのだと理解していますが,このように土地と同列に並べるということで,誤解を招くのではないかと思います。
部会資料6ページのウは,特段意見はありませんでした。
部会資料7ページのエ,所有者不明土地等に関する訴えの取扱いに関する中断と受継の規定を設けるという提案について,基本的に賛成です。ただし,この規定は,破産法44条の規律を参考にして作られたと思うのですが,破産法44条6項に相当する規定がありません。部会資料7ページのエ③で,所有者不明土地管理人は受継することができる,相手方も受継の申立てができるという規定になっていて,受継が必要的ではありませんので,いずれも受継せず中断したままになる可能性があります。その状態で,所有者不明土地管理命令が取り消された場合は,所有者不明土地管理人は訴訟の当事者になっておらず,④及び⑤の適用外ですので,④⑤とは別に,所有者に訴訟を受継させる仕組み,つまり破産法44条6項に相当する規定が必要だと思います。
その後の部分は,本文についていずれも賛成します。
○山野目部会長 弁護士会の御意見のお取りまとめを頂きまして,ありがとうございました。
部会資料43を起案した関係官から,現時点で何かありますでしょうか。
○宮﨑関係官 関係官の宮﨑でございます。
ありがとうございました。5点ほど御意見など頂いたかと思います。
最初の申立権者のところにつきましては,自治体の長にも申立てができるようにという御趣旨の御意見かと思いますけれども,こちらについては,所有者不明土地特措法の所管の省庁ともよく相談してまいりたいと思っております。
それから,裁判を受ける者についてでございますけれども,不在者財産管理人については,御指摘のとおり,このような規律は設けられていませんが,今回の所有者不明土地管理制度の場合は,不在者財産管理人とはやや異なり,本人の管理処分権も制限するという効果が生じるというところがありまして,そういう意味では,やはりこの規律をもし置かないとすると,告知の対象になってしまう可能性もあるのかなと考えてはおりました。もしかしたら,異なる考え方もあるのかもしれませんので,御議論いただければと思っております。
それから,イの動産と同列になるのではないのかということ,土地と動産を並べて書いているということにつきましては,これまでの部会資料と同様,私どもの考え方としましては,土地の管理に必要な限度で,その動産についても管理処分を行うということになるのかなとは思っております。そこの考え方を変えているものではないんですけれども,適切な表現ぶりについては,引き続き検討してまいりたいと思っております。
最後に,中断,受継のところで,破産法44条6項に相当するような規定が必要になるのではないかという御指摘を頂きました。44条6項というのは,当然に受継するということになっておるんですが,これは,破産の同時廃止などを念頭に置いた規律なのかと理解しております。今回の所有者不明土地管理制度ですと,管理命令がされてから取消しが直ちにされるということは,想定しにくいのかなと思っておりましたので,間に中断は必要になるのではないのかなと思っておりました。そういう意味で,44条6項に相当するような規定は今回は置かないということで,今回の提案の中ではさせていただいているところですが,これについても,様々な御意見を賜りたいと思っております。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,何か補足なさることはおありでしょうか。
○蓑毛幹事 最後のところだけ。土地管理命令が発令されて,土地管理人も受継しない,相手方も受継しない,こうなった場合は,訴訟は中断したままになる。その後に,土地管理命令が取り消された場合,中断の効力を失わせて当初の当事者に訴訟が係属するような仕組みを設けないと,うまくいかないと思ったのですが,そういうことではないですか。
○宮﨑関係官 おっしゃるように,そういうケースは,理論上は出てくる可能性もあるのかもしれませんが,一般的には,所有者不明土地管理人は受継をすることになるだろうと思っておりますので,受継もされないままに取消しがされて,また元の状態に戻るということは,レアケースになるのかなとは思っておりました。
それでも,そのような場合に備えて,何かしらの手立てを置くという考え方もあるのかもしれませんが,管理命令が取り消された後は,中断状態を解消して,所有者が訴訟を追行していくということは,別に規律を設けなくとも可能という解釈もできるのではないのかなと考えておりました。
○蓑毛幹事 はい,分かりました。
○山野目部会長 ただいま議論をしていただきました受継と中断のところ,もう少し事務当局においても検討して,皆さん方に御紹介をしたいと考えます。
ただいまの意見交換があった事項でも結構ですし,それ以外の事柄でもよろしゅうございます。
○今川委員 我々も,この財産管理制度,所有者不明土地管理制度については,基本的には賛成です。
幾つか意見がありますが,(1)のアについて,補足説明の4の管轄裁判所ですけれども,簡易裁判所も管轄裁判所としてほしいという要望が司法書士の中で多いのですが,理由は,前々回の部会で申し上げましたとおり,制度を利用しやすくするために,選択肢が増えることはいいのではないかというようなことからの意見要望であります。
補足説明の2のところですが,所有者不明土地管理人と不在者財産管理人とが競合した場合に,土地管理人には権限が専属するので,不在者財産管理人の処分行為は効力を有しないということについては異論はないのですが,所有者不明土地管理人については登記情報を確認するという方法はあるのですが,不在者財産管理人にはそういう方法がありませんので,理屈上は,不在者財産管理人が土地の処分について家裁の許可を得るということと,所有者不明土地管理人が選任されて嘱託登記がされるというのが,同時に起こるということもあり得ると思います。ほかにもいろいろ競合する申立てがされる可能性があるので,前から何回も言っておりますが,競合する申立てがあるかどうかが確認できるような仕組み,裁判所の情報連携があれば,よりいいのではないかと思います。
それから,補足説明3の申立権者についてですが,利害関係人として民間の買受希望者も一律に排除されるわけではないとされております。公共の利益と,個人情報というか個人の権利のバランスの問題なので,我々も全面的に排除すべきだと考えるわけではありませんが,買受希望者を認めるにしても,飽くまでも利害関係人として認めるわけなので,申立ての濫用がないように,一定の絞りをかけることは当然必要だろうし,その基準は,民法に規律を置くことができるかどうかは別として,何らかの形で一定の基準は示すべきだと思います。
それから,買受希望者が申立てをする前提として,所有者の探索が当然必要となりますし,そのためには,住民票や戸籍事項証明書等の交付請求をしなければならないですが,単なる買受希望者に交付請求を無限定に認めるということは,まずないのだと思います。そして,その戸籍等の交付請求は,裁判所に申し立てる前に行うものであるので,結局は,戸籍法10条の2第1項に該当するかどうかは,役所の窓口において判断されることになってきますので,戸籍事項証明書の交付のための要件も,何らかの形であらかじめ一定基準のようなものを示しておく必要があると思います。
それから,イの補足説明3ですね,ページ数からいくと,6ページの債務の弁済ですね。管理人が不動産を売却するときに,抵当権等の抹消をどうするかということで,債務の弁済という切り口で説明をされておられますが,このような理論的構成はまず置いておき,我々実務の感覚からすると,売却するためには抵当権を抹消することが当たり前で,抹消ができなかったら売れな,買受人も,担保権が付いたままで買い受ける人はまずいないのだろうと思います。
普通は,管理人が売却するためには抹消の請求を銀行にして,銀行は,ただでは抹消できませんと,では,幾ら弁済すればいいですかという話になってくるのではないかと。常に,完済をして,付従性で当然抵当権が消滅するという場合だけではなくて,根抵当権もあり得るわけですから。結論から言うと,管理人が抵当権の抹消ができないと売却できない。そのためには,弁済もできるようにしなければならないと思います。
前回,不明共有者の第三者への持分譲渡のところで,裁判所が許可をするときに,どこまで射程として見ているのかという話がありましたが,あのときは,相当な価格の供託という,相当な価格のところだけを判断していくのではないかということがありましたが,ここでの売却については,この弁済,抵当権の抹消等も含めた形で,視野に入れた形で,裁判所が許可をするのではないかと思われます。実務上,そういうふうになるのかなと思われますので,この権限がないと,売却は進まないと思っております。
それから,これ,質問ですけれども,クの管理命令の取消しのところですけれども,すみません,これはちょっと,我々の読み方が悪いのかもしれませんが,所有者の死亡が判明して,相続人の存在や所在が判明した場合には,管理命令が取り消されるというのは理解できます。複数の相続人がいて,そのうちの一部が所在不明の場合は,これは,やはり自動的に持分の管理人になるわけではなくて,1人でも所在が判明している相続人がいる場合は,一旦取り消されると理解してよろしいでしょうか。最初の管理人は,不動産全体の管理人として選任されているので,一旦は取り消されるという理解でよろしいでしょうか。その点が質問です。
○山野目部会長 御意見とお尋ねを頂きました。
お尋ねについて,事務当局から回答を差し上げます。
○宮﨑関係官 そのときは,管理命令の対象となる持分が,全体から一部の判明した人を除く部分だけということになると思いますので,その場合は,管理命令を一旦取り消してもう一回やり直すというよりは,管理命令の変更などにより対応するというやり方もあるのかなとも考えております。
○山野目部会長 全体を対象としていた管理命令を,所在不明相続人の有する持分を対象とする管理命令に変更するということを,今,おっしゃったんでしょうか。
○宮﨑関係官 はい。
○山野目部会長 今川委員,お続けになることがあったらどうぞ。
○今川委員 変更というのが可能だとすると,それもありなのかなとは思います。
最初は,やはり一旦取り消されるのかなと思っておりました。選任されている管理人は,土地全体についての管理人であると捉えておりましたので。
○山野目部会長 今日,意見交換がありましたから,そこを検討します。同じ事件番号で起こしているものを,そのまま続けて変更で済む話になるか,一旦取り消して,共有持分に係る別な管理命令の事件を起こすことになるかといったようなところを,精密に検討する必要がありますから,御指摘に御礼を申し上げた上で,改めて検討することにいたします。
ほかにいかがでしょうか。
○松尾幹事 細かな点の確認ですけれども,部会資料43の9ページ,本文キの所有者不明土地管理人の報酬等について,①では,不明土地所有者の負担になる対象について,管理に必要な費用が挙がっていて,報酬は挙がっていないわけですが,ここに報酬を挙げる必要はないかどうかということでの確認です。
補足説明の2の本文キについての説明を見ますと,管理費用及び報酬は,土地の所有者が負担すべきと解されると説明されていますので,報酬がここに挙がってもいいのかなと思いましたので,確認させていただければと思います。
○山野目部会長 キについて,お出しいただいたお尋ねについて,お願いします。
○宮﨑関係官 ここについては,御指摘のとおり,①の方の費用の中にも報酬は含まれるという前提で考えております。ほかの法令などを参考にして,このように記載しているものではございますが,表現ぶりについては,引き続き検討してまいりたいと思っております。
○松尾幹事 はい,分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
2点ございまして,一つは,所有者等を知ることができないの意義なんですが,次の資料になるんですけれども,資料44で,所有者不明建物管理制度について取り上げられていて,その3ページの第1段落に,例えばという行が,行というか,つぎのような記述がございます。つまり,所有者が分かっていたんだけれども,その人が死亡した,その共同相続人全員が相続放棄をした,この場合の例が挙げられているんですね。ということは,今さら何を言っているんだと言われるかもしれませんが,この所有者不明土地管理制度というのは,今のような,言わば所有者がいたんだけれども,いなくなりましたというようなときも,所有者を知ることができないという場合に含めて使える制度なのですかということを,繰り返しになりますが,今さらになるかもしれませんけれども,確認させてください。それが一つです。
もう一つは,これも何度も申し上げていて,非常に恐縮で,もうそうだということであれば,今日で申し上げることはやめようと思うのですが,5ページのイの③です。これは,要するに,管理人が権限の制限に違反した行為は無効とすると。ただし,括弧書きになっておりますが,所有者不明土地管理人は,これをもって善意の第三者に対抗することができない。ここでいう第三者につきまして,5ページの補足説明の下から2行目には,行為の相手方を含むとあるのですね。しかし,行為,例えば,売買をすることができない,特段の許可を得ていないので売買をすることができないときに,土地管理人が売買をした。相手方である買主は,売買の当事者であって,無効に関して第三者では私はないと思うんです。にもかかわらず,第三者に売買の当事者,つまり行為の相手方も含むということになりますと,ここはそういう言葉で使うんですということなら,もうそれでいいんですけれども,これまで一般的に言われてきた第三者の概念と,それは異なるのではないかと思います。
私のそのような考え方からいたしますと,例えば,ここは次のようにできないのかと思っております。②に違反して行った所有者不明土地管理人の行為は,無効とする。ただし,行為の相手方がその違反を知らなかったときは,この限りでない。そのようにした上で,言わば,もし条文だったら,こう改めた上で,前項の規定による所有者不明土地管理人の行為の無効は,善意の第三者に対抗することができない。例えばですけれども,このようにすることが,今まで使われてきた一般的な用語法に合うのではないかと思っています。規律の実質については,全く異論を申し上げようということではありませんけれども,何度もで恐縮ですけれども,言葉の使い方として,無効である行為の相手方を第三者に含むというのは,やはり私はおかしいのではないかと思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事から2点頂きまして,前者は確認のお尋ねでした。
後者は,御提案を頂いたとも感じますけれども,何か事務当局として理解しているところがあれば,案内してほしいと思いますから,両方の点について,事務当局から所見を差し上げます。
○宮﨑関係官 まず,前者の方の,「知ることができない」の意味ですけれども,これについては,御指摘のように,この建物管理人の方でも例示を挙げておりますような,相続放棄を相続人全員がした場合というのも,ここに含まれるものと考えてございます。
また,②のイのところですね。「善意の第三者」という表現で,行為の相手方を含むということで考えられるのかどうかという御指摘かと思いましたけれども,ここについては,従前の部会でもそのような御指摘を頂いていましたので,いろいろ調べはしたんですけれども,これと同じような文言の規律は破産法などにも設けられていまして,もっと遡ると,昔の会社更生法55条の中で,同じように善意の第三者に対抗することはできないという規律が設けられております。その当時の解説書などにも,「善意の第三者」の中には相手方を包含するものと書かれておりまして,恐らくこれは,一般的にとられている解釈なのかなと思いましたので,このような書き方でも許容されるのではないかなとは考えてございました。
今,また別途の表現ぶりの御提案というのも頂けましたので,引き続き検討してまいりたいと思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事,お続けください。
○佐久間幹事 いえ。意見を申し上げましたので,今のようにお考えいただくのであれば,もうそれで結構でございます。
○山野目部会長 それでは,御意見を踏まえて検討することにいたします。
引き続き承ります。いかがでしょうか。
○市川委員 今回の部会資料で変更された箇所ではありませんが,部会資料の5ページのイの②の権限外行為に関しまして,この権限外行為の裁判所の許可の運用の在り方について,現行の不在者財産管理人の場合とは異なる考慮要素などもあるかと思われますので,改めて確認させていただきたいと思います。
まず,所有者不明土地の権限外行為の対象となる行為として,念頭に置かれている行為がどのようなものなのかということを確認させていただきたいと思います。また,そのような行為を許可するかしないかの考慮要素として,どのようなものが想定されているのかということを,改めてお聞かせいただけますでしょうか。よろしくお願いします。
○山野目部会長 イの②の運用について,部会資料の作成に当たってイメージしている運用がありましたら,御案内ください。
○宮﨑関係官 まず,一つ目が,許可の対象となるような行為はどういうものを念頭に置いているのかという御質問でしたけれども,これについては,典型的には売買かなと思っております。
その判断の際の考慮要素ということにつきましては,売買契約の内容としましては,価格の適切性などについては一つの考慮要素になりますし,また,今回の制度というのは,土地の適切な管理を実現するためのものでございますので,その限りにおいて管理が適切にされることが見込まれるということも考慮されるのかなと思いますが,一般的には,買い受ける人というのは適切に管理を行っていくということが見込まれますので,この要素をもって否定されるケースは少ないのではないのかなと思っております。
また,土地の所有者の出現可能性ないしは帰来可能性ですか,そういうことについては,不在者財産管理人と同様に考慮要素の一つになっていくものかなとは考えてございます。
○山野目部会長 市川委員,お続けください。
○市川委員 ありがとうございます。
今回不在者財産管理人と特に異なる部分としましては,土地の適切な利用可能性というところかと思いますが,その点について,裁判所が深く資料を提出させて検討するということは,余り想定されていないという理解でよろしいでしょうか。
○宮﨑関係官 今申し上げましたように,普通は土地を買う人であれば,そこを適切に管理しながら使用することが見込まれるのだろうと思いますので,具体的にそれが否定されるような事案というのは,今の時点では想定しにくいのかなとは考えております。
○市川委員 ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございました。
佐保委員,どうぞ。
○佐保委員 ありがとうございます。
私の方から1点,1ページの注意書きと4ページの補足説明4にある管轄裁判所について,発言させていただきます。
所有者不明土地管理人の選任申立件数が多くなると,地方裁判所の業務が増大する可能性がありますので,簡易裁判所も管轄裁判所とすべきではないかと考えております。また,地域によっては,近くに支部を含む地方裁判所がなく,簡易裁判所のみの場合があるため,利便性を考えれば,簡易裁判所に管轄を与えてもよいのではないかと考えております。
○山野目部会長 御意見承りました。
中田委員,どうぞ。
○中田委員 ありがとうございます。
10ページの補足説明のところです。土地の所有者が死亡した場合の取扱いについて,前回意見を申し上げましたところ,御検討いただきました。どうもありがとうございました。
その上で,もう少しお伺いしたいんですけれども,所有者が管理命令のあった時点で既に死亡していた場合,相続人の存在あるいは所在が判明したとすると取消事由になるけれども,そうではないと取消事由にはならないと,こういう整理だと思います。ただ,その場合に,既に死亡していた場合には,被相続人甲の存在,所在不明をもって,相続人乙の所在不明と同視するというか,それをスライドさせて理解するということのように読んだんですけれども,何か本来両者は違うことであって,別途検討すべきことなのではないかなという気がしました。それは恐らく,先ほど今川委員の御質問ともつながることではないかと思います。
それからもう一つ,一般的に,管理人が既にした行為については,既往に遡らないということが,最後の方に書かれています。管理命令が取り消されたとしても,既往に遡らないということなんですけれども,他方で,所有者あるいは相続人の権利を害するということを,どうやって防ぐかということも必要になってくると思います。
類似した問題で,失踪宣告の取消しについては一定の配慮があるわけです。不在者財産管理人が家裁の許可を得て処分行為をしたときについては,特段の規定はないということで,どっちに寄せるかということなんですけれども,所有者不明土地管理人については,先ほど来議論の出ております管理人の権限外行為の無効に関する,5ページ,イの③の手当てがあります。それと同じような相手方保護の必要があるのではないかなと思います。もう少し広く言うと,その土地が名義人,行方不明になっている名義人の所有地ではなかった,つまり不実登記であったという場合にも,行為の相手方が悪意である場合には,真の所有者を保護するという考え方があるのではないかと思います。つまり,全体として,管理命令に広い意味での瑕疵があった場合の管理人の行為の効力について,行為の相手方が悪意であるという場合には,それを保護する必要はないのではないかと,そのような規律を置くことを検討していいのではないかと思いました。
○山野目部会長 中田委員から2点にわたる御意見を頂きまして,前段でおっしゃったことは,中田委員自身からも御案内があったとおり,今川委員からお出しいただいた質問と関連する部分がございます。後段で御意見を頂いたことは,佐久間幹事が問題提起をなさったことと関連する側面がございます。
○宮﨑関係官 最初の前段の方については,被相続人の所在不明というのを,相続人の所在不明にスライドさせて考えているのかという御質問かと思いましたけれども,この部会資料の補足説明で書いていることは,必ずしもそういう趣旨ではございませんで,そのときは所有者だと思われていた被相続人が死亡していて,その相続人の存在・所在が判明した場合には取消事由にはなるということの趣旨としましては,被相続人の所在不明と,相続人の所在不明は,それぞれ個別に考えるということを,念頭に置いた記述ではございました。
次の,既往に遡るかという問題については,御指摘の中に含まれておりましたように,不在者財産管理制度の解釈などを参考にして,ここの補足説明は記載したものでございますが,御指摘も踏まえて,引き続き検討してまいりたいと思っております。
○山野目部会長 中田委員が前段で問題提起をなさったことは,少し前に今川委員からお尋ねがあった局面と全く同じではありません。同じではないというのは,相続人の判明,不明が,相続人の一部にとどまっているか,必ずしもそこに議論を限定しないかといったところが異なりますけれども,いずれにしても,不明であるとされていた当初段階の所有者について,相続が開始したことが判明し,相続人の全部又は一部についての所在が明らかであるかの状況が明らかになってきたときに,当初に起こされた事件,管理命令の事件を,どのようにその後に継続,発展させていくかということに関わりますから,本日頂いたお二人の御意見を踏まえて,事務当局において更に検討をいたします。
後段については,中田委員から32条1項後段の規定のようなものを参考にして,管理命令について,その実質的基礎を欠くことについて,悪意であった関係者の法律上の地位の在り方についての問題提起がありましたから,これについても検討いたします。
中田委員,よろしゅうございましょうか。
○中田委員 ただいまの部会長の取りまとめで結構でございます。よろしくお願いいたします。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○道垣内委員 5ページのイの③の,佐久間さんがおっしゃったことに関連するのですが,十分に聞き取れなかったところもあり,これから申し上げることは同じことを申し上げてしまうことになるのかもしれません。この点をあらかじめお詫び申し上げますけれども,ここの多分ポイントというのは,「第三者」の使い方というのがおかしいというよりは,無効というのが,売買契約なら売買契約が行われたという,その売買契約の無効ということを意味していないというところにあるのではないかと思うんですね。
つまり,売買契約というのが行われても,それが所有者にその効果が帰属しない,そうすると土地に帰属しないのですけれども,帰属しないということを,ここで無効と表現しているのであって,そうすると,いわゆる代理において,無権代理であるから効力が発生しないというのと同じになって,それで,取引の相手方のことを第三者と呼ぶというのが,代理と同じ構造として第三者と呼ばれているという,こういう構造になっているんだと思います。ただ,結構難しい話でありまして,私の理解が正しいかどうか分かりませんが,あり得ない書き方ではないのかなという気がいたしました。
少し関連して一言だけ申しますと,不在者の財産管理のときには,こういうふうな裁判所の許可がないにもかかわらず,不在者財産管理人が行為をしてしまった場合と,それを超える行為をしてしまった場合というのは,無権代理であって,表見代理の規定が適用されると,一般に解釈されているのだろうと思います。そうしますと,正当な理由とかいろいろな言い方がありますが,ごくごく簡単な言い方をすると,相手方は無過失が要求されていますよね。しかるに,ここが本当に善意でいいのかというのは気になるところではあります。例として,信託法66条第5項というのが書かれているんですが,これは,信託財産に関して,受益者がいて,受益者が一番利害関係を持っているにもかかわらず,受託者がいないという場合を指していて,多分,取引を円滑に進める必要性というのは極めて高いと考えられているから,善意になっているのかなという気がいたします。
表題部所有者不明土地法については,これも善意になっているんですが,その理由はよく分からないのですけれども,今までの,取り分け表題部所有者不明土地法との関係で考えると,善意でも仕方がないのかなという気がいたします。ただ,なお慎重に,本来は考えてみるべきところではないかという気がいたします。
もう1点は,続けて申しまして恐縮でございますけれども,今川さんの方から話が出ました債務の弁済の話であります。
実務上,抵当権を抹消しなければ売却ができないというのは,これはおっしゃるとおりだろうと思います。ただ,それが,債務を弁済できるというふうなことだといたしますと,例えば,所有者がどこへ行ったか分からないでもいいのですが,どこか行っちゃって,当該抵当権の債務者が,当該登記名義人と同じだという場合は,まだ比較的簡単なのですけれども,物上保証人であるだとか,あるいは,債務者が複数であるとか,共有であるということになりますと,これ,結構難しい問題が生じます。
取り分け物上保証人との関係でいいますと,抵当権を当該物上保証人が設定しているという状態が,抵当権者との間の債権的な契約とか,あるいは債務者との間の債権的契約,つまり,担保を拠出しますという契約に基づいて行われていることもあって,そうすると,抵当権というのを,今現在の根抵当の何かの,額でも何でもいいのですが,弁済して,本当にそれは,物上保証をしてくれという委任契約に反しないのかというのは,微妙な問題であるような気がいたしますし,さらには,根抵当のときに,交渉するとおっしゃいましたが,銀行と幾らで抹消できますかという交渉について,善良な管理者の注意に基づいて交渉しろという話になってまいりまして,結構難しい問題が出てくるような気がいたします。
もし仮に交渉で済むのならば,第三者弁済を事実上するという形で処理をするというのがせいぜいであって,直接に債務の弁済ができる旨を書くというのは,私は結構難しいし,弊害もあるのではないかと思います。
この点は,実際それでは動かないと言われてしまえば,そうかもしれませんので,余りよく分からないままに発言をしておりますが,以上でございます。
○山野目部会長 道垣内委員から,前段と後段のそれぞれについて,異なる事項の問題提起を頂きました。
前段が,先ほど来から話題になっておりますとおり,イの③に関わります。それで,ここにつきましては,元々この「所有者不明土地管理人は」という,鍵括弧で包んでいる主語がどうかということ自体を検討していかなければいけないということに加えて,本日の御議論の中で第三者という言葉の当否や,善意が単に善意でよくて,善意無過失であることまで求めなくてよいかといったような観点についても,注意喚起を頂いたところであります。
改めて,従前の類似の局面を見てまいりますと,三つほど今申し上げますけれども,一つ目は,民法の表見代理の規定は,相手方に当たる者を指すときに,第三者という文言を用いております。その第三者に求められる主観的要件は,無過失まで要求するというふうな規律になっております。それから,失踪宣告の取消しの場面の32条1項後段の場合には,これは,第三者という言葉ではなくて,要するに者という言葉が用いられていて,善意でした行為という表現になっていて,第三者という言葉が避けられているかどうか分かりませんけれども,用いられていない。その32条1項後段の場合には,単に善意ということが求められているという,主観的要件の区切り方になっております。それから,三つ目,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の規定に基づいて,理事が法人の内部統制を超えて,代表行為たる法律行為をするときの関係者の保護に関しては,ここは,善意の第三者に対抗することができないとなっていて,第三者という言葉が用いられており,主観的要件は,無過失を要求しない単なる善意ということになっております。
恐らく,本日の部会資料のここを作成するに当たりましても,従来の法制上の様々な例を参照して,事務当局において悩んだところを踏まえて,今日お出ししており,これについて委員,幹事からは御意見も頂いたものであると受け止めます。
佐久間幹事,又は事務当局から何か,今日の段階で今後の検討に向けて補足の御発言があれば,承っておきます。
佐久間幹事,何かおありでしょうか。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
まず,表見代理との関係なんですけれども,表見代理のところで第三者が相手方のこと,代理の相手方を指して用いられているのは,もちろんそのとおりでございます。
代理のところで,相手方を指して第三者と呼んでいるのは,代理関係の第三者だからだと思うのですね。だからこそといいますか,表見代理の規定でいう第三者というのは,直接の相手方に限られていて,それ以降の者,転得者等はこの第三者には当たらないというのが,一般的解釈だと思います。そうであるとすると,今御提案の5ページのイの③の第三者において,直接の相手方と転得者,併せて第三者と呼ぶというのは,代理における規定との平仄も必ずしも取れていないのではないかと思います。
それから,一般法人法の善意の第三者というときは,それは善意の第三者なんですが,そこで対抗できないのは,権限の制限のはずでありまして,無効の対抗ではないと思います。前回まで私が,ここで善意の第三者というのだったら,対抗できないことの対象は権限の制限であるべきだと申し上げてきたのは,そのためでございます。
会社更生法以来,そこから端を発しての,例えば,信託法,あるいは表題部所有者不明の,その文言の使い方はどうなのかというのは,ちょっと私,そこはよく分かりません。ただ,そこの考え方を本当に民法に持ってきていいのかなというのは,やや疑問に思うところがございます。
それと,もう1点。善意無過失であるか,善意であるかですが,善意無過失とするという考え方,もちろん十分あり得るわけでして,それは言い方が適当か分かりませんが,決めの問題だと思います。そのうえで,もし善意無過失を相手方に要求するのであれば,特段の規定は要らないのではないか,表見代理の規定に委ねるということでいいのではないかと,私は思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き検討しなければなりませんけれども,事務当局から現在時点で,この論点についてありますか。
○宮﨑関係官 今の善意無過失とするかどうかについてでございますが,確かに不在者財産管理人のときとはややずれてしまうのかもしれませんけれども,不在者財産管理人の場合,不在者の財産の保護というのが制度趣旨になっているのかと理解していますけれども,今回の土地の管理人の場合は,その土地の適切な管理の実現ということが制度趣旨になっていて,そこの制度趣旨の違いなどから,この要件の違いというのも説明ができないかということは考えておりました。もう少し検討してみたいとは思っております。
○山野目部会長 そうしましたら,道垣内委員が前段でおっしゃったことについては,ただいま事務当局の方から申し上げたような方針で,更なる検討をいたします。
道垣内委員の問題提起の後段でおっしゃったことは,債務の弁済に関わることであります。今川委員の問題提起を受けて,道垣内委員からお話をしてくださいました。
今川委員に今コメントがあったら,今川委員,それから事務当局の御発言をお願いしますが,恐らく今川委員がおっしゃったことは,債務の弁済が比較的簡易な事務として可能なときには,それをするということであって,道垣内委員が問題にされたような,物上保証,それから,道垣内委員はおっしゃいませんでしたが,オーバー・ローンになっていたりして,一種,倒産の法律事務で処理しなくければいけない感覚を催させるような,複数の担保権者がいて,複雑な法律関係になっているようなときには,これは,所有者不明土地管理人の事務として仮に債務の弁済が事務に含まれることが考えられ,売却の過程での債務の弁済が事務に含まれることがあり得るとしたとしても,極めて不適切な事例であって,少し前の市川委員のお尋ねで示された観点と問題意識が全く同じではないですけれども,裁判所が許可を与えることがが不適切な場面の典型的な一つの例になるものではないかとも感じられます。今日お出しいただいた御議論を踏まえて,更に検討を続けなければいけないと感じました。
今川委員から何か補足の御発言はおありでしょうか。
○今川委員 いえ,特にありません。
○山野目部会長 事務当局からどうぞ。
○宮﨑関係官 1点だけ補足ですが,道垣内先生の後段でおっしゃった債務の弁済については,債務の弁済に関する規定を何か設けようということを意図しているものではございませんで,本文イのゴシックで書いているところから考えると,債務の弁済についてはこのような考えになるのではないでしょうかということを,この補足説明の中では記載させていただいているところです。
○山野目部会長 道垣内委員の後段につきましても,更に検討を続けてまいりますから,委員,幹事におかれては,お気づきのことをさらに,折に触れ御指摘いただきたいと望みます。
道垣内委員,よろしゅうございますか。
○道垣内委員 はい,問題ありません。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○潮見委員 言いたいことは簡単です。一つは,先ほど佐久間さんがずっと言っておられたことについて,私も気になるところがありますし,ちょうど同じような議論が相続法改正のときに,遺言執行者のところで,相続人の債権者と書くときに,そこに相続債権者が入るのか,入らないのかというので,括弧書きをして,確か相続債権者を含むという,そういうふうなことで紛れがないようにしたということがあったかと思います。何か同じような仕組みを採れないものかというように感じました。
もう一つは,それと関係するんですが,先ほどの,5ページ目の「所有者不明土地管理人は」という主語を置くことについては,私は反対です。結論は同じかもしれませんけれども,先ほどから,佐久間さんは,ここでの問題は権限の制限の問題であると言われ,また,先ほど道垣内さんは,この問題というのは,要するに,土地管理人がしたことの効果が所有者に帰属するのかどうかという話でした。いずれにしても,そうした権限の制限とか,あるいは効果が所有者に帰属しないということを,相手方,あるいは第三者に対抗することができるかどうかという問題ですから,ここを,人を主語にして,所有者不明土地管理人はというような形で立ててしまうと,あたかも対人的な,相対的な無効というような形でも読めるような文脈で取られる可能性があります。ですから,この部分は,少し検討をしていただければと思います。
○山野目部会長 潮見委員の前段,後段にわたる御意見を承りました。ありがとうございます。
どうぞ,畑幹事,御発言ください。
○畑幹事 何点か,既に議論になったところと,そうでないところについて申し上げます。
まず,4ページの管轄裁判所,事物管轄でございますが,確たることは申し上げにくくて,確かに政策論としては,簡易裁判所に管轄を認めて,広く利用できるようにするということも十分理由があるように思いますが,他方で,制度としては初めてのものということになりますから,出だしの際には,この資料にあるように,原則的な裁判所である地方裁判所の管轄ということで出発し,ある程度運用が安定し,かつ,非常にニーズも多そうだということであれば,簡易裁判所に後から広げるということも考えられるかなというような感想を持っております。
それから,4ページ,その下の裁判を受ける者ですが,私,以前にお尋ねしたところではなかったかとは思いますが,結論的には,ここに書いてあるように,告知しようにもできませんから,告知しないということでいくしかないのかなと思っております。蓑毛幹事から最初の方でお話がありましたように,不在者財産管理についてはそういう規定はないということで,私もなぜかということをよく思い出せないのですが,恐らく不在者というのは,全然誰か分からないとか,どこにいるか,およそ分からないということでは必ずしもないということなのかなという気もしております。不在者財産管理の方はともあれ,こちらについては告知しようがないということであろうと思っております。
それから,7ページの下の方の訴訟行為についての裁判所の許可の要否のところです。ここも,前にお尋ねしたところではないかと思います。今日の資料の御説明は,なおあまりクリアでないところがあるという感じはいたしますが,どうも不在者財産管理であるとか,相続財産管理,8ページにちょっと出てきておりますが,これらについても,ある程度解釈に委ねられてきたところかなと思いますので,ちょっとクリアでない面はありますけれども,ここでも解釈に委ねるということであっても,やむを得ないかなという感じがいたします。
それから,最後に,細かい点というか,あるいは法制的な問題なのかもしれませんが,1ページの制度の立て付けというか,アの①で管理命令を出すと。②で管理命令を出す場合には,当該命令において管理人を選任するということになっております。これがどういう意味なのかということなのですが,例えば,後見開始決定というのと,後見人の選任というのは,恐らく別の裁判と観念されているのではないかと思いますし,それから,破産開始決定と破産管財人の選任というのも,同時処分と呼ばれてはおりますが,一応別の裁判と観念されているのではないかと思います。
新しく所有者不明土地管理制度を作る際に,そこをどう整理するのかということは,実質には恐らくほとんど関わりなくて,法制的な問題かなとは思いますけれども,一応検討は必要かなということを,思いました。
○山野目部会長 手続の側面から,畑幹事にもろもろの点を御注意いただきまして,ありがとうございます。いずれも御意見として受け止めます。
1点のみ申し添えますと,後ろから2番目におっしゃった訴訟行為に係る裁判所の許可の問題につきましては,第15回会議で畑幹事から御発言いただき,問題提起を頂いたことに対して,本日の部会資料の説明では,それに十二分に答え切るものになっていないということは,共感いたします。畑幹事がお望みになったような仕方での整理にはなっていないだろうと感じます。
それとともに,畑幹事御自身もおっしゃったように,8ページの上の方に整理いたしましたように,どうも従前の経過を見ると,ここは何か宿命的な曖昧さというものでしょうか,元々少しはっきりしないところがあって,確かにここ,もう少し研究されなければいけないとは感じますけれども,今般ここのところについて,こういうふうなものだということを決め切ることに困難があるという気持ちで,部会資料でこの御説明を差し上げました。それについて,今,畑幹事からある程度の御理解も頂いたと伺いましたから,更に検討することにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○市川委員 すみません,補足でもう1点。
部会資料の5ページの補足説明の6項のところの管理方法等の限定に関連して1点,お伺いさせていただきたい点がありまして,管理方法等を限定せずに管理命令が出されて,管理が開始された後に,例えば,処理に多額の費用を要する産業廃棄物が存在することが判明したようなケースなど,当該土地を適切に管理する費用が捻出できないものの,そのまま放置するということもためらわれるような事案もあり得ると思いますが,そのような場合の対応については,どのように考えられるのかということについて,教えていただければと思います。
○山野目部会長 事務当局において,市川委員からお尋ねがあった事項について,運用のイメージを持っているならばお話しください。
○宮﨑関係官 御指摘いただいたケースにつきましては,所有者不明土地管理人による管理を継続するのが相当でない場合に当たり得るのではないのかなとも思われますので,裁判所が管理命令を取り消すという判断もあり得るのかなとは考えてございます。そのような場合において,産業廃棄物などによって近隣へ被害が生ずるおそれがあるときは,具体的な事案にもよるとは思いますが,そういった被害を防止するために,選任されていた管理人が,行政官庁などに対して情報提供をして,処理についての協力を求める事案もあるのではないのかなとは考えてございます。
○山野目部会長 市川委員,お続けください。
○市川委員 分かりました,ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○蓑毛幹事 さきほど市川委員がおっしゃったような事例,選任後に,産業廃棄物があって費用が生じることが分かった場合には,そのような費用を捻出するために土地を売却するということは認めらるのか,事務当局にお考えがあればお示しいただければと思います。
○大谷幹事 今の点,恐らく,既に土地の管理がなかなかいい状態ではないということなんだと思います。それを,土地を適切に管理するという観点で,売るということがあるのだろうと。それは,費用を捻出するという観点なのかというと,また違うのかもしれませんけれども,売却をして,その上できちんと使ってもらった方がいいというような判断ができるのであれば,そういう形で売るということもあるのではないかと理解されます。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
最初に発言させていただいたときにお答えいただいて,ああ,そうですか,そこは結構ですって申し上げたことで,蒸し返しみたいになって申し訳ないんですが,所有者がいて,その人が亡くなって,相続を開始したことが分かり,しかし,相続人の全部が放棄をしたという場合も,この制度を使えるんだということでした。
ああ,それはそうなんだなと思ったんですが,何かひっかかる,何だろうと思っていて,先ほど気が付いたんですが,所有者を知ることができずの要件に,本当に当てはまるんだろうかということが,気になります。つまり,相続人全部が放棄をいたしますと,相続財産法人が,法律上当然に立ち上がっていることになるのではないか。そうすると,その相続財産法人が所有者に当たる,ただし,管理人はいないので,何か現実に行われることにはなっていないという状態なのではないかなと思いました。
間違っているのかもしれませんが,もし間違っていないのだとすると,所有者を知ることができずという要件で読めるのかな。所在は,実態のある所有者がいないので知ることはできないんですけれども,そこが気になりましたということです。御教示いただければと思います。
○山野目部会長 私も,あの場面で,佐久間幹事が結構ですとおっしゃっていただいたところが,議事進行の私としては,そうおっしゃるのならば,処分権主義に従ってそうなんだろうと思って進めましたけれども,本当にそうであろうかということは,いささか心配でありました。
思い起こしますと,御発言の順番とは異なりますが,中田委員が問題提起をされたことは,所有者甲が行方不明であるということで始まった管理命令事件について,所有者甲の死亡が明らかになり,相続人乙がいることは明らかであるが,その所在が不明であるというときに,甲の所在不明と乙の所在不明は同じ事象ではないですから,同一の事件で続行するという単純な発想でよろしいですかという問題提起であり,続いて,続いてというのは,論理の順番で整理しますと,今川委員はその応用バージョンで,相続人の一部の所在は明らかであるが,一部が不明であるときはどうなりますかとおっしゃり,そして,佐久間幹事に今改めて整理していただいて,相続人は全て分かっていて,そして,その全てが放棄をした結果,相続財産法人に帰属することが明らかであるという,その事態は,所在不明とは言えないではないか,当初起こされた事件を単純に続行するということでよいでしょうかというお話を頂き,中田委員,それから今川委員の問題提起について,さらに,今日,そのような問題点があることが発見されましたから,検討しますという御案内を差し上げていたところでありまして,佐久間幹事の今の問題提起も,その際に,この局面も忘れないでくれということを御注意いただいたと受け止めますけれども,佐久間幹事におかれて,よろしゅうございましょうか,そのようなことで。
○佐久間幹事 はい,よろしくお願いします。
○山野目部会長 ありがとうございます。問題提起を頂きました。垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 どうもありがとうございます。
大変細かい点で恐縮なんですけれども,資料の7ページのエのところの訴訟の受継に関する規律の関係について,若干確認をさせていただければと思っております。
具体的には,エの③のところで,所有者不明土地管理人側では受け継ぐことができるとなっていて,⑤の方で,所有者が再度という場合には,受け継がなければならないとなっており,これは,破産法の44条がこういう形になっておりますし,表題部所有者不明土地に関しても同様の規定が置かれているということで,それとパラレルになっているのかなと思うんですけれども,この3項のところで受け継ぐことができるとされていることの趣旨としましては,これは,この管理人がどういった地位にあるのかという点について,例えば,今日の資料ですと,8ページの辺りで管理人の義務との関係の御説明で,土地の適切な管理を実現するために選任されると,必ずしも土地の所有者のために選任されるわけではないというような,所有者との関係で若干独自性が認められているというところが,この受け継ぐことができるという規定ぶりに反映されているというような理解をしてよろしいのでしょうかというのが,1点目でして,付随しまして,2点目なんですけれども,破産法に関して申しますと,相手方が受継の申立てをした際に,破産管財人が受継を拒絶できるのかという議論が従前存在いたしまして,破産法の規定が受け継ぐことができるとなっていることを根拠として,破産管財人は受継を拒絶できるのだという議論もないわけではないように考えて理解しておりますけれども,ここでのエの③では,所有者不明土地管理人が受継を拒絶するというようなことを想定されておられるのかどうかということについて,何か特定のお考えをお持ちだということであれば,御教示いただければと考えております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
事務当局から,受継の関係で,2点について説明を差し上げます。
○宮﨑関係官 御指摘いただきましたように,ここの規律については,ほかの規律の表現なども参考にして,このようにしております。破産の方について,何でその民訴法124条のような形で,受継の義務という書きぶりになっていないのかというところについては,訴訟の進行に利益を有する者が受継申立てをすればよいとの考え方に基づくものであると。双方が受継申立てをしないな場合というのも考えられないわけではないんですけれども,破産管財人としては,善管注意義務の観点から,自ら受継すべきことが相当な場合もあるということかと理解しております。今回の土地管理人につきましても,善管注意義務の観点から受継すべき場合が一般的には考えられるのではないのかなと。後ろの方で御質問いただいたような,受継を拒絶するという場合も,想定しにくいのではないのかなとは考えておりました。
○山野目部会長 垣内幹事,どうぞお続けてください。
○垣内幹事 分かりました。どうもありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございました。
ほかに,部会資料43についておありでしょうか。
大体御意見を承ったと考えてよろしゅうございましょうか。
そうしましたならば,この際,私の方から1点御案内を差し上げます。
所有者不明土地管理命令に係る事物管轄のことでございます。本日,委員,幹事から頂いた御意見は,いずれも参考になるものでありますから,今後事務当局が法律案の作成に向けて参考にさせていただきます。それとともに,少し考え込まなければいけない点は,それを法制審議会の答申で,一つの姿を示すことが要請される事項であるかということも,いささか一度じっくり考えてみるということにいたします。
思い起こしますと,現在裁判所の管轄というものは,法律事項であるということが何か当たり前の前提ですが,日本国憲法が施行された当初は,最高裁判所規則と法律の所管事項や,その効力の上下関係について,様々な考え方がありました。現在は,裁判所の管轄は法律で定めるという憲政上の運用が安定して定着しておりますけれども,同時に,管轄の内容を定めるときには,裁判所の取扱いに支障が生じないように,その運用の様子についての十分な尊重を踏まえて,法律の中身を決めていくという,これも憲政上の慣行が定着しております。そういたしますと,この所有者不明土地管理制度という民事の基本に当たる制度を設けなければいけないという政策は,正にここで委員,幹事が御相談いただいて,そうであればそうであると決めて,答申で示す事項ですが,そのときの裁判所の管轄をこうするというところを,法制審議会の答申に必ず書くことにするか,それとも,そのような実体の規律整備の方向が示されるということを受けて,法律案提出までに関係法律整備の中で適切な措置をするために,政府内の関係する府省及び裁判所と協議した上で決めていく事項であるかということは,なお慎重に検討をいたしてまいりたいと感ずるものでございます。
部会資料43についての本日段階での審議をここまでといたします。
それでは,かなり時間が経過いたしましたから,休憩にいたします。
部会資料44をお取り上げくださるようにお願いいたします。
部会資料44は,引き続き財産管理制度の見直しでございますが,このたびは,所有者不明建物,この建物の方の所有者不明建物管理制度についてお諮りをするものであります。
まず,部会資料44の1ページにおきましては,従前より話題にしております,所有者不明建物管理制度という制度を仮に創設するという方向でまいりましたときに,甲案,乙案,丙案という三つのようなモデルを想定して,検討していくことになるものではないかという観点からの御提案を差し上げております。
御覧いただいておりますように,甲案は,建物もまた独立の管理命令の対象にしようという発想でありまして,ニックネームを与えますと,建物独立型とでもいうべきものであります。それに対しまして,乙案は,所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の上に,所有者又はその所在が不明な建物が存在する場合でありまして,これもニックネームを与えますと,所有者不明土地前提型とでもいうべきものであります。丙案は,所有者不明土地管理命令の対象とされる土地の上に,土地の所有者と同じ者が所有しているとおぼしき建物が存在する場合の,管理命令の可能性を考えようとするものでありまして,土地建物一体型とでもいうべきものでございます。これらが考えられますところ,どのような方向で進むことがよいかということについて,委員,幹事から御意見を承りたいと望みます。
続きまして,同じ部会資料の2といたしまして,4ページになりますけれども,建物の管理をするということになった場合に,その建物の敷地利用権の管理の在り方について,やはり甲案,乙案,丙案というものをお示ししておりまして,甲案は,当然に敷地利用権たる賃借権などが管理の対象になるというものであるのに対して,乙案は,必要があると認めるときは,申立てにより管理の対象にするというものであり,丙案は,権利者を知ることができず,又はその所在を知ることができない土地を問題として,それについて,丙案でお示ししているような要件,手続の下で,土地の賃借権等についての管理を考えようとするものであります。これも,案を分けてお示ししておりますから,委員,幹事からの御意見をくださるようにお願いいたします。
この部会資料は,6ページのところで,3といたしまして,無権原で建てられている建物の敷地への立入り等に関しては,規律を置かないという提案を差し上げております。
続きまして,最後になりますが,4として,区分所有に係る専有部分,共用部分については,このたびは,仮に所有者不明建物管理制度を設けるとしても,その適用の対象から除外するという方向を提案しているところでございます。
御案内した,取り分け1の点と2の点を中心に,御意見を仰せくださるようにお願いいたします。
それでは,御随意に御発言ください。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 部会資料44,所有者不明建物管理制度について,日弁連ワーキンググループでの議論を紹介します。
元々日弁連は,中間試案に対する意見書では,この論点について,所有者不明土地管理命令の対象となった土地上に所有者不明建物がある場合に限って,管理命令を発令できるという丙案に賛成でした。現在は,所有者不明土地問題に対応する限りでよいとして,丙案に賛成という意見もありますが,甲案に賛成するのが多数意見となっています。
その理由としては,土地と建物の所有者が異なっていて,かつ,建物の管理を要する場合がある,具体的には,土地所有者が建物に余り関心を持っておらず,物権的請求権を行使,あるいは賃貸借契約を解除して明渡しというようなことをしないために,建物が適切に管理されずに放置されているという状況がある,あるいは,そのような状況に陥る危険性が高い建物がある。このようなケースに対応できる制度を創設することが有益であり,甲案に賛成するという意見が,多数となっています。
ただし,甲案を創設する場合,部会資料にも書かれていますが,所有者不明建物管理制度は,所有者不明土地管理制度よりも,管理人の行為の裁量の幅といいますか,業務の幅が広いということになろうかと思います。建物の修繕等の保存行為を行うこともあれば,敷地権と一緒に建物を売却することもあれば,あるいは,ケースによっては,建物を取り壊すという判断をしなければならない場合もあります。したがって,部会資料の補足説明にも問題意識が書かれていますが,どのような要件の下で,あるいは,どのような事情があれば建物を売却するという判断をすべきなのか,あるいは,建物を取り壊すという判断をすべきなのか,この辺りをもう少し細かく議論した方がよいと思います。
それから,甲案で対象となる事案にはいろいろなパターンがあるのですが,中でも管理人にとって難しいと思われるのが,土地と建物の所有者が異なっていて,いずれも所有者不明状態である場合です。このような場合でも,甲案では,所有者不明土地管理人と所有者不明建物管理人を選任することができるわけですが,土地所有者と建物所有者とで利害相反が生じ得ると思われます。ケースによって,たとえば,管理人は土地・建物いずれについても保存行為をすればよいという事案では,必ずしも利害相反にならず,同一人物が土地・建物の管理を行えるケースがあるのかもしれません。ただし,建物を取り壊して土地を更地にするであるとか,あるいは敷地権があることを前提に,建物を敷地権とともに売却するといった場合には,土地所有者と建物所有者とで利害が相反すると思われますので,このような場合には,同一人物を管理人に選任することができないということになるのかとか,そういったことを,もう少し議論した方がよいと思います。
それから,部会資料4ページの2については,1で甲案を採るのであれば,甲案に賛成というのが多数意見でした。乙案と丙案は,迂遠だというのがその理由です。
3と4については,本文に賛成します。
○山野目部会長 弁護士会の御意見をお取りまとめいただき,ありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
この建物の管理命令に関する甲,乙,丙案のうちどれがいいか,ということにつきましては,今回新たに出していただいた乙案なども,従来の案に比べればかなりフレキシブルになっているように感じられるのですが,事業者の中からは,甲案を支持する要望,独立して建物だけ管理できるようにしてほしいという要望が依然として強く出ているという状況です。
理由につきましては,先ほど正に蓑毛幹事がおっしゃられたとおりで,土地の所有者に関心がないために土地上の所有者不明建物が放置されている場合が現にある,ということによるニーズはかなり強いのかなと思っております。ただ,その場合,やはりどうしても,建物の敷地の利用権が設定されていない場合にどうするのか,今回の提案では,例えば,3で,建物が無権限に建てられている場合に,管理人がその建物の敷地に立ち入って使用することができるようにするための特別の規律は設けないというふうな方針になっておりまして,この理屈自体はやむを得ないかなと思えるところがある一方で,では,そうなってしまうと,建物管理人を独立して選任したところでどうなるのかという懸念は出てくるところでございます。
前回の部会で,部会資料39で出ておりました,いわゆる管理不全土地に関する制度との関係で申し上げますと,例えば,実際にこの建物管理が問題になる場面の多くは,本当に土地上の建物が非常に危険な状態であると。だけど,土地の所有者は,分かってはいるんだけれども何もしてくれないというときであるわけでして,その場合,管理不全土地管理人による管理を命じることもできるはずです。したがって,これを所有者不明建物管理という制度でやるのか,あるいは,管理不全土地の管理の制度を使い,そこでさらに,その中で,危険な建物が建っている土地なので,ということで管理人の権限でその建物を管理したり,場合によっては除去したりすることによって防ぐというアプローチを採るのか,これは何かいずれのやり方もあるような気はしておりますので,恐らく部会資料39にも書いていただいていたとは思いますが,ちょっとその辺の制度の整理の中で,何がベストかというのを検討していただくのがいいのかなとは思っておるところです。
以上を踏まえ,今回の提案に関して申し上げるとすれば,建物管理制度を独立して設けていただきたいというニーズがある一方で,例えば,甲案と乙案というのが全く両立しないものなのかというとそうではなく,例えば,所有者不明土地管理制度の中で,土地の管理人が建物も処分できるようにするというのを設けつつ,場合によっては,土地の所有者が不明ではないときも所有者不明建物の管理や処分ができるようにする,そういった何かフレキシブルなやり方の方が,むしろ実態には沿うのではないかというところもあったりするようには思います。
ですので,一応甲案を望むニーズがあるということは申し上げつつ,建物だけ独立して何かやる,ということになると,土地との関係でどこまでできるのかという問題がありますので,ちょっとそこをうまく,管理不全土地の管理制度でやるのか,あるいは所有者不明土地,あるいは所有者不明建物の管理制度でやるのかというところを,トータルとして御検討いただければなというところを申し上げたいと思います。
○今川委員 我々も,1の1のところですが,結論からいうと,甲案に賛成です。
元々建物について,利害関係人が申立てをするという場合は,建物の取壊しをしなければならない場合が相当数あるだろうと。そうすると,建物の管理人が選任されて,その管理人が建物を取り壊すというのはどうなのか,疑義が生じるということで,管理人を置くことに消極だったのですが,管理人による建物の取壊しも可能であるという考え方も示されましたので,であるならば,建物管理人制度があってもよいだろうと考えています。
そして,乙案,丙案は,建物の管理人は置かずに,必要な場合は土地管理人が建物を管理するという仕組みであって,土地管理人の選任が前提となっていますので,甲案は,場合によっては建物のみの管理人を選任したり,土地と建物双方に管理人を置いたりという,選択の幅が広くなると思われるので,甲案がよいのではないかという意見が,我々の中では多いです。
補足説明の3の建物の取壊しというところの3ページの第2段落の中頃に,建物の取壊しが予定される場合には,それに要する費用などを事前に申立人に予納させる必要があると考えられるし,この予納金が納付されない場合には取壊しをすることができないので,管理命令は取り消される,又は却下されることが想定される,と説明されているので,この説明からしても,元々取壊しを予定して管理人を選任する,そういう選任方法もあり得るということなのだろうと理解しています。
質問ですが,管理人が選任された後,事後的に取壊しが必要となる場合もあると思うのですが,そういう場合の一番の問題は費用だと思うんですが,そういう場合は,予納金の追納というか,追加というか,それを求めるというようなことになるのでしょうか,というのが質問です。
それから,2の賃借権等の権利についてですが,これも,1で甲案を採ることを前提としての三つの案ですけれども,これも甲案でいいのではないかという意見が多いです。この乙案,丙案が,逆にどのような場合にこのような制度が必要なのかが,ちょっと見えてこないという意見が多いです。特に丙案なんかは,土地の管理人,それから賃借権等の管理人,建物の管理人と,理屈上,3人の管理人が選任されることもあり得る。そういう場合というのはどのような事例なのか,どんな場合に必要なのかなというのが,ちょっと分からないという意見が多かったです。
あとは,特に意見はありません。
○山野目部会長 今川委員から,数々の御意見に加えて,お尋ねが一つありました。所有者不明建物管理命令に基づいて,裁判所の許可を得て建物の取壊しをする際に,管理命令が発令された後,しばらく時間を置いてからその取壊しが話題になってきたときに,予納金の追加を求めることがあるかというお話であります。
恐らく,理論的には,管理命令がまず出されて,その上で取壊しが相当かどうかを裁判所に判断してもらって,そこ,一瞬というか,ワンタイミングというか,離れていて,それで取壊しが問題になってきて,許可が与えられたら取り壊すということになるでしょうから,そのときにもう一回,予納金が既に収められているもので十分かということを考えなければいけないという御議論は,ごもっともなことであろうと感じます。
事務当局において運用のイメージがあれば,お話しください。
○宮﨑関係官 御指摘のように,事後的に取壊しが必要となるような場合で,費用が足りないような場合もあると思います。そういった場合は,追納してもらうということもあり得るものかなと考えております。
○山野目部会長 ありていに言うと,権限の面では裁判所の許可,お金の面では予納金の追加,それらがなければ取壊しができないということは,ある意味では当たり前の常識的な帰結ですけれども,そのようなことだろうと考えます。
引き続きいかがでしょうか。
甲,乙,丙という三つの案をお示ししているところについて,御発言を頂いた3人の委員からそれぞれお話を頂いております。山田委員,どうぞ。
○山田委員 ありがとうございます。
甲,乙,丙,どれがいいかについては,余りはっきりした意見を持っていないのですが,前提について少し分からないところがありますので,質問をさせていただきます。
直前まで検討していた所有者不明土地管理制度と所有者不明建物管理制度との関係です。
土地上に建物があって,どちらも所有者が不明の場合,所有者不明土地管理制度の方は,保存行為などをまずすることができ,しかし,それを超える場合には,更に裁判所の許可を得て,例えば,売却ということも可能であると,そのように理解しました。それに対して,建物管理制度の方は,資料43の土地の5ページのイに対応する提案がありません。そして,補足説明を見ても,取壊しの話が中心になっているようであります。そうすると,所有者不明の土地と,その上に所有者不明の建物があり,この制度を使おうとしたときに,土地と建物を一体として第三者に売却するということについては,どう考えられるのだろうかというところが,疑問の中心です。
一応理解したところに基づくと,そのときには,建物を取り壊してから土地を売却すればいいのかもしれないなと思うのですが,しかし,それが適切な場合も多かろうと思いますけれども,土地,建物を一体として,この所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度を使って売却するということも,できてもよいのではないかなと考えております。両者の関係というんでしょうか,今申し上げたような例について,どういうふうに使えるのか,あるいは使えないのか,御説明を頂ければ幸いです。
○山野目部会長 山田委員,ありがとうございました。
ただいま,事務当局から,弁解というか説明を差し上げますが,どのような弁解があるかというと,おおむね次のようなことです。つまり,所有者不明建物管理制度については,本日甲案,乙案,丙案をお示しして,これを委員,幹事の御意見を承って,大きな方向が定まった段階で,所有者不明土地管理制度における部会資料43,5ページ以下のイ以下の細目に当たる規律の提案を,次の機会に差し上げようと考えておった次第でありますから,当然山田委員が既に御発言の中で見抜いておられるような,細目の整備がされていくであろうと感じられるところでありまして,そのようなお話を事務当局の方からお願いいたします。
○宮﨑関係官 今,山野目部会長からお話しいただいたように,ここで大きな方向性を決めた上でとは思っておりましたけれども,これは中間試案の中でも記載していたところではあるんですが,基本的には,所有者不明土地管理制度におけるゴシックのイ以下の権限などの規定と同じようなものを今回の建物管理制度の管理人についても置くということを考えてございました。
○山野目部会長 そうしますと,山田委員のお尋ねを受け止めて,ただいま事務当局がお話ししたことの趣旨を繰り返しますと,土地も建物も所有者又はその所在が不明であるときに,土地とその上の建物を,どちらもそのままの状態で一体として裁判所の許可を得て売却をすることもできますし,同じ局面について,裁判所の許可を得て建物を壊して,いわゆる更地として土地について裁判所の権限外許可の裁判を得て売却するということも可能であるという趣旨の御案内を差し上げました。
山田委員におかれて,お続けになることがあれば,お話をください。
○山田委員 ありません。大変よく分かりました,ありがとうございます。
配られた資料を見ると,今の御説明は書かれていたのかもしれません。言及があったのかもしれません。大変失礼いたしました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
山田委員の御心配はごもっとものことですから,作業を続けてまいることにいたします。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○國吉委員 所有者不明のこの建物については,やはり甲案がいいのではないかと思っております。
そもそも所有者が不明であるということ,土地上に建物があって,土地の所有者が不明であると同時に,建物の所有者が不明であるというときに,土地,建物が同一の所有者であるということを,そもそもそれを認定できるのかどうかというのが第一だと思います。建物についても,やはり建物管理人,それから土地の管理人と,別個でやはり選任されるということを,その土地の処分,それから建物の処分についても,やはりそれがいいのではないかと思っております。
あと,この建物について,補足説明の4番,未登記建物についてという記載がございます。これについては,そもそもその所有者が不明である建物についての,いわゆる表示に関する登記等は,これから公示方法について引き続き検討いただくということですけれども,やはり建物の認定の部分については非常に難しい。そもそも所有者が不明であるので,例えば,建築のときの経緯であるとか諸々のところが,当然ながら不明ということになろうかと思いますけれども,そういったところも含めて,この未登記建物についての公示方法については,引き続き検討をお願いしたいと思っています。
○山野目部会長 國吉委員から頂いた,前段の甲案の支持の御意見の御表明を承りました。また,後段で,未登記建物について,引き続き検討せよという御注意も承りました。未登記建物については,引き続き土地家屋調査士会の御意見なども伺いながら,検討を深めてまいるということにいたします。
御相談は,常に表題登記をしないといけないかという問題が,やや気になっておりまして,所有者不明建物管理命令が発令されると,一般的な扱いとしては,裁判所書記官が管理命令の登記を嘱託することになりますが,そのときに,表題登記がないと,現在,処分の制限の登記についてされているような,前提となる表題登記から起こさなくてはいけなくて,土地家屋調査士の先生方に建物図面を作ってくださいとかいうお話になりますが,しかし,これは事案によりますけれども,取り壊すことがほぼ,その解決しかないであろうと思われるような事案で,わざわざそれをして,直ちに取壊しになって,建物の滅失の登記をするというなりゆきは,何だか社会的な資源の使い方としていかがなものであろうということも感じます。そのような問題を見抜いて,今,問題提起をしていただいたと思いますし,引き続き御相談をしながら悩んでまいりたいと考えます。ありがとうございます。
吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。
私も甲案に賛成をいたします。
ほかの先生方がおっしゃったように,適用範囲が広いということ,それから,利用の仕方が分かりやすいであろうという単純な理由ですが,その意味で甲案がいいのではないかと思います。
また,甲案を採るか,乙,丙を採るかというのは,そうした仕組み上の問題であるとともに,建物の問題を土地の問題の延長線上として位置付けるのか,あるいは建物は建物,土地は土地と考えるのか,といった問題にもつながるかと思います。日本の場合,登記制度は土地と建物と別々で,所有者も別の可能性があるわけですので,どちらかといえば,これは土地と建物と整理して仕組みを作ることが分かりやすいのではないかと思います。
そして,資料44の2ページの2に,制度の活用が想定される場面についてという部分がございますが,この所有者不明建物管理制度が利用される範囲というのは,実はかなり広いのではないかと期待しております。今回のこの建物管理制度と,それから資料43の所有者不明土地管理制度の特徴は,土地や建物にスポット的に運用ができるということに加えて,個人と法人の両方に適用できることだと思います。地域では,個人が持っている土地や建物が不明化するという問題とともに,法人が倒産を契機に,その所有していた事務所や工場の所有権が曖昧になって手が付けられないという事象もあります。そうした法人の倒産を契機とする所有者不明化に対応する意味でも,こうした管理制度は,スポット的に土地や建物,そして,所有者が個人であれ法人であれ使える可能性があるということで,非常に重要なものではないかと思います。
○山野目部会長 吉原委員におかれましては,法人の方面への注意喚起をしてくださいまして,ありがとうございました。
法人といえば,もちろん会社など,営利法人もございますけれども,あわせて,現在,地域においてちらほら目立ってきている点は,無住のお寺,住職がいないお寺とか,誰もいなくなっている神社とか,祠(ほこら)みたいなものがあって,神様,仏様が関わっていることから,うっかり手が出せないような側面がありますけれども,まちづくりとの関係で困ると思わせるような局面も増えてきています。
あわせて,吉原委員から問題提起を頂いた機会に,吉原委員にもお願いしておくとすると,本日,現段階で多くの皆様方から支持を頂いている甲案で制度整備を進める場合には,ほかの案でもそうですけれども,取り分け甲案の場合において,空き家等対策の推進に関する特別措置法の見直しとの関係をよく考えなければいけない度合いが大きくなってまいります。国土交通省の施策との関係でも,甲案で進んだときのここでの民事法制上の制度整備とあちらとの連携などについても,またいろいろ御意見をお寄せくだされば有り難いと望みます。
佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
費用の負担のことについて,反対とかっていうことでは全くないんですけれども,こういう場合どうなんだろうかということを思ったことがありまして,それを申し上げたいと思います。
土地の上に建物がある。その建物は除却せざるを得ない。その場合,除却費用は誰が持つんですかと。それは,当然分かっているならば,最終的には建物所有者であると。しかし,それが分からないということも,よくあると思うのですね。そうすると,予納金から出すということになり,結局は,請求者が実質的には負担するということになると思うんですね。
それはそれで当然だと思うんですけれども,その建物が除却された結果,土地の方は価値が上がる場合がありますよね。この土地についても,仮にの例ですけれども,その後,権利関係も整理されたしということで,比較的よい値段で売ることもできて,売れましたということになったといたしますと,恐らく今,構想されている1の甲案では,土地については土地で土地の管理人を選び,予納金を誰かが納めて土地の管理をやり,建物の方は建物の方で誰かが予納金を納めて管理人を選んでもらう。そして,土地の管理人と建物の管理人が,場合によっては同じ人ということもあるかも知れませんが,それぞれが自分の仕事をして,第三者の手に結局更地が渡りましたというときに,土地の方については,恐らく予納金は実質的負担としては残らないのに対し,建物の方は,何も理屈を用意しないと,予納金を取られ損というか,取られて,はい,終わりですということになりそうだと思うんですね。
どうすれば解決できるのかはよく分かりませんけれども,何かうまい調整の仕組みが,法的なのかどうかも分かりませんけれども,できた方が,全体の処理がうまくいくこともあり得るのではないかなと思いました。
○山野目部会長 佐久間幹事から問題提起を頂きまして,ありがとうございました。
今後の検討を進める上で,事務当局において参考にするために,佐久間幹事にお尋ねを併せて差し上げたいと考えます。
佐久間幹事から,あまり気づかれていない重要な問題提起を頂きました。委員,幹事の皆さんも,今御覧いただいたとおり,一言で申せば,土地を更地にするということについてフリーライドをする土地所有者がいると,それを許してよいかという,その問題提起をしていただいたものでありまして,それは,何らかの解決があてがわれなければいけないと考えますが,想定される方向としては,これからここで私たちが考えている規律整備の中に,何かルールを明文で置くということが一方にありますし,もう一方では,そこについては,既存の不当利得であるとか事務管理であるとか,そういう規定ないし法理の一般適用に委ねて解決を見定めていくということになるということも考えられるでしょうし,現時点で,それを決め切るような御所見をお願いするわけにはいきませんけれども,目下のところで何か,佐久間幹事においてアイデアをお持ちでいらっしゃれば,お教えいただきたいと望みます。いかがでしょうか。
○佐久間幹事 申し訳ありません,アイデアはありません。ありませんが,不当利得も事務管理も難しいのではないかと思うんですね。ですから,もし何か調整が必要だということであれば,新たに工夫をして,そのための制度を,繰り返しになりますが,法律なのかどうか分かりません,でも,法律で決めないと駄目なのかな,設ける必要があるのではないかなと思います。
そういうふうな仕組みを用意した方が,土地を流動化させやすくなるのかなと,素人的には思いますけれども,実際そこまでしたって,そのような土地については,まあ,そうでもないよということでしたら,理屈はかなり難しいと思いますので,何も手立てをしないということもあるのかなと思っております。
○山野目部会長 よく分かりました。
今の佐久間幹事の問題提起を伺いながら,今後更に検討しなければいけないことでありますけれども,三つほど方向が考えられるところでありまして,一つは,私も佐久間幹事がおっしゃるとおり簡単ではないと考えますが,何か民法の一般法理を適用することによって処するという行き方が一つ目。二つ目は,ここで考えられている民事法制の中に,何かルールを起こすということであります。ただし,起こすといっても,上手にルールが書けるかどうかは,かなり難しい作業になるような気がいたします。3番目は,そういうことをかちっと,動きようのないルールを書き切るということではなくて,その局面の費用の分担等の手当てにつきましては,まちづくり,都市計画事業の観点から,必要なときには何かその手当てがされるという可能性をにらみながら,特に民事法制としては手立てを講じないという行き方もあるのではないかと感じます。
いずれにしても,大事な問題提起を頂きましたから,更に検討することにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○蓑毛幹事 先ほどの佐久間先生の御発言に関して,まだよく考えがまとまっていないのですが,発言させてください。先ほど佐久間先生がおっしゃった,土地の所有者も建物の所有者も不明で,土地の上に建物があってその建物を除却せざるを得ないというケースには2種類あって,その土地と建物の所有者が同一人物だということが認定できる場合と,そうではなく別人の場合があります。この二つを分けて考える必要があると思います。
まず,土地と建物の所有者が同じ場合ですが,厳密に考えると,甲案では,土地の管理人と建物の管理人は別ですので,別事件ということになるのかもしれませんが,土地所有者と建物所有者との利害相反はありませんので,土地と建物の管理人を同一人物にして事件を併合するような形にし,土地の売却代金の中から建物の除却費用を捻出するという処理も許容されるように思います。あるいは,実務的な感覚からすると,管理人が費用をかけて建物を除却することはせず,後に買受人が建物を取り壊すことを前提に,建物0円で土地建物を売却する方が現実的かもしれません。
難しいのは,土地所有者と建物所有者が別人の場合ですが,実務的な感覚からすると,土地の管理人と建物の管理人を別々に選んで,それぞれの立場で善管注意義務を負う管理人同士で話し合って,和解的解決を図ることになると思います。建物の管理人としては,建物を取り壊すべきだけれども,その費用が捻出できない。土地の管理人としては,建物管理人を相手に建物収去土地明渡請求訴訟を提起して強制執行するのでは,時間と費用が多額にかかるところ,建物管理人に建物を取り壊してもらって土地の明渡しを受ければ,土地の価値が上がって高く売れるという状況がある。そうであれば,土地の管理人と建物の管理人の双方が,それぞれ裁判所の許可を得て,和解的解決をすることによって,建物除却費用を土地の売買代金から捻出して,建物管理人が建物を取り壊した上で売却する,あるいは,土地管理人と建物管理人が売主となって,建物を取り壊さずに,建物0円で土地建物を売却する,そういったことは可能ではないかなと,漠然と思いました。
所有者不明建物管理制度を創設するに当たっては,今申し上げたようなことに対応できるような制度設計が必要なのではないでしょうか。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,ありがとうございます。
土地計画事業とかいうことのほかに,事案に接した裁判所の調整の御努力などを踏まえて,和解的な解決をするというアイデアの可能性もおっしゃっていただきました。御礼申し上げます。
ほかにいかがでしょうか。
大体,部会資料44について御意見承ったと受け止めてよろしゅうございましょうか。
それでは,この際,申し上げます。
部会資料44について審議をお願いしましたところ,本日段階で決め切るものではございませんけれども,所有者不明建物管理制度の在り方につきましては,1ページに用意している三つの案の中で,甲案を支持する複数の御意見を頂戴いたしました。次回に,この制度の検討をお願いする際には,少なくともこの甲案などを踏まえた,更なる提案を差し上げることになろうと存じます。
その際,本日の審議を顧みますと,大きく分けて三つの点,1点目は,山田委員から御指摘がありましたとおり,甲案なら甲案を踏まえての,創設しようとする規律の細密度の向上,詳細化を図った上でお諮りをするということが,当然に求められます。
2点目といたしまして,蓑毛幹事の冒頭の御発言,それから,今の御発言もそうでありますが,仮に甲案でいった場合において,土地の管理命令と建物の管理命令が別事件として起こされ,それぞれについて別の管理人が創設されるということになりますが,しかし,実質の運用として,同一人であっていけないか,いけないという理屈は当然にはないと思われるが,利益相反の問題等について注意をする必要があるという観点から,少し問題になりそうなところを洗ってみるということが必要でございます。
3点目といたしまして,佐久間幹事から問題提起を頂いたことでありまして,建物の管理に要する費用,売却も含む意味での広い意味での管理に要する費用と,土地に関し管理に要する費用との調整の側面については,少し丁寧に考えなければいけない契機があるということが分かりましたから,これについても可能な限りの議論をしていただくための整理を用意するということにいたします。
部会資料44についての審議をここまでといたします。ありがとうございました。
部会資料39をお取り上げください。部会資料39は全体として管理不全土地への対応ということを扱ってございます。
まず,委員,幹事の皆様に,「第1 管理措置請求制度」についてお諮りをいたします。
部会資料1ページにおいては,第1の1といたしまして,相隣関係の規律として,甲案として,他の土地について,そこに記されているような土砂の崩壊,汚液の漏出,悪臭の発生,工作物・竹木の倒壊などによって自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある場合に,その原因除去,予防工事を請求させることができるという案を示すとともに,乙案として,物権的請求権の行使が可能であるかどうかについて,解釈上疑義がある天災事変の場合を特に出して示すという仕方で改めて規律を整理して示しているもの,これが乙案でございますが,それを示し,併せて丙案として,これらの局面において被害を被るおそれのある土地所有者自らが,それらの措置をすることができるという仕方も考えられるのではないかということで,甲案,乙案,丙案の三つをお示ししているところでありますから,これらを見ながら,どういうふうに進むべきかということについて,委員,幹事の御意見を承りたいと考えます。
5ページに行っていただきまして,2として,現に使用されていない土地における特則を設け,ただいま1でお話ししたような権利行使に関して,取り分け甲案又は乙案で進んだ場合には,第1次的には当該他の土地の所有者に対して,それらの措置をさせるものでありますが,それに困難がある場合の土地の所有者の対応についての特例的な規律の提案をお示ししているところであります。
7ページにまいりまして,費用の問題を取り上げ,それぞれにただし書など,要件の細目をお示ししているところでありますが,一言で申し上げれば,甲案は,問題を抱えている他の土地の所有者などが費用を負担すべきであるという考え方を提示しているのに対して,乙案は,等しい割合で,権利行使をする側と,それを求められる側との間で負担を分かち合うべきではないかという考え方を基本とする提案をお示ししているところでございまして,ここも甲案と乙案とを並べてお示ししているところでありますから,どのように進むべきかということについて,やはり委員,幹事の御意見を承りたいと考えます。この範囲で,まず委員,幹事の御意見を承ります。いかがでしょうか。
○中村委員 日弁連のワーキンググループでは,様々な意見が出ました。一番広く制度構築を認めるという方向での見解では,甲案プラス丙案といいますか,全ての場合に請求権を認めるとともに,天災その他避けることのできない事変による場合には自ら除去ないし予防工事をすることができるということを明示するのがよいという考え方が一方でございました。
他方で,(注1)には物権的請求権の要件と同程度の所有権侵害が必要であることを前提とするとの記載がありますが,このことを要件として法文に書き込むべきであり,それがない限り,現時点では甲乙丙案ともに反対であるという意見もございました。また,これを法文に書き込むのはなかなか難しいだろうという理解の下,少なくとも,後に一問一答などの公定解釈といいますか,何か示される場面で,このことはきっちり書き込んでほしいという意見もございました。
天災と不可抗力による侵害がある場合に,土地所有者が自ら妨害排除ないし予防工事をすることができるとすることで,迅速に危険を除去できる仕組みを作りたいという点がこの制度の主眼であろうと思うわけですけれども,この思いは共有しているところです。
他方,丙案を採用する場合には,一定の場合に法的手続を経ることなく自力執行ができることを認めることにもなりますので,簡便・迅速に事態に対応できるという利点はある一方で,天災その他避けることのできない事変であれば私権への介入がフリーハンドになるおそれがありはしないかという懸念を覚える実務家も多かったということだと思います。現行法下では,丙案が想定しているような場合は物権的請求権を被保全権利として,恐らく断行の仮処分の決定を得て執行するということになると思われますが,申立人自らに工事をさせてほしいという態様においては,被保全権利と保全の必要性をかなりしっかり疎明しないと決定が出ないわけですので,何かそれにもう少し近づけるような要件設定ができないかというようなことなどを含め,引き続き検討することには賛成です。
第2項の,「現に使用されていない土地における特則」に関してですけれども,先ほどの1項に反対する意見では2項にも反対するということなのですが,甲案に賛成する見解は2項に賛成という意見と,あと①のaの通知に対する異議の対象が,部会資料では工事をすべき旨に対する異議のように読めるのだけれども,現に使用されていないに該当しないという異議もあり得るのではないか,この要件の認定は意外に難しいのではないかという意見も出ておりました。
3項の「費用」については,甲案賛成意見と乙案賛成意見に分かれておりました。乙案につきましては,天災その他の事変による場合であっても,元々の管理が不全であったために,その天災等に耐えられなかった,あるいは管理不全であったために被害が甚大になったというケースもあり得るところですので,このようなただし書を設けるということについても賛成しています。
それから,文言の使い方についてですけれども,第1,1項の冒頭の柱書きのところですが,「管理不全土地の所有者に対する」というふうになっているのですが,今回,管理不全土地に限らない作りになってきているかと思いますので,その辺りの文言の調整を今後お考えいただければいいのではないかという意見も出ていました。
長くなりました,以上です。
○山野目部会長 弁護士会の御意見をまとめていただきまして,ありがとうございます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
まず,管理措置請求制度の1番のところ,甲案から丙案までの案について申しますと,ここは,先ほど中村先生もおっしゃっていたような迅速な対応が必要だというところのニーズが事業者にも強く,自ら原因の除去や予防工事ができるということを明記してほしいという意見が強く出ております。したがって,今,出ている甲乙丙の案の中では,やはり丙案ということになってくるということでございまして,今回の提案の中で,例えば隣地が他の土地という表現に変わったとか,そういったところに関しては非常によい方向に,変えていただいているのではないかと思う一方で,やはり,この自分たちでできるというところは,一定の要件を課すにせよ明記していただかないと,なかなか実務上,当事者の話合いに委ねているだけではどうしても解決しないと。それで,結果的に自然災害等が起こって被害がより大きくなるというような事態もございますので,そこはやはりきちんと書き込む形にしていただけないかというところがございます。
また,2の「現に使用されていない土地における特則」に関しても,1で丙案では駄目だという話になった場合には,当然これは入れていただきたいというところでございます。補足説明に書いていただいている,正当防衛とか緊急避難として一定の管理措置が正当化される場合もあるという御指摘につきましては,これで実務を動かすことはできない,正当防衛に当たる可能性があるから大丈夫だと言われても実務は動けないという意見は,事業者の方からかなり強く出ているというところでございまして,正当防衛とか緊急避難というのは,あくまで事後的な救済法理に過ぎないのではないか,というところもございますので,やはりここも自分たちで,本当にいざとなればできるというところは明記していただきたいところでございます。
最後,3の「費用」のところですが,こちらについては,やはり甲案の方がよろしいのではないかと思っております。放置したもの勝ちにならないようにということで,原則,所有者の負担,原因を作っている土地等の所有者の負担ということにしていただいて,その一方で,様々な考慮要素を明記していただくことで,より柔軟な解決を図るという方向性に賛成したいと思っております。
乙案は,比較的基準が明確に見えるのですが,フィフティー・フィフティーで負担するか,あるいは責めに帰すべき事由のある方が負担するかということで,選択肢がまず限られてしまうという問題がございます。また,現実には,これはもう実際に災害等が起こってしまったときの話なんですが,複数の土地に起因して,例えば山から何かが崩れてきて,それが事業者の土地に流れ込んで,さらにその事業者の土地から周辺の田畑に流れ込むとか,そういう複合的な事情で複数の土地が絡むような場合に,このルールで果たして処理できるのか,関係する土地ごとに一個一個請求を立てていけばできるのかもしれませんけれども,それは迂遠な解決策のようにも思えますし、このような複合的な事象が起きたときに,処理が非常に硬直的になってしまうのではないかという懸念もあるところですので,やはり甲案のように比較的フレキシブルに事情に応じて判断ができるというような制度設計がよろしいのではないかというふうに考えておるところでございます。
以上,一通り意見を申し上げました。
○山野目部会長 各論点について御意見を頂きました。道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 補足説明のところに物権的請求権の話だというふうに書いてしまうと,物権的請求権一般のこととの関係がちょっと分かりにくくなるので,相隣関係の問題として書くというふうな説明が,特定の案についてですが,ありまして,私は,相隣関係の問題として書けば,どうして物権的請求権の一般論への跳ね返りというのがないと言えるのかというのが若干疑問だったのです。しかし,現在の民法の相隣関係の規定のところには土地相互の関係として様々なことが規定されておりますので,それの一類型であるということで,より一般的な物権的請求権の問題とは区別して考えられるんだというふうに説明するのは,まあ,あり得るのかなと思うようになりました。したがって,そのような説明はそれでいいのかなと思いました。
2番目なのですが,費用負担の問題なんですね。この管理措置請求制度等々に関しましては,恐らくこれは当該他の土地ですね,自分の土地に一定の影響を及ぼしている他の土地について,そこについて工事をするといったことなどが前提になっているのだろうと思います。それだから,本来的には当該他の土地の所有者にやらせるというのがあって,しかし,不可抗力のときはあまりにかわいそうではないかといって均分にしようとか,そういう話につながってくるのでしょうけれども,例えば私が土地を有しているとして,隣の土砂が崩壊してきたり,汚液が漏出してきたりすると,私は自分の土地にはきちんと土留めというか,留める作業等をすると思うんですね。
つまり,侵害があると自分の土地にも一定の工事をするはずなのです。長々と漏出など続いていては嫌ですから。しかし,それは自分の土地についての工事であり,この管理措置請求の中身ではないから,自分の土地の工事をする人が費用を負担し,そのあげくに,隣の土地の工事について場合によっては折半というのは,僕はバランスがおかしいのではないかという気がいたします。どこかで勘違いがあるのかもしれませんので,2番目についてはお教えいただければと思います。
○山野目部会長 道垣内委員から御意見を頂いて,最後に勘違いがあるかもしれないのでお教えを,とおっしゃっていただきましたが,私が伺っている印象では勘違いはないように感じますが,何か大谷幹事の方からございますか。
○大谷幹事 今,道垣内委員の御指摘のように,自分の土地で防御措置をするということもあり得るのだろう。その場合の費用を,今でもそういうことは多分されていて,相手方に請求するということはされていないのかなという気はいたしますけれども,それが絶対にできないのかというのは,もう少しよく考えてみたいと思います。
○山野目部会長 道垣内委員,お続けになることはおありでしょうか。
○道垣内委員 いえ,請求できると書けというつもりはないのです。私は,どちらかといえば,甲案といいますか,当該他の土地の所有者だろうと思っていて,それでバランスがとれるのだろうと思います。片方の土地の工事代金額だけが折半というのは,何かどうもバランスが崩れているのかなという気がするということでございます。
○山野目部会長 乙案についての問題点の御指摘はしかと承りました。ありがとうございます。
○潮見委員 潮見です。
第1の1のところについてのみ,意見を申し上げます。
言いたいことは二つありまして,「権利の内容について」と挙がっていることについてです。既に弁護士会,あるいは藤野委員の御発言にもございましたが,この内容を忍容請求というふうに考えるのか,相手方に対する行為請求というように考えるのかという,これが一つの問題です。それから,もう一つは物権的請求権との関係です。
前者の方ですけれども,藤野委員がおっしゃられたことも分かるのですが,忍容請求権のような考え方を採ったら,弁護士会の意見の一部にもございましたように,他人の所有権,あるいは所有権限に対する介入という度合いがあまりにも強過ぎるという感じがいたします。要するに,物を所有している人が,その所有物に対して持っている権限を,自分が代わって行使していろいろなことをやるということがメインになってくるのが忍容請求権の基本ですから,それはちょっとあまりにも強過ぎるかなと思います。弁護士会の御意見の一部にもございましたように,仮処分という方法もありますし,そのようなことを考えると,丙案というものは厳しいかなという感じがいたします。その意味では,相手方に対する行為請求,除去請求,あるいは予防工事請求という形で,実体法上の請求権というものは立てた方がいいのではないかという意見です。
それからもう一つは,物権的請求権との関係で,甲案を採るか,あるいは乙案,丙案のような考え方を採るかというところです。不可抗力を原因とする管理不全のような場合に,物権的請求権,妨害排除,あるいは妨害予防請求権が使えるかどうか分からないとあります。しかし,土砂崩壊なんていうことがあるときに,それを放っておくことができないから,この管理措置請求のような形で新しい制度を設けて,それに対応するというように,つまり物権的請求権が使えない,あるいは使えるかどうか不安な場合に,こうした請求権を立てるという形で考えていくんだったら乙案とか丙案,まあ,乙案だと思いますけれども,土砂の崩壊とか,土地のその他の理由によって所有権が危険にさらされているという天災地変,不可抗力の場合に限定してよいのか。むしろ,土地の所有権自体が危険にさらされているときに,その除去を求める権利というものを,当該危険にさらされている土地の所有者に認めるべきであるということで考えるのであれば,乙案のような限定というものは要らないのではないかという感じがいたします。後ろの方にある,費用負担面で調整がうまくできるようなルールが作られて,しかも,その妨害状態というものがどんな場合がということに関して,これは甲案も乙案もそうですけれども,ある程度明確な形で列挙ができるのであれば,乙案のような天災地変に限定する必要はない,むしろ危険にさらされている土地所有者の権利保護という観点から,管理不全土地への介入ということを一般的に認めても構わないのではないかという感じがいたします。
ついでに,余計なことですけれども,先ほど弁護士会の方々の御意見の中で,(注1)に書いている所有権侵害が必要であるということを明記するうんぬんという意見があったようですけれども,甲案の書き方,あるいは乙案の書き方でも,物権的請求権において言われている土地所有権に対する妨害排除請求等々が問題になっている場面での所有権侵害というものと同じものであるというのは,直感的な私の印象ですけれども,不法行為を研究している人間からすると,この中に十分に含意されているというふうにも感じるところです。
最後は感想です。
○山野目部会長 大きく2点にわたる御意見,更に若干の御指摘を頂きありがとうございました。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
今,手を挙げた後に潮見先生がお話をなさって,ほとんど同じだなと思い,手を挙げる必要はなかったかと考えてもいるのですが,少しだけ違うというか,付け加えることもあるかとも思いますので,申し上げさせていただきます。
まず,第1の1について,私は甲案がいいと思っております。物権的請求権との関係で,不可抗力等の場合に物権的請求権には慎重な意見があるというふうに補足説明では書いてあるわけですけれども,物権的請求権の行使自体についてできないという見解は本当にあるのでしょうか。費用負担の面で考慮すべきであるという意見はよく聞くところですけれども,先ほど潮見先生がおっしゃったところだと思うのですが,物権的請求権自体を行使できないというのは余り聞いたことがないように思います。
例えば土地所有者というのは通常の場合,占有者でもあるわけですよね。そうだとすると,占有保持や占有保全の訴えができるわけで,占有保持や占有保全の訴えについては,これは明文があって,基本的に何ら留保はないということになっています。そのことからしても,物権的請求権について明文の規定がないのはもちろんそうですけれども,物権的請求権の場合に,占有者に認められる請求が,所有者等の物権者には認められないという考え方は,恐らくないように思います。結局,繰り返しですけれども,潮見先生がおっしゃったとおりのことではないかと思っています。
費用負担についても,確かに不可抗力の場合には,それで全面的にいいのかということについての疑義はないわけではありませんけれども,折半こそが正しいというふうな積極的な考え方も必ずしも言われていないと思いますので,費用負担もやはり原則としては相手方といいますか,侵害者の方がすべきであろうと。先ほど道垣内先生がおっしゃったことも含めて,そうであろうと思います。
その上で,5ページにございますように,2の甲案を採った場合ですけれども,特則が要らないのかということについて,特則を設けることを比較的積極的に考えた方がいいのではないかということを最後に申し上げたいと思います。
1の場合は管理不全土地一般の問題であるのに対し,2の場合には妨害している方の土地の所有者が,土地の管理に結局関与していないという場合ですので,この場合については,先ほど来出ておりますけれども,慎重な手続を設けた上で,忍容請求が認められてもよいのではないかと。どうしてもそうすべきだとまでは言いませんが,そういうことがあってもいいのではないかと思います。それはどうしてかと申しますと,後で管管理不全土地の管理命令の話が出てまいりまして,そこでの説明で,管理不全土地の管理命令について,管理者が置かれたんだけれども,その管理者の管理を例えば土地所有者が妨害するというときに,実効的な排除の方法が必ずしもないのではないかというふうなことが,確か書かれていたと思うのですね。そういったときに,妨害されている側の土地の所有者の権利として,そのような妨害に対して有効に対処するために,この5ページの2の制度を使うということはあり得ると思います。また,管理されていない土地について,その管理不全状態が継続している場合は管理者を置くということは有効な手段だと思いますけれども,一回的,あるいは比較的短期で措置が終わるという場合についてまで,管理者をどうしても置けというのは過剰かなとも思います。
最後に,細かいことなんですが,もしそのような形で管理者の制度と並べて考えるのだとすると,管理者の方では,前回までは「現に管理されていない」というふうな文言だったのが「現に」というものを取られたところ,この5ページの2のところでは,「現に使用されていない」という前回のままの文言になっております。仮にの話ですけれども,この2の提案がこのまま残っていくとしたならば,この文言でいいのかということを考える必要があるのではないかと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
潮見委員のお話と全く重なっているということではなくて,やはり佐久間幹事からも有益な御意見を頂きました。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
まず,部会資料39の第1の1の甲・乙・丙案ですけれども,やはりオルタナティブというよりは,かなり性質というか,観点の違うものがあるように思います。特に丙案については,現行民法215条の自然流水が低地で閉塞したときに,高地所有者は疎通工事権ができるという規定の要件を少し広げたものとしての位置付けであるというふうにも拝見しました。そうしますと,仮に丙案をとる場合は,215条との関係をどういうふうに理解するか,215条を吸収するような形になるのか,あるいはそれと併存していくということなのかという点は,確認したいと思います。丙案については,潮見委員が御指摘されましたように,やはり他人の土地に立ち入って工事をするという点で,所有権に対する制約が非常に強くなるので,そこはかなり要件を絞っていく必要があると考えられます。その意味でも,215条との関係を意識しつつ検討していく必要があると思います。
それから,費用負担については,行為請求の場合には原則相手方の費用で,忍容請求をして自分がやるときには自分の費用でというのが基本であるというふうに私も思います。しかし,その上で,とりわけ不可抗力による場合で,双方ともに利益を受けるにもかかわらず,相手方だけが負担する,あるいは自分だけが負担するということになると,どうにも不公平というときに,費用の半分ないし一部の分担を求めるという余地はあってもよいと思いました。
その点については,215条は自らの費用でと定めていますので,それについては費用の一部を相手方に求める余地を認める形で調整を図る必要があると思われます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
既に存在している規定である215条との関係についても注意をしながら検討を進めることにいたします。
安高関係官,どうぞ。
○安髙関係官 ありがとうございます。林野庁でございます。
初めに,この一連の制度の見直しの検討の目的,位置付けについて,改めて確認させていただきたいと思います。
今般の制度見直しの検討というのは二つございまして,所有者不明土地の発生抑制と所有者不明となった土地の適切な管理の確保の二つを目的として検討されており,この管理措置請求制度については,所有者不明などによって管理不全となった土地への対応策として検討されていると理解してございます。その上で,この1ページにございます,1の「権利の内容」について大きく2点,述べさせていただきたいと思います。
まず1点目でございますが,この3案並べられている甲乙丙でございますが,3案いずれも所有者不明などにより管理不全となった土地を対象とした制度ということだと思うのですけれども,一見してそれが判然としない規律になっているということでございます。「損害が及び,又は及ぶおそれがある場合」というのが,相当の所有権侵害が既に発生している場合,あるいは、蓋然性が高い場合であって,このような状態になることをもって管理不全ということであって,それが所有者不明であることが起因しているということなのかもしれませんが,多くの一般市民は,ここに御参集の委員,幹事の皆様のように民法に深い御知見があるわけでございません。なので,今の甲乙丙の3案,いずれも見ただけでは,管理不全であるかということに関係なく,近隣の者が損害のおそれがあるということで,いきなり管理措置を講じるように求めることができる,又は求められてしまう制度になってしまうのではないかと。言い方は悪いんですけれども,ちょっと管理措置請求してみちゃおうかなとか,管理措置請求やったら儲けものみたいな,そんなような形で安直に請求が求められたりしてしまうといったようなことを懸念しているところでございます。このようなことから,中村委員からも御指摘がございましたが,管理不全土地の権利の対象というのが明確に分かるような規律とする必要があるのではないかと考えてございます。
もう一つ,「権利の内容」の2点目でございますが,乙丙の案のように,「天災その他避けることのできない事変」という文言を明記した規律を置くということについては,極めて重大な問題があると林野庁としては考えているところでございます。現行民法の解釈上,疑義のある不可抗力による侵害の場合について,新たに規律を設けるという考え方につきましては,何十年も専門家の皆様方の間で判断が分かれていてグレーになっていたところを,今回,白黒を付けるということで,民法の立てつけとしてはすっきりとするのかもしれませんけれども,不可抗力による侵害の場合こそ,これまでどおりケース・バイ・ケースで判断していく必要があるのではないかと考えているというところでございます。また,そもそもなぜ物権的請求権について規律を明確化していないにも関わらず,今回,不可抗力による侵害の場合についてのみ新たな規律を明文化されるのかということが,国民目線からしますとなかなか理解が及ばないと考えているところでございます。
これから申し上げます話は,特に森林に限った話になりますが,国土の7割を占める森林を所掌している林野庁としての懸念を皆様に共有させていただければと思います。
気候や地形といったような我が国の状況から,昔から台風ですとか豪雨,地震といった災害が多発しておりまして,このような自然環境下におかれましては,木が倒れたりとか土砂が流れ出るというのは不可抗力ということでございます。重力がある限り,上から下に落ちるものでございますので当然と言えば当然なんですが,こうした我が国の状況下では,従来より治山,治水対策といったことで,行政が公的に復旧,予防を行ってまいりました。民民の関係においても,関係者間での解決が図られているという実情がございます。またそのような中で,天災などの不可抗力であっても,一方に責任を問いましょうというような民民関係の法律として,規律として,新たに規定をすることになりますと,森林所有者にとりましては,もはや森林を所有していること自体がリスクということで,所有者不明森林化ですとか,そもそも森林の所有権を放棄しようというふうに,所有権の放棄も助長することになるのではないかということで,国土の7割を占める森林の今後の管理ですとか利用の在り方について,極めて大きな影響が発生することを懸念してございます。
このほかにも,森林において事業者などが道路ですとか送電線といったインフラの整備をされるといった場合についても,森林所有者側としては,この管理措置請求制度を恐れてインフラ整備に非協力的になってしまったりであるとか,また,インフラ整備をするのであれば,その隣接する一定の範囲の森林も買い取って,事業者の方で管理をしてくださいといったことを求めるといったような行動も想定され,これは地域の維持・発展を進めていくという上でも負の影響が発生するのではないかと懸念しているところでございます。なので,「天災その他避けることのできない事変」ということを対象とした規律としますことについては,森林を所有するということへの責務の程度が従来よりも本当に大転換されるようなことだと思っておりまして,実社会,諸政策への影響を考慮すると,なかなかあり得ないと考えてございます。
こういった社会のニーズとして,また課題として,こういった不可抗力の場合に措置を請求できるかということではなくて,所有者不明の土地が存在していることによって,必要な措置を適時に講じることができないところが社会の問題点としてあると考えているというところでございます。
こういったことを踏まえると,今,提示されてございます管理措置請求制度の内容にこだわることなく,所有者が不明な場合に,所有者不明土地によって損害を受ける,所有者不明土地で損害を受ける方が速やかに原因を除去できる規律とするということで,事足りるのではないかと考えてございます。
繰り返しになりますが,圧倒的多数の市民の皆様方は,委員,幹事の皆様のように民法などに深い知見があるわけではございませんので,こんなことを裁判で,そんな無茶なことは言いませんよ,というふうにおっしゃっていただいても,そもそもいつ訴えられるか分からないとか,どこまで管理をしていれば訴えられないのかといったことがなかなか分からない状況でございますので,そういったことが不安であると,恐怖であるということも,是非委員,幹事の皆様方にも御理解を頂きたいというふうに申し上げます。
あと費用の負担,本文7ページからの費用の負担の在り方でございますが,この規律を置くこと自体,混乱,トラブルが起きるのではないかと考えてございます。特に森林の場合は,所有者が森林の管理を適切に行っていたとしても,その隣接地の利用形態が森林から変わってしまうといったことで,管理措置を請求されてしまうというケースもあると考えてございます。例えば,これは前の部会で申し上げたのですが,Aさんが企業に森林を売却しましたと。その企業が森林を開発してしまったといった場合に,そのAさんの隣にいたBさんの森林というのは,今までであればAさんの森林があったので,枝を伸ばさなかったり,倒れるということもなかったのですが,伐り開かれたことで風通しがよくなって,日差しもよくなって枝を伸ばすとか,倒れやすくなるといったことで,企業側の土地に損害を及ぼすということもあろうと思います。こういった場合,原因としては企業側にも一部あると言えます。こういったことから,費用に関する負担の規律を置くべきではないと考えていまして,もし規律を置くのであれば,費用を森林所有者が全額負担するということを基本として,その減免を求めるために,最悪,裁判で争わなければなくなるというような規律を民法上に明文化されるというのは非常に酷であると思っていまして,そういった面からは,乙案をベースにして,等しい割合で負担をしましょうというところから,不可抗力ですとか受益の程度というものを勘案して調整することがいいということで,7ページの注釈の後段3行に記載いただいていますが,そういった規律の考え方が望ましいのではないかと考えてございます。
すみません,以上でございます。
○山野目部会長 御意見承りました。
○松尾幹事 すみません,先ほど一つ確認し忘れた点がございます。
甲案,乙案と丙案との関係については,先ほど中村委員からも,甲案と丙案は必ずしも排斥せずに併存可能であるという御意見もあったという御紹介がありました。私も,その可能性は理論的にあると思います。甲案又は乙案と,それからかなり要件を絞った丙案は,必ずしも両立不可能ではないというふうにも思います。
丙案については先ほど意見を述べましたけれども,甲案と乙案の違いについて確認したいと思います。部会資料39の3ページの下から3,4行目あたりにもありますように,乙案の趣旨は,今まで解釈上疑義があった,不可抗力の場合に限ってこういうことができますよということを示しましょうというふうに説明してあって,それは理解できます。
それを前提に1ページの乙案を読みますと,この「天災その他避けることのできない事変による他の土地における土砂の崩壊…その他の事由により,自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある場合であっても」という表現なのですが,ちょっと私の国語力の問題かもしれませんが,これは,こういう場合に限って,こういうことができるというふうに読むべきなのか,この「場合であっても」という読み方について,すみません,ちょっとここは私の誤解があるかもしれませんが,確認させていただいた上で,乙案はあくまでも不可抗力の場合に限っての規律だというふうに理解してよいかどうかという点です。
それから,それを前提に,では,甲案とどこが違うかというと,甲案は不可抗力の場合にも,行為請求を認めるというふうに読んでよろしいかどうかと,その点を確認させていただいた上で,甲案プラス要件を絞った丙案はあり得るかと思った次第です。
○山野目部会長 甲案及び乙案が提示している規範の内容について,今お尋ねがあったことについて,差し当たり部会資料はどのような意味での御案内を差し上げているかを,今,大谷幹事に説明してもらいすけれども,別に松尾幹事が国語力の問題と謙遜しておっしゃったような話ではなくて,現在の法文にも,ほかのところを見ますと,何々の場合であってもという表現とか,それから民法の法文の現代語化の前で言いますと,何々であるといえども,という表現の法文とか,あれらをめぐって多く御指摘の疑義があったことは,松尾先生もよく民法のいろいろな研究で見ておられると思いますけれども,確かにそういう問題点があると感じます。それぞれのところについて,意義を明らかにしていくという作業になるであろうと考えますから,大谷幹事の方でお話があったらお願いいたします。
○大谷幹事 まず,今の松尾幹事の御指摘ですけれども,乙案の「であっても」という書き方につきましては,これはこういう不可抗力でなければ,当然に物権的請求権は現行法でも行使できるだろうと。それで当然できるんだけれども,こういう不可抗力の場合であっても同じような請求ができるという趣旨で,このような表現をここではとっております。
もう1点,先ほど林野庁の方から,所有者不明土地問題というところから,この管理措置請求制度というものについても考えるべきではないかというような御指摘などを頂きました。資料の作成の意図を申し上げますと,これまでのこの民法・不動産登記法部会における御議論というのは,所有者不明土地のみに限ったものではなくて,ほかの分野でもそうですけれども,所有者不明土地問題を契機として現れてきた問題についての民法における対応ということを検討をしてきた部分がございます。ここの管理措置請求制度につきましても,これは中間試案の際からそうでしたけれども,管理不全土地というか,管理措置請求を受けるような土地が所有者不明土地状態でなくても使えるものとして御提案をし,パブリック・コメントに掛けたというところでございます。
林野庁の御指摘にもありましたように,森林関係者の方々からは多数の懸念の声をパブリック・コメントでも頂きましたけれども,ルールを明確化することによってかえって問題が生ずるのではないかという御指摘,それも考えとしては確かにあると。その一方で,ルールを明確化することによって紛争を予防し,解決するということにもつながると考えられますので,引き続きこの管理措置請求制度についての提案をさせていただいたというところでございます。
天災についての規律を設けるのはいかがなものかというような御指摘もありましたけれども,これも松尾幹事から御指摘がありましたように,現行の民法上も215条という天災に関する規定がある中で,こういう考え方というのもあり得るのではないかということで,今回提案をさせていただいているというところでございます。
○山野目部会長 大谷幹事の今のお話で,松尾幹事からお出しいただいたお尋ねを受け止めて申しますと,乙案は天災地変の場合も含むし,天災地変でない場合についても働くという説明をおっしゃったと聞きました。甲案の方についても松尾幹事の方からお尋ねがあって,甲案で提示している規律は天災事変,不可抗力の場合にも働くと理解してよいかというお尋ねもあったと理解しますが,そちらもそのように理解してよろしいということですか。
○大谷幹事 はい。失礼しました,そのとおりでございます。
○山野目部会長 そうすると,理解の仕方によっては甲案と乙案は論理的には同じ内容の規範を案内しているというように理解される可能性もあるということでしょうか。
○大谷幹事 そうですね。物権的請求権との関係で,どのように考えるかということでございます。
○山野目部会長 松尾幹事,お続けになることはありますか。
○松尾幹事 ありがとうございます。
そうしますと,もし甲案と乙案の違いを付けるということになると,甲案については,不可抗力の場合はまだ解釈上疑義が残ることを前提にした規律で,場合によっては,費用負担等で特別のことを考えなければいけないという余地を残す点で,何か差別化を図るというような方向でしょうか。すみません,ここも私の理解不足かもしれませんけれども。
○大谷幹事 現行法上,不可抗力で生じた危険を除去するための工事についての費用をどのように負担させるのかということが問題になる事案もあるようで,下級審の裁判例も幾つかございますけれども,その不可抗力の場面で,乙案のような規律を設けた上で,その費用の負担についてのルールを資料の3のところのような形で発動させることによって,今,解決がなかなか難しいと言われているようなケースについて対応ができるようになるのではないかという提案でございます。
○山野目部会長 松尾幹事,ひとまずよろしいですか。
○松尾幹事 はい,分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。
そうしましたら,この第1の「管理措置請求制度」について,様々な御意見をお出しいただきました。
1ページの権利の内容として,甲案,乙案,丙案として示しているところについて,取り分け乙案を提示申し上げたことについて,委員,幹事の多くから,一言で言うと評判が悪いものですが,様々な御疑問や意見を頂いたところであります。様々といっても,安髙関係官がおっしゃったことと民法の研究者の先生方がおっしゃったこととはやや性格を異にしますけれども,いずれにしても,乙案のこのような規律表現でこのままいくということについて,多くの疑義が出されたということは確かであります。
少し釈明というか,説明をしておきますと,事務当局としては,やはりパブリック・コメントなど各方面から出された様々な意見,反応に対しては,パブリック・コメント後の部会の審議において,それに応接する審議はしておかなければならないものでありまして,真面目に作業をすると,そういうことが必要であるという気持ちがあるものですから,さまざまに寄せられた意見の中で物権的請求権の行使の可否について疑義がある天災地変,不可抗力の場合をどうするかという意見があったことを受け止め,それを一つの背景として注意しながら乙案をお出ししたという経緯があります。
佐久間幹事がおっしゃったように,では,その民法の学説の中に,費用の問題はともかくとして,物権的請求権は不可抗力のときには行使ができないと言っている学説がどこかにありますかと問われれば,もう有力な,あの有名な学説がありますから,それに注意しなければなりませんというようなものは,佐久間幹事がおっしゃっていたようにないものであろうと感じます。私もこれを見て,次から法科大学院で教えるときには,不可抗力のときにはできないということもあり得るよ,というふうに教えないとまずいかもしれないと思い始めたくらいですから,それは佐久間幹事がおっしゃったような御指摘が正鵠を得ていると思われますけれども,種々出された意見について,ここで一応,委員,幹事の方々に論議をお願いしたいという要請があるものですからお出しいたしました。それで,乙案のような規律表現で強いて進むということが必要だとは考えられないというような御意見を今日たくさん頂きましたから,そのような意見分布を踏まえ,この後の審議を進めるということになろうと考えます。
また,甲案又は乙案と丙案とを組み合わせるという仕方もあり得るという御指摘も,複数の委員,幹事から頂いたところであります。見方を変えて言えば,それは例えば甲案を採ったときに,丙案というよりも,2のところでお出ししている現に使用されていない土地の場合の特則との間の役割分担というか,組合せといいますか,比重の置き方について,更に深く考え込んだ上で,次の機会に提案を差し上げていくということになるかもしれません。安髙関係官が大きく意見を二つおっしゃったうちの後半の部分は,甲案なら甲案と,2の提案内容をどういうふうに組み合わせていって,どちらにウエートを置いて,国民一般への説明も含めて提示していくかという仕方でお答えを申し上げていく事項になるかもしれません。1ページについては,そのようなことを考えていく必要があるということが,委員,幹事の御指摘を承って明らかになってきたと感じます。
7ページの費用の甲案と乙案との対比につきましては,それぞれの案を支持するお立場から根拠を示して御意見をおっしゃっていただいたところでありますから,これについても本日の議事を整理して,今後の審議を進めていくことになろうと考えます。
第1のところについて御意見をお出しいただきましたけれども,何か補足で御指摘を頂くことがありますでしょうか。
よろしいですか。
それでは,部会資料11ページから後の「第2 管理不全土地等の管理命令」の方に進むということにいたします。
11ページの第2の1のところで,「管理不全土地の管理命令」という制度を設けてはどうかという提案を差し上げております。アのところは,その制度の骨子でありまして,イは管理人を選任することになりますから,その管理人の権限についての案内を差し上げており,ウのところで管理人の義務についてのお話,エのところで解任及び辞任についての規律の提案,12ページにまいりまして,オのところで,管理人の報酬,それからカのところで手続の終了の事由をどういうふうに仕組むかということについての御案内を差し上げています。
部会資料は,引き続きまして20ページのところに飛びまして,この選任された管理人に,20ページの一番下の(2)のところで,処分行為をする権限を与えるかどうかという論点について,甲乙丙という三つの可能性を御提示申し上げております。甲案は,処分行為については管理人に権限を認めないということでありますし,乙案は,建物の区分所有等に関する法律59条などを参考にして,競売を請求することができる可能性というものを提示しておりますし,丙案は,裁判所の許可を得た上で,いわゆる従来の権限外許可と類似の手続構造で処分をする可能性を開こうとするものでございます。
22ページにまいりますと,(3)として給付を命ずる処分というものをどう考えるかという問題提起をしております。先ほど一つ前の審議事項で佐久間幹事からお話がありましたように,選任された管理人が所有者から協力を得られず,挙げ句は妨害されるような事態に対してどのような応接を考えられるかという,あの課題に関わることでございます。
それから,隣の23ページにまいりまして(4)で,緊急の対応が求められるケースの対応について,お示ししているような規律を設けることについてどう考えるかという問題提起をしております。あるいは,ここに提示しているような規律を設けなくても,物権的請求権を本案とする保全処分を上手に用い,ここで考えられている問題を達成することができるという見方もあるかもしれませんから,お考えをお聞かせいただきたいと考えます。
最後に24ページのところで,管理不全建物の管理命令という制度については,本日は詳しいお尋ねを差し上げる体裁になっておりませんで,これについては,所有者不明建物管理命令の制度や,本日一つ前に御議論を頂いた管理措置請求の制度などの行方がどうなるか,さらには,今お諮りしようとしている管理不全土地の管理命令の制度がどのように育っていくかというようなことを見据えた上で,この管理不全建物の管理命令の制度についても,今後採用するとすれば,制度の細部を明らかにしていくということになろうと考えますから,本日は,少し御提示申し上げている内容が十分ではないかもしれませんけれども,お気づきの点は御指摘を頂きたいと考えます。
部会資料のこの部分について,委員,幹事からの御意見を承ります。いかがでしょうか。
○中村委員 ありがとうございます。
第2につきましては,中間試案のときから日弁連は,この制度を創設する方向自体には賛成させていただいておりまして,前回の部会での御提案で土地の放棄の要件がかなり厳しくなったこととあいまって,放棄したいというほど管理に負担を感じているが,放棄は認められないという物件が今後増えてくる可能性があり,このような管理ができるシステムというのは引き続きしっかり検討していきたいということが前提としてございます。
その上で,ちょっと細かいことを申し上げますと,11ページの第2の1の(1)のア①のところですけれども,まず,現に土地を管理していないということを要件とせず,「現に」を外すことについては賛否両論がありました。適切ではないにしても,現に管理はしているという所有者がいるような場合に,管理者が管理を行うことは事実上,極めて困難であることが予想されるので,この「現に」を外して,実際この制度でうまく管理人が仕事をしていくことは難しいのではないかという視点です。逆に,裁判所にその辺りのこともしっかり判断していただければ,この方向で進めていただいてもいいのではないかという意見もありました。
それから,管理していないという要件についてですけれども,管理していないというのがどういうことなのかということについて,もう少し踏み込んだ方がいいのではないかという意見もございまして,一例として,破産法91条の保全管理人の選任の要件の条文の書きぶりなどを参考に,その所有者の管理が失当であって,他人の権利の確保又は保全のために特に必要があると認められるときなど,もう少し絞り込んではどうだろうかという意見もございました。
それから,ここで言うところの①の「他人の権利又は法律上の利益が侵害され」という要件の「他人の」という部分ですけれども,第1の「管理措置請求制度」における土地の所有者という要件よりも広いように読めるけれども,この適用範囲をもう少し明確にした方がよくはないかという意見もございました。
それから,イ,ウ,エ,オ,カまでの御提案につきましては,おおむね方向性としては賛成意見が多かったと思います。
(2)の処分行為につきましては,甲案賛成意見もありましたが,丙案賛成が比較的多かったです。
21ページの丙案の下のところに(注)というのがありますけれども,(注)に関して,「裁判所は,土地所有者に異議がないときに限り,土地の処分をすることができる」とすることについての検討事項が示されていますけれども,土地所有者が明らかに管理不全状態であって,処分の必要性もあるのに,土地所有者が異議を述べれば全く処分ができないということになるのかと,それだとこの制度はなかなか働かないのではないかという見地から,もう少し要件を工夫した方がいいかもしれないという意見も出ておりました。
それから,(3)の「給付を命ずる処分」についてはおおむね賛成でした。
(4)の「緊急の対応が求められるケースへの対応」についてもおおむね賛成意見でしたが,保存ないし利用・改良行為に必要な範囲であれば賛成という意見がありました。
それから,2項の「管理不全建物の管理命令」については,今回,日弁連ワーキングで余り深い議論をする時間がなかったのですが,方向性としては賛成です。
○山野目部会長 弁護士会の御意見を取りまとめていただきまして,ありがとうございます。
○今川委員 私の方は,第2の1の(1)で1点と,第1の(2)で1点,意見を述べさせていただきます。
中村委員からも御指摘ありましたけれども,試案では,現に土地を管理している者がいる場合は対象外だったところ,今回の提案では,現に土地を管理していても,それが不適切であった場合は対象にするとなっております。本来,土地の管理は所有者が行うものでありまして,本文の提案の制度を利用するに当たっては,第2の1の(1)の(注)の,土地の所有者の陳述を聞くなどの手続保障をしっかりやるということと,適切に管理していないというのはどのような状態なのかという,ある程度の基準みたいなものも示していくべきだという意見です。
それから(2)については,今の(1)で申し上げた意見からして,保存行為と利用・改良行為を超える権限を認めるということは,あまりにも土地所有者に対する権利侵害の幅が大きくなる可能性がありますので反対でして,(2)については甲案に賛成です。ただ,土地上の動産についてだけ丙案を採用するという考え方はあるのではないかという意見が我々の中ではあります。
ほかについては,大体おおむねこの内容で賛成であります。
○山野目部会長 ありがとうございます。
弁護士会からお出しいただいたものと,方向や観点が類似,近接しているものも,御意見の中にはあったのではないかと受け止めます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
まず,管理不全土地等の管理命令の制度自体については賛成でございます。権限としても,保存行為,利用・改良を目的とする行為がベースになるという点については全く異存はないのですが,一方で,(2)の処分行為までできるかどうかということに関しては,これをできないということにしてしまったときに,実際,管理している人との関係というか,土地を現に管理しているかどうかによって一律に区別しない,という今回提案されている管理不全土地管理人の選任要件との関係で,ちょっと不都合が起きる可能性はあるのではないかというところがございますので,この処分行為をする権限を与えるかどうかという点に関しては,丙案に賛成させていただきたいと思っております。処分行為が認められる要件は,かなり厳しいものになるかもしれませんが,ただ,全くそういうのがなくて,もう手が出せないという状態は,管理人を置く以上はやはり避けられるべきではないか,というふうに考えておるところです。
同様の理由で,(3)の給付を命ずる処分の規律についても設けた方がいいだろうというところはございますし,あと(4)の緊急の対応を求められるケースに関しては,ここはもう緊急の場合に限りということにはなってくるかと思いますが,手続を省略できるというのも,迅速性を求めるという観点からあった方がいいだろうと。特に先ほどの管理措置請求制度の方で迅速な予防保全ができないということになってまいりますと,正にこちらの対応の方が極めて大きな意味を持ってくるということになりますので,ここはやはり設けていただける方がいいのではないかと思っております。
あと,最後の「管理不全建物の管理命令」ですが,こちらに関しては,所有者不明建物の管理命令の制度のところで申し上げたのと基本的には同じ考え方というか,事業者としても同じ意見が出てきておりまして,裁判所の許可をもって取り壊せるという前提に立つのであれば,例えば中間試案のときの甲案のような形で,建物管理人というのを認めてもいいのではないかと考えております。逆にそれができないということになってくると,なかなか実際,ずっと処分できないまま,取壊しができないままずっと管理しなければいけないというのはちょっと不効率かなと思うところですので,そこは所有者不明建物の議論とパラレルに検討する,という方針に賛成でございます。
○蓑毛幹事 部会資料20ページから21ページの処分行為をする権限について,仮に丙案が採用されて、管理人は裁判所の許可を得て権限外行為ができるとなった場合,それによって得られた財産はどうなるのでしょうか。
所有者不明土地管理制度のときには,土地の処分によって得た財産についても管理人の管理処分権限が及ぶという規定になっていたと思います。
そこで,管理不全土地の管理命令について,管理人が土地の処分ができるとなった場合に,それにより得た財産についてはどうなるのか,管理人がそれを管理して管理費用に充てることができるのか,それともそれはできず,判明している所有者に直ちに返還しなければならないのか,この点を確認したいと思って質問いたします。
○大谷幹事 今の点,ここのところのどの案を育てていくべきかというところで,必ずしも現時点でこうだというふうな考えはございませんけれども,所有者不明土地管理人の場合には所有者がおりませんので,売却がされて代金を得た場合には,報酬決定を受けて,残ったものについては供託をするという形になっていく。今度は管理不全土地管理人の場合には,土地の所有者がおりますので,費用は返していかないといけない,お金は返すことになるんだろうというふうには今の時点では思いますけれども,その際に報酬の決定というのはまたされる,管理費用についての決定はされて,管理人の方に,そのお金の中から支払われることになるのかなというふうな気はいたしますけれども,少し所有者不明土地の場合とケースが違いますので,どのように整理するかはもう少し考えたいと思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けください。
○蓑毛幹事 引き続き検討ということで,理解しました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
松尾幹事,お待たせしました。
○松尾幹事 ありがとうございます。
この管理不全土地の管理命令の制度をどういうものとして理解するかについては,一方では先ほど出てまいりました管理措置請求について,相手方が応じてくれないので勝訴の確定判決を得て,それを執行していくという場合と管理不全土地管理人による管理との役割分担をどう考えるかということと,他方では,今,蓑毛幹事からも御指摘ありました所有者不明土地管理人との関係をどう考えるかということで,これら2つの観点からこの要件を明確にしていく必要があるかなというふうに感じました。所有者不明土地管理人との違いは明瞭で,管理不全土地管理人の場合には,所有者が誰かが分かっていて,かつ所在も分かっているという場合を前提にするというふうに考えられます。逆にそうなりますと,やはり所在も誰かも分かっている所有者と,この管理人との間には,結構微妙な緊張関係があるというふうに感じまして,場合によっては意見が対立するというような中で,この管理不全土地管理人は行為しなければならないのではないかという場面も想定できるように思うんですね。典型的にどういう場面を想定したらいいかちょっと分からないんですけれども,例えばある土地所有者の持っている土地が管理放置されていて,年々草が伸びて,あるいはごみが投棄されて,これはどうにかならないかということでみんなが迷惑しているにもかかわらず,所有者に言っても全く何もやってくれないというようなときに,管理措置請求の要件は必ずしも満たさないかもしれないけれども,管理不全土地管理人を選任して対応する場合,あるいは管理措置請求もできるけれども,毎回毎回それをやるのは大変なので,管理不全土地管理人を選任して対応するというような使い方もあるのかなということを想定しました。そういうことを念頭に置いて,部会資料39の11ページの第2の1の(1)①にあります,「土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害」されるということを具体化していくということが必要かなというふうに感じました。
もう1点は,部会資料39の11ページの第2の1の(1)のウの「管理不全土地管理人の義務」のところで,「土地の所有者のために,善良な管理者の注意をもって」という規律を置いていますけれども,先ほど申しましたように,この管理人と土地所有者との関係は,所有者不明土地の管理人と所有者との関係以上に,所有者との対立ないし緊張関係が存在することを想定しているようにも思われます。そのときに,「土地の所有者のために,善良な管理者の注意をもって」という規律がどういう意味内容を持つのかということが気に懸かります。もちろん管理人として他人の土地を管理するわけですから,その求められる注意義務というのはあるというふうに感じていますけれども,あえてこの状況の中で,土地所有者のために善管注意義務を負うという規律を置くことによって,管理不全土地管理人と所有者との間に紛争を起こすような種にならないかということも若干懸念されまして,あるいはウについては,まさにこの法律規定が定める権限を行使する義務内容を当然果たすべきものとして,あえて書かないという選択もあるのかなというふうに感じました。
○山野目部会長 松尾幹事が幾つか御懸念としておっしゃったことを理解いたしました。受け止めて,審議を続けることにいたします。垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 どうもありがとうございます。
御提案の内容につきまして,2点ほど確認のための質問をさせていただければと考えております。
1点目ですけれども,この管理不全土地管理人についての提案というのは,実際上は先ほど来,御発言もありますように,所有者そのものは判明しているという場合を想定しているということなんだと理解をしておりますけれども,ただ,資料の16ページの(4)のところにも説明がありますように,要件立てとしては所有者不明の場合を除外しているということではありませんので,そういう意味では所有者不明の場合についても適用の余地がある制度として構想されているというように理解をしております。
その場合に,これも今回の御提案の中で11ページの1の(1)のアの②の(注)のところですけれども,「土地の所有者の陳述を聴かなければならない」などの所有者の手続保障の規律を設けるという御提案がされていまして,このこと自体は適切なものではないかというふうに考えているのですけれども,所有者が不明であるような場合についても,この仮に必要的陳述聴取の規定を設けた場合の運用の在り方等について,どういう想定をされているのかということについて,もしお考えがあれば承れればというのが1点目でございます。
それから,2点目なんですけれども,これは資料で申しますと18ページの上の辺り,(2)の直前の辺りになりますでしょうか,ここでの土地管理人というのは,代理人であったり,あるいは訴訟担当者になる者ではないという記載がされておりまして,これもそういうことなのかなというふうに受け止めておりますけれども,例えば管理人が除草作業その他の何らかの作業について,業者に費用を払って契約をして行うというような場合には,これは管理人自身が契約当事者となり,仮にその費用の支払等についてトラブルが発生するといったような場合については,その契約の相手方としては飽くまで管理者を被告として訴えを提起するというようなことになると,そういう理解でよろしいでしょうかというのが2点目でございます。よろしくお願いいたします。
○脇村関係官 前々回,陳述聴取の相手方がある意味所在不明のときどうするかという御議論を頂きました。従前からそうですけれども,陳述聴取をしないといけないという,陳述聴取の機会を与えないといけないということでございますので,その機会を与えた上で,陳述のないケースについては,通常は陳述を聴かずにやるということなんだろうと思います。あとは,陳述の機会を与えたというために,陳述しますかということを送達で送ることまで要るかどうかという議論が民訴,あるいは非訟の世界では議論されていたと思いますが,そういった一般的に問題となる議論でしょうし,今回の件ですと,そもそもそういったケースについては最初から所有者不明管理人の選任の方を申し立ててはどうですかというようなことを言うのかもしれませんが,その辺は従前の手続法における陳述聴取の機会の在り方を踏まえた運用がされるのだろうと思っています。
2個目につきましては,前回,先生からも管理人の方でお話があったと思いますが,ここで部会資料に書いていますのは,所有者本人を当事者としないといけないケースを想定しておりまして,管理人本人が当事者そのもの,責任主体であるケースについては,基本的にはこの管理人が原告,被告等になるということは想定していたところでございます。
○山野目部会長 垣内幹事,お続けください。
○垣内幹事 どうもありがとうございます。
一般的な場合について,どこまですれば陳述の機会を与えたと言えるのかというのは,私自身,なかなか悩ましい問題だなと考えておりまして,この場合に,そういう問題が生じたとしたらどうなるというお考えなんだろうかという点について関心があったということですけれども,私自身も引き続き検討させていただきたいと思います。
どうもありがとうございます。
○市川委員 2点,申し上げたいと思います。
まず1点目が,管理命令の取消しの関係です。部会資料の12ページのカのところに,命令の対象土地などの管理を継続することが相当でなくなったときは,管理命令を取り消さなければならないとされていますが,どのような場合が管理を継続することが相当でなくなったときに当たるのかということが明確になっていなければ,実務上,支障が生ずるおそれがあるように思われます。
一つの例としては,管理人の報酬に係る予納金が不足して追納されないという場合が考えられるように思われますが,そのほかにどのような例があるのかなどについて,判断基準,考慮要素や具体例について何らかの形でお示しいただければと思います。
それから,2点目ですが,処分行為の権限について,部会資料21ページの丙案では,裁判所の許可を得て保存行為等を超える行為をすることを認めるとされていますが,これもどのような場合に裁判所の許可が認められるのかということについて,ある程度,具体化されていなければ,判断の基準が定まらずに裁判実務上,支障が生ずるおそれがありますので,こういう観点も踏まえて,処分行為をする権限に関する規律の在り方について御検討いただきたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
2点おっしゃったうちの前の方の命令の取消事由としての相当でなくなったことについて,市川委員が御指摘の場面のほかに何か今考えられるものがあるかどうかは,事務当局に今尋ねてみようと考えます。
それから,後段でおっしゃった21ページの丙案における裁判所の許可の在り方についても,併せて事務当局から発言してもらおうと考えます。
この21ページの甲案,乙案,丙案をお出ししているところでありますけれども,本日,委員,幹事から様々な御意見を頂きました。拝見したところ,乙案がいいと述べた方は誰もいなくて,乙案は寂しい思いをしているというふうに受け止めますが,反面,今川委員が司法書士会の御意見としておっしゃった甲案を基調とするという考え方や,藤野委員が強調された,丙案のような可能性は残しておいてもらった方が実務的にはよいというふうな観点,それぞれいずれも理解をすることができますとともに,仮に乙案を除いて甲案と丙案をにらみながら,今後ここの局面の制度の在り方を育てていくということになりますと,丙案は従来も権限外許可の実務の積み重ねがあることから,まあ,これでいいでしょう,というふうに簡単に進む話では恐らくなくて,本日はキックオフの議論ですから,丙案はこういうふうにざくっと書いてありますけれども,本当にこれを育てて進めていくときには,いろいろ考え込まなければならないところがあって,一つはこの裁判所が許可を出すまでのところで言うと,市川委員も御指摘になったように,どのような要件で許可を出すかということ,さらにそれに関連して,どのような処分の許可を出すかということもイメージを共有しておく必要があります。処分という言葉は普通に考えれば売却というところまで含んでしまいますけれども,本当に所有者が片やいるのに,管理が手抜かりであるということがきっかけで売られてしまうというところまで,裁判所に許可を求めて,あり得るというところまで,いや,あってよいというふうに考えるとすると,これは相当我々は認識を共有して勇気を持ってしなければいけないことであって,そのような問題があります。
それから,許可を出して話が進んだ後に関して言うと,蓑毛幹事が鋭くも御指摘になったように,仮に処分によって何らかの対価というか,そういうふうな金銭に換価されたものが生じたときに,その扱いはどうするかといったようなことも,所有者不明土地管理命令のときのようにはいかないものでありまして,権限外許可というと,何となく不在者財産管理の経験の蓄積があるから,あれのアナロジーで大体いけますよねという気分になってしまいますけれども,それは確かに所有者不明土地管理命令のときには,従来の経験のアナロジーを参考にするる場面というものは領域として大きいと考えますが,ここはかなり局面が異なっていて,松尾幹事が繰り返し強調されたように,一方に所有者が,可能性としては,健在であるというのは変な言い方ですが,所有者がいて,そこに現存している状態で,この命令の制度が動いていくということを考えると,様々なことを考えなければいけないと感じます。
差し当たって本日の段階で考えていることを,市川委員お尋ねの2点について,事務当局からお話ししてくださるようにお願いいたします。
○宮﨑関係官 関係官の宮﨑です。
2点お尋ねいただいたと思いますが,まず1点目の方が,命令の取消しがされる場面というのはどういう場合かということでした。一つは,先ほど御指摘の中にもありましたけれども,19ページ目から20ページ目にかけて書いておりますように,その管理費用を支出することが難しいような場合というのは取り消されるような場合に当たるのかなと考えておりましたが,それ以外の場面としましては,例えばですけれども,15ページ目の真ん中辺に少し,その土地の使用状況などについても考慮して,管理継続が相当でなくなったときというのは取消事由になり得るようなことを書いております。
この管理人がどこまでのことを可能とするのかにもよるのかもしれませんが,土地の所有者が実際にいて,その所有者がいる限り,管理が実際上難しいということはあり得るのではないのかなと思います。管理人に,その土地の所有者を排除するような権限まで付けるとすれば,その場合もできるのかもしれませんけれども,そこまではしないということになりますと,実際上,管理人を選任したとしても,管理人はうまく機能しないということになろうかと思いますので,そういう場合は,それ以上の管理の継続というのは相当でないということで取り消されるような場合もあるのかなとも考えておりました。
2点目で頂きました裁判所の許可の判断基準ということでございますが,これについても,まだ現時点で何か固まったような考えがあるわけでもございませんで,幾つかの案を今並行して検討しているようなところではございます。もし丙案ということになったとすると,所有者不明土地管理制度の方ですと,実際,所有者がいないという状況でありましたので,その状態を踏まえての許可の在り方ということを考えなくてはいけないのかと思いますが,管理不全土地管理制度の方ですとそれとは大分状況が違っていることは今までの議論にも出ているとおりでございますので,その実際にいる土地の所有者の意向というのをどのように踏まえるかですとか,ちょっと異なった観点からの検討をしていく必要があるのかなと思っております。
○山野目部会長 市川委員,ひとまずのお答えを申し上げましたが,いかがでしょうか。
○市川委員 ありがとうございます。
もし丙案を採用されるようなことになりましたら,引き続き検討の方をよろしくお願いいたします。
○山野目部会長 承りました。
引き続きいかがでしょうか。
○岩井幹事 最高裁民事局の岩井でございます。
部会資料22ページの「給付を命ずる処分」の関係ですが,この給付を命ずる処分につきましては,権利侵害がある場合などには妨害予防請求訴訟の提起も想定されるところでございまして,訴訟が係属しながら重ねてこの申立てがなされた場合の帰趨について,必ずしも現在のところ明らかでないように思われますので,このままですと,裁判実務上,支障が生ずるおそれがあるように思われます。この点も含めまして,御検討いただければと思います。
もう1点ですが,先ほど御説明を頂いた土地の管理を継続することが相当でなくなったときには取り消すという点について,今の資料ですと職権でという記載もありますが,裁判所の方で,管理状況について常に確認しておく必要があるわけではないのだという理解でよろしいのかどうかというのを御確認させていただければと思います。
○山野目部会長 お尋ねがあった部分について,事務当局からお話をくださるようにお願いします。
○宮﨑関係官 職権による取消しというのは,ほかの管理人の例などにも倣ってそのように記載しておりますが,管理の状況というのを実際に裁判所の側で能動的に常にチェックするということは現実的には難しいと思いますので,そのようなことまで今の段階で想定しているわけではございません。
○山野目部会長 岩井幹事に御案内ですけれども,管理不全土地管理命令が発令された場合に選任された管理人に対する裁判所の監督の規定は今のところ設けないという方向で部会資料をお出ししておりますから,岩井幹事の御懸念の裁判所が常に見張っていなくてはいけないですかという点については,これからこの制度を育てていく中での委員,幹事の御意見にもよることですが,常に見張っていなければいけないようなことを想定しているものではありません。職権で,というふうに記している点は,関係人の申立てを待たずにしてもよいということを一応筋道としては明確にしておこうという程度のお話であろうと考えます。これも,ここのところを更にこういう方向で進めていくときには,裁判所の方とも御相談をしながら進めていかなければならないと考えております。
また,前段でおっしゃった給付を命ずる処分について,複数の手続が並走して,必ずしも明快でない状況になるという点も注意してほしいというところもごもっともなことですから,これからも裁判所と御相談させていただこうというふうに考えます。
そのようなことでよろしいですか。
○岩井幹事 ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
平川委員,どうぞ。
○平川委員 ありがとうございます。
不全土地の管理はすごく悩ましい話です。以前,意見を申し上げましたが,土地の不全管理の原因が,認知症だったり,若しくは精神疾患を有していたりということなどによって,土地の管理ができなくなる場合があります。土地の所有者の陳述を聞くことについては,こういった実態を考慮した対応が必要ではないかと思っているところです。
また,一つ,これは質問ですが,例えば,土地の管理が不十分だというときに,土地の所有者ではなくて,土地を借り家を借りて住んでいる方が,ごみ屋敷問題などの課題を持ってしまう場合が大変多いということがあります。これは飽くまでも土地の所有者という観点での対応になるか,若しくは借りている人が,その土地の管理に関してかなり不十分だというところまで及ぶのかということについても,質問したいと思います。
それから,もう1点質問です。基本的には不動産の管理人の権限ですが,これは飽くまでも,動産も不動産も同様の権限ということになるんでしょうか。多分,実際にごみ屋敷問題等を解決するときには,動産の対応について,場合によっては不動産と違う対応が必要だという考え方もあり得るのかもしれません。管理人が持つ権限に関しては同じ権限を持ついうことでよいのでしょうか。質問したいと思います。
○山野目部会長 平川委員から幾つか問題提起を頂きました。
所有者の陳述を聴くということは,所有者の陳述しか聴かないよと言いたいものではなくて,少なくとも所有者とコミュニケーションはとってくださいよという運用の在り方を案内しようというふうに考えて,細部をこれから検討するというつもりでお出ししているものでありまして,1点目と2点目でおっしゃった,認知症などでうまく陳述ができないような所有者の状態のときに,その人に代わる周辺の人で相当のわきまえのある人とコンタクトをとればいいということにするか,あるいはやはり判断能力が減退していても,御本人となるべくコンタクトをする努力をしてくださいということになるかといった運用の在り方を考えた上で,今後,規律を考案していくということになるであろうと思います。ここで言っている陳述は,必ずしも訴訟行為能力を備えた人であるというような意味ではないでしょうから,その辺りのところを柔軟に考えていく余地もあるかもしれません。
また,土地の所有者の陳述とともに,土地を占有している者もなど,関係人の意見を聴くということにするかどうかということも,今後の課題であろうと思われます。
それから,動産の扱いをどうするかは,そういう論点,課題があるからこそ,司法書士会はその点に注意をせよという意見を今川委員からおっしゃっていただいたものであろうというふうに理解します。
そのようなことで,今後の検討に待つべき部分が大きいものでありまして,現時点で事務当局からお話を差し上げることができることを今お願いしますけれども,今後の検討において,平川委員からもどしどし御意見をおっしゃっていただければと望みます。
事務当局からどうぞ。
○大谷幹事 今正に部会長から御説明のあったとおりではございますけれども,部会資料で申しますと16ページのところに賃借権関係,一番上の方ですけれども,賃借権を有する者が土地を占有していたとしても,適切に管理がされていないということであれば,所有者が管理していないということで,要件は満たしているものと考えられるとしておりますけれども,正に御指摘にあった土地について賃借権が設定されていて,建物があると。それで,建物の管理について問題があるというようなケースにおいて,それは管理不全建物の管理制度で対応するということも考えられるところでございまして,賃借人,賃借権者についての管理制度というのを設けるかどうかということについては,また引き続き検討したいと思っております。
また,動産については18ページの辺りに書いておりますけれども,これも今川委員から御指摘があったようなことですけれども,土地自体の処分は難しいものがあるとしても,動産についての処分というのはまた別に考える必要がある部分もあるのかなと思っておりまして,これも本日頂いた御意見を踏まえて,考え方を整理したいと思っております。
○山野目部会長 畑幹事,どうぞ。
○畑幹事 ありがとうございます。畑です。
資料の22ページの「給付を命ずる処分」の辺りに書いてあることで,私,前にも発言したことがあると思いますし,今日も話が出ていたと思いますが,管理人と所有者とで意見が違う。それで,所有者が協力しないというような場合どうするかということについては,手続だけの問題ではなくて,実体としてどうなのかということを整理しておく必要があるのではないかと思います。
例えば,当該土地には柵がめぐらされていて,鍵がかかっていると。それで,何か必要なことをするためには,何か工作機器を入れる必要があるけれども,鍵がかかっていて所有者は協力しないというようなときにどうなるのか。なお,22ページには,特別な手続を設けるということについて検討すべしと書いてありますが,ある種,実体法の問題としてどうかということを詰める必要があるのではないかと考えております。私自身としてはっきりした意見があるということではないのですが,一つの考え方は,もうそういうときはこの制度は使えないと諦める,ほかで提案されているような制度で対応するというのも一つかと思いますが,そういう場合にもこの制度は使えるということを考えるのであれば,その場合にこそ初めて手続としてどうするのかということが必要になってくるのかなと思っております。もしそういう場合もこの制度でいけるのだとすれば,どういう実体関係を想定するのかということが問題となるのではないか。場合によっては,特別な手続を設けなくても、管理人が所有者に対しても主張し得る何らかの実体権を想定し,それを前提として一般の保全処分を使う,民事保全を使うというようなこともあり得るかもしれませんし,いずれにしても,そういう場合に使える制度なのか,使えない制度なのかということを決める必要があるのではないかと思っております。
○山野目部会長 畑幹事,どうもありがとうございます。
例えば,宅地建物取引業者に不動産取引の実態をいろいろ聞いていると,新婚の御夫婦がマイホームの土地と家を入手したときに,庭の片隅に結婚記念植樹をする人ということがあるらしいですね。その植樹をした若い御夫婦がやがて年老いて,一方がお亡くなりになったりして,もう一方が気力,体力が衰えてきて,庭の片隅の木を放置していて,それがいろいろ周辺にも害をなすというときに,管理命令が出されて,管理人があれは御近所に迷惑だから切るべきだと言い,しかし,所有者はそこに健在でいるものですから,あの木は私にとって大事なものであって,あの木が切られたら一生の思い出がなくなってしまうと抗議し,切るのに反対するときに,そういうときには,もう管理命令は使えないということにするか,いや,どちらにするか誰かに決めてもらいましょうというふうに飽くまでもするか。それで,そのときに周辺への迷惑というものがやはり現に生じているとすると,畑幹事がヒントをくださったように,別な制度を使って対処していくことになるか,いや,飽くまでこの管理命令の制度でいくかといったことを考え出すと,やはり松尾幹事がおっしゃったように,そこに所有者がいるという場面で働く姿が中心場面になるこの制度というものは,たくさん悩ましいことが出てきそうな気もいたします。今の畑幹事の御指摘に触発されて,何か御意見があったら承ります。
○平川委員 ありがとうございます。
民法でこれを明確にするということは,かなり大きな話だと思いました。例えば地方自治体が管理不全土地の管理命令を使うと,場合によるとごみ屋敷問題も管理人に命令してい,何らかの形で処分してしまおうというインセンティブが相当働くと思います。その辺の運用について,若しくは影響について考えておかないと,本人の所有権や人権の問題を含めて,侵害的なことが起きるかもしれないという懸念があります。
意見です,以上です。
○山野目部会長 御懸念,御注意を承りました。
引き続きいかがでしょうか。本日の段階で承っておくことがあったら頂きたいと考えますが,どうでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは,本日お出ししている部会資料の中で,今お諮りしている部会資料39のみが1周回遅れになっておりますから,まだ今日は様々な御指摘を承ったという状況にとどまらざるを得ない側面がございます。次回またこの題材を取り上げる審議の機会に,ただいまの39よりも深めた部会資料を用意した上で,委員,幹事の御意見を承りたいと考えます。
部会資料39についての審議をお願いするのをここまでといたします。
1 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 所有者不明土地管理命令
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(④の所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
② 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発令された場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発令された後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
④ 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
(注) 第3の1の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとし、また、土地所有者のための手続保障に関し、次のような規律を設けるものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、イの期間が経過しなければ、所有者不明土地管理命令をすることができない。この場合において、イの期間は、1箇月を下ってはならない。
ア 所有者不明土地管理命令の申立てがその対象となるべき土地又は共有持分についてあったこと。
イ 所有者不明土地管理命令をすることについて異議があるときは、対象となるべき土地又は共有持分を有する者は一定の期間までにその旨の届出をすべきこと。
ウ 前号の届出がないときは、裁判所が所有者不明土地管理命令をすること。
(補足説明)1 本文①及び④は、第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)アと基本的に同じである。
2 本文②について
第18回会議では、土地にある動産の管理は、土地の管理に必要な範囲で管理人が行えば足りるから、土地とその土地にある動産とを同列に並べるような規律ぶりは避けるべきではないかという指摘があった。
この指摘を踏まえ、本文②では、所有者不明土地管理命令の対象は飽くまでも土地であることを前提としつつ、その効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ旨の規律を設けることとした。
3 本文③について
所有者不明土地管理命令が発令された後に当該所有者不明土地管理命令が取り消されたが、改めて所有者不明土地管理命令が発令される場合には、命令の対象となるのは、所有者不明土地やその上にある動産の価値転化物(供託された金銭など)である可能性がある。特に所有者が特定できないとして所有者不明土地管理人が選任されて土地等が売却され、代金が供託されて所有者不明土地管理命令が取り消されたケースでは、供託金の還付請求の相手方が特定できないことになるため、改めて所有者不明土地管理命令を発令する必要が生じ得る。
そこで、本文③では、そのような場合においても、必要があると認めるときは、所有者不明土地管理命令をすることができる旨の規律を設けることを提案している。
4 (注)について
(1) 所有者不明土地管理命令に関する事件は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。
手続的規律の中でも、管轄の規定については、部会資料43の(1)(注)等で取り上げ、議論のあったところであることから、特に注記している。また、所有者不明土地管理命令の際の公告については、共有の見直しに関する所在等不明共有者がいる場合の特則の規律(部会資料51第2の5(2))と同様の規律を設けることを注記している。
(2) 管轄について
第18回会議においては、地方裁判所だけでなく簡易裁判所も管轄裁判所とすべきとの意見もあったが、これに反対する意見もあり、意見が分かれた。
部会資料43(4ページ)に記載したとおり、民事事件については、地方裁判所が基本的な第一審であり、簡易裁判所は比較的少額、軽微な事件のみを管轄することとされているところ、土地管理制度においては、管理人の適切な選任や監督、場合によっては土地の売却の可否とその代金の当否などについての法的判断が必要になることが見込まれる。
そして、現行法における他の類型の財産管理制度において簡易裁判所を管轄としている例はないこと、第18回会議においては、現時点では実際のニーズがどの程度あるか明らかでないことから、少なくとも制度発足時点では地方裁判所のみの管轄としてはどうかとの意見もあったことも踏まえ、(注)の前段では、第3の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄のみに属するものとした。
(3) 所有者不明土地管理命令の際の公告について
所有者不明土地管理命令が発せられると、その対象とされた土地の管理処分権は所有者不明土地管理人に専属する(後記(2)①参照)。そこで、(注)の後段では、当該土地の所有者の手続保障の観点から、所有者不明土地管理命令を発するためには、その旨の公告をしなければならないものとするとともに、その公告から一定の期間を経ても異議の申出がないことを発令の要件としている。
なお、所有者不明土地管理命令がされたからといって土地の所有者の所有権が直ちに失われるわけではないことから、異議の申出期間の下限は、いわゆる普通失踪における失踪宣告の際の公告期間(3箇月。家事事件手続法第148条第3項)より短く、1箇月を下ってはならないこととしている。
(2) 所有者不明土地管理人の権限
① (1)④の規律により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
② 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することができない。
ア 保存行為
イ 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
(注) 管理人の選任の公示に関し、次のような規律を設けるものとする。
① 所有者不明土地管理命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分について、所有者不明土地管理命令の登記の嘱託をしなければならない。
② 所有者不明土地管理命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、所有者不明土地管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならない。
(補足説明)
1 本文①は、第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)イ①と基本的に同じである。また、(注)についても、同本文(1)イ④と基本的に同じである。
2 本文②は、裁判所の許可を得ずに、保存行為等を超える行為をしても、土地の所有者に対して効果が生じないことを前提としている。第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)イ③では、そのことを「無効とする」との文言で表現していたが、裁判所の許可を要件とする民法上の他の制度においては、無許可では効果が生じないことはある意味で当然のことであり、そのような文言は特に用いられていないため(民法第859条の3参照)、本文②でも、「無効とする」との文言は用いていない。
3 所有者不明土地管理人が、裁判所の許可を得るべき行為をその許可を得ずにした場合には、その行為が上記のとおり原則としては無効となるにしても、取引の安全の観点から、取引の相手方を保護するための規律を設ける必要がある。
そこで、本部会資料では、裁判所の許可がないことをもって、善意の第三者に対抗することができないとすることを提案している(「第三者」との表現を用いることについては、部会資料50の5ページ参照)。
なお、第三者の保護要件に関しては、取引の安全をできるだけ保護する観点から、無過失を要件としないことを提案している。
また、第20回会議などでは、「これをもって」という表現について、善意の対象などが不明確であるとの指摘があったことを踏まえ、「この許可がないことをもって」善意の第三者に対抗することができないとする表現に改めている(後記本文2(2)も参照)。
4 第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)ウでは、所有者不明土地管理人は、就職の後直ちに土地の管理に着手しなければならない旨の規定を設けることを提案していた。
もっとも、このことは、規定を設けるまでもなく当然のことであって、不在者財産管理人に関してもこのような規定が置かれていないことも考慮し、本部会資料ではこの提案をしていない。
(3) 所有者不明土地等に関する訴えの取扱い
所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
(注) 訴訟手続の中断・受継に関し、次のような規律を整備するものとする。
① 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴訟手続で当該所有者不明土地等の所有者を当事者とするものは、中断する。この場合においては、所有者不明土地管理人は、訴訟手続を受け継ぐことができる。
② 所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟手続は、中断する。この場合においては、所有者不明土地等の所有者は、訴訟手続を受け継がなければならない。
(補足説明)
1 本文は、第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)エ①と基本的に同じである。また、(注)についても、同本文(1)エ②ないし⑤と基本的に同じである(相手方も受継の申立てをすることができることについては、民事訴訟法第126条参照。)。
2 第18回会議では、中断・受継の規律について、所有者不明土地管理人が受継を拒絶することは想定されるのかどうか、また、所有者不明土地管理人と相手方のいずれもが受継をしないとすると、訴訟手続が中断したままになり、その状態で所有者不明土地管理命令が取り消されることもあり得るため、元の所有者によって訴訟の中断状態を解消させるための仕組みが必要になるのではないかという意見があった。
所有者不明土地管理人は、土地の所有者本人とは異なる地位を有するものではあるため、(注)①の末尾の文言は「受け継ぐことができる。」としているが、いずれにしても、相手方の受継申立てや、裁判所の続行命令により訴訟手続が続行されることはあるものと考えられる。訴訟の係属中に所有者不明土地管理命令が申し立てられて訴訟手続の中断が生じたが、所有者不明土地管理人が受継をしないまま所有者不明土地管理命令が取り消された場合には、解釈上、所有者が受継することになると解される。この受継に際しては、民事訴訟の一般的なルールに従えば、申立てによる受継決定又は職権による続行命令を要すると思われるが、破産法の例を参考に、当然に受継するとの解釈をとることも考えられる。
(4) 所有者不明土地管理人の義務
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)オ①及び②と同じである。
(5) 所有者不明土地管理人の解任及び辞任
① 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。
② 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)カ①及び②と同じである。
(6) 所有者不明土地管理人の報酬等
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)キ①及び②と基本的に同じである(同①、②が、それぞれ本文②、本文①に相当する。)。
なお、本文①では、「所有者不明土地等から」費用の前払及び報酬を受けることができるとしているが、これは、管理人による管理の継続中に費用の前払や報酬の支払がされる場合には、所有者不明土地等(予納金を含む)から支払われることが想定されることから、これが可能であることを明確にしたものである。費用及び報酬の引き当てが「所有者不明土地等」に限定されるものではないことに関しては、本文②の規律で明らかにしている。
また、本文②では、従前は、報酬を含む趣旨で「費用」と記載していたが、報酬を含むことを明確化するために、「費用及び報酬」としている。
(7) 所有者不明土地管理制度における供託等及び取消し
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発令された場合にあっては、共有物である土地)の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
② 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。
③ 所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)が所有者不明土地等の所有権(その共有持分を含む。)が自己に帰属することを証明したときは、裁判所は、当該所有者の申立てにより、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない。この場合において、所有者不明土地管理命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者に対し、その事務の経過及び結果を報告し、当該所有者に帰属することが証明された財産を引き渡さなければならない。
(補足説明)
第18回会議で取り上げた部会資料43本文(1)ク①から④までと同じである。
(8) 所有者不明建物管理命令
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(④の所有者不明建物管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。
② 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発令された場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物又は共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発令された後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
④ 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。
⑤ (2)から(7)までの規定は、所有者不明建物管理命令について準用する。
(注) 所有者不明建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、適用しないものとする。
(補足説明)
1 本文①について
所有者不明建物管理制度については、部会資料44では、所有者不明土地管理命令が発せられていることを要件とするかどうかなど、複数の案を提案していたが、土地と建物の所有者が異なる場合において、土地の所有者及びその所在は判明しているが、建物の所有者又はその所在が不明であるケースにも対応するためには、建物について独自に管理命令を発することを可能とする必要がある。
第18回会議においても、所有者不明土地管理制度とは別に、所有者不明建物の管理制度を独立して設けること(部会資料44の甲案)に賛成の意見が比較的多かった。そこで、本文①では、所有者不明建物の管理制度を独立して設けることとしている。
2 本文②について
所有者不明建物管理命令が、借地上にある所有者不明建物について発せられるケースもあるが、この場合に、所有者不明建物管理人に借地権に関する権限を認めないとすると、その適切な管理に支障を来すおそれがある。
そこで、本文②では、部会資料44本文2の甲案をベースに、所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に加え、当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶとしている。
3 本文③から⑤までについて
本文③及び④は、所有者不明土地管理命令に関する本文(1)③及び④と同様である。
また、その権限等についても、所有者不明土地管理命令が発せられた場合と同様であるから、本文⑤では、本文(2)から(7)までの規定を準用することとしている。
4 (注)について
部会資料44の4と同じである。
2 管理不全土地管理命令
管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 管理不全土地管理命令
① 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(③の管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
(注) 第3の2の規律による非訟事件は、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとするなど、裁判所の手続に関しては所要の規定を整備する。
(補足説明)
1 本文①から③までは、第20回会議で取り上げた部会資料50本文(1)と基本的に同じである。
2 本文①について
(1) 第20回会議では、所有者が実際に利用していないことや所有者の意見が管理不全土地管理命令を発するための重要な考慮要素となることは、本文の規律からは読み取ることが困難ではないかとの意見があった。
確かに、部会資料50(4ページ)に記載しているように、管理不全土地上の建物に居住しているなど、所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては、土地を管理人に管理させることが適切ではないケースが多いと考えられる。
もっとも、所有者が土地を現に利用しているといっても、土地を放置しているのと大差がないケースもあると考えられる(例えば、土地に資材を置いたまま放置しているケースも、土地を現に利用していることには違いないとも考え得る。)ことからすると、所有者が土地を現に利用していれば一律に管理人の選任を否定するような要件の在り方は適切でないと思われる。
そして、本文のように「管理が不適当であること」を要件とすれば、所有者の利用形態は当然に考慮されるものと解される。
他方、所有者の意見については、発令の場面での一つの考慮要素となるものではあるが、より重要なのは、管理不全土地を処分する場面であると考えられる。そこで、後記本文(2)③において、管理不全土地を処分する場面における裁判所の許可に際し、所有者の意見を反映させるための規律の修正を行っている。
(2) 第20回会議では、本文からは、相当性の要件が課せられているのかどうかが明確でないのではないかとの意見があった。
管理不全土地上の建物に居住しているなど、所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては、仮に管理命令が発せられたとしても、管理不全土地管理人による管理を継続することが相当でないものとして(後記本文(6)②)、結局は管理命令を取り消すこととなることが多いと思われる(なお、管理人が不当な妨害を受けた場合には、固有の管理権に基づく妨害禁止を求め得ることは後記本文(2)の補足説明3参照)。そして、そのようにして管理命令が取り消されることが当初から予想される場合であれば、管理命令を発すること自体が必要性のないものとして、管理命令が却下されることとなると思われる。
このように、あえて相当性の要件を本文で明示せずとも、管理命令を発することが相当でない場合には本文に掲げた要件を当然に満たさないと考えられる。
他方で、相当性の要件を別途掲げるとすると、これが必要性等の要件とは切り離された独立の要件であるようにも見え、その意味内容等が問題となるように思われる。
そこで、本文では、相当性の要件を明示することはしていない。
(3) 第20回会議では、「土地の管理が不適当であることによって」という要件について、不可抗力によって侵害状態が生じた後に適切に対応しないケースは、適用場面に含まれないように見えるので、この「によって」という文言によって因果関係を要件とすることは避けるべきでないかとの指摘があった。
もっとも、この文言によって、管理の不適当と侵害状態との間に一定の因果関係が必要となるとしても、その因果関係は、管理の不適当と過去の侵害状態の発生との間に必要となるわけではなく、管理の不適当と現在の侵害状態の継続との間に因果関係があれば足りると考えられる(そのため、本文では、「…おそれが生じた場合」ではなく、「…おそれがある場合」という文言を用いている。)ことから、不可抗力によって侵害状態が生じた後に適切に対応しないケースについても、本文の規律は適用されると解される。
反対に、「によって」という文言を外すとすると、現実にはあまり想定し難いものの、管理の不適当と侵害状態とが全く無関係な場合であっても本文の規律が適用されるようにも見えかねないように思われる。
したがって、この点については、前回の提案を維持している。
3 (注)について
管理不全土地管理命令に関する事件は、非訟事件に該当するので、非訟事件手続法第2編(非訟事件の手続の通則)が適用されることとなるが、個別事件の規定については所要の規定を整備することとなる。
なお、管轄については、所有者不明土地管理命令に関する事件と同じく、裁判を求める事項に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属するものとすることを記載している。
(2) 管理不全土地管理人の権限
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
② 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
ア 保存行為
イ 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
③ 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可は、その所有者が異議を述べない場合に限り、することができる。
(補足説明)
1 本文①及び②について
(1) 第20回会議では、①のような規律を置くことについては、賛成の意見もあったが、この規律を置くことで、管理人が処分権限を有するのが原則であるかのように読めるのではないか、また、②における善意の対象に紛れが生ずるのではないかとの指摘もあった。
部会資料50(4ページ)で記載したように、①の規律を置くとしても、②の制限の規律についても併せて設けることで(後記2参照)、管理人が一般的に処分をすることができるわけではないことが明確になると考えられることから、①の規律については維持している。
もっとも、②における善意の対象が紛れるのではないかとの指摘にも配慮し、②のただし書については、所有者不明土地管理人の権限の規律(前記本文1(2)②)と同じく、「この許可がないことをもって」と修正している。
また、①の規律を置くことに消極な意見の趣旨は、管理人が処分を許される場合は限定的であるべきである旨をいうものとも思われる。そこで、この意見にも配慮し、後記2のとおり、本文③の規律を新たに設けることとしている。
(2) 第三者の保護要件に関して、部会資料50では、善意に加えて「無過失」とする考え方も提示していたところ、第20回会議では、無過失を不要とすることに賛成の意見があったが、これについて慎重な意見もあった。
管理不全土地管理命令は、所有者が判明しているときであっても発令されることがあることや、土地の管理処分権を管理不全土地管理人に専属させていないこととのバランスなどを考慮すると、管理不全土地管理制度においては、土地所有者の静的安全に一層配慮した規律とすることが望ましいように思われる。
そこで、本文②では、無過失を第三者の保護要件とする考え方を提示している。
2 本文③について
部会資料50(3ページ)では、管理不全土地管理人による処分行為が認められる場合を、所有者の明確な同意があるケースと、明確な同意がないが所有者に実質的な損害が生じないケースとに分けて整理し、いずれにしても、所有者の意見が重要な考慮要素となる旨を記載していた。
第20回会議では、このような整理自体には異論はなかったものの、管理命令の発令に関し、所有者の意見が重要な考慮要素となることが文言上は現れていないことから、その旨を明示すべきではないかとの意見があった。
所有者の意見は、発令の場面での一つの考慮要素となるものではあるが、所有者の意見がより重要になるのは、管理不全土地を処分する場面であると考えられる。
また、前記1(1)のとおり、管理人が処分を許される場合は限定的であるべきである旨の指摘もあった。
そこで、これらを踏まえ、管理不全土地を処分する場面における裁判所の許可に際し、所有者の意見を反映させるために、本文③では、「管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可は、その所有者が異議を述べない場合に限り、することができる。」という規律を設けることとしている。
3 管理人が管理の妨害を受けた場合について
部会資料50(5ページ)では、所有者が管理人による土地の立入りを不当に拒んだりすることは、管理権侵害であり、管理人は、管理権侵害を理由に、訴訟において妨害排除を求め得ることも記載していた。
これについて、第20回会議では、①妨害排除請求の基礎となる権利は何であり、このような請求をできるのはどのような場合か、②管理権限の範囲内では、管理人に当事者適格があるのか、③訴訟においては所有者の所有権から主張立証する必要があるのか、といった点について確認を求める指摘があった。
本文①のとおり、管理不全土地管理人は土地の管理処分権を有するので、この権利が妨害排除請求の基礎となると解される。
また、管理不全土地管理人が土地の管理処分権を有するとすると、訴訟の当事者適格も有することになるかが問題となる。例えば、所有権の確認訴訟などで、所有者のためにその管理不全土地管理人が当事者(訴訟担当)となるのかが問題となり得るが、このようなケースでは、所有者不明土地管理命令が発せられた場合とは異なり、土地所有者の管理処分権が制限されるわけではなく、土地所有者を被告として訴訟提起をすることができるし、管理不全土地管理人が被告として訴訟を追行し、その訴訟の結果を所有者に及ぼすことは相当ではないと考えられる。
また、管理不全土地管理人は土地の処分権を有するものの、許可を得なければ処分権を行使することができないので、処分権があることを前提に当事者適格を認めることはできない。そのため、管理不全土地管理人は、所有者を本人とすべき類型の訴訟では、当事者適格を有しないと解される(裁判所の許可を得れば、処分権を有するので当事者適格を有することになるが、通常は許可されないと思われる。)。
他方で、管理不全土地管理人が自己の管理権を侵害されたことを理由として妨害排除を求めるケースでは、飽くまで自己の権利を行使するものであり、管理不全土地管理人は当事者適格を有すると解することも考えられる。なお、管理不全土地管理人が裁判所の許可を得て訴訟を追行する場合に、特定された所有者の所有権も主張立証の対象となるとの解釈をする必要はないように思われる。
(3) 管理不全土地管理人の義務
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50本文(3)アと同じである。
第20回会議では、管理人が所有者の意に沿わない管理を行わざるを得ない場合もあることから、所有者に対する善管注意義務の規律を置かないこととすべきとの意見もあった。
確かに、管理不全土地管理人による管理が土地所有者の意に必ずしも沿うものではないケースもあり得るものの、管理不全土地管理人は,土地の適切な管理を実現するために選任されるものであり、他方で、善管注意義務の相手方を土地所有者とすることは、管理不全土地の所有者の利益を害さないように行動しなければならないということを意味するものであって、管理不全土地管理人の選任の目的と相反するものではなく、この規律を置く必要はなおあるものと考えられる。
第20回会議を含むこれまでの会議でも、この規律を置くことに賛成の意見があった。
そこで、善管注意義務の規律を維持している。
(4) 管理不全土地管理人の解任及び辞任
① 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
② 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50本文(3)イと同じである。
(5) 管理不全土地管理人の報酬等
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50本文(3)ウと基本的には同じである。
なお、本文①では、「管理不全土地等から」費用の前払及び報酬を受けることができるとしているが、これは、管理人による管理の継続中に費用の前払や報酬の支払がされる場合には、管理不全土地等(予納金を含む)から支払われることが想定されることから、これが可能であることを明確にしたものである。費用及び報酬の引き当てが「管理不全土地等」に限定されるものではないことに関しては、本文②の規律で明らかにしている。
また、本文②では、従前は、報酬を含む趣旨で「費用」と記載していたが、報酬を含むことを明確化するために、「費用及び報酬」としている。
(6) 管理不全土地管理制度における供託等及び取消し
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、当該金銭を管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所在地の供託所に供託することができる。この場合において、供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
② 裁判所は、管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、管理不全土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理不全土地管理命令を取り消さなければならない。
(補足説明)
前記本文(2)のように、管理不全土地管理人は、土地所有者の異議がない場合に限り、裁判所の許可を得て、その管理に係る土地等を処分することができるものであるが、この処分等により金銭が生じた場合において、いつまでも当該金銭を保有していなければならないとすることは、合理性に欠ける。そこで、本文①は、管理不全土地管理人による供託の規律を設けることを提案している。なお、これに基づいて供託がされた場合には、その旨を所有者及び第三者において認識できるようにするために、公告することとしている。
本文②は、第20回会議で取り上げた部会資料50の本文1(3)エと基本的に同じである。
(7) 管理不全建物管理命令
① 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(③の管理不全建物管理人をいう。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。
④ (2)から(5)までの規定は、管理不全建物管理命令について準用する。
(注) 管理不全建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、適用しないものとする。
(補足説明)
第20回会議で取り上げた部会資料50の本文2(1)から(3)までと同じである。
(1) 管理不全土地管理命令の要件等
管理不全土地につき、管理人による管理を可能とするために、次のような規律を設けることで、どうか。
① 所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(③の管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
(注) 裁判所は、管理不全土地管理命令等の一定の裁判をする場合には、その対象である土地の所有者の陳述を聴かなければならない旨の規律や、これらの裁判に対する即時抗告に関する規律を設ける方向で検討する。また、裁判所が管理不全土地管理命令をする場合において、その対象である土地の所有者の陳述を聴く手続を経ることによりその申立ての目的を達することができない事情があるときは、その所有者の陳述を聴くことを要しない旨の規律についても、併せて検討する。
(補足説明)
1 提案の趣旨
現行法においては、管理不全土地による侵害又はその危険が及ぶ近隣の土地の所有者は、土地の所有者に対し、所有権に基づく妨害排除請求等を行使することができるが、管理人による管理は想定されていないので、土地について継続的な管理が必要であるケースなどには、必ずしも対応することができない。
部会資料39においては、管理不全土地の適切な管理を実現するための新たな手段として、管理人による管理不全土地管理制度を設けることを提案していたが、第17回会議においては、その方向性自体については異論がなかった。これを踏まえ、本部会資料においては、その内容を整理し、改めてその制度の創設を提案するものである。
2 本文①について
部会資料39においては、「所有者が土地を管理していないこと」を要件として提示していたが、管理を全くしていないケースだけではなく、管理をしているもののそれが適切ではないケースも問題となり得るため、ここでは、所有者による土地の管理が不適当であることを要件とすることを提案している。
なお、第17回会議においては、その要件をより絞り込んだ文言とすべき旨の指摘があった。もっとも、今回の提案は、単に他人に権利侵害等が生じているのではなく、土地の管理が不適当であることを要件としており、他人に権利侵害等が生じたことのみによって安易に管理人が選任されるといった事態は生じないものと解される。
3 本文②について
所有者不明土地管理制度(部会資料43)についてではあるが、第18回会議では、土地にある動産の管理は、土地の管理に必要な範囲で管理人が行えば足りるのであるから、土地とその土地にある動産とを同列に並べるような規律ぶりは避けるべきではないかという指摘があった。
この指摘は、管理不全土地管理制度における動産の取扱いに関する規律にも当てはまると考えられる。
そこで、本文②では、管理不全土地管理命令の対象は飽くまでも土地であることを前提としつつ(本文①参照)、その効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ旨の規律を設けることを提案している(なお、これと同様の規律を所有者不明土地管理制度においても設けることを検討することが考えられる。)。
4 土地の所有者の陳述聴取等について
部会資料39の本文第2の1(1)ア(注)では、土地の所有者の手続保障を図るための規定を設ける旨を注記し、同(4)では、緊急の対応が求められるケースを念頭に、陳述聴取の例外を設けることを提案していたところ、第17回会議においては、これに賛成する意見があった。
このことも踏まえ、注の前段では、土地の所有者の手続保障の観点から、管理不全土地管理命令等の一定の裁判をする場合には、土地の所有者の陳述を聴くこととし、また、即時抗告に関する規律も設ける方向で検討する旨を注記している。また、注の後段では、緊急性のある事件にも対応する観点から、裁判所が管理不全土地管理命令をする場合において、その対象である土地の所有者の陳述を聴く手続を経ることによりその申立ての目的を達することができない事情があるときは、当該所有者の陳述を聴くことを要しないとすることについても併せて検討する旨を注記している。
(2) 管理不全土地管理人の権限等
管理不全土地管理人の権限等について、次のような規律を設けることで、どうか。
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
② 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、これをもって善意で〔かつ過失がない〕第三者に対抗することができない。
一 保存行為
二 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
(補足説明)
1 管理人の処分権限等
(1) 処分権限を認めることについて
部会資料39本文第2の1(1)イでは、管理不全土地管理人は、保存行為及び性質を変えない範囲内における利用改良行為をすることができるとすることを提案していたところ、これについては異論がなかった。
また、保存行為等を超える行為については、裁判所の許可を得てこれをすることに賛成する意見があった。これに対して、処分行為まで認めることについては、土地の所有者の財産権の保護の観点から、反対する意見もあった。
もっとも、このような反対の意見を前提としても、土地の所有者に実質的に損害が生じない場合にまで、保存行為等を超える行為をすることを一律に否定する必要はないように思われる。
そこで、本文では、管理不全土地管理人は、保存行為及び性質を変えない範囲内における利用改良行為については、裁判所の許可を得なくてもすることができるとし、他方で、それを超える行為については、裁判所の許可を得てすることができるとしている。
(2) 処分行為が認められる場合について
保存行為等を超える行為については、最終的には、個別の事案ごとに、土地の所有者に実質的に損害が生じないかどうかを中心に裁判所がその許可の適否を判断することになるが、土地を売却するなどの処分行為については、例えば、次のようなケースが考えられる。
ア 管理不全土地の所有者の明確な同意があるケース
管理不全土地管理人において処分行為が必要であると判断し、管理不全土地の所有者が管理不全土地管理人に対して明示的に処分行為に同意をしているケースでは、その処分行為等を否定する理由は特にないので、基本的に認められると解される。
イ 管理不全土地の所有者の明確な同意がないケース
管理不全土地管理人による処分行為について管理不全土地の所有者の明確な同意がないケースで処分行為を許可するに当たっては、費用等の負担の観点から管理不全土地管理人による管理を継続することが相当でないが、単に管理不全土地管理命令を取り消して土地の管理を所有者に戻したのでは土地の管理不全状態が解消されず、他人に損害を与えるおそれがあることなど、管理不全土地について処分行為をする必要性が要求される。
その上で、処分行為がされても、管理不全土地の所有者に実質的な損害が生じないことが必要となるが、そこでは、実際に土地を使用することができなくなることによって所有者に損害が生じないのかという問題と、処分の対価が適正であるかという問題とがある。
管理不全土地上の建物に居住しているなど、所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては、処分行為によって所有者に著しい損害が生ずることとなるので、裁判所は基本的に許可をすることができない(そもそも、このケースでは、土地を管理人に管理させることが適切ではなく、相当性を欠くので、管理命令が発せられないことが多いように思われる。)。他方で、所有者が当該土地上にゴミを放置しているのみであるなど、その土地を実質的に使用しておらず、その土地を使用することができないこととなってもその生活等に特段の支障が生じないケースにおいては、許可が認められることがあると考えられる。また、処分行為の対価が適正である必要がある。
いずれにしても、管理不全土地の所有者の意見は、上記の判断をする上で、重要な考慮要素になると解される。
2 管理不全土地管理人による管理等の対象となる財産について
第17回会議においては、管理不全土地管理人が土地の処分等によって得た財産(価値転化物)が管理等の対象となるのかが明確でないとの指摘があったが、ここでは、管理不全土地管理命令の対象である土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産に加えて、価値転化物等の管理人が得た財産も対象となることを明記している。
なお、管理不全土地管理命令が取り消された場合には、管理人が、その土地等をその所有者に引き渡さなければならないこととなるのは、所有者不明土地管理命令が取り消された場合と同様である。また、所有者がその受領を拒絶する場合など、民法第494条の要件を満たす場合には、同条に基づき弁済供託をすることができると考えられるが、この弁済供託の規律とは別に、所有者不明土地管理命令と同様に、供託に関する特段の規律を置く必要があるのかについては、引き続き検討する。
3 法的構成等について
管理人がそもそもどのような権限を有しているのかを明確にするため、本文①では、管理人の権限を明記した上で、保存行為等を超えるものについては、裁判所の許可を要するとしている(このことによって、本文②が本文①の権限を制限するものであることが明確となり、本文②ただし書(後記補足説明4)の第三者保護規定で対抗することができないものが何かも明確になるものと解される。)。
また、裁判所の許可を得ずに、保存行為等を超える行為をしても、土地の所有者に対して効果が生じないことを前提としている。所有者不明土地管理制度では、そのことを「無効とする」との文言で表現していたが、裁判所の許可を要件とする民法上の他の制度においては、無許可では効果が生じないことはある意味で当然のことであり、そのような文言は特に用いられていないため(民法第859条の3参照)、本部会資料でも、「無効とする」との文言は用いていない(所有者不明土地管理制度についても同様にするのかは改めて検討する予定である。)。
4 第三者(取引の相手方)の保護の規定について
管理不全土地管理人が、裁判所の許可を得るべき行為をその許可を得ずにした場合には、その行為が上記のとおり原則としては無効となるにしても、取引の安全の観点から、取引の相手方を保護するための規律を設けることが考えられる(管理不全土地管理人は、所有者不明土地管理人と同様に、自己の名で行為をするものであり、その権限は代理権そのものではないとすると、表見代理の規定は直接適用されないと考えられる。)。
そこで、本部会資料では、善意(又は善意無過失)の第三者には、本文②本文の制限を対抗することができないとすることを提案している。
なお、第三者の保護要件に関し、所有者不明土地管理制度と同様に、善意であれば足りるとすることも考えられるが、所有者不明土地管理制度では、土地の処分権限が管理人に専属していることなどから、取引の安全をできるだけ保護する観点から無過失を要件としないことを提案していたのに対し、管理不全土地管理人には処分権限が専属しないことや、表見代理の規定とのバランス等を考慮し、少なくとも、ここでは、善意無過失を要件とすることも考えられる。
また、ここでは、表見代理の規定などと同様に、「第三者」との表現を用いている。
表見代理の規定では、「第三者」は、代理人が取引をする直接の相手方を指すと理解されており、ここでも同様に相手方を意味すると理解して、相手方以外の第三者は、例えば、民法第94条第2項を類推適用して処理すると整理することも考えられるが、その解釈の在り方を検討するに際しては、善意であれば保護されるとするのか、それとも無過失まで要求するのかも踏まえて検討する必要があるように思われる。
5 必要な処分(給付を命ずる処分)に関する規律を置くことの是非について
部会資料39の本文第2の1(3)では、管理不全土地管理人が管理を拒まれた場合の対応として、裁判所が土地の引渡しその他の給付を命ずる処分をすることができるとすることを提案していたが、第17回会議では、概ね賛成との意見があった一方で、土地の所有者の権利への配慮の観点から、慎重に検討すべきとの意見もあった。
改めて検討すると、そもそも、土地の所有者が管理不全土地管理人による管理を拒む行為をすることが想定されるケースでは、管理不全土地管理人に管理をさせることが相当ではなく、物権的請求権等の他の方策により是正すべきとも思われることから、そのような阻害行為が想定されるケースの多くは、相当性を欠くとして管理不全土地管理命令が発令されないと考えられる。
また、管理不全土地管理命令が発せられ管理不全土地管理人が選任されたが、その土地の所有者が管理不全土地管理人による土地の立入りを不当に拒んだりすることは、管理人の管理権を侵害するものであり、管理人は、管理権侵害を理由に、訴訟においてその妨害行為の停止を求めることができるし、緊急を要するケースでは、民事保全を活用することも考えられる。
これらを踏まえ、本部会資料では、必要な処分(給付を命ずる処分)に関する規律を置くことについては、提案していない。
(3) 管理不全土地管理人の義務等
管理不全土地管理人の義務等につき、次のような規律を設けることで、どうか。
ア 管理不全土地管理人の義務
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
② 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
イ 管理不全土地管理人の解任等
① 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
② 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
ウ 管理不全土地管理人の報酬等
① 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
② 管理不全土地管理人の管理に要した費用は、管理不全土地管理命令の対象とされた管理不全土地等の所有者の負担とする。
エ 命令の取消し等
裁判所は、管理すべき財産がなくなったときその他管理を継続することが相当でなくなったときは、申立人、管理不全土地の所有者又は管理不全土地管理人の申立てにより又は職権で、管理不全土地管理命令を取り消さなければならない。
(補足説明)
1 本文アについて
本文ア①は、部会資料39本文第2の1(1)ウと同じである。
また、管理不全土地管理命令は、共有持分を単位として発せられるものではないが、その対象となる土地が複数人の共有に属する場合には、特定の共有者の利益を犠牲にして他の共有者の利益を図るような行為をすることは適当でないと考えられる。そこで、本文ア②では、新たに、誠実公平義務を設けることを提案している。
2 本文イ及びウについて
部会資料39本文第2の1(1)エ及びオと、基本的に同じである。第17回会議においては、特段の反対意見はなかった。
3 本文エについて
部会資料39本文第2の1(1)カと基本的に同じであるが、「管理すべき財産がなくなったとき」を取消事由として明示している。
管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産は、管理に要した費用に充てられる(本文(3)ウ)。そして、その残財産がその所有者に引き渡されるなどして、管理の対象財産がなくなったときは、管理不全土地管理人による管理の対象がなくなるので、管理を継続する必要がないと考えられる。
そこで、管理すべき財産がなくなったときその他管理を継続することが相当でなくなったときを、取消事由とすることを提案している。
2 管理不全建物管理制度
(1) 管理不全建物管理命令の要件等
管理不全建物につき、管理人による管理を可能とするために、次のような規律を設けることで、どうか。
① 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(③の管理不全建物管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。
② 管理不全建物管理命令の効力は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
③ 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。
(補足説明)
1 本文①について
部会資料39の本文第2の2では、管理不全建物管理制度を設けることについては、管理不全土地管理制度や所有者不明建物管理制度の検討を踏まえて引き続き検討することを記載していたところ、第17回会議においては、この方向性には特段の異論はなかった。
管理不全建物についても、管理不全土地と同様に、現行法上の物権的請求権などの仕組みだけでは必ずしもまかないきれないケースもあると考えられる。また、借地上の空家が管理不全となっている場合の問題も指摘されているところであり、土地の所有者と建物の所有者が異なるケースにも対応するためには、管理不全土地管理制度とは別に、管理不全建物管理制度を設ける必要があると考えられる。
なお、所有者不明建物管理制度については、部会資料44で、所有者不明土地管理命令が発せられていることを要件とするかどうかなど、複数の案を提案していたところ、建物について独自に管理命令を発する必要性の観点から、所有者不明土地管理制度とは別に、所有者不明建物の管理制度を独立して設けること(甲案)に賛成の意見が比較的多かったことを踏まえ、所有者不明建物の管理制度を独立して設ける方向で検討している。
そこで、本文では、管理不全建物について、利害関係人の請求により、裁判所が管理不全建物管理人による管理を命ずる処分をすることを可能とする規律を設けることを提案している。
なお、その要件については、管理不全土地管理命令の要件と同様であるから、前記本文1の補足説明を参照されたい。
2 本文②について
管理不全建物管理命令が、借地上にある管理不全建物について発せられるケースもあるが、この場合に、管理不全建物管理人に借地権に関する権限を認めないとすると、その適切な管理に支障を来すおそれがある。
そこで、管理不全建物管理命令の効力は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に加え、当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶとすることを提案している。
なお、この場合も、賃料の支払義務を負うのは、土地の賃借人(建物の所有者)であって、管理不全建物管理人ではない(部会資料44の5ページ参照。なお、管理不全建物管理人は、訴訟の当事者適格を有するものではないことについては、管理不全土地管理人に関する部会資料39の17、18ページの記載を参照。)。また、管理不全建物管理人は、建物を管理するために、裁判所の許可を得て、管理する財産から賃料の支払をその判断ですることはできると解される。
(2) 管理不全建物管理人の権限、義務その他の規律
管理不全建物管理人の権限、義務その他の規律としては、管理不全土地管理人についての本文1(2)及び(3)と同じ内容の規律を設けることで、どうか。
(補足説明)
1 提案の趣旨
前記のとおり、管理不全建物管理制度は、管理不全建物についても現行法上の物権的請求権などの仕組みだけでは必ずしもまかないきれないケースがあると考えられることから、管理不全土地管理制度の創設と同様の観点から、建物の適切な管理を可能とする仕組みを設けるものである。
そのため、建物について固有の検討をしなければならない点(上記本文②における敷地利用権の取扱い)を除いて、基本的には、その制度設計としては、管理不全土地管理制度と同じものとすることを想定している。
そこで、本文では、管理不全建物管理人の権限、義務その他の規律としては、管理不全土地管理人についての本文1(2)及び(3)と同じ内容の規律を設けることを提案している。
2 管理不全建物の取壊しについて
第17回会議においては、管理不全建物を取り壊すことの可否について確認を求める意見があった。
管理不全建物の取壊しは、建物の売却などと同じく、処分行為に該当するので、管理不全土地を処分する場面(本文1(2))と同様の規律が適用され、裁判所の許可が必要となることを想定している。
問題は、実際にどのような場面で取壊しをすべきかであるが、最終的には管理不全建物管理人及び裁判所の個別の判断であるものの、建物の所有者の財産上の利益を害する程度が一般的には大きいことから、慎重に検討すべきものであると解される。そのため、実際に認められるのは、建物の所有者が同意をしているケースや、建物が廃墟となっていて倒壊の危険があるなど、その建物を全く使用することができず、修繕をすることもできないケース、取壊し費用に比して修繕費用が高額となるケースなど限定的な場面であると思われる。
また、実際上の問題として、費用の捻出をどのようにするのかが問題となる。申立人が予納金の形で一時的に負担し、後に回収することも考えられるが、実際に回収ができる見込みがなければ申立人がこれを負担しようとしないこともあり得ると思われ、そのことを踏まえると、費用の面から見ても、管理不全建物管理人等が取壊しの方法を選択する場面は限定的ではないかと思われる。
(3) 区分所有法における専有部分及び共用部分について
管理不全建物管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、対象としないとすることで、どうか。
(補足説明)
区分所有者による専有部分等の管理が不適当である場合には、区分所有建物の管理に支障を生ずることもあり得る。
しかし、建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合又はそのおそれがある場合にまで至っていれば、他の区分所有者の全員又は管理組合法人はその行為の停止措置等を請求することができる等とされており(建物の区分所有等に関する法律第57条から第59条まで)、一定の対応をすることができる。
また、所有者不明建物管理制度に関する部会資料28(8ページ)でも記載したように、区分所有法制の在り方については、当部会における共有制度の見直しの帰結も踏まえつつ、別途、区分所有関係の実態を踏まえて検討されるべきものと考えられる。
そこで、区分所有建物の専有部分等については、管理不全建物管理制度の対象から除外することとし、区分所有者によって適切な管理のされていない区分所有建物への対応については、区分所有者の所在不明によって適切な管理がされていない区分所有建物への対応と併せて、区分所有法制の在り方の観点から検討されるべき将来的な課題とすることが考えられる。
【甲案】 相隣関係上の規律として、次の規律を設ける。
他の土地【又は他の土地上の工作物若しくは竹木】に瑕疵がある場合において、その瑕疵により自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがあるときは、その土地の所有者は、他の土地に立ち入り、損害の発生を防止するため必要な工事をすることができる。
【乙案】 管理措置請求制度に関する新たな規律は設けない。
(注1) 甲案とは別に、相隣関係上の規律として、次の規律を設けるとの考え方もある。
他の土地【又は他の土地上の工作物若しくは竹木】に瑕疵がある場合において、その瑕疵により自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがあるときは、その土地の所有者は、他の土地【又は他の土地上の工作物若しくは竹木】の所有者に、損害の発生を防止するために必要な工事をさせることができる。
(注2) 甲案を採用するとした場合、他の土地に立ち入るための手続については、部会資料46第1で提案している隣地使用権の規律を参考に引き続き検討する。
(補足説明)
1 物権的請求権との関係等
管理措置請求制度に関する提案は、いわゆる物権的請求権とは別に、相隣関係上の規律として、土地に一定の瑕疵がある場合における是正措置に関する規律を設けるというものである。
物権的請求権自体の明文化は、土地以外の財産にもその影響が広く波及するものであるし、後述のとおり学説上見解が分かれているため、行わないこととしているが、物権的請求権と別に規律を置くとしても、その関係を整理する必要がある。
(1) 物権的請求権の内容
第17回会議で指摘があったとおり、物権的請求権は、所有権等の侵害状態があれば、その作出につき相手方に帰責事由があるかどうかにかかわりなく成立すると解されている。
そして、その内容に関しては、学説上、相手方の積極的な行為(物の返還・妨害物の撤去・妨害予防工事など)を請求するものと考える行為請求権説と、請求者が自ら回復又は予防のための措置を講ずることを相手方が受忍すべきことを求めるものにすぎないと考える忍容請求権説とがある。行為請求権説では、請求者が代わりに妨害予防工事をすると、その費用は相手方が負担することになり、他方で、忍容請求権説では、請求者が妨害予防工事をすると、その費用は請求者が負担することになると解されている。
もっとも、忍容請求権説においても、侵害状態の作出につき相手方に帰責事由があり不法行為が成立すれば、損害賠償請求によって実質的に費用の返還を求めることができるため、費用負担において両説に実質的な違いが生ずるのは、侵害状態の作出につき相手方に帰責事由がないケースである。
学説上は、行為請求権説の立場から、この帰責事由がないケースにおいても、物権的請求権は侵害状態を作出したことの責任を問うものではなく、相手方の所有物が自己(請求者)の所有権等の侵害状態を継続しているという違法について責任を問うものであり、侵害状態を継続している相手方に行為義務を課し、費用を負担させるべきであるとの考え方が有力に主張されている(この考え方をとるものの中には、原則として相手方に費用を負担させることとしつつ、諸事情を総合的に考慮して、請求者に費用の負担を命ずることができるとするものもある。)が、他方で、そのような考え方をとることに慎重な意見もある。文献においては、大審院の判例(大判昭和12年10月9日民集16巻1881頁)が、傍論ではあるものの、いわゆる不可抗力によって違法状態が生じたケースには、相手方に積極的な行為義務はないと判示していると理解するものもあるが、この判例の理解や射程等については様々な議論があると解される。
(2) 部会資料39の第1の1の【甲案】及び【乙案】(本部会資料(注1)の考え方)について
部会資料39の第1の1の【甲案】及び【乙案】では、他の土地に起因して、土地に損害等が及び所有権の侵害状態が生ずれば、その侵害状態の作出について他の土地の所有者に帰責事由がないとしても、他の土地の所有者は積極的な行為義務を負う案を提示していた。また、この【甲案】及び【乙案】のとおり行為義務を課すと、基本的には、その行為に要する費用は、他の土地の所有者が負うことになるが、それを是正するために一定の事情があれば請求をした側に費用の負担を命ずることができるとする案や、費用を折半とする案を併せて提示していた(部会資料39の第1の3参照)。
この【甲案】及び【乙案】は、前記(1)の行為請求権説と実質的に同じ方向を示すものであり、第17回会議では、このような【甲案】に賛成する意見が複数出されたところである。
他方で、この【甲案】及び【乙案】は、前記(1)の忍容請求権説とは基本的には両立が難しいと思われる。
確かに、物権的請求権の議論においては忍容請求権説の立場をとる可能性を残しつつ、今回検討している土地所有者同士のトラブルについては、例えば、土地の所有者の責務を強調することで、物権的請求権とは別の相隣関係上の規律として、帰責事由の有無等に関係なく、他の土地の所有者に行為義務を課し、(一定の是正措置を組み込みつつ、)費用を負担させると整理することもあり得なくはないと思われる(場面は違うが、民法第216条は、水流に関する工作物に限って、帰責事由がないケースを含め、その所有者に予防工事等の行為義務を課している。)。
しかし、所有者の責務を強調したとしても、そのことから直ちに帰責事由の有無に関係なく費用を負担させるとの結論になるものではない。また、忍容請求権説をとる立場は、他の土地の所有者が負う義務は土地の工事を受忍することにとどまり、費用を負担するのは飽くまでも工事を行う側の土地所有者であると解することになるが、相隣関係上の規律として他の土地の所有者に行為義務を課すことは、その行為を行うために生ずる費用を基本的に他の所有者に負担させることを意味するため、物権的請求権における解釈と相隣関係上の規律との間に矛盾が生ずるおそれがある(同一の事象について、物権的請求権を行使した場合と相隣関係上の権利を行使した場合とで費用の負担において反対の結論になってしまいかねない)と思われる。
このように、部会資料39第1の1の【甲案】及び【乙案】は、物権的請求権の議論と両立しない可能性があるため、物権的請求権の内容については引き続き解釈に委ねつつ、土地所有者同士のトラブルに関し、物権的請求権の解釈と両立しない可能性がある規律を導入することは難しいと思われる。第17回会議では、このような甲案及び乙案を採用することに慎重な意見もあった。
以上を踏まえ、本部会資料では、部会資料39第1の1の【甲案】及び【乙案】の考え方は、(注1)に記載するにとどめ、他の案を中心に検討することを提案している。
2 提案の内容等
(1) 【甲案】について
ア 提案の趣旨等
民法第二編第三章第一節第二款「相隣関係」には、隣地の使用権や通行権、水流等、さらには境界などに関する規定が置かれているが、土地所有者同士のトラブルは、これらに限られるものではなく、実際には、土砂の崩落や工作物の倒壊などのトラブルが生じている。
このようなケースでは、自己の土地を保全するために、土地の所有者は、他の土地に立ち入り、土砂や工作物の撤去などをする必要が生ずるが、他の土地やその上にある土砂等は、自己の所有物ではないため、他の土地への立入りや土砂等の撤去を認める権利がなければ、それらを実施することはできない。
そこで、本部会資料の【甲案】として、相隣関係上の権利として、他の土地の瑕疵により自己の土地に損害が生じ、又はそのおそれがある場合には、その土地の所有者は、他の土地に立ち入り、予防工事をすることができることを認める案を提示している(予防工事の費用負担については後述)。
ここでは、権利発生要件となる事由を網羅的に列挙することが困難であると思われるため、他の土地に瑕疵(土地に欠陥があること、すなわち土地が通常有すべき安全性を欠如していることを意味する。)があることを要件とすることとしている。
なお、平成29年法律第44号による改正により、売買契約のいわゆる瑕疵担保責任の規律(改正前の民法第570条)から「隠れた瑕疵」という文言が削除されたが、引き続き、物の瑕疵という概念は民法に存在しており(第346条、第661条を参照)、物の瑕疵とは物に欠陥があること(通常有すべき性質を欠くこと)をいうものと解されている。
イ 物権的請求権との関係
(ア) 他の土地の瑕疵によって自己の土地に損害が生じている場合には、本部会資料の【甲案】によれば、相隣関係上の権利として、土地の所有者は他の土地に立ち入って工事をすることができるが、その一方で、所有権に基づく物権的請求権も有することになる。
前記1(1)のとおり、物権的請求権の内容については行為請求権説と忍容請求権説とがあり、本部会資料の【甲案】は忍容請求権説と親和的な相隣関係上の権利を創設するものであるが、所有権を侵害されている者が自ら他の土地に立ち入って予防工事を実施すること自体は、費用の負担と切り離して観念することができるから、行為請求権説をとる立場からも、所有権を侵害されている者が自ら予防工事を実施することができるとする相隣関係上の権利を創設することは許容されると解される(費用負担については後記ウ参照)。
(イ) これに関連して、相隣関係上の権利と物権的請求権とが併存する場合の両者の関係も問題となるが、いずれも成立する場合には、両者のいずれを行使するのかは、土地の所有者の判断に委ねることが考えられる。
物権的請求権の内容は引き続き解釈に委ねられるため、最終的には、個別の事案ごとの判断となるが、物権的請求権の内容として行為請求権説をとるとすると、土地の所有者は、物権的請求権に基づいて予防工事の実施を隣地の所有者に請求することができるし、その請求をせずに、【甲案】のとおり自ら予防工事を実施することもできることになる。他方で、物権的請求権の内容として忍容請求権説をとると、いずれにしても、自ら予防工事を実施することになる。
(ウ) 他方で、物権的請求権を有するのであれば、【甲案】のとおり相隣関係上の権利を別途認める必要はないとして、これを否定する見解も考えられる(本部会資料の【乙案】参照)。
もっとも、物権的請求権があるといっても、具体的にどのような行為をすることができるのかについて解釈が分かれており、行為請求権説をとる限り、土地の所有者が他の土地に自ら立ち入って工事を実施することはできないが、これを可能とする規律を設けることで土地所有者間の紛争の解決に資するとも思われる。
また、忍容請求権説をとる立場でも、民法において隣地の使用に関する明文の規定(第209条等)が置かれていることと平仄を合わせる観点から、他の土地に瑕疵がある場合の他の土地への立入り等に関する明文の規律を設けることには意義があるとも考えられる。
以上から、本部会資料では、物権的請求権とは別に、相隣関係上の権利として【甲案】の規律を設けることを提示している。
なお、部会資料39の第1の1では、不可抗力の場合に限って、相隣関係上の権利として他の土地への立入り等を認める【丙案】を提示していたが、第17回会議でも示唆があったとおり、不可抗力ではない場合の規律を設けないこととする理由の説明が困難であるため、本部会資料では提案していない。
ウ 費用の負担について
本部会資料の【甲案】では、予防工事を実施することができることを明記するにとどめており、その費用の負担については、特段の規定を置かないこととし、別途不法行為や物権的請求権の解釈に委ねることが考えられる。
すなわち、【甲案】をとって、土地の所有者が他の土地に立ち入って予防工事を実施し、費用が生じた場合において、その侵害状態の作出について他の土地の所有者に帰責事由があり、不法行為が成立すれば、土地の所有者は、その費用相当額を損害賠償として請求することができる。
また、物権的請求権の内容について行為請求権説をとるのであれば、その予防工事を行う義務を他の土地の所有者が負っていると解し、不当利得や事務管理等を理由に費用の償還を請求することができることとなるが、他方で、忍容請求権説をとるのであれば、基本的には、そのような償還請求をすることはできないこととなると考えられる。
エ 具体的な実施方法
本部会資料の【甲案】は、土地の所有者が他の土地に立ち入って工事をすることを認めるものであり、他の土地の所有者の承諾の有無に関係なく、権利行使が認められる。もっとも、【甲案】をとったとしても、他の土地の所有者が立入りに対する妨害行為等を行い、これを実力で排除しなければ権利を実現することができないケースでは、裁判所の判決を得ることなく実力で排除することは、一般的な私法上の権利と同様に、認められないと解される(このようなケースでは、妨害行為の差止めの判決を得て権利を実現することになる。)。
なお、このこととの関係で、他の土地に立ち入る際に、土地の所有者から他の土地の所有者に対して事前に通知等をしなくてもよいのかが問題となるが、仮に権利行使が正当であっても、急迫な事情がない限り、事前に通知すべきとも考えられる。
そこで、(注2)では、他の土地に立ち入るための手続については、部会資料46第1で提案している隣地使用権の規律を参考に引き続き検討することを注記している。
(2) 【乙案】について
本部会資料の【乙案】は、ここで問題とされるようなケースについては、現行法の解釈上認められている物権的請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権等により対処することとし、特段の規律を置かないことを提案するものである。
相隣関係上の新たな規律を設けないとしても、土地の所有者は、物権的請求権に基づき、他の土地の所有者に対する措置請求訴訟を提起して、認容判決を得た上で、これを債務名義として強制執行を申し立て、他の土地の所有者の費用で、第三者に工事をさせること等ができる(民事執行法第171条第1項、第4項)。
また、所有者不明土地管理制度や管理不全土地管理制度を設けるとすれば、他の土地が原因で自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、裁判所の関与のもと、土地管理人による他の土地の適正な管理を実現することができるとも考えられることを踏まえると、相隣関係上の新たな規律を設ける必要性は高くはないとも考えられる。
所有者又はその所在を知ることができない建物の管理に関し、新たに次のような規律を設けることについて、どのように考えるか。
【甲案】裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又はその共有持分を対象として、所有者不明建物管理人による管理を命ずる処分をすることができる。
【乙案】裁判所は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の上に所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)がある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又はその共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による建物の管理を命ずる処分をすることができる。
【丙案】裁判所は、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の上にその土地の所有者又は共有者が所有する建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、その共有持分)がある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、その申立てに係る建物を対象として、所有者不明土地管理人による建物の管理を命ずる処分をすることができる。
(補足説明)
1 各案について
第13回会議では、建物の所有者が誰であるか不明であり、土地の所有者と建物の所有者が同じであるかが分からないケースもあるのではないかという観点から、部会資料28(1(1))の甲案と乙案の中間的な案も検討をするよう求める指摘があった。
そこで、本文では、乙案として、所有者不明土地管理命令が発せられていることを要件とするが、土地と建物の所有者が同じであることは要件とせずに、所有者不明建物の管理命令を発することのできる案を提示している(甲案と丙案は、部会資料28の甲案①と乙案に対応するものである。)。
甲案と乙案・丙案とでは、土地上の建物の所有者は不明であるが、土地の所有者の所在が判明しており、土地については管理命令が発せられないケース(次のケース2)に対応できるかどうかで違いがある。
問題となり得るケースにおける各案の違いは、例えば、次のようなものである。
ケース1 土地及び土地上の建物の所有者がいずれも不特定又は所在不明であるが、建物が放置されているために、その適切な管理をすべきケース甲案では建物のみについて管理命令を発することも可能であるのに対し、乙案・丙案では、土地・建物の双方について管理命令を発する。ただし、丙案では、土地の所有者と土地上の建物の所有者が同一でなければならない。
ケース2 土地の所有者は所在等が判明しているが、土地上の建物の所有者の所在等が不明であり建物が放置されているために、その適切な管理をすべきケース甲案では、建物のみについて管理命令を発することが可能であるのに対し、乙案・丙案では、建物について管理命令を発することができない。
なお、丙案は、土地の適切な管理の観点から建物を管理するものであるのに対し、甲案は、建物自体を適切に管理することを可能なものとするものである。もっとも、甲案をとった場合でも、土地と建物双方に管理命令を発すること自体は否定されず、土地と建物の所有者が同じ者であると認定することができる場合には、丙案をとることと同様に、土地建物全体を一体として適切に管理することを認めることができると考えられる(建物の取壊しについては、後記補足説明3参照)。
2 制度の活用が想定される場面について
第13回会議においては、制度の活用が想定される場面は、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空家特措法」という。)に規定する特定空家等(同法第2条第2項)に該当するような危険な状態にある建物に限られ、建物の取壊しが前提となるのではないかとの指摘があった。
もっとも、本制度では、管理命令の対象を空家特措法上の特定空家等に該当するかどうかで区別することは想定しておらず、特定空家等に至る前の状態の建物であっても、所有者不明状態にあるのであれば、必要に応じて所有者不明建物管理人(乙案・丙案においては所有者不明土地管理人)の選任をすることがあると考えられる(なお、現行法上、特定空家等に至る前の状態の建物については、その所有者が所在不明になっているときは、地方自治体が申立人となり不在者財産管理人の選任をすることなどによって建物の管理が図られているとの指摘もされているところであり、建物の取壊しを前提とせずとも、所有者不明建物の管理人の選任の需要はあるものと考えられる。)。
3 所有者不明建物管理人(乙案・丙案においては所有者不明土地管理人)による建物の取壊しについて部会資料28の補足説明(5、6ページ)で記載したように、所有者不明建物管理人
(乙案・丙案においては所有者不明土地管理人)が自ら建物を取り壊すことは基本的には許されないものと考えられるが、建物の存立を前提としてその適切な管理を続けるのが困難なケースで、所有者の出現可能性などを踏まえても建物を取り壊したとしても建物の所有者に不利益を与えるおそれがないときであれば、管理人が、建物の取壊し(処分)について裁判所の許可を得た上で、建物を取り壊すことも可能であると考えられる。
第13回会議においては、建物を取り壊すことが可能である場合の具体例や判断基準を示すべきであるとの指摘があった。
建物の取壊しによってその所有者に不利益を与えるおそれがないといえるかを判断するに際しては、一般論としては、所有者の出現可能性のほか、建物の現在の価値、建物の存立を前提とした場合の管理に要する費用と取壊しに要する費用の多寡、建物が周囲に与えている損害又はそのおそれの程度などが総合的に考慮されるものと思われる。
例えば、建物所有者が死亡したがその相続人が全員相続放棄をし、建物が老朽化して隣地に倒壊する危険があるようなケースでは、事案にもよるが、その建物について選任された管理人による建物の取壊しを認めることがあり得ると思われる。
もっとも、第13回会議において指摘のあったように、建物が取り壊された場合には、所有者不明建物管理人(乙案・丙案においては所有者不明土地等管理人)は、建物を売却するなどしてその代金を管理に要した費用に充てることができなくなる。そのため、建物の取壊しが予定される場合には、それに要する費用などを事前に申立人に予納させる必要があると考えられるし、この予納金が納付されない場合には、建物の取壊しをすることができないので、建物についての管理命令は取り消される(又はその申立ては却下される)ことが想定される。
なお、土地とその上の建物の所有者が同じで、所有者不明状態である場合において、甲案でそれぞれ所有者不明土地管理人と所有者不明建物管理人が選任されているときや、乙案又は丙案で土地と建物に所有者不明土地管理人が選任されているときは、その所有者が建物の除却費用を負担すべきであるから、管理人が建物を取り壊し、それに要した費用に充てるために所有者不明土地管理人が更地となった土地を売却することもあると考えられる。
これに対して、土地と建物の所有者が異なり、いずれも所有者不明状態である場合において、甲案で所有者不明土地管理人と所有者不明建物管理人が選任されているときや、乙案で土地と建物に所有者不明土地管理人が選任されているときは、このような処理をすると、本来は建物所有者が負担すべき除却費用を土地所有者に負担させることとなるため、土地所有者との関係で善管注意義務違反に当たるおそれがあり、これを許すことは難しいと考えられる。
なお、乙案・丙案においては、制度上、土地と建物の一体的な管理が予定されているが、甲案をとる場合でも、土地と建物の一体的な管理が可能であることについては、前記補足説明1参照。
4 未登記建物の取扱いについて
第13回会議においては、未登記建物については、建物としての認定ができないものもあるのではないかとの指摘があった。
所有者不明建物制度は、建物について管理人に権限を専属させるとともにその旨の公示をするために建物に管理命令の登記をすることを前提とするものであるが、建物としての認定ができないのであれば、このような管理命令の登記をすることができないことから、所有者不明建物制度の対象とすることはできず、土地上の動産などとして別途検討中の所有者不明土地管理制度又は管理不全土地管理制度において取り扱うほかないものと考えられる。
未登記建物について管理命令が発せられた場合における公示方法については、引き続き検討する。
なお、未登記建物の所有者等の調査の方法は、最終的には事案ごとの判断であるが、例えば、未登記建物を差し押さえる際には、実務上、固定資産税の納付証明書や、官公庁が建築に関して交付する許可、認可、確認等の書面、地主の土地使用承諾書等を添付していると思われるが、これを参考にすると、事案に応じて、上記の書類の有無等を調査することになるように思われる。
2 土地の賃借権等の権利についての管理について
本文1で甲案をとるとした場合に、土地の賃借権等の権利の管理に関し、新たに次のような規律を設けることについて、どのように考えるか。
【甲案】土地に建物管理命令の対象とされた建物所有者のために設定された賃借権、地上権その他建物の敷地に関する権利がある場合には、所有者不明建物管理人の権限は、建物を所有するための賃借権、地上権その他建物の敷地に関する権利にも及ぶ。
【乙案】裁判所は、土地に建物管理命令の対象とされた建物所有者のために設定された賃借権、地上権その他の建物の敷地に関する権利がある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人〔所有者不明建物管理人〕の請求により、所有者不明建物管理人による賃借権等の管理を命ずる処分〔賃借権等の管理の許可〕をすることができる。
【丙案】裁判所は、賃借権、地上権その他の権利の権利者(権利が数人の準共有に属する場合にあっては、準共有持分を有する者)を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(当該権利が数人の準共有に属する場合において、準共有持分を有する者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときにあっては、その準共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その申立てに係る土地の賃借権、地上権その他の権利又は準共有持分を対象として、管理人による管理を命ずる処分をすることができる。
(注)上記各案において、土地の賃借権等の権利について管理人の権限が及ぶこととされた場合には、当該権利は管理人に専属することなど、当該権利については所有者不明建物管理命
令の対象とされた建物と同様とすることを想定している。
(補足説明)
1 提案の趣旨
本文1で甲案をとるとした場合に、部会資料28で提案していた案は、敷地利用権付きの建物について所有者不明建物管理命令が発せられたときは、所有者不明建物管理人が当然に敷地利用権の管理処分権も有するとするものであった。これは、建物を管理する際には土地に立ち入る必要もあることや、建物を譲渡する際に、敷地利用権も併せて譲渡することを可能とすべき等の指摘があることを考慮するものであった。
もっとも、第13回会議においては、①所有者不明建物管理命令が発せられたときに、賃借権などの敷地利用権が設定されているかどうかが判明しないのではないかとの指摘や、②所有者不明建物管理人が一般的に敷地利用権についての管理処分権を有するとすることについては問題が少なくないのではないかとの指摘があった。
そこで、本部会資料では、賃借権等の敷地利用権付きの建物について所有者不明建物管理命令が発せられた場合には所有者不明建物管理人が当然に敷地利用権の管理処分権も有するとする案(甲案)とは別に、賃借権等があることを確認した場合に、申立てに基づき管理処分権が及ぶとする案(乙案、丙案)を提示している。
2 賃借権等の権利についての管理人の権限
賃借権等の権利についての管理人の権限については、これを所有者不明建物管理人の建物についての権限と異なるものとすると、法律関係が複雑となるおそれがある(例えば、賃借権等の権利については管理人に権限を専属させないとすると、建物の所有権と賃借権とを一括して第三者に売却した場合に、両者の帰趨が異なる事態が生じ得ることとなる。)。また、これを別異のものとする積極的な理由もないと思われる。
そこで、上記各案においては、賃借権等の権利は管理人に専属すること、当該権利についての訴訟は管理人が原告又は被告となることなど、当該権利については所有者不明建物管理命令の対象とされた建物と同様の規律を設けることを想定している旨を注記している。
3 その他
(1) 賃料弁済義務との関係
第13回会議では、賃借権等の権利を所有者不明建物管理人の管理処分権の対象とすることと賃料の支払義務との関係について、複数の指摘があった。
賃借権等の権利を所有者不明建物管理人の管理処分権の対象とした場合には、その賃料を支払うべき義務を負うのは誰か(責任財産は何か)が問題となるが、その義務は賃借人自身が負う(賃借人の財産のみが責任財産となる)と解される。そのため、賃借人が賃料等の支払を怠っていれば、賃貸人たる土地の所有者は、その賃貸借契約を解除することができる。なお、所有者不明建物の管理人が、賃貸借契約が解除されて、建物の撤去を求められることを防止する観点から、任意に弁済をすること自体は許されると解される(民法第474条第1項及び第2項参照)が、所有者不明建物管理人自身の財産が責任財産になるものではないと解される。
(2) 訴訟の当事者適格
第13回会議では、建物の敷地に関する権利に関する訴えについても、所有者不明建物管理人を原告又は被告とする旨の規律を設ける必要があるかどうかについては、慎重に検討する必要があると考えられるとの指摘があったが、賃借権等の権利の管理処分権を管理人に専属させるのであれば、当該権利に関する訴訟の当事者適格も有すると考えることが自然であるようにも思われる。
(3) 乙案及び丙案における賃借権等を管理処分権の対象とするための申立てについて乙案と丙案のいずれにおいても、賃借権等に所有者不明建物管理人の権限が及ぶためには、利害関係人の申立てを必要としている。
例えば、所有者不明建物管理命令の申立てをする時点で、建物とその敷地利用権を一括して管理することが適切であると考えられる場合には、所有者不明建物管理命令の申立人が、所有者不明建物管理命令の申立ての際に、敷地利用権についても管理処分権の対象とするための申立てを併せて行うことが考えられる。
他方、当初は所有者不明建物管理命令のみが発せられたが、その後に建物と敷地利用権を一括して売却することが適当であると考えられるに至った場合などにおいては、所有者不明建物管理人が、敷地利用権についても管理処分権の対象とするための申立てを行うことが考えられる。
なお、乙案をとる場合に、申立てにより所有者不明建物管理人へ賃借権等の管理処分権を付与するための構成としては、賃借権等の権利を別途の管理命令の対象とするのではなく、所有者不明建物管理人の申立てによる裁判所の許可に係らしめる構成もあり得ることから、乙案の亀甲括弧ではその構成を併記している。
(4) 丙案において対象となる権利について
丙案においては、対象となる権利が敷地利用権に限られるものではない。
もっとも、丙案で提案しているものは、権利者の不明な場合にその権利者に代わって土地の管理を行う管理人を選任することで、土地の適切な管理を実現させることを趣旨とするものであるから、土地の使用を目的としない担保物権のような権利についてまで対象とすることを想定するものではない。
他方、土地の使用を目的とする権利であれば、基本的に対象となり得ることを想定している(ただし、使用借権については登記がされないので、不動産登記において管理人の権限が公示されることはない。)。
3 無権原で建てられている建物の敷地への立入り等について
建物所有者に、建物を所有するための敷地に関する権利がないとき(建物が無権原で建てられているとき)でも、所有者不明建物管理人は、建物を管理するため必要な範囲内で、その建物の敷地に立ち入ってこれを使用することができるとする特別の規律は、設けないとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料28では、同1(1)の甲案をとる場合に本文のような規律を設けることの是非について注記していたが、これについては、第13回会議では、敷地への立ち入りを正当化する根拠に乏しいなどの理由から、反対の意見が多かった。
敷地に立ち入るだけであれば、土地所有者と連絡をとるなどして適宜対応することができるケースがほとんどではないかと思われるが、土地所有者がその土地への立入りを拒むのであれば、所有者不明建物管理人は敷地へ立ち入れなかったとしてもやむを得ないと考えられる。
なお、土地所有者から同意をとることができない理由が、土地所有者が所在不明である点にあるのであれば、所有者不明土地管理命令を併せて申し立てることで対応することが考えられる。
4 区分所有法における専有部分及び共用部分について所有者が不明である場合の建物の管理命令に関する規律は、建物の区分所有等に関する法律における専有部分及び共用部分については、対象としないとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料28の本文1(2)と同様である。第13回会議において特段の反対はなかった。
ア 所有者等を知ることができない土地の管理
① 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又はその共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(②により選任される所有者不明土地管理人をいう。)による管理を命ずる処分をすることができる。
② 裁判所は、①の命令をする場合には、当該命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
(注)所有者不明土地管理に関する事件の事物管轄につき、地方裁判所だけでなく簡易裁判所にも管轄を与えることについて、どのように考えるか。
(補足説明)
1 本文(1)ア①の要件について
(1) 探索方法について
第15回会議においては、他人の所有物を管理させることから、要件としては相当厳格にすべきであり、最低限の探索方法を明示すべきという意見もあったが、他方で、具体的な調査の程度は土地の抱える事情等に応じて個別具体的に判断されることが望ましく、探索方法について特段の明示をすべきではないという意見もあった。
部会資料33の補足説明で記載したように、所有者不明土地管理制度では、裁判所が発令の要件該当性の判断をすることとなるから、必要な調査を尽くしても所有者等を知ることができない所有者不明土地に当たるかどうかについては、裁判所が事案に応じて適切に判断すべきことになると考えられるため、本文では、部会資料33の要件を維持し、探索方法について特段の明示はしていない。
なお、第15回会議においては、探索方法は曖昧にすべきではないという意見や、裁判所における実務運用上の支障がないようにすべきとの指摘もあったことを踏まえ、これまでの議論の整理が必要となると思われる。
(2) 表題部所有者不明土地について
ア 表題部所有者不明土地の所有者の探索
部会資料33の本文(1)ア(注)で記載したように、表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律(表題部所有者不明土地法)に規定する所有者等特定不能土地及び特定社団等帰属土地については、同法に基づく特定不能土地等管理命令等の規律のみを適用することを想定しているが、他方で、同法第15条第1項の表題部所有者の登記がされていないものについては、登記官における探索が開始している場合を含め、所有者不明土地管理制度に基づく管理命令がされ得ることを想定している。
この点に関連して、第15回会議においては、表題部所有者不明土地である場合に、どこまで調査をすれば所有者不明土地管理制度における所有者不明といえるのかについて、整理が必要であるとの指摘があった。
表題部所有者不明土地であっても、必要な調査を尽くしても所有者等を知ることができない所有者不明土地に当たるかどうかを裁判所が事案に応じて判断することになる点では、表題部所有者不明土地でない土地と同様である。
ただし、表題部所有者不明土地の所有者の探索の方法は、登記名義人の住所及び氏名が正常に登記されている土地とは自ずと異なってくる面がある。例えば、氏名のみの土地やいわゆる記名共有地(表題部所有者がAほか〇名とされているもの)においては、表題部所有者として登記されている者が誰であるかを把握するために、周辺土地の閉鎖登記簿や旧土地台帳を調査し、同一氏名について住所が記載されている者が存在しないかなどの調査をすることになると考えられる。
また、表題部所有者不明土地法に基づく登記官による探索(同法第3条)が開始している場合には、必要があると認められれば、裁判所の調査嘱託の方法によってその探索の経過に関する資料を入手し、これを要件該当性の判断資料として活用することも考えられる。
イ 表題部所有者不明土地法に基づく探索への影響
表題部所有者不明土地について登記官による探索が開始された後に、所有者不明土地管理命令がされた場合であっても、所有者不明土地管理命令それ自体によって土地の登記の適正化がされるわけではないことから、この管理命令が発せられたことが直ちに登記官による探索に影響を与えるものではないと思われる。もっとも、所有者不明土地管理人が土地を第三者に売却し、第三者名義の登記がされた場合や、これが見込まれる場合などは、登記官による探索を続行することは相当でないと考えられることから、登記官による探索は中止されること(表題部所有者不明土地法第17条)が考えられる。
2 所有者不明土地管理人と不在者財産管理人等との競合について
第15回会議においては、任意後見契約に関する法律第10条第3項を参考に、他の規定に基づく管理人が選任された場合における所有者不明土地管理命令の帰趨(管理の終了等)に関する規律を設けてはどうかとの意見もあった。
所有者不明土地管理人と不在者財産管理人が仮に同時に併存した場合の権限の優劣について検討をすると、所有者不明土地管理人が選任されているときは、その土地の管理処分権は所有者不明土地管理人に専属することとなる(後記本文イ①)から、不在者財産管理人がその土地について管理処分権を有することはない(不在者財産管理人の管理処分行為は効力を有しない)。その意味では、両者の優劣は明確になっているため、それ以上の手当は不要であるように思われる(所有者不明土地管理人が選任された場合には、その旨が登記される(後記本文イ④)こととしているから、不在者財産管理人において、所有者不明土地管理人の選任の事実を知らずに土地について取引行為などを行うケースは、稀であると考えられる。)。
なお、不在者財産管理人が選任されていることに気付かずに、所有者不明土地管理人が選任された場合でも、上記の点は同様である。登記記録を確認するなどし、所有者不明土地管理人が選任されたことに気付いた不在者財産管理人は、当該土地について権限を行使したい場合には、所有者不明土地管理人の選任等の取消しを求めることになると考えられる。
3 申立権者について
(1) 利害関係人
部会資料33の本文(1)ア①と同じく、利害関係人を申立権者としている。
ここでいう利害関係人とは、所有者不明土地を適切に管理するという制度趣旨に照らして判断されるものであるから、不在者の財産全般を管理し得る不在者財産管理人の選任の申立権者である利害関係人とは、その範囲が必ずしも一致するものではないと考えられる。
いずれにしても、一般論としていえば、所有者不明土地管理命令の申立権者である利害関係人としては、その土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者や、一部の共有者が不明な場合の他の共有者、その土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者がこれに当たると考えられるほか、民間の買受希望者についても、一律に排除されるものではない。
なお、この点に関連して、民間の買受希望者が申立てをしようとする場合に、登記名義人等の戸籍謄本等を取得することができるかとの指摘があったが、土地を購入する具体的計画を有する者が戸籍法第10条の2第1項に基づく第三者請求をすることは一律に否定されるわけではないものの、交付請求に至った具体的事情を勘案した上で、その判断は慎重にされるべきものと解される。
(2) 時効取得を主張する者について
第15回会議では、所有者不明土地を時効取得したと主張する者も、ここでいう利害関係人に含まれ、選任された所有者不明土地管理人を被告として訴えを提起することができるかについて、確認を求める意見があったが、取得時効が認められれば土地の所有者不明状態を解消することが可能となるため、一般論としては利害関係人に該当すると考えられる。
所有者不明土地を時効取得したと主張する者の申立てにより所有者不明土地管理人が選任された場合には、選任された所有者不明土地管理人としては、時効取得を主張する者の主張の適否を検討し、場合によっては、時効取得を主張する者から訴訟の提起を受け、その被告となって応訴し、認容判決がされた場合には、所有権の移転の登記をすることになる。その登記がされれば、管理すべき財産がなくなるので、土地管理命令が取り消される。
なお、所有者不明土地管理人が土地の所有権の移転の登記を申請する権限を有するかどうかという問題もあるが、登記義務者たる土地所有者の管理処分権の行使の一環として、このような権限も有するものと考えられる。
4 管轄裁判所について
第15回会議においては、所有者不明土地管理人の選任の申立件数が多くなると見込まれるとして、身近な簡易裁判所も管轄裁判所とすべきとの意見があった。
民事事件については、地方裁判所が基本的な第一審であり、簡易裁判所は比較的少額、軽微な事件のみを管轄することとされているところ(裁判所法第24条、第33条第1項)、所有者不明土地管理人の適切な選任や監督、場合によっては土地の売却の可否とその代金の当否などについての法的判断が必要になることに照らすと、清算人の選任事件(会社法第478条)や表題部所有者不明土地法における所有者等特定不能土地等の管理に関する事件など民事における財産管理事件を基本的に取り扱うこととされている地方裁判所においてのみ取り扱うとすることが考えられる。
これに対しては、所有者不明土地は都市部よりも地方部に多いと考えられることから、地方部にも多くある簡易裁判所にも競合して管轄を与える必要があるとの指摘がある。もっとも、地方裁判所にも支部があることや、郵送による申立ても可能であり、申立て後も含め申立人が裁判所に来庁しなければならないケースは限られると思われることから、地方裁判所のみを管轄裁判所としても、地方部に存する所有者不明土地について、地方部に居住する利害関係人が管理命令の選任の申立てをするニーズに対応することが可能であるとも考えられる。
所有者不明土地管理制度における事物管轄の在り方は、検討中の所有者不明建物管理制度や管理不全土地管理制度等にも連動し得るものであるが、どのように考えるか。
(参考)
全国の地方裁判所の数:本庁50、支部203、合計253
全国の簡易裁判所の数:438
不在者財産管理人の選任事件の新受件数(平成31年1月から令和元年12月まで)
:約3000件
相続財産管理人の選任事件の新受件数(平成31年1月から令和元年12月まで)
:約5000件
5 裁判を受ける者について
管理命令がされると、これにより管理人に選任される者の法律関係が形成されることから、管理人は裁判を受ける者に当たり、決定の告知(非訟事件手続法第56条第1項)の対象となる。
また、所有者不明土地の所有者は、管理命令により管理処分権を制限されることとなるから「裁判を受ける者」に当たると解されるが、不明となっている所有者に対して現実に告知することはできないから、失踪宣告の場合などと同様に、その決定は所有者に告知することは要しないとの特則的規律を設ける必要があると考えられる(家事事件手続法第148条第4項参照)。
なお、いずれにしても、当該土地の登記において管理命令が発せられたことは公示されるので、所在等が不明とされた所有者が当該土地を処分等する際には、それによりそのことを知ることができる。
6 その他
第15回会議では、所有者不明土地管理人となるべき者の円滑な管理の観点からは、管理の方法を限定できるようにした方がよいのではないかとの意見もあったが、部会資料33の補足説明で記載したように、そのような限定をし、権限自体を制約することは、取引の安全の観点からも、慎重であるべきであるように思われる。もっとも、裁判所が事案に応じて管理の在り方について所有者不明土地管理人に指示をすることは考えられるが、その指示の在り方については、実務運用に委ねることとするほか、他の法制を参考に何らかの形で規律を設けることも考えられる。
イ 所有者不明土地管理人の権限等
① ア①の規律により所有者不明土地管理人が選任された場合には、ア①の命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該土地の上にある動産(当該土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
② 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
a 保存行為
b 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
③ ②に違反して行った所有者不明土地管理人の行為は、無効とする。ただし、〔所有者不明土地管理人は、〕これをもって善意の第三者に対抗することができない。
④ ア①の命令があった場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、当該命令の対象とされた土地又はその共有持分について、当該命令の登記を嘱託しなければならず、当該命令を取り消す裁判があったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、当該命令の登記の抹消を嘱託しなければならない。
(補足説明)
1 本文について
部会資料33から大きな変更はない。なお、動産に関する権限の規律は、本文①の中に取り込んでいる。
2 裁判所の許可を得ないでした行為の効力
(1) 第15回会議においては、本文③の「これをもって善意の第三者に対抗することができない」とする規律について、対抗することができないことの対象は、無効であることではなく、権限が制限されていること(権限が適切に行使されていないこと)ではないかとの指摘があった。
この規律の意図するところは、所有者不明土地管理人が許可を得ないでした行為であっても、許可がないことに関して善意の第三者(行為の相手方を含む)はその有効を主張することができる(その第三者に対しては無効を対抗することができない)というものであり、その趣旨は、「これをもって善意の第三者に対抗することができない」という文言で表現されていると考えられる。
そのため、本文では、「これをもって善意の第三者に対抗することができない」という文言を維持している。
(2) 第15回会議においては、「所有者不明土地管理人は、これをもって善意の第三者に対抗することができない」との規律について、「所有者不明土地管理人は、」との文言を付すべきではないとの指摘もあった。
確かに、許可に反して当該土地が売却された場合に、それによって不利益を被るのは土地の所有者等であるから、土地の所有者等が第三者にその無効を主張することができないとすべきであり、その観点からは、「所有者不明土地管理人は、」との文言を付すべきではないとも思われる。
もっとも、所有者不明土地管理人が選任されている場合に、当該所有者自身が無効を主張するケースは稀であり、実際には、処分等をした当該所有者不明土地管理人、又は改任後の所有者不明土地管理人がその無効を主張することになると考えられるし、所有者不明土地管理人が無効を主張できないことによって結果としてその背後にいる所有者等もその無効を主張できないことになると解される。他の法制との比較の観点からも、この表現が不相当とまではいえないと考えられる(信託法第66条第5項、表題部所有者不明土地法第21条第3項など)。
3 債務の弁済について
部会資料33の補足説明(11ページ)に記載したとおり、所有者不明土地管理人には所有者の財産及び負債の状況を調査する権限がないため、土地所有者の負う債務の弁済は、所有者不明土地管理人の職務の内容に当然に含まれるものではないと考えられる。
他方で、所有者不明土地管理人が土地を売却するとともに、その代金をもって土地に設定された抵当権の被担保債務を弁済して抵当権の設定の登記の抹消登記をすることが土地の管理上相当であるケースにおいて、所有者不明土地管理人が把握し得た情報を踏まえてその債務の弁済をすることが適当であると判断される事案もあると思われ、そのような事案においてまで、所有者不明土地管理人が弁済をすることが一律に禁じられるものではないと解される(ただし、所有者不明土地等の所有者の所有に属する財産の処分に際しては、裁判所の許可が必要となる。)。もっとも、所有者不明状態になっても抵当権が実行されないまま放置されている土地につき、調査権限のない所有者不明土地管理人が、被担保債権の残額を正確に把握した上で弁済することが適当と判断することができるケースは限られるのではないかとの指摘も考えられる。
ウ 所有者等を知ることができない土地の管理の開始
所有者不明土地管理人は、就職の後直ちにア①の命令の対象とされた土地又はその共有持分の管理に着手しなければならない。
(補足説明)
部会資料33と同じである。
エ 所有者不明土地等に関する訴えの取扱い
① ア①の命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
② ア①の命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴訟手続で当該所有者不明土地等の所有者を当事者とするものは、中断する。
③ ②により中断した訴訟手続は、所有者不明土地管理人においてこれを受け継ぐことができる。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
④ ア①の命令が取り消されたときは、所有者不明土地管理人を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟手続は、中断する。
⑤ 所有者不明土地等の所有者は、④により中断した訴訟手続を受け継がなければならない。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
(補足説明)
1 訴訟手続の中断及び受継
土地管理命令が発せられると、所有者不明土地等の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属し、当該所有者不明土地等に関する訴えの当事者適格は、所有者不明土地管理人が有することとなる。
そのため、土地所有者を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟(例えば、所有者の所在が不明となっている土地が崖崩れ寸前となっているため、隣地所有者が、当該所有者を被告として、所有権に基づく妨害予防を求める訴えを提起しているような場合が想定される。)の係属中に土地管理命令が発せられた場合には、土地の所有者は当事者適格を失い、所有者不明土地管理人が当事者適格を有し、他方で、所有者不明土地管理人を当事者とする所有者不明土地等に関する訴訟の係属中に土地管理命令が取り消された場合には、土地の所有者が当事者適格を有する。
そして、これらの場合に、新たに訴訟追行をすべき者による訴訟手続への関与が可能になるまでは一定の時間を要することからすると、新たに訴訟追行をすべき者又は相手方から手続の続行を申し立てられるまでは、訴訟手続の進行を停止すべきであると考えられる。
そこで、本文では、訴訟手続の中断及び受継に関する規律を設けることを提案している。なお、この規律をどの法律に書き込むのかについては、他の法制とのバランスを踏まえて検討するべき問題であると思われる。
2 裁判所の許可の要否
第15回会議においては、訴訟行為に関する裁判所の許可の要否について、考え方の整理を求める意見があった。
所有者不明土地管理人が行おうとする訴訟行為の内容によっては、裁判所の許可を得なければならないものと考えられる。そして、不在者財産管理人又は相続財産管理人と同様に、所有者不明土地管理人が原告となって訴訟を提起する場合には、基本的には裁判所の許可が必要となるが、所有者不明土地管理人が被告となって応訴する場合には、裁判所の許可は必要ではないと考えられる。
この場合の説明の仕方としては様々な考え方があると思われるが、不在者財産管理人が応訴することについて、大判昭和15年7月16日(民集19巻15号1185頁)は、旧民事訴訟法第50条第1項(現第32条第1項)を根拠として裁判所の許可を不要としていた。他方で、旧家事審判規則第106条第1項により選任された相続財産管理人が応訴することについては、最判昭和47年7月6日(民集26巻6号1133頁)は、民法第103条の保存行為に当たることを根拠として裁判所の許可を不要としており、手続法的な説明と実体法的な説明のいずれもあるものと思われる。
オ 所有者不明土地管理人の義務
① 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない。
② 所有者不明土地等が数人の共有に属する場合において、数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理人が選任されたときは、所有者不明土地管理人は、その対象とされた共有持分を有する共有者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(補足説明)
1 善管注意義務の相手方について
第15回会議においては、所有者不明土地管理人は、必ずしも土地の所有者のために選任されるわけではないのに、善管注意義務の相手方を土地所有者とすることは、整合するのかという趣旨の指摘があった。
所有者不明土地管理人は、土地の適切な管理を実現するために選任されるものであるが、他方、善管注意義務の相手方を土地所有者とすることは、所有者不明土地管理人が土地の所有者の利益を害さないように行動しなければならないということを意味するものであって、所有者不明土地管理人の選任の目的と排斥しあうものではないと考えられる。
2 土地所有者と所有者不明土地管理人との間の利益相反行為について
第15回会議においては、土地所有者と所有者不明土地管理人との間の利益相反行為に関する考え方についての整理を求める意見があったが、所有者不明土地管理人が土地所有者の土地を自ら買い受けるような利益相反行為をすることは、その法的地位(代理人とみるかどうか)にかかわらず、民法第108条の直接適用又は類推適用により、許されないと考えられる。
カ 所有者不明土地管理人の解任等
① 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。
② 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
キ 所有者不明土地管理人の報酬等
① 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用は、所有者不明土地等の所有者の負担とする。
② 所有者不明土地管理人は、裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
(補足説明)
1 本文カについて
部会資料33本文(3)アから特段の変更はない。
2 本文キについて
第15回会議においては、管理に要した費用等を、所有者不明土地やその土地上の動産等に限らず、土地所有者の負担とする規律を設けるべきではないかとの意見があった。
所有者不明土地管理人は、土地の所有者に代わって土地を管理する者であるから、その管理費用及び報酬は、土地の所有者が負担すべきと解される。
表題部所有者不明土地法では、費用の前払及び管理人の報酬については、その対象とされた所有者等特定不能土地から支出することとされている(第27条第1項)一方で、所有者の財産一般についての負担の規定は置かれていないが、これは、所有者等特定不能土地の性質上、事後的にその所有者を特定することが期待し難いため、所有者の財産一般から費用等を回収することは予定されないことによるものと考えられる。これに対し、本文ア①の所有者不明土地について管理人が選任される場面には、管理命令の時点で所有者が特定されているケースも含まれており、また、事後的にその所有者が特定される可能性も事案によって様々であるから、所有者の財産一般から費用等を回収することができるケースもあると考えられる。これらの違いに照らすと、所有者不明土地管理制度においては、管理費用等を所有者の負担とする旨の規律を置くことが考えられる。
また、このように考えると、費用の前払及び報酬の支払原資についても、土地や土地上の動産に限定する必要はないと考えられる。
そこで、本文①の規律を設けるとともに、本文②の規律については部会資料33から修正したものを提案している。
ク 所有者不明土地の管理命令の取消し等
① 所有者不明土地管理人は、ア①の命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該土地の上にある動産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、その所有者のために、当該金銭を当該土地の所在地の供託所に供託することができる。
② 所有者不明土地管理人は、①による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
③ 裁判所は、所有者を知ることができないことを理由にア①の命令をした場合において所有者及びその所在を知ることができたとき、所有者の所在を知ることができないことを理由にア①の命令をした場合において所有者の所在を知ることができたとき、所有者不明土地管理人が管理すべき財産がなくなったとき(所有者不明土地管理人が管理すべき財産の全部が①により供託されたときを含む。)
その他命令の対象とされた土地又はその共有持分の管理を継続することが相当でなくなったときは、所有者、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、当該命令を取り消さなければならない。
④ ③によりア①の命令が取り消されたとき(所有者及びその所在を知ることができた場合又は所有者の所在を知ることができた場合に限る。)は、所有者不明土地管理人は、当該所有者に対し、その事務の経過及び結果を報告し、所有者不明土地等を引き渡さなければならない。
(補足説明)
1 土地の所有者が死亡した場合の取扱い
第15回会議においては、所有者が所在不明であるとして所有者不明土地管理人が選任されたが、その所在不明の所有者が死亡していたことが判明していた場合に、管理命令の取消事由となるのか、また、所有者不明土地管理人によって行われた処分行為はどうなるのかについて、検討を求める意見があった。
この問題は、①所有者の死亡(又は失踪宣告)によって所有者不明土地管理人の権限が影響を受けるかどうか、②所有者の死亡が取消事由に当たるか、③所有者の死亡後に相続人が判明したとして管理命令が取り消された場合に、所有者不明土地管理人が既にした行為の効力に分けられるが、それぞれ次のように考えられる。
まず、①所在不明となっていた所有者が死亡した(又は当該所有者について失踪宣告がされた)としても、所有者不明土地管理人の権限が当然に消滅するものではなく、管理命令の取消しがされるまでは、決定が効力を有するので、権限は存続しているというほかなく、その行為の効果は相続により所有者となった者に帰属すると考えられる。
次に、②所在不明となっていた所有者が死亡していたことが判明した(又は当該所有者について失踪宣告がされた)場合に、このことが取消事由となるかどうかであるが、所有者が死亡し、その相続人の存在及び所在が判明すれば、土地の所有者の存在等が判明したことになるので、取消事由になるものの、その相続人の存在及びその所在が判明しなければ、土地が所有者不明状態であることには変わりがないので、死亡が判明したことのみをもって直ちに管理命令の取消事由に当たらないと解される。
③その相続人の存在及びその所在が判明したとして管理命令が取り消された場合における所有者不明土地管理人が既にした行為の効力は、結局、管理命令の取消し一般に遡及効を認めるかどうかの問題に帰着すると考えられる。そして、管理命令が有効にされて、それを前提に取引等がされている場合に遡及的にその効力を覆滅させることは取引の安全を害するから、管理命令の取消し一般に遡及効を認めることはできないと解される(現行の不在者財産管理制度においても、取消の効果は、将来に向かって生ずるものにすぎないと解される。)。
2 その他
第15回会議では、所有者不明土地管理人が土地を売却した場合におけるその後のプロセスの確認を求める指摘があった。
所有者不明土地管理人が土地を第三者に売却した場合には、所有者不明土地管理人は、買主と共同して所有権の移転の登記をするとともに、売却によって得た代金を供託し、その上で、管理すべき財産がなくなったことを理由として土地管理命令の取消しがされ、土地管理命令の登記の抹消の嘱託がされることが想定される(一旦管理命令が取り消されると、所有者不明土地管理人であった者はその土地についての権限を基本的に有しないこととなるから、土地管理命令の取消しがされる前に、所有権の移転の登記の申請などの必要な事務が行われるべきであると考えられる。)。
1 権利の内容について
相隣関係の規律として、次の各案のような管理不全土地の所有者に対する管理措置請求制度を設けることについて、どのように考えるか。
【甲案】
他の土地における土砂の崩壊、汚液の漏出若しくは悪臭の発生又は工作物若しくは竹木の倒壊その他の事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者に、その事由の原因の除去をさせ、又は予防工事をさせることができる。
【乙案】
天災その他避けることのできない事変による他の土地における土砂の崩壊、汚液の漏出、悪臭の発生、工作物の倒壊又は竹木の倒壊その他の事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合であっても、その土地の所有者は、他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者に、その事由の原因の除去をさせ、又は予防工事をさせることができる。
【丙案】
天災その他避けることのできない事変による他の土地における土砂の崩壊、汚液の漏出、悪臭の発生、工作物の倒壊又は竹木の倒壊その他の事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、自らその事由の原因の除去又は予防工事をすることができる。
(注1)管理措置請求権が認められる要件に関して、基本的には、現行法における土地所有権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権の要件と同程度の所有権侵害が必要であることを前提としている。
(注2)本文の案とは別に、甲案の要件を満たす場合に、その土地の所有者は、自らその事由の原因の除去又は予防工事をすることができるとする考え方もある。
○試案第3の4、(1)権利の内容
隣地における崖崩れ、土砂の流出、工作物の倒壊、汚液の漏出又は悪臭の発生その他の事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、隣地の所有者に、その事由の原因の除去をさせ、又は予防工事をさせることができる。
(注1)管理措置請求権が認められる要件に関して、基本的には、現行法における土地所有権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権の要件と同程度の所有権侵害が必要であることを前提としている。
(補足説明)
1 甲案について
(1) 現行法においては、管理不全土地に対応するためには、土地の所有権に基づく物権的請求権等を行使することが可能であるが、不可抗力によって管理不全状態になった隣地等から土砂が崩壊するなどして土地に損害が及ぶ場合において、その土地所有者が管理不全土地の所有者に対して物権的請求権を行使することができるかについては争いがあり、仮にこれを否定する立場に立つと、この場面では被害者に一方的に損害を甘受させる結果になり、妥当でないとも考えられる。
そこで、試案第3の4(1)においては、隣接する土地相互の利用を調整する観点から、管理不全土地を隣地とする土地所有者を請求権者とし、その土地に損害が及び又は及ぶおそれのある場合に、管理不全土地の所有者を相手方として一定の請求を認めることとした上で、不可抗力によって土地に損害が及び又は及ぶおそれがある場合にも、土地の所有権に対する侵害に対する回復を実現するために、その請求を認め、費用の負担割合を決する際に、不可抗力等の事情を考慮することで妥当な解決を図ることを提案していた。
(2) パブリック・コメントに寄せられた意見には、隣接する土地の権利関係を調整するルールを設けることは相当であるとしてこれに賛成するものがあった。他方で、森林を所有したり林業に従事したりしている者からの意見に限定すると、現行法では、不可抗力によって侵害が生じた場合に限らず、隣地の森林所有者に必ずしも措置を求めず、必要に応じてケースバイケースで関係者が話し合って決めてきたため、このような規律を設けることによって、むしろ円満な解決の妨げになるとするものが多数であった。
(3) 前記のとおり、現行法上、不可抗力による侵害がある場合に物権的請求権に基づく妨害排除請求等が認められるかについては争いがあるものの、これを否定する見解に立ったとしても、不可抗力によるものとして物権的請求権の成立が否定されるケースは限定されている。例えば、自然的要因により土地から土砂が崩壊したとしても、被害を受けた土地所有者の物権的請求権の成立が直ちに否定されるわけではなく、相当の注意をしても土砂の崩壊を防止し得なかったといえなければ、「不可抗力」によるものとは認められず、請求の相手方(侵害者)は崩壊した土砂を除去する義務を免れ
ることはないと考えられる。
また、このような規律を設けたとしても、当事者間の話し合いによる柔軟な解決が否定されるものではなく、現行法上曖昧になっている規律を明確化することで、話し合いの場面においても、解決の基準が明確になり、より公平な解決を図ることができるとも考えられる。後記本文3においても、費用の負担割合を決する際に、不可抗力等の事情を考慮することで柔軟な解決を図る規律を提案しているところである。
そこで、甲案では、試案第3の4(1)のような規律を設ける提案を維持している。もっとも、試案では、管理不全土地上の工作物等が損害又はそのおそれの原因となっている場合も含めて同一の規律を設けることを提案していたが、その場合には、当該工作物等の所有者を管理措置請求の相手方とすべきであると考えられる(民法第717条参照)。
そのため、甲案において、基本的に試案を維持し、土地の所有者は、管理不全土地そのものから損害が及び、又は及ぶおそれがある場合にはその土地の所有者に、工作物や竹木の倒壊その他の事由により自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、竹木又は工作物の所有者に、その事由の原因の除去をさせ又は予防工事をさせることができるとすることを提案している。
なお、管理措置請求権が認められる要件に関して、基本的には、現行法における土地所有権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権の要件と同程度の所有権侵害が必要であることを前提としている(注1)。「土地に損害が及び」とは、他の土地から生じた物理的な作用によって、土地の利用が阻害される事態を想定しており、また、「土地に損害が及ぶおそれ」とは、土地に損害が及ぶ単なる観念的な可能性では足りず、損害が及ぶ蓋然性があることを要するものとすることを前提としている。また、試案では本文で「隣地」という表現を用いていたが、土地の利用が阻害される事態が生ずるのは、隣地からの作用によるものに限られず、近傍の土地からの作用によるものもあると考えられることから、本資料では、民法第216条を参考に、「他の土地」という表現に改めている。さらに、試案では、本文で「崖崩れ」と「土砂の流出」とを併記していたが、両者を区別する必要性に乏しいとも考えられることから、民法第238条を参考に「土砂の崩壊」という表現に改めている。
(4) 甲案とは別に、他の土地における土砂の崩壊、汚液の漏出若しくは悪臭の発生又は工作物若しくは竹木の倒壊その他の事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、自らその事由の原因の除去又は予防工事をすることができ、請求の相手方(侵害者)はこれを受忍する義務を負うとする考え方もあり得ることから、その旨を(注2)において注記している。
2 乙案について
パブリック・コメントでは、管理措置請求権は物権的請求権の一内容をなすものと考えられ、物権的請求権によっても対応可能であるから、物権的請求権と重複する新たな権利を創設する意義が乏しいが、解釈上疑義のある不可抗力による侵害の場合についての規律を創設する点に意義があるとの指摘や、試案のような形で管理措置請求権に関する規律を創設すると、物権的請求権に関する規律がないことが問題となるとの指摘、このような一般的な規定を設けることで、規定の適用される対象の外延が曖昧となり混乱を招きかねないとの指摘があった。
これらの指摘を踏まえると、管理措置請求権については、管理不全土地一般に対応するための物権的請求権類似のものと位置付けるのではなく、現行法の解釈上疑義のある不可抗力による侵害の場面に限って、相隣関係規定として特に認められる権利と位置付けることも考えられる。
そこで、適用の場面を、天災その他避けることのできない事変による他の土地からの土砂の崩壊、汚液の漏出、悪臭の発生、工作物の倒壊又は竹木の倒壊その他の事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合に絞り、そのような場合には、その土地の所有者は、他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者に対しその事由の原因の除去又は予防工事をさせることができるとする考え方を、乙案として提案している。
甲案及び乙案は、天災その他避けることのできない事変によって土地に損害が及び又は及ぶおそれがある場合においても、他の土地の所有者等に対する妨害排除又は妨害予防請求を認めるものであるが、天災その他避けることのできない事変という制御不可能な原因による侵害について、他の土地の所有者等に妨害排除又は妨害予防の措置をとる義務まで負わせるのは、他の土地の所有者等に酷であるという指摘もある。パブリック・コメントにおいて森林・林業関係者から多数寄せられた慎重意見も、このような観点からのものであると考えられる。
3 丙案について
前記のとおり、甲案及び乙案は、天災その他避けることのできない事変という制御不可能な原因による侵害について、他の土地の所有者等に妨害排除又は妨害予防の措置をとる義務まで負わせるのは、他の土地の所有者等に酷であるという指摘もある。
また、後記本文3の補足説明5のとおり、請求の相手方(侵害者)に一定の行為義務を課した上で、当事者間で共同の費用負担の規律を設けることについては法制的及び実務的な観点から慎重に検討する必要がある。
そこで、適用の場面を、天災その他避けることのできない事変による他の土地からの土砂の崩壊、汚液の漏出、悪臭の発生、工作物の倒壊又は竹木の倒壊その他の事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合に絞った上で、そのような場合には、その土地の所有者は、自らその事由の原因の除去又は予防工事をすることができ、請求の相手方(侵害者)はこれを受忍する義務を負うとする考え方を、丙案として提案している。
丙案は、天災その他避けることのできない事変によって隣地等が管理不全状態になり、危険が生じた土地の所有者は、その原因を除去・予防するため、隣地が現に使用されているかどうかにかかわらず、自ら工事を実施することができるとするものであり、本文2のような特則を設けることは想定されない。その意味で、丙案によれば、この制度は一定の措置を他人に請求する管理措置請求制度ではなく、自ら一定の措置を行う管理措置制度であることになる。
これに対しては、手続保障の観点から、土地の所有者は、請求の相手方(侵害者)に対して事前の通知をすべきであるとの指摘が考えられる。もっとも、事前の通知を求めると、請求の相手方(侵害者)の探索をしなければならないこととなるが、天災その他避けることのできない事変が生じ、土地の復旧が急がれる場面において相手方の探索を強いてよいかが問題となり得る。
なお、土地の所有者が必要な範囲を超えて措置を行った場合には、当該措置は違法となるため、当該措置によって相手方に損害が生じたときには、不法行為責任(損害賠償責任)が認められることになると考えられる(これは本文2の規律に基づいて措置を行う場合も同様である)。
2 現に使用されていない土地における特則(本文1で甲案又は乙案をとる場合)現に使用されていない土地における特則として、次のような規律を設けることの是非について、どのように考えるか。
① 現に使用されていない他の土地における前記1甲案又は乙案に規定する事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合において、次に掲げるときは、その土地の所有者は、その事由の原因を除去し、又は予防工事をすることができる。除去又は予防工事の方法は、前記1甲案又は乙案に規定する土地所有者のために必要であり、かつ、他の土地又は工作物若しくは竹木のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
a 他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者に対して、その事由の原因の除去又は予防工事をすべき旨を通知したにもかかわらず、相当の期間内に異議がないとき。
b 他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合において、その事由の原因の除去又は予防工事をすべき旨の公告をしたにもかかわらず、相当の期間内に異議がないとき。
c 急迫の事情があるとき。
② ①bの公告は、官報に掲載してする。
○試案第3の4、(2)現に使用されていない土地における特則
現に使用されていない隣地における(1)に規定する事由により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合において、次に掲げるときは、その土地の所有者は、その事由の原因を除去し、又は予防工事をすることができる。除去又は予防工事の方法は、(1)に規定する土地所有者のために必要であり、かつ、隣地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
a 隣地の所有者に対して、その事由の原因の除去又は予防工事をすべき旨を通知したにもかかわらず、相当の期間内に異議がないとき。
b 隣地の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合において、その事由の原因の除去又は予防工事をすべき旨の公告をしたにもかかわらず、相当の期間内に異議がないとき。
c 急迫の事情があるとき。
(注2)土地所有者に認められる管理措置の内容に関して、例えば、隣地の形状又は効用の著しい変更を伴わないものに限るなど、一定の制限を設けることについて引き続き検討する。
(補足説明)
1 本文2の規律を設けるとする考え方
試案第3の4(2)では、現に使用されていない管理不全土地を対象として、土地所有者が一定の条件の下で管理措置を講ずることを可能とする制度を設けることを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、地震・風水害等が頻発している今日の日本の状況に鑑みれば、裁判手続等に時間を要することなく、迅速に被害の予防措置を講じられる制度が必要であり、試案第3の4(2)に挙げた場合については他の土地の所有者等の権利保護に相応の配慮がなされており合理性があるといった理由でこれに賛成する意見が複数あった。
これを踏まえ、本文①のとおり、試案第3の4(2)のような規律を設けることが考えられる。また、本文②において、本文①bの公告は、官報に掲載してすることが考えられる理由については、部会資料32第1「隣地使用権の見直し」の本文1の補足説明3と同様である。
ここで、「現に使用されていない他の土地」とは、使用がされていないことが常態である土地をいい、典型的には、管理されず放置され、崖崩れ等の事由が発生している土地を想定している。土地だけでなく土地上の建物等が利用されていない場合にも、土地が「現に使用されていない」と評価される場合もあると考えられるが、土地上の建物に居住する者がいる限りは、土地が「現に使用されていない」と評価することはできないと考えられる。また、森林については、樹木が生育し、将来伐採等するために当該土地が利用されている限りは、「現に使用されていない」と評価することはできないと考えられる。
もっとも、例えば、宅地等において、年に一度、土地上の樹木の果実を採取するためにその土地が利用されるような場合には、その土地が「現に使用されていない」と判断することには困難が伴うとの指摘や、森林については、樹木がある限りは土地が利用されていることになるため、実際にはこの規律が適用されることはないことになるとの指摘が考えられる。
なお、本文1の乙案は、管理措置請求権を、天災その他避けることのできない事変による侵害の場面に限って、相隣関係規定として特に認められる権利と位置付けるものであるから、本文2の特則も天災その他避けることのできない事変による侵害の場面にのみ適用されることを前提としている。また、本文1の丙案は、前述のとおり、隣地が現に使用されているかどうかにかかわらず、自ら工事を実施することができるとするものであり、本文2のような特則を設けることは想定されない。
2 本文2の規律を設けないとする考え方
本文2の規律は、本文1と同様に、基本的には、現行法における土地所有権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権の要件と同程度の所有権侵害が必要であることを前提としているが、現行法上、このような所有権侵害がある場合には、物権的請求権を本案とする保全処分により、当面の危険を除去又は予防することも可能である。
また、急迫の事情がある場合には、現行法上も、正当防衛又は緊急避難(民法第720条)として、一定の管理措置が正当化される場合もあると考えられる。
パブリック・コメントにおいても、管理措置請求権や物権的請求権を本案とする保全処分により、当面の危険を迅速に除去又は予防することが可能であるから、このような規律は不要であるとして反対する意見があったところである。
さらに、仮に、所有者不明土地管理制度(試案第2の1)及び管理不全土地管理制度(試案第2の2)を設けるとすれば、他の土地が原因で自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、裁判所の関与のもと、土地管理人による他の土地の適正な管理を実現することができることから、これらの制度を用いることで現に使用されていない土地を継続的に管理することが可能になるため、本文2の規律を設ける必要性は大きくはないとも考えられる。
3 費用
管理措置請求に係る工事の費用の規律に関する次の各案について、どのように考えるか。
【甲案】前記1又は2の工事の費用については、他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者の負担とする。ただし、【その事由が天災その他避けることのできない事変によって生じた、又は生じるおそれがある場合において、】その事変、その工事によって土地の所有者が受ける利益の程度、前記1の事由の発生に関して土地の所有者に責めに帰すべき事由がある場合にはその事由その他の事情を考慮して、他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者の負担とすることが不相当と認められるときは、他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者は、土地の所有者に対し、その減免を求めることができる。
【乙案】前記1又は2の工事の費用については、土地の所有者と他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者が等しい割合で負担する。ただし、土地の所有者又は他の土地又は工作物若しくは竹木の所有者に責めに帰すべき事由があるときは、責めに帰すべき事由がある者の負担とする。
(注)本文1の乙案及び丙案は、天災その他避けることのできない事変による侵害の場面に限ってその適用を認めるものであるから、本文3の甲案のただし書はそれを前提とした規律となる。また、本文3の乙案については、一律に本文のみの規律(乙案ただし書の規律を設けない)とする考え方や、ただし書を帰責事由のみならず、天災その他避けることのできない事変、土地の所有者が受ける利益の程度その他の事情を考慮して負担割合を調整可能とする規律とする考え方もある。
○試案第3の4、(3)費用
【甲案】(1)又は(2)の工事の費用については、隣地所有者の負担とする。ただし、その事由が天災その他避けることのできない事変によって生じた場合において、その事変、その工事によって土地の所有者が受ける利益の程度、(1)の事由の発生に関して土地の所有者に責めに帰すべき事由がある場合にはその事由その他の事情を考慮して、隣地所有者の負担とすることが不相当と認められるときは、隣地所有者は、その減額を求めることができる。
【乙案】(1)又は(2)の工事の費用については、土地所有者と隣地所有者が等しい割合で分担する。ただし、土地所有者又は隣地所有者に責めに帰すべき事由があるときは、責めに帰すべき者の負担とする。
(補足説明)
1 パブリック・コメントの結果等
管理措置請求制度は、相隣関係の規律として、隣接する土地相互の利用を調整する観点から、不可抗力によって土地に損害が及び又は及ぶおそれがある場合にも管理措置請求を認めた上で、費用の負担割合を決する際に、不可抗力等の事情を考慮することで妥当な解決を図ろうとするものである。試案第3の4(3)において、管理措置請求制度の費用の在り方について、甲案と乙案の2案を提案していた。
パブリック・コメントに寄せられた意見には、土地の所有者に損害をもたらした隣地所有者の負担とするのを原則としつつ、事案に応じた修正を行うのが妥当であるという理由で甲案に賛成する意見が多かったが、相隣関係の規律を基礎に原則として折半として調整すべきであるという理由で乙案に賛成する意見もあった。
これを踏まえ、本文3においては、本文1で3通りの考え方があることを前提に、表現を整えた上で、試案第3の4(3)の甲案と乙案と同趣旨の両案を提案している。
なお、前記のとおり、森林を所有したり林業に従事したりしている法人又は個人からの意見に限定すると、これまで費用負担についてケースバイケースで関係者が話し合って決めてきたため、費用負担の規律を設けることによって、むしろ円満な解決の妨げになるとするものが多数であった。
もっとも、前述のとおり、このような規律を設けたとしても、当事者間の話し合いによる柔軟な解決が否定されるものではなく、むしろ、規律が設けられることによって、話し合いの場面においても、明確な基準に基づいてより公平な解決を図ることができるとも考えられ、引き続き検討することとしている。
2 甲案について
試案第3の4(3)の甲案ただし書では、一定の場合に隣地所有者が費用の減額を求めることができるとすることを提案していたが、パブリック・コメントにおいて制度の趣旨からして、場合によっては免除も含むものとすべきであるとの意見があったことを踏まえ、本文の甲案では、減免を求めることができるとすることを提案している。
甲案の規律を前提とすると、天災その他避けることのできない事変で侵害が生じた場合の費用をケースバイケースで判断することとなる。
甲案に対しては、工事によって土地の所有者が受ける利益の程度や、土地の所有者の帰責によって拡大した費用(損害)の算定が困難であるとの指摘が考えられる。
これについては、例えば、①境界をまたいで工事が必要となるケースでは、境界を基準としてその工事の範囲の割合によってその費用負担割合を決する算定方法が考えられる。また、②土地所有者の排水により、請求の相手方の所有地の崖崩れの範囲がより
広範囲となったと認められるケースでは、当該排水がなかったと仮定した場合に生じたと見込まれる侵害を除去するために必要となる費用(見込み額)と現実に必要となった侵害を除去するために要した費用とを比較して、その差額分を土地所有者の費用負担とする算定方法が考えられる。もっとも、多種多様な侵害態様に応じて費用負担が個別に判断されることになるため、予測が困難な面があることは否定しがたいが、上記の①及び②以外の場合における費用の具体的な算定方法については引き続き検討する必要がある。また、他の土地の所有者等の費用負担の全額免除を可能とすることは、結局、土地の所有者側に費用を全額負担させることを意味するが、天災その他避けることのできない事変によって他の土地から生じた損害についての原因の除去費用を土地の所有者に全部負わせることになりかねないという問題がある。
なお、甲案によれば、例えば、他の土地の所有者等が土砂の崩壊を防止する工事を行った場合には、土地の所有者に対してその費用の全部又は一部を求償することも可能になると考えられるが、他の土地の所有者等は本来その土地から生ずる危険を防止する責務を負っているのであり、それを果たしたからといって、土地の所有者に対して求償することができるとするのは相当でないとの指摘も考えられる。
3 乙案について
乙案の規律を前提とすると、天災その他避けることのできない事変で侵害が生じた場合の費用については、基本的には、当事者間で等しい割合で負担することになる。
乙案については、費用を当事者間で等しい割合で負担することを原則とすることに鑑みて、土地の境界をまたぐ工事等、隣接する土地の双方にとって有益となる工事に適用範囲を限定すべきであるという考え方もある。
他方で、この案に対しては、例えば、大規模な崩落事故によって複数の土地所有者が被害を受けるおそれがあるため、その予防のための工事が必要となる場合に、原因となっている土地所有者と被害を受けるおそれのある各土地所有者がそれぞれ等しい割合で費用負担することになる一方で、被害を受ける可能性のある土地所有者間における費用の負担割合を公平に規律することが困難であるとの指摘も考えられる。
4 本文1で乙案又は丙案を採用する場合について(注)
本文1の乙案及び丙案は、天災その他避けることのできない事変による侵害の場面に限ってその適用を認めるものであるから、本文3の費用の規律も天災その他避けることのできない事変による侵害の場面にのみ適用されることが前提となるため、本文3の甲案についてはただし書のみの規律(甲案本文の規律を設けない)となることを注記している。
また、本文1の乙案又は丙案は、天災その他避けることのできない事変による侵害の場面における規律であるから、本文3乙案のただし書のように、責めに帰すべき一方の当事者の負担とするのは妥当でないとも考えられるため、本文3の乙案については、一律に本文のみの規律(乙案ただし書の規律を設けない)とする考え方や、ただし書を帰責事由のみならず、天災その他避けることのできない事変、土地の所有者が受ける利益の程度その他の事情を考慮して負担割合を調整可能とする規律とする考え方もある旨を注記している。
5 法制上及び実務上の課題について
(1) 管理措置請求構成(本文1の甲案又は乙案)をとる場合
管理措置請求構成(本文1の甲案又は乙案)をとる場合には、請求の相手方(侵害者)が所定の措置を講じないケースでは、土地所有者は、原則として、請求の相手方(侵害者)に対する措置請求訴訟を提起して、認容判決を得た上で、これを債務名義として強制執行を申し立て、基本的に第三者に工事等をさせる方法(民事執行法第171条第1項、第4項)によることになるところ、この執行手続は請求の相手方(侵害者)の費用で行われることとされている(同法第171条第1項第1号)ことと費用の共同負担の規律との関係が問題となる。
本文1の規律に基づき、土地の所有者が、請求の相手方(侵害者)に対して所定の措置を請求した場合において、仮に、裁判所において当事者の共同の費用をもって措置すべきであることが相当であると判断されるときには、①当該訴訟の判決において、土地の所有者に費用の一部を負担することを命ずることができる(現行法の下で、このような費用負担の判決をすることは請求の一部認容に当たるとする裁判例がある。
横浜地判昭和61年2月21日判タ638号174頁、静岡地判昭和37年1月12日下民集13巻1号1頁)という立場と、②費用償還請求権は管理措置請求権とは別のものであるから、管理措置請求とは別の請求として審理されるべきである(費用の償還が請求されていないのに費用についての判決をすることはできない)という立場があると考えられる。
①の立場によれば、管理措置請求において、費用負担割合が明示された上で請求が認容される(判決の主文としては、例えば、「Yは、Xに対し、Yの費用を2、Xの費用を1とする割合の費用負担をもって、~の土砂を撤去せよ。」といったものが考えられる。)ことになると考えられる。この立場に対しては、費用負担割合が明示された判決をもって代替執行を行うことはできないのではないか、代替執行が可能であるとしても、具体的な費用の負担額について争いがあるときは、工事の実施前に代替執行の費用前払決定手続(同法第171条第4項)の中で争うのか、執行費用確定処分に対する異議(同法第42条第5項)によるのか、工事の実施後に給付訴訟を提起するのかなど、手続のどの段階において争うのかが明らかではないとの指摘が考えられる。
②の立場によれば、管理措置請求について認容判決を得た上で、これを債務名義として強制執行を申し立て、第三者に工事等をさせる方法によって強制執行を行い、費用の負担割合については、工事の実施後に執行費用確定処分に対する異議(同法第42条第5項)や別訴において争われることになると考えられるが、この立場に対しては、紛争の一回的解決の観点から手続が迂遠であるとの指摘が考えられる。
このように、上記①又は②のいずれの立場によっても、請求の相手方(侵害者)に一定の行為義務を課した上で、当事者間で共同の費用負担の規律を設けることには法制的及び実務的な観点から課題があると考えられる。
(2) 管理措置構成(本文1の丙案)をとる場合
これに対して、本文1で丙案をとり、その土地の所有者自身がその障害を除去する措置をとることができるとした場合には、その費用は事後的に回収されることになる。
この考え方によれば、土地の所有者が工事費用を負担して管理措置を行った場合には、当該所有者が侵害者に対する費用償還請求を行い、そこで費用負担割合が争われることになると考えられる。
第2 管理不全土地等の管理命令
1 管理不全土地の管理命令
(1) 管理不全土地につき、管理人による土地の管理を可能とするために、次のような規律を設けることについて、どのように考えるか。
ア 管理不全土地の管理
① 裁判所は、所有者が土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地(以下「管理不全土地」という。)を対象として、管理不全土地管理人(②により選任される管理不全土地管理人をいう。)による管理を命ずる処分をすることができる。
② 裁判所は、①の命令をする場合には、当該命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
(注)裁判所は、①の命令をする場合には、土地の所有者の陳述を聴かなければならない旨の規定など、土地の所有者の手続保障を図るための規定を設ける。
イ 管理不全土地管理人の権限
① ア②により管理不全土地管理人が選任された場合には、管理不全土地管理人は、管理不全土地について次に掲げる行為をする権限を有する。
a 保存行為
b 土地の性質を変えない範囲内において、その利用・改良を目的とする行為
② 管理不全土地管理人は、管理不全土地上にある土地所有者の所有する動産についても上記①a及びbの行為をする権限を有する。
(注1)管理不全土地管理人が管理不全土地について①a及びbに規定する権限を超える行為をすることの是非については、後記本文(2)のとおり。
(注2)管理不全土地管理人が管理不全土地上にある土地所有者の所有する動産について①a及びbに規定する権限を超える行為をすることの是非については、後記本文(2)の検討を踏まえ、引き続き検討する。
(注3)管理不全土地の管理及び処分をする権利は管理不全土地管理人に専属する旨の規律は、設けない方向で検討する。
ウ 管理不全土地管理人の義務
管理不全土地管理人は、(1)ア①の命令の対象とされた土地の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない。
エ 管理不全土地管理人の解任等
① 管理不全土地管理人がその任務に違反してア①の命令の対象とされた土地又はその共有持分に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
② 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
オ 管理不全土地管理人の報酬等
① 管理不全土地管理人による管理不全土地の管理に必要な費用は、管理不全土地の所有者の負担とする。
② 管理不全土地管理人は、裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
カ 命令の取消し等
裁判所は、ア①の命令の対象とされた土地の管理を継続することが相当でなくなったときは、申立人、管理不全土地の所有者又は管理不全土地管理人の申立てにより又は職権で、当該命令を取り消さなければならない。
○中間試案第2、2(1)「所有者が土地を管理していない場合の土地の管理命令」
(1) 所有者が不明である場合の土地の管理命令
所有者が土地を現に管理していない場合において、所有者が土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害さ
れるおそれがあるときであって、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、当該土地について、土地管理人による管理を命ずる処分をし、土地管理人に保存行為をさせることができるとすることについて、引き続き検討する。
(注1)例えば、所有者が土地を現に管理していないことによって崖崩れや土砂の流出、竹木の倒壊などが生じ、又はそのおそれがある場合を想定しているが、要件については、他の手段によっては権利が侵害されることを防止することが困難であることを付加するかどうかなども含めて更に検討する。
(注2)所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合であっても、所有者が土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、必要に応じて(1)の土地管理人を選任することが可能とすることを想定している。
(注3)土地管理人の権限については、保存行為を超えて、当該土地を利用し、又は裁判所の許可を得て売却する権限を付与するとの考え方もあるが、慎重に検討する。
(注4)所有者の手続保障を図る観点から、管理命令の手続の在り方についても検討する。
(注5)本文の制度を設ける場合には、土地管理人は、善良な管理者の注意をもってその職務を行うこととし、土地管理人の報酬及び管理に要した費用は土地所有者の負担とし、管理命令の取消事由については所有者が土地を管理することができるようになったときその他管理命令の対象とされた土地の管理を継続することが相当でなくなったときとする方向で検討する。
(注6)所有者が土地上に建物を所有しているが、建物を現に管理していないケースが、「土地を現に管理していない場合」に該当するかについては、後記(2)の管理命令の検討と併せて検討する。
(注7)土地管理人は、管理命令の対象となる土地に土地所有者の所有する動産や所有者が不明である動産がある場合において、必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該動産を処分することができるとすることについても、検討する。
(後注1)所有者が土地又は建物を現に管理している場合において、所有者が土地又は建物を適切に管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、必要があると認めるときは、当該土地又は建物について、土地管理人又は建物管理人による管理を命ずる処分をし、土地管理人又は建物管理人に保存行為をさせることができるとすることについては、慎重に検討する。
(後注2)所有者が土地又は建物を管理せず、又は適切に管理していないことによって、他人の権利が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、必要な処分を命ずることができるものとすることについては、既存の制度とは別にこれを設ける必要性を踏まえながら、慎重に検討する。
(補足説明)
1 提案の趣旨
(1) パブリック・コメントに寄せられた意見の概要
試案第2の2(1)においては、所有者不明土地管理制度とは別に、管理不全となっている土地を対象とする管理制度の創設が提案していたが、パブリック・コメントにおいては、これに賛成の意見が多数を占めた。
これに対して、所有者が判明しているのであれば、妨害排除請求権等を行使すれば足りることや、所有者が判明しているのに土地管理人を選任することを正当化するのは困難であることなどを理由に、新制度の創設に反対する意見もあった。
(2) 提案の趣旨
現行法においては、管理不全土地による侵害又はその危険が及ぶ近隣の土地所有者は、管理不全土地の所有者に対し、所有権に基づく妨害排除請求等を行使することができるが、裁判所が管理人を選任して土地の管理に当たらせることはできない。
もっとも、土地の草木が繁茂するなどして周辺住民に被害を及ぼしているケースや、継続的に廃棄物の不法投棄が行われ周辺住民に被害を及ぼしている土地について、一旦その撤去等をした後も再び廃棄物が不法投棄されるおそれがあるケースなどで、当該土地について裁判所が選任する管理人による管理を可能とすれば、土地の継続的な管理や、現在の管理不全状態を解消するための直接的な管理が可能となる。また、土地の管理を適切に行っていないために他人の権利・利益を侵害し、又はそのおそれがある場合には、そのような侵害を防止するために必要な限度で、その土地の所有者が制約を受けることもやむを得ないと考えられる。
そこで、土地の適切な管理を実現するための新たな手段として、管理人による管理不全土地管理制度を設けることが考えられる。
ただし、この制度の創設に際しては、その要件の在り方や、土地所有者が受ける制約の程度、制度を利用した場合の終了の在り方など、検討すべき点が多くあり、その創設の是非については、これらの点を考慮しながら、引き続き検討する必要がある。
以上を踏まえ、本部会資料では、管理不全土地について、権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合に、管理人を選任し、その管理人による管理を可能とする制度につき、その創設の是非も含め、検討している。
2 本文アについて
(1) 本文ア①の要件について
ア パブリック・コメント等
試案第2の2(1)アでは、「所有者が土地を現に管理していない場合において、所有者が土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときであって、必要があると認めるとき」を要件として提案し、その(注1)では、例えば、所有者が土地を現に管理していないことによって崖崩れや土砂の流出、竹木の倒壊などが生じ、又はそのおそれがある場合を想定しているが、要件については、他の手段によっては権利が侵害されることを防止することが困難であることを付加するかどうかなども含めて更に検討する旨を注記していた。
パブリック・コメントにおいては、要件をより具体的に明確化すべきとの意見や、管理措置請求制度との関係についても整理すべきであるとの意見があった。
イ 提案の概要
管理人による管理には、所在等が判明している所有者の財産の管理に介入するという側面があることに照らすと、本制度に基づき管理人を選任するためには、そのような財産の管理への介入を正当化できるだけの要件が必要であると考えられることから、試案第2の2(1)アと同じく「所有者が土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合」との要件を設ける必要があると解される。
なお、従前の部会での審議や、パブリック・コメントにおいては、現行法において物権的請求権、人格権等に基づく差止請求権等が認められる場合に限定されることを明確にすべきとの意見や、権利侵害の程度が社会生活上の受忍限度を超えている場合に限定して管理人を選任できるとするのが妥当であるとする意見もあった。
いわゆる受忍限度論には、学説等でも様々な議論があると思われるが、いずれにしても、その侵害の程度が低いなどのケースでは、この制度を利用する必要性が乏しいため、「土地の管理のために必要と認めるとき」の要件を充たさないと解される。
(2) 所有者が土地を現に管理していないことについて
ア パブリック・コメントについて
試案第2の2(1)アでは、所有者が土地を現に管理していないことを要件とすることを提案し、その(後注1)では、所有者が土地を現に管理している場合を管理人による管理の対象に含むことは慎重に検討することを注記していたところ、パブリック・コメントに寄せられた意見においては、これらについて賛成の意見が多数を占めた。
これに対して、意見の中には、管理不全土地管理制度においては、所有者による管理が適切にされているか否かこそが重要なのであって、所有者が現に管理をしているかどうかで区別をする必要があるのかは疑問があるとの指摘もあった。
イ 提案の文言について
試案では、土地の所有者が土地を使用しているケースで区別することを念頭に、「現に管理していない」ことを要件の一つとして検討することとしていたが、パブリック・コメントの意見の中にもあるとおり、土地が適切に管理されずに損害が生ずることを防止するために、その土地を適切に管理する仕組みを設ける必要性は、その土地が単に放置されているケースと、土地の所有者が使用しているが適切に使用していないケースとでは、違いはないと思われる。また、土地の所有者が使用しているといっても、その使用の在り方は様々なものがあり得るのであり、土地を放置しているのと大差がないケースもあると考えられる。法律上の文言としても、両者を明確に区別する要件を適切に設けることは困難ではないかと考えられる。
もちろん、管理人を選任するかどうかは、所有者の使用状況など当該土地の状況を踏まえて判断することとなり、土地の所有者が受ける制約が大きい場合には、管理人を選任することが相当でないこともあると解されるが、現に使用していれば一律に選任を否定することとはすべきではないように思われる。
以上の観点から、管理人の選任につき、土地の使用状況は必要性の判断の中で考慮することとしつつ、現に管理しているかどうかで一律に両者を区別することはしないことが考えられる。なお、本文では、必要性の判断において、管理人選任の相当性も判断されることを想定しているが(本文カで管理継続が相当でなくなったことを管理人選任命令の取消事由としているが、これを裏返せば、管理人選任の相当性があることが発令要件となると考えられる。)、必要性及び相当性を考慮するとして、それを法文上どのように表現するのかについては、他の法令の用語例を含め、引き続き検討する必要があり、また、補足説明1(2)で指摘したケース以外で、必要性及び相当性が認められ得る場合がどのようなものであるかについても、更に検討する必要がある。
ウ 所有者以外の者が土地を占有している場合について
本制度は、土地の管理不全状態を解消することを目的とするものであるから、本文の要件を充足するかどうかは、土地を占有する者の権原の有無によって直ちに左右されるものではなく、基本的にはその土地の状態に照らして判断されることになる。そのため、土地所有者が自ら直接的にその土地を管理していなくても、その土地を占有する者がこれを適切に管理しているのであれば、本文の要件を満たさないのであって、このことは、その者が賃借権などの権原を有する者である場合はもとより、無権原者であるとしても、同様である。
他方、賃借権などの権原を有する者が土地を占有していたとしても、土地の適切な管理がされていない場合には、本文の要件を満たし得るものと考えられる。
この点に関連して、土地について賃借権などの権原を有する者に代わって管理不全土地の管理を行うための管理人の選任の仕組みを設けることも考えられる。もっとも、土地の賃借権者が土地上に建物を所有しており、その建物が管理不全状態になっているケースであれば、後記本文2の管理不全建物の管理制度を設けることで対応が可能であるとも思われ、その要否を含め引き続き検討する。
(3) 他の手段によっては権利侵害を防止することが困難であるとの要件について
試案第2の2(1)ア(注1)では、要件については、他の手段によっては権利が侵害されることを防止することが困難であることを付加するかどうかも含めて更に検討する旨を注記していたが、パブリック・コメントに寄せられた意見においては、この点について、事案に応じて手続を選択できるようにすべきなどの理由から、そのような要件の付加は不要であるとの意見が比較的多かった。
他の手段によっては権利が侵害されることを防止することが困難との要件を特に付加しなくとも、管理人選任の必要性や相当性の判断で対応することが可能であると解されるから、特にこのような要件の付加をする必要はないように思われる。
そこで、本文ア①では、他の手段によっては権利が侵害されることを防止することが困難であるとの要件を付加することはしていない。
(4) 所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合について
試案第2の2(1)ア(注2)では、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合であっても、所有者が土地を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、必要に応じて管理不全土地管理人を選任することが可能とすることを想定している旨を注記していた。パブリック・コメントに寄せられた意見においては、この点について、特段の異論はなかった。
本部会資料においても、この点についての考え方は変わるものではない。
なお、意見の中には、所有者不明土地管理制度と管理不全土地管理制度の各管理人の選任が別々に申し立てられ、管理人の重複が生ずる可能性があることから、両者の関係について整理が必要であるとの意見があったが、所有者不明土地管理制度では、所有者の管理処分権を専属させることを検討しており、仮に、この案を前提とすると、両者が同時に選任された場合には、所有者不明土地管理人の権限が優先すると考えられる(そのため、実際上の運用では、所有者不明土地管理命令が発せられていれば、管理不全土地管理命令の申立ては却下され、管理不全土地管理命令が発せられた後に所有者不明土地管理命令が発せられれば、管理不全土地管理命令は取り消されるように思われる。)。
(5) 本文ア②について
本制度は、管理不全土地について、管理人による管理を可能とするものであるから、本文ア②では、裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理命令において、土地管理人を選任しなければならないとすることを提案している。
なお、土地管理人としてどのような者を選任するかについては、事案に応じて適切に判断されるものと考えられる。
(6) 本文ア(注)について
試案第2の2(1)(注4)では、所有者の手続保障を図る観点から、管理命令の手続の在り方についても検討する旨を注記していた。パブリック・コメントに寄せられた意見においては、この点について賛成の意見が多数を占めた。
本文アに基づく管理命令が発せられた場合には、土地の所有者は管理不全土地管理人による管理に要する費用を負担することとなる(本文オ①)などの影響を受けることからすると、この者にも手続保障を図るべきと考えられる。
そこで、本文ア(注)では、裁判所は、①の命令をする場合には、土地の所有者の陳述を聴かなければならない旨の規定など、土地の所有者の手続保障を図るための規定を別途設ける旨を注記している(緊急を要するケースについては、後記本文(4)参照)。
なお、管理不全土地の管理人の選任の手続は、非訟事件手続として位置付けられるものと考えられる。
(7) 利害関係人について
試案第2の2(1)と同じく、利害関係人が申立権者となることとしている(この点についてパブリック・コメントにおいて特段の意見はなかった)。
ここでいう利害関係人としては、所有者が土地を管理していないことによって権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある者がこれに当たることが想定される。
3 本文イについて
(1) 管理不全土地について保存行為・改良行為をする権限
試案第2の2(1)では、土地管理人は、保存行為をすることができるとすることを提案していたところ、パブリック・コメントに寄せられた意見においては、これについて特段の異論はなかった。
そこで、本文イ①aでは、ア②により管理不全土地等管理人が選任された場合には、管理不全土地等管理人は、その対象とされた土地について保存行為をする権限を有するとする旨を提案している。
また、管理不全土地管理人が、土地の管理不全状態を解消するために必要となる行為は、その土地の改良行為にもわたり得る。そこで、本文イ①bでは、土地の性質を変えない範囲内において、その改良を目的とする行為も掲げている。
管理不全土地管理人が、土地を第三者に賃貸して収益を上げるような行為が管理不全状態の解消のために必要となる場面は想定しにくいが、他方で、利用行為と改良行為とではその区別の線引きが曖昧であるとも思われるので、差し当たり、ここには利用行為も掲げている。もっとも、それによって得た収益は、土地の所有者に返還しなければならない。
ところで、不在者財産管理人その他の財産管理人に関しては、その財産管理人を本人の代理人(又はいわゆる訴訟担当者)として、訴訟を提起することができるとされている。もっとも、このような取扱いがされているのは、基本的に、本人が不在であるなど、本人自身が訴訟追行をすることができず、その財産管理人を代理人等として訴訟に関与させるべき必要がある場合であると考えられるが、今回の管理不全土地管理制度では、土地所有者本人の所在等が判明しているため、そのような必要がない。
そのため、ここで検討している土地管理人が当然に土地所有者の代理人になったり、訴訟担当者になったりするべきではないように思われる(権限との関係では、保存行為に該当しないなどと解釈することになると考えられる。)。
なお、(注1)にあるように、管理不全土地管理人が本文イ①a及びbに規定する権限を超える行為をすることの是非については、後記本文(2)に記載している。
(2) 管理不全土地上の動産についての権限
現行法においても、不在者財産管理人が選任され、その管理すべき財産の中に土地があり、その土地上に動産があれば、管理人において適宜対応していると考えられる。
すなわち、その動産が不在者のものであれば、その権限を行使して、適宜処理をし、他方で、不在者の所有物ではないものについては、適宜の手続をとって処理をしている(無価値であるなどして所有権が放棄されていると解される動産(無主物)については、廃棄している。)と思われる。
今回の仕組みにおいても、土地の適切な管理を実現する観点からは、土地上の動産についても、適宜の管理をすることが有益であると考えられるが、不在者財産管理制度と異なり、物(土地)に着目した制度であるため、特に規定を置かなければ、土地所有者が所有していると認められる動産があっても、不在者財産管理人のようには管理することができない。
そこで、本文イ②では、土地の適切な管理を実現する観点から、管理不全土地管理人は管理不全土地上にある土地所有者の所有する動産の保存等の管理をする権限を有する旨の規律を設けることを提案している。パブリック・コメントに寄せられた意見においても、動産に関する規律を置くことについては、賛成の意見が多かった。なお、土地の所有者が所有している動産を処分する際には、不在者財産管理人と同様に、裁判所の許可を要するとすることも考えられる。いずれにせよ、管理不全土地管理人が動産について①a及びbに規定する権限を超える行為をすることの是非については、後記本文(2)の検討を踏まえることになると考えられるから、その旨を(注2)で注記している。
(3) 権限の専属について
所有者不明土地管理制度においては、対象となる土地を処分することもあり得ることを念頭に、土地管理人による職務の円滑な遂行等の観点から、権限を土地管理人に専属させることを提案していたが、管理不全土地管理制度における土地管理人は、処分行為をすることを基本的に予定するものではなく(例外的に処分行為等を可能とする規律を設けることの是非については、後記本文(2)参照)、この観点から権限を当然に専属させる必要性に乏しいと思われる。
また、それとは別に、その対象土地を適切に管理する観点から、土地の所有者が管理人の職務を妨害することを防止するために、その土地の管理処分権を管理人に専属させるべきとの指摘も考えられる。もっとも、一律にその管理処分権を管理人に専属させることは、土地所有者に対する過剰な制約であるように思われ、この問題は、別途検討することとしている(後記(3)補足説明2参照)。
そこで、(注3)では、管理不全土地の管理及び処分をする権利は管理不全土地管理人に専属する旨の規律は、設けない方向で検討することとしている。
4 本文ウについて
(1) 試案第2の2(1)ア(注5)では、土地管理人は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならないとすることを注記していたところ、パブリック・コメントに寄せられた意見においては、これに反対の意見は特段見られなかった。
そこで、本文エにおいては、管理不全土地等管理人は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない旨を提案している。
(2) 所有者不明土地管理制度と同様に、ここでも、善管注意義務を負うべき相手方は所有者であるのか、それ以外の利害関係人も含まれるかが問題となるが、この管理人は、基本的に土地の所有者に代わりにその土地を管理するものであるため、善管注意義務の相手方は土地所有者であると解される。
(3) 管理不全土地等管理人については、例えば、共有者がいずれも土地を管理していない場合に、その両者に代わって土地を管理する場合には、土地管理人が特定の共有者の利益を犠牲にして他の共有者の利益を図るような行為をするべきではないため、所有者不明土地管理人と同様に、誠実公平義務の規律を設けることも考えられるが、実際にそのような規定の必要性も含め引き続き検討する。
なお、共有者の1人が土地の管理をしていないが、他の共有者が土地を管理している場合には、通常は、権利・利益の侵害等の要件が欠けるため、この制度は基本的に利用できないと思われる。
5 本文エについて
管理人が、その任務に違反して管理命令の対象とされた土地に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、当該管理人による管理をそれ以上続けることは相当でないし、また、管理人の辞任を無限定に認めることも相当でないと考えられる。
そこで、本文エでは、所有者不明土地管理制度の管理人と同様に、上記のような事由があるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより管理人を解任するができること、また、管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができることを提案している。
6 本文オについて
(1) 試案第2の2(1)ア(注5)では、土地管理人の報酬及び管理に要した費用は土地所有者の負担とすることを注記していたところ、パブリック・コメントにおいては、これに反対する意見は特段見られなかった。管理不全土地管理人は、土地の所有者に代わって、土地を管理する者であるから、土地の所有者の委託を受けて土地を管理する者がいる場合と同様に、その管理費用及び報酬は、土地の所有者が負担すべきと解される。
もっとも、実際の運用では、管理不全土地の所有者がこれを事前に納めることは期待し難く、管理不全土地管理人の費用及び報酬は、一旦は申立人が予納した予納金から支出され、予納金を納めた申立人は、管理不全土地の所有者に対して、不当利得返還請求等をすることによって予納金を回収する方法をとることになると思われる。なお、申立人から予納金が支払われず、原資不足により管理費用を支出するのが困難であることが見込まれる場合には、管理不全土地管理命令が発せられたとしても直ちにその取消しがされることになるから、このような場合には、管理不全土地管理命令を発する必要がなく、申立てが却下されることになると考えられる。
(2) 第1の3では、管理措置請求においては、費用を例外的に土地所有者の負担としない場合があることを検討している。管理不全土地管理制度も、管理不全土地の適切な管理を図るために活用されることがあるという意味では管理措置請求制度と共通する面もあることからすると、管理に要した費用等を例外的に土地所有者の負担とはしない場合を設けるべきとの指摘もあり得るところであり、部会資料21の第2の3では、そのような観点から提案をしていた。
第1の3の検討の方向性にもよるが、仮に管理措置請求制度と完全に費用負担の在り方を揃えるとするのであれば、管理不全土地管理制度においても第1の3と同様の規律を設けるか、又は管理不全土地管理制度における費用負担の規律は設けずに、これについては実体法上の規律や解釈に委ねるとすることも考えられる。
他方で、管理不全土地管理制度は、管理措置請求制度とは異なり、土地の所有者がすべき管理行為を土地所有者に代わって管理人に行わせるものであることからすれば、その費用負担は当然に土地の所有者とされるべきであり、費用負担の在り方を管理措置請求制度と揃える必要はないとも考えられ、仮に土地所有者の費用負担とすることが相当でないケースで管理人による管理を求める申立てがされたのであれば、申立てを認めないとすることも考えられる。
本文は、後者の考え方に立ち、管理費用及び報酬は土地の所有者が負担するとする規律を設けることを提案するものであるが、この点についてどのように考えるか。
7 本文カについて
試案第2の2(1)ア(注5)では、管理命令の取消事由については所有者が土地を管理することができるようになったときその他管理命令の対象とされた土地の管理を継続することが相当でなくなったときとする方向で検討する旨を注記していた。パブリック・コメントに寄せられた意見においては、これに賛成の意見もあったが、「所有者が土地を管理することができるようになったとき」を取消事由とするのは広範にすぎるとして、これに反対する意見もあった。
所有者が土地を管理することが客観的には可能な状態にあるかどうかは、この制度を利用する際の要件そのものではなく、そのような状態になったとしても、その所有者が適切な管理をすることが見込めない場合には、なお管理を継続する必要があるケースもあると考えられる。
そこで、本文カでは、「所有者が土地を管理することができるようになったとき」を取消事由とはせず、裁判所は、命令の対象とされた土地の管理を継続することが相当でなくなったときは、申立人、管理不全土地の所有者又は管理不全土地管理人の申立てにより又は職権で、当該命令を取り消さなければならないとすることを提案している。
(2) 処分行為(保存行為等を超える行為)をする権限
保存・改良行為を超える行為をする権限に関する次の各案について、どのように考えるか。
【甲案】管理人による処分行為(保存行為等を超える行為)をする権限に関する規律は、設けない。
【乙案】他の方法によっては(1)ア①の権利又は法律上の利益の侵害を防止することが困難な場合に限って、管理不全土地管理人は、訴えをもって、管理不全土地の競売を請求することができる。
【丙案】管理不全土地管理人は、(1)イ①a及びbに規定する権限を超える行為を必要とするときは、裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。
(注)乙・丙案をとる場合には、裁判所は、土地の所有者に異議がないときに限り、土地の処分をすることができる旨の規律を置くことも含め検討する。
(補足説明)
試案第2の2(1)(注3)では、土地管理人の権限については、保存行為を超えて、当該土地を利用し、又は裁判所の許可を得て売却する権限を付与するとの考え方もあるが、慎重に検討する旨を注記していた。パブリック・コメントに寄せられた意見においては、これについて慎重に検討すべきとする意見が比較的多数を占めた。
これに対し、意見の中には、他の方法によっては権利侵害を防止することが困難である場合、所有者の反対がない場合に限って、例外的に土地の売却を認めるべきとの意見もあった。
ここで検討している管理不全土地管理制度は、土地の所有者がいても、その者が土地を適切に管理していないことが問題となっているため、事案にもよるが、土地の所有者に再度管理を委ねることでは、問題が解決しないケースがあり得る。そのようなケースにおいて、相当長期間の間、管理人が管理を継続する事態が生じることは好ましくないとの判断もあると考えられる。そのため、一定の要件の下で、その土地の所有権を譲渡するなどする仕組みを設けることが課題となり得るが、所有者の権利を保護する観点から、そのようなことを認めるべきではないとも考えられることは、これまでの検討のとおりである。
以上を踏まえ、本文では、管理人が保存行為等を超える行為をすることを認めない案を甲案として提示し、一定の例外的な場合にこれを認める案として、乙案及び丙案を提示している。
すなわち、甲案は、管理不全土地管理制度における土地管理人は、飽くまでも土地が管理されていないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害されることを防止するためのものであることなどを踏まえたものであるが、これによると、管理人が土地の売却をすることは、一切認められないことになる。
乙案は、他の方法によっては本文(1)ア①の権利又は法律上の利益の侵害を防止することが困難な場合に限って、管理不全土地管理人は、管理不全土地の競売を請求することができるとするものであり、区分所有法第59条を参考にしたものである。もっとも、第10回会議において、同条の適用場面と、管理不全土地管理制度の適用場面とは異なり、正当化根拠としては十分ではないなどの問題点が示されている。
丙案は、管理不全土地管理人は、(1)イ①a及びbに規定する権限を超える行為を必要とするときは、裁判所の許可を得て、管理人が処分をする余地を認めるものである。もっとも、所有者の意向確認をどのように考えるのかにもよるが、実際には売却を許可するの
は稀なケースになることが想定される。これについて、第10回会議においては、所有者不明土地管理制度における土地管理人と権限を同じくするのは相当でない旨の指摘もあった。
なお、乙案及び丙案のいずれにおいても、土地の所有者の意向をどのように考えるのかが問題となる。必要性の観点から、意向に反しても処分をすることができるとの考えもあるが、基本的にはできないことを前提に意向確認をしても異議を述べなかった場合に限るとすることが考えられ、この点を本文(注)で注記している。
(3) 給付を命ずる処分
裁判所は、土地の所有者の権利を制約するなどの必要な処分を命ずることができるとするとの規律や、必要があるときは土地の引渡しその他の給付を命ずることができるとする規律を設けることについて、どのように考えるか。
○中間試案第2、2(1)「所有者が土地を管理していない場合の土地の管理命令」
(後注2)所有者が土地又は建物を管理せず、又は適切に管理していないことによって、他人の権利が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、必要な処分を命ずることができるものとすることについては、既存の制度とは別にこれを設ける必要性を踏まえながら、慎重に検討する。
(補足説明)
1 本文について
試案第2の2(後注2)では、所有者が土地又は建物を管理せず、又は適切に管理していないことによって、他人の権利が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、必要な処分を命ずることができるものとすることについては、既存の制度とは別にこれを設ける必要性を踏まえながら、慎重に検討する旨を注記していた。パブリック・コメントに寄せられた意見においては、既存の物権的請求権や、検討中の管理措置請求等によって対応可能であることなどを理由に、慎重に検討することに賛成する意見が比較的多数を占めた。
確かに、これらの権利を行使することによって訴訟手続を通じて対応することもあり得るものと考えられる。また、第10回会議においては、管理人が、管理を妨害された場合にこれをどのようにして排除するのかとの指摘もあったが、民事執行法上の執行官に認められているような強制的な権限を管理不全土地管理人に認めることは難しい旨の示唆があったところである。
ここでは、そもそも土地の所有者の権利を制約することを認めるかどうかと、その制約をする際の実現方法(執行方法)をどのように考えるかという二つの問題がある。
まず、権利制約について検討をすると、土地の所有者は、その所有権に基づいて土地を利用する権限を有しているため、何らの規律を設けないとすると、管理不全土地管理人が選任されて土地が管理されていても、所有者は基本的に自由にその土地に出入りすることができ、その結果、管理人が土地を適切に管理することができないという事態が生じ得ることになる。このような事態を防止するために、第三者が物権的請求権を行使し、その利用を差し止めることも考えられるが、それで足りるのか(この構成では、管理人が所有者に差止め等を求めることはできない。)は検討を要するし、管理人の選任とは別にそのような訴訟の提起を求めることは不便と思われる。
また、一定の場合に、所有者の権利を制約することができるとしても、それをどう実現するのかが課題となる。例えば、管理人が土地の所有者に対して土地の利用の差止め等を求めることができるとし、それを民事執行により実現することを可能とするために、その旨の債務名義を与えることも考えられる。
もっとも、訴訟手続によらないで以上のような強力な処分まで認めるのは行き過ぎであるとの強い意見があることは当然に予想されるが、他方で、そのような仕組みを設けなければ、実際に管理人の制度が機能するのかも問題となる。
以上を踏まえ、本文のとおり検討することを提案している。
2 管理の妨害を排除するために土地所有者の権限を専属させることについて
なお、上記1の考え方を更に推し進めると、管理の妨害を排除するために、管理人の選任と同時に、管理人に土地所有者の権限を専属させることも考えられないわけではない。
もっとも、管理人の選任と同時に管理人に土地所有者の権限を専属させたとしても、結局のところ、管理人は、債務名義を得るためには裁判所に対して何らかの申立てをせざるを得ないと考えられる。また、管理人による土地の管理と、所有者による所有権の行使とは、必ずしも相反するものではないことからすると、管理人の選任と同時に管理人に土地所有者の権限を専属させることは、所有者に対して土地所有権の過剰な制約となる可能性もある。
そこで、管理の妨害を排除するために、管理人に土地所有者の権限を専属させることについては、提案していない。
なお、土地管理人による職務の円滑な遂行等の観点から管理処分権を土地管理人に専属させることの是非については、本文(1)イ(注3)参照。
(4) 緊急の対応が求められるケースへの対応
次のような規律を設けることについて、どのように考えるか。
裁判所は、管理不全土地の所有者の陳述を聴く手続を経ることにより土地の管理の目的を達することができない事情があるときは、その陳述を聴かなくても、管理不全土地管理人による管理を命ずる処分をすることができる。
(補足説明)
パブリック・コメントに寄せられた意見の中には、落石・土砂崩れ等の発生した場合に土地の所有者に連絡が取れないようなケースもあり、簡易迅速な手続で管理措置を行うことを可能とするよう求める意見もあった。
確かに、前記のとおり、管理不全土地管理命令をする前提としては、管理不全土地の所有者の陳述聴取を義務付けており(本文(1)(注))、陳述聴取の手続を経ない限りは、管理命令を発することはできない。上記のような緊急の対応が求められるケースでは、迅速に管理命令を発することができず、土地の適切な管理の実現に支障を来す事態も生じ得ることからすると、簡易迅速に管理人による管理を可能とするために、陳述聴取などの手続を簡略化できる仕組みを設けることも考えられる。
他方で、緊急性のある事案では、物権的請求権等を本案とする保全処分をすれば足りるのであり、別途、陳述聴取の例外を設ける必要があるのかは問題となるように思われる。
以上を踏まえ、上記のようなケースに対応する観点から、本文では、管理不全土地の所有者の陳述を聴く手続を経ることにより土地の管理の目的を達することができない事情があるときは、その陳述を聴かなくても、管理不全土地管理人による管理を命ずる処分をすることができるとすることの是非について記載している。
2 管理不全建物の管理命令
所有者が建物を管理していない場合の建物の管理に関して、裁判所が当該建物について建物管理人による管理を命ずる処分をすることができる旨の規律を設けることの是非については、前記本文1(1)や所有者不明建物の管理制度の検討を踏まえて引き続き検討することについて、どのように考えるか。
○中間試案第2、2(2)「所有者が建物を管理していない場合の建物の管理命令」
(2) 所有者が建物を管理していない場合の建物の管理命令
所有者が建物を管理していない場合の建物の管理に関する制度の創設の是非に関しては、次の各案について引き続き検討する。
【甲案】 所有者が建物を現に管理していない場合において、所有者が建物を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、必要があると認めるときは、当該建物について、建物管理人による管理を命ずる処分をし、建物管理人に保存行為をさせることができる。
【乙案】 土地管理人が選任された土地の所有者がその土地上に建物を所有している場合において、所有者が建物を現に管理しておらず、所有者が建物を管理していないことによって他人の権利又は法律上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、必要があると認めるときは、当該建物について、土地管理人による管理を命ずる処分をし、土地管理人に保存行為をさせることができる。
【丙案】 管理不全建物の管理に関する特別の規律は設けない。
(注1)【乙案】は、所有者が土地上に建物を所有し、その建物を現に管理していない場合には、所有者が土地を現に管理していない場合に該当するとすることを前提としている。
(注2)建物管理人の権限については、保存行為を超えて、当該建物を利用し、又は売却する権限を付与するとの考え方もあるが、慎重に検討する。
(注3)所有者が建物を管理していない場合の建物の管理に関する制度の検討に当たっては、(1)「所有者が土地を管理していない場合の土地の管理命令」の(注1)、(注4)、(注5)及び(注7)の検討と同様の検討をする。
(補足説明)
1 パブリック・コメントに寄せられた意見の概要
試案第2の2(2)においては、管理不全建物についても、建物所有権に制約を加え、適切に管理することを可能とする管理制度を設ける観点から、管理不全建物自体を管理することとする甲案、管理不全土地管理制度の延長としてその上の建物を管理することとする乙案を提案するとともに、管理不全土地管理制度の範囲で対応することとし、管理不全建物の管理に関する特別の規律は設けないとする丙案を提案していた。
これについて、パブリック・コメントに寄せられた意見においては、管理不全建物にも対応が求められるケースはあるとして、甲案又は乙案に賛成する意見もあったが、管理命令下において行うことができる行為が保存行為に限られるため、利用できる局面が少ないことなどを理由に、丙案が比較的多数を占めた。
2 提案の趣旨
管理不全土地制度の創設理由は、前記のとおり、管理人による継続的・直接的な土地の管理が必要となるケースを念頭に、その管理不全により土地の利用が阻害されている近隣の土地所有者の請求によって、一定の条件の下で、管理人を選任し、その管理人による管理を可能とする規律を創設するというものである。
そして、管理不全土地管理制度を創設すれば、管理不全土地上の建物に倒壊・崩落の危険があるなどして本文1(1)の要件を満たす場合には、土地について管理不全土地管理人を選任することも可能であると考えられ(試案第2の2(1)(注6)参照)、この管理人は、土地上に柵や防護ネットを設けたりして、一定の対応をすることができると考
えられる。また、この建物が所有者不明建物であるときは、土地についての管理不全土地管理人の選任と所有者不明建物管理人の選任を併せて申し立てることで、管理人が土地に立ち入ったうえで、建物について適切な管理を行うことも可能になると考えられる。
もっとも、こうした対応や、現行法上の物権的請求権などの仕組みだけでは必ずしもまかないきれないケースもあると考えられ、端的に、建物についても管理人を選任する仕組みを設けるべきとも思われる。
ただし、建物について管理人を選任する仕組みを設けるとすれば、管理人が建物の売却や取壊しなどの処分まですることができるのかといった点が問題となるが(試案第2の2(2)(注2)参照。パブリック・コメントにおいては、保存行為を超える権限を管理人に認めることについて慎重に検討すべきとする意見が多数であった。)、仮に管理人が建物の存立を前提とした管理行為をすることしかできないとすると、取り壊す場合に比べて費用がかかり、社会的に不経済となる事態も生じ得る。他方で、仮に管理不全建物の管理人による取壊しまで可能とするとすれば、その管理費用は土地の場合と比べて高額なものになることが見込まれるが、回収の見込みの立たないまま予納金を納めて制度を利用しようとする申立人がどの程度いるのかという問題もあり、制度としてうまく機能しないおそれもある。
加えて、建物について選任された管理人が土地についてどのような権限を行使することができるのかといった点などについても検討を要する。
これらについては前記本文1(1)の管理不全土地管理制度や、所有者不明建物管理制度における検討を踏まえる必要があることから、本文では、これらを踏まえて引き続き検討することの是非について記載している。
第4 相続等
1 相続財産等の管理
民法改正案
第九百十八条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第二節 相続の承認
第一款 単純承認
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
第二款 限定承認
(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
(限定承認の方式)
第九百二十四条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
(限定承認をしたときの権利義務)
第九百二十五条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
(限定承認者による管理)
第九百二十六条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄
2 第六百四十五条、第六百四十六条
|
2 相続財産の清算
民法改正案
(相続人が数人ある場合の相続財産の
第九百三十六条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の
2 前項の相続財産の
3 第九百二十六条から前条までの規定は、第一項の相続財産の
第六章 相続人の不存在
(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の
2 前項の規定により相続財産の
(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
第九百五十三条 第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の
(
第九百五十四条
(相続財産法人の不成立)
第九百五十五条 相続人のあることが明らかになったときは、第九百五十一条の法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、
(
第九百五十六条
2 前項の場合には、
(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があった
2 第九百二十七条第二項から第四項まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
(権利を主張する者がない場合)
第九百五十八条
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の
2 前項の請求は、
(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
|
3 遺産分割に関する見直し
民法改正案
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
(期間経過後の遺産の分割における相続分) 第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。 一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。 二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。 (相続分の取戻権)
第九百五条 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
第三節 遺産の分割
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
(遺産の分割の協議又は審判
第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
2 共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。 3 前項の契約は、五年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。 4 前条第二項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。 5 家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。 |
(1) 相続財産の管理 (2) 相続の放棄をした者による管理 (3) 不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消し (1) 相続財産の清算人への名称の変更 (2) 民法第952条以下の清算手続の合理化 (1) 期間経過後の遺産の分割における相続分 (2) 遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げ (3) 遺産の分割の禁止 引き続きまして,部会資料51の17ページから後ろ,「第4 相続等」についてお諮りをいたします。念のため申し添えますと,第2の「共有等」をお願いしたのに続いて,第4の相続等の審議のお願いになります。番号として第3が飛んでおりますけれども,第3の内容は次回の部会でお諮りするということを予定しております。 部会資料45も財産管理制度の見直しでございますけれども,こちらは,不在者財産管理制度及び相続財産管理制度についてお諮りするものであります。 ○山野目部会長 再開いたします。 1 不在者財産管理制度の見直し 第4 相続等 遺産分割がされないまま長期間が経過した場合の遺産分割に関し、次のような規律を設けることで、どうか。 部会資料31(第1の1)と同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。 前記1の期間経過後も、遺産の分割は、民法第906条以下の規定に従い遺産分割の手続をとらなければならないとの現行法の規律を維持することで、どうか。 部会資料31(第1の2(1))と同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。 一つの物につき通常の共有と遺産共有が併存している場合に関し、共有関係を同一の手続で一括して解消する方法として、次の案について、どのように考えるか。 1 前回までの議論
相続財産の管理について、次のような規律を設けるものとし、民法第918条第2項及び第3項並びに第926条第2項及び第940条第2項のうちこれらを準用する部分を削るものとする。
① 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき又は民法第952条第1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
② 民法第27条から第29条までの規定は、①の規律により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
民法第940条第1項の規律を次のように改めるものとする。
相続の放棄をした者が、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は民法第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
不在者財産管理人による供託等に関し、次のような規律を設けるとともに、不在者の財産の管理に関する処分の取消しの規律を見直し、管理すべき財産の全部が供託されたときをその処分の取消事由とした上で、本文(1)①により選任される相続財産管理人についてもこれらの規律を準用するものとする。
① 家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、不在者のために、当該金銭を不在者の財産の管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
② 家庭裁判所が選任した管理人は、①の規律による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
民法第936条第1項及び第952条の「相続財産の管理人」の名称を「相続財産の清算人」に改める。
民法第952条第2項及び第957条第1項の規律をそれぞれ次のように改め、第958条を削るものとする。
① 民法第952条第1項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
② ①の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、2箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、①の規律により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間が満了するまでに満了するものでなければならない。
遺産の分割について、次のような規律を設けるものとする。
民法第903条から第904条の2までの規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の①及び②のいずれかに該当するときは、この限りでない。
① 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げについて、次のような規律を設けるものとする。
遺産の分割の調停の申立て及び遺産の分割の審判の申立ての取下げは、相続開始の時から10年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。
遺産の分割の禁止の定め及び遺産の分割の禁止の審判の規律を次のように改めるものとする。
① 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
② ①の契約は、5年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
③ 民法第907条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
④ 家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて③の期間を更新することができる。
ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
そうしましたらならば,第4の「相続等」の場所,すなわち1の「相続財産等の管理」,2の「相続財産の清算」,それから「3 遺産分割に関する見直し」,これらの事項について,御随意に御意見をお出しくださるようにお願いいたします。
○今川委員 1の(2)の「相続の放棄をした者による管理」について,まず確認ですけれども,放棄者の保存義務は,部会資料45の補足説明にあったように,最小限の義務であり,財産を滅失させ,又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味するという理解でよろしいのですねという確認です。
それを前提としますと,前の資料45では保存すれば足りるという規律の仕方だったのですけれども,今回は保存しなければならないというふうに表現も変わっていますので,この規律の仕方では,この財産を滅失させ,又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味するというのはなかなか読み取りにくいのではないかという意見があって,もう少しここは工夫ができないのですかという要望がありました。
○山野目部会長 大谷幹事から何か御説明なさることはありますか。
○大谷幹事 ここは書いておりますとおり,前回にお出ししたものと趣旨として変えるものではございません。法制的な観点から表現を改めたということにとどまるものでございまして,趣旨としては同じでございます。
○山野目部会長 民法940条の改正は,何か後の世代に対して相続を放棄したとしても,なお重い責任は残りますよという誤解を招きかねない,そういう誤ったメッセージを含み得る現行の法文を改めて,親の世代の財産を引き継ぐ次の世代に安心してもらおうという,そのような解決を目指して部会で審議をしてまいりました。その気持ちを心の上で反映しようとして,自己の財産における同一の注意をもって,その財産を保存することで足りるという優しい気持ちの表れた表現にしていたものでありまして,その趣旨が今後も維持されるか読み取りにくいというお話です。読み取っていただきたいと望みます。心は変わりません。ただ,大谷幹事が説明したように,この種のことを扱っている従前法制のほかの場所は「しなければならない」となっておりますから,法制上のテクニカルな制約からそのように平仄を揃えますけれども,ただいま正に今川委員と大谷幹事との間で従前の皆様の御論議の趣旨を変えるものではないということを確認し,このような経過が議事録にとどめられること自体が何よりの成果であって,今後この法制の意味するところを日本の将来の世代に受け止めていただきたいと望むものであります。
中村委員,お待たせをいたしました。
○中村委員 ありがとうございます。
日弁連でのワーキンググループでの意見を御報告いたしますと,まず1項の「相続財産の管理」に関しては賛成多数でした。今,今川委員から御指摘があり,部会長からも御説明のありました「保存しなければならない」という文言につき,「保存すれば足りる」の方がよいのではないかという点についても,やはり同じような意見が出ておりました。
それから,2項の「相続財産の清算」に関しましては賛成多数でした。
3項の「遺産分割に関する見直し」ですけれども,(1)の期間経過後の遺産分割に関する相続分に関して,相続開始から10年経過後に903条以下が適用されなくなることについて,引き続き反対意見はあるものの,おおむね賛成が多かったということです。
それから,(2)につきましては賛成多数でした。なお,10年経過しないときでも取下げには相手方の同意を要することにしてはどうかという意見もありました。
(3)の分割の禁止についても賛成多数でした。
○山野目部会長 弁護士会の御意見をお取りまとめいただきまして,ありがとうございました。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○佐久間幹事 言葉遣いだけなんですけれども,1点は屁理屈みたいだなって自分で分かっていて言うのですけれども,17ページの1の「相続財産の管理」について,①はただし書がございますよね。ただし書の「又は」の前までの二つは,これって単独相続人によって単純承認がされたり,共同相続でも遺産分割が終わったりしたら,もう相続財産ではないのではないのか,というふうな気がするのですけれども。ほかのところの相続財産と意味が違うような気がし,何かちょっとこの相続財産の使い方は一緒なのかな,と疑問に思いました。これが1点です。でも,最初に申し上げたように屁理屈みたいなものだというのは自分でも承知しておりますので,無視していただいても結構です。
2点目は,18ページの(2)の「相続の放棄をした者による管理」なのですけれども,いつまで保存の義務を負うかについて,相続人か,952条1項の相続財産の清算人に引き渡すまで,となっているんですよね,前回,相続財産の管理人について,いろんなものが混じっていてややこしいので,ネーミングを考えてくださいとお願いしまして,今回,相続財産の清算人と改めてくださってありがとうございました。お礼を申し上げた上で,相続財産の清算人と区別される相続財産の管理人が選ばれたときに,その人に渡すことですとか,限定承認のときの清算人に渡すことは,保存義務の終期から意図的に除かれているのでしょうか。除かれているとすると,どうしてかを教えていただきたく存じます。よろしくお願いします。
○山野目部会長 佐久間幹事が前の方で御指摘いただいたことは,お話を確認すると,第4,1(1)①のただし書に三つ挙がっているもののうち,最初の二つですよね,三つ目はいいですよね。
○佐久間幹事 三つ目は,はい。
○山野目部会長 そうですね。三つ目は,いまだ相続財産であると見ることができるのに対して,三つ並んでいるうちの前の二つは,その状態になったものをもはや相続財産とは言わないものではないか。そうであるとすると,本文の論理的内容の一部を否定する役割を担わせるただし書に掲げることは,論理としておかしいものではないかという点は,お話を伺って,なるほど,考えなければいけないなというふうに受け止めますから,ここの文言をどうすればよいかということは引き続き事務当局において法制的に検討することにいたします。
それから,18ページの(2)のところの限定承認があったときや,相続財産の管理の制度が発動されたときの清算人ではなくて管理人に引き渡すということによって義務を免れるということがあるかというお尋ねについて,これは事務当局の方で何か考えがないかということをお尋ねしてみましょう。
○脇村関係官 ありがとうございます。
ここにつきましては,恐らく相続人,先生がおっしゃる財産管理人とか清算人,相続人がいることを前提に,それに別に付けられているケースなので,代理権といいますか,権限はございますので,相続人に引き渡したと同視できるだろうということであえて書かなかったと。代理人を全部書いていたら切りがないということで書いておりません。
一方で,952のケースについてはいかんせんいませんので,そういった意味ではいない,法人成りしていますので,相続人と存置する前提で相続財産法人で書くことも考えたのですけれども,さすがに相続財産法人は現実に存在するわけではないので,代表者である清算人にしています。もちろん相続人不明のケースであって相続財産管理人がいるではないかということなのですけれども,そういう意味で,相続財産法人で書くよりはこっちの方が分かりやすいということを優先して書いておりますので,先生の御指摘いただいたケースはもちろん免除されることで考えているところでございます。
○山野目部会長 この「又は」の前の「相続人」というところで読み取るということは,一つ読み方としてあるのでしょうね。相続人が本来管理すべきものを,それに代わって選任された管理人に引き渡すとか,あるいは限定承認をしたときには,相続人が相続放棄をしていない限定承認が全員でしますから,それらの者に代わって事務を行う者に渡したということは相続人に渡したことと同じであると理解して,余りそれ以上くどくどと言葉を並べないという発想であるかもしれません。
佐久間幹事におかれては,いかがでしょうか。
○佐久間幹事 そういう整理をされるのであれば別に構いません。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○道垣内委員 どうもすみません。先ほどちょっと音声が途切れてしまいましたので,議論を十分に拝聴できていないのかもしれないのですけれども,18ページの(2)のところの「保存しなければならない」という文言につきまして,弁護士会等の方から,何かきついのではないかという話が出て,それに対して山野目さんが一定のお返事をされたのですが,山野目さんのお返事の内容が本当にそうなのかなという気が若干しています。自己の財産と同一の注意をもって保存すれば足りるという言い方は,その前の問題として,特定物の引渡しなので,善良な管理者の注意をもって保存しなければならないというデフォルトのルールがあって,それを緩和するからなのであり,緩和するというときには「保存すれば足りる」になるはずですよね。それに対して,ここで「保存しなければならない」というのは,相続を放棄した人はそのような引渡し義務のようなものも負うとは限らないというか,放っておいて逃げたっていいのではないかという感じがしまして,そうだとすると,そもそも特定物の引渡義務に関する善良な管理者の注意義務というのがデフォルトとして生じないので,ここは「保存しなければならない」というふうに書かなければならないということなのではないかなという気がしております。「すれば足りる」というのと,「しなければならない」というのは,放棄の後の相続人の地位とか義務というのをどのように捉えるのかということと関係している事柄ではないかということを思います。その後いろいろな人の見解があったにもかかわらず,音声が途切れて聞こえなかったものですから,ひょっとしてとんでもないことを言っているのかもしれませんが,一言申し上げておきたいと思います。
○山野目部会長 音声が途切れたかもしれないということから何か道垣内委員が議論を追い掛けていないというような御心配は今のお話を伺っているとなかったものではないかと感じます。
また,道垣内委員が内容としてお話しいただいたことはごもっともでありまして,仰せのようなことを考えてまいりたいというふうに私も同感でございます。趣旨は,従前どおり「足りる」ということでしていくことができればよろしいというふうに感ずるものでありますから,これはいかんせん,先ほども申し上げましたように,他の箇所における法制上の扱いをにらんだ上で,当面このような提案をさせていただいているものでありますから,今川委員や中村委員,そして今,道垣内委員におっしゃっていただいたような方向で,何か文言について再調整がかなうようであるならば挑みたいというふうにも感ずるものでございますから,おっしゃっていただいて有り難く感じます。
道垣内委員,お続けください。
○道垣内委員 すみませんが,結論だけは違いまして,私は保存「しなければならない」でいいのではないかと思っています。そんな積極的な特定物の引渡義務を負っているという当事者とは異なるのではないかと思っているということを,念のために付け加えておきます。
○山野目部会長 おっしゃることの意味が分かりました。
○道垣内委員 冷たそうなんです。味方のような顔をして,本当は冷たい人間だったんですね。
○山野目部会長 冷たいというよりも冷静に議論をしていただきました。ありがとうございます。
引き続きいかがでしょうか。
○中田委員 とても細かいことなんですけれども,先ほど中村委員の御発言されたことと関係するのですが,遺産分割の調停又は審判の申立ての取下げを10年経過前にした場合についてです。10年経過の直前に申立てを取り下げることは可能だと思うのですが,その場合には,場合によっては3(1)②のやむを得ない事由に該当することもあると理解してよろしいでしょうか。
○脇村関係官 脇村でございます。
先生に御指摘いただきましたとおり,そういったケースについては(1)②でカバーする前提で,逆に言いますと,それ以外のものは置かなかったということでございます。
○山野目部会長 中田委員,いかがでしょうか。
○中田委員 ありがとうございます。
やむを得ない事由の理解にも資することでございますので,確認させていただきました。今の御発言でよく分かりました。ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○木村(匡)幹事 ありがとうございます。
3の「遺産分割に関する見直し」の(1)のやむを得ない事由について,今お話のあったところであり,以前の部会でも質問させていただいているのですけれども,2点ほど質問させていただきたいと思います。やむを得ない事由として,病気療養中であるとか,海外勤務を命じられて日本にいなかった等の属人的な事情が主張されることも予想されるわけなんですけれども,このような事情がやむを得ない事由に該当するかについてはどのように考えるのでしょうか。
もう1点ですけれども,遺産分割期間の経過後に相続人となった場合に,やむを得ない事由の有無についてどのように考えるのかということが2点目でございます。よろしくお願いいたします。
○脇村関係官 脇村です。ありがとうございます。
前回も御指摘いただいたところですのであれですけれども,まず,病気療養に関して言いますと,従前から,前回も少し言ったことかもしれませんけれども,消滅時効の起算点の解釈が一つ参考になるのではないかなと思っておりまして,あそこの権利を行使できるときの解釈について,通常はそういった病気などは入ってこないだろうという,法律上の障害がないケースじゃないと基本的に駄目ではないかという議論があるものと承知しています。もちろん最高裁の判例によりますと,法律上の障害がない場合,絶対救済されないかといいますと,過払金などの議論もありますとおり,客観的な状況から行使が期待できないようなケースについては起算点をずらしているという解釈がされているものと承知していますので,ここについても,そういったものを参考に,単なる海外居住とかだけだと難しいかもしれませんけれども,その他の事情を踏まえて真にやむを得ないと,最終的にはケース・バイ・ケースかもしれませんけれども,そういったことで判断していくのかな,債権の消滅時効などが一つ,起算点などが参考になるのかなというふうには思っていたところです。
一方,10年経過後に相続人になった人も,前回確か御指摘いただいていたのでちょっと考えたのですけれども,新たに相続人になった人も2パターンいるのかなと思っていまして,一つは本当に新しくなった人というのですか,相続放棄がされて新しくなった人,新しく相続人になった人などは,その10年前にすることは不可能でしたので,やむを得ない事由はあるのだろうなというふうに考えています。あと,前回死後認知の話もあって,私も死後認知の話をさせていただいたのですが,死後認知は死亡して3年以内にしないといけませんので,余り実際にはこの問題は起きないのかなというふうに今は考えています。
あと,相続人から引き継いだ人というのですか,再転相続人といいますか,10年たってから相続人が亡くなって相続人になった人もあると思うのですけれども,この人については基本的に包括的承継,前者の地位を引き継いでいますので,一体として考えるのかなと今は思っておりまして,その前者についてやむを得ない事由があれば,それが消滅しない限りは使えますし,逆に前者になければ,自分が当時できなかったからといって,そういうのは難しいのではないかなというふうには理解していたところです。
○山野目部会長 木村幹事,よろしいですか。
○木村(匡)幹事 ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○中田委員 ただいまの脇村関係官の御説明については,確か前回も同趣旨の御説明があったかと思います。消滅時効の起算点における権利を行使し得るときについて,法律上の障害がないことということを前提としながら,最高裁は供託金取戻請求権であるとか,今おっしゃった過払金の問題ですとか,あと二,三の問題について,それを緩和していることがあることは承知しております。
ただ,ここの問題状況はやはりちょっと違っておりまして,何か似ているなということは分かるのですけれども,必ずしも法律上の障害があることが原則で,それを例外的に緩和するというのでは,ここはないのではないかなというふうに考えております。脇村関係官の御説明も似ているという程度のことで,必ずしも同じに解釈すべきことにはならないのではないかというふうに私は思っております。
○山野目部会長 脇村関係官におかれましては再度の御説明をお願いして,似ているくらいの話です,どうぞおっしゃってください。
○脇村関係官 ありがとうございます。
先生おっしゃったとおり,全く一緒だというつもりは当然ございません。更に言えば,時効の停止などのような,そういった状況なども加味してここは考えないといけないケースだと思いますので,そういう意味で参考という言い方を先ほどさせていただいたかもしれませんけれども,似ている,参考,そういったことかなと。結局は,最終的に事案ごとに,この事案は救済しないといけないと,客観的な状況からして,それはそうだよねと言えるかどうかに関わってくるのだろうとは思っています。
○山野目部会長 木村幹事のお言葉の中にあった属人的かどうかという概念整理の指標,それから脇村関係官が従来,この場で説明してきたときに用いている時効の起算点において論議される法律上の障害がなくなったかどうかという,この指標など,いずれも参考になりますが,それらが相互にぴったり重なるものではないということは既に御指摘があったところであります。脇村関係官が最後に述べたことですけれども,どうしても最後には出てきたその事案の様々な事情を見て決めざるを得ないということでありましょう。しかし,そうはいっても,それは結局一切の事情が勘案されるのですというふうに述べただけでは茫漠とした話になりますから,時効の起算点のお話を参考にするという側面はあるかもしれないし,しかし,中田委員から御注意があったように,全く同じになる議論ではないということは注意してくださいということもごもっともなお話であって,要するところ,そういうお話ではないかという今の委員,幹事の意見交換であるというふうに受け止めます。御発言いただいた皆さん,ありがとうございます。
○沖野委員 これも非常に細かくて申し訳ないのですけれども,二つ,中身を教えていただきたいことがあります。
一つ目が,17ページの「相続財産等の管理」のところで,(1)の①のただし書のところなのですけれども,この後で,相続財産の清算人という表現に改められる場合は,相続財産法人のときと限定承認のときが挙がっているのですけれども,こちらの1の(1)の①のただし書では,限定承認の方は挙がっておりません。これは趣旨としては,936条で相続財産の清算人が選ばれているときも,そちらの方は相続人から選ばれ,かつ必ず複数であれば選ぶということになっているので,それが選ばれていたとしても,保存のために並行して,この管理人を立てることはできると,そういう理解でよろしいでしょうか。
それから,もう一つは話が違いまして,21ページの(2)の調停・審判の申立ての取下げで,10年経過後は相手方の同意が必要というのは,10年経過してしまうと改めて申立てをして,具体的相続分による規律が働かないということが趣旨だと理解していたのですけれども,そうしたときに,そもそもの申立てが10年を経過した後にされていたというような場合であれば,それは,これは妥当しないと,そういう理解でよろしいでしょうか。以上は,中身についてです。
そのほか形式の点で,条文を引いてあるところが,項まで引いてあるところとそうではないところがあるのですけれども,幾つか,例えば19ページの(1)ですと,936条1項,952条になっていますが,936条1項を立てるなら952条も1項かなとか,(2)について「952条2項及び957条」となっていますが,957条は1項だけかなとか,思うところもありますので,大変細かくて恐縮なのですが,今後確認していただければと思います。
○山野目部会長 沖野委員から文言の御注意を含めると3点ありました。
最後のところは承って推敲することにいたしまして,前の2点について事務当局から説明を差し上げます。
○脇村関係官 まず,限定承認の件なのですけれども,ここは実は作るときに悩みまして,この926条と限定承認のこの関係などをどこまで明確にできるのかやや自信がなかったこともあり,明示的には書かなかったというのが正直なところです。ちょっと先生の御指摘を踏まえてどこまで書き得るのか,なかなか限定承認の記述なども,正直言いまして,この解釈論がはっきりしていないところとはっきりしているところが若干自信がないところがございますので,少し精査をさせていただきたいと思います。
取下げの件なんですが,おっしゃるとおり,もう10年たっているやつなので,元々の趣旨からしたら要らないのではないかという御趣旨だと思うのですが,形式的なところで,ここは10年過ぎたものについては一律同意を付けさせていただいています。その趣旨は,結局,やむを得ない事由があったケースの判断が,やむを得ない事由があって10年を超してしたケースについて,それについてはさすがに同意が要るのではないかという気がしましたので,そこだけ,やむを得ない事由があったケースだけ同意というようなことが規律として書きづらかったというのが正直なところです。逆に言うと,取り下げるなら同意をとってくださいということで,若干やりすぎ感はあるかもしれませんけれども,必要なところをカバーするためにやむを得ないかなというふうに考えているところでございます。
○山野目部会長 限定承認のところは,脇村関係官が述べたように従来の解釈理解がはっきりしていないという側面もありましょうけれども,従前,部会で議論があったところを思い起こしますと,限定承認の場合において,清算の任に与る人間を相続人の中から選ぶという規律自体を根こそぎ見直すならばともかく,あのルール自体はそれなりに意味があるから今は手を付けないという前提でいくと,相続人の中から選ばれたその方が,必ずしも法律的な素養や財産管理についての知識,経験を有する者ではないですから,それとは別に清算人を選任し,弁護士であるとか司法書士を選任するというような運用の仕方を可能にするということには,それとしての意義があるという議論がされてきたものであるかもしれません。そのようなことも引き続きの検討の中で思い起こし,事務当局において検討していただければ有り難いと感じます。
○大谷幹事 今の点,補足をいたしますけれども,元々今でも936条の3項で926条が準用されていて,これが保存のためだけの管理人なのか,清算のための管理人でもあるのかというところには,従来から争いがあったというふうに理解をしておりますけれども,この新しい規律の下でも,限定承認がされて,共同相続人がいて,その中の1人が清算人に選ばれたという場合であっても,現行法と同じように,少なくとも保存のための管理人の選任は可能であるということをここで書こうとしていたと。それは前回の部会資料にも確かそのようなことを書いていたと思いますけれども,そういう理解でございます。
○山野目部会長 沖野委員において,お続けになることがあればお話しください。
○沖野委員 ありがとうございます。
第1点目については,きちんとこれまでの議論や資料をフォローをしていなくて申し訳ありませんでした。
あとの取下げの方は,例えばといいますか,(1)柱書き本文の場合というような形で場面を限定するということもあり得るのかなと思ってはおりましたけれども,そういうことも思ったということだけ付言させていただきます。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。
なお,沖野委員からは,19ページのところで,条の引用で止めているところと項まで挙げているところとが,必ずしも整理されていないのではないかという御指摘を頂きましたから,そこも注意をして整理をしてみることにいたします。
なお,19ページの2の(2)の,見出しで言うと「民法952条以下の清算手続の合理化」のところは,最後のところが958条を削るものとするとなっている個所は,958条を削除するのでしょうか。これは番号が動いてしまうような気もいたします。ただしそれと同時に,従来の法制審議会の答申において,法制上は削除にするか削るにするか区別を要する個所において,必ずしもそれに即応して記してこなかった経験もあったような記憶もありますから,答申の書き方と法制上の表現の従前の例を確かめた上で,適切に処置していただければ有り難いと考えます。
引き続きお話を承ります。いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,部会資料51について,大きく三つの柱でお諮りした事項,「相隣関係」,「共有等」,それから「相続等」についてということでお諮りした諸問題について,委員,幹事から本日は熱心な御議論を頂いて,たくさんの有益なお話を頂戴いたしましたから,これらを更に整理をするということにいたします。
部会資料51について,本日予定している審議をここまでといたします。
次回の会議等について,事務当局から案内を差し上げます。
○大谷幹事 次回の議事日程でございますが,来月,12月1日火曜日が次回になります。また同じように午後1時から,この法務省大会議室で開催させていただきたいと思います。
テーマといたしましては,要綱案のたたき台ということで,民法関係の残りの部分を次回にお示しをして,御審議を頂きたいと思っております。今回同様に終了の時刻について定めませんけれども,その御審議が終わった時点で閉会とさせていただく見込みでございます。
○山野目部会長 次回の日時,会場,予定されている審議事項について御案内を差し上げました。
この際,部会の運営について,お尋ねや御意見がありますれば承ります。いかがでしょうか。
よろしゅうございましょうか。
それでは,本日も熱心な御審議を頂きまして誠にありがとうございました。これをもちまして,民法・不動産登記法部会の第21回会議をお開きといたします。
部会資料45の1ページは,不在者財産管理制度の見直しについて,第15回会議でお諮りした部会資料34と基本趣旨が同一内容のものをお示ししてございます。
それから,おめくりいただきまして2ページから後にまいりますと,相続財産管理制度について,これも第15回会議でお諮りしたように,部会資料34で御案内した方向に基づき,一言で申せば,統一的な相続財産管理の制度を設けるという構想の骨格を維持し,さらに,法制的な準備を踏まえた文言の整理を含めたものを御提示申し上げております。
4ページにまいりますと,4ページの下の方,(2)のところで,相続人があることが明らかでない場合の相続人の捜索,探索等の手順,それから相続債権者及び受遺者への弁済等の手順についての基幹のリズムのことについて,部会資料34でお諮りしたとおりのものをお出ししております。
隣の5ページにまいりますと,相続の放棄をした者の義務に関し,部会資料29でお諮りしたものと基本趣旨を同じにするものをお示しした上で,第13回会議において議論になったことについて,補足説明で若干の御案内を差し上げているものでございます。
不在者財産管理制度と相続財産管理制度を分けないで,部会資料45について,一括して御意見を承るということにいたします。中村委員,どうぞ。
○中村委員 ありがとうございます。
日弁連ワーキンググループでは,まず,1項の不在者財産管理制度につきまして,(1)の供託の規律については賛成多数でした。
(2)の職務内容の限定に関する規律を設けるかどうかという点につきましては,これを設けないということに対して賛成意見と,もう一つは,裁判所が管理対象財産を限定することなどが可能となる仕組みを,引き続き検討した方がいいという意見とがありました。
第15回の部会で宇田川幹事から,この職務内容の限定に関する規律を設けることに関しての,いろいろな難しさという御懸念が示されていましたことは承知しておりますけれども,あらかじめ定めることができるという規定であれば,そのとき御指摘のあったような御懸念のない事例,可能であり,かつ,適切な場合にだけ,この規定を利用すればよいという考え方もあり得ることから,引き続き検討してみてはどうかという意見もございました。
それから,2項の相続財産管理制度ですが,(1),(2)を通して賛成意見が多数でした。その上で,幾つか提案がありまして,一つ目は,これも第15回の部会で宇田川幹事から御指摘があったことと同じなのですが,各制度による管理人の権限が競合する事態が生じて混乱することの無いように,管理人,相続人の権限や優劣関係を整理してほしいという要望がございました。今回の部会資料の先ほど検討しました43の2ページに,所有者不明土地管理人と不在者財産管理人等との競合という項目を設けて説明いただいており,それについては理解できるわけなんですけれども,この項目では,不在者財産管理人等との競合という題名ではありますけれども,ほかの管理人制度との関係については,特段のお示しがなかったと思います。改正後の実務におきまして,要件という面からは複数の制度の利用が可能であるように見える場合に,どれを選ぶのが適切か,選択の指針にするために,先ほどの資料43のような説明を設けていただけると有り難いという指摘が出ておりました。
それから,もう一つは,各制度の管理人となった者の行動指針を御検討いただけると有り難いという意見です。特定人の利益のためなのか,より公益に即したものと見るべきなのかというような,行動のための指針ということです。
3項の相続の放棄をした者の義務については,賛成多数で特段の異論はございませんでした。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめいただきまして,ありがとうございます。
木村幹事,どうぞ。
○木村(匡)幹事 ありがとうございます。
まず,一つ目は,不在者財産管理制度の見直しのうち,本文の1(2)の職務内容の限定に関するところですが,部会資料の補足説明において,運用上の工夫により同様の結果を得ることは不可能ではないと考えられ,第15回部会でも現にそのような運用が行われている旨の記載があり,そのような運用が行われているということは承知しておりますところ,このような運用におきましても,不在者の財産全体に管理が及ぶということを前提とした上で,一応の不在者の所在調査や財産調査を行うことによって,不在者の利益を保護するという不在者財産管理制度の趣旨も踏まえた運用が行われていると認識しておりまして,その点を御参考までに付言させていただきたいと思います。
これが1点目でございまして,二つほど2の相続財産管理制度の見直しに関して御教示いただきたい点がございます。1点目は,先ほど中村委員からもございましたけれども,法改正後も残る既存の相続財産管理制度と新しい相続財産管理制度との関係についてですが,例えば,家事事件手続法200条1項の相続財産管理制度と新しい相続財産管理制度との優劣,例えば,家事事件手続法200条1項の相続財産管理人が既に選任されている場合に,新しい相続財産管理人制度の選任の申立てがなされたケース,又はその逆のケース,そういったときに,その帰趨についてどのように考えたらよいのか。また,両者が重複選任されてしまったといった場合,それぞれの権限の範囲や優劣について,どのように考えたらよいのか。そもそも重複選任といったことがなされないように,申立てを受けた裁判所において,他の裁判所で相続財産管理人が選任されているのかどうかを把握することができる仕組みといったものも考える必要があるのではないかといった点が問題として考えられましたので,何か御教示いただけるところがあればご教示ください。
もう一つが,相続財産管理制度の関係で,本文のアのただし書でございます。相続財産管理人が選任できる場合から,相続人が1人である場合でその相続人が相続の承認をしたときが除外されるということになっております。例えば,成年後見制度が利用されているケースで,被後見人が死亡しまして,唯一の相続人が非協力的ないし無関心であって,熟慮期間が経過したにもかかわらず,相続財産を後見人から引き継ごうとしないといったような事態が考えられますが,こういった場合に,供託できない財産については,後見人であった者が相続財産を無報酬で,裁判所の監督を受けることもなく,事実上管理しなければならないことになります。こういった事態に,相続財産管理人の選任ということで対応できるのかについては,現在は,法文上そういったことも検討できなくもなかったのではないかと思われますが,これが,今後相続人が1人である場合において,その相続人が相続の承認をしたときというのが明文で除外されるということになった場合に,法文上これがもうできなくなってしまう,検討がもうできなくなってしまうというようなことも考えられ,何かこういった問題に参考になるようなことがあればご教示いただけますでしょうか。
○山野目部会長 都合3点にわたる御意見ないしは問題提起を頂きました。
1点目のみ,不在者の財産の管理に係る御指摘でありまして,職務内容の限定に関して,法制上の規律を置かないという方向を,この部会資料45で提示しておりますけれども,それに関連する御知見の披歴を頂きました。一つ前に中村委員から,弁護士会の中の一部の皆さんの御指摘として御要望があった事項,そのお考えとの間で,引き続きこの部会資料で御提示申し上げているような考え方を題材として,意見交換を重ねていただければ有り難いと感じます。これが1点目でございます。
それから,2点目の家事事件手続法200条の関連のこと,及び3点目に御指摘いただいた成年後見年の死後の事務の円滑な終了と相続財産管理制度の運用,新しく設けられる制度との間にエアポケットが生ずるおそれはないかという観点からの御指摘,これら後ろの都合2点については,いずれもどのようにすべきかということについて,むしろ今後において裁判所との間で御相談を重ねていくべき事項であると感じられますけれども,現時点において,御指摘を承ったところを踏まえて,法務省事務当局において何か考えているところがあれば,御案内を差し上げます。
○宮﨑関係官 まず,1点目の家事事件手続法200条で選任される,いわゆる遺産管理人と,今回の本文,相続財産管理人との関係なんですけれども,先に遺産管理人が既に選任されている状態で,その後相続財産管理人の選任の申立てがされた場合において,その遺産管理人が全て相続財産の全般を管理しているという状態でしたら,相続財産管理人を更に選任する必要性は普通はないのではないのかと思われますので,後の方にされた相続財産管理人の選任の申立ては却下されるということが考えられると思います。また,その逆も同じようなことが言えるのかなと思いまして,先に相続財産管理人が選任されている状態で,後から遺産管理人の選任が申し立てられた場合には,後の方にされた遺産管理人の選任の申立てが却下されるということが通常はあり得るだろうと考えておりました。
また,既に重複してそれぞれが選任されてしまった場合については,普通は両方の管理人に,いずれも管理を継続させるという必要はない場合が多いのではないかと思われますので,どちらかを取り消すことが考えられるのかなと思っております。どちらを取り消すのかということについては,個別事案の判断になるかとは思いますが,一つの考え方としましては,家事事件手続法200条の遺産管理人の選任に係る保全の必要性がなくなったと認められると判断をして,そちらの方を取り消すという運用も考えられるものと思われます。
今のが家事事件手続法200条の関係でして,もう一つが,相続の承認との関係でございますが,現行の民法第918条第2項に基づく相続財産管理人の選任というのがございますが,こちらの選任を申し立てることができるのは,相続人の熟慮期間中に限られると解釈されていると考えられまして,そういう意味では,現行法下においても唯一の相続人が相続の単独承認をした場合であれば,同法に基づく相続財産管理人の選任の申立てはできなくなるものと考えられます。もっとも,お尋ねのケースにおきましても,相続の単純承認がされていないと認められるのでしたら,現行の民法第918条第2項と同じく本文の相続財産管理人の選任を申し立てることができるとも考えられます。
実際の実務で,相続開始時から3か月を経過した後に,民法第918条第2項による相続財産管理人の選任が認められているというのも,そういったケースではないのかなと考えられます。
○山野目部会長 事務当局から一応御案内を差し上げました。
家事事件手続法200条との関係については,御案内申し上げたように,裁判所と引き続き相談していく必要性が大きいであろうと感じます。
それから,成年後見人の死後の事務の関連も同様でありますけれども,民法873条の2の規定が議員提案による民法改正で追加されてから,その運用上浮かび上がっている課題も整理した上で,こちら側の相続財産管理の制度の整備をにらんだ上で,更に検討していかなければならない事項もあるであろうと感じます。このたびの法制審議会の答申の中で,873条の2の規定に手を触れるということにはなりませんけれども,そこに検討すべき課題があるという可能性はあり得るものであります。
いずれの点につきましても,引き続き裁判所と御相談していくということで,木村幹事におかれてはよろしゅうございましょうか。
○木村(匡)幹事 はい,ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続きいかがでしょうか。
○水津幹事 相続の放棄をした者の義務について,気になっていることを申し上げます。
提案では,相続財産に属する財産を占有するなどとされています。占有というと,物,つまり不動産及び動産が念頭に置かれているようです。他方,財産というと,物以外の財産も含まれます。規律の対象を物に限定するのであれば,財産という文言は,物に改めた方がよいと思います。もっとも,この場合には,物以外の財産の扱いについて,規律が欠けることとなります。
これに対し,規律の対象を財産一般とするのであれば,物以外の財産の扱いについても,規律が欠けることはありません。もっとも,この場合には,占有という文言は,改めた方がよい気がします。民法以外の法律の中には,例があるようですけれども,民法では,財産の占有という概念は,用いられていないように思われるからです。
○山野目部会長 水津幹事の御注意を伺い,よく理解することができました。どのような文言として整理したらよいか,よく考えてみることにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
相続人があることが明らかでない場合の基幹のリズムの見直しに関する民法952条以下の見直しにつきましては,賛成であるという簡単な御指摘のほかに,特段の御議論がありませんでしたけれども,ここは,この方向で進めてよろしゅうございましょうか。
もし,これがこの方向で実現することになりますと,相続開始から特別縁故者の不存在確定まで含めますと,13か月もかからないと登記上及びその前提となる実体関係上の処理ができないという,現在の民法が抱えている大変な不便,そして社会経済情勢を踏まえると,今後ますます深刻になってくるであろうこの問題につきまして,かなり抜本的な対策が講じられるということになってまいります。
引き続き,この観点も委員,幹事の御意見を承りながら,規定整理の構想を進めてまいるということにいたします。
部会資料45について,特段の御指摘がなければ先に進ませていただきますけれども,よろしゅうございましょうか。
部会資料42をお取り上げくださるようにお願いいたします。
部会資料42は,遺産の管理と遺産分割に関する見直しについてお諮りするものであります。
1ページの第1は,「一定期間後の遺産分割」ということで,10年が経過した後については,具体的相続分を考慮しない遺産分割をしてもらうという規律の提案をし,第14回会議に引き続き,同じ趣旨の提案を差し上げています。
同じく1ページの「2 分割手続」の(1)のところでは,960条以下の規定に従い,遺産分割の手続で,そこで述べることをしてもらうということをお示ししているものであります。(2)の「通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則」として,共有物分割訴訟の中で,遺産分割として扱われている内容を取り上げる場面を認めようという提案を差し上げ,ただし,それは10年が経過した後であって,かつ,遺産分割事件が家庭裁判所に審判又は調停の形で係属している場合において,関係する相続人から異議が出されなかったときに限るというふうな要件設定で,規律の提案を差し上げているところであります。
4ページの方にまいりまして,遺産共有の場合にあっても,所在不明などである相続人がある場合の持分の取得について,先ほど休憩前に御議論いただいた部会資料41の提案と同じ内容のものを,こちらでも考えようという提案を差し上げております。
6ページにまいりまして,4も同じ話でありまして,通常共有のときと同じように,所在等不明相続人がいる場合の不動産の譲渡について,それを考えようという提案を差し上げています。
部会資料の6ページの一番下の5の例外のところは,やむを得ない事情によって10年以内に遺産分割をすることができなかった場合の救済策を,第14回会議に引き続き話題としているところであります。御提示申し上げている内容の考え方の方向が少し異なっておりまして,前回は,どちらかというと,価額請求によって問題処理をしようという方向が有力になってきたところでありますが,本当にそれでよいかという観点から改めて考えた上で,期間終了間際6か月の時点で起きた変則的な事態に伴って,このような困った状況になった場合については,なお遺産分割の請求等について,例外的な取扱いを,それそのものについて認めようという方向の提案を差し上げているところであります。
8ページにまいりまして,6のその他で,遺産分割の申立ての取下げ等に関する規律の見直しの提案を差し上げ,9ページ,第2のところは,以上の提案を踏まえた上で,第2の「遺産分割禁止期間」,それから第3の「遺産共有と共有の規律」について,お示ししているような提案を差し上げているものであります。
最後に10ページでありますけれども,第4の「共同相続人による取得時効」については,新たな規律を設けることが,そこに補足説明でお示ししているような幾つかの観点から困難ではないかという見通しを踏まえて,これについては規律を設けないものとするという提案を差し上げているところでございます。
部会資料42の全体について,委員,幹事から御意見を承るということにいたします。
いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 今回の部会資料42について,弁護士会のワーキンググループの中では,前回の部会資料31と比べて非常に分かりやすくなったという意見がありましたので,まずその点を申し上げます。
順々に申し上げますが,第1の1と2は,前回と同じで,賛成です。
2の(2)「通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則」について,前提として,この特則がどのようなことを意味しているのかということと,どのような場合を想定しているのかということについて,確認させて下さい。今回,席上に配布していただいた図を示しながら,御質問いたします。
下手な図で恐縮ですが,図1,図2,図3を書きました。
図1は,部会資料42で例示されている,2ページのA,B,C,Dの関係を図にしたものです。すなわち,A及びBが各2分の1の持分を有する共有状態の土地がある場合に,Bが死亡し,C及びDが各2分の1の法定相続分で相続したときということで,これが,通常共有と遺産共有が併存している場合の典型例として挙げられています。
今回,この特則を提案する理由というのは,部会資料42の3ページに書かれているように,この図1の場合には,現行法では,Cが協議によらずに共有物の全部を取得するには,共有物分割と遺産分割の手続の双方を経なければならないところ,共有物分割手続の中で一回的に解決する方が,相続人にとっても便宜であること。したがって,共同相続人の有する遺産分割上の権利を侵害しない限りにおいて,一定の要件を満たせば,このような場合に共有物分割の手続によって,一回的な解決をできるようにするということだと理解しました。
そこで,念のための確認なんですが,図1の場合には,部会資料2ページの①,②の要件を満たせば,CがA及びDに対して,民法258条1項に基づき,共有物分割請求ができることになるということを提案されていると理解しましたが,そのような理解で正しいでしょうかというのが,一つ目の質問です。
次に,図2ですが,これは,図1の状態から,Aも死亡して,その相続人としてEとFが出現したという事例です。
この事例は,一見すると,現在の権利者であるCないしFは,いずれも遺産共有状態の共有者であって,通常共有と遺産共有が併存していないようにも見えます。しかし,この事例も,Cが協議によらずに共有物の全部を取得するためには,共有物分割と遺産分割手続の双方を経なければならない,具体的には,Dとの間の遺産分割と,E及びFとの間の共有物分割請求が必要になるということで,この二つの手続が必要になるという状況は,図1の場合と全く同じです。したがって,この図2の場合も,今回提案されている特則の対象となっていると理解しています。
つまり、通常共有と遺産共有が併存しているということの意味は,図2で「共有」「遺産共有」と書いたとおり,C及びDの遺産共有,E及びFの遺産共有に加えて,C及びDとE及びFの通常共有,これが併存している。この不動産については,このような形で遺産共有と通常共有が併存しているということなので,図2の場合も,この特則の対象になると理解していますが,それでよろしいでしょうかというのが,2番目の質問です。
2番目の質問に関連して,今の理解が正しいとすると,部会資料1ページの(2)本文に書かれている規律,すなわち,「財産が数人の相続人及び相続人以外の者の共有に属する場合において」という表現が,これは,図1の場合を想定していると思うのですが,図2の場合も,これに読み込めるかが,疑問に思いました。
図3ですけれども,これは,図2と似ていますが,これは数次相続の事例で,元々AとBが通常共有でなく,遺産共有であった場合です。この場合,Cとしては,D,E及びFとの間で,Xの遺産分割手続を行い,Dとの間でBの遺産分割手続を行うことが可能であり,かつ,今回の改正で,相続開始から10年間が経過した場合には,具体的相続分の主張が制限される結果,遺産の一部分割が基本的に認められるだろうということで,X及びBの遺産の一部分割として,不動産の分割を実施すればいいということになり,したがって,数次相続の場合は,今回の特則の対象とする必要はないと整理されたと理解していますが,それでよろしいでしょうか。
図3の場合に,Xの遺産分割手続とBの遺産分割手続を一回的に解決するためには,2つの遺産分割手続が併合されることが必要ですが,実務的にそのような併合が認められるのか,その辺りの見通しについて,お聞かせいただければと思います。
一旦ここで切りたいと思います。
○山野目部会長 それでは,今日,蓑毛幹事からお配りいただいた1枚ものの資料についてのお話を頂いたところでありますから,蓑毛幹事のお話の途中でありますが,ここで切って,1枚ものについてお示しいただいた三つの図の関連は,事務局に資料の案内の趣旨の確かめを求めておられるということであると受け止めますところから,事務当局からお話をください。
○脇村関係官 ありがとうございます,脇村です。
まず,先生に頂いた質問については,いずれも,はいという答えなんですけれども,図1については,おっしゃるとおりだと理解しています。
図2につきましても,実は,なかなかどうやって書いていいのか難しかったんですけれども,意図としてはそういった,いわゆる遺産共有以外のものも混ざっていることを含めて考えておりましたので,射程に入っているという理解しておりました。あと,この後,どこまで表現をきれいにできるかは,改めて考えたいと思います。
図3の図形につきましても,おっしゃるとおり考えておりまして,従前の実務はどうかとか,併合最終的にどうかという議論あるんですけれども,いずれにしましても,理論上は,併合した上で,かつ,一部分割を活用すればできるであろうと理解しておりまして,今回の改正でこういった議論がされたことは,きちんと紹介をし,考えていただくように促すことになるんだろうと思います。
もちろん,一部分割に相続人が反対しているケースなどは,結局難しいケースあるかもしれませんけれども,皆さんが基本的にいいというケースについては,スムーズにできるのではないかと思っています。
図1の関係で少しだけ,先生おっしゃったとおりなんですが,1点だけちょっと補足的なお話をさせていただきますと,先生の方から,CがA,Dに対して共有物分割請求できるという意味でしょうかとお話がありましたが,できるという意味につきましては,とりようによっては二つの意味があるかなと思っていまして,単純に,Cが単独で共有物分割訴訟を請求できるという問題と,プラス,CがDとの関係との解消もできるという,この二つの意味があると思っていまして,部会資料で書いていますのは,主眼は,どちらかといいますとDとの関係についてメインで議論していますが,もちろんこういったことになりますと,Cが単独でしやすくなるというのはそのとおりではないかと思っています。
この規律でなかった場合でも,併存している場合について,共有者の1人,相続人の1人が,自分たちの遺産関係と共有者,通常共有者との関係の分割を単独でできるかどうかという解釈論はあるとは承知していますが,いずれにしても,お答えとしては,この部会資料としては,はい,ということだろうと理解しています。
○山野目部会長 図1から図3まで,内容の理解は,全て蓑毛幹事にお見通しいただいたとおりであるということを御案内し,太字で示す規律表現については,御指摘も踏まえて,なお検討していくという案内がありました。
蓑毛幹事,お続けください。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。
脇村さんがおっしゃったのは,恐らく最判平成25年11月29日の射程の関係をおっしゃったのだと思いますが,あの判例の射程がどうあれ,今回の提案で,先ほど申し上げたとおり,CがA及びDに対して共有物分割請求の訴訟を提起できるとしていただければ,この制度が非常に,実務上使いやすくなると思っております。
続けて申し上げてよろしいでしょうか。
部会資料1ページから2ページにかけての(2)で①と②の要件を設けることについて,これは,前回の部会資料31では,①だけが要件であったものが,甲案としてあったのですが,これに②の要件が付加されたと理解しています。つまり,10年経過後であっても,原則は遺産分割を行うということであって,共同相続人の有する遺産分割上の権利を重視して,②の要件が付加されたと理解しています。
この点について,日弁連のワーキンググループでは,②は不要という意見も若干ありましたが,②の要件を設けることはやむを得ないという意見が大半でした。
ただし,②の異議がいつまでも言えるということになると,共有物分割請求の訴訟が非常に不安定になり,審理の無駄が起こりますので,この異議の申出については,一定の期間に制限すべきだという意見が多数でした。また,この特則に基づく共有物分割請求訴訟が起こされた時点では,遺産分割の審判も調停も係属していなかったにもかかわらず,訴訟提起後に,言わば後出しのように遺産分割の請求をして,異議を言うということについては,更に強い制約をすべきではないかという意見もありました。
続いて,3の「不動産の所在等不明共有者の持分の取得」については,賛成が多数でした。ただし,少数説として,相続開始から10年を経過するまでは,この限りではないという要件について,これは,共同相続人の有する遺産分割をする権利には関わらないので,不要であるとの意見がありました。
部会資料6ページの4,所在等不明相続人がいる場合の不動産の譲渡についても同様で,これに賛成する意見が多数ですが,ただし書は不要という少数意見がありました。
6ページの5の例外規定等については,賛成意見が多数でした。
ただし,やむを得ない事由という定め方ではなくて,具体的にその事由を明示すべきという意見がありました。また,共同相続人の全員が同意をして,具体的相続分の主張ができるようにすると合意している場合には,10年経過後もそのような主張を認めてよいのではないかという意見がありました。
部会資料8ページの6,遺産分割の申立ての取下げ等については,賛成します。ただし,前回も申し上げたことで,部会資料で反論されてもいるのですが,遺産分割事件の中止の規定は入れて欲しいという意見が,現在も残っています。
それから,第2の遺産分割禁止期間,1,2については,いずれも賛成です。
第3の遺産共有と共有の規律についても賛成ですが,①の「特別の定めがない限り」という文言について,特別の定めがなかったとしても,通常共有と遺産共有とで,性質上違った考え方をすべきものがあるかもしれないので,例えば,「その性質が許さないときを除き」といった規定の仕方の方がよいのではないかという意見がありました。
最後,第4の共同相続人による取得時効については賛成です。
○今川委員 この部会資料42については,全体的には賛成の方向で特に意見はありませんが,一つ,第1の2の(2)の補足説明4のところで,蓑毛幹事もおっしゃったんですが,濫用的な異議申出の対策はしっかりすべきであるということと,同じ補足説明4の最後の「また」というところの3行の部分ですが,これは,家裁と地裁との連携,情報の共有を説明されていると思うんですが,裁判のIT化に関しても,法制審議会で議論されていますけれども,ITを積極的に促進をして,ITを駆使しながら,裁判所間で情報を共有する,連携をしていくということが必須であると考えております。
それと,これは質問ですが,5の例外規定についてですけれども,この例外規定が該当するときは,3の持分取得とか4の不動産譲渡もやはり禁じられるという考え方でいいのかどうかという点です。多分禁じられるのだろうと理解していますが,ひょっとして気が付かずにやってしまうこともあるのではないかという意見が,我々の検討チームの中からあがっており,これも裁判所間の連携でうまく防げるのかどうか,また,気づかずに譲渡してしまった場合などは,どのようにして回復していくのかということも気になります。
実際,そういうことはまずないだろうというお考えなのか,その辺りのお考えを教えてください。
○脇村関係官 今のやむを得ない事由の件なんですけれども,論理的な問題はちょっと置いておくとして,実際上の問題として,特に所在等不明相続人にやむを得ない事由があった場合の処理につきましては,もともと異議があった場合のために公告期間を設けるという前提にしておりますので,公告をして,当然異議が出して,やむを得ない事由があるんだからみたいなことになれば,それは止まるということなんですけれども,そもそも自分が権利を主張すれば止まる制度にしていますので,結局,機会を与えて何も言わなかったということに,論理的にはなるのかなと思っていますので,何といいますか,結果的には,相続人の方から公告機会があるにもかかわらず権利主張しなかった場合と同様に,そのまま処理がされて,あとは,残りのものについて,家庭裁判所で,今度別途本当に出てきた後に遺産分割を請求した場合には,それを前提に処理がされていくんだろうと考えていました。
結局,機会あって言わないということと同じ処理かなと思っています。
○今川委員 所在不明共有者や所在不明相続人が出てきた場合だけではなくて,例えば相続人間で,不動産の譲渡の許可を申し立てている場合に,所在が分かっている他の相続人の1人に例外に該当する正当な事由があって,分割調停を申し立てていくということがあったときに,裁判所の連携がうまく機能すれば,バッティングしているというのが分かると思うんですが,そもそもそういうバッティングもないわけではないと思ったんですね。
○脇村関係官 まず前提として,ちょっとまだ私も煮詰まっていないところありますけれども,今回の仕組みを作る場合には,少なくとも登記上の相続人には通知が行くことになっていますので,そういった人たちが,どういうアクションを取ったとき,この手続がどうかという問題なのかなと思っています。
従前は,自分が取りたいというときについて,同じような申立てをしてくださいということを今,念頭に置いていたんですけれども,今,今川委員がおっしゃったのは恐らく,では,遺産分割を申立てしているケースもあるのではないかと。そのときには,この遺産分割の申立てしているんだから,この持分譲渡といいますか,取得について止めるべきではないかという御意見かなと伺っていて思いましたので,少しそこは,改めて検討したいなと思います。恐らく,やむを得ない事由がある場合に限らず,ほかの人が遺産分割をするんだから,あなた1人だけ抜けるのやめなさい,1人で取るのはやめなさいですかね,持分取得やめてくださいというようなことを言わせるべきではないかという御指摘かなと,今伺っていて思いましたので,もし今,今日御意見あれば頂きたいですけれども,そういったアクションの取り方について,また改めて検討したいと思います。
○今川委員 続けてよろしいでしょうか。
今,脇村関係官がおっしゃったことで,部会資料41に関わってくるんですが,持分取得の場合は,他の共有者に裁判所から通知するという規定,注意書きがありますが,譲渡の場合はその規定がなく,1人が譲渡の許可の申出をしても,他の共有者には通知しないと思っているのですが,やはりする通知という前提なんでしょうか。
○脇村関係官 そちらの方は,最終的に同意が必ず要件になりますので,嫌だったら同意しなければ権限を行使できませんので,そういう意味では,大丈夫かなと思っています。
○今川委員 分かりました。はい,了解しました。
○山野目部会長 今川委員と脇村関係官の今の意見交換で明らかになってきたことの一つとして,相続人の一部が所在不明であるときの持分の取得とか不動産の譲渡については,それらの手順を進めることができるということについて,一つ前に御審議いただいた通常共有のときと同じ規律をこちらに持ってこようとしていますけれども,遺産分割が問題になるかもしれないという,そのような意味で遺産共有という特殊性を有しているステージにおいて,単に通常共有のときの手順をコピー・アンド・ペーストして済む話かということは,もう一度いささか慎重に考えてみる必要があって,今川委員が御指摘のとおり,例外規定との関係がありますし,それ以外にも,ひょっとすると持分取得とか譲渡の権限を与える許可の裁判の手続が進んでいる途中で,ほかのそのような動きを考慮して,一旦止めなければいけないとか,やり直そうとしなければいけないとかという要請を感じさせる場面があるかもしれませんから,今,脇村関係官が少し視野を広げて検討してみますとお答えを差し上げたとおりでありまして,少しそこのところを,御注意を踏まえて検討してみたいと考えます。ありがとうございます。
そうしたら,司法書士会からは以上ということでよろしいですか。よろしければ、次は佐久間幹事にお願いしようと考えます。
○今川委員 以上です,はい。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
今の点なんですけれども,5の例外規定ですが,この規定が,3とか4,2には及ばないということでよろしいんですかね。2というのは,通常共有と遺産共有の場合の特則については及ばないということでよろしいんでしょうか。すみません,まずそれを教えていただければと思うんですが。
○脇村関係官 脇村です。
はいといいますか,2につきましては,そうですね,関係ないと。ここは通常共有の,ある意味,持分の決め方という前提を考えていましたので,ここについては,そこはリンクしないと考えていました。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
そうすると,3と4には及び得るということなのですが,先ほどのお話で少し気になったことがございまして,3と4の裁判所に,例えば,処分とか持分取得の許可,許可と言っていいのか,ちょっと分かりませんけれども,それを求める請求があった場合に,その審理がされているときに,5の例外規定に当たるということが出てきたならば審理を止める,というのは分かります。けれども,もし既に許可された,あるいは請求が認められた,それで譲渡が認められる,あるいは持分取得が認められるということになった後に,この事情がありましたと出てきた場合,裁判で認められたものまで覆るということが,何か先ほどの受け答えではあり得るとも聞こえたんですが,それはそうなんでしょうか。もしそうだとしたら,ちょっと問題ではないかなと思うのですけれども。
○脇村関係官 私,申し上げました趣旨としましては,やっている最中に,遺産分割なり,あるいは共有も同じかもしれませんけれども,共有分割請求等が別途された場合には,場合によっては,そもそも止めた方がいいのではないかということを,一つ,もしかしたら検討すべきなのかなと思ったということを申し上げました。
その上で,後で考慮すると言いましたのは,やり直すというよりは,遺産分割前に持分譲渡等が,普通の場合,普通の相続をやった場合についてはされるわけですけれども,そういったことを,後の遺産分割では,ある意味考慮して判断する,論理的には,遺産分割の審判なりの中で,かつてそういうのがあったということを前提とした遺産分割,極端な話は,もう遺産がなくなっていますので分割しようがないんですけれども,そういった事後処理が,場合によってはあるのではないか,さらに,そのときには,906条2などの活用もあるんではないかということを申し上げたつもりでして,そういう自体をひっくり返そうということは考えていませんでした。
○山野目部会長 佐久間幹事,お続けください。
○佐久間幹事 いや,それだったら結構です。
申し上げたかったのは,このやむを得ない事由が何かということにも関わるんですけれども,この例外規定が,前回の価額償還という調整の仕方から変わったということは,それはそれとしてよろしいんだろうと思うんですけれども,価額償還で処理をしようという前回までの流れとしてあったのは,この10年が経過した場合には,いろいろな意味での処分がなるべく容易になるように,そして,効力が安定するようにということであったと思います。その点は,今回のように例外規定のあり方を変えるとしても,なお留意する必要があるのではないかと思いました。
○山野目部会長 よく分かりました。
手続を止めることはあるけれども,手続をひっくり返すことはないという解決を,皆さんが抱くイメージとしながら,引き続き事務当局に置いて検討してもらうことにいたします。
○山田委員 ありがとうございます。聞こえますでしょうか。
二つあります。一つ目から発言いたします。
部会資料42の6ページから7ページに関しまして,「5 例外規定等」のところです。この点については,私,賛成でありまして,前提となっている第1の1,2も含めて賛成です。特に,今発言をさせていただきましたのは,具体的相続分に基づく価額の支払請求というものが,今回,5の例外規定等のところで補足説明には触れられていますが,それについては,制度的な手当てをしないというお考えを示されているという点についてであります。
具体的相続分については,初歩的なことですが,法的な利益であり,そして経済的な価値であることは,確かなところであります。したがって,具体的相続分がこのような,第1の1から始めてですが,ルールにすることによって,その帰趨というか消長についてどう考えるかということを整理する必要があるのだろうと思います。事務当局でこういうふうに整理された過程で,イメージをお持ちであれば,お教えいただきたいと思います。
結論は,私,こういう解決が簡明であり,よいと思うのですが,しかし,具体的相続分をどういうふうに考えると,こういう具体的なルールを適切に基礎付けられるかという点について,お考えをお伺いしたいということです。
それから,もう一つは,今のことと関係しないですが,簡単なことですので,続けて発言してよろしいでしょうか。
部会資料42の1ページ,2の分割手続,(2)の通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則に関してであります。少し前に,ここは発言が集中したところですが,遅れてしまって申し訳ありません。
通常の共有と遺産共有が併存している場合に関する規律を,今回のこの遺産分割に関する手直しに合わせて行うという趣旨と理解しました。そうしますと,このゴシック,太字で書かれているところの第2段落の「財産が数人の相続人及び相続人以外の者の共有に属する場合」という,この表現についてちょっと疑問がありますので,発言をさせていただきます。
蓑毛さんの文書,先ほどお使いいただいたものですが,私もこれを使って,一言発言を続けさせていただきます。
蓑毛さんの文書の図1ですが,一番単純な基本的な場合ですが,このとき,AとCが同一人物だというケースもあると思います。すなわち,AとBが元々通常の共有だったと。Bが亡くなって,C,すなわちAが相続人としてDと共同相続したという例であります。これは,通常の共有と遺産共有という言葉を使っていると,通常の共有と遺産共有が併存しているという言葉に素直に当たるのですが,それを,相続人及び相続人以外の者というのに言い換えますと,少し紛れが出てくるように思います。
ここについては,それでも大丈夫なのだということであれば,とやかく申し上げたいということではないのですが,ちょっと疑義が,私には生ずる余地があると思いましたので,一言発言させていただきました。
○山野目部会長 二つお尋ねがありまして,一番目のお尋ねで,事務当局の方から所見を述べてもらいます。
後段は,お尋ねというよりは,むしろ文言の注意を頂いたと受け止めるべきかもしれませんが,あわせて,何かあれば案内ください。
○脇村関係官 脇村です。
後者の方からいきますと,すみません,ほかのいい用語があれば是非教えていただきたいというのが正直なところでございまして,私も考えていますが,是非よろしくお願いいたします。
最初の御説明では,恐らくこの部会資料,第1の1の書き方にも関係してくることかと思っていまして,恐らくイメージとしては,法定相続分の共有持分がある,あるいは,そういったのを修正する,具体的相続人の利益,権利といっていいのかもしれませんが,そういったのが,一定の機会によってなくなっていくんだろうなというようなイメージで捉えていたところです。
ただ,今の書き方ですと,その辺が,家裁はこうするみたいな書き方になっていて,うまく表現できていないのではないか。実際問題として,従前の議論でも,みんなの合意があれば,それに従ってやっていいんだとすると,家裁はと書くと,調停どうするんだというようなこともありますので,少し表現は,どうしたらいいかというのをまた考えたいと思いますが,イメージとしては,そういった権利が一定期間で消えるというんですかね,そういったことではないかというようなことを,私自身はイメージしておりました。
○山田委員 分かりました。
通常の共有,遺産共有の方の表現については,私が対案を考えて発言したわけではありませんので,適切な時期までに思い付きましたら,事務局に会議の外でお伝えしたいと思います。
それから,例外規定の方ですが,やはり時間がたつと消えるという考え方になるのだろうと,今,お話を伺って思いました。そこが,恐らく遺産分割においては,具体的相続分は主張できないけれども,それとは別に,地方裁判所で価額相当分の支払請求が成り立つのではないかという考え方を,封ずるというか,とらないとすることの根拠になるように思います。
その点,まだこの部会で意見が分かれているのであれば,決めなければいけませんし,あるいは,そこは今後の運用に任せるということもあるのかもしれません。しかし,今回事務局がお考えになっている考え方で部会の意見が一致するならば,遺産分割の外でも10年がたった後,具体的相続分を法的な利益として,それに基づく金銭の支払いを求めることができるということにはならない解決の手がかりを明らかしておくことが,私は望ましいと思います。
○山野目部会長 山田委員から二つ問題提起を頂きました。
整理をいたしますと,1枚ものの紙の図1に関連して,文言の御注意を頂いた点は,今後とも検討することにいたしますし,委員,幹事においても,何かアイデアを得られた際には,事務当局の方にお伝えいただきたいと望みます。
図1について,山田委員から御指摘いただいた文言に関する御注意,それから,しばらく前に図2に関連して蓑毛幹事から規律表現が論理的にうまくいっていないという疑問の提示を頂いた点があり,いずれの点についても,文言の整理に努めてまいります。
皆さんに読み込んでいただき,本当によくいろいろな点をお気づきになる,感銘を受けると申したら変ですけれども,感銘を受けてお話を聞いておりました。何か補足説明を読んでしまうと,ふむふむ,そうだよなと,私などは凡庸な性格をしていますから,文言に疑問を抱かないで見てしまったものですけれども,なるほどと感ずる諸点を鋭く御指摘いただき,有り難いことでます。
それから,山田委員がもう一つ御指摘いただいたことというものは,それとして,また別な重みを持っておりまして,10年を経過した後の具体的相続分はどうなるかということに関して,ここまでの,本日までの部会審議の成果の確認として,確実に言えることは,例外規定に当てはまる場合があり得ることを留保して,遺産分割においては考慮されないことになると,ここまでは争いがないものとして固まっておりますが,なお,金銭の支払請求権として存続することがあると考えるか,ないと考えるかについて,確かに御注意があったように,ここではっきりとした議論をしてこなかったかもしれません。今回提案がこういうふうに,少し方向が改められたことによって,初めてその問題が意識されるという側面もあるかもしれません。
山田委員からは,金銭の支払請求権として存続させることは相当でないという解決の御提案を頂き,根拠を含めてごもっともだであると感ずるとともに,このことは,何となく後で学者の解釈に任せましょうとか,運用で工夫しましょうとかというサイズの話ではありませんから,具体的相続分の,正に山田委員がおっしゃったように,消長の話は,国民が相続に関する法律関係について有し得る法的地位の根幹に関わることですから,何となく意見交換をしませんでしたけれども,こうなりましたというわけにはまいりません。本日でも結構ですし,この後の審議の機会でも結構ですから,委員,幹事の間において,意識をしていただいて,御意見をお出しいただきたいと望みます。
今話題になったことでも結構ですし,それ以外の点でも,引き続き承ります。中田委員,どうぞ。
○中田委員 ありがとうございます。
ただいまの山田委員の指摘された問題は,当初から潜在的には意識されていたのではないかと思います。遺産分割の期間制限が当初話題になったときに,その期間制限を設けるということは,具体的相続分についての,言わば除斥期間を設けるようなことになるのではないかと,こんな問題点の指摘もあったかと思います。
具体的相続分と申しますか,特別受益ないし寄与分について,10年で消えてしまうというように考えるというのは,これはかなり思い切った方向でありまして,そう軽々には言えないのではないかと思います。
その上で,例外規定についてなんですけれども,5の例外規定,これを考える際には,処分の相手方である第三者との関係と,内部で具体的相続分を主張できるかどうかということは,分けて考えるべきだと思います。これは,先ほど佐久間幹事の御指摘から明らかになってきたことだと思います。内部で具体的相続分を主張できるのはどんな場合か,それがやむを得ない事由のある場合だということで,これは分かりやすいと思いました。
以前,第14回会議において,全当事者の合意による期間の延長というものについて御検討をお願いしたんですけれども,やはりそれは無理だということで,御検討いただいたことには感謝したいと思います。ただ,これは利害が対立することでして,つまり,特別受益のある人は,その10年に逃げ込んでしまうと,そこで得をするということになりますので,意図的な引き延ばしであるとか,あるいは,もっと言うと,10年を詐害的に経過させてしまうというようなことになってくると困りますので,やはりやむを得ない事由による対応というのは必要だろうと思います。
そういたしますと,やむを得ない事由の前に括弧書きがあって,遺産分割を禁止する定めがあることというような例を挙げること,これはこれで明快ではあるんですが,何か法律上の障害がある場合に限って,やむを得ない事由が認められるということになると,それはやはり狭いのではないかと思いますから,この括弧はない方がいいように思いました。
この5については以上です。
それから,あと,全く細かいことというか,詰まらないことなんですが,その直前の4,所在等不明相続人がいる場合の不動産の譲渡というところの第2パラグラフの3行目に,「不動産を売却することができる」とあるんですが,ここだけ「売却」になっていて,「譲渡」ではないのは何か理由があるのかどうか,これは細かいことですが,お教えいただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
御意見の前段は,括弧書の例示はしない方がよいという御意見を承りました。
後段の字句の指摘は,筆が滑った間違いだと思いますが,事務当局の方……,間違いだとうなずいています。売却ではなくて,譲渡することができるというものが相当であると考えられますから,次回から注意をいたします。
中田委員,お続けになることがあったら,お願いいたします。
○中田委員 ありがとうございました。結構です。
○潮見委員 非常に簡単なことで,教えていただきたいという趣旨の質問です。
先ほどから少し問題にもなっていました,第1の2の(2)の②,席上配布資料でいけば,②のところは2ページ目の2行目になりますが,この②についてです。遺産の分割の審判事件又は調停事件が係属する場合において,相続人が当該請求に係る訴訟において,相続人間の分割をすることに異議の申出をしたときということがありまして,簡単な確認なんですけれども,仮に異議の申出をしなかった場合,遺産に属する共有持分というものは,いつの時点で遺産分割の対象から,つまり審判事件,調停事件の対象から外れるという理解をされているのでしょうか。その辺りを,少し教えていただきたいということがあります。
もちろん,先ほどから,これは弁護士会の意見でも出ていましたような,異議の申立期間を何とかしろとか,あるいは相互の手続の間の連携というものをきちんとしなければいけないというのは,私も同感ですけれども,それを踏まえてなお,分かりにくかったところがありますので,教えていただけませんでしょうか。
○山野目部会長 ありがとうございます。
②の異議の申出がされないということになったときの,共有物分割請求訴訟を与っている地方裁判所の方の対応ははっきりしているものでありまして,共有物分割の審理を続ければいいということになるであろうと考えます。
半面,この異議がないときの審判事件,調停事件を与っている家庭裁判所はどうすればよいかは,ちょっと迷う,という問題について,今,事務当局の現時点での考えを尋ねますけれども,恐らくそういうことがあることから,裁判所同士が緊密に連携してくださいと,今川委員からITの時代ですよというお話があったものだろうとも受け止めています。
事務当局からどうぞ。
○脇村関係官 判決確定時かなとは思っておりまして,共有物分割訴訟が終わったというか,認容判決か,効力発生して初めて外れるのかなと思っていましたが,すみません,もしかしたら違う考えがあるのかもしれません。
○潮見委員 もしそうであれば,その間,審判,あるいは調停もそうですよね,この手続はどういうふうなことになるのでしょうか。
○脇村関係官 すみません。
私のイメージとしては,待つんだろうなというのが第一感でございまして,プラス,話がついているんであれば,除いて一部分割をやるということかなと思っていましたが,家庭裁判所の方で終わった後を見据えないと駄目だと思うのか,当事者と相談して残りやろうというのかは,適宜判断していただけないかなと思っていました。
○山野目部会長 家庭裁判所が待っているという扱いになるから,今川委員がおっしゃったように,裁判所間で連絡を緊密にしてくださいというお話になるものであろうと思います。
潮見委員,お続けください。
○潮見委員 考え方は分かりましたけれども,実際に調停とかをやったことがある人間からするのは,なかなか大変かなということはあります。特に,共有物分割請求訴訟というものが長引いた場合に,特に遺産分割の辺りで,一部分割をうまく使えれば問題がないとは思うんですけれども,結構,どこまでが遺産の範囲であって,それをどういうふうに分割するのか,全体を見極めないと先に進めないというようなことも,まま見受けられましたから,その辺りは,もちろん裁判所間の連携ということと,当事者を納得させるということで,うまくいくのかもしれませんけれども,やはり少し気になるということだけは申し上げておきます。ありがとうございました。
○山野目部会長 潮見委員のお話を伺っていて,なるほどこの局面に立たされた家庭裁判所の事件運営は,いろいろ悩ましい,特に時間が長く経過するようなことになってきますと,悩ましい局面があるだろうということが,実感として分かってまいりましたから,事務当局において検討を続ける際,裁判所の方とも運用を含めて御相談を申し上げながら,検討を進めるということにいたします。ありがとうございます。
○松原関係官 松原でございます。
第1の2の(2)に関係して,3点申し上げさせていただきたいと思います。
まず1点目は,異議申出期限の関係で,この点は,蓑毛幹事からも異議申出期限を定めることが望ましいのではないかという御発言がありましたが,最高裁としても同様の意見でございます。
ただ,この場合に,部会資料で御提案されているように,裁判所,これは共有物分割訴訟が係属している地裁ということになろうかと思いますが,地裁が期限を定めるとした場合,期限設定の有無や期限の長さが裁判所によって異なるとなりますと,やはり家裁において予測可能性を欠くことになり,遺産分割手続の進行上混乱が予想されますので,この点に関しては,法律上一律に異議の申出期間を定めることが望ましいのではないかと思われます。
2点目は,先ほどおっしゃっていた地裁と家裁間の情報共有の方法という点でございますが,部会資料にございますように,共有物分割手続と遺産分割手続の間で判断の齟齬が生じないようにするためには,家裁において,遺産分割手続の中で,共有物分割訴訟の係属の有無及びその結果,異議の申出の有無,裁判所が申出期限を設定するとした場合には,異議の申出期限がいつまでかなどを把握する必要がありますが,現行の枠組みを前提とする限り,これらの情報は通常当事者からしか入手できないため,正確な情報収集について隘路があるように思われます。地裁と家裁の間の緊密な連携というお話も頂きましたが,家裁においては,どの地裁に共有物分割訴訟が提起されているのかというのは,現行の枠組み上はなかなか分からないということもございますので,家裁がこれらの情報を確実に入手できるための仕組みでありますとか,また,家裁にこれらの情報が提出されずに,地裁と家裁の判断に齟齬が生じた場合の効果について,御議論いただければと思います。
3点目に関しましては,これも,一部先ほどの議論の中で出ていた点ではございますが,共有物分割訴訟の結果が残余財産の分割に与える影響についてでございます。遺産共有部分が共有物分割訴訟の中で分割された場合で,かつ,遺産分割手続において,具体的相続分の主張が可能な場合も考えられると思われますが,このような場合に,当事者の一部が民法906条の2の同意をしなかった場合には,遺産分割手続において,残余財産のみを分けていくことになると思われます。その場合,共有物分割訴訟の結果取得したものを,残余財産の分割に影響させるのか否かというのが,実務上一つの争点となり得ると思われます。共有物分割訴訟を経ている場合の残余の遺産分割への影響について,当事者間で意見が統一できない場合にどのように考えるのかに関して,規律の要否も含めて御議論を頂ければと思います。
引き続き,第1の5の例外規定に関して,2点ほど,御質問と発言をさせていただければと思いますが,まず,このやむを得ない事由に関して,どのように解釈するかということに関して,今後,このような規律が設けられた場合には,実際の訴訟において,病気療養中であったとか,海外勤務を命じられて日本にいなかったなどの,属人的な事情が主張されるということが予想されるように思われます。このような事情がやむを得ない事情に該当するかについてはどのように考えていらっしゃるのかについて,もし今のお考えがあれば,お聞かせいただければと思います。
また,この点の補足説明の2で,遺産分割期間経過後に相続人となった者の取扱いについての記載がございまして,遺産分割期間経過後に相続人となった場合については,これは,やむを得ない事由の一つとして考えられるという記載がございますが,遺産分割期間の経過後に相続人となる場合としては,死後認知あるいは再転相続のいずれかであると思われますが,死後認知の場合については,そもそも価格賠償しか認められていないこととの関係性が問題になりますし,また,再転相続の場合については,そもそも再転被相続人が遺産分割の申立てをすることができたのではないかと思われることとの関係,これは,やむを得ない事由が再転相続人にのみ認められれば足りるのか,それとも再転被相続人にも認められる必要があるのかということにも関わるのかもしれませんが,この点についても,更に検討する必要があるのではないかと思われます。
○山野目部会長 松原関係官から幾つか問題提起を頂いたことについて,ほかの委員,幹事から御意見があれば,今承りますし,特段なければ,引き続き検討することにいたします。
それから,お尋ねとして1点頂いた,御発言の順番でいうと,おっしゃった後ろから二つ目の事柄は,お尋ねということでお話しいただきましたから,現時点での事務当局の考えを尋ねますけれども,意見としては,属人的な事由もやむを得ない事由として扱った方がよいという感覚もおありでおっしゃったようにも聞きましたけれども,そのような受け止めでよろしいですか。
○松原関係官 そういうわけではなく,そこも含めて,どういうふうにお考えかというところをお聞かせいただければということでございます。
○山野目部会長 分かりました。
事務当局の方で考えがあれば,お話をください。
○脇村関係官 ここについてはいろいろな御議論あろうかと思いますが,参考になるのは,やはり今の債権の消滅の起算点のできるときの解釈について,客観的に判断していこうという議論かなと思います。ただ,そこは別に,属人的なものを排除しているわけではなくて,主観的なことではなく,客観的状況からしたら,やむを得なかったねということが言えるかどうかで決まってくると思いますので,そういった議論が従前参考になろうかと思います。
ただ,今,例に挙がっていた病気ですとか,そういったケースは,従前そういった債権消滅について,当然には左右しなかったと思いますので,もちろん意思能力というか,被後見人があって,後見がないような,正に時効の停止のような,停止と言わないですね,完成猶予などの議論があると思いますが,そういったのを参考に,属人的であっても,客観的であれば,それは主観的な認識ではないですが,客観的状況であればやむを得ない事由があるということは,一つ考えとしてあるのかなと思っています。
あと,死後認知の話,ちょっと誤解かもしれませんが,現行法で,死後認知があり,遺産分割されていたケースは価額請求ですけれども,今回は,遺産分割していないケースなので,余り現行法の死後認知の関係は考えなくても良いのかなと,ちょっとすみません,うまく言えないですけれども,ちょっとまた考えたいと思います。
○山野目部会長 しばらく前に,平川委員が別な場面で話題にされたような,この場合でいうと,相続人が認知症などに罹患して判断能力が減退しているけれども,成年後見人を選任する手続が今進んでいる最中で,必ずしも進捗していません,という状態で,この10年の期間の満了を迎えるような場面を想像すると,なかなかいろいろ考え込まなければいけなくて,険しい判断を求められるというようなことは,今,脇村関係官も少しそれに近いことをおっしゃいましたけれども,考えられるところでありまして,そういった場面があるからいろいろ中田委員が問題にされた,括弧書の例示を入れるかどうかというところの触り方が非常に微妙で,慎重を期さなければいけないとも感じられます。
松原関係官,お話をお続けになることがあったら,お話しください。
○松原関係官 ありがとうございます。
第1の6の「その他(遺産分割の申立ての取下げ等)」に関する部分について,2点だけ付加させていただければと思います。
1点は御質問でございますが,この点,前回の部会資料31では,同意擬制の規定を設ける必要性についての記載がございましたが,今回の部会資料では,この点についての記載がございませんでした。これは,提案の規律を設ける場合,同意擬制の規定を設ける必要があるということに関しては特段変更はないという理解でよろしいでしょうか。
○山野目部会長 という1点でよろしいですか。
○松原関係官 2点目は,先ほど蓑毛幹事の方から,日弁連のワーキンググループの方で中止規定を設けてもらいたいというような御発言があったとお伺いしました。
この点に関しましては,いろいろな考え方があるところだとは思いますけれども,現在の実務を前提としましても,具体的相続分の主張制限規定の適用を回避するために,遺産分割事件を維持しなければならないような事案については,調停委員会において,民事訴訟が係属した場合に,具体的相続分の主張制限に関する規定の存在を伝えるなど,十分な説明を行った上で,当事者がそれでも遺産分割事件の維持を希望するのであれば,それ以上に取下げの促しをしないということで足りるようにも思われます。
また,遺産分割事件が維持される場合には,事案ごとに適切な期間を空けて期日指定をし,当事者から民事訴訟の進捗状況を確認するなどしながら,遺産分割事件の進行について協議することなどによって,適時適切に訴訟結果を把握することが可能ですし,当事者から書面により適宜報告がされるのであれば,期日を取り消して,再度指定することを繰り返して,期日の出席や口頭での説明を求めないということも可能ですので,この点については,現在の実務を前提としても対応することが可能であり,かつ,柔軟なかつ適切な対応ができるのではないかと考えておるところです。
他方で,家事事件手続法の立法の際にも指摘されていたことではございますが,仮に中止規定を設けた場合には,熱心な当事者と不熱心な当事者がいる事案で,熱心な当事者にとって不利益な訴訟結果が出た場合に,中止決定がされたままになってしまうというリスクが少なからずあるように思われます。このように,現在の実務を前提としても,運用の工夫により中止規定の趣旨,目的は十分に達せられ,むしろ中止規定よりも利点が大きいと思われるのに対して,実務上の弊害も予想されるところではございますので,中止規定の必要性,相当性については,慎重に御検討いただければと思うところでございます。
○山野目部会長 後段は意見として承りました。
前段がお尋ねでありましたから,事務当局からお願いいたします。
○脇村関係官 すみません,前段は書き忘れていました。基本的に,考えに変更はございません。改めて,次回出させていただく際には,明示したいと思います。
○山野目部会長 松原関係官,今の回答でよろしいですか。
○松原関係官 ありがとうございました。
○山野目部会長 ただいま松原関係官から何点か問題提起を頂いたことについて,現時点で伺っておく御意見を聴取しておきます。いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,後でまた議事録を見ていただいて,幾つか問題点の指摘を頂いたところについて,委員,幹事がお考えになることを,改めて御指摘いただければ有り難いと考えます。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
誠に細かな点の確認で申し訳ないんですが,部会資料42の第1の3,同4ページの「相続開始時から10年を経過するまでは,この限りではない」ということの意味についてです。蓑毛幹事から配布していただいた資料の図を使わせていただいて,その図の3のケースで,一番下にE,F,C,Dとあって,CがこのE,Fに対して共有持分の取得の請求をしたいと考えたときに,Aが亡くなったのは5年前,Xが亡くなったのは10年前というときに,E,F個人個人で考えれば,まだ相続開始から5年しかたっていないので,10年経っていないということになるんでしょうけれども,その前のE,Fが相続したXの相続開始からはもう10年たっているので,この場合には,この10年の制限がかからないと考えてよいでしょうか。これは基本的に数次相続が生じた場合の考え方になるんだと思いますが,それが質問の第1点です。
それから,第2点は,この制度を使うときに,先ほど部会資料の41の方でお伺いすべきだったのかもしれませんけれども,例えば,E,Fにその共有持分の取得請求をするときに,その供託金額は,Eに幾ら,Fに幾らと個別的に供託しなければいないのか,それとも,Aを相続した分という形で,まとめて供託することを許す趣旨かという点です。もしE,Fそれぞれについて計算しなければいけないということであれば,E,Fの相続開始からはまだ10年たっていないから取得請求できないことになってしまいそうですが,それだと共有持分の取得がかなり難しくなると思われますので,確認できればと思いました。
○山野目部会長 前段のお尋ねの方が根本的なことで,後段がその発展といいますか,付随的なお尋ねであると受け止めまして,いずれも現時点での事務当局の考えを尋ねてみることにいたしましょう。
○脇村関係官 ちょっと,うまく言えるかどうかあれなんですけれども,少なくとも第1次相続から10年たっていないと,第1相続自体の持分取得はできないと思っていました。ただ,そこで言っている取得というのは第1次相続の持分全部でございますので,例えば,そのうちの相続人の一部が不明だけれども,残りは不明ではないというケースについては,多分使えないんだろうと思っていました。
プラス,再転相続については,そういう意味で,今のE,Fですかね,Eだけの持分を取りたいというケースについては,当然Eの被相続人の死亡時から10年たっていないといけないという整理かと思っていましたので,先ほどおっしゃっていた,一番最初から10年たっていたからといって,当然使えないという整理かと思っていましたけれども,一部しか使えないケースは使えず,一部だけのケースについて使いたい場合には,その人の10年がプラス要るのではないかと,私としては考えていたところです。
そういう意味で,供託の金額も,全員合わせて取ると,第1次相続の持分全部ですかね,取るときについては,全額を,ある意味その人の相続人全員に対して供託するということかなと理解していました。
○山野目部会長 そうするとあれですね,X死亡から10年経っていれば,A死亡から10年経っていなくても,EとFのをまとめてCがこちらによこせということは,言えるということですね。
○脇村関係官 はい。ちょっとすみません,うまく,多分そうだと思います。
○山野目部会長 松尾幹事は言えるだろうという前提でお話を始められたと理解しますし,そうであろうという気がしますけれども,違いますか。
○脇村関係官 そうですね,はい。
○山野目部会長 そこはそのように考え,供託金は,だから,分けないでまとめて供託するという解決で,整合性をとるというお答えになると考えますけれども,松尾幹事,何かお考えと違っていたり,何か前提や理解が異なっていたら,お続けください。
○松尾幹事 この共有持分の取得制度を,共有者不明土地の実情に即して使いやすいものにしていくためには,10年以上前に死亡したAを相続したEとFの持分を一括して供託することが許されるべきではではないかと思いました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続きいかがでしょうか。
しかし,大変ですね。これが出来上がったときに,こういうもの大学の試験とか何かに出すものですかね。とても何か,ここで議論していてもかなり難しい話ですけれども,解けるものですかね。そういうことは,そのときのその立場の人たちが心配してすればいいことではありましょうけれども。
ほかにいかがでしょうか。
それでは,部会資料42について,大筋,部会資料42の全般でお出ししている論点について,御理解や賛成の御意見を頂いたとともに,細部については,繰り返し確認をいたしませんけれども,今後考えを深める中で,明らかにしていかなければならない細目の点が,かなり豊かに御指摘いただいたと受け止めます。この時点で,既にたくさん御指摘を頂いておきませんと,後々どこかでつまずくということになりますから,御指摘を数々頂いたことは,大変有り難かったと感じます。
部会資料42にいての審議をここまでとして,次回以降,またここで扱った題材について,お諮りをするということにいたします。
本日御用意をいたしました部会資料39から部会資料42までについての内容にわたる審議を終えました。
次回の部会会議について,事務当局から案内を差し上げます。
○大谷幹事 御案内します。
次回の日程は,9月15日の火曜日,場所はこちら,大会議室なのですが,普段,最近午後1時からお願いをしておりましたけれども,会場の都合で1時30分スタートにさせていただきたいと思います。1時30分から,枠としては午後6時までと,早く終わればそれまでということになりますけれども,枠としては午後6時までを予定させていただければと思っております。
テーマといたしましては,実体法関係で,二巡目に入ってまいりましたけれども,財産管理制度や相隣関係等について,部会資料をお作りをして御審議をお願いしたいと思っております。
次回もまた,希望する委員の方には,ウェブで部会に御出席いただく方法によって開催させていただきたいと思っております。
○山野目部会長 第18回会議の開催について御案内を申し上げました。
その点を含め,この際,委員,幹事から部会の運営について,何か御意見,お尋ねがあれば承りますが,いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,本日も長時間にわたり審議に御協力を頂きまして,ありがとうございました。
(1) 供託等
不在者財産管理制度について、次のような規律を設けることで、どうか。
① 家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、不在者のために、当該金銭を不在者の財産の管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
② 家庭裁判所が選任した管理人は、①による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
③ 家庭裁判所は、不在者が財産を管理することができるようになったとき、管理すべき財産がなくなったとき(家庭裁判所が選任した管理人が管理すべき財産の全部が①により供託されたときを含む。)その他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、不在者、管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、管理人の選任その他の不在者の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならない。
(2) 職務内容の限定に関する規律
家庭裁判所が、その不在者財産管理人を選任する際に、その職務の内容(不在者財産管理人の権限の内容を含む。)をあらかじめ定めることができることについては、特段新たな規律を設けないものとすることで、どうか。
(補足説明)
1 本文(1)について
部会資料34(本文1(1))と同様である。第15回会議において特段の反対はなかった。
2 本文(2)について
家庭裁判所が、不在者財産管理人を選任する際に、その職務の内容をあらかじめ定めることができる旨の規律を設けることについて、第15回会議においては、そのような規律があった方が対応しやすいのではないかという意見があった。
もっとも、部会資料34の補足説明(3ページ)で記載したように、裁判所が不在者の利益のために職務内容の限定が適切かを判断することは困難であるとの指摘もあり、第15回会議においても、これを規律として設けることは難しいのではないかとの指摘があった。
また、部会資料34の補足説明では、運用上の工夫により、実質的には不在者財産管理人の職務の限定と同様の結果を得ることも不可能ではないと考えられる旨を記載していたところ、第15回会議では、現にそのような運用が行われている例の紹介もされた。
いずれにしても、別途、所有者不明土地(建物)管理制度等を新設する方向で検討を進めており(部会資料43、44参照)、これが実現すれば、所有者不明土地(建物)に特化した管理人の選任が可能となる。
以上を踏まえ、本文(2)では、家庭裁判所が、その不在者財産管理人を選任する際に、その職務の内容をあらかじめ定めることができることについては、特段新たな規律を設けることはしないとすることを提案している。
3 その他
管理人の選任の申立権者について、第15回会議では、現行民法の規律を改めないことについて異論はなかったことから、これについては取り上げていない。新たに利益相反行為に関する規律を設けないとすることについても、同様である。
2 相続財産管理制度の見直し
(1) 相続財産の保存に必要な処分の見直し
相続人が数人ある場合における遺産分割前の相続財産及び相続人のあることが明らかでない場合における相続財産の保存に必要な処分を可能とするとともに、これらと現行の民法第918条第2項(第926条第2項、第936条第3項・第926条第2項、第940条第2項において準用される場合を含む。)の相続財産管理制度とを一つの制度とする趣旨で、相続財産の保存に必要な処分に関する次のような規定を設けることで、どうか。
ア 相続財産の保存に必要な処分
家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき又は相続人のあることが明らかでない場合において第952条第1項の規定に基づき相続財産の管理人が選任されたときは、この限りでない。
(注)現行の民法第926条第2項(第936条第3項で準用される場合を含む。)の相続財産管理制度も、本文アの相続財産管理制度に取り込んで一つの制度とするが、清算権限を与えることとはしない。
イ 管理人の権限等
管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。
a 保存行為
b 管理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
ウ 管理人の義務
管理人は、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
エ 管理人の職務等
① 管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。
② 家庭裁判所は、管理人に対し、相続財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
(注)このほか、現行の相続財産管理制度において民法第918条第3項、家事事件手続法第201条第10項、第125条において準用される規定(第29条〔管理人の担保提供及び報酬〕、第646条〔受任者による受取物の引渡し等〕、第647条〔受任者の金銭の消費についての責任〕、第650条〔受任者による費用等の償還請求等〕)については、いずれも、本文アによる相続財産の保存に必要な処分にも同じ規律を設けるか、又は準用することとする。
オ 相続財産の保存に必要な処分の取消し等
① 家庭裁判所は、次に掲げる事由があるときは、相続人、相続財産の管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、相続財産の保存に必要な処分の取消しの審判をしなければならない。
a 民法第952条第1項の規定に基づき相続財産の管理人が選任されたときb 管理すべき財産がなくなったとき(管理すべき財産の全部が②により供託されたときを含む。)
c その他財産の管理を継続することが相当でなくなったとき
② 管理人は、相続財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、相続人又は相続財産法人のために、当該金銭を相続財産の保存又は管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
③ 管理人は、②による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
(補足説明)
1 本文については、部会資料34(本文2(1))から変更はない。第15回会議においては、特段の反対はなかった。
2 限定承認がされた場合について
第15回会議では、限定承認がされた場合も含めて、相続財産の保存に必要な処分を可能とする統一的な相続財産管理制度の対象とすることについては、異論がなかった。
他方で、清算権限との関係では、部会資料34では、現行の民法第926条第2項及び第936条第3項の相続財産管理制度をも本文アの相続財産管理制度に取り込んで一つの制度とすることについて慎重な考え方もある旨を注記していた。
部会資料34の補足説明(9ページ)で記載したように、限定承認がされた場合でも、現行法と同様、請求に基づく相続財産管理人の選任を可能とする必要があると考えられる。
この場合の相続財産管理人に清算の権限まで認めるかどうかについては現行法においても解釈が分かれるところであるが、現行民法の規定からはこの相続財産管理人に相続財産の清算権限を認めることはできないとの解釈が通説であるとされており、この解釈を前提とすると、限定承認がされた場合に選任される相続財産管理人の権限は、本文アの相続財産管理人の権限の範囲と一致することとなる。
そうすると、限定承認がされた場合も含め、保存のための管理が必要な場面では、本文アの相続財産管理人を請求し得ることとすることが、熟慮期間中に選任された相続財産の保存のための相続財産管理人が熟慮期間経過後遺産分割前でもそのまま相続財産を管理することができるようにするという今般の見直しにおける一つの相続財産管理制度の創設の趣旨に照らしても合理的であると考えられる。
なお、過渡的な状態にある相続財産の適切な管理を実現しようとする今回の相続財産管理制度の見直しの趣旨からすると、限定承認の場面でこの管理人に清算権限を与えることは難しいと考えられる。
これらを踏まえ、その旨を(注1)で注記している(なお、この制度とは別に、相続人ではない相続財産管理人に清算権限を与える制度を別途設けることについては、相続人自身に清算を行わせることを前提とする現行の限定承認制度を大きく見直す必要があるが、現時点においてその必要性は必ずしも明らかでないため、慎重な検討を要する。)。
3 取消事由について
第15回会議では、本文オ①cの取消事由に該当する具体例について確認を求める意見があり、例えば、崖地崩落防止のために本文アの相続財産管理人が選任されたが、崩落防止のための職務を終え、他に必要な管理行為がなく、管理人による管理を継続すると報酬等が必要となって管理費用がかさんでしまうという場合に、取消事由に当たるのかという意見があった。
本文オ①cの取消事由を設ける趣旨は、財産管理の必要性や財産の価値に比して管理の費用が不相当に高額であり、本文アの相続財産管理人に管理をさせるのが相当でない場合など相続財産の管理を継続することが相当でなくなったときに、相続財産の保存に必要な処分を取り消すことができるようにすることにある。上記の例では、崖地の崩落防止のための職務を終え、他に必要な管理行為がないのであれば、財産管理の必要性がなく、本文アの相続財産管理人に管理を継続させることは不相当な管理費用を生じさせることになるものと考えられることから、基本的に上記の取消事由に該当するものと考えられる。
(2) 民法第952条以下の清算手続の合理化
民法第952条第2項、第957条第1項及び第958条の公告に関し、次のような規律に改めることで、どうか。
① 民法第952条第1項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
② ①の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
(補足説明)
部会資料34(2(2))と同様である。第15回会議では特段の反対はなかった。
3 相続の放棄をした者の義務
(1) 民法第940条第1項の規律を次のように改めることで、どうか。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合には、相続人(第951条の規定の適用がある場合には、同条の法人)に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存すれば足りる。
(2) 民法第940条第2項のうち、委任の規定を準用する現行法の規律については、維持することで、どうか。
(補足説明)
1 本文(1)について
部会資料29の内容と同じである。第13回会議では、特段の反対はなかった。
(1) 義務の内容について
第13回会議においては、「保存すれば足りる」という義務の内容について、積極的な保存行為をしなければならないのかとの指摘があったが、見直し後の民法第940条第2項の義務は、相続放棄によって相続人となった者を含む他の相続人のために必要最小限の義務を負わせるものとする観点から、財産を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味している。
なお、この義務の相手方は、現行の民法第940条第1項と同様に、他の相続人も含む相続人(又は相続財産法人)であると解される。
(2) 相続財産が間接占有されている場合について
第13回会議においては、「現に占有している」相続財産に、間接占有も含まれるのかとの指摘があった。「現に占有」とは、相続放棄をしようとする者が被相続人の占有を観念的にのみ承継している場合を、本文の義務を負う場面から除外する趣旨であって、本文の適用対象が、財産の占有態様が直接占有であるか間接占有であるかによって区別されることを想定しているものではない。
(3) 相続人の全員が相続放棄をした場合における供託の可否について
第13回会議においては、相続人の全員が相続放棄をした場合に、民法第952条に基づく相続財産管理人の選任の申立てをせずに、受領不能を原因として供託をすることができるのかとの指摘もあった。
もっとも、債権者の受領不能の要件(民法第494条第1項第2号)については比較的広く解されており(例えば、債権者が制限行為能力者であって、これに法定代理人がいないために受領ができないというような法律上の受領不能も、これに該当すると解されている。)、相続人の全員が相続放棄をし、相続財産法人が成立している場合であれば、受領不能を原因とする供託をすることは可能であると考えられる。
2 本文(2)について
第13回会議においては、民法第940条第2項について改めるかどうかについても検討する必要があるとの指摘があった。
現行の民法第940条第2項は、①第645条(受任者による報告)、②第646条(受任者による受取物の引渡し等)、③第650条第1項及び第2項(受任者による費用等の償還請求等)並びに④第918条第2項及び第3項(相続財産の管理)の各規定を準用している。
このうち、委任の規定を準用する趣旨は、相続放棄をした者は相続人に帰属する財産を相続人に引き渡すべきであるし、また、相続放棄者に経済的負担をさせるべきではないことなどにあると考えられるが、民法第940条第1項を見直した後も、その準用の必要性が直ちに失われるものではないと考えられる。
他方、相続財産の保存に必要な処分についての諸制度を一つのものにする見直し(前記本文2(1))をするのであれば、相続の放棄がされた場合に限って規定されている第918条第2項及び第3項(相続財産の管理)の規定の準用部分については、削ることになると考えられる。
1 相続財産等の管理
(1) 相続財産の管理
相続財産の管理について、次のような規律を設けるものとし、民法第918条第2項及び第3項並びに第926条第2項及び第940条第2項のうちこれらを準用する部分を削るものとする。
① 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき又は民法第952条第1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
② 民法第27条から第29条までの規定は、①の規律により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
(補足説明)
1 本文は、部会資料45の2(1)アからエまでと基本的に同じである。
なお、本文①により選任された相続財産管理人の権限、義務、職務等(部会資料45本文2(1)イからエまで)については、現行の民法第918条第1項により選任される相続財産管理人と同じく、本文②のとおり、不在者財産管理人に関する規定を準用することとしている。
民法第952条第1項の規定により選任される相続財産の管理人の名称の変更については、後記2(1)参照。
2 第18回会議においては、本文①により選任された相続財産管理人と、相続人や他の規律により選任される管理人との権限や優劣関係の整理を求める意見があったが、本文②の相続財産管理人は、いわば、現行の民法第918条第1項の相続財産管理を命ずることが可能な場面を拡張するものであって、同項により選任される相続財産管理人の地位や権限等を変えるものではないから、相続人や他の既存の規律により選任される管理人との関係等についても、同項の相続財産管理人との関係等と同じになると考えられる。
なお、新設される所有者不明土地管理人との関係については、所有者不明土地管理人が選任されているときは、その土地の管理処分権は所有者不明土地管理人に専属することとなる(部会資料43本文(1)イ①参照)から、本文①の相続財産管理人がその土地について管理処分権を有することはないことなど、部会資料43の2ページ及び3ページと同じである。
(2) 相続の放棄をした者による管理
民法第940条第1項の規律を次のように改めるものとする。
相続の放棄をした者が、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は民法第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
(補足説明)
部会資料45本文3(1)と基本的に同じである。
なお、相続人のあることが明らかでないことにより相続財産法人が成立している場合には、第952条第1項の相続財産の清算人(名称の変更については、後記2(1)参照。)に財産を引き渡すこととなることから、その旨の文言の修正をし、また、末尾の文言は、相続財産の管理に関する注意義務の程度に関する現行の民法上の他の規律の文言(民法第918条第1項等)に揃える修正をしているが、規律の実質を部会資料45本文3(1)から変えるものではない。
なお、ここでは、「占有」をすることができる財産のみを直接の対象としているが、「財産を現に占有している」との表現で、ここでいう財産は「占有」することができるもののみを指していることが明らかであると思われるので、この点の文言の修正はしていない。
(3) 不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消し
不在者財産管理人による供託等に関し、次のような規律を設けるとともに、不在者の財産の管理に関する処分の取消しの規律を見直し、管理すべき財産の全部が供託されたときをその処分の取消事由とした上で、本文(1)①により選任される相続財産管理人についてもこれらの規律を準用するものとする。
① 家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じたときは、不在者のために、当該金銭を不在者の財産の管理に関する処分を命じた裁判所の所在地を管轄する家庭裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
② 家庭裁判所が選任した管理人は、①の規律による供託をしたときは、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める事項を公告しなければならない。
(補足説明)
部会資料45本文1(1)及び本文2(1)オと同じである。
2 相続財産の清算
(1) 相続財産の清算人への名称の変更
民法第936条第1項及び第952条の「相続財産の管理人」の名称を「相続財産の清算人」に改める。
(補足説明)
第15回会議で指摘があったとおり、今般の見直しでは、相続人のあることが明らかでない場合も含めて前記1(1)のとおり相続財産の清算を目的としない相続財産管理人の選任を可能とすることとしているが、異なる目的を有するものを同一の名称で呼ぶことは相当ではないと考えられる。そこで、前記1(1)の相続財産管理制度との区別の観点から、民法第952条第1項に基づき選任される「相続財産の管理人」の名称を「相続財産の清算人」と改めることとしている。
また、相続人が数人ある場合の限定承認に関する民法第936条第1項に基づき選任される相続財産管理人も、相続財産の清算を行うことをその職務とするものであるから、同様の観点から、同項に基づき選任される「相続財産の管理人」の名称を「相続財産の清算人」と改めることとしている。
(2) 民法第952条以下の清算手続の合理化
民法第952条第2項及び第957条の規律をそれぞれ次のように改め、第958条を削るものとする。
① 民法第952条第1項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
② ①の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、2箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、①の規律により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間が満了するまでに満了するものでなければならない。
(補足説明)
部会資料45の2(2)①及び②と基本的に同じである。
なお、相続人捜索の公告(本文①)の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者も含めいわゆる失権効が生ずる(現行の第958条の2)ことから、相続債権者及び受遺者に対し請求の申出を促すための公告(本文②)の期間については、本文①の公告期間の満了するまでに満了する必要がある。
また、部会資料45の2(2)②では、①の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときに、相続債権者等に対する請求の申出の公告をすることとしていたが、①の公告から必ず2箇月経過しなければ請求の申出の公告をすることができないとするまでの理由はなく、相続財産の清算人が事案に応じて適切と認める時期にこの公告をすれば足りると考えられる。
そこで、本文②の後段では、その旨を明確にするための文言を付記している。
3 遺産分割に関する見直し
(1) 期間経過後の遺産の分割における相続分
遺産の分割について、次のような規律を設けるものとする。
民法第903条から第904条の2までの規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の①及び②のいずれかに該当するときは、この限りでない。
① 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
(補足説明)
部会資料42の第1の1、2及び5の内容と実質的に同じである。
ただし、第17回会議では、具体的相続分による分割を求めることができなくなることの法的性質について整理すべき旨の指摘があった。
部会資料42の第1の1では、「…家庭裁判所は、民法第903条から第904条の2までの規定にかかわらず、同法第900条から第902条までの規定による相続分(法定相続分又は指定相続分)に応じて遺産を分割しなければならない。」とし、新たな規律が、飽くまでも手続上の基準にすぎないと読める表現となっていた。しかし、調停・審判は実体法に則して行われるべきものであるし、協議による場合と適用される規律が異なることは相当ではないため、基本的に一定の期間の経過後には具体的相続分による分割を求める利益は失われると整理し、端的に、10年の期間経過後の遺産の分割には、特別受益・寄与分の規定は適用しないとしている(ただし、10年の期間経過後に、相続人間で具体的相続分による分割をするとの合意がされた場合には、協議によるケースはもちろん、調停・審判によるケースでも、その合意によることは、部会資料42の第1の5の補足説明のとおりである。)。
なお、このこととも関連するが、10年の期間経過後に、具体的相続分による分割を求める利益について、遺産分割とは別に、不当利得等に基づき請求することを認めることは、想定をしていない。やむを得ない事由がある場合の救済は、本文②により対応することを想定している。
なお、やむを得ない事由について、部会資料42の第1の5では、「(遺産の分割を禁止する定めがあることその他)やむをえない事由」と記載していたが、このような例示があると、やむを得ない事由があるのは法律上の障害がある場合に限られることになるとの指摘があったこと等を踏まえ、例示をすることはしていない。
また、この規律は、「相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に」、「やむを得ない事由」がその時点の相続人(当初の相続人が死亡している場合には、その地位を受け継いだ者)にあるかどうかを問題とするものである。
(2) 遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げ
遺産の分割の調停又は審判の申立ての取下げについて、次のような規律を設けるものとする。
遺産の分割の調停の申立て及び遺産の分割の審判の申立ての取下げは、相続開始の時から10年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。
(補足説明)
部会資料42の第1の6と同じであり、表現を整えている。なお、改正の際には、取下げの同意擬制(家事事件手続法第82条第3項から第5項まで)について所要の措置を講ずる必要がある。
(3) 遺産の分割の禁止
遺産の分割の禁止の定め及び遺産の分割の禁止の審判の規律を次のように改めるものとする。
① 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。
② ①の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。
③ 民法第907条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
④ 家庭裁判所は、③の期間を更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。
⑤ ①から④までの期間は、相続開始の時から10年を超えることができない。
(補足説明)
部会資料42の第2の1及び2と同じであり、表現を整えている。第1 一定期間経過後の遺産分割
1 法定相続分等による分割(具体的相続分による遺産分割の時的限界)
遺産の分割の請求が相続開始の時から10年を経過した後にあった場合には、家庭裁判所は、民法第903条から第904条の2までの規定にかかわ
らず、同法第900条から第902条までの規定による相続分(法定相続分又は指定相続分)に応じて遺産を分割しなければならない。(補足説明)
2 分割手続
(1) 基本的な手続
(補足説明)
(2) 通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則
財産が数人の相続人及び相続人以外の者の共有に属する場合において、当該財産について民法第258条第1項(民法第264条において準用する場合を含む。)の規定による請求があったときは、裁判所は、当該請求に係る訴訟において、相続人間の分割もすることができる。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りではない。
① 相続の開始から10年を経過していないとき
② 遺産の分割の審判事件又は調停事件が係属する場合において、相続人が当該請求に係る訴訟において相続人間の分割をすることに異議の申出をしたとき(補足説明)
部会資料31(第1の2(2))では、通常の共有と遺産共有が併存している場合に関し、①共有物分割手続の中で一括して処理する甲案、②家庭裁判
所において共有物分割手続と遺産分割手続を一個の審理手続で処理する乙案、③現行法の規律を維持する丙案を提案したところ、一回的解決を図る観
点から甲案を支持する意見はあったが、乙案を支持する意見はなかった。また、処理が複雑になること等から丙案でもやむを得ない旨の指摘もあった
。
2 提案の内容
(1) 現在の理解を前提とすると、具体的相続分の割合がどのようなものであるとしても、共同相続人は、法定相続分(又は指定相続分)の割合に応じ
て、遺産に属する個々の財産に共有持分権を有している。
例えば、A及びBが各2分の1の持分を有する共有状態の土地がある場合に、Bが死亡し、C及びDが各2分の1の法定相続分で相続したときは、そ
の具体的相続分の割合に関係なく、当該土地につき、Aが2分の1の持分を、C及びDが各4分の1の持分をそれぞれ有していることになる。
そして、上記のとおりの共有状態にあるので、理論上は、C及びD間の共有持分の分割も含めて、A、C、Dの間で共有物分割をすることができるよ
うに思われる。仮にその分割が実施されたとすると、遺産分割前に遺産が処分された場合(民法第906条の2第1項参照)と同様の法律関係になる
と考えられる(第14回会議では、相続人が個々の遺産に有する持分を他の相続人が取得することの法的性質につき議論がされ、これは相続分の取得
ではなく、通常持分の取得ではないかとの指摘があったが、この指摘は、これらの考え方と基本的に同一ではないかと解される。)。すなわち、共有
物分割後は、共有物分割の対象は遺産分割の対象から除外され、遺産分割は、残存する他の遺産についてのみ行われることとなると解される(遺産分
割は、遺産分割時に現存する遺産を分割するものである。ただし、共同相続人全員の同意があれば、当該処分された共有持分が遺産の分割時に遺産と
して存在するものとみなすことができるのは、民法第906条の2第1項のとおりである。)。
もっとも、遺産分割は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを相続人の具体的相続分の割合に応じ民法第906条の所定の基準に従って分割する
ことを目的とするものであるところ、共有物分割の対象が遺産分割の対象から除外され、現存する他の遺産の価額が特定の相続人について具体的相続
分により算出される価額を下回ると、その相続人は、結局、具体的相続分の割合による分割を得ることができなくなる。また、共有物分割においては
、民法第906条が適用されず、基本的に、遺産全体を総合的に把握して、分配するといったこともできないし、配偶者居住権の設定もできない。
最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁は、「共同相続人の有する遺産分割上の権利」との表現を用い、その権利を害さないために、
共有物分割において相続人間の分割をすることを否定するが、そこでいう遺産分割上の権利とは、こういった具体的相続分による分割や、民法第90
6条による分割等を受けることができる権利であると思われる。
(2) しかし、事案によっては、共有物分割の中で、相続人間の分割を実施した方が、当該共有物に関する帰属が迅速に定まり、相続人にとっても便宜
であるケースもある。
例えば、通常共有と遺産共有が併存している共有物について、協議によらずに、相続人の1人がその共有物の全部を取得するには、共有物分割と遺産
分割の手続の双方を経なければならないが、共有物分割の中で一回的に解決する方が簡便なケースがある。
共同相続人の有する前記の遺産分割上の権利を不当に害するべきではないし、遺産分割協議等をするには一定の期間を要するのが通常であることから
すると、遺産分割ではなく共有物分割の中で相続人間の持分の分割をすることは直ちに認めるべきではないと考えられる。他方で、遺産分割上の権利
を長年にわたって行使しておらず、共有物分割の請求がされても特に遺産分割上の権利を行使しないようなケースでは、相続人は、その共有物に関し
ては遺産分割上の権利を行使する意思に乏しいと評価でき、共有物分割を先行して実施しても、相続人を不当に害することにはならないように思われ
る。
(3) 以上を踏まえ、本資料では、相続開始時から長期間を経過し(その期間は、前記第1を参考に、相続開始時から10年としている。)、かつ、共
有物分割請求がされた後にも遺産分割の申立てをせず、また、遺産分割の申立てがあっても、共有物分割による処理に異議の申出をせず、遺産分割上
の権利を行使しないときは、裁判所は、共有物の分割を命ずる判決において、相続人間の分割もすることができる(この場合、民法第906条も配偶
者居住権に関する規定も適用されない。)こととしている。
なお、このような要件を立てることで、遺産分割手続と共有物分割手続との役割分担等も明確になると思われる。
3 相続開始時から10年の経過を要件としない案について
本文の提案は、相続開始時から10年を経過したことをその要件として要求している。
もっとも、別の案としては、相続人が異議の申出をしないのであれば、当該共有物に関しては遺産分割上の権利を放棄したとみなし、10年が経過す
るかどうかに関係なく、共有物分割の中で相続人間の分割もすることができるとすることも考えられる。共有関係を一回的に解消することを可及的に
優先するのであれば、この案も考えられる。
他方で、この案に関しては、仮に、異議の申出の前提として遺産分割の審判事件又は調停事件の係属を求める場合には、第三者が共有物分割請求をす
ると、一定の期間が経過することと関係なく、相続人は遺産分割の申立てを事実上強制されることになるとの問題がある。また、遺産分割の審判事件
又は調停事件の係属とは関係なく、単に異議の申出があれば、相続人間の分割はできないとするのであれば、前記の問題は生じないが、これについて
は、異議の申出(その実質は、相続人間の共有関係については、共有物分割ではなく、遺産分割によって解消すべきとする意思表明であると解される
。)がされたにもかかわらず、遺産分割の申立てがされないまま放置されることになるおそれが生ずるとの問題があるとも思われる。
いずれにしても、遺産分割に関しては、一定の期間(相続開始時から10年)は、それを実施すべき期間として確保すべきであるとの立場をとるので
あれば、相続開始時から10年の経過をその要件として要求すべきということになると思われる。
なお、上記のこととも関連するが、積極的に相続人全員が共有物分割の中で分割をしたいと希望するケースもあると思われ、この場合については本文
等とは別に10年の経過に関係なく共有物分割の中で分割することを可能とする手当てをすることも考えられる。
4 他に検討すべき論点
本文②のとおり、一定の手続を踏むと、共有物分割訴訟において相続人間の分割をすることができなくなるとした場合に、事案によっては、当該訴訟
の中で相続人間の分割もすることを前提に審理が進められていたが、弁論の終結間際に異議の申出がされ、それまでの審理に無駄が生ずる事態も起こ
り得ると考えられる。また、共有物分割訴訟において異議が出されるか否かが不明なまま審理が継続され、遺産分割手続において遺産の範囲が確定し
ないという事態も想定される。これらを防止するために、例えば、法律上異議の申出期間を定めることや、裁判所が異議の申出期限を設定することが
できるようにすることも考えられる。
また、共有物分割訴訟と遺産分割調停・審判において判断の齟齬が生じないようにするために、家庭裁判所が遺産分割の手続において同訴訟の係属の
有無及び結果、異議の申出期限等を把握するための方策について、引き続き検討する必要がある。
3 不動産の所在等不明共有者の持分の取得
遺産の中に不動産がある場合の所在等不明相続人の不動産の持分の取得につき、次の案をとることで、どうか。
不動産が数人の相続人の共有に属する場合における相続人の共有持分についても、他の共有者(相続人を含む。)は不動産の通常共有において所在等
不明共有者の持分を他の共有者が取得する方法(部会資料第41の第2)により取得することができる。
ただし、相続開始時から10年を経過するまでは、この限りではない。
(補足説明)
1 持分取得の法的性質等
部会資料31(第1の3)では、遺産の中に不動産がある場合の所在等不明相続人の不動産の持分の取得に関し、相続人が他の相続人の持分を取得し
た際に、その後に行うべき分割方法は、通常の共有物分割であるのか、それとも遺産分割であるのかについて検討していたところ、第14回会議では
、遺産分割ではなく、共有物分割ではないかとの指摘があった。
前記2の補足説明のとおり、現在の理解を前提とすると、具体的相続分の割合がどのようなものであるとしても、共同相続人は、法定相続分(又は指
定相続分)の割合に応じて個々の遺産に共有持分権を有し、相続人は、第三者に対し、この共有持分を譲渡することができる(最判昭和50年11月
7日民集29巻10号1525頁参照)。そして、このことは、譲渡の相手方が第三者ではなく他の相続人であっても、否定されるものではないと解
される。
このように、相続人が自己の共有持分権を他の相続人に譲渡することができるのであれば、不動産の通常共有において所在等不明共有者の持分を他の
共有者が取得する方法(部会資料41の第2。なお、同資料では、所在等不明共有者以外の共有者がいる場合についてもその全員の同意を持分取得の
要件としては要求しないこと等を提案している。)を、相続人の共有持分権についても利用することができる(所在等不明共有者に関する共有の規定
を適用する)と解される(相続財産の共有は、民法第249条以下に規定する共有とその性質を異にするものではないとする最判昭和30年5月31
日民集9巻6号793頁参照。)。
また、実際上も、不動産の持分を集約すべき必要性等は、その持分の取得の原因が相続であるかどうかにかかわりなく、認められると解される。
そこで、本資料では、相続人の持分についても、原則として、所在等不明共有者の持分の取得の仕組みを利用することができる(所在等不明共有者に
関する規定を適用する)ことを提案している(その結果、管轄裁判所は、通常の共有持分の取得の裁判を管轄する裁判所と同じになると思われる。)
。
2 適用除外
遺産共有状態の不動産について、持分取得の制度を利用した場合には、請求をした相続人(共有者)は、所在等不明相続人の共有持分権を取得し、他
方で、所在等不明相続人は、その共有持分に相当する賠償金請求権を取得する。そして、相続人が、自己の共有持分権を他者に譲渡した場合と同様に
、この取得の対象となった持分権は、遺産分割の対象から除外されることとなると解される。
もっとも、このように解すると、通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則として共有物分割を利用する場合と同様に、当該共有持分権につい
ては相続人の遺産分割上の権利が失われることになる。今回の仕組みでは、公告を実施するなどして、所在等不明相続人(所在等不明共有者)や他の
相続人(共有者)に一定の手続保障をすることとしているものの、遺産分割協議等をするには一定の期間を要するのが通常であることからすると、相
続人に不動産の持分を喪失させ、その持分を遺産分割の対象から除外する結果を認めるには、相続開始から一定の期間が経過しており、遺産分割上の
権利を長年にわたって行使していない状況でなければならないと考えられる。
以上を踏まえ、本資料では、所在等不明共有者の持分の取得の仕組みによる相続人の共有持分権の取得は、相続開始時から長期間を経過している(第
1の1を参考に、その期間を10年としている。)場合に限り、認めることを提案している。
3 通常の共有と遺産共有とが併存しているケースの処理
(1) 本資料で検討している仕組みは、相続人が法定相続分(又は指定相続分)の割合に応じて個々の遺産に共有持分権を有することを前提に、その共
有持分権の取得を認めるものであり、相続分の取得を認めるものではない。そのため、通常の共有と遺産共有とでは、違いはない(ただし、対象とな
る持分が遺産共有持分である場合には、相続開始から10年の経過を要することについては、前述のとおり。)。また、通常の共有と遺産共有とが併
存しているケース(以下「併存ケース」という。)であっても、基本的な枠組みは、通常の共有のケースや遺産共有のケースと違いはなく、併存ケー
スに特有の問題は生じない(管轄裁判所が同じであることは、前記のとおりである。)。
例えば、A及びBが各2分の1の持分を有する共有状態の土地がある場合に、Bが死亡し、C及びDが各2分の1の法定相続分で相続し、Cが所在不
明であるときは、C及びDの具体的相続分の割合に関係なく、Aが2分の1の持分を、C及びDが各4分の1の持分をそれぞれ有していることを前提
に、相続開始から10年を経過すれば、A又はDが、今回の仕組みを用いてCの持分を取得することができることになる。
(2) 前記(1)では、相続人の共有持分権を他の相続人又は通常共有者が取得することについて検討したが、併存ケースでは、相続人の1人が通常共有
者の共有持分権を取得することについても問題となる。
部会資料31(第1の3(4)ウ)では、相続人の1人が通常共有者の共有持分権を取得するには、相続開始時から10年を経過することを要すること
について検討していた。もっとも、相続人の1人も共有持分権を有しており、通常共有者については遺産分割上の権利が問題とならないので、相続開
始時から10年を経過する前であっても、相続人の1人は、この仕組みを利用することができるとすることが考えられる。
これを肯定すると、例えば、A及びBが各2分の1の持分を有する共有状態の土地がある場合に、Bが死亡し、C及びDが各2分の1の法定相続分で
相続し、Aが所在不明であるときは、C及びDの具体的相続分の割合に関係なく、Aが2分の1の持分を、C及びDが各4分の1の持分をそれぞれ有
していることを前提に、C又はDが、相続開始時から10年を経過する前に、今回の仕組みを用いてAの持分を取得することができることになる。
4 所在等不明相続人がいる場合の不動産の譲渡所在等不明相続人がいる場合における不動産の譲渡につき、次の案をとることで、どうか。
不動産が数人の相続人の共有に属する場合においても、他の共有者(相続人を含む。)は、不動産の通常共有において所在等不明共有者がいる場合に
おける不動産の譲渡の方法(部会資料41の第3)により、不動産を売却することができる。ただし、相続開始時から10年を経過するまでは、この
限りではない。
(補足説明)
不動産の持分の取得と同様の理由から、本文のとおり提案している。
5 例外規定等
第1の1の規律に例外等を設けることに関し、次の案について、どのように考えるか。
相続開始の時から10年を経過する前6箇月以内の間に、(遺産の分割を禁止する定めがあることその他)やむを得ない事由のため遺産の分割の請求
をすることができない相続人がある場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、その相続人が遺産の分割の請求をしたときには
、前記1の規律は、適用しない。
(補足説明)
1 例外規定
部会資料31(第1の5)では、やむを得ない事由がある場合には、前記1の規律の例外を設けることについて検討することを提案していた。具体的
には、期間経過前に遺産分割の申立てをすることができなかったことについてやむを得ない事由がある場合には、具体的相続分による分割を求めるこ
とができるとする甲案、価額の支払を請求することができるとする乙案、例外を設けないとする丙案について、検討することを提案した。
第14回会議では、甲案又は乙案を支持する意見があったが、丙案を支持する意見は、特になかった。
改めて検討すると、乙案をとった場合には、法定相続分による遺産分割手続が進行しつつ、他方で、地方裁判所等で価額の支払請求訴訟が進行するこ
とになるが、このようなことは、実際上は同一の紛争を別々に審理しなければならないことになり、妥当ではないとの意見も考えられる。
そこで、本資料では、甲案を中心に検討することを提案している。
2 遺産分割期間経過後に相続人となった者の取扱い
部会資料31(第1の6)では、前記1の期間経過後に相続人となった者は、具体的相続分による価額の支払請求権を有するとすることを提案してい
た。
もっとも、この考えによると、前記と同様に、法定相続分による遺産分割手続が進行しつつ、他方で、地方裁判所等で価額の支払請求訴訟が進行する
ことになる。
そのため、前記のとおり、やむを得ない事由がある場合には具体的相続分による分割を認めるのであれば、同様に、この場合にも具体的相続分による
分割を認める(やむを得ない事由の一つとする)ことが考えられる。
3 遺産の分割の禁止等
後記のとおり、遺産の分割の禁止の期間については、一定の整理をすることとしているが、後記の提案によっても、遺産の分割が禁止されているため
に、相続開始の時から10年を経過する前に遺産分割の請求をすることができないという事態が生じ得る(遺産分割禁止の定めがあることは、遺産分
割の申立ての却下事由になると思われる。)。
そこで、遺産の分割の禁止等があることは、やむを得ない事由の一つとすることが考えられる。
4 6箇月の猶予期間を設けることについて
一定の事由により期間経過による権利等の消滅を猶予するものとしては、現行民法上は、時効の完成猶予制度(民法第158条以下参照)がある。本
文では、この制度を参考に、期間経過前6箇月以内に遺産分割の申立てをすることができなかったことについてやむを得ない事由があった相続人があ
る場合に、そのやむを得ない事由が消滅した時から6箇月を経過する前にその相続人が遺産分割の申立てをしたときには、前記1の規律は適用しない
こととして、申立ての準備期間として少なくとも6か月間確保することを検討することとしている。
5 その他
第14回会議では、例えば、当事者の合意により具体的相続分による遺産分割をする権利を留保することができないのか検討すべきとの指摘があった
。
遺産分割手続では、職権探知主義がとられているものの、そもそも、遺産分割は相続人間の合意によってすることができる性質のものであるので、相
続開始後10年が経過した後に遺産分割の申立てがされ、その開始した遺産分割の手続の中で、当事者が具体的相続分による遺産分割を実施するとの
合意をすれば、裁判所は、その合意に沿って遺産分割をすることになると解される。
他方で、相続開始後10年を経過するまでに遺産分割の申立てがなくとも、その後の分割は具体的相続分によりするとの約定に法的な効果を認めるこ
とは、結局、相続開始から10年を経過した後も遺産共有の状態を保持することを実質的に保障するものであると解されるが、そのようなことを認め
ることは、遺産分割禁止期間を相続開始後10年間に限られることとし、遺産共有状態を維持することを保障する期間を区切ることと実質的に矛盾し
ないのかが問題になるように思われるし、具体的相続分による分割に期限を設けた趣旨と矛盾するのではないかとの指摘も考えられる。
そのため、本資料では、そのような合意による権利留保を明記することは提案していない。
6 その他(遺産分割の申立ての取下げ等)
遺産分割の申立ての取下げに関し、次のような規律を設けることで、どうか。
遺産分割調停及び遺産分割審判の申立ての取下げは、相続開始の後10年を経過した後は、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。
(補足説明)
1 取下げの制限等
部会資料31では、例えば、相続開始から10年を経過する直前に遺産分割の申立ての取下げがされると、他の相続人がそのことを知らないまま申立
ての取下げの効力が生じ、改めて期間内に申立てをする時間もなく、具体的相続分による遺産分割が実質的に制限されるという不当な結果を招くこと
から、遺産分割の申立ては、一律、相手方の同意がない限り、これを取り下げることができないとすることを提案していたが、第14回会議では、他
の方法をとることも考えられるのではないかとの指摘があった。
相続開始後10年を経過した後は、基本的には、具体的相続分による遺産分割の制限が問題となるため、一律に、相手方の同意を得なければ、効力を
生じないとして、他の相続人の利益を害さないようにすることが簡明であると思われる。他方で、相続開始後10年経過前は、基本的には、そのよう
な制限が問題とならないため、そのような規律は改めて設けないこととすることが考えられる。また、前記で記載した相続開始から10年を経過する
直前に遺産分割の申立ての取下げがされた例外的な事案については、相続開始後10年を経過する前にやむを得ない事由によって申立てをすることが
できなかったものとして処理をすることで対応することが考えられる。
以上を踏まえ、本文のとおり提案している。
2 遺産分割事件の中止
第14回会議では、遺産分割の前提問題に関する訴訟が係属しているときには、遺産分割事件の中止をすることができるとの規律を検討すべきとの指
摘があったが、家事事件手続法を制定する過程で同種の案の採用が見送られたとの経緯もあるので、その必要性や相当性については慎重に検討してい
く必要があると思われる。
第2 遺産分割禁止期間
1 遺産分割禁止の審判
遺産分割禁止期間の終期を明示する等の観点から、民法第907条第3項を①のとおり改正するとともに、②及び③の規定を新設することで、どうか
。
① 民法第907条第2項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年を超えない期間を定めて、遺産の全部又は一部について
、その分割を禁ずることができる。
② 家庭裁判所は、5年を超えない期間を定めて①の期間を更新することができる。
③ ①及び②による禁止の効力は、相続開始の時から10年を超えることができない。
(補足説明)
部会資料31(第2の1)と同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。
2 遺産分割禁止特約
遺産分割禁止期間の終期を明示する等の観点から、次の規定を新設することで、どうか。
① 共同相続人は、5年を超えない期間内は遺産の分割をしない旨の契約をすることができる。
② ①の契約については、5年を超えない期間を定めて①の期間を更新
することができる。
③ ①及び②による禁止の効力は、相続開始の時から10年を超えることができない。
(補足説明)
部会資料31(第2の2)と同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。
第3 遺産共有と共有の規律
遺産共有に関し、次のとおりとすることで、どうか。
① 遺産共有にも、特別の定めがない限り、共有物の管理行為、共有物の管理に関する手続、共有物を利用する者と他の共有者の関係等、共有物の管
理に関する行為についての同意取得の方法及び共有物の管理者の規律(部会資料40、41参照)をそのまま適用する。
② 遺産共有に関し、持分の価格の過半数で決する事項については、その持分は法定相続分(相続分の指定があるときは、指定相続分)を基準とする。
(補足説明)
部会資料31(第3)と基本的に同じである。第14回会議では、特段の反対意見はなかった。ただし、遺産共有に特別の規定があれば、そちらが優
先して適用されることになることを明記している(例えば、共有物を利用する者と他の共有者の関係等においては、部会資料40の第1の4のとおり
善管注意義務を課すこととされているが、民法第918条第1項はこれに対する特別の規定と位置付けられると解される。)。
第4 共同相続人による取得時効共同相続人による取得時効に関しては、新たな規律を設けないものとすることで、どうか。
(補足説明)
部会資料31(第4)では、共同相続人が遺産に属する物を占有していたとしても、原則として取得時効が成立しないことを前提に、例外的に取得時効が認められる場合につき規律を設けることを提案していたが、第14回会議では、賛否両論の意見があった。
共同相続人が遺産に属する物を占有していた場合には、原則として取得時効が成立せず、他方で、一定の事由があるときは、例外的に取得時効が成立するという大きな枠組みについては、部会で特段の意見の違いはないと解されるが、相続人がいることが判明しているが所在が不明なケースにまで取
得時効を認めるのかなどについては、なお意見が分かれている。
また、いずれにしても、特に新たな規律を設けなくとも、占有の開始時点の事情によっては所有の意思が認められるし、占有の開始後の事情によって
は民法第185条の規定によって占有の性質の変更が認められる(そのような解釈に当たっては、これまでの検討が参考になるように思われる。例え
ば、対価を得て相続人が事実上相続放棄をしているケースについては、持分の譲渡をしていると認定し、民法第185条の規定により占有の性質の変更がされていると見ることにより、現行法の解釈で試案と同様の結論を得ることも不可能ではないと考えられる。)。
さらに、遺産分割や検討中の持分の取得等に関する手続をとらなくても単独所有権を取得することができるとのメッセージを与えることになることや、例外的に取得時効を認めるための要件を明確にすることにはおのずから限界があり、結局は、事案ごとの総合的な判断に委ねるほかないことには変わりがないこと等を理由に、新たな規律を設けることに慎重又は反対する意見にも相応の理由があると考えられる。
以上を踏まえ、今後とも、取得時効の成否は、事案ごとの適切な事実認定等に委ねることとし、本資料では、特に規律を設けないものとすることを提案している。
第2部 不動産登記法等の見直し
第1 所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み
1 相続登記等の申請の義務付け及び登記手続の簡略化
不動産登記法改正案
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。 2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。 3 前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。 (相続人である旨の申出等) 第七十六条の三 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。 2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。 3 登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。 4 第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第一項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。 5 前項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、同項の規定による登記がされた場合には、適用しない。 6 第一項の規定による申出の手続及び第三項の規定による登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。 (所有権の登記名義人についての符号の表示) 第七十六条の四 登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る。)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、当該所有権の登記名義人についてその旨を示す符号を表示することができる。 |
(4) 遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化
不動産登記法改正案
(判決による登記等)
第六十三条 第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
2 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
3 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。 |
2 権利能力を有しないこととなったと認めるべき所有権の登記名義人についての符号の表示
不動産登記法改正案
(所有権の登記名義人についての符号の表示)
第七十六条の四 登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る。)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、当該所有権の登記名義人についてその旨を示す符号を表示することができる。 |
(1) 所有権の登記名義人が死亡した場合における登記の申請の義務付け (2) 相続登記等の申請義務違反の効果 (3) 相続人申告登記(仮称)の創設 (4) 遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化 (5) 法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化 死亡情報を取得した登記所が相続の発生を不動産登記に反映させるための方策として、住民基本台帳制度の趣旨等に留意しつつ、次のような規律を設けるものとする。 ○山野目部会長 再開いたします。 ○山野目部会長 再開いたします。 第2部 不動産登記法等の見直し
不動産の所有権の登記名義人が死亡し、相続等による所有権の移転が生じた場合における公法上の登記申請義務について、次のような規律を設けるものとする。
① 不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続(注1)により当該不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない(注2)。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする(注3)。
② 前記①前段の規定による登記(民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。後記(3)④において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない(注4)。
③ 前記①及び②の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各規定による登記がされた場合には、適用しない。
(注1)ここでいう「相続・・・によ」る所有権の取得には、特定財産承継遺言による取得も含まれる。
(注2)遺産の分割がされた場合には、当該遺産の分割の結果を踏まえた相続登記の申請をすることで申請義務が履行されたこととなる。また、遺産の分割がされる前であっても、法定相続分での相続登記(民法第900条(法定相続分)及び第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した相続分に応じてする相続による所有権の移転の登記をいう。以下同じ。)の申請をした場合にも、相続による所有権の移転の登記の申請義務が履行されたこととなる。さらに、後記(3)の相続人申告登記(仮称)の申出をした場合にも第1の1(1)①の申請義務を履行したものとみなすものとする(後記(3)②参照)。
(注3)相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記について、登記権利者(受遺者である相続人)が単独で申請することができる旨の規律を設けることについて、後記(4)参照。
(注4)後記(3)の相続人申告登記(仮称)の申出をした者が、その後の遺産の分割によって所有権を取得したときは、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない(後記(3)④参照)。
相続登記等の登記申請義務違反の効果として、次のような規律を設けるものとする。
前記(1)又は後記(3)④の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する(注)。
(注)裁判所に対する過料事件の通知の手続等に関して法務省令等に所要の規定を設けるものとする。
死亡した所有権の登記名義人の相続人による申出を受けて登記官がする登記として、相続人申告登記(仮称)を創設し、次のような規律を設けるものとする(注1)。
① 前記(1)①の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる(注2)。
② 前記(1)①に規定する期間内に前記①の規定による申出をした者は、前記(1)①に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
③ 登記官は、前記①の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる(注2)。
④ 前記①の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前記(1)①前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
⑤ 前記④の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、同④の規定による登記がされた場合は、適用しない。
(注1)これは、相続を原因とする所有権の移転の登記ではなく、①の各事実についての報告的な登記として位置付けられるものである。
(注2)この場合においては、申出人は当該登記名義人の法定相続人であることを証する情報(その有する持分の割合を証する情報を含まない。)を提供しなければならないものとする。具体的には、単に申出人が法定相続人の一人であることが分かる限度での戸籍謄抄本を提供すれば足りる(例えば、配偶者については現在の戸籍謄抄本のみで足り、子については被相続人である親の氏名が記載されている子の現在の戸籍謄抄本のみで足りることを想定している。)。
相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記手続を簡略化するため、共同申請主義(不動産登記法第60条)の例外として、次のような規律を設けるものとする。
遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、不動産登記法第60条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。
法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続を簡略化するため、法定相続分での相続登記がされている場合において、次に掲げる登記をするときは、更正の登記によることができるものとした上で、登記権利者が単独で申請することができるものとし、これを不動産登記実務の運用により対応するものとする。
① 遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記
② 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
③ 特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記
④ 相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記
登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る。)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、当該所有権の登記名義人についてその旨を示す符号を表示することができる。
部会資料38をお取り上げください。「不動産登記法の見直し(2)」を審議事項といたします。
部会資料をお開きいただきますと,第1として「相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み」というタイトルの下で,幾つかの問題提起を差し上げています。1として,登記所における他の公的機関からの死亡の情報の入手・活用につきまして,新しい制度の施行後に登記申請をする所有権の登記名義人となる者に対し,検索用情報の提供を必ずしてもらうということを求め,それらを発端として登記所が他の公的機関から死亡の情報を入手する仕組みの整備をする構想などが考えられており,さらに,それを踏まえて登記所が死亡情報を不動産登記に反映させるための仕組みということも構想されているところでございます。
これを踏まえて,それらと関連させながら相続登記の申請の義務付けという,この部会においてずっと御審議を頂いてきた事項について,区切りとなる提案を差し上げています。相続による登記,それから特定財産承継遺言による登記,相続人である受遺者の権利取得の登記について義務付けをするという中間試案で示していた方向での考え方を提示してございます。
あわせて,相続登記の申請義務違反の効果について過料が考えられるという観点から,部会資料を用意しておりますが,この点については適否をめぐって意見があるところでございますから,委員・幹事から御意見をお出しいただきたいと望みます。
さらに,相続登記申請義務の実効性を確保するための方策として,仮称でありますが,相続人申告登記という新しい制度を設けようということも提案しているところでございます。そのほか,若干の事項について考えられる新しい制度や従来の制度の見直しの提案を差し上げております。そこまでの範囲で,その後,相続等に関する登記事項の簡略化のお話もございますけれども,そこまでいかない範囲のところでございますから,お手元の部会資料で申しますと,補足説明も含めますと27ページの相続等による登記手続の簡略化の手前のところまでの範囲でまず御意見を承ることにしたいと考えます。どうぞ委員・幹事から御随意に御意見をお出しくださるようにお願いいたします。いかがでしょうか。
○橋本幹事 弁護士会の議論状況についての御紹介と,若干質問も入るんですが,させていただきます。
まず第1の1関係ですが,登記所が他の公的機関からの情報連携で死亡情報を入手する仕組みを創設するということ,これについては,中間試案の段階からも日弁連としては方向性としては賛成ということで意見を述べています。ただ今回,中間試案では戸籍副本データシステムか住基ネットかという両立てだったのを,住基ネットの方にかじを切られた提案ですので,この点について補足説明を読んでなるほどなと思ったところはあるんですけれども,法定相続人の方に将来的に情報を連携させていくというのがやはり目的なんだろうと思いますので,副本データシステムだといろいろ負担が大きいとか,得られる情報が限られるというような記載はあって,消去法的に住基ネットだというような説明になっているんですが,住基ネットの方が積極的に優れているんだよというのがちょっとなかなか理解しづらくて,将来的な法定相続人の方に踏み込んでいくには負担は大きいけれども,やはり副本データの方が長い目で見ると優れているのではないのかなという指摘がありまして,その辺りをどのようにお考えなのか,もうちょっと説明を頂けたらと思います。
それから,検索用情報を申出をさせるということについては,特に異論なく賛成の方向ですが,この検索用情報についての定義が,生年月日等と,「等」となっているので,具体的にどういった情報までを想定しているのか,具体的にちょっと明示していただいた方がいいかなと思います。
それから,登記申請の義務付けの点ですが,中間試案の段階でも日弁連としてはこの部分については反対という御意見を申し上げております。抽象的なレベルでの義務,相続が発生した場合は相続人が登記しなければならないものとするという抽象的な規定にとどめて,過料の制裁までいくのは反対だという意見を申し上げていたんですが,現時点でもまだその意見は基本的には維持しております。
ただ,後に相続人申告登記という制度を創設する,これについては賛成で,申告登記がなされれば義務は果たされたという御理解だということですので,であるとすれば,申告登記の限度で過料の制裁付きとして,共同相続の登記,そこがなかなか難しいのかもしれないですけれども,という意見がありまして,相続登記全般については抽象的義務の限度にとどめるべきだけれども,申告登記については過料付きでもいいのではないかという意見はありました。それで,申告登記を創設するということについては賛成です。そこまでですかね。
○山野目部会長 お尋ねが2点と意見を一つ頂きました。
お尋ねの1点目は,住民基本台帳ネットワークと戸籍副本データ管理システムとの特質の比較検討に関わります。
2番目は,検索用情報が生年月日等になっている,この「等」とは何かということであり,細かく読んでいただいたという感想を抱きつつす,事務当局から案内を差し上げることにいたします。
3点目に御意見としておっしゃっていただいた点は御意見として承りますが,御提示申し上げている案を相続人申告登記をすれば過料の制裁は科せられないことになるということについて,弁護士会の御意見は過料とともに義務付けるのは相続人申告登記までにしてくれというお話であり,やや言いぶりは異なりますけれども,表裏の関係であり,規範内容の論理的内容は同じであろうと感じますけれども,しかし,御意見としておっしゃっていることは受け止めさせていただきます。
事務当局からお願いします。
○村松幹事 まず第1点目の戸籍との連携の話でございます。
御指摘がありますように,戸籍の方で身分関係の情報は管理していますので,そちらの方から所有者不明土地の解消につながるような情報,元々死亡情報と言っていましたけれども,それに加えて法定相続人の情報が取れるようになれば,それを取得するのは望ましいのではないかという点は正におっしゃるとおりでございまして,そういう状況が出来上がりましたら,そこはもう正にすぐに情報を頂きにいくということを基本的には想定するのだと思っております。
ただ,現時点において,戸籍の方でどういう準備状況かといいますと,なかなか今お話にあったような,ある方の法定相続人をぱっと分かるような状態にするというところまではまだ具体的な計画が立てられておらず,まずはマイナンバー連携を行うという前提で,その範囲内で計画を立てているという状態ですので,現状においては,まずは死亡情報を住基ネットから取得するというところで具体的な制度設計あるいはシステム整備を行っていくというのが穏当なのではないかというところでございます。
ただ,繰り返しですけれども,先々,そういうことが可能になったあかつきには,もちろん私どもとしても情報を取得していくというところになりますし,民事第一課はもちろん民事局内の兄弟の課ですので,そういったところについてこちらの方からまた要望という形になるかもしれませんけれども,話はしなくてはいけないとは思っておりますが,具体的に情報が取得できる体制がどう整えられていくのかという部分で申し上げますと,今言ったような状況ですので,現状では,ここでは固いところの住基ネットからの死亡情報の取得というところでまずは考えてはどうかというところになります。
それから,検索用の情報というところで,「等」という部分ございます。中間試案でも等になっていたかもしれませんけれども,この部分,一応基本4情報と言われるものがあと性別もございますので,性別も場合によっては書いていただくのかという部分がございます。
あと,それから住基ネットをこれで検索するというためだけのものではなく,ちょっとこれは登記側で,せっかく申出していただくので,併せて情報を取得できないかなという話があるのが振り仮名でございます。この部分については,ここでははっきり書いておりませんけれども,後ろの方の所有不動産目録証明制度でも活用できるのではないかと。つまり,名寄せを行うときなどにこういう情報も含めて保持しておいた方が効率的に行うことができるのではないかということがありそうですので,まだはっきり具体的に決めたわけではありませんけれども,そういったものが差し当たりは考えられるのかなというところでございます。
それ以外,今の段階では先ほど申し上げたとおり戸籍との連携は考えられておりませんので,それ以外の情報というのは,差し当たりは考えていないところになります。
○橋本幹事 すみません,分かりました。
1点意見言い漏らしたのでちょっと追加させていただきます。
相続人申告登記ですけれども,これ,登録免許税は非課税とはできないんでしょうか。非課税とすべきであるという意見がありましたので,御紹介します。
○山野目部会長 登録免許税の規律の在り方については,根拠法を所管しているのが法務大臣でないこととの関係もあり,当部会に対して審議を求めた総会に対して法務大臣が発出した諮問の事項の外にあるというふうに,厳密に申せばそういうふうな整理になりますけれども,しかしそうであるからといって,私が申し上げたいことは,議論をしないでください,というお願いではありません。相続人申告登記というそれ自体はここで議論すべき事柄でありますけれども,そこでもしその方向でいくとすれば,設けられようとしている制度の機能,立て付けと密接に関わる事項でございますから,ただいま橋本幹事から問題提起を頂いていた観点は,委員・幹事において御議論いただきたいと望みます。
それとともに,今お尋ねの仕方で御発言を頂きましたが,どうなりますかというお尋ねそのものに関しては,この場いささか見渡しても答える人はおりません。今の橋本幹事のお話は,その観点に留意ししてまいりますということを私から御案内するということでお許しを頂くことがかないますでしょうか。
ありがとうございます。引き続き御発言を承ります。いかがでしょうか。
今川委員,お待たせしました。
○今川委員 司法書士会,今川です。
弁護士会さんの意見と重複する点はあるとは思いますけれども,まず登記所が他の公的機関から死亡情報を入手する仕組みについては,個人情報の取扱いに配慮するということを当然の前提として賛成をしております。
定期的に照会を行うということについて,どれぐらいの頻度かという素朴な疑問があるのと,費用対効果も含めて今後検討課題だろうと認識しています。
連携先システムについては,先ほどの戸籍の情報という意見もありましたけれども,我々としては固定資産税情報との連携も引き続き検討を続けていただきたいという意見です。
それから,検索用情報等の「等」の中ですが,補足説明の4で触れられていますし,今,村松課長からも御説明がありましたが,振り仮名を考えておられるということと,外国人の場合について,登記事項ではなく検索用情報としてローマ字表記の申出も考えていると書いてありますので,是非併せて検討していただけたらと思っております。
連携先システムから取得する情報ですが,高齢者消除はどうなのかと思います。相続開始の原因ではないので,入手情報はなるべく絞り込む方がいいのではないかということで,消極の意見が多かったです。
1の(注1)については賛成を致します。生年月日等の情報の申出を義務としたとしても,さほど過度な負担にはなりませんし,検索の精度を上げるには有益だろうと思います。
それから,この新しい制度の施行時に既に所有権の名義人となっている者については,義務ではなく任意でいいのではないかと思います。ただ,登記名義人へ様々な方法によって周知をするとか,広報については積極的に行う必要があると思います。司法書士会としましては,既に名義人となっている者の申出の場合は,単なる本人確認ではなくて,登記名義人との同一性を確認するために,例えば登記識別情報を提供させる等厳格な本人確認が必要であるという意見を申し上げていたのですが,補足説明を読みますと,元々中間試案においても申出人と登記名義人との同一性を証明する情報の提供を前提としていたとされておりますので,安心しておりますし,今回そのことを明確にする観点から,(注1)の中に自己が当該不動産の名義人であることを証する情報というふうに明確に書いていただいたのは,分かりやすくて有り難いと思っております。
(注2)ですが,表題部所有者についても相続が発生した場合に適切な登記がされるべきなのは,権利登記と変わるところはないので,本制度を導入すべきだと思います。
登記所が死亡情報を入手した場合の不動産登記に反映させる仕組みですけれども,これも個人情報に配慮することは当然として,登記の公示機能を少しでも高めていくという観点から賛成であります。
最後の住所宛ての通知については,今回の提案ではしない方向ということになっております。通知をすることは全く無駄だとは思いませんが,コストを考えると見送るということでよいと思います。
これも,ほかの様々な方法によって相続登記の促進に関する周知を国民にしていくということが必要だろうと思います。
公示の具体的な方法ですけれども,省令等によって定めるということですが,何らかの符号を表示するということで,そういう方向で検討されているのは賛成であります。
それから,補足説明資料13ページの5の所有権の登記名義人が法人である場合と,所有権以外の登記名義人の場合については除外するという提案ですが,その方向で賛成であります。ただ,そこの理由付けのところで,所有権の名義人の場合は,虚無人名義の登記を防止するために住所を証する情報を提供しているというのが一つの切り口というか,メルクマールとして書かれておりますが,それはそれとして,我々とすると以前から意見として申し上げておりますとおり,所有権以外の名義の登記であっても,住所を証する情報を提供すべきであると考えます。このような規律を設けていただきたいと思っております。
なぜなら,所有権以外の名義人について,死亡情報を入手してそれを公示するかどうかという公示のニーズやコストの問題と,所有権以外の名義人についても探索するための確実な手立てを残しておくというのは別問題であると考えておりますので,これについては引き続き検討いただきたいと思っております。
第1の2の「相続登記の申請の義務付け」ですけれども,単に公法上の義務を課すことについては実効性とそれから私的自治の観点から消極ではあるのですが,相続登記の未了が所有者不明の発生の大きな原因の一つであるということと,今回,土地基本法に土地所有者の責務というのが定められており,その趣旨は十分理解をしておりますので,もし何らかの義務付けを課すとするならば,その方向性としては必要かつ最小限度のものとすべきであるという基本的な立場に立った上で,二つのことを前提としてこの登記の申請の義務付けに賛成を致します。
その一つは,(注1)の1段落目に記載のとおり,遺産分割がされる前であっても法定相続分での登記の申請又はこの次の(3)で提案されている相続人申告登記の申出をした場合にも申請義務が履行されたものとするということ。
それからもう一つ,二つ目の前提としては,過料の規定はやはり消極でありまして,これを行わないということを前提として義務付けに賛成をします。
(注1)のただし書ですけれども,相続人申告登記又は法定相続分での登記がされた後,さらに遺産分割協議がされること,遺産分割協議の登記についても義務を課すかという点ですけれども,この二重の義務については消極であります。遺産分割がされた場合は,対抗関係に入ることもありますので,登記申請を期待することもできますので,新たに登記申請義務を課すべきではないと考えております。
それから,第2の②③の場合でも,期間については①と同一にしていいと思っております。同一にしたとしても酷とは言えないだろうということで賛成です。
(注4)の表題部所有者について,同様の規律を設けるべきであると考えております。ただ,相続人申告登記を表題部所有者についても適用していくという場合には,かなり公示方法の技術的な側面について検討しなければならないというのは理解をしております。
この規律の施行時において現に相続が発生している場合はどうするかという問いかけが(注5)ですけれども,所有者不明土地の発生を将来に向けて抑えるということに加えて,現在存在する所有者不明土地問題の解消というものも非常に重要になってきますので,施行時に名義人が既に死亡している不動産についても,この本文の規律に準じた規律を置くべきだろうと思います。ただ,数次相続が発生している場合もありますので,過度な負担とならないように措置を講じるべきだろうと思います。
義務履行の期間,今回1年,3年,5年というふうに提示されましたが,何年がいいかというのはなかなか意見が分かれるところです。相続人申告登記をすることで,申請義務が履行されるということを前提とするならば,その期間は比較的短期でいいだろうと思われます。ただ,あまり短期とすると,相続人申告登記だけ取りあえず急いでやって,それで安心して帰って遺産分割協議が放置されるということにもなりますので,そこは検討していかなければいけないと思います。
過料については,先ほども申し上げましたように,登記官がその主観的要件を含めて認定をするのが困難であると思われるのと,過料に処される可能性があるから登記をするという意識が果たして働くかというその実効性にも疑問がありますので,消極であります。
相続人申告登記(仮称),これについてはもう全面的に賛成であります。今回,補足説明4に出てきましたように,他の最寄りの法務局で管轄外の不動産も含めて申告登記の申出をすることができるという案,是非これは相続人の利便に資するものでありますので,そのようにしていただきたいと思っております。
それから,登記申請義務の履行に利益を付与する方策ですけれども,これは何といっても先ほどもお話が出てきましたけれども,相続人申告登記も含めて非課税とすると,そういうインセンティブを与えていくということは,非常に重要ではないかと思います。
「(4)その他」で,不動産所有者の特定を登記記録に基づいて行うという,このような法制度を置くということについて,提案のとおり,これは個別の規定ごとに検討していくべきだと考えております。
○山野目部会長 高齢者消除は情報連携の対象から除いた方がよいという意見をおっしゃいましたか。
○今川委員 はい。
○山野目部会長 そうですね,分かりました。
御意見いただきましてありがとうございました。
佐久間幹事,お願いいたします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
私は,相続人申告登記について,創設することそのものについては反対ではありませんけれども,中間試案が作成される前の段階から申し上げていたことですが,これをあまり過大に受け止めることは,不動産登記制度そのものの観点からして適当ではないのではないかと思っております。過大にというのは,どの点に関わるかと申しますと,特に11ページの(注1)の下線が引いてある部分の一つ上のところですが,相続による所有権の移転の登記の申請義務が相続人申告登記がされたことによって履行されたものとするという点に関わります。ここは実は私にはすごく違和感がございまして,過料の制裁についてどうするかということはともかくといたしまして,本来ここで登記の申請の義務付けで求めているのは,権利の登記のはずだと思うのです。
その権利の登記が権利関係について全く公示力のない相続人申告登記がされたことによって,履行されたものとみなすというのは,ちょっと私には理解し難いというふうにしか申しようがありません。過料の制裁を科す点については科さないというのであれば,それはある程度は理解できますけれども,相続人申告登記をしたならば,共同相続登記,遺産分割後の登記等について,もうされたことと同じになるんだというのは,ちょっとおかしいのではないかと思うというのが一つです。
その前提といたしまして,相続人申告登記でいいことにしようということについては,私の見るところでは理由が二つ挙げられているように思いました。一つは,私的自治の原則との関係,もう一つは国民負担の軽減です。国民負担の軽減のところは特に申し上げることはありませんけれども,私的自治との関係については,私は違う理解をしています。確かにこれまで不動産登記については非常に広い場面におきまして私的自治に委ねられてまいりましたけれども,権利の登記に関して申しますと,偉そうに言うまでもないことですけれども,二つの機能がございまして,一つは対抗要件が備わるという面,もう一つは,権利について社会において公示されるという面があります。
対抗要件の側面に関して申しますと,これは正に個人の権利のみに関わる事柄ですので,私的自治に全面的に委ねればよいと思いますけれども,公示の側面は個人の権利がどうのこうのという問題ではなく,社会の利益の問題でございますので,私的自治に委ねるかどうかは,それは一つの判断であろうと思うのです。これまで私的自治に委ねられてまいりましたのは,私の理解では,ということでありますけれども,対抗要件主義を採っているので,その対抗要件主義を介して,個人は自らの利益を守るために社会の利益につながることとなる公示を備えるであろうと考えられてきて,ほぼ全面的に私的自治に委ねられてきたのではないかと思います。
しかるところ,今般問題となっておりますこの相続を契機とする権利の登記の義務付けに関しましては,対抗要件主義を前提として個人の私的自治に委ねればいいではないかという考え方が機能しないではないか,あるいは機能しないおそれがあるのではないかということから,義務付けの話に来ているのであろうと思います。
そこで,これまで私的自治に委ねられてきたのだからという理屈は,必ずしもそれが説得力あるものではないのではないかと思っております。これは単なる理由の問題なのですけれども,そうであるといたしますと,最後に国民負担の軽減のために相続人申告登記でいいことにしようというのであれば,それはもう権利の移転の登記について義務付けしないのと同じではないかと思っているところであります。
これが意見でございまして,あと最後にちょっと伺いたいのですが,相続人申告登記に関しましては,各相続人がすることになるわけですよね。そうだとすると,3人相続人がいて,1人だけ相続人申告登記をしましたというと,その人は義務を履行したことになるけれども,あとの2人は義務は履行していない,そこで,例えばですけれども,申告登記をした人がチクって,こいつ義務を履行していないぞとなると,過料の制裁を仮に科すとすると,過料の制裁がその2人には科されるおそれがあるというふうになるということでよろしいんでしょうか。それとも,1人の人が相続人申告登記をすると,ほかの人は名前が全然出てきていないんだけれども,その人も義務を果たしたことになるか。これはどちらと理解すればよいのかお教えいただきたく存じます。
○山野目部会長 佐久間幹事から意見とお尋ねを頂きました。前半の方で御意見としておっしゃっていただいた点にいずれも留意しますし,取り分け11ページの(注1)に関連して相続人申告登記の効果が過料を課さないこととするか,それとも義務付けられている相続登記の義務を履行したものと擬制するということに近いものですけれども,要するに擬制するという規律表現をとるかということについては,よくよく注意をしてほしいという御意見はよく理解することができますから,法文の立案に際して御指摘を忘れないようにいたします。
後段でお尋ねという仕方で頂きました事項,例えば戸籍上は一つの戸籍文書を見るとABCが推定相続人であることが分かるという際に,そのうちのAが相続人申告登記の申出をすると,BCとの関係で過料の制裁が発動される可能性は残るか,残らないかといったような問題について,どのような規律運用を考えているかというお尋ねを頂いたところでありまして,これは委員・幹事において御議論を頂きたいとも感じますが,差し当たってこの部会資料が伝えようとした規範内容がどのようなものであると考えられているか,事務当局から何かお考えがあったらお話しください。
○村松幹事 御質問の点ですけれども,ABCといて,うちAだけが申告登記をしたというケース。その場合はもちろんAだけの名前が登記には載るという前提です。その場合にBとCについては,もちろん義務は履行されていないという状況が生まれているという前提になります。
したがって,主観的要件の具備などありますので,一概に直ちに過料の制裁ということになっていくのかどうかというのは,またそちらの問題がございますけれども,義務違反があるかないかという点に関していいますと,BCについては義務違反の状態が解消されているわけではない。そういう意味では,人単位で義務の履行の有無というのは考えられるというのが基本的な発想になっております。
前半部分についても,私として感じているところを申し上げますと,確かに義務化に関しては賛否両論ございまして,反対の立場からすると,私的自治というものを重く見るという立場があるのはそのとおりですけれども,しかし,それだけではなかなか世の中回っていかないのではないか。現にこういう問題が起きているという御指摘は事務当局としてもそのとおりであろうというところで考えているところでございます。
権利の登記の義務付けをしたという形になりながら,しかし,権利の移転の登記ではない,ある意味報告型であるにもかかわらず,なぜ申告登記で義務が果たされたといえるのかというのは,私どもからすると基本的には登記の公示がしっかり果たされていない,相続の局面でということに関しては,まず第一にはやはり死亡したということが登記面に表われていない,ここが一つ問題なので,それを何とかしたい。またそれから,本当は,パーフェクトに言えばもちろん相続人への権利移転,それ自体をすべからく明瞭に登記に表すことを徹底的に追求するというのもございますけれども,しかし,所有者不明土地問題の解消という観点からいいますと,まずは相続人が分からない,誰に連絡していいのかよく分からない,こういう点が特に大きな問題として指摘されているという点に鑑みて,そうすると,本来的にはこの二つ,死亡しているという事実と相続人の地位にありそうな方というものと,この二つの事実の公示というのが果たされていないというのが,完全にというわけではありませんけれども,特に大きな問題だという認識の下,これを何とかする方策を考えたい。
現存するような権利移転の登記をすれば,それはもちろん満たされているわけですけれども,しかし,そういった方策に加えて,義務を課した趣旨が先ほどのもののようなことであるとすれば,新しい申告登記でも義務が履行されたというふうに見ることができるのではないかという,一応はそういう発想もあるのではないかというところで提案させていただいているというつもりでございます。
○山野目部会長 前段と後段の両方について,佐久間幹事から引き続きお話を頂きますけれども,その前に,後段で話題になっている相続人申告登記の制度のイメージを少し確かめておきたいと考えます。
事務当局にお尋ねですけれども,一つの戸籍に関する事項の証明書を見ると,そこにABCの3人が推定相続人であることが分かるという内容が記載されていて,それを提供してきたAが相続人申告登記の申出をした,その申出に係る事案を扱う登記官は,それを受けて職権で相続人申告登記をしますけれども,Aのみを相続人であるというふうに記録するものですかね。それとも,その文書を見るとBCも相続人であることが登記官にとって顕著であるときに,BCを書いてあげることはしないという扱いを前提に今の議論がされたように聞こえましたけれども,そのようなイメージで今の制度を考え込んでいこうとしていますか,という確認が1点と,それからもう一つは,仮にAのみを書くという扱いのときに,これから登記官のところに行こうとするAに,BとCが自分たちが忙しいから一緒にそれ申請しておいてくれないか,と求めた場合には,代理権限証明情報さえ出せば,AがA自身及びBの代理人兼Cの代理人としてABCを記録する相続人申告登記の出をすることは可能であるという理解でよいか。まだ制度の具体的な姿を考え込んでいない段階かもしれませんけれども,現段階で何かお感じになっていることがあったらお教えください。
○村松幹事 現状考えているところでは,いずれも御指摘のとおり,両方ともイエスという答えになると思います。Aだけが申告登記では名前が出る。Aさんからの申出なので,Aだけを出します。また,BCも併せて代理が,業ではないケースにおける代理ですけれども,代理自体はもちろん認めて構わないだろうと思いますので,そういうものは一般論としては想定しているところです。
○山野目部会長 佐久間幹事,お話をお続けください。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
2点目については,特に申し上げることはございません。
1点目についてですけれども,村松幹事がおっしゃったことについては,理解はいたします。しかしながら,私はやはり違う考え方を持っておりまして,相続人申告登記というのは確かにお手軽でよろしいと思うのですけれども,それさえしておけばいいんだというイメージが定着いたしますと,更に一層権利の登記がされにくくなるのではないかと思います。
ですから,繰り返しますけれども,過料については相続人申告登記をした方については科さないということはあると思いますけれども,そうであっても,権利の登記はしなければならないんだと,結局その部分は訓示規定にしかならないのかもしれませんけれども,そこは残すべきではないかと私は思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事の御意見の趣旨はよく理解いたしました。御意見を念頭に置いて検討を進めることにいたします。
説明の仕方が苦労を要する部分がございまして,国民に対して過度な負担を強いるものではありませんよ,御安心くださいという観点からアプローチしていきますと,相続人申告登記さえしてくれれば,義務はすっかりきれいに果たされたことになりますという口ぶりになりますし,反面,国民に対して相続による権利変動があったら,きちんと登記をしてくださいという方向で国の制度を運用していきますから御協力くださいということを呼びかけていくという見地からいうと,たやすく義務はすっかり果たしたことになるという説明では誤解を招きます,ということもそうなのでありまして,規律の表現を法制上どのようにするかという点とともに,そこのところについての言葉の選択が国民に対してどのようなメッセージとして伝わっていくかということに留意しなければなりませんから,ただいま佐久間幹事と村松幹事との間で意見交換があって,そこで出された観点がいずれも重要であるというふうに受け止めながら検討を進めてまいるということにいたします。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
企業実務の観点から申し上げますと,これは従前の部会でも申し上げてまいりましたとおり,やはり実際に用地管理,用地取得の実務を担当している立場から見ると,正に今回の御提案の第1の1の(2)で示されている登記所が死亡情報を不動産登記に反映させてくれるという仕組みですね,符号であったとしても,それが分かるというのは,最初の段階で,用地関係業務の初動でどう動くかというところで,非常に有り難いというか,非常に有益な制度なのではないかと思っております。
あともう一つが,正に相続人申告登記でございまして,これも実際に誰が動いているか,実際に相続人の立場にあるということを認識しておられるかということが真っ先に分かるという意味では,その土地に利害関係を持つ立場というか,その土地に対して関心を持っているという者にとっては,非常にそういうのがあると有り難いというところはあるかと思います。これは正に村松幹事が先ほど強調されていた点で,企業の実務にとっても非常に有益な制度になるのかなと思っているところです。一方で,今気になるところがあるとすれば,部会資料18ページのところにございます,施行時に所有権の登記名義人が死亡しておられる場合にどうなるかというところです。これも従前からいろいろ質問等はさせていただいていたところなんですが,やはり今一番実務で問題になっているところというのが正にここでございますので,これに関しては過料制裁とかを科すのはさすがに酷であるというのは非常によく理解できるところではあるんですが,一方で,これがそのまま放置されていると,新しい制度を作っても効果が半分になってしまうのかなというところはございますので,せめて誰か一人でも相続人が申告するようなインセンティブが出るような形で何かやっていただけるとよいのかなと思うところはございます。また,先ほどからいろいろ御懸念というかご指摘が他の先生方から出ているとおり,相続人申告登記で止まってしまう場合というのも考えられるのかなと思うところで,それがいいというわけではないんですが,現実問題としてそうなったときに,例えば登記所が死亡情報を反映させるという仕組みの中で,相続人申告登記にも符号を付けてやるということは想定されているのかどうかというところは,最後に確認をさせていただければと思っております。
というところで,制度としては非常にすばらしいものができつつあるなと思う一方で,細かいところではまだもう少し詰めていくべきところがあるのではないかというところで意見を申し上げた次第です。よろしくお願いします。
○山野目部会長 藤野委員から頂いた御意見は受け止めました。
それから,御疑問として御提示いただいたことですが,お示ししている部会資料では死亡情報を入手したときには所有権の登記名義人の死亡に係るものについて,それと分かる符号を付するということになっておりますけれども,相続人申告登記によって相続人であるという記録がされたものについて,類似の符号処理を考えるのかというお尋ねがありました。事務当局からお願いします。
○村松幹事 申告登記をされた方が亡くなられたという状態になったときに符号を付すという施策を講ずるかどうか,これはまだ実はこちらとしても検討中でございます。ニーズが一定ありそうだなとは感じておりますけれども,他方で,またそれだけ登記所側の負担が増えてまいりますので,そういったところができるかどうか,そこはちょっと検討したいと思っておりますが,ニーズの御指摘は承りました。
○山野目部会長 藤野委員,よろしいですか。
○藤野委員 はい。連携可能なのであれば,というか,正式な登記がなされないことを前提にシステムを作られるというのはなかなか大変かなとは思うのですが,ニーズとしてはございますというところは,改めて申し上げます。
○山野目部会長 ありがとうございました。
國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。
今回のこの不動産登記法の相続の義務,そして登記所における検索用情報を取得するというようなところについては賛成でございます。この事案の発端が,やはり所有者不明土地問題というのが大前提で,簡単に言いますと,登記所のデータだけでは所有者が発見できないというところからスタートしているんだと思います。その所有者を探索するなり特定するための情報を登記所が多く取得するというのが,外国人の問題もありましたけれども,非常に重要だと思っております。
その中で,相続登記の義務化ですけれども,今,相続申告登記等の御議論がありましたけれども,やはりこれ相続登記が大前提なことには変わりがないのだろうと思います。ちょっと情報的に私どもも例えば相続が発生した段階で現時点でどのくらいのパーセントで相続登記がされていないのかという情報は持っておりませんけれども,通常であれば,例えば売買であるとか,それから敷地なりを有効利用しようとすれば,当たり前のように相続登記をするんだろうと思うんですね。それがないという大前提として申告登記をするんだということだと思います。
ですので,そうであるならば,やはり基本は国民の皆さんに発信するのは,相続登記が当たり前ですけれども大前提にあるんだと,その中でどうしてもやむを得ずそれができない場合において初めて申告登記をするということを,大きな声でというか,啓蒙していただきたいと思います。
ですので,この過料については,どうしても義務を課すのであればやはり過料が必要なんだろうと思います。表示に関する登記の義務化の問題でも,それほど我々の表示に関する登記を実務としてやっている者について,過料という問題については特に問題になることはないのかなとは考えております。
あと,表題部所有者については,この後一括していろいろなところで議論をしていただくということで,また継続して是非お願いしたいと思います。
○山野目部会長 あまり過度に図式化してお話しすると,単純化のし過ぎであるというふうに叱られてしまいますけれども,伺っていて,司法書士会は過料に冷淡で,土地家屋調査士会は過料に慣れているという構図を頭のなかで描きました。ありがとうございました。
○山本幹事 非常に細かい点を一つだけ御質問したいと思いますが,23ページから24ページにかけてのところに,今話になっている相続人申告登記について,申請の仕組みによらないと書かれています。初めの方に書かれていることは理解いたします。権利の登記のような手続ではなく,もっと簡易な手続によると。それからそこで審査される内容に関しても,客観的な事実に関わる問題であるということです。
ただ,その次のところで,申出という仕組みを設けることとした場合,またと書かれているところですけれども,これは,申出というのは一種の届出であって,届出の後に職権で処分が行われるというイメージかと思ったのですけれども,そうする必要があるのでしょうか。基本的に申請のスキームでその後の通知であるとか不服申立て等の手続を考えてもいいような気がいたします。
例えば納税申告の場合などと違って,単なる義務であるだけではなく,やはり自分の情報を表示してもらうという言わば権利としての面もあるのではないかという気がいたしまして,そうだとすると,基本的な仕組みとしては申請と考えて,ただ簡便な手続にするとか,通常の権利に関する登記とは違う手続にするというやり方もあるかと思ったのですけれども,ここであえて非常にはっきりと特別な手続を考えると,5の直前のところで書かれているのは,やはりこうでないと法制上はまずいということがあるのでしょうか。
○山野目部会長 どうして申出で職権ですか,というお尋ねに対して,事務当局からお願いします。
○村松幹事 恐らく山本幹事がおっしゃいましたように,これは広く見れば申請に対する一種の応答の部分があるという整理になってくると思います。ただ,登記官側での主体的な判断事項もあるだろうしというところで,申出というものが一応あり,それをキックオフにして更に登記官側での行動があっての登記に至るのだという,一応その2段階の整理ということにした方が,整理としては整っているのではないかとは考えたところです。
広い意味で申請応答型であるのは恐らく間違いないので,恐らく権利としての側面も,おっしゃるように当然ございますので,その部分について申請型の行政処分としての不服手続というのをある程度想定しながら,登記としての手続も作るということになりますけれども,不動産登記法の中での従前の申請というものとの差異を付けつつ,しかし登記官側の作用というのが普通の不動産登記の申請とは違う部分がやはり残りますので,そこの部分については差をつけて整理をした方が,今後の各所への説明がしやすいのではないかなというところを考慮してございます。
また,ここの辺りは法制的な整理もありますので,もしかするとまたちょっと形を変えてというところはあるかもしれませんが,実質としてはそういうところを考えております。
○山野目部会長 山本幹事から御懸念というか疑問として御提示いただいたことを,ただいま村松幹事からも御案内申し上げたとおり,引き続き検討してまいります。改めて考えてみますと,申請に対して登記官が却下するか認容して登記を実行するかという手続構造ではなくて,申出を職権発動のきっかけとして構成するという現在お示ししている相続人申告登記のこの法的構成をとったときには,申請とどこが異なるか,あるいはどこが違ってくる可能性があるかという問題について,気付く範囲でも幾つか気になる点はあります。
二つ申し上げますと,一つは不動産登記手続に内在的な問題ですけれども,申請がされてそれを登記官が認容したときには,登記が完了した後で登記完了証を当事者に対して,つまり申請人に対して与えるということが現在の不動産登記に関する法令の規律であります。それを申出にしたときには,現在の不動産登記規則の法文上は,登記完了証を出すということには当然にはなりませんから,もし同じ解決をとるとすれば,不動産登記規則の関連する規定を見直す必要があります。
それからもう一つ,今度は行政手続との関係においては,権利に関する登記であると表示に関する登記であるとを問わず,現在の制度の運用は申請がされたのに対して登記官が拒む,却下処分をするということになりますと,これが行政処分になります。行政不服審査請求の対象になるのみならず,行政事件訴訟法に基づいて抗告訴訟を提起して,取消訴訟や,場合によっては義務付けを請求することが可能であるという理解で運用されておりますが,それが申出をきっかけとして職権でするという構成に変えたというか,そちらを採ることによって,行政救済法の適用との関係で何か違いが生ずるか,あるいは生じないかといったようなことを検討してまいらなければなりません。
反面において,申出をきっかけとして登記官の方でしてあげるという言い方が適切かどうか分かりませんけれども,国民に過度な負担をかけるのではなくて,登記官の方が職権でいわば国の給付,サービスとして,してあげるという構成によった方が,相続登記を励行してくださいというムーブメントの関係からいうと,国民に親しんでもらうものとしてメッセージを伝えることができるという側面があるかもしれません。そのことの延長ですけれども,例えば橋本幹事から問題提起を頂いたように,登録免許税を課するという取扱いを相続人申告登記についてするのは,政策的には問題があるとも感じられますから,登記官が職権で登記をするという整理もあり得ると考えられます。
そういったことを考えると,していることの実質は同じですけれども,届出を契機として相続人を登記簿に記録するということは同じで,考え方の整理はどちらでも中身は同じだからいいではないですかというわけにはいかなくて,細かく考え始めると幾つかの論点がございます。山本幹事から問題提起を頂いたことなどをきっかけとして,制度として整えるまで検討を続けてまいるということにいたします。
○松尾幹事 この相続人申告登記と権利の登記としての相続登記との関係について,部会資料38の11ページの(注1)で,相続人申告登記の申出をすれば,相続登記等の代わりになるということなんですけれども,両者の関係を考えてみたときに,完全に代替するというよりは,相続登記についてはいろいろ遺産分割も時間がかかるだろうから,それはすぐにはできないという事情もあるかもしれないけれども,とにかく相続が発生したということについては知らせてください,その後できるだけ早く遺産分割をして相続登記をしてくださいというのが制度趣旨なのではないかと思います。そうすると,相続人申告登記さえすれば,完全に相続登記に代替してしまうというのはちょっと本来の制度趣旨ではないのかなと思います。
そうであるとすれば,申告期間について,相続による権利取得の事実について知ったときから1年,3年,5年とありますけれども,これらについても相続人申告登記の方はもうちょっと短くするとか,それと本来の相続等による取得の登記とは必ずしも同じにしなくてもいいのではないかという気もいたします。
相続人申告登記は例えば1年以内とか,あるいは6か月以内とか,早くやってもらって,そうすれば相続登記の方は本来3年が5年になって,それで遺産分割の準備に入ってもらうというような運用はできないものかどうか。期間についてまで全部同じにして,相続人申告登記で代替できますよというと,先ほど佐久間先生からのお話もありましたけれども,何かそれで終わってしまうのではないかという気もして,相続人申告登記と相続登記がつながっているということについて,もう少し制度的にこの両者の関係をうまくつなげられないかという気がいたします。
○山野目部会長 松尾幹事がおっしゃるのは,飽くまでも一つの例でありますけれども,例えば相続登記の義務付けの本則の期間を5年と定めておいた上で,1年以内であれば相続人申告登記をすることにより過料の制裁は免れることができますというような組合せがあるものではないかというアイデアを提供してくださったというふうに受け止めます。アイデアを頂きました。
その場に立った相続人が,何と言ったらいいでしょう,人間行動分析というのですかね,どういうふうに動いてくれるんだろうかということを幾つかシミュレーションしてみないといけないということが委員・幹事の御発言を幾つか伺っていて感ずるところであります。
今の松尾幹事がおっしゃったことを一つの何か楽しいアイデアであると感じたとともに,そうすると,手っ取り早く,素早く動く人は1年以内に取りあえずもう相続人申告登記をやってしまって,あとは知らないよとなってしまう可能性もあるし,そういう方向を助長するとすると,多分松尾幹事やしばらく前に佐久間幹事がおっしゃったことの本意には反するし,いや,そういうふうに動く人ばかりではないですよというふうな実態予測が得られるならば,御指摘いただいたようなアイデアが一つの有力な案になってまいりましょうし,今の御意見をきっかけに,また様々な想定を考えて,検討していかなければいけないということを感じます。
○村松幹事 今の点でお話を伺っていて,想定をというところなのですけれども,何となく事務局として松尾幹事のおっしゃった観点で考えていたのは,1年,3年,5年と書いてありますけれども,恐らく我々からすると1年という短い期間で①の部分とかは整理をした上で,ここから先は,今は資料上は両論を掲げていますけれども,(注1)のただしの傍線のところですね,そちらの方でもう一度義務を課すかという点が挙げられていますが,お話を伺っているとこの再度の義務というのが一番近いのかなという気もいたしました。遺産分割が終わったら遺産分割による相続登記を義務としてやっていただきましょうというふうに言うのかどうかというのは,本当に両論,今日も意見がそういう意味では出ているようなところがあるような気がしておりますけれども,これは本当になかなか事務局としても,さあどうしたものかしらというところが非常に難しく,まだ決定的に何かというところがないなと感じておりますので,また引き続きここはよく検討したいと思っています。
○中田委員 いずれも細かい御質問だけでして,結論に結び付かないことなんですけれども,3点ございます。
一つは,過料ですけれども,これは筆ごとに科されるという理解でよろしいでしょうか。
それから2番目は,過料に処せられた場合にそれに連動するサンクションというものが何か実際上あるんでしょうか。
それから3点目ですが,法定相続分の相続登記を第三者が代位によりしたという場合には,これは相続人は義務を履行していないという状態になると思うんですけれども,そうすると,遺産分割を一定の期間内にしなければいけないということになるのかどうか。以上3点お教えいただければと思います。
○村松幹事 1点目については,正に運用の問題になってくるかと思いますけれども,概念的には筆ごとという理解になろうかと思いますが,実際過料の制裁をどのような金額で科すということになっていくのかという部分については,必ずしも掛け算というものでもない,そういう運用があるのではないかなと考えておりますが,まだここは議論が必要かなと思います。
それから②について,過料の制裁を受けた上で更に何か過料の制裁を受けたことで追加的な不利益が課されるかということの御質問だったかと思いますけれども,我々としてはそういったものは特にないのではないかと思って立案はしております。もしかしたらちょっと見落としが何かあるのかも分かりませんが,特段そういうものはないのかなと思っております。
それから,代位の形で法定相続分での相続登記がされるケース,確かにございます。そのケースについては,自分でしたものではありませんけれども,本人がしたものと同じように扱うということで義務は果たされていると見るのかなと,むしろそちらの方で考えておりました。
○山野目部会長 中田委員,お続けください。
○中田委員 ありがとうございます。
第3点について,書き方だけの問題だと思うんですけれども,11ページの(注1)のところでは何か自分でしたというように読めたものですから,もしそういう御趣旨であれば,それを明らかにしていただければと思います。
それから,第2点については,これは全く私,知識がないのでお聞きしているだけなんですけれども,何か過料に伴う社会的なといいますか,あるいはほかの制度との関係で不利益があるのかないのかということが,実はこの後の問題でも出てまいりますので,お教えいただければと思った次第です。しかし,今のところは,追加的な不利益がないだろうということでしたので,それを前提に考えてみたいと思います。
ありがとうございました。
○山野目部会長 中田委員からお尋ねがあったうちの1点目は,あまり考えられていなかったことであるとは感じますし,現実に部会資料でも過料通知を現実にするのは慎重な運用を想定しているということで,そこで何と申しますか思考停止になっていたものであろうと考えますけれども,現在の規律表現で法文が書かれた場合の形式論理を言えば,筆ごと,筆ごとというか,厳密に言うとこれは建物も入りますから,1個ごと又は1筆ごとについて,過料は刑法上の犯罪ではありませんけれども,犯罪構成要件の考え方になぞらえて言えば一罪が成立するという理解になるものでありましょう。ただし,これは元々行政上の秩序罰である過料に関して,刑法総論的な思考を緻密に当てはめていろいろな議論がされるということの蓄積が恐らく今までなかったであろうと思うのですね。
例えば,刑法でいえば併合罪の関係になるような場面について何か特別の操作をするかとかいったような議論がないまま今日に至っていて,100筆の土地を持っている人が不動産の相続人の登記を怠ったら,例えば5万円掛ける100の過料を科せられることになるか,そうではない何らかの調整はあるかといったようなことは,一つの理論上の宿題であるかもしれません。いずれにしても,非常に謙抑的に発動していきますという部会資料の御案内と併せて,また中田委員においても御検討いただければとお願いします。
2点目で御指摘いただいた事項は,村松幹事から御案内したとおり,私も今思い起こしておりますが,懲役刑などに処せられたときに何々の資格を奪われるとかという場面は,中田委員も御存じでいらっしゃるように幾つかの場面でありますが,過料に処せられると何とかという場面は,あまり記憶の範囲ではありませんね。しかし事務当局においてなおきちんと調べておくということはもちろんでございます。
代位に関しては,考えられている解決は,村松幹事の方から現段階の事務当局の考えを御案内しましたから,中田委員から御注意いただいたように,それを規律として表現していく際に注意をすることにいたします。
○佐久間幹事 すみません,もう一度申し上げるまでもないのかもしれません,もう終わりかけたのに申し訳ありませんが,先ほど村松幹事がおっしゃった事務局としては,何でしたっけ,相続人申告登記がまず例えば1年以内にされて,その後,例えば更になのか,相続開始時からなのかちょっと分かりませんが,5年程度以内に遺産分割の登記がされる,それを義務化するんだということなのかなというふうにおっしゃったように思うんですが,もし私が今申し上げたことが理解として間違いでなければ,私はそれがいいと思っておりまして,そうすることが中田先生が3点目で確か少し言及されたと思うのですが,遺産分割の義務化というんですか,遺産分割の促進にも資するということになると思います。ですので,この11ページの(注1)の下線部のただしのところの検討を是非進めていただきたいと思っております。
○山野目部会長 承りました。
ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
それでは,相続登記の義務付けまでのところの審議は,今日頂いたところを踏まえて議事の整理を続けることにいたします。
本日お届けしている部会資料の38は,御審議を頂きました部分に続けて,相続に関する登記手続の簡略化という問題提起を差し上げています。これについては,(1)といたしまして,遺贈による所有権の移転の登記の登記手続の簡略化として,相続人を受遺者とする遺贈に関して,不動産登記法60条の規定とは異なり単独申請を許容するという方向での方針を打ち出しているところでございます。
それから,(2)として法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化というお話でありまして,先ほど佐久間幹事にも話題にしていただいた局面でありますけれども,一旦法定相続分による登記がされた後で遺産分割などによる権利変動があった際の登記を更正の登記によっていたさせるということはどうかという提案を差し上げておりまして,より詳しく申し上げれば,部会資料の30ページでございますが,30ページの上の方に太文字で①から④と示しているこのいずれについても,権利に関する更正の登記で処するという解決を考えたいという方向を示しており,これについてどのように考えるかというお尋ねを差し上げているところでございます。
あわせて,30ページの一番上には不動産登記実務の運用により対応するという前提で,不動産登記に関する法令の,取り分け法律の改正はしないという前提での構想を示しているところでありますけれども,考え方によっては法律改正によって問題を扱うということもあるかもしれません。いずれにしても,委員・幹事におかれては,①から④の全体を見て御意見を仰せいただきたいと望みます。あわせて,①から④のうちの③及び④については,一旦登記名義人となった者に対する通知を登記官からするという一種のサービスを付加して丁寧に進めるということも考えられるところであり,そのようなことまでする必要があるかどうかということの問題提起も添えてございますから,こちらも意見をおっしゃっていただきたいと望みます。
部会資料の32ページにまいりますと,一番下のところでそれとは異なるお話として所有不動産目録証明制度,仮称でございますが,その創設について中間試案で提示していたものと骨格を同じにするものを提示してございます。補足説明も含めますと37ページの第2の手前のところまでになりますけれども,この範囲で委員・幹事の御意見を承るということにいたします。いかがでしょうか。
橋本幹事,お願いします。
○橋本幹事 ありがとうございます。
まず,3の(1)ですが,これについては弁護士会としては異論ありません。
(2)なんですが,①から④について,更正登記で単独申請という方向性については異論がないんですが,実務の運用で対応するという点については,反対というか,いかがなものかと,なぜそういうふうにするのかという真意をお尋ねしたいんですが,やはり共同申請原則の例外を広く認めるということになりますので,そこは法文で明示すべきではないかという意見が強いものがありました。
それと,この③④についての32ページの4の上に書いてある(注)ですけれども,これはその方向でやっていただきたいと考えています。
4もいいんですよね。所有不動産目録証明制度を創設するということについては,大きな異論はありませんでした。賛成方向なんですが,ちょっともう割り切るという政策判断と理解しますけれども,35ページ,36ページ辺りにこの目録証明書を第三者が取得する可能性について注意が必要だというふうに規律がいろいろ書いてあるんですが,他方において代理人による申請は排除されないという前提で考えられているので,そうすると,債権者が債務者に対して目録証明制度の申請の委任状を事前に取ってしまうというケースが考えられまして,それをやられるともう身も蓋もないというか,もうフリーで行ってしまうので,それはもう仕方がないという割り切りで制度設計をやらざるを得ないだろうなと思います。
更に言えば,我々弁護士は債権者側・債務者側両方の代理をやりますので,債権者側で代理をする場合には債務名義を取っていれば民事執行法の改正で取れるという立て付けですが,その前の段階で債務名義がなくても弁護士法23条の2による弁護士会照会制度によってこの証明書の情報を実質的に入手することができてしまうだろうという点もちょっと問題かなとは思うんですが,それでもこういう制度があった方がメリットは大きいかなと思うので,そういう点に注意しつつ賛成という意見です。
○今川委員 まず3の遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化ですけれども,現行,特定財産承継遺言は単独申請が認められています。相続人に対する遺贈というのは実質的には特定財産承継遺言と変わるところはないというふうに理解しております。
そして,特定財産承継遺言による登記は,戸籍事項証明書等に加えて遺言書を添付することにより登記の真実性が担保されているという前提です。相続人に対する遺贈の登記も同じように戸籍事項証明書プラス遺言書を添付して行うというものですので,単独申請を認めたとしても真実性の担保が劣るものではないというふうに理解をしております。
次に,一旦法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化ですけれども,本文の提案について賛成です。実務の運用によって対応していくということも含めて賛成であります。ただ,前提としては,運用でこれを認めるというのは,相続法の枠内での限定的な例外的措置なので,不動産登記制度の共同申請主義の原則を変更するものではないので,この取扱いが更に売買や贈与などの登記にまで手続簡略化の名の下で単独申請を許容するということは,あってはならないことだということは大前提であります。
それと,登記の目的を所有権更正とされた上で,所有権更正となると登記原因は錯誤というふうにセットみたいに考えられているのですけれども,今回,錯誤ではなくて①から④の態様に応じて,例えば①であれば遺産分割というふうにして,①から④までの意味が登記原因からも分かるようにしていくということについて賛成であります。
この更正登記についても非課税とすべきだろうと考えております。
④については,部会資料の一つ前に提案されているように遺贈による所有権の移転登記手続の簡略化が認められるということが前提となります。まずそこで簡略化が認められるとしたら,④について,法定相続分による登記がされた場合であっても,単独申請で認めてよいということであります。
補足説明の(注)ですが,③と④については他の相続人に対する通知をするということですが,司法書士会としては通知をする必要はないのではないかという意見が多いです。補足説明によりますと,前住所通知制度を参考にして他の相続人を保護するという観点からとあります。とすると,そもそも法定相続分による相続登記を経ていないで,遺言によって権利を取得した相続人が直接単独で申請を行う場合についても,他の相続人を保護する必要があるのかどうか,権利を取得しない相続人に対する通知を行うかどうかということを検討すべきということになってしまいますが,今までそのようなことは議論されたことがないし,必要性があるとは思えませんので,この③④の場合のみに通知をするということについては不要であるという意見です。
それから,ちょっと関連ですが,遺産分割協議を経た登記と,それから法定相続分による登記は,どちらも登記原因は「年月日相続」となりますので,非常に細かいお話になりますが,登記記録上からはその権利関係が遺産共有なのか,遺産分割協議を経た後の共有状態であるのかというのが分かりませんので,遺産分割協議前の法定相続分による相続登記なのか,遺産分割協議を経た後の相続登記なのかが分かるような登記原因というものも今後検討はしていただきたいと思います。
4の所有不動産目録証明制度ですけれども,これはもちろん賛成であります。
(注3)について,表題部所有者もやはり対象とすべきだと思います。システム上の難しい問題はあるのかもしれませんが,やはり表題部所有者も対象にした方がいいと思います。
(注2)に関して,今弁護士会さんの意見もありましたけれども,債権者からのプレッシャー等があるのではないかという点なんですが,これは本制度を置くということとはまた別に,検討していただくという補足説明になっていましたけれども,その方向でいいのではないかと考えております。
○山野目部会長 弁護士会と司法書士会から御紹介いただいた御議論の範囲で若干の議事の整理を差し上げておきます。
3の(2)の法定相続分で一旦相続登記がされた後の登記手続の簡略化に関して,両会からどちらも部会資料30ページの上の方の①から④の全てについて簡略化する方向に賛成であるという大筋の意見を頂きましたとともに,細部を伺うと,少し検討しなければいけないことがあります。
一つは,①から④の全体について,法制上の措置を講じて簡略化を明らかにするか,運用の見直しで処するのかということについては,異なる感覚の御意見の御披露を頂きました。橋本幹事に引き続き御理解を頂きたいことですけれども,御意見を理解するとともに,法文にちょっとしにくい面があって,つまり,例えば遺産分割でいうと今まで実務は圧倒的に持分の移転の登記でやってきていたところを今回は更正の登記に変えるものですが,変えるといっても従来の持分の移転の登記でやってきた扱いが,そうするのですよというふうに何か法律に書いてあったものではないし,確固とした先例があってそうなっているわけでもなくて,それが実務で普通であるということでしていたところを直そうするものでありますから,少し法文が書きにくうございます。この点は御理解ください。
ただし,①から④は簡略化する,という法文は書けないですけれども,①から④のことをするときには,更正の登記の申請権者はこの人であるというような書き方をする解決は,従来の不動産登記法の法文の書き方として不自然ではありませんから,御指摘,御要望も踏まえて考えてまいるということにいたします。
それから,③④について登記名義人への通知ということをするかどうかについて,弁護士会からお出しいただいた議論と司法書士会からお出しいただいた議論の方向性が,形だけ比べると一致しておりません。これは,引き続きこの通知の要否について,しかしどちらも伺っていると引き続き丁寧に考えてほしいという御趣旨だったというふうに受け止めますから,また事務当局において検討するということにいたします。
また,司法書士会からは,①から④をするときは当然非課税ですよねとおっしゃられましたが,ここ何もしないと1,000円かかると思いますね。1,000円をゼロにするという御意見であるかどうかも,御意見の趣旨を伺っていまいりたいと考えます。
それから,法定相続分で登記をした場合において,登記原因が相続になり,それから遺産分割した場合も直接それをすると相続になるから区別してほしいという実務上の需要のお気持ちは,しばしばその悩みを聞きますし,よく分かります。それをやり始めると,譲渡担保が登記原因だったときに実行された譲渡担保か,そうでないかみたいな区別もしてくれとか,いろいろ現場からはそういう声が上がってきていて,それをこの機会に事務当局において全部精査せよということも大変な話になりかねません。可能な限りで御要望の趣旨を受け止めて,検討を続けてまいるということにいたします。
水津幹事,お願いします。
○水津幹事 では,相続人に対する遺贈に関する登記手続の簡略化について,29ページの小括の上のところに述べられていることとの関係で,意見を申し上げます。
3(1)の規律の趣旨については,まず,次のような考え方をとることが考えられます。すなわち,特定財産承継遺言は単独申請ですることができるのに対し,相続人に対する遺贈は共同申請でしなければならないとするのは,両者の機能的な類似性を考慮すると,合理的でない。この考え方によるならば,相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記以外についても,その趣旨が当てはまります。そのため,この考え方によるならば,補足説明でも指摘されているように,不動産を目的とする所有権以外の権利の移転の登記についても,相続人に対する遺贈によるものについては,同様の規律を設けるべきであることとなります。そのほか,これと同じことは,船舶や自動車等といった登記・登録を要する動産についても,当てはまります。さらに,相続人に対する遺贈による債権の移転についても,民法899条の2第2項の規定に準ずる規律を新たに設けるべきであることとなりそうです。
これに対し,3(1)の規律の趣旨については,次のような考え方をとることもできます。すなわち,相続人に対する遺贈も,遺贈にほかならない以上,相続の性質を有する特定財産承継遺言とは異なり,原則どおり共同申請によらなければならない。もっとも,補足説明にあるように,不動産を目的とする所有権の移転の登記に限っては,相続登記の申請の義務化と併せて,所有者不明土地問題の解決を図るという観点から,その手続の簡略化を認めるべきである。この考え方によるならば,今回の提案のように,相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記に限って,新たな規律を設けるべきであることとなります。
相続人に対する遺贈による権利の移転を公示する手続について,これを一般的に簡略化する規律を設けないとするのであれば,前者の考え方ではなく,後者の考え方を基礎に据えることとなり,その結果,今回の提案が支持されることとなるように思いました。
○山野目部会長 水津幹事が理論的な観点から注意すべき点を御指摘いただいたことを理解いたしました。御指摘いただいたことは受け止めて,今後の検討の参考にするということにいたします。
水津幹事が直接おっしゃっていることではありませんが,そのことを発端として事務当局に対し念のため理解を確認します。相続人を受遺者とする遺贈を単独申請ですることができるというお話は,それはそれとして理由とか説明については多々御注意があったものの,大筋において委員・幹事から御支持を頂いているところでありますとともに,これはあれでしょうかね,単独申請でできるということであって,仮に共同申請でやってきたときに,何かそれを却下する理由はないような気がいたします。そこは,これは飽くまで理論的な問いであって,めったにそんなことをする必要はないと考えますが,そのことが1点と,それからもう一つ,遺言執行者が申請してくるときは,もちろん従前の実務どおりそれも許されるという理解でよいであろうとも感じます。この2点,いかがでしょうか。
○村松幹事 御指摘のとおりであると考えておりまして,共同申請でももちろん可能だという従前の枠組みを残した上で,追加的にといいますか,こういう形での単独での申請も認めると,申請の根拠規定を1個付け加えるような,そういう位置付けになろうかと思います。
○山野目部会長 水津幹事,お続けになることはありますか。
○水津幹事 とくにございません。
○山野目部会長 よろしいですか。
引き続き委員・幹事から御意見を承ります。いかがでしょうか。
○國吉委員 4の所有不動産目録証明制度なんですけれども,これも賛成でございます。これは,前回のときの議論にもお話をしましたけれども,特に,例えば都市部でもそうですが,いわゆる固定資産税等がかかっていないような,例えば都市部における道路内の敷地民有地などは,御本人も所有しているかどうかというのを知らない場合が多うございます。そうすると,やはり相続のあったときに相続登記漏れという状況が結構散見されます。そういったものを防ぐためにも,やはり個人というか,自己の持っている所有不動産がどれだけあるのかというのを客観的に判断できるというようなこういう制度を作っていただくというのは,所有者不明土地の解決についても非常に有益だと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
○山野目部会長 道路の端っこに長く細長い筆である土地って,困りますよね。ほったらかしにされることがよくあって。國吉委員が御指摘のとおり,この制度が設けられれば今よりは,劇的にそうなるかどうかは分かりませんけれども,関係者自ら気付いていただける可能性は高まりますね。御指摘ありがとうございます。
垣内幹事,どうぞ。
○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。
1点確認の質問で,今話題になっておりました4の所有不動産目録証明制度に関する点ですけれども,従前,中間試案の補足説明の段階で,債権者代位の取扱いについて記載がされていたかと思います。そこでは,債権者代位権の客体とはしないものとすべきであるという説明が見られたんですけれども,そうした理解というのは,今日の御提案でも受け継がれているという理解でよろしいのでしょうかということと,併せて中間試案の補足説明で破産管財人等についての言及があったのですけれども,それについては現段階ではどのような整理になっているでしょうかという御質問でございます。よろしくお願いいたします。
○村松幹事 債権者代位については,中間試案の補足説明どおりで対象にならないという前提で考えてございます。
また,破産管財人等を始めとする者については,引き続きちょっと今検討をしておりますので,また改めてお示ししたいと思います。
○山野目部会長 垣内幹事,お続けください。
○垣内幹事 分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
おおむね御意見を伺ったというふうに受け止めてよろしいでしょうか。
それでは,登記手続の簡略化及び所有不動産目録証明書の制度に関しては,本日段階で御意見を承ったという取扱いとし,お出しいただいた御意見を踏まえて引き続き検討をしてまいるということにいたします。
部会資料53をお取り上げください。構想される要綱案の第2部に当たる「不動産登記法等の見直し」に係る改正構想事項の全てをこの冊子に綴じてございます。内容が盛りだくさんでございますから,少し分けて御意見をお尋ねすることにいたします。
初めに,第2部の「第1 所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み」,この部分について御意見をお尋ねすることにいたします。部会資料で申しますと,補足説明まで入れますと11ページまでの範囲で御意見を承ることにいたします。いかがでしょうか。
○今川委員 第1の1(1)の所有権の登記名義人が死亡した場合における登記の申請の義務付けについてですが,①の義務付けについては,後で出てきます(3)の相続人申告登記の制度を創設して,その制度による申出をすることにより登記申請義務が履行されたことになることを前提として賛成を致します。また,同じように,相続人申告登記の申出により義務の履行を認められるということであれば,義務履行の期間を3年とすること,これは比較的短期ですけれども,それについても反対するものではありません。なお,義務化を導入するのであれば,是非登録免許税の軽減策を併せて導入されることを要望いたします。
次に,本文②の法定相続分による登記がされた後に,遺産分割があった場合に,更に登記の申請を義務付けるということについては消極意見の方が多いです。理由は,一つはまず,私的自治の原則に従うべきであるということ。関連しますが,売買や贈与その他の意思の合致による物権変動が生じた局面でも登記の義務化につながらないかという危惧があるということであります。二つ目として,そもそも不動産を含む遺産について分割協議を行うということは,それ自体,登記を前提としているともいえますので,あとは対抗関係の下での行動に任せていいのではないかということであります。三つ目の理由は,相続登記を義務とすることの理由としては,権利能力を失った者を公示し続けるのが不適当であると,こういう理由が大きかったと思います。そうであるならば,一旦法定相続での登記や相続人申告登記がされたということは,その後,遺産分割があった場合について登記の義務を課す必要はないのではないかということであります。四つ目として,このような規律を置くと,ある特定の不動産を除外して一部分割をするということも考えられるので,その実効性に少し疑問があると,こういう理由です。
ただ,一方で,本文②について,もしこのような規律を置くのであれば,3年は長いのではないかという意見もあります。遺産分割協議が成立していながら長期間申請しないという理由が見当たらないので,もしもこの制度を導入するのであれば,例えば1年以内ぐらいでもいいのではないかという実務の感覚からの意見があります。
それから,(注5)の改正法施行時既に所有権の登記名義人が死亡している不動産についての義務付けですけれども,本文①と同様に,義務発生要件に主観的要件が元々盛り込まれているということと,補足説明5の第1段落で説明されているように,既に登記名義人に死亡が発生している場合についても相続人申告登記の申出をすることで義務履行を認めるということを前提とされているとするのであれば,賛成であります。また,義務履行の期間を3年とするということについても,先ほど述べた理由によって反対するものではありません。
(2)の相続登記等の申請義務違反の効果ですけれども,過料を科すということについては消極な意見の方が多いです。理由は,過料が科されているということで登記申請行動に結び付くのかどうかというのが我々の実務の感覚からして疑問であるということ,それから,正当な理由がないのに申請を怠ったことを登記官が判断するということになるのですが,補足説明にあるように,違反していることを職務上知る場合というのがどれほどあるのかというのが疑問であるという実効性の観点からの消極意見であります。それよりも,登録免許税の軽減等のインセンティブを与える方法によって義務化の実効性を持たせていく方がよいという意見であります。
それから,(3)相続人申告登記の創設ですけれども,これは賛成であります。ただ,④の遺産分割を行った際の登記申請義務については(1)で述べたのと同じ意見です。
幾つか,若干細かいところで質問があるのですが,補足説明2の6ページの最終行の括弧書きに,相続人に対する遺贈により所有権を取得した者についても,相続人申告登記により,登記申請義務を履行したものとみなすという表現があります。ということは,特定財産承継遺言によって取得したもの,さらには遺産分割によって取得したものについても,このようなケースは余りないかとは思いますが,規律上は相続人申告登記をすることによって義務を免れるということになるのですねという確認です。
それから,二つ目の質問ですが,これも同じく補足説明2の7ページの第2段落の8行目に,登記官は,所要の調査の上で,職権で登記を行うとあります。これは(注2)と関連するのですが,この所要の調査というのは,住基ネットとの連携を利用して登記名義人の死亡の事実を確認したり,被相続人の死亡時の住所を調査して同一性を確認するというような意味ですねという確認と質問です。つまり,この登記の申出をする相続人が,被相続人の死亡の事実や死亡時の住所を証するものを提供しない,あるいはそれが不足していたとしても,そのまま受け付けて職権で登記をしてしまうという意味なのだろうと思うのですが,その辺,お尋ねを致します。
それから,補足説明3の具体的な公示方法ですけれども,相続人申告登記については付記登記,そして,申出をした者が死亡した場合や住所又は氏名に変更があった場合には,付記登記の付記登記という形式をとることについては,今後,細部はまた省令等で定められることになるのだろうと思いますが,基本的にはそれでよいのだろうと思っております。そこで質問ですけれども,申出をした者について住所や氏名に変更があった場合は,その変更の旨も申出をさせるのか,申出をさせるとしたら,これを義務化の対象にするのか,それから,現時点ではこの申出をした者の住所,氏名の登記については住基ネット連携の対象には直ちにはならないのですねという確認であります。
それから,これは申出に基づき職権によって登記をするという仕組みなので,手数料等も掛からないのですねという質問と,それから,これも同じ補足説明2の7ページの第2段落に,管轄区域外の不動産についても最寄りの法務局で申出をすることができるようにすることを検討するとありますけれども,これは当事者の負担を軽くするためにも,是非そのような制度としていただきたいという要望であります。
それから,補足説明3で,相続人申告登記の申出をした者が死亡した場合に,登記官が職権でその者の死亡の事実があったことを示す符合を表示するということについては,すぐに実現することは困難であると説明されていますが,それは理解します。ただ,将来においてはデジタル化を進めて,この申告登記についても,ほかのネットワークとの連携を図るような改善はしていただきたいという,これも要望であります。
それから,(4)について,遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化については賛成です。
(5)の法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化についても賛成です。ただ,(注)については消極な意見が多いです。この点については部会で何回か意見を述べさせていただいておりますが,(注)の提案は,所有権の登記名義人となっている他の相続人の保護の観点から,必要に応じて仮処分の申立て等の所要の措置を講ずる機会を与えることが目的であるとされていますが,その趣旨に反対するものではありません。
ただ,消極である理由として,一つには,法定相続の登記を経ずに最初から特定財産承継遺言に基づく相続又は相続人に対する遺贈の登記の申請をするときには,他の相続人に対しては何ら通知はされません。二つ目として,登記手続以外の局面ですが,自筆証書遺言は検認等の手続の場面で他の相続人に対して通知されますが,公正証書遺言の場合はそのような通知もなくて,登記がそのままされてしまうということであります。これ自体,よくないと言っているわけではないのですが,そういうふうな制度になっているということです。それから,三つ目の理由として,例えば,多数存在する相続人の1人が保存行為として全員のために法定相続分による登記をする場合,そもそも法定相続分による登記はほとんどがこの場合だと思います。ある1人の相続人が,保存行為として全員のために法定相続分による登記をした場合,この法定相続分による登記をしたこと自体が登記申請を行った相続人以外の相続人には通知もされません。そのため,登記名義人になった認識すらない相続人がいるということであります。以上のことから,相続人の保護を図ること自体は否定しないのですが,バランスを考えると,仮に他の相続人が所要の措置を採る機会を失わないようにするための方策を検討するのであれば,登記の局面だけでなく,相続法において実効性のある方策を検討すべきではないのかというのが意見であります。
それから,これは少し司法書士として細かい要望になりますが,中間試案の補足説明の中で,この本文における更正登記の登記原因については「遺産分割」とするというような説明がありました。これは維持していただきたいと思います。加えて,法定相続分による登記と,法定相続分による登記を経ないで直に遺産分割協議による登記をした場合の登記原因が同じなので,遺産分割協議を行っているのか否かが登記記録上判然としないという課題があります。今後は,この部会での議論ではないかもしれませんが,登記原因についても見直しを検討していただきたいと要望いたします。
それから,2の権利能力を有しないこととなったと認めるべき所有権の登記名義人についての符合の表示ですが,これは賛成であります。
第1については以上です。
○山野目部会長 司法書士会の意見を取りまとめいただきましてありがとうございました。お尋ねがあった点を中心に,事務当局から回答を差し上げます。
○村松幹事 幾つか御指摘,御質問を頂いておりますけれども,まず,6ページの一番下の辺りというところで,遺贈により所有権を取得した者についても,申告登記によって申請義務を履行したものとみなすと,これはゴシックの方で書いてあるとおりの文言になっています。実体的に遺言がされているとか,あるいは遺産分割がされているとか,ありますけれども,後に取り消されたりすることもあるということも含めて考えますと,幅広く申告登記で義務が免除されるという形にする方がよろしいのではないかということで,この部分はそのように全般的に記載しているものですので,御質問の点については,そのとおりだということになろうかと思います。
それから,申告登記について,今回,職権的に行うという表現に全般的にしていますけれども,申出をしていただくけれども,その後の,あるいは全体の手続としては職権登記という側で基本的には整理するという新しい仕組みを設けています。この部分については,資料の中にも書いておりますけれども,添付書面に関して,なるだけ省力化したいし,あるいは今後の技術革新というと言葉は強いですけれども,様々なデジタル的な連携が進むごとに,あるいは法務局側でのマンパワーがあるのであれば,できるだけ申請人の負担を軽減するという施策を引き続き検討していきたいと思っておりますので,その意味で,所要の調査の内容というのもできるだけ減らせるようにというのが含意であります。そこから先,どこまで減らせるかというのは引き続き省令の中で具体的には考えていきたいということを,施行時まで若干の時間がありますので,またその間の状況の変化も見ながら考えていくことを予定しております。調査が必要な事項については従前から申し上げているとおりですし,今の御指摘が前提の話になっているかと思っております。
それから,付記の関係で,付記登記で結局,申告された相続人の名前が入ってくるということになっておりますけれども,この関係で,相続人申告登記がされた後の住所,氏名の変更は認めるのだろうとは思っております。問題は,それが住基との連携の対象にできるのか,あるいは,住基との連携の対象にできるのであれば,また職権的にここも変更していけるのではないかという部分がございます。この部分,全体的には職権登記の世界の中の話ですので,ある程度,省令の中で,これもまたコントロール可能かなと思っておりますが,実際のところ,住基との連携がこの部分について可能かどうかについては,まだこちらの側ではシステム面を含めて精査中という状況です。基本的には,ますは所有権の登記名義人について,こういった施策をしっかり講じていくのが前提で,しかし,次の段階といいますか,同様のニーズがここの部分にもあるということは認識しておりますので,そこは問題意識を持っております。ただ,まだ現状では,結局,システム開発の規模が,ここも入れるとなると,膨らんでくるところがありますので,問題意識は持って取り組まなくてはならない,そういう課題だというところになっております。申し上げたいのは,必ずしもここを法律事項にしておかなくても対処は可能なものではないかとは感じているのですけれども,そういったところでこの部分は考えております。
○山野目部会長 村松幹事に一つ補足ですけれども,相続人申告登記において記録された氏名,住所のうち住所に変更があったときの申請が義務付けられるかという司法書士会の御疑問があったと聞きました。この部会資料の構想は義務付けられないということであろうと理解していますけれども,いかがですか。
○村松幹事 おっしゃるとおりであります。
○山野目部会長 ありがとうございます。山田委員,お待たせをいたしました。
○山田委員 ありがとうございます。簡単な質問で,申し訳ありません。意見というよりは,どういうことでしょうか,こういうことでしょうかというような質問を差し上げたいと思います。
第1の1,相続登記の申請の義務付けに関わることであります。ずっと議論してきたことですし,このような方向で具体化していくことについて賛成という立場を最初に表明した上で,質問をさせていただきます。
どういうことかというと,共同相続で複数の相続人がいると,遺産分割は行われていなくて,法定相続分どおり登記をすることになる,それが義務付けられるということになります。①の一番中心的な例であります。直前の御発言の中にもありましたが,保存行為として位置付けられますので,A,B,C,3人,共同相続人がいた場合は,その中の誰か1人が申請をすれば,相続を原因とした登記が法定相続分どおりで実現すると理解しております。そうすると,1の(1)の③の,前記①及び②の規定は,代位者その他の者の申請又は嘱託により,当該各規定による登記がされた場合には,適用しないとありますが,これが働いて,Aが単独で申請して登記がなされれば,BとCはこの規定に基づいて義務を免れることになると,そういう作りになっていると理解をしましたが,それでよろしいでしょうかというのが質問です。その質問に限りますので,申し訳ありません,お教えください。お願いします。
○村松幹事 山田委員御指摘のとおりでございまして,代位者その他の者の申請と書いておりますけれども,この部分で今の御指摘のあった部分は読むことになろうかと思っております。A,B,Cといて,Aが保存行為として法定相続分での所有権の移転の登記の申請をしましたら,B及びCの名前が入っていますので,BとCについても義務は履行されたものとなるということでございます。
○山野目部会長 山田委員,いかがでしょうか。
○山田委員 分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 どうもありがとうございます。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。まず第1の1,つまり相続登記等の申請の義務付けに関して発言をさせていただきます。
原案に一応というか基本的に賛成であるということを申し上げた上で,先ほど今川委員がおっしゃいました反対意見に対して,今までも同じことを言ってきており,繰り返しになるのですけれども,いや,それは違うと思うということを申し上げたいと思います。その上で,1点だけやや疑問に思うところがあるので,申し上げたいことがあります。
今川委員は先ほど,特に第1の1の②について反対であると,今川委員御自身が反対かどうか存じませんが,司法書士会としては反対の意見が強いということをおっしゃって,4点,反対の理由を挙げられました。私は,その反対の理由はいずれも必ずしも妥当しないのではないかと思っています。それらを個別に申し上げようとは思うのですが,結局のところ,この義務付けを何のためにするかというところで認識に違いがあるのだろうと思います。
特にそれを端的に表しているのが,今川委員が3番目の理由としておっしゃったことで,ここで義務を認めるのは,権利能力のない者が所有権を有しているという記録を残し続けないことですよねとおっしゃったわけですが,私はそうではなくて,所有権を取得した方が所有権の登記を積極的にする,登記を見れば所有者が誰かが分かるという状態を実現する,その方策としてこれを考えるということであろうと思っています。そうだとすると,では,どうしてこの場面でというのは資料の補足説明にも書かれておりますし,これまでもずっと述べられてきているとおり,売買等の場合には基本的に自己の権利を守るための権利者の主体的行動を期待することができると考えられるのに対し,今,義務付けが問題とされている場面では,必ずしもそうとは言い難い面もある,だからここを手当てするのだということだと思うのです。
今川委員は第1の理由として,ここでもし遺産分割などを入れてしまうと,売買等への拡張が心配されるのではないかとおっしゃったわけですけれども,この案は慎重に,そこは権利を取得した人が単独で登記の申請をすることができるという場面,ほかのところを工夫してですけれども,全部そういう場面に限って義務付けようとしているわけですので,売買の場合等に簡単に波及することにはならないと思います。
それから,第2の理由として挙げられた,これは私的自治に任せるのだということについては,いや,これは公共の利益を守るためだという側面もあるのだということも,これまで申し上げてきたところです。さらに,一部分割の助長をすることになるのではないかとおっしゃいましたけれども,しかし,その場面であっても,法定相続分による登記又は相続人申告登記は3年以内にしなければいけないというわけですから,登記名義に関して,あるいは登記記録に関して一定の手当てがされるという状態で,それ以上,誰に帰属させるかということをある土地について決めないというのは,もう致し方がないと割り切ることができるのではないかと思っています。したがいまして,ここの義務付けの趣旨が,所有権の登記がきちんとされることにしようということにあるのだと理解いたしますと,この提案は特段,問題を抱えているわけではないと思っています。
その上で,相続人申告登記の扱いについて,先ほどは1点と申しましたが,2点申し上げたいことがあります。一つは,先ほどの今川委員からの問い掛けに対して村松幹事がお答えになった,申告登記の場合,住所変更の義務付けはしないのだということなのですけれども,技術的に難しいということもあるのかもしれず,それはしようがないのかなとも思いますけれども,申告登記だけがされて,その後,結局,住所が変更されないままほったらかしになるということになりますと,登記を見ても所有者を追えない,簡単には所有者にたどり着けないという状態が残ってしまうことになりますので,何とかできないのかなと思っています。これが意見の1点目です。
もう1点は,申告登記でもって義務が履行されたとされる場合につきまして,それほどないのかもしれませんが,遺産分割が既にされた,相続開始時から3年以内にですね,あるいは特定財産承継遺言があるということも認識している,そういった場合に,そうであるにもかかわらず,当該権利者が申告登記しかしなかったけれども,それで義務が果たされましたとなると,何となく,まず申告登記がされ,その後に,遺産分割がされたとか,特定財産承継遺言があることが分かったというときと,バランスが取れないような気がします。権利関係を公示するのだということにもし趣旨があるとすると,ここは趣旨の捉え方に違いがあるということは理解しておりますが,そこに趣旨があるとすると,何だか,遺産分割が終わっていません,あるいは帰属が本当の意味では確定していませんというところでは,申告登記で置き換えるというのはなるほどと思うのですが,権利関係が既に確定しているにもかかわらず,申告登記をすればそれでオーケーですよというのは,制度の仕組み方として難しい点があるのだとすると,そこは何とも申し上げられませんけれども,受け取られ方としては非常に中途半端というか,権利の登記は結局無理にしなくてもいいのだよねと受け取られかねないように見えるのではないかが,少し気がかりなところです。
○山野目部会長 佐久間幹事から,合わせて3点を頂きました。後ろの2点,相続人申告登記に関する御提案を含む御意見については,引き続き検討することにいたします。
1点目でおっしゃっていただいた事項は,今川委員との論争に発展しつつあります。論争にニックネームを付けるとすると,2段ロケット論争とでもいうべきものでありまして,相続人申告登記がされ,又は法定相続分による相続による所有権の移転の登記がされた後,遺産分割があった場合において,当該遺産分割の成果を反映する遺産分割による登記を義務付けの範囲に含むかどうかという論点,この後ろの2段目のお話のところ,言うなれば2段ロケットのところを義務付けに含むかどうかということについて,ただいま今川委員と佐久間幹事との間に応酬がありました。
○橋本幹事 少し気が引けるのですけれども,弁護士会の意見状況を報告したいと思います。相続登記の義務付けの点については,中間試案の段階から日弁連としては消極な意見を申し上げてきたところです。ただ,そうはいっても過料の制裁も科さないものでは意味がないだろうという賛成意見を述べるところももちろんあります。なので,日弁連として一枚岩で反対ということではないのですが,依然として過料の制裁については反対であり,抽象的義務の限度にとどめるべきであるというのが現時点においても多数であります。
それで,仮に過料の制裁を課するとしてもなのですが,今,2段ロケット論争になっていますが,弁護士会としても②の点,それから(3)の④の点,この2段ロケット論争は少し行きすぎではなかろうかという意見が強い状況でした。政策パッケージとしてはここまでやらないと徹底しないというのは,それはそれで私は理解します。ただ,少しそれでは酷ではないだろうかというような心情的なところもありまして,そこについては消極であると。仮に共同相続についての登記義務で過料の制裁としたとしても,2段ロケット目は勘弁してくれないかということです。
それと,もう1点ですが,過料の制裁を課すについての運用については,通達で明確化すると,登記官が催告をしたにもかかわらず,正当な理由がないのに,やはり応じないという場合に限って過料の制裁を発動するというようなことが書かれていますが,この点については,過料の制裁を作る場合には,やはりしっかりと通達を整理していただいて,そのほか一問一答などでもしっかりこの趣旨を国民に分かるように広く啓発していただいて,不意打ちになるようなことがないようにお願いしたいと考えています。
それから,1の(1)の(注5)の点ですが,施行時から3年でどうかという問い掛けなのですけれども,3年ではやはり短いのではなかろうかと。恐らく既に亡くなっているケースに関しては,この施行時で一斉に義務が具体化する状況になりますので,この経過期間についてはもう少し長い期間が望ましいでしょうという意見が多数でして,更に少数意見としては,施行時に亡くなっているケースについてはそもそも適用すべきではないというような意見もありました。これは少数意見だと思いますが,そのような懸念を示す意見もありました。
それから,相続人申告登記ですが,④の点については,先ほど申し上げたように反対意見が多数であります。相続人申告登記を創設することについては賛成しておりますが,義務履行の効果をみなす範囲ですけれども,共同相続人のうちの1人が申告をした場合には,ほかの共同相続人についても義務履行があったとみなす効果を与えるべきではないかという意見がありましたので,御紹介したいと思います。
それから,(5)の点ですけれども,更正登記であるということについてはこれまでも賛成しておりましたが,前回,部会資料38のときにも申し上げましたけれども,これを不動産登記実務の運用により対応するということについては,前回の部会のときにも反対の意見を申し上げて,それを配慮したことを補足説明に書いていただいているのですが,やはりこの点については納得し難いという意見が多数の状況でありました。
第1関係は以上です。2に関しては,特に異論はありませんでした。
○山野目部会長 弁護士会の意見をお取りまとめいただき,ありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。岩井幹事,どうぞ。
○岩井幹事 ありがとうございます。部会資料53の7ページに,登記官が相続人申告登記の申出に対して応答しなかった場合には,その登記官の判断は処分性を有するとされているところでございますけれども,相続人申告登記の申出があったときには,登記官が職権で付記登記をすると制度設計されていることとの整合性をどのように説明するのかという点に疑問があるところでございます。
すなわち,現在の制度設計を前提といたしますと,相続人申告登記の申出は登記官の職権発動を促す行為と解されるところでございますので,この申出に単に応答しないという行為につきましては処分行為性を認めることができないのではないかという疑問があるところでございます。また,部会資料では,処分性を肯定する解釈上の手掛かりとなる規定を法務省令に置くことを想定されていると思われるところでございますが,処分性の有無の根拠となるような事項につきましては,本来,法律で定められるべき事項ではないのかという点も疑問のあるところでございますので,これらについて更に御検討いただければと思います。
○山野目部会長 岩井幹事から御指摘を頂きました。ありがとうございます。
御指摘を頂いた問題の側面の中には,行政事件訴訟法の解釈,運用に関わる側面が含まれていると受け止めます。本日この会議に山本幹事からやや遅参するという御案内を頂いているところでありまして,この後の山本幹事の御出席のタイミング等を勘案して,御出席になられた段階で,ただいま岩井幹事から問題提起をしていただいた事項について議論を再開したいと考えますから,しばらくお待ちを賜りますようお願いいたします。
ほかの点について御発言を頂きます。吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。相続人申告登記について若干の意見を述べたいと思います。
こうした公法上の義務を履行するための簡便な申出の仕組みを導入することに賛成いたします。その上で,これを相続人申告登記という新しい登記と位置付けることが本当に大丈夫かということは,十分に考える必要があると思っております。私のような素人が感覚的なことを申し上げて大変恐縮なのですが,ただ,登記の種類を増やすということは非常に大きなことであって,これが今後の不動産登記法全体の議論にどのような影響を与えるかということ,それからもう一つ,国民への分かりやすさという点からどうなのかというところは,この名称で行くにしろ,十分に議論を尽くす必要があると考えます。
最初に結論を申し上げますと,これは登記ではなくて相続人申告届といった方がいいのではないかと感じているところです。理由を2点申し上げたいのですけれども,まず,これを登記と位置付けることで,実体法上の効果の有無について議論や誤解が起きてしまうのではないかという懸念をやはり若干持っております。第10回会議において部会長から,以前,予告登記という制度が一時的にあったということ,それから,中田委員より,そのときに実体法上の効力の有無についてやや紛糾があり,今回はそのようなことのないようにという御指摘がございました。今回,是非本当にそうした現場での混乱や,法律関係者における必要のない議論が起きないようにしなければいけないと思っております。
登記というのは幅広い概念かと思いますが,保存登記,移転登記などと並んで申告登記というものが新しくできたときに,登記と付いてはいるけれども,その実体は大きく異なります。移転登記は一筆単位の物権変動ですが,それに対して今回の申告登記というのは個人単位で行い,しかも飽くまでも付記登記であり,権利の移転は伴わないと。そうした大きく性質の違うものを,大きく登記とくくって,本当に今後,大丈夫であろうかということ。もちろん住所変更登記のように権利変更を伴わないものもありますが,住所変更登記は読んで字のごとくで,それによって権利に何か影響があるのかと迷う人は少ないと思います。しかしながら,今回の相続人申告登記というのは,字を見ただけでは一体どのような法的効果があるのか,どのような単位で行われるのか明示的ではなく,関係者が迷う余地が大きいと思っております。そうしたことは,やはり防がなければいけない。
それから,2点目の国民への分かりやすさという観点ですが,相続登記に直面する場面というのは人生の中でそう多くはなく,この制度を初めて使う人がすぐに分かるように立て付けておくことが大切であると思います。そのときに,一般の人が相続人申告登記という七つの漢字を見て,それから,もう一方で相続登記という四つの漢字のものがありますと,同じように両方登記と付いているのだけれども,こういうふうに違うのですよと聞いたときに,すぐに理解できるだろうかと感じてしまいます。そして,どちらか,相続人申告登記をやれば,取りあえずいいのでしょうとなってしまわないだろうかと思います。
そこで,この新しい仕組みに込められているメッセージをしっかりと正しく世の中に伝え,そして,政策目標である相続登記の促進を実現していくためには,この制度自体は登記とは呼ばない方がいいのではないかと思っております。そして,相続人の方に説明をするときには「今回,相続登記が義務化されました。それは重たいことなのだけれども,公法上の義務を履行するための柔軟な対応方法として,こういう届出による個人ベースでできる申告の制度もあるのですよ。そうした届出も活用しながら,是非しっかり相続登記をしてくださいね」というふうに,性質の違う行為についてはそれぞれ別の名前で説明できるように,簡便な届出の仕組みを活用しつつ,登記をしっかりしてくださいと国民に説明できる方がいいのではないかと思っております。
○山野目部会長 相続人申告登記という新しい制度を創設するに際して,その法制的な意義のみならず,国民にしっかりと正確な理解を抱いてもらって,円滑な運用がされることが大切であるという見地から,吉原委員に御発言を頂きました。御提案も含まれていました。
現在,部会資料で提示しているものは,登記官の方がその職権に基づいて行う行為及び,その登記上の成果を相続人申告登記の概念で呼び,申請人に対して求める行為を,丁寧にいうと相続人申告登記に係る申出,簡単にいうと相続が開始したことに伴う申出ということをお願いしますという言葉の整理で臨んでいるところでございます。ただいま吉原委員から御注意いただき,また御提案も添えていただいたところを踏まえて,より法制的にも整合的な説明が可能であり,国民に対しても誤解が生ずることがないような言葉の整理について努めてまいり,引き続き検討したいと考えます。ありがとうございます。畑幹事,どうぞ。
○畑幹事 既に今までの審議で出ていたことだとしたら申し訳ないのですが,相続人申告登記について,私の専門分野に関わることではないのですが,質問させてください。
先ほどから,従来からある相続登記については,共同相続人の1人が全員の分を申請できるという話が出ておりますが,この相続人申告登記の方はどうなのでしょうか。ある人が出してきた戸籍謄本,抄本の類いから,兄弟のことも分かるとかいうこともありそうなのですが,その辺りはどういうイメージを持てばよいか,御教示いただければと思います。
○村松幹事 相続人申告登記につきましては,個々の相続人の方が自分の分だけ申告していただくというのをまず基本に据えてはどうかと思っております。逆に言いますと,他の人の分も義務履行の効果を発生させるとなると,他の方の,相続人として他に誰がいるのかといった問題ですとか,場合によってはその住所等についても資料を提供いただくのかと,こういったことが問題になってまいります。そこまで,他の人の分までやるのではなくて,自分の分だけだったら簡単に済むから,それだけだったらやりますよと,こういう方向性で,それぞれが簡単に義務を履行できるようにという方策,こちらの方策で立ててはどうかというのが基本線です。それをベースにしています。
ただ,とはいいながらも,この手続は申出という形で行われる手続で,いわゆる登記の申請よりも簡素な手続で進めたいと思っておりますけれども,そういった状況ですので,他の方と連名でといいますか,親御さん等含めて,お子さん含めて,連名で,では私の方で基本的にはやっておきますよという形で申請をしていただくということはもちろんありますし,もちろんそれが委任の代理の形で行われるということも否定されるものでは全然ありません。なので,考え方のベースがどちらなのかということかもしれませんけれども,1人でもできるし,ではやっておいてということであれば,その3人の方の分をまとめて申出をするということも否定はされないということになります。一応そういうつもりで作っています。
○山野目部会長 畑幹事,どうぞお続けください。
○畑幹事 いえ,何かはっきりした意見があるということではないのですが,この登記は今のところ職権による登記と位置付けられているようなので,先ほど申し上げたように,誰か1人が出してきた書類で兄弟姉妹のことも分かるというような場合には,登記してしまってもいいのかなということを少し考えたというだけです。特に強い意見ではありません。
○山野目部会長 ありがとうございました。御示唆は承りました。
恐らく,先ほど村松幹事から御案内をしたとおりの運用のイメージであろうと感じます。ある人が亡くなって相続が開始したとき,その被相続人に5人のお子さんがいて,3人は1通の戸籍の謄抄本から分かるけれども,あと2人はそこからは直ちに分からないという書類を司法書士などの資格者代理のところに持って行ったり,登記所に持って行ったりすると,そこで相談を事前にするようなチャンスがあって,そういうときに相談すると,いろいろ言ってくれます。人によって,おしゃべりな人と,機嫌が悪い人と,寡黙な人と,いろいろいますが,比較的おしゃべりな人だと,その戸籍を見ると,ああ,3人さんいるのならAさん,あなただけではなくて,B,Cと御相談の上,委任状等をそろえて3人の分なさったらどうですかと勧めることもあるかもしれないし,そのときどうするかは申請人の随意ですし,そういうふうな現場の運用でされるということかもしれません。余り相談の場でいろいろこちらがたくさん述べると,畑幹事はよく雰囲気を御存じのように,積極的釈明がどこまで許されるかみたいな,それに似たような議論になってきて,ややこしいですけれども,しかし現場でそういうふうに収めていくという局面,契機も存在するかもしれません。御指摘いただきましてありがとうございました。山田委員,どうぞ。
○山田委員 ありがとうございます。先ほどの質問と少し違うところで,しかし似たような質問をさせていただきます。
資料53の1ページの1の(1)の今度は②でございます。②については,冒頭で御反対だという御意見があったと理解をしております。それほど強い意見ではないのですが,まだ十分に私が咀嚼できていないがゆえの質問になると考えております。
これは,法定相続分どおりの登記がまず行われて,その後,遺産分割が行われたということと思います。その後,遺産分割を反映させる,これは更正登記になるということが今日も話題になっていますが,それを申請しなければならないというのを義務付けるというものと理解しました。私の理解が誤っているかもしれない不安はあるのですが,その更正登記は共同申請になるのだろうと理解をしております。A,B,C,3人が法定相続人で,法定相続分どおり相続登記が行われたとします。しかし,遺産分割が行われて,BとCがその不動産を共有する形で遺産分割が行われ,Aが所有者から外れるという場合には,Aは登記義務者として更正登記の申請に加わらなければならないのだろうと理解をしております。そうしますと,BとCに申請の義務が課せられるわけですが,BとCはAの協力がないと申請ができません。しかし,遺産分割から3年をたつと,この義務違反に基づく過料の効果が生ずるということと理解をしました。それは,先ほど①について,一番単純な,多く例があると思うのですが,1人でできる,それをしなかったら過料になるというのとは少し違ったレベルの話かなと思います。しかし,そういう場合のB,Cが,訴訟までは起こさなかったけれども,登記についてはきちんと関心を持っているというときに,相続人申告登記,名前は変わるかもしれませんが,それをすることで,BとCは遺産分割に基づく更正登記をしなかった義務違反から免れると,こういうことになるのだろうと理解をしております。その理解でよいかどうかということと,そして,直前の畑さんの御質問にも関わるのですが,そのときBとCはそれぞれが相続人申告登記を申請しなければならないのか,それとも,そうではない方策があるのか,その辺をお教えいただければと思います。
○村松幹事 まず,法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割があったケースについて,A,B,C,3人いて,B,Cが2分の1ずつ遺産分割で相続するという形になりましたと,このケースについての整理でございますけれども,御指摘がありましたように,②に従いますとBとCには申請義務が課される。その申請義務の履行の仕方につきましては,今回,簡略化の提案を併せて申し上げていますので,9ページの(5)のところですけれども,更正登記の形になり,かつ単独申請ということにしております。そのため,B,Cがこのケースでは登記権利者と扱われますが,B,Cにとって,Aの協力は不要ということになろうかと思います。これまでの単独申請に関する登記実務の理解を前提といたしますと,B,Cいずれかによる申請で更正登記が行われるということが想定されております。
○山野目部会長 山田委員,お続けください。
○山田委員 続けることはありません。分かりました。9ページの(5)のところをしっかりと関連させて,連携させて理解をしておりませんでした。よく分かりました。ありがとうございます。
○山野目部会長 山田委員,どうもありがとうございました。
引き続き御意見を承ります。國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。この相続登記の義務化というのに関しましては,基本的には賛成でございます。その中で,義務に対する過料といういろいろな御意見がございました。私ども,表示に関する登記については従前から過料という部分がありました。それについては全く違和感なく,当然ですけれども,義務の履行に対するモチベーションというか,そういったものを含めて,過料を科すべきだろうとは考えております。そもそも相続登記を義務化するという大前提が,所有者不明土地をなるべく減らそうということで,その相続の発生があったときには,それをきちんと登記簿に表すということが大前提でありますので,やはりこれの履行を促す一つとしても,やはりこの過料というのは必要ではないかと思っております。
○山野目部会長 松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。今回,相続人申告登記の申告期間につきましては,法定相続,特定財産承継遺言,相続人への遺贈,または遺産分割による所有権取得による登記の場合と同様に3年間ということにするという説明が,部会資料53の3ページにございます。この3ページの9行目以下では,第16回会議で,相続人申告登記については負担を軽減した手続であるので,期間を1年とか6か月とする提案もあったのだけれども,これまでなかった義務を新たに課すものであるから,「差し当たり3年とするのが適当である」と,理由を丁寧に説明していただいていると思います。
それを前提にしてということですけれども,やはりこの相続人申告登記を導入する趣旨は何かということを考えたときには,一つは,相続が開始したということを公に知らせて,それと同時に相続登記の準備をする,あるいはひとまず相続人申告登記をしておいて,遺産分割の準備に入ってもらうという意味もあるのではないかと思います。したがって,法定相続の登記とか遺産分割の登記というのと横並びの第三の登記というよりは,やはりその準備的なものであるという位置付けになりますし,そのために手続も軽減もされて,各相続人が単独でもできるということになっているのではないかと思います。そういう趣旨からいたしますと,あえて3ページで説明していただいている点ではありますけれども,3年でいいのか,それとも1年とか2年とか,少し縮めるということをなお考える余地があるかどうかということについて,議論があってもいいのではないかと思い,問題提起をさせていただきたいと思います。
と申しますのも,部会資料53,第2部第1の1(1)②および注4では,相続人申告登記がされた後で,遺産分割があったときは,「遺産分割の日から3年以内」に所有権移転登記の申請をすべきことになっています。では,その遺産分割自体をいつまでにやるのかという点について,その動機付けというかインセンティブはどうなっているかというと,17回会議だったと思うのですけれども,部会資料42,第1の1で示されましたが,相続開始時から10年経過すると法定相続分又は指定相続分で遺産分割をすることになるというのが一つのインセンティブないしディスインセンティブとして想定されていたと思います。遺産分割そのものは相続開始時から10年以内にということですので,そのための最初の準備手続はできるだけ速やかに,もちろん,過度な負担を課さない範囲でですけれども,短くするという姿勢を示すことにも意味があるのではないかと思った次第です。その後,遺産分割がされれば,遺産分割の時から3年以内に所有権移転登記を申請すべきであるということを,公法上の義務として課すとともに,民法899条の2によって対抗要件の効果も働くということで,そちらはそれなりに効果的ではないかと思います。そこで,そもそも遺産分割それ自体の1つの準備になりうるかという観点から,少しでもスピードアップを図る考慮が示されてもよいと思い,あえて発言いたしました。
○山野目部会長 3年という期間は,このたびの部会資料で初めて数字を一つに絞ってお出ししているものでありまして,その当否をもとより委員,幹事に御検討いただきたいと望みます。ただいま松尾幹事からはその観点の御意見をおっしゃっていただきました。ひとまず3年という数字を選んだ背景は,部会資料の補足説明で御案内しているところでございます。
実務的な経験を見て直感的に感ずるところは,これは公式の統計はありませんけれども,司法書士の方々のお話などを伺っていると,人が亡くなってから割と1年後,2年後ぐらいにやる人が多くて,その後しばらくずっと余りいなくて,10年目ぐらいになると,またやる人が増えるというグラフを描くもののようです。そうすると,松尾幹事がおっしゃったように,10年を待つことはいささか,あちらの遺産分割の時期のコントロールとは趣旨が異なりますし,それから,1年か2年でやる人が多いという実態ではありますが,今回は罰則も一応用意した上で義務付けますから,世の中でされているとおりに,ほらすぐやりなさいという感じで義務付けるよりは,もう少し後ろのところに法定の年数を置くことにしようかということも考えなければいけないというところから,3年という数字を出していますけれども,様々な政策的要請を考えるともっと短くていいではないかという松尾幹事の御意見も理解することができます。
1段目のロケットについてはそういうことでありまして,2段目はまだ実態上,経験がありませんから,ここは手探りで年数を決めていくしかありませんけれども,1段目の方のお話と連動させながら,そちらも考えていかなければならないという観点の御示唆を頂きました。
中田委員にお尋ねですが,お手をお挙げになって,お手をお下げになったのですが,もし何かおありでしたら御遠慮なさらないで,どうぞ御発言いただたく望みます。
○中田委員 ありがとうございます。ただいまの3年の話とは違う話でしたので,引っ込めたのですけれども。
○山野目部会長 どうぞお話しください。
○中田委員 先ほどの山田委員と村松幹事と部会長とのやり取りがあった部分なのですけれども,相続開始後に遺産分割をして登記をするという場合と,相続開始後に法定相続分の相続登記をした後,遺産分割をするという場合と,相続開始後に相続人申告登記をした後,遺産分割をする場合と,3種類あるのと思うのですけれども,最初の二つについては,現行法の下では,一旦法定相続分の登記をした後ですと共同申請になるのだけれども,遺産分割をいきなりしたときには,単独申請プラス遺産分割協議書でできるということだろうと思います。今回,法定相続分の相続登記をした後に遺産分割をした場合も単独申請にするとともに,相続人申告登記の場合も,直接遺産分割をして登記する場合と同じになるというのが今回の部会資料の整理だろうと思っています。それはそれで,もしその理解で間違いなければ,整合的だなとは思いました。
ただ,今申し上げました私の理解自体が正しいかどうかよく分からないのですけれども,仮に正しいとしても,非常に分かりにくいところでして,現行法の下でも必ずしも明瞭ではなく,不動産登記法63条2項がどの範囲で適用されるかについて,解釈の部分もあると思うのです。今回,新しい制度を設けて,更に複雑化するのであれば,そこはもう少し明瞭にした方がいいのではないかと思いました。
○山野目部会長 中田委員,どうもありがとうございました。村松幹事の方から何かお話しになることがあれば,どぞ。なければ無理にはお願いしませんけれども,おありでしょうか。
○村松幹事 今,中田委員からお話しいただきましたように,今回の改正を踏まえて,整理を工夫しているところですけれども,分かりにくいというのはおっしゃるとおりかもしれませんので,そういった辺りは通達という形なりで示していくということ,対外的にもしっかりと示していくということかなと思っております。
○山野目部会長 中田委員におかれては,どうもありがとうございました。
引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。
○水津幹事 第1の1(1)(3)の規律について,先ほど出ていた意見と同趣旨ですが,重ねて意見を申し上げます。この規律によれば,法定相続分での相続登記も,相続人申告登記もされていない場合において,遺産分割があったときは,相続人申告登記の申出がされれば,登記申請義務が履行されたものとみなされます。この場合には,遺産分割の結果を踏まえた登記を申請する義務は,課されません。これに対し,法定相続分での相続登記がされているか,又は相続人申告登記がされている場合において,遺産分割があったときは,遺産分割の結果を踏まえた登記を申請する義務が課されます。これでは,アンバランスではないかという気がします。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。
そうしましたら,第1の部分の相続登記の義務付けその他の事項につきましては,おおむね方向が固まってきておりますけれども,それゆえにという側面もありますが,本日御議論いただいた細目にわたる点について,なお説明ぶりを含めて,深めなければいけない点が明らかになりましたから,これらについての検討を重ねてまいるということにいたします。
第1 所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み
1 相続登記等の申請の義務付け及び登記手続の簡略化
(5) 法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続の簡略化
法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続を簡略化するため、法定相続分での相続登記がされている場合において、次に掲げる登記をするときは、更正の登記によることができるものとした上で、登記権利者が単独で申請することができるものとし、これを不動産登記実務の運用により対応するものとする。
① 遺産の分割の協議又は審判若しくは調停による所有権の取得に関する登記
② 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
③ 特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記
④ 相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記
(補足説明)
部会資料60の第1の1(5)本文では、法定相続分での相続登記がされた場合において、その後に同本文①から④までの登記をするときは、「更正の登記によるものとした上で、」登記権利者が単独で申請することができるものとする旨の規律を提案していたが、第25回会議において、これらの登記(特に同本文①の遺産分割等による所有権の取得に関する登記)をする場合には、更正の登記のほか、所有権の移転の登記をすることも許容されると考えられるので、その趣旨を明確にすべきではないかとの指摘があった。
そこで、民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する要綱案(案)(部会資料62)第1の1(5)本文においては、「更正の登記によるものとした上で」との文言を「更正の登記によることができるものとした上で」に修正することとしている。
第2 所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み
1 氏名又は名称及び住所の変更の登記の申請の義務付け
不動産登記法改正案
(所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請)
第七十六条の五 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。 (職権による氏名等の変更の登記) 第七十六条の六 登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。 |
氏名又は名称及び住所の変更の登記の申請に関し、次のような規律を設けるものとする。 2 登記所が氏名又は名称及び住所の変更情報を不動産登記に反映させるための仕組み 登記官が住民基本台帳ネットワークシステム又は商業・法人登記のシステムから所有権の登記名義人の氏名及び住所についての変更の情報を取得し、これを不動産登記に反映させるため、次のような規律を設けるものとする。 部会資料38は残された部分がございます。第2の部分でございます。部会資料の37ページから後ろになります。 引き続き,部会資料53についてお諮りを致します。「第2 所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所の更新を図るための仕組み」及び「第3 登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得するための仕組み」,この二つの柱でございますから,部会資料で申しますと,補足説明まで含めますと15ページまでの範囲でございますけれども,この範囲につきまして御意見を承ります。いかがでしょうか。
1 氏名又は名称及び住所の変更の登記の申請の義務付け
① 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。
② 前記①の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処する(注)。
(注)裁判所に対する過料事件の通知の手続等に関して法務省令等に所要の規定を設けるものとする。
登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。
ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。
ここで扱われている第2は,「登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み」についての御提案であります。
中身が三つに分かれておりまして,1として「氏名又は名称及び住所の変更の登記の申請の義務付け」ということをするかどうかということに関して,ここも1年,3年,5年といったような期間の候補を御提示申し上げ,また過料による制裁を伴わせるかどうかについて御意見を伺うということにしておりますので,ここは是非,委員・幹事から御意見をお寄せいただきたいと望みます。
2として,登記所が他の公的機関から氏名又は名称及び住所の変更情報を入手し,それを踏まえて住所の変更について措置をする可能性のきっかけにするということが考えられてございます。これ,実は本日の部会資料の第1の1(1)で御提案申し上げていることと内容は同じです。最終的に法制上の措置を講ずる際には条文がその二つにまたがることがどうかといったような観点からきちんと整理を致しますけれども,本日はここでの審議のしやすさの観点から,中身は同じことですけれども,第1の方では死亡情報を更新する観点からの住民基本台帳ネットワークとの連携,こちらの第2の方は住所変更情報に関する情報連携を図るための住民基本台帳ネットワークとの連携についてお諮りするものであります。
3といたしまして,「被害者保護のための住所情報の公開の見直し」についてお諮りをしております。生命・身体に危害が及ぶおそれ,それからそれに準ずる心身に有害な影響を及ぼすおそれがあると認められる所有権の登記名義人に関して,登記事項証明書に住所を記載せず,それに代えて法務省令で定める事項を記載するという取扱いを導入するという登記情報の公開に係る部分的な見直しの提案を差し上げているところでございます。
部会資料は,最後に第3としまして相続以外の登記原因による所有権の移転の登記の申請の義務付けについて話題としており,これについては義務付けを定める不動産登記に関する法制上の措置は講じないという方向をお示ししているところであります。
講じなくても登記はどうでもいいということになるものではなくて,講じなければ民事法制上は措置されないことになりますが,土地基本法6条2項が定める登記手続を土地所有者等はきちんとしてくださいという土地政策に関する理念の要請の下には置かれるものでございますから,そのことに留意しながら,こちらでは先ほど申し上げたような提案をしている次第でございます。
この第2の部分及び第3の部分について,委員・幹事からの御意見を承ります。いかがでしょうか。
○今川委員 第2の1の住所・氏名の変更の登記の申請の義務付けですけれども,これについてはこの次の氏名・住所の変更の情報を法務局が入手するためには,その根拠付けとして必要だということが部会資料において記載されていますが,その前提であれば,その限りにおいては認めてよいと思いますが,義務化については基本的には消極です。訓示的な義務付けだけで何とかならないのかというところが我々の意見であります。
というのは,住所移転というのは相続以上に頻繁に起こりますし,住居表示実施といった当事者の意思に基づかない,当事者の行為に基づかない住所変更もありますので,相続登記以上に義務的な拘束になじむものではないと思います。
したがって,②の過料についても消極であります。それよりも,登録免許税の非課税等のインセンティブを設けるべきではないかと思います。
(注2)について,表題部所有者についても同様に扱うべきだということについて賛成です。義務化をすることについて手放しで賛成という意味ではなくて,権利と表題部の所有者欄についても同じような扱いをするということについて賛成です。
それから,登記所が住所・氏名の変更情報を入手するということについては,個人情報に配慮するということを前提として賛成であります。
(1)が登記名義人が自然人である場合ですけれども,これについては個人情報に配慮することを前提として賛成ということです。
(注1)ですけれども,これは死亡情報を入手する仕組みの構築のところで述べたのと同じ意見です。基本は賛成であります。
(2)の法人が登記名義人である場合も,この規律を設けることに賛成であります。ただ,我々の中には,法人であっても変更の登記をするときにはなりすましの防止の観点から確認をすべきでないかという意見はあります。
(注2)ですが,(注2)のうちの新しい制度が施行されたときに既に所有権の登記名義人となっている法人についてですが,法人の場合は義務化をしてもいいのではないかという意見があります。そもそも法人は財産の管理を正確に行うという,そういう主体であるということが前提となっていますので,義務化をしてもいいのではないかという意見が多いです。
それと,法人の場合の会社法人等番号に関する変更の登記の申請は,非課税とすべきと考えます。
(注3)の表題部所有者についても同様の仕組みを設けるべきかどうかについては同様の仕組みを設けるべきであるという意見です。
3の被害者の保護のための住所情報の公開の見直しですけれども,これは賛成であります。
ただ,この申出については,登記官がその申出が正当なものであるかどうかの判断をしなければならないので,補足説明にも書いてありますが,公的な資料又はこれに準ずる資料というのを具体的に規定しておく必要があるのではないかと思います。
第3については,この提案どおり相続以外の原因による所有権の移転の登記について義務付ける規定を設けないということで,その方向に賛成であります。
○山野目部会長 第3も賛成だというふうに受け止めてよろしいですね。
○今川委員 第3,はい。
○山野目部会長 ありがとうございます。
橋本幹事,お待たせしました。
○橋本幹事 弁護士会の意見を申し上げます。
第2の1ですが,これについては先ほどの相続登記の義務化と同じように,抽象的義務の限度にとどめるべきであって,過料の制裁を科すということについては反対であります。
2については,連携システムで登記所がこういった情報を入手して反映させる仕組みを作ることについては賛成であります。ただ,ちょっとここよく分からないのが,1との関係なんですが,1の方は義務化をしますと。2では職権で登記をしますと。そうすると,職権で登記される局面と,義務化して過料制裁しますという,何というんですか,どの場合に,職権で登記されても過料の制裁がされるということも想定している制度設計なんでしょうかね。というのがちょっとよく分からなくて,そこの整理をちょっとお願いしたいということです。
それから,3に関しては賛成であります。
それから第3について,これも提案どおり賛成です。
○山野目部会長 橋本幹事からお尋ねが1点あったところについて,事務当局からお願いします。
○村松幹事 この点,もしかすると先ほど中田委員から御指摘があった部分と同じかもしれませんけれども,自分でという,自分でやったら義務がなくなるというニュアンスに,全体的に読めるような記載になっておるかもしれませんけれども,結果的にというと語弊があるかもしれませんが,登記上しっかりと住所変更等が表われていれば,それで義務は果たされた,あるいは違法状態といいますか,違法というのはちょっと言葉が強いですけれども,法違反状態は是正されているので,義務違反もないし過料も科されないという想定で資料を作成してございます。
住民基本台帳制度と連携して職権でできるケースについては,基本的にはこちらで賄おうという趣旨になりますけれども,海外に居住されているような方につきましては,一応なかなかそういった手法は現状においてはとりづらいところがあり,そういった部分については直接にこの義務違反だということになっているので,なるべくやっていただきたいということを申し上げる必要があるという認識です。
○山野目部会長 橋本幹事,よろしいですか。
○橋本幹事 分かりました。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
今の第2の1と2の関係なんですけれども,橋本幹事がおっしゃったのは,職権で結果が表われたというか,変更がされても過料が科されるのかということだったわけですが,私はちょっと別のことで気になりました。それは,義務化をし,かつ,例えば過料に処するということになった場合に,その期間内に職権で対応してもらったら過料を免れるのに,職権で義務期間内にしてもらえなかったら,場合によると過料を科されるんですよという,これは何かすごく運・不運に左右されることになってしまわないのかなと。そのようなことを考えると,1と2が本当にこれでというか,2があるのに1の義務化というのは成り立つんだろうかということを,少し疑問に思いました。これが1点目です。
2点目は,実はこういうことが考えられているんですよ,ということをある裁判官の方と雑談していたら,その方は,私なんかと違って転勤が多いと。3年から5年に1回転勤がある。転勤があったときに,この義務化そのものは分かるんだけれども,そうでなくてもいろいろなところに手続に行かなければいけないし,内示があってから次,本格的に働き出すまでにほとんど時間がないのに,こんなことをやられたら対応できない,というふうなことをおっしゃって,例えば,市役所に転入届を出したときとかに,そこから申請を出せるようにできないのか,というようなことをおっしゃったんですね。
それは,なるほどそうなのかなと思いまして,窓口を多様化するというんでしょうか,そういうことは可能ではないのでしょうか。これは全然分からないので伺う次第です。
○山野目部会長 佐久間幹事から,ここまで御発言があったものを踏まえての整理のようなことも併せてしていただきました。第2の1で申請を義務付けていることと2で登記官がアクティブに活動するような仕組みを情報連携を充実させて進めるということとの関係について,理論的にこれらは両立するものであるかというお尋ね,問題提起がありました。
少し前に取り上げた論点ですが,死亡情報を登記官が入手することと登記名義人が死亡したことの符号を登記官が職権でつけることにしますということや,それらをにらみながら相続人申告登記などを義務付けますという話との間には,そのような緊張関係がありません。なぜかというと,あちらは情報連携は死亡したかどうかという生死のことのみであって,誰が相続人であるかということは改めて義務付けをして出してもらわなくてはいけないということであり,その二つは論理的に両立,整合しますけれども,こちらはどちらも住所の変更という同じ事項に関して一方では義務付けて,一方では登記官がアクティブに情報を入手するというふうになっていますから,この二つは論理的に一種の重複が生じて整理が困難ではないかという御指摘があったし,それから実態との関係において,それとは別なことですけれども,住所というものは頻繁に変わることがあります。人間の生死というものが頻繁に変わるということはありませんが,住所は現実に勤労者などの生活実態を考えますと変わることがあり得るものでありまして,それについてどう考えるものでしょうか,果たしてほかの情報と同じように考えることができるかといったような実態に即した心配,それから関連してワンストップサービスのようなことを大胆に導入することができないかという提言もいただいたところであります。
佐久間幹事の御発言は,全体が意見でしたけれども,お尋ねしてみたいとかいうふうにもおっしゃっていましたから,村松幹事から何かあったらおっしゃってください。
○村松幹事 1点目ですけれども,ちょっとこちらの運用イメージを申し上げますと,住所変更のこの期間,比較的1年,2年,3年ということで長めにとっております。転居届なんかはもっとずっと短い期間ですけれども,長めにとっていますが,これはやはりある程度法務局側で作業を任意のところでするという前提をとっておりますけれども,それが例えば1か月に1回,法務局の方で住所変更をチェックするということまでは恐らく難しいと思っておりますので,ある程度の期間をおかないとなかなか住所変更を法務局側でチェックして,変更があるのではないでしょうか,住所を変えておいていいですねという手続をとれないだろうと思っておりますので,それで1年,2年,3年という形にしています。
逆に言いますと,基本的には,期間内に法務局側の方でアクションをとって,名義人の方に住所を変更しますよということをする前提,行われるだろうという前提での期間ぐらいにしておいた方がよいのではないかというふうには思っております。
なので,基本的には国内で住所変更をしっかりされるということになれば,法務局側がワンストップ的にということになるのかどうかという部分がありますけれども,手続を進めるという形になるのが想定です。外国の方になるとそういったことが難しいというのが先ほど申し上げたところです。
窓口の多様化の部分は,ある意味窓口の多様化に近い状況をこの局面ではもうやるほかないのではないかというのが第2の2のところの判断だと思っておりまして,転居届を出していただければ住民票が変わる。それの情報を定期的に住基ネットの方から法務局が取得し,変わっていますねということを確認させてはいただきますけれども,それで登記を入れておきます,よろしいでしょうかということをこちらの方からやるということなので,ある意味窓口の多様化にもなっているようなところはあるような気がしております。
実際のところ,登記所の事務自体を自治体の方にお願いすることが容易かというと,もちろんとても難しい面が自治体に事務をお願いするということだとありますけれども,その部分を登記所側の方で住基ネットの方から住所が変更しているのだということを察知して職権的に変更につなげていくということなので,窓口は実質的には多様化しているようなイメージで捉えています。
○山野目部会長 佐久間幹事,お続けください。
○佐久間幹事 いえ,よく分かりました。ありがとうございます。そういうシステムができればいいなと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き承ります。
中村委員,お願いします。
○中村委員 ありがとうございます。
今,佐久間先生がおっしゃった第1点については私も疑問に思っておりましたところでしたので,御説明いただけてよかったです。その前提としまして確認の質問をさせていただきたいのですが,42ページの(1)の②と③に関しまして,このネットワークシステムで定期的な照会を行うなどしてという記載がございますよね。そうしますと,ある一定範囲の物件に関して,例えば年に一度とか数年に一度とかいうタームで一斉に検索をかけて修正をするというようなことを御検討なさっていらっしゃるということですか。
○村松幹事 そういう想定です。
○中村委員 そうすると,それが網羅的に全体に行き渡る期間と,それから過料を科す期間というのはリンクするというような形になるのでしょうか。
○村松幹事 実際上はそういうところも踏まえて義務違反の期間を設定しないとうまく回らないだろうと思っています。
○中村委員 私がちょっと疑問に思っておりますのは,39ページの中ほどに,またというパラグラフがありまして,「第2の2(1)本文において提案しているように,登記名義人の負担軽減策を併せて講ずることも考えれば」という記載があるんですね。これは第1にも似たような記載があったと思うんですけれども,これは,登記名義人の住所などを実態に合わせて反映させるために検索情報を申し出させるということを義務付けしていくという新たな制度だというふうに理解していたんですけれども,ここで負担軽減策という言葉が出てきたことについて,私,若干の違和感を持っております。これは本当に負担軽減になるのでしょうか。
○村松幹事 これというのは,法務局の方で住基ネットから情報を入手して,登記名義人の方に問合せをして問題ないということであれば法務局側で職権で入れてしまおうかという,その部分が負担軽減になっているので,義務を課しているからしっかりやってくださいと言いながら大部分は,言い方はあれですけれども,8割方法務局側で頑張りますというのが今回の制度なので,多くのものについてはそれほど大きな負担にはならないのではないかなという,そういうことを,すみません,言ったつもりなんですけれども。
○中村委員 もし全件について,このシステムに乗って,全てが検索されて,修正がされるということであれば,実際は過料の制裁を受けるようなことがない方向に持って行くことができるかもしれなくて,その場合にはある意味の負担軽減策になる可能性もありますけれども,まだ当面はそれほど全体を網羅的に把握できるようになっていくのかどうかわからないということもあり,この負担軽減という文言を使っていいのかというところをもう一回御検討を頂ければと思いますのが1点です。あともう一つこれに関連しまして確認ですけれども,42ページの(注1)ですが「検索用情報の申出を必ず行うものとする」とあり,第1の方でも同じ(注1)で同じ記載がありますけれども,この必ず申し出るということが義務付けられるとすると,この申出がないと登記申請自体が受け付けられないという理解でよろしいでしょうか。
○村松幹事 そのように考えておりましたが,直ちに却下事由にするかどうかはちょっと,もしかするとよく検討した方がいいのかもしれませんが,必ずやっていただくということに基本的には尽きておりますが,必要なことだということなので。
○山野目部会長 理屈上は却下事由ではないでしょうか。ただし,現実にはすぐ出そうとすれば補えることですから,登記官の現実の事務として一刀両断に却下しますということではなくて,いや,これは検索用情報も付けていただかなければいけませんから,お待ちしますという補正を促すという扱いで現場が進んでいくであろうと想像しますけれども,ぎりぎり詰められて必要的添付情報ですかと尋ねられれば,そうだということになりそうですけれども,いかがでしょうか。
○中村委員 登記申請に必要な事項であって申し出が義務であるということになる場合には,負担軽減策があり国民には大きな負担とはならない見込みというようなことではなくて,所有者不明土地という問題に対応するために,新たに義務を創設してこのようにやっていきましょうという正面からの突破の方が良いのではないかと思います。まだ言葉がまとまっていませんで,こんな言い方で恐縮ですけれども,発言させていただきました。
○山野目部会長 中村委員のおっしゃることは大変よく理解することができまして,そこに記されている登記名義人の負担軽減策を併せて講ずることも考えればという文言との関係でいいますと,最後の方に話題があった検索用情報を必ず出さなくてはいけないことが過酷ではないかといったような観点は,多分あまり本質的な論点ではなくて,それは前の方の生死確認の方で手掛かりにするためにも検索用情報をやはり出してもらわなくてはいけないものであって,あれが付いていなければ登記官は最終的には却下するし,その前駆段階として補正を促して補ってもらうという扱いでいいと思われます。
そこはそうですけれども,問題は,この住所との関係で検索用情報をうるさく言い,さらには,ひいてこの住所の変更の登記を義務付けるということをどこまで,抽象的な義務を設けることの適否や,加えて過料を設けることの適否ということを,その軽減策と仮に言われているものとの関係で正当化することができるかというお話であろうと感じます。
幾ら過料をめったに科しませんと言っても,法が住所の変更の登記はしなければいけません,一応は過料の制裁の規定が法律にありますということになっていると,佐久間幹事が話題にしていただいた裁判官であるとか検察官であるとか,あるいは弁護士の先生方もそうであるかもしれませんけれども,頻繁に転勤が定期的に予定されているような職業で,かつ遵法精神が旺盛で,しなくてはいけないと思っている方々は,恐らく,いやほったらかしておいてもめったに過料ってないから,まあいいではないか,そのうち法務局が検索用情報でしてくれるからというふうにはなかなか行動パターンとしてはとれないかもしれません。その期間,何か少しほったらかしておいてもいいよねと言っている間にこの検索をかけて登記官の職権でしてくれるのが追い付いてくれるというリズムが,かなりリズミカルにいくものであったらば,ほっといてもいいよということになりますけれども,そうでないなら,やはりこの忙しい中で転勤の前後だけれども行かなくてはいけないねといふうなお話になってしまうかもしれなくて,そこがものすごくリズムにずれが生ずる以上は救済策とは言えないから心配ですということをおっしゃっているところは,現実にその場に自分が置かれたという想定でいろいろ考えると,すごく生活感覚としてよく理解することができるものがあります。仰せはごもっともですから,果たして第1の方で様々な情報を提供させ,またその義務付けも併せて考えたということと,こちらとをほとんどコピー・ペーストするみたいに同じに考えることが素朴にできるかどうかという点は,改めて今日の御議論を見直して考えてみなければいけない事柄であろうと感じます。
何か補足されることがあったらお話しください。
○中村委員 まとまっていない話で失礼いたしました。ありがとうございます。私も少し考えてみたいと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
これは,まず登記名義人が法人である場合の住所変更について申し上げたいと思いますが,これは前回の部会でも申し上げたとおり,事柄自体は非常にすごく有益なことだなと思っております。ただ,先ほどから議論されている義務化と職権登記の関係で申しますと,正にいわゆる会社の商業登記のシステムとこちらの不動産登記のシステムがリンクして,法人の名称や住所の変更が商業・法人登記のシステムから直ちに反映されるというようなことになってまいりますと,そもそももう,何というか,検索用情報というか,会社法人等番号の届出をするかどうかというところだけが鍵になってきて,法人に関しては住所変更の申請をする義務というのを何か観念すること自体できなくなってくるのではないかなというところは,今回の部会資料を見ながら感じていたところでございまして,もちろん形として義務を残すということであれば,きちんと登記名義人が会社法人等番号を届出さえすれば対応できるので,あまり弊害はないのかもしれませんが,ちょっとそこら辺はもやもやしながら拝見していたところでございますというのが一つです。
あとは質問として2点ほど確認させていただきたいのですが,今の案はシステム間で通知に基づいて職権で変更登記をするという前提になっておりまして,この場合,先ほどから職権の場合は基本的には手数料負担はかからないような前提でということでお話いただいているかと思うんですが,この法人の名称,住所変更の場合に関しても,基本的には同じ考え方でいいのかというところは一つ確認させていただければと思います。
あともう一つ,施行後に所有権移転登記手続をやるものに関しては,会社法人等番号を当然申請情報として出すということになるんですが,恐らくこの(注2)に書いてある,既に所有権の登記名義人となっている法人が会社法人等番号に関する変更の登記の申請をするかどうかというところが,不動産登記に正確な名称や住所を反映するための一つの鍵になってくるのかなというところはございまして,これを実際やるという場合に,どういう形でやることを今想定されているのか。例えば,これ土地を管轄する全ての法務局ごとに自分の会社の法人等番号と対象となる土地の1個1個を特定して出していくということになるのか,あるいはどこかで一括して何らかの手続をとれば,変更の届出をしたことになるのかというところによっても,大分使い勝手が変わってくるのかなというところはございまして,そこは実務側でも関心の強いところでございますので,今のお考えを教えていただければと思っております。
○山野目部会長 前段で意見としておっしゃっていただいたところは,要するに会社法人等番号を出せばそれで済む話ということになるかもしれませんねというお話はごもっともであるとも感じますから,引き続き検討します。
例外的に会社法人等番号を持っていない法人がありますから,その場合については逆に自然人と区別する扱いは,理由はありませんから,むしろ住所の変更の登記を自然人に義務付けるなら,こちらも義務付けなければいけないということになるかもしれません。
残余の点は,御質問を頂きましたから,事務当局からお話を差し上げます。
○村松幹事 会社法人等番号がない法人は外国の法人等がありますので,義務は全体にというふうに一応は想定していました。それを切り分けるかどうかという問題が引き続きあるという御指摘いただきましたけれども,そういうことです。
それから,紐付けの申出みたいなものについて,これもいわゆる登記申請とちょっと異なりますので,ある程度管轄に縛られないようにすべきではないかという御指摘を以前から頂いておりまして,一応その方向で検討するということで,検討を進めているというところです。
○山野目部会長 大規模な企業が合併したりするときの名称と住所の変更の登記を個別にわーっとやらなくてはいけないか,それともどこかでワンストップでするとそれで済むかといったような局面を考えると,藤野委員が御心配のように,それはやり方によっては大変な負担になりますから,そういうことについて,広い意味での国民に含まれる法人事業者に可能な限り負担が無用に重くならないようにする配慮ということの御注意はごもっともであると感じました。ありがとうございます。
引き続き意見を伺います。いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
○今川委員 第2の1の氏名又は名称及び住所の変更の登記の申請の義務付けについてですが,登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の住所等の変更情報を取得して不動産登記に反映させるための仕組みを設ける,その前提としてこの義務化が必要だというのであれば,その限りにおいて,①の規律には賛成であります。ただ,基本的に②の過料については,やはり消極意見が多いです。登記名義人の負担が大きくなる可能性があるということと,これは相続登記についてもいえるのですけれども,登記官が正当な理由がない場合というのを判断する場面がどのような場面なのか,その実効性に疑問であるということと,登記官が職権で登記をするという制度を認めていくということと過料との関係がうまく整理できないというのが理由であります。
幾つか質問があるのですが,住所について,区制が施行されたとか住居表示が実施されたといった当事者の行為に基づかないものは,もちろん義務化の対象外ということでよろしいですねということと,住所を間違っていたという場合もあるのですが,その更正登記をすることについて,これは対象内でしょうか,対象外でしょうかというのが質問です。
それから,これも非常に細かいお話になるのですが,数回の住所変更があった場合の起算点はいつになるのかと,それぞれの変更の日から起算されるのであろうとは思いますが,そこも一応確認をさせてください。
それと,職権でもできるということは,当事者が申請をした場合には非課税なのですねという質問です。
それと,この本文の規律が施行されたときに既に所有権の登記名義人の住所や氏名について変更がある場合はどのように取り扱うか,相続登記と同じように,これにも義務を課していくのか,施行の際,既に住所,氏名に変更がある,その登記をまだしていないというものについてはどういうふうな扱いをするのかということを教えてください。
それから,2の登記所が氏名又は名称及び住所の変更情報を不動産登記に反映させるための仕組み,これも賛成であります。これも幾つか質問があるのですが,登記名義人が自然人で,登記官が申出があるときに限って住所変更等を職権で行うという規律になっていますが,これは職権で変更登記をする前に登記名義人に通知をする,その返事がない場合というか,その返事によっては,これは登記官が正当な理由があるかないかということを知る機会になって,この場合には過料の制裁につながる可能性があるのかという点であります。
それから,この仕組みについて,詳細は法務省令で定められると思いますが,申出がある場合に職権登記をするという規律の仕方について,この申出という文言が,別途申出行為が必要なのかということとか,申出があると職権で登記するというのは,いつでも登記名義人が申出をすれば職権で登記をしてもらえるのかとも読めるので,これは単に異議がない旨の返答とか,そういう意味ですねという質問であります。
それから,第3の登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得する仕組みも,これは賛成です。要望ですけれども,検索用情報については今後,省令で定まるとなっておりますが,是非外国人の場合はアルファベット表記等も検索情報としていただくようお願いをしたいと思っております。
それと,高齢者消除は,その情報を入手した場合,死亡の情報ではないので,含めていいのだろうかという意見がやはりありまして,含めるなら,その理由をもう少し示していただきたいという意見がありました。
○山野目部会長 御意見は頂きました。司法書士会の意見をお取りまとめいただきましてありがとうございます。何点かにわたり事務当局に対する質問がありましたから,回答を差し上げます。
○村松幹事 住所の変更の関係は,住居表示の変更とかその辺りは義務の対象外かということかの確認でございますが,対象外だと理解しています。それから,誤ったケースというのは,登記官が間違って登記してしまったという,たまになくはないかもしれません,そういうケースでしょうか。
○今川委員 申請人が間違っていたという。そのまま登記が通って,そのまま登記が存置している状況。
○村松幹事 総じて言って,登記官も見逃しているということだと思いますので,そういったケースについては,義務が掛からないというのか,過料がないというのか,あれですけれども,それは本来,更正の登記で是正されるべきだと思いますので,ここの規律の直接の対象として想定されるものではないだろうと思います。
それから,数回にわたって住所変更があるようなケース,それぞれのタイミングから義務がスタートするのかということだと思いますけれども,それは観念的にはそのとおりであります。
あと,申請のケースに関しての課税の在り方というところです。
改めて,登録免許税の課税の在り方については,この部会では検討がされず,政府全体といいますか,与党も含めて申しますと,政府と与党の税制調査会というものがありますので,具体的な検討はそういった場所で行われます。与党税制調査会の令和3年度税制改正大綱が12月10日に決定されておりますけれども,法務省や与党法務部会からの要望も踏まえて,この所有者不明土地等問題の解消に向けての税の在り方,必要な措置については令和4年度税制改正において検討されるということがしっかり書き込まれたところでございます。令和4年度の税制改正というのは,実際,来年のそれこそ今ぐらいの時期に最終結論が出る,そういうタイミングになるのが通例かと思いますが,不動産登記法の改正案を踏まえて,そこで議論がされるということがスケジュール的にはもう決まっているというところになっておりまして,具体的にはそこでの御議論を待つことになるというところだと思っております。
その上で,どれぐらいのものとしてこの申出を理解していくのかという辺りが,恐らくその申請のケースも含めて,関連してくるところだと思っておりますけれども,基本的にはここでいう申出というのは,非常に軽いものを想定しているというところであります。主眼としては,御本人の意思を確認して,問題ないですねということの確認ができれば,それでよいと,基本的に必要な内容はそこに尽きてきますので,その部分の確認だけをごく簡単にやらせていただくということで,今までの登記申請よりも,ここも同じですけれども,非常に軽い手続を,できるだけ負担のない手続として想定しております。登記官側の方から,少なくとも積極的にアクションする形にして,その申請を待たなくても大丈夫だという形にはしたいと思っております。
他方,検索のタイミングというのは,少しタイムラグがもちろんありますので,その間にその変更がしたいということ,これは当然あり得る話だと思いますので,そこについてある種の,本当の意味での確認というよりは,どちらかというと積極的な申出が所有権の登記名義人側からあるということはあり得ると思っておりまして,こういうケースについてもある程度職権的に対応できないかということで,一応そこはそういう検討をしたいと考えてございます。おっしゃるように,細部についてはまたこの省令も含めて,この施行の段階までの間に更に詰めることが可能なものにはなりますけれども,そういったところを考えております。
あと,少し戻りますが,施行時に既に所有権の登記名義人となっている方についても義務を掛けるのかどうかという部分です。相続登記については,若干の反対意見というお話も出ておりますけれども,賛成の御意見の方が多く,従前のものについても適用するという形になっておりますので,住所変更についても同じではないかという考え方も十分にあろうかと思います。弁護士会からの御意見にありましたように,これが既存分についても同じ2年で行くのか,それともやはり少し延ばしておくのかという部分はあるかもしれませんけれども,同じように義務を掛けておくという選択肢もあるのではないかと考えておりまして,ここは今回の議論状況を踏まえて,また検討してみたいと思っておりますし,この後,御意見を頂ければ幸いだというところになってございます。
それから,正当な理由の有無との関係です。ここは相続登記の部分でも出てまいりますけれども,主観的要件あるいは正当な理由の有無,ここらについてしっかりと法務局側で確認する。間違っても,取りあえず裁判所に過料通知しておくので,もし問題があるのだったら裁判所に言ってくださいとか,こういったような運用にはもちろんならないように,丁寧で慎重な手続をここは想定する必要があるというのを申し上げています。その意味で,相続登記についてもそうでございますし,また,この住所変更についても,相続登記と比べると判断要素が少ないように見えるかもしれませんけれども,やはり正当な理由の有無として非常に深刻な部分もあります。自分はDV被害者だと思っているとか,犯罪被害者の要件に当たると思っているとか,そういった方も当然いらっしゃいますので,そこの部分について余り軽々に,例えば,一度通知をしたときにそういうことをおっしゃっていなかったけれども,自分でやるとおっしゃっていましたねと,なのに2年経過してもまだされていませんよということがあるかも分かりませんが,そのときに,当然登記をすることができたはずでしょうといえるかどうかは,確認を経ませんとなりません。そういった被害に遭うなどの状況は時々刻々と動き得ますので,そういったところはもちろん丁寧に確認をしなくてはいけないということを念頭においております。そういった辺りは登記所側でしっかりとした手続を踏んだ上で,裁判所の方に対する過料通知をやらせていただいて,それこそ当事者の皆様にも裁判所にも御迷惑をお掛けするというものにはしないというのが適切ではないかと考えているところです。
○山野目部会長 よろしゅうございますか。
○今川委員 はい,結構です。
○山野目部会長 今川委員から頂いた御質問を契機として,委員,幹事に御案内を差し上げておきます。この部会資料53で扱っている様々な事項の全般を通じて,経過措置をどのようにすべきかということについては網羅的な提案は差し上げておりません。法制審議会における調査審議の慣行といたしまして,一般にここで経過措置についてまで委員,幹事の御議論によって一つの方向をまとめるということは今までされてまいりませんでした。それと同時に,しかし例外が全くなかったものでもなくて,やはり構想されている規律の社会経済における影響とか政策的効果の観点から見て,経過措置が実は非常に重要な意味を持つというような事項につきましては,ここでの審議を頂いてきたという経過もございます。
部会資料53に掲げている事項でいいますと,相続登記の義務付けは,従来のものについても適用するかどうかが我が国の不動産登記制度の運用,ひいては所有者不明土地問題の解決の在り方に非常に重要な影響をもたらすものですから,注記の仕方で経過措置についての大づかみな構想をお示ししたところであります。それ以外の事項については経過措置の案を示しておりませんけれども,もちろんそれは議論を妨げる趣旨ではありませんで,御疑問に感じていただいたところは,ただいまの今川委員の住所変更の登記の義務付けに係る経過措置の在り様のお尋ねのような仕方で,御遠慮なくお出しいただきたいと望みます。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。第2の1と2の関係について2点,質問がございます。
一つは,先ほど村松さんがお答えになったのかなと思っておるのですけれども,変更登記の申請が2年以内にされない場合に5万円以下の過料に処するという,この罰則規定が設けられた際に,具体的にどのような発動の仕方になるのかということについてです。2年の期間を設けたというのは,すべからくではないのかもしれませんが,基本的に2の職権による登記もにらみながら,職権による登記をする前提として,住所変更があったので変更しませんかという照会を掛けたところ,申出を断るというようなことを名義人が言ってきた,その結果,2年の期間を経過してしまった。そのようなときに過料の制裁があり得るところ,そこで申出を断ったことについて正当な理由が基本的には問われることになるのだ,それ以外に,例えば職権の登記の促しが全くなかったところ,たまたま,2年経過していましたね,はい,あなたは過料を支払わなければなりません,というようなことは基本的には想定されていないということでよろしいでしょうか,というのが1点目です。
2点目は,先ほど今川委員がおっしゃった,変更登記の申請をしたときに,登録免許税が掛かるのかという話なのですが,それは今後決まることですというお話が村松さんからあったのですけれども,それも含めて,仮に登記申請を自らしたときの方が不利だということになった場合,職権の登記をしようと思うのですがいかがですかという照会が登記所からあり,それに対して申し出るということを待たず,自分が窓口に行って,実は住所の記録を変更したのですが,変更申請ではなくて職権の登記を申し出たいと言った場合は,これは受け付けてもらえるのか,受け付けてもらえないのか。受け付けないということはあり得ると思うのですけれども,受け付けなかったら,では,職権の登記の照会があるのを待ちますという態度に出られてしまうこともありうるのではないかというような気がします。要領を得ない言い方になっていますけれども,この登記の申請と申出は,一体どういうすみ分けがされるということを考えられているのか,特に,例えば登録免許税が掛かるということになった場合どうなのか,ということを伺いたいと思いました。
○村松幹事 まず1点目ですけれども,恐らく大枠はおっしゃっているとおりだと思っております。法務局側で定期的な検索をした上での照会を行うというのが前提になっておりまして,この照会もされないのに2年が経過して過料に問われるという事態にはもちろんならない。そのような期間として,一応2年を設定してはどうかと考えてございます。なので,申出を,理由があるのかはないのかは客観的にはよく分からない状況かもしれませんけれども,今はしないというお話をされたのだけれども,その後,経過したようなケース,こういったケースについては過料の制裁が具体的に発動し得る状況にはなります。ただ,そうは言いましても,もちろん,正当な理由の有無を確認し,精査する必要があるというのは,先ほど来申し上げているとおりです。
あと,典型的にこの枠組みの外に出てしまう外国居住の方たちに関しては,直接的に,しかし罰則付きで,しっかりと対応していただきたいということを御説明することにはなりますが,こちらについても正当な理由については同じような枠組みで捉えるのだろうと,過料の制裁の枠組みは同じように運用をするのだろうと思っております。
それから,職権で行うわけですけれども,申出というものをどのように位置付けるのかというところで,ここは先ほど今川委員からも御指摘があった部分ですけれども,窓口に来て,住所変更が必要なのだけれども,職権でやってもらえないのかという部分が当然あり得るところになってまいりますので,そういった部分については個別の,本当の意味での職権発動の促しに近い部分になってきますけれども,そういった促しの部分に関して,法務局側で対応するということも十分あり得るのではないかとは感じておるところです。
このあたりは登録免許税の在り方によっても多少説明の仕方が変わり得る部分はあるのかもしれないなとは考えておりますけれども,法務局側での事務の営みとしては,できるだけそういった方向で考えられないかなということでは考えております。ここで申出といっておりますけれども,基本的な考え方としては,必要な書類を全て備えて登録すべき情報もしっかりと自分で記載して住所変更の登記の申請をするという従来のものと比べると,登記所側で必要な情報などは検索を行って把握していくということで,申請のケースと,申出に基づく,しかし,職権性の強い変更登記のケースとでは,その在り方に区別があるということでございます。
○山野目部会長 佐久間幹事,いかがでございましょうか。
○佐久間幹事 結構です。ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。第2のところは特にそうなのですが,実務的にかなり各会社,関心の高いところですので,何点か質問させていただければと思います。
まず第2の2の,変更情報を法人登記のシステムから取得して職権で反映していただくということについては,非常に合理的な対応であり,賛成したいと思っておるのですが,少し気になっておりますのは,第2の1のいわゆる過料を伴う義務付けの話と,2の関係でございまして,先ほどもちらっとどなたかから御意見があったかもしれませんが,職権登記が期待できる,というような状況にあることが,第2の1の②の過料に処するかどうかの要件とされている,正当な理由がないのに,というところと関わってくるのかどうか。例えば,商業法人登記システムの方ではきちんと住所変更,名所変更の申請をしていたということによって,別途,その法人が所有権の登記名義人としては名称や住所の変更の登記申請をしていなかったとしても,正当な理由ありということになるのかどうかというところは,教えていただければと思っています。
もう一つ,会社の法人等番号とリンクしていただくというところは今後の話,といいますか,ここに出てきているのは,これから新たに会社法人番号を登記事項としてリンクできるようにするという話なのかなと思っております。ただ,一方でこれまでの部会資料の中では,既に登記されている不動産等についても会社法人等番号とのひも付けをするというような話も頂いていたかと思うところでございまして,そうなってきたときに,今回,第2の2の職権でやっていただけるというメリットを及ぼそうと思ったときにどうすればいいのかという話がやはり出てくるのかなと。
以前,第16回の部会だったかと思いますが,御質問させていただいたときは,いわゆる変更登記の申請というよりは,何か違う申出のようなものでやるというような話もちらっと頂いていたかとは思うのですが,今回,部会資料に特に具体的にそのような形では書かれていなかったものですから,ここはどういう形になるのか。今まで登記事項でなかったものが新たに入るということなので,過去のものに全部遡って,では変更登記で登録免許税を負担してやってくださいという話になってくると,これはかなりハレーションが大きいというか,コスト的な負担がかなり大きいということになってしまいますので,できればそのようなことがない形で整理していただけるといいのかなと思うところですので,そこを確認させていただければと思っております。
以上,2点でございます。
○山野目部会長 ただいまの話も経過措置に関わる側面がございます。事務当局の方で現段階で考えていることをお話しください。
○村松幹事 まず質問の1点目ですけれども,おっしゃるとおり,職権でやるというのを制度的には全般的に一体として仕組んでいるというところでございますので,正当な理由の判断にそこは反映するというのは御指摘のとおりで考えてございます。
それから,会社法人等番号を変更登記の形で,既に登記が入っている部分については,入れる必要があります。これは,そういう意味では申請などで起こる問題ではありますけれども,ある種,経過措置的な問題ということになりますので,部会長からも御指摘がありましたように,これは経過措置の中で,その変更の登記についてどのような位置付けをするのかということは考える必要があるかなと思っております。職権的な対応をここもするのかどうかというところは検討ポイントだと思っておりますので,そこは今回,特に資料を出しておりませんけれども,経過措置の検討の中で検討してみたいと思います。
○山野目部会長 藤野委員,いかがでしょうか。
○藤野委員 ありがとうございます。今まで登記事項ではないけれども,例えば添付情報などで出していますという話もある中で,そこから拾って職権で登記してくださいというのは余りにもハードルが高すぎるかなと思うのですが,一方で,何を登記と呼ぶかという先ほどの話とも関わってくるのですけれども,そこがすごく登記名義人側に重い手間の掛かるやり方でしかできない,ということになってしまうと,せっかく入れていただいた制度が定着せず,かつ,下手をすると多くの法人が過料のリスクまで負うということになってしまうので,そこのところは慎重な御検討をお願いできればと思っております。
○山野目部会長 御意見ないし御要望を承りました。
ほかにいかがでしょうか。
○橋本幹事 日弁連としての意見を申し上げたいと思うのですが,ここについても今回も従前と同様の意見が多数でありました。既に大勢が決している感じはあるのですが,ここについても抽象的義務にとどめるべきであって,過料の制裁については反対であるという意見が多数でした。
2に関しては賛成でありますが,過料の制裁を課するについても,先ほど村松課長がおっしゃっていたように,正当な理由に関してはきちんと通達で明確化するという手当てをきちんとしていただきたいと考えております。
第3なのですが,ここについても基本的に賛成です。方向性として賛成なのですが,前回の部会資料38のときにも申し上げましたが,連携先の情報システムについては,現時点ではなかなか難しいという補足説明ではありますが,やはり将来的には戸籍副本データシステムとの連携というものについては諦めないで,システム構築を引き続き目指していっていただきたいと考えています。
○山野目部会長 弁護士会の御意見を頂き,ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
特段,委員,幹事から御発言がなければ,ここの段階で,先ほど岩井幹事から問題提起を頂き,山本幹事がお見えでなかったところから,審議をしばらく留保しておきましょうと御案内していた事項について,御相談をさせていただきます。山本幹事におかれては,お忙しいところお越こしを頂きましてありがとうございます。
岩井幹事の方からお話がありましたとおり,部会資料53の7ページの補足説明のところにおきましては,相続人申告登記が相続人の申出によってするという仕組みにされておりますところ,その申出を却下する登記官の措置,あるいは,その申出に対して登記官が何も応答をしないといったような対応があった場合について,これらの事態を行政事件訴訟法や行政不服審査請求の手続における抗告訴訟や審査請求の対象として扱うという考え方が示されており,あわせて,相続人申告登記の申出の手続や登記に関し必要な事項を法務省令に委任するということも想定しているところでございますが,これについて岩井幹事から,果たして職権で登記官がするという仕組みになっていることと,審査請求,抗告訴訟の対象となると思考整理をすることとの間に整合性が確保されているかといった点は更に検討してほしいという御要望があり,また,相続人申告登記に係る細目の事項について,申請人の申出に対する措置,具体的には却下の事由等を定めることにわたって,法務省令への委任をするという方向は相当ではなく,法律事項として考えるべきではないかという御示唆を頂いたところであります。
これについては,御案内いたしましたように,行政事件訴訟法等の解釈運用,理解が関わる部分がございます。山本幹事の御意見を聴いた上で,更に委員,幹事の御意見を広く承ってまいりたいと考えます。恐れ入りますが,山本幹事におかれてお感じになっていることを御紹介いただければ有り難いと望みます。
○山本幹事 今伺ったところですので,それほど考えがまとまっているわけではないのですけれども,資料を拝見いたしますと,行政事件訴訟法及び行政手続法,行政不服審査法上は,申請に対する処分として,申出を申請とし,それに対する却下の処分は申請に対する処分であると整理をすると,ただ,通常の申請の場合に比べると行政側で進める手続の部分が大きいため,不動産登記法上は申出という表現を使い,申出という手続をとると理解いたしましたので,一応そのように説明は付くのではないかと思います。
確かに法律で定めた方が明確であることは間違いないので,何らかの形で法律上,申請の仕組みにすることについて手掛かりを置いておいた方が明確であるとは思います。ただ,省令に委任をして,法律の解釈で申請の仕組みをとることまで委任しているといえれば,ぎりぎりそれでも大丈夫という感じはいたします。近時の最高裁の判例において,処分性をかなり法律の解釈でもって認めています。具体的に法文を作る段階で少し検討する必要が出てくるのではないかと思いますけれども,ぎりぎり法律の解釈で申請の仕組みをとることが読めれば,それも可能ではないかと思います。
○山野目部会長 山本幹事におかれましては,唐突に御指名を差し上げたにもかかわらず,有益な御教示を頂きまして,ありがとうございます。岩井幹事,山本幹事から問題提起を頂いた事項について,委員,幹事から御意見がありますれば承ります。いかがでしょうか。
特段なくていらっしゃいますでしょうか。そうしましたならば,岩井幹事及び山本幹事から頂いた意見を踏まえて,御指摘のあった点について事務当局において検討を続けることにいたします。
あわせて,岩井幹事にお願いとして,裁判所においても行政訴訟の仕組みについて専門的に研究しているセクションの方にお伝えいただきたいことを2点に分けて御案内を差し上げるといたしますと,一つは,今般構想されている相続人申告登記は,それを履践すれば相続登記の義務付けに係る過料の制裁を免れる等の関係から,申請人となる国民の権利義務に重要な影響をもたらすものでございます。したがいまして,その申出があったのに対して登記官がする措置や対応は,そのような意味において国民の権利義務に重要な影響を与える性格を持つと感じられます。そのことを更に御検討いただきたいとお願いします。
それから,もう1点,併せて参考に御案内いたしますけれども,不動産登記法27条3号のいわゆる表題部所有者の記録は,表題登記の申請があったときに,それを受けて登記官がするときがございますけれども,あわせて同法28条,29条の規定に基づいて,登記官の調査により職権でするということも可能であるというふうな仕組みにされてございます。職権でされる場合であると申請でされる場合であるとを問わず,性質上の区別なく,これについての登記官の処分は,平成9年3月11日の最高裁判所の判例によりますと,抗告訴訟の対象となる処分としての性格を持つと考えられているところでございます。このような隣接場面の従前の判例上の取扱いも参考にしていただき,御案内申し上げましたように事務当局においても検討いたしますけれども,裁判所の御専門の分野においてもなお検討を深めていただき,意見交換を続けていただきたいと望むものでございます。御指摘を頂きまして,どうもありがとうございました。
第2,第3の部分について,ほかに御意見はなくていらっしゃいますでしょうか。よろしゅうございますか。
第3 登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得するための仕組み
相続の発生や氏名又は名称及び住所の変更を不動産登記に反映させるための方策を採る前提として、登記所が住民基本台帳ネットワークシステムから所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得するため、次のような仕組みを設けるものとする。
① 自然人である所有権の登記名義人は、登記官に対し、自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産について、氏名及び住所の情報に加えて、生年月日等の情報(検索用情報)(注)を提供するものとする。この場合において、検索用情報は登記記録上に公示せず、登記所内部において保有するデータとして扱うものとする。
② 登記官は、氏名、住所及び検索用情報を検索キーとして、住民基本台帳ネットワークシステムに定期的に照会を行うなどして自然人である登記名義人の死亡の事実や氏名又は名称及び住所の変更の事実を把握するものとする。
(注)上記の新たな仕組みに係る規定の施行後においては、新たに所有権の登記名義人となる者は、その登記申請の際に、検索用情報の提供を必ず行うものとする。当該規定の施行前に既に所有権の登記名義人となっている者については、その不動産の特定に必要な情報、自己が当該不動産の登記名義人であることを証する情報及び検索用情報の内容を証する情報とともに、検索用情報の提供を任意に行うことができるものとする。
引き続き,部会資料53についてお諮りを致します。「第2 所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所の更新を図るための仕組み」及び「第3 登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得するための仕組み」,この二つの柱でございますから,部会資料で申しますと,補足説明まで含めますと15ページまでの範囲でございますけれども,この範囲につきまして御意見を承ります。いかがでしょうか。
○今川委員 第2の1の氏名又は名称及び住所の変更の登記の申請の義務付けについてですが,登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の住所等の変更情報を取得して不動産登記に反映させるための仕組みを設ける,その前提としてこの義務化が必要だというのであれば,その限りにおいて,①の規律には賛成であります。ただ,基本的に②の過料については,やはり消極意見が多いです。登記名義人の負担が大きくなる可能性があるということと,これは相続登記についてもいえるのですけれども,登記官が正当な理由がない場合というのを判断する場面がどのような場面なのか,その実効性に疑問であるということと,登記官が職権で登記をするという制度を認めていくということと過料との関係がうまく整理できないというのが理由であります。
幾つか質問があるのですが,住所について,区制が施行されたとか住居表示が実施されたといった当事者の行為に基づかないものは,もちろん義務化の対象外ということでよろしいですねということと,住所を間違っていたという場合もあるのですが,その更正登記をすることについて,これは対象内でしょうか,対象外でしょうかというのが質問です。
それから,これも非常に細かいお話になるのですが,数回の住所変更があった場合の起算点はいつになるのかと,それぞれの変更の日から起算されるのであろうとは思いますが,そこも一応確認をさせてください。
それと,職権でもできるということは,当事者が申請をした場合には非課税なのですねという質問です。
それと,この本文の規律が施行されたときに既に所有権の登記名義人の住所や氏名について変更がある場合はどのように取り扱うか,相続登記と同じように,これにも義務を課していくのか,施行の際,既に住所,氏名に変更がある,その登記をまだしていないというものについてはどういうふうな扱いをするのかということを教えてください。
それから,2の登記所が氏名又は名称及び住所の変更情報を不動産登記に反映させるための仕組み,これも賛成であります。これも幾つか質問があるのですが,登記名義人が自然人で,登記官が申出があるときに限って住所変更等を職権で行うという規律になっていますが,これは職権で変更登記をする前に登記名義人に通知をする,その返事がない場合というか,その返事によっては,これは登記官が正当な理由があるかないかということを知る機会になって,この場合には過料の制裁につながる可能性があるのかという点であります。
それから,この仕組みについて,詳細は法務省令で定められると思いますが,申出がある場合に職権登記をするという規律の仕方について,この申出という文言が,別途申出行為が必要なのかということとか,申出があると職権で登記するというのは,いつでも登記名義人が申出をすれば職権で登記をしてもらえるのかとも読めるので,これは単に異議がない旨の返答とか,そういう意味ですねという質問であります。
それから,第3の登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人の死亡情報や氏名又は名称及び住所の変更情報を取得する仕組みも,これは賛成です。要望ですけれども,検索用情報については今後,省令で定まるとなっておりますが,是非外国人の場合はアルファベット表記等も検索情報としていただくようお願いをしたいと思っております。
それと,高齢者消除は,その情報を入手した場合,死亡の情報ではないので,含めていいのだろうかという意見がやはりありまして,含めるなら,その理由をもう少し示していただきたいという意見がありました。
○山野目部会長 御意見は頂きました。司法書士会の意見をお取りまとめいただきましてありがとうございます。何点かにわたり事務当局に対する質問がありましたから,回答を差し上げます。
○村松幹事 住所の変更の関係は,住居表示の変更とかその辺りは義務の対象外かということかの確認でございますが,対象外だと理解しています。それから,誤ったケースというのは,登記官が間違って登記してしまったという,たまになくはないかもしれません,そういうケースでしょうか。
○今川委員 申請人が間違っていたという。そのまま登記が通って,そのまま登記が存置している状況。
○村松幹事 総じて言って,登記官も見逃しているということだと思いますので,そういったケースについては,義務が掛からないというのか,過料がないというのか,あれですけれども,それは本来,更正の登記で是正されるべきだと思いますので,ここの規律の直接の対象として想定されるものではないだろうと思います。
それから,数回にわたって住所変更があるようなケース,それぞれのタイミングから義務がスタートするのかということだと思いますけれども,それは観念的にはそのとおりであります。
あと,申請のケースに関しての課税の在り方というところです。
改めて,登録免許税の課税の在り方については,この部会では検討がされず,政府全体といいますか,与党も含めて申しますと,政府と与党の税制調査会というものがありますので,具体的な検討はそういった場所で行われます。与党税制調査会の令和3年度税制改正大綱が12月10日に決定されておりますけれども,法務省や与党法務部会からの要望も踏まえて,この所有者不明土地等問題の解消に向けての税の在り方,必要な措置については令和4年度税制改正において検討されるということがしっかり書き込まれたところでございます。令和4年度の税制改正というのは,実際,来年のそれこそ今ぐらいの時期に最終結論が出る,そういうタイミングになるのが通例かと思いますが,不動産登記法の改正案を踏まえて,そこで議論がされるということがスケジュール的にはもう決まっているというところになっておりまして,具体的にはそこでの御議論を待つことになるというところだと思っております。
その上で,どれぐらいのものとしてこの申出を理解していくのかという辺りが,恐らくその申請のケースも含めて,関連してくるところだと思っておりますけれども,基本的にはここでいう申出というのは,非常に軽いものを想定しているというところであります。主眼としては,御本人の意思を確認して,問題ないですねということの確認ができれば,それでよいと,基本的に必要な内容はそこに尽きてきますので,その部分の確認だけをごく簡単にやらせていただくということで,今までの登記申請よりも,ここも同じですけれども,非常に軽い手続を,できるだけ負担のない手続として想定しております。登記官側の方から,少なくとも積極的にアクションする形にして,その申請を待たなくても大丈夫だという形にはしたいと思っております。
他方,検索のタイミングというのは,少しタイムラグがもちろんありますので,その間にその変更がしたいということ,これは当然あり得る話だと思いますので,そこについてある種の,本当の意味での確認というよりは,どちらかというと積極的な申出が所有権の登記名義人側からあるということはあり得ると思っておりまして,こういうケースについてもある程度職権的に対応できないかということで,一応そこはそういう検討をしたいと考えてございます。おっしゃるように,細部についてはまたこの省令も含めて,この施行の段階までの間に更に詰めることが可能なものにはなりますけれども,そういったところを考えております。
あと,少し戻りますが,施行時に既に所有権の登記名義人となっている方についても義務を掛けるのかどうかという部分です。相続登記については,若干の反対意見というお話も出ておりますけれども,賛成の御意見の方が多く,従前のものについても適用するという形になっておりますので,住所変更についても同じではないかという考え方も十分にあろうかと思います。弁護士会からの御意見にありましたように,これが既存分についても同じ2年で行くのか,それともやはり少し延ばしておくのかという部分はあるかもしれませんけれども,同じように義務を掛けておくという選択肢もあるのではないかと考えておりまして,ここは今回の議論状況を踏まえて,また検討してみたいと思っておりますし,この後,御意見を頂ければ幸いだというところになってございます。
それから,正当な理由の有無との関係です。ここは相続登記の部分でも出てまいりますけれども,主観的要件あるいは正当な理由の有無,ここらについてしっかりと法務局側で確認する。間違っても,取りあえず裁判所に過料通知しておくので,もし問題があるのだったら裁判所に言ってくださいとか,こういったような運用にはもちろんならないように,丁寧で慎重な手続をここは想定する必要があるというのを申し上げています。その意味で,相続登記についてもそうでございますし,また,この住所変更についても,相続登記と比べると判断要素が少ないように見えるかもしれませんけれども,やはり正当な理由の有無として非常に深刻な部分もあります。自分はDV被害者だと思っているとか,犯罪被害者の要件に当たると思っているとか,そういった方も当然いらっしゃいますので,そこの部分について余り軽々に,例えば,一度通知をしたときにそういうことをおっしゃっていなかったけれども,自分でやるとおっしゃっていましたねと,なのに2年経過してもまだされていませんよということがあるかも分かりませんが,そのときに,当然登記をすることができたはずでしょうといえるかどうかは,確認を経ませんとなりません。そういった被害に遭うなどの状況は時々刻々と動き得ますので,そういったところはもちろん丁寧に確認をしなくてはいけないということを念頭においております。そういった辺りは登記所側でしっかりとした手続を踏んだ上で,裁判所の方に対する過料通知をやらせていただいて,それこそ当事者の皆様にも裁判所にも御迷惑をお掛けするというものにはしないというのが適切ではないかと考えているところです。
○山野目部会長 よろしゅうございますか。
○今川委員 はい,結構です。
○山野目部会長 今川委員から頂いた御質問を契機として,委員,幹事に御案内を差し上げておきます。この部会資料53で扱っている様々な事項の全般を通じて,経過措置をどのようにすべきかということについては網羅的な提案は差し上げておりません。法制審議会における調査審議の慣行といたしまして,一般にここで経過措置についてまで委員,幹事の御議論によって一つの方向をまとめるということは今までされてまいりませんでした。それと同時に,しかし例外が全くなかったものでもなくて,やはり構想されている規律の社会経済における影響とか政策的効果の観点から見て,経過措置が実は非常に重要な意味を持つというような事項につきましては,ここでの審議を頂いてきたという経過もございます。
部会資料53に掲げている事項でいいますと,相続登記の義務付けは,従来のものについても適用するかどうかが我が国の不動産登記制度の運用,ひいては所有者不明土地問題の解決の在り方に非常に重要な影響をもたらすものですから,注記の仕方で経過措置についての大づかみな構想をお示ししたところであります。それ以外の事項については経過措置の案を示しておりませんけれども,もちろんそれは議論を妨げる趣旨ではありませんで,御疑問に感じていただいたところは,ただいまの今川委員の住所変更の登記の義務付けに係る経過措置の在り様のお尋ねのような仕方で,御遠慮なくお出しいただきたいと望みます。佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。第2の1と2の関係について2点,質問がございます。
一つは,先ほど村松さんがお答えになったのかなと思っておるのですけれども,変更登記の申請が2年以内にされない場合に5万円以下の過料に処するという,この罰則規定が設けられた際に,具体的にどのような発動の仕方になるのかということについてです。2年の期間を設けたというのは,すべからくではないのかもしれませんが,基本的に2の職権による登記もにらみながら,職権による登記をする前提として,住所変更があったので変更しませんかという照会を掛けたところ,申出を断るというようなことを名義人が言ってきた,その結果,2年の期間を経過してしまった。そのようなときに過料の制裁があり得るところ,そこで申出を断ったことについて正当な理由が基本的には問われることになるのだ,それ以外に,例えば職権の登記の促しが全くなかったところ,たまたま,2年経過していましたね,はい,あなたは過料を支払わなければなりません,というようなことは基本的には想定されていないということでよろしいでしょうか,というのが1点目です。
2点目は,先ほど今川委員がおっしゃった,変更登記の申請をしたときに,登録免許税が掛かるのかという話なのですが,それは今後決まることですというお話が村松さんからあったのですけれども,それも含めて,仮に登記申請を自らしたときの方が不利だということになった場合,職権の登記をしようと思うのですがいかがですかという照会が登記所からあり,それに対して申し出るということを待たず,自分が窓口に行って,実は住所の記録を変更したのですが,変更申請ではなくて職権の登記を申し出たいと言った場合は,これは受け付けてもらえるのか,受け付けてもらえないのか。受け付けないということはあり得ると思うのですけれども,受け付けなかったら,では,職権の登記の照会があるのを待ちますという態度に出られてしまうこともありうるのではないかというような気がします。要領を得ない言い方になっていますけれども,この登記の申請と申出は,一体どういうすみ分けがされるということを考えられているのか,特に,例えば登録免許税が掛かるということになった場合どうなのか,ということを伺いたいと思いました。
○村松幹事 まず1点目ですけれども,恐らく大枠はおっしゃっているとおりだと思っております。法務局側で定期的な検索をした上での照会を行うというのが前提になっておりまして,この照会もされないのに2年が経過して過料に問われるという事態にはもちろんならない。そのような期間として,一応2年を設定してはどうかと考えてございます。なので,申出を,理由があるのかはないのかは客観的にはよく分からない状況かもしれませんけれども,今はしないというお話をされたのだけれども,その後,経過したようなケース,こういったケースについては過料の制裁が具体的に発動し得る状況にはなります。ただ,そうは言いましても,もちろん,正当な理由の有無を確認し,精査する必要があるというのは,先ほど来申し上げているとおりです。
あと,典型的にこの枠組みの外に出てしまう外国居住の方たちに関しては,直接的に,しかし罰則付きで,しっかりと対応していただきたいということを御説明することにはなりますが,こちらについても正当な理由については同じような枠組みで捉えるのだろうと,過料の制裁の枠組みは同じように運用をするのだろうと思っております。
それから,職権で行うわけですけれども,申出というものをどのように位置付けるのかというところで,ここは先ほど今川委員からも御指摘があった部分ですけれども,窓口に来て,住所変更が必要なのだけれども,職権でやってもらえないのかという部分が当然あり得るところになってまいりますので,そういった部分については個別の,本当の意味での職権発動の促しに近い部分になってきますけれども,そういった促しの部分に関して,法務局側で対応するということも十分あり得るのではないかとは感じておるところです。
このあたりは登録免許税の在り方によっても多少説明の仕方が変わり得る部分はあるのかもしれないなとは考えておりますけれども,法務局側での事務の営みとしては,できるだけそういった方向で考えられないかなということでは考えております。ここで申出といっておりますけれども,基本的な考え方としては,必要な書類を全て備えて登録すべき情報もしっかりと自分で記載して住所変更の登記の申請をするという従来のものと比べると,登記所側で必要な情報などは検索を行って把握していくということで,申請のケースと,申出に基づく,しかし,職権性の強い変更登記のケースとでは,その在り方に区別があるということでございます。
○山野目部会長 佐久間幹事,いかがでございましょうか。
○佐久間幹事 結構です。ありがとうございました。
○山野目部会長 ありがとうございます。
藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。第2のところは特にそうなのですが,実務的にかなり各会社,関心の高いところですので,何点か質問させていただければと思います。
まず第2の2の,変更情報を法人登記のシステムから取得して職権で反映していただくということについては,非常に合理的な対応であり,賛成したいと思っておるのですが,少し気になっておりますのは,第2の1のいわゆる過料を伴う義務付けの話と,2の関係でございまして,先ほどもちらっとどなたかから御意見があったかもしれませんが,職権登記が期待できる,というような状況にあることが,第2の1の②の過料に処するかどうかの要件とされている,正当な理由がないのに,というところと関わってくるのかどうか。例えば,商業法人登記システムの方ではきちんと住所変更,名所変更の申請をしていたということによって,別途,その法人が所有権の登記名義人としては名称や住所の変更の登記申請をしていなかったとしても,正当な理由ありということになるのかどうかというところは,教えていただければと思っています。
もう一つ,会社の法人等番号とリンクしていただくというところは今後の話,といいますか,ここに出てきているのは,これから新たに会社法人番号を登記事項としてリンクできるようにするという話なのかなと思っております。ただ,一方でこれまでの部会資料の中では,既に登記されている不動産等についても会社法人等番号とのひも付けをするというような話も頂いていたかと思うところでございまして,そうなってきたときに,今回,第2の2の職権でやっていただけるというメリットを及ぼそうと思ったときにどうすればいいのかという話がやはり出てくるのかなと。
以前,第16回の部会だったかと思いますが,御質問させていただいたときは,いわゆる変更登記の申請というよりは,何か違う申出のようなものでやるというような話もちらっと頂いていたかとは思うのですが,今回,部会資料に特に具体的にそのような形では書かれていなかったものですから,ここはどういう形になるのか。今まで登記事項でなかったものが新たに入るということなので,過去のものに全部遡って,では変更登記で登録免許税を負担してやってくださいという話になってくると,これはかなりハレーションが大きいというか,コスト的な負担がかなり大きいということになってしまいますので,できればそのようなことがない形で整理していただけるといいのかなと思うところですので,そこを確認させていただければと思っております。
以上,2点でございます。
○山野目部会長 ただいまの話も経過措置に関わる側面がございます。事務当局の方で現段階で考えていることをお話しください。
○村松幹事 まず質問の1点目ですけれども,おっしゃるとおり,職権でやるというのを制度的には全般的に一体として仕組んでいるというところでございますので,正当な理由の判断にそこは反映するというのは御指摘のとおりで考えてございます。
それから,会社法人等番号を変更登記の形で,既に登記が入っている部分については,入れる必要があります。これは,そういう意味では申請などで起こる問題ではありますけれども,ある種,経過措置的な問題ということになりますので,部会長からも御指摘がありましたように,これは経過措置の中で,その変更の登記についてどのような位置付けをするのかということは考える必要があるかなと思っております。職権的な対応をここもするのかどうかというところは検討ポイントだと思っておりますので,そこは今回,特に資料を出しておりませんけれども,経過措置の検討の中で検討してみたいと思います。
○山野目部会長 藤野委員,いかがでしょうか。
○藤野委員 ありがとうございます。今まで登記事項ではないけれども,例えば添付情報などで出していますという話もある中で,そこから拾って職権で登記してくださいというのは余りにもハードルが高すぎるかなと思うのですが,一方で,何を登記と呼ぶかという先ほどの話とも関わってくるのですけれども,そこがすごく登記名義人側に重い手間の掛かるやり方でしかできない,ということになってしまうと,せっかく入れていただいた制度が定着せず,かつ,下手をすると多くの法人が過料のリスクまで負うということになってしまうので,そこのところは慎重な御検討をお願いできればと思っております。
○山野目部会長 御意見ないし御要望を承りました。
ほかにいかがでしょうか。
○橋本幹事 日弁連としての意見を申し上げたいと思うのですが,ここについても今回も従前と同様の意見が多数でありました。既に大勢が決している感じはあるのですが,ここについても抽象的義務にとどめるべきであって,過料の制裁については反対であるという意見が多数でした。
2に関しては賛成でありますが,過料の制裁を課するについても,先ほど村松課長がおっしゃっていたように,正当な理由に関してはきちんと通達で明確化するという手当てをきちんとしていただきたいと考えております。
第3なのですが,ここについても基本的に賛成です。方向性として賛成なのですが,前回の部会資料38のときにも申し上げましたが,連携先の情報システムについては,現時点ではなかなか難しいという補足説明ではありますが,やはり将来的には戸籍副本データシステムとの連携というものについては諦めないで,システム構築を引き続き目指していっていただきたいと考えています。
○山野目部会長 弁護士会の御意見を頂き,ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
特段,委員,幹事から御発言がなければ,ここの段階で,先ほど岩井幹事から問題提起を頂き,山本幹事がお見えでなかったところから,審議をしばらく留保しておきましょうと御案内していた事項について,御相談をさせていただきます。山本幹事におかれては,お忙しいところお越こしを頂きましてありがとうございます。
岩井幹事の方からお話がありましたとおり,部会資料53の7ページの補足説明のところにおきましては,相続人申告登記が相続人の申出によってするという仕組みにされておりますところ,その申出を却下する登記官の措置,あるいは,その申出に対して登記官が何も応答をしないといったような対応があった場合について,これらの事態を行政事件訴訟法や行政不服審査請求の手続における抗告訴訟や審査請求の対象として扱うという考え方が示されており,あわせて,相続人申告登記の申出の手続や登記に関し必要な事項を法務省令に委任するということも想定しているところでございますが,これについて岩井幹事から,果たして職権で登記官がするという仕組みになっていることと,審査請求,抗告訴訟の対象となると思考整理をすることとの間に整合性が確保されているかといった点は更に検討してほしいという御要望があり,また,相続人申告登記に係る細目の事項について,申請人の申出に対する措置,具体的には却下の事由等を定めることにわたって,法務省令への委任をするという方向は相当ではなく,法律事項として考えるべきではないかという御示唆を頂いたところであります。
これについては,御案内いたしましたように,行政事件訴訟法等の解釈運用,理解が関わる部分がございます。山本幹事の御意見を聴いた上で,更に委員,幹事の御意見を広く承ってまいりたいと考えます。恐れ入りますが,山本幹事におかれてお感じになっていることを御紹介いただければ有り難いと望みます。
○山本幹事 今伺ったところですので,それほど考えがまとまっているわけではないのですけれども,資料を拝見いたしますと,行政事件訴訟法及び行政手続法,行政不服審査法上は,申請に対する処分として,申出を申請とし,それに対する却下の処分は申請に対する処分であると整理をすると,ただ,通常の申請の場合に比べると行政側で進める手続の部分が大きいため,不動産登記法上は申出という表現を使い,申出という手続をとると理解いたしましたので,一応そのように説明は付くのではないかと思います。
確かに法律で定めた方が明確であることは間違いないので,何らかの形で法律上,申請の仕組みにすることについて手掛かりを置いておいた方が明確であるとは思います。ただ,省令に委任をして,法律の解釈で申請の仕組みをとることまで委任しているといえれば,ぎりぎりそれでも大丈夫という感じはいたします。近時の最高裁の判例において,処分性をかなり法律の解釈でもって認めています。具体的に法文を作る段階で少し検討する必要が出てくるのではないかと思いますけれども,ぎりぎり法律の解釈で申請の仕組みをとることが読めれば,それも可能ではないかと思います。
○山野目部会長 山本幹事におかれましては,唐突に御指名を差し上げたにもかかわらず,有益な御教示を頂きまして,ありがとうございます。岩井幹事,山本幹事から問題提起を頂いた事項について,委員,幹事から御意見がありますれば承ります。いかがでしょうか。
特段なくていらっしゃいますでしょうか。そうしましたならば,岩井幹事及び山本幹事から頂いた意見を踏まえて,御指摘のあった点について事務当局において検討を続けることにいたします。
あわせて,岩井幹事にお願いとして,裁判所においても行政訴訟の仕組みについて専門的に研究しているセクションの方にお伝えいただきたいことを2点に分けて御案内を差し上げるといたしますと,一つは,今般構想されている相続人申告登記は,それを履践すれば相続登記の義務付けに係る過料の制裁を免れる等の関係から,申請人となる国民の権利義務に重要な影響をもたらすものでございます。したがいまして,その申出があったのに対して登記官がする措置や対応は,そのような意味において国民の権利義務に重要な影響を与える性格を持つと感じられます。そのことを更に御検討いただきたいとお願いします。
それから,もう1点,併せて参考に御案内いたしますけれども,不動産登記法27条3号のいわゆる表題部所有者の記録は,表題登記の申請があったときに,それを受けて登記官がするときがございますけれども,あわせて同法28条,29条の規定に基づいて,登記官の調査により職権でするということも可能であるというふうな仕組みにされてございます。職権でされる場合であると申請でされる場合であるとを問わず,性質上の区別なく,これについての登記官の処分は,平成9年3月11日の最高裁判所の判例によりますと,抗告訴訟の対象となる処分としての性格を持つと考えられているところでございます。このような隣接場面の従前の判例上の取扱いも参考にしていただき,御案内申し上げましたように事務当局においても検討いたしますけれども,裁判所の御専門の分野においてもなお検討を深めていただき,意見交換を続けていただきたいと望むものでございます。御指摘を頂きまして,どうもありがとうございました。
第2,第3の部分について,ほかに御意見はなくていらっしゃいますでしょうか。よろしゅうございますか。
第4 登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化
1 登記義務者の所在が知れない場合の一定の登記の抹消手続の簡略化
不動産登記法改正案
(買戻しの特約に関する登記の抹消)
第六十九条の二 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。 第七十条 登記権利者は、
2 前項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用する。 |
2 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続の簡略化
不動産登記法改正案
(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
第七十条の二 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から三十年を経過し、かつ、その法人の解散の日から三十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。 |
不動産登記法改正案
(情報の提供の求め) 第百五十一条 登記官は、職権による登記をし、又は第十四条第一項の地図を作成するために必要な限度で、関係地方公共団体の長その他の者に対し、その対象となる不動産の所有者等(所有権が帰属し、又は帰属していた自然人又は法人(法人でない社団又は財団を含む。)をいう。)に関する情報の提供を求めることができる。
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(1) 不動産登記法第70条第1項及び第2項に規定する公示催告及び除権決定の手続による単独での登記の抹消手続の特例として、次のような規律を設けるものとする。 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続を簡略化する方策として、次のような規律を設けるものとする。 所有権の登記の登記事項に関し、次のような規律を設けるものとする。 (1) 国内における連絡先となる者の登記 (2) 外国に住所を有する外国人についての住所証明情報の見直し 登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)の閲覧制度に関し、閲覧の可否の基準を合理化する観点等から、次のような規律を設けるものとする。 相続人による相続登記の申請を促進する観点も踏まえ、自然人及び法人を対象とする所有不動産記録証明制度(仮称)として、次のような規律を設けるものとする。 不動産登記法第119条に基づく登記事項証明書の交付等に関し、次のような規律を設けるものとする。 それでは,続けます。同じく部会資料53の「第4 登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化」について御意見を伺います。補足説明も含めますと,部会資料の19ページまでになります。この範囲で,いかがでしょうか。
1 登記義務者の所在が知れない場合の一定の登記の抹消手続の簡略化
不動産登記法第70条第1項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用する。
(2) 買戻しの特約に関する登記の抹消手続の簡略化として、次のような規律を設けるものとする。
買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を経過したときは、不動産登記法第60条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。 2 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続の簡略化
登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前記1(1)に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、当該法人の解散の日から30年を経過したときは、不動産登記法第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号(商業登記法(昭和38年法律第125号)第7条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるものを登記事項とする。 2 外国に住所を有する登記名義人の所在を把握するための方策
所有権の登記の登記事項に関し、次のような規律を設けるものとする。
所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるものを登記事項とする(注1)(注2)。
(注1)連絡先として第三者の氏名又は名称及び住所を登記する場合には、当該第三者の承諾があること、また、当該第三者は国内に住所を有するものであることを要件とする。
(注2)連絡先となる者の氏名又は名称及び住所等の登記事項に変更があった場合には、所有権の登記名義人のほか、連絡先として第三者が登記されている場合には当該第三者が単独で変更の登記の申請をすることができるものとする。
外国に住所を有する外国人(法人を含む。)が所有権の登記名義人となろうとする場合に必要となる住所証明情報については、次の①又は②のいずれかとするものとする。
① 外国政府等の発行した住所証明情報
② 住所を証明する公証人の作成に係る書面(外国政府等の発行した本人確認書類の写しが添付されたものに限る。) 3 附属書類の閲覧制度の見直し
① 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。後記②において同じ。)の閲覧を請求することができる。
② 登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面及び前記①に規定する登記簿の附属書類を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧につき正当な理由があると認められる者は、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、その全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る。)の閲覧を請求することができる。 4 所有不動産記録証明制度(仮称)の創設
① 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。後記②において同じ。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「所有不動産記録証明書(仮称)」という。)の交付を請求することができる。
② 所有権の登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、当該所有権の登記名義人の所有不動産記録証明書(仮称)の交付を請求することができる。
③ ①及び②の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。
④ 不動産登記法第119条第3項及び第4項の規定は、所有不動産記録証明書(仮称)の手数料について準用する。
(注1)ただし、現在の登記記録に記録されている所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所は過去の一定時点のものであり、必ずしもその情報が更新されているものではないことなどから、請求された登記名義人の氏名又は名称及び住所等の情報に基づいてシステム検索を行った結果を証明する所有不動産記録証明制度(仮称)は、飽くまでこれらの情報に一致したものを一覧的に証明するものであり、不動産の網羅性等に関しては技術的な限界があることが前提である。
(注2)①及び②の規律は、代理人による交付請求も許容することを前提としている。 5 被害者保護のための住所情報の公開の見直し
登記官は、不動産登記法第119条第1項及び第2項の規定にかかわらず、登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において、その者からの申出があったときは、法務省令で定めるところにより、同条第1項及び第2項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。
○今川委員 第4の1の登記義務者の所在が知れない場合の一定の登記の抹消手続の簡略化ですけれども,基本的に賛成であります。(2)の買戻しについては,本来我々は登記義務者の所在不明を要件とすべきという意見だったのですが,飽くまでも政策的なものとして,不動産登記法60条の例外として位置付けるということであれば,本来共同申請で行うべき権利の登記の抹消について,一般的に単独申請が許容されるのだというところまで広げるという趣旨ではないので,(注)にあるように,事後通知をするということを前提として,10年期間経過で単独抹消を認めるのもやむを得ないという考えであります。
そこで,確認事項ですけれども,この(注)の通知は,登記記録上の住所に宛てるしか方法はないということですねという確認です。買戻し特約の名義人について,まず,第2の住所変更の義務は所有権の登記名義人に対するものとなっていますが,買戻しの名義人は義務化の対象となるのか,ならないのかという点です。多分ならないのだろうと思うのと,買戻し特約登記の名義人については,現時点ではまだ住基ネット連携の対象にはならないですねという確認です。そうすると,登記記録上の住所はすでに旧住所であって,新住所が登記に反映されていない場合も少なくないと思いますが,登記上の住所に宛てるしか方法はないですねという確認です。それと,先ほども申しましたが,所有権の登記名義人以外の名義人の情報連携も将来に向けて検討はしていただきたいというのが要望であります。
それから,確認なのですが,今回,補足説明の2の(2)において,公示催告の手続において,登記された権利の不存在又は消滅の立証も必要であるということで,改めて詳細な説明をしていただいておりますが,前回のこの点に関する部会の議論,部会資料でいうと35ですけれども,そこに説明されていたように,個別の認定の問題ではあるものの,登記された存続期間が経過した事実などを立証することで登記された権利は消滅したものと認定されるケースが多いものと考えてよいという説明があるのですが,それはそういうふうな理解で,あそこで示された考えはまだ生きているのかという点を確認したいということであります。
2の解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続の簡略化については賛成であります。
○山野目部会長 それでは,2点お尋ねを頂きました。お願いします。
○村松幹事 まず1点目ですけれども,登記上の住所に宛てて通知するほかないのは,それはおっしゃるとおりです。それで仕方がないと考えており,通知をしないよりはましであろうというところです。
それから,2点目ですけれども,そこはおっしゃるとおりで,ここは一般的な要件としてそういうものが必要だという部分の改めての確認というところになりますけれども,具体のケースにおける当てはめに関しては,先般の部会資料で御説明した内容から特に何か変更したいというつもりではありませんので,そのまま生きているという認識でおります。
○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。
○今川委員 はい,結構です。
○橋本幹事 この第4関係につきましては,日弁連としては大きな異論はありません。賛成の方向です。
○山野目部会長 御検討いただきましてありがとうございました。
ほかにいかがでしょうか。
○畑幹事 先ほど話に出た17ページの,権利が消滅したことの証明ということについて,前に確か私がお尋ねをしたのではないかと思います。今回,説明を加えてくださって,私としては引き続き,条文の文言との関係では少し分かりづらいという感触は持っておりますが,解釈としてそれなりに定着しているということであれば,それはそれで結構かと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。畑幹事に前回議論いただいたときに続いてお叱りを頂いているとおりでありまして,70条の文言は余り明解,軽やかではないと感じます。それでありながら,しかし,ここを今,文言を大きく改めるということにすることも混乱を招くおそれもございますから,補足説明で御案内している方向で提案を差し上げていて,これで進めようと考えているところについて,ただいま畑幹事から御理解を賜りました。御礼申し上げます。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
第5 その他の見直し事項
1 登記名義人の特定に係る登記事項の見直し
不動産登記法改正案
(所有権の登記の登記事項)
第七十三条の二 所有権の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。 一 所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号(商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)第七条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるもの 二 所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるもの 2 前項各号に掲げる登記事項についての登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。 |
所有権の登記の登記事項に関し、次のような規律を設けるものとする。
所有権の登記名義人が法人であるときは、会社法人等番号(商業登記法(昭和38年法律第125号)第7条(他の法令において準用する場合を含む。)に規定する会社法人等番号をいう。)その他の特定の法人を識別するために必要な事項として法務省令で定めるものを登記事項とする。
2 外国に住所を有する登記名義人の所在を把握するための方策
(1) 国内における連絡先となる者の登記
所有権の登記の登記事項に関し、次のような規律を設けるものとする。
所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称及び住所その他の国内における連絡先に関する事項として法務省令で定めるものを登記事項とする(注1)(注2)。
(注1)連絡先として第三者の氏名又は名称及び住所を登記する場合には、当該第三者の承諾があること、また、当該第三者は国内に住所を有するものであることを要件とする。
(注2)連絡先となる者の氏名又は名称及び住所等の登記事項に変更があった場合には、所有権の登記名義人のほか、連絡先として第三者が登記されている場合には当該第三者が単独で変更の登記の申請をすることができるものとする。
(2) 外国に住所を有する外国人についての住所証明情報の見直し
外国に住所を有する外国人(法人を含む。)が所有権の登記名義人となろうとする場合に必要となる住所証明情報については、次の①又は②のいずれかとするものとする。
① 外国政府等の発行した住所証明情報
② 住所を証明する公証人の作成に係る書面(外国政府等の発行した本人確認書類の写しが添付されたものに限る。)
3 附属書類の閲覧制度の見直し
登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)の閲覧制度に関し、閲覧の可否の基準を合理化する観点等から、次のような規律を設けるものとする。
① 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの。後記②において同じ。)の閲覧を請求することができる。
② 登記簿の附属書類(不動産登記法第121条第1項の図面及び前記①に規定する登記簿の附属書類を除く。)(電磁的記録にあっては、記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したもの)の閲覧につき正当な理由があると認められる者は、登記官に対し、法務省令で定めるところにより、手数料を納付して、その全部又は一部(その正当な理由があると認められる部分に限る。)の閲覧を請求することができる。
4 所有不動産記録証明制度(仮称)の創設
不動産登記法改正案
(所有不動産記録証明書の交付等)
第百十九条の二 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。 2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。 3 前二項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。 4 前条第三項及び第四項の規定は、所有不動産記録証明書の手数料について準用する。 |
5 被害者保護のための住所情報の公開の見直し
不動産登記法第119条に基づく登記事項証明書の交付等に関し、次のような規律を設けるものとする。
登記官は、不動産登記法第119条第1項及び第2項の規定にかかわらず、登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において、その者からの申出があったときは、法務省令で定めるところにより、同条第1項及び第2項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。
それでは,引き続きまして,部会資料53の「第5 その他の見直し事項」,補足説明も含めますと,部会資料53の最後までの範囲のところで御意見を承ります。いかがでしょうか。
○橋本幹事 第5関係ですけれども,4の所有不動産記録証明制度の創設についてですけれども,こういった制度を創設することについては賛成であります。ただ,前回も確かここを私,申し上げたと思うのですけれども,代理人による交付請求ができるという立て付けで考えていらっしゃって,それに関しては,事前に債権者が委任状を取ってしまうというようなケースもあり得るということを申し上げたと思うのですが,この代理人の範囲を何とか絞るということは考えられないでしょうかという意見なのですが,例えば資格者代理人に限定するというような感じで,あこぎな債権者が事前に何でもかんでも白紙委任状を取ってしまって,これも取ってしまうというような濫用的な使い方というのを防止する必要があるのではないかと考えています。
それから,5の(2)のところですけれども,その他の検討課題として,不動産の表題部所有者に関する規律について,登記官が権利能力を有しないことになったと認める場合に,所有権の保存の登記をすることができるという点については,ここは慎重に検討を求めたいという意見がありました。不動産登記法76条2項,3項を引用されて(注)で書かれていますが,それらの手続は一応,手続に裁判所が関与しているというのが前提になっているのではないかと考えますので,権利能力を有しないこととなったと認められる場合,一律に保存登記を登記官ができてしまうというのは,私的自治への干渉としては大きいものがあるのではないかという意見がありましたので,この点については慎重な検討をお願いしたいと考えます。
それ以外については大きな異論はありませんでした。
○山野目部会長 ありがとうございました。
○今川委員 まず,その他の第5の1,登記名義人の特定に係る登記事項の見直しですけれども,これも先ほど少し話が出てきましたが,経過措置については検討していただくということで先ほど御説明を受けたので,それで結構です。
それから,2の(1)の国内における連絡先ですけれども,これも基本的には賛成です。連絡先なしという登記を認めるということになりますと,連絡先なしで登記する場合が多くなるのかもしれませんが,実際に連絡先がないのに,その登記を無理やり強制的に求めるということまではできないので,まずはこのような形で現状よりは一歩進めていくということでいいのではないかと,やむを得ないのではないかと考えております。確認ですけれども,これは外国人だけでなく,外国に住所を有する日本人も含むという趣旨ですねというのが確認です。
それから,(注2)で連絡先の登記の変更について触れられていますが,部会資料35では,連絡先である第三者が死亡した場合とか,又は辞任した場合も含めて,連絡先なしとする変更の登記をするという説明がありましたけれども,この考え方は維持されているということでよろしいかという確認です。それと,この第三者の登記について,住所や氏名に変更があった場合,変更の登記について義務化まではしないということであろうと思いますが,それも確認です。さらに,国内に住所を有する者が国外に住所変更をした,住所移転をしたという場合に,第2の1の住所変更の登記申請義務は課されるとは思いますが,それでいいですねということと,国外に住所を変更した場合にも,その変更登記をするときには連絡先の登記を義務付けていくということでいいのでしょうか。結果的に外国に住所を有することになるので,連絡先を変更登記と同時にしてくださいということはあり得るのかという御質問です。
(2)は特に意見はありません。賛成です。3も,附属書類の閲覧も賛成です。
それから,4の所有不動産記録証明制度の創設も基本的に賛成であります。ただ,(注2)について,今,日弁連の委員の方もおっしゃいましたけれども,やはり債権者からの圧力みたいなものも考えられますので,明確なアイデアがあるわけではありませんが,第三者から強制的に提出を求められるというような事態に対応するための何らかの規律を設けることは必要かと考えております。
それから,5のその他の検討課題ですけれども,(1)の被害者保護のための住所情報の公開の見直しについては賛成です。それから,不動産の表題部所有者に関する規律ですけれども,表題部所有者の登記について,所有権登記名義人と同じ規律を本来は適用すべきだという意見を申し上げていたのですけれども,住基ネット連携等のシステム構築のコストの問題もあるので,まずは今回の本文のような規律を置くことについては賛成をします。
この規律は,保存登記をして,直ちに死亡の符合も職権で登記するということですねという点を確認したいと思います。それから,先ほどから何回も言っていますが,表題部登記についても所有権登記名義人と同様に,ネットワークのシステムの中に今後,組み入れていただきたいと思っております。
補足説明1の24ページから25ページの1行目にわたって,表題部所有者についても規律を設けるかどうかの検討課題として幾つかの項目が挙げられています。このうち連携システムを前提とする項目については,そのまま当てはめるのが難しいというのは理解はしておりますが,では,相続登記の申請の義務付けと,氏名,住所の変更の登記の申請の義務付けは,これも今回は課さないということなのでしょうか。これらの義務付けについては,表題部所有者に対して課すということも考えられますし,所有権保存登記がされた場合に限定して課していくという方向もあると思いますけれども,第1,第2の規律は所有権の登記名義人と明記されておりますので,表題部の所有者については義務付けをしないという方向かと読めるのですが,確認をさせていただきたいと思います。
それから,この本文の規律は,登記官が職務を行う上で,ある意味,たまたま表題部所有者の死亡情報を取得することがあった場合に,職権で所有権保存登記をするという制度であります。そうすると,死亡情報を入手した,つまり表題部所有者が死亡したと考えられるときには,普通は表題部所有者と,死亡したといわれる人との同一性というか,特定をしっかりする必要があります。これは,表題部所有者であろうと所有権の登記名義人であろうと同じであろうと思います。であるとするならば,登記名義人の特定に係る登記事項の見直し,つまり,検索情報ですね,生年月日等は表題部所有者が表題部の登記をするときにもそれを求めたとしても,当事者の負担が重くなるものでもないと思うので,いかがでしょうかということであります。
もう一つ,これは最後の質問ですけれども,表題部所有者が共有名義で,共有者の1人につき相続が発生して,本文の規律によって,登記官がたまたま死亡の情報を知ったというときには,共有者も含めて職権で保存の登記をするというような立て付けなのでしょうか。
○山野目部会長 司法書士会の意見をまとめていただきましてありがとうございます。外国に住所を有する者の連絡先の登記に関わる事項を中心に,またそのほかの点もありましたが,お尋ねがありましたから,事務当局から回答を差し上げます。
○村松幹事 この連絡先の登記について,海外に在住する日本人が含まれるかというのは,含まれるということです。文言どおりになっております。
それから,死亡,辞任のケースにつきましては,そういう意味ではもう連絡が付きませんので,登記させるということになれば,連絡先なしという登記に変更することを想定しております。
それから,国外への住所変更があったと,日本人,外国人問わずということになりますけれども,そういったケースについても住所変更の義務化の規定,前の方の規定は掛かるということは前提になります。その際,連絡先についても住所変更に併せて登記をしていただくということになりますが,連絡先なしということはありますので,連絡先をとにかく見つけてそれを登記しなくてはいけないという義務をかけてはいませんので,その連絡先が見付かっている方については連絡先を登記していただくし,そうでない方にはその部分は必要ないということではあります。
それから,表題部の関係ですけれども,表題部所有者について,なかなか権利部と同じような取扱いが難しいという状況,それから,元々表題部所有者と権利部の所有権の登記名義人は法的にも位置付けが違うというのは大前提としてあります。そこの部分もあることから,同じような取扱いはなかなか難しいということで,今回は若干ひねっている部分がありますけれども,死亡のとき,死亡情報を表示するというこのルールの前提として,保存登記を入れるという,しかもそれを職権でやるという方策というのが,もしかしてあり得るのではないかというのを御提案し,ご意見をうかがいたいと考えているところです。したがって,これは飽くまでも死亡情報の表示ですね,これをするための前提になっていますので,保存登記をしたら直ちに,保存登記された方が亡くなられていることはもう分かっているからこそ保存登記いたしますので,死亡情報の表示を併せてやるということを想定してございます。
あと,おっしゃった,生年月日などの検索情報の点が少し,質問の御趣旨が分からなかった部分があったのですけれども,これはあれですか,表題部所有者についても検索用情報を出させたらどうかという。
○今川委員 そうです。
○村松幹事 そこは正に要否の問題かなと思います。他部との連携,あるいは法務局内でのある意味,名寄せ,検索ということがあり得るのであれば,お出しいただくということは説明可能なのだと思いますけれども,特に使用用途もなくお出しいただくということができるのかどうかという問題は別途あろうかと思いますので,そこはまた引き続き,どういう制度設計になるのかにもよりますけれども,検討が必要かなと思っております。
それから,共有者の1人だけが,共有状態で登記されているケースというのがどれだけあるかというところはありますけれども,このケースについてはご指摘を踏まえて検討が必要なのではないかという気がいたします。
○今川委員 相続登記の義務付けとか住所変更の義務付け自体は,表題部所有者には課さない。
○村松幹事 はい,申し上げたように,位置付けが異なりますので,なかなか同じようなルールでは整理できないのではないかという気がしてございます。
○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。
○今川委員 はい,ありがとうございます。
○佐久間幹事 2点ございます。1点目は,22ページの4でして,先ほど来話題に出ている(注2)(注3)ですけれども,(注2)のようなことがあるので,弁護士会からは(注3)について,代理人を資格者代理人に限ることなども考えられるのではないかという,確か御意見だったと思うのですけれども,それは僕は困るなと。私は不動産をほとんど持っていませんので,私には実際は関係のないことなのですけれども,①のような請求をしたいというときには面倒くさいな,妻に行ってほしいなというときに,それもできないなんていうことになるのは,悪事を防止することを余りにも過剰に考慮しすぎて,一般の人の利便性を奪うことになりかねないので,それはちょっとどうかと思います。
2点目は,先ほど今川委員がおっしゃったことの続きのようなことなのですけれども,24ページの(2)で,保存登記が職権でされたとなりますと,先ほどは表題部登記について登記の義務化のことをおっしゃいましたけれども,保存登記がされますと,そこで登記名義人となった者の相続人がいるはずですから,その保存登記を前提に,今日の第1の1の適用があるという話になってくるのではないかと思うのです。保存登記がされておりませんと,登記名義人に関して相続の開始があったという,その登記名義人というところの要件が満たされないわけですけれども,保存登記がされますと,登記名義人というものがあることになり,その人について相続の開始ということが,もう登記名義人は死んでしまっているわけですから,起こっているということで,第1の1の適用があるということになるのではないかと思うのです。そうでないのでしたら,私の誤解だったということでいいのですけれども,そうであるとしたら,3年ならばその3年の起算点は一体いつになるのだろうか。その登記の時からなのか。しかし登記がされているというか,保存登記がされたことを相続人が知らないと,その相続に関する登記のしようもないので,それを知った時からなのか。その知るということがどうやって確保されるのか,というところを疑問に思いました。
○山野目部会長 前の方は御意見を頂きました。後ろの方は,このたびの部会資料におきましては,表題部所有者に相続が開始した場合の解決を所有権の保存の登記の職権による実行という仕方ですることがよいかというアイデアの基本のところを,これは初お目見えの提案でございますから,そこについての委員,幹事の御意見を伺ってから細目を考えていこうというふうに,部会資料を作成する意図として考えておりましたところから,佐久間幹事に問題提起を頂いているような細部についての解決がまだ行き届いた仕方でお示ししていない側面がございますけれども,現時点で事務当局の考えがあったら説明を望みます。
○村松幹事 先ほど少し申し上げたところをもう少し敷衍して申し上げますと,表題部所有者について,相続あるいは住所変更というもので,表題部所有者部分を実際の関係に即応するようにしていく,きれいにしていくという発想は余り採りにくいのかなと思っております。その関係もあるので,ある意味,無理やりに,この保存登記をすることで,権利登記の方に亡くなった方の名義を移していくということになりますと,佐久間先生がおっしゃいましたように,これでやっと相続登記の義務化の方に乗ってくるという形になります。その意味で,少し説明としてはひねった形になっていますと先ほど申し上げましたけれども,趣旨としては,死亡の符合の表示をするというところの前提として,保存登記を入れるという形にはなりますけれども,ある意味,表題部の義務化がなかなか色々な意味で難しいというところがありますので,この制度を利用することで,表題部所有者についてもなるべく権利部に移して,義務化の対象に入れていくということになっていくのだろうと,そういうつもりでございます。
起算点ですけれども,起算点については私,直感的には,登記名義人になったときからしかもちろん義務の掛かりようがないということでございますし,更にその上で,その不動産について相続があって,かつ登記名義人になっているということも,事柄の性質上,その前提を全部知った状態でなければ,その義務は起算点としてはスタートしないということになるのではないかと考えてございます。
○山野目部会長 佐久間幹事におかれては,いかがでしょうか。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○國吉委員 2点ほど意見を述べさせていただきます。まず,第5の2,外国人の住所の関係ですけれども,国内での連絡先を登記するという形なのですが,連絡先なしということを許容しようということに関してですけれども,これはなるべくないような形といったらいいのでしょうか,正式に国内の連絡先を登記できるようなシステムを構築していただきたいと思っています。今,外国人の方の登記名義人に対して,私どもも,例えば連絡を取ったりする段階で非常に困っているのは前から御紹介したとおりです。その中で,多いのが,ここに書いてありますけれども,不動産業者さん,それから弁護士さん,司法書士さん,若しくは我々,土地家屋調査士がそういう所有者の,要は土地の取得の段階で関わっている場合が多いですので,例えば,そういった資格者代理人の方々への啓蒙というのでしょうか,そういった方々がこういう事案に対して協力をしていくのだというようなことを推奨していただいて,連絡先なしというようなことがなるべく少ないような形の方策を考えていただきたいというのが一つです。
それから,表題部所有者については,提案がありました,職権で相続があったときなどに保存登記をするというのも,現時点でほかの表題部所有者の,システム上,少し触るのが難しいということであれば,これに賛成です。是非細かい部分も含めて検討いただいて,成案となっていただくことを望みます。
○山野目部会長 御要望,御意見を承りました。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
○市川委員 部会資料53の23ページの5(1)の被害者保護のための住所情報の公開の見直しに関して,1点,念のため確認させていただきたいと思います。部会資料38の48ページでは,登記名義人への訴訟提起が困難となることを回避する必要があるところ,調査嘱託を活用した対応など,その具体的な運用の在り方についても引き続き検討するとされていましたけれども,今回の部会資料ではこの点の言及が特に見当たりません。例えば,調査嘱託に対する登記所の運用の在り方など,引き続きこの点に関して御検討いただけるということでよろしいでしょうか。
○村松幹事 はい,御指摘のとおりでして,調査嘱託という形で対応するということで問題がないということであれば,その具体的な進め方についてもあらかじめ実務的には詰めておいた方がいいのだろうとは考えてございますので,施行に向けてということになりますけれども,事務的に詰めていきたいと思っております。
○市川委員 よろしくお願いします。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○中村委員 先ほど佐久間先生が前段でおっしゃった,部会資料22ページ4項の所有不動産記録証明制度の取得できる者を資格者代理人に絞ってはどうかという日弁連の意見についてなのですけれども,前回この点について検討しました第16回の部会資料38の36ページの補足説明のところでは,日弁連が中間試案に対して既にこのことについて懸念を示していたことを受けて,幾つかの案を示していただいていました。不法な態様で証明の提供を求めることを抑止すれば足りるのではないかということで,幾つかの提案を書いていただいておりましたが,今回の資料にはそのような種類の記述がなかったので,再度,代理人ということを無限定にしてよいのかということを申し上げたということです。その点についてはどのようにお考えなのか,教えていただけますでしょうか。
○村松幹事 実際上,不法な態様での請求を抑止するという決定的な方策というのは,なかなか見いだし難いなとも考えておりますけれども,もう少し何か検討の余地がないのかというところを今日,改めて御指摘いただいておりますので,もう一度頭をひねってみようかなとは考えます。ですが,今お話ありましたように,絞りすぎてもよくないですし,絞らなさすぎてもという御指摘もあるところですので,確かに結局のところは,どなたが代理するのかとか,あるいは委任のタイミングとか,そういったところで切るしかなさそうな感じはもちろんするわけですけれども,委任のタイミングの方はなかなか書類上,判断できるのかというところもありますし,そうしていくと結局のところは,代理人になるべき主体という辺りが一つの答えになるのかも分かりませんが,そこの部分の切り方については非常にセンシティブな問題も含まれているような気もいたしますので,今日の御議論を踏まえて,次回までに検討してみたいと思います。
○山野目部会長 ただいま事務当局の方からお約束をした検討に際しては,中村委員がおっしゃった,従前に弁護士会から御提案いただいている幾つかのアイデアといいますか,代案といいますか,それも併せて検討に含めて,どうしたらいいかということを悩んでみるということにいたします。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。そうしましたならば,最後のその他の事項については,大部分が従前にお出ししてきたものを基本的方向を同じくしつつ,細部を整えてお出ししたものでありまして,多くの委員,幹事からおおむね賛成であるという御意見を頂いたところであります。
それとは異なり,本日新しい提案として差し上げている事項が,國吉委員が後段でおっしゃった,24ページの職権による所有権の保存の登記の問題でございます。これにつきましては,橋本幹事から慎重に検討してほしいという御要望がありまして,もちろん慎重に検討してまいることとし,この制度の採否そのものを慎重に検討した上で,仮にこの方向で採用して進むということになる際にも,その次元においても,今日幾つかの細かい点の指摘がありましたから,そこについて法律事項にすべきことは要綱案に盛り込まれるように整えていくということにいたします。
今川委員から御指摘があったように,表題部所有者が複数いて,そのうちの一部に相続が発生したときに,この職権による所有権の保存の登記をルールどおりするかといったようなことは,なるほど司法書士でないと気付かないなという気もいたしまして,それは検討していかなければならないと感じますとともに,どうしたらいいかということを考え始めますと,幾つか悩ましい点があって,共有者の1人に相続が始まっているなら,もう全部を権利部の方に移して,その場合であっても所有権の保存の登記はやはりするという考え方が,恐らく表題部に余計な負荷を掛けないという理念から言うと,正当であろうと感じます。
ただし,問題は表題部所有者が100人単位でいるようなメガ共有と呼ばれているような事例は,その中に1人,2人,あるいはもっといるかもしれませんが,相続が開始した者があるとしても,古くからの土地であればたくさんいる可能性がありますが,その場合において,それは実体が認可地縁団体である可能性があって,むしろ地方自治法260条の38,260条の39の手続を,登記官から促すというのは少し変ですけれども,それを待って解決した方が実体に適合した解決が得られるというような事例もありましょうから,これは考え始めると,少し悩みが深いということでありますけれども,運用当局の法務省はそこを悩むことが仕事ですから,悩んでもらうということにいたしましょう。御指摘を頂いたことに御礼を申し上げなければなりません。
ほかに,部会資料53の最後の部分について,御意見はおありでしょうか。よろしゅうございますか。それでは,部会資料53について,本日のところの御審議を頂いたという取扱いにいたします。
委員,幹事の皆様におかれましては,長時間の御審議に御協力いただきましてありがとうございます。ここで休憩といたします。
第3部 土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度の創設
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律案 目次 第一章 総則 (目的) 第二章 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属の承認に係る手続 (承認申請) 第三章 国庫帰属地の管理 (土地の管理の機関) 第四章 雑則 (承認の取消し等) 第五章 罰則 第十七条 第十二条第二項において読み替えて準用する農地法第四十九条第一項の規定による職員の調査、測量、除去又は移転を拒み、妨げ、又は忌避したときは、その違反行為をした者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 附則 理由 社会経済情勢の変化に伴い所有者不明土地が増加していることに鑑み、相続等による所有者不明土地の発生の抑制を図るため、相続等により土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けてその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。 |
次のような規律を内容とする、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度(以下「本制度」という。)を創設するものとする。 それでは,この総務省から提出を受けている参考資料につきまして,勝目関係官から説明をお願いいたします。 ○山野目部会長 ただいま確認を差し上げました,部会資料48についての審議をお願いすることにいたします。 ○山野目部会長 配布資料について説明を差し上げました。お手元にそろっておりますでしょうか。 (休 憩) ○山野目部会長 再開いたします。 次のような規律を内容とする、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度(以下「本制度」という。)を創設するものとする。 ○川畑関係官 それでは,部会資料2につき,御説明させていただきます。 まずは,第1の土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非についてです。 人口減少による土地の需要の縮小に伴い,価値が下落する土地が増加する傾向にある中,土地への関心が失われて,所有者により適切に管理されない土地が増加し,それが所有者不明土地の予備軍になっていると指摘されております。 それでは,4ページを御覧ください。 土地所有権の放棄は,権利の放棄であると同時に,所有者として本来負うべき土地の管理の負担を帰属先機関に転嫁する側面があることから,無条件に認めることはできず,一定の要件を満たす場合にのみ認めるべきものと考えられます。 次に,10ページ,放棄された土地の帰属先機関について御説明を致します。 次に,13ページの関連する民事法上の諸課題について御説明いたします。 最後に,15ページの放棄された土地に起因する損害賠償責任につき,御説明を致します。
○山野目部会長 ただいま説明を差し上げました土地所有権の放棄に関わりましては,関連する事項について,財政制度等審議会においても目下,調査審議が行われているところでございます。 初めに,1ページの第1,土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非及び4ページの土地所有権の放棄の要件,ここまでのところについて,御意見,御質問などを承るということにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。いかがでしょうか。 第3に,ひとまず進んでよろしいですか。 (休 憩) ○山野目部会長 再開します。 第1 土地の所有権の国への移転を認める制度の創設 第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設 (補足説明) ○中間試案第5 土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度の創設について 令和3年1月12日 総 務 省 法制審議会民法・不動産登記法部会においてご審議いただいている標記について、全国市長会及び全国町村会から、意見書の提出がありましたので、別添のとおり提出します。意見書を踏まえて調査審議いただきますよう、よろしくお願いします。 令和3年1月12日 民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する意見 全国市長会 「土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度の創設(いわゆる土地所有権の放棄)」については、去る 12 月 15 日付文書において市町村事務等に関する懸念について意見表明したところであるが、相続等により取得した農用地や森林の所有者に係る市町村への申出の義務化について、改めて現場の立場から下記の通り意見申し上げる。 記 1.土地所有権を国庫に帰属させる(放棄する)制度が、所有者不明土地の発生の抑制につながるためには、何よりも、制度を利用する国民が十分に理解し納得しうる仕組みとすべきである。 以上
1① 土地の所有者(相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。以下同じ。)によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求めることができる。
② 土地が数人の共有に属する場合においては、①の法務大臣に対する承認の申請(以下「承認申請」という。)は、共有者の全員が共同して行うときに限り、することができる。この場合において、相続等以外の原因により当該土地の共有持分の全部を取得した共有者は、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した共有者と共同して行うときに限り、①の規律にかかわらず、承認申請をすることができる。
2 1の承認申請をする者(以下「承認申請者」という。)は、承認申請に対する審査に要する実費の額を考慮して政令で定める額の手数料を納めなければならない。
3 法務大臣は、承認申請に係る土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
① 建物の存する土地
② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③ 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
⑨ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
⑩ ①から⑨までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
4 3の承認は、土地の一筆ごとにするものとする。
5① 法務大臣は、承認申請に係る審査をするため必要があると認めるときは、その職員に事実の調査をさせることができる。
② ①により事実の調査をする職員は、承認申請に係る土地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をすること、承認申請者その他の関係者からその知っている事実を聴取し又は資料の提出を求めることその他承認申請に係る審査のために必要な調査をすることができる。
③ 法務大臣は、①の事実の調査を行うため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長、関係のある公私の団体その他の関係者に対し、資料の提供、説明、事実の調査の援助その他必要な協力を求めることができる。
④ 法務大臣は、その職員が②により承認申請に係る土地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をする場合において、必要があると認めるときは、その必要の限度において、その職員に、他人の土地に立ち入らせることができる。
6 法務大臣は、次に掲げる場合には、承認申請を却下しなければならない。
① 承認申請が申請の権限を有しない者の申請によるとき
② 申請書の内容に不備があるとき
③ 承認申請者が2の手数料を納付しないとき
④ 承認申請者が、正当な理由がないのに、5の調査に応じないとき
7 承認申請者は、3の承認があったときは、承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を勘案して政令で定めるところにより算定した額(以下「負担金」という。)を納付しなければならない。
8 承認申請者が負担金を納付したときは、その納付の時において、3の承認に係る土地の所有権が国庫に帰属する。
9 3の承認に係る土地について当該承認の時において3のいずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じたときは、当該事由を知りながら告げずに3の承認を受けた者は、国に対してその損害を賠償する責任を負う。
10① 法務大臣は、承認申請者が偽りその他不正の手段により3の承認を受けたことが判明したときは、3の承認を取り消すことができる。
② 法務大臣は、①の取消しをしようとするとき(承認申請に係る土地が8の規律により国庫に帰属している場合に限る。)は、8の規律により国庫に帰属した土地(以下「国庫帰属地」という。)を所管する各省各庁の長(当該土地が交換、売払い又は譲与により国有財産でなくなったときは、当該交換等が生じた時に当該土地を所管していた各省各庁の長)の意見を聴くものとする。
③ 法務大臣は、国庫帰属地が交換等により国有財産でなくなった場合又は国庫帰属地につき貸付け、信託又は権利の設定がされた場合において、①の取消しをしようとするときは、国庫帰属地の所有権を取得した者(転得者を含む。)及び国庫帰属地に係る所有権以外の権利を取得した者の同意を得なければならない。
11 本制度における法務大臣の権限は、法務省令で定めるところにより、その一部を法務局又は地方法務局の長に委任することができる。
(注1)民法に所有権の放棄に関する新たな規律は設けないこととする。
(注2)国は、3の承認がされた場合には、土地の所有権を所有者から承継取得する(承認申請者が無権利者であった場合には、承継の効果を生じない。)。
(注3)法務大臣は、3の承認をしようとするときは、あらかじめ、当該承認に係る土地の管理について、財務大臣及び農林水産大臣の意見を聴くものとする。ただし、主に農用地又は森林として利用されている土地ではないと明らかに認められる場合は、この限りではないものとする。
(注4)5については、事前の通知など、立入りの手続に関する規律を設ける。
(注5)8につき、3の承認後に、承認申請者が負担金を一定期間内に納付しないときは、承認はその効力を失うものとする。
(注6)10 の取消しの規律は、法務大臣が、承認を取り消し、土地所有権の国庫への帰属(承継)を遡及的に無効とすることができることを前提にしている。
(注7)その他国庫に帰属した土地の管理に関する所要の規律を設ける。
○勝目関係官 総務省でございます。お手元,総務省のクレジットの資料をお願いを致します。1枚めくっていただきまして,全国市長会及び全国町村会から連名で意見の提出がございますので,その概要について御説明をさせていただきます。
これは,部会資料54の3ページ(注3)に,農用地,林地の国への承認申請の前置手続として,市町村への申出の法定化について引き続き検討するとされていることに関するものでございます。
記書の1でありますが,本制度は飽くまで土地所有権の放棄に伴う法務局等の諸手続の中に位置付けられるべきものでないかということであります。農業経営基盤強化促進法,あるいは森林経営管理法に基づく手続と,今般の所有権放棄の一連の手続行為というのは,全く別の性格を持つ政策でございますけれども,市町村関係者からの意見を聴取することなく,言わば既存制度に便乗するような形になっていないかということでございます。
すなわち2,これら二つの法律におきましては,利用権や管理権を適切に行使することで,放棄地等とならないような仕組みとしているものと理解をしておりますが,申出を行うか否かというのは任意となっているところであります。
3,今般,市町村への手続を義務化するとなりますと,前記二つの法律とは別の,所有権放棄に伴う国の手続の一環として法的に整理されるべきものでないかということでございます。
あわせまして,4,この関係者につきましては,関係市町村外の遠方の関係者も相当数に上るということが見込まれる中,一律に市町村への申出手続を行わせることは申請者の負担からも問題があるのではないか。また,一見して農用地の利用集積や森林経営管理に適さないと判断できるような事案までもが数多く市町村の窓口に持ち込まれることになれば,事務の非効率,手続全体の長期化を招くことになりかねず,運用面からも慎重な検討がなされるべきものということでございます。
5,以上を踏まえまして,正式に市町村長から意見聴取をして進めていくべきということを強く要請するということでございます。
よろしくお取り計らいのほど,お願い申し上げます。
○山野目部会長 勝目関係官におかれては,どうもありがとうございました。
ただいまお話しいただいた事項は,部会資料でいいますと部会資料54の3ページの(注3)ということで御案内している事柄に関する地方の御意見を取りまとめて,総務省としてお出しいただいたものの要旨を御紹介いただきました。この後,部会資料54についての全般的な審議をお願いしてまいりますから,その中で,ただいま総務省から(注3)に関して御披瀝があった意見に関しても,委員,幹事,関係官から何か御意見がおありでいらっしゃいますれば,仰せいただきたく存じます。
それでは,小分けを致しませんで,部会資料54の全般について御意見を承ります。委員,幹事におかれては,どうぞ御自由に御発言をください。いかがでしょうか。蓑毛幹事,どうぞ。
○蓑毛幹事 ありがとうございます。部会資料54について,日弁連のワーキンググループでの議論を踏まえた意見を申し上げます。
まず,これまでも申し上げているとおり,土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度の創設について,基本的に賛成です。細かく申し上げると,それぞれの提案について意見がある部分がありますので,申し上げますが,その意見が入れられなければこの制度の創設自体について反対するというほどの強いものではありません。
まず,1ですが,本制度の対象となる土地は相続又は遺贈により取得したものに限るとされていますが,これまでも申し上げているとおり,この制度の対象となるか否かは土地の性質,性状等によって決められるべきであって,その取得原因を問わないとすべきではないか,また自然人だけでなく法人も制度の対象とすべきではないかという意見が,現時点でもあります。
それに加えて一つ,今まで申し上げていなかった観点からの意見を申し上げます。この提案では,相続又は相続人に対する遺贈が制度の対象となっているわけですが,相続人に対する遺贈の場合以外,具体的には,相続人に対する贈与,売買,信託等の場合も制度の対象とすべきではないかという意見がありました。よりよい土地管理の承継という観点からは,死亡時の相続,遺贈ということではなく,生前のきちんとした判断能力がある段階で権利を次世代に処分,承継させるということが望ましいと思いますし,実際,実務上も我々はそのような相談を受けて,相続人に対する贈与,売買,信託といった形で,次世代への土地,建物の承継ということを行っています。ところが,こういう望ましい行動をした者に対して,この制度が,自分の意思に基づいて取得した者についてはこの制度の対象としないということになりますと,次世代への土地の処分を生前に行うことが不合理な話になって,それはすべきでないということになりかねないのではないかという意見が出ています。そこで,相続人に対する遺贈だけではなく,相続人に対する贈与,売買,信託等もこの制度の対象に含めてもらいたいという意見がありました。
1について,審査を法務大臣が行うということについては賛成です。
それから,3の要件について幾つか申し上げます。以前も申し上げましたが,①の建物,あるいは⑦の工作物について,運用ということになるかもしれませんが,仮にその建物等が取り壊されたならば承認が下りるか否かが分かるように,事前協議等の制度を設けた方が望ましいという意見がありました。
③ですが,通路その他の他人による使用が予定される土地と書かれている,この「予定される」という文言は不明確ではないかという意見がありました。補足説明あるいはこれまでの議論の流れからすると,この「予定される」というのは,将来通路が開設されるとか,将来通路として使われるという意味ではなく,現時点で通路であって,他人による使用が想定されるというような意味で使われているのだと思われますが,「予定される」という言葉でそのような意味を指すのかが疑問だという意見がありました。
⑦の樹木が地上に存する土地ということについて,もう少しうまい定め方ができないかという意見がありました。この規定は,土地の通常の管理又は処分を阻害するような樹木がある場合を指すのだと思いますが,たとえば居宅等で庭に木がある場合に,これが通常の管理又は処分を阻害する樹木なのか,阻害しない樹木なのかということの判断がどのように行われるのか不明瞭だという意見がありました。
それから,4の承認は,土地の一筆ごとにするということですが,一団の土地について,一筆一筆は必ずしもその境界がはっきりはしていないけれども,全体として見れば,他の土地との境界がはっきりしている場合は,承認されるべきですので,そのようなことが分かるような仕組み,定め方ができないかという意見がありました。
7ですが,管理に要する標準的な費用というのが具体的に幾らくらいになるか分からないので,明確にできないかという意見がありました。
あとは,(注)ですが,(注3)農用地及び森林については,承認の申請に先立って,既存の法律において整備されている利用権の設定や売却のあっせんなどの仕組みの活用を申し出なければならないとするということについて,そのような必要があるのか疑問だという意見がありました。
それから,(注4)の農用地,森林について,農林水産大臣及びその土地の管理をすることとなる財務大臣から意見を聴取するという規律ですけれども,この聴取をする趣旨,目的について,もう少し明確にすべきだという意見がありました。つまり,3の要件を満たすのであれば,承認をするということになるはずですので,なぜ,大臣の意見を聴く必要があるのか,いかなる趣旨で意見を聴くのかを明確にすべきだという意見がありました。
○山野目部会長 弁護士会の意見を取りまとめていただきまして,ありがとうございました。蓑毛幹事からのお話によると,部会資料54で構想をお示ししている制度をよりよくするための見地からの種々の御意見を頂いたということでございます。ありがとうございました。
引き続き御意見を頂きます。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。今回御提案を拝見いたしまして,これまでにも1の制度の適用範囲のところであるとか,あるいは3の放棄にかかる実体的要件に関していろいろ意見を申し上げておりました。全てが反映されたということではないと思っておりますが,熟慮された上でこのような形で整理していただいたということですので,ここで改めて申し上げることは致しません。
1点,少し質問をさせていただきたいのが,3の⑩のところです。①から⑨までに掲げる土地のほか,政令で定めるものとなっております。これは以前,部会資料で出てきたときは,今回3の③で入っている,例えば通路その他の他人による使用が予定される土地というようなもの,共有地のようなものが,ここのその他類型の中に含まれることが想定されていたところがあったと思うのですが,それについては,今回,別建てで③の方で出していただいているということで,では残ったものとして,一体どういうものが今想定されているのか,①から⑨までに挙げられているもの以外で,今後,政令で指定される可能性があるものとして具体的に何か考えておられるのかどうかというところをお伺いできればと思っております。
○山野目部会長 では,⑩にについて,事務当局から説明を差し上げます。
○大谷幹事 今の点,補足説明の8ページのところで,法令違反行為があるからといって直ちにこれに該当するわけではないということを書いておりますけれども,例えば森林において,既に木が伐採されてしまってなくなっていて,森林の状態に戻すためには植栽しないといけないというような場合もあり得ようと思います。そのようなときに,例えば,森林として管理するのに非常に労力が掛かる,費用が掛かるということであれば,それはこの,政令で定めるものに当たる,政令で定めて,それを受け入れないという形になるのではないかと思っております。
○山野目部会長 藤野委員,お続けください。
○藤野委員 それを政令で具体的に基準を示してお書きになられるということでしょうか。
○大谷幹事 そうですね,それは関係省庁と今,また協議して定めていきたいと考えております。
○藤野委員 分かりました。少し追加で。
政令で事前に明確化されるということであれば,この場の議論には出てこなくても予測可能性は立つのかなと思う一方で,こういう立て付けになっている以上,やむを得ないこととは思いますが,結局のところ,今既に明記されている実体的要件に加えて,更にバスケット的に政令で要件を厳格化できると見ることもできるのかなと思っておりまして,これまで申し上げてきたとおり,ある程度,最初の時点で慎重に運用していかなければいけないというところは理解いたしますけれども,やはり新制度の適用範囲の拡大であるとか,あるいは要件のところを,今後の実際に制度が出来上がって運用されていく中での施行状況を見ながら,緩和するという方向も引き続きどこかに残しておいていただければと考えておりますので,以上は意見でございますが,申し上げた次第でございます。よろしくお願いします。
○山野目部会長 藤野委員の御要望は受け止めました。ありがとうございます。
引き続き御発言を頂きます。安高関係官,どうぞ。
○安髙関係官 ありがとうございます。林野庁でございます。先ほど,総務省から御説明がありました,具体的には部会資料の(注3)についての御指摘の関係で,御説明をさせていただきたいと思います。
この,いわゆる土地所有権の放棄については,所有者自らが管理をすることが困難な土地への対応として,その最終手段として検討されているものであると承知しているところでございます。先般改正されました土地基本法でも,土地所有者に対しては,土地の管理などの責務ですとか,国や地方公共団体が実施する土地に関する施策に協力する義務というものが規定されているところでございます。このことを踏まえますと,最終手段として国に放棄を申請する前に,まずは所有者に,あるいは,地域において所有者以外の方が管理をするという道を模索していただくといった然るべき努力をしていただくということが必要ではないかと考えているところでございます。
特に農地と林地につきましては,市町村を介した利用権設定といったものが既に制度化されてございまして,申請に先立ちましてこの仕組みを御活用していただくことを試みる形としていただきますことは,所有者が放棄申請するに当たって,審査手数料ですとか管理費用の負担を伴うことなく,その土地が地域において有効活用されることにもつながるというメリットがございます。このことを新法上にしっかりと規律しておくことが,これまでの部会で委員,幹事の方からも,今も御指摘がございましたように,放棄を申請する所有者の方々が放棄申請の前に何をしなくてはいけないかということが明確になりまして,より望ましいのではないかと考えてございます。
一方,部会資料の中でも,市町村の費用や事務の負担が増えるという御懸念も示されているところではございますが,例えば森林経営管理法でございますと,所有者の方から市町村に利用権設定を申し出ていただくことになりますが,この申出は,現在でもいつでも行えるということに加えまして,市町村が所有者からの申出を受け入れ,利用権を設定しますのは,森林経営管理法上,市町村の実施体制といった地域の実情等も踏まえまして,その市町村が必要かつ適当と御判断いただいた場合に限るという立て付けになってございますので,飽くまで市町村の自由裁量となってございます。これを踏まえますと,新法に林地に係る特例の規律を設けることをもって市町村の費用とか事務の負担が増えるといったような御懸念は当たらないということを申し上げさせていただきたいと思います。また,森林経営管理法などを御活用いただきまして森林の経営管理の集約化が図られれば,将来的には地域の民間事業体に一定程度まとまって森林の所有権を移転するということが可能になるといったように,地域振興のためにも大変有効な機会になるのではないかと考えているところでございます。
そのように考えますと,新法上に,所有者の方が森林を自ら管理することができないといった場合に,放棄の申請に先立って,まずはその地域の実情に応じまして,市町村に利用権設定等の検討をしていただける仕組みとしておくことが,所有者にとっても,またその地域にとっても,大変有益ではないかと考えているところでございます。その点,今一度,委員,幹事の方々にも御理解いただきたいと思ってございます。
○山野目部会長 (注3)につきまして,総務省から出していただいた御意見に続いて,林野庁の御意見を承りました。
佐久間幹事,どうぞ御発言ください。
○佐久間幹事 ありがとうございます。(注3)と関係がなくてもよろしいですか。
○山野目部会長 佐久間幹事,お気遣いいただいてありがとうございます。室賀関係官,どうぞ。
○室賀関係官 農林水産省です。ありがとうございます。本日望月は所用がございまして,室賀が代わりに出席しております。よろしくお願いします。
先ほど森林の関係のお話がございましたけれども,農用地につきましても,最終手段としての放棄を申請する前に,農業委員会によるあっせんなどによりまして,地域においてまず有効利用を図っていくということが非常に重要ではないかと思っております。総務省さんの御意見の中でもございました,経営基盤強化法等の手続の話でございますけれども,これにつきましては,所有者が農業委員会にあっせんの申出をするとか,農地バンクが所有者の申出に応じて協議を行うとかという形で,農地としての有効利用を図るための措置として施策を活用していくことによりまして,高齢化している状況の中で,担い手による効率的な農業生産ができるよう,農地の集積,集約化の推進に政策的に取り組んでいるところでございまして,そういった取組の一つの手段ということの手続でございます。そういった意味では,日頃から地域の現場において取組をされておりますし,当方からも一定の支援等もさせていただいている中でのものでございますので,こういった中で新たに御負担を掛けるというようなものではないと考えてございます。先ほど,荒れたところもという話もございましたけれども,耕作されていない遊休農地につきましても,年に一度,利用状況,利用意向調査ということを行いまして,それに基づいて担い手につないでいくというような取組を実際行っておりますので,そういったものの一環として取り組んでいけたらと思っております。
また,今後の法務局を中心としました放棄の審査についても,当方もできる限りその手続がスムーズに,また的確に進むよう,十分な協力をしていきたいと思っておりまして,そういった中で,関係者が一体となって取り組んでいくことによって,事務の負担の軽減にもつながっていくのではないかと思っておりますので,そういった点も含めて御理解を頂ければと思っております。
○山野目部会長 農林水産省の御意見を承りました。
佐久間幹事,おまたせをいたしました。
○佐久間幹事 ありがとうございます。2点ございまして,一つは今の(注3)に直接は関係しないのですけれども,事前手続についてという点では関係するところです。
補足説明の4ページに,手続要件に関しまして,前回まで提案されていた売却等の試みは不要にするということが述べられています。これ自体については,その手続を実際上意味のあるものとして組むのは難しいと思いますので,反対ではないのですけれども,これを落とした結果,これまでの議論の経過からいたしますと,所有者のモラルハザードを防ぐという契機として何を求めるかというところが抜け落ちてしまうことになると認識しています。
つまり,いろいろこれまで議論があったわけですけれども,所有権放棄を認めるには,放棄の必要性があるとともに,モラルハザードを一定程度防ぐ必要があるという認識の下に議論がされてきて,提案は紆余曲折があったかと思いますけれども,最終的に残ったのがこの,事前手続を言わばきちんと踏んでもらって,万策尽きたからやむを得ないね,というところでどうかという話だったのではないかと記憶しています。
そうであるのだから,ここを残せということではないのですけれども,放棄したい人は特に何も感じないのかもしれませんけれども,自分は放棄にはおよそ関係がない,結局国民負担になるだけなんだよなという人にとっては,モラルハザードがどのように防がれるのかということも関心事にはなると思いますので,どこかで,どういう形になるか分かりませんが,その説明を用意していただくとよろしいのではないかと思います。
もう1点ですけれども,これは補足説明の10ページにあります承認の職権取消しについて,期間制限を加えるのをやめましたという話です。これも,書かれていることは分かるのですけれども,承認の取消しが承認から実際上どのぐらい長い期間経てから行われることがありうるのか分かりませんが,抽象的にいうと20年,30年たっても,あるいは代替わりしたって,代替わりというのは,元土地所有者が死んで相続が起こったというような場合だって承認取消しはあり得るということになるわけですね。本当にそこまでする必要があるのだろうかというのが素朴に疑問に思うところです。10年が適当かどうかは分かりません。あるいは20年でもいいのかもしれませんが,一定期間たてばもう戻らないとすることはあってもいいのではないかと思っています。期間制限をしないという説明として,不正な手段を用いた人なのだから保護する必要はないではないかと書かれているわけですけれども,期間制限の制度というのは,時効でもそうですけれども,不当な行為,不正な行為による場合であっても,ここはもう法律関係を確定しましょうという制度だと思うので,どうしてもということではありませんけれども,一定の期間制限が設けられることはあってもいいのではないかと思うという意見を申し上げたく存じます。
○山野目部会長 佐久間幹事から2点お話を頂きました。
1点目は,従前の部会資料におきまして,事前に売却の努力をすることを,当時,放棄と呼んでいたものの一つの要件,ハードルとして課そうということがあり,その趣旨はモラルハザードの防止ということで議論をお願いしてきたところでありますけれども,考えてみますと,売却の試みという概念が,発想といいますか考え方は委員,幹事におかれても御賛同いただいて,育ててきたところでありますけれども,法制的に少しなじみにくいところがあるというふうな問題があります。それ自体は追求しないということにした反面において,農業経営基盤強化促進法及び森林経営管理法において実定法上の具体的な制度が設けられている局面については,あるいは(注3)で御提示申し上げているようなハードルを設けておくということが考えられるかもしれないということで,提案を差し上げています。
この間,部会資料の建て付けについて,佐久間幹事が御注意いただいたような説明を要する変遷があったと認められますから,その点について,事務当局がどのような意図で部会資料の内容を変化させたのかということについて説明を差し上げた上で,この点についてもし意見がおありであれば,委員,幹事から更に御意見を伺うことにいたします。
後段でおっしゃっていただいた,不正な手段によって承認を得た局面に関しては,佐久間幹事の御指摘のとおりでありますとともに,法制的に見て,不正な手段によって行政庁の許認可を得た場合の措置については,行政関係の法令において他にたくさん類例がございますから,それらとの整合性を検証する必要がございます。そういう点も,事務当局においては今までも検討してきましたし,これからも検討していくことになるであろうと感じます。この点についても,事務当局から紹介してもらえることがあったら申し上げたいと考えます。
○大谷幹事 まず,手続的要件のところでございます。これは確かに前回まで,売却の試みをするということを一つの要件として求めておりましたけれども,部会資料の4ページの補足説明に書いてありますとおり,具体的に検討してみると,なかなか合理的な仕組みを仕組むのは難しいだろうということがあります。また,管理費用に当たるものを申請者に負担していただくということから考えますと,管理費用まで支払って,それでもこの制度を使いたいという方は,合理的には,普通はまずはそういう負担がないような,売却して一定の代金をもらうであるとか,あるいは全く無償で誰かに引き受けてもらうとか,そういうことを試みた上で,こちらの制度を利用することになるだろうということから,手続的要件として一律に売却の試みをするなどのことまでは求めるべきでないと考え,構成を改めたというところでございます。
一方で,モラルハザードの防止という観点からいたしますと,やはり土地の実体的要件の中である程度厳しい,管理と処分がそれほど難しいものでないものに限って,この制度の対象とするという方向にしておりますので,そのように土地をきちんと管理をした上でこちらの制度に乗っていただく,その意味ではモラルハザードがないように,引き続き仕組みとしては仕組んでいると思っておりますので,説明の仕方かもしれませんけれども,モラルハザードは引き続き防止する方向で考えているということでございます。
2点目の職権取消しの期間制限に関してですけれども,これも前回までと構成を改めたのは,そのとおりでございまして,期間制限は設けておりません。類例を見ましても,こういう悪意で不正な手段を用いて承認を受けたような場合に,その取消しについての期間制限というのは余り例がないと記憶をしております。一方で,相当長期間が経過してしまったときに取消しができるのかというのは,相続などもあり得る中で,承認という行政処分に対する信頼が生ずるということがありますので,取消しが必ず許されるわけではない,それは一般的な権利濫用とかいう話になるかもしれませんけれども,必ず取消しが許されるわけではないだろうと理解をしております。
○山野目部会長 佐久間幹事におかれて,お続けになることがおありでいらしたら,お願いします。
○佐久間幹事 いえ,ございません。ありがとうございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。
松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。部会資料54について3点申し上げたいと思います。
第1点は,ただいまの事前売却の試みとも絡みますけれども,今回の部会資料54と第19回の部会資料48との大きな違いとして,部会資料48,第1の5では,認定処分の申請に先立って売却等の行為を試みるということが必要でしたが,今回はこの手続を外したことと,もう一つは,部会資料48,第1の8で,認定処分の申請があったときに審査機関が地方公共団体の長等にその旨を通知するとされていましたが,今回はこの手続も外したという点でございます。部会資料54では,第3部の5の③で,法務大臣が必要と認める場合の調査を行う際に,関係行政機関の長のほか,関係地方公共団体の長,関係のある公私の団体その他の関係者から必要な協力を求めることができる点を承継するに止まっています。
このような承認申請に際しての,または承認前の審査に際しての事前手続として,当該申請地が属する地域コミュニティに対して何らかのアプローチをとることを手続に組み入れることができないか,あるいは組み入れる必要がないかという点であります。土地所有権のいわゆる放棄を希望している土地に最も利害関係を持つのは,当該申請地が所在する地域コミュニティではないかと思います。市町村ということになりますと,合併等の結果もありまして,かなり利害関係が薄くなっているという場合も少なくないと思いますし,このことは今回法務省から出していただいた資料やヒアリングの過程でも明らかになった点かと思います。しかしながら,市町村の利害関心と,当該土地が所属する地域コミュニティの利害関心は,少し違うところがあるのではないかと思います。当該申請地がまさに自分の居住地の周辺に存在する者にとっては,その放棄の希望が出ている土地については,やはり何らかの形で利害関心を持ち得るし,場合によってはある程度の負担をしても,何か管理しようというインセンティブを持つ動きが出てこないとも限らないと思います。したがいまして,承認の申請または承認に先立つ審査の手続に先立って,売却等の試みはしないにしても,地域コミュニティにアプローチするということは手続に組み込むことはできないだろうかということでございます。
それから,その手続にとどまらず,その効果に関しても,今回の部会資料54,第3部の8に,承認申請が認められますと,管理費用の納付時に国庫に帰属するとして,効果は国庫帰属が唯一のものということになっております。しかし,この点も,もしかすると,当該地域コミュニティで引き受けてもよい,特に,その管理費用を払ってくれるならば引き受けてもよいというような動きが出てきた場合には,そちらに引き受けてもらうということも考えられますので,その余地も効果として残すことはできないのだろうかと思います。つまり,国が間に入って承認要件の検討と管理費用の判断をしたうえで,その効果を地域コミュニティに帰属させるという特例の創設です。これについては少し御考慮いただける余地があればと考えました。以上が第1点でございます。
それから,第2点目は,これは非常に細かな言葉の問題ですけれども,部会資料54,第3部の3⑥,⑩にございます「過分の費用又は労力」のうちの「労力」という言葉でございます。この用語をあえて残した理由は,部会資料54の8ページでも丁寧に説明していただいており,コの第2段落目で,過分の費用というだけでは金銭的費用に限定されるニュアンスがあるので,争訟のために必要となる資料の準備等の人的負担が重くなることを回避する趣旨であると説明されており,この趣旨は非常によく理解できます。しかし,土地所有権の放棄ないし移転の承認要件として,過分の労力が掛かるときには受けないということを積極的に示すことが,何か負担になる土地を皆で押し付け合っているというか,避けたがっているというか,そういうニュアンスが非常に強くなってしまい,これはよくないのではないかと思います。もちろん,その趣旨はよく分かりますけれども,言葉の持っている一般的なニュアンスとして,少し強い表現なのではないかということが,なお気になる点でございます。費用という場合は,金銭的費用だけではなくて,人的,物的,様々な費用を含みますので,費用ということでもよいのではないかと思った次第です。
ちなみに,今回の部会資料54では,第19回の部会資料48と違って,承認の要件を満たした場合には,第3部3の柱書で,承認をしなければならないという表現に変わっております。部会資料48,第1の6の柱書では,列挙事由のいずれかに該当する場合は認定処分をすることができないという表現になっていましたので,この修正は,管理困難となった土地の移転のサイクルを創設するという制度趣旨を示すものとして,私は非常によいのではないかと思います。その意味で,一定要件を満たしていれば承認をしなければならないのだという表現ぶりは,非常に前進であると思います。それを更に一貫させるためにも,労力については御一考いただけたら有り難いと感じた次第です。
それから,3点目は,これも更に細かな言葉の問題で,もしかすると私の無知によることかもしれませんけれども,第3部,3⑨の,「争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地」という文言です。これは部会資料48にもあった表現ですけれども,具体的に想定されているのは,申請地の隣地から樹木の枝が伸びてきたり,建物が越境していたりということで紛争になることが不可避だということだと思いますので,その管理や処分に当たって紛争が不可避である土地とか,あるいは紛争が不可避的に伴うというような表現でもよいのではないかと思いました。この点は非常に細かな点でございます。恐縮ですけれども,気が付いた点を申し上げました。
○山野目部会長 松尾幹事から3点にわたって種々の御指摘を頂きました。お尋ねではなくて御意見であると受け止めましたから,今後の検討において参考にするということにさせていただきます。
あわせて1点のみ,松尾幹事にお教えを頂きたいことでございまして,1点目の意見でおっしゃった,承認申請をするに際して連絡調整をすることが望まれる地域コミュニティというお言葉をお使いになったと聞きましたけれども,これは具体的にはどういう概念でしょうか。
○松尾幹事 大変失礼しました。市町村の中にある,例えば地方でいうと部落とか区とかいう単位のものでございます。都市では自治会というようなものがそれに当たるかと思います。その一部は地方自治法260条の2の「地縁による団体」の認可手続をとっているものもありますが,とっていないものも含めて,権利能力のない社団の要件を備えたものを想定しております。大変失礼しました。
○山野目部会長 いいえ,かえってありがとうございます。御意見を理解いたしました。
引き続き,いかがでしょうか。
○今川委員 この制度自体は原則として賛成をするものですけれども,関連して確認します。相続人不存在の場合に,相続財産管理人,これは相続財産清算人と名前を変えることが提案されているのですが,その清算事務が全て終了した最終局面としての国庫帰属の制度と本制度とは関係がないと考えます。何を言いたいかといいますと,本制度における国庫帰属の要件というものが相続財産の国庫帰属に影響を与えるというようなことは基本的にはないですねという確認です。相続財産の方は,法律上当然に国庫に帰属するという制度ですので,本規律のように行政処分として承認する,そのための要件を定めているというのとは意味が違いますので,そこを1点,確認をしておきたかったということであります。
○山野目部会長 お尋ねでありましたから,959条が定める帰属と,ここで構想されている帰属の概念との関係についての整理を事務当局から差し上げます。
○大谷幹事 今お尋ねいただきました相続財産の清算の仕組み,これは相続人のあることが明らかでない場合には,必ず清算人を選任した上で清算手続を経て国庫帰属をさせるというものでございます。一方でこちらの制度は行政処分,承認という手続を経て国庫に帰属するというものでございますけれども,もちろん別の場面のことでございますので,こちらの仕組みを導入したからといって,相続財産の清算の手続が変わるというものではないと理解をしております。
○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。
○今川委員 はい。
○伊藤幹事 東京法務局の伊藤でございます。今回,土地所有権の国庫の帰属に関する審査機関の役割を法務局に担わせるという御提案でございますけれども,私自身,大変に大きな,また全く新しい仕事でございますので,身が引き締まる思いがしているところでございます。一方におきまして,第19回会議におきまして複数の委員,幹事の先生方から,審査機関の役割を仮に法務局に担わせるに当たっては,人的体制の整備や予算的措置の必要性を指摘するお話がございましたが,私も全く同感でございまして,現状の人的体制や予算では到底この新しい制度を回していくことはできないと考えているところでございます。
また,申請がされた初期の段階で所管行政庁を定めて,所管行政庁の方には,承認されることとなれば,管理費用が納付されると同時に当該土地の管理を開始しなければならないということを前提として対応していただく必要があろうかと存じます。この制度の下にありましては,承認後,管理費用が納付されると同時に所管行政庁が管理を行うスキームと考えておりますけれども,法務大臣が承認をして,承認申請者も管理費用を納付したのだけれども,実際の管理がスタートしないというような事態が起きないように,運用を整えていただく必要があろうかと存じます。
また,承認を行う際の要件の中には,例えば,部会資料1ページの3の④や⑧など,土壌汚染の有無など,法務局に全く知見がないというものもございます。そこで,例えば土壌汚染あるいは埋蔵物の有無に関する要件などについて,管理をすることが予定される行政庁の知見によれば地歴などから承認が認められない土地に当たる疑いがあるというような場合には,所管行政庁の方から疑いがあるということを御報告いただいた上で,審査機関の方から承認申請者側に具体的にそのおそれを示し,承認申請者側にボーリング調査等を行わせて,その結果を報告していただくというような経過をたどると思いますので,所管行政庁の側にも御協力をお願いしたいと思っております。
いずれにしましても,本省レベルはもとより,各現場の段階においても,審査機関と所管行政庁との実質的かつ緊密な連絡体制がとられる必要があろうかと思っているところでございます。
○山野目部会長 伊藤幹事から御発言を頂いたことを受けまして,この際,一言申し上げます。この制度の構想におきましては,前の部会資料までは審査機関というものについて抽象的な御案内しかしておりませんでしたけれども,本日ここに至りまして,法務大臣を承認の権限を有する者として明確にイメージを具体化し,その具体の事務を法務局職員に担っていただくという構想を提示しているものでございます。それを受けて,ただいま伊藤幹事から御発言を頂きました。
私の方から2点御案内いたしますと,1点目といたしましては,この制度の創設がこの構想のとおりに進む場合には,法務局の職員の皆様に新しいお仕事をお願いし,多大な御負担をお掛けすることになります。ただいま伊藤幹事からは,鋭意その仕事に取り組んでまいりたいという決意を語っていただいたことを大変有り難く思い,全ての法務局職員を代表する気持ちとしておっしゃっていただいたものと受け止めます。この方向で進むことになりますと,法務局職員の研修や体制整備等において御労苦がお願いすることになりますけれども,何とぞよろしくお願い申し上げます。
もう1点は,ただいまの伊藤幹事のお話にありましたとおり,法務局が実際にこの制度の運用に係る事務を処していくに当たっては,法務局ないしその職員が有してきた知見のみでは対応が困難な事案が多くの局面において生ずることが予想されます。国民の関心も大きい制度でございますから,法務大臣を審査機関とする内容を提示しているところでありますが,その運用に際しては,この部会に関係官をお出しいただいている府省を始めとして,政府が一体をなす協力体制を構築して運用していくことが非常に重要であると感じられますから,今後この構想でお話が進みます際には,政府としてその運用の準備方について,よろしくお取り計らいを賜りたいと望むものでございます。
吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。正に今,伊藤幹事と部会長がおっしゃったことに関連して,私も少しだけ申し上げたいと思っていたところでした。
部会資料の6ページ下から8行目で,法務局や関係行政機関の職員が現地調査に赴き,とございまして,これは法的な権利関係の審査に加えて,現地で境界確認をするという専門的かつ物理的な大変さが求められるものだと拝読しました。是非人的な体制が整備されるように願っております。雪の多い地域では冬場は現地確認が難しいといった季節的な要因などもあるかと思いますので,それらが審査にどのように影響するのかといったことも考えなければいけないかと思います。他方で,これは関係行政機関や専門業界の方々の協力,連携を図る絶好の機会でもありますので,今回のこの新しい仕組みを契機として,土地政策において関係する方々の連携が図られる機会になればと願っています。
○山野目部会長 道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 ありがとうございます。いろいろな御発言があったのですが,その中で少し分からなかったところが2点ありますので,伺わせていただければと思います。
まず1点は,蓑毛さんの方からご紹介があった意見ですけれども,1の相続がどうしたということに関連いたしまして,事前に信託を設定するとか,あるいは贈与をするというふうな場合というのが,現在ではエステイトプランニングとして結構行われているところ,そのときに放棄ができないことにする,つまり,それらの対象財産をこの制度から除外してしまうと,エステイトプランニングとしての信託設定や贈与に対する逆風といいますか阻害要因になり得るおそれがあるので,それらも含めて国庫帰属ができ得る対象にすべきではないかという意見があったということについてです。しかし,それは,売買であれ相続であれ,受け取った側が合意をしている例ですよね。そういうものも含めてこの制度に入れるということになりますと,制度そのものの性格をかなり変容させるのではないかと思うのです。
そもそも,一部の共有持分を有していた場合に,相続によって,残りの共有部分が来たときにどうするかという問題があって,それはいっしょにして国庫帰属ができるようにしようと今回,直したわけです。それについても,私は,本当にそうすべきなのかなあという気はしますが,それについてはまあ認めるといたしましても,それ以外に一般的に,売買にせよ,贈与にせよ,信託にせよ,含めて考えるべきだという御意見があるということは,どうやってそれが正当化されるのかというのが私にはよく分かりませんでした。
第2点は,これは松尾さんがおっしゃったことなのですが,国庫帰属というのではなくて,地縁団体をもっと活用するということなのですが,それは無理筋だろうと思います。国庫が地縁団体に管理を委ねるということにすればよい,そのシチュエーションごとに,場合ごとにそういう判断をすればよいではないかという気がいたします。
後半は意見なんですが,前半は,どういう場合を考えていらっしゃるのかがよく分からなかったものですから,お教えいただければと思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事にも,もしおありだったら補足の御発言をお願いしたいと考えておりますけれども,道垣内委員に一つお教えを頂きたい点のお話を差し上げるとすれば,相続人に対する死因贈与で取得された土地というものはどういうふうにお感じになりますでしょうか。
○道垣内委員 形式的に,合意があったものは全部除くとすべきだと思います。
○山野目部会長 御意見を理解いたしました。
蓑毛幹事におかれて,何か補足の御発言がおありでしょうか。
○蓑毛幹事 道垣内先生がおっしゃることは,その発言自体としては理解できるところです。この制度が飽くまでも合意に基づいて取得したものは除外するのだということを徹底するのであれば,先ほど申し上げた日弁連の意見は正当化されないということになろうかと思います。
一方で,この国庫帰属の制度は,現在発生している所有者不明土地問題の今後の発生を抑制することが,その目的の根幹にあると理解しています。すなわち,現在適切に管理されている土地が,将来適切に管理されなくなる事態を防ぐための一つの方策として,この国庫帰属の制度を創設するということだと思います。そして,先ほど申し上げたとおり,生前に相続人に対して売買,贈与,信託などにより所有権を移転することは,次世代に土地を適切に承継させ,将来の適切な土地所有権の管理のために有益であり,究極的には,国庫帰属の制度と目的を同じくするものだと思います。
そのような観点から,今回の国庫帰属の制度の創設が合意に基づくものを除くというものとして制度設計されていることは理解しておりますが,一部それを緩め,相続人に対する売買,贈与等を阻害しないようにしてはどうかというのが日弁連の意見です。
○山野目部会長 蓑毛幹事が弁護士会で出された意見をお伝えいただいたところは理解いたしました。
道垣内委員において,お続けになることがおありだったらおっしゃってください。
○道垣内委員 賛成できないというだけです。すみません。
○山野目部会長 野暮なお尋ねを致しました。賛成がおできにならないものであろうと理解しております。道垣内委員のお立場は,合意・非合意の基準というものをきちんと維持して制度設計を進めなければ,この制度の全体の輪郭が分からなくなってくるという御注意であります。それはそれとしてお考えは明解であります。
蓑毛幹事が弁護士会の御意見としてお伝えいただいたところは,恐らく,その趣旨やそれに関わって道垣内委員がおっしゃった懸念は理解していただきつつも,元々弁護士会の先生方の中にこの制度の版図をもう少し拡げて始めたいというお気持ちが底流にあって,そういうことを考えると,合意・非合意の基準というよりは,ニックネームを付けると相続人受け手の基準というものしょうか,権利を取得することになる者が相続人であるときには,相続や遺贈のほかに,贈与であるとか,売買であるとか,信託であるとかというのも緩めて入れるということも一つの政策としてあり得るということをお話しくださったものと理解します。
そこは悩むところでございますから,道垣内委員の御懸念と蓑毛幹事からお伝えいただいた弁護士会の御意見等を踏まえて,どのような制度の構想にするかを考えていかなければいけないと受け止めます。ありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。先ほど道垣内先生から御指摘があった点について,補足させていただきます。御指摘にうまく答えられるかどうか分からないのですけれども,国庫帰属すべき土地について,認可地縁団体ないし地域コミュニティに帰属させるというのは難しいのではないかというお話でしたけれども,私が先ほどこれを申しました趣旨は,土地所有権の放棄ないし移転の申請をしたいという人と,その申請地が属する認可地縁団体ないし地域コミュニティとが直接交渉したときには,なかなか交渉がまとまらずに難しい場合でも,今回のこの土地所有権の放棄ないし移転の承認手続に乗せて,所定の要件についての審査を経て,適切な管理費用も認定する形で,国が仲介役的な立場に立って手続を進めたうえで,その帰属先として認可地縁団体ないし地域コミュニティとすることも意味があるのではないかと考えた次第です。その審査の手数料は国に入りますけれども,土地所有権が認可地縁団体ないし地域コミュニティに帰属する場合は,管理費用に関しては認可地縁団体ないし地域コミュニティに対して支払ってもらう形をとることにより,国にとっても土地の管理負担を軽減するメリットがあるのではないかと思います。もちろん,それは地域コミュニティの方からそういう希望があればその手続に乗せるという趣旨で申し上げました。それが余り功を奏さないかもしれませんけれども,私人にとって管理困難となった土地の受け皿の1つとして,市町村とは異なる可能性があるものとして,申請地の地域コミュニティを何らかの形で制度に取り込むべきではないか,申し上げたかったのはそういう趣旨でございます。
○山野目部会長 松尾幹事の地域社会への熱い思いが伝わってくるお話を頂きました。それとともに,道垣内委員から御注意を頂いたように,その御構想を直接の仕方で法制的に,取り分け民事法制において実現することができるかということについては,危ぶまれる側面があるという御注意もそのとおりであろうと感じます。御議論を頂きましてありがとうございます。
國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。今回のいわゆる土地所有権の放棄の関係ですけれども,基本的には賛成を致します。いわゆる土地の管理が一番重要だということで,そのうちの一番重要なところは,やはり土地の境界の画定をしていくというところが大事だというのは,私どもが何度もお話しさせていただいたところでございます。これについても,審査機関が法務大臣,いわゆる法務局が筆界を確認するということも含めてですけれども,対応するということは,これも賛成でございます。
先ほど伊藤幹事の方からもありました,この規律を運用していくためのいろいろな方策をこれから考えていただくということなのですけれども,我々土地家屋調査士としても,こういった機会に御協力を是非させていただきたいと思いますし,例えば,表題部所有者不明土地問題のいわゆる探索委員というような形を取っていただくというようなことも一つの方策なのだろうと思っていますし,それの受皿として,我々の業界も是非参加させていただきたいし,また御協力をさせていただく用意があると思っております。是非運用方法も含めて,これからも検討をしていただきたいと思っております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
そうしましたならば,部会資料54で制度として構想を提示申し上げております土地の所有権の国への帰属の制度については,本日の段階の御審議を頂いたものと整理を致します。
この際,私の方から一言申し上げます。この制度に関わるもろもろの論点について,熱心な御議論を頂きましてありがとうございます。私の方から取り分け御案内しておきたい事項は,土地政策との関連ということでございます。部会資料54で提示しておりますものは,国民の関心も大きい重要な制度でありますとともに,これを大局的な観点で整理してながめたときには,どのような位置付けを与えられるものであるかと申しますと,土地基本法の13条が土地の所有者,国,地方公共団体に対して求めている低未利用地の管理,適切な利用その他の責務ということと密接に関連しております。13条が構想している幅広い政策領域の一角を占めるものであります。この制度がこのまま創設されるということになったとしても,ここだけでは尽くせない様々な土地政策上の課題が残ります。この法律,この制度の外郭において,これから国土交通省の方で御努力を頂いて進んでいくであろうランドバンクであるとか,地域コミュニティの再生のための管理構想であるとか,それから農業経営基盤促進法や森林経営管理法が定めている様々な仕組みや,そういった土地政策のもろもろの,既にあり,また,これから設けられていく施策と有機的な連携を保つように,この制度が運用されていくことが強く要請されます。
本日の御発言の中で,吉原委員から,様々な職能との連携を含む土地政策との関連を意識することの重要性の御指摘を頂きました。松尾幹事からは,地域コミュニティとの関連ということを重視しなければならないという御指摘も頂きました。恐らく松尾幹事が提案なさったことは,道垣内委員から御注意があったように,民事法制としての基本的性格を持つこの法制に入れるということは法技術的に困難というか,恐らく不可能であると感じますけれども,それとは別に,承認申請があったというような情報を地域が共有できるような仕組みを,これから広い意味での土地政策の中でネットワークとして構築していく中で,御心配になったような,地域コミュニティとの対話が欠落してはいけませんといったような要請に応えるような施策が展開していくものであるのかもしれません。
それから,本日は部会資料で提示申し上げている太字の提案の後に,(注3)として,農業経営基盤強化促進法,それから森林経営管理法の運用に関わる内容をどうしようかという問題の示唆を差し上げていたところでありました。総務省,農林水産省そして林野庁,の関係官からそれぞれ有益な御指摘を頂きました。改めて,政府として土地基本法13条の理念を実現していくために,国,そして地方公共団体がそれぞれの役割を担わされているということに思いを致していただいて,それらの間の適切な分担が図られる姿がどういうものであるかということについて連絡調整を努めていただきたいと望みます。今後,成案を得るために,この(注3)の点についても審議を深めてまいらなければなりませんけれども,是非この部会に関係官をお出しいただいている府省を中心に,成案が得られる方向で鋭意連絡調整を図っていただくことを強くお願いするものでございます。
部会資料54についての審議をここまでといたします。
委員,幹事の皆様におかれまして,御覧いただいてお分かりのとおり,部会資料48は,括弧書きのところに,「いわゆる土地所有権の放棄」と示しておりまして,括弧に入れ,また,「いわゆる」という言葉を添えてございます。
こうなりました背景は,既にお気付きのとおり,その上にメイン・タイトルとしてお出ししているように,このたびの部会資料48からは,今まで土地所有権の放棄という仕方で御議論をお願いしてまいりましたものについて,相続を契機にして取得した土地の国への所有権移転という発想で取り組んではどうかという御案内,御提案を差し上げるものでございます。
そのほか,内容を御覧いただくとお分かりのとおり,第16回会議で御議論がありました,土地の所有権の取得原因が,いろいろ混じり合っているような事例,さらに,それに関連して,土地が共有の目的になっているような状態にある場合について,その際に,土地所有権の放棄といっていたものを,どのような要件で認めるかという論点につきまして,若干錯綜する問題状況がありましたところを整理した上で,本日改めて御提案を差し上げております。
そのほか,御覧いただければお分かりのとおり,認可という言葉を使ってまいりましたところを,本日は認定処分という概念を用いてお示ししているところ辺りが,言葉遣いとしては目立つところでございます。
認定処分という言葉に,この段階で何か特別の含みを与えるという趣旨で,提案を申し上げているものではありません。行政行為の性質をどう考えるかという見地から,なお法制的に精査を要する事柄ではありますが,何も言葉を用いないというわけにはまいりませんから,ひとまず認定処分という言葉を与えて,御審議をお願いするということにいたした次第でございます。
部会資料48はこのようなものでございます。これについて,ただいまより,この部会資料48の全体について,委員,幹事から御随意の御意見を承るということにいたします。
それでは,御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
○中村委員 第1ばかりでなく,第2の方も申し上げていいですか。
○山野目部会長 よろしいです,お願いします。
○中村委員 はい,承知しました。
日弁連ワーキンググループでの議論を御紹介させていただきます。
従前の議論の経緯から,もっと大きな制度となることを期待していたのに,少し残念だとか,民事基本法制に今回の議論が反映されないことに,残念さを感じるという意見がありながらも,民法に所有権放棄に関する新たな規律を設けずに,特別法によって,放棄ではなく認定処分の形で国への所有権移転を認める方法を採ること自体につきましては,賛成ないしは積極的に反対はしないという意見が多数でした。
その上で,日弁連ワーキンググループから,従前から申し上げてまいりましたように,本文1項の認定処分を受けることのできる者の範囲を,相続又は遺贈により土地の所有権を取得した者に限定するのは狭過ぎるのではないか,本文6項のような厳しい要件によって,国が引き取る土地を絞り込むのだから,土地の取得原因を相続,遺贈に限定する必要はないのではないか,この要件を設けることによって,この制度の利用を次の相続まで待つということになりますと,相続によって権利者が更に分散しますし,また,その間,管理する意欲を持たない者が所有し続けるという事態になってしまいはしないかというような指摘がございました。
また,1項(注4)のただし書につきまして,当該土地の共有持分を2回以上にわたって取得した者に関し,7ページの補足説明の6項末に挙げていただいております例のほかにも,もう少し考えられそうな気がするという指摘がございまして,これを法文化するのはなかなか難しいのではないかという指摘が挙がっておりました。先ほどお話しいたしましたように,相続等で取得した土地に限定せずに,6項で絞り込むという方法を採れば,このような困難さはないのではないかという指摘も挙がっております。
それから,本文10項ですけれども,(1)から(6)に該当する場合を除いて,1の認定処分をするという作りになっていますので,10項の(3),(4)は,認定処分の実体要件となる項目であるところ,この内容である5項の申請に先立つ売却等の試みの内容ですとか,6項の各項目というのを,できる限り具体的に法律事項として法律に盛り込むべきであり,技術的な細目に限って政令に委任する形にしてほしいという意見が挙がっておりました。
少し戻りますが,本文3項の認定処分は,土地の1筆ごとにするという要件についてですけれども,1筆の土地の一部は対象としないということを示すためには,この要件は必要かと思いますが,逆に,ワーキングのメンバーから,東日本大震災の後に,津波で浸水した低い土地を自治体が買い上げて,その代金で高地に家を建てて移ってもらうという施策の例が挙がりまして,自治体が低い土地にたくさんの土地を所有することになったけれども,緊急の対応なのでやむを得ないこととはいっても,区画がまとまらず,言わば虫食い状態で自治体が持つことになったために,再利用が困難という事態が発生していることの紹介がありました。
今回の制度では,国が引き取った後の有効利用の見通しというものがないと,なかなか今後,対象を拡大したり,要件を緩和していく方向には向かわないのではないかと思われますので,例えばですが,隣接する複数の筆の一群の土地を対象とする場合ですとか,国有地に隣接する土地を対象とするような場合には,ある程度要件を緩和するなどの扱いをしたらどうかといった意見も出ていました。
また,本文6項の(7)とも関連するのですが,隣接する複数の筆の一群の土地を対象とする場合には,他の所有者との境界が明確であれば,その一群の土地の複数の筆の相互の間の境界が不明確であっても,不適格としないなどとすることによって,申請者が大きな費用をかけずに,まとまった形で提供する方向へのインセンティブにすることができるのではないかという意見などもございました。
本文11項,(2)の時効期間につきまして,認定処分の際に既に6項の要件について審査がなされているのだから,申請者を長期間不安定な状態に置かないために,認定処分がなされたときから,5年に限定するのがよいのではないかという意見がありました。
それから,第2について申し上げます。
日弁連は,中間試案意見書では,他の共有者全員の同意を必要とする,すなわち,今回の甲案とすることが妥当であるという意見を述べておりましたけれども,今回の資料48に対しまして,新乙案,つまり,新たな規律を設けないという意見が比較的多数ありました。理由は,甲案を採って,共有全般について全ての共有者の同意を必要とすることは,やはり厳し過ぎるという考えに至ったというような意見ですとか,土地所有権の放棄について,民法を改正せずに,特別法を設けて規定する方向性と併せて考えると,持分の放棄についても,新たな規律を設けない方がバランスがよいだろうという意見などがございました。
他方,今回は,案として挙がっていない,従前資料の36の乙案,不動産についてだけ共有者全員の同意を要するのがよいという意見も,依然としてございました。理由は,今回,資料48の17ページ中ほどに御説明いただいておりますように,不動産の持分の放棄があった場合,これを登記に反映するためには,持分放棄者と他の共有者との共同申請が必要なので,放棄については同意は不要としたとしましても,他の持分権者が放棄された持分の取得を望まずに登記に協力しないような場合,放棄者の側も訴訟を起こしてまで登記を受け取らせるという意思がなければ,実態と登記が乖離する状況のまま推移するということになりはしないか,そしてまた,放棄したつもりの人も,引き取るつもりのない人も,いずれもが管理をしないという事態になることも考えられますので,この部会のミッションに反することになってしまいはしないかということが,挙がっておりました。
長くなって申し訳ありません,あと1点だけ。
また,17ページの共有物の管理に係る負担を早い者勝ちで他の共有者に押し付けることの懸念に関する部会資料での説明によりますと,他の共有者に一方的に負担を押し付ける目的で共有持分を放棄したときは,権利濫用に該当する可能性があることを書いていただいておりますが,それ自体はそのとおりだと思います。ただ,実務上,そのような立証は大変難しいために,結果として押し付けられるという事態は避けられないのではないかという懸念が挙がっておりましたのが1点。また,押し付けるというよりも,自分がつらいから負担を免れたいという意図であったとすると,権利濫用には恐らく当たらないのではないかと思われますけれども,結果として早い者勝ちという事態は,必ずしも限定的とは言えないのではないかという懸念も示されておりました。
長くなりましたが,まずは概略を御報告いたしました。さらに具体的な提案,意見につきましては,後ほど橋本幹事,蓑毛幹事から御提案させていただきます。
○山野目部会長 弁護士会の多岐にわたる御意見をおまとめいただきまして,ありがとうございました。この後の委員,幹事からお出しいただく御議論の参考になるものと受け止めました。増田委員,どうぞ。
○増田委員 ありがとうございます。
私は1点だけ,もう各論的な部分でありますが,この本文の(注3)でありますが,具体的には,5ページの4のところに,今回の所有権の移転の認定処分をする審査機関をどこにするかということで,具体的な行政機関名は書いていないわけですけれども,ここの5ページに書かれているとおりの観点が重要だと思います。公平性を担保するという意味では,具体的に土地を管理するというと財務であったり,農水林野がありますが,そういうところから遠い組織である必要がありますし,一方で,それなりの数がやはり出てくることを考えると,利便性ですとか実際の審査する能力ということも,十分考える必要があると。
別途頂きました調査によりますと,地目によっても多少違いますけれども,農地の割合がその調査で多くなっていますが,一応所有権の放棄見込み数で10万世帯が放棄をするという,それなりの数が出てくるということを考えますと,やはり,さらに本文の方でも行革的に新たな,当然行政組織を設置することが慎重ということを書いていますので,言いますと,具体的には,法務省の法務局をここで審査機関として考えていくのが必要ではないか。ただし,今申し上げましたとおり,それなりの数が出てくるので,今の法務局の体制にそれなりに,やはり動かしていく上での増強なり何なりが当然必要になってくると。これをどうしていくかというのは,今後また,実務的にいろいろ必要性を訴えていくということが必要だろうと思いますが,この審査機関については,ここは法務省の法務局を使って審査をしていくことが必要ではないかということで,意見を申し上げておきたいと思います。
○山野目部会長 審査機関の在り方の具体的なイメージにつきましては,これまで余り論じられてまいりませんでした。増田委員からは,その点について,踏み込んだ検討をしていただいた成果を御披歴いただく意見を頂戴することができました。どうもありがとうございます。
引き続き御意見を承ります。
○今川委員 まず,確認ですが,今回このような制度に変更というか,考え方を変えたことで,現行の民法239条2項はそのまま残って,また,土地所有権の放棄については,放棄できることを前提とするような判例もありますし,放棄を前提とした法務省の通達等もありますが,これはそのまま維持されて,個別で裁判等によって解決が図られていくという考え方でいいのでしょうか,その点を確認させていただきたいと思います。
それと,(注3)の審査機関についてですが,今も意見が出ていましたけれども,放棄された土地を管理する機関からできるだけ遠い公的機関の方がいいだろうと思います。したがって,実際に管理をするような省庁は避けるか,あるいは別途独立性の強い機関を設けるか,どちらかがいいのではないかと思います。
それと,(注4)の補足説明6の最終段落の例ですけれども,場合によっては,Aの持分がものすごく少なくて,購入してからBが死亡するまでの間がものすごく長期にわたるようなときなんかは,本制度の対象としてもいいようにも思われます。これも,先ほど意見が出ていましたが,駄目なら,次の相続まで待つというようなことにもなってしまいますので,難しいかもしれませんが,審査機関において,個別事案によって実質的に判断できるような方策も必要だという意見がありました。
それから,ちょっと細かいですけれども,本文10の認定処分について,却下処分と不認定処分に分けられていますが,申請書の内容の不備とか添付資料の不足等も却下事由となっているのですが,不動産登記法25条のように,申請の不備の補正というようなものも,規定として盛り込むことも検討していただきたいというそういう意見がありました。
それから,本文6の(7)のところですけれども,所有権界に争いがないかの判断で,隣地所有者の異議がないことの書面とか,境界標の設置,測量図面の提出等が例示されています。これが絶対ということではないのかもしれませんが,これは,実質,土地の筆界を含めて境界確定を求めることに等しくなってくるので,かなりハードルが高いのではないかと思われます。そしてまた,所有者不明の土地の場合はどのようにするのかというような意見も出ておりました。この辺り,もう少し検討をしていただけないかという意見が,我々の中には多いです。
それから,上記に関連しまして,国民からすると,マスコミとか世論の動きを見ていると,不動産をこのまま所有し続けることができない,あるいは所有したくないという意識がありまして,今回,この部会でその要請に応えてもらえる内容の制度ができるという期待感が非常にあったのかなという気はします。ただ,新しい制度を見ると,非常にハードルが高くて,手放すのはかなり難しいよね,という印象を持たれるかもしれません。もちろん,この部会の議論の過程というものを,我々は分かっております。最初は土地所有権の放棄をどのように認めていくかという議論から始まったんですけれども,モラルハザードの問題とか,土地基本法において所有者の責務が明記されたことや,所有権の放棄に関する理論をどのように構築するかという困難な問題にぶつかるということで,今回の提案に至ったというのは,理解はしております。
先ほども10万世帯という数字が出ました。前々回の部会資料36の参考資料として提示された資料において,1%弱のものが要件に合致するということですが,1%でいいのか,1%では少ないと見るのかは,これは政策判断にもなってくるかと思うんですけれども,審査機関において,できるだけ国民の期待に応えられるような運用もできる作り込みにする,または,常に検討し,検証していくような制度設計にしてほしいという要望がありました。
それから,第2については,先ほど意見が出ておりましたが,我々も不動産について,原則として所有権の放棄をすることはできないという規律を置いて,放棄を認める場合の要件とか手続を定めていくという方向性であれば,そのバランスから,持分の放棄について,他の共有者の受入れの意思表示を要件とするということも必要かとは考えておりましたけれども,所有権の放棄について今回特に規律を設けないというのであれば,共有持分の放棄についても乙案でいいのではないかという意見が多かったです。
○山野目部会長 今川委員におかれては,司法書士会の多岐にわたる御意見をお取りまとめいただき,ありがとうございます。
また,冒頭にお尋ねが一つありました。それについて,法制面での現在の検討の方向として考えを抱いているところについて,事務当局からお話があればお願いいたします。
○大谷幹事 ありがとうございます。
前回,不動産の所有権の放棄は基本的にできないとする規定を民法に設けるという提案をしていましたけれども,今回の提案では,そのような規定は民法には設けないということになりました。したがいまして,土地の所有権の放棄の可否については,引き続き解釈に委ねられる,ケース・バイ・ケースで判断されるということになります。もっとも,今回土地所有権を国に移転させるための要件,手続を,別の法律とはいえ,詳細に定めるということになります。
そうしますと,結局のところ,土地所有権の放棄の可否の問題というのは,土地を国庫に帰属させるということができるかという問題で,国庫に帰属させるルートが改めて新法によって示されたということになれば,民法の解釈としても土地所有権の放棄ということは難しいという方向に動くのではないかと理解をしております。
○山野目部会長 今川委員,ただいまのお答えについて,何かおありでしょうか。
○今川委員 いえ,まずは結構です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
引き続き,委員,幹事の御意見を承ります。
○蓑毛幹事 先ほどの中村委員の発言,意見を補足する形で,意見を申し上げます。
第1の1について,日弁連の意見は先ほど申し上げたとおり,個人について取得原因を問わない,あるいは法人についても認定処分の申請主体としてもらいたいということですが,部会資料に書いてあるとおり,現時点で,この制度についてどの程度の利用見込みがあるのか,また国の財政負担がどの程度になるのかがよく分からないという状況の中で,今回の提案のように認定主体を絞り込むことについては,一定の理解ができるところではあります。
ただ,一方で,部会資料にも書かれているとおり,この制度の目的は,土地が適切に管理されることなく放置され,所有者不明土地や管理不全土地になることを防止するということにあります。したがって,現に土地が所有者不明の状態になっているものについては,他の要件を満たす限り,国に管理を任せるべく所有権を移転することを認めるほうがいいのではないかと思います。具体的には,今回の民法改正により創設される予定の所有者不明土地管理人が選任された場合には,その取得原因を問わず,国に土地の所有権を移転することが認められてよいのではないかと思います。
また,所有者不明状態には至っていなくても,適切に管理する主体が存在しないために,類型的に見て管理不全化,所有者不明化する蓋然性が高い状態にある場合については,国に土地の所有権を移転することを認めてよいのではないかと思います。具体的には,法人が破産した場合の破産管財人です。破産法上,あるいは実務上,破産管財人は,破産財団に帰属する土地の売却を図りますが,これが難しいということになれば,裁判所の許可を得て破産財団から放棄します。そうすると,誰も土地を管理する者がいないということになり,管理不全化,将来的には所有者不明土地化する蓋然性が非常に高いということになります。そこで,このような場合には,例外的に国への所有権移転を認めてよいと思います。
もう少し広げるならば,解散決議をして清算手続に入った法人についてもと思いますが,これは広過ぎるということであれば,そこまでは申し上げません。前回の部会で,小さく産んで大きく育てるという話が出ましたが,その小さく産む中に,少しでも,所有者不明土地,管理不全土地になることを阻止するという目的に沿った申請主体を設けることを,御検討いただければと思います。それが,大きく育てることにつながると思います。
それから,もう少しだけ。中村委員の申し上げたことの補足として,6の要件に関して,日弁連のワーキンググループでの意見を申し上げます。
6(1)で,建物が存在する土地が認定処分から除外されることはやむを得ないと思いますが,申請に先立って費用を掛けて建物を取り壊したけれども,他の要件を満たさないので申請が通らないというのでは申請者にとって酷ですので,認定に当たっては,事前協議のようなシステムを設けてはどうかという意見がありました。事前協議をして,建物を取り壊せば申請が通りそうという感触を得たうえで,建物を取り壊すということができたほうがよいというものです。
それから,(9)の要件について,「過分の費用又は労力を要する」の箇所ですが,民法には「過分の費用を要する」という概念はありますが,「労力を要する」ということの意味がよく分からないとの意見がありました。「労力を要する」というのは,「費用を要する」ことに含まれるのではないか,あるいは,部会資料を読むと,ここで「労力を要する」という用語を用いているのは,「他の権利者との間の調整を要する」ということを表しているようにも思われますので,もしそのような趣旨であれば,「労力を要する」ではなく,端的に「他の権利者との調整を要する」と書いた方がよいのではないかという意見がありました。
○山野目部会長 蓑毛幹事から,認定処分の申請をする者の資格の範囲について,まず御意見を頂きました。
これから私たちが検討して作ろうとしている制度が,小さく産んで大きく育てるものであるだろうということについては,恐らく,想像いたしますに,大方の委員,幹事の間において,そのようなイメージをお持ちでいらっしゃるのではないかと考えますけれども,仮にそのように考えてまいります際にも,最初に産むときの小さくとは,どの範囲のことで考えて出発するかということについては,なお考え込まなければならない論点が存在しているものでありまして,その一端を今,蓑毛幹事から御指摘いただいたと感じます。
それに引き続いて,蓑毛幹事からは,一,二のお尋ねがありました。部会資料48の趣旨を確認する側面がございます。
これについて,事務当局の方からお話を差し上げます。事前協議と,それから,労力という言葉は要らないのではないかということです。
○大谷幹事 ありがとうございます。
事前協議の在り方,これは,実際に制度を動かすときに,どのようにしていくかということかと思います。御指摘も踏まえて,今後検討していきたいと思います。
6の(9)のところを,もう少し具体化できないかという御指摘もございました。この点についても,確かに書きたいことというのは,部会資料に書いてあることでございまして,その趣旨が読めるように,もう少し工夫できないか検討していきたいと思います。
また,相続に限らずに,別の取得原因であっても,所有者不明土地化を防ぐために必要なときには,土地所有権の移転の仕組みを使えるようにしてはどうかという御指摘を頂きました。ここのところ,まずは相続による所有者不明土地化というのが社会問題になっているというところに対応するものとして,今現在このような形で提案をさせていただいております。様々な要件をもっと緩めてはどうかというのは,これも何度も御指摘を頂いておるところでございますけれども,一方で,やはりこれも御指摘いただいておりますが,国の方の管理のコストの負担ということも考えていかないといけないだろうと思っておりまして,そのバランスが難しいところでございます。
所有者不明土地状態になりそうだという場面として,法人の倒産の場面を御指摘いただきましたけれども,そこのところも,土地の所有権の国庫への移転ということを許す方向にいくのか,それとも,所有者不明状態になっても管理を可能とする所有者不明土地管理制度などの提案をしてまいりましたけれども,そちらの方で対応できるようにするのでどうかということもございまして,現時点でなかなか,もっと大きく産もうというのはなかなか難しいかなと思っておりますけれども,本日頂いた御指摘も踏まえまして,もう少し考えてみたいと思います。
○山野目部会長 蓑毛幹事がお尋ねという仕方でおっしゃっていただいた,二つの論点のうちの前の方の,事前協議という言葉でおっしゃった事項については,確かに考えなければならない側面があり,これは,問題意識が全く同じではないかもしれませんが,少し前に今川委員の御発言の中に,申請がされたときに,補正のチャンスはないものですかという話題提供がありました。司法書士の考えるイメージの補正とは,何か書類が足らなかったから追加します,というような補正を,もしかしたら最初はお考えになっておっしゃったかもしれませんけれども,ここで考えている申請の手順を考える際には,そのような書類の不備のようなものから,恐らく実地調査の場所に,その申請した人にも同行してもらって,いろいろ意見交換をしながら話を進めていくと想像されますが,その際に,建物さえなければ,ほかの要件は大体満たしているますねというような心証開示を行政庁の側がして,いろいろなコミュニケーションの往来がある中で,申請の受否が決まってくるであろうと想像します。
特に規律を設けず,放っておいてもそのようなコミュニケーションは事実問題として行われると思い描きますけれども,そのようなやり取りについて,言わば行政手続としての信義則を定型化するような,何かの制度装置を設けた方が,安定して手続を運用することができると考えられるものであるならば,今川委員や蓑毛幹事の問題提起をヒントにして,何か考えてみる必要があるかもしれません。
蓑毛幹事がその後でおっしゃった過分な費用又は労力という際の,又は労力という部分は,論理の問題として要らないのではないかと,いささか率然と理解しかねるというお話は,なるほどと感じますとともに,むしろ他者との調整が困難であるというようなことを,正面から申請が認められない事由として考えるべきではないかという御提案も承りました。他者との調整という抽象的な言葉で行ったときに,行政の裁量の余地が広がることが少し心配であるとともに,いろいろな事象が出てくると予想しますから,ある程度は抽象的に要件を法文上描かなければならないと感じられるところもあって,なかなか難しいとは感じますが,しかし,確かにその点は考えなければいけませんから,検討をしてみようと考えます。
非常に深い場所に鉄道を通す大深度地下利用の使用権がありますなんていう土地の国への移転をしたいといったときには,ほとんど地表の利用には影響がないですけれども,若干は鉄道事業者と他の事業者などとの調整が必要になったりする側面があったりするものですから,そのようなことは考えなければいけないですけれども,しかし,政省令も含めて,そうした細かいことを全部書き切るということは難しいですですから,法制的にどういうふうに組んでいったらいいかということを,引き続き悩んでみなければならないと感じました。
山田委員,どうぞ。
○山田委員 ありがとうございます。
(注4),3ページでございますが,これに関して意見を申し上げたいと思います。
(注4)のところで,二通りのものについて,法人の共有者の中にいても構わないというのと,それから,相続,遺贈以外の取得原因で共有持分を取得した者が共有者の中にいても構わないということを明らかにしていただいています。これは是非,この形で実現していただきたいというのが,私の意見です。
理由は,この制度の利用をどの程度の範囲で認めるかというところが,実質的には重要だろうと考えますが,その一つのポイントとして,これは是非,実現していただきたいということです。
そして,あわせて,(注4)のただし書のところは,しかし,範囲を合理的なところに絞りたいということも理解しましたが,相続又は遺贈で先に取得して,その後,それ以外で取得したというのはオーケーで,その反対だと駄目だということですが,期間とか持分の大きさというところも問題になるかもしれませんが,順序に関わらずに,相続によって取得した共有持分があれば含めるという考え方も,ここに書かれていることと相違なく認められるように思いますので,広くしてはどうかというのが,私の意見です。
そして,関連するのですが,少し違った角度からの発言を続けさせていただきます。
所在等不明共有者がいた場合に,今の共有土地についての認定処分申請がどうなるのかということについて,これは応用問題なのかもしれませんが,同じ部会で検討しているところですので,一応答えは出しておいた方がいいのだろうと思います。
部会資料,遡りますが,41になるのでしょうか。41には,第2と第3が関連するように,私は理解しました。第3の方が簡単だと思うのですが,これは,所在等不明共有者がいる場合に,不動産の譲渡をどうするかということで,裁判所の判断を経て,所在等不明共有者の持分についても譲渡することができるというルールだと理解しております。これを,やはりここでの認定処分申請に当てはめられるということが確保されることが,望ましいと思います。譲渡そのものではなくて,国が行う認定という所有権の移転の効果を生じさせる行為を導くための私人の認定処分申請ですので,譲渡とは,細かく言うと違うもののように思われます。そこで,所在等共有不明者がいるときには,部会資料41の第3の方法を使って申請できるということは,是非,確実に行えるとしていただけるとよいと思います。
それに対して,同じ資料,部会資料41の第2で,不動産の所在等不明共有者の持分の取得をしてから,認定処分申請をすればいいではないかという考え方も,反論としてはあり得るのかもしれませんが,しかし,別の文脈で議論されているとおり,一旦持分を取得したけれども,結局認定処分が得られなかったとなると,持分抱えなくてはいけませんので,やはりこの部会資料41の第2の方法を用いてというのも,もちろん妨げられないわけですが,第2の方法でなく,第3の方法で認定処分申請を行うということができるようになるべきだと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
山田委員が前段でおっしゃった,部会資料48,3ページの(注4)のお話でございますけれども,これにつきましては,思い起こしますと,(注4)の少なくとも本文,ただし書にいく手前の本文のところの部分につきしては,第16回会議におきまして,様々な御意見を頂戴したところでありますけれども,大筋,部会資料36で提示していた,うるさい要件を言わなくても,共有の目的になった土地について,なるべく国への所有権の移転の可能性を認めてあげるという方向で進んではどうかという全体の御議論の雰囲気を承ったところでありまして,本日この部会資料48におきましては,(注4)の本文において,正に前回の部会資料より申請が可能となる場面が拡がる方向での提案を差し上げているところであります。
これにつきましては,ただいままで意見表明を頂いた委員,幹事の御意見,そして,ただいまの山田委員からの御指摘でも,やはり賛成の御意見を承ったところであります。それに対して,本日の部会資料,この部会資料48の(注4)のただし書については,ただいままで御発言いただいている中で拝見しますと,評判が悪いということではないかと感じます。冒頭に中村委員から,弁護士会の御意見の集約として,このただし書はいかがなものかという,これは小さく育てるといっても,ここは小さ過ぎですという感覚からのお話を頂きましたし,今川委員からは,持分の多寡等を考慮して柔軟に対応してほしいというところまで,更にその議論を深掘りしていただきましたが,ただいま山田委員からは,持分の多寡とかいうことも,本当にうるさく要件にしなければいけないものでしょうかというお話を頂戴するに至りまして,総じて言うと,この(注4)のただし書は,現在評判が悪いという状況で推移しているということを御紹介しますから,重ねて委員,幹事の皆様方からの御意見を承りたいと考えます。
それから,山田委員が後半でおっしゃっていただいた点も,引き続き検討しなければいけない点でありまして,これについても,部会資料41で問題提起を差し上げていた所在等不明共有者がいる場合の不動産の譲渡の手続のルールが,論理的には,何も書かなくても譲渡の先が国であるときにも適用されると,山田委員は政策的にそういうふうに考えるべきだというお考えを前提に,論理的にそういうふうに読み取れることがあるかもしれないけれども,なおそのことは,部会の審議において,皆が何となくそう考えていたとか,いや,そうは考えていませんでしたとかいうふうに,認識に齟齬があるといけないところであるから,なおどうなのかという問題提起を差し上げたいというお話を頂きました。
この後段につきましては,事務当局がどういう考えでいるかを尋ねる趣旨も含まれていたと感じましたから,後段について,事務当局において考えがあったらお話をください。
○大谷幹事 ありがとうございます。
先ほど山田委員から御指摘いただいた,部会資料41の第3の制度との整合性というか,それが使えるのかということですけれども,私は使えるという方向で考えていました。
今回,承継取得という形でお示しをしておりまして,行政処分をかませた上でのお話で,やや所有権,共有の持分そのものの行使とはまた別の部分がございますけれども,共有持分権,所有権に基づいて申請を行い,それを国に移転させていくという意味では,譲渡と実質的に共通する部分もあると思っておりまして,その意味で,先ほどの部会資料41の第3の譲渡の仕組みも,利用可能なのではないかと思っておりました。
○山野目部会長 山田委員,いかがでしょうか。
○山田委員 大谷さんのお答えは,私の実質的な結論と同じ方向を向いていますので,うれしく承りました。それが,認定処分申請という行為と譲渡と,私人間で一般的に行われる法律行為との関係についての理解の問題で,大谷さんのお考えが広く共有されるのであれば,明らかにしてほしいというのは,もう明らかになっているということで,解決したんだろうと思います。
○橋本幹事 意見を踏まえた質問になるんですけれども,まず1点目ですが,第1の6の(9)の関係で,先ほど蓑毛幹事から,労力というのはいかがなものかということで,座長から,ある程度抽象的な規律にせざるを得ないというお話があって,それはそれで納得するんですが,要は,国民の予測可能性を確保するという観点だろうと思うので,政令に委ねざるを得ないところは出てくるかと思うんですけれども,そこを,できる限り明確化する必要があるだろうということです。
そこで,審査機関について,先ほど冒頭,増田委員から法務局でしょうと,私もこの文書を読んで,法務局一択なんだろうなと読みましたので,法務局に賛成です。是非予算を獲得して,人的物的設備を充実してやっていくと,お願いをしたいと思います。
そこで,法務局さんでもしやるという制度で実現した場合には,どういう事案,どういう申請が認容されて,どういうケースだと棄却されたかというのは,事案の公表,要するに,先例的な意味合いで,国民が分かるように,そういうものを毎年公表するようなことも考えていただきたいと,要望的な質問ですかね,そういうことも考えていただけますかねという質問。
それと,もう1点ですが,部会資料36のときにお聞きすればよかったんですけれども,今回,民法には特に所有権の放棄,あるいは所有権の移転というものはいじらずに,別途法律で決めると提案されていて,この方向になった場合には,この部会の答申としては,所有権放棄,所有権移転についての民法に規定は盛り込まないというところで終わるのかなと思うんですけれども,そうすると,この特別法については,方向性についてはこの部会で議論していますけれども,具体的な法律案としては,もうこの部会の手を離れて,法務省の事務当局の方で立法作業に進んでいくというスケジュールなんですか。その場合は,当初この部会のスケジュールで示された,来年の通常国会に法案を上程するという目標で作業されていくのかを,ちょっとお聞きしたい。
○山野目部会長 橋本幹事の御発言のうち,最後の点が立法のリズムの問題ですから,事務当局の方で説明を,今分かっている範囲で説明を差し上げなければいけないと感じますが,そこを除いて,その前の方は,いずれも御立派な意見を頂いて,もう,それはそうだよねということばかり伺ったような印象を抱きましたから,そちらは,質問とおっしゃいましたが,貴重な御意見を承ったと受け止めることにいたします。
立法のリズムについて,事務当局の方から説明ください。
○大谷幹事 確かに,土地所有権の放棄という形ではなく,新しく所有権の移転の仕組みということで提案をしておりますけれども,その内実は,所有権の放棄に関するこれまでのこの部会での御議論を踏まえてのものでございまして,我々としては,部会の結論として,こういう仕組みを作るということの御提言を頂きたいとは思っているところでございます。
この後の立法関係の,いつ法案を出すのかということですけれども,これも,所有者不明土地への対応の一環として,民事基本法制そのものではないにしても,それに関連するものということで今回提案をしておりますので,民法・不動産登記法の改正と同じタイミングで法案を作成していくことを考えております。
○山野目部会長 橋本幹事に御案内を差し上げますと,まず,この部会の仕事としては,最初に諮問107号で法務大臣から賜った諮問の中に,土地所有権の放棄を認めることの適否及び認めることとする場合の,その要件について検討されたいという項目が入っておりましたから,その求めがあった以上,そこについて何も答えを戻さないということはできません。今,ちょうどこの部会資料48で議論している事柄は,表現が放棄ではなくて移転になりましたけれども,それに対応することでございますから,専門的な御議論をお願いした結果,こうなりましたということは答えなければなりません。
答えを差し上げた後,それを受け取った法務大臣として,それを法律案として立案し,内閣として国会に提出するかどうかは,政府内の府省の協議によって決めていくという段取りになりますが,そういう意味では,確定したことをこの場で決めたり,述べたりする状況ではありませんけれども,当面の見通しを今,大谷幹事から差し上げたということになります。よろしゅうございますか。
○橋本幹事 はい。
○道垣内委員 ルールの内容についてではないのですが,議論の仕方というか,前提というか,そういったことについて一言だけ申し上げたいと思います。先ほどから,小さく産んで大きく育てるという言葉が出てきており,部会長もみんなそう思っているんだと思います,とおっしゃったのですけれども,私は少し気をつけなければならない言葉だと思っています。先般,民事執行法の関係の部会が開催されている際,その議論において,財産開示制度というのは,小さく産んで大きく育てるということで,みんな納得していたはずだ,だから今回は拡大するのが当然なのだという意見が,かなり強く出たんですね。私は,それはおかしいだろうと,拡大することの是非をここで決めるはずであると申し上げました。たしかに,財産開示制度を最初に立法化する過程においては,小さく産んで大きく育てる,といった言葉が出たのかもしれません。しかし,だからといって,次の議論の際には当然に拡大するのだと言われるとそうではないと思うわけです。同様に,今回の制度についても,将来,再検討が問題になったときに,これは拡大する話だったはずだと言われるのは,それはおかしいのであり,そのときに必要性に応じて,より小さくするかもしれないわけです。
ですから,それは将来の議論の話であり,大きく育てるというコンセンサスがここで成り立っているというわけではないということは,確認をしておきたいと思います。
○山野目部会長 道垣内委員の注意を,ごもっともなこととして承りました。
しばらく前の今川委員の御発言の中で,この制度を作って運用していくに当たっては,どういうふうな成果を生んだかということを,課題も含めて検証してもらいたいという御指摘があったところでありまして,これから政府において立案することになる法律案に,一つの可能性としては,附則として見直しの条項を入れることになるかもしれません。その見直しをしていく中で,蓑毛幹事が問題提起をなさったような幾つかの事象のうちのあるものについては,新しくその時点で認知される立法事実を踏まえて,見直しをするということになるかもしれませんし,その見直しをするときには,ただいま道垣内委員から御注意を頂きましたように,やみくもに適用の範囲を広げるということのみ考えるのではなくて,見直しという言葉のとおり,適切に見直すということをしていくというお話になるものであろうと感じます。
そのような見直しのお話を適切に進めていく手掛かりとするためにも,橋本幹事から御指摘いただいたように,1年を回顧してということでも結構ですし,リズムはいろいろ考えられますけれども,国への土地の所有権の移転が認められた事例を集積しておいて,資料として人々が共有をして議論を進めるということも,有益であるかもしれません。
道垣内委員におかれては,どうもありがとうございました。
引き続き御意見を承ります。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
何点か,細かいことも含めて伺いたいこと,あるいは意見を申し上げたいことがあります。
まず,小さく産んで大きく育てるかどうかはともかくという点なんですが,最初は,どちらにしろ,私は,前も申しましたけれども,小さく始めた方がいいと思います。それは,先ほど今川委員がおっしゃった,国民の期待はかなり大きそうだ,がっかりするのではないかという話に関係するんですけれども,制度が始まると,かなり放棄の希望が出てくるのではないかと思うのですね。
そのときに,希望を全部受けられたらいいと思うんですけれども,仮にそうならなかったときに,こちらの方が放棄を認められてもいいはずである,あちらが認められるのはいかがなものかという意見のようなものも,出てきかねないのではないかと思うんですね。そのときに,自分で取得をした人とそうではない人がいた場合には,一般的に言えば,自分で取得したんだろう,それは,あなた,責任を負わなければいけないではないかという,非常に単純な考え方ですけれども,考え方になりがちではないか。したがって,この相続を契機として取得した人からまず始めるというのは,私は極めて合理的だと思っています。
その上でなんですけれども,先ほど山田委員がおっしゃった(注4)のところのただし書の部分は,そうであっても私も,不要とする方がいいのではないかと思います。というのは,確かに,まずは自分が意思に基づいて共有持分を取得している。しかし,その後,相続が起こって,他の共有持分も取得することになりましたとなりますと,結局それは,放棄をしたいと思っているような状況で,更に負担が増すということになることは変わりがないわけですから。持分が2分の1ずつだったとしまして,最初の半分は,あなた,自分の意思で取得したのではないかということを,いつまでも不利益な方向に考慮することは適切ではないのではないかと思っております。これが1点目です。
あと,ものすごく細かくなるので,ちょっと恥ずかしいなと思うんですが,かなり具体的な案が出てきているので,どうなんでしょうかということを伺いたいんですが,まず,文言なんですけれども,6の(2)のところには,単に「土地の管理又は処分」とあり,(5)と(8)は「通常の管理又は処分」となっているんですね。これは意味が違うのか,意味が同じなのであれば,合わせた方がいいのではないかと思いました。それが1点。
それから,2ページの(6)のところでして,補足説明にもあるんですけれど,「権利が設定されている土地」の意味です。対抗要件が具備されていない場合に,権利が設定されている土地に含めているのか含めていないのかで,補足説明では,どっちみち対抗要件が備わっていなければ,この場合の国は第三者に当たるのだから,権利は無視できるというふうな説明がされています。それはそれでいいと思うんですけれども,権利は設定されているけれども,対抗要件登記されていませんということが分かったときに,原則としてどうするのか。受け入れるのか受け入れないのか。原則受け入れませんとするのであれば,それを条文に書くか,政令で書くかどうかはともかくとして,ポジションははっきりしておいた方が,先ほどの国民の予測可能性ということからすると,よろしいのではないかと思います。
1に関してもう1点ございまして,それは消滅時効についてです。5年がいいという御意見があり,原案は10年で,どちらがいいかよく分からないのですけれども,1点気になりましたのは,全ての場合に問題になるということではないのですが,例えば,6の(4)とか(5)というのは,一種の隠れた瑕疵ですよね。そうすると,ここで提案されているのは民法の規定に関するものではないことは承知しておりますけれども,隠れた瑕疵のときに,その瑕疵に気付いたのに,その時から通知もせずにずっと放っておいて,5年ないし10年の期間内にぽんと損害賠償を請求すれば認められますとすることで,民法の規定の担保責任のところと照らし合わせて,いいのかということがちょっと気になりました。ここであんまり規定を細かくするのがいいのかどうかも,よく分からないところがありますので,民法の規定の考え方とあわせる方がいいとまで申し上げるつもりはないんですけれども,賠償請求を受ける側からしますと,それだったら,早く言っておいてくれとか,本当にそうだったのかという,瑕疵の状態がですね,疑念を抱くこともあり得ると思うのです。国だからきちんとやるだろうとは思いますけれども,場合によっては通知をしなかったことによる失権みたいなものも,検討はした方がいいのではないかと思います。以上が,第1についてです。
第2も,併せて意見を申し上げたいと思うのですが,私も,第2は,第1が変わったのであれば,乙案でいいのかなとは思っておりますが,ここでの議論がどれだけ,立法につながらないときに意味があるのか分かりませんけれども,先ほど中村委員がおっしゃった早い者勝ちに関連して,早い者勝ちをきちんと防げるんだっていうのは,それはちょっと違うかなと思いました。
放棄の早い者勝ちを防ぐには,やはり同意が必要ですとしておくことの方が望ましいとは思っていますし,放棄のための一定の要件を設けるというのは,制限物権などには例もあるわけですので,およそ無理だとは思いません。思いませんけれども,所有権の放棄は事実上,先ほど大谷幹事からのお答えにあったとおり,できないんだよねというか,容易に権利濫用になるんだよねと,この認定処分の制度ができたらなり得るだろうということからすると,それと類似する共有持分の放棄についても,あえて他人にというか,他の共有者に負担を押し付ける意図がなかったとしても,やはり本当は難しいものなんだということが,ある程度確認されたらいいかなと思っております。
○山野目部会長 佐久間幹事から合わせて5点頂きました。
第1点は,先ほどから皆さんの間で評判が悪い(注4)のただし書について,評判が悪い方向の意見を一つ追加していただいたということになります。
第2点,第3点,第4点が,事務当局に対するお尋ねでありますから,今お話を頂きたいと望みます。
第2点としてお尋ねがあった点が,1ページの6の中で,「通常の」という言葉があったりなかったりと,文言が不ぞろいになっているところの趣旨を確かめたいというお話でありました。
それから,都合3点目,お尋ねの二つ目は,認定処分申請地に,使用収益を内容とする権利が存在しているかもしれないというときに,権利が実体的に存在しているが,対抗要件は具備されていない場合において,結局国は移転を受けるか受けないか,どちらの解決が想定されているかということでした。
全体の4点目,お尋ねの3つ目は,この5年にするか10年にするかという消滅時効の期間の問題について,客観的な期間の経過とは別に,566条が定めているような,知ったら通知をするという規律と似たような発想のことは考えられないかと,その点をどう考えているかというようなお尋ねがありました。
最後の5点目は,255条の今後の規律の扱い方についての御意見を承りましたから,冒頭の中村委員の御意見と対比した上で,委員,幹事からその点に関して御意見があれば,更に承りたいと考えます。
佐久間幹事からお尋ねがあった3つの事項について,事務当局から考えの説明を差し上げます。
○大谷幹事 ありがとうございます。
第1点目の「通常の」というのが入っているところと入っていないところがある,これは確かに不ぞろいのところがございます。もう少し精査をして,場面によって言葉を変えた方がいいということがやはりあるということになるかもしれませんけれども,今のところは,「通常の」というのが入っているときと入っていないときと同じようなことを考えておりましたので,もう少し精査をしたいと思います。
2点目の担保権等が設定されている土地についての考え方ですけれども,恐らく審査機関としては,登記を確認するということで足りるということになるのかなと思うのですが,仮に,そのような権利が設定されていることが何らかの形で分かったというときであれば,認定処分をしないという方向になるんだろうと思っております。
3点目の損害賠償の請求権,瑕疵担保責任の場合と,どのような整合性を取っていくかということについて,これも,今の国の債権の管理の在り方と踏まえて,こういう形を一応の提案としております。今の御指摘も踏まえまして,ほかの考え方がないのかということも,もう少し詳しく考えてみたいと思います。
○山野目部会長 佐久間幹事において,お続けになることがあったらお話しください。
○佐久間幹事 結構でございます。
○山野目部会長 ありがとうございます。佐保委員,どうぞ。
○佐保委員 ありがとうございます。
私からは2点ほど申し述べたいと思います。
1点目に,第1の6の(3)の急傾斜地として政令で定める土地についてですが,急傾斜地での崩落により,災害のおそれがあるということも考えられます。今年2月には,神奈川県逗子市で市道沿いの傾斜地の一部が崩落し,県立高校の女子生徒が土砂の下敷きになって死亡するという,痛ましい事故が起きています。土砂災害の防止については,急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律によるもので,各地で対策が講じられていると思いますが,今回の検討が,所有者不明土地や管理不全土地になることを防止することを目的とするものであれば,(4)の土壌汚染や(5)の地下埋設物と違って,急傾斜地は土地の形状によるものなので,一考の余地があるのではないかと考えております。これが1点目です。
2点目は,増田委員始め,ほかの委員さんからも発言ございましたが,3ページの(注3)にある審査機関をどのような行政機関とするかについてということです。申請をする者の利便性を考えれば,支局を含め,全国各地にある法務局がよいのではないかと,私も考えております。
○山野目部会長 2点御意見を頂きました。ありがとうございます。松尾幹事,どうぞ。
○松尾幹事 ありがとうございます。
部会資料48,第1の土地所有権移転の認定処分については,いわゆる土地所有権放棄の制度を具体化するという趣旨は変わっていないと理解しています。所有者が自ら管理することが難しくなっている土地について,管理の負担を適正な形で再調整しようというのが,土地所有権放棄の制度検討が始まった当初からの趣旨であったと思います。公平な管理の負担という観点からみて,部会資料48,第1の6に掲げられた要件は,(1)から(8)で各論的な要件を掲げ,(9)でバスケットクローズ的な要件を掲げる形で,所有者のフリーライドとモラルハザードを回避するための慎重な要件化を図っている点で,評価できると考えています。
しかしながら,全体的な基調として,特に最後の(9)で,その他管理処分をするに当たり,過分の費用又は労力を要するものとまとめてしまいますと,国に費用負担が掛かることを回避しようという色彩が,少し強くなり過ぎるのではないかという気がいたします。管理の適正な分担という観点から,この要件については見直す余地があるように思われます。
一つは,佐保委員もおっしゃった点ですけれども,この第1の6,(3)は,各論で上がっている(1)から(8)の中では,ちょっと性格が違っていて,(3)以外の要件は,所有者が自分で責任を引き受けるべきものという要素が強いと思いますが,(3)の急傾斜地は,土地そのものの物理的状況に関するものの中でも,(4),(5)とは性質が違うのではないかと思います。
急傾斜地の中でも,所有者が自ら削ったというような場合は別かもしれませんけれども,自分の責任によらずに生じた傾斜地で,所有者としてその管理を何とかやってきたけれども,もう難しいなというときには,土地所有権放棄制度の趣旨,公平な管理の分担という観点から見ても,考慮の余地があるのではないかと思います。
部会資料36でこの要件を検討したときには,崖地等の管理困難な土地でないこととされ,急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律や宅地造成規制法等の要件も参照して,この要件を具体化していくとされていたところです。今回は急傾斜地という形になっていますが,部会資料48の9ページのウで言及されている各種行政法規等を参考にしてという点は,このことを指しているのではないかと思われます。これらの行政法規で対応可能であれば問題ないと思われますが,そうでない土地について,所有権移転の認定処分をしてはいけないかというと,それをしても制度趣旨には反しないのではないか,再考の余地があるのではないかと思います。所有権移転ができない場合,結局は管理が放棄され,放置状態が続くことにより,所有者不明土地の発生予防の手段としての土地所有権移転の認定処分の制度目的に反してしまうのではないかと思います。所有者も国も,誰もが目を背けてしまうような土地を創出することは回避すべきであると考えます。
また,第1の6の柱書で,次のいずれかに該当するものである場合には,認定処分をすることができないとしている点は,審査機関を拘束する趣旨と思われますが,認定しないことができるというような,少し裁量を持たせる表現はできないものかどうか思われます。
それから,第1の6(9)のバスケットクローズに当たる部分ですけれども,「過分の」費用又は労力というよりも,「不当な」負担を課すものでないことという趣旨を明確にし,所有者は本来自分で負担すべきものを国に転嫁してはならないということを明確にする定め方もあるように思われます。国が本来引き受けるべきものは引き受ける姿勢をもっているということを示す意味でも,認定申請の不当性を判断する趣旨が分かるような要件の表現の方がよいのではないかと考えました。
○山野目部会長 ありがとうございます。何点かにわたって御意見を頂きました。藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
対象をどこまで広げるかという点に関しては,私も以前,大きく育てる可能性を残してほしいということを申し上げたところですが,これは飽くまで実際に制度を導入してから,どれくらいニーズがあるかというところに関わってくるんだろうとは思っております。
そのことに関連して申し上げますと,放棄したいと思っている人がどれくらいいるかという観点からのニーズの話は今でも結構出ておるんですが,制度として考えたときは,放棄された土地をそのまま国が持ち続ける,という前提だけで考えるのではなくて,その土地自体をどう活用するか,土地って,細切れの状態であれば全く活用できないけれども,ある程度まとまってくれば活用できるという場合も多々あるわけでございますので,逆にそういう土地を,どういう形で次につなげていくか,利用する方向に持っていくかというところまで含めて,これは飽くまで法的な話というよりは政策的な次元のお話になってくるとは思いますけれども,それも含めて御検討いただくのがいいのではないかと思っております。
具体的には,実際に制度が始まったときに,例えば,先ほど御指摘があったような,どういう場合に放棄が認められるのかみたいなところを,もう少し皆さんに広く知ってもらうというのもありますし,そもそもその放棄がなされて,これくらいの土地が実際に国に帰属する土地として出てきていますよというところが,もう少し分かるような形になってくると,より,今まで想定されていたよりは,土地の活用サイクルというものが生まれてくる可能性は出てくるのではないかなと思うところでございます。
また,そういう観点から申し上げますと,やはり気になるのは,先ほどからいろいろとご指摘が出ております第1の6番の要件のところでございまして,(3)の急傾斜地などは,正に今,松尾先生が御指摘になられたとおりだと思いますし,(4)の土壌汚染のところなども,拝見していると,これは,土壌汚染対策法の規制に従って,というよりは,むしろ一般的な土地取引の,それも一番売り手側に厳しい基準でやったときにこうなりますねというところで,今,作られているのではないかと思います。所有権移転という構成を採る以上は,そうなってくるのもやむを得ないところあるかと思う一方で,ただ,現実の取引において,これ,常に全くまっさらな状態ではないと取引していないかというと,そういうわけでもないと。現実の取引においては,土壌汚染のリスクがあることを前提に,どっちにリスクを乗せて,それをどうやって価格に反映するかということを考えながら行われているというところも,現にございますので,これ全く,ちょっとでも有害物質があると駄目,という要件にするのが適切かどうかというところは,ほかの要件との兼ね合いもあると思いますけれども,再度御検討いただく方がよいのではないかと思うところはございます。
というのも,急傾斜地なんかだと,見たところの外観ですぐ分かるからよいのですが,例えば,土壌汚染であったりとか,埋設物であったりという外からは見えないものに関しては,そういうのがあると一切駄目ですということになってしまうと,どちらかというと,これ,存在する可能性を明らかにするというよりは,その可能性があることを秘匿して放棄手続に載せようとするインセンティブの方がむしろ働いてしまうのではないかという懸念がございます。実際のところ,土壌汚染に関して言いますと,形質変更しないということであれば,そのままでもいけるという場合は現にあるわけでございますので,どちらかというと,現状を明らかにした上で,それをどう,移転して管理していくかというところの方に焦点を当てた方が,むしろ弊害が少ないのではないかと思うところも,ちょっと資料を拝見していて思ったところでございます。
埋設物に関しては,どちらかというと補足説明で柔軟な対応もできるというような書き方がされておるわけですけれども,一方で,土壌汚染の方はかなり,一番厳しい書き方になっているというところもございますので,ちょっとその辺のバランスですね。その辺も踏まえて,最終的なところを御検討いただくのがよいのではないかと考えております。
○山野目部会長 ありがとうございます。
委員,幹事から種々の御意見を頂戴したところを,事務当局において聴き取っておりますから,今後の検討において,受け止めてまいるということにいたします。
委員,幹事の御意見を,引き続き承ります。いかがでしょうか。
安髙関係官,お願いします。
○安髙関係官 ありがとうございます。
林野庁でございます。
3点ほど確認と,懸念をお伝えさせていただきたいと思います。
まず,1点目でございます。所有権移転の認定要件についてでございます。法律の立て付けが,これまでは,放棄を認め,無主物となり,それが国庫に帰属するという形,無主物になったものを国が受け取るという形でございましたが,今回からは所有者から国が直接受け取るという形に変わったということで,手放す所有者からしますと,特段何も変わっていないのかなとは思いますが,受け取って管理をします国側の視点からしますと,承継人になるという違いがあると思っておりまして,認定要件,これまで労力ですとか費用といったことに着目をしてきましたが,そういう要件がメインとなっているのみでいいのかというところで懸念がございます。
例えば,固定資産税ですとか相続税,こういったものが未納とか滞納の土地ですとか,林地で申しますと,伐採した後に,森林法の規定に基づいて適切に造林を行っていない森林といったような土地は,果たすべき責務が果たされていない土地であり,場合によっては罰則が科されるというものでございまして,そもそも通常であれば,そのような土地を所有者から御相談受けたとしても,国や自治体は,それを直接受け取るということは,基本的にはあり得ないと考えております。
所有権移転となりますと,土地所有者がお持ちの義務,責任ということが管理コストとして国に転嫁されるということにつながることを踏まえますと,このような土地まで所有権移転を認め,認可をし,所有者が管理の負担から免れる道を開くということは,典型的なモラルハザードとなるのではないかと。そういったことは,国民の皆様方からも理解が得られないというふうな懸念をしているというところが,1点目でございます。
2点目でございますが,資料の1ページの第1の3にございます,認定処分は土地の1筆ごとにするものとするということについて,確認をさせていただきたいと思います。ここでいう1筆でございますが,これは,不動産登記上の1筆ということでよろしいでしょうかということでございます。この場合,要件の6の(7)におきましては,所有権界について争いがなければという考え方となっていますが,所有権界として申請された範囲が,筆界と一致することを審査機関が確認する必要があると思うのですが,そうすると,事実上,審査過程の段階で筆界が特定されるということになるのかと。これが2点目,確認の点でございます。
3点目でございますが,これは2点目にも関連して確認をさせていただきたい事項になるんですが,境界を明らかにするということと,事前の売却,貸付け等の試みとの前後の関係でございますが,8月4日の部会で,日本土地家屋調査士連合会の國吉委員が御発言されておられましたが,売却とか貸付けを試みることの前提として,不動産が特定できる,境界が特定できるということが必要だという御指摘がございました。そうなりますと,資料の12ページのところの上から二つ目のパラ,なお書にありますように,境界標の設置ですとか測量図面などが整理されているというのは,放棄の申請,今回は認定を受ける申請でございますが,その申請に先立って行うとされている売却ですとか貸付けの試みを行う際には,既に整理されていて,その上で,売却とか貸付けの試みを行った,きちんとした形で売却,貸付けの試みを行ったということを,担保証明するような仕組みが必要なのではないかということで,これも確認の点でございます。
以上3点でございます。
○山野目部会長 3点にわたる確認のお尋ねがありました。
事務当局から説明を差し上げます。
○大谷幹事 1点目の,固定資産税の未納のような場合は,どうするのかということがございましたけれども,固定資産税が未納であったとして,それで所有権の移転が認められたとしても,固定資産税の支払義務は元の所有者にあるということになりますし,何らかの法令に従っていないということがあるからといって,直ちにこの所有権の移転の仕組みに乗れないということではないのではないかと思っております。違反行為については各法令において罰則等があると思いますので,そちらの方で対応することになり,こちらの方では,要件がそろっていれば土地の管理コストが比較的低いということで,国の方で引き受けるということになるのかなと思っておりまして,土地所有権の放棄という構成を採るのか,移転という構成を採るのかとは別の問題と思っております。
2点目の,1筆のというのは,不動産登記上の1筆かということですけれども,所有権の対象となる1筆ということで,持っている土地の一部だけについて移転をしますということを認めないという趣旨で,1筆ごとにとしております。所有権の移転の認定処分をする際には,この何番地何番の土地についてやりますということが必要で,その一部についてだけやるということではないと理解をしております。
3点目の事前の売却処分の努力の問題がございました。どの程度の努力が必要かということは,今後検討してまいりたいと思います。その際には,林地の場合にはどのようなことがされているのかということに関して,また林野庁の御意見も賜りながら,詳細について詰めていきたいと考えております。
○山野目部会長 安髙関係官,お続けください。
○安髙関係官 結構です。ありがとうございました。
○山野目部会長 分かりました。
安髙関係官に,併せて一つお願いを差し上げますが,1点目でお尋ねいただいた際に話題としていただいた事柄,すなわち,固定資産税やその他の,都市計画税も同じかもしれませんが,土地に関わる公租公課について滞納があるようなものの移転の申請を認めるかどうかとか,林地について整備の義務が公法上課せられているような場合において,それを履行していない状態での申請も認められるのかといったような疑義の御提示を頂いたところであります。
恐らくお挙げになった題材,二つの性質が異なっていて,固定資産税は,その土地に関わる固定資産税が未納であるものが国に移転したとしても,今,大谷幹事が説明したように,固定資産税の納税義務がなくなるものではありません。太政官布告(明治10年太政官布告第79号)の時代において,地租についての今日でいう強制執行は,その土地についてのみするという取扱いがされていた時代であったならば,これはゆゆしき事柄ですけれども,現在はそのような固定資産税の考え方ではありませんから,それは,ただいま大谷幹事が御説明したとおりではないかと感じられます。
半面,林地整備の義務を履行しないで認定申請がされたときに,それで認定を受けられるかどうかという問題は,認定をするかしないか自体が問題であるとともに,認定をする場合において,費用をどういうふうに払わせるかという問題と連動いたしまして,これは,先ほどの固定資産税と同じには扱えませんから,むしろそれは,林野行政の中で,どういうふうな公法的規律というか行政監督が行われているか,そのことをにらみながら,ここをどう処するとよいかということを,引き続き法務省事務当局との間において林野行政のお立場から協議していただいて,良い解決法を見出していただくことを望みます。御協力方,どうぞよろしくお願いいたします。
○山本幹事 いずれも細かいことですので,若干,言うか言うまいかちゅうちょしたのですけれども,幾つか申し上げます。
本文で申しますと,5ページの(2)に国への所有権の移転時期とございます。確かに,認定処分の効果が発生するのは,申請者に認定書が到達した時点ですけれども,所有権の移転時期は,例えば,認定処分の中で,具体的に何月何日と書くことも技術的には考えられます。あわせて,移転をする場合には,国への登記をどのタイミングでどういうふうに行うかという問題があるかと思います。これはかなり技術的な問題ですけれども,今後立案に当たって詰めていただければと思います。
それから,13ページの(2)の却下事由,不認定事由でございますけれども,先ほど補正という話がございました。これにつきましては,行政手続法7条で,行政手続の一般的なルールとして,形式不備の場合に,補正又は許認可等の拒否という選択ができるような書き方になっております。ただ,場合によっては,補正が簡単にできるのに却下処分,拒否処分をするのは,いかにも不親切ですので,必要があれば,補正の規定を特別に入れることも考えられるかと思います。
また,14ページのイの最後の段落で,期間制限の法的性質について,当事者の援用を要し,完成猶予,更新可能である消滅時効とするとございます。完成猶予,更新可能というのは,そうなのだろうと思いますが,援用を要するかどうかという点については,会計法は31条で特別な規定を置いており,援用を要しないとしております。起算点をこのように画一的に定めるとすると,あるいは,援用を要しないとした方が,一貫するのかもしれません。かなり技術的な話ですので,指摘にとどめさせていただきます。
それから,16ページで,職権取消しの期間制限をかけ,ただ,例外的に,悪意者については配慮する必要はないと,これは基本的にそのとおりであろうと思います。日本法には余り,授権的行政処分の職権取消しにおける信頼保護の程度について具体的に書かれた法律がないのですけれども,外国には,職権取消しにおいて一般的に,信頼保護をどの程度行うかについて,事細かく法定している国もあります。例えば,ドイツの連邦行政手続法48条においては,信頼保護を求めることができない場合として,偽りその他の不正な手段によって処分を得た場合,不正確あるいは不完全な情報提供によって処分を得た場合,それから違法なことを知り,又は重過失により知らずに処分を受けた場合と書かれております。こういった規定が,あるいは参考になるかもしれません。その点で申しますと,細かくいうと,重過失の場合はどうするかという問題があるかもしれません。
先ほど指摘があったことと関わるのですが,同じドイツの法律の中に,行政庁側が違法なことを知っていた場合にどうなるかという規定があり,そこには,知ってから1年以内に限り職権取消しができ,ただし,偽りその他の不正な手段によって処分を得た場合は,この限りでないと定められております。あるいは,参考になるかもしれないと思います。
最後に,非常に技術的な話になりますが,4ページに戻りまして,そもそもの認定処分という構成でございます。これは,確かに余りほかに例がないので,どういう処分なのか若干よく分からないところもあるのですけれども,ただ,私人の申請に応じて,国に所有権を移転させるという効果が発生する処分であることを明らかにしておけば,ひとまず足りるのではないかと思います。行政法学上,認可とか特許という議論があり,認可とは,私人が元々なし得る行為の効力を,行政庁が完成させる行為,特許というのは,私人が元々なし得ない行為について,行政庁側が特別にそれを行う法的な地位を与える行為であると解説されております。
今回のこの処分が,どちらに当たるかという点には,若干よく分からないところがあります。譲渡の意思表示は,私人ができる。ただ,国が受け取るかどうかは,国の側の意思によるのが原則です。こういった場合に処分の性質が何になるかは,よく分からないところもあるのですが,取りあえずは,このような効果を認めればよろしいのではないか。
それをどう法律上表現するかという点も悩ましいのですが,一般に認定という概念は,民事法に関して,裁量性がない行為について使われていると思いますので,認定というのが一つの案ではないかと。ただ,この点は,非常に技術的な話ですので,今後詰めていただければと思います。
○山野目部会長 山本幹事から,行政手続との関係で,多岐にわたる御意見を頂きましてありがとうございました。
行政手続法7条や会計法31条との関連に注意して検討を進めるという点については,なるほどと感じますから,事務当局の方において検討いたします。
それから,職権取消しの期間についてのドイツ法制の御紹介も頂いて,貴重であったと感じます。それとともに,おっしゃった,行政庁が知ってから1年とかというような期間の制限の発想というものは,佐久間幹事が少し前におっしゃった民法の類似局面と,題材になさったものは異なりますけれども,近しい部分があって,大変参考になる側面があるとともに,それを何かここの法律で職権取消しの制限みたいなことを,山本幹事の今の御教示によると,我が国では余り例がないという代物を法制的に入れるかという論点は,勇気が要るような気もいたします。何か本当は行政法総論がきちっと対応して,行政手続法等で一般原則として整備されていなければいけない話のようにも感じないではないですから,そういった点にも留意をしながら検討をする必要があると感じます。
それから,最初におっしゃったことと最後におっしゃったことは関係していて,本日,委員,幹事の御議論を大方伺っておりまして,今回,この認定処分によって国に移転させるという法的構成のアイデアそのものについては,大きな御異論がないという議論の状況を承っているところでありますから,今後,このような方向で検討を進めてまいりますけれども,細密に法的構成をきちっと考え込んだ上で,それを法文に表現していくに当たっては,なお注意を要する点があるようにも感じます。これは,認定申請を私人がしたのを受けて,国の側が,審査機関たる行政庁が,よしと言うと,そのよしと言った時点で,所有権移転の効果が生ずるという法的構成を提案しているつもりです。それでいったときに,この認定処分という言葉がいいかとか,あるいは,認定処分を受けることにより,国に移転することができるという,この法制上の表現も,ちょっと危ないような気がします。その辺のところを整えていった上で,先ほど申し上げたような法的構成で進むとすれば,国へ所有権が移転する時期を,実体構成上明確にした上で,その前提で登記の手順を考えていかなければならないと感じます。そこも,山本幹事が御指摘いただいたとおりであります。その場面で,登記原因日付,それから登記原因,それから登記の手続を考え込むということになります。
恐らく不動産登記法116条の規定に基づいて,国が嘱託をすることになるであろうと想像します。お話ししたような登記原因や登記原因日付をどうするかということを,こちらの実体上の法的構成の成案が得られた段階で,さらに,登記手続の観点から深めていくという手順となることでしょう。
いずれも御指摘いただいたところを,貴重なものとして受け止めさせていただきます。
山本幹事から,何か追加で御教示いただくことはおありでしょうか。
○山本幹事 先ほど,このような授益的な行政処分の職権取消し等の制限については,一般行政法制上の問題ではないかと御指摘になられたところは,そのとおりで,今,ドイツ法の例を出しましたが,フランス法にもございますし,EUのレベルでもそのような提案があります。日本はそれがないのですが,今回,その点について少し細かく定めを置いて,信頼保護の程度を明確にする方針であるということですので,若干の参考になるかと思って申し上げた次第です。
それから,1年というところは,先ほど佐久間幹事から発言があったものですから,それに関わるかと思って申し上げたまでです。かなり細かい話になりますので,そこまでは,具体的に規定すべきというつもりはございません。
○山野目部会長 ありがとうございます。
佐久間幹事の御指摘と併せて,山本幹事からただいま頂いたお話も,検討に反映させてまいることにいたします。
○水津幹事 (注4)のただし書について,先ほど,持分の割合を考慮するという考え方が示されましたので,この考え方について意見を申し上げます。
相続を契機としてやむを得ずに土地を取得したかどうかという観点からは,最初の共有持分の取得原因が相続等であったかどうかは,重要ではないように思います。いずれにせよ,相続等によって取得した共有持分については,相続を契機としてやむを得ずに取得したものといえるのに対し,自分で譲り受けた共有持分については,そのようにいうことができないというだけのことであると考えられるからです。
そうであるとすると,持分の割合を考慮するという考え方については,次のようにいうことができるかと思います。一方で,今回の提案のように,最初の共有持分の取得原因が相続等であった場合において,その後,共有持分を譲り受けたときは,相続等によって取得した持分の割合が小さかったとしても,国への所有権移転が認められるとするのであれば,最初の共有持分の取得原因が相続等でなかった場合において,その後,相続等によって共有持分を取得したときであっても,同じように,相続等によって取得した持分の割合の大きさにかかわらず,国への所有権の移転が認められるとしないと,バランスが取れない気がします。
他方で,相続を契機としてやむを得ずに土地を取得したかどうかという観点から,最初の共有持分の取得原因が相続等であったかどうかにかかわらず,つまり,最初の共有持分の取得原因が相続等であった場合において,その後,共有持分を譲り受けたときも含めて,相続等によって取得した持分の割合の大きさを考慮するというのであれば,考え方としては,あり得るのでないかと思います。
○山野目部会長 水津幹事から,先ほどから散発的に委員,幹事の間で話題にしておられる(注4)のただし書及び関連する状況についての御意見を頂きました。
引き続き御意見を伺いますけれども,ただいま話題になった(注4)のところについて,何かこの際,委員,幹事から御意見がおありでしょうか。今後の事務当局の立案準備の参考にしたいと考えますから,今のタイミングで,(注4)について更に御意見があれば,承っておくことが効率的であると感じますが,どなたかおありでしょうか。
顧みますと,先ほど少し申し上げたように,中村委員から疑問の指摘を頂き,今川委員が持分の多寡によっては,最初に取得した契機が相続が原因でない場合であって,二度目が相続である場合について,なお一考の余地があるとおっしゃっていただきましたね。あの際に,恐らく今川委員のイメージにあったものは,そうはっきりはおっしゃいませんでしたけれども,例えば,親子の関係で,お母さん又はお父さんが土地を取得するときに,娘又は息子を誘って,おい,お前も10分の1ぐらい持ってくれよと申し向け,親の方が10分の9持つからな,お前には余り負担をかけないと告げて話が始まって,そのタイミングは,確かに自発的意思によって取得したものですけれども,やがて親が死んで,10分の1だけ持って,責任はそれで済むと思っていた娘又は息子が,10分の9も背負わされて,おいおい,こんなになっちゃったよというときに,放棄を認める余地はあるものではないかというような物語であったろうと想像します。
その後,山田委員,そして,ただいまの水津幹事の御意見で,持分の多寡を考慮することも,それほど重視する必要がありますかというお話を頂戴いたしました。水津幹事は,それに加えて,さらに別な局面のこともおっしゃっていただきましたけれども,(注4)との関係ではそういうことをおっしゃっていただきました。
山田委員や水津幹事がそういうふうにおっしゃっていただいた背景を具体的にイメージしますと,そういうふうには委員,幹事はおっしゃいませんでしたけれども,これは,例えば,親子の話なんかではなくて,例えば,最近の不動産登記簿を見ていると,夫婦が自分のマイホームなどの土地を取得するときに,持分を比較的半分ずつ,あるいはそれに近いような形の共有で土地を取得することという姿が,かつてに比べよく見かけるようになりました。それはそれでよいことであるかもしれませんけれども,それについて,やがて配偶者間で相続が起きたときに,いやいや,あのとき,自分たちの意思で取得したんでしょうといっても,あのときというものは随分前であることが珍しくなく,たまたま最初に取得したときが夫婦でマイホームを持つときであって,それは自発的意思に決まっているでしょう,ということが理由で,これから創設しようとする制度を使えなくなるということがよいかといったようなことは,確かに考えさせられる側面があるかもしれません。
今話題になっているここについて,何か補足で御意見を承っておくことがあったら,承りますけれども,いかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
ここまでいただいた御意見を踏まえて,さらに今日の委員,幹事の御意見を再び整理した上で,検討を進めるということにさせていただきますが,よろしゅうございますか。
ありがとうございます。
それでは,そのほかの点について,引き続き部会資料48の全体について伺います。
○國吉委員 先ほど少し御意見がありましたけれども,第1の5のところです。認定処分申請をする前提として,必要条件で,売却,貸付け等の処分の行為を試みなければならないということで,具体的には政省令に委ねるということなんですけれども,例えば,先ほどもありましたけれども,売却などを考えたときに,この認定処分の条件,6の(1)から(9)までの条件というのは,当然ながら,通常売却を考えると,これらの条件を調査したり,簡単に言ってしまうと,重要事項説明書というようなことで作るわけですけれども,やはりここの政省令で定める,試みなければいけないところを,例えば,現地に,ここは売地ですよとか表示をして,それでオーケーだとか,そういうようなことになってしまうと,実際に認定処分の申請をしようとしたときの費用と,この売却などを試みる条件としての費用もそうですけれども,乖離が余りにも激しくなってしまうんではないかなと思うんですね。
そうすると,やはりこの制度自体がちょっと,非常に苦労するというか,非常に大変なんだということを広めてしまうので,ここの売却,貸付け等の処分の行為を試みる,これを,やはりきちっとしたものを作り上げておいていただいた方が,いいのではないかなと思いました。
先ほどもありましたけれども,当然ながら,境界の確認もそうですし,固定資産税の未納の問題も,通常の場合であれば,そういったものまで調査をするわけです。ですので,ここのいわゆる政省令で定めるこの行為の試みの部分と,実際の認定処分の申請の,要は条件の乖離がないようにしていただいた方がいいんではないかなというのが,意見でございます。
○山野目部会長 御意見は承りました。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
部会資料48でお出ししているものについて,御意見を承ったと受け止めてよろしいでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,部会資料48について,委員,幹事からは,本日,多岐にわたる御意見を頂きましたことを踏まえて,この際,私から議事の整理の観点,今後の検討の準備を進める観点に立って,3つのことを申し上げます。
1点目でございますけれども,本日部会資料48で御提示申し上げている方向で,細かな点は措くとしても,今後の検討を進めるということについて,委員,幹事から,大きく言えば賛成の方向での御意見を承ったものと考えますが,それと同時に,この制度を作り上げた後,国民に対してどのように説明していくかということについては,注意を要する点があるように感じました。
何人かの委員,幹事から御指摘があったことですけれども,具体的に言うと,急傾斜地の問題ですね,ああいうものを放棄することができるでしょうという期待を抱いて,この制度の検討を見ていた国民は,少なくないのではないかとも想像します。それに対し,政令で定める基準ということで,ここをコントロールして,場合によっては放棄をすることができないというような可能性も盛り込んだ制度構築をしていこうとしています。ここについては,どのような説明をしていくか,どのような制度を作るかということとともに,どういう説明をしていくかということについての考え方を整理しながら,同時に,制度の立案を進めていかなければいけないと感じます。
その観点から,幾つかの点を申し上げるといたしますと,今般,土地基本法が改正される準備として,国土審議会の土地政策分科会特別部会が,その準備のための考え方を整理した際に,管理がうまくいかなくなっていて,困った状態になる土地の問題を解決しようという問題意識で出発したものでありますが,管理がうまくいかなくなるといっても,2種類の事態があるということが意識されて議論をいたしました。一つは,その土地の状況が,物理的に困った状況になっていくという事態を避ける物理的管理,もう一つは,その土地の所有権の所在等が明らかでなくなっていく,あるいは登記簿に反映されなくなっていくといったような法的な管理について,困った事態が生ずるのを避けるという,二つの事柄があって,区別がされなければなりません,という問題意識に基づいて議論が進められました。
恐らく,今回この部会資料48に基づいて作っていこうとする制度は,物理的管理の方について,正面から答えようとする制度ではなくて,放っておけば所有者不明というふうな事態になって,法的管理が立ち行かなくなるような局面について,それを未然に防止するというところを,主だった対応すべき事象として考えて制度を作ろうとしているものでありますから,平たく言うと,その土地をそのまま国が引き受けることで,特に問題がないということであれば,国としてはお引き受けしますけれども,その土地に様々な物理的なトラブルがあるときについては,それは,もちろんどうでもいいとは言いませんが,別個の問題でありますという整理で恐らく進んできたし,これから制度を作っていくものであろうと考えます。そのような観点からいうと,急傾斜地の問題というものは,それであるからこそ放棄したいという需要は確かにありますが,それを受け取ればよいという話ではなくて,その急傾斜地を危険のない状態にするという事業が必要な局面ですね。そうすると,ここで議論している制度の目的や射程とは異なってくる側面があります。そのことを,まず国民に説明していかなければならないであろうと考えます。
あわせて,細かな問題になりますけれども,崖地に代表されるような,その崖地を含むような急傾斜地の場合には,それは何とかしなくちゃいけないですけれども,国が引き受けるといったときに,国って抽象的に呼びますけれども,受け取る機関は,林地の場合は林野部局,そして農地の場合の農政を与っている部局である場合を除けば,国の理財が引き受けますが,理財の予算で崖地,急傾斜地の手当てをするということには,恐らくならないと考えられます。それは,進め方としておかしいですから。そうすると,急傾斜地を放っておいてよいということにはならないですが,それに対しては,別な府省の持っている別な制度を適用して,そこの危険を除去するという話になっていかないと,行政の進め方としてはうまく回っていかない側面があります。そこを考慮しなければなりません。
あと,崖地という表現を避けて,今回は急傾斜地という言葉を用いています。実際は,森林は崖の形状に,国語的な意味で常識的にいうと,崖の形状になっているところが多いものですから,崖は駄目だよと言ってしまうと,森,林のかなりが実際上駄目になってしまう可能性があります。言葉遣い,概念を丁寧に整理して,本日お出ししていますが,だからこそ,ここのところを本日議論していただいたという側面があります。ただいま申し上げたような点に注意をして,制度の立案と国民への説明の仕方について,心していかなければならないということを,委員,幹事の御議論を承っていて感じました。
大きく分けて3点を申し上げるうちの2点目ですが,認定申請を誰がするかという,その資格をどの範囲で認めるかということについては,小さく育てて,という言葉を用いながら,幾つかの議論や問題提起,提案を頂いたところであります。本日段階で,比較的委員,幹事から多く承った事項は,(注4)で話題としている場面については,広く,余り細かく切らないで,申請の資格を認めてあげたらどうでしょうかというお話を頂いたところでありまして,ここまでのところですと,小さく育てると仮に言った場合であっても,そこは申請可能のほうに含めるというお話になってくるものであるかもしれません。
さらにお話を進めて,蓑毛幹事からお話があった所有者不明土地の管理人であるとか,破産管財人であるとか,からの申請で,より広く法人による国への移転の可能性をも認めることの適否ということが,その後ろに控えている,もう一つ難度の高い問題として控えております。それを,今般の立案の中で受け止めることにするか,立法事実の蓄積ないし確認を待って,更なる検討に委ねることにするかということについて,引き続き委員,幹事の御意見を承ってまいりたいと考えます。
3点目,最後でありますけれども,審査機関のことについて,今日,何人かの委員,幹事から,本格的な御議論を頂いたことは,有り難かったと感じます。法務局にやってもらったらどうですかという,具体的な御意見もいただいたところであります。これにつきまして,委員,幹事からお出しいただいた御意見はごもっともであると感じますから,今後,法務省事務当局において,国の関係する府省とも協議をしながら,検討を進めてまいらなければなりません。大きくいって,二つの観点が大事であろうと感じます。一方においては,国への移転を望む私人である国民の申請が,公正に審査される制度環境が調えられなければならないと感じます。
それと同時に,土地というものには将来があるものでありまして,移転したら,それで終わりということにはなりません。将来の管理に向けての,その管理の適正が期されるという制度環境を併行して調えていかなければなりません。土地の用途に応じ,関係する府省が異なってきますけれども,いずれにしても,関係する府省と,この申請の審査の段階で緊密な協力をしていくことが必要であります。個別の事案の申請がされた際の実地調査の段階から,関係する府省が協力していただくような制度を構築していただかなければなりませんし,法制上も,そのことが読み取れるような,提案されようとしている個別法において,仕組みとして盛り込んでいく必要があります。国の関係する行政機関の意見を聴くとか,連絡調整をするとかという,生易しい表現で個別法上の協力態勢の表現をしてもらうことについては,大変な心配が残ります。そういうことをしたのでは,法務局に丸投げということになってしまいますから,この制度の期待された役割を果たすことができません。
正直言って私は,法務局に,とおっしゃっていただいたところは,法務局への期待が大きくて,すばらしいお話だなと感ずると同時に,どうでしょうか,皆さん,法務局の職員の方とお話しになった御経験や御記憶で,どういうふうにお感じでしょうか。大変に真面目に,律義にお仕事をなさる皆さんですね。法務局の今までの業務の適性というか,性質というものは,そういうものでありました。
私,依頼を受けて,赤レンガの建物で法務局の職員の方に講義をするチャンスが時々ありますけれども,私の話を皆さん,真面目に聴いておられて,笑ってもらえないですね。それは,元々お前の話が面白くないから笑わないのだという説もききますが,しかし,私が大学でしている話はそれなりに笑ってもらっているものでありまして,やはりレシーバーの方の,非常に気高い業務に臨む姿勢があるものでありましょう。けれども,その気高い方々だけに委ねて回っていく話ではないものでありまして,委員,幹事の御指摘で,予算,人員の確保をとおっしゃっていただいたことは,もとより当然ですけれども,それと同時に,業務の性質が,従来の法務局の業務とかなり異なっている側面がありますから,お話ししたように,実地調査の段階から,関係する府省が緊密に現場で協力する態勢が構築されなければ,この新しい魅力ある制度の円滑な実地の運用がおぼつかないということになります。是非その点については,委員,幹事の皆様方の御支援を頂くことはもとより,さらに,法務省事務当局において,この部会に関係官を出しておられる府省を中心に,政府部内で,今の段階から緊密な協議,協力態勢を構想していただきたいと望むものでございます。
部会資料48についての委員,幹事からの御意見を一当たり伺いました。何か御指摘漏れがあったら伺いますけれども,いかがでしょうか。
それでは,部会資料48についての,本日のところの審議を了したという扱いにいたします。
次回の会議について,事務当局から案内があります。
○大谷幹事 次回の議事日程等について御連絡をいたします。
次回の日程は,2週間後,10月20日の火曜日です。また,午後1時からということで予定をさせていただきます。
テーマは,管理不全土地関係というのが,二読ができていないというところがありますので,こちらをお出ししたいと思いますけれども,管理土地請求,管理不全土地管理,この二つがテーマになると思っております。
本日と同じように,審議が終わり次第閉会という形で,終了時刻についてはあらかじめ決めておきませんけれども,その前提で御予定いただければと思っております。
本日もどうもありがとうございました。
○山野目部会長 次回の部会につきまして,ただいま御案内を申し上げたとおりでありますから,日取りと場所がやや変則的であります。このたびは,日にちが2週間しか間が,空きがありません。あわただしく委員,幹事の御協力をお願いしますが,よろしくお願いします。
本日,事務当局と私から御案内することはここまででございますけれども,この際,部会の運営に関して,何か御意見やお尋ねがあれば承ります。いかがでしょうか。
よろしゅうございますか。
それでは,本日も,長時間ではないですけれども,かなり濃密な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。民法・不動産登記法部会の第19回会議を,これをもちましてお開きといたします。どうもありがとうございました。
-了-
それでは,早速,ただいまお話がありました参考資料8につきまして,事務当局から説明を差し上げます。
○大谷幹事 参考資料の8について御説明いたします。
法務省におきまして,土地所有権の放棄制度の利用見込み等に関しまして,民間の調査会社に委託してインターネットを利用したアンケート調査を実施いたしました。
調査は,2月28日から3月4日までの間,スクリーニング調査と本調査の2段階方式で実施されました。スクリーニング調査では,日本全国に居住する20歳から79歳までの約5万サンプルを対象として,土地の所有状況や所有権放棄制度が創設された場合の利用意向の有無等について質問が行われています。
また,本調査では,スクリーニング調査で現在自己の世帯で宅地や農地,林地のいずれかを所有している,若しくは今後所有する見込みがあると回答した者であって,かつ土地の所有権放棄制度を利用する意向があると回答した者の中から約1,600サンプルを抽出いたしまして,土地所有権の放棄制度の利用希望の有無,放棄したいと考える土地の所在やその物理的状況,国の審査機関に手数料を支払うことに関する意識等について質問が行われています。
この参考資料では,この調査に基づく利用見込み等の推計結果を記載しております。資料下段の(2)の欄を御覧ください。ここでは,宅地・農地・林地ごとに利用希望率,認可要件充足率,放棄見込率という3種類の推計割合をお示ししています。
左側の欄に利用希望率とありますけれども,これは一番下の(注1)にあるとおりで,土地を所有している世帯の中で土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯の割合を推計したものであって,宅地所有世帯の13.16%,農地所有世帯の22.10%,林地所有世帯の25.81%,平均すると土地所有世帯のうちの20.36%が土地所有権放棄制度の利用を希望していることを意味しております。
利用希望率の右側の欄,認可要件充足率ですけれども,これは下段の(注2)にありますけれども,土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯の中で,その土地につき中間試案で示された認可要件を満たすことが見込まれる世帯の割合を推計したものであり,平均すると4.51%となっています。
また,その右側の欄,放棄見込率の欄ですけれども,これは(注3)にありますが,土地を所有している世帯の中で,その土地についてこの制度を利用して認可を受けることによって所有権を放棄することが見込まれる世帯の割合を推計したものになりまして,平均すると0.95%となっています。この推計結果によると,全国の土地のうち約1%の土地が所有権放棄制度を利用して放棄される可能性があることを示していると考えられます。
放棄される可能性がある土地の割合については,もちろん現在御審議いただいている認可要件等によって変動することが想定されますけれども,本日の調査審議の際の目安として御参考にしていただければと考えております。
参考資料8の説明は以上です。
○山野目部会長 ただいま説明を差し上げました参考資料8について,もしお尋ねの段がある際は,この後の部会資料36に関する審議の際に仰せいただきたくお願い申し上げます。
本日の審議の内容に入ります。
初めに,土地所有権の放棄を審議事項といたします。部会資料36をお取り上げくださいますようにお願いいたします。
部会資料36の初めのページのところに,ここで提案申し上げる土地所有権の放棄に関する規律のアイデアを御案内しております。御案内を差し上げているとおり,前提として民法の規定に,法令に特別の定めがある場合を除き不動産の所有権は放棄をすることができないものとするという規律を設け,このことを前提とした上で,その法令の定めの一つの例として,土地所有者は,法律の定めるところに従い,審査機関の認可を受けて放棄の申請をすることとし,ただし,放棄申請をしようとする所有者は,その申請に先立って売却,貸付けその他の処分について必要な努力をしなければならないということを想定し,認可は,四つの要件を掲げてございますが,これらについてのチェックを経た上で認可を与えるかどうかが定まるものとするという規律の構想をお示ししてございます。
あわせて,放棄をする際には政令で定める額の認可に係る手数料,それから土地の管理に係る手数料を納めなければならないとされ,さらに,その土地に係る損害賠償責任を検討しなければならないような局面について,損害賠償責任や認可の取消しに関するルールの構想をお示ししているところでございます。
補足説明まで含めますと,部会資料の20ページまでとなります。21ページに別な話題が示されておりますけれども,少し性格が異なりますので,初めに補足説明も含めますと部会資料の最初のところから20ページまでの土地所有権の放棄を認める制度の創設に関してお諮りをすることにいたします。御随意に御意見を仰せくださるようにお願いします。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 今日配布していただいた参考資料8について,確認と質問です。
二段階の調査のうち本調査の調査対象者は,「現在,宅地や農地,林地のいずれかを所有しもしくは今後所有する見込みがある者で,かつ土地の放棄制度を利用する意向がある者」とされていて,そのサンプル数が1,574サンプルとなっています。そして,推計結果を見ると,利用希望率は,土地を所有している世帯(A)の中で,土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯(B)の割合で算出することとし,これが平均で20.36%となっています。そこで質問なのですが,この本調査のサンプル数1,574がBを指しているのでしょうか。サンプル数と,利用希望率との関係を御説明いただけますか。
○大谷幹事 この利用希望率と出しておりますのは,スクリーニング調査の方で,土地を所有していますと,かつ制度ができたら利用を希望しますとお答えになった方の率を示しております。ですので,1,574の本調査のサンプルとはまた別の数字になります。
○蓑毛幹事 認可要件充足率は,土地所有権放棄制度の利用を希望する世帯(B)の中で,その土地につき試案の認可要件を満たすことが見込まれる世帯(C)の割合で算出することとされていますが,これと,本調査の1,574サンプルとの関係はどうなりますか。
○大谷幹事 本調査の1,574サンプル,こちらは所有している人だけではなく,所有する見込みがある人というのも含まれていますので,認可要件充足率では,そのうちの「所有している」と御回答になった方で認可要件を充足していることが見込まれるとお答えになった方が4.51%という形になっています。
○蓑毛幹事 利用希望率はスクリーニング調査を基礎に算出し,認可要件充足率は本調査を基礎に算出していて,利用希望率を算出する際のBの値と,認可要件充足率を算出する際のBの値は,異なる数値ということですね。よく分かりました。
この調査は,所有権放棄制度を創設した場合に,どの程度の国民がこの制度を利用することになるのか,それによって国にどの程度の管理負担のコストがかかるのかということを推計する上で重要だと思います。ですので,この調査の結果が,制度を作った場合の実態に近いものになるような内容になっていることが望ましいと思います。そのために,具体的にどのような質問をしたのか,回答に当たってどのような選択肢が示されていたのか,回答の分布がどのようになっているかということを,後で構いませんのでお示しいただければと思います。特に,本調査の対象者に対して,試案の認可要件をどのように示したのか,放棄をするためには,一定の手数料がかかることを示した上で希望を聞いてみたのかについて知りたいと思います。
○大谷幹事 アンケートでは,中間試案の内容を丸めた形でお示しをし,それで自分の土地がそれに当たっているというふうな形でお答えになった方を,この中では「要件を充足している」という形でカウントしているわけですけれども,管理の手数料の額は示しているわけではなくて,お金を払ってでも放棄したいというふうにお答えになった方の数字を採っております。
○蓑毛幹事 分かりました。この資料についてはこれで結構です。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
今回御提案を拝見いたしまして,まず最初の2行のところで,元々今まで議論していた中では所有権を放棄できるという前提の下で,例外的に権利の濫用というような話で土地所有権の放棄を制限するかどうかというお話になっていたかと思うんですが,今回の部会資料では,放棄することができないという規律を設けるということが原則になっております。私から見ると何か原則と例外が今までとは逆転しているのではないかと思ってしまうのですが,これは法制的な観点からこのような書き方をせざるを得ないということなのか,それともまたちょっと別の意図でこう書かれたのかというところはちょっと教えていただければと思っております。
あと,中身に関して申し上げますと,4の(1)のところで,放棄を認可する要件として,取得原因を相続又は遺贈,かつ相続人であった場合に限るというふうにされていることに関しては,やはりちょっと狭いというところはあるのかなと思います。現時点であまり大きな制度にはできないという事情は重々理解するところですが,この要件だと補足説明にも書いていただいているとおり,当然に法人は入らないということになりますし,あるいは,ほかの取得原因で土地を取得されて,でも今はちょっと持て余しているという方の分も入らないということになってきますので,冒頭の原則の規定の仕方とも関わるとは思うのですが,将来のことまで考えて,この制度を小さく産んで大きく育てるというような可能性も残していただければということは意見として申し上げたいと思います。
あと,(3)(4)の要件に関してなんですが,まず(3)のところで,土地所有権の放棄を認める要件として筆界の特定までは不要,という形で整理していただけたことにつきましては,これまで意見等を申し上げていたところですので,反映していただけたのは非常によかったなと思っております。
あと(4)につきましても,例えば土壌汚染等が存在しないことの証明のためにボーリング調査のようなものをやる必要はないということを補足説明に書いていただいている。これも要望等で申し上げてきたとおりなのかなと思っておりますので,この点は非常によいのではないか,よい方向性ではないかと思っておるんですが,同時に,崖地等は基本的には過分の費用を要する管理困難な土地ということで所有権放棄の対象から除外するということは依然として書かれております。この点に関してはこれまでの部会でも議論があったところだと思いますし,今回補足説明を拝見すると,補助金等の交付を受けて所有者が工事をすればいいというようなふうにも読めるのですが,であれば,結局のところやはり公費を投入して管理するということには変わりはないというところもございます。何よりも,実際,崖地のような土地の場合は,国が平時に管理するコストだけを見るのではなく,万が一その土地が災害とかにつながったときにもたらされる社会的なコストの大きさというものもちょっと考慮していただく必要もあるように思いますので,そこまで検討していただいた上で,これも所有権放棄を認める対象に含めるという考え方はできないのかというところは,意見として申し上げさせていただければと思っております。
すみません,いろいろ申し上げましたが,ひとまず以上でございます。
○山野目部会長 後ろの方でたくさん御意見を頂きましたとともに,冒頭のところで規律の表現に関して法制的な背景があるかどうかについて,事務当局の確認を求めるお尋ねがありました。
○大谷幹事 第1の一番最初の2行の問題でございますけれども,ここは元々所有権の放棄というのは自由にできるのではないかという議論,確かに中間試案の前までに部会資料でも書いて御議論をお願いしていたところでございますけれども,中間試案でお示しした内容をよく考えると,あれはあれで相当厳しい要件の下で放棄を認めるということになっています。結局のところ,所有権の放棄というのは自由にできないという方向に近い内容になっていたのではないだろうか,例外的にできるものというものを示すことになっていたのではないかという,その中身の問題としてそういうところがあるかなと思いました。それから法制的な観点でいえば,現行法では土地所有権の放棄ができるのか,できないのか分からないという出発点があって,実際に放棄が認められた例はあまり聞かないというところですので,基本的にできないという方向で整理をした上で,放棄ができる例外的な場合というのを新たな仕組みとして作るということを改めて提案したというところでございます。
4の(1)のところ,相続を取得原因とするものに限るということに関しましても,法人か自然人かで,中間試案の範囲では自然人だけが放棄できるという方向でどうかということを本文の提案としておりましたけれども,法人が放棄するのは難しいと考える理由については,法人は自らの意思で土地を取得しているということ挙げておりました。しかし,自然人であっても,自らの意思で土地を取得している人というのは,法人と何が違うのだろうかというところがございましたので,やはり法人と自然人とで線を引くのはなかなか難しいのではないか。その一方で,相続によって土地を取得した人というのは自己の意思では必ずしもなくて,相続放棄か承認かということを選ばされた中でやむを得ず引き受けたものもあるだろうと,その場合の相続を取得原因として土地を取得して持っている方の負担を免れさせるという趣旨で,新たな考え方として(1)というものを御提案をしています。
○山野目部会長 藤野委員,お続けになることがおありですか。
○藤野委員 いや,この点に関しては。
○山野目部会長 よろしいですか。
○蓑毛幹事 部会資料36の土地所有権の放棄について,日弁連のワーキンググループでの議論を踏まえて意見を申し上げます。
今,大谷幹事から御説明があったところではありますが,今回の提案では「不動産は,法令に特別の定めがある場合を除き,その所有権を放棄することができないものとする」となっていて,中間試案で「土地の所有者は,法律で定めるところによりその所有権を放棄できる」とされていたのと比べ,原則と例外が逆転していますが,これを元に戻すべきだという意見がありました。
それから,本文1から3については,基本的に賛成します。ただし,本文3の「売却,貸付け等の処分その他の行為を試みなければならない」ということの具体的な内容を明確にしてもらいたいという意見があり,また,この要件については,放棄申請者にとってさほどの負担とならないような手続にすべきだという意見がありました。
それから,最も議論になったところが本文4のところで,本文4(1)の要件については反対意見が多数でした。本文4(1)は,放棄申請の対象地の取得原因を相続等に限定する結果,法人である土地所有者を一律対象外にしていますが,これは法人が共有者に含まれるケースを一律除外するという方針とあいまって対象を不合理に限定する考え方であって,土地が将来管理不全状態となり,最終的に所有者不明土地化することを抑制するという今回の土地所有権放棄の制度創設の意義を大きく損なうものだと考えます。
先ほどの大谷幹事の説明にもありましたが,今回の提案は,相続等によって土地を取得した者にはやむを得ず土地を引き受けたという面があるとして,あたかもその者に対する恩恵として土地の所有権放棄を認めるかのようです。しかし,この部会の使命は土地所有権の放棄を可能とすることによって,所有者不明土地の発生を抑制する方策を審議することにあります。そうであれば,国に管理コストを不当に転嫁することなどを避けるために,土地所有権の放棄に一定の要件を設けて対象をある程度絞り込むことは必要だと思いますが,それは当該土地を誰が所有しているのか,あるいは土地の取得原因が何かという過去の経緯によって判断されるのではなくて,主として放棄の申請時点における当該土地の性状や当該土地に関する権利関係,事実関係,こういったものに着目して要件を設けて判断すべきだと考えます。
仮に現在の案が採用されれば,例えば自然人について,土地を所有していて放棄したいが,取得原因が相続以外なので放棄できないという場合に何が起こるかというと,次の代で相続になるのを数十年待って,それから放棄するということになると思われます。そのように放棄の時期を遅らせるだけの結果になることが,土地の適切な管理という観点から合理性があるのか疑問です。
また,法人においては,廃業や倒産により,土地が管理されずに放置されて管理不全化が起こり,それから長い期間が過ぎれば所有者不明土地化が起こることが十分考えられます。
このように,本文4(1)の要件を設けることは,土地所有権の放棄の制度を創設して,現時点で適切に管理されている土地が将来管理不全状態となって最終的に所有者不明土地化することを抑制するという政策目的に沿ったものとは言えないように思われます。
したがって,所有権を放棄することができる土地の取得原因には制限を設けず,また法人についても土地の所有権の放棄を認めるべきであると考える次第です。
次に,仮に本文4(1)の要件を設けるとして,その場合,部会資料10ページ以下に説明されている,取得原因が混在する共有地の所有権放棄をどう考えるべきかについて意見を申し上げます。
ここでは,アで自然人と法人が共有している土地,イで土地の取得原因が相続等である自然人と取得原因が相続等以外である自然人が共有している土地,これらについてはいずれも所有権放棄を認めるべきでないとしながらも,ウでは相続等で土地を取得した者が他の共有者の共有部分を取得して土地共有関係を解消すれば,土地の所有権を放棄することが可能ということが書いてあって,ア又はイの土地であっても,土地所有権を放棄し得る救済手段を提示しています。
このような救済手段があること自体については賛成します。しかし,これでは土地の所有権放棄をするためには,相続により持分を取得した者が他の共有者から共有持分を買い取って,しかし最終的には所有権放棄が実現できなかったときには,その土地の管理責任を一手に負うという結果になります。共有持分を全て取得した者一人に,このようなリスクを負わせる制度創設は適切ではないと考えます。
そこで,ウに記載した手法を認めるのであれば,端的に,共有である土地については共有者の全部又は一部が相続等により共有持分を取得した場合は,全ての共有者が共同して行うことによって土地の所有権を放棄することができるとすべきです。また,ウの内容について,提案の本文から読み取れるとは言い難いので,これは補足説明ではなく提案本文に記載していただければと思います。
少し長くなっていますが,続いて,部会資料1ページの本文4(2)から(4)の要件について意見を申し上げます。
国に管理コストを不当に転嫁すること等を避けるため,土地所有権の放棄に一定の要件を設けて対象を絞り込む必要があるという観点から,これらの要件を設けることについて賛成するという意見が多数でした。ただし,その内容について,部会資料の補足説明に詳しく記載されているにもかかわらず,本文4(2)から(4)では具体的に記載されず,「政省令で定める」となっています。しかし,本文4(2)から(4)は土地所有権放棄の可否に直結する要件であるので,その内容のうち重要な部分については,法律に定めるべきだという意見が出されました。
技術的あるいは細目的な事項に限って政省令の定めによるということはよいのですが,重要部分については法律で定めるべきであるというものです。部会資料の補足説明に記載されている内容を基に,具体的にワーキンググループで考えた文案を申し上げます。
例えば(2)については,「担保権又は使用及び収益を目的とする権利その他これに準ずる権利について対抗要件が具備され,あるいは第三者に不法占拠されている土地」と法律に定めればよい。(3)については「土地所有権の存否,帰属又は範囲について争いがある土地」と定めればよい。(4)については幾つか号を設け,本文で「次に掲げる土地その他管理又は処分に過分の費用を要する土地」と定めた上で,1号で「建物,工作物,車両,人工的埋設物その他の土地の性質に応じた管理を阻害する有体物がある土地」。2号として,「傾斜度が30度以上であって,その崩落を予防する相当な措置が施されていない土地」。これは急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第2条を参考にして考えたものです。3号で「土壌汚染対策法第2条に定める特定有害物質がある土地」。4号で「土地の管理に当たって他者との調整に多額の費用を要するなど当該土地の管理以外の目的での費用を過分に要することとなる土地」。このような形で法律に定めればよいのであって,これ以外に技術的,細目的なことがあれば政省令に委ねるのがよいという意見がありました。
それから,本文5の要件,手数料の納付について賛成します。賛成しますが,いわゆる粗放的管理が可能な場合には,管理に関する費用は生じないのではないかという意見がありました。粗放的管理の場合でも,一定の手数料を徴収する必要があるということであれば,例えば単位面積当たり幾らの費用がかかるのかなど,現時点で事務当局にお考えがあれば,お示しいただければと思います。
本文6,7,8については賛成します。本文9も,基本的には賛成ですが,青天井の損害賠償が認められるということだとすると,利用を妨げる結果となりますので,その辺りをどう考えるのかという意見がありました。
本文10についても,基本的に賛成意見多数です。ただし,例えば,土地所有権が放棄されていることを前提に,相続放棄することなく相続を承認した相続人がいた場合に,所有権放棄の認可が取り消されて所有権が戻ってくるということになると,不意打ちになるだろうと。この点をどう考えるのか,例えば職権取消しについて期間制限を設けるなど,何らかの手立てが必要ではないかという意見がありました。
長くなりましたが以上です。
○山野目部会長 部会資料の第1で提示している事項について,全般的な御意見を頂き,取り分け4について詳細な御意見を開陳いただいたところであります。
委員・幹事からは4のところでもよろしいですし,ほかの点でもよろしいですし,引き続き御意見を承りますが,その前にお尋ねが一つありまして,5のところで管理に係る手数料についての,これはまだここで決め切るという性質のものではありませんけれども,しかし想定されているような運用がもし事務当局において検討途上であるならば,可能な限り紹介してほしいというお求めがありましたから,その点について事務当局から発言をお願いいたします。
○大谷幹事 この管理のための手数料が幾らになるかということは,現時点でこれぐらいということをお示しできるものはございませんけれども,今,国有財産の管理に関して伺っているところでは,客観的な数字として200平米ぐらいの宅地であれば10年間で80万程度の管理費用がかかると伺っております。それは客観的な現にあるコストの問題ですけれども,それを一つの目安といいますか,スタートとしてどのような管理手数料を求めていくかということは,引き続き検討していきたいと思っております。
○山野目部会長 お尋ねの部分について蓑毛幹事,何かおっしゃることがおありでしょうか。
○蓑毛幹事 いや,特にありません。
○山野目部会長 國吉委員,どうぞ。
○國吉委員 ありがとうございます。
この土地所有権の放棄の前提条件として,パブリックコメントのときには筆界が特定されることということであったんですけれども,今回はそれが一応要件としてはないということなんですけれども,そもそもこの所有権の放棄をする前提として売却・貸付け等の処分その他の行為を試みるという要件があります。この売却・貸付け等を試みるということの前提としては,不動産の特定がされていなければ恐らくこれは何も進まないのだろうと思います。そうすると,おのずと例えば地籍更正登記をするなりなんなりをするという手続がどうしても必要になってこざるを得ないのかなと思っています。
そうすると,必然的にこの売却・貸付け等の処分を試みる場合には,筆界そして所有権界が特定されていなければ,これらの行為には及べないという前提条件なんだろうと思います。その前提条件があるにもかかわらず,土地の境界については所有権界を確認できればいいという一応立て付けになっているんですけれども,この立て付けだとすると,そもそも筆界それから境界については確認がされていなくても,例えば筆界と所有権界はそもそも一致しているものを,わざわざ所有権界だけ暗黙のうちに,もしかしたら恣意的にでも決定されてしまう機会があるんだろうと思いますけれども,そういうことが条件となるとすると,その後,例えば国に帰属した土地を,では処分するなり利用するなりするときの管理はどうするのかということになってきてしまうんだと思います。
ですので,この辺のちょっと所有権の確認をすればいいなというようなところを,例えば所有権を放棄したい所有者さんはむしろ弱い立場の人間ですので,恐らく境界はどうでもいいやなんていう考えをなきにしもあらずだと思います。
ですので,将来の例えば国が管理する状態に持って行くためにも,そこはきちんとしたものを前提としなければ,後々のそれから管理,処分等については進めないのではないかという疑義がありますので,御意見として申し述べたいと思います。
○山野目部会長 御意見を承りました。
沖野委員,どうぞ。
○沖野委員 ありがとうございます。
2点,細かい点なんですけれども,教えていただきたいことがあります。
一つは,主体あるいは利用の場面についてですけれども,法人ですとか取得原因による限定等をどう考えるかという御指摘が出ているのですけれども,その点ではなく,むしろ原案によった場合の考え方です。一つ気になっておりますのが,相続財産法人の場合です。必要がないということで相続人が全部相続放棄をするとか,そういうような場合について,相続の局面でもこれはやはり原案の下でも対象になるのかなという気がするものですから,その点はどうかというのを確認させていただければというのが1点目です。
2点目ですが,3の要件のところですが,相当な努力をするという中に今回,売却,貸付け等の処分という形で記載されています。試案の段階では譲渡等になっていたかと思いますけれども,貸付けというのが具体的に入りました。誰か使ってくれる人というのを探さなければならないということかと思います。それ自体は,土地の管理が十分に行われないということに対する予防として努力をするということは分かる気もするのですけれども,この制度自体は放棄の制度で,帰属を変更していくというものです。終局的に所有者不明になってしまうというような事態を避けて,もう帰属自体を国庫の方にさせてしまうという制度だということからしますと,貸付けというのは貸借ということでよろしいでしょうか,土地を使ってくれる人がいるかというのを探して,そういう人がいても,しかしもはやこの後誰が所有権自体を持って行くのかということについては了解も見通しもないというような場合だと,やはり放棄ができてもいいように思うものですから,この貸付けというものが具体的に入った理由について,それが本当に必要なんだろうかということについてちょっと理解が及ばないものですから,もしよろしければ御説明いただければと思います。
○山野目部会長 2点は御意見でいらしたようにも感じますが,お尋ねということで頂戴いたしましたから,相続財産法人の問題と貸付けの点について,事務当局の現時点での所見をお願いいたします。
○大谷幹事 ありがとうございます。
まず相続財産法人ですが,沖野委員御指摘のとおり,この場合も相続で,相続財産法人というものが持っているというか,相続財産法人そのものが財産で構成されるわけですけれども,その相続財産法人も土地所有権の放棄をするということは可能ではないかとは思います。ただ一方で,相続財産法人になっているということは,管理人がついて清算をした上で,最後に残った財産については国庫に帰属するということになっておりますので,相続財産管理人が所有権の放棄をするということが理屈上あり得るわけですけれども,所有権の放棄ということをしなくても,最終的に残ってしまったときには国庫に帰属するということになりますから,実際に管理の手数料を負担してまで相続財産管理人が土地の所有権の放棄をするということは少ないのではないかと考えております。
それから,2点目の貸付けの点でございますけれども,これも中間試案の際にはこういう表現を採っておりませんでしたが,例えば,農地については,農地バンクという仕組みがございます。農地については農地バンクで貸付けのあっせんなどもされて,現在の所有者ではない方に耕作をしてもらうということを一つの政策的な目的としてやっておるところがございます。こうした農地のような場合を念頭に置きますと,まず農地バンクを利用して貸付けを受ける方がいないかということをお聞きした上で,それでも誰も利用してくれないというときに,土地所有権の放棄ということを許すということでどうかということで,これは農地政策と関連してのことでございますけれども,こういうような形にしてはどうかという提案でございます。
○沖野委員 1点目については分かりました。
2点目については,なお制度と整合するんだろうかというのは気になりますけれども,政策的な判断からそちらに誘導したいという観点から入っているものと理解しました。それ以上には申し上げることはありません。
○山野目部会長 道垣内委員,どうぞ。
○道垣内委員 ありがとうございます。
蓑毛さんがおっしゃったことがちょっと私よく分からなかったところがあるので教えていただければと思うんですが,例えば4の(1)で相続以外であるということを求めるとか,あるいは法人は駄目だよというふうな話だとか,そういう話について,こういうふうな一般的な制限を設けるのは妥当ではないのではないかという話をされまして,しかし,実質的に見ますと,放棄のために取得をすることを認めていいのかという問題があるという話も併せてされたのだろうと思います。
そうであるならば,ある程度の実質的な審査というのをせざるを得なくなるのではないかという気がするんですね。
その実質的審査をするということと,4の(2)から(4)を非常に明確にしようと,具体的な基準を明らかにして明確にしようというのとがどういうふうな関係に立つのかというのがよく分からなくて,また8も賛成だとおっしゃったんですが,8というのは実質的にあまり審査しないというのが,ある程度,前提になっているような気がして,そうしますと,相続とか法人とかということが,それだけの理由では放棄を認めないという方向にはつながらないはずだという話と,形式的な要件審査で処理をしようという8は賛成だというのとが,どういう関係にあるのかが私にはちょっと分からなかったんですね。
それが大きな点,2点目は非常に小さい話です。それは,今後は逆に蓑毛さんのおっしゃった話に乗って,4の(2)というところを精緻化すると,明確化するというところで,対抗要件が具備されているという話をされたような気がするんですね。しかし,これ第三者が担保権を設定して,相続以外の事由で取得がされていると,それはその時点で担保権は対抗できないというものになっているわけですし,逆に言うと,これは本人が担保権を設定しておいてそれで放棄をするというのは,それはおかしいという話も含んでいるんだと思うんですね。
そうなると,対抗要件の具備は不要ではないかという気が私はいたしまして,細かな話ですが,対抗要件が必要だとおっしゃったんだとするならば,それはちょっと違うのではないのという気がいたします。
○山野目部会長 蓑毛幹事におかれましては,今何か仰せになることがあれば伺いますし,あるいは弁護士会でまた持ち帰って御議論になるということでもよろしいですけれども,いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 私の能力では,道垣内先生の疑問に答えられるかどうかよく分かりませんが,答えられる範囲でお答えします。道垣内先生からは,実質的審査・形式的審査という言葉があり,手続と実体法上の定めとの関係についてのご質問であったと思いますが,私は手続や審査について特に言及した訳ではありません。私が申し上げたのは,部会資料1ページの本文1で「土地の所有者は法律の定めるところに従い,土地の所有権を放棄することができる」とあり,本文4がその法律の定めについて記載しているわけですが,4(1)の実体的要件については不要,それから,4(2)(3)(4)について補足説明で詳細に説明されている内容は,法人を含め,モラルハザードを避ける等の観点から,適切な実体的要件であると考えるが,それは法律で定めるべきものであり,細目的なところのみ政省令に委ねるべきだと申し上げました。実体的要件を政省令に委ねず,法律に規定すべきということと,実質的審査か形式的審査かということが,どのように関係するのか,ちょっと理解できませんでした。
本文8が実質的審査をしないことを前提としているというのがそうなのか,あるいは,私の意見との関係については今整理できていませんので,お答えできません。
それから,対抗要件が必要かどうかというのは,部会資料に記載している点を踏襲して述べましたので,これは事務当局の方からお答えいただければと思います。
○大谷幹事 今多分,道垣内委員はその規定を置くとすると難しいというか,説明がつきにくいというところがあるのではないですかとおっしゃったものと理解をしておりましたけれども,実態として担保権がついている場合には放棄できないという考え方もあるのだろうとは思っています。
ただ,今のところ,結局登記で担保権が消えてしまうというか,国の方には対抗できないということになるのであれば,それはもう放棄を許してもいいということになるのではないかということで,部会資料は作っております。
○山野目部会長 道垣内委員,お続けください。
○道垣内委員 いや,差し当たっては結構です。どうも。
○山野目部会長 ありがとうございます。
次,佐久間幹事にお願いします。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
2点申し上げたいと思うんですが,一つは,取得原因の制限についてです。この点につきまして,蓑毛幹事から弁護士会の御意見を御紹介いただいたわけですけれども,なるほどもっともとは思いました。しかしながら,一応この要件として今原案で絞られているのは,現在所有者不明土地問題として一番大きな発生原因であると思われる相続を契機に土地が放置されるということを何とかしようということがあるということが一つ。
モラルハザードというものを,所有者のですね,防がなければいけないということがもう一つ。さらには,何といってもこれうまく成立したといたしましても,初めて認められる制度となりますので,一体どういう行動を国民がとることになるかというのも分からないわけですので,いずれ見直しをすることはあってもいいと思うのですが,最初は少し控えめな出発点をとる方がいいのではないかと考えておりまして,以上の次第から,原案に私は賛成いたします。これが1点目です。
2点目は,これはすごく大ざっぱなというか,中身の話ではないんですが,蓑毛幹事がやはりこれもおっしゃったことなんですが,冒頭で,第1の定め方を変えるという御提案が今日されています。不動産について法律に定めがあればそれに従って所有権を放棄することができるというのが試案での御提案だったわけですが,本日お示しになっているものは,不動産は法律で特別な定めがある場合を除き放棄することができない,繰り返しますが,所有権を放棄することができない,となっております。
私は,これは先ほど蓑毛幹事がおっしゃったことだったと思うんですが,元の方がいいと思っています。それはなぜかと申しますと,民法に不動産の所有権の放棄について定めることはいいのかなと思うのですが,それがほかの権利の放棄になるべく影響を及ぼさないようにした方がよろしいのではないかと思っています。
補足説明のところでは,動産については放棄が許されているではないかというふうに書かれておるわけですけれども,動産についても全くその単独行為として自由に意思表示をするだけで放棄することができると考えている方がどれほど多くあるかについては,やや疑問に思っております。
そういったところについてまで波及をさせないということからいたしますと,元のように,所有者は法律で定めがあれば所有権を放棄することが不動産についてはできるというふうにしておくならば,ほかの権利についてはどうか述べていないということに,私の感覚ではできるのではないかと思います。そこで,前のようにするほうがよいのではないかと申し上げました。
○山野目部会長 佐久間幹事の御意見2点を承りました。
中田委員,お待たせしました。
○中田委員 ありがとうございます。3点あります。
1点目は,ただいま佐久間幹事のおっしゃった,第1の冒頭2行の民法に所有権放棄ができないという規律を置くということについてです。
これは,置くとした場合に,どうして不動産については所有権を放棄できないのかということの理由付けを明確にする必要があるのではないかと思います。その一つとして考えられるのは,所有権の内容である「処分」には放棄を含まないという説明です。しかし,そうすると動産にも及ぶということになりますから,これではうまくいかないと思います。
2番目に考えられますのは,物理的に滅失させることができるかどうかということです。しかし,土地については滅失させられないけれども,建物や土地の定着物あるいは立木法の適用のある立木などについては,そうはいえないので,この説明もうまくいかないだろうと思います。
三つ目に考えられますのは,民法の規定として239条2項で不動産については所有者がいなければ国庫に帰属するというのがありますので,これと結び付けるような説明があるのかなと思います。ただこれは,今回資料を拝見して急に思い付いたことだけですので,全く自信がありません。
仮に民法に大原則のようなものを置くんだとすると,その理由付けを明確にすることがほかとの関係でも必要になってくると思います。現に,この資料の中でも共有持分の放棄について,甲案,乙案ございますけれども,そういうところとも関係してきますので,もしも規定を置くのだとすると,その内容,理由付けを明確にする。それが明確にならないのであれば,その規定を置かないという選択肢もあるかもしれません。
第2点は,管理手数料についてです。これは,先ほど具体的な数字でイメージがつかめたんですけれども,これは認可の後も毎年払うということになるのか,それとも認可の際に一括して払うのかです。そこは私としては認可の際にもう精算してしまう方がいいのではないかと思っております。もしもその後も払わせるということになりますと,その回収リスクもありますし,その後亡くなったりした場合にどうなるのかということを考えると,非常に面倒になります。
3点目は,9(2)の損害賠償請求の期間制限5年ということでございます。これは,申請者が知っていた場合,これは20ページの最後のところに有害物質を埋めたことを秘して申請した人についての言及がありますが,例えばそういう人についても5年の期間制限が及ぶのかというと,やや疑問に感じました。
○山野目部会長 中田委員の御意見,3点承りました。
続きまして,松尾幹事お願いいたします。
○松尾幹事 ありがとうございます。
土地所有権の放棄に関する原則をどう定めるかという点について,既に多くの意見が出されておりますが,私も原則として不動産について所有権放棄を認めないというよりは,所有権放棄は認めうるけれどもかなり厳しい要件が付きますよという方がよいのではないかと考えます。
理由は三つありまして,一つは,従来の裁判例では土地の所有権の放棄について,原則として認めうるけれども,権利濫用等に当たることを理由に,放棄を前提とする請求が絞られてまいりました。権利濫用に当たるという実質的理由が何なのかということについて,議論があったように思います。その権利濫用に当たらない場合について,法律が特に定めて要件を満たした場合には認めますよという方が,従来の土地所有権放棄をめぐる制度との連続性を保ち得るのではないかというのが第1点です。
それからもう一つは,この要件を満たした場合には,部会資料36の第1の8で審査機関は認可をしなければならないというふうになっていますけれども,要件をクリアすれば認可をしなければならないという制度構成をとるとすれば,原則は所有権放棄を認めるという立脚点に立つことになるのではないかと思います。
それから,3番目は,先ほど中田委員の方から御指摘がありましたけれども,もし不動産に限って所有権の放棄を認めないということになると,ほかの制度へのインパクトとして,動産については否定できないこととの法理上のバランス,不動産の共有持分権の放棄を認めるかどうかということについて,部会資料36の22ページ下から10行目以下でも指摘されている規律の問題も考えなければならないということで,波及する問題が大きいと思いますので,原則はできるけれども厳しい要件がつくというスタンスの方がよろしいのではないかと思います。原則できないというのはちょっとインパクトとしては大き過ぎるのではないかと感じた次第です。
○山野目部会長 ありがとうございます。
山本幹事,お待たせしました。
○山本幹事 ありがとうございます。
4点ほど,いずれも細かい点ですけれども,本文で申しますと9と10の部分です。
まず第1点は,9の部分に関してですけれども,説明の方で申しますと19ページから20ページにかけての部分です。これは,先ほど中田委員からも御指摘がございましたが,ここでの案は会計法の30条ないし31条の方の考え方に寄せて時効を考えると。すなわち,会計法の30条,31条のように,行政上の事務処理上の便宜等の観点から,画一的に比較的早期に金銭債権債務の行使について確定をさせるという除斥期間に比較的近い考え方がここでは示されていると理解を致しました。
立法のやり方としては,そのように会計法の方に寄せるやり方と,それからどちらかというと民法の消滅時効の規定の方に近づけ,知ったときからという時点を起算点にするやり方があります。ここでの案は認可のときからということなのですが,知ったときからという形で民法の方に寄せるやり方もあるのではないかと思います。どちらがいいか,私はちょっと定見がないのですけれども,一つの考え方として,ここに示された案もあるかと思いますが,議論の余地はあるのではないかと思います。
それから,第2点は,20ページの4行目の部分ですけれども,ここで損害賠償請求と認可の取消しとの関係が書かれておりまして,ここでは,そこまではっきりと書かれていないのですけれども,放棄をした人の財産権を保護するという観点からいうと,損害が莫大に生じて,損害賠償請求を国が行う前に,認可の取消しをすると,そちらの方が放棄をした者にとって負担が少ないということであれば,できるだけ早くそちらの方の措置を取るべきであるといったことがあるのではないかと思います。
先ほど蓑毛幹事から,損害賠償の額が非常に大きくなるという話がありまして,一つそれを抑えるためのやり方として,むしろ認可の取消しを早期にした方が放棄者にとって負担が少ないということであれば,それをやるべきということになるのではないかと思います。
それから,第3点は,同じく20ページの,すみません,非常に細かい話ばかりで申し訳ないのですが,(2)の直前にあります「なお」の部分で,行政訴訟が提起される場面は実際には想定し難いということです。例えば,放棄者が真の権利者であるかというようなことは,初めに審査されるので,実際には後から実はその人が権利者ではなかったという事態はあまり想定されないのかもしれませんが,仮にそのような権利の帰属に争いがあったような場合には,恐らく行政訴訟ではなく,通常の民事訴訟で争われることになるのではないかと思います。これは私もちょっと考えがまとまっていないところで,かなりマイナーなケースですので,そこまで考える必要は現在のところはないのかもしれません。
それから,最後ですが,20ページの認可取消しの期間制限の話です。20ページの最後に書かれております。これは,先ほど蓑毛幹事からも御指摘がございましたけれども,一般的に申し上げれば,行政処分の職権取消しをする場合の要件を事細かく書くことは,あまりないのではないかと思います。一般的には,どれぐらいの期間がたっているかということ,それから取り消す公益上の必要性がどれだけ大きいかということ,それから私人の側の帰責事由がどれほど大きいかという,大体そういったファクターを考慮して,一般的には判断することになるのではないかと思います。
ただ,立法としてはある程度明確にしてしまうというやり方もあり得るかと思います。例えば期間を5年とか10年という形にして,その上で例えば放棄者が知っていた,放棄者の側に帰責事由があるという場合には,無期限といったようなやり方も一つあるかもしれません。そこまで細かく書くことが適切なのか,あるいはむしろ通常行われているように一般的な利益衡量でもって処理をするのがいいのか,どちらかということになるのではないかと思います。
すみません,あまりまとまりのない話で申し訳ございませんでした。
○山野目部会長 山本幹事がおっしゃった2点目のお話でありますけれども,認可を取り消した方が放棄者である私人に対してあまり不利益が大きくならないというときには,そのように導くべきだというお話は,規律表現としてもう少しその趣旨のことをはっきり書いておいた方がいいという御意見の御趣旨も含むものでありましょうか。
○山本幹事 そこはなかなか書き方が難しいところがありますが,明確にそこまでもし決めるのであれば,書くというやり方も一つあるのではないかと思います。ただ,行政処分の際にこういうことが問題になる類例があまりないので,実際どう書くかというと,私も具体的なアイデアは現在のところ持ち合わせておりません。
○山野目部会長 御意見の趣旨,よく理解することができました。ありがとうございます。
水津幹事はお手を下げられましたか。
○水津幹事 では,土地所有権の取得原因の制限について,質問いたします。
4(1)の規律は,相続人に対する遺贈を相続と同じように扱っています。補足説明では,その理由として,特定財産承継遺言と相続人に対する遺贈の機能は,類似していることなどが指摘されています。しかし,特定財産承継遺言の性質は,相続であり,受益相続人の受益は,相続人として相続財産を包括承継することと結び付いています。このことは,受益相続人が相続を放棄したときは,その者は,その受益を失うことに示されています。これに対し,相続人に対する遺贈の性質は,相続ではなく,贈与に類するものであると考えられます。そうであるとすると,相続人に対する遺贈を相続と同じように扱い,受遺者である相続人が遺贈を承認して土地所有権を取得したときに、その土地所有権を放棄することをその者に認めてよいのかどうかが,土地所有権の取得原因を制限する趣旨との関係で,少し気になりました。
○山野目部会長 お尋ねとおっしゃいましたが,水津幹事から御指摘いただいたことに注意をして検討を進めなければいけないというふうに受け止めればよろしいでしょうか。
○水津幹事 そのようにしていただければと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
安高関係官,どうぞ。
○安髙関係官 ありがとうございます。林野庁でございます。
2点ほどちょっとお話をさせていただきたいと思います。
まず,11ページの(5)権利の帰属に争いがないことの記述についてでございますが,その末尾の12ページのところに,所有者が一筆の土地の一部を放棄したいと考える場合ということも想定をされているという記述がございます。こちらについて,ちょっと懸念点がございますので,一言申し上げさせていただきたいと思います。
本文のとおり,分筆した上で放棄の申請をすると,要件を満たしている場合であれば,土地の一部の放棄も当然認めることになるということは認識しております。ですが,森林を例にとりますと,育ちがいい森林ですとか林道脇の近くて施業がしやすい森林といったような条件のよい森林は引き続き所有をされて,それ以外の不必要な,厄介なところだけを放棄しようとするといったモラルハザードと言えるような放棄の申請が行われるというケースも出てくるという懸念があるという点でございます。これは懸念点ということで一言ということでございます。
もう1点でございます。これは12ページの(6)のところに,隣接する土地の所有者との間で境界について争いはないことのうち,3パラ目,先ほど國吉委員からも御指摘があったところでございますが,管理の対象である土地の所有権の境界が明らかであれば足り,公法上の筆界が特定することを要求する必要はないという記述があるところでございます。林地については,筆界が特定されていないという割合が非常に高うございますので,筆界特定を放棄の要件とすると,制度自体が機能しなくなるという考え方はあるのかなというふうに理解しております。
一方,放棄後に筆界を特定するとなった際には,登記の手続を含めて発生する手間ですとかそれにかかる費用といったコストについては,国,ひいては国民の皆様方に転嫁されるということになるところでございます。そうして最終的にその筆界と所有権界が一致しないといった場合については,国とその隣接所有者との間で実務上トラブルになってしまうという可能性もあるのかなと。そう考えますと,筆界を特定させた上で放棄申請をしていただくというのがよいのかと思うのですが,そうでなければ,管理に係る手数料,この算定にそのコストも加味しておく必要が出てくるのではないかと,そういった考えもあってよいのではないかなと考えているところでございます。
また,せめてその筆界が特定されていなくても,しかるべき水準の測量図の提出,そういうものが必要ではないかと考えているところでございます。
こういった境界についてどの水準で放棄を認めるかということを検討するに当たり,最終的には決めの世界になるのかなとは思うのですが,そのような点も踏まえた上で,筆界が特定されていなくとも,それでも放棄を認めるというふうにするかどうかというのは,判断が必要かなと考えているというところでございます。ありがとうございます。
○山野目部会長 2点の御注意を承りました。
後ろの方の点は,前の方の点とともに検討いたしますが,どちらかというと,筆界特定が必ず必要であるという規律に,かつてそういうふうに考えていた時期もありますけれども,あれに戻すことは重いお話になってまいりますから,費用の方でうまく処置ができるものであれば,そちらの方が穏当な解決であろうと考えますけれども,本日,國吉委員からも御意見をお出しいただいているところを踏まえて引き続き検討することにいたします。ありがとうございました。
垣内幹事,お待たせしました。
○垣内幹事 ありがとうございます。垣内です。
1点,ちょっと細かい点で恐縮なんですけれども,確認の質問をさせていただければと考えております。内容的には,資料の1ページの4の(1)の理解,それから,若干は8ページの本文の最後の段落,法人格なき社団等に関する記載に若干関連することになるかと思います。
具体的には,入会権の対象となっているような土地で,共有の性質を有する入会権のような場合に,入会権者が実質的には社団になっているような場合とそうでない場合と両方考えられるのではないかというふうに理解をしておりますけれども,本日の御提案で4の(1)の考え方によりますと,そういった場合にはそういう権者全員の同意というか,全員の認可の申請があっても,これは放棄ということは許されないという理解でよろしいでしょうかというのが御質問でございます。よろしくお願いいたします。
○山野目部会長 お尋ねを頂きました。事務当局からお願いいたします。
○大谷幹事 8ページのところに書いておりますけれども,法人格なき社団については,個人が相続しているというのとはまた別のことになるんだろうと,どちらかといえば団体に近いということに,法人に近いということになりますので,法人格なき社団については放棄は認められない,この4の(1)には当たらないということになると理解をしております。
○垣内幹事 入会権者が法人格のない団体を形成しているとまでは言えないような場合もあるのではないかというふうに,ちょっと民法の理解が間違っているかもしれませんけれども,そのような場合については,そうしますとどうなりますでしょうか。
○山野目部会長 民法の理解は垣内先生のおっしゃるとおりです。
○大谷幹事 そうですね,結局のところ,法人格なき社団ではないということで共有になっているのだということであって,それで相続で取得しているということであれば,全員で放棄をするということであれば,それはあり得るのではないかなと思います。
○山野目部会長 垣内幹事,お続けください。
○垣内幹事 分かりました。ありがとうございます。
これはまた私の民法の理解のあれなんだと思うんですけれども,何か入会権というのが相続によって取得されるのか,それとも,何というんでしょうか,住民であって世帯主であるみたいなことで,相続とは別の形で取得されるのかというのがちょっとよく理解できていないところがあるんですけれども,相続によって取得されると考えて適用される場合もあるという,そういうことになりますでしょうか。
○大谷幹事 今,いろいろ御指摘を頂きまして,現時点でそうかなと思いましたけれども,もう少しよく考えて整理をしたいと思います。
○山野目部会長 垣内幹事,よろしいですか。
○垣内幹事 はい,どうもありがとうございます。
○山野目部会長 垣内幹事からは,ひとまずそういうことですかというお話を頂いたところでありますが,後でまた今後に向けての宿題の整理を差し上げようというふうに感じておりますけれども,今後検討しなければならない点の一つとして,取得原因が混在している土地についての放棄の在り方は,蓑毛幹事からも具体的な幾つかの御指摘を頂いているところでありますし,垣内幹事からお話いただいたところも,入会権者が権利能力なき社団を構成していないとき,全員が相続によって承継したと考えられるときには,部会資料でお出ししている案でも土地所有権の放棄が可能になるかもしれませんが,混在している場合についての扱いとそれほど隔てなければいけないかというようなことを考えながら,入会権の構造にも注意を払いつつ,問題提起を頂いたことについて考えをまとめていくということになりましょうから,ただいまの御注意をそのような今後の検討の中で活かしてまいりたいと考えます。
○潮見委員 すみません。質問が1点,それから意見が1点,それからお願いが1点,3点ぐらい御発言したいと思います。順番からいったら意見の方がいいかもしれません。
先ほどの山本幹事の御発言にも関わることですけれども,この第1の9に関わるところです。5年の期間の起算点のところです。私も先ほどの御発言でおっしゃられたことにも同じように感じるところがありまして,この起算点については,国が放棄者に対して求償する機会を奪われないようにするためにも,これは認可された時ということではなくて,要件が充足されないことを知ったときというところで考えた方がよろしいのではないかというように思いました。
また,5年の期間というのがこれでいいのかというのは,先ほど中田委員が,登記者が悪意の場合ということを想定しておっしゃられましたが,それ以外にも何かありそうな気もするんですよね。例えば畑にされた土地のところから6年か7年たった後で汚染物質が出てきたような場合に,そうしたときに国の方に最終的にそのリスクを負担させるという結果で終わってしまうというのが果たしてよいのかどうかというのは,いろいろな考え方があっていいかと思います。これが1点目です。
それから,2点目の質問に関わることは,同じ9のところの(1)の本文とただし書といいますか,本文に関わることなのですが,(注2)の4の(4)の政省令で定める内容……というふうなことが書かれていますが,例えば㋔の場合に,9の(1)の本文の4に規定する要件を満たしていないことによって国に損害が生じたということは,想定されているんでしょうか。このような場合にそういう事態があるのかということを,ちょっとお伺いしたい。
後の補足説明等のところを読んでいますと,要するにこういう場合には管理主体となる行政機関の意見を求めて,それでいいかどうかというものをそこで考えてもらって,それで過分の費用を生じないという認定評価がされた場合に放棄というものが認められるという中で進んでいくというように書かれています。そうであるならば,後で何か起こったときに4に規定する要件を満たしていないことによって国に損害が生じたということが,因果関係の話ですけれども,そういうことが起こり得るんだろうかというところがちょっと分からなかったというところなので,これは教えてくださいということです。
最後にお願いというのがあります。それは,9の(1)にこれも関わるのですけれども,こういう本文ただし書の構造をとるということは,私は理解できます。ただ,こういう本文ただし書構造をとった場合に,放棄者が,自分が無過失であるということについての立証責任を負うことになります。もちろん,証明がしやすいという場合もありましょうけれども,先ほどの例えば(注2)のところの㋓ですね。こういう埋蔵物とか土壌汚染があるという場合に,では無過失ということを放棄者が立証しなければいけないということになれば,考え方次第ではかなり厳しい事前の調査義務,あるいは情報収集義務というものを放棄者が負担するような形で解釈がされるリスクもないわけではありません。実質的に無過失責任が課されてしまうような局面があり得ないとは言い切れないところがあります。
ですので,ここからがお願いで,法改正がされたときには,解説とかが出されると思います。そういうところで,あまり過酷な調査義務,事前の調査義務,あるいは情報収集義務というものを放棄者に課すことがないように,少しその辺りは説明を丁寧にしていただければ有り難いというところです。これがお願いです。
○山野目部会長 1点目の御意見は,山本幹事から問題提起を頂いたところについて,更にお立場を表明していただきましたから,有り難く承りました。
2点目のお尋ねは,ただいま事務当局から説明をいたさせます。
3点目のお願いというのは,ああお願いなのですね,というふうに承りました。この本文とただし書の構造そのものが駄目だというふうに潮見委員に叱られてしまうと,あまりほかに書きようがないものですから,困るなという気もしないではありませんでしたが,法令の意味内容の説明において留意していただきたいというまことに穏当なお話を頂きましたから,お願いの向きはもとより承りました。
事務当局からお尋ねにお答えくださるようお願いいたします。
○大谷幹事 9の(1)の4に規定する要件を満たしていないことによってということにつき,今潮見委員の御指摘にあった(注2)の㋔のような場合はどうなのかということですが,基本的にはこの㋔の要件が実は満たされていなかったんですということは,あまり想定されないのではないかと思っております。ここで一番ありそうなのは,放棄者は権利関係に争いがないというふうに言っておったけれども,実は争いがあったであるとか,今も御指摘がありましたけれども,(注2)の㋓の,土地に埋設物や土壌汚染があるということが後になって分かったということがケースではないかと思っております。
先ほど潮見委員から損害賠償請求権の期間について御指摘がありましたが,部会資料の作りといたしましては,国の方の損害賠償請求権というのを重く見て,主観的な起算点とするかどうかということはありますけれども,やはりある程度事務処理上の便宜というものを考えながら,また,土地所有権の放棄をした方が,特に実は土壌汚染があったんだということを知らないで放棄した人が,いつまでも取り消されるということもどうなのだろうかというところがありますので,一応客観的な起算点ということでどうかと考えて,こういう提案をしております。
また,際限なく損害が発生してしまって,無過失であることを立証できないで,結局損害賠償責任を負ってしまうということがあるのではないかということがありましたけれども,そこも具体的な損害が生じてしまったときにはやむを得ないところがありますけれども,山本幹事から御指摘がありましたように,具体的な損害が発生していないのであれば,取消しをして,国の方で持っているとどうしても国の方ではきちんとした管理をしないといけないので,土壌汚染が発見されたらその土壌を入れ替えるというようなことをするけれども,それが通常の方が持っているのであればそれは必要ないということもあり得るところですので,そういう場合には取消しをしてお返しをするということもあるというふうに考えておりました。
○山野目部会長 潮見委員,お続けください。
○潮見委員 そうであるならば,除斥期間としないのですか。
○大谷幹事 会計法の規律との関係がありますが,先ほど山本幹事もありましたけれども,除斥期間のようなものという形で作るということもあるのかなと思います。
○潮見委員 こちらの部分について,会計法とは少し切り離した形で除斥期間という形で組むというのは難しいという御趣旨でしょうか。
○大谷幹事 除斥期間として組むということもあり得るのかなと思いますが,これも結局のところ,時効制度との関係でどういうふうに仕組むのか,会計法との関係もいろいろあると思いますので,必ずそうできるとは思っていませんで,取りあえずこういう形で提案をしているというところでございます。
○潮見委員 ありがとうございました。
○山野目部会長 潮見委員の御指摘を踏まえて,期間のことはさらに検討することにいたします。
吉原委員,どうぞ。
○吉原委員 ありがとうございます。
第1の土地所有権の放棄を認める制度の創設について,法令に特別の定めがある場合を除き,その所有権を放棄することができないものとする規律を設けるという2行について賛成いたします。
また,4の(1)取得原因を相続又は遺贈に限定することにも賛成いたします。このようにしたことで,今回のこの議論の背景,それから所有権放棄の制度を設ける趣旨というものが明確になったと受け止めました。政策目的に合致したものであると考えます。
その上で,放棄できると書く,あるいは放棄できないと書く,いずれにしろ世の中に与えるインパクトというのは非常に大きいものがあると思います。仮に放棄できると規定した場合,一般国民の受け止め方としては,できると原則書いてあるということは大部分ができて,例外的にできないというふうに受け止めてしまうのではないかと想像しております。ただ,今日配布されました参考資料8を見ますと,放棄見込率は1%程度ということで,ごくごく限定的です。このような推計を見ますと,放棄できないと書く方が一般国民の受け止めとしては実態に即したものと理解を得やすいのではないかと考えます。
土地の承継について,これまで相続の承認とそれから相続放棄という限られた選択肢が用意されていたわけですけれども,今回,所有権放棄の規律を設けることによって,その間に新しい制度が生まれてくると。これを,放棄できないという原則を置きつつ限定的に認めていった場合,ではなぜ限定的にしか認めないのかということについて,もう少し本質的な理由を考える必要もあると思っております。
先ほど中田先生から,ここでもし原則放棄ができないとするのであれば,それはなぜでしょうかという問題提起がございました。ここがやはり多くの国民が疑問に思うところだろうと思います。実態としてモラルハザードを生むからとか,管理コストが国や自治体にかかってしまうからという,そういう理由は当然あるのですけれども,果たしてそれが放棄を原則認めない本質的な理由なのだろうかということは,まだちょっと考え中なところがあります。
なぜ原則認めないのか,それは土地という財の特性によるものなのか。もし,逆に原則認めるとした場合,その理由は何なのか。そこをもう少し突き詰めて考えることが,普通の人にこの制度を周知していくときに必要だろうと思います。
それを考える上で,最後1点ですけれども,第1の書き出しが不動産はとありまして,ただそこ以降の1,2と続いていく部分は,土地のとなっているわけです。建物については滅失できますが,土地はそれができないという性質上の大きな違いがあります。
この後ろの方で建物についての扱いも出てきますが,ここで不動産と置いて,土地と建物という性質の違うものを一律に大きくうたってしまって,後々解釈上の混乱が出ないのかということはちょっと思っているところです。
○山野目部会長 御意見を頂きました。
山田委員,お待たせしました。
○山田委員 ありがとうございます。届いていますでしょうか。
○山野目部会長 届いています。
○山田委員 発言を始めます。
先ほどお話が出ていました入会,あるいは入会権に関することについて,一言意見を申し上げます。
過去のある時期まで入会権が成立していたと認められる例というのが全国に多くあるだろうと思います。それらは,管理が行われていない土地となっているものが少なくないのではないかと思います。共有の登記が行われている場合というのもあろうかと思います。
このように考えてきますと,8ページの本文の下3行に書かれていることは,少し,今私が想定しているような例を考えると,この制度に乗ってこない可能性があるというおそれを感じます。特に,法人格なき社団等の実態は法人と変わらず,土地を取得するのはその組織の活動の一環としてであり,土地所有権の放棄を認めるべき必要性が低い点では法人と同様であることから,土地所有権の放棄の主体とすることは現時点では難しいと考えると書かれています。これは,法人格なき社団一般については当たるところがあると思うのですが,先ほどの御発言にもありましたように,入会団体が法人格なき社団の性質を持っていると認められる場合があります。それを自らが土地を取得したんだと考えるのは,当たらないのではないかと思います。
今日の次の話題の共有とも関連しますが,共有持分の形式を持った権利がかつての入会団体の構成員の子孫というんでしょうか,卑属に共同で帰属しているということがあろうと思います。それらは厳密な意味で相続なのかどうか,確かに難しいところがあるのですが,自分で購入した,自分で自発的に取得したというのでないのは明らかでありますので,是非,そういう例についても今回の土地所有権の放棄にうまく乗せることができるように,事務当局ではお考えいただきたいと思います。
○山野目部会長 入会権のことが大きな宿題であることがよく分かりました。どうもありがとうございました。
引き続き委員・幹事の御意見を承ります。いかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは,部会資料36の「第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設」につきまして,本日,委員,幹事,関係官から様々な御意見を頂きました。いただいた御意見の全てについて,これから精査して改めて議事を整理いたします。それらの全てを繰り返すことはいたしませんが,大きな二つの宿題が浮かび上がってきていると感じます。
第1点は,部会資料でいいますと最初のところで問題提起をしていることですが,不動産所有権の放棄の可否について,民法に規定を置くか置かないか,置くとした場合にどのような規律表現で置くかということについて,本日の御議論において主に民法の先生方からは,それが他の権利の放棄に波及する影響等について慎重に検討するようにというお求めを頂きましたし,また吉原委員その他の委員からは,ここで設けられるルールの規律表現が国民に対して与えるメッセージとの関係で,また別の性質のことでありますけれども,十分に注意するようにという御指摘もいただいたところでありまして,本日の御議論をもう顧み,ここを整理しなければならないと感じます。
もう一つ大きな宿題がある点は,4の全般についてお話を頂いたところであり,どれも重要でありますが,取り分け4の(1)との関係におきましては,4の(1)のように相続に限定することの適否そのものについても御議論があったところでありますけれども,仮に相続に限定するということにした場合においても,取得原因が混在する土地の放棄の要件,手順をどのようにするかということについては,なお考え込まなければいけない点がたくさんあるということが明らかになってきたと考えます。取得原因が混在する土地というものは,言い換えれば所有権の一部を相続等によって取得したけれども,他はそのような部分になっていないという局面でございます。蓑毛幹事が弁護士会の御意見を受けておっしゃったように,所有者不明土地管理制度を用いるか,あるいは他の共有持分を取得するという手順を経なければ,また経た上でであっても,土地所有権の放棄に結び付くことができないというリスクを冒して,ここのところの手続を進めなければならないという困った状況に当事者を置くことの適否等について,更に考え込まなければいけないと感じられるところであります。
この点についても,委員,幹事,関係官からお出しいただいた御意見等を踏まえ議事を整理することにいたします。特段の御意見がなければ,第1のところについての今日の段階での審議を終えるということにいたしますが,よろしゅうございましょうか。
それでは,部会資料36はまだ残っていますけれども,本日の部会の会議が始まってから相当の時間が経過しておりますから,休憩といたします。
部会資料36について,引き続き審議をお願いいたします。
休憩前に補足説明を含めますと20ページまで済んでいるところでございます。それに続く21ページのところで,「第2 関連する民事法上の諸課題」といたしまして,共有持分の放棄の新しい規律の在り方について,御覧いただいているとおりの甲案と乙案をお示ししているところでございます。ここについては,委員・幹事の御意見をお出しいただき,それを踏まえて今後に向け方向を見定めていくということになりますから,どうぞ御意見を仰せくださるようにお願いいたします。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 部会資料21ページの第2については,日弁連のワーキンググループの中で,意見が分かれています。不動産は管理の負担が動産と比べて重いということ,現在も実務上は持分放棄の登記をする際には共同申請で他の共有者の協力が必要であることから,乙案でよいという意見がありました。
一方,乙案のように不動産に限る理由はなく,動産についても管理の負担を押し付けるという側面があることから,共有持分を放棄するためには,他の共有者全員の同意を必要とする甲案に賛成だという意見もありました。統一的な見解は出ていないという状況です。
○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。
○佐久間幹事 ありがとうございます。
私は,甲案がいいと思っております。ただ,理由は共有持分の放棄を自由に許すべきではないということが前提として私の中ではありまして,その場合に不動産に限る理由は少しもないのではないかと思うから甲案がよい,という程度のことです。
ただ,その上で気になりましたのが,仮に甲案にした場合に,補足説明では,結局のところ全員の同意を得て放棄するということで,按分帰属だということは譲渡と変わらないではないか,255条の死亡者に相続人がないときはというのは残すのかもしれませんが,持分を放棄したときというところは除く,それで済むのではないかというところが気になりました。気になりましたというのは,それでは駄目だというつもりもないのですけれども,そのような選択をした場合に,結局のところ,いや放棄はできるんだよね,後の処理はともかく,というふうなことにならないのかなということがやや心配に思ったところです。
○山野目部会長 中田委員,どうぞ。それとも,お下げになりましたか。
○中田委員 ありがとうございます。甲案,乙案迷っているんですが,検討課題として,他の共有者の一人でも反対したときに,放棄による解決ができなくなるということの問題があるかどうか,その問題があるとして,どちらが大きいのかということがあるかと思います。それから,甲案を採る場合に,株式や無体財産権などの準共有における実務に及ぼす影響はあるのかないのかということ。それから,三つ目といたしまして,今佐久間幹事もおっしゃいましたけれども,255条の死亡して相続人がないときの規律が残るとしますと,その放棄プラス同意との整合性は甲案,乙案どちらの方がより高いのか。その辺りが考慮要素かと思いました。結論が出ていなくて申し訳ございません。
○山野目部会長 重要な御指摘を頂きました。ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
そうしましたならば,本日幾つかお出しいただいた御議論を踏まえて議事を整理することにいたします。
本日の御議論の状況を承ると,甲案,乙案いずれかに絞ってお話を進めていくということには直ちにはなりませんけれども,今後の検討に当たって,甲案,乙案というふうにあるうちの甲案を採用する場合に関して言うと,法制上の規律の表現の問題と,それとは性質を異にする実態との関係の問題と,二つほど注意すべき点があると感じます。甲案でまいります際には,255条の現在の法文から相続人不存在の場合を残し,放棄に関する規律を単純に削除するという仕方で規律表現をするのと,甲案で今お見せしているこの文章そのものを規律表現にするということとの二つの選択肢を見て,利害得失を検討していくということになると考えます。これは法制上の検討事項です。
もう一つは,中田委員から御指摘がありましたが,甲案を採用した場合には,土地建物以外にもこの規律が波及していくことになります。もちろん,土地建物以外の全ての財産について,念のため検討をすることは必要でありますけれども,今日の経済社会において実態上その重要な役割を演じている株式会社の場合の株式,その他これに準ずるようなものについて,何か思わない帰結を招くのではないかということは実態,実務との関係で注意をしておく必要がございますから,この点については事務当局においてこの方面の実務や法律運用に精通している方の意見を聴取するなどして,遺漏のない検討を進めていきたいと考えます。
半面において,乙案を採用する場合には,これはこれとして本日も御議論いただいたようにあり得る解決であるとともに,規律の表現の上におきましては,本日休憩前に御議論を頂いた土地所有権の放棄に関する議論の中で出ておりましたように,民法に不動産の所有権の放棄についてどのような規律を置くか,あるいは置かないこととするかということについて,本日結論が得られておりませんけれども,その帰すうをにらみながら,当面の補足説明20ページまでのお話においては,不動産の所有権の全部を放棄するということを中心イメージにお話をしていましたけれども,一部を放棄するということについてのルールであるとも言えるこの乙案について,最終的にあちらの方の議論の結論を見定めた上で,法制上の表現としてどのようにする解決が最も適切なものであるかということについて,改めて整理を要すると感じられるところでございます。これは,この観点を踏まえて今後また検討を進めてまいるということにいたします。
特段の御意見がなければ,部会資料36についての審議を了したことにいたしますけれども,よろしゅうございましょうか。
要綱案
第3部 土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度の創設
1① 土地の所有者(相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。以下同じ。)によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求めることができる。
② 土地が数人の共有に属する場合においては、①の法務大臣に対する承認の申請(以下「承認申請」という。)は、共有者の全員が共同して行うときに限り、することができる。この場合において、相続等以外の原因により当該土地の共有持分の全部を取得した共有者は、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した共有者と共同して行うときに限り、①の規律にかかわらず、承認申請をすることができる。
2 1の承認申請をする者(以下「承認申請者」という。)は、承認申請に対する審査に要する実費の額を考慮して政令で定める額の手数料を納めなければならない。
3 法務大臣は、承認申請に係る土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
① 建物の存する土地
② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③ 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
⑨ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
⑩ ①から⑨までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
4 3の承認は、土地の一筆ごとにするものとする。
5① 法務大臣は、承認申請に係る審査をするため必要があると認めるときは、その職員に事実の調査をさせることができる。
② ①により事実の調査をする職員は、承認申請に係る土地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をすること、承認申請者その他の関係者からその知っている事実を聴取し又は資料の提出を求めることその他承認申請に係る審査のために必要な調査をすることができる。
③ 法務大臣は、①の事実の調査を行うため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長、関係のある公私の団体その他の関係者に対し、資料の提供、説明、事実の調査の援助その他必要な協力を求めることができる。
④ 法務大臣は、その職員が②により承認申請に係る土地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をする場合において、必要があると認めるときは、その必要の限度において、その職員に、他人の土地に立ち入らせることができる。
6 法務大臣は、次に掲げる場合には、承認申請を却下しなければならない。
① 承認申請が申請の権限を有しない者の申請によるとき
② 申請書の内容に不備があるとき
③ 承認申請者が2の手数料を納付しないとき
④ 承認申請者が、正当な理由がないのに、5の調査に応じないとき
7 承認申請者は、3の承認があったときは、承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を勘案して政令で定めるところにより算定した額(以下「負担金」という。)を納付しなければならない。
8 承認申請者が負担金を納付したときは、その納付の時において、3の承認に係る土地の所有権が国庫に帰属する。
9 3の承認に係る土地について当該承認の時において3のいずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じたときは、当該事由を知りながら告げずに3の承認を受けた者は、国に対してその損害を賠償する責任を負う。
10① 法務大臣は、承認申請者が偽りその他不正の手段により3の承認を受けたことが判明したときは、3の承認を取り消すことができる。
② 法務大臣は、①の取消しをしようとするとき(承認申請に係る土地が8の規律により国庫に帰属している場合に限る。)は、8の規律により国庫に帰属した土地(以下「国庫帰属地」という。)を所管する各省各庁の長(当該土地が交換、売払い又は譲与により国有財産でなくなったときは、当該交換等が生じた時に当該土地を所管していた各省各庁の長)の意見を聴くものとする。
③ 法務大臣は、国庫帰属地が交換等により国有財産でなくなった場合又は国庫帰属地につき貸付け、信託又は権利の設定がされた場合において、①の取消しをしようとするときは、国庫帰属地の所有権を取得した者(転得者を含む。)及び国庫帰属地に係る所有権以外の権利を取得した者の同意を得なければならない。
11 本制度における法務大臣の権限は、法務省令で定めるところにより、その一部を法務局又は地方法務局の長に委任することができる。
(注1)民法に所有権の放棄に関する新たな規律は設けないこととする。
(注2)国は、3の承認がされた場合には、土地の所有権を所有者から承継取得する(承認申請者が無権利者であった場合には、承継の効果を生じない。)。
(注3)法務大臣は、3の承認をしようとするときは、あらかじめ、当該承認に係る土地の管理について、財務大臣及び農林水産大臣の意見を聴くものとする。ただし、主に農用地又は森林として利用されている土地ではないと明らかに認められる場合は、この限りではないものとする。
(注4)5については、事前の通知など、立入りの手続に関する規律を設ける。
(注5)8につき、3の承認後に、承認申請者が負担金を一定期間内に納付しないときは、承認はその効力を失うものとする。
(注6)10 の取消しの規律は、法務大臣が、承認を取り消し、土地所有権の国庫への帰属(承継)を遡及的に無効とすることができることを前提にしている。
(注7)その他国庫に帰属した土地の管理に関する所要の規律を設ける。
土地所有権の放棄につきましては,資料の各項目がそれぞれ連関していることから,全体につき,まとめて御説明をさせていただきます。第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非
第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非
一定の要件のもとで土地所有権の放棄を認め,所有権を放棄する旨の一方的意思表示により,土地が無主となり,直ちに帰属先機関に帰属するものとすることについて,どのように考えるか。
(注) 所有者のない不動産は国庫に帰属するとする民法第239条第2項の規律を基本的に維持することを前提としているが,所有権の放棄によって無主となった土地の帰属先機関については,後記第3において別途検討する。
この状況で,所有者不明土地の発生を抑制するために,所有者が土地を手放し,第三者が土地を管理することができる仕組みが必要ではないかとの指摘があることから,土地所有権の放棄につき,検討することが必要と考えられます。
土地所有権の放棄につきましては,現行民法に規定がなく,確立した最高裁判例も存在せず,その可否は必ずしも明らかではありません。そこで,所有者不明土地の発生を抑制する方策として,土地所有権の放棄を可能とする制度の創設を検討する必要があると考えられます。
一般に,権利の放棄とは,権利の喪失を目的とする単独行為をいうものとされており,今回は,この意味での放棄の概念を前提にして,民事法制の枠内で,土地所有権の放棄につき,御検討いただきたいと考えております。
この意味での土地所有権の放棄がされれば,土地は所有者のないものとなりますが,所有者不明土地を抑制する観点からは,土地が無主のまま放置される状況を許容することは困難であることから,土地が放棄された後,直ちに帰属先機関が所有権を取得する構成にすることが望ましいと考えられます。
この観点からは,現行法が所有者のない不動産は国庫に帰属するとしていることは,一つの望ましい法律構成といえ,これを参考に検討を進めることが考えられます。
土地を手放すための仕組みとしては,所有権放棄以外にも寄附,これは民法上の贈与契約と考えられますが,これにより,国や自治体が所有者から土地を譲り受けることが考えられ,現在,財政制度等審議会・国有財産分科会においては,国が寄附に応ずる場合を拡大することにつき,検討がされております。
しかし,寄附の場合には,受け手である国等の同意がなければ,所有者は土地を手放すことができず,限界があり,また,財政制度等審議会においても,資産価値がなく,売却等の見込みがない土地の引受けを想定した議論はされておらず,少なくとも魅力の乏しい土地を手放すための仕組みとしては,寄附は所有権放棄の代替とはなり難いと考えられます。
なお,土地所有権の放棄には,土地の管理コストを帰属先機関に転嫁することにより,所有者が自身の土地を適切に管理する責任を免れる結果を生じさせる側面があることから,所有権放棄を論ずるに当たっては,現在,国土審議会・土地政策分科会において検討されている土地所有者の責務に関する議論も踏まえた検討が必要であると考えております。第2 土地所有権の放棄の要件
第2 土地所有権の放棄の要件
次のうちのいずれか又は複数の事情がある場合に土地所有権の放棄を認めるものとすることについて,どのように考えるか。
① 土地所有者が土地の管理に係る費用を負担するとき(例えば,適当と認められる金員を支払ったとき)
② 帰属先機関が負担する管理に係る費用が小さく,流通も容易なとき(例えば,㋐土地に建物や有害物質等が存在せず,㋑土地の権利の帰属に争いがなく,㋒隣接地との境界が特定され,㋓第三者に対抗することができる権利が設定されていないとき)
③ 所有者に責任のない事由により,土地が危険な状態となり,所有者が負担する土地の管理に係る費用が過大になっているとき(例えば,自然災害等により土地に崩壊等の危険が発生し,土地所有者や近隣住民の生命・財産に危害が生ずるおそれがあるとき)
④ 土地の引受先を見つけることができないとき(例えば,土地を手放したい者が,競売等の手続により売却を試みても買い受ける者がないとき)
⑤ 帰属先機関の同意があったとき
この4ページの資料本文では,土地所有権の放棄を認めるための要件として,①から⑤の案をお示ししていますが,これらはそれぞれ異なる観点からのものであり,相互に排斥し合うものではなく,適宜,複数組み合わせて要件とすることも可能であると考えております。
本文の①と②は,土地の管理コストに着目した要件です。この管理コストの負担が土地所有権の放棄を認める場合の課題であると考えられることから,これを放棄者に負担させることで,帰属先機関が負担する管理コストを抑制するとともに,将来的に安易に土地を放棄することを念頭に置いて,所有者が土地を管理しなくなるモラルハザードを回避する趣旨で,①をお示ししております。
もっとも,放棄者が管理コストを永続的に負担しなければならないものとすると,所有権放棄制度自体が機能しなくなるおそれがあるため,放棄者が負担する管理コストは一定限度にとどめる必要があると考えられ,納付する額をどのように設定するかが課題になると考えられます。
次に,②も土地の管理コストに着目するものであり,帰属先機関が実際に土地を管理していくに当たって掛かる管理コストをできるだけ抑える趣旨でお示ししているものです。
この要件につきましては,土地所有権の放棄が,一定の要件が満たされれば,申請により公的な帰属先機関に帰属する点や土地の管理に大きな負担が生じないことを想定する点で,相続税の物納の仕組みと類似していると考えられることから,物納の要件を参考にしております。
次に,③ですが,これは,自然災害により土地に崩落の危険が発生し,近隣住民に危害が生ずるおそれがあるケースのように,放棄者が負担する土地の修繕等の費用が高額に上っており,所有権の放棄を認めなければ酷な場合を念頭に置いているものであります。
このようなケースにおいては,地域住民の安全確保や国土の保全のような公共的観点から,公共事業や公的助成などにより危険を除去すべきであり,土地所有権の放棄をさせる必要はないとの指摘があり,このような観点も踏まえて,御意見を賜りたいと考えております。
④につきましては,手続的要件としてお示ししているものです。
土地は,可能な限り継続保有され,また,流通されて利用されるべきものと考えられることから,まずは放棄しようとしている土地の取得を希望する者に土地取得の機会を与え,それでも引取手が現れなかった場合にのみ,土地所有権の放棄を認めるべきという趣旨でお示しをしております。
もっとも,どのような場合に引受先がないと認定するかについては,検討が必要であり,形式競売や空き地・空き家バンクのような既存の仕組みを利用したり,公告等で土地の利用希望者を募ったりすることが考えられ,具体的な手続についても念頭に置いて,御意見を賜れればと考えております。
⑤につきましては,土地所有権の放棄が帰属先機関への負担の転嫁である側面があることから,帰属先機関の同意を要件とするものですが,同意を要件とするのであれば,単独行為である放棄の概念と矛盾するとも考えられることから,法的性質の議論と併せて御意見を頂ければと考えております。第3 放棄された土地の帰属先機関
第3 放棄された土地の帰属先機関
放棄された土地は,最終的には国に帰属するものとするが,地方公共団体等の他の機関が,公益の実現等のために土地所有権の取得を希望する場合には,当該機関に帰属するものとすることについて,どのように考えるか。
放棄された土地は,何らかの機関に引き継がれ,管理されることが必要ですが,放棄される土地は市場価値が乏しく,民間で引き受けるのが困難なものが多いと考えられることから,帰属先機関は,公的機関又はそれを背景にしたものにせざるを得ないと考えられます。具体的には,国,地方公共団体,そして,いわゆるランドバンクのような土地を取り扱う専門機関等が候補として挙げられます。
現行民法上,所有者のない不動産は国庫に帰属するとされているとともに,相続財産管理の手続を経て,土地が国庫に帰属する場合もあり,現行法上,国は国有財産として土地を管理しており,ノウハウも有していること,国は最終的な土地政策の責任を負う立場にあると考えられることから,本文におきましては,放棄された土地は,最終的には国に帰属することを提案しております。
もっとも,放棄された土地については,国が行政目的で取得するものではないことから,地方公共団体等が公益の観点から,その土地を必要と考えるのであれば,そちらに優先的に土地を帰属させる案をお示ししております。
これまで,一定の要件を満たす場合に土地所有権の放棄を認める方向で御説明をしてまいりましたが,具体的にどのような機関が要件の具備を審査し,どのような手続で土地を帰属先機関に帰属させるかについては,別途検討が必要です。
そこで,12ページの補足説明(4)のアにおいて,考え得る一つの構成をお示ししております。
これは,所有権放棄の意思表示は一律に国に対してすることとし,その意思表示を受け,国の機関が所有権放棄の要件を満たしているかどうかを審査し,要件を満たしていることが判明すれば,その土地が所在する地方公共団体に土地の情報を提供し,それを受けた地方公共団体が土地の取得を承諾すれば地方公共団体に,取得を拒絶すれば国に,土地が帰属するものとする構成であります。
この構成を採る場合には,所有権放棄の意思表示がされたときは,地方公共団体の承諾を停止条件として,地方公共団体に土地を帰属させるものとする一方で,地方公共団体の拒絶を停止条件として,国に土地を帰属させるものと考えることが可能であります。
これは飽くまで一案であり,例えば,地方公共団体に寄附の申出をしましたが拒絶されたと,こういったことを放棄の要件に組み込んでしまう構成であったり,放棄された土地の帰属先を一律に国にするのではなく,土地の性質に着目して,地方公共団体が利用・管理する意義があると認められる土地については,地方公共団体に帰属するものとする構成など,ほかにも様々な構成が考えられることから,忌憚のない御意見を賜れればと考えております。第4 関連する民事法上の諸課題
第4 関連する民事法上の諸課題
1 土地以外の所有権放棄の可否について
ア 土地所有権の放棄を認めるものとした場合であっても,建物の所有権放棄は認めないものとすることで,どうか。
イ 動産については,現行民法でも所有権放棄が認められるとの解釈を前提とした上で,規定の要否を検討することにつき,どのように考えるか。
ウ 共有持分の放棄に関する民法第255条の規律は基本的に維持しながら,その方式については,他の共有者に対する放棄の意思表示を要求することにつき,どのように考えるか。
1は,土地以外の所有権放棄の可否についてです。
民法上,所有権放棄につき,定めた規定はないことから,土地につき,所有権放棄を認める制度を創設するのであれば,建物や動産について,所有権の放棄を認めるべきかどうかを検討する必要があると考えられます。
建物につきましては,時間の経過とともに老朽化し,管理コストが土地以上に掛かる場合が多いと考えられます。また,同じく不動産である土地については,滅失させることができないことから,放棄を認める必要があるのに対し,建物については,取り壊すことで物理的に滅失させることができる点で,土地とは性質が異なると考えられます。そして,建物は土地工作物に該当し,その設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害が生じたときには,建物所有者は免責されない損害賠償責任を負うこととなります。
これらの理由により,建物の所有権放棄を認めるのは相当ではないと考えられ,本文アの案をお示ししております。
次に,動産につきましては,現行法上も所有権放棄が可能であるという解釈が有力であり,社会で広く認められているごみの廃棄についても,公法上の規制の枠内で動産の所有権を放棄しているものと考えられることから,本文イでは,この解釈を前提にして,規定の要否につき,御検討いただくことをお示ししております。
本文ウは,現行法上,自由に放棄できると規定されている共有持分について,規律は基本的に維持しながら,方式につき変更することについて,御検討いただくことをお示ししているものであります。
共有者が持分を放棄しても,他の共有者に持分が帰属するにすぎず,所有権が全部帰属先に移転すると,所有権の放棄とは問題が異なると考えられること,共有関係を簡便に解消する持分の放棄は広く認められるべきと考えられることから,現行法の規律は基本的に維持すべきと考えられます。
他方で,最高裁判例は,共有持分の放棄は相手方を要しない意思表示から成る単独行為であるとしておりますが,これによれば,例えば土地の共有持分の放棄の意思表示が他の共有者が了知できない方法でされたときでも,実体法上は直ちに放棄の効果が発生することになり,他の共有者は自己の権利関係を認識することができず,相当ではないとも考えられます。
そこで,本文ウの案をお示ししております。2 放棄された土地に起因する損害賠償責任
2 放棄された土地に起因する損害賠償責任
⑴ 放棄された土地やその上の工作物に起因して第三者に損害が発生した場合の帰属先機関の不法行為責任について,新たな規律を設けないものとすることについて,どのように考えるか。
⑵ 放棄された土地やその上の工作物に起因して第三者に損害が発生した場合の放棄者の負う責任について,どのように考えるか。
1は帰属先機関の責任,2は放棄者の責任について,お示しをしております。
現行法上は,放棄された土地や土地上にある帰属先機関の工作物に起因して,第三者に損害が発生したケースであれば,民法第709条や第717条の規律に従い,帰属機関が損害賠償責任を負う場合があります。また,帰属先機関が国又は地方公共団体であれば,帰属先機関が国家賠償責任を負う場合もあります。
被害者保護の必要性は,土地所有権の放棄の有無により左右されるものではないことから,本文1では,帰属先機関の不法行為責任について,新たな規律を設けないものとすることにつき,御検討いただくことをお示ししております。
次に,放棄者につきましては,現行法の規律では,損害賠償責任を追及するのが困難な場合があると考えられます。例えば,放棄者が軟弱地盤につき,適切な措置を採らないままに土地を放棄し,帰属先機関も適切な措置を採らなかったために地盤が崩落して,周辺住民に損害が発生したような場合,被害者が放棄前の管理不全につき,放棄者に不法行為責任を問うに当たっては,措置義務違反の有無や因果関係などの点で問題があると考えられます。
このような場合においては,土地所有権の放棄がされなければ,帰属先機関が不法行為責任を負うことはなかったはずであり,帰属先機関と放棄者との間の損害の公平な分担の観点からは,帰属先機関が損害賠償責任を負う場合には,放棄者に対する求償権を取得するという新たな規律を設けることが考えられます。
もっとも,この場合には,求償権の消滅時効であったり負担割合,放棄より以前の所有者の責任や負担割合をどう考えるかというような課題があると考えられ,これらの点につき,御意見を賜れればと考えております。
説明は以上でございます。
この審議会における審議の状況や,関連して,国有財産の管理の観点から留意すべき事項等について,国有財産の管理の方面,関心から,資料を本日用意してもらっております。そちらの方面について,関係する御説明を聴取しておくことが適当であると考えます。
○明瀬関係官 財務省理財局国有財産業務課長の明瀬でございます。
本日は発言の機会を頂きまして,誠にありがとうございます。先ほど御紹介いただきましたけれども,所有権の放棄の御議論をされるに当たりまして,国有財産の総合調整を行っております立場,また,実際に国有財産の管理を行っている立場から,少し申し上げさせていただきたいと思います。座って説明させていただきます。
お手元に,財務省理財局と書いた資料があるかと思います。そちらを1枚おめくりください。
1ページ目に,全国の種類別土地面積を示したグラフがございます。これを御覧いただきますと,日本の国土のうち,森林が大体7割ぐらい,農地が1割ぐらい,宅地が5%ぐらいということになっていまして,比較的資産価値が小さくて,管理に手間が掛かる森林や農地の割合が圧倒的に大きくて,こうした土地について,放棄の潜在的なニーズが大きいと考えられますので,所有権放棄を検討するに当たりましては,このような国土の全体像を踏まえる必要があるかと思います。
例えばでございますけれども,森林の6割,見ていただくと,民有林と書いてございますけれども,6割は民有林が占めておりまして,人工林につきましては現在,民間の所有者が公的な補助金などを利用しながら,自らの責任で間伐等の森林整備を行っております。
また,この住宅地,宅地の中には,崖地などは補修に多額な費用を要するものがございまして,このような土地が大量に放棄されるようなことになれば,帰属先機関の管理費用は極めて大きくなると,その管理費用は国民や住民の負担になると。所有権放棄により追加で生じる負担というのは,相当な規模になるのではないかと考えているところでございます。
また,国が利用する予定のない土地を引き受ける場合には,普通財産として管理をすることになるわけでございますけれども,次のページをお開きください。
現在,財務省が国有財産部門として管理している普通財産というのは,一番下の左側の10万ヘクタール,このうち6万ヘクタールにすぎないわけでございまして,一方で,所有者不明土地問題研究会の試算によりますと,これから2040年までは,所有者不明土地が310万ヘクタール増加するとされておりますので,規模感にかなりギャップがあり,広く放棄を認めようとする場合には,実務上の受入れ体制も必要になるものと考えられるところでございます。
このように,土地所有権の放棄の要件や必要な手数料などを検討するに当たりましては,国土の状況を踏まえつつ,それぞれの土地の価値や管理コストなどを具体的に念頭に置いていただければと考えているところでございます。
また,この状況を踏まえますと,放棄を広く認めますと,国民や住民の負担が相当なものになるのではないかと考えられますので,所有者不明土地の発生の抑制のためには,所有権放棄だけではなくて,既存の仕組みも活用しながら,総合的に対応を検討する必要があるのではないかと思います。
本日,先ほど御紹介がございましたけれども,部会資料の8ページにも書いてございました,8ページの一番下のところに書いてございましたけれども,所有者不明土地の発生を抑制するためには,まず土地の継続保有を政策で支援するほか,土地の流通を促進することが重要であり,所有権放棄は最終的な手段と考えられることから,所有者が保有を望まない土地については,まずは利用意欲のある者に土地の所有権を取得する機会を与えて,それでも引き取り手が現れなかった場合にのみ,土地所有権の放棄を認めることが望ましいと考えられるという文がございますけれども,この指摘は重要であると考えているところでございます。
すなわち,土地を価値を認める者に譲り渡すようなシステムがあれば,あえて国民や住民負担となる所有権放棄を認める必要はなくて,土地の流通を促進するためのマッチングの仕組みなどの関係も踏まえながら,放棄の要件などについて検討する必要があるかと思います。
また,もう1点,放棄の仕組みについて,少し申し上げさせていただきます。
例えば,投機目的で購入した土地が値下がりしてしまったので放棄したいというようなケースで,放棄を認めることが適当かどうかというのは,慎重な検討が必要ではないかと考えているところでございます。こうしたケースの放棄を認めれば,モラルハザードが生じる懸念が高まるのではないかと考えているところでございます。
所有権放棄は,土地を所有しない者も含めて,国民や住民一般に負担を求めるものでございますので,モラルハザードが生じれば,最終的には放棄もできるんだということになれば,放棄制度の創設によりまして,かえって土地の管理状況が悪化するということにもなりかねないものでございますので,国民の,また住民の経済的利益や全国的な土地の管理水準に大きな影響を与えることでございますので,その重要性に鑑みて,放棄の要件は法律で明確に規定する必要があると考えます。
さらに,法律で定めた要件に該当するかどうか,放棄する者の意思や経緯なども含めて,確認することが必要でございまして,土地の帰属先ではない公的な第三者機関が審査・認定を行う仕組みが必要ではないかと考えるところでございます。
また,本日の部会資料の3ページのところに,国土審議会の特別部会の取りまとめが引用されてございます。この中で,市場ベースのマッチングが成立しなかった土地について,地域の公益につながる利益,利用・管理する意義があると認められた場合には,市町村自らが利用・管理,取得をしたり,また,広域に影響が及ぶ場合には,都道府県が利用・管理,取得する場合が考えられ,また,公物や公的施設を管理している国,地方公共団体の立場で,当該公物等の適切な管理の観点から管理,取得する場合もあり得るとの,特別部会の取りまとめでございますけれども,こちらが引用されてございます。
放棄される土地の性格に応じて,適当とされる機関に土地が帰属する仕組みを構築できれば,土地の適正な利用・管理が確保できるのではないかと考えているところでございます。
私からは以上でございます。
○山野目部会長 明瀬関係官から説明がありました財務省資料につきましては,これから部会資料2についての審議をお願いする中で,あわせて,御意見や御質問などを承ることがかないますれば幸いでございます。
部会資料2の審議をお願いするに当たりましては,内容が盛りだくさんでございまして,もちろん,掲げられている事項が相互に密接に関連している側面もございますけれども,まずは若干区切って審議をお願いしたいと考えます。「第1 土地所有権の放棄を認める制度の創設の是非」「第2 土地所有権の放棄の要件 」に対する意見
○蓑毛幹事 弁護士の蓑毛です。
所有者不明土地の今後の発生を予防する方策として,土地所有権を放棄するということを可能とする制度を設けることは有益であると思いますので,この制度の創設について賛成いたします。
補足説明にあります必要性,土地所有権,権利の基本的構成,土地を手放すための仕組みとして考えられる他の方策,土地所有権の放棄を認める制度について,いずれについても,書かれていることは妥当だと思っております。
ただし,今,関係官からもありましたように,この要件をどうするかについては,慎重に考えるべきだと思いますし,土地の経済的価値であるとか,あるいは管理コストであるとか,そういったものを類型化し,適切な要件,プロセスを考えるということを前提とした上で,このような放棄の制度を認めるということについて賛成いたします。
○中村委員 弁護士の中村でございます。
今の蓑毛幹事からの御発言に,少し補充させていただきたいと思います。
日弁連のワーキンググループの協議では,土地を手放す制度の創設という導入自体に反対する意見はございませんでしたけれども,部会資料のように,単独行為で放棄とするのか,それとも,要件を満たしているかを誰が判断するのかとかいった観点から,帰属先側が事前に要件のチェックとか,それから,引き受けるか否かを検討するという方向に行くのであれば,それはもはや単独行為と呼ぶようなものであるのかというところも考え,寄附ないし贈与構成を採った方が,帰属先が選択をするというか,意見を述べる機会ができるという意味で,端的ではないかという意見もございました。
それから,所有者不明土地の発生を抑制するという今回の諮問事項に沿った検討ということであれば,利用しやすい制度であって,負担が少ないということでないと,結局利用されずに,目的を達し得ないということになってしまいますので,今後放棄の要件を検討するに当たって,余り厳格になり過ぎないようにということと,手続が難し過ぎないということは必要かと思います。
まず方向性についてだけ申し述べました。
○松尾幹事 最初に,土地所有権の放棄を認めるかどうかということと,それを認めるとした場合のその要件に関して,2点申し上げたいと思います。
第1点は,土地所有権の放棄を考える場合に,その背景として,国が土地に対して,どういう権限や責務を持っているかということについて,基本的な考え方を整理しておく必要があると思います。
これについては,大きく二つの考え方があるように思われます。一つは,国は土地について,既に私有地になっているものについても何らかの権限,原有権(original property)を保持していて,一種の大地主的な立場を持っていて,土地の管理についての権限と責任を負っているという考え方です。この考え方によれば,私人が土地所有権を放棄した場合には,ちょうど,地上権を設定した土地について地上権の放棄がされると,268条1項本文で,地主に返され,その使用・収益権限が地主に当然帰属するように,土地の所有権が放棄されると,国に返され,その使用・収益権限も当然国に帰属することになり,放棄の意思表示も国に対してされることになると思います。
もう一つは,既に他人の所有地になったものについては,国は強制収用権限を別にして,とにかく他人の所有権であって,それについて放棄を認めるということは,いったん無主物となり,その先は法律の規定によって帰属先が決まるという考え方です。
その何れが妥当であるかについては,日本の土地所有制度の沿革,歴史的経緯に遡って,土地に対して国がどういう権限・責務を負っているのかということを確認し,それとの整合性も振り返りながら,考える必要があるのではないかと思います。
それを前提にして,第2点ですが,土地所有権の放棄を認める場合の具体的な要件ですけれども,土地所有権の放棄を認めることが必要となる問題領域をどうやって絞り込むのかということを,まず考える必要があると思います。
土地所有権放棄の要件として,先ほど川畑関係官から,要件として考えられることを詳細に列挙していただきました。非常に重要な論点を挙げていただいたというふうに思います。
それを考える場合の基本的視点として,土地所有権の放棄が認められるべき固有の領域はどういう所かというと,まずは私人間の取引で売買や贈与が成り立たないというような土地だということになりそうです。
そのうえで,土地が非常に危険な状態になり,一般的にみて私人の手では管理困難になってしまったものについて放棄を認める,といったように限定するのか,それとも,そこまでいかなくても,実際に固定資産税も払っている,ちゃんと管理もしてきたけれども,個人的な事情でちょっと私はもう管理し切れませんというような場合にも放棄を認めるのか,その際には特別な費用負担をしてもらった場合に認めるのかという点について判断する必要があると思います。
そして,この点の判断は,先ほど第1点として述べました,土地の所有権放棄の理解の背景にある国の権限・責務をどういうふうに捉えるのかということとも連動しており,そのことも考慮に入れて,土地所有権放棄を認めるべき固有の領域,それを踏まえての具体的要件をどう絞り込んでいくかということを整理する必要があるように思います。
○佐久間幹事 最終的には,放棄の要件について申し上げたいんですが,その前提といたしまして,土地の所有権を手放すことができる制度の創設自体は賛成なんですけれども,その制度を創設していくに当たっての基本的視点としまして,今回頂戴いたしました資料の補足説明では,権利放棄自由の原則というのが割と表に出てきているように感じます。その原則を基に,土地所有権についても,恐らくは,本来は放棄することができて当然であるという考え方があり得る。しかるところ,現在はそのようなことになっていないから,これから創設しよう。その場合に,要件を定めるに当たっては,5ページにございますけれども,例えばですけれども,権利濫用に該当しないと考えられる場合を類型化する考え方があり得る,というふうに述べられております。
ここから申し上げることが,実際の要件設定にどのぐらい,具体的に反映してくるのかはよく分からないんですけれども,スタンスといたしましては,異なるスタンスも十分成り立つのではないかと思っております。権利放棄自由の原則のところで例示されております,4ページですが,519条は債権ですので置いておきまして,268条1項,287条,ほかに例えば275条もあるんですけれども,これらの規定を見ますと,そもそも権利の放棄が自由であることを原則として,出発点として,これらの規定が設けられているかというと,そういう見方もできるとは思うんですが,権利放棄をすることができるとしても,放棄によって影響を受ける者があるときには,その影響を考慮して,この場合にはこの要件の下で放棄を認める,という限定的な考え方が採られているというふうに見ることもできるのではないかと思います。
そういたしますと,土地の所有権の場合は,地上権や地役権の放棄,あるいは永小作権の放棄と違いまして,直接相手方になる人とか,放棄によって権利関係に直接影響を受ける人がいるわけではございませんけれども,先ほど来出ておりますとおり,国民負担というところに典型的に表れるように,社会的には大きな影響が生ずる。それは,不利益を被る存在があるということだろうと思います。そうすると,土地所有権の放棄を認めるといたしましても,そもそも権利濫用に当たらなければいいんだという考え方よりは,飽くまで精神論になりますけれども,この要件の下でなら認められるだろうというふうに考えるべきなのではないかと,まず思っております。
その上で,放棄の要件についてですけれども,現在挙げられている要件につきまして,それぞれ個別に反対ということはございません。
ただ,③はちょっと特殊な場合ですのでこの要件を除いて他の要件を全部つなげて考えたとしましても,例えば,所有者の今の財産状況では管理を継続しようと思えばできるんだけれども,したくないという人も,放棄をすることができる可能性がある要件になっているのではないかと思います。①について,管理費用を全部払えというのであれば,そうはなりませんけれども,一定限度に限る,そして,②の帰属先機関が負担する管理に掛かる費用は比較的小さい。③のような特殊な事情はなく管理をしようと思えばできるけれども,引受先は見付けることができないということになると,十分な資力のある人であっても,場合によっては,これらの放棄の要件を全部充たすことになりかねないと思うんですね。
したがいまして,私は,少なくとも,当該の人にとって管理を継続することが困難である事情が認められるということは,要件に加えるべきであろうと思っております。長くなりまして,すみません。
○山野目部会長 佐久間幹事の著作の中に,民法総則の概説をなさった御本がありまして,契約自由の原則というものが,原理としてあることは当然であって,民法上,規定の上での根拠もあるけれども,それに対し,単独行為自由の原則というものは,そんな原理原則は当然にはないですよという御説明があって(『民法の基礎1総則』,第4版では44頁),私は拝読して,なるほどと思った記憶があります。もちろん単独行為は,およそ認められないというお話をなさっているものではなく,それが認められるに当たっては,局面ごとに要件の精査が必要でありましょうというお話になってくるものでありまして,今正に,ここで話題にしている土地所有権の放棄というものについて,それを単独行為として構成するかどうかについては,中村委員から御指摘があったように,更に議論を要する側面がありますとともに,佐久間幹事から問題提起を頂いたように,仮に単独行為だとして構成する際にも,その要件について十分な検討が必要であるという,誠にごもっともな御指摘を頂き,関連して,部会資料第2の提案の部分については,③の要件について,取り分けそれを精緻化すべきであるという観点からの御指摘を頂きました。
○藤野委員 ありがとうございます。藤野でございます。
今,産業界でまとまった方向性というのが明確に出ているということではないのですが,この論点自体が,今後,管理していくのが難しい土地が多く出てくる,という問題意識からスタートしていることを考えますと,現在土地の所有者である方に頑張ってもらうというよりは,一定の範囲で放棄という形を認めて,所有者を管理の責任から解放するということも,今後いろいろ発生する問題を解消する上では,意義のあることではないかと思っております。
もちろん,放棄後の管理コストの問題とか,様々な問題は出てくると思いますが,技術の進歩によって,管理コストを下げられる可能性もございますし,放棄された土地をずっと国が管理し続けるという前提で考えるのではなくて,むしろ,先ほど関係官の方もおっしゃっておられたように,流通の促進という観点から考える,例えば小さい土地一つだと,誰も買い手が付かないけれども,放棄された土地がまとまってきて,ある程度大きなまとまった土地になったところで,それを使って,新しい取引のチャンスを生むとか,そういった考え方というのもあるのではないかなというふうに思っております。
したがいまして,次の論点の話になってくるかとは思うのですが,放棄する人と,それを受ける国なり地方公共団体なりとの関係に加えて,さらに放棄された土地が,その後,転々流通するということも想定した上で制度設計を考えていく,例えば,土地に内在する瑕疵の問題も考慮した制度設計なども考えていただけるとよろしいのではないかと思います。
○増田委員 今までの方と少しダブるところありますが,私もこの所有権放棄の制度に賛成であります。この制度を認めないと,逆に,これからの大量の相続時代,それから土地利用の可能性が,だんだん,これから少なくなっていくということを考えますと,社会全体での不利益が大きくなってくるのではないか。そして,この中にも記載してありますけれども,現状,寄附の制度があることはありますけれども,それが事実上,やはり機能,なかなか動かし難いということもありまして,新たに放棄の制度を作るということに賛成であります。
一方で,先ほど財務省の方から御説明がありましたんですが,やはり土地の管理ということを考えますと,量的な面,どの程度放棄された土地が出てくるのか,あるいはどの程度,やはり考えておかなければいけないのかという量的な面にも,一方で目配りが必要であって,要は,できるだけ使いやすい制度である必要があると思いますけれども,しかし,その後の管理が,かえって逆におろそかになるということを招かないようにしていく必要があると。
これから個々の具体論になっていくと思いますが,やはり放棄については,一定の要件をきちんと検討して設けるということが必要でありますし,特にモラルハザードにつながらないような仕組み,モラルハザードにつながるものは,きちんとはじくような要件を考える必要があると思いますが,その要件に当たるかどうかを,どこが,誰が一体判断するのかということなども,きちんと検討する必要があると思います。
まとめて言いますと,やはり今持っている土地を,今回のここでの議論ではないんですが,基本的には利用しやすいようにしていく仕組み作りがもっと必要でありますし,それから流通制度についても,もっともっと手直しが必要だと思いますが,社会の実態を見ると,そちらの方に流していけるような土地よりも,これから所有権放棄を認めなければいけないようなものが相当多く出てくる,そういう可能性があると思いますので,この所有権放棄の制度を今回,要件をきちんと検討することによって新たに設けると,こういうことに賛成であります。
○岡田委員 土地家屋調査士の岡田といいます。
土地の所有権の放棄を認める制度の創設に関しては,何ら反対するところではございませんけれども,先ほど財務省の方の御説明の中で,放棄による対処は最終手段というお話もございました。確かにおっしゃるとおりだと思いますし,放棄以外の方法で,所有者不明の土地を発生する,回避できるような策というのは,引き続いて検討していく必要があるんだろうとは思っております。
例えば生前贈与を促進させるような税制措置であったり,それから,私どもは,どうしても実務上,お隣の方にお会いする場面で,所有者が分からない土地,あるいは放棄してしまいたい土地ということを相談される場面がありますけれども,お隣の方が購入する,あるいは引き受ける場面において,何らかのインセンティブ措置があってもいいのではないかなということは,常々思うところでございます。
○今川委員 司法書士の今川です。
私も,所有権も私権の一つですから,基本的に放棄は認められるべきというふうに考えています。ただ,土地は国土を形成しておりますし,また公共的な性格がありますので,放棄者に対しては責務もあるということから,一定の制約が必要だと思います。
一定の制約というのは,放棄する人が一定の負担を負うということをベースにすべきと考えています。そして,最終的には国土として,国民全体で,国が管理の負担を受け入れるべきではないかと思っております。
それで,要件を考えるときですけれども,4ページの第2ですが,①をベースとして考えて,②,④については,これは放棄というよりも,マッチングをどうするかという観点から考えた方がいいと思いますし,③は,これは放棄をする人に負担を負わせていいのか,いい案件なのかどうかという観点で考えていくのがいいというふうに考えております。
それから,基本的なことになるんですが,ルールを定めるに当たって,土地であるとか個人の事情を考慮するというのもいいですけれども,放棄されようとする土地が存する地域の利用計画がどうなのかというのが非常に大きいと思います。ですから,国土全体に対して,本来は細かく計画が定められているのが理想であろうかと思います。
その利用計画によって,土地の利用・管理の在り方が決まりますので,放棄のルールが決まる。つまり,放棄する人がどこまで負担をして,帰属者がその後の負担をどこまで負うかというのも,計画によって決まってくると。帰属先機関も,それによって決まってくると思います。
国が最終的に,国ということは国民全体ですけれども,管理の負担を受け入れるという考え方に立ちますので,放棄をする人が一定の負担を負うにしても,一定以上超えたものは,帰属機関が決まれば,帰属先が負担していくというようなルールを作るべきと思っております。
○山野目部会長 今川委員から,部会資料4ページに掲げております①以下の要件のうち,取り分け①から④の要件について,大変細かく分析していただく御発言をもらいました。少し前の佐久間幹事の③の要件に関する御言及と併せ,今後,①から⑤の全体について,その組合せの可能性も含めて,考えを深めていかなければならないと感じます。
あわせて,ただいまの今川委員の御発言の中に,恐らくは,①から⑤の中では明示に視点としてお示ししていない,欠けているものについての重要な御指摘も頂きました。土地利用計画との関係という論点でございます。
ただいま,当部会における調査審議と並行して,国土審議会の計画推進部会におきましては,地域の土地利用構想の在り方を,これからもう少しきちんと見直していかなければならないという論点の検討が進められております。そうした動向もにらみながら,ただいまの今川委員の御指摘も思い起こし,当部会における審議も進めてまいらなければならないと感じます。
引き続き,委員,幹事の皆様方からの御意見を伺います。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 先ほど,所有権の放棄を認める制度を創設することに賛成と申し上げましたが,具体的にどのような要件を設けるべきかということについて,少し意見を申し上げたいと思います。
この問題を考えるに当たっては,もう既に複数の委員,幹事の方からも意見が出てきていますが,土地を類型化して考える必要があるのではないかと思います。具体的には,管理コストの観点と経済的な価値の観点から,土地を大きく四つの類型に分けられるのではないかと思います。
1つ目の類型は,現時点で価値があって,市場で流通することが可能な土地です。このような土地については,放棄して国に帰属させるのは,経済的な観点からも無駄ですし,手放す人からしても経済的に損失ですので,そういった土地の放棄を認める必要はないと思います。
2番目の類型としては,現時点で経済的価値を見いだすことは困難だけれども,何らかの努力,処理を行うことで,価値を見いだすことができる土地です。これは,例えば,その土地自体が細分化された土地の一部だけれども,周辺の土地を併せて取得して整序等することによって,経済的価値が生まれたりであるとか,あるいは,地方公共団体にとっては防災的な価値があったりといったものがあると思います。こういったものを全て国に取得させて管理するというのではなくて,何らかの方法で地方公共団体等に取得してもらう方法を推し進めることが重要だと思います。
3番目の類型は,現時点で経済的価値がなく,今後も価値を見いだすことが困難な土地です。ただし,この困難なものの中にも,二つ種類があって,在り方研究会等でも議論されていましたけれども,いわゆる粗放的な管理手法で足りるもの,過大な管理コストが掛からないものです。
もう一つ4番目の類型として,経済的な価値がない上に,管理コストが過大になるものがあります。これは,先ほど明瀬関係官からも御指摘のあった,崖崩れを起こしているような土地であったりとか,あるいは老朽化した建物が乗っている土地であったりとか,土壌汚染のある土地といったものです。
基本的には,今我々がこの議論をする中でターゲットとすべきは,3番目の類型,これを最終的に,放棄によって国に取得してもらうべきだと考えます。
以上申し上げたことと,部会資料2,第2「土地所有権の放棄の要件」との関係は次のとおりです。
まず,先ほど申し上げた,4番目の類型の土地には,様々な問題があります。この類型は,部会資料2の4ページでいえば③の土地ですが,今回の法改正ではこれは放棄の対象から外した方がいいと思います。これを入れると,財政的な問題等,様々な問題が起こって難しいということもありますし,確かに自然災害等によって,土地の崩落の危険が発生させられてしまった個人をどう救うかという問題もありますが,これは特別法などで,被害に遭った人に対する何らかの支援をするとか,そういったことで解決すべき問題であって,土地所有権の放棄で解決すべき問題ではないと思っております。
次に,粗放的管理で足りるという土地,これは部会資料2の4ページでいうと②ですが,②の要件のうち「流通も容易なとき」というのは,要件から外すべきだと思います。
その上で,粗放的管理手法で足りる土地のうち,不動産市場で流通させられるものであるとか,あるいは地方公共団体で取得した方がいいものについては,必ずしも民法の要件で解決するのではなく,部会資料2の4ページの④や8ページの(4)で書かれている手続を基に,ただしもう少し柔軟に,ランドバンクであるとか地元の不動産業者さん等含めて考えながら,いかに流通に乗せていくか,地方公共団体に引き取ってもらうかという仕組みを作って,そういう手続・プロセスで解決していくことがいいのではないかと思います。
そして,最後に,粗放的管理で足りる土地のうち,市場で流通させることも地方公共団体に引き取ってもらうこともできないものは,無償で放棄を認めていいかというと,そこは考え方によると思うのですが,私は,部会資料2の4ページの①にあるように,土地所有者が土地の管理に係る費用を負担することが,必要だと思っております。
現時点で土地を所有している者には,責務がありますので,将来にわたって全ての管理費用を負担しろということではありませんが,一部の費用を負担してもらった上で,放棄を認めることがいいのではないかと思います。
○山野目部会長 弁護士会の先生方におかれては,恐らくバックアップの過程の中で,当部会の調査審議と並行して行われている国土審議会の土地政策分科会特別部会において,土地を手放す仕組みについて,土地を類型化してアプローチをしようとする動き,議論が進められているところを見て,そちらの方にお出になっていらっしゃる弁護士の委員の先生と,問題意識に関し,連絡調整をなさっていただいたであろうというふうに想像します。検討を深める上で,有意義な御議論を頂いたというふうに感じます。
○吉原委員 私は法律の専門家ではないので,少し違った視点からの発言になるかと思いますし,ちょっと的外れなところもあるかもしれませんが,御容赦いただければと思います。
土地を手放す仕組みが必要であるということは,全くそのとおりであると思っています。その上で,それが放棄という法的な手段なのかということについては,時間を掛けた慎重な検討が必要だと思います。仮に放棄を認めるとしても,そこに至るまでのプロセス,そして考え方を,多くの人が共有していくことが大事だと思います。
放棄ということが法的に認められるようになった場合,その法律行為を,これから10年,20年,30年と多くの人が重ねていく中で,土地というものに対する国民の意識がどう醸成されていくのだろうかということを考えますと,短絡的に放棄というものを認めることは,当然,この部会資料2に書かれているように,差し控えなければいけないわけです。
少し大きな視点で考えてみますと,なぜ所有者不明土地問題が出てきているかというと,恐らく相続というものが,人口減少社会において,従来の在り方だけでは立ち行かなくなってきているということがあるのだと思います。つまり,法定相続人だけで財産を分割して,継承し,維持管理,利用していくということだけでは,受け取る相続人が少なくなるなかで,立ち行かなくなってきている。
そうなると,親族以外の受け皿,より具体的には,権利の受け皿,それから管理主体としての受け皿というものを作っていかなければいけない。社会の中で新しい仕組みを作っていくという,大きな構図の中での,この放棄の議論なのだと思っております。
そうした中では,大きなパッケージとしての政策が必要で,先ほど委員や幹事の先生方から出ていたように,これは万能薬はないわけでして,放棄を認めることで問題の大半が解消するというわけではないわけですから,放棄という手段に過剰な社会的な期待が寄せられないよう,期待値を正しく伝えていくということが,まずあるのだろうと思います。
その意味では,放棄という言葉が独り歩きをしないように,また法的ないろいろな論争が起きてしまわないように,丁寧な議論の積み上げが必要だと感じているところです。
長くなって申し訳ないのですけれども,この資料を拝見して,放棄という概念を考える上で,2点大事なことがあると思いました。
一つは,土地という財が持つ特性です。土地という財は,ほかの財とは違って,次の世代にきちんと引き継いでいくべき公共的な性質を持つものです。そして,2点目は,だからこそ,その公共的な特性を持つ財を所有するということには,当然責務が発生するのであると。
その責務の部分については,前回横山関係官からご説明があったように,国土審議会土地政策分科会特別部会の取りまとめにおいて方向性が示されたわけですけれども,そうした公共性のある財を所有することには責務が伴うゆえに,それを手放すときには一定の制約が課されるということを,世の中に丁寧に示していくことが必要であると思います。
そのように考えますと,もしも民法の中に,土地の所有権は放棄できるという条文を盛り込むのであれば,それと対になる概念として,土地の所有権には責務が伴うという条文をセットで盛り込むことが求められるのではないかと思います。
国土審議会の方で,ようやく,土地の所有者が負うべき責務,それから国や地方公共団体等が担うべき役割というものが議論され,土地基本法に反映していこうという段階にあるわけです。その段階において,放棄という新たな概念が入ることで社会的な混乱が招かれないように,「負動産」というような悲しい言葉が今,広がってしまっているわけですけれども,やはり土地とは代々引き継いでいくべき大切な財であるということを皆が共有できるような立て付けにすることが必要であろうと思います。
○山野目部会長 放棄ということの土地政策上の意味を丁寧に説明していかなければいけないこと,そしてまた,相続法制との連関を図って検討を進めていく必要があるという重要な御指摘を頂きました。
○道垣内委員 これまでの御議論に,別にそんなに異論があるわけではありません。とりわけ,佐久間さんがおっしゃったことは,極めて大切だと思います。ただ,1点だけ申しますと,「所有権は義務を伴う」という条文を置くのはやめていただきたいということです。たしかに,所有者で損害が生じれば賠償責任を負うとか,いろいろなところに,所有権から生じる義務は存在するのですが,一定の歴史的な意味を背負ったEigentum verpflichtet.という規定を現在の時点で置くというのは,勘弁してほしいと思います。
○山野目部会長 所有者の責務を法制上,どこでどのような表現で表していくことが適切であるのかということについては,引き続き,関係する幾つかの審議会における法制上の位置付けについての調査検討を待って考えていかなければいけないと感じます。
本日は,吉原委員と道垣内委員から,それぞれの観点における重要な御注意を頂きました。
引き続き,いかがでしょうか。「第3 放棄された土地の帰属先機関」に対する意見
それでは,部会資料2の10ページ,第3のところ,帰属先の問題についての御案内を差し上げております。ここについて,皆様方からの御意見を伺います。いかがでしょうか。
○道垣内委員 非常に技術的な話なのですが,放棄の時点では,誰に帰属するかというのが決まっていないという文章になっているわけですね。
そうしたときに,よく分からないのは,なぜ,放棄の結果として国に帰属するということを前提にして,国が地方公共団体に移転するというのではなく,放棄によって,直接に,放棄者から地方公共団体その他の機関にいくというふうな構図を採らなければいけない理由は何なのでしょうか。
○山野目部会長 部会資料2の10ページで,一つの考え方の候補として,事務当局からお示しした法的構成についての部会資料作成の意図に関するお尋ねの部分を含んでいたと考えますから,事務当局から,もし御説明がおありでしたら,お願いいたします。
○川畑関係官 今御指摘いただいた考えにつきましても,確かにおっしゃるとおりだとは思っております。
ただ,一旦国に土地が帰属して,そこから地方に動かすということになると,財政法の規律であったり,もろもろの,今,別途設けられているような規制等もございますので,そこは,できれば外して,地方にいくのであれば,それは直接地方にいかせた方がいいのではないかというのが,この資料を作成したときの意図でございました。
○山野目部会長 よろしいですか。
引き続き御意見を伺います。いかがでしょうか。
○蓑毛幹事 3点あります。
1点目は,道垣内先生がおっしゃるのと同じような感覚があって,土地を放棄した場合には国に帰属するという考え方を,まず固めるのがいいと思います。その上で,先ほど申し上げましたように,手続的要件とするのか,前置する手続とするのか,ただしワンストップにした方がいいので,土地を放棄したい人は,国にその旨の意思表示するのだけれども,その後の手続として,必ずしも部会資料2の10ページに書かれたようなものでなくて,もう少し柔軟に,民間人が取得したり,地方公共団体が取得したりする仕組み,法的な構成まできちんと詰めていないのですが,何かそういう,しかるべき人に土地を渡すプロセスを考えた方がいいと思います。
2点目ですが,そのような土地を帰属させる手続に関して,部会資料2の12ページにある「所有権放棄の審査・認定を行う国の機関」については,よく検討した方がいいと思います。土地所有権の放棄についてどのような要件を設けるかは,これから議論される訳ですが,例えば,国の同意は要らない,つまり一定の要件を満たせば,放棄をすれば土地が国に帰属することになったとしても,その要件の認定機関が国の機関ということになれば,運用の仕方によっては,非常に重い手続になって,放棄の手続がうまくいかないおそれがあると思いますので,要件の認定を誰がするのか,それをどのような形で行うかは,もう少し検討する必要があると思います。
3点目,土地を帰属させる手続に関して,部会資料2の12ページにアとイがありますが,今申し上げたような問題点を含みつつも,基本的にはアのように,地方公共団体と国との関係では,地方公共団体が欲しいと言えば地方公共団体に渡すけれども,そうでなければ最終的には国に帰属するという仕組みがいいと思います。イは,地方公共団体が欲しいと言わない場合であっても,地方公共団体に帰属させるように読めるのですが,地方公共団体の実情等を考えますと,財源の問題からいっても,管理を行う人的資源の問題からいっても,地方公共団体に帰属させるというのは無理があると思いますので,最終的な帰属先は国ということで,制度を創設すべきだと思います。
○松尾幹事 今の蓑毛幹事の御意見に続けてですけれども,土地所有権の放棄を認めた場合の土地の帰属先の問題と,土地所有権放棄の手続の問題は,かなり関連しているところがあると思います。
土地所有権の放棄,これは意思表示ですけれども,要式行為にするのかどうか,恐らく要式行為にするということになるのではないかと思うんですが,どこの機関の窓口で,どういう要式で意思表示をするのか,そのときに要件を満たしているかどうかの審査をどういうふうに行うかということが問題になります。
その審査を経て,例えば土地所有権放棄証明書をもらって,それを登記所に持って行けば土地所有権を放棄した旨の登記手続ができるのか,土地所有権を喪失したということの対抗が必要な場合に,そういう手続をとれるのかということまで見越した手続の流れも含めて,土地の帰属先と連動させて議論しておいた方がいいように思います。
最終的な帰属先については,法的な構成としては,放棄手続の窓口となる機関と,土地の帰属先は別に考えて,放棄された土地の帰属のプライオリティーは法律で決めておいて,最終的に決まった段階で帰属機関に直接帰属という形を採ることは十分可能であると思いますけれども,やはり実質的審査をどこでやって,どういう証明書を発行して,登記手続とどういうふうに連動させるかという問題を考慮しつつ,考えたいと思います。放棄された土地の帰属先のプライオリティーについて,地方公共団体に優先権を認める案が示されておりますけれども,地方公共団体の中にも市町村,都道府県とある中で,市町村が固定資産税を徴収していることをどう考えるか,放棄された土地の帰属先決定の問題とはまったく関係ないか,市町村の権限と責務について議論の整理は必要であるように思います。市町村に優先権なり優先帰属なりを認めるとしても,実施に無理があるような制度設計をすることはできませんが,一応考え方の手順は,しっかり踏んだ方がいいのではないかと思います。
○増田委員 私も簡単に申し上げますけれども,手続的な面と,それから帰属先と,かなり関連している部分があると思うんですね。
当事者から放棄の意思表示があった後,私も,まず一番身近な自治体で利用性を考える,そして,最終的には国という,そういう出方が現実的だろうと思うんですが,いずれにしても,帰属するまでの期間を時間を区切らないと,そういう土地の利用可能性を余り長く検討されても困るので,一定の時間の中で,最終的に,市町村の方でどうしようかと,多分,通常ですと,普通財産で持つことになると思うんですね。それで,議会などの関係もあるので,時間が思ったよりも長く掛かる可能性があるので,その場合には国で,国に帰属した後,市町村がやはり使いたいとなったときは,国と市町村の間で,従来の手続で,今回の創設されたやつではなくて,従来の手続でやっていくと,多分市町村の方は,固定資産税が取れなくなることはありますが,ほとんど,むしろ当事者がお金を付けて出していかざるを得ないような土地でしょうし,固定資産税の収入というのは,ほとんど期待されていない土地だと思いますので。
ですから,私は,いずれにしても手続的に,時間で一定の期間を区切って,それで,もし可能であれば,市町村の方がその間にきちんと意思表示すれば,普通財産の方で帰属されるような仕組み,ただし,やはりある程度の,半年とか,そのぐらいの間の中では,最終的には国の方に帰属するような仕組みにしていくという,その手続な面を考えていく必要があると。
それからあと,誰が一体,要件に該当しているかどうかを判断するかですが,これは最終的には,帰属先は国の組織の中では,財務省の理財ということになるので,できるだけそこから遠い組織,ただし公的なところで,要件に該当しているかどうかをきちんと判断するという,そういうことを考えていく,外形的にも客観的であり,そして不公平になっていない,公平性が保たれるというところをやはり担保するためには,やはり公的な組織でないといけないと思いますし,しかもできるだけ帰属して管理する部局と遠いところ,どういうところがあるか,そういう観点で検討する必要があると思います。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
大体,他の委員の先生方がおっしゃられたことと重なるのですが,私,最初,この資料を拝見して,社内等でも検討していたときに,帰属先機関として,かなり広い選択肢が挙げられていて,ランドバンクとかも含めて書かれていましたので,想定されている放棄という手段が,先ほど蓑毛先生がおっしゃったような4分類のうち特定の場合だけを想定している,というよりは,例えば寄せ集めることで利用価値が生じて取引が可能になる土地や,あるいは,それ以外の類型も含めて対象にしようとする意図があるのかな,と思っておりました。もし,寄せ集めることで利用価値が生じるような土地に関しては,放棄ではなくて,別の形で整理するということであれば,所有権放棄の対象になる土地の範囲が非常に狭くなるので,そうすると,おのずから帰属先機関というのも絞られてくるのかなと思った次第です。
もちろん,所有権放棄というのを広く認めて,それによって,より多彩な土地の利活用を可能にするというような方向性もあり得ると思っておりますけれども,今日いろいろ議論をお伺いしている限りでは,どちらかというと所有権放棄を認める範囲を狭くする,というご意見が多いようですので,どちらの方向に持って行くか,という前提を明確にした上で,今後,議論を整理していただくのがよろしいのではないかと思います。
○今川委員 今川です。
12ページに,地方公共団体が希望するときには,と書いてあるんですが,読み方がまずいのかもしれないんですが,希望するということは,寄附にちょっと近くなっていて,こういう概念が今,放棄のところで入ってくるのかな,要件として入ってくるのかなというのはちょっと思いました。
それと,12ページに書いてある,国の機関というふうに書いてあるんですが,私も,民間人も入った形で,公的な機関としての,ある意味,前さばき機関みたいなものがまず受け入れると。自治体は,公共的な利用とか管理のノウハウはあるんですけれども,流通に乗せるというか,商品として扱うというようなノウハウはありませんので,まずその前さばき機関が,第三者への利用権の設定をするとか,処分をしていくとか,そして,自治体や国が放棄の帰属先として受け入れるというようなことを判断していくというのが,いいと思います。
その場合に,放棄をしたときに,前さばき機関が受け取るんですけれども,前さばき機関に所有権が必ず移転するとするのか,利用権の設定とか処分先,処分とか帰属先が決まった時点で所有権を取得するのかという,その辺の細かい理論構成は必要と思います。
それと,この前さばき機関が,ある意味,放棄をしたい,どうしたらいいんだろうと考えている人の駆け込み寺的なもの,相談窓口みたいなものも兼ねることができるのではないかという気もしております。
○水津幹事 放棄された土地の帰属先機関に関する規律について,意見を申し上げます。
第1は,無主の不動産の帰属先機関を定める民法239条2項との関係です。
同条項は,土地については,新たな土地が生じた場合と,土地の所有権が放棄された結果,無主の土地が生じた場合との双方を含むものと見ることができます。
ここで検討されている事項は,同条項の改正に関するものとして,新たな土地が生じた場合も含めて,無主の土地の帰属先機関一般を射程に含んだものなのか,そうではなく,土地の所有権が放棄された結果,無主の土地が生じた場合のみについて,特別に規律を設ける趣旨なのかが少し気になりました。
第2は,無主の土地の帰属先機関に関する規定の置き方です。
無主の土地の帰属は,所有権の取得の原因の一つです。遺失物の拾得については,民法は,それが所有権の取得の原因であるという観点から,その原則を定める一方,遺失物の拾得及び返還に係る手続その他その取扱いについて必要な事項は,特別法である遺失物法がこれを定めています。
そうだとしますと,無主の土地の帰属についても,民法は,その原則を定める一方,その細目は,特別法がこれを定めるとした方が,バランスがよい気がしました。
○山野目部会長 水津幹事のお話を伺って,ほっとしました。
ここまでの委員,幹事の御指摘で,土地所有権の放棄についての要件の細目,手順,それから要件の認定及びその機関などについて,きちんと規律を整備せよという御指摘を頂いていて,正に今日,そういったことについての多くの御意見を頂くことが重要でありまして,いずれもごもっともなことであると同時に,それを全部民法に書くものであろうかということが,だんだん不安になってきました。むろん,それが必要であるということになれば立案の任を尽くすことになりますけれども,しかし,それは大変であるという気分を抱きます。テクニカルな手段としては,法務省令が定める方法で,とか,民法404条の法定利率みたいに書いてしまう手もありますけれども,しかし多分,ここまでの委員,幹事から御指摘いただいた事項を,法務省事務当局が法務省令に書こうとして立案している姿というものは,いささかイメージしにくいものであって,これは困ったことになったなというふうな感想も抱きましたけれども,しかし,水津幹事から今ヒントを頂き,またそれを受け止めて,今後検討していただくということも,かなうものではないかということを感じます。
引き続き,御意見を伺います。いかがでしょうか。
○畑幹事 私,民事訴訟法が専門ですので,今の話について,専門的な知見を有しているというわけではないのですが,一定の要件の下で放棄ができるという制度を仮に作るとした場合に,放棄をしたい人は要件を満たしていると思っていて,しかし,国なりの機関の側では満たしていないと判断されたという場合に,そこをどうするのかということも,問題としてはあるかなとは思いました。
行政的な不服申立てみたいな話になるのかどうかとか,あるいは,放棄をする権利とか地位というのは,そもそもそこまで強いものではないというふうに考えるというのも,判断としてはあるかもしれませんが,いずれにしても,そういう問題も考えておく必要があるかなと思いました。
○山本幹事 先ほどからお伺いしていますと,単独行為としての放棄そのものというよりは,そこに至るプロセスの部分,あるいは,そこに関与する機関が重要であるというような御指摘がいろいろございまして,形としては,特別法というものも考えられるのではないかということがございました。
もしそういうことになりますと,例えば,一種の行政処分のような仕組みを,そこにかませていくといったようなことも可能ですので,行政処分と,それから私法上の権利変動との関係を特別に法定して整理をするという手順になるのではないかと思います。
具体的にどうこうというところまでは,ちょっと考えておりませんけれども,そこはいろいろな可能性が,制度としてはあり得ると思います。
○山野目部会長 これから手続の具体像を更に検討を深めていくということになりますと,要件の充足に関して,放棄をしようとする土地所有者の側と受入先の帰属機関とが意見を異にするに至った場合の紛争の処理の方式については,かなり細目にわたる検討をしていかなければいけないであろうというふうに予測されます。その際には,ただいま御指摘いただいたような観点を含め,畑幹事や山本幹事からお知恵を頂戴してまいりたいと考えます。ありがとうございます。
引き続き,いかがでしょうか。
○松尾幹事 すみません,議論の整理について,一つ確認しておきたい所があるのですが,部会資料2の2ページの2段落目に2というのがあって,土地所有権放棄の基本的構成で,その2段落目,「しかし」というところですけれども,「所有者不明土地の発生を抑制する観点から土地所有権の放棄を認めるに当たっては,土地が無主の状態で放置されることを許容することは困難であり」とあって,その後ですが,「放棄が認められれば,直ちに帰属先機関が所有権を取得するものとする必要がある」とされています。
この「困難であり」と,その先の「放棄が認められれば」という部分が直ちに結び付くものかどうかということであります。
つまり,繰り返しになりますけれども,土地所有権の放棄については,放棄されたことによって,一種の大地主としての国に当然帰属してしまうという,地上権放棄のようなスタイルを考えるのか,それとも放棄によって,一瞬無主の状態が生じて,そして法律の規定によって帰属先が決まっていくという構成を採っていくのかという点の確認です。
現在の239条2項の方は,無主の不動産については国庫に帰属するということですので,そこがちょっと曖昧というか,どちらにも解釈できる感じがいたしますが,今後,所有権放棄の手続を作って,一定の期間,先ほど増田委員から御指摘ありましたけれども,例えば,市町村が手を挙げるかどうかということを待っていて,最終的な帰属先を決める間の期間というのは,これは無主状態と考えるのかどうかという点についても,考え方を整理しておく必要があるように思いました。
○山野目部会長 旧民法財産編26条という規定がありまして,今日の民法やそれを前提とする民法学では,比較的,そういう議論をすることを没却してしまっている傾向がありますけれども,融通の外に置かれたもの,流通の外に置かれたもの,取引外に置かれた(hour du commmerce)財物という概念を提示をしている規律がございました。
松尾幹事のお話を聴きながら,そういうものを思い起こしまして,ヒントを頂いたと感じます。そのような思考ももちあわせていなければならないと感じますとともに,なかなか重い宿題であって,所有権というよりは,恐らく物の概念ないしは自然公物概念の抜本的再編を要求しているお話になってくるところがありまして,検討を進めていく上で,いろいろ勇気が要る側面もあるかもしれません。
しかし,ヒントを頂いたようなことについても考え込んでいかなければならないと思うものでございます。
引き続き,いかがでしょうか。
○道垣内委員 私のこれから発言が,どういう位置付けになるのか分からないのですが,最初は放棄の要件という話が出まして,その放棄の要件の充足については,放棄によって,最終的に所有権を取得するところの国の行政機関が判断するということを前提に,その判断に対して,どういうふうに不服申立てをするのかという話をしていたと理解しているのですが,本当にそうなのかというのが若干気になるところがあります。つまり,仮に放棄というものが,一定の実体的な要件を満たしていなければできないというふうに考えるならば,例えば民法の条文として,「○○の許可を得て放棄することができる」というふうになるはずであって,そして今度,ではそこの「○○」というのに,民法上,何を入れるのですかということになると,恐らく感覚としては,「裁判所」しか入らないような気がするのですね。
もちろん,手続の仕組み方によって,そこを行政機関にするということは十分可能であるし,さきほど私が申し上げたような条文の形にしなくても,許可を得て,初めて放棄ができるというふうな実体法上の規律と,それをバックアップするための行政法的な規律というもので処理ができるというのならば,それはそれで全然構わないんですけれども,通常のこれまでのいろいろな民事実体法の作りからすると,許可を得て放棄することができるという条文になってしまい,かつそうなると,許可主体には裁判所しか入らないような気がするということも,今後の議論を精緻化していく際に,お考えいただければと思います。
そしてまた,許可を得なければ放棄ができないということにするということは,増田委員がおっしゃった,どの時点までに帰属先を決めるのという問題にもかなり密接に関係していて,放棄はできますと,それは実体法的な要件が満たされていれば,放棄は実体的にも効果がその時点で発生しますということになると,半年であれ何であれ,地方自治体がオーケーというまでの間,フローティングな状態になるというのは変な話で,その間,無主物になっているとしますと,松尾さんがおっしゃったように,その時点で,即時に国庫に帰属するのではないかという気もいたしますので,その6か月なら6か月という間は,まだ放棄はされていないということで仕組むのか,放棄はされ,国庫には帰属したんだけれども,最終的な帰属先はまだ決まっていないという形で仕組むのかといった選択肢もあるような気もします。併せて今後の検討をお願いするというか,我々もしなければいけないわけですが,ちょっと一言申し上げておきます。
○山野目部会長 道垣内委員から重要な御指摘を頂いて,議論の整理をしていただきました。おまけに条文まで書いていただきまして,許可を受けて初めて放棄をすることができると,あるいは,許可を得なければ放棄をすることができないというような書きぶりの法文になるかもしれないと,本当はこちらの法務省事務当局が考えることですが,描いていただいて,今後の作業の重要なヒントになるであろうと感じます。
必ずそうなるかどうかは,検討を続けてみないと分かりませんけれども,有力な法文の描きぶりであろうというふうにアイデアを頂戴いたします。
それと同時に,どこそこの許可をというときが,それが裁判所の審判であるとか許可の裁判であるとかに限定されるものかどうかは,もう少し考えていくことにいたしましょう。本日,吉原委員とか増田委員から,政策的な観点を大いに含ませて,判定する機関を考えてみましょうという御指摘などを頂いたところを踏まえますと,裁判所というのも絶対あり得ないアイデアではないかもしれませんけれども,いろいろな考え方を進めていく中では,求められているものは,何といったらいいでしょうか,逆収用委員会なのですかね。
今までの右肩上がりの時代の日本社会が持っていた土地に関する第三者判定機関である収用委員会は,土地を取られたくないと言っている国民に対し,いやいや,提供してもらいます,ただし有償ですということで,補償金について争いがあったらどうぞ,ということなどの解決をする機関として設けられてきました。
もちろん,収用委員会の裁決は行政処分ですので,異論があれば,通常の民事判決手続ではなくて,抗告訴訟によって処理されることになるものでありますが,言わば人口減少社会に向かった日本は,あれと逆立ちするようなものというのが,ひょっとしたら必要であって,土地を持ち続けたくないんですと,費用も余り払いたくありませんと言っている人に対して,第三者判定機関が,いやいや,あなたの希望が,ある要件で認められますけれども,その範囲で許可を与えるという裁定をしますと,不服があったら抗告訴訟を提起してくださいというような道筋になっていくのかもしれません。
判定機関の在り方は,本日,考えなければいけないということを多くの委員,幹事から御指摘を頂きましたから,引き続き,大きな宿題として認知されなければいけないと感じます。
○道垣内委員 一言だけ,私の立場を申し上げておきます。
私は,裁判所にすべきであるという発言をしているつもりはなくて,放棄ができるということだけを民法に書いて,あとは行政的な手続によるということになると,この間は誰に帰属しているのかとか,いろいろな問題というのが多分出てくるだろう。そして,また取消訴訟が起こって認められたら,どの時点で放棄が認められたのか。そうすると,やはり,許可があって初めて放棄の効果が生じるというふうな形に仕組んだ方が,恐らくスムーズにいくのではないかと思うわけでして,それは,それを裁判所でないところにしたいときには,どういうふうに全体として仕組んでいけばいいのかという,そういうふうな観点が必要ではないかということであります。意見として,裁判所にすべきであるという意見が出たというふうに御理解いただかないようにお願いいたします。
○山野目部会長 ご主旨は,十分に分かっておりますよ。
○道垣内委員 議事録上,明確にしておきたいと思います。
○山野目部会長 いずれにしても,道垣内委員からは重ねて重要な御指摘を頂きまして,ありがとうございます。
ここで,すこし休憩といたします。「第4 関連する民事法上の諸課題」に対する意見
部会資料2の,今度は第4のところについての御意見を承ります。1と2に分かれていますけれども,一括してお願いします。ここについて御意見を伺います。
○佐久間幹事 1と2両方について,意見を述べさせていただきます。
まず,1なんですけれども,これは,先ほどの休憩前に議論がされたところと,あと,ちょっと,私自身の発言で恐縮ですけれども,権利放棄の自由などというのがあるのかということに関わってなんですが,休憩前の最後に,山野目部会長が,土地の逆収用みたいなものですねというふうにおっしゃいました。私は,正にそういうイメージをもっております。今のところ,土地所有権の放棄という言葉が使われておりますけれども,この先,土地の所有権を手放す仕組みができたといたしましても,民法典に,土地の所有権は,例えば先ほどの裁判所の許可を得てでしょうか,これを「放棄することができる。」というふうに書くことになるのかについて,かなり疑問を持っております。
その続きということになるんですけれども,アとかイも,結論として,建物については,処分をしようと思ったらすることができる。動産についても,処分をしようと思ったらすることができる。その後に誰かが所有権を持ち続けるという形ではない処分をすることもできるということになっており,決着がある意味でついている,かなり安定した状況になっているんだと思うんですね。
それについて,わざわざ建物所有権の放棄は認めないとか,動産の所有権の放棄は認めるとか認めないとか,そういうことを民法に本当に書けるんだろうか,あるいは書くことが,その含意するところも含めて適当だろうか,ということを非常に疑問に思っております。これがアとイについてです。
そして,ウについて,実は私,異論がございまして,現在の規定は,放棄をしたらどうなるということは書いてあるんですけれども,放棄について,どういうふうにして共有持分の放棄をするかということは書いていないんですね。
例えば,今問題となっております,所有を望まない土地というものが共有になっているときに,単に他の共有者に放棄の意思表示をすることだけで一抜けできるというのは,ちょっとあり得ないのではないかと私は思っています。
それでは,最後まで遅れた人が,単独所有者になって,所有を望まない土地を1人で抱え続けなければいけないことになるからです。土地に限らず,共有持分が増えるというのは,必ずしも利益になるとは限らないということを考えますと,少なくとも,放棄の意思表示を要求し,これも少なくともなんですが,異議がなかった,適時に異議が述べられなかったらその放棄の効力を生ずるとか,あるいは,先ほどの放棄の自由なんかないんだということからすると,他の共有者の同意を得て初めて放棄をすることができる,とすべきではないか。ただ結局,同意を得たら,放棄をするというよりは持分の移転だということになるのではないか。こう考えるのが,私は望ましいのではないかと思っております。
それから,2について,ごく簡単に意見を述べさせていただきたいんですが,特に(2)についてですけれども,第三者に損害が生じた場合に関して例えば軟弱地を例に挙げて書かれておりますけれども,放棄者の責任は第三者に損害が生じて初めて問題にすることでいいんだろうかということを疑問に思いました。第三者に問題が生じる前に,土地を,例えば国が引き取ってみたら,軟弱地であって,将来問題が生じそうだということになった場合に,民法でいうと担保責任に当たるようなものを考えなくていいかということです。
それでいいか,というふうに申し上げるのは,両論あるなと思いまして,担保責任を認めることにしておかないと,引取機関としては,相当調査をしてからしか,引き取ることの決断がしにくいと思われるのに対し,他方でしかし,担保責任を追及されることがあるんですということになりますと,これは,負担を免れるために土地を手放すということのメリットを大きくそぐことになりまして,ちょっとどちらがいいのかはよく分かりません。今日の段階では,損害賠償にかかわらず,むしろ担保責任的なものも検討した方がいいのではないか,ということを申し上げておきます。
○中田委員 ただいま佐久間幹事が第4の1のアとイについておっしゃったことに,基本的に共感を覚えております。
仮に何か規定を置くとなると,物権放棄の自由という原則を書いて,その例外を書くか,あるいは,物権放棄は自由ではないという原則を書いて,その例外を書くかということになるんですが,いずれも非常に書きにくいのではなかろうかと思います。
それから,建物について別だとすると,現在,無主の不動産は国庫に帰属するという規定がございますけれども,239条2項をどうするのかということが問題となるような気もします。
また,他の法制との関係も詰める必要があると思います。
さらに,建物は放棄できなくて,動産は放棄できるとなると,建前というんでしょうか,建物に至る前の段階だったらどうかとか,あるいは他の土地の工作物はどうかとか,非常に複雑な問題が出てきて,限られた時間の中で,そこを詰めることができるのかなということを危惧いたします。
それから,共有持分については,佐久間幹事の御懸念はもっともだなということを感じましたが,他方で,現行法の下で,既に放棄が認められているわけでございますので,現行法の下でも存在する問題について御指摘になられたと思うんです。そうすると,果たして現行法,その部分について変更するということまでを含意しておられるのかどうかが,ちょっと御趣旨がよく分からなかったんですけれども,現行法について,また255条を更に詳しく書いていくというのは,どうもやはり,これも限られた時間で難しいのではないかなという気がいたしました。
○蓑毛幹事 私も建物の所有権放棄について,少し違った観点から,意見を申し上げたいと思います。
先ほど私自身が申し上げましたように,土地の所有権の放棄に当たっては,建物等が乗っている場合,特に老朽化した建物が乗っているような場合には,過大なコストが掛かりますので,放棄を認めるべきではないという意見を持っております。
ただし,最終的に放棄をする際,国に帰属させるときには,建物がない更地の状態で渡すとしても,先ほど申し上げましたように,放棄をするための要件ではなくて,手続・プロセスとして,地方公共団体に引き取ってもらうことを考えたときには,全て更地にしてから手続をスタートするというのは,余りにも無駄があって,地方公共団体としては,建物と土地一緒になった状態で引き取るよというケースもあると思うんです。
そういう意味で,建物の所有権放棄ができるかという議論とは別に,手続・プロセスのところでは,建物が乗った状態で,市場で流通できないかとか,自治体で引き取れないかとか,そういったプロセスを考えるべきではないかと思っています。
○今川委員 私は,先ほど申し上げましたように,土地所有権は原則放棄できるというふうに立て付けるべきだと思っていまして,したがって建物も同じという考えです。
放棄に条件を付けて,条件を満たした場合には放棄を認めるというものを細かくしていきますと,結局は,一定の条件を満たしたときには受け取るということになって,寄附に限りなく近くなっていくと思われますので,放棄を認めた上で,放棄をする人間がどこまで負担をするかというような観点で考えたらいいと思っております。
したがって,建物も放棄は認められるが,個別法で,建物が建っている場合は,土地と建物を併せて放棄をし,建物の除却費用を負担する,あるいは,建物を除却した上で土地を放棄するというようなルール化がいいと思っています。そして,除却費用がない,出せないような人は,個別でまた考えていくと。
それから,利用・管理されていない建物についてですけれども,これは空家等対策の推進に関する特別措置法という特別法もありますので,そこで,空き家をどうするかということは考えていけばいいと思っております。
○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。
○藤野委員 ありがとうございます。
第4の2の方の話になるのですが,よろしいでしょうか。
先ほどの,放棄の要件のところとも関連するのですが,第2の②のアにございましたような,有害物質が土地にあるかどうかといったような話になってまいりますと,企業間の取引においても,あり,なしを特定するのはかなり難しい,特に,ないことを証明するためには,かなりの費用と時間が掛かるということで,実際にはそこを明確にせずに取引を行うこともありまして,今回の話でも,放棄の時点で常にそれを明確にすることが本当にできるのか,というところは疑問がございます。
したがって,有害物質などの問題については,必然的に,こちらの第4の2の方の事後的な責任分担の話ということになってくるのではないかと思っておりまして,例えば帰属先機関であるとか,あるいは,更にそこから先に,第三者にその土地がいくということを考えますと,どうしてもやはり,放棄する所有者の方に,最初の時点で表明保証なり,それに代わる何かをしていただくというところが大事になってくるのかなと思っております。
ただ,一方で,そこの要件をあまりに厳格にしてしまうと,そもそも所有者は放棄で何ら対価も得ていないという状況の中で,そこまで全部責任を負わせるのが妥当かという問題も出てくるかと思います。更に言うと,仮に責任が現所有者,放棄した所有者にあるとしたところで,その所有者が個人の方の場合に,責任を負担する資力があるのかというところもありますので,どういった形でここを制度設計するかというのが,非常に重要なところだと思っております。
民法などの法律に任せる,というのも一つの手だとは思いますけれども,仮に,放棄された土地を流通させるというようなところまで含めて制度設計を考えるのであれば,逆に,転々と流通した後に取得した第三者が不測の損害を被らないようなやり方というのも考える必要があるのではないかと思っております。
○岡田委員 岡田です。
今の関連する民事法上の諸問題において,建物の所有権の放棄は認めないものとすることでどうかということでございますけれども,当検討会におきましては,これ,区分建物に関しましては検討外というふうに考えたので,よろしいんでしょうか。老朽化のマンションの問題等もございますけれども,そこをちょっと教えていただけたらなと思いました。
○山野目部会長 つまり区分建物の所有権を放棄すると,敷地との一体処分が要請されている規律の下では,土地所有権の問題と連動してくることになり,かなり込み入ったお話になる。なるほど,いや,これは難儀ですね。
○大谷幹事 建物の所有権放棄は認めないということでございますので,区分所有の建物についても認めないということを,この資料ではお書きしております。
○山野目部会長 岡田委員は,お続けになられることは。
○岡田委員 いいです。大丈夫です。
○山野目部会長 お尋ねだったわけですね。
○岡田委員 はい。
○山野目部会長 ありがとうございます。
○道垣内委員 すみません,まず,1のウなんですが,佐久間さんがおっしゃったところは,ごもっともではないかと思います。
中田さんの方から,現行法にある問題であると指摘されまして,それはそうなのですが,佐久間さんは,それに対して回答を用意されていらっしゃるわけですね。つまり,現行法は,放棄したときのことを書いているだけであって,放棄の要件は書いていなくて,ブランクになっているとも解されるので,現行法を変えるということとは必ずしもならないというのが第1点と,第2点は,もう一つの部会資料が,共有に関して,様々なところを再検討しなければならないということになっておりますので,今現在,放棄の問題を扱うときに,255条だけを扱うということになりますと,ピンポイントで扱った感じがするわけですが,他方,共有の議論において,255条を扱わなかったということになると,今度は,そこをピンポイントで排除したといったインプリケーションが出てくる可能性もあります。時間が限られた中で大変ですけれども,私は,検討した方がよいのではないかと思います。
次に,2の(2)でしょうか,担保責任ですけれども,担保責任というときに,結果として産業廃棄物が出てきたということになったら責任を負うのか,それとも,産業廃棄物が出てくる可能性というものを認識したり,あるいは認識すべきであったのに,それについてきちんと言わない形で放棄をしたといったときに,責任を限定するのかという問題があるような気がいたします。
というのは,可能性として,ごく僅かでも何かある可能性があるというふうにしたときに,塩漬けにしてしまえば,別に除去費用が発生するということはないのですよね。それに対して,放棄して国に帰属させたり,あるいは,国が一旦取って,何らかの形で利用するというふうな形にしたりすると,それが顕在化し得るわけであって,そうすると,担保責任の肯定は,塩漬けにしておこうという方向に働く規律になってしまうような気がします。そうすると,全体としての本部会ないしは改正の趣旨と,どうも齟齬するのではないかなという気がします。
そうなるとやはり,一定の主観的な要件を課した上での責任なのかなという気がするということでございます。
○水津幹事 第4の1のアとイのところですが,既に意見が出ているとおり,建物の所有権の放棄は動産の所有権の放棄や土地の所有権の放棄と異なって,一切認められないとする理由は,十分ではない気がします。
その理由の一つとして,建物は,取り壊せば足りることが挙げられていますけれども,この論理を強調すると,動産の所有権の放棄も,認められないこととなりそうです。しかし,動産の所有権の放棄は,反対に,権利濫用などに当たらない限り,認められるとされています。
他方,建物は,その放棄によって無主とすることが認められれば,国庫に帰属することとなる点で,動産とは異なります。しかし,同じく国庫帰属とされている土地については,一定の要件の下で放棄が認められるとされています。また,建物の所有者は,土地工作物責任を負うことも,指摘されています。しかし,土地の所有者も,土地の所有に伴う義務や責任を負うとされているため,建物の所有権についてのみ,その放棄は一切認められないとする理由としては,弱い気がします。
部会資料では,土地の所有権の放棄の要件は,先ほど問題とされていましたけれども,権利濫用に当たらないと考えられる場合を具体化したものであるとされています。動産の所有権の放棄も,権利濫用に当たらない限り,認められるとされています。ここでは,所有権の放棄は,権利濫用に当たらない限り,認められることを前提とした上で,どのような場合に権利濫用に当たるかは,目的物の性質の相違に応じて類型的に異なるという考え方を見て取ることができます。
そうだとすると,建物の所有権については,その放棄は一切認められないことを首尾一貫した形で基礎付けるためには,建物の所有権の放棄には,常に権利濫用に相当する事情があることを示さないと,難しいのではないかという気がします。
○中村委員 共有持分の放棄に,戻ってよろしいでしょうか。
○山野目部会長 どうぞ。
○中村委員 13ページの第4のウのところについて申し上げます。
先ほど佐久間幹事から御指摘がありました,共有持分の放棄をした場合に,もしそれがとても持ちにくい,管理しにくい不動産であったというような場合に,先に放棄してしまった者が,出遅れた人に全部負担を転嫁するということになりかねないということにつきまして,私も実務上の懸念を持っております。
例えば,知らないうちに産業廃棄物を廃棄されてしまったような土地というようなものにつきまして,先に土地の共有持分を抜けた人は負担を免れ,最後になった人は,先ほど検討いたしました難しい放棄の要件を満たさなければ自分は手放すことができないということになるということが,果たして公平なのかという問題が出てくるかと思います。
申し上げるまでもありませんけれども,共有にはいろいろな形がございますよね。例えば,夫婦で持っているとか,兄弟で持っているとか,親しい間柄で持っている関係であれば,自分の持分を放棄することによって,他の共有者がどれだけの負担を受けてしまうのかということについて,それなりに慮って,放棄するかしないかを決めるということになると思いますけれども,片や,どこの誰が共有者か分からないけれども,遠い昔のいきさつによって共有になっているというようなものの場合には,別の共有者に対して配慮するというインセンティブもなかなか働かない中で,このまま255条を維持してしまってよいのかという懸念を持っております。
また,ここでは,他の共有者に対する放棄の意思表示を要求するという,同条を維持することを前提とした記載もございますけれども,仮に維持したとした場合には,自分が一体どれだけの持分を持つことになっているのかということを知らないということになりますと困りますので,しっかりした通知のシステムというのは必要かなというふうに感じました。
○山田委員 二つ発言させてください。一つは,共有持分の今話題になっているところで,もう一つは,ちょっと出てきていないことですが,ついでに申し上げます。
共有持分については,確かに現在の民法255条に規律があるということを前提にしながら,土地の所有権の放棄を認めるという制度を考えるときには,土地の共有持分の放棄を255条によらずに,ここで議論している,要するに国ですか,あるいは引受機関に共有持分が属するような形で,共有持分だけ喪失するということの当否も検討するのがよいのではないかと思います。
それは,1ページ目にある,土地の関心が失われて適切に管理されない土地が増加し,所有者不明土地の予備軍となっているという指摘は,そのとおりだと思いますし,これに対して,政府を挙げて対応しようとしている一端をここで担っているんだと思うんですが,この問題を解決するために,単独所有権について,放棄をどうしようかというのを今形作っているわけです。
直前の方の御発言にあったのと,多分重なるのではないかと思うんですが,村落共同体が所有していた山林で,大正から昭和ぐらいに,村の長老たちというんですかね,主要な人たちが10人とか20人で共有登記をしているというものが共同相続になって,そして,入会団体というのが解消して,消滅してというのが,今,恐らく日本に多数あるのだろうと思います。そういったところは,正に共有であるということも加わって,土地への関心が失われて,適切に管理されない土地になりやすくなっているという事情が,更に一層あるのだろうと思います。
そして,ではそこを255条の規律で解決するのが適当かというと,2,3の方が発言されたように,それは,もちろん中に,私がここを頑張ってやるから皆さん放棄してくださいという人がいれば,それでいいですが,しかし,みんなが関心を持たなくなっているとなると,せっかくここで単独所有権の放棄の制度を作るわけですから,作ろうとしているわけですから,共有持分は255条があるから,それで任せて,少し整理するなり外しましょうというのは大変残念なところです。
したがって,255条については,ちょうどこれと逆の立場で立ち向かってほしいなと思います。最後やはり,様々な問題があってできないということであれば,それはそれで仕方がないのですが,最初の段階で落としましょうというのは反対です。
それから,もう一つは,法人が土地所有権を放棄できるかという問題です。
どこにもこれ,自然人と書いていないので,含まれると考えているんだろうなと予測したんですが,そこはちょっと,明記を当分しておいていただくのがいいように思います。最後,条文にするときには,区別しないならば,わざわざ書く必要はないのですが,事務当局が法人も含むと考えているならば,書いてほしいと思います。
まだそこはペンディングですということであれば,私の意見は、同じように,自然人であるか法人であるかにかかわらず,同じ仕組みで土地の所有権の放棄はできるというふうにすべきではないかなと思います。
今,私が最後に申し上げた意見に対しては,直前に申し上げたことと関連すると,相続がどうも所有者不明土地の背後には,多くの場合絡んでいるというところから入りますと,法人は相続がないから外してもいいのではないかという議論はあるのかもしれないなと,立法事実というんですかね,として,外せるのかもしれないなと思うのですが,しかし,実体法上の要件を設けて,それの位置付けはいろいろあるとしても,権利濫用に当たらないタイプのものを実体法上の要件として書き込もうという考え方が一つありましたので,仮にそれに立つと,実体法上の要件を書き込んで,そして,それを事前に審査する何らかの手続も設けようというのが,今日出されている最大公約数だと思いますので,そのときの実体法上の実体的な要件の中に,自然人に限るというのは書くべきではないというのが私の意見でございます。
○中田委員 私は,255条の改正を,最初からすべきでないという意見ではなかったつもりです。
何人かの方がおっしゃったことですけれども,放棄をすることによって,早い者勝ちで抜けることができるのはおかしいではないかと,これは全く同感でありますし,この資料を拝見して私も最初に思ったことです。
ただ,その抜本的な解決の仕方として,255条に意思表示プラス適時の異議ということですと,ほかにも波及することがあって,慎重に検討する必要があると思ったので,先ほど申し上げましたが,むしろ方向性としては,今山田委員がおっしゃった,全体として単独所有権の放棄と,それから,それのバリエーションといいますか,共有持分権の放棄というのを併せて考えるという方向が筋だろうと思います。
ただ,その筋を通すのに,果たして時間的な余裕があるかどうかということが気になるところですけれども,方向はそちらだろうなと思います。
○垣内幹事 先ほど山田委員から御指摘のありました法人の取扱いとの関係で,広い意味では関連する民事上の諸課題ということで,若干私の感じているところを申し述べたいと思います。
一つは,法人の場合ですけれども,取り分け,ある土地を所有している法人が,例えば倒産して,破産手続が開始されたというときに,しかし,その土地に有害物質がある等の問題があって,なかなか換価が事実上できないというようなことがあり得るかと思います。
その際,破産手続上の問題としては,破産財団からの放棄を認められるかどうかという問題があって,これは裁判所が許可するかどうかというところに係ってくるところで,いかなる場合に許可をしてよいのかということが議論されているということかと思いますけれども,許可がされないということになりますと,財団にその財産が残るということになり,しかし換価ができなければ,これを所有権の放棄という形で何とかできないかという問題は当然出てくるところで,その場合,所有権の放棄はできないということになりますと,どうやって手続を終結させるのかというような問題が出てくることになろうかと思います。
仮に,所有権は放棄できなかったのだけれども,これは破産に限らないことですが,法人が解散等によって法人格を失ったというときに,その所有権がペンディングな形になるわけでして,その場合の取扱いはどうするのかといったような関連問題が存在するのかなと思われますと同時に,この問題は,本日の資料で申しますと,2で,放棄された土地に起因して,何らか損害賠償の問題が生じるときに,その責任をどうするかということがあるわけですが,これも,例えば自然人で放棄をした主体が,なお主体として残っているという場合には,適切な分配に関する規律を設けるということで処理することが,第一次的には考えられようかと思いますけれども,法人格が消滅しているというようなものが放棄の主体であるというような場合を想定したときにどうかといった点についても,この問題を検討する際に,一つ留意することが考えられるかなと感じます。
また,もう1点,これは法人の場合ではないのですけれども,やはり,取り分け資料の15ページの2との関係で,放棄そのものの問題ではないのですが,元々被相続人が土地を持っていて,しかし,その土地が非常に問題があるものであると,本来であれば放棄したいようなものであるというきに,しかし放棄が認めらないということで,しかし相続がその後に発生して,相続人がいずれも相続放棄をしたというようなことがあり得るかと思いますけれども,その際に,やはりその土地に起因して損害が生じたというときに,相続人の責任をどうするのかといったような問題も,2に関連する,広い意味で関連する問題としてはあるのかなと思いますので,この審議会で,部会で正面から議論の対象とするべき問題がどうかという点については,いろいろ御判断にお任せしたいと思いますけれども,関連問題として感じたところがありますので発言させていただきました。
○蓑毛幹事 今,垣内先生からお話がありましたので,私は専門分野としては,倒産・事業再生を主に扱っている弁護士でありまして,破産管財人として,土壌汚染があった土地についての財団放棄ということも経験しておりますので,少し申し上げたいと思います。
現時点で,東京地方裁判所においては,法人の破産手続で,不動産が残っていて,これがどうしても売れないというときに,どうやって破産手続を終わらせるかというと,破産財団から放棄して終わらせるということをしています。
この破産財団からの放棄というのは,今ここで議論されている所有権の放棄とは違った概念で,破産管財人の管理処分権から外すという意味です。そして裁判所は,その許可をしないということはなく,許可をして,不動産を財団から放棄させて終わるということをしています。
放棄をすると,その不動産が法人の管理下に戻ることになって,その意味で法人は,登記簿謄本が閉鎖されても,概念的には残っているということになるわけですけれども,破産法人は実際には不動産を管理することができませんので,裁判所が,破産財団からの不動産の放棄を許可する際には,その後どうやって不動産の管理がされていくのか,管理がされない状態でも大丈夫なのかということを確認しながら進めていくことになります。
いわゆる粗放的管理で足りるものについては,裁判所は比較的緩やかに放棄を認めますが,例えば工場を操業していた会社が破産して,その土壌に汚染があることが認められた場合には,私の知る限り,東京地裁の運用では,破産管財人の報酬以外の全ての資産を土壌汚染の除去につぎ込んで,なるべく汚染を除去した上で放棄を認めるということをしております。
例えば税金の未納があったりすると,財団債権の順番としてはどうなるのかという話もあるのですが,実務上は,土壌汚染の除去は税金よりも優先するということで,できる限り土壌汚染の処理をして,放棄するということをしております。
今,垣内先生からありましたけれども,私としては,破産管財人の選択肢を増やすという意味でも,法人による土地所有権の放棄ということを認めた方がよろしいのではないかと思います。
○山野目部会長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
部会資料2の第4のところにおいて,1及び2について,多岐にわたる御意見を頂きました。第4の1については,アとイについて,その政策的な内容そのものの当否についての御意見も頂きましたし,関連して,どのような規律で民法上表現をしていくか,あるいは表現していかないことがよいのではないかといったような観点からの御心配の御指摘も頂きました。
それから,ウのところについては,現行255条の運用の下でも存在するが,しかし今後,更に検討していかなければならない問題があるのではないかという御指摘があったことを踏まえ,それを当部会で引き続き,どの範囲で審議の対象としていくかということについて,種々の御意見がありました。事務当局の方で整理をさせていただくことにいたします。
あわせて,ウのところについては,山田委員から,ここでお示ししている発想とは異なる全く新しい見地から,土地に関する共有持分の放棄について,国庫などに帰属させるという,本日の休憩前に要件や手順について御議論いただいた内容に係る,その規律に服せしめるというアイデアもあるものではないかという注目すべき御提案も頂きました。
皆さん御覧いただいたと思いますが,山田委員はこういうアイデアマンでいらっしゃいます。誰も考えないようなことをおっしゃっていただき,感じ入るばかりでした。ご提案いただいたことは今後,部会において検討していかなければならないと感じます。
すこし考えますに,共有持分を放棄して国庫などに帰属するということになりますと,考え込まなければならない問題も生じます。普通の土地もいろいろ荒れ果てている土地があり,悩ましい事例が多いでしょうけれども,さらに共有持分になると,不動産鑑定でいう共有減価が生じ,余計,価格的には困った状況のものを国庫などに帰属させることになりますから,国有財産管理や林野行政のお立場から見れば,種々悩ましい部分があるというお話があるかもしれません。休憩前に御議論いただいた土地所有権一般の放棄の要件の中で,もし山田委員の提案をそこで考えていく際には,共有持分について国庫などを帰属先としてイメージした放棄の要件のところをまた精査しなければいけないという宿題も頂いたものであろうというふうに感じます。
第4の2のところについては,ここで問題提起を差し上げている損害賠償の問題に加えて,いわゆる担保責任と類似の発想を考える余地がないかどうかという観点の御指摘があり,また,そのような発想で物事を進めたときに,それが法的構成の上でも,いろいろ難しい問題がありますとともに,その政策的な実質的当否の観点から見たときに,いわゆる土地所有権の放棄の自由度に影響する側面があるということの御指摘もあって,いろいろ考えなければいけない難しい問題があるということが分かりました。引き続き事務当局の方で,頂いた意見を議事全般にわたって整理をさせていただくことにいたします。
部会資料2について,土地所有権の放棄について御議論をお願いしてきたところ,一渡り御覧いただいたということになりますけれども,土地所有権の放棄全体について,何かここで御指摘を補っていただくようなことがおありでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは,この土地所有権の放棄の議論をひとまず区切りとするに当たりまして,私から一言差し上げます。
土地所有権の放棄という問題提起を差し上げて,意見を述べていただきました件について,ここまで審議で明らかになりましたように,当部会が属する法制審議会に加え,財政制度等審議会及び国土審議会において調査審議が進められている各事項が互いに関連している側面がございます。つきましては,これらの審議会の事務当局を務め,当部会に関係官をお出しになっておられる各省におかれましては,引き続き緊密な連絡調整をなさっていただき,政府として整合性のある施策を企画・立案していくことがかなうよう,各段の御協力をお願い申し上げます。
民法に所有権の放棄に関する新たな規律を設けることなく、次のような規律を内容とする土地の所有権の国への移転に関する法律を制定することで、どうか。
1 相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により土地の所有権(その共有持分を含む。)を取得した者は、この法律の定めるところに従い、所有権の移転の認定処分を受けることによりその土地の所有権を国に移転させることができる。
2 土地の共有持分を有する者のうち、1の適用を受けない者は、1の適用を受ける者と共同して申請する場合に限って、所有権の移転の認定処分を受けることによりその土地の所有権を国に移転させることができる。
3 1の認定処分は、土地の一筆ごとにするものとする。
4 土地が二人以上の共有に属する場合における認定処分申請(国への所有権の移転の認定処分の申請をいう。以下同じ。)は、全ての共有者が共同してしなければならない。
5 認定処分申請をしようとする者は、その申請に先立って、政省令で定める方法により、売却、貸付け等の処分その他の行為を試みなければならない。
6 1の認定処分は、認定処分申請の対象地(以下「認定処分申請地」という。)が、次のいずれかに該当するものである場合には、することができない。
(1) 建物が存在する土地
(2) 土地の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存在する土地
(3) 急傾斜地として政令で定める土地
(4) その土壌の政令で定める有害物質による汚染状態が当該有害物質の種類ごとに政令で定める基準に適合しないと認める土地
(5) 地下に埋設物その他除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができないものが存在する土地
2
(6) 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
(7) 境界が明らかでない土地その他所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
(8) 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分ができない土地
(9) (1)から(8)までに掲げる土地のほか、管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要するものとして政令で定める土地
7 認定処分申請をしようとする者は、政令で定めるところにより、政令で定める額の審査に係る手数料及び土地の管理に係る手数料を納付しなければならない。
8 審査機関は、認定処分申請があったときは、遅滞なく、国の関係行政機関の長及び認定処分申請地の所在地を管轄する地方公共団体の長にその旨を通知しなければならない。
9(1) 審査機関は、1の認定処分に係る審査をするため必要があると認めるときは、その職員に事実の調査をさせることができる。
(2) (1)により事実の調査をする職員は、認定処分申請地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をすること、認定処分申請者、認定処分申請地の占有者その他の関係者からその知っている事実を聴取し又は資料の提出を求めることその他1の認定処分に係る審査のために必要な調査をすることができる。
(3) 審査機関は、1の認定処分に係る審査をするため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長又は関係のある公私の団体に対し、資料の提出その他必要な協力を求めることができる。
(4) 審査機関は、その職員が(2)により認定処分申請地又はその周辺の地域に所在する土地の実地調査をする場合において、必要があると認めるときは、その必要の限度において、その職員に、認定処分申請地又は他人の土地に立ち入らせることができる。
(5) 審査機関は、1の認定処分に係る審査をするため必要があると認めるときは、他の関係行政機関の長の意見を聴くことができる。
10 審査機関は、以下の場合を除き、1の認定処分をするものとする。
(1) 申請の権限を有しない者の申請によるとき
(2) 申請書の内容に不備があるとき又は添付資料(登記事項証明書等)が添付されないとき
(3) 認定処分申請地について、5の試みがされていないとき
(4) 認定処分申請地が、6のいずれかに該当するとき
(5) 認定処分申請者が7の手数料を納付しないとき
(6) 認定処分申請者が、正当な理由がないのに、9(2)又は(4)の調査に応じないとき
11(1) 1の認定処分を受けてその所有権が国に移転した土地(以下「移転地」という。)が認定処分を受けた時において6のいずれかに該当していたことによって国に損害が生じたときは、1の認定処分を受けた者は、これを賠償する責任を負う。ただし、その土地が6のいずれかに該当していたことにつきその者が善意でかつ重大な過失がなかったときは、この限りでない。
(2) (1)によって生じた損害賠償の請求権は、1の認定処分がされた時から10年間行使しないときは、時効によって消滅する。
12(1) 審査機関は、次のいずれかに該当するときは、1の認定処分を取り消すことができる。
ア 認定処分の時点において、移転地が6のいずれかに該当していたことが判明したとき。
イ 不正の手段により認定処分を受けたことが判明したとき。
(2) 審査機関は、移転地を管理する関係行政機関の長(当該移転地に係る権利を取得した者があるときは、当該者及びその承継人)の同意を得なければ、当該移転地に係る所有権移転の認定処分を職権により取り消すことができない。
(3) 1の認定処分がされた時から10年を経過したときは、審査機関は、(1)の規定による取消しをすることができない。ただし、移転者が1の認定処分の時点において、移転地が6のいずれかに該当していたことを知っていたときは、この限りではない。
(注1)国は、1の認定処分がされた場合には、土地の所有権を所有者から承継取得する(認定処分申請者が無権利者であった場合には、承継の効果を生じない。)。
(注2)土地の国への所有権移転は、認定処分申請者に対して認定処分をした旨を通知したときに効力が発生するものとする。
(注3)所有権の移転の認定処分を行う審査機関をどのような行政機関とするかにつき、どのように考えるか。
(注4)土地が2人以上の共有に属する場合には、共有者のうちの1人以上が、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により土地の所有権を取得していれば、他の共有者(法人も含む。)と共同で申請をすることで、土地の所有権を国に移転することができるものとする。ただし、当該土地の共有持分を2回以上にわたって取得した者がこの方法で所有権を国に移転するためには、最初の共有持分の取得原因が相続又は遺贈であることを要するものとする。
(注5)10については、(4)に該当する場合には審査機関は認定をしない処分(不認定処分)を行い、それ以外に該当する場合には申請を却下することを想定している。
(注6)12の取消しの規律は、審査機関が、処分を取り消し、土地所有権の国への移転を遡及的に無効とすることができることを前提にしている。
(補足説明)
1 土地の所有権の国への移転を認める制度の創設について(本文柱書きについて)
部会資料36では、不動産は、法令に特別の定めがある場合を除き、その所有権を放棄することができないものとする規定を民法に設けるものとすることとした上で、新たに土地所有権の放棄に関する法律を制定し、土地については、一定の要件を満たし、審査機関による認可がされた場合に、所有権放棄を認める規律を導入することを提案していた。第16回会議においては、土地所有権の放棄は原則的にできないとの規律を民法に設けることについては、実態に即したものとして国民からの理解が得られやすいとしてこの提案に賛成する意見もあったが、不動産については、法令に特別の定めがある場合を除き、その所有権を放棄することができないものとする規定を民法に設けると、動産の所有権放棄の可否についての議論にも影響を及ぼす可能性があることなどから、反対する意見が複数あった。
改めて検討すると、土地が適切に管理されることなく放置され、所有者不明土地や管理不全土地になることを防止するために、土地所有者がその土地の所有権を国に帰属させることを可能とすることがこの制度の創設の目的である。
これまで、民法第239条第2項を前提に、土地所有者の申請を受けて所有権放棄を認可する行政処分をすることにより土地を所有者のないものとし、同項によりその土地を国庫に帰属させるという構成をとることを提案してきたが、最終的に土地を国に帰属させることが目的なのであれば、行政処分によって土地所有権が国に移転するとした方が直截であると考えられる。
また、土地所有権の放棄という構成をとるのであれば、前回の提案のように、不動産の所有権放棄についての規律を置くことになり、そうすると、動産の所有権放棄についての規律の在り方が問題となるが、動産にはその大きさや価値において様々なものが存在するため、適切な規律を設けることは難しいと思われる。
そこで、本資料においては、民法に所有権の放棄に関する新たな規律を置くことなく、新法において土地所有権を国に直接移転させる制度を創設することを提案している。
2 行政処分について(本文1)
所有者から国に土地所有権を移転する構成を採用することとした場合であっても、国に移転した土地の管理コストを国が負担することになるのは、所有権放棄の構成を採用する場合と同様であることから、一定の要件を満たす場合に限定して土地の所有権を国に移転させる必要がある。そのため、国の審査機関が、土地が一定の要件を満たしているかについて審査を行い、土地の所有権を国に移転させる行政処分が必要となると考えられる。その行政処分は、国との合意なく土地の所有権を国に移転させることはできないところを、要件が満たされている場合に土地の所有権の移転の効果を発生させる形成的行為であると考えられるが、認可、特許等の特徴を併有しており、講学上の分類にあてはめるのは困難と考えられる。そこで、本資料においては、土地の所有権を国に移転させる行政処分を差し当たり「認定処分」と表記しているが、法制上の表記については、他の行政法規の用例等を参考に、引き続き検討する。
3 国への所有権移転について((注1)、(注2))
(1) 承継取得(注1)
土地所有権の放棄の構成ではなく、認定処分により土地所有権を国に直接移転させる構成をとることに伴い、国は、所有者から土地の所有権を承継取得することになると考えられることから、(注1)でこれを注記している。
なお、本文6(6)に記載のとおり、担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地については、認定処分がされないため、国が担保権等が設定された土地を取得することは想定されていないが、仮に、認定処分を受けた土地につき処分時に登記されていない担保権等が設定されていた場合であっても、その担保権等は、民法第177条の「第三者」に該当する国
には対抗できないと考えられる。
なお、審査機関による認定処分がされたときに、申請者と国の間で贈与契約が成立したものとみなして、土地所有権を国に移転させる構成も考えられるが、端的に認定処分により所有権が移転するものとすれば足りると考えられる。
(2) 国への所有権の移転時期(注2)
審査機関は、所有権移転の認定処分をした後で、認定処分申請者及び関係行政機関の長に通知をすることを想定しているが、この通知が認定処分申請者に到達した時点で、土地所有権が国に移転するものとすることを本文(注2)で注記している。
4 審査機関(注3)
部会資料36の補足説明(6頁)では、所有権放棄の認可をする審査機関について、公平性・公正らしさを担保するため、放棄された土地を管理する機関からできるだけ遠い公的機関とすべきであるという要素のほか、要件審査の能力や利用者にとっての利便性などの観点も踏まえて検討される必要があること、いずれの行政機関を審査機関とするにしても、審査機関が他の行政機関の知見を活用することができる仕組みとする必要があることを記載していた。
これらは、所有権の移転の認定処分をする審査機関においても同様に当てはまる。また、国に所有権が移転された土地は、その性質(農地、林地か、それ以外の土地か)に応じて、管理する機関が異なることが想定されるが、土地の状態によっては、その性質の判断に困難を来すこともあり得るところであり、どの機関に管理させるかを審査機関が判断、指定する仕組みとする必要があることにも配慮する必要がある。
他方で、審査機関として新たな行政組織を設置することは、行政の効率化の観点から慎重な検討が必要である。
以上を踏まえ、所有権の移転の認定処分を行う審査機関につき、どのように考えるか。
5 所有権移転の認定処分の申請主体(本文1)
部会資料36の第1の4の(1)では、土地所有権の放棄が認められるためには、所有者が相続(遺産の分割や特定財産承継遺言によるものを含む。)又は遺贈(受遺者である所有者が遺言者の相続人であった場合に限る。)により取得した土地であることを求めることを提案し、所有権放棄の主体を、相続を契機にして土地を取得した者に限定していた。これに対しては、第16回会議において、土地の取得原因によって所有権放棄の対象となる土地を限定すべきでないとして反対する意見もあったが、所有者不明土地の最大の発生原因が相続を契機にして土地が放置されることにあると考えられていることに鑑みると、取得原因を相続又は遺贈に限定するのは合理的であるとして賛成する意見もあった。
相続により土地の所有者となった者が、当該土地を利用する見込みがなく、かつ、その土地からの受益がないにもかかわらず、相続を契機として土地をやむを得ず取得し、売却等の処分ができずに所有していることが類型的にあると考えられる。このようにして取得された土地は、そのまま放置されて所有者不明土地や管理不全土地になるおそれがある。加えて、土地の所有者は、土地基本法等の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)による改正後の土地基本法(平成元年法律第84号)第6条のとおり、土地の管理について一定の責務を負っており、土地を自ら進んで取得したのではない土地所有者には、一定の限度で、土地の管理の負担から免れる途を開くことが相当であると考えられる。
これに対しては、土地の取得原因にかかわらず、所有者が関心を失っている土地については、放置されて所有者不明土地等になるおそれがあり、土地の取得原因によって対象地を限定するのは妥当ではないとの指摘が考えられるが、国の財政への負担と制度の利用見込みが十分に見通せない状況に鑑みると、まずは、相続を契機としてやむを得ず土地を取得した者に限り、土地の所有権の国への移転を認め、その他の土地所有者への申請主体の拡大については、制度導入後の利用状況等を踏まえて、引き続き検討すべきであると考えられる。
そこで、本文1では、所有権の移転の認定処分の申請主体につき、部会資料36の第1の4の(1)と同趣旨の提案をしている。
なお、第16回会議においては、共有の性質を有する入会権の対象となっている土地も所有権放棄の対象とすべきであるとの指摘があったが、一般的には、共有の性質を有する入会権の対象となっている土地は、その構成員が法人格なき社団を構成していない場合であっても、いわゆる総有として持分権の概念がないものと解され、構成員について相続が発生しても、それを契機にして相続人が直ちに土地の入会権を取得する関係にはないことから、入会権者の相続人を現段階で国への所有権移転の認定処分の申請主体にすることについては、慎重に検討せざるを得ない。もっとも、入会地についても、制度導入後の利用状況等を踏まえて、国への所有権移転の認定処分の申請主体とすることを検討する必要があると考えられる。
6 相続を契機に共有持分を取得した者について(本文1、2、(注4))
部会資料36の補足説明(10頁)では、取得原因等が混在する場合の所有権放棄の可否について、①相続により土地を取得した自然人と法人が共有する土地、②相続により土地を取得した自然人と相続以外により土地を取得した自然人が共有する土地、③持分の一部を相続により取得し、残りの持分を相続以外により取得した土地に分けて検討し、土地の所有権放棄を①②については認めず、③については認めるものとしていた。
第16回会議では、この規律では、土地の所有権放棄をするためには、相続により持分を取得した者が他の共有者から共有持分を取得する必要があり、その上で、最終的に所有権放棄を実現できなかったときには、その土地の管理責任を一手に負う結果になるが、そのようなリスクを一人に負担させる可能性がある制度創設は適切ではなく、共有地については、共有者の全部又は一部が相続等により共有持分を取得した場合には、全ての共有者が共同して行うことによって土地の所有権を放棄することができることとすべきであるとの意見があった。
所有者不明土地や管理不全土地の発生を防止するととともに、相続を契機にしてやむを得ず土地の共有持分を取得した者が、一定の限度で土地の管理の負担から免れる途を開くという政策的見地から改めて考えると、相続を契機にしてやむを得ず土地の共有持分を取得した者についても、他の共有者が同調するのであれば、国に土地所有権を移転することを可能とすることに特段の支障はないと考えられる。また、他の共有者(法人を含む。)が相続以外の原因で共有持分を取得していたとしても、そのことを理由に、相続を契機としてやむを得ず共有持分を取得した者が土地の管理の負担から免れられないとすることは妥当でないと考えられる。
そこで、本文1及び2では、相続を契機として共有持分を取得した者についても、基本的に国への所有権移転の認定処分の申請主体として認めることとしている。また、(注4)では、共有者のうちの一人の共有持分の取得が相続又は遺贈によるものであれば、共有者全員が共同して土地の所有権を国に移転することが可能であり、そのことは、共有者の一部が法人である場合も同じである旨を注記している。
ただし、例えば、AがBと共同して土地を購入してこれを共有していたが、Bが死亡してAがその持分を相続し、単独所有となったケースのように、2回以上共有持分を取得した者であって、最初の共有持分の取得が相続又は遺贈以外の原因による者については、相続を契機にしてやむを得ず土地を取得したとはいえないため、国への土地所有権の移転は認めるべきではないと考えられるが、これを法制上どのように表現するかについては引き続き検討する。
7 一筆ごとの認定処分(本文3)
所有権が移転される土地は、一筆の土地であることを要すると考えられることから、所有権移転の認定処分は、一筆ごとにするものとすることを提案している。
なお、認定処分申請者が一筆の土地の一部についてのみ所有権移転することを希望するのであれば、分筆した上で申請をする必要があると考えられる。これに対しては、一筆の土地を分筆して、条件が悪く利用しにくい部分のみを国に移転することが可能になり、モラルハザードを助長するおそれがあるとの指摘が考えられるが、条件が悪く利用しにくい土地であっても、法定の要件を満たし、管理手数料を納付するなどして認定処分を受けなければ国への所有権移転は認められないのであり、この指摘は必ずしも当たらないものと考えられる。
8 共有地の所有権移転(本文4)
「所有権放棄の認可」が「所有権移転の認定処分」に変更されていること以外は、部会資料36の第1の2で提案した内容と同じである。共有地の所有権の国への移転は、共有者全員の同意を必要とする処分行為に該当するものと考えられることから、全ての共有者が共同してしなければならないものとすることを提案している。
9 手続的要件(本文5)
「認可」が「認定処分」に変更されていること以外は、部会資料36の第1の3で提案した内容と同じである。なお、本文10(3)のとおり、申請に先立って、政省令で定める方法により、売却、貸付け等の処分その他の行為が試みられていない場合には、申請を却下することを想定している。
10 実体的要件(本文6)
(1) 基本的な考え方
部会資料36においては、所有権放棄が認められない土地を類型化して提案していたが、第16回会議においては、この類型は所有権放棄の可否に直結するものであるにもかかわらず、その内容の重要部分が政省令に委任されており、適切ではないとの意見があった。
そこで、国民の予測可能性が担保されるようにするため、部会資料36の第1の4(4)で、「その管理又は処分に過分の費用を要する土地として政省令で定めるもの」として提案していた土地の類型として想定される例を明示し、その他については、政省令で定めることとするなど、部会資料36で提案していた所有権放棄が認められない土地の類型の内容を修正して再構成
し、国への所有権移転が認められない土地の類型として本文6で提案しているが、他の法制とのバランスも踏まえつつ、引き続き検討する。
(2) 国への所有権移転が認められない土地の類型
ア 建物が存在する土地(本文6(1))
「その管理又は処分に過分の費用を要する土地として政省令で定めるもの」の想定される例として、部会資料36の(注2)㋐で提案していたものと同じである。
イ 土地の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存在する土地(本文6(2))
「その管理又は処分に過分の費用を要する土地として政省令で定めるもの」の想定される例として、部会資料36の(注2)㋑で提案していたものとほぼ同じであるが、本文6(5)の埋設物との対比で、有体物が地上に存在することを明記している。
ウ 急傾斜地として政令で定める土地(本文6(3))
「その管理又は処分に過分の費用を要する土地として政省令で定めるもの」の想定される例として、部会資料36の(注2)㋒では、「崖地等の管理困難な土地であること」を注記していたが、内容を明確にするため、表現を「急傾斜地」に改めている。その内容については、各種行政法規等を参考にして引き続き検討する必要があり、詳細については、政令で規定することを想定している。なお、「急傾斜地」については、一定の傾斜度があることを基礎とすることになるが、土地の性質によって、類型的に急傾斜地が多く含まれる土地もあり、そのような土地については、一定の傾斜度があるからといって直ちに所有権移転を認めないとすることは相当でないことから、政令においてその旨を明らかにすることを想定している。
エ その土壌の政令で定める有害物質による汚染状態が当該有害物質の種類ごとに政令で定める基準に適合しないと認める土地(本文6(4))
「その管理又は処分に過分の費用を要する土地として政省令で定めるもの」の想定される例として、部会資料36の(注2)㋓で提案していた「土地に埋設物や土壌汚染がないこと」を修正し、土壌汚染について、「その土壌の政令で定める有害物質による汚染状態が当該有害物質の種類ごとに政令で定める基準に適合しないと認める土地」という規律を設けることを提案している。
土壌汚染対策法においては、同法第6条第1項において、都道府県知事が、土壌汚染状況調査の結果、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合せず、かつ、土壌の特定有害物質による汚染により、人の健康に係る被害が生じ、又は生ずるおそれがあるものとして政令で定める基準に該当する(摂取経路がある)と認める場合に、その土地が特定有害物質に汚染されており、当該汚染による人の健康に係る被害を防止するため、汚染の除去等の措置を講ずることが必要な区域(要措置区域)として指定するものとするなど、一定の基準を超える特定有害物質が検出された土地における土壌汚染対策等について規定されている。
本文6(4)の「政令で定める有害物質」については、政令において、土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質を引用する形で規定することを想定している。また、「政令で定める基準」については、政令において、土壌汚染対策法の環境省令で定める基準(特定有害物質に係る土壌溶出量基準及び土壌含有量基準)と同様の基準を定めることを想定している。
なお、土壌汚染対策法においては、土壌の特定有害物質による汚染により、人の健康に係る被害を生じさせることを防止する観点から、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないと認める場合において、摂取経路がある場合であっても、通常土壌汚染の除去まではせずに、地下水の水質の測定、遮水工による封じ込めや盛土等の措置を行えば足りる(要措置区域)。また、摂取経路がない場合には、汚染の除去等の措置を講ずる必要はない(形質変更時要届出区域)。
このような観点からは、当該土地の土壌の政令で定める有害物質による汚染状態が政令で定める基準に適合しないと認める場合であっても、適切な汚染の除去等の措置が講じられていれば、そのような土地の国への所有権移転を認めることも考えられるが、そのような土地の所有権を国に移転させた後で、自然災害等により、その土壌が他の土地に流出するなどすれば、国がその責任を追及されるおそれがある。
そこで、その土壌の政令で定める有害物質による汚染状態が当該有害物質の種類ごとに政令で定める基準に適合しないと認める土地については、当該土壌の汚染の除去が行われ、同基準に適合する状態とならない限り、国への所有権移転は認めるべきではないと考えられる。その他の内容は、部会資料36と同じである。
なお、土地の外観や地歴から、土壌汚染の存在が疑われ、審査機関が認定処分申請者に対して、詳細な調査結果を求めたにもかかわらず、認定処分申請者がこれに応じない場合には、本文9(2)の調査に応じないものとして申請が却下されることが想定される。
オ 地下に埋設物その他除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができないものが存在する土地(本文6(5))
「その管理又は処分に過分の費用を要する土地として政省令で定めるもの」の想定される例として、部会資料36の(注2)㋓で提案していたものとほぼ同じであり、「土地に埋設物や土壌汚染がないこと」のうち、埋設物について、「埋設物その他除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができないもの」に表現を改めて提案している。
地中の埋設物については、土地の管理や利用の支障となる可能性があることから、事前に土地の掘削等を行って埋設物が存在しないことが確認された土地についてのみ、国への所有権移転を認めるべきとも考えられるが、全ての土地について、このような確認を行うのは現実的ではない。また、地中に埋設物があったとしても土地の管理や利用に支障がないことも多く、一律に所有権移転を否定するまでの必要はないとも考えられる。
そこで、土地の外観や地歴から、明らかに埋設物が存在する蓋然性が認められるような場合以外は、掘削等は行わず、事後的に、要件の認定処分の時点で地中に埋設物が存在していたことが判明し、かつ、その埋設物が土地の管理又は処分を阻害するものと認められる場合に、認定処分を取り消すことが考えられる。例えば、広大な土地の一部に若干の埋設物が存在していても土地の管理には支障がないものと認められることがある一方で、農地においては、農作物を作る土地という性質上、わずかな埋設物であっても、土地の管理を阻害すると認められる可能性があることから、土地の管理を阻害するかは、土地の性質に応じて判断すべきものと考えられる。いずれにしても、どのような埋設物について所有権移転が認められないかにつき、規律の定め方を含め、引き続き検討する。
カ 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地(本文6(6))
部会資料36の第1の4(2)で提案していたものと基本的に同じである。なお、買戻し特約が付されている土地や不法占拠者が占有している土地などについては、部会資料36の第1の4(2)では、「その他これに準ずる事情がある土地」として政省令で定めることを提案していたが、本文6(9)で新たに提案している「管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要するもの」として、政令で定めることを想定している。
キ 境界が明らかでない土地その他所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地(本文6(7))
部会資料36においては、「権利の帰属について争いがある土地として政省令で定めるもの」として提案していたが、第16回会議における、内容をできるだけ明らかにすべきであるとの意見を受け、その内容として典型的に想定される「境界が明らかでない土地」を例として明示し、その上で、所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地を国への所有権移転が認められない土地の類型として提案している。想定している内容は、部会資料36の第1の4(3)で提案していたものと同じである。
また、部会資料36においては、隣接地の所有者との間で所有権の境界について争いがないことを要件とし、その具体的内容については、政省令で定めることを提案していた。これに対し、第16回会議においては、所有権放棄に当たっては、土地の筆界の特定まで要求されていなければ、隣接者との間で、あえて筆界とは異なる所有権界が設定されるおそれがあり、また、国に帰属した土地を処分したり利用したりするときに不都合が生じるおそれがあるとの指摘があった。
土地の筆界が特定されていない場合に、土地の利用や処分が困難になるのはこの指摘のとおりであるが、利用希望者が現れない可能性が高いと考えられる土地の国への所有権移転に当たって、筆界の特定までを要求する
のはやはり過大であると考えられ、境界が明らかでない土地という本文6(7)の類型としては、隣地所有者との間で所有権界について争いがないことを基本とするのが、本制度が機能するためには必要であると考えられる。相続税の物納制度においても、土地の物納に当たって、境界に争いがなければよいとされている(相続税法第41条第2項、相続税法施行令第18条第1号ハ、相続税法施行規則第21条第3項第1号参照)。
なお、所有権界に争いがないかを判断するための資料としては、認定処分申請地と隣地との境界について隣地所有者に異議がないことを示す書面の提出を求めるほか、境界標の設置や測量図面の提出を求めることも考えられるが、通常の土地取引における境界確認の実務等も踏まえつつ、引き続き検討が必要である。
ク 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分ができないと見込まれる土地(本文6(8))
例えば、隣地上にある竹木の枝や建物の屋根の庇が、認定処分申請地と隣地の境界を越えて、認定処分申請地内に大きく張り出している場合のように、土地の帰属や範囲については争いがないが、隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる土地の類型が想定されるが、このような土地を利用、管理等をするに当たっては、隣接地の住民との間でトラブルが発生し、土地の利用、管理等に支障を来す可能性がある。
そこで、隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分ができないと見込まれる土地については、国への所有権移転をすることができないものとすることを提案している。なお、相続税の物納の要件を定めた相続税法施行令にも同様の規定がある(同施行令第18条第1号ニ)。
ケ 管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要するものとして政令で定める土地(本文6(9))
前記(1)で述べたとおり、国民の権利に関わる重要な事項につき、政省令で規定するのは望ましくないとの第16回会議における意見を踏まえ、本資料においては、国民の予測可能性を担保するため、国への所有権移転が認められない土地の類型をできるだけ明確にすることとしたが、土地は、その性質上、利用状況や土地の形状等が様々であり、簡潔に類型化することには限界がある。
そこで、本文6の(1)から(8)までに掲げる土地のほか管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要するものとして政令で定める土地について、国への所有権移転を認めないことを本文6(9)において提案している。
このような規律を設けることにより、本文6の(1)から(8)までに掲げる土地には直接該当しないがこれらの土地に類する土地や、部会資料36において、鉱泉地、池沼、ため池、墓地、境内地、運河用地、水道用地、用悪水路、井溝、堤、公衆用道路、別荘地などの、地域住民等によって管理・利用され、その管理に当たって多数の者との間の調整が必要になる土地を念頭に置いて、「土地の管理に当たって他者との間の調整や当該土地の管理以外の目的での過分の費用負担が生じる土地」として示していた土地についても、国への所有権移転を認めない土地として、詳細を政令で定めることを想定している。
土地所有権の国への移転の手続(本文7から10まで)
部会資料36で提案していた内容から基本的に変更はない。新たに追加している事項は、以下のとおりである。
(1) 事実の調査(本文9)
認定処分申請地が、本文6の土地に該当するか否かを審査機関が判断するためには、その職員が実地調査を行い、関係者から事情を聴取し、認定処分申請地に必要な限度で立ち入ることが不可欠であり、そのような調査の根拠規定を設けることが必要であると考えられる。
(2) 却下事由及び不認定処分事由(本文10、(注5))
土地所有権の国への移転の申請についての却下事由を本文10の(1)から(3)まで、(5)及び(6)として提案し、不認定処分事由を本文10(4)として提案している。
このうち、本文10の(1)、(2)及び(5)は行政処分の申請に係る一般的な却下事由の規定にならったものである。
本文10(3)は、土地所有権の国への移転が、売却や貸付の処分等をするための努力を尽くしてもなお、土地の利用者等を見つけることができなかった場合に限定して認められる最終手段であるというこの制度の位置付けに鑑みて、そのような努力をしなかったことを却下事由とするものである。
本文10(6)は、認定処分申請者が本文9の事実の調査に応じないとすれば、土地の現況等を確認することができず、本文6の土地に該当するかどうかを判断できないことから、却下事由とするものである。
本文10(4)は、認定処分申請地が本文6の土地に該当する場合に、審査機関が不認定処分をすることを定めるものである。
12 移転者の損害賠償責任について(本文11)
部会資料36の第1の9で提案していた内容につき、第16回会議における指摘を踏まえ、修正したものである。
(1) 善意で重大な過失がなかった者について(本文11(1))
部会資料36においては、所有権放棄の要件を満たしていないことによって国に損害が生じたときは、放棄者は、これを賠償する責任を負うが、放棄者が過失なく要件を満たしていないことを知らなかったときは、この限りではないものとすることを提案していた。第16回会議においては、放棄者が善意無過失であったことにつき、放棄者が立証責任を負うことになり、その
立証は容易ではなく、事実上、放棄者が常に責任を負うことになりかねないとの意見があった。
これを踏まえ、移転地が6のいずれかに該当していたことにつき移転者が善意でかつ重大な過失がなかったときは、損害賠償責任を負わないものとすることを本文11(1)において提案している。
(2) 損害賠償請求権の消滅時効(本文11(2))
ア 起算点について
第16回会議においては、損害賠償の期間制限の起算点について、国からの求償の機会が奪われないようにするために、要件が充足されていなかったことを国が知ったときとすべきではないかとの指摘があった。
国から移転者への求償に着目すると、国の移転者に対する損害賠償請求権の期間制限の起算点については、認定処分の時点で要件が充足されていなかったことを国が知った時とすることも考えられるものの、本制度においては、移転者は、審査機関による要件審査を受け、かつ、土地の将来の管理に係る手数料を納付した上で土地の所有権を国へ移転することから、
あまりに長期間にわたって移転者を不安定な地位に置くのは適切ではないと考えられる。
そこで、損害賠償請求権の期間制限の起算点については、所有権移転の認定処分時とする提案を維持している。
イ 消滅時効について
第16回会議においては、長期間にわたり土地の所有権を放棄した者を不安定な立場に置くのが適切でないというのであれば、損害賠償請求権の期間制限を除斥期間として構成することが考えられるとの指摘があった。
もっとも、認定処分の時点で要件が満たされていなかったことにより国に発生した損害につき、国が申請者の賠償責任を追及することを可能とする必要があるのであり、国の損害賠償請求権を過度に制限することも相当ではないと考えられる。
そこで、損害賠償請求権の期間制限の法的性質については、当事者の援用を要し、完成猶予や更新が可能である消滅時効とする提案をしている。
ウ 期間の長さについて
部会資料36では、会計法(昭和22年法律第35号)の規律を参考にして、国の損害賠償請求権の行使可能期間を5年としていたが、これについては期間が短いのではないかとの意見があった。
改めて検討すると、会計法第30条は、国の金銭債権について、「これを行使することができる時」から5年間で時効消滅するものとしているが、本制度の損害賠償請求権について、起算点を会計法と同様にすることが適切でないのは、アで述べたとおりである。他方で、期間制限の起算点を認定処分時とした上で、損害賠償請求が可能な期間を5年とすると、会計法で想定されているより短期間で損害賠償請求権を行使することができなくなることとなり、バランスを失すると考えられる。他方で、移転者があまりに長期間にわたって損害賠償請求がされ得る立場に置かれるのも適切ではない。
そこで、民法第166条第1項第2号において、債権は、権利を行使することができる時から10年間行使しないときに時効消滅することとされていることを参考に、国による損害賠償請求権行使の期間制限を10年間とすることを本文11(2)において提案している。
(参考)
〇 会計法(昭和二十二年法律第三十五号)
第30条 金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、これを行使することができる時から五年間行使しないときは、時効によつて消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
〇 民法(明治二十九年法律第八十九号)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2・3 (略)
13 認定処分の職権取消し(本文12)
(1) 職権取消事由(本文12(1))
部会資料36では、行政行為の取消しについて、認可の時点で土地所有権の放棄の要件が充足されていなかったことが判明した場合には、審査機関は、行政行為の取消しに関する一般法理に従い、認可処分を取り消し、所有権放棄を遡及的に無効とすることができることを前提にしていることを注記していた。
もっとも、国民の予測可能性を担保するために、どのような場合に職権取消しがされるかにつき、規律を設けることが望ましいと考えられる。
そこで、職権取消事由について、本文12(1)で提案している。
本文12(1)アについては、これまでの部会資料や中間試案で提案していたとおり、国への土地所有権移転の認定処分時点で本文6に該当していたことが事後的に判明した場合に、認定処分を取り消すことを想定している。
本文12(1)イについては、事実を偽るなど不正の手段を用いて認定処分を受けた場合に、職権取消しを可能にすることを想定しているが、本文6に該当するとして上記アで取り消すことが可能な場合も多いと考えられる。
なお、職権取消しについては、法律による行政の原理を根拠にするものであるが、国民の利益や信頼、公益の保護とのバランスを念頭に置いて行われる必要があると考えられ、本文12(1)で提案している事由が存する場合であっても、審査機関の裁量により、認定処分を取り消さない場合もあり得る。
(2) 職権取消しの同意(本文12(2))
国に所有権が移転された土地を取得した第三者を保護するとともに、国の土地利用を妨げないようにするために、審査機関は、移転地の所有者等(所有者等が二人以上いるときは、その全員)又は国の行政機関の長の同意を得なければ、当該土地の所有権移転の認定処分を取り消すことができないものとする趣旨であり、部会資料36の第1の10と同様の内容である。
(3) 職権取消しの期間制限(本文12(3))
部会資料36の補足説明(20頁)に記載したとおり、所有権移転の認定処分は授益的な側面を有するため、これを職権で取り消すに当たっては、移転者の信頼保護の利益にも配慮する必要があり、移転者が長期間にわたり不安定な立場に置かれることがないよう、認定処分の職権取消しについて期間制限の規律を設けることも考えられるが、例えば、土地所有者が地中に有害
物質を埋めたにもかかわらず、これを秘して所有権移転の申請を行って認定処分がされた場合において、一定期間経過後にそれらの事情が判明したケースを想定すると、要件が満たされていないことについての悪意者については、その信頼保護の利益に配慮する必要はない。
そこで、所有権移転の認定処分の職権取消しについては、認定処分から10年の期間制限を設けることとするが、所有権移転の要件が満たされていないことについて、認定処分の時点で悪意であった者については、期間制限を適用しないことを本文12(3)で提案している。
第2 共有持分の放棄
民法に共有持分の放棄を制限する規律を設けることに関する次の各案につき、どのように考えるか。
【甲案】共有持分を放棄するためには、他の共有者全員の同意を必要とするものとする。
【乙案】共有持分の放棄については、新たな規律を設けないものとする。(補足説明)
1 第16回会議における意見
部会資料36では、【甲案】として、共有持分を放棄するためには、他の共有者全員の同意を必要とするものとすること、【乙案】として、不動産の共有持分を放棄するためには、他の共有者全員の同意を必要とするものとすることを提案していた。
第16回会議においては、自由な共有持分の放棄を認めるべきではなく、その対象を不動産に限る必要はないとして【甲案】に賛成する意見や、不動産は管理の負担が動産と比べて重いこと、現在も持分放棄の登記をする際には共同申請で他の共有者の協力が必要であることから、実務上も乙案であればあまり違和感がないとして、【乙案】に賛成する意見があった。
また、いずれの案を採用した場合にも、共有者のうちの1人が反対したときに共有持分の放棄が認められないことに問題はないか、【甲案】を採用した場合に、株式等の無体財産権の準共有に、実務に影響が出る可能性があるのではないかとの指摘があった。
2 提案について
(1)【甲案】について
本文の甲案については、部会資料36と同じである。
(2)【乙案】について
これまで共有持分の放棄についての規律を設けることを検討してきたのは、現行法においては、他の共有者の同意を得ることなく共有持分を放棄することにより、共有物の管理等にかかる負担を早い者勝ちで他の共有者に押し付けることが少なくとも法律上は可能であることを改善する必要はないかという問題意識による。
もっとも、動産・不動産を問わず、他の共有者に一方的に負担を押し付ける目的で共有持分を放棄した場合には、通常は権利濫用(民法第1条第3項)に該当すると思われ、早い者勝ちで負担を他に押し付ける事態が生ずるおそれは限定的であるとも考えられる。
また、不動産は、管理の負担が相対的に重く、共有持分を放棄して早い者勝ちで負担を他に押し付けることを許容することによる弊害が取り分け大きいと考えられ、権利濫用と判断される可能性は動産に比べて高いといえる。加えて、権利に関する登記の申請は、登記義務者である共有持分の放棄者と登記権利者である他の共有者の共同申請によらなければならない(不動産登記法第60条)ことに鑑みると、不動産の共有持分登記を有する共有者が持分を放棄する旨の意思表示をしたとしても、例えば持分の移転の登記をしない限り固定資産税の納税義務を免れることはできないし(地方税法第343条第2項参照)、他の共有者は共有持分権の一部不存在や登記引取請求権の不存在の確認を求めて争うことが可能であるなど、他の共有者に与える影響は比較的小さいと思われる。
さらに、管理の負担が大きくない物や株式等の無体財産が準共有されている場合において、共有者の一部が共有持分を放棄して他の共有者に持分を按分で帰属させることは、その財産の管理の観点からも有用なケースもあり得るところであり、【甲案】を採用して、一律に他の共有者全員の同意がなければ放棄を認めないとすることの影響を見極める必要がある。
なお、現行法においては、共同相続人がその相続分の放棄をすることが実務上認められているが、その法律上の根拠は、共有持分の放棄に関する民法第255条に求める見解もあり、共有持分の放棄を制約する規律を設ける場合には、相続分の放棄に関する解釈や実務運用に与える影響も踏まえる必要がある。
これらの事情を考慮し、共有持分の放棄につき、新たな規律を設けない案を【乙案】として提案している。
なお、部会資料36では、【乙案】として、不動産の共有持分を放棄するためには、他の共有者全員の同意を必要とすることを提案していたが、上記のとおり不動産の共有持分の放棄が権利濫用と判断される可能性が動産と比較して高いとしても、その差は相対的なものにとどまると考えられることから、本資料では提案していない。
不動産は、法令に特別の定めがある場合を除き、その所有権を放棄することができないものとする規律を民法に設けた上で、次のような規律を内容とする土地所有権の放棄に関する法律を制定することで、どうか。
1 土地の所有者は、法律の定めるところに従い、審査機関の認可を受けて、所有する土地の所有権を放棄することができるものとする。
2 土地が二人以上の共有に属する場合における所有権放棄の認可の申請(第1において「放棄申請」という。)は、全ての共有者が共同してしなければならないものとする。
3 放棄申請をしようとする所有者は、その申請に先立って、政省令で定める方法により、売却、貸付け等の処分その他の行為を試みなければならないものとする。
4 1の認可は、放棄申請の対象地が、次のいずれかに該当するものである場合には、することができないものとする。
(1) 所有者が相続(遺産の分割や特定財産承継遺言によるものを含む。)又は遺贈(受遺者である所有者が遺言者の相続人であった場合に限る。)以外により取得した土地
(2) 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されていることその他これに準ずる事情がある土地として政省令で定めるもの
(3) 権利の帰属について争いがある土地として政省令で定めるもの
(4) その管理又は処分に過分の費用を要する土地として政省令で定めるもの
5 放棄申請をしようとする者は、政令で定めるところにより、政令で定める額の認可に係る手数料及び土地の管理に係る手数料を納付しなければならないものとする。
6 審査機関は、放棄申請があったときは、遅滞なく、国の関係行政機関の長及び当該放棄申請がされた土地の所在地を管轄する地方公共団体の長にその旨を通知しなければならないものとする。
7(1) 審査機関は、1の認可に係る審査をするため必要があると認めるときは、他の関係行政機関の長の意見を聴くことができるものとする。
(2) 審査機関は、1の認可に係る審査をするため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長又は関係のある公私の団体に対し、資料の提出その他必要な協力を求めることができるものとする。
8 審査機関は、土地所有権の放棄の認可申請があったときは、3の試みがされていない場合又は4に掲げる場合を除き、1の認可をしなければならないものとする。
9(1) 4に規定する要件を満たしていないことによって国に損害が生じたときは、放棄者は、これを賠償する責任を負う。ただし、放棄者が過失なく要件を満たしていないことを知らなかったときは、この限りではないものとする。
(2) (1)によって生じた損害の賠償は、所有権放棄が認可された時から5年以内に請求しなければならないものとする。
10 審査機関は、放棄地を管理する関係行政機関の長及び当該放棄地に係る権利を取得した者並びにその承継人の同意を得なければ、当該放棄地に係る所有権放棄の認可を職権により取り消すことができないものとする。
(注1)所有者のない不動産は国庫に帰属するとする民法第239条第2項により、所有権が放棄された土地は最終的に国庫に帰属する。
(注2)4(4)の政省令で定める内容としては、㋐建物が存在すること、㋑土地の性質に応じた管理を阻害する有体物(工作物、車両、樹木等)が存在すること、㋒崖地等の管理困難な土地であること、㋓土地に埋設物や土壌汚染があること、㋔土地の管理に当たって他者との調整や当該土
地の管理以外の目的での費用を過分に要することとすることが考えられる。
(注3)土地所有権を国が取得した後に、審査機関による認可の時点で土地所有権の放棄の要件が充足されていなかったことが判明した場合には、行政行為の取消しに関する一般法理に従い、審査機関は、認可処分を取り消し、所有権放棄を遡及的に無効とすることができることを前提にしている。
○中間試案第5
1 土地所有権の放棄を認める制度の創設
土地の所有者(自然人に限る。)は、法律で定めるところによりその所有権を放棄し、土地を所有者のないものとすることができるとする規律を設けることについて、引き続き検討する。
(注1)所有者のない不動産は国庫に帰属するとする民法第239条第2項により、所有権が放棄された土地は最終的に国庫に帰属する。
(注2)本文とは別に、土地の所有権を放棄することができる主体について、法人も含むとすることも考えられる。
(注3)共有地については、共有者全員が共同で放棄しない限り、土地を所有者のないものとすることはできないとする方向で引き続き検討する。
2 土地所有権の放棄の要件及び手続
土地の所有者は、次に掲げるような要件を全て満たすときは、土地の所有権を放棄することができるとする規律を設ける。
① 土地の権利の帰属に争いがなく筆界が特定されていること。
② 土地について第三者の使用収益権や担保権が設定されておらず、所有者以外に土地を占有する者がいないこと。
③ 現状のままで土地を管理することが将来的にも容易な状態であること。
④ 土地所有者が審査手数料及び土地の管理に係る一定の費用を負担すること。
⑤ 土地所有者が、相当な努力が払われたと認められる方法により土地の譲渡等をしようとしてもなお譲渡等をすることができないこと。
(注1)土地所有権の放棄の要件の有無を国の行政機関(放棄された土地の管理機関とは別の機関とすることが想定される。)が事前に審査し、この機関が放棄を認可することにより国庫帰属の効果が発生するとすることを前提としている。なお、所有権放棄の認可が適正にされるようにするため、審査機関を放棄された土地の管理機関とは別の機関にすることが考えられるところ、適正な審査が可能となるよう、土地所有権の放棄の要件は可能な限り客観的なものとする必要がある。
(注2)審査機関が土地所有権の放棄を認可しなかったときは、放棄の認可申請をした土地所有者は、不認可処分の取消しを求める抗告訴訟や行政上の不服申立手段によって救済を求めることになることを前提にしている。
(注3)土地所有権の放棄の認可申請を受けた審査機関は、当該土地の所在する地方公共団体と国の担当部局に対して、所有権放棄の申請がされている土地の情報を通知するものとし、地方公共団体又は国がその土地の取得を希望する場合には、放棄の認可申請をした土地所有者と直接交渉して贈与契約(寄附)を締結することを可能にする方向で検討する。
(注4)①の「土地の権利の帰属に争いがなく」の具体的内容には、放棄の認可申請者が放棄される土地の所有者であることが不動産登記簿から明らかであることも含まれることを想定しているが、具体的にどのような登記がされていれば足りるかについては、引き続き検討する。また、「筆界が特定されていること」の認定の在り方についても、認可申請の際に認可申請者が提出すべき資料の在り方を含めて、引き続き検討する。
(注5)③の具体的内容としては、例えば、㋐建物や、土地の性質に応じた管理を阻害する有体物(工作物、車両、樹木等)が存在しないこと、㋑崖地等の管理困難な土地ではないこと、㋒土地に埋設物や土壌汚染がないこと、㋓土地の管理に当たって他者との間の調整や当該土地の管理以外の目的での費用負担を要しないことなどが想定される。
(注6)土地所有権を国が取得した後に、審査機関による認可の時点で土地所有権の放棄の要件が充足されていなかったことが判明した場合の規律については、行政行為の取消しに関する一般法理を踏まえ、引き続き検討する。
3 関連する民事法上の諸課題
⑵ 建物及び動産の所有権放棄
建物及び動産の所有権放棄の規律は設けない。
⑶ 所有権放棄された土地に起因する損害の填補
所有権放棄された土地に起因して第三者や国に損害が生じた場合における、放棄者の損害賠償責任の規律の要否については、認可の取消しの在り方と併せて検討する。
1 制度の創設について(本文柱書きについて)
(1) 土地所有権の放棄制度の創設の趣旨
試案第5の1では、自然人である土地の所有者が、法律で定めるところによりその所有権を放棄し、土地を所有者のないものとすることができるとする規律を設けることにつき、引き続き検討することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、賛成する意見が多数であり、反対意見についても、試案第5の2で提案された要件が厳格過ぎることを理由にするものであって、土地所有権の放棄を認めることそのものに反対するものはなかった。また、包括承継主義を採用する相続法制にあっては、土地所有者が当該土地からの受益者と必ずしもいえず、相続を契機として管理コストの大きな土地の権利関係に巻き込まれる場合があり、そのような土地所有者が過度な土地の管理コストを負わないようにすべきとの意見があった。
制度創設の趣旨について改めて検討すると、土地所有権の放棄は、土地の所有に伴う義務・責任や管理コストの国への転嫁や、所有者が将来の放棄を見越して土地を適切に管理しなくなるモラルハザードを生じさせるおそれがあることから、基本的には認められるべきではない。
他方で、政策的には、現在適切に管理されている土地が将来管理不全状態となることを防ぐとともに、相続により取得された土地が、相続登記がされずに放置されるなどして、最終的に所有者不明土地化することを抑制する必要があると考えられる。
加えて、土地の所有者は、土地の管理について一定の責務を負うが(土地基本法等の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)による改正後の土地基本法(平成元年法律第84号)第6条参照)、相続により土地の所有者となった者は、当該土地からの受益がなくても、相続を契機として土地をやむを得ず所有していることが類型的にあり得るため、一定の限度で、土地の管理の負担を免れる途を開くことが相当であると考えられる。
(2) 建物及び動産の所有権放棄
試案第5の3(2)では、建物及び動産の所有権放棄については、新たな規律を設けないものとすることを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、開発可能な土地上には建物が存在することが多く、建物所有権の放棄を認めなければ、土地所有権の放棄ができず、制度の実効性を確保できないなどとして建物の所有権放棄を認めるべきとする意見や、土地を建物や動産と併せて放棄した方が土地の管理活用における効率がよい場合にまで、建物の滅失処理や動産の廃棄を強制するのは非効率であり、所有者不明土地問題の解決に資する範囲で動産等の所有権放棄を認めるべきであるとの意見等があったが、国の財政的負担の観点や土地に比べて所有権放棄を認める必要性が乏しいことなどから、試案の提案に賛成する意見が多くあった。
建物所有権の放棄も、土地の場合と同様に、管理コスト等の国への転嫁やモラルハザードを生じさせるおそれがあるが、建物は、時間の経過とともに老朽化し、建替えや取壊しの費用が発生するなど、土地以上に管理コストが必要となることや、土地と異なり、物理的に滅失させることが可能であることから、例外的に放棄を認める規律を設けることは、土地以上に慎重である必要があると考えられる。
他方で、動産については、物理的に滅失させることが比較的容易であり、現在、所有権放棄が可能であると一般に解されているため、新たな規律を設ける必要性が乏しいと考えられる。
(3) 民法の改正と土地所有権放棄制度の創設
以上を踏まえ、本部会資料では、不動産は、法令に特別の定めがある場合を除き、その所有権を放棄することができないものとする規定を民法に設けるものとすることとした上で、新たに土地所有権の放棄に関する法律を制定し、土地については、一定の要件を満たし、審査機関による認可がされた場合に、所有権放棄を認める規律を導入することを提案している。
(参考)土地基本法(平成元年法律第84号)
(適正な利用及び管理等)
第3条 土地は、その所在する地域の自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件に応じて適正に利用し、又は管理されるものとする。
2 土地は、その周辺地域の良好な環境の形成を図るとともに当該周辺地域への悪影響を防止する観点から、適正に利用し、又は管理されるものとする。
3 土地は、適正かつ合理的な土地の利用及び管理を図るため策定された土地の利用及び管理に関する計画に従って利用し、又は管理されるものとする。
(土地所有者等の責務)
第6条 土地所有者等は、第二条から前条までに定める土地についての基本理念(以下「土地についての基本理念」という。)にのっとり、土地の利用及び管理並びに取引を行う責務を有する。
2 土地の所有者は、前項の責務を遂行するに当たっては、その所有する土地に関する登記手続その他の権利関係の明確化のための措置及び当該土地の所有権の境界の明確化のための措置を適切に講ずるように努めなければならない。
3 土地所有者等は、国又は地方公共団体が実施する土地に関する施策に協力しなければならない。
(適正な土地の利用及び管理の確保を図るための措置)
第13条 国及び地方公共団体は、前条第一項の計画に従って行われる良好な環境の形成又は保全、災害の防止、良好な環境に配慮した土地の高度利用、土地利用の適正な転換その他適正な土地の利用及び管理の確保を図るため、土地の利用又は管理の規制又は誘導に関する措置を適切に講ずるとともに、同項の計画に係る事業の実施及び当該事業の用に供する土地の境界の明確化その他必要な措置を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、前項の措置を講ずるに当たっては、公共事業の用に供する土地その他の土地の所有権又は当該土地の利用若しくは管理に必要な権原の取得に関する措置を講ずるように努めるものとする。
3 国及び地方公共団体は、第一項の措置を講ずるに当たっては、需要に応じた宅地の供給が図られるように努めるものとする。
4 国及び地方公共団体は、第一項の措置を講ずるに当たっては、低未利用土地(居住の用、業務の用その他の用途に供されておらず、又はその利用の程度がその周辺の地域における同一の用途若しくはこれに類する用途に供されている土地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる土地をいう。以下この項において同じ。)に係る情報の提供、低未利用土地の取得の支援等低未利用土地の適正な利用及び管理の促進に努めるものとする。
5 国及び地方公共団体は、第一項の措置を講ずるに当たっては、所有者不明土地(相当な努力を払って探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地をいう。)の発生の抑制及び解消並びに円滑な利用及び管理の確保が図られるように努めるものとする。
2 土地の国庫帰属(本文(注1)について)
試案第5の1の(注1)では、土地所有権の放棄を認める制度を新設にするに当たっては、所有権が放棄された土地は所有者のない不動産となり、民法第239条第2項により国庫に帰属することを前提にしている旨を注記していたが、パブリック・コメントにおいては、地方公共団体に一定の関与を求める意見があったものの、最終的に土地が国庫帰属することに反対する意見はなかった。
これを踏まえ、本文(注1)においては、所有権放棄された土地は民法第239条第2項により国庫帰属することを注記している。
3 認可及び審査機関(本文1について)
試案第5の2(注1)では、土地所有権の放棄の要件の有無を国の行政機関が事前に審査し、この機関が放棄を認可することにより国庫帰属の効果が発生するものとすることを注記していた。パブリック・コメントにおいては、土地所有権の放棄を単なる単独行為とすることは、公的負担となる土地の管理コストの増加等の点から問題があるため、行政機関の認可にかからしめることが合理的であるとして賛成する意見があり、反対意見は見当たらなかった。
これを踏まえ、要件の審査は国の行政機関が行うこととするとして、要件の有無について専門的な知見に基づき実地調査を行うなどして迅速に判断することができる機関にこれを担当させることが必要である。
審査機関については、第2回会議においては、公平性・公正らしさを担保するため、放棄された土地を管理する機関からできるだけ遠い公的機関を審査機関とすべきである旨の意見があったが、このような要素のほか、要件審査の能力や利用者にとっての利便性などの観点も踏まえて検討される必要がある。なお、いずれの行政機関を審査機関とするにしても、放棄の要件の全てを単独で判断することができる専門性を有する機関は存在しないため、審査機関が他の行政機関の知見を活用することができる仕組みとする必要がある。
4 共有地の所有権放棄(本文2について)
試案第5の1の(注3)においては、共有地については、共有者全員が共同で放棄しない限り、土地を所有者のないものとすることはできないこととする方向で検討する旨を注記していた。
パブリック・コメントにおいては、土地の所有権放棄は土地の処分に該当することから、共有者全員の同意が必要である(民法第251条)と考えられることや、他の共有者の権利・利益が一方的に奪われないようにする観点から、共有者全員が共同で放棄しない限り、土地を所有者のないものとすることはできないものとすることに賛成する意見が多かった。
これに対し、土地の共有者の一部が所在不明であるケースにおいては、共有者全員の同意を得ることができず、事実上、所有権放棄ができなくなる旨の意見もあったが、このようなケースについては、所在不明共有者の持分について検討中の所有者不明土地管理人の選任を受けて、土地管理人と共同して放棄をすることが考えられる(もっとも、土地管理人が放棄をするためには、裁判所の許可が必要になると考えられる。)。
これを踏まえ、本文2においては、共有地の放棄申請は、全ての共有者が共同してしなければならないものとすることを提案している。なお、検討中の共有物の管理に関する行為についての同意取得の特例(部会資料30の第1参照)は、共有持分の喪失を伴うものは対象行為から除外しており、この場面では適用されないものと考えられる。
5 土地所有権の放棄の手続的要件(本文3について)
土地所有権の放棄は、土地の管理コストを国、ひいては国民に転嫁する面を有することに鑑みると、土地は、まずは民間や公的機関を介した流通・利用が試みられるべきであり、所有権放棄は、いわば最後の手段とすべきであることから、試案第5の2⑤では、土地所有者が、相当な努力が払われたと認められる方法により土地の譲渡等をしようとしてもなお譲渡等をすることができないことを所有権の放棄の手続的要件とすることを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、譲渡等をしようとしてもできないことから所有権を放棄するのが通常であり、譲渡等をしようとしたことを要件化することに実質的な意味はないとして反対する意見もあったが、権利濫用の防止のために合理的であるとして賛成する意見が多くあった。
これを踏まえ、本文3においては、土地所有権の放棄の手続的要件として、放棄の申請をしようとする所有者は、その申請に先立って、政省令で定める方法により売却、貸付け等の処分その他の行為を試みなければならないものとすることを提案している。
所有者が土地の処分等を試みる方法や条件等の詳細については、細目的・技術的事項として審査機関を所管する省庁の政省令において定めることが想定される。その具体的内容としては、ランドバンク・農地バンク等の土地の専門機関に依頼しても処分先等を確保できなかった場合には、その旨の証明書を当該専門機関から受領し、それを審査機関に提出する方法や、民間のオークションサイトや地方公共団体が運営する空き地・空き家バンク等の土地取引を取り扱うサイトにおいて、一定期間、土地の無償での譲渡を試み、それでも譲受希望者が現れなかったことを証する書面を審査機関に提出する方法などが考えられ、引き続き検討する必要がある。
6 所有権放棄の実体的要件
(1) 法人が所有する土地について(本文4(1)に関連)
所有者が関心を有しない土地が放置され、相続が繰り返されることによって所有者不明土地が発生することを抑制するという制度趣旨を踏まえ、試案第5の1本文においては、土地所有権の放棄の主体を自然人に限定する旨提案していた。他方で、現在は適切に管理されている土地が将来的に管理不全状態となることを防ぐというもう一つの制度趣旨を重視すれば、土地を適切に管理せずに放置するおそれがあるのは法人も同様であることから、試案第5の1の(注2)では、土地所有権の放棄の主体について、法人も含むものとすることも考えられる旨を注記していた。
パブリック・コメントにおいては、実態として自然人と大差がない法人があることや、法人においても、倒産等によりその所有する土地の管理が困難になり、適切に管理されない土地が生ずる可能性があるのは自然人と同様であることなどから、法人を土地の所有権放棄の主体とすることに賛成する意見が多くあったが、法人は、経済活動の一環として自らの意思により土地を取得していることなどを理由に反対する意見も複数あった。
前記1のとおり、土地所有権の放棄は、管理コストの国への不当な転嫁やモラルハザードのおそれがあるため、原則的に認められるべきではないが、自然人である土地所有者に関しては、現在適切に管理されている土地が将来的に管理不全化することを防止するという目的以外にも、相続された土地が、相続登記がされることなく放置されることで所有者不明土地となることを防止し、併せて、相続により土地を取得した者に土地の管理の負担から免れる途を開く目的で、政策的に一定の限定的な要件を満たす場合に土地所有権の放棄を認めることが考えられるところである。
これに対し、法人である土地所有者に関しては、相続が発生し得ず、少なくとも相続登記がされることなく放置されるという事態は考えられないことや、法人が自らの意思によって土地を取得しているため、その管理の負担を免れさせる必要がないことから、土地所有権の放棄を認めて国に管理コストを転嫁することを許すことについては、自然人以上に慎重な検討が必要であり、現時点では困難と考えられる。なお、法人の所有する土地であっても、放置されれば管理不全化するおそれがあることは否定できないが、まずは土地所有権の放棄を自然人についてのみ認めることとした上で、将来、その運用状況等を踏まえて、法人についても土地所有権の放棄主体とするかどうかについて検討することが考えられる。
実質的には社団又は財団としての実態を備えているが、法人格を持たず、権利能力を有しない、いわゆる法人格なき社団又は法人格なき財団については、土地の所有権の登記名義人はその代表者とされるため、個人である代表者が死亡した場合には所有権の移転の登記が必要となるが、移転登記がされず放置されることで社団等の土地が所有者不明となる可能性があることから、所有権放棄を認める必要があるようにも思える。しかし、法人格なき社団等の権利義務は総有的に構成員に帰属すると一般に解されていることから、代表者であっても、社団の土地を放棄することはできないこと、法人格なき社団等の実態は法人と変わらず、土地を取得するのはその組織の活動の一環としてであり、土地所有権の放棄を認めるべき必要性が低い点では法人と同様であることから、土地所有権の放棄の主体とすることは現時点では難しいと考えられる。
(参考)国土審議会土地政策分科会企画部会中間とりまとめ(令和元年12月) 「土地利用の担い手の減少や利用意向の低下等を背景に、土地を手放す仕組みについて検討が求められている。しかしながら、適正な土地の利用・管理を確保する観点からは、第一次的には所有者が一定の責務を果たすことが求められるものであり、所有者が土地を放棄すること自体は必ずしも問題の解決に資するものではない。
所有者自らによる利用・管理が困難な場合においても、所有者、近隣住民・地域コミュニティ等、行政が各々の責務や役割を認識し、利用ニーズのマッチングや地域における合意形成等を経て、新たな主体による利用・管理につなげることが重要である。
さらに、市場ベースでのマッチングが成立しなかった土地については、地域における合意形成プロセスの中で、地域の公益につながるため利用・管理する意義があると認められた場合には、市町村の関与や支援の下で地域コミュニティ等が利用・管理する場合や、市町村自らが利用・管理、取得することが考えられる(広域に影響が及ぶ場合には都道府県が利用・管理し、また、公物や公的施設を管理する立場で、当該公物等の適正な管理の観点から国、地方公共団体、公物管理者等が管理、取得する場合もあり得る。)。
その上でなお、利用・管理、取得する意義を認める主体が存在しない場合については、将来の相続による所有者不明土地等の発生を抑制し、災害発生時の対応を含め将来の利用の障害を可能な限り小さくする観点から、土地の所有権の放棄を可能とし、最終的に国に土地を帰属させるための手続を設けることを検討する必要がある。なお、この検討に当たっては、土地所有権の放棄を認める場合に生ずる土地の管理コストの国への不当な転嫁や将来の放棄を見越して、所有者が土地を適切に管理しなくなるというモラルハザードの防止の観点から、放棄しようとする土地が適切に管理されていることや、相当な努力を払ってもなお譲渡等をすることができないことなどの一定の条件を満たすと認められる場合にのみ限定的に認められる制度とする方向で検討すべきと考えられる。加えて、これらの財産の管理体制の整備・費用負担のあり方についても検討する必要がある。」
(2) 取得原因の制限(本文4(1)について)
試案では、所有権を放棄することができる土地の取得原因には制限を設けていなかったが、パブリック・コメントにおいては、人口減少等を背景にして、土地を相続した者が、同土地の所在地近郊に居住してないなどの事情により、土地を適切に管理し続けることが困難であるケースが今後増加することに対応すべきとする意見や、包括承継主義を採用する相続法制にあっては、土地所有者が当該土地からの受益者と必ずしもいえず、相続を契機として管理コストの大きな土地の権利関係に巻き込まれる場合があり、そのような土地所有者が過度な土地の管理コストを負わないようにすべきとの意見があった。
これを踏まえて検討すると、前記1のとおり、相続(遺産の分割や特定財産承継遺言によるものを含む。以下同じ。)により土地を取得した者は、当該土地からの受益がなくても、相続を契機として土地をやむを得ず所有していることが類型的にあり得るため、相続により土地を取得した者については、一定の限度で、土地の管理の負担を免れる途を開くことが相当であると考えられる。また、相続人に対する遺贈に関しても、結局相続をすることになるために遺贈の放棄をせず、土地からの受益がなくてもやむを得ず所有していることが類型的にあり得ること、相続人に特定の財産の権利を移転させるという点では遺贈は特定財産承継遺言と同様の機能を有するが、実際にはそのいずれの趣旨であるかの解釈は容易ではないケースがあり、取扱いに大きな差異を設けることは適当でないことから、相続人である受遺者にも土地所有権の放棄によりその管理の負担を免れる途を開く必要があると考えられる。
他方で、自然人が売買や贈与、死因贈与などにより自らの意思で土地を取得した場合には、その管理の負担を免れさせることは相当ではなく、土地所有権の放棄を認める必要性に乏しいと考えられる。
そこで、相続又は相続人に対する遺贈(以下「相続等」という。)により土地を取得した所有者についてのみ土地所有権の放棄を認めることとし、その他の原因により土地を取得した所有者に所有権放棄を認めるべきかについては、法人と同様に、今後の検討課題とすることが考えられる。
なお、取得原因にこのような制限を設けるのであれば、法人がこの要件を満たすことはあり得ないと考えられるから、本文では、「法人が所有している土地ではないこと」という要件を別に定めることとはしていない。
(3) 取得原因が混在する土地等の所有権放棄(本文4(1)に関連)
ア 自然人と法人が共有している土地について
パブリック・コメントにおいては、自然人と法人が共有者である土地について、法人が共有者に含まれていることによって、自然人においても土地所有権の放棄ができない結果になるのは相当でない旨の意見があった。
もっとも、法人が土地を所有している場合には、自らの意思によって土地を取得しており、管理の負担を免れさせる必要がないため土地の所有権を放棄できないにもかかわらず、自然人との間で共有関係がある場合には法人も所有権放棄が可能となるのは合理的ではないこと、これを回避するために自然人のみについて共有持分の放棄を認めてこれを国庫に帰属させることとすると、管理の困難な共有持分の管理の負担を国に負わせることになることからすれば、自然人と法人が共有する土地についても、所有権放棄ができないものとすることはやむを得ないと考えられる。
イ 自然人が共有している土地について
土地の取得原因が相続等である自然人と、取得原因が相続等以外である自然人が共有している土地については、後者の自然人が自らの意思により土地を取得しており、所有権放棄を認める必要がないことから、自然人と法人が共有している土地と同様に、所有権放棄はできないものと考えられる。
ウ 取得原因が混在する土地について
自然人が、土地の共有持分の一部を相続により取得し、残部を相続等以外の原因により取得したケースや、土地を相続等で取得した後で、隣接する土地を追加で取得し、合筆したケースでは、土地所有者は一人であるが、取得原因は相続等とそれ以外のものが混在することになる。
このようなケースについても、共有持分の一部を自らの意思により取得しているため、所有権の放棄を認める必要はないとも考えられる。
しかし、相続により土地が所有者不明土地となることを防止するとともに、相続等によりやむなく土地を取得した者が土地の管理の負担から免れることができる途を開くという制度趣旨からすれば、取得原因に相続等が混在している場合であっても、その所有者が土地の管理の負担から免れることができるようにする必要があるものと考えられ、所有権放棄を認めるべきであると考えられる。
このようにすることにより、アで述べた自然人と法人が共有している土地や、イで述べた土地の取得原因が相続等である自然人と、取得原因が相続等以外である自然人が共有している土地であっても、相続等により土地を取得した者が、他の共有者の共有持分を取得して共有関係を解消することによって、土地の所有権を放棄することが可能となる。
(4) 担保権又は使用収益権が設定されておらず、その他これに準ずる事情もないこと
(本文4(2)について)
試案第5の2②においては、「土地について第三者の使用収益権や担保権が設定されておらず、所有者以外に土地を占有する者がいないこと」を土地所有権の放棄の要件として提案していたが、パブリック・コメントにおいては、多数の賛成意見があった一方で、明確に反対する意見はなかった。
また、事実上行使されず、登記記録だけが残っているいわゆる休眠担保権や、明らかに行使されていない使用収益権のある土地については、所有権放棄の対象外にすべきではないとの意見があったが、このような権利であっても、設定されたままの状態では、国庫帰属後に国が土地を管理したり、第三者に譲渡したりする際の障害となるため、国の管理コストの負担の観点から、こうした土地の所有権放棄を認めることは適当でないと考えられる。
そこで、本文4(2)では、試案と同様の提案をしているが、担保権等は、対抗要件である登記がされていなければ第三者に対抗することができないことに照らすと、端的に、担保権又は使用収益権が登記されていないことを一義的な判断基準とすれば足りると考えられる。
なお、「これに準ずる事情」としては、譲渡担保権が設定されていること、買戻し特約が付されていることや不法占拠者が土地を占有していることなどが考えられるが、細目については政省令で定めることを想定しており、引き続き検討を要する。
(5) 権利の帰属に争いがないこと(本文4(3)について)
土地所有権の放棄の要件として、試案第5の2①において土地の権利の帰属に争いがないことを提案していたが、パブリック・コメントでは、権利の帰属に争いがある土地の所有権が放棄されれば、不測のトラブルが生ずる原因となり、それを解決するコストを国や隣地所有者などに強いることになるとして、提案に賛成する意見はあったが、反対する意見はなかった。
これを踏まえ、権利の帰属に争いがある土地については政省令で定めることを本文4(3)で提案しているが、その具体的内容としては、所有権の存否又は帰属に争いがある土地がこれに当たると考えられる。
試案第5の2(注4)では、土地の権利の帰属に争いがないことの内容として、放棄の認可申請者がその土地の所有者であることが不動産登記簿から明らかであることも含むことが想定され、具体的にどのような登記がされていれば足りるかについて、引き続き検討することとされていた。
権利帰属に争いがないと審査機関が認定するに当たっては、放棄の認可申請者が、放棄される土地の登記名義人として権利部甲区に登記され、氏名・住所が一致していることを必要とするなど、不動産登記簿を基礎資料として要件の充足の有無を判断するのが明確であり、相続登記がされていない土地については、権利の帰属に争いがあるものとして取り扱うものとすることが考えられるが、その他の技術的・細目的事項を含め、権利の帰属に争いのない土地の類型等につき、政省令で定めることが想定される。
なお、所有権が帰属する土地の範囲は、不動産登記簿において登記されている内容から確定できることが明確性の観点から望ましいため、放棄される土地は一筆の土地であることを想定している。所有者が一筆の土地の一部を放棄したいと考える場合には、所有者において土地の分筆をした上で分筆登記をし、放棄申請地に所有者の権利が及ぶ範囲が登記の記載どおりであることを明確にする必要があるものと考えられる。
(6) 隣接する土地の所有者との間で境界についての争いがないこと(本文4(3)に関連)
試案第5の2①においては、土地の筆界が特定されていることを土地所有権の放棄の要件とすることを提案していた。パブリック・コメントにおいては、放棄される
土地の筆界の特定が必要であるとすると、土地所有権の放棄のニーズが高いと考えられる林地や農地の所有権放棄が困難になる、隣地の所有者が不明である場合などには、筆界の特定が困難であるなどの反対意見が多数であった。
試案においては、隣接地の所有者との間で土地の管理をめぐって紛争が生じると、国、ひいては国民が紛争の解決に向けたコストを負担しなければならず、また、他者との間で紛争状態に陥っている土地の所有権の放棄を認めると、所有者が紛争を放置してその負担から逃れることを許すことになり、モラルハザードにもつながりかねないことから、筆界の特定を土地所有権の放棄の要件とすることを提案していた。
しかし、地籍調査が必ずしも十分に進展しておらず、筆界が明確でない土地が相当数存在する現状に鑑みると、土地所有権の放棄に当たり、筆界の特定まで必要であるとすれば、要件の充足が著しく困難となり、制度自体が機能しないおそれがある。また、隣接地の所有者との間の紛争解決に向けたコストが国に不当に転嫁されることを防止する観点からは、隣接地の所有者との間で、所有権の境界についての争いがなければ足りると考えられる。加えて、放棄後の国における土地の管理の観点からも、管理の対象である土地の所有権の境界が明らかであれば足り、公法上の筆界が特定することを要求する必要はないと考えられる。
そこで、隣接地の所有者との間で所有権の境界について争いがないことを要件とし、その具体的内容については、政省令で定めることが考えられる。政省令においては、土地の境界について争いがないことを示す認可申請時の提出資料についても規定することが考えられ、その提出資料としては、放棄申請地と隣地との境界について隣地所有者に異議がないことを示す書面に加え、地積測量図等の図面を提出させることなどが想定されるが、所有者の負担と土地の管理の負担のバランスの観点から、土地の現況を踏まえて引き続き検討を要する。
なお、土地の境界に争いがある場合は、土地の所有権の範囲の一部が未確定であることを意味することから、権利の帰属に争いがある場合にほかならず、「境界に争いがないこと」を独立した要件とはしていない。
(7) 管理又は処分に過分な費用を要する土地でないこと(本文4(4)について)
試案第5の2③においては、現状のままで土地を管理することが将来的にも容易な状態であることを提案し、試案第5の2(注5)では、その具体的内容として、㋐建物や、土地の性質に応じた管理を阻害する有体物(工作物、車両、樹木等)が存在しないこと、㋑崖地等の管理困難な土地ではないこと、㋒土地に埋設物や土壌汚染がないこと、㋓土地の管理に当たって他者との間の調整や当該土地の管理以外の目的での
費用負担を要しないことが想定されると注記していた。
パブリック・コメントにおいては、提案に賛成する意見があった一方で、管理が容易でないことが所有権放棄の動機となることが多いとして、要件から削除すべきとの反対意見や、この要件の内容次第では、土地所有権の放棄の制度趣旨を没却しかねないとして、様々な観点から内容につき詳細に検討することを求める意見が複数あった。試案第5の2(注5)については、それぞれの項目につき賛否いずれの意見もあったが、賛成する場合であっても、例外の余地を残すことを求めるなど、要件の緩和の検討を求める意見が多くあった。
ア 建物が存在しないこと(本文(注2)㋐について)
パブリック・コメントにおいては、建物は土地とは異なり、高額な解体費用が必要となる可能性があることから、建物の所有権放棄を認めることに反対する意見が多数あった一方で、土地を建物と一緒に放棄した方が後々の管理活用の効率が良い場合もあるとの意見や、開発可能な土地には、既に建物が存在する場合が多く、建物の所有権放棄ができないものとすると、土地の所有権放棄ができず、制度の実効性が失われるとの意見もあった。
前記1(2)のとおり、建物は、管理コストが土地以上に必要であると考えられる上、いずれ老朽化し、建替えや取壊しが必要になるため、建物の所有権の放棄を認めることは困難であると考えられ、建物が存しないことを土地の所有権放棄の要件とすべきであると考えられる。土地上の建物が比較的新しく、状態が良好であるような場合に、建物を取り壊すのは不経済であるとの指摘もあるが、利用が見込まれる建物が存する土地であれば、売却や建物の賃貸等によって有効活用が図られるべきであると考えられる。
イ 土地の性質に応じた管理を阻害する有体物(建物以外の工作物、車両、樹木等)が存在しないこと(本文(注2)㋑について)
建物以外の工作物、車両、樹木等は、建物と同様に管理費用がかかることに鑑みれば、これらが土地上に存在しないことを土地所有権の放棄の要件にすべきと考えられる一方で、これらについては、建物ほどは除去に費用がかからず、土地の性質によっては、むしろ存在することを認めるべき場合もあり、例えば林地については、林地として適切な管理をするためには、樹木が土地上に存在することが必要である。
そこで、試案第5の(注5)においては、放棄される土地上に一切有体物が存在しないことを求めるのではなく、土地の性質に応じた管理を阻害する有体物がないことを求めることを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、土地所有権の放棄に際して樹木の伐採・抜根を要求すると、所有者の費用負担が大きくなる場合があるが、土地の粗放的管理ができる場合には、樹木が存在する状態でも土地の管理は容易であり、あえて伐採・抜根を要求する必要はなく、土留めなどの工作物についても、土地の粗放的管理ができる場合には、撤去を要しないことを求める意見があった。
樹木や工作物等が存することで土地の性質に応じた管理が阻害されるかどうかは、土地の性質や所在地、近隣の状況等の個別の事情によって判断が異なり得るところ、この判断に当たっては、放棄された土地を管理する行政機関の知見が必要である。
そこで、放棄される土地上に、存続させる可能性がある工作物や樹木が存在する場合には、審査機関が、同土地の管理主体となる行政機関の長に意見を求め、工作物等の存続が土地の管理の観点から許容されるとの見解が示されれば、土地の性質に応じた管理を阻害する有体物が存しないものと認定することができるものとすることが考えられる。
このような仕組みを採用することで、基本的には土地上に有体物が存しないことを要件としつつ、土地の状況によっては、有体物が存しても所有権放棄の認可を可能にすることができると考えられる。なお、土地の性質に応じた管理を阻害する有体物の具体的内容については、政省令で定めることを想定している。
ウ 崖地等の管理困難な土地でないこと(本文(注2)㋒について)
試案第5の2(注5)においては、現状のままで土地を管理することが将来的にも容易な状態であることの具体的内容として、崖地等の管理困難な土地ではないことを提案していた。パブリック・コメントにおいては、管理コスト軽減の観点から賛成する意見があったが、崖地や法面等の土地は、通常は粗放的な管理手法による管理がされており、必ずしも管理コストが過大な土地ばかりとはいえないこと、このような土地は利用価値が乏しく、所有者の探索が困難になりがちであることなどから、所有権放棄の対象からの一律除外ではなく、要件の緩和を求める意見もあった。
崖地等の管理困難な土地は、管理コストがかさむおそれが類型的に高く、放棄された土地を国が管理し、そのコストを最終的に国民が負担するという基本的構造に照らすと、所有権の放棄を認めるのは困難であると考えられる。このような土地については、所有権の放棄を認めるのではなく、国土管理の観点から、国又は地方公共団体が災害の発生を防止するために必要な工事を実施したり、補助金を所有者に交付して工事の実施を支援したりすることで対応することが相当であると考えられる。
なお、崖地については、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)や宅地造成等規制法(昭和36年法律第191号)、各自治体の条例等によって様々な基準での規制等がされているところであり、所有権放棄を認めない崖地の基準は、これらの法律等の規制基準を参考にしながら、一定のこう配及び高さのがけを含む土地とすることが考えられるが、具体的基準については政省令で定めることを想定している。
エ 土地に埋設物や土壌汚染がないこと(本文(注2)㋓について)
試案第5の2(注5)においては、地中に埋設物がある土地や土壌汚染がある土地は、その管理・利用・処分に制約が生じ、埋設物等の撤去のために多大な費用がかかる上に、場合によっては周囲に害悪を発生させるおそれがあるため、管理コスト及びモラルハザードの防止の観点から、土地所有権の放棄を認めることは相当でなく、放棄される土地に埋設物や土壌汚染がないことを要求する方向で検討する旨提案していた。
パブリック・コメントにおいては、埋設物や土壌汚染がある土地を所有権放棄の対象としないことに反対する意見はなかったが、これらが存在しないことを疎明するために必要とされる調査の程度によっては、所有権放棄の大きな障害になりかねないとの意見や、天災等の所有者に帰責できない事由により土壌汚染等が発生した場合には例外的に所有権放棄の対象とすべきとの意見があった。
国が土地を管理する場合には、常に良好な状態において管理する責務を果たす必要がある(財政法(昭和22年法律第34号)第9条第2項)ため、放棄地に土壌汚染等が存在することが国庫帰属後に判明した場合においては、国は、コストを負担して当該土地を適切に管理(必要に応じ汚染の除去等の実施を含む。)しなければならない。土地所有権の放棄が、将来の土地の管理不全化や所有者不明土地の発生抑制という目的と国の管理コストを最小化する要請とのバランスの下で限定的に認められるものであることに鑑みれば、土壌汚染等が存在する土地の所有権放棄を認めるのは困難であると考えられる。
そこで、本文(注2)㋓では、管理又は処分に過分な費用を要する土地に、土壌汚染又は埋設物が存在する土地が含まれるものとすることを提案している。なお、わずかな土壌汚染や埋設物が存在するに過ぎない場合や、周辺住民に損害を及ぼすおそれが存在しない場合であっても土地所有権の放棄が認められないのは不合理であることから、政令等により、所有権放棄が認められない土壌汚染や埋設物についての一定の基準を定める必要があるが、この基準については、土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)や廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)等の規律を参考に、引き続き検討する。
また、所有権放棄の際に、所有者が審査機関に提出することを求められる資料については、政省令で規定することを想定しているが、その内容次第では、土壌汚染等が存在しないことを証することが過度に困難になるとの意見は、第10回会議においても出されたところであり、全ての土地につきボーリング調査の結果まで必要とすれば、所有者の費用負担が過重となって制度自体が利用されず、所有者不明土地の発生を抑制するという制度目的が実現されないことになりかねない。
土壌汚染等の存否は、例えば化学物質を使用する工場の跡地であるなどの土地の来歴等の外形的事情からある程度判断は可能であることから、所有権放棄の段階では、現地確認や土地の過去の利用状況等を記載した書面等により、土壌汚染等が存する危険性を概括的に判断し、相当の危険が認められるものと審査機関が判断した場合にのみ、詳細な調査結果の提出を所有者に求めるにとどめるべきであると考えられる。
このような仕組みにした場合には、土壌汚染等の事実を隠して土地が放棄されるおそれがあるとの指摘が考えられるが、後述するとおり、放棄された土地に土壌汚染等が存することが事後に判明した場合には、所有権放棄の認可を審査機関が取り消して放棄者に土地所有権を復帰させることができ、また、認可を取り消さなくても、放棄者に過失があるときは、国が放棄者に土壌汚染等の除去等の実施に係る費用を請求することができるものとすることにより、濫用的な事案に適切に対処することは可能であると考えられる。
オ 土地の管理に当たって他者との間の調整や当該土地の管理以外の目的での過分の費用負担が生じないこと(本文(注2)㋔について)
試案第5の2(注5)では、放棄により国庫帰属した後の土地の管理コストを軽減する観点から、土地の管理に当たって他者との間の調整や当該土地の管理以外の目的での費用負担を要しない土地でなければ放棄できないことを提案し、補足説明(156ページ)においては、鉱泉地、池沼、ため池、墓地、境内地、運河用地、水道用地、用悪水路、井溝、堤、公衆用道路などを、地域住民等によって管理・利用され、その管理に当たって多数の者との間の調整が必要になる土地の例として挙げ、また、別荘地などでは、共益費等の名目で所有者に金銭的負担が求められることがある旨も記載していた。
パブリック・コメントにおいては、鉱泉地等の土地であっても、粗放的な管理手法で足りるものもあり、このような土地が将来的に所有者不明地化した場合には、公共事業の支障になるなど弊害が大きく、また、このような土地であっても、同種の地目の国有地や公有地と隣接していて、利用・管理上、一体をなしているような場合も考えられることから、一律に所有権放棄の対象から除外すべきではないとの意見があった。
将来の所有者不明土地化を防止するという制度目的と国の管理コストを抑制する要請とのバランスの観点からは、鉱泉地等の例示した土地であっても、その所在地や周辺地の管理状況等に鑑みて、国の管理コストが過度に生じない場合には、所有権放棄の対象とすることが望ましいと考えられる。
そこで、本文(注2)㋔においては、試案の内容を修正し、土地の管理に当たって他者との間の調整や当該土地の管理以外の目的での過分の費用負担が生じないことを所有権放棄の要件とすることを提案している。なお、その具体的内容については、宅地、農地、林地以外の土地の管理の実態を踏まえて政省令で定めることを想定しているが、例えば国有地に隣接していて利用・管理上一体をなしている土地の放棄については、前記イのとおり、管理主体となる行政機関の意見を求め、土地の管理の観点から許容されるとの見解が示された場合には、過分の費用負担を生じないものと認定することができるケースもあると考えられる。
7 土地所有権の放棄の手続
(1) 認可の事務及び土地の管理に要する事務に係る手数料の納付(本文5について)
土地所有権の放棄を審査機関が認可する仕組みを設けることを前提にすると、その審査に一定のコストがかかり、また、放棄された土地を国が管理する費用もかかることから、これらの国の負担を軽減するため、試案第5の2④においては、土地所有者が審査手数料及び土地の管理に係る一定の費用を負担することを土地所有権の放棄の要件として提案していた。
パブリック・コメントにおいては、認可の事務手数料を支払う必要があるものとすることについての反対意見はなかったが、土地の管理に要する手数料については、国庫帰属後の管理費用を放棄者に負担させるのは制度設計の趣旨と乖離しているとして、この要件に反対する意見や、管理費用を手数料として支払わせること自体については賛成するが、手数料が高額になれば実質的に所有権放棄が困難になるため、低額にとどめるべきであるとする意見、粗放的管理が可能である土地については、国の管理コストは大きくならないため、手数料を不要とすべきであるとの意見等があった。
放棄者は、本来負うべき土地の管理に係るコストの負担を永久に免れ、これを国に転嫁することになるため、一定の限度で土地の管理に要する手数料を負担させることが適当であると考えられる。もっとも、所有権の放棄につき比較的厳しい要件を設定するのであれば、転嫁される管理コストはそれほど高くないことになるため、制度の利用しやすさの観点から、放棄者に負担させる管理手数料が過大にならないように配慮する必要がある。
そして、審査機関による適切な判断を可能にするためには、管理手数料の算出方法を客観的基準に基づいた定型的で簡明なものとする必要があり、土地の性質や面積等に応じて平準化された1年当たりの管理費用に一定期間を掛け合わせるなどの方法により支払うべき管理手数料を算出することが考えられるが、制度の利用見込みを踏まえて引き続き具体化に向けた検討を要する。なお、管理手数料の算出方法等については、政令において規定することを想定している。
(2) 地方公共団体及び国の関係行政機関への通知(本文6について)
放棄申請がされた土地につき、地方公共団体と国が任意で取得することができる余地を残すため、試案第5の2(3)においては、放棄申請を受けた審査機関は、当該土地の所在する地方公共団体と国の担当部局に対して、所有権放棄の申請がされている土地の情報を通知するものとし、地方公共団体又は国がその土地の取得を希望する場合には、放棄申請をした土地所有者と直接交渉をして贈与契約を締結することを可能にする方向で検討する旨注記していた。
パブリック・コメントにおいては、地方公共団体や国に、贈与による取得の余地を残す制度設計とすることが、地域や国の公共目的に資する場合があるとして賛成する意見があった一方で、民間事業者による取得希望者を募るために公示する手続を検討すべきであるとの意見や、土地の取得を希望する自治体等が複数現れた場合に混乱が生じないようにするため、所有権放棄の審査機関を通じた手続にすべきとの意見もあった。
地域行政を担当する地方公共団体が土地を取得することを可能にする仕組みを設けることは、土地の有効な利用の観点からも合理的であることから、本文6においては、審査機関は、放棄申請がされたときは、遅滞なく、国の関係行政機関の長及び当該放棄申請地の所在地を管轄する地方公共団体の長にその旨を通知しなければならないものとすることを提案している。
なお、都道府県においても土地を取得する必要が生ずる可能性があることから、審査機関からの通知の対象となる地方公共団体には、基礎自治体である市町村のみならず、都道府県も含まれるものとする方向で引き続き検討する必要があると考えられる。
また、放棄される土地の数を抑制するため、パブリック・コメントの意見にもあるとおり、幅広く土地の取得希望者を募るための公示手続を設けることが望ましいと考えられることから、審査機関が、地方公共団体及び国に放棄申請がされたことを通知する際に、ホームページに掲示するなど適宜の方法で情報を公開することも考えられる。このような仕組みを設けた場合には、所有権放棄の認可がされる前の段階で、複数の土地取得希望者が現れる可能性があるが、土地情報の公開は、あくまでも任意で譲渡がされることを促す趣旨であることから、所有者と取得希望者の交渉に審査機関が干渉することはなく、所有者の意向に沿って、土地取得希望者との間で、土地の贈与契約等の交渉がされ、契約が成立した場合には、所有者が放棄申請を取り下げることを想定している。
(3) 他の行政機関への意見照会、協力依頼(本文7について)
審査機関は、本文4及び5の所有権放棄の要件が満たされているかを判断する必要があるが、「4(6)その管理又は処分に過大な費用を要する土地」という要件については、その判断に土地の管理に関する専門的知見を要する。
そのため、土地に関する行政を担当する各種の行政機関の専門的知見を活用することを可能とするため、審査機関は、所有権放棄の認可をするに当たり、それらの行政機関に対して、意見を求めて聴取したり、放棄申請地の実地調査に同行させ、要件の充足に関する検討結果を報告させたりすることができる仕組みとすることが必要であると考えられる。
また、例えば、本文3の売却、貸付けその他の処分が適切に試みられたかどうかに疑義がある場合には、関与したとされる公私の団体が保管する資料を収集して調査することが考えられることから、要件審査のために必要であれば、行政機関に限らず、公私の団体に対しても、資料の提出その他必要な協力を求めることができるものとすることで、適切に要件審査を行うことが可能になると考えられる。
なお、審査機関から資料の提出その他必要な協力を要請された行政機関や公私の団体は、原則としてその要請に応ずる義務を負うが、正当な理由があれば拒否することができるものと考えられる。
(4) 審査機関の裁量(本文8について)
土地所有権の放棄の認可に審査機関の恣意的判断が介在しないようにするため、放棄申請がされている土地が本文4のいずれにも該当しないという実体的要件と、本文5の手続的要件のいずれも満たす場合には、審査機関は、所有権放棄の認可をしなければならず、審査機関に裁量を与えないものとすることを本文8で提案している。
土地所有権の放棄を認めることにより国に一定の管理コストを生じさせることになるため、審査機関をどのような機関とするにせよ、その裁量権を広く認めると、放棄を認めない方向に恣意的に判断されるとの疑念を抱かれるおそれがあることから、審査機関に裁量がないものとする必要があると考えられる。
8 放棄者の損害賠償責任(本文9について)
(1) 例えば、所有権放棄された土地が所有者のないものとなって国庫に帰属した後で、土壌が認可の時点で汚染されていたことが判明し、それにより国に損害が発生した場合には、現行法の規律を前提にすると、放棄者は、国との間には契約関係が存しないことから、債務不履行責任や担保責任を負うことはなく、不法行為が成立しない限り、損害賠償責任を負わないこととなる。他方で、所有権放棄の認可の時点で土地に土壌汚染が存在していたのであれば、所有権の放棄の要件が認可時点で満たされていなかったことになることから、行政行為の取消しに関する一般法理に基づき、審査機関が認可を取り消し、所有権放棄を遡及的に無効とすることが考えられる。
このように、所有権放棄された土地に起因して国に損害が生じた場合には、損害賠償の問題と認可の取消しの問題が併存することになり、相互に関連し合うと考えられることから、試案第5の3(2)のとおり所有権放棄された土地に起因して第三者や国に損害が生じた場合における、放棄者の損害賠償責任の規律の要否については、認可の取消しの在り方と併せて検討することを提案していた。
パブリック・コメントにおいては、新たな損害賠償の規律の要否と認可の取消しの在り方を併せて検討することに賛成する意見が多数であったが、損害賠償の規律については、現行の不法行為の規律で対応すれば足りるとして、新たな規律を設けることに反対する意見や、新たな規律を設けることに賛成するが、損害賠償請求をできる期間を限定すべきであるとする意見等があり、認可の取消しについても、審査を経て放棄が認められた土地につき、認可が取り消され、放棄者の所有権が復活することについては慎重に検討するべきであるなどの意見があった。
(2) 土地所有権の放棄を認める制度を導入する際に、放棄者の損害賠償責任につき新たな規律を設けなければ、放棄された土地が要件を満たしていなかったことに起因して国に発生した損害につき、放棄者の賠償責任を追及することが困難なケースが生ずるおそれがある。
また、放棄地がその後国から第三者に払い下げられた後で、もともと放棄の要件が満たされていなかったことに起因して損害が発生した場合には、国が第三者に対して売主の担保責任や債務不履行責任を負うことになるが、放棄について不法行為が成立しない限り、国は放棄者に求償することができないおそれがある。この帰結は、土地の所有権放棄がされていなければ、土地所有者が負担すべきであったコストが国に転嫁されることを意味するものであり、国が負担する土地の管理コスト軽減の観点からは、放棄者の損害賠償責任につき、新たな規律を設ける必要があると考えられる。
(3) 土地所有者は、本文4の要件を満たしていることを所与の前提として土地所有権を放棄しているのであり、認可の時点でそれらの要件が満たされていなかったこととの間に因果関係が認められる損害が国に発生した場合には、放棄者にその損害を賠償する法定の担保責任を負わせても不合理ではないと考えられる。
他方で、放棄者が要件を満たしていなかったことを過失なく知らなかった場合にまで放棄者に損害賠償責任を負わせるのは、放棄者の負担が過重であると考えられる。
また、土地所有権の放棄後に、無期限で損害賠償責任を負うものとすれば放棄者に酷であり、所有権放棄のメリットを失わせることになることから、放棄者が責任を負う期間を限定する必要がある。この期間については、会計法第30条が、金銭の給付を目的とする国の権利は、権利を行使することができる時から5年間行使しないときは時効消滅する旨規定していることを踏まえ、認可時から5年とすることが考えられる。
そこで、本文9のとおり、提案をしている。
なお、認可の時点で所有権放棄の要件を満たしていなかったことが事後に判明した場合については、国に具体的な損害が発生する前に、審査機関が職権で認可を取り消すことも可能であると考えられる。
また、土地に起因して国や第三者に損害が発生した場合に、放棄者に不法行為責任が成立すれば、国や第三者が、放棄者に対し、別途不法行為責任を追及することも可能であると考えられる。
9 認可取消し(本文10について)
(1) 認可取消しの同意
8(1)で述べたとおり、所有権放棄の認可の時点で土地に土壌汚染が存在していたような事案であれば、所有権の放棄の要件が認可時点で満たされていなかったことになることから、行政行為の取消しに関する一般法理に基づき、審査機関が認可を取り消し、土地の所有権は、遡及的に放棄者に復帰することが想定される。
したがって、例えば、放棄された土地が国から第三者に払い下げられた後に、認可時から土壌汚染が存在していたことが発覚し、所有権放棄の認可が取り消された場合には、土地は遡及的に放棄者に復帰することになり、現在の土地所有者は、一方的にその所有権を奪われることとなるが、この帰結は、土地の利用状況によっては、現在の土地所有者に酷である場合がある。
また、国が放棄地を積極的に利用しているようなケースなど、認可の取消しを行わないことが土地の利用状況に鑑みて有益な場合も想定し得る。
そこで、土地を所有する第三者を保護するとともに、国の土地利用を妨げないようにするために、本文10では、審査機関は、国の行政機関の長及び放棄地の所有者(所有者が二人以上いるときは、その全員)の同意を得なければ、当該土地の所有権放棄の認可を取り消すことができないものとしている。
なお、本文10の規律は、法的安定性の観点から審査機関による認可の職権取消しを制限するものであるため、裁判所による争訟取消しには適用されない。もっとも、所有権の放棄が認可されたときに、行政訴訟が提起される事態は実際には想定しがたい。
(2) 認可取消しの期間制限
所有権の放棄の認可処分は、土地所有者に土地の管理の負担を免れさせる点で授益的な側面を有するため、これを職権で取り消すに当たっては、放棄者の信頼保護の利益にも配慮する必要がある。
そこで、放棄者が長期間にわたり不安定な立場に置かれることがないよう、認可の職権取消しについて期間制限の規律を設けることも考えられる。もっとも、例えば、土地所有者が地中に有害物質を埋めたにもかかわらず、これを秘して放棄申請を行って認可がされた場合において、一定期間経過後にそれらの事情が判明したようなケースでも、一律に認可の職権取消しができないこととしてよいかが問題となり得る。
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第2 関連する民事法上の諸課題
共有持分の放棄に関し、次の各案のいずれをとるべきか。
【甲案】共有持分を放棄するためには、他の共有者全員の同意を必要とするものとする。
【乙案】不動産の共有持分を放棄するためには、他の共有者全員の同意を必要とするものとする。
3 関連する民事法上の諸課題
(1) 共有持分の放棄
民法第255条の規律を見直し、共有持分を放棄するためには、他の共有者の同意を必要とすることについて、引き続き検討する。
(注)本文とは別に、共有持分の放棄は認めないこととするとの考え方や、民法第255条の共有持分の放棄の規律を基本的に維持しつつ、不動産の共有持分を放棄するためには、他の共有者の同意を必要とする規律を設けることとするとの考え方がある。
(補足説明)
1 パブリック・コメントの結果
試案第5の3においては、民法第255条の規律を見直し、動産、不動産、債権等を問わず、共有持分を放棄するためには他の共有者の同意を必要とすることについて、引き続き検討する旨提案していた。また、その(注)では、別案として、共有持分の放棄は認めないとする考え方や、不動産の共有持分を放棄するためには、他の共有者の同意を必要とする考え方を注記していた。
パブリック・コメントにおいては、放棄者以外の共有者の利益保護の観点から、試案に賛成する意見が多くあったが、共有持分の放棄に共有者の同意を必要とすると、共有状態が解消されにくくなること、「早い者勝ち」になる放棄については、権利の濫用になり効果が生じないと考えられることなどから、試案に反対する意見もあった。
また、(注)については、不動産の管理の負担の観点から、不動産の共有持分を放棄するためには他の共有者の同意を必要とすべきとする意見と、不動産に限って別の規律を導入する理由が不明であるとしてこれに反対する意見とがあった。
2 【甲案】について
現行民法は、共有者の一人が共有持分を放棄したときには、その持分は他の共有者に帰属するものとしており(民法第255条)、共有者の一方的意思表示により、自己の持分を自由に放棄することができると解する見解があるが、共有持分を自由に放棄できるのであれば、管理の負担が重い共有物については共有持分がいわば「早い者勝ち」で順次放棄され、最後に残った共有者が負担を押しつけられることになりかねない。また、共有物が土地である場合には、共有持分の放棄は自由に認められるのに、最終的に残された土地所有者が所有権の放棄をするためには厳格な要件を満たさなければならないとすると著しい不均衡が生ずる。さらに、動産の共有持分の放棄においても、他の共有者に負担を押し付ける事態が生じ得るものと考えられる。
以上を踏まえ、共有持分の放棄に当たっては他の共有者全員の同意を必要とする考え方を、本文では【甲案】として挙げている。この案においては、他の共有者全員の同意を得て共有持分を放棄することにより、その持分が他の共有者の持分に応じて按分された割合で帰属することとなる。
もっとも、共有持分を他の共有者全員の同意を得て放棄し、他の共有者に按分して帰属させることは、共有持分を他の共有者全員に按分して譲渡することと結果的に同じであり、按分して譲渡することは法律の規定がなくても可能であるから、民法第255条の持分の放棄の規律を削除し、共有持分の放棄は認めないものとすることも考えられる。
3 【乙案】について
不動産は一般に管理コストが高く、その共有持分を放棄して他人に管理コストを転嫁することを許すことは相当でないと考えられること、各共有者が共有持分の放棄を見越して共有物を適切に管理しないモラルハザードは不動産に限らず生じ得るが、不動産が管理不全となることによって生ずる悪影響は他の物よりも類型的に大きいと考えられることから、不動産に限って、他の共有者全員の同意を得なければ放棄することができないとする考え方を、【乙案】として挙げている。前記第1のとおり、不動産の所有権放棄は原則として認められないとする規律を設ける一方で、動産の所有権放棄については引き続き認められると解するのであれば、特に規律を設けない限り、不動産に限定して共有持分の放棄が認められないことになると解される。そして、不動産の共有持分を他の共有者全員に按分して譲渡することは法律の規定がなくても可能であることからすれば、「不動産の共有持分を放棄するためには、他の共有者全員の同意を得なければならない」という規定を置く必要はないとも考えられる。
なお、この案をとったとしても、動産の共有者が、管理コストを免れるためにその持分を放棄する意思表示をした場合には、権利濫用として放棄の効果が認められないケースがあり得ると考えられる。
全国町村会
2.相当程度厳しい放棄要件に加え、農用地や森林の所有者に対し、放棄の意思とは異なる申出を義務付けることは、努力を超えた過重な負担を強いるものであり、制度の利用の断念となれば、その趣旨を没却しかねないと考える。
3.申出を義務付け、手続きが前置化されることにより、本来法務局が窓口となるべき国の事務について、実態上市町村が相談窓口とならざるを得ないことが十分想定される。
4.農用地や森林の利活用については、申出の義務付けでなく、まずは現行の政策の積極的な利用を促すこと等に国や市町村が連携して取り組むべきである。
さらに、法務局からの土地情報に基づき市町村が必要と判断したものがあれば、土地所有者に働きかけることも可能であり、土地利用の適正化や放棄の抑制にも資すると考える。
5.申出の義務付けによって、利活用に資するものかどうか不明なものや、一見して利活用に適さないものまでもが、全て市町村の行政手続きを経ることになれば、不在地主も多いと見込まれる所有者に徒労の負担を課すこととなり、手続きも長期化し、市町村においてもクレーム対応も含めた負担が増大する懸念がある。
6.行政のデジタル化やワンストップ化が進められている中で、制度創設当初から手続きをあえて国と市町村の2段階(農用地や森林が複数の市町村にわたる場合にはさらに煩雑化)にして、各段階での申請者負担や事務負担を生じさせる趣旨は理解できないものである。
7.以上のことから、土地所有権の国庫帰属制度の創設については賛同するものであるが、相続等により取得した農用地や森林の所有者に対し、市町村への申出を前置手続きとして義務付けることについては、反対せざるを得ない。
本問題は、あくまで法務局を窓口とした新たな制度が創設されることを前提に、土地所有者からの承認申請の件数や内容、市町村の事務への影響など、制度の実施状況を検証することなどを通じて、慎重に検討すべきものと考える。
第4部 その他
その他所要の規定を整備するものとする。
第3の部会資料の最後ですが,相続を原因とする権利変動以外の登記原因の場合の所有権の移転の登記の義務付けはしないという提案を差し上げていて,賛成の意見が聞かれたほか特段の御意見はありませんでしたけれども,ここはよろしいですか。よろしいとなれば,ここはもう次回以降はこれ以上深く突っ込むことはしないという想定で部会資料の作成を続けてまいるということにいたします。
その点も含めて,お諮りした範囲について何か御発言はほかにおありでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは,部会資料38に関する本日の御審議はここまでといたします。
本日用意いたしました3点の部会資料に係る審議を了しましたから,次回の会議等につきまして,事務当局から案内があります。
○大谷幹事 次回の議事日程等について御連絡いたします。
次回の日程は8月25日の火曜日,午後1時から午後6時までということで,今日と同じ時間帯で御予定をお願いいたします。場所はこの場所,法務省大会議室になりまして,テーマとしては,中間試案後の1読目,管理不全土地への対応というものが残っておりますけれども,それを議題としてお出しするのと,そのほかに2巡目,2読目に入ってくる部分もあると思います。また部会資料を事前にお送りをして,御検討を賜れればと思います。
○山野目部会長 次回第17回会議の開催方,ただいま事務局から案内を差し上げましたけれども,その点も含め,この際,委員・幹事から部会の運営についてお尋ねや御意見がおありでいらっしゃいますでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは,本日予定した審議を全て済ませたということになります。
施行期日
(施行期日) (相続財産の保存に必要な処分に関する経過措置) (遺産の分割に関する経過措置) 以下省略 |